説明

混合ガラス原料とガラス物品の製造方法

【課題】酸化チタニウムを含有する混合ガラス原料、特に結晶化ガラス用途で用いられる混合ガラス原料として、安定した品位を容易に得られ、原料加熱時の初期熔解性を向上し、均質性の優れたガラス物品を容易に得られる混合ガラス原料とこの原料を用いたガラス物品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の混合ガラス原料は、複数種のガラス原料が混合され、酸化チタニウム原料を含む混合ガラス原料であって、前記酸化チタニウム原料の全量中の造粒された酸化チタニウム原料の含有率が、質量百分率表示で30%以上であることを特徴とする。また本発明のガラス物品の製造方法は、本発明の混合ガラス原料をガラス熔融炉内に投入し、加熱熔融した後、板状体、フィルム状体、棒状体、糸状体または管状体の何れかに成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタニウムを含有する混合ガラス原料と、この原料を用いたガラス物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス物品に要求される多様な性能を実現するため、様々な化学組成を有する多くのガラス物品が日用品から最先端の電子機器までの数多くの用途で用いられている。このような様々なガラス物品の中には、所望の熱的な性能、あるいは光学的な性能等を発揮させるため、ガラスを構成する化学成分としてチタニウム(Ti)を含有するガラス物品が使用されることがある。ガラス中のチタニウム成分は、環境問題などで敬遠される鉛(Pb)成分の代替成分として用いられる場合、あるいはガラスの屈折率やアッベ(abbe)数などの光学的な性能を著しく変化させる目的で用いられる場合、ガラスの高温粘性を変化させるために用いられる場合、結晶化ガラスの核形成成分として用いられる場合など、数多くの所望の性能を実現する有効成分として特に注目されている。
【0003】
一般に大量生産されるガラス物品の製造は、潤沢に市場に供給するため各種の天然原料や化成原料を調合して混合した後、耐熱性のガラス溶融炉にて加熱熔融し、均一な熔融状態とした後に各種の成形法に従い、所定形状のガラス物品を製造する方法(熔融法と呼ばれる)が用いられることが多い。このようなガラス製造方法が採用される場合、原料としてどのような種類の原料を選択、採用するかは、得られるガラス物品の均質性の変動、あるいは製造費用、環境への負荷の大小などへ大きく影響する。よって最適なガラス原料を選択することは、ガラス物品の用途や性能などに応じて十分な検討をおこなわねばならないものの一つである。このため、ガラス物品の製造に用いられるガラス原料については、上述した種々の観点からこれまでも各種の発明が為されてきた。例えば、特許文献1には、ガラス繊維の製造に用いられる原料配合物について、強度及び弾性率の高いガラス繊維を得ることができ、紡糸温度を低く抑えて作業温度範囲を充分に広くすることも可能なガラス繊維用原料配合物として、工業用酸化チタン等の原料配分を限定する発明が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、眼鏡用途に用いられるガラス組成として、屈折率1.59以上、アッベ数40以上および密度3.2g/cm以下を有する光可逆変色性ガラスとして、多種のガラス組成成分を限定した上で、さらにTiOを有するガラス組成を採用することにより、所望の材質が得られるとする発明が開示されている。
【0005】
さらに特許文献3には、ガラス熔融炉に投入される混合ガラス原料として、粉砕工程を用いて原料混合物の細粒均質化を図り、粒径加積曲線における有効粒径D90が50μm以下となる所定の粒径とすることによって低温熔融環境下でも熔融ガラスの均質化がなされ、良質なガラス物品を得ることができるとする発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−160350号公報
【特許文献2】特開昭57−183336号公報
