説明

液濾過用フィルタ及び液濾過方法

【課題】極低濃度イオンを除去する能力と、高い透水性と長寿命を有する液濾過用フィルタ及び液濾過方法を提供する。
【解決手段】イオン交換フィルタ1は、芯材2と、この芯材2の外周に巻回された、流路材シート4とイオン交換シート5との積層シート3とを備えている。イオン交換シート5は、イオン交換繊維の不織布6,6間にイオン交換キャスト膜7を介在させたものである。イオン交換フィルタ1を1個又は複数個円筒状容器内に挿入し、イオン交換フィルタの一端面から他端面に向う方向に通水する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水、水溶液、有機溶媒等の液体の処理において、被処理液に含まれる微量の金属、微粒子等を吸着分離、排除分離するための液濾過用フィルタと、この液濾過用フィルタを用いた液濾過方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスなどで用いられる超純水の高純度化の要求は年々厳しくなってきている。ITRS2005によると、2008年には超純水中の金属イオン濃度を0.5ng/L以下にするロードマップが提示されているが、半導体製造各社は、金属濃度がより低濃度の超純水を求めている。水処理メーカーは前倒しで金属イオン濃度を低減しており、最新の超純水製造設備においては、ほとんどの金属を0.5ng/L以下に低減した超純水を製造することができるものもある。
【0003】
超純水中の金属濃度を低減する方法として、ユースポイント直前にイオン交換フィルタを設置する方法がある。
【0004】
従来のイオン交換フィルタとして、不織布あるいは多孔質膜といった平膜をプリーツ型にしたもの(例えば特許文献1)がある。
【0005】
イオン交換膜として、イオン交換樹脂を溶媒中に溶解または分散させてキャスト原液とし、該キャスト原液を基材フィルム上にキャストさせた後、乾燥させて、次いで該基材フィルムから剥離させたキャスト膜が公知である(例えば特許文献2,3)。この特許文献3には、相分離法を利用して製造した多孔質のイオン交換膜が記載されている。
【0006】
繊維径がナノメーターオーダーである極細のナノファイバの製造方法として電界紡糸法(静電紡糸法)が公知である(下記特許文献4,5等)。この電界紡糸法では、ノズルとターゲットとの間に電界を形成しておき、該ノズルから液状原料を細繊維状に吐出させて紡糸が行われる。細繊維は、ターゲット上に集積されて繊維体となる。なお、本発明者は、イオン交換基を有する極細の繊維(ナノファイバ)を用いたイオン交換フィルタを提案している(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−206509
【特許文献2】特開2000−327809
【特許文献3】特開2006−193709
【特許文献4】特開2007−92237
【特許文献5】特開2006−144138
【特許文献6】特開2009−219952
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
プリーツ型イオン交換フィルタは、プリーツの折り込み部分に流れが偏りやすく、上述の超純水のような極低濃度域では十分な除去率を得ることはできない。また、膜厚が薄いために破過が早く寿命が短い。また、イオン除去率を向上させるため、膜厚を厚くしたり、膜の細孔を小さくすると、透水性が犠牲となる。
【0009】
イオン交換基を有するナノファイバを用いたイオン交換フィルタは、イオン除去性能に優れるが、圧力損失が大きい。
【0010】
本発明は、半導体産業等における超純水の高純度化の要求を満たす、極低濃度イオンを除去する能力と、高い透水性と長寿命を有する液濾過用フィルタ及び液濾過方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明(請求項1)の液濾過用フィルタは、イオン交換シートと流路材シートとの積層シートが芯材の外周にスパイラル状に巻回されたイオン交換フィルタと、該芯材を収容したハウジングとを備え、該イオン交換フィルタの一端面から他端面に向って被処理液が通液されるものである。
【0012】
請求項2の液濾過用フィルタは、請求項1において、前記イオン交換シートが、イオン交換繊維からなるイオン交換繊維布とイオン交換キャスト膜の一方、又は両方を重ねたものであることを特徴とするものである。
【0013】
