説明

深度が制御された注入のための装置および方法

別個のシリンジから2つ以上の物質を同時に注入または送達するための装置および方法。これらのシリンジを、ハンドルと、これらのシリンジのプランジャーを同時に押圧するためのねじ駆動機構と、を有する装置に装着する。使用者が、ハンドルを把持して装置を位置決めする。次いで、ねじ機構を用いて、これらのシリンジのプランジャーを同時に前進させ、これによりシリンジから物質を同時に排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体として医療装置および方法に関し、詳細には、別個のシリンジ内に含められる複数の2つの物質を同時に注射または注入するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内科的および外科的治療では、時には、別個のシリンジから2つ以上の薬物または他の物質を注入するのが望ましい。従来技術は、これを達成するために一般的に用いることができる多数の装置を包含する。例えば、従来技術は、2つ以上のシリンジから流体を同時に排出するために用いることができる多数のシリンジポンプを包含する。市販のデュアルシリンジポンプまたはマルチシリンジポンプの例として、KDS 200 Two‐Syringe Infusion Pump、KDS 101 Two‐Syringe Nanoliter Pump、KDS 220 Multi‐Syringe Infusion Pump、およびKDS 250 Four‐Syringe Nanoliter Infusion Pump (ケイ・ディー・サイエンティフィック社(KD Scientific Inc.)、マサチューセッツ州ホリストン(Holliston))、SP 100i Infusion Pump (ワールド・プレシジョン・インスツルメンツ社(World Precision Instruments Inc.)、フロリダ州サラソータ(Sarasota)、およびNE‐1600 Multiple Syringe Pump (ニュー・エラ・パンプ・システムズ社(New Era Pump Systems Inc.)、ニューヨーク州ワンター(Wantagh))が挙げられる。
【0003】
従来技術はまた、2つの別個のシリンジに取り付けて両方のシリンジのプランジャーを同時に押圧するために用いることができるデュアルバレルシリンジおよび装置も包含する。例えば、米国特許第4,609,371号明細書(Pizzino)に、2つの異なる注入液体を同時または連続的に注入するためのデュアルシリンジが記載されている。このシリンジは、それぞれが液体を注入するためのプランジャーを有する2つのバレル、およびシリンジの充填およびシリンジからの液体の流出を制御する手動3位置回転弁を備えている。この弁の3つの位置により、第1のバレルのみから、第2のバレルのみから、または同時に両方のバレルから液体を排出することができる。
【0004】
また、米国特許第4,610,666号明細書(Pizzino)に、所定の順序で患者に2つ以上の液体を注入するために2つ以上のバレルを有するシリンジが記載されている。このシリンジは、所定の順序で1つずつバレルをシリンジの針に連通させるスライド弁または回転弁である弁を備えている。好ましくは、シリンジは、所望の注入液体が予め充填され、弁は、排出される第1の液体を含むバレルが針に連通するように予め設定される。
【0005】
加えて、米国特許出願公開第2006/0116646号公報(Weiss)に、この発明のバイイノキュレータデュアルシリンジクリップ(bi−inoculator dual syringe clip)が、抗体を混合せずに、2つの既存のシリンジを互いにクリップして2つの接種を1つのステップにすることができる軽量かつ便利で、滅菌された使いやすい装置であり、器具の固有の一部分であることが記載されている。バイイノキュレータデュアルシリンジクリップは、第1のスペーサ部材および第2のスペーサ部材によって離隔された少なくとも第1の対の湾曲部分および第2の対の湾曲部分を有する第1の半体および第2の半体を備えている。第1の半体と第2の半体を互いに折り畳んで第1の対の湾曲部分を第2の対の湾曲部分に一致させ、これによりシリンジを内部に保持できる一対の管状保持部材が形成されるように、ヒンジ部分が、第1の半体と第2の半体を互いに連結している。この発明のバイイノキュレータデュアルシリンジクリップは、接種の方法を飛躍的に改善し、患者の治療を改善し、さらに外傷も軽減する。
