説明

液状食品組成物のチューブ流動性改善剤

【課題】チューブを介した液状食品組成物の摂取において、総合栄養流動食などの液状食品組成物等に添加するだけでチューブ内での詰まりや、輸液流速の変化を抑えることが可能なチューブ流動性改善剤を提供し、かつチューブ流動性改善剤を含む総合栄養流動食およびその製造方法を提供する。
【解決手段】液状食品組成物中に0.001wt%〜1wt%添加したときに液状食品組成物の表面張力が39mN/m以下となるチューブ流動性改善剤を添加することで上記課題を解決することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューブ流動性改善剤、及びこれを含有する液状食品組成物、さらにはその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ここでいう液状食品組成物は蛋白質、糖質、脂質、ミネラル、ビタミンなど身体の維持に必要な成分をバランス良く配合した高エネルギーの栄養補給食品である。この液状食品組成物には「経口摂取」と「経管栄養」があり、疾病患者の状態によって、摂取方法が異なるが、経管栄養の場合にはチューブを介して投与する必要がある。しかしながら、チューブを使用する場合には、チューブ内で液状食品組成物の詰りが発生しやすいという欠点がある。また高カロリーの液状食品組成物になるにつれて、脂質量、たんぱく質量も多く、また粘度もある程度高いことから、チューブ内に付着しやすくなることで輸液速度も変化しやすくなり、輸液速度があまり変化しないチューブ流動性の良好な液状食品組成物を開発することは至難である。
【0003】
一般的に、液状食品組成物がチューブで詰まりにくくする、あるいは輸液速度の変化が発生しにくくするには、液状食品組成物中に安定剤や食物繊維などの多糖類や、油脂含量を多く配合しすぎないように処方的に考慮するか、あるいは、実際に液状食品組成物を使用するときに太目のチューブを使用すること、あるいは液状食品組成物を輸液した後に念入りにフラッシング液を通液することで内部を洗浄するなどの方法があるが、栄養組成を考慮すると食物繊維などの多糖類は必要であり、またカロリー摂取目的として油脂は必須成分である。さらには、太目のチューブを使用したとしても、チューブ内を洗浄するなどの手間がかかる。また、介護者や患者にとって、チューブに詰まりやすい液状食品組成物を使用することは、一定時間内に患者の食事が終わらない、介護者が一定時間ごとにベッドをまわりながら輸液速度を確認しなくてはならない等、介護者と患者に対しては大きな負担があり、チューブ流動性の良好な液状食品組成物は社会的にみても大きな需要があるといえる。液状食品組成物のひとつである経管流動食に関する報告としては、増粘多糖類のゲル化物を有せず、良好なチューブ流動性を有する濃厚流動食及びその製造方法に関するものがあるが、少なくとも食物繊維および増粘多糖類を含み、均質化されていることを特徴とする濃厚流動食の製造方法に関するものであって、乳化剤をチューブ流動性改善剤として添加することによってチューブ流動性を確保したものではない。(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−289830号公報(第1―3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
チューブ流動性改善剤及び、これを含有する液状食品組成物は、社会的貢献の観点からも大きな需要があるといえる。即ち、栄養成分を十分に配合した液状食品組成物であって、同時に液状食品組成物を使用する際に念入りなフラッシング等の手間がかからないような、チューブ流動性改善剤、及びそれを配合した液状食品組成物の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、チューブ流動性改善剤として乳化剤を使用することで、液状食品組成物の表面張力が低下し、それによってチューブ内で食品組成物の通液速度が改善されることを見出した。即ち本発明は、液状食品組成物中に0.001wt%〜1wt%添加したときに食品組成物の表面張力が39mN/m以下になる乳化剤を含有するチューブ流動性改善剤に関するものであり、さらにはそれを添加した液状食品組成物、及びその製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、チューブ流動性が不安定な組成である液状食品組成物であっても輸液速度が改善され、患者や介護者に対する負担が少なく、かつ価値の高い液状食品組成物の製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下詳細に本発明を説明する。