請求項3の液濾過用フィルタは、請求項2において、前記イオン交換シートが、前記イオン交換キャスト膜を前記イオン交換繊維布同士の間に介在させたものであることを特徴とするものである。
【0014】
請求項4の液濾過用フィルタは、請求項1ないし3のいずれか1項において、ハウジング内に複数個の前記イオン交換フィルタが直列に通水されるように配設されていることを特徴とするものである。
【0015】
請求項5の液濾過用フィルタは、請求項4において、前記イオン交換フィルタの上流側及び下流側の少なくとも一方に多孔板及び/又は分離膜が設けられていることを特徴とするものである。
【0016】
本発明(請求項6)の液濾過方法は、請求項1ないし5のいずれか1項の液濾過用フィルタに被処理液を通液するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の液濾過用フィルタに用いられているイオン交換フィルタは、芯材の外周に流路材シートとイオン交換シートとの積層シートをスパイラル状に巻回したものであり、イオン交換フィルタの一端面から他端面に向って被処理液が通液される。このように積層シートが流路材シートを有すると共に、被処理液がスパイラル状にイオン交換フィルタに一端面から他端面に向って流れるので、圧損が小さい。また、一端面から他端面までの間のイオン交換シートの全体が吸着帯となり、吸着帯長さが大きいので、イオンの破過までの時間が長くなり、イオン交換の寿命が長いものとなる。
【0018】
イオン交換シートの少なくとも一部をイオン交換繊維布で構成した場合、被処理液とイオン交換繊維布との接触面積が大きいので、十分に脱イオン処理される。
【0019】
イオン交換シートの少なくとも一部をイオン交換キャスト膜で構成した場合、イオン交換容量が大きくなる。
【0020】
イオン交換シートを、イオン交換繊維布と、これに接するイオン交換キャスト膜とで構成した場合、イオン交換繊維布で吸着したイオンをイオン交換キャスト膜に移動させて保持させることができる。
【0021】
イオン交換フィルタの上流側又は下流側に多孔板又は多孔膜を設けることにより、液の偏流やショートパスが防止又は抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施の形態に係るイオン交換フィルタを示す構成図である。
【図2】実施の形態に係る液濾過用フィルタの構成図である。
【図3】別の実施の形態に係る液濾過用フィルタの構成図である。
【図4】異なる実施の形態に係る液濾過用フィルタの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。なお、以下の説明では被処理液として水が通水されるが、水以外の液体であってもよい。
【0024】
第1図の(a)図は実施の形態に係るイオン交換フィルタの製作方法を示す断面図、(b)図は積層シートの断面図、(c)図はイオン交換フィルタの斜視図である。
【0025】
このイオン交換フィルタ1は、芯材2と、この芯材2の外周に巻回された積層シート3とを有する。この積層シート3は、流路材シート4とイオン交換シート5とを積層したものである。芯材2は中実の棒状であってもよいが、重量軽減のために中空パイプ状であってもよい。ただし、水がパイプ内を長手方向に流れないようにパイプの端部を閉止する。また、パイプの外周面にも孔を設けない。芯材の直径は1〜50mm特に3〜20mm程度が好適である。芯材の材質はポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンのほか、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂が好適であるが、これに限定されない。
【0026】
流路材シート4は、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリエステル、ポリスルホンなどよりなる不織布、織布、格子状ネットなどが好適である。流路材シートの厚さは0.1mm〜5mm、特に0.5〜2mm程度が好適であり、細孔径は100μm以上(目開き:50%〜90%)程度が好適である。
【0027】
イオン交換シート5は、イオン交換繊維の織布又は不織布、イオン交換キャスト膜などよりなるが、好ましくは、イオン交換繊維の不織布6,6間にイオン交換キャスト膜7を介在させた3層構造のものである。このイオン交換シート5の好適例については後に詳述する。
【0028】
