説明

液状食品用ゲル化剤及びゲル状食品の製造方法

【課題】加熱工程及び冷却工程を経ることなく、0〜60℃といった温度範囲の液状食品を用いて、極めて短時間にゲルを製造可能な即席性の高い液状食品用ゲル化剤及びゲル状食品の製造方法を提供する。更には、牛乳、味噌汁、濃厚流動食や経腸栄養剤などの脂質、タンパク質や塩分を含有する食品であっても簡便にゲルを形成することができ、且つ咀嚼・嚥下困難者用食品としても適したゲル状食品を提供可能な液状食品用ゲル化剤及びゲル状食品の製造方法を提供する。
【解決手段】0〜60℃の液状食品にキサンタンガムと、グァーガム及び/又はタラガムを添加後、攪拌装置を用いて攪拌する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状食品用ゲル化剤及びゲル状食品の製造方法に関する。詳細には、加熱工程及び冷却工程を経ることなく、0〜60℃といった温度範囲の液状食品を用いて、極めて短時間にゲル状食品を製造可能な、液状食品用ゲル化剤及びゲル状食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種液状食品をゲル化させるゲル化剤として、寒天、ゼラチン、カラギナン、ジェランガムなどのゲル化剤が用いられてきた。しかし、食品を凝固させるゲル化機能を発揮させるためには、該ゲル化剤を含有した溶液や各種液状食品を一旦80℃以上に加熱後、ゲル化温度まで冷却する必要があり、ゲル状食品の調製には通常1〜3時間程の時間を要し、加熱工程や冷却工程を経ることなく簡便な工程で且つ短時間に各種液状食品をゲル化させることが可能な液状食品用ゲル化剤が求められてきた。特に、食物を噛み砕き飲み込むという一連の動作に障害をもつ、いわゆる咀嚼・嚥下困難者用向けの食品として調製されるゲル状食品は、嚥下・咀嚼困難者やその介護者が、食品の喫食時に対象となる液状食品にゲル化剤を添加し、その場で調製されることが多い。しかし、従来のゲル化剤を用いた際は、加熱工程及び冷却工程が必須となり、調製時にお湯で火傷する恐れがあるなど、特に高齢者などにとって使用しづらいという問題点や、冷却工程に1〜3時間といった長時間を要し、使い勝手に欠けるといった問題点を有していた。
【0003】
一方、ゲル化に際して加熱を必要としないゲル化剤としては、アルギン酸ナトリウムが知られている。アルギン酸ナトリウムは常温の水に溶解し、アルギン酸ナトリウム水溶液にカルシウム塩を添加することにより、アルギン酸ナトリウム中のナトリウムがカルシウムに変換してゲルを形成するため、加熱溶解を必要とせず簡便にゲルを調製することが可能である。しかし、一方で、塩やタンパク質含有量の高い液状食品にはアルギン酸ナトリウムは溶けにくく、従って使用対象食品が限定されてしまい、汎用性に欠けるものであった。実際、アルギン酸ナトリウムは水などの液状食品に添加してゲルを形成することは可能であるものの、牛乳、味噌汁、ポタージュスープ、濃厚流動食などの液状食品に添加した際はゲルを形成せず、これらのゲル状食品を提供することはできない。
【0004】
加熱工程を要せず食品を増粘、凝固させる技術として、炭酸水素ナトリウム及び有機酸の存在下で、カラギナン、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム及び/又はカルボキシメチルセルロースを添加する方法(特許文献1)、ジェランガム、カラギナン、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのなかから選ばれる少なくとも1種以上を含有し、食物に添加して10分以内に溶解して所望の凝固又は増粘効果が発現するように調製されてなる糊料(特許文献2)、組み合わせることにより反応し増粘性を示す少なくとも2種類以上の多糖類を水溶液中に完全に溶解した後、再び粉末化することを特徴とする易溶性粉末組成物(特許文献3)などが開示されている。
【0005】
また、特許文献4にはキサンタンガム2〜40重量部に対し、グルコマンナン98〜60重量部の割合で粉体混合した混合物を主要成分とすることを特徴とする、室温以下の条件下において、5000rpm以上の攪拌で飲食物にゲル性を付与する咀嚼・嚥下補助剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−104912号公報
【特許文献2】特開平11−187827号公報
【特許文献3】特開2004−344165号公報
【特許文献4】特開2008−301775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の発明は対象食品を増粘させる技術であり、加熱することなく液状食品をゲル化させる技術について一切開示されていない。同様にして特許文献2に開示の発明も特定のカチオン量を含有するジェランガム又はナトリウム型のカラギナンを用いることにより増粘・ゲル化をコントロールする技術であり、液状食品の種類や目的とする食品のゲル強度に応じてカチオン量をコントロールする必要があるなど汎用性に欠けるものであった。特許文献3に開示の発明も、反応し増粘性を示す少なくとも2種類以上の多糖類を水溶液中に完全に溶解後、再び粉末化された製剤を用いることにより、加熱工程を経ることなく液状食品を増粘・ゲル化できることが開示されているが、特定多糖類を液状食品に添加した後に攪拌装置を用いて攪拌することにより、即時にゲル状食品を調製できることについて一切開示されていない。また、特許文献1〜3に開示されている技術に基づいて液状食品のゲル化を試みた場合であっても、特定の食品と相互作用しやすい増粘・ゲル化剤を用いた際は部分的なゲルを生じ、食感にバラツキが生じてしまうなどの不具合があり、一方で食品との相互作用が低い増粘・ゲル化剤を用いた際は、増粘加熱工程を経ることなく対象となる液状食品を増粘させることは可能であるものの、ゲルを形成するために一定の時間を要す必要があった。更に、多糖類の分子的相互作用は高塩濃度や低pH領域で阻害されることが多く、この技術を用いた製剤を牛乳、味噌汁、ポタージュスープ、濃厚流動食、オレンジジュースなどに添加した場合には十分な増粘・ゲル化効果が得られなかった。
【0008】
同様にして、特許文献4に開示されている技術も、室温以下の条件下においてゲル性を付与できる効果を有するが、キサンタンガム及びグルコマンナンを併用して調製されたゲル状飲食品は付着性が強く、咀嚼・嚥下困難者が喫食した際に咽頭にへばりつきやすいという課題を抱えていた。咀嚼・嚥下困難者は筋肉の衰えなどから食塊を咽頭から食道へ送り込む機能が低下しており、特に付着性が大きい食品はスムースに咽頭相を通過することができない。従って、嚥下したときに咽頭に食塊がへばりつかない低付着性が重要である。
【0009】
更に、ゲル状食品が咀嚼・嚥下困難者用食品として適用される際には、以下の物性が求められる。1)適度なかたさを有すること、2)食塊形成性(咀嚼後の食品のまとまりやすさ)に優れること、3)口腔及び咽頭への付着性が小さいこと、及び4)保水性が高いこと(離水が少ないこと)。咀嚼・嚥下困難者は筋肉の衰えなどから食塊を咽頭から食道へ送り込む機能が低下しており、筋力が衰えた咀嚼困難者であっても飲み込みやすい食塊形成性や、スムースに咽頭相を通過することが可能となるような付着性の小ささが重要な要素となる。かかる点、ゲル化された食品であっても食塊形成性が悪い食品や付着性が大きい場合は咀嚼・嚥下困難者には適さず、咀嚼・嚥下困難者用食品としても優れた特性を有するゲル状食品が求められていた。
【0010】
以上の問題点に鑑み、本発明は、加熱工程及び冷却工程を経ることなく、0〜60℃といった温度範囲の液状食品を用いて、極めて短時間にゲル状食品を製造可能な即席性の高い液状食品用ゲル化剤及びゲル状食品の製造方法を提供することを目的とする。更には、牛乳、味噌汁や濃厚流動食などの脂質、タンパク質や塩分を含有する液状食品であっても簡便にゲルを形成し、且つ咀嚼・嚥下困難者用食品としても適したゲル状食品を提供可能な、液状食品用ゲル化剤及びゲル状食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記従来技術の問題点に鑑み、鋭意研究を重ねていたところ、0〜60℃の液状食品にキサンタンガムと、グァーガム及び/又はタラガムを添加し、該溶液をミキサーやブレンダーなどの撹拌装置を用いて撹拌することにより、加熱工程及び冷却工程を経ることなく、0〜60℃といった温度範囲の液状食品を用いて、極めて短時間にゲル状食品を調製できること、及び調製されたゲル状食品が咀嚼・嚥下困難者用食品として適していることを見出して本発明を完成した。
【0012】
本発明は、以下の態様を有する液状食品用ゲル化剤及びゲル状食品の製造方法に関する;
項1.キサンタンガムと、グァーガム及び/又はタラガムを含有し、0〜60℃の温度範囲で使用されることを特徴とする、液状食品用ゲル化剤。
項2.キサンタンガム1質量部に対する、グァーガム及び/又はタラガムの含量が0.1〜10質量部である、項1に記載の液状食品用ゲル化剤。
項3.アラビアガムを併用する、項1又は2に記載の液状食品用ゲル化剤。
項4.更にデンプンを併用する、項1〜3のいずれかに記載の液状食品用ゲル化剤。
項5.デンプンが両親媒性デンプンであることを特徴とする、項1〜4のいずれかに記載の液状食品用ゲル化剤。
項6.デンプンがアルファ化デンプンであることを特徴とする、項1〜5のいずれかに記載の液状食品用ゲル化剤。
項7.0〜60℃の液状食品にキサンタンガムと、グァーガム及び/又はタラガムを添加後、攪拌装置を用いて攪拌することを特徴とする、ゲル状食品の製造方法。
項8.攪拌装置での攪拌条件が500rpm以上の攪拌条件である、項7に記載のゲル状食品の製造方法。
