説明

減結合回路

【課題】xDSL用IT機器等の雷サージ試験において、被試験装置と対向装置間を伝送されるxDSL信号のスループットの劣化防止が可能な減結合回路を提供する。
【解決手段】減結合回路を構成するコモンモードチョークコイルのボビン外周に巻かれる平衡ケーブル900は、絶縁材9aを被覆した2本の電線W1,W2を対撚り合わせた1個の対撚り電線90aと、絶縁材9aを被覆した2本の電線W3,W4を対撚り合わせた1個の対撚り電線90bとを有し、2個の対撚り電線90a,90bを対撚り合わせた1条の複対撚り電線90上に絶縁材900aを同心円状に被覆して構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、xDSL(x Digital Subscriber Line)高速常時接続通信ネットワークに接続されているIT(Information Technology)機器等の通信機器に雷サージ過電圧が印加された際に、上記IT機器等が有する過電圧に対する耐力特性を評価するための雷サージ試験回路に用いられる減結合回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ネットワークのブロードバンド化に伴うインターネット利用の急激な増加の下で、メタル加入者回線においては、従来の音声伝送信号に比べ、xDSL等の高速デジタル通信信号が常時接続された状態での使用が普及している。
【0003】
常時接続通信の普及とともに、xDSL用のIT機器等の雷サージに対する信頼性が求められている。これらのIT機器等は、通信速度の高速化及び広帯域化に伴い、使用する電子デバイスが低電圧駆動され、かつ高密度実装されているため、雷サージ過電圧に対する耐力が低下傾向にある。これに加えて常時接続通信状態が急増し、雷に暴露される確率が高くなったことが一時的な通信異常の増加の一因となっている。
【0004】
このような不具合を改善するため、IT機器等では、雷サージ過電圧に対する耐力特性の評価が必要になっている。xDSL用のIT機器等の雷サージ試験に際しては、国際電気通信連合電気通信標準化部門の過電圧試験法に関する勧告(以下、ITU−T k.44という。)の試験条件において述べられているように、IT機器等を動作状態で実施する必要がある。
【0005】
しかし、雷サージ試験を行う際には、印加した雷サージ過電圧から対向装置を防護するための減結合回路が必要であり、上記ITU−T k.44においても減結合回路を原則として使用することとしている。
【0006】
上記の動作状態における試験の実施及び減結合回路の原則的な使用方法については、非特許文献1に開示されている。また、減結合回路に関しては、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2006−352698号公報
【特許文献2】特開2006−351860号公報
【非特許文献1】「ITU-T K.44 “Resistibility tests for telecommunication equipment exposed to overvoltages and overcurrents-Basic Recommendation”02/2000」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の雷サージ試験におけるxDSLのような高速デジタル通信信号を伝送することのできる減結合回路は、その回路要素であるコモンモードチョークコイルの巻線電線に単線のネオン電線を使用している。そのため、IT機器等の通信機器における2ポート又は4ポートの通信線ポートに対応するために、ネオン電線をボビンの外周に2並列巻き又は4並列巻きして構成していた。また、ネオン電線が運搬あるいは取扱い上の制約からある規定の長さを1巻としているため、コモンモードチョークコイルの巻き始めから巻き終わりの間において、所望の長さを得るために数巻のネオン電線をつないで所望のコモンモードインダクタンス20mHを得ていた。しかし、つなぎ目においては絶縁耐力を考慮して接続処理を行うために、接続処理後の外径が本来のネオン電線の外径よりも太くなるのに伴い、2並列巻のネオン電線の間隔が広がるため、伝送線路の特性インピーダンスの不連続を発生することになり、それに起因する反射が生じた。
【0008】
さらに、特許文献1に関連して同一出願人が出願した特許出願の回路においては、分割型コイル構成を採用していたため、分割コイル間をつなぐ際に、つなぎ部分のネオン電線周囲の媒質が塩化ビニール主体から空気に変わり、さらに塩化ビニール主体にと変化することによって特性インピーダンスも変化し、その結果反射が生じていた。すなわちネオン電線の2並列巻き又は4並列巻きによって成る伝送線路上の反射によって、xDSL用IT機器等のスループットの劣化が生じていた。
【0009】
これらの反射はネオン電線から成るxDSL信号の伝送線路に急峻な変化を伴う不必要な伝送損失を生じさせる。また、この他に位相変化や遅延も発生する。伝送損失の急峻な変化や位相変化等はxDSL用IT機器等の伝送特性の劣化、すなわちスループット特性の劣化を生じさせていた。
