説明

混合比算出装置、及び該混合比算出装置を用いた混合比算出方法

【課題】混合液体の混合比の検出精度の低下が抑制された混合比算出装置、及び混合比算出方法を提供する。
【解決手段】混合液体中に配置される対をなす電極、及び対をなす電極の静電容量を検出する検出回路を有するセンサ部と、該センサ部の出力信号に基づいて、混合液体の混合比を算出する算出部と、を備え、センサ部は、それぞれの静電容量が異なる、対をなす電極を少なくとも3つ有し、算出部は、センサ部の出力信号に含まれる、測定された少なくとも3つの静電容量それぞれに対応する比誘電率を算出し、算出された少なくとも3つの比誘電率と該比誘電率それぞれに対応する静電容量とに対する回帰直線、若しくは比誘電率と該比誘電率それぞれに対応する静電容量の逆数とに対する回帰直線を算出し、該回帰直線に基づいて、補正された比誘電率を算出し、補正された比誘電率に基づいて、混合液体の混合比を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検出対象である混合液体の誘電率を含む静電容量を検出し、検出された静電容量に基づいて混合液体の混合比を算出する混合比算出装置、及び該混合比算出装置を用いた混合比算出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に示されるように、アルコールとガソリンとを含む混合液体のアルコール含有量(アルコールとガソリンの混合比)を測定する装置が提案されている。この装置は、混合液体が貫流するケーシングの一部分をなす電極と、ケーシング内に配置されたセンサ素子と、これら電極とセンサ素子とによって構成されるコンデンサの静電容量を評価する電子測定回路と、を有する。該電子測定回路は、静電容量から混合液体の誘電率を検出し、検出された誘電率に基づいてアルコールとガソリンの混合比を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5―87764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、混合液体の誘電率を含む静電容量を検出するためには、混合液体中に電極とセンサ素子とを配置しなくてはならない。これにより、混合液体に含まれる異物が電極若しくはセンサ素子に付着し、電極とセンサ素子とによって構成されるコンデンサの静電容量が変化する虞がある。混合液体に含まれる異物の誘電率は、概して混合液体の誘電率よりも大きいので、静電容量の期待値よりも大きい値が検出される虞がある。コンデンサの静電容量が異物によって変化すると、該静電容量に基づいて算出される比誘電率、及び該比誘電率に基づいて算出されるアルコールとガソリンの混合比も変化し、これによってアルコールとガソリンの混合比の検出精度が低下する虞がある。
【0005】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、混合液体の混合比の検出精度の低下が抑制された混合比算出装置、及び該混合比算出装置を用いた混合比算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、混合液体中に配置される対をなす電極、及び対をなす電極によって構成されるコンデンサの静電容量を検出する検出回路を有するセンサ部と、該センサ部の出力信号に基づいて、混合液体の混合比を算出する算出部と、を備える混合比算出装置であって、センサ部は、それぞれの静電容量が異なる、対をなす電極を少なくとも3つ有しており、算出部は、センサ部の出力信号に含まれる、測定された少なくとも3つの静電容量それぞれに対応する比誘電率を算出し、算出された少なくとも3つの比誘電率と、該比誘電率それぞれに対応する静電容量とに対する回帰直線、若しくは、算出された少なくとも3つの比誘電率と、該比誘電率それぞれに対応する静電容量の逆数とに対する回帰直線を算出し、該回帰直線に基づいて、補正された比誘電率を算出し、補正された比誘電率に基づいて、混合液体の混合比を算出することを特徴する。
【0007】
このように本発明によれば、被検出対象である混合液体の誘電率を含む少なくとも3つの静電容量と、該静電容量それぞれに対応する少なくとも3つの比誘電率とに対する回帰直線、若しくは上記した静電容量の逆数と比誘電率とに対する回帰直線を求めることで、補正された比誘電率を算出し、補正された比誘電率に基づいて混合液体の混合比を算出する。すなわち、電極の汚れの影響が取り除かれた比誘電率に基づいて混合比を算出する。これにより、本発明に係る混合比算出装置は、混合比の検出精度の低下が抑制された混合比算出装置となっている。
