説明

深絞り食缶外面トップコート用塗料組成物及び該組成物の乾燥塗膜層を有する深絞り食缶

【課題】 耐レトルト性、耐熱水浸漬蒸気処理性、加工性、塗膜硬度、耐摩耗性の性能を有し、且つ、優れた艶消しの意匠性を発揮する環境対応型のマットクリアーの塗膜を形成し得る深絞り食缶外面トップコート用塗料組成物及び該塗料組成物の乾燥塗膜層を有する深絞り食缶を提供する。
【解決手段】 固形分水酸基価が5〜15、固形分酸価が2未満、数平均分子量が10,000〜12,000であるビスフェノール型由来原料を含まないポリエステル樹脂(A)、数平均分子量が800〜900であるビスフェノール型由来原料を含まないブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂(B)、及び、真球状のシリコーン樹脂微粒子ビーズ(C)を含有することを特徴とする深絞り食缶外面トップコート用塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、艶消しの意匠性を有し、且つ、耐レトルト性、加工性、塗膜硬度、耐磨耗性に優れた塗膜層を形成する為の深絞り食缶外面トップコート用塗料組成物、及び該塗料組成物の乾燥硬化塗膜層を有する深絞り食缶に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、2P、3P等金属缶外面の意匠性が重要視されてきた。意匠性の一つに艶を消したマット調の意匠性を有する缶が紹介されている。塗料組成物としては、艶消し剤に多孔性粒子状二酸化ケイ素を用いたマットニス等が紹介されている(例えば、特許文献1、2参照)。しかし、多孔性粒子状二酸化ケイ素で艶消しにした場合は、塗膜自体が多孔質になり吸水性を呈して、耐レトルト性を必要とする用途には不向きであった。
【0003】
【特許文献1】特開2000−265108号公報
【特許文献2】特開平10−279852号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解消して、深絞り食缶の条件として、耐レトルト性、耐熱水浸漬蒸気処理性、加工性、塗膜硬度、耐摩耗性の性能を有し、且つ、優れた艶消しの意匠性を発揮する環境対応型のマットクリアーの塗膜を形成し得る深絞り食缶外面トップコート用塗料組成物及び該塗料組成物の乾燥塗膜層を有する深絞り食缶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討の結果、ビスフェノール型由来原料を含有しない、特定のポリエステル系樹脂及びベンゾグアナミン樹脂、艶消し剤として真球状のシリコーン樹脂部粒子ビーズを用いることにより、深絞り食缶外面のトップコート層として、優れた艶消しの意匠性を有し、且つ、耐レトルト性、耐熱水浸漬蒸気処理性、加工性、塗膜硬度、耐磨耗性等の塗膜性能を兼備した塗膜を形成し得る環境対応型深絞り食缶外面トップコート用塗料組成物及びその乾燥塗膜層を有する深絞り食缶を見出し、本発明に至った。
【0006】
すなわち、本発明は第一に、固形分水酸基価が5〜15、固形分酸価が2未満、数平均分子量が10,000〜12,000であるビスフェノール型由来原料を含まないポリエステル樹脂(A)、数平均分子量が800〜900であるビスフェノール型由来原料を含まないブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂(B)、及び、真球状のシリコーン樹脂微粒子ビーズ(C)を含有することを特徴とする深絞り食缶外面トップコート用塗料組成物を提供する。
【0007】
本発明は第二に、深絞り食缶の側壁外面に、前記した深絞り食缶外面トップコート用塗料組成物の乾燥塗膜層を有することを特徴とする深絞り食缶を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、ビスフェノール型由来原料を含有せずエンドクリン問題の懸念のない環境対応型の缶外面用塗料組成物であって、深絞り食缶外面用のトップコート層として、優れた艶消しの意匠性を有し、且つ、耐レトルト性、耐熱水浸漬蒸気処理性、加工性、塗膜硬度、耐摩耗性等の塗膜性能を兼備した塗膜を形成し得る環境対応型深絞り食缶外面トップコート用塗料組成物及びその乾燥塗膜層を有する深絞り食缶を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の深絞り食缶外面トップコート用塗料組成物は、ビスフェノール型由来原料を含有しないポリエステル樹脂成分を主剤に、やはりビスフェノール型由来原料を含まないブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂を硬化剤として用いることにより環境対応に優れる塗料組成物を得るものである。
【0010】
本発明の深絞り食缶外面トップコート用塗料組成物に用いるポリエステル樹脂は、固形分水酸基価が5〜15(mgKOH/g)、固形分酸価が2未満(mgKOH/g)であり、更に、数平均分子量が10,000〜12,000であるビスフェノール型由来原料を含まないポリエステル樹脂である。
【0011】
ポリエステル樹脂として代表的なものを例示すると、例えばポリオールとポリカルボン酸(無水物)とを加熱溶融し、約160〜270℃程度の反応温度で、反応物の酸価が1〜40程度となるまで、必要により減圧下で脱水縮合せしめ、約500〜25,000程度の数平均分子量を有する脱水縮合物を得たのちに、各種の有機溶剤に溶解せしめることによって調製されるもの等が挙げられる。
【0012】
ポリエステル樹脂を調製する際に使用されるポリオールとして代表的なものを例示すると、エチレングリコール、プロピレングリコール、1.3−ブチレングリコール、1.4−ブチレングリコール、1.6−ヘキサンジオールまたはジエチレングリコール、あるいはジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコールのような、各種の2価アルコール類;及び、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトールまたはジグリセリンのような、各種の3価以上のアルコール類が挙げられる。
