説明

混練合方法及び固形リン除去剤の製造方法

【課題】 多価金属塩のうち特にリン酸イオンとの反応性に富み、リン分を固体化できる鉄塩又はアルミニウム塩に徐放性を持たせることのできる、鉄塩又はアルミニウム塩と水溶性樹脂との混練合方法及び固形リン除去剤の製造方法を提供する。
【解決手段】 鉄塩又はアルミニウム塩と水溶性樹脂との混練合方法であって、鉄塩又はアルミニウム塩と水溶性樹脂との混練合前に、水溶性樹脂を水と有機溶媒に溶解し水溶性樹脂溶液とし、鉄塩又はアルミニウム塩と水溶性樹脂溶液を混練合する混練合方法。次ぎの製造工程を経て作製される固形リン除去剤の製造方法、(a)水溶性樹脂を水と有機溶媒との混合溶媒に溶解し、水溶性樹脂溶液とする工程、(b) (a)にて得た水溶性樹脂溶液と鉄塩又はアルミニウム塩とを混練合する工程、(c) (b)にて得た混練合物を乾燥する工程、(d) (c)にて得た乾燥物を粉砕する工程、(e) (d)にて得た粉砕物を圧縮成形する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、戸建住宅、集合住宅、コンビニエンスストア等の小規模建築施設から排出されるし尿排水、生活排水、有機系排水等の合併排水(以降、これらを単に排水と略す)を処理する、特にリン分も除去する排水浄化槽に用いられる鉄塩又はアルミニウム塩と水溶性樹脂との混練合方法及び固形リン除去剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記の施設等から排出される排水は、嫌気処理と好気処理の生物処理機能を主体とする排水浄化槽によって処理され、消毒した後、放流される。これら排水浄化槽は、排水中の固形物や有機物を除去して汚濁指標のBODを低減(除去)して、さらには排水を嫌気処理と好気処理の系内で循環させて、窒素分を除去する。しかし、このような処理を施してもリン分(リン酸イオン)は除去することができず、そのまま放流される。そこで、排水浄化槽では、リン酸イオンも除去することを目的に、鉄、アルミニウム、カルシウム等の多価金属イオンを排水中に供給し、多価金属イオンとリン酸イオンとを反応させることにより固体化(または粒子化)して沈殿、浮上又は濾過等の処理によって除去する反応凝集法が用いられている。
【0003】
そして、この多価金属イオンを排水中に供給する方法として、例えば、リン酸イオンと反応する多価金属塩と消毒能を有する塩素系化合物とを混合して錠剤化し、この錠剤を浄化処理の終了した処理水と接触させて、リン酸イオンの除去と処理水の消毒を行う、リン除去殺菌固形剤がある(特許文献1参照)。さらには、多価金属塩は水溶解性に富んでいるため、これに徐放性を持たせるべく、高級脂肪酸、高級アルコール、パラフィン類等の有機化合物と鉄塩、アルミニウム塩等を混ぜて加熱溶解、冷却固化し、この塊状物を活性汚泥方式の曝気槽に添加して溶解させる、固形脱窒、脱リン促進剤がある(特許文献2参照)。
一方、リンの除去には直接関係しないがポリビニルアルコールに活性汚泥等を固定する例がある。すなわち、活性汚泥等にポリビニルアルコール水溶液を添加した後、この混合液に無機塩類(硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等)を加えると、ポリビニルアルコールの溶解度が低下して析出(塩析)し、さらに収縮する。この塩析の際、ポリビニルアルコール殻に活性汚泥が包括固定されるというものである(特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−210676号公報
【特許文献2】特開2001−269689号公報
【特許文献3】特開平5−301094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リン除去殺菌固形剤のような例では、殺菌剤を含んでいるため、生物処理が終了した後に処理水と接触させる必要のあること、また、固形脱窒、脱リン促進剤のような例では、反応量に見合う多価金属イオンに過不足を生じることが推測される。