【0008】
混合液体の比誘電率、及び混合液体の混合比を算出するためのパラメータを記憶する構成としては、請求項2に記載のように、対をなす電極における真空中の静電容量と、混合液体に含まれる成分それぞれの比誘電率と、を記憶保持する記憶部を有する構成を採用することができる。なお、このような構成の場合、請求項3に記載のように、混合液体の温度を測定する温度測定部を有し、記憶部に、混合液体に含まれる成分それぞれの比誘電率の温度特性が記憶された構成が良い。これにより、混合液体の温度変化に応じて、混合液体の混合比を算出することができる。
【0009】
請求項4に記載のように、対をなす電極の表面が、保護膜によって被覆・保護された構成が好ましい。これにより、混合液体による電極の腐食を抑制することができる。
【0010】
請求項5に記載のように、電極が櫛歯形状である構成が良い。これにより、平板形状の電極と比べて、電極間の対向面積を効率良く確保することができる。したがって、混合比算出装置の体格を小型化することができる。
【0011】
請求項6に記載の発明の作用効果は、請求項1〜5いずれかに記載の発明の作用効果と同様なので、その記載を省略する。
【0012】
請求項7に記載のように、第1算出工程終了後、算出された少なくとも3つの比誘電率それぞれを比較する比較工程を行い、該比較工程において、少なくとも2つの比誘電率の値が同じ値を有する場合に、同じ値を有する比誘電率に基づいて、混合液体の混合比を算出する第5算出工程を行い、比較工程において、比誘電率それぞれが異なる値を有する場合に、第2算出工程、第3算出工程、及び第4算出工程を行うのが良い。第1算出工程を経ることで算出された少なくとも3つの比誘電率のうち、2つの比誘電率が同じ値を持つ場合、すなわち、2つの比誘電率が汚れの影響を受けていない場合、この2つの比誘電率の差分は、ゼロとなる。したがって、上記した比較工程を行うことで、差分がゼロとなる比誘電率、すなわち汚れの影響がない比誘電率を求めることができる。このように、汚れの影響を受けていない比誘電率が少なくとも2つ算出された場合、上記した第2算出工程と第3算出工程とを省くことができるので、算出部の処理速度を速めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施形態に係る混合比算出装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】電極の概略構成を示す断面図である。
【図3】静電容量と比誘電率のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を、アルコールとガソリンとからなる混合液体の混合比の算出に適用した場合の実施形態を図に基づいて説明する。なお、ガソリンは数百種類もの成分からなる液体であるが、ガソリンを構成する成分の誘電率は互いに等しいため、本実施形態では、ガソリンを混合液体に含まれる1種類の成分とみなし、混合液体を、アルコールとガソリンの2種類の成分からなるものとみなす。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る混合比算出装置の概略構成を示すブロック図である。図2は、電極の概略構成を示す断面図である。図3は、静電容量と比誘電率のグラフである。なお、図3においては、横軸が静電容量を示し、縦軸が比誘電率を示している。
【0015】
図1に示すように、混合比算出装置100は、要部として、混合液体の誘電率を含む静電容量を測定し、該静電容量を電気信号に変換するセンサ部10と、該センサ部10から出力された出力信号に基づいて混合液体の混合比を算出する算出部30と、を有する。さらに、本実施形態に係る混合比算出装置100は、混合液体の温度を測定する温度測定部50と、後述する電極11〜14によって構成されるコンデンサの真空中の静電容量、混合液体を構成するアルコール、ガソリンそれぞれの比誘電率、及び該比誘電率の温度特性を記憶保持する記憶部70と、を有している。
【0016】
センサ部10は、混合液体中に配置される4つの電極11〜14と、これら電極11〜14によって測定された、混合液体の誘電率を含む静電容量を検出し、電気信号に変換する検出回路15と、を有している。図2に示すように、電極11〜14それぞれは、断面矩形状とされ、絶縁性の保護膜16を介して基板17上に配置され、その表面が保護膜16によって被覆・保護されている。
【0017】