この積層シート3を芯材2の外周にスパイラル状(渦巻状)に巻回してイオン交換フィルタ1とする。この巻き付けによる層の数(芯材2を回転させる場合は、合計の回転数)は10〜200特に30〜100程度が好適である。積層シート3を巻き付けるとロール状巻回体となる。このロール状巻回体よりなるイオン交換フィルタ1の一端面から他端面に向って被処理水が通水される。
【0029】
第2図は、第1図のイオン交換フィルタ1を組み込んだ液濾過用フィルタの一例を示す平面図である。
【0030】
この液濾過用フィルタ10は、被処理水の流入口11と濾過水の流出口12とを有した円筒状のハウジング13内に、複数個のイオン交換フィルタ1を同軸状に配置したものである。イオン交換フィルタ1の上流側及び下流側には、支持体14が配置されている。この支持体14は、上流側のイオン交換フィルタ1から流出してきた水を分散させて下流側のイオン交換フィルタ1に流入させる機能を有するものが望ましい。支持体14は分離膜(精密濾過膜、限外濾過膜など)及び/又は多孔円板よりなるものであってもよく、後述の第4図の支持体21のように構成されたものであってもよい。
【0031】
第3図のように、この液濾過用フィルタ10を耐圧容器15内に配置し、供給口16からこの耐圧容器15内に被処理水を供給して液濾過用フィルタ10内に流入させてもよい。この場合、ハウジング13の流入口側のエンドプレートは省略されてもよい。
【0032】
第4図(a)は円筒状ハウジング13内に複数個(この場合は2個)のイオン交換フィルタ1を支持体21を介して同軸状に配設した液濾過用フィルタ20の断面図、同(b)は支持体21の分解断面図、同(c)は支持体21の分解平面図である。第4図ではイオン交換フィルタ1が2個設けられているが、3個以上であってもよく、通常は1〜5個程度が好適である。
【0033】
支持体21は、多数の孔22aを有し、外周面にOリング22bが装着された多孔板22と、この多孔板22に重なるメッシュ23と、このメッシュ23に重なる精密濾過膜24と、精密濾過膜24に重なるOリング25とを有している。精密濾過膜24としては、孔径0.02〜0.45μmのものが好適である。Oリング22b、25によって支持体21の位置が固定されると共に、ハウジング13の内周面と支持体21の外周面との間からの漏水が防止される。精密濾過膜24によって微粒子を除去すると共に、支持体21よりも上流側のイオン交換フィルタ1を通過する水の流量を制御し、ショートパスや偏流を防止ないし抑制する。
【0034】
ハウジング13内に複数のイオン交換フィルタ1を直列に設置しているので、1つのイオン交換フィルタ1に水の流れやすい部分と流れ難い部分ができることによって、ショートパス・偏流が発生した場合でも、下流側のイオン交換フィルタに流入する前に水の合流が起こるため、ショートパス・偏流が液濾過用フィルタ全長に及ばない。
【0035】
また、イオン交換フィルタ1の前後に支持体21を設置することで、水を混合し整流すると共に、支持体21の通水の抵抗により水の流量を制御することができる。これにより、ショートパス、偏流をさらに軽減することができる。
【0036】
多孔板22の材質としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリテトラフルオロエチレンなどを挙げることができる。
【0037】
メッシュ23としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリエステルなどが好適であり、厚さは0.05mm〜3mm、特に0.1〜2mm、細孔径10μm以上(目開き:30%%〜90%)の範囲であることが望ましい。
【0038】
精密濾過膜24の材質としては、ポリビニリデンフロライド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリアミド、セルロース系を挙げることができる。精密濾過膜24の厚さは0.05mm〜0.5mm、好ましくは0.1〜0.3mm、細孔径0.02〜1μm特に0.02〜0.45μmの範囲であることが望ましい。
【0039】
支持体21はイオン交換繊維の織布又は不織布を有していてもよい。このイオン交換繊維の材質は後述のイオン交換繊維シートと同様のものを用いることができる。この織布又は不織布としては、高分子溶液を電界紡糸、溶融紡糸することで得られる繊維径0.01〜5μm、厚さ0.01〜1mm、細孔0.02〜10μm(エアーフロー法により測定)、イオン交換容量0.05〜3meq/g、0.03〜1.5meq/cmのものが好適である。このイオン交換繊維として、イオン交換フィルタのイオン交換基と逆の符号のイオンを除去する官能基を使用してもよく、このように構成することにより、イオン除去効果が向上する場合がある。