項9.ゲル状食品が嚥下・咀嚼困難者用食品である、項7又は8に記載のゲル状食品の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により加熱工程及び冷却工程を経ることなく、0〜60℃といった温度範囲の液状食品を用いて、極めて短時間に液状食品をゲル化させることが可能な、即席性の高い液状食品用ゲル化剤及びゲル状食品の製造方法を提供することができる。更には、牛乳、味噌汁や濃厚流動食などの脂質、タンパク質や塩分を含有する液状食品であっても簡便にゲルを形成し、且つ咀嚼・嚥下困難者用食品としても適したゲル状食品を提供可能な液状食品用ゲル化剤及びゲル状食品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の液状食品用ゲル化剤は、キサンタンガムと、グァーガム及び/又はタラガムを含有し、0〜60℃の温度範囲で使用されることを特徴とする。従来、寒天、ゼラチン、カラギナン、ジェランガムなどをはじめとするゲル化剤は、該ゲル化剤を含有した液状食品を60〜80℃の温度で加熱溶解後、ゲル化温度まで冷却することによってはじめてゲル化機能を発揮するため、調製時にお湯で火傷する恐れがあるなど、特に高齢者などにとって使用しづらいという問題点を抱えていた。しかし、本発明では、0〜60℃、特に4〜40℃の温度範囲で用いられた場合においても対象の液状食品をゲル化させることが可能となり、これにより特別な加熱工程なく、ベットサイドや家庭の台所などでも簡便にゲル状食品を調製することが可能となった。かかる点からも本発明の液状食品用ゲル化剤は即席性の高い液状食品用ゲル化剤(液状食品用インスタントゲル化剤)として極めて有用性が高い。
【0015】
本発明で用いるキサンタンガムは、微生物が産生する発酵多糖類であり、β−1,4−D−グルカンの主鎖骨格に、D−マンノース、D−グルクロン酸、D−マンノースからなる側鎖が結合したアニオン性の多糖類である。主鎖に結合したD−マンノースのC6位はアセチル化されている場合がある。また、末端のD−マンノースはピルビン酸とアセタールで結合している場合がある。商業的に入手可能なキサンタンガム製品として、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「サンエース[商標](標準品)、「サンエース[商標]S(微粒品)」、「サンエース[商標]E−S(顆粒品)」、「サンエース[商標]C(透明品)」、「ビストップ[商標]D−3000−DF−C」などを挙げることができる。
【0016】
本発明でキサンタンガムと併用されるグァーガムは、β−1,4−D−マンナンの主鎖骨格に側鎖としてD−ガラクトースがα−1,6結合した、マメ科植物由来の中性多糖類であり、食品産業界では増粘剤として、ソース類、麺類、アイスクリーム類などに使用されている。グァーガム中のマンノースとガラクトースの比率は約2:1で、水への溶解性が高い。本発明において、グァーガムは精製タイプ、未精製タイプのいずれもが適応可能である。商業的に入手可能なグァーガム製品として、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「ビストップ[商標]D−2023(標準品)」、「ビストップ[商標]D−2029(透明品)」などを挙げることができる。
【0017】
本発明で用いるタラガムは、β−1,4−D−マンナンの主鎖骨格に側鎖としてD−ガラクトースがα−1,6結合した、マメ科植物由来の中性多糖類である。タラガム中のマンノースとガラクトースの比率は約3:1であり、精製タイプ、未精製タイプのいずれもが適応可能である。商業的に入手可能なタラガム製品として、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「ビストップ[商標]D−2101(標準品)」、「ビストップ[商標]D−2103(透明品)」などを挙げることができる。
【0018】
本発明では、上記キサンタンガムに加え、グァーガム及び/又はタラガムを併用することにより、0〜60℃の液状食品に用いた際にも、簡便且つ短時間でゲル状食品を調製することが可能となった。詳細には、上記キサンタンガムと、グァーガム及び/又はタラガムを含有した液状食品用ゲル化剤を液状食品に添加後、ミキサーやブレンダーといった攪拌装置を用いて5秒間〜1分間程度攪拌するのみで、冷却工程を経ることなくゲル状食品を調製することが可能となった。更に、調製されたゲル状食品は、適度な保形性があって付着性が小さく、更に離水も少ないため、特に咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品として極めて優れている。
【0019】
キサンタンガムに対するグァーガム及び/又はタラガムの配合割合としては、求められる物性や対象とする液状食品によって適宜調整することが可能であるが、例えばグァーガムを単独で使用する場合、キサンタンガム1質量部に対し、グァーガムを0.1〜10質量部、好ましくは0.15〜3質量部、更には0.2〜1.5質量部用いることが好ましい。同様にして、タラガムを単独で用いる場合は、キサンタンガム1質量部に対し、タラガムを0.1〜10質量部、好ましくは0.25〜5質量部、更には0.5〜2質量部用いることが好ましい。グァーガム及びタラガムを併用する場合は、キサンタンガム1質量部に対し、グァーガム及びタラガム0.1〜10質量部、好ましくは0.15〜5質量部、更には0.2〜2質量部用いることが好ましい。かかる併用割合でキサンタンガムと、グァーガム及び/又はタラガムを用いることにより、0〜60℃の液状食品を特別な加熱工程を経ずにゲル化することが出来、適度な保形性があって付着性が小さく、更に離水が少ない咀嚼・嚥下困難者用に適した食感を有するゲル状食品の提供が可能となった。
【0020】
本発明の液状食品用ゲル化剤は、0〜60℃といった比較的低温の液状食品に用いた際であっても即時に液状食品をゲル化でき、且つ咀嚼・嚥下困難者用として適した物性を有するゲル状食品を提供できることを特徴とする。例えば、キサンタンガム及びグァーガムの併用製剤であれば、0〜60℃、好ましくは0〜20℃の液状食品に添加することにより、適度な保形性があって付着性が小さく、更に離水が少ない咀嚼・嚥下困難者用に適した食感を有するゲル状食品を提供できる。同様にして、キサンタンガム及びタラガムの併用製剤であれば、0〜60℃、好ましくは10〜40℃の液状食品に添加することにより、咀嚼・嚥下困難者用に適した食感を有するゲル状食品を提供できる。更に、グァーガム及びタラガムの両者を併用することにより、好ましくは0〜40℃といった広い範囲で咀嚼・嚥下困難者の喫食に適した物性を有するゲル状食品を簡便に調製することが可能である。
【0021】
本発明では、更にアラビアガムを併用することが好ましい。上記キサンタンガムと、グァーガム及び/又はタラガムに加えてアラビアガムを併用することにより、ミキサーやブレンダーなどの攪拌装置処理時の食品の流動性が改善され、ミキサーやブレンダーなどの刃の回転が滑らかになる。また、ゲル中に細かな気泡が取り込まれ、調製されたゲル状食品の付着性が低減し、食感が軽くなる。更には、食塊形成性が向上する。アラビアガムの配合量の具体例として、キサンタンガム1質量部に対し、アラビアガムを0.01〜25質量部、好ましくは0.1〜5質量部、更には0.2〜1質量部添加することが好ましい。
【0022】
本発明で用いるアラビアガムは、マメ科アカシア属の植物の幹や枝から得られるゴム状の滲出液を乾燥して調製される天然樹脂(多糖類)である。アカシアの木の種類としては500種以上のものが知られており、一般に流通しているものは主にアカシア・セネガル(Acacia senegal)やアカシア・セイアル(Acacia seyal)から採取されているが、本発明で使用できるアラビアガムはこれらに限定されるものではなく、2種以外から採取されたものでも良い。アラビアガムは製法によって、粗砕品、粉砕品、殺菌精製スプレードライ品、脱塩精製スプレードライ品と分けられているが、本発明では特に限定されず、いずれのものも使用することができ、使用されるアラビアガムは任意的に分子量を上げたり、揃えたものであっても良い。商業的に入手可能なアラビアガム製品として、例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「ビストップ[商標]D−2041」、「スーパーガム EM-2」、および「スーパーガムNo.8」などを挙げることができる。
【0023】
また、本発明では、更にデンプンを併用することが好ましい。本発明で用いられるデンプンは、通常、加工食品に使用されるものであれば特に限定されるものではない。デンプンには、馬鈴薯、モチトウモロコシ、トウモロコシ、甘藷、小麦、米、餅米、タピオカ、サゴヤシなどを由来とするものが挙げられるが、中でも馬鈴薯、モチトウモロコシに由来するデンプンが味覚に与える影響が少ないため好ましい。また、デンプンには、物理的又は、化学的処理を施した加工デンプン(酸分解デンプン、酸化デンプン、アルファ化デンプン、グラフト化デンプン、カルボキシメチル基、ヒドロキシアルキル基などを導入したエーテル化デンプン、アセチル基などを導入したエステル化デンプン、デンプンの2カ所以上の水酸基間を、官能基を介して結合させた架橋デンプン、オクテニルコハク酸基のような疎水基を導入した両親媒性デンプン、湿熱・乾熱処理デンプンなど)などが挙げられるが、本発明におけるデンプンには、これらの加工デンプンも含まれ、上述のデンプン及び加工デンプンからなる群から選ばれる1種以上を使用することができる。
【0024】
本発明では中でも、アルファ化デンプン及び/又は両親媒性デンプンを用いることが好ましい。アルファ化デンプンを用いることにより、調製されたゲル状食品のゲル化能が向上し、より弱い撹拌力でもゲルを形成することが可能となる。アルファ化デンプンの配合量は、キサンタンガム1質量部に対し、アルファ化デンプンを0.01〜10質量部、好ましくは0.05〜8質量部、更に好ましくは0.1〜5質量部である。また、加工デンプンにおいて、水酸基に疎水基を導入した両親媒性デンプン、好ましくはオクテニルコハク酸エステル化デンプンを使用することにより、ゲル中に細かな気泡が取り込まれ、調製されたゲル状食品の付着性が低減し、食感が軽くなる。また、食塊形成性が向上する。両親媒性デンプンの配合量は、キサンタンガム1質量部に対し、両親媒性デンプンを0.01〜10質量部、好ましくは0.1〜1質量部、更に好ましくは0.2〜0.8質量部である。
【0025】