そこで、本発明者らは、ポリビニルアルコールに活性汚泥等を固定する例から、多価金属塩に徐放性を持たせるために、多価金属塩をポリビニルアルコールでコーティングするという技術思想に至った。しかしながら、引例のごとくポリビニルアルコール水溶液と無機塩類とを混合するとポリビニルアルコール自体が塩析してしまうため、多価金属塩をコーティングするという目的が達成できない。
本発明は、上記課題を解決し、多価金属塩のうち特にリン酸イオンとの反応性に富み、リン分を固体化できる鉄塩又はアルミニウム塩に徐放性を持たせることのできる、鉄塩又はアルミニウム塩と水溶性樹脂との混練合方法及び固形リン除去剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは前記した課題を解決することを目的にして、鉄塩又はアルミニウム塩がポリビニルアルコール系樹脂等の水溶性樹脂でコーティング(または結合)され、徐放性を有する塊状のリン除去剤を検討した。検討を進める中で、前記したとおりポリビニルアルコール系樹脂は通常、水に溶解して用いられるが、この水溶液と鉄塩又はアルミニウム塩とを混合すると、塩析作用と見られる現象によってポリビニルアルコール系樹脂がゲル化してしまい、両者の均一混合のための混合と練り混ぜ(以降、混練合と呼ぶことにする)が出来なかった。そこで、この両者の混練合が良好にできる方法を鋭意検討した結果、本発明を見出すに至った。すなわち、
本発明は、(1)鉄塩又はアルミニウム塩と水溶性樹脂との混練合方法であって、鉄塩又はアルミニウム塩と水溶性樹脂との混練合前に、水溶性樹脂を水と有機溶媒に溶解し水溶性樹脂溶液とし、鉄塩又はアルミニウム塩と水溶性樹脂溶液を混練合する混練合方法である。
また、本発明は、(2)鉄塩又はアルミニウム塩、及び多糖類との混合物と水溶性樹脂との混練合方法であって、鉄塩又はアルミニウム塩、及び多糖類の混合物と水溶性樹脂との混練合前に、水溶性樹脂を水と有機溶媒との混合溶媒に溶解し水溶性樹脂溶液とし、鉄塩又はアルミニウム塩、及び多糖類の混合物と水溶性樹脂溶液を混練合する混練合方法である。
また、本発明は、(3)有機溶媒がアルコール系溶媒またはアルコール系溶媒とケトン系溶媒である上記(1)または上記(2)に記載の混練合方法である。
また、本発明は、(4)水溶性樹脂が、ポリビニルアルコール系樹脂である上記(1)ないし上記(3)のいずれかに記載の混練合方法である。
【0007】
更に、本発明は、(5)次ぎの製造工程を経て作製される固形リン除去剤の製造方法である、
(a)水溶性樹脂を水と有機溶媒との混合溶媒に溶解し、水溶性樹脂溶液とする工程、
(b)(a)にて得た水溶性樹脂溶液と鉄塩又はアルミニウム塩とを混練合する工程、
(c)(b)にて得た混練合物を乾燥する工程、
(d)(c)にて得た乾燥物を粉砕する工程、
(e)(d)にて得た粉砕物を圧縮成形する工程。
また、本発明は、(6)次ぎの製造工程を経て作製される固形リン除去剤の製造方法である、
(a)水溶性樹脂を水と有機溶媒に溶解に溶解し、水溶性樹脂溶液とする工程、
(b)鉄塩又はアルミニウム塩と、多糖類とを混合する工程、
(c)(a)及び(b)にて得た水溶性樹脂溶液と鉄塩又はアルミニウム塩、及び多糖類の混合物とを混練合する工程、
(d)(c)にて得た混練合物を乾燥する工程、
(e)(d)にて得た乾燥物を粉砕する工程、
(f)(e)にて得た粉砕物を圧縮成形する工程。
また、本発明は、(7)有機溶媒がアルコール系溶媒またはアルコール系溶媒とケトン系溶媒である上記(5)または上記(6)に記載の固形リン除去剤の製造方法である。
また、本発明は、(8) 水溶性樹脂が、ポリビニルアルコール系樹脂である上記(5)ないし上記(7)のいずれかに記載の固形リン除去剤の製造方法である。