【0006】
また、米国特許出願公開第2007/0005020号公報(Laveault)に、3つの相互に連結された部分を備えた、一対の並置シリンジに取り付けるためのデュアルシリンジアダプターが記載されている。第1の部分は、一対のシリンジを連結してプランジャーの一致した運動を維持するために、各シリンジのプランジャーヘッド部分にスナップ式に留めるように構成されている。アダプターの第2の部分は、2つのシリンジの連結の維持に役立つべく、各シリンジのシリンジ本体にスナップ式に留めるように構成されている。第3の相互連結部分は、第1の部分と第2の部分との間に位置し、連結されると、プランジャーのシリンジ本体内への相対運動を防止する。脆弱部分により、この連結部分を第1の部分および第2の部分から切断することが可能であり、これによりプランジャーのシリンジ本体内への移動が可能となる。切断されると、この連結部分は、混合された組成物を排出するためのシリンジ先端部に固定される。
【0007】
複数の物質を同時に注入するのが望ましい現在開発中の1つの方法では、心筋の梗塞部の中に血小板ゲル(PG)を堆積させて、心筋機能を改善し、かつ/または心筋梗塞もしくは心筋の他の傷害の後の有害な心室リモデリングを防止する。この療法では、血小板含有成分(例えば、多血小板血漿(PRP))とトロンビン含有成分(例えば、トロンビン溶液)を同時に注入して、血小板含有成分とトロンビン含有成分がその場すなわち処置場所(または心筋に入る直前に針の内腔)で混合されるようにする。血小板含有成分とトロンビン含有成分のこのような同時注入およびその場での混合により、PGの形成が生じて所望の治療効果が得られる。より具体的には、PGは、血小板含有成分中に含まれる活性物質(例えば、フィブリノーゲン)がトロンビン含有成分中に含まれるトロンビンによって活性化されると形成される。自己PRPは、対象の自己血液から得ることができるため、拒絶反応や感染のリスクが大幅に減少する。自己PRPを血小板含有成分として使用する場合は、得られるPGは、自己血小板ゲル(APG)と呼ばれる。PRPなどの血小板含有血漿製品へのトロンビンの添加が、参照により特許および特許出願のそれぞれの開示内容が本明細書に明確に組み込まれる米国特許第6,444,228号明細書、米国特許出願公開第2007/0014784号公報、同第2006/0041242号公報、および同第2005/209564号公報に詳細に記載されている。PGまたはAPGを針の内腔内を通過させるのが困難であるため、針を通す注入の直前、最中、または直後に血小板含有成分とトロンビン含有成分が混合されるようにこれらを注入するのが望ましい。加えて、血小板含有成分およびトロンビン含有成分を別個に、または混合の直後に注入することにより、PGまたはAPGに完全にゲル化する前に注入物をより広い領域に分布させることが可能となり、これによりこの療法の効果が向上する可能性がある。PRPとトロンビン溶液の同時注入に適した多成分注入器が、参照によりその開示内容が本明細書に明確に組み込まれる米国特許出願第11/969,094号に記載されている。米国特許出願第11/969,094号に、2つの主注入シリンジおよび2つの大きな貯留シリンジを使用する多成分注入装置が記載されている。2つの主シリンジのプランジャーを同時に段階的に押圧して、一定分量のPRPおよびトロンビン溶液を心筋に繰り返し注入することができる。主シリンジの内容物がなくなった場合、注入作業の継続が望まれるのであれば、使用者が、貯留シリンジから主シリンジに補充しなければならない。この補充作業では、使用者が、栓の弁を操作して所望の量の物質を貯留シリンジから主シリンジ内に引き入れ、栓の弁を元の位置に戻し、次いで心筋内への物質のさらなる注入を行う必要がある。各注入の容量および各補充の容量の制御は、シリンジ(複数可)の目盛りを注意深く観察しながらシリンジプランジャーを正確に動かす操作者の能力に依存する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
必要に応じてシリンジの容易な取り替えを可能にすると共に、2つ以上のシリンジからの正確に制御された同時注入のための新規な装置および方法の開発の要望が今だ存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、制御された速度および/または制御された増分で2つ以上のシリンジから流体を同時に排出するための新規な装置および方法を提供する。本発明装置では、注入シリンジは、所望の物質を予め充填することができ、空になったら容易に交換することができる。