【特許文献3】特開2006−69881号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これまで行われた発明だけでは、より多様なガラス物品を自在に製造し、均質で安定した性能を有するガラス物品を経済的にも品質的にも優れたものとして供給するには十分ではない。特許文献1や特許文献2のガラス組成物は、ガラス繊維や光学ガラスなど特定の用途でその効果を発揮するが、他の用途でも適用できるものとは言えない。また、特許文献3に開示された発明は、様々なガラス組成へ適用しようとすると、その全てで十分な効果を得られるとは限らない。特に、リチウムアルミノシリケート系のガラス組成を有するガラス物品や結晶化ガラス物品を製造する際に、その組成中の成分としては酸化チタニウム(チタニア、酸化チタンとも呼ぶ)を含有するので、特許文献3に開示された発明を適用しようとするとガラス原料を加熱して熔解する初期熔融段階で、ガラス融液中に微細な気泡が大量に発生してしまう。そのため、均質な熔融状態にするまで長時間を要するものとなり、必要以上に高温加熱を施す、あるいは大型の製造設備を用いねばならず、ガラスの製造効率を低下させるという問題点がある。
【0008】
また上述に加えて、難熔解性の原料、例えばガラス物品に求められる特定の性能を所望のものとするため、あるいは結晶化ガラスの構成成分として重要な働きを担うジルコニア(ZrO)等の原料をガラス組成中の必須構成成分として含有させる場合には、特許文献3に開示された方法を適用すると炉内においてジルコニア原料等の熔解が遅れがちになり、未熔解となって熔融ガラスの均質化の妨げとなる傾向がある。このような初期熔融における熔解の遅延や、未熔解による異物の生成などは、ガラスの製造効率を著しく低くする。これを防ぐため、炉内温度のさらなる昇温操業、ガラス溶融炉の大型化など、製造時の経済性を考慮しない対応を行えば、それなりの改善を図れるが、このような対応は少量多品種のガラス物品を効率よく製造するという要求には相反するものとなる。すなわち、省エネルギーでしかも多種のガラス物品を効率よく製造するという点からは逆行する対応となってしまい、製造条件にも制約が生じ問題となる。
【0009】
本発明は、難熔解性の酸化チタニウムを含有する混合ガラス原料であって、特にリチウムアルミノシリケート系のガラス組成を有するガラス、あるいは結晶化ガラス用途の混合ガラス原料として好適な構成を有し、原料加熱時の初期熔解性を向上させ、均質性の優れたガラス物品を経済的に省エネルギーで容易に得ることのできる混合ガラス原料と、この原料を用いたガラス物品の製造方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の混合ガラス原料は、酸化チタニウム原料を含む複数種のガラス原料が混合された混合ガラス原料であって、前記酸化チタニウム原料の全量中の造粒された原料の含有率が、質量百分率表示で30%以上であることを特徴とする。
【0011】
酸化チタニウム原料を含む複数種のガラス原料が混合された混合ガラス原料であって、前記酸化チタニウム原料の全量中の造粒された原料の含有率が、質量百分率表示で30%以上であるとは、次のようなものである。所望の性能を発揮するガラス物品を製造するため、様々な天然原料及び化成原料が所定量秤量され、混合された状態でガラス熔融炉内へと投入するため用いられている。混合ガラス原料は、2以上の異なるガラス原料が混合操作を受けたものである。本発明は、このような混合ガラス原料の内、酸化チタニウム(TiO)を含有する混合ガラス原料を対象とするものである。本発明では、混合ガラス原料中の酸化チタニウム原料は、造粒されているものと造粒されていないものとを含んでいる。そして造粒されている酸化チタニウム原料と造粒されていない酸化チタニウム原料の質量の総和を100とした場合、造粒された酸化チタニウム原料の質量が30以上となることを意味している。
【0012】
本発明で含有される酸化チタニウム原料は、熔融されて得られるガラス物品について、酸化物換算の質量百分率表示で0.1%以上の含有率となるように調合されたものである。すなわち、酸化チタニウム原料は、原料不純物などとして含まれるものではない。
【0013】