本発明の液状食品用ゲル化剤が対象とする液状食品は、例えば、水、牛乳、乳飲料、乳酸菌飲料、果汁入り清涼飲料、炭酸飲料、果汁飲料、菜汁飲料、茶飲料、スポーツ飲料、機能性飲料、ビタミン補給飲料、栄養補給バランス飲料、赤ワインなどの果実酒、コンソメスープ、ポタージュスープ、クリームスープ、中華スープなどの各種スープ、シチュウ、カレー、グラタンなどの調理ソースや味噌汁、清汁、蛋白質・リン・カリウム調整食品、塩分調整食品、油脂調整食品、整腸作用食品、カルシウム・鉄・ビタミン強化食品、低アレルギー食品、濃厚流動食、ミキサー食、及びキザミ食などの特殊食品や治療食の液状食品を挙げることができる。また、本発明の液状食品には、粥、雑炊、うどん、そば、鍋料理などの固形物を含む液状食品も挙げることができる。これらに直接、本発明の液状食品用ゲル化剤を添加し、攪拌装置を用いて攪拌することにより、加熱工程及び冷却工程を経ることなく簡便且つ短時間でゲル状食品を提供することが可能である。また、例えば裏ごし野菜等の惣菜類やおかゆなどに水やお湯を添加したもの(液状食品)に、本発明の液状食品用ゲル化剤を添加し、攪拌装置を用いて攪拌することによっても、短時間でゲル状食品を提供することが可能である。
【0026】
また、本発明の液状食品用ゲル化剤は、経口摂取が困難である患者に適用される胃瘻向けの経管栄養剤用ゲル化剤としても適している。胃瘻(PEG)とは、咀嚼・嚥下機能が著しく低下した患者などに用いられる栄養摂取の一手法であり、胃に手術的または内視鏡的に造設した外瘻(瘻孔)からチューブを挿入し、チューブを介して胃に直接、経管栄養剤(ミキサー食、ペースト状食品や経腸栄養剤等)などの栄養分を投与する方法である。かかる胃瘻経管栄養法(PEG)では、下記(1)〜(4)に示す理由から経管栄養剤に保形性を付与する手法が検討されている。(1)経管栄養剤の投与時もしくは投与後に胃に造設した外瘻のチューブ口から食品が漏れることを防止するため。(2)液体の経管栄養剤を胃に直接投与することにより、胃から腸に一気に経腸栄養剤が落下し(ダンピング)、糖質が急速に吸収されて高血糖症となったり、下痢の症状を引き起こすことを防止するため。(3)液状の経管栄養剤は(2)に記載の症状を防止するために、患者に同一体位で長時間投与する必要があったが、経管栄養剤に保形性を付与した場合、(2)の症状を抑制でき、短時間での投与が可能となる。結果として、褥瘡を防止したり、患者の負担を軽減し、患者のQOL(Quality of Life)の向上に貢献できる。(4)経管栄養法が適用される高齢者や患者などは胃上部の噴門の機能が著しく低下していることがあり、液体の経管栄養剤では胃食道逆流を起こしてしまうことがあるため。
【0027】
しかし、かかる胃瘻患者に使用される経管栄養剤に保型性を付与するために従来使用されてきたゲル化剤は、保型性を付与するために加熱を必要するため、利便性が悪い若しくは加熱溶解が不要であるものの、十分な保型性を経管栄養剤に付与できない、又は保型性を付与できるものの胃瘻に使用されるチューブ内壁に経腸栄養剤が付着し、細菌衛生面上好ましくないといった課題を抱えていた。しかし、本発明の液状食品用ゲル化剤を用いることにより、加熱工程及び冷却工程を経ることなく短時間で且つ簡便に、経管栄養剤等の液状食品に胃瘻(PEG)に適した保型性を付与することができる。更に、経管栄養剤に本発明のゲル化剤を用いることにより、チューブ内壁への付着性も低減させることができ、本発明のゲル化剤は、胃瘻患者に使用される経管栄養剤(ミキサー食、ペースト状食品や経腸栄養剤等)向けのゲル化剤としても優れている。
【0028】
また、本発明の液状食品用ゲル化剤は、粉末飲料やゼリーの素、プリンの素などの粉末素材と予め混合することも可能である。予め上記粉末素材と混合させた本発明のゲル化剤を水や牛乳等の液状食品に添加し、攪拌装置を用いて攪拌するのみで、極めて簡便且つ短時間でゼリー飲料やゼリー、プリン等を調製することが可能である。更に加熱工程を経ることなくゲル状食品を調製することが可能なため、子供向け製造キットとしても安全な食品を提供できる。
【0029】
本発明の液状食品用ゲル化剤の液状食品への添加量としては、対象となる食品の種類や求められる食感によっても適宜調節することが可能であるが、具体的には、液状食品に対し、キサンタンガムが0.1〜2.0質量%、好ましくは0.2〜1.6質量%、更に好ましくは0.3〜1.4質量%、グァーガムが0.01〜6質量%、好ましくは0.05〜2質量%、更に好ましくは0.1〜0.8質量%、タラガムが0.01〜9質量%、好ましくは0.05〜2質量%、更に好ましくは0.1〜0.8質量%である。
【0030】
更にアラビアガムを併用する場合は、液状食品に対し、アラビアガムが0.01〜30質量%、好ましくは0.05〜5質量%、更には0.1〜1質量%となるように添加することが好ましく、オクテニルコハク酸エステル化デンプンなどの両親媒性デンプン及び/又はアルファ化デンプンを併用する場合は、液状食品に対し両親媒性デンプンが0.01〜12質量%、好ましくは0.05〜1質量%、更には0.1〜0.5質量%、アルファ化デンプンが0.01〜12質量%、好ましくは0.05〜7.5質量%、更に好ましくは0.1〜5質量%となるように添加することが好ましい。
【0031】
本発明における液状食品用ゲル化剤は、更に金属塩を併用することができる。金属塩を使用することにより、当該液状食品用ゲル化剤の分散性を改善し、より均一なゲルを調製することができる。金属塩としては、一般的に食品などに使用されるものでカリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を挙げることができる。
【0032】
カリウム塩としては、塩化カリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸三カリウム、DL−酒石酸水素カリウム、L−酒石酸水素カリウム、炭酸カリウム、ピロリン酸四カリウム、ポリリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、グルコン酸カリウム、L-グルタミン酸カリウム、酢酸カリウム、臭化カリウム、臭素酸カリウム、硝酸カリウム、及びソルビン酸カリウムおよびそれらの水和物からなる群より選ばれる1種又は2種以上を挙げることができる。
【0033】
ナトリウム塩としては、クエン酸三ナトリウム、クエン酸一ナトリウム、DL−リンゴ酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、塩化ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、L−グルタミン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、臭化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、酒石酸カリウムナトリウム、酒石酸水素ナトリウム、DL−酒石酸ナトリウム、L−酒石酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、フマル酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、5'−イノシン酸二ナトリウム、5'−ウリジル酸二ナトリウム、5'−グアニル酸二ナトリウム、5'−シチジル酸二ナトリウム、及び5'−リボヌクレオチド二ナトリウムおよびそれらの水和物からなる群より選ばれる1種又は2種以上を挙げることができる。
【0034】
カルシウム塩は、乳酸カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、L−グルタミン酸カルシウム、酢酸カルシウム、酸化カルシウム、骨未焼成カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、ピロリン酸二水素カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、及び5'-リボヌクレオチドカルシウムおよびそれらの水和物からなる群より選ばれる1種又は2種以上を挙げることができる。
【0035】
マグネシウム塩は、塩化マグネシウム、L−グルタミン酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、及び硫酸マグネシウムおよびそれらの水和物からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を挙げることができる。
【0036】
尚、本発明における液状食品用ゲル化剤には、本発明の効果に悪影響を及ぼさない程度で、前述以外の水溶性高分子を併用しても良い。具体的には、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、ガティガム、カラヤガム、トラガントガム、グルコマンナン、ペクチン、カラギナン(イオタカラギナン、カッパカラギナン、ラムダカラギナン)、寒天、アルギン酸類(アルギン酸、アルギン酸塩)、ネイティブ型ジェランガム、脱アシル型ジェランガム、マクロホモプシスガム、カードラン、プルラン、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびその塩、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)などのセルロース誘導体、水溶性ヘミセルロース、大豆多糖類、及びゼラチンなどから選ばれる1種又は2種以上を挙げることができる。
【0037】
中でも本発明ではキサンタンガムと、グァーガム及び/又はタラガムに加え、ローカストビーンガムを併用することにより、味噌汁などの比較的温かい温度(40〜60℃)で喫食される食品に、本発明の液状食品用ゲル化を添加した際のゲル化能を向上させ、食塊形成性を向上させることが可能である。ローカストビーンガムの具体的な添加量としては、キサンタンガム1質量部に対し、0.05〜5.0質量部、好ましくは0.1〜2.0質量部、更に好ましくは0.2〜1.0質量部を例示することができる。
【0038】