【0010】
本発明により、複数のシリンジから物質を同時に送達するための装置を提供する。このような装置は、一般に、ハンドルと、少なくとも第1のシリンジのバレルおよび第2のシリンジのバレルを支持するように構成され、このハンドルに取り付けられたシリンジバレル支持構造体と、少なくとも第1のシリンジのプランジャーおよび第2のシリンジのプランジャーと係合可能なシリンジプランジャー駆動アセンブリと、シリンジプランジャー駆動アセンブリを遠位方向に前進させて、シリンジプランジャーによりシリンジから物質を排出するために使用可能なねじ機構と、を備えている。一部の実施形態では、ハンドルは、人間が片手で把持できる大きさのグリップ部分(例えば、ピストルグリップ)を備えることができる。シリンジプランジャー駆動アセンブリは、一部の実施形態では、開位置と閉位置との間で移動可能な上側部材および下側部材を有するヨークアセンブリを備えることができる。シリンジプランジャーは、ヨークアセンブリがその開位置にある間はこのヨークアセンブリ内に挿入することができ、閉位置にある場合はこのヨークアセンブリ内に維持される。一部の実施形態では、ねじ機構は、プランジャー駆動アセンブリの対応するねじに螺合するねじを有する回転シャフト、およびこのシャフトの回転を制御するためのつまみを備えることができる。
【0011】
さらに、本発明により、第1の物質および第2の物質を同時に送達するための方法を提供する。このような方法は、一般に、(A)ハンドルと、第1のシリンジのバレルおよび第2のシリンジのバレルを支持するように構成され、このハンドルに取り付けられたシリンジバレル支持構造体と、第1のシリンジのプランジャーおよび第2のシリンジのプランジャーと係合可能なシリンジプランジャー駆動アセンブリと、このシリンジプランジャー駆動アセンブリを遠位方向に前進させるために使用可能なねじ機構と、を備える装置を用意するステップと、(B)バレル、プランジャー、およびバレル内の一定量の第1の物質を有する第1のシリンジを用意するステップと、(C)バレル、プランジャー、およびバレル内の一定量の第2の物質を有する第2のシリンジを用意するステップと、(D)バレル支持構造体が、第1のシリンジのバレルおよび第2のシリンジのバレルを支持し、プランジャー駆動アセンブリが、第1のシリンジのプランジャーおよび第2のシリンジのプランジャーと係合するように、第1のシリンジおよび第2のシリンジを装置に装着するステップと、(E)ハンドルを把持して装置を位置決めするステップと、(E)ねじ機構を用いてシリンジプランジャー駆動アセンブリを遠位方向に同時に前進させて、シリンジプランジャーにより、第1のシリンジから第1の物質、第2のシリンジから第2の物質を同時に排出するステップと、を含む。この方法の一部の実施形態では、ステップ(A)で用意された装置は、シリンジに取り付けられたマニホールドおよびこのマニホールドに取り付けられた送達カニューレをさらに備えるため、物質をシリンジからマニホールド内に流し、次いでカニューレの共通内腔内または別個の内腔内に流すことができる。送達カニューレは、先端部が尖った針または先端部が尖っていないカニューレを含むことができる。先端部が尖った針を使用する場合は、この針を、組織(例えば、器官、筋肉、腫瘍など)に挿入することができ、次いで混合した物質をカニューレを通して組織内に注入することができる。
【0012】
本発明の追加または別の要素、態様、目的、および利点は、当業者であれば、添付の図面を参照し、以下に示す詳細な説明および例を読めば明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のデュアルシリンジ注入装置の一実施形態を示す後方からの斜視図である。
【図2A】図1のデュアルシリンジ注入装置に2つのシリンジを装着するための方法におけるステップを示す図である。
【図2B】図1のデュアルシリンジ注入装置に2つのシリンジを装着するための方法におけるステップを示す図である。
【図2C】図1のデュアルシリンジ注入装置に2つのシリンジを装着するための方法におけるステップを示す図である。
【図3】シリンジの装置への装着を可能にする開いた構造にある図1のデュアルシリンジ注入装置を示す後方からの部分斜視図である。