【0013】
ポリエステル樹脂を調製する際に使用されるポリカルボン酸(無水物)として代表的なものを例示すると、プロパントリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、アジピン酸、フタル酸、テレフタル酸もしくはトリメリット酸のような、各種の脂肪族ないしは芳香族ポリカルボン酸、(無水)トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸(無水物)または(無水)ピロメリット酸等が挙げられる。さらに必要に応じて安息香酸や、tert−ブチル安息香酸などの種々の一塩基酸をかかる酸成分として併用することもできる。
【0014】
本発明の深絞り食缶外面トップコート用塗料組成物に硬化剤として用いられるブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂は、数平均分子量が800〜900であり、ビスフェノール型由来原料を含まないブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂である。
【0015】
前記したブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂としては、結合ホルムアルデヒドの量は3.0モル以下が好ましく、更には1.9モルがより好ましい。
【0016】
塗膜の硬化性と、加工性のバランスを考慮すると、特に、ポリエステル樹脂成分100質量部に対し、ブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂が60〜70質量部であることが好ましい。
【0017】
本発明の深絞り食缶外面トップコート用塗料組成物に使用する艶消し剤は、真球状で真比重1.32程度のシリコーン樹脂微粒子ビーズである。平均粒子径は6μ程度が好ましい。シリコーン樹脂微粒子の配合量は固形分換算で、クリアー塗料組成物固形分に対して10〜60部程度である。光沢と他の特性のバランスからは、20〜50部程度が特に好ましい。
【0018】
本発明の深絞り食缶外面トップコート用塗料組成物、塗料構成成分を水不溶性溶媒に溶解した溶剤型塗料として使用することが好ましい。周知の有機溶剤ならば全て使用可能であるが、ソルベッソ100、ソルベッソ150、ブチルセロソルブアセテート等が望ましい、それらは、単独使用でも2種以上の併用でも良い。
【0019】
本発明の深絞り食缶外面トップコート用塗料組成物には必要に応じて、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフテレンジスルホン酸、又はリン酸等の種々の酸触媒、あるいはこれらの各種アミン塩等を、硬化触媒として添加してもよい。硬化触媒の配合量は、通常は樹脂固形分100質量部に対して0.1〜1.0質量部程度である。
【0020】
さらには本発明の深絞り食缶外面トップコート用塗料組成物には、通常塗料に使用されるレベリング剤、消泡剤、滑剤、耐磨耗剤等の種々の添加剤を配合することもできる。
【0021】
本発明の深絞り食缶外面トップコート用塗料組成物、定法により、例えばターボミル、分散攪拌機等の混合装置を使用して製造することができる。
【0022】
本発明の深絞り食缶外面トップコート用塗料組成物をトップコート層として、錫電気鍍金スチール板(以下:ET板)、ティンフリースチール板(以下:TFS板)製3P金属缶に適用することができる。ET板又はTFS板シートの外面に、下地層、印刷層等を設けた後に、例えば9インチコーター等によりローラー等を使用して、本発明の深絞り食缶外面トップコート用塗料組成物をトップコート層として塗布し、約180℃程度の温度で、約10分間といった加熱条件で焼付を行うことによって、艶消しの意匠性を有する硬化塗膜を形成することができる。
【0023】
こうして得られた塗膜は優れた艶消しの意匠性、加工性、密着性等を備え、深絞り食缶外面用トップコートとして好適なものである。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。特に指定のない限り、実施例中の、「部」、「%」は質量部、質量%を表す。
【0025】
(クリアーベース塗料の調製)
ビスフェノール型由来原料を含有しないポリエステル樹脂(A)として、固形分水酸基価13、固形分酸価1.5、数平均分子量11,000のポリエステル樹脂を66.4部、ビスフェノール型由来原料を含有しないブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂(B)として、スーパーベッカミンL−701−60(数平均分子量840:大日本インキ化学製)を29.6部、ウエットインキ適性を付与するシリコーン助剤を0.5部、消泡性を付与する10%に希釈したシリコーン助剤0.1部をバットタンクに精秤し、ターボミキサーにて分散攪拌をしながら60℃±5℃迄昇温させた。40℃程度まで自然放冷させた後、分散攪拌機付バットタンクで混合攪拌しながら、25%溶剤分散型耐磨耗剤を0.4部、10%溶剤分散型ワックスを2.0部、酸触媒0.3部を添加し、ソルベッソ100を1.0部加え粘度調整後、濾過器を通してクリアーベース塗料を得た。不揮発分:41.0%、粘度:70秒(25℃、フォードカップ#4)であった。
【0026】
(実施例塗料及び比較例塗料の調製)
クリアーベース塗料100部に艶消し剤(C)として真球状で真比重1.32のシリコーン樹脂微粒子ビーズ、トスパール2000B(EG東芝シリコーン株式会社製)を下記の表1の如く添加後、ソルベッソ100を適宜添加しマットクリアーを調製した。クリアーベース塗料100部に艶消し剤として、多孔性粒子状二酸化ケイ素、サイリシア350D(日本シリシア株式会社製)を下記の表1の如く添加後、ソルベッソ100を適宜添加しマットクリアーを調製した。
【0027】
【表1】

