説明

減圧乾燥機

【目的】地球環境保護を目的に、洗浄用フロンの使用が規制され、代替技術として、水系洗浄が採用されている。水系洗浄後の乾燥に際して、残渣がなくかつ迅速な乾燥が可能な減圧乾燥機を提供する。
【構成】密閉した真空槽内の被乾燥物を複数の遠赤外線プレートヒーターにより加熱するとともに真空ポンプにより真空槽内を排気する真空乾燥機において、間欠的に排気を停止することで、被乾燥物を加熱のみする期間と、被乾燥物の加熱と蒸気の排気を同時にする期間を交互に繰り返しながら乾燥する減圧乾燥機である。
【効果】上記操作により、減圧下において、効率的に対流伝熱し、乾燥速度を向上させた。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】地球環境保護を目的に、オゾン層の破壊物質のひとつである洗浄用フロンの使用が規制されつつある。フロン洗浄に代わる方法として、水系洗浄剤あるいは純水を使用した水系洗浄が採用されている。水系洗浄では乾燥工程を必要とするが、従来の温風乾燥ではウォーターマークが残り、また乾燥時間が長いという問題点がある。本発明は、水系洗浄後の乾燥工程に適した減圧乾燥機に関するものである。
【0002】
【従来の技術】乾燥は、被乾燥物中の水分を気化させ、気化した蒸気を除去する操作である。真空乾燥では、真空槽内を減圧することで蒸気は除去できるが、真空乾燥においても、気化熱の供給がなければ、蒸気を効率よく発生させることができない。気化熱を供給する方法には、大気を導入する方法と内部にヒーターを設置する方法がある。
【0003】大気を導入する方法として、真空槽内の圧力を、予め設定した圧力と被乾燥物の飽和蒸気圧力に周期的に制御する真空乾燥装置(実公昭60−26635)がある。この真空乾燥機の特徴は、予め設定した圧力から被乾燥物の飽和蒸気圧力まで、外気を導入し、被乾燥物に蒸気熱を供給することにある。内部にヒーターを設置する方法として、真空槽底部にヒーター配置した乾燥装置(実公昭53−36777)がある。この真空乾燥機の特徴は、底面に密着したヒーターにより気化熱を供給し、排気口を底部略中央に設置したことにある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、気体(大気)導入により蒸発熱を供給する場合、排気を継続しながら大気を導入すると、導入した気体が被乾燥物と接触しないで直接排気され、十分に対流伝熱をしない。ヒーターを底部配置した場合でも、底部に設置された排気口から常時排気をすると、過熱蒸気が発生しても、被乾燥物と接触しないで対流伝熱をしない。
【0005】本発明は、導入した気体やヒーターの加熱によって生成された過熱蒸気の熱を被乾燥物に十分に伝達することができるために乾燥効率にすぐれ、また乾燥に際しウォーターマークの形成を低減あるいは防止することができる乾燥機の提供を課題としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明は、(1)密閉した真空槽内の被乾燥物を複数の遠赤外線プレートヒーターにより加熱するとともに、真空ポンプにより真空槽内を排気する真空乾燥機において、間欠的に排気を停止することで、被乾燥物を加熱のみする期間と、被乾燥物の加熱と蒸気の排気を同時にする期間を交互に繰り返しながら乾燥することを特徴とする減圧乾燥機である。
【0007】また(2)間欠的に排気を停止するために、真空槽の排気口と真空ポンプを繋ぐ配管の途中に所望の時間あるいは圧力に間欠的あるいは周期的に開閉する弁を設置し、かつ加熱のみの期間に真空槽上部に滞留した過熱蒸気を被乾燥物に接触させるために、排気口を真空槽の底部略中央に設置したことを特徴とする前記(1)の減圧乾燥機である。
【0008】また(3)真空槽の排気口と真空ポンプを繋ぐ配管の途中に設置した弁がリークのない弁であり、乾燥の終点判定を真空槽内の圧力指示により行うことを特徴とする前記(2)の減圧乾燥装置である。
【0009】
【作用】本発明者は、減圧下において、対流伝熱を促進するためには、間欠的に排気を停止することが、有効であることを、実験により把握した。減圧下で、排気を停止すると、遠赤外線プレートヒーターが乾燥物に気化熱を供給し、蒸気を発生する。発生蒸気は、さらに遠赤外線プレートヒーターから加熱され、過熱蒸気となる。過熱蒸気は、上昇気流となり、真空槽上部に滞留する。なお、前記(1)および(2)の減圧乾燥装置では対流媒体を増やすために、外部より気体を導入(リーク)してもかまわない。
【0010】過熱蒸気が滞留した時点で、底部排気口から排気を再開すると、過熱蒸気は下降しながら被乾燥物と接触し被乾燥物を乾燥する。またこの下降する過熱蒸気は遠赤外線プレートヒーターの影となった部分にも熱を伝達する。排気の停止と排気の再開の操作を繰り返すことで、放射と対流伝熱により気化熱を十分に供給し、乾燥速度が向上する。
【0011】また、十分に気化熱を被乾燥物中の水分に与えた状態で迅速に排気して真空槽内を減圧すると、突沸が発生し、被乾燥物の水分が液滴のまま被乾燥物より分離するので、乾燥速度がさらに上昇する。例えばこの突沸によって乾燥速度が向上すると、液滴中の溶存成分が凝縮しないで乾燥するので、ウォーターマークの発生もみられなかった。突沸をさせるには、大気圧から4Torrまでの排気時間が、10分以内の真空ポンプが必要であった。
【0012】排気停止期間と排気期間を交互に繰り返すことで、本発明によると対流伝熱を促進し、満足すべき乾燥速度を確立することができる。尚図示しないが、乾燥用真空槽内の気体の循環を促進する他の手段(強制循環用回転扇など)の併用も有効である。
【0013】
【実施例1】以下、本発明を図1から図3の実施例に基づいて説明する。図1は、真空乾燥機の構造概念図である。また表1に実施例と比較例の乾燥時間を示した。表1の枠内の数字は乾燥時間(分)である。またこの真空乾燥機の仕様は次の通りである。
【0014】真空ポンプ1は、モーター出力が1.5KW、排気速度が670リットル/min(20Torr時)、到達圧力が6Torrのドライ式である。真空槽2の容量は、150リットルで、遠赤外線プレートヒーター3を5枚80mm間隔で配置した。遠赤外線プレートヒーター3の間に乾燥物4を置いたトレー5を配置した。トレーの寸法は、440mm幅×710mm長で、底面は、ラス状であった。
【0015】遠赤外線プレートヒーター3は、100Ωに成るように線状に加工した50μmのステンレス箔の発熱抵抗体8を、厚み2mmのフッ素樹脂9に埋設した構造であった。ヒーターの断面構造を図2に示す。サイズは、470mm幅×720mm長×2mm厚であり、遠赤外線プレートヒーターの表面温度は、130℃に自動制御した。弁(排気電動弁)6は、1分周期で開閉を繰り返した。尚駆動方式は電動を例示したが他の方法でもよい。排気口7は、実施例では真空槽下部中央に設置し、比較例では真空槽上部中央に設置した場合も試験した。
【0016】本発明者は、この真空乾燥機を用いて、超音波洗浄した凸型の銀鍍金電極を乾燥した。乾燥試料の電極をトレー毎に4kg広げ、各段に配置した。電極の寸法は、7mm幅×10mm高×0.1mm厚であった。電極に付着した水分量は、200g/トレーであった。乾燥時間20分で、重量変化から完全に水分は乾燥した。経過時間毎の圧力10と電極の温度11とヒーター温度12を図3に示す。
【0017】本発明者は比較例として、同一試料を、同一機器で、電動弁を作動させず、排気口が下部の場合を試験したがその乾燥時間は25分であった。また同一試料を、同一の機器で、電動弁を作動させ、排気口が上部の場合を試験したが、その乾燥時間は27分であった。更に同一試料を、同一機器で、電動弁を作動させず、排気口が上部の場合を試験したが、その乾燥時間は29分であった。
【0018】
【表1】