また、本発明は、(9圧縮成形の圧力が、30〜50MPaである、上記(5)ないし上記(8)のいずれかに記載の固形リン除去剤の製造方法である。
なお、ポリビニルアルコール系樹脂とは、水酸基、水酸基及びアセチル基、又は水酸基、アセチル基及びアセタール基を有するポリビニルアルコール樹脂を指す。
【発明の効果】
【0008】
本発明の鉄塩又はアルミニウム塩と水溶性樹脂溶液との混練合方法は、予め水溶性樹脂を水と有機溶媒の混合溶媒に溶解してから、鉄塩又はアルミニウム塩と混練合するので、水溶性樹脂の塩析を生じることなく均一に混練合することができる。
また、本発明の鉄塩又はアルミニウム塩、及び多糖類の混合物と水溶性樹脂溶液との混練合方法も上記と同様の効果を発揮できる。
さらに本発明の固形リン除去剤の製造方法によれば、予め水溶性樹脂を水と有機溶媒の混合溶媒に溶解してから、その後の一連の工程を経ることにより、徐放性を有した固形リン除去剤を容易に得ることができる。
また、本発明の固形リン除去剤の製造方法において、30〜50MPaの成形圧力に設定することによって、安定した徐放性を有する固形リン除去剤を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について説明する。
本発明の製造方法によって得られる固形リン除去剤の最大の特徴は、排水中のリン酸イオンと反応して不溶性又は難溶性の塩を形成する物質に対して溶解速度を遅らせる、すなわち徐放性を付与したことである。そして、その固形リン除去剤の主成分は、鉄塩又はアルミニウム塩と、水溶性樹脂との混合物質からなっている。また、上記の主成分に更に多糖類を加えた物質からもなっている。
【0010】
前記の水溶性樹脂は、例えば、親水性構造単位としてヒドロキシ基を有する樹脂であるポリビニルアルコール系樹脂{ポリビニルアルコール(PVA)、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、アニオン変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール等}、セルロース系樹脂{メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等}、キチン類、キトサン類、デンプン、エーテル結合を有する樹脂{ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル(PVE)等}、カルバモイル基を有する樹脂{ポリアクリルアミド(PAAM)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリル酸ヒドラジド等}等が挙げられる。これらの水溶性樹脂の中でも、N原子を含まないことが好ましく、前記ポリビニルアルコール系樹脂及び多糖類は、生分解性であり、また窒素分を含まないので、排水(又は汚水)浄化槽への適用には好適である。
【0011】
固形リン除去剤のうち、鉄塩又はアルミニウム塩には、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄及びそれらの水和物等の鉄塩、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウムナトリウム及びそれらの水和物等のアルミニウム塩、等を挙げられるが、これらの化合物の中では好ましくは非潮解性のものである。なお、カルシウム塩、マグネシウム塩等も挙げられるが、好ましくは鉄塩又はアルミニウム塩である。
【0012】