液状食品組成物に一般的によく使用されているチューブの素材としてはポリ塩化ビニルがあるが、ポリ塩化ビニルの固体の表面張力はZismanプロットから39mN/mであることが分かっている。チューブを固体とし、液状食品組成物を液体としてみた場合、固体と液体の間には界面が存在する。一般的に固体表面張力からみて、その値より低い液体ほど固体表面はぬれやすくなることが知られている。(界面現象の科学 著者;鈴木四郎、近藤保)つまり、39mN/mよりも高い値をもつ液状食品組成物の場合では個体表面はぬれにくく、チューブ内において詰まりやすくなるか、あるいは輸液速度が遅くなる。しかしながら39mN/mよりも低い表面張力を有する液状食品組成物は、輸液速度に著しい速度低下は起こり難く、チューブ内で詰まりにくくなると考えられる。
ここでいう液状食品組成物とは、蛋白質、糖質、脂質、ミネラル、ビタミンなど身体の維持に必要な成分をバランス良く含有し、粘度がB型粘度計を用いて測定した時、25℃で50mPa・s以下である総合栄養食品が挙げられる。
【0008】
本発明では、チューブ流動性改善剤を添加することにより、液状食品組成物溶液の表面張力が低下し、さらには39mN/mよりも低い表面張力では輸液速度が改善されることを見出した。ここでいうチューブ流動性改善剤とは、液状食品組成物中に0.001〜1wt%添加したときに表面張力が39mN/m以下になる乳化剤であれば特に限定は無いが、例えばポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルであり、さらにはそれぞれの群から2種類以上組み合わせても良い。また液状食品組成物の乳化安定性の面から、添加量は0.001wt%〜1wt%、好ましくは0.001wt%〜0.5wt%、さらに好ましくは0.005wt%〜0.1wt%の範囲であることで好適に安定性を維持し、使用することができる。
【0009】
上記のチューブ流動性改善剤の構造や組成について詳細な限定は特にないが、チューブ流動性改善剤を配合したときの液状食品組成物の表面張力が39mN/m以下になることが可能なものであって、かつ乳化安定性も維持できる限り特に限定はない。
【0010】
以下に試験例、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明がかかる試験例、実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0011】
実施例1
液状食品組成物は以下の通り試作した。
55〜60℃の水道水にカゼインナトリウム4g、澱粉分解物15gをスリーワンモーター(700rpm)を用いて溶解し、完全に溶解した事を確認後、水道水に溶解した水酸化カリウム0.09g、クエン酸0.09g、塩化ナトリウム0.07g、カルシウム塩0.05g、マグネシウム塩0.025gを添加し、混合した。これに油脂3g、有機酸モノグリセリド0.2gを添加して、ホモミキサー(8000rpm 10分)をかけた。このときpHを測定し、調整した(pH6.8〜7.2)。これを再度60℃に湯煎で加温し、ホモジナイザー(500kgf・cm2)をかけて、瓶詰めし、レトルト殺菌(121℃、F15)した。殺菌後、粘度を測定し(粘度;25mPa・s以下)、37℃の恒温槽に保存した。
【0012】
この液状食品組成物に各濃度のポリグリセリン脂肪酸酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルおよびシュガーエステルを添加し、表面張力を測定した。
上記の通り試作した液状食品組成物に各種、各濃度のチューブ流動性改善剤を添加してサンプル溶液とした。
【0013】
表面張力の測定は以下の方法で実施した。
各種サンプル溶液を表面張力測定装置(協和界面科学(株)SURFACE TENSIONMETER CBVP−A3)の台座に固定し、自動的に白金プレートを移動させ、プレートが液面に触れたときの表面張力を測定した。無添加の液状食品組成物の表面張力は47.5mN/mであった。
【0014】
流速改善率は以下の方法で検討した。
図1のように装置を組立て、バッグにイオン交換水を注ぎ、流速が30秒/mLとなるようにクランプを調節した。調節後、水を除き、各サンプル溶液をバッグに注いで流速を測定した。チューブ流動性改善剤を添加する前をブランクとして、チューブ流動性改善剤添加後の流速から通液性の改善率を求めた。
【0015】
表1〜6に、各濃度のチューブ流動性改善剤を1種又は2種以上(改善剤の添加量は1%以下)用いて試験した場合の結果を示す。
各チューブ流動性改善剤の添加量は重量%で示す。また、乳化安定性、改善効果の判断基準は以下の通りである。
乳化安定性:◎…分離なし、○…若干分離、△…やや分離、×…著しく分離
改善効果:◎…30%以上、○…10%以上30%未満、△…5%以上10%未満、×…5%未満
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
【表3】