【0028】
上記で得られた実施例、比較例の塗料組成物について、9インチテストコーターを使用して、製缶用のTFS板(厚さ0.19mm)の外面に、乾燥塗膜量が75mg/dmとなるように塗布した後、180℃で10分間、熱風循環式ガスオーブンで加熱して硬化させた。下記の諸物性試験の結果を表2に示す。
【0029】
(GLOSS:光沢)
塗膜のGLOSSを日本電色株式会社製GLOSSメータで測定した。
測定反射角:60°、フルグロス:100
【0030】
(鉛筆硬度)
三菱鉛筆UNI使用、素地に達する時の硬度で評価した。
【0031】
(耐衝撃性試験)
1kg−30cm、40cm、50cmの条件で、デュポン衝撃後セロハンテープ(ニチバン製)を貼り付けて、強く引き剥す。塗膜の剥離状態を目視で評価した。
【0032】
(キャップ加工性)
12tonプレス試験機使用、打ち抜き成型したキャップ外面を目視で評価した。
【0033】
(耐レトルト性試験)
130℃−30分の条件で、塗装板を水に半浸漬させ、加圧加温蒸気処理試験をした。白化・ブリスター等塗膜の状態を目視で評価した。
【0034】
衝撃性試、キャップ加工性、験耐レトルト性試験の評価基準は以下の通りである。
○:良好
△:やや不良
×:不良
【0035】
【表2】

【0036】
以上の結果から、本発明の深絞り食缶外面トップコート用塗料組成物は、優れた艶消しの意匠性を有し、且つ、耐レトルト性、耐熱水浸漬蒸気処理性、加工性、塗膜硬度、耐摩耗性等の塗膜性能を兼備したトップコート層として有用である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の深絞り食缶外面トップコート用塗料組成物はET板やTFS板に塗装後、優れた艶消しの意匠性を有し、且つ、耐レトルト性、耐熱水浸漬蒸気処理性、加工性、塗膜硬度、耐摩耗性等に耐える強靭な塗膜を形成することが可能であり、深絞り食缶の主な用途である、ツナ缶・ペットフード缶等の魚介類食缶用途に広範に展開が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分水酸基価が5〜15、固形分酸価が2未満、数平均分子量が10,000〜12,000であるビスフェノール型由来原料を含まないポリエステル樹脂(A)、数平均分子量が800〜900であるビスフェノール型由来原料を含まないブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂(B)、及び、真球状のシリコーン樹脂微粒子ビーズ(C)を含有することを特徴とする深絞り食缶外面トップコート用塗料組成物。
【請求項2】
前記したポリエステル樹脂成分100質量部に対する、前記したブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂の含有量が60〜70質量部である請求項1又は2に記載の深絞り食缶外面トップコート用塗料組成物。
【請求項3】
深絞り食缶の側壁外面に、請求項1又は2に記載された深絞り食缶外面トップコート用塗料組成物が、艶消しの意匠性を呈する乾燥塗膜層を有することを特徴とする深絞り食缶。
【請求項4】
深絞り食缶外面トップコート用塗料組成物の乾燥塗膜量が40〜90mg/dmである請求項3に記載の深絞り食缶。

【公開番号】特開2008−127520(P2008−127520A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316915(P2006−316915)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】