【0040】
イオン交換繊維を担持するため、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエステル、ポリビニリデンフロライドなどからなる不織布、ネットを用いても良い。
【0041】
複数のイオン交換フィルタ1,1のイオン交換繊維に、異なる機能、例えば符号の異なるイオンを除去する官能基を導入してもよい。このようにすれば、混床樹脂塔が使用されるケースのように、イオン除去性能が向上し、フィルタ寿命が長くなることがある。
【0042】
[イオン交換シート及びこれを巻回したイオン交換フィルタの詳細な説明]
イオン交換シートは、前述の通り、キャスト膜や、イオン交換繊維の織布又は不織布などが用いられる。以下に、これらについて詳細に説明する。
【0043】
[1] イオン交換シートの種類
(1) イオン交換繊維シート
イオン交換繊維としては以下の(a)〜(d)の材料を電界紡糸法又は溶融紡糸法で紡糸したものが好適である。イオン交換繊維シートは、これらを単独又は複合で用いて不織布または織布としたものである。
【0044】
(a)荷電性高分子繊維としてパーフルオロカーボンスルホン酸重合体(ナフィオン(登録商標)、フミオン(FuMA−Tech社製)
(b)非荷電性高分子繊維からなる基材にイオン交換基が化学的に付与されたもの
(c)荷電性高分子繊維としてパーフルオロカーボンスルホン酸重合体(ナフィオン(登録商標)、フミオン)を骨格材に担持して骨格材と一体化したもの
(d)非荷電性高分子繊維からなる基材にイオン交換基が化学的に付与されたものを骨格材と一体化したもの
高い機械的強度を得るには上記(c)または(d)のものが好ましい。
【0045】
イオン交換繊維シートの厚さは0.01〜0.5mm(10〜500μm)程度が好適であり、細孔径は0.1〜10μm(エアーフロー法により測定、以下同様)程度が好適であり、イオン交換容量は0.05〜2meq/g、0.03〜1.5meq/cm程度が好適である。イオン交換基のない繊維を紡糸して繊維シートを作成した後に、グラフト重合法や他の化学反応法(求電子置換反応、付加反応など)によりイオン交換基を繊維シートに付与することもできる。
【0046】
上記の非荷電性高分子としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエステル、ポリビニリデンフロライドなどが例示される。
【0047】
イオン交換基としては、種々のカチオン交換基又はアニオン交換基等を用いることができる。例えば、カチオン交換基としては、スルホン基などの強酸性カチオン交換基、リン酸基などの中酸性カチオン交換基、カルボキシル基などの弱酸性カチオン交換基、アニオン交換基としては、第1級〜第3級アミノ基などの弱塩基性アニオン交換基、第4級アンモニウム基などの強塩基性アニオン交換基を用いることができ、或いは、上記カチオン交換基及びアニオン交換基の両方を併有するイオン交換体を用いることもできる。
【0048】
骨格材としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエステル、ポリビニリデンフロライドなどからなる不織布、織布などが例示される。
【0049】
イオン交換繊維としては、相当直径が1〜1000nm、特に10〜700nm程度の著しく細い繊維が好適である。ここで「相当直径」とは、1本の繊維(ファイバ)の断面積と断面積の外周長さとから、(相当直径)=4×(断面積)/(断面の外周長さ)によって算出される値である。
【0050】
イオン交換繊維の長さは、1μm以上が好適である。なお、電解紡糸で作製した場合、数cmの長さにすることができ、また連続的に紡糸することもできるため、さらに数倍以上に長くすることができる。
【0051】
なお、イオン交換繊維を紡糸する際、荷電性高分子は、単独で紡糸することが難しい場合があり、紡糸出来ても繊維同士の荷電反発により、かさ(嵩)が高くなって収まりが悪くなり(即ち、嵩密度が低くなり)、フィルタ化に適さないことがある。一方、非電解質高分子は、単独で紡糸することが容易なものを選定することが可能で、紡糸後、繊維同士の反発がないため、フィルタ化し易い。そのため、電解質ポリマーと非電解質ポリマーを混合して紡糸することにより、両者の優れた特徴を有する繊維を得ることができる。電界紡糸においては、紡糸時の紡糸性も向上する。
【0052】
(2) イオン交換キャスト膜