本発明における液状食品用ゲル化剤は、粉末、顆粒、液体、粘調性のある液体、半固体、ペースト状など何れの形状のものでもよい。好ましくは顆粒又は液状のものである。顆粒状のゲル化剤を用いることにより、分散性が改善され、更に均一なゲルを付与することができるからである。
【0039】
本発明における液状食品用ゲル化剤は、公知のいずれの方法でも製造することができるが、顆粒状の液状食品用ゲル化剤を調製する場合には、例えば、キサンタンガムと、グァーガム及び/又はタラガムを粉体混合し、得られた混合物を、任意のバインダー液(例えば、水、デキストリン溶液、アルコール、ガム類及び金属塩から選ばれる1種または2種以上を溶解した溶液など)を用いて造粒する方法が挙げられる。造粒方法は常法に従って製造でき、流動層造粒、転動式造粒、攪拌造粒など公知の方法をとることができる。
【0040】
例えば、流動層造粒による製造方法として、以下の方法を例示することができる。粉体を造粒機に入れ、上方から熱風を吸い込むことで、造粒機内部の粉体を流動させる。この造粒機内部で流動している粉体にバインダー液をノズル噴霧し、バインダー液によって粉末を結着させ、これを乾燥させることにより顆粒を製造する方法を挙げることができる。
【0041】
なお、本発明の液状食品用ゲル化剤は、種々の賦形剤を含むことにより、液状食品への分散性、溶解性を向上させることができ、このような賦形剤として、デキストリン、デンプン及び糖類から選択される少なくとも1種以上の賦形剤を好適に使用することができる。具体的に、デキストリンとして、デキストリン、アミロデキストリン、エリトロデキストリン、アクロデキストリン、マルトデキストリン、シクロデキストリン、クラスターデキストリンなどのデキストリンが、デンプンとして、トウモロコシ、モチトウモロコシ、馬鈴薯、甘藷、小麦、米、餅米、タピオカ、サゴヤシなどを由来とする生デンプンや、当該デンプンに物理的又は、化学的処理を施した加工デンプン(酸分解デンプン、酸化デンプン、α化デンプン、グラフト化デンプン、カルボキシメチル基、ヒドロキシアルキル基などを導入したエーテル化デンプン、アセチル基などを導入したエステル化デンプン、デンプンの2カ所以上の水酸基間を官能基を介して結合させた架橋デンプン、オクテニルコハク酸基のような疎水基を導入した両親媒性デンプン、湿熱・乾熱処理デンプンなど)などのデンプンが挙げられる。糖類としては、ショ糖、果糖、ぶどう糖、麦芽糖、デンプン糖化物、還元デンプン水飴、トレハロースなどの糖類などが挙げられる。中でも、DEが1〜50程度のデキストリンを好適に使用することができる。前述の賦形剤を、粉体混合などの混合によってゲル化剤に含有させることにより、ゲル化剤の液状食品への分散性、溶解性を向上させることができる。
【0042】
従来、牛乳、乳飲料、乳酸菌飲料、ポタージュスープ、クリームスープ、シチュウ、カレー、グラタンなどの乳成分含有食品や、果汁入り清涼飲料、炭酸飲料、果汁飲料、菜汁飲料、茶飲料、スポーツ飲料、機能性飲料、ビタミン補給飲料、栄養補給バランス飲料、味噌汁などの果汁やミネラル含有食品、油脂調整食品、濃厚流動食、経腸栄養剤などの油脂含有食品、特にタンパク質や脂質、ミネラルを複合的に含む濃厚流動食や経腸栄養剤は、ゲル化剤を用いて常法(加熱溶解工程及び冷却工程)によってゲル状食品を調製した場合、タンパク質などの成分が凝集して食感がざらつく、離水を生じるなどの各種問題を抱えていたが、本発明の液状食品用ゲル化剤を用いることにより、上記液状食品を用いた場合であっても良好にゲル化し、滑らかな食感で離水の少ないゲル状食品を簡便に調製することが可能となる。
【0043】
本発明のゲル状食品の製造方法は、0〜60℃の液状食品に上記液状食品用ゲル化剤を添加後、攪拌装置を用いて攪拌することを特徴とする。撹拌装置としては、例えば、家庭用ミキサー、ハンドミキサー、フードプロセッサー、ブレンダー、クッキングカッター、プロペラ撹拌機などを挙げることができる。攪拌条件は、対象とする液状食品の種類やゲル状食品に求める食感によって適宜調節することが可能である。例えば、家庭で実施できる一形態として、本発明の液状食品用ゲル化剤を液状食品に添加後、家庭用ミキサー、ハンドミキサーやフードプロセッサーを用いて該溶液を3秒以上、好ましくは5〜15秒間攪拌することにより目的とするゲル状食品を調製することが可能である。同様にして、ブレンダー、クッキングカッター又はプロペラ攪拌機を用いる場合も、10秒間以上、好ましくは30〜60秒間攪拌することにより、食塊形成性があって付着性が小さく、更に離水が少なく咀嚼・嚥下困難者に適した食感を有するゲル状食品を調製できる。また、攪拌速度としては、好ましくは500rpm以上の攪拌速度、更に好ましくは1000rpm以上の攪拌速度で攪拌することが好ましい。一方、咀嚼・嚥下困難者用食品は、咀嚼・嚥下困難者やその介護者がベットサイドで液状食品に増粘剤やゲル化剤を添加し、手撹拌で攪拌して調製される形態が主流であった。しかし、本発明は攪拌装置を用いて攪拌することを特徴とし、0〜60℃の液状食品にキサンタンガムと、グァーガム及び/又はタラガムを添加後、攪拌装置を用いることなく、手撹拌でゲル状食品を調製しようと試みた場合であっても、対象の液状食品をゲル化させることはできない。
【0044】
本発明では、液状食品用ゲル化剤を0〜60℃の液状食品に添加した時点では、液状食品はゲル化することなく溶液の状態を示し、攪拌装置で攪拌することにより初めて液状食品をゲル化させることが可能である。従来、ゲル状食品を調製する際は、該ゲル化剤を含有した液状食品を80℃以上の温度で加熱溶解後、冷却する必要があり、加温及び冷却用器具が必要となる、加熱溶解温度からゲル化温度まで冷却する際に長時間の冷却が必要になるなど、利便性に欠けるものであったが、本発明の液状食品用ゲル化剤及び本発明のゲル状食品の製造工程をとることにより、加熱工程及び冷却工程を経ることなく、ミキサーなどの撹拌装置を一つ用いるだけで、簡便且つ短時間にゲル状食品を調製することが可能となった。
【0045】
このように本発明は、常法ではゲル状食品を調製することができないキサンタンガムと、グァーガム及び/又はタラガムの組み合わせが、攪拌装置で攪拌する工程を経ることによって、偶然にも液状食品をゲル化できることを見出して完成された発明である。更に、本発明の液状食品用ゲル化剤は、攪拌装置で攪拌することにより初めて液状食品をゲル化させる機能を発揮するため、攪拌装置で攪拌を行わなかった場合は、増粘剤として使用することができる。かかる点、本発明の液状食品用ゲル化剤は使用方法によってゲル化剤としてだけではなく増粘剤としても使用することができ、汎用性の極めて高いゲル化剤である。例えば、常温の液状食品に本発明の液状食品用ゲル化剤を添加し、手撹拌といった弱い攪拌条件で攪拌した場合は、適度に粘度が付与した液状食品を提供することができる。
【0046】
また、本発明の液状食品用ゲル化剤は液状食品に添加後、キサンタンガムと、グァーガム及び/又はタラガムを膨潤させる工程を有することが好ましい。キサンタンガムと、グァーガム及び/又はタラガムの膨潤方法としては、例えば、液状食品にキサンタンガムと、グァーガム及び/又はタラガムを含有したゲル化剤を添加後、手撹拌といった緩い攪拌条件で攪拌し、好ましくは1分以上、更に好ましくは3〜5分間程度膨潤させる方法が挙げられる。なお、1分以上膨潤させる工程は攪拌条件下であっても、液状食品を静置した状態であってもよい。膨潤工程をとることにより、より食塊形成性が高く、付着性が小さく、離水が少ない咀嚼・嚥下困難者に適したゲル状食品を提供することができる。
【0047】
かくして調製されたゲル状食品は、滑らかな食感で離水の少ないゲル状食品となる。特に、本発明の製造方法を用いて調製されたゲル状食品は、咀嚼・嚥下困難者用食品に求められる以下の適性を満たし、咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品として極めて有用性が高い。1)適度なかたさを有すること、2)食塊形成性(咀嚼後の食品のまとまりやすさ)に優れること、3)口腔及び咽頭への付着性が小さいこと、及び4)保水性が高いこと(離水が少ないこと)。同様にして、本発明の液状食品用ゲル化剤は咀嚼・嚥下困難者用ゲル化剤として極めて優れた適性を有する。
【0048】
特に、牛乳、味噌汁、濃厚流動食や経腸栄養剤などの脂質、タンパク質や塩分を含有する液状食品は、ゲル状食品を調製すること自体が困難である、ゲル化した際にタンパク質などの成分が凝集して食感がざらつく、離水が生じるなどの各種問題を抱えており、特に咀嚼・嚥下困難者に適した食品を調製することが難しかった。しかし、本発明のゲル化剤を用いることによって、上記液状食品を対象とした場合であっても、ざらつきや離水が生じることもなく、咀嚼・嚥下困難者用に非常に適したゲル状食品を極めて簡便且つ短時間で調製することができる画期的な発明である。また、本発明のゲル化剤を用いることにより滑らかな食感のゲル状食品を極めて簡便且つ短時間で調製することができ、本発明のゲル化剤は粉末飲料やインスタントゼリー、インスタントプリンの素としても有用に活用することができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の内容を以下の実施例、比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。また、特に記載のない限り「部」とは、「質量部」、「%」は「質量%」を意味するものとする。文中「*」印のものは、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、文中「※」印は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを示す。
【0050】
実験例1 ゲル状食品の調製(1)
表1の処方に従って、ゲル状およびゾル状食品を調製した。詳細には、20℃の水に表1に示す各種多糖類を添加し手撹拌により攪拌後、5分間静置し多糖類を膨潤させた後に、フードプロセッサー(16800rpm)で30秒間攪拌しゲル状およびゾル状食品を調製した(実施例1〜2及び比較例1〜17)。
【0051】
【表1】