【0019】
【実施例2】前記実施例において、排気電動弁6を外部よりの気体を導入しない、即ちリークのない全閉弁とした。この際は各サイクルの圧力は図4の13で示した推移となり、乾燥終点においては排気した期間と排気を停止した期間の圧力変化が0となる。このことを利用すれば乾燥の終点時期を別の手段によらず、真空槽の圧力指示により判定できるため、工程期間や管理精度の向上と作業能率の改善が得られる。
【0020】
【発明の効果】上記のように、本発明は、真空乾燥中に、間欠的に排気を停止することで、被乾燥物を加熱のみする期間と、被乾燥物の加熱と蒸気の排気を同時にする期間を交互に繰り返しながら乾燥することで、効率的な対流伝熱により、乾燥速度が速く、また乾燥に際してウォーターマークの形成を低減あるいは防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】は本発明の構造概念図、
【図2】は、遠赤外線プレートヒーターの断面構造図、
【図3】は本発明の経過時間毎の各温度・圧力線図、
【図4】は本発明の全閉弁を使用した圧力・時間線図。
【符号の説明】
1:ドライ式真空ポンプ、 2:真空槽、 3:遠赤外線プレートヒーター、4:乾燥物、 5:トレー、 6:電動弁、 7:排気口、 8:発熱抵抗体、 9:フッ素樹脂、 10:圧力、 11:ヒーター温度、 12:試料電極の温度、 13:圧力。

【特許請求の範囲】
【請求項1】密閉した真空槽内の被乾燥物を複数の遠赤外線プレートヒーターにより加熱するとともに、真空ポンプにより真空槽内を排気する真空乾燥機において、間欠的に排気を停止することで、被乾燥物を加熱のみする期間と、被乾燥物の加熱と蒸気の排気を同時にする期間を交互に繰り返しながら乾燥することを特徴とする減圧乾燥機。
【請求項2】間欠的に排気を停止するために、真空槽の排気口と真空ポンプを繋ぐ配管の途中に所望の時間あるいは圧力に間欠的あるいは周期的に開閉する弁を設置し、かつ加熱のみの期間に真空槽上部に滞留した過熱蒸気を被乾燥物に接触させるために、排気口を真空槽の底部略中央に設置したことを特徴とする請求項1の減圧乾燥機。
【請求項3】請求項2において真空槽の排気口と真空ポンプを繋ぐ配管の途中に設置した弁がリークのない弁であり、乾燥の終点判定を真空槽の圧力指示により行うことを特徴とする減圧乾燥機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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