酸化チタニウム原料の全量中の造粒された酸化チタニウム原料の含有率が、質量百分率表示で30%以上とするためには、予め造粒体を所定量製造しておき、これを造粒されていない原料に混合することによって30%以上の含有率としてもよく、あるいは当初はその全てに造粒操作を施して、そのほぼ全量を造粒物とした後、混合操作や搬送操作等で造粒体が機械的な外力を受けて解砕され、結果として30%以上の含有率となる場合でもよい。後者の場合は、予め混合操作や搬送操作等の諸条件を適宜調整し、造粒物が潰れにくい条件下で様々な操作を行えばよい。
【0014】
酸化チタニウム原料の全量中の造粒された酸化チタニウム原料の含有率が、質量百分率表示で30%に満たない場合には、バッチ反応により融液中に生成する微細な径の気泡の発生を抑制し、均質な熔融状態にするまでの時間を短時間に短縮する働きが小さくなるため好ましくない。一方、酸化チタニウム原料の全量中の造粒された酸化チタニウム原料の含有率が、質量百分率表示で99%を超えても、それに応じた泡生成の抑止効果の増大は少なく、輸送、貯蔵などの様々な原料処理時に、予め造粒された状態を維持し続けるのが困難になる場合もある。99%以上を維持するには、原料の取り扱いに十分な注意が必要になり、そのための設備費用も増大するものとなる。このような観点から酸化チタニウム原料の全量中の造粒された酸化チタニウム原料の含有率の含有率のより好ましい範囲は、30%以上98%未満であり、さらに好ましくは35%以上97%以下、一層好ましくは40%以上96%以下とすることである。
【0015】
造粒された酸化チタニウム原料を得る造粒方法としては、所望の品位の造粒体を得ることができるものであれば必要に応じて様々な方法を適用してよい。例えば、噴霧乾燥(スプレードライ)、攪拌(混合)造粒、転動造粒、押し出し造粒、破砕造粒、流動層造粒、圧縮造粒などの各種の手法を単独あるいは複合させて用いてよい。また特定の造粒方法を採用せずとも、酸化チタニウム原料を製造、生成する方法を適用して得られた固結体を粉砕する際にその粒度が小さくならないように注意して所定粒度の造粒物を得、所定の造粒状態をその後の原料の秤量、混合、搬送及び投入等の各種のガラス原料の取り扱い工程中で維持し続け、所定の造粒された粒度状態が実現できるものであってもよい。
【0016】
噴霧乾燥(スプレードライ)は、高温気流中に液体を分散させて乾燥させることによって造粒を行う方法で、液体の比表面積を著しく増加させることにより秒単位で乾燥し大量の造粒粉体を得られる方法である。攪拌(混合)造粒は、攪拌されている1次粒子に各種結合剤を含む水溶液等を添加し、種々の形状の羽根等の回転子の回転動作によりせん断、転動、圧密作用などを付与し粒子間の架橋形成を進行させ微小粒の生成、結合(会合)と破砕(解離)とを繰り返し、このような動作の途中で粒子を徐々に成長させ、造粒粒子を形成していく造粒法である。転動造粒は、1次粒子のガラス原料をドラム型、パン型、あるいは振動型などの様々な形態の容器中で攪拌羽根の回転動作の作用により転動させ、結合剤を含む水溶液をスプレーにより噴霧し、粒子相互間の架橋形成によって微粒を生成させ、さらに転動・回転の運動を粒子に与え続けることによりこの粒子の成長を促進させる造粒法である。押し出し造粒は、ガラス原料に結合剤として水や溶液などの所定の液体を添加した後に混練操作を行い、その後スクリュー、ローラーなどの装置で圧力をかけつつスクリーンあるいはダイ等から所定形状となるように押し出す造粒法である。破砕造粒は、最初にガラス原料粉末原料を圧縮して、高い密度の塊状、板状などの成形物を得、次いでその成形物を破砕および解砕し、整粒して所定の造粒物を得る造粒法である。流動層造粒は、ガラス原料の粉体層を流動状態に保ち、結合剤を含む溶液をそこに噴霧して、ガラス原料粉体を互いにその結合剤により凝集造粒させ、粒子の成長は、噴霧された結合剤によりガラス原料粉体間に液体架橋が形成され、それが乾燥され固化することで進行する。流動層造粒は、転動や攪拌などの他の操作を1つの装置内に収容した状態で行うものであってもよい。圧縮造粒は、ガラス原料粉末を圧縮する機器、例えば互いに反転動作するロール間にガラス原料粉末を供給して直接圧縮して成形する造粒法である。圧縮造粒は、所定形状のタブレットを成形する、所謂タブレッティング装置を用いて行ってもよい。
【0017】