【0052】
注1)ビストップ※D−3000−C*使用
注2)ビストップ※D−2081*使用
注3)ビストップ※D−2103*使用
注4)ビストップ※D−2050*使用
注5)サンアーティスト※PX*使用
注6)ケルコゲルHT使用
注7)ビストップ※D−2131*使用
注8)ゲルアップ※J−4357*使用
【0053】
実施例1〜2及び比較例1〜17のゲル状およびゾル状食品につき、ゲル化性、食塊形成性および付着性を官能評価した。
(ゲル化性):しっかりとしたゲル化を示すものから順に、+++>++>+>±>−の5段階で評価した。
(食塊形成性):食塊形成性が良く、まとまり感があるものから順に、+++>++>+>±>−の5段階で評価した。
(付着性):喉へのへばりつき(付着性)の小さいものから順に、−>±>+>++>+++の5段階で評価した。
【0054】
【表2】

【0055】
キサンタンガム及びグァーガムを併用した実施例1、並びにキサンタンガム及びタラガムを併用した実施例2の液状食品用ゲル化剤は、液状食品に添加直後は粘ちょうな溶液であったが、フードプロセッサーで攪拌することにより、加熱工程及び冷却工程を経ることなく極めて短時間でゲル状食品を調製することができた。更に、調製されたゲル状食品は、咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品として適度な保形性を有し、飲み込みやすく、更には付着性も小さく、離水も少ないため、咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品として極めて優れたゲル状食品であった。一方、冷水可溶であるキサンタンガム、グァーガム及びタラガムを各々単独で用いた場合(比較例1〜3)は、フードプロセッサーで攪拌を行った場合であってもゲル自体を形成しなかった。同様にして、冷水可溶である若しくは冷水で膨潤する性質を有する各種多糖類やゲル化剤を用いてゲル状食品の調製を試みたが、微結晶セルロース、発酵セルロース、カードラン、アルギン酸ナトリウムを各々単独で用いた場合(比較例5〜7、10)は、フードプロセッサーで攪拌を行った場合でもゲル化しなかった。更に微結晶セルロース、発酵セルロース、カードラン、アルギン酸ナトリウムをキサンタンガムと併用してゲル状食品の調製を試みたが(比較例12〜14、17)、フードプロセッサーで攪拌を行ったにも関わらず液状食品をゲル化することはできなかった。ローカストビーンガムは、単独使用では液状食品をゲル化させることはできず(比較例4)、キサンタンガムと併用した場合(比較例11)は液状食品をゲル化させることはできたものの、調製されたゲル状食品のゲル化性及び食塊形成性が不十分であり、咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品として使用し難かった。ネイティブジェランガム、グルコマンナンを各々単独でおよびネイティブジェランガム、グルコマンナンをキサンタンガムと併用した場合(比較例8、9、15、16)は、フードプロセッサーで攪拌を行うことによりゲル化したが、付着性が高く、飲み込みにくいゲル状食品であり、咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品として使用し難かった。
【0056】
かかるように、本発明の効果は、キサンタンガムと、グァーガム及び/又はタラガムを併用することによって初めてなし得る効果である。このように、加熱工程及び冷却工程を経ることなく極めて短時間でゲル状食品を調製可能な技術は、設備の整った調理施設だけでなく、咀嚼・嚥下困難者やその介護者がベットサイドや家庭の台所で用いることができる点、及びready−to−useの製品とは異なり、食品の状態を患者の障害の程度やその日の体調に合わせてその場で調理できる点からも咀嚼・嚥下困難者用ゲル化剤及びゲル状食品として極めて有用である。
【0057】
実験例2 ゲル状食品の調製(2)
実験例1で、ゲル状食品を調製可能だったゲル化剤を用いて、更なる検討を行った。詳細には、5℃のお茶に表3に示す各種多糖類を添加し、手攪拌により攪拌後、5分間静置して多糖類を膨潤させた。その後、フードプロセッサー(9700rpm)で30秒攪拌しゲル状食品を調製した(実施例3〜4、比較例18〜22)。
【0058】
【表3】