【図4】内部に2つのシリンジが配置された図1の装置の遠位部分を示す後方からの部分斜視図である。
【図4A】図4に示されている装置の遠位部分を示す後方からの端面図である。
【図5】図1の装置を示す組立分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の詳細な説明および添付の図面は、本発明の例または実施形態の必ずしもすべてではなく、一部を説明することを意図している。この詳細な説明および添付の図面の内容は、本発明の範囲を一切限定するものではない。
【0015】
以下の詳細な説明は、第1のシリンジ16および第2のシリンジ18から物質を同時に注入するために使用可能なデュアルシリンジ注入装置10の限定目的ではない例である。この装置10は、上記に記載した通り、その場(処置場所)でのPGまたはAPGの形成を達成するために、限定されるものではないが、血小板含有成分およびトロンビン含有成分の注入を含め、2つの物質が同時に注入される様々な処置に用いることができる。この装置10は、シリンジの交換を簡単にしてあるため注入シリンジの補充が必要ない。また、この装置10は、操作者がつまみ12を回転させると、ねじ付きスクリューシャフト14が回転し、これによりプランジャー駆動ヨークアセンブリ20が前進してシリンジプランジャー22、24を押圧する親ねじ機構を利用することによって正確な注入量を送達する。この機構により、ねじ山のピッチに基づいてシリンジプランジャーの横方向の運動を制御および調整することができ、これにより、シリンジ16、18のバレルの目盛りを眼で観察しながらシリンジプランジャー22、24を手で押圧して通常達成できる精度よりも高い精度で、制御された速度で所望の注入量を送達することができる。
【0016】
図示されている特定の例では、装置10は、ピストル様ハンドグリップ28を有するハンドル部材26を備えている。図示されているように、離隔した位置にある近位シリンジ保持クレードル30および遠位シリンジ支持クレードル32を含むシリンジバレル支持構造体が、ハンドル部材26の遠位部分に取り付けられている。スクリューシャフト14のねじのない遠位部分34は、シリンジ保持ヨーク30、32の中心開口36および38内に挿入され、スクリューシャフト14の遠位端部40は、シャフト保持リング44または軸受アセンブリなどの当分野で公知の任意の他の適当な回転連結部によって遠位シリンジ保持ヨーク32に回転可能に連結されている。スクリューシャフト14の近位端部は、つまみ12に回転不能に連結されている。
【0017】
プランジャー駆動アセンブリ20は、ヒンジ43によって下側部材46に取り付けられた上側部材42を含む。右プランジャー収容凹部48および左プランジャー収容凹部50、ならびにスクリューシャフト係合孔52の対向した側面が、図示されているように、上側部材42および下側部材46の対向位置に形成されている。下側部材46に形成されたスクリューシャフト係合孔52の下半分は、ねじが設けられていないため、スクリューシャフト14のねじ部分35が、スクリューシャフト係合孔52の下半分を前後に容易にスライドすることができる。上側部材42に形成されたスクリューシャフト係合孔52の上半分は、スクリューシャフト14のねじ部分35の対応するねじに螺合するようにねじが設けられている。
【0018】
使用の際は、シリンジ16、18を所望の物質で予め充填することができる。シリンジ16、18を装置10に装着したい場合は、プランジャー駆動ヨークアセンブリ20の上側部分42を、「二枚貝の貝殻」方式でヒンジ43を中心に回動させて、図2A、図2B、および図3に示されている開位置にする。ヨークアセンブリ20がこのような開位置にあると、シャフト係合孔52の上側ねじ部分が、スクリューのねじ部分35から係合解除されているため、使用者がヨークアセンブリ20を近位位置に引っ張ることができる。次いで、シリンジ16、18のバレルをクレードル30、32の中に入れることができ、シリンジプランジャー22、24の近位端部のサムフランジ(thumb flange)56、58を下側部分46のプランジャー収容凹部48、50の中に挿入することができる。次いで、図2Bに示されているように、プランジャー駆動ヨークアセンブリ20の上側部分42をヒンジ43を中心に閉じた位置まで下方に回動させることができ、図2Cに示されているように、ばね荷重ラッチ4を上側部分42に係合させて、プランジャー駆動ヨークアセンブリ20をその閉じた構造にラッチすることができる。このようにして、シリンジプランジャー22、24の近位端部のサムフランジ56、58が、プランジャー収容凹部48、50の対向面間にしっかりとクランプされて保持され、スクリューシャフト14の近位ねじ部分35のねじが、スクリューシャフト係合孔52の上半分の対応するねじに螺合している。