イオン交換キャスト膜としては以下の(e)〜(h)の1種又は2種以上を用いて相分離法などにより製造した多孔質膜が好適である。
【0053】
(e)パーフルオロカーボンスルホン酸重合体(ナフィオン(登録商標)、フミオン)をガラスなどの基板上に塗布した後に基板を取り除いたフィルム状のもの
(f)非荷電性高分子からなる基材にイオン交換基が化学的に付与されたものをガラスなどの基板上に塗布した後に基板を取り除いたフィルム状のもの
(g)パーフルオロカーボンスルホン酸重合体(ナフィオン(登録商標)、フミオン)を骨格材に塗布して骨格材と一体化したもの
(h)非荷電性高分子からなる基材にイオン交換基が化学的に付与されたものを骨格材に塗布して骨格材と一体化したもの
高い機械的強度を得るには上記(g)または(h)の方法が好ましい。
【0054】
このキャスト膜の厚さは0.01〜0.5mm(10〜500μm)程度が好適であり、細孔径は1μm以下が好適であり、イオン交換容量は0.2〜4meq/g、0.1〜3.5meq/cm程度が好適である。非荷電性の高分子を成膜してキャスト膜を作成した後にグラフト重合法や、他の化学反応法(求電子置換反応、付加反応など)によりイオン交換基をキャスト膜に付与することもできる。
【0055】
非荷電性高分子、イオン交換基、骨格材としては上記と同様のものを用いることができる。
【0056】
[2] イオン除去の性能
イオン交換繊維シートの繊維表面をイオン交換の場とすることにより、繊維周辺における流体の接触効率が向上するため、イオンの吸着速度が高まる。ただし、イオン交換繊維シートのみでは、吸着したイオンの保持容量に限界がある。
【0057】
一方、イオン交換キャスト膜の場合、イオンを除去するための官能基を高密度に保持させることができ、イオン除去容量を確保することができる。そこで、イオン交換繊維シートにイオン交換キャスト膜を接触させることで、イオン交換繊維に吸着させたイオンをイオン交換キャスト膜に移動させて高密度に保持させることができる。また、イオン交換シートをロール状に巻回したイオン交換フィルタに対し一端面から他端面に向って通水した場合、該イオン交換フィルタの巻回軸心方向の長さが吸着帯の長さとなり、吸着帯長さが大きくなる。これにより、破過時間が長くなり、フィルタの寿命が長くなる。
【0058】
[3] 圧力損失の抑制
イオン交換繊維シートの場合は、イオン交換繊維を細くして比表面積を大きくすることでイオン交換容量を高めることができる。一方、イオン交換キャスト膜はイオン交換繊維シートよりも緻密であり、透過抵抗は高くなる。
【0059】
そこで、これら、イオン交換繊維シートとイオン交換キャスト膜とを積層させたイオン交換シートと、流路材シートとを積層すると共に、ロール状イオン交換フィルタに対し一端面から他端面に向って通水すること、即ち芯材と平行に通水することにより、圧力損失が小さくなる。
【0060】
なお、本発明の液濾過用フィルタ及び液濾過方法は、水中に溶解しているイオン性物質、コロイド、粒子の除去に好適に使用することができ、対象としては、市水、井水、河川水、湖水、工水を始め、生物処理、凝集処理、沈殿処理、加圧浮上処理、ろ過、活性炭処理、イオン交換樹脂処理、精密ろ過、限外ろ過、逆浸透処理、電気再生式脱イオン処理、脱炭酸処理、UV処理などのいずれかの処理を施した水が例示される。
【0061】
被処理水のイオン濃度が高いと、フィルタの寿命が短くなり、交換頻度も多くなるため、イオン交換樹脂処理や逆浸透処理、電気再生式脱イオン処理等による前処理を実施する方が効率的になる。本発明のフィルタは、イオン濃度が低い水や、ある程度イオンが除去された水に対して、さらにイオンを除去する場合に有効である。例えば、比抵抗1MΩ・cm以上の超純水からさらにイオンを除去するために使用する場合を挙げることができる。
【実施例】
【0062】
[実施例1〜6、比較例1,2](イオン交換フィルタを一段のみ設けた液濾過用フィルタ)
以下の実施例1〜6及び比較例1,2では、第1図(a),(b)の如くスパイラル状に巻回したイオン交換フィルタを製作し、実施例1〜6では芯材と平行方向に通水し、比較例1,2ではスパイラル方向に通水した。
【0063】
イオン交換フィルタに使用したイオン交換シートは、表1に示すイオン交換繊維シートF1,F2又は、イオン交換キャスト膜M1又はM2である。使用した流路材シートは、表2に示したポリエステル製格子状ネットS1又はS2である。
【0064】