図2に示すように、第1電極11と第2電極12とが対向されることで、第1電極11と第2電極12とによってコンデンサC12が構成され、第2電極12と第3電極13とが対向されることで、第2電極12と第3電極13とによってコンデンサC23が構成され、第3電極13と第4電極14とが対向されることで、第3電極13と第4電極14とによってコンデンサC34が構成されている。ここで、各コンデンサC12,C23,C34の対向面積は互いに等しくなっている。一方、第1電極11と第2電極12との電極間隔dが、第2電極12と第3電極13との電極間隔dよりも長く、電極間隔dが、第3電極13と第4電極14との電極間隔dよりも長くなっている。コンデンサの静電容量は、対向面積と、電極間隔の逆数とに比例するので、各コンデンサC12,C23,C34の静電容量の比は、電極間隔の逆数の比と等しくなっている。本実施形態では、電極間隔d,d,dの比が、4:2:1となっているので、コンデンサC12,C23,C34の静電容量の比は、1:2:4となっている。なお、本実施形態では、第1電極11と第2電極12との間、第2電極12と第3電極13との間、及び第3電極13と第4電極14との間に介在する保護膜16は、存在しないものとみなしている。
【0018】
算出部30は、センサ部10の各コンデンサC12,C23,C34において測定された、混合液体の誘電率を含む静電容量C,C,Cに基づいて、混合液体の比誘電率ε1r,ε2r,ε3rを検出し、静電容量C,C,Cと、該静電容量それぞれに対応する比誘電率ε1r,ε2r,ε3rとに対する回帰直線を求めることで、補正された比誘電率εを算出する。そして、補正された比誘電率εに基づいて、混合液体の混合比a,bを算出する。算出部30には、混合液体の温度を測定する温度測定部50と、コンデンサC12,C23,C34の真空の静電容量C012,C023,C034、アルコールとガソリンそれぞれの比誘電率εar,εbr、及び該比誘電率εar,εbrの温度依存性を記憶保持する記憶部70と、が接続されている。算出部30は、温度測定部50の測定結果を参照し、計算に必要なパラメータを記憶部70から取り出すことで、混合比a,bを算出する。
【0019】
次に、本実施形態に係る混合比算出方法を説明する。先ず、センサ部10の検出回路15によって、コンデンサC12,C23,C34の静電容量C,C,Cを測定し、測定された静電容量C,C,Cを電気信号に変換する。該電気信号がセンサ部10から算出部30に入力されると、算出部30は、記憶部70から真空の静電容量C012,C023,C034を取り出して、測定された静電容量C,C,Cと真空の静電容量C012,C023,C034との商をとることで、比誘電率ε1r,ε2r,ε3rを算出する。以上が、特許請求の範囲に記載の第1算出工程に相当する。
【0020】
以下、第1算出工程で行われる計算を説明する。静電容量は、比誘電率と真空の静電容量との積に等しいので、静電容量C,C,C、比誘電率ε1r,ε2r,ε3r、及び真空の静電容量C012,C023,C034それぞれの関係は、下式(1A)〜(1C)のように示すことができる。
(数1)
=ε1r×C012 ・・・(1A)
=ε2r×C023 ・・・(1B)
=ε3r×C034 ・・・(1C)
【0021】
したがって、下式(2A)〜(2C)に示すように、測定された静電容量C,C,Cそれぞれを、対応する真空の静電容量C012,C023,C034で割ることにより、静電容量C,C,Cから比誘電率ε1r,ε2r,ε3rを算出することができる。
(数2)
ε1r=C/C012 ・・・(2A)
ε2r=C/C023 ・・・(2B)
ε3r=C/C034 ・・・(2C)
【0022】
第1算出工程終了後、算出部30は、測定された静電容量C,C,Cと、変換された比誘電率ε1r,ε2r,ε3rとに対する回帰直線を求める。以上が、特許請求の範囲に記載の第2算出工程に相当する。回帰直線は、公知の最小二乗法を用いることで求めることができるので、本実施形態では、その説明を割愛する。
【0023】
第2算出工程終了後、算出部30は、算出された回帰直線における、静電容量がゼロの時の比誘電率(切片)を求めることで、補正された比誘電率を算出する。以上が、特許請求の範囲に記載の第3算出工程に相当する。
【0024】
以下、算出された回帰直線における、静電容量がゼロの時の比誘電率が、補正された比誘電率、すなわち、汚れの影響が取り除かれた比誘電率に相当する理由について説明する。混合液体の比誘電率をεとし、各コンデンサC12,C23,C34に付着した混合液体に含まれる異物によって、比誘電率εがそれぞれ誤差因子α,α,αだけ変動したとすると、上式(1A)〜(1C)は、下式(3A)〜(3C)のように表される。