【0010】
よって、コモンモードチョークコイルの巻線電線は、xDSL信号伝送に複対撚り電線を有する平衡ケーブルを使用し、かつつなぎ目のない巻線構造にすることによって、前述のような反射の影響を除去することが可能である。しかし、平衡ケーブルの伝送線路特性は優れているが、一般的に過電圧に対する絶縁耐力が低いため減結合回路のコモンモードチョークコイルの巻線電線として使用されなかった。
【0011】
特許文献2においては、コアを有するコモンモードチョークコイルの巻線に1対の撚り線を使用しているが、その絶縁耐力は最大AC300Vで、商用電源に適用されるものであり、また対撚り線は電気的特性の他に機械的特性も兼ね備えたシースを有する平衡ケーブル構造を考慮していない。
【0012】
一方、平成15年1月31日制定された日本電信電話株式会社の通信装置の過電圧耐力に関するテクニカルリクワイヤメントTR189001に定められている雷サージ試験において、通信線−アース間の試験電圧(以下、「コモンモード試験電圧」という)として最大30kVが適用されている。また、通信線間の試験電圧(以下、「ノーマルモード試験電圧」という)は4kVが最大である。よって、コモンモードチョークコイルの巻線電線は雷サージ試験電圧の印加形態を考慮して選定することが適当である。
【0013】
平衡ケーブルでは、巻線電線の絶縁体としてポリエチレンやビニールが使用されているが、絶縁耐力や比誘電率についてはビニールに比べ、ポリエチレンが優れている。ポリエチレンの絶縁耐力は35〜50kV/mmである。10対以下の平衡ケーブルの電線ではポリエチレン被覆の最大厚さは0.5mmであるので、単純に平行平板でポリエチレンを挟む構成を仮定した場合の絶縁耐力を求めると17.5kV以上となる。一般に巻線電線の導体径が大きな10対以下の平衡ケーブルではノーマルモードでの絶縁耐力はカタログ値で最大AC1kVである。この絶縁耐力AC1kVは雷サージ試験波形である10/700us波形(波頭長10us、波尾長700us)の波高値での絶縁耐力に換算すると4kV以上と推定される。
【0014】
よって、巻線電線のポリエチレン被覆の厚さが0.5mmの平衡ケーブルは、雷サージ試験における最大ノーマルモード試験電圧値4kVにおける減結合回路用コモンモードチョークコイルの巻線電線として使用することが可能である。
【0015】
また、コモンモードの雷サージ試験電圧最大値30kVと、平衡ケーブルの絶縁耐力について述べる。一般に巻線電線の導体径が1.2mmと大きく、かつ10対以下の平衡ケーブルでは複対撚り電線上に1.5mm厚の絶縁材が同心円状に被覆(以下、「シース」という)されている。シースの絶縁材としてはポリエチレンやビニールが使用されているが、前述のように、ポリエチレンの方が優れている。ポリエチレンシースの絶縁耐力を求めるとAC42.5kV以上が求まる。よって、ポリエチレンシース厚1.5mmの平衡ケーブルはコモンモード試験電圧の最大値30kVに対して十分な絶縁耐力を有している。
【0016】
よって、複対捻り電線を内蔵し、厚さ1.5mmのポリエチレンシースを有する平衡ケーブルは、減結合回路用のコモンモードチョークコイルの巻線電線として適用できる可能性がある。
【0017】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、その目的としては、xDSL用IT機器等の雷サージ試験において、被試験装置と対向装置間を伝送されるxDSL通信信号のスループットの劣化防止が可能な減結合回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、請求項1の本発明は、メタル加入者回線を用いたxDSLに接続されているIT機器等の通信機器の雷サージ試験回路の被試験装置と前記IT機器等の通信機器である対向装置との間に設置され、前記xDSLの通信信号を通過させる空心コイルで構成されたコモンモードチョークコイルを有する減結合回路であって、絶縁材を被覆した2本の電線を対撚り合わせた1個の対撚り電線と他の1個の対撚り電線とを対撚り合わせた1個の複対撚り電線上に絶縁材を同心円状に被覆して構成された平衡ケーブルを1条有し、前記平衡ケーブルが前記コモンモードチョークコイルのボビンの外周に巻かれていることを特徴とする減結合回路をもって解決手段とする。
【0019】
請求項2の本発明は、前記平衡ケーブルは、前記雷サージ試験回路のノーマルモードにおける試験電圧及びコモンモードにおける試験電圧に対する絶縁耐力を有し、かつ前記xDSLの通信信号を良好に伝送可能な伝送線路特性を有し、さらに前記ボビンに多層巻する際に、前記平衡ケーブルが弛みなく前記ボビンあるいは前記平衡ケーブル同士がしっかりと保持されるように適切な張力や捻りを加えても前記対撚り電線あるいは前記複対撚り電線に過度な変形が生じないような機械的強度を有することを特徴とする請求項1記載の減結合回路をもって解決手段とする。
【0020】