【0059】
調製された実施例3〜4及び比較例18〜22のゲル状食品につき、実験例1に記載の評価基準に準じてゲル化性、食塊形成性及び付着性について評価した。結果を表4に示す。
【0060】
【表4】

【0061】
実験例1でゲル状食品を調製可能だったゲル化剤を用いた場合であっても、キサンタンガム及びローカストビーンガムの併用区(比較例18)ではゲル化性及び食塊形成性がいずれも不十分である上、実施例3及び4に比べて付着性も大きいゲル状食品となってしまった。同様にして、ネイティブ型ジェランガム及びグルコマンナンを各々単独で使用した場合も(比較例19、20)、一定の食塊形成性は有するものの、付着性が大きく飲み込みにくい食感のゲル状食品となってしまった。かかるネイティブ型ジェランガム及びグルコマンナンは、キサンタンガムと併用した場合であっても同様の傾向を示し、付着性が大きく飲み込みにくい食感のゲル状食品となってしまった(比較例21、22)。一方、キサンタンガムに加え、グァーガム又はタラガムを併用して調製した実施例3及び4のゲル状食品は、食塊形成性が良い上、口腔や咽頭への付着性も極めて小さく、咀嚼・嚥下困難者の喫食に極めて優れた食品であった。
【0062】
実験例3 ゲル状食品の調製(3)
表5の処方に従って、ゲル状食品を調製した。詳細には、5℃の牛乳に表5に示す各種多糖類を添加し手撹拌により攪拌後、3分間静置し多糖類を膨潤させた。その後、家庭用ハンドミキサー(650rpm)で60秒間撹拌し、ゲル状食品を調製した。調製したゲル状食品(実施例5〜7、比較例23〜25)について、実験例1に記載の評価基準に準じてゲル化性、食塊形成性及び付着性について評価した。結果を表6に示す。
【0063】
【表5】

【0064】
【表6】

【0065】
表6より、実験例1及び2ではゲルを形成したキサンタンガム及びローカストビーンガム併用区であっても、650rpmといった低速撹拌では全くゲル化せず液状のままであった(比較例23)。同様にして、実験例1及び2では弱いながらもゲルを形成していたキサンタンガム及びグルコマンナン併用区(比較例24)や、キサンタンガム及びグルコマンナンに加えてローカストビーンガムを併用した場合(比較例25)であっても、650rpmといった低速撹拌では、ごく弱く増粘していたが、ゲル化しなかった。また、比較例24及び25はグルコマンナンが完全に溶解しておらず膨潤粒子のざらつきを感じ舌触りが悪かった。一方、実施例5〜7のインスタントゼリーは、650rpmといった低速撹拌にも関わらず、食塊形成性が良い上、付着性も小さく、非常に飲み込みやすい食感を有したゲル状食品であった。
【0066】
実験例4 温度によるゲル化の有無
表7の処方に従って、ゲル状およびゾル状食品を調製した。詳細には、0〜70℃に調温した水に表7に示す各種多糖類を添加し手撹拌により攪拌後、規定温度で調温したまま5分間静置し多糖類を膨潤させた後に、フードプロセッサー(16800rpm)で30秒間攪拌しゲル状およびゾル状食品を調製した。
【0067】
【表7】

【0068】
実施例8〜9及び比較例26〜28の各温度のゲル状およびゾル状食品につき、ゲル化性を実験例1の評価基準に従って官能評価した。結果を表8に示す。
【0069】
【表8】