(数3)
=(ε+α)×C012 ・・・(3A)
=(ε+α)×C023 ・・・(3B)
=(ε+α)×C034 ・・・(3C)
【0025】
また、混合液体に含まれる異物によって、各コンデンサC12,C23,C34がそれぞれ誤差因子β,β,βだけ変動したとすると、上式(1A)〜(1C)は、下式(4A)〜(4C)のように表される。
(数4)
=ε×C012+β・・・(4A)
=ε×C023+β・・・(4B)
=ε×C034+β・・・(4C)
【0026】
ここで、上式(3A)〜(3C)と、上式(4A)〜(4C)とから、βはα×C012に等しく、βはα×C023に等しく、βはα×C034に等しく、βはαに比例する関係となっていることが確認できる。
【0027】
比誘電率εと真空の静電容量C012,C023,C034は一定なので、誘電率と真空の静電容量との積であるε×C012,ε×C023,ε×C034は一定となる。したがって、誤差因子α,βがない場合、図3の破線で示すように、静電容量及び比誘電率の期待値(黒点)を結んでなる直線は、横軸(静電容量)に対して平行となる。しかしながら、図3に示すように、実際の測定点(白点)は、期待値よりも、静電容量、比誘電率ともに大きくなっている。これは、電極11〜14に付着した、混合液体中に含まれる有機物や、無機物からなる異物の比誘電率が混合液体の比誘電率よりも高いためである。換言すれば、誤差因子αが正の値をとるためである。また、図3に示すように、静電容量が高まるにつれて、測定された静電容量、及び算出された比誘電率がともに大きくなっているのが確認できる。すなわち、静電容量が高まるにつれて、誤差因子α,βが大きくなっていることが確認できる。これは、電極間隔が狭くなる(静電容量が大きくなる)につれて、電極間隔に占める異物の割合が高まり、これによって電極11〜14に付着した異物の影響が大きくなるためである。したがって、これら測定点に基づいて算出された回帰直線は、図3に実線で示すように、静電容量に対して比誘電率が比例する、右肩上がりの直線となっている。この回帰直線と縦軸との交点は、静電容量が最も小さい時(電極間隔が無限の時)に得ることができる比誘電率、すなわち、電極間隔に占める異物の割合が最も低い比誘電率、更にいえば、汚れの影響が最も小さい比誘電率を示している。したがって、求めた回帰直線における縦軸(比誘電率)との交点の値、すなわち、回帰直線における静電容量がゼロの時の比誘電率の値が、汚れの影響が取り除かれた混合液体の比誘電率εに相当することとなる。なお、図3においては、便宜上、プロットの値を大仰に描いている。
【0028】
第3算出工程終了後、算出部30は、温度測定部50によって測定された混合液体の温度に対応するアルコールとガソリンそれぞれの比誘電率εar,εbrを記憶部70から取り出す。そして、算出部30は、比誘電率ε,εar,εbrに基づいて、混合比a、bを算出する。以上が、特許請求の範囲に記載の第4算出工程に相当する。
【0029】
以下、第4算出工程で行われる計算を説明する。混合液体の比誘電率は、各成分の比誘電率とその混合比との線形和に等しいことが一般的に知られているので、混合液体の比誘電率εは、下式(5)によって表すことができる。
(数5)
ε=εar×a+εbr×b ・・・(5)
【0030】
上記したように、混合液体はアルコールとガソリンの2種類からなるので、混合比aとbの和は1に等しく、関係式a+b=1が成り立つ。この関係式を用いて、上式(5)を混合比aとbそれぞれについて整理すると、下式(6A),(6B)が成立する。
(数6)
a=(ε−εbr)/(εar−εbr) ・・・(6A)
b=(εar−ε)/(εar−εbr) ・・・(6B)
【0031】
したがって、補正された比誘電率εと、記憶部70から取り出したεar,εbrとを上式(6A),(6B)に代入することで、混合比a,bを算出することができる。
【0032】
次に、本実施形態に係る混合比算出装置100、及び混合比算出方法の作用効果を説明する。上記したように、混合比算出装置100は、静電容量と誘電率との回帰直線を求め、該回帰直線における、静電容量がゼロの時の比誘電率の値を求めることで、補正された混合液体の比誘電率εを算出している。したがって、この汚れの影響が取り除かれた比誘電率εに基づいて混合比を算出することで、混合比の検出精度の低下を抑制することができる。