【0019】
シリンジ16、18の遠位オス型ルアーコネクタ60、62を、別個のチューブまたは送達カニューレ(例えば、尖った針または尖っていないカニューレ)に連結してもよいし、あるいは、(a)内部で物質が混合されるかもしくは別個に並置される1つの内腔または(b)物質が送達カニューレ(例えば、尖った針または尖っていないカニューレ)の遠位端部から出るまで物質を互いに分離したままに保つ複数の同心内腔を有する、シリンジ16、18から排出される物質をこのようなカニューレ内に案内するマニホールドに連結してもよい。1つのこのようなマニホールド、ならびに2軸および同軸送達カニューレの例が、上記組み込まれた米国特許出願第11/969,094号に記載されている。次いで、送達カニューレ(複数可)を、使用者が物質または複数の物質の混合物を堆積させようとする位置にある体組織に挿入するか、または他の方法で配置する。次いで、使用者が、送達すべき注入量に対応する位置までつまみ12を時計回りの方向に回転させる。つまみ12のこのような時計回りの回転により、ねじ機構が、上記したようにシリンジプランジャー22、24を前進させ、これにより所望の量の各物質が各シリンジ16、18から排出され、これらのシリンジ16、18を連結できる下流のマニホールド(複数可)またはカニューレ(複数可)のいずれにも流れる。
【0020】
使用者が、所望の量の注入物を送達するためにつまみ12が回転しなければならない距離を測ることができるように、送達される注入量に相関する段階または増分の目盛りを、装置10および/またはシリンジ16、18に設けることができる。加えてまたは別法として、図4および図4Aに示されているように、スクリューシャフト14は、送達する注入物の量を測り(例えば、特定の量の注入物の送達を示すラチェットの各「クリック音」)、かつ/またはスクリューシャフト14の意図していない逆(例えば、反時計回りの)回転を防止するために用いることができるラチェット機構に結合することができる。この実施形態では、ばね荷重された爪70(ばね荷重されたボールノーズ止めねじを含んでもよい)が、歯車72の歯74の上に載置されている。爪70が、歯車72の各歯74の後側面に当たると、可聴音または他の信号を生じさせて、注入物の別の増加量(例えば、0.1cc)が送達されたことを操作者に知らせることができる。また、歯74は、つまみ12およびスクリューシャフト14が所望の方向(例えば、シリンジ16、18からの物質の意図した排出をもたらす方向)に回転するときは爪70が歯74に対してスライドするが、つまみ12およびスクリューシャフト14が反対方向に回転するのを防止するために歯に引っ掛かるような形状にすることができる。あるいは、装置10は、シリンジ16、18内に流体を吸引するためにシリンジプランジャー22、24を近位方向に引きたい場合の事象などの、つまみ12およびスクリューシャフト14を反対方向に回す理由がある場合に、操作者が、爪70を歯車72から手動で係合解除できるように構成することができる。
【0021】
上記の装置120は、シリンジプランジャーの前進のためにねじ機構を用いているが、当業者であれば、別法として、シリンジプランジャー22、24を前進させるために種々の他の機構を用いることができることが解る。そのような1つの機構は、歯付きラックに対するラチェット爪とすることができる。歯付きラックは、シリンジピストンに連結された共通ヨークによってシリンジピストンに取り付けることができる。この設計では、トリガー(またはレバー)を押して、ラチェット爪により歯付きラックを指定の距離移動させることができる。さらに、指定の距離は、両方のシリンジからの特定の排出量に対応させることができる。
【0022】
一部の従来技術の装置に対する上記の発明の少なくとも一部の実施形態の利点には、(a)操作者が1つの装置10のみを保持すればよいことによる人間工学的な利点、(b)所望の注入量を測るために操作者がシリンジの目盛りを読む必要がない実施形態における眼精疲労の軽減、(c)シリンジプランジャーの前進に必要な力の低下、(d)シリンジ当たりより多くの注入薬を送達する能力、および(e)送達容量の正確な制御が含まれる。