ちなみに造粒された状態にあるかどうかを確認するには、個別の粒子については、光学顕微鏡、電子顕微鏡等を適宜利用して確認すればよく、混合物から造粒物を分離するには、例えば篩、分級装置などを使用した分級操作を施すことにより、容易に分離することができる。
【0018】
本発明の混合ガラス原料は、混合ガラス原料中の造粒された酸化チタニウム原料以外の無機原料の平均粒子径が、5μm以上、かつ200μm以下であれば、炭酸塩原料や硝酸塩原料等、高温化学反応時にこれらの原料から生じる炭酸ガスなどの気体が、大きい径の気泡となりやすい、あるいは初期熔融時のガラス原料の偏析現象(メルティングセグリゲーションとも呼ぶ)の発生を抑止することに繋がり、ガラスの初期熔融が一層円滑に進行し易くなり、好ましい。
【0019】
混合ガラス原料中の造粒された酸化チタニウム原料以外の無機原料の平均粒子径が、5μm未満であると、初期熔融時にガラス熔融炉内に投入され、堆積した状態で編析を生じ易く、均質な熔融状態を得にくい場合もあり、また偏析が生じると初期熔融時に発生した微細な気泡が粘度の高い粗熔融物内に閉じ込められた状態になり、そのため清澄が円滑に進まず、成形物内に気泡が混入する危険性があるので好ましくない。
【0020】
一方、混合ガラス原料中の造粒された酸化チタニウム原料以外の無機原料の平均粒子径が、200μmを超えると、難熔解性の原料の場合、熔解不足に伴う不均質な熔融状態のガラスが成形域にまで流出し、そのまま成形される危険性が高くなるので好ましくない。このような観点から、酸化チタニウム原料以外の無機原料の平均粒子径は細かいほうがよく、より好ましくは混合ガラス原料中の造粒された酸化チタニウム原料以外の無機原料の平均粒子径が100μm以下とすることであり、さらに好ましくは80μm以下、一層好ましくは60μm以下、さらに一層好ましくは50μm以下、最も好ましくは30μm以下とすることである。
【0021】
本発明の混合ガラス原料は、造粒された酸化チタニウム原料の平均粒子径が、40μm以上、かつ1400μm以下であれば、ガラス熔融の初期高温反応時に微細な気泡が熔融ガラス中に多数発生することがないため、その後の熔融ガラスの均質化が円滑に進みやすく、混合ガラス原料のガラス熔融炉内への投入から短時間の加熱熔融後に成形する場合であっても成形時に気泡の混入が生じにくく好ましい。
【0022】
造粒された酸化チタニウム原料の平均粒子径が、40μm未満であると、酸化チタニウム原料を造粒することによって得られる原料熔解時の初期段階における微細気泡の生成数の低減効果が十分に発揮されないため好ましくない。一方、造粒された酸化チタニウム原料の平均粒子径が、1400μmを超えると酸化チタニウム原料自体の初期熔解性が著しく低下し、初期熔解性の低下を補うためには熔融温度を必要以上に高温に加熱せねばならなくなって、経済的に省エネルギーな製造を実現しがたくなるので好ましくない。以上のような観点から造粒された酸化チタニウム原料の平均粒子径は、60μm以上、1200μm以下とすることが好ましく、さらに好ましくは80μm以上、1000μm以下とすることである。
【0023】
平均粒子径の計測については、レーザー回折粒度分布測定装置などを用いてもよいが、それ以外に前記した篩などによって計測するものであってもよい。
【0024】
本発明の混合ガラス原料は、酸化チタニウム原料が、アナタース型酸化チタニウムを主成分とするものであるならば、大量の高い純度の酸化チタニウムを経済的に安価な費用で得ることができ、しかもガラス熔融炉に投入した後に、高温で他のガラス原料との化学反応が円滑に進み易いため好ましい。
【0025】
酸化チタニウムが、アナタース型酸化チタニウムを主成分とするものであるとは、酸化チタニウムの結晶構造の異なる3種類の多形、すなわちルチル型(正方晶高温型ともいう)、ブルッカイト型(斜方晶型ともいう)、及びアナタース型(アナターゼ型、あるいは正方晶低温型ともいう)の内、アナタース型のものが7割以上含有されている酸化チタニウムであることを意味している。アナタース型のものが7割以上含有されていることを確認する手段としては、例えばX線回折装置などを用い定量分析を行えばよい。
【0026】