水酸基、水酸基及びアセチル基、又は水酸基、アセチル基及びアセタール基を有するポリビニルアルコール系樹脂は、ポリ酢酸ビニルをケン化して水酸基を付与し、さらにはアルデヒドと反応させてアセタール基を付与したものである。なお、これらは下記構造式に示され、ポリ酢酸ビニルを100%ケン化すれば一般式(1)に示すように水酸基を有し、部分ケン化すれば一般式(2)に示すように水酸基及びアセチル基を有し、さらにアセタール化すれば、一般式(3)に示すように水酸基、アセチル基及びアセタール基を有する(この場合、ポリビニルアセタール樹脂ともいう)ものになる。なお、一般式(3)で示されるRはアルキル基である。一般式(1)、(2),(3)中のn、m、lは、それぞれ整数を表わす。
【0013】
【化1】

【0014】
【化2】

【0015】
【化3】

【0016】
これらポリビニルアルコール系樹脂を代表とする水溶性樹脂は、通常、水又は熱水に溶解して用いられる。しかしながら、本目的においては、この溶解液(水溶液)と鉄塩又はアルミニウム塩の粉体(粉体、細粒体又は粉体、細粒体等を含んだ状態のものを粉体と呼ぶことにする)とを混ぜると、水溶性樹脂が塩析作用等によりガム状に固形化してしまう。したがって、鉄塩又はアルミニウム塩との混練合が良好に行われず、これら無機塩をコーティングする、または結合させる等の目的を達成できない。
【0017】
しかしながら、水と有機溶剤との混合溶媒に溶かした水溶性樹脂溶液は、これら樹脂溶液に鉄塩又はアルミニウム塩を添加しても塩析現象がなく、混練合を良好に施すことができる。有機溶剤としては、水溶性樹脂を溶解し、塩析現象を生じないものであれば制限がなく、単独でも2種類以上でも使用することができる。有機溶剤としては、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、メチルアルコール等のアルコール系溶媒又はアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒が好ましく、水と有機溶媒との混合溶媒に溶かした水溶性樹脂溶液は、これら樹脂溶液に鉄塩又はアルミニウム塩を添加しても塩析現象がなく、混練合を良好に施すことができる。水と有機溶媒との混合溶媒に溶かした水溶性樹脂溶液中の水溶性樹脂は、1〜20重量%が好ましい。そして、前記有機溶媒の中では、水と有機溶媒との配合割合は、水/有機溶媒(容量比)で10/90〜90/10が好ましい。
【0018】
図1は、本発明に関する鉄塩又はアルミニウム塩の粉体と水溶性樹脂とを混練合する一例の工程図である。先ず、水溶性樹脂を水と有機溶媒との混合溶媒に溶解して水溶性樹脂溶液(溶液状、但し、粘性を有する)にする。この際、混合溶媒を80〜90℃に加熱しながら溶解させることが好ましい。一方、鉄塩又はアルミニウム塩は粉砕して粉体化したものを用いることが好ましい。そして、上記鉄塩又はアルミニウム塩の粉体と水溶性樹脂溶液とを混練合するものである。混練合においては撹拌して均一に混合させること、また、混練合の後には混合溶媒を飛散させる必要があることから、水溶性樹脂溶液の水溶性樹脂濃度は、前記のように1〜20重量%が好ましい。そして、前記混合溶媒の中では水とアルコール系溶媒、特に水とイソプロピルアルコール(IPAと略す)との混合溶媒が好ましい。この混合溶媒の配合割合は、前記のように水/有機溶媒(容量比)で10/90〜90/10が好ましい。
【0019】
図2は、本発明に関する鉄塩又はアルミニウム塩の粉体、及び多糖類の粉体と水溶性樹脂とを混練合する一例の工程図である。図2では、鉄塩又はアルミニウム塩の粉体に多糖類の粉体を予め均一に混合する工程を含んでいるが、その他は図1の工程と同様であるので、混練合の説明は省略する。多糖類としては、澱粉、デキストリン、セルロース又はセロビオースが好ましい。なお、多糖類は結合剤又は粘結剤としての作用を有するものである。また、混合溶媒の中では前記同様に水とアルコール系溶媒、特に水とIPAとの混合溶媒が好ましい。
【0020】
次に、固形リン除去剤の製造方法について説明する。