請求項3の本発明は、1個の前記ボビンに前記平衡ケーブルを多層巻にして構成する場合、及び複数個の前記ボビンに前記平衡ケーブルを多層巻にして構成する場合において、前記平衡ケーブルは巻き始めから巻き終わりまでつなぎのない巻線構成にすることによって、つなぎ目で発生する虞のある絶縁耐力の劣化あるいは反射による伝送信号の劣化を防ぐことを特徴とする請求項1又は2記載の減結合回路をもって解決手段とする。
【0021】
請求項4の本発明は、前記コモンモードチョークコイルは、前記IT機器等の通信機器における4ポートの通信線ポートに対応するために、前記平衡ケーブル内の2個の対撚り電線を使用することによりワイヤ数は4ワイヤを有し、前記通信機器の通信線ポートが2ポートに対しては前記平衡ケーブル内の1個の対撚り電線を使用することにより2ワイヤを使用可能とするように構成したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の減結合回路をもって解決手段とする。
【0022】
請求項5の本発明は、メタル加入者回線を用いたxDSLに接続されているIT機器等の通信機器の雷サージ試験回路の被試験装置と前記IT機器等の通信機器である対向装置との間に設置され、前記xDSLの通信信号を通過させる空心コイルで構成されたコモンモードチョークコイルを有する減結合回路であって、前記IT機器等の通信機器における2ポートの通信線ポートに対応するために、前記絶縁材を被覆した2本の電線を対撚り合わせた1個の対撚り電線上に絶縁材を同心円状に被覆して構成された平衡ケーブルを1条有し、前記平衡ケーブルが前記コモンモードチョークコイルのボビンの外周に巻かれていることを特徴とする減結合回路をもって解決手段とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、xDSL用IT機器等の雷サージ試験において、被試験装置と対向装置間を伝送されるxDSL通信信号のスループットの劣化防止が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0025】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態における減結合回路を適用した雷サージ試験回路を示す回路図である。なお、図1に示す雷サージ試験回路は、メタル加入者回線を用いた高速デジタル伝送方式であるxDSL用のIT機器等の通信線−アース間の雷サージ試験に適用した例を示している。
【0026】
図1に示すように、本実施形態の雷サージ試験回路において、雷サージ発生器1は、2つの結合回路3a,3bを介して印加点T1及び印加点T2に接続されている。これらの印加点T1,T2は、ユーザ宅に設置されている加入者保安器で構成された一次防護素子5の一方の端子にそれぞれ接続され、この一次防護素子5の他方の端子は、被試験装置7の通信線ポートにそれぞれ接続されている。
【0027】
また、印加点T1,T2は、減結合回路9の被試験装置7側の端子にそれぞれ接続され、減結合回路9の対向装置11側の端子は、対向装置11の通信線ポートにそれぞれ接続されている。
【0028】
さらに、雷サージ発生器1のアースポートは、被試験装置7のアースポートと接続され、かつアース13に接続されて零電位に保持している。
【0029】
一次防護素子5のアースポートには、接地抵抗を模擬した抵抗15が接続され、この抵抗15の他方の端子はアース13に接続されている。なお、対向装置11は、アースポートを有している場合でも、アース13には接続せずに電位的にフローティングさせている。
【0030】
減結合回路9は、対向装置11と被試験装置7との間で通話路を形成し、被試験装置7の通信線ポートに、ユーザ宅に設置されている加入者保安器で構成された一次防護素子5を接続した状態において、xDSL通信信号を遮断することなく通過させるための空心コイルのみで構成された後述するコモンモードチョークコイルを有している。
【0031】
したがって、雷サージ発生器1で発生させた雷サージ電圧は、2つの結合回路3a,3bを通って印加点T1及び印加点T2に印加される。この時、減結合回路9は、非試験対象のIT機器等の通信機器である対向装置11の通信線ポートに過電圧が流入するのを防止する。
【0032】
図2は、減結合回路9の構成を示す回路図である。図2に示すように、減結合回路9は、絶縁体樹脂からなる筐体17と、この筐体17内に設けられた空心コイルC1〜C4と、被試験装置側端子21と、対向装置側端子23とを備えている。減結合回路9の筐体17の形状は円筒構造からなり、多層巻コイルのボビンに使用される。なお、図2において、空心コイルC1〜C4の巻き始め側は、黒丸印が付されており、空心コイルC1〜C4の巻き終わり側は、上記黒丸印が付されていない側である。
【0033】
また、減結合回路9に使用されている素子である空心コイルC1〜C4は、コモンモードで動作させるコモンモードチョークコイルを構成する。その一例として各々の空心コイルのインダクタンス値は、前述の国際電気標準会議の電磁適合性におけるサージイミュニティ試験規格IEC61000-4-5において20mHと示されている。
【0034】
空心コイルC1〜C4は、雷サージ過電圧の流入を抑制するためのものであり、その巻き始