【0023】
物質の送達比は、シリンジ16、18の相対的なサイズの変更によって制御することができ、異なるシリンジサイズの組合せに対応するためにシリンジ保持クレードル30、32およびプランジャー収容凹部48、50のサイズを変更することができる。例えば、1:1の送達比(すなわち、各1ccの成分Bに対して1ccの成分A)が望ましい場合は、シリンジ16と18は同じサイズとすることができる。異なる送達比が望ましい場合は、シリンジ16と18のサイズを異なるようにすることができる。図示されている特定の例では、右シリンジ16は、10ccのシリンジであり、左シリンジ18は、1ccのシリンジであり、これにより多血小板血漿(PRP)10部がトロンビン溶液1部と混合される心筋内への治療のためのPGまたはAPGの注入に適する10:1の送達比が得られる。このようなPGまたはAPG治療剤を送達する場合は、注入部位は、心筋機能が損なわれた領域内またはその近傍とすることができ、PGまたはAPGは、心筋機能を改善し、かつ/または有害または不適応な心室リモデリングを防止する効果を有し得る。
【0024】
しかし、本発明は、PGまたはAPG治療剤を送達するのに加えて、多くの用途を有することが解る。例えば、装置10を用いて、2成分組織接着剤およびシーラント(例えば、イリノイ州ディアーフィールド(Deerfield)に所在のバクスター・ヘルスケア社(Baxter Healthcare Corporation)が販売するTisseel VH(商標)Fiblin Sealant)、2成分組織バルキング剤、様々な治療または化粧用途(例えば、組織のバルキング、充填、または膨張)のためにその場(処置場所)で形成または膨張できる増量剤またはポリマー材料(例えば、ヒドロゲル)、および様々なプロドラッグと活性化因子の組合せなどの様々な他の2成分治療剤を送達することができる。
【0025】
加えて、図面に示されている特定の実施形態は、2つのシリンジのみを用いるように構成されているが、本発明の様々な他の実施形態は、3つ以上のシリンジから同時注入するように構成することもできることが解る。
【0026】
本発明を、その特定の例または実施形態を参照して上記にて説明してきたが、本発明の意図する趣旨および範囲から逸脱することなく、それらの例および実施形態に対して様々な追加、削除、変更、および改良を行うことができることがさらに解る。例えば、一実施形態または一例の任意の要素または特性は、別の実施形態または例がその意図する用途に不適当とならない限り、別の実施形態または例に組み込むまたは使用することができる。また、方法のステップまたは過程を特定の順序で記載、列記、または主張したが、実施形態または例が、新規でなかったり、当業者に自明であったり、その意図する用途に不適当となったりする場合でない限り、このようなステップを任意の他の順序で行うことができる。すべての合理的な追加、削除、改良、および変更は、記載した例および実施形態の均等物と見なされ、以下の特許請求の範囲内に含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プランジャーおよびバレルを有する複数のシリンジから物質を同時に送達するための装置であって、
ハンドルと、
少なくとも第1のシリンジのバレルおよび第2のシリンジのバレルを支持するように構成され、前記ハンドルに取り付けられたシリンジバレル支持構造体と、
前記少なくとも第1のシリンジのプランジャーおよび第2のシリンジのプランジャーと係合可能なシリンジプランジャー駆動アセンブリと、
前記シリンジプランジャー駆動アセンブリを遠位方向に前進させて、前記シリンジプランジャーにより前記シリンジから物質を排出するために使用可能なねじ機構と、を備えている、
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記ハンドルは、人間が片手で把持できる大きさのグリップ部分を備えている、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記シリンジバレル支持構造体は、離隔した位置にある少なくとも第1のシリンジバレル支持クレードルおよび第2のシリンジバレル支持クレードルを備えている、
請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記シリンジプランジャー駆動アセンブリは、