図3は、本発明に関する鉄塩又はアルミニウム塩の粉体と水溶性樹脂とからなる固形リン除去剤の製造方法を示す一例の工程図である。先ず、水溶性樹脂を水と有機溶媒との混合溶媒に溶解し、水溶性樹脂溶液を作製する。次ぎこの水溶性樹脂溶液と鉄塩又はアルミニウム塩の粉体とを混練合する。この工程までは既に述べているので、詳細の説明は省略する。なお、この工程で得られる混練合物は概ね糊状又は軟膏状になる。次ぎにこの混練合物は乾燥して溶媒を蒸発させる。乾燥工程においては水溶性樹脂の変質を防ぐこと、また、乾燥時間を短縮させることなどから真空乾燥が好ましい。次ぎに乾燥物を粉砕する。なお、粉砕においては前記したとおり、粉体にすることが好ましい。最後に粉体物を圧縮成形する。形状は円柱状、角柱状、球状等の錠剤様、あるいは錠剤より大きい塊様等、いずれの形状であってもよい。以上の工程を経ることによって固形リン除去剤を得ることができる。
【0021】
なお、前記において圧縮成形する際の離型性をよくするために、粉砕工程以降又は圧縮成形する前の工程で滑沢剤を加えてもよい。滑沢剤としてはステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸塩、オルト硼酸、安息香酸ナトリウム等を用いることができる。
【0022】
固形リン除去剤の配合量は、鉄塩又はアルミニウム塩を100重量部としたときに、水溶性樹脂1〜15重量部とすることが好ましい。これに滑沢剤を加えるときには、その配合量は滑沢剤0.2〜1重量部が加えられる。
【0023】
図4は、本発明に関する鉄塩又はアルミニウム塩の粉体、及び多糖類の粉体と水溶性樹脂とからなる固形リン除去剤の製造方法を示す一例の工程図である。図4では、鉄塩又はアルミニウム塩の粉体に、多糖類の粉体を予め均一に混合する工程を含んでいるが、その他は図3の工程と同様であるので、詳細の説明は省略する。なお、前記同様に圧縮成形する際の離型性をよくするために、粉砕工程以降又は圧縮成形する前の工程で滑沢剤を加えてもよい。滑沢剤としてはステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸塩、オルト硼酸、安息香酸ナトリウム等を用いることができる。
【0024】
固形リン除去剤の配合量は、鉄塩又はアルミニウム塩を100重量部としたときに、多糖類1〜15重量部、水溶性樹脂1〜15重量部とすることが好ましい。これに滑沢剤を加えるときには、その配合量は、滑沢剤0.2〜1重量部が加えられる。
【0025】
前記において、圧縮成形する際の成形圧(圧力)は、好ましくは30〜50MPa、より好ましくは35〜45MPaである。この範囲で成形することによって、強度があり、また徐放性においてもバラツキの少ない成形物(例えば錠剤)を得ることができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
(実施例1〜3及び比較例1)
水溶性樹脂としてポリビニルアルコール系樹脂を用い、ポリビニルアルコール系樹脂溶液に硫酸第一鉄七水和物(関東化学株式会社、試薬1級)の粉体を加えて、ポリビニルアルコール系樹脂の塩析有無を試験した。ポリビニルアルコール系樹脂には、完全ケン化型(日本合成化学工業株式会社、ゴーセノールNLタイプ))、部分ケン化型(日本合成化学工業株式会社、ゴーセノールGLタイプ))、アセタール型((積水化学工業株式会社、エスレックKW及びKSタイプ)を用いた。表1には、ポリビニルアルコール系樹脂溶液に硫酸第一鉄七水和物の粉体を加えて混合した際の塩析の有無を試験した結果を示した。混合溶媒に溶かしたポリビニルアルコール系樹脂溶液は、硫酸第一鉄七水和物を加えても塩析を生じなかった(実施例1〜3)が、比較例1の溶媒として水のみを用いた場合、塩析が見られ、樹脂と金属塩とを混合することができなかった。
【0027】
【表1】

【0028】
(実施例4)