【0070】
表8より、キサンタンガムとグァーガムを併用してフードプロセッサーによる撹拌に付した実施例8は、特に0℃〜20℃でのゲル化性に優れ、30℃〜60℃ではゆるいゲルを形成した。70℃以上ではゲルを形成しなかった。キサンタンガムとタラガムを併用してフードプロセッサーによる撹拌に付した実施例9は、特に10℃〜40℃でのゲル化性に優れ、0℃および50℃〜60℃ではゆるいゲルを形成した。70℃以上ではゲルを形成しなかった。一方、冷水可溶であるキサンタンガム、グァーガム及びタラガムを各々単独で用いた際(比較例26〜28)は、0℃〜70℃の温度条件下でのフードプロセッサーによる撹拌に付した場合であってもゲルを形成しなかった。
【0071】
実施例10、11 ゲル状食品の調製(15℃オレンジジュース)
処方を表9に示す。以下の手順に従ってゲル状食品を調製した。15℃のオレンジジュースにキサンタンガム、グァーガム、タラガム、必要に応じてオクテニルコハク酸エステル化デンプンを添加し手撹拌により攪拌後、3分間静置し多糖類を膨潤させた後に、家庭用ミキサー(9700rpm)で5秒間攪拌しゲル状食品を調製した。調製直後のゲル状食品について食感を官能評価した。
【0072】
【表9】

【0073】
実施例10、11のゲル状食品は、舌で容易に潰せる程度の柔らかさでありながら、食塊形成性が良く、付着性も小さく、非常に飲み込みやすい食感であった。オクテニルコハク酸エステル化デンプンを使用することにより、ゲルに細かな気泡が取り込まれやすくなり、ゲル状食品の食感が軽くなった。特にオクテニルコハク酸エステル化デンプンには付着性を低減する効果があり、実施例11は、オクテニルコハク酸エステル化デンプンを使用せずに調製した実施例10に比べて、付着性が低減されており更に飲み込みやすかった。
【0074】
実施例12、13 ゲル状食品の調製(40℃味噌汁)
処方を表10に示す。以下の手順に従ってゲル状食品を調製した。40℃の味噌汁にキサンタンガム、グァーガム、タラガム、必要に応じてローカストビーンガムを添加し手撹拌により攪拌後、5分間静置し多糖類を膨潤させた後に、フードプロセッサー(16800rpm)で10秒間攪拌しゲル状食品を調製した。調製直後のゲル状食品について食感を官能評価した。
【0075】
【表10】

【0076】
実施例12のゲル状食品は柔らかく、舌で容易に潰せる程度の柔らかさでありながら、食塊形成性が良く、付着性も小さく、非常に飲み込みやすい食感であった。更に、キサンタンガムとグァーガム及びタラガムに加え、ローカストビーンガムを併用した実施例13は、実施例12に比べよりしっかりとしたゲルを形成し、食塊形成性が良く、付着性も小さく、非常に飲み込みやすい食感であった。
【0077】
実施例14、15 ゲル状食品の調製(5℃牛乳)
処方を表11に示す。以下の手順に従ってゲル状食品を調製した。5℃の牛乳にキサンタンガム、グァーガム、タラガム、ローカストビーンガム、及び必要に応じてアラビアガムを添加し手撹拌により攪拌後、5分間静置し多糖類を膨潤させた後に、フードプロセッサー(16800rpm)で10秒間攪拌しゲル状食品を調製した。調製直後のゲル状食品について食感を官能評価した。
【0078】
【表11】

【0079】
注9)ビストップ※D−2041*使用
【0080】
実施例14、15のゲル状食品は、舌で容易に潰せる程度の柔らかさでありながら、食塊形成性が良く、付着性も小さく、非常に飲み込みやすい食感であった。アラビアガムを使用することにより、ゲルに細かな気泡が取り込まれやすくなり、ゲル状食品の食感が軽くなった。特にアラビアガムには付着性を低減する効果があり、実施例15は、アラビアガムを使用せずに調製した実施例14に比べて、更に飲み込みやすかった。また、アラビガムを併用することによりフードプロセッサー処理時の食品(牛乳)の流動性が改善され、フードプロセッサーの刃の回転も滑らかとなり作業性にも優れていた。
【0081】
実施例16、17 ゲル状食品の調製(50℃ うらごしほうれんそう)
処方を表12に示す。以下の手順に従ってゲル状食品を調製した。50℃のお湯にキサンタンガム、タラガム、ローカストビーンガム、必要に応じてオクテニルコハク酸エステル化澱粉を添加し手撹拌により攪拌後、5分間静置し、50℃のうらごしほうれんそうに添加した。その後、家庭用ミキサー(9700rpm)で10秒間攪拌しゲル状食品を調製した。調製直後のゲル状食品について食感を官能評価した。
【0082】
【表12】

【0083】
実施例16、17のゲル状食品は、舌で容易に潰せる程度の柔らかさでありながら、食塊形成性が良く、付着性も小さく、非常に飲み込みやすい食感であった。オクテニルコハク酸エステル化デンプンを使用することにより、ゲルに細かな気泡が取り込まれやすくなり、ゲル状食品の食感が軽くなった。特にオクテニルコハク酸エステル化デンプンには付着性を低減する効果があり、実施例17は、オクテニルコハク酸エステル化デンプンを使用せずに調製した実施例16に比べて、更に飲み込みやすかった。
【0084】
実施例18、19 ゲル状食品の調製(60℃ おかゆ)
処方を表13に示す。以下の手順に従ってゲル状食品を調製した。60℃のお湯にキサンタンガム、グァーガム、タラガム及びローカストビーンガム、必要に応じてオクテニルコハク酸エステル化澱粉を添加し手撹拌により攪拌後、5分間静置し、60℃のおかゆに添加した。その後、フードプロセッサー(16800rpm)で15秒間攪拌しゲル状食品を調製した。調製直後のゲル状食品について食感を官能評価した。
【0085】
【表13】

【0086】
実施例18、19のゲル状食品は、舌で容易に潰せる程度の柔らかさでありながら、食塊形成性が良く、付着性も小さく、非常に飲み込みやすい食感であった。オクテニルコハク酸エステル化デンプンを使用することにより、ゲルに細かな気泡が取り込まれやすくなり、ゲル状食品の食感が軽くなった。特にオクテニルコハク酸エステル化デンプンには付着性を低減する効果があり、実施例19は、オクテニルコハク酸エステル化デンプンを使用せずに調製した実施例18に比べて、更に飲み込みやすかった。また、実施例18及び19のゲル状食品は固形物としておかゆを含有する液状食品に添加したにも関わらず、フードプロセッサー処理時の作業性も良好であり、またお米由来の澱粉質が付着性を増大させることなく、付着性が小さく非常に飲み込みやすいゲル状食品であった。
【0087】
実施例20〜22 低速撹拌機によるゲル状食品の調製(5℃ ドリンクヨーグルト)
処方を表14に示す。以下の手順に従ってゲル状食品を調製した。5℃のドリンクヨーグルトにキサンタンガム、グァーガム及びタラガムを添加し、300ml容ビーカー、4枚羽プロペラ(羽長2.5cm)を使用し、撹拌機(IWAKI、SSR−130N)で1分間撹拌を行い、ゲル状食品を調製した。実施例20の撹拌条件は2500rpm、実施例21の攪拌条件は1000rpm、実施例22の攪拌条件は500rpmとした。調製直後のゲル状食品について食感を官能評価した。
【0088】
【表14】