上側部材と下側部材との間にシリンジプランジャー収容凹部が形成されている、前記上側部材および前記下側部材を有するヨークアセンブリと、
(a)前記シリンジの前記プランジャーを前記プランジャー収容凹部内に挿入できる開位置と(b)前記シリンジの前記プランジャーが前記プランジャー収容凹部内に保持される閉位置との間で移動可能である前記上側部材および前記下側部材の少なくとも1つと、を備えている、
請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記ねじ機構は、ねじが設けられた回転シャフトおよび前記シリンジプランジャー駆動アセンブリの対応するねじ部分を備え、前記ねじ部分が、前記回転シャフトのねじに螺合するため、前記回転シャフトが第1の方向に回転すると、前記シリンジプランジャー駆動アセンブリが、前記シリンジから物質を排出する方向に前進する、
請求項1に記載の装置。
【請求項6】
つまみが、前記シャフトの近位端部に取り付けられており、前記つまみは、前記シャフトの回転を容易にするために使用可能である、
請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記シリンジプランジャー駆動アセンブリは、
上側部材および下側部材を有するヨークアセンブリであって、前記上側部材および前記下側部材の少なくとも一方が、開位置と閉位置との間で移動可能である、ヨークアセンブリと、
前記ヨークアセンブリに形成された円柱シャフト収容孔であって、前記孔の一方の半円柱部分が前記上側部材に形成され、前記孔の反対の半円柱部分が前記下側部材に形成されている、円柱シャフト収容孔と、を備え、
前記上側部材に形成された前記孔の前記半円柱部分は、前記ヨークアセンブリが前記閉位置にあるときに前記シャフトの前記ねじに螺合するようにねじが設けられており、前記下側部材に形成された前記孔の反対の半円柱部分は、実質的に平滑で、ねじが設けられていない、
請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記ヨークアセンブリがその開位置にある間は、前記ヨークアセンブリを近位側の引き戻された位置に引き戻して、前記シャフトを、前記下側部材に形成された前記シャフト収容孔の前記ねじが設けられていない部分内をスライドさせることができる、
請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記下側部材および前記上側部材には、シリンジプランジャー収容凹部の対向部分がさらに形成されているため、前記ヨークアセンブリが開位置にある場合は、前記シリンジの前記プランジャーを前記プランジャー収容凹部内に挿入することができ、前記ヨークアセンブリがその後にその閉位置に移ると、前記シリンジの前記プランジャーがプランジャー収容凹部内に維持される、
請求項7に記載の装置。
【請求項10】
前記シリンジプランジャーを前記遠位方向に前進させる方向への前記ねじ機構の運動は許容するが、前記シリンジプランジャーを前記近位方向に引き戻す方向への前記ねじ機構の運動は許容しないねじ機構係合装置をさらに備える、
請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記シャフトを中心に回転する歯車および前記歯車の上に載置されている爪を含むラチェット機構をさらに備えている、
請求項6に記載の装置。
【請求項12】
前記ラチェット機構は、定量の前記物質を増分的に送達するように構成されている、
請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記ラチェット機構は、前記シリンジプランジャーを前記遠位方向に前進させる方向への前記シャフトの回転は許容するが、前記シャフトの前記反対方向への回転は防止する、
請求項11に記載の装置。
【請求項14】
同じサイズの第1のシリンジおよび第2のシリンジと共に使用するように構成された、
請求項1に記載の装置。
【請求項15】
異なるサイズの第1のシリンジおよび第2のシリンジと共に使用するように構成された、
請求項1に記載の装置。
【請求項16】
第1のシリンジおよび第2のシリンジと組み合わせた、
請求項1に記載の装置。
【請求項17】
第1のシリンジおよび第2のシリンジは、物質が予め充填されている、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記第1のシリンジは、血小板含有物質が予め充填され、前記第2のシリンジは、トロンビン含有物質が充填されている、