本発明の混合ガラス原料は、上述に加えてリチウム成分及び/又はジルコニウム成分を含有するものであれば、所望の高温粘度、光学性能、さらに好適な液相温度を実現し、数多くの用途に適用できるガラス物品あるいは結晶化ガラス物品を製造することができる。液相温度は、熔融ガラスから結晶が初相として析出する温度のことである。
【0027】
本発明の混合ガラス原料は、上述に加えてアルミニウム成分及び/又はケイ素成分を含有するものであれば、さらにガラス物品の化学的耐久性、熔融状態での高温粘度などの性能について、安定した品位で成形が行い易いものとなるので好ましい。さらに本発明は、酸化物換算の質量百分率表示でSiO+Al 75%以上、RO(R=Na+K+Li) 8%以下の組成を有するガラス物品に用いられる混合ガラス原料に適用すると特に好ましい。なんとなれば、このようなガラス物品の粘性は、一般に103.0dPa・sが1400℃以上になり、このため初期熔融段階で偏析が生じやすく、原料バッチの熔融が困難になる傾向が高いからである。またこのような構成であれば、従来1700℃を超える温度で溶融していたガラス物品を1700℃以下の温度で熔融することができ、省エネルギーな製造環境で品質の優れたガラス物品を製造することが可能となる。上述した103.0dPa・sのガラス粘度の計測には、例えば白金球引き上げ法等の高温粘性の計測方法を用いればよい。
【0028】
本発明の混合ガラス原料は、結晶化ガラス物品の製造用として用いられるものであれば、ガラス原料混合物中の酸化チタニウムが、結晶化ガラスの核形成成分として有効に働くものとして用いることができるため、優れた品位の結晶化ガラスを得ることができるので好ましい。
【0029】
本発明のガラス物品の製造方法は、本発明の混合ガラス原料をガラス熔融炉内に投入し、加熱熔融して熔融ガラスとした後、該溶融ガラスを板状体、フィルム状体、棒状体、糸状体または管状体に成形することを特徴とする。
【0030】
本発明の混合ガラス原料をガラス熔融炉内に投入し、加熱熔融して熔融ガラスとした後、該溶融ガラスを板状体、フィルム状体、棒状体、糸状体または管状体の何れかに成形するとは、次のようなものである。すなわち、本発明のガラス物品の製造方法は、酸化チタニウム原料を含む複数種のガラス原料が混合された混合ガラス原料であって、前記酸化チタニウム原料の全量中の造粒された酸化チタニウム原料の含有率が、質量百分率表示で30%以上である混合ガラス原料をガラス熔融炉内に所定の原料投入装置あるいは原料投入手段を用いて、予め秤量され混合操作を受けた他の混合ガラス原料とともに投入され、ガラス溶融炉に備えられた加熱装置あるいは加熱手段によって加熱されて初期熔融段階を経て溶融状態とされ、均質化装置あるいは均質化手段により均質化された後、板状体、フィルム状体、棒状体、糸状体または管状体の何れかの形状に成形するというものである。
【0031】
原料投入装置あるいは原料投入手段としては、スクリューチャージャー、振動フィーダー、振動コンベヤ、ベルトコンベヤ、あるいはプッシャーなどの各種の原料投入装置を用いてもよく、またこのような投入装置に頼らず、人力によって原料を所定量だけ投入できる耐熱性の柄杓などを用いる原料投入手段によるものであってもよい。
【0032】
加熱装置あるいは加熱手段としては、液体、気体あるいは固体燃料を燃焼させることによって加熱手段を用いてもよく、発熱体や加熱電極などの電気エネルギーを加熱源とする加熱装置によって所定温度に加熱するものであってもよい。
【0033】
均質化装置あるいは均質化手段としては、様々な気体をガラス熔融炉内に滞留する熔融ガラス中にバブリングさせ、それに伴って熔融ガラス中の微細な気泡を高速に浮上させる均質化手段を用いてもよく、所謂スターラーと呼ばれる様々な形態の耐熱性部材により構成された攪拌装置を用いて熔融ガラス生地の均質化操作を施してもよい。
【0034】
板状体、フィルム状体、棒状体、糸状体または管状体の何れかに成形するには、例えば板形状、あるいはフィルム形状に係わる成形方法であれば、ロール成形、スリットダウンドロー成形(またはスロットダウンドロー成形)、オーバーフローダウンドロー成形、あるいはフロート成形等の成形方法が適用可能であり一度成形した板状体を再加熱してリードロー成形してもよい。また管形状や棒形状あるいは糸状体に係わる成形方法であれば、ダウンドロー成形、あるいはダンナー成形等の成形方法で所定の寸法形状に成形すればよい。