実施例1〜6で用いた芯材2は、外径10mm、内径6mmのポリプロピレン製パイプよりなり、両端面を閉鎖したものである。比較例1,2は、このパイプの周面に直径2mmの小孔を孔間隔2mmで多数穿孔したものである。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
実施例1〜6及び比較例1,2ともに、表1,2に示したイオン交換繊維シート、イオン交換キャスト膜、流路材シートを表3に指定の通り重ねて外径80mmになるように芯材にロール状に巻き回し、長さ200mmになるようカットした。比較例1,2では、さらに、ロール状シートのカットした両端面を水が抜けないように接着剤で封止した。
【0068】
3)通水試験条件
フィルタをフィルタカートリッジにセットし、1ng/LのNaイオンを含む純水を20L/minで通水した。前述の通り実施例1〜6では芯材と平行方向に一端面から他端面に通水した。比較例1,2では、ロール状巻回体の外周面からスパイラル方向に通水し、処理水を芯材から取り出す加圧透過方式で通水した。結果を表3に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
4)結果・考察
イオン交換繊維のみを用いた比較例1、実施例1,2については、加圧透過方式である比較例1と比較して、実施例1,2では圧損を低く抑えると共に、高いイオン除去率を得ることができたが、イオン除去率が徐々に低下した。
イオン交換繊維は吸着速度が高いため、初期は高いイオン除去率を得られたが、イオン交換繊維のイオン交換容量は少ないため、経時的にイオン除去率が低下したものと思われる。
なお、実施例2は実施例1よりスペーサーの厚みが薄いため、巻き数が多くなり圧力損失は高くなるが、接触面積は大きくなりイオン除去率が高くなっている。
イオン交換膜のみを用いた比較例2、実施例3,4については、加圧透過方式のため通水不可である比較例2に対して、実施例3,4では圧損を低く抑えつつ持続的に安定したイオン除去率を得ることができたが、イオン除去率は実施例1,2より低かった。
イオン交換膜は吸着速度が低いため、高いイオン除去率を得ることはできなかったが、イオン交換膜はイオン交換容量が多いため、性能を長時間維持できたものと思われる。
なお、実施例3は、実施例4よりイオン交換膜が薄いため、スペーサーの割合が大きくなり圧力損失が若干低くなると共に、接触面積が大きくなりイオン除去率は高くなった。
イオン交換繊維とイオン交換膜とを積層させて用いた実施例5,6については、イオン交換繊維のみを用いた実施例1,2や、イオン交換膜のみを用いた実施例3,4と比較して、圧損を低く抑えつつ、より高いイオン除去率を得ることができ、さらに長時間性能を維持することができた。
イオン交換繊維の高い吸着速度と、イオン交換膜のイオン交換容量の多さの相乗効果と思われる。
また、実施例5より実施例6の方が、さらに高いイオン除去率を得ることができた。これはイオン交換膜の片側にイオン交換繊維を積層した実施例5よりも、イオン交換膜の両側にイオン交換繊維を積層した実施例6の方がより接触面積が大きくなるためと思われる。
【0071】
[実施例7〜9、対比例1〜3](イオン交換フィルタを単段にした場合と多段にした場合との対比)
下記のシートA、流路材B、及び芯材Cを用いてイオン交換フィルタを製造し、円筒容器内に収容し、通水した。
【0072】
<材料>
・シートA
シリンジ径30Gのシリンジに、非電解質ポリマーと電解質ポリマーとを含む溶液としてナフィオン14重量%、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)8重量%、DMAc(ジメチルアセトアミド)78重量%の溶液を入れ、シリンジ側をプラス、繊維を捕集するターゲット側にマイナスの35kVの電圧(4kV/cmの電位勾配)をかけることにより、カチオン交換繊維を紡糸し、それを積層させて直径200nmの繊維からなる厚さ50μmのカチオン交換繊維の不織布を製造した。
・流路材B
ポリエステル製メッシュ、厚さ0.7mm、繊維太さ0.35mm、目開き70%を使用した。
・芯材C
ポリプロピレン製、直径5mm
【0073】
<対比例1>
幅を5cmに揃え、シートAを流路材Bと共に芯材Cに巻き回して吸着帯の長さ5cmのイオン交換フィルタを製作した。これを内径2cm、長さ9cmの円筒容器の中央部に圧入した。
【0074】
<対比例2>
幅を5cmに揃え、シートAのみを芯材Cに巻き回して吸着帯の長さ5cmのイオン交換フィルタを製作した、これを内径2cm、長さ9cmの円筒容器の中央部に圧入した。
【0075】
<実施例7>