【0033】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
【0034】
本実施形態では、混合比算出装置100、及び混合比算出方法を、アルコールとガソリンとからなる混合液体の混合比の算出に適用した例を示した。しかしながら、本実施形態に係る混合比算出装置100、及び混合比算出方法は、上記した混合液体以外にも適用することができる。
【0035】
本実施形態では、混合液体に含まれる異物の誘電率が、混合液体の誘電率よりも高い場合において、汚れの影響が取り除かれた混合液体の比誘電率εを求める例を示した。しかしながら、混合液体に含まれる異物の誘電率が、混合液体の誘電率よりも低い場合においても、汚れの影響が取り除かれた混合液体の比誘電率εを求めることができる。この場合、比誘電率の誤差因子αは負の値をとるので、誤差因子αに比例する、静電容量の誤差因子βも負の値をとる。また、誤差因子α,βが負の場合においても、静電容量が高まるにつれて(電極間隔が狭くなるにつれて)、電極間隔に占める異物の割合が高まるので、誤差因子α,βの値は大きくなる。これにより、異物の誘電率が混合液体の誘電率よりも低い場合には、比誘電率と静電容量とに対する回帰直線が右肩下がりとなる。この右肩下がりの回帰直線と縦軸(比誘電率)との交点は、電極間隔に占める異物の割合が最も低い比誘電率、すなわち、汚れの影響が最も小さい比誘電率を示している。したがって、求めた回帰直線における縦軸との交点の値、すなわち、回帰直線における静電容量がゼロの時の比誘電率の値が、汚れの影響が取り除かれた混合液体の比誘電率εに相当する。このように、混合液体に含まれる異物の誘電率が、混合液体の誘電率よりも低い場合においても、比誘電率と静電容量との回帰直線における、縦軸との交点の値を求めることで、汚れの影響が取り除かれた混合液体の比誘電率εを求めることができる。
【0036】
本実施形態では、電極間の対向面積が一定とされ、電極間隔がそれぞれ異なることで、各コンデンサC12,C23,C34の静電容量が異なる例を示した。しかしながら、電極間隔が一定とされ、電極間の対向面積がそれぞれ異なることで、各コンデンサC12,C23,C34の静電容量が異なる構成を採用することもできる。この場合、対向面積が小さくなる(静電容量が小さくなる)にしたがって、電極間隔に占める異物の割合が高くなるので、比誘電率と静電容量との回帰直線における静電容量がゼロの時の比誘電率の値は、汚れの影響が最も大きい比誘電率に相当する。したがって、この回帰直線からは、汚れの影響が取り除かれた混合液体の比誘電率εを求めることはできない。しかしながら、このような、対向面積がそれぞれ異なることで、各コンデンサC12,C23,C34の静電容量が異なる構成の場合、比誘電率と静電容量の逆数とに対する回帰直線を求めることで、汚れの影響が取り除かれた混合液体の比誘電率εを求めることができる。この回帰直線の場合、対向面積が大きくなる(静電容量が大きくなる)にしたがって、静電容量の逆数が小さくなり、且つ、電極間隔に占める異物の割合も低くなる。したがって、求めた回帰直線と縦軸(比誘電率)との交点の値は、静電容量が無限(対向面積が無限)の時に得ることができる比誘電率、すなわち、対向面積に占める異物の割合が最も低い比誘電率、更にいえば、汚れの影響が最も小さい比誘電率を示している。したがって、求めた回帰直線における縦軸との交点の値、すなわち、回帰直線における静電容量の逆数がゼロ(静電容量、及び対向面積が無限大)の時の比誘電率の値が、汚れの影響が取り除かれた混合液体の比誘電率εに相当する。このように、電極間隔が一定とされ、電極間の対向面積がそれぞれ異なることで、各コンデンサC12,C23,C34の静電容量が異なる構成においても、比誘電率と、静電容量の逆数との回帰直線を求め、該回帰直線における静電容量の逆数がゼロの時の比誘電率を求めることで、補正された比誘電率εを算出することができる。
【0037】
本実施形態では、第1算出工程終了後に、第2算出工程を行う例を示した。しかしながら、第2算出工程を行う前に、第1算出工程終了後、算出された3つの比誘電率それぞれを比較する比較工程を行っても良い。算出された比誘電率の内、2つの比誘電率に誤差因子が含まれていない場合、それら2つの比誘電率の差分はゼロとなる。したがって、差分した際に、ゼロとなる比誘電率を求めることで、誤差因子がない、すなわち、汚れの影響がない比誘電率を算出することができる。このように、汚れの影響がない比誘電率が2つ検出された場合、上記した第2算出工程と第3算出工程とを省くことができるので、算出部30の処理速度を速めることができる。