【0035】
本発明のガラス物品の製造方法は、破砕されたガラスカレットをガラス溶融炉に投入する工程を含むものであれば、製造効率を向上させることが容易になるので好ましい。
【発明の効果】
【0036】
以上のように、本発明の混合ガラス原料は、酸化チタニウム原料を含む複数種のガラス原料が混合された混合ガラス原料であって、前記酸化チタニウム原料の全量中の造粒された酸化チタニウム原料の含有率が、質量百分率表示で30%以上であるため、酸化チタニウムを含有する混合ガラス原料、特に結晶化ガラス用途で用いられる混合ガラス原料として好適な構成を有し、経済的に省エネルギーな低温での熔融でも安定した品位を容易に得られ、原料加熱時の初期熔解性を向上し、均質性の優れたガラス物品を容易に得ることができる。
【0037】
また、本発明のガラス物品の製造方法は、本発明の混合ガラス原料をガラス熔融炉内に投入し、加熱熔融して熔融ガラスとした後、該溶融ガラスを板状体、フィルム状体、棒状体、糸状体または管状体の何れかに成形するため、所望の優れた品位のガラス物品を効率よく、経済的にも安価に製造することが可能である。またこのガラス物品の製造方法により得られたガラス物品を熱処理などすることによって結晶化ガラスとするにも好適なものである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に本発明の混合ガラス原料、そしてこの混合ガラス原料を使用するガラス物品の製造方法について、実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0039】
本発明の混合ガラス原料として、リチウムアルミノシリケートを基本組成とするガラス物品に係わる混合ガラス原料に関して説明する。この混合ガラス原料は、結晶化ガラスの原ガラスとなるガラス組成を有するガラス物品を得るための原料であって、そのガラス組成の酸化物換算の質量百分率表示は、SiO 65%、Al 20%、LiO 5%、BaO 2%、P 2%、ZrO 2%、 RO(R=Na+K) 2%、TiO 2%といった組成で構成されている。このガラスの物品としての用途は、光学部材、構造部材、及び機能部材等の用途で用いられるものである。よってこのガラス物品に求められる性能は、熱膨張係数などの熱的性質、屈折率及び分散などの光学的性質、さらに弾性係数、硬度及び強度などの機械的性質などである。従って、何れの性質についてもガラス物品の均質性の低下は、悪影響を及ぼすものとなるため安定した均質性の確保はガラス物品の製造を行う上で重要である。
【0040】
まず、酸化チタニウムについては、チタン鉄鉱(イルメナイトとも呼ぶ)等の鉱石を原料とし粉砕後、硫酸に溶解して得られる硫酸チタンを加水分解後、洗浄工程を経て水酸化チタニウムを析出させ、焼成工程の後に酸化チタニウムとして固化したものを湿式粉砕や分級処理を経て酸化チタニウムを精製する、いわゆる硫酸法によって得られたものを用いる。この酸化チタニウムは、アナタース型酸化チタニウムが98%程度存在し、主成分となるものである。硫酸法の製造工程の最終段階の分級処理などで、粒度の粗いもののみを分級時に収集して得られたものであり、その平均粒径は約500μmから600μmのものを用いる。この酸化チタニウムの純度は99%以上であり、不純物としてはFe、P、あるいはNb等を含有している。こうして得られた酸化チタニウム造粒体の硬度は、数gfから数十gfに成形されており、その疎充填嵩密度は、1g/ml以下の造粒体である。
【0041】
次いで、酸化チタニウム以外の様々な原料、すなわち酸化アルミニウム、酸化ケイ素、炭酸リチウム、ジルコニア等については、それぞれ所定量を秤量してアルミナライナーのアルミナ製ボールミルを使用して3時間粉砕混合を行う。こうして得られた原料の混合物はその平均粒度が、未粉砕混合時の平均粒度47μmに対して、11μmとなるまで細粒混合化処理がおこなわれた。
【0042】