【0089】
実施例20、21のゲル状食品は、ゼリー様の強固なゲルでありながら、舌で容易に潰せる程度の柔らかさであり、食塊形成性が良く、離水が少なく、付着性も小さく、非常に飲み込みやすい食感であった。実施例22のゲル状食品は、プレーンヨーグルト状に弱くゲル化し、舌で容易に潰せる程度の柔らかさであり、食塊形成性が良く、離水が少なく、付着性も小さく、非常に飲み込みやすい食感であった。
【0090】
実施例23 撹拌機によるゲル状食品の調製(20℃ 水)
処方を表15に示す。以下の手順に従ってゲル状食品を調製した。実施例23は20℃の水にキサンタンガム及びグァーガムを添加し手撹拌により攪拌後、5分間静置し、ミニクッキングカッター(泉精機製作所 IC−6001、1800rpm)を使用し10秒間撹拌を行った。比較例29は、20℃の水に各種多糖類を添加し手撹拌により攪拌後、5分間静置し、再度30秒間手撹拌を行った。調製直後のゲル状およびゾル状食品について食感を官能評価した。
【0091】
【表15】

【0092】
実施例23のゲル状食品は、舌で容易に潰せる程度の柔らかさでありながら、食塊形成性が良く、付着性も小さく、非常に飲み込みやすい食感であった。一方、比較例29は粘ちょうな溶状となり、手撹拌ではゲル化しなかった。
【0093】
実施例24 咀嚼・嚥下困難者用ゲル状食品の調製(20℃ 水)
処方を表16に示す。以下の手順に従ってゲル状食品を調製した。20℃の水にキサンタンガム及びグァーガムを添加し手撹拌により攪拌後、静置することなくフードプロセッサー(16800rpm)で10秒間攪拌しゲル状食品を調製した。調製直後のゲル状食品について食感を官能評価した。
【0094】
【表16】

【0095】
実施例24のゲル状食品は、舌で容易に潰せる程度の柔らかさでありながら、食塊形成性が良く、付着性も小さく、非常に飲み込みやすい食感であった。
【0096】
実施例25 インスタントゼリー(チョコレート風味プリン)の調製
処方を表17に示す。以下の手順に従ってゲル状食品を調製した。5℃の牛乳に各種多糖類、オクテニルコハク酸エステル化デンプン、および粉末原料(グラニュー糖、乳タンパク濃縮物、粉末油脂、ココアパウダー、デキストリン、チョコレート香料)を添加し手撹拌により攪拌後、5分間静置した。その後、家庭用ミキサー(9700rpm)で10秒間攪拌しゲル状食品を調製した。調製直後のゲル状食品について食感を官能評価した。
【0097】
【表17】

【0098】
注10)シンプレス100*使用
注11)サンフィックス※ブラックチョコレートNO.23446*使用
【0099】
実施例25のインスタントゼリーは、舌で容易に潰せる程度の柔らかさでありながら、食塊形成性が良く、付着性も小さく、非常に飲み込みやすい食感であった。
【0100】
実施例26〜29 インスタントゼリー(ストロベリームース風味)の調製
処方を表18に示す。以下の手順に従ってゲル状食品を調製した。5℃の牛乳に各種多糖類および粉末原料(クエン酸、クエン酸3ナトリウム、ストロベリー香料、甘味料)を添加し手撹拌により攪拌後、1分間静置した。その後、ミニクッキングカッター(泉精機製作所 IC−6001、1800rpm)で30秒間攪拌しゲル状食品を調製した。調製直後のゲル状食品について食感を官能評価した。
【0101】
【表18】

【0102】
注12)サンフィックス※2071F*使用
注13)サンスイート※SU−100*使用
【0103】
実施例26〜29のインスタントゼリーは、いずれも舌で容易に潰せる程度の柔らかさでありながら、食塊形成性が良く、付着性も小さく、非常に飲み込みやすい食感であった。中でも、本発明のゲル化剤に加えてアルファ化澱粉を併用した実施例27〜29は、アルファ化澱粉不使用の実施例26よりもしっかりとしたゲルとなり、さらにフレーバーリリースも良く、味覚にも優れているものであった。特に、モチトウモロコシ由来(実施例27)及び馬鈴薯由来(実施例28)のアルファ化澱粉を併用したインスタントゼリーはトウモロコシ由来(実施例29)のアルファ化澱粉を併用した場合よりも更にしっかりとしたゲルを形成し、弱い撹拌条件でも求められるゲル化性並びに食感形成性を付与できることが分かった。
【0104】
実施例30〜32 固形状経管栄養剤の調製
処方を表19に示す。以下の手順に従って固形状経管栄養剤を調製した。20℃の裏ごしにんじんに、キサンタンガム、グァーガム及びタラガムを添加し手撹拌により攪拌後、1分間静置した。その後、ミニクッキングカッター(泉精機製作所 IC−6001、1800rpm)で30秒間攪拌し固形状経管栄養剤を調製した(実施例30〜32、比較例30)。
【0105】
【表19】

【0106】
調製した固形状経管栄養剤を内径30mmの50ml容のシリンジに25ml入れ、長さ30cm、内径4mmのシリコンチューブを接続し、テクスチャーアナライザーを用い、治具にて1.0mm/sの速度で35mmの試料を押しこみ、チューブ通過後の固形状経管栄養剤(実施例30〜32、比較例30)に関して、下記の項目で評価した。結果を表20に示す。
【0107】
<評価方法>
(保形性):高さ2cm、内径3cmのリングにシリンジで押し出した後の試料を入れ、リングを引き抜き、2時間後の試料の広がりを測定した。同心円状45°刻みに8方向の長さを測定し、平均値を求めた。値が大きいほど広がりが大きく、保形性が低いことを示す。
(付着性):シリンジで押出した後のチューブへの付着量を求めた。
【0108】
【表20】

【0109】
各項目の評価基準を以下に示す。
(付着性):付着量の低い順に−<±<+<++<+++(付着量多い)の5段階で評価した。
(保形性):保形性の高い順に+++>++>+>±>−の5段階で評価した。
【0110】
実施例30〜32の固形状経管栄養剤は、保形性が高く、付着性も小さく、経管特性に優れた物性であった。一方、各種多糖類無添加区である比較例30は、保形性が劣り、また離水も多い上、チューブへの付着量も多かった。
【産業上の利用可能性】
【0111】
加熱工程及び冷却工程を経ることなく、0〜60℃といった温度範囲の液状食品を用いて、極めて短時間でゲル状食品を提供することができる。更には、牛乳、味噌汁、濃厚流動食や経腸栄養剤などの脂質、タンパク質や塩分を含有する食品であっても簡便にゲルを調製することができ、且つ咀嚼・嚥下困難者用食品としても適したゲル状食品を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キサンタンガムと、グァーガム及び/又はタラガムを含有し、0〜60℃の温度範囲で使用されることを特徴とする、液状食品用ゲル化剤。
【請求項2】
キサンタンガム1質量部に対する、グァーガム及び/又はタラガムの含量が0.1〜10質量部である、請求項1に記載の液状食品用ゲル化剤。
【請求項3】
アラビアガムを併用する、請求項1又は2に記載の液状食品用ゲル化剤。
【請求項4】
更にデンプンを併用する、請求項1〜3のいずれかに記載の液状食品用ゲル化剤。
【請求項5】
デンプンが両親媒性デンプンであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の液状食品用ゲル化剤。
【請求項6】
デンプンがアルファ化デンプンであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の液状食品用ゲル化剤。
【請求項7】
0〜60℃の液状食品にキサンタンガムと、グァーガム及び/又はタラガムを添加後、攪拌装置を用いて攪拌することを特徴とする、ゲル状食品の製造方法。
【請求項8】
攪拌装置での攪拌条件が500rpm以上の攪拌条件である、請求項7に記載のゲル状食品の製造方法。
【請求項9】
ゲル状食品が嚥下・咀嚼困難者用食品である、請求項7又は8に記載のゲル状食品の製造方法。

【公開番号】特開2009−278968(P2009−278968A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102547(P2009−102547)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】