【0038】
本実施形態では、電極11〜14が断面矩形状である例を示した。しかしながら、電極11〜14の形状は、上記例に限定されない。電極11〜14の形状としては、例えば櫛歯形状を採用することができる。これにより、体格が小さな電極であっても、電極間の対向面積を十分に確保することができるので、混合比算出装置100の体格を小型化することができる。
【0039】
本実施形態では、4つの電極11〜14をセンサ部10が有する例を示した。しかしながら、電極の数は少なくとも4つ以上であれば良く、上記例に限定されない。例えば、センサ部10が電極を5つ有する構成を採用することもできる。この場合、コンデンサが4つ構成される。
【符号の説明】
【0040】
10・・・センサ部
30・・・算出部
50・・・温度測定部
70・・・記憶部
100・・・混合比算出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合液体中に配置される対をなす電極、及び対をなす前記電極によって構成されるコンデンサの静電容量を検出する検出回路を有するセンサ部と、
該センサ部の出力信号に基づいて、前記混合液体の混合比を算出する算出部と、を備える混合比算出装置であって、
前記センサ部は、それぞれの静電容量が異なる、対をなす前記電極を少なくとも3つ有しており、
前記算出部は、前記センサ部の出力信号に含まれる、測定された少なくとも3つの静電容量それぞれに対応する比誘電率を算出し、算出された少なくとも3つの前記比誘電率と、該比誘電率それぞれに対応する静電容量とに対する回帰直線、若しくは、算出された少なくとも3つの前記比誘電率と、該比誘電率それぞれに対応する静電容量の逆数とに対する回帰直線を算出し、該回帰直線に基づいて、補正された比誘電率を算出し、補正された前記比誘電率に基づいて、前記混合液体の混合比を算出することを特徴とする混合比算出装置。
【請求項2】
対をなす前記電極における真空中の静電容量と、前記混合液体に含まれる成分それぞれの比誘電率と、を記憶保持する記憶部を有することを特徴とする請求項1に記載の混合比算出装置。
【請求項3】
前記混合液体の温度を測定する温度測定部を有し、
前記記憶部には、前記混合液体に含まれる成分それぞれの比誘電率の温度特性が記憶されていることを特徴とする請求項2に記載の混合比算出装置。
【請求項4】
対をなす前記電極の表面が、保護膜によって被覆・保護されていることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の混合比算出装置。
【請求項5】
前記対をなす電極は、櫛歯形状であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の混合比算出装置。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載の混合比算出装置を用いて、前記混合液体の混合比を算出する混合比算出方法であって、
前記センサ部の出力信号に含まれる、少なくとも3つの静電容量それぞれに対応する比誘電率を算出する第1算出工程と、
算出された少なくとも3つの比誘電率と、該比誘電率それぞれに対応する静電容量とに対する回帰直線、若しくは、算出された少なくとも3つの前記比誘電率と、該比誘電率それぞれに対応する静電容量の逆数とに対する回帰直線を算出する第2算出工程と、
算出された回帰直線に基づいて、補正された比誘電率を算出する第3算出工程と、
補正された比誘電率に基づいて、前記混合液体の混合比を算出する第4算出工程と、を有することを特徴とする混合比算出方法。
【請求項7】
前記第1算出工程終了後、算出された少なくとも3つの前記比誘電率それぞれを比較する比較工程を行い、
該比較工程において、少なくとも2つの前記比誘電率の値が同じ値を有する場合に、同じ値を有する前記比誘電率に基づいて、前記混合液体の混合比を算出する第5算出工程を行い、
前記比較工程において、前記比誘電率それぞれが異なる値を有する場合に、前記第2算出工程、前記第3算出工程、及び前記第4算出工程を行うことを特徴とする請求項6に記載の混合比算出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−203979(P2010−203979A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51258(P2009−51258)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】