図3に示した製造方法に従って固形リン除去剤を製造した。鉄塩には硫酸第一鉄七水和物(関東化学株式会社、試薬1級)を、ポリビニルアルコール系樹脂には完全ケン化型(日本合成化学工業株式会社、ゴーセノールNLタイプ)を用いた。先ず、ゴーセノールNLタイプを水(60)/IPA(イソプロピルアルコール、40)(容量比)の混合溶媒に加えた後、加熱しながら溶解し、ゴーセノールNLタイプ10重量部の溶液を作製した。次に硫酸第一鉄七水和物の粉体に上記ゴーセノールNLタイプ溶液を加えて撹拌機で混練合した。混練合物はペースト状(糊状)になるが、これを真空乾燥器で乾燥した後、粉砕機で粉砕して粉体化した。混練合物の配合割合は、硫酸第一鉄七水和物100重量部、ゴーセノールNLタイプ6重量部(溶媒は除く)とした。最後に粉体化した混合物5gをハンドプレス型錠剤成形器により、成形圧30MPaで圧縮成形し、直径20mm、高さ約10.5mmの円柱状のタブレットを得た。
【0029】
(実施例5)
図4に示した製造方法に従って固形リン除去剤を製造した。鉄塩には硫酸第一鉄七水和物(関東化学株式会社、試薬1級)を、多糖類にはデキストリン(関東化学株式会社、試薬1級)を、ポリビニルアルコール樹脂には部分ケン化型(日本合成化学工業株式会社、ゴーセノールGLタイプ)を用いた。先ず、ゴーセノールGLタイプを水(60)/IPA(40)(容量比)の混合溶媒に加えた後、加熱しながら溶解し、ゴーセノールGLタイプ10重量部の溶液を作製した。一方、硫酸第一鉄七水和物の粉体にデキストリンを加えて均一となるように撹拌機で混合した。このものに上記ゴーセノールGLタイプ溶液を加えて撹拌機で混練合した。混練合物はペースト状(糊状)になるが、これを真空乾燥器で乾燥した後、粉砕機で粉砕して粉体化した。混練合物の配合割合は、硫酸第一鉄七水和物100重量部、デキストリン9重量部、ゴーセノールGLタイプ6重量部(溶媒は除く)とした。最後に粉体化した混合物5gをハンドプレス型錠剤成形器により、成形圧50MPaで圧縮成形し、直径20mm、高さ約10mmの円柱状のタブレットを得た。
【0030】
(比較例2)
硫酸第一鉄七水和物(関東化学株式会社製、試薬1級)とデキストリン(関東化学株式会社製、試薬1級)とを混ぜて、乳鉢で粉化した。この混合粉体5gをハンドプレス型錠剤成形器により、圧力約30MPaで加圧した結果、直径20mm、高さ約10.5mmの円柱状のタブレットを得た。表2の比較例2に組成物の配合割合を示し、硫酸第一鉄七水和物100重量部、デキストリン11重量部とした。
【0031】
(比較例3)
硫酸第一鉄七水和物(関東化学株式会社製、試薬1級)とセルロース(日本製紙ケミカル株式会社製、KCフロック)とを混ぜて、乳鉢で粉化した。この混合粉体5gをハンドプレス型錠剤成形器により、圧力約30MPaで加圧した結果、直径20mm、高さ約10.5mmの円柱状のタブレットを得た。表2の比較例3に組成物の配合割合を示し、硫酸第一鉄七水和物100重量部、KCフロック2.5重量部とした。
(溶解性試験)
幅23mm、長さ60mmの塩化ビニル製トレイに、上記実施例4、5及び
比較例2、3で作製したタブレットを各試験ごとに置き、トレイの上流側から水道水10ml/minを定量ポンプにより10分間連続供給した。このとき、タブレットの下端部から2mm程度の高さまでが水道水と接触した。タブレットと接触した後、トレイから流れ出る流出水全量を容器で受けた。そして、流出水中に溶解した鉄イオン濃度を測定し、タブレット中の鉄分の含有率からタブレットの溶解量を算出した。タブレットの溶解試験結果を表2に示した。なお、鉄イオン濃度の測定には、デジタル簡易水質計(株式会社共立理化学研究所、Λ−8000型)を用いた。
【0032】
【表2】

【0033】