請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記血小板含有物質は、多血小板血漿または自己多血小板血漿を含む、
請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記トロンビン含有物質は、トロンビン溶液を含む、
請求項19に記載の装置。
【請求項21】
前記シリンジは、1部のトロンビン含有物質に対して約10部の血小板含有物質の比で、前記血小板含有物質および前記トロンビン含有物質を送達する大きさである、
請求項19に記載の装置。
【請求項22】
第1の物質および第2の物質を同時に送達するための方法であって、
(A)ハンドルと、第1のシリンジのバレルおよび第2のシリンジのバレルを支持するように構成され、前記ハンドルに取り付けられたシリンジバレル支持構造体と、前記第1のシリンジのプランジャーおよび第2のシリンジのプランジャーと係合可能なシリンジプランジャー駆動アセンブリと、前記シリンジプランジャー駆動アセンブリを遠位方向に前進させるために使用可能なねじ機構と、を備える装置を用意するステップと、
(B)バレル、プランジャー、および前記バレル内の一定量の第1の物質を有する第1のシリンジを用意するステップと、
(C)バレル、プランジャー、および前記バレル内の一定量の第2の物質を有する第2のシリンジを用意するステップと、
(D)前記バレル支持構造体が、第1のシリンジのバレルおよび第2のシリンジのバレルを支持し、前記プランジャー駆動アセンブリが、前記第1のシリンジのプランジャーおよび前記第2のシリンジのプランジャーと係合するように、前記第1のシリンジおよび前記第2のシリンジを前記装置に装着するステップと、
(E)前記ハンドルを把持して前記装置を位置決めするステップと、
(E)前記ねじ機構を用いて前記シリンジプランジャー駆動アセンブリを遠位方向に同時に前進させて、前記シリンジプランジャーにより、前記第1のシリンジから前記第1の物質、前記第2のシリンジから前記第2の物質を同時に排出するステップと、を備えている、
ことを特徴とする方法。
【請求項23】
前記ステップ(A)で用意された前記装置は、前記シリンジに取付け可能なマニホールドおよび前記マニホールドに取付け可能な送達カニューレをさらに備え、前記方法は、
前記マニホールドを前記シリンジに取り付けるステップと、
前記送達カニューレを前記マニホールドに取り付けるステップと、をさらに備えている、
請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記送達カニューレは針を含み、前記方法の前記ステップEでの前記装置の位置決めは、前記針を組織内に挿入するステップを備えている、
請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記針を心筋組織内に挿入する、
請求項34に記載の方法。
【請求項26】
前記第1の物質は血小板を含み、前記第2の物質はトロンビンを含み、前記血小板と前記トロンビンを、前記装置内か、または前記針を出た後で、現場で混合して血小板ゲルを形成する、
請求項35に記載の方法。
【請求項27】
前記第1の物質は多血小板血漿を含み、前記第2の物質はトロンビン溶液を含み、前記シリンジは、1部のトロンビン溶液に対して約10部の多血小板血漿を送達する大きさである、
請求項36に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図4A】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−518018(P2011−518018A)
【公表日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506318(P2011−506318)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【国際出願番号】PCT/US2009/037561
【国際公開番号】WO2009/131773
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(502129357)メドトロニック カルディオ ヴァスキュラー インコーポレイテッド (125)
【Fターム(参考)】