この後、細粒混合化処理がおこなわれた酸化チタニウム以外の様々な原料に、上記した手順で予め製造した酸化チタニウム原料を所定量添加する。この後、アルミナ製ボールミルを使用して造粒された酸化チタニウム粒子が過度に解砕されることのないように回転速度を遅くし、処理時間を短くし、いずれかの条件を半分以下に変更して混合操作を行い、混合ガラス原料を得た。
【0043】
この混合ガラス原料について、含有する酸化チタンの造粒された粒子の量を25μmの篩を用いた篩分級によって調べたところ、質量百分率表示で、先に投入した造粒酸化チタニウムの質量を100%とすると、混合条件の違いによって39%から48%の造粒体が混合時に解砕されずに残留していた。具体的には、5検体について調べたところ、39%、42%、46%、47%及び48%であった。なお、混合ガラス原料中に含まれる造粒された酸化チタニウム粒子の量を定量する方法は、次の手順で行った。まず、混合前の造粒酸化チタニウム粒子の25μm未満の粒子の量を篩分級で調べると、全ての酸化チタニウムの3.5%であった。次いで、5検体の混合ガラス原料について、25μmの篩上残渣中の含有する酸化チタンの量を定量して酸化チタニウムの含有量を得た。こうして得られた酸化チタニウム含有量は、先の調査から100−3.5=96.5%に相等することになり、この分析結果と、混合後のガラス熔融原料中の25μm以上の篩上残分に関しての酸化チタニウムの量の定量分析とから、造粒された酸化チタニウムの比率を得たものである。
【0044】
ちなみに、混合前の造粒酸化チタニウム粒子の25μm未満の粒子の量が不明である場合、すなわち、単に酸化チタニウムを含有する混合ガラス原料を入手した場合は、例えば以下の手順を採用すればよい。まず、混合ガラス原料の定量組成分析を行い、含有する成分の酸化物換算の含有量を算出する。またこの混合ガラス原料の粒度分布をレーザー回折粒度分布計などで計測し、粒度分布を得る。次いで、混合ガラス原料を例えば32μm、25μm、13μmなどの複数の目開きの篩を用いて分級操作を行い、分級品の夫々について酸化チタニウムの定量分析を行う。よってこの場合は、混合ガラス原料は32μmの篩上の分級体A、32μmから25μmの間の分級体B、25μmから13μmの間の分級体C、13μmの篩下の分級体Dに四分割される。それぞれの分級操作で四分割されたA〜Dの夫々の混合ガラス原料の質量、粒度分布及び酸化チタニウムの含有量の測定値から、四分割されたA〜Dの夫々の混合ガラス原料中の酸化チタニウムの含有率が判明する。例えば、この場合であればC、Dの酸化チタニウムの含有量の合量が、30%以上となっていて、かつ電子顕微鏡(SEM)による観察で粒子の集合状態の確認を行い、蛍光X線像と比較観察することによって酸化チタニウムが造粒されている確証が得られれば、本願発明であることが判る。ちなみに篩目は必要に応じて適正なものに変えればよい。
【0045】
以上の工程により得られた混合ガラス原料、すなわち混合されたガラス溶融炉への投入用原料の性状について調査するため、46%の造粒酸化チタニウム粒子が残留している混合ガラス原料を白金製ボートに充填し、1520℃〜1300℃の温度範囲に設定した温度傾斜炉内に15時間保持し、ガラス化温度の計測、及び溶融表面状態の観察、気泡発生状況に関する観察を行った。この際に上述と同条件で、造粒された酸化チタニウム原料を用いず、造粒された酸化チタニウム原料以外の混合ガラス原料中の無機原料の平均粒子径が、65μmの原料を用いて予め準備した比較試料を用いた調査も行い、本発明の効果と比較した。その結果、本発明の混合ガラス原料では、ガラス化温度が30℃低下し、さらに微細な気泡の生成が明らかに少なく、安定した熔融状況を示すことが判明した。
【0046】
また、39%の造粒酸化チタニウム粒子が残留している混合ガラス原料を白金製ボートに充填し、上記同様に1520〜1300℃の温度範囲に設定した温度傾斜炉内に15時間保持し、ガラス化温度や表面状態などの計測と、気泡発生に関する観察を行った。この場合も同条件で、造粒された酸化チタニウム原料を用いず、造粒された酸化チタニウム原料以外の混合ガラス原料の平均粒子径が、60μmの原料を用いて予め準備した比較試料を用いた調査も行い、本発明の効果と比較した。その結果、本発明の混合ガラス原料では、ガラス化温度が20℃低下し、微細な気泡の生成が明らかに少なく、安定した熔融状況を示すことが判明した。また、42%の造粒酸化チタニウム粒子が残留している混合ガラス原料を用いた場合と、比較試料として造粒された酸化チタニウム原料を用いず、造粒された酸化チタニウム原料以外の混合ガラス原料の平均粒子径が、60μmの原料を用いた場合とを調べたところ、本発明の混合ガラス原料では、ガラス化温度が約25℃低下し、他の本発明と同様に微細な気泡の生成も少なく、安定した熔融状況を示すものであった。