表2から、タブレットの溶解重量比を見ると、比較例2、3に対し、実施例4、5はそれぞれ大幅に小さい値を示しており、溶解量が小さくなっている。すなわち、硫酸第一鉄七水和物と水溶性樹脂のポリビニルアルコール系樹脂とからなるタブレットは、溶解速度が小さく、徐放性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の鉄塩又はアルミニウム塩の粉体と水溶性樹脂(ポリビニルアルコール系樹脂)とを混練合する一例の工程図。
【図2】本発明の鉄塩又はアルミニウム塩の粉体、及び多糖類の粉体と水溶性樹脂(ポリビニルアルコール系樹脂)とを混練合する一例の工程図。
【図3】本発明の鉄塩又はアルミニウム塩の粉体と水溶性樹脂(ポリビニルアルコール系樹脂)とからなる固形リン除去剤の製造方法を示す一例の工程図。
【図4】本発明の鉄塩又はアルミニウム塩の粉体、及び多糖類の粉体と水溶性樹脂(ポリビニルアルコール系樹脂)とからなる固形リン除去剤の製造方法を示す一例の工程図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄塩又はアルミニウム塩と水溶性樹脂との混練合方法であって、鉄塩又はアルミニウム塩と水溶性樹脂との混練合前に、水溶性樹脂を水と有機溶媒に溶解し水溶性樹脂溶液とし、鉄塩又はアルミニウム塩と水溶性樹脂溶液を混練合する混練合方法。
【請求項2】
鉄塩又はアルミニウム塩、及び多糖類との混合物と水溶性樹脂との混練合方法であって、鉄塩又はアルミニウム塩、及び多糖類の混合物と水溶性樹脂との混練合前に、水溶性樹脂を水と有機溶媒との混合溶媒に溶解し水溶性樹脂溶液とし、鉄塩又はアルミニウム塩、及び多糖類の混合物と水溶性樹脂溶液を混練合する混練合方法。
【請求項3】
有機溶媒がアルコール系溶媒またはアルコール系溶媒とケトン系溶媒である請求項1または請求項2に記載の混練合方法。
【請求項4】
水溶性樹脂が、ポリビニルアルコール系樹脂である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の混練合方法。
【請求項5】
次ぎの製造工程を経て作製される固形リン除去剤の製造方法、
(a)水溶性樹脂を水と有機溶媒との混合溶媒に溶解し、水溶性樹脂溶液とする工程、
(b)(a)にて得た水溶性樹脂溶液と鉄塩又はアルミニウム塩とを混練合する工程、
(c)(b)にて得た混練合物を乾燥する工程、
(d)(c)にて得た乾燥物を粉砕する工程、
(e)(d)にて得た粉砕物を圧縮成形する工程。
【請求項6】
次ぎの製造工程を経て作製される固形リン除去剤の製造方法、
(a)水溶性樹脂を水と有機溶媒に溶解に溶解し、水溶性樹脂溶液とする工程、
(b)鉄塩又はアルミニウム塩と、多糖類とを混合する工程、
(c)(a)及び(b)にて得た水溶性樹脂溶液と鉄塩又はアルミニウム塩、及び多糖類の混合物とを混練合する工程、
(d)(c)にて得た混練合物を乾燥する工程、
(e)(d)にて得た乾燥物を粉砕する工程、
(f)(e)にて得た粉砕物を圧縮成形する工程。
【請求項7】
有機溶媒がアルコール系溶媒またはアルコール系溶媒とケトン系溶媒である請求項5または請求項6に記載の固形リン除去剤の製造方法。
【請求項8】
水溶性樹脂が、ポリビニルアルコール系樹脂である請求項5ないし請求項7のいずれかに記載の固形リン除去剤の製造方法。
【請求項9】
圧縮成形の圧力が、30〜50MPaである請求項5ないし請求項8のいずれかに記載の固形リン除去剤の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−21404(P2007−21404A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−208485(P2005−208485)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【出願人】(301050924)株式会社日立ハウステック (234)
【Fターム(参考)】