【0019】
【表4】

【0020】
(※1)ポリグリセリン脂肪酸エステル;エステル化されている脂肪酸が、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、のいずれかであり、エステル化度に特に限定はない。
(※2)Tween;Tween20、Tween60、Tween65、Tween80のいずれかであって特に限定はない。
【0021】
【表5】

【0022】
(※2)Tween;Tween20、Tween60、Tween65、Tween80のいずれかであって特に限定はない。
(※3)ショ糖脂肪酸エステル;エステル化されている脂肪酸が、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、のいずれかであり、エステル化度に特に限定はない。
【0023】
【表6】

【0024】
(※1)ポリグリセリン脂肪酸エステル;エステル化されている脂肪酸が、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、のいずれかであり、エステル化度に特に限定はない。
(※3)ショ糖脂肪酸エステル;エステル化されている脂肪酸が、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、のいずれかであり、エステル化度に特に限定はない。
【0025】
比較例1
液状食品組成物の試作方法、表面張力測定方法および流速測定と改善率の算出方法及び評価方法は実施例1と同様に行った。
表7〜13に、実施例1と同じ種類のチューブ流動性改善剤を1種又は2種以上(改善剤の添加量は0.001%以下、1%以上)用いて試験した結果を示す。
【0026】
【表7】

【0027】
【表8】

【0028】
【表9】

【0029】
【表10】

【0030】
(※1)ポリグリセリン脂肪酸エステル;エステル化されている脂肪酸が、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、のいずれかであり、エステル化度に特に限定はない。
(※2)Tween;Tween20、Tween60、Tween65、Tween80のいずれかであって特に限定はない。
【0031】
【表11】

【0032】
(※2)Tween;Tween20、Tween60、Tween65、Tween80のいずれかであって特に限定はない。
(※3)ショ糖脂肪酸エステル;エステル化されている脂肪酸が、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、のいずれかであり、エステル化度に特に限定はない。
【0033】
【表12】

【0034】
(※1)ポリグリセリン脂肪酸エステル;エステル化されている脂肪酸が、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、のいずれかであり、エステル化度に特に限定はない。
(※3)ショ糖脂肪酸エステル;エステル化されている脂肪酸が、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、のいずれかであり、エステル化度に特に限定はない。
【0035】
【表13】

【0036】
(※1)ポリグリセリン脂肪酸エステル;エステル化されている脂肪酸が、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、のいずれかであり、エステル化度に特に限定はない。
(※2)Tween;Tween20、Tween60、Tween65、Tween80のいずれかであって特に限定はない。
(※3)ショ糖脂肪酸エステル;エステル化されている脂肪酸が、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、のいずれかであり、エステル化度に特に限定はない。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の液状食品組成物のチューブ流動性改善剤は、その添加量を1%以下とすることで、チューブ内で詰まりや付着を生じることなく、液状食品組成物の流速を維持し、かつ乳化安定性に優れていた。よって本発明は、液状食品組成物のチューブ流動性を改善することを達成したことから、より安全性に優れ、患者や介護者に配慮した総合栄養流動食を提供するための技術として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】チューブ流動性試験装置を示した説明図である。(実施例1)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状食品組成物中に添加したときに液状食品組成物の表面張力が39mN/m以下になり、乳化安定性を維持するチューブ流動性改善剤
【請求項2】
ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルの群より選ばれる、1種又は2種以上の乳化剤を含有することを特徴とする請求項1に記載のチューブ流動性改善剤
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のチューブ流動性改善剤を含有する総合栄養流動食
【請求項4】
請求項1又は2記載のチューブ流動性改善剤を添加する工程を有することを特徴とする総合栄養流動食の製造方法

【図1】
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【公開番号】特開2010−4792(P2010−4792A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−167254(P2008−167254)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000204181)太陽化学株式会社 (244)
【Fターム(参考)】