【0047】
以上の結果を踏まえて、発熱体加熱装置を有する小型電気熔融炉を用いて、本発明の混合ガラス原料の評価を行った。人力で混合ガラス原料を投入しながら、初期熔融を行い、所定温度に保持した後、攪拌スターラーにより均質化を行い、ロール成形によって板状に成形を行う装置を備えている。この小型電気溶融炉は、1650℃を超える温度設定でガラスの熔融を行うのは困難な構造であるが、本発明を適用することによって、ガラス化温度を低下させることができ、熔融の初期段階で発生する微細な気泡の数が少なくなって泡の熔融ガラス面の上方へのバッチ反応時に発生する高温反応時の発生ガスの放出が速やかに進行した。結果として、本発明のガラス熔融炉用原料を用いることによりガラス生地温度が1600℃から1620℃程度の熔融条件でも、熔融を終えてロール成形されたガラス板には泡が残留することもなく、優れた品位のガラス物品を得ることが経済的に行えることが判明した。ちなみにガラス熔融生地温度の計測は、炉内に設置した熱電対によって計測したものである。こうして得られたロール成形した板ガラスを用いて、結晶化のための焼成処理を行うと、優れた品位で安定した性能を発揮する結晶化ガラスが得られた。
【0048】
上述したように、本発明の混合ガラス原料を用いると、初期熔融段階における熔融温度を低下させることが容易で、しかも初期熔融段階で発生する気泡の径が微細なものとならなくなり、その後の清澄が速やかに進行するので、成形されるガラス物品中にも微細な気泡が残留する危険性が少なくなる。このため例えば結晶化ガラスを製造しても、光学的な外観に優れた品位のものが得られるばかりでなく、強度等の機械的品位についても優れた品位のものを製造することが可能となることが明瞭になった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタニウム原料を含む複数種のガラス原料が混合された混合ガラス原料であって、
前記酸化チタニウム原料の全量中の造粒された酸化チタニウム原料の含有率が、質量百分率表示で30%以上であることを特徴とする混合ガラス原料。
【請求項2】
混合ガラス原料中の造粒された酸化チタニウム原料以外の原料の平均粒子径が、5μm以上、かつ200μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の混合ガラス原料。
【請求項3】
造粒された酸化チタニウム原料の平均粒子径が、40μm以上、かつ1400μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の混合ガラス原料。
【請求項4】
酸化チタニウム原料が、アナタース型酸化チタニウムを主成分とするものであることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の混合ガラス原料。
【請求項5】
混合ガラス原料が、結晶化ガラス物品の製造用として用いられることを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の混合ガラス原料。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れかに記載の混合ガラス原料をガラス熔融炉内に投入し、加熱熔融して熔融ガラスとした後、該溶融ガラスを板状体、フィルム状体、棒状体、糸状体または管状体の何れかに成形することを特徴とするガラス物品の製造方法。

【公開番号】特開2011−157229(P2011−157229A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19891(P2010−19891)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】