幅を2.5cmに揃え、シートAを流路材Bと共に芯材Cに巻き回して吸着帯の長さ2.5cmのイオン交換フィルタを2個作製した。これらを内径2cm、長さ9cmの円筒容器に圧入した。イオン交換フィルタ同士の間に1cmの間隔をあけた。
【0076】
<実施例8>
幅を1.25cmに揃え、シートAを流路材Bと共に芯材Cに巻き回して吸着帯の長さ1.25cmのイオン交換フィルタを4個作製した。これらを内径2cm、長さ9cmの円筒容器に圧入した。イオン交換フィルタ同士の間に1cmの間隔をあけた。
【0077】
<実施例9>
幅を1.25cmに揃え、シートAを流路材Bと共に芯材Cに巻き回して吸着帯の長さ1.25cmのイオン交換フィルタを4個作製した。これらを内径2cm、長さ9cmの円筒容器に圧入した。イオン交換フィルタ同士の間に1cmの間隔をあけた。
【0078】
実施例9では、各イオン交換フィルタ同士の間と、両端のロールの外端面にそれぞれ第4図(b),(c)に示した支持体21の精密濾過膜24として、厚さ180μmのポリプロピレン製不織布上に4級アンモニウム化ポリスルホンと、ポリビニリデンフロライドを重量比1:1で混合して電界紡糸して、厚さ5μmの不織布を形成させた膜を用いた支持体を挿入した。Oリング25はP16、シリコンゴム製であり、メッシュ23はポリオレフィン製メッシュ(厚さ0.55mm、繊維太さ0.28mm、目開き80%)であり、多孔板22はポリテトラフルオロエチレン製多孔プレート(2mmφ×21孔、厚さ4mm)、Oリング22bはP16、シリコンゴム製である。
【0079】
<評価試験>
1ppbのNaをNaClとして添加した超純水を被処理水とし、これを流量0.3L/minで通水し、圧力損失と処理水Na濃度を測定した。Na除去率は以下の式で算出した。結果を表4に示す。
【0080】
Na除去率[%]=(1−[処理水Na濃度]/[被処理水Na濃度])×100
【0081】
【表4】

【0082】
<考察>
対比例1と実施例7,8との対比より、フィルタの総長は同じでも、分割配置することにより、ショートパスや偏流が軽減し、Na除去率が高くなると共に、微粒子が減少し、処理水質がより向上することが認められる。
【0083】
対比例2は圧力損失が300kPa以上となったため、通水不可であった。
【0084】
実施例9で示されるように、多孔板と精密濾過膜を加えることで、実施例8と比較して、圧力損失は上昇したが、処理水水質、特に微粒子除去性能が顕著に向上する。
【符号の説明】
【0085】
1 イオン交換フィルタ
2 芯材
3 積層シート
4 流路材シート
5 イオン交換シート
6 イオン交換繊維の不織布
7 イオン交換キャスト膜
21 支持体
22 多孔板
23 メッシュ
24 精密濾過膜
25 Oリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換シートと流路材シートとの積層シートが芯材の外周にスパイラル状に巻回されたイオン交換フィルタと、該芯材を収容したハウジングとを備え、該イオン交換フィルタの一端面から他端面に向って被処理液が通液される液濾過用フィルタ。
【請求項2】
請求項1において、前記イオン交換シートが、イオン交換繊維からなるイオン交換繊維布とイオン交換キャスト膜の一方、又は両方を重ねたものであることを特徴とする液濾過用フィルタ。
【請求項3】
請求項2において、前記イオン交換シートが、前記イオン交換キャスト膜を前記イオン交換繊維布同士の間に介在させたものであることを特徴とする液濾過用フィルタ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、ハウジング内に複数個の前記イオン交換フィルタが直列に通水されるように配設されていることを特徴とする液濾過用フィルタ。
【請求項5】
請求項4において、前記イオン交換フィルタの上流側及び下流側の少なくとも一方に多孔板及び/又は分離膜が設けられていることを特徴とする液濾過用フィルタ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項の液濾過用フィルタに被処理液を通液する液濾過方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−189275(P2011−189275A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57590(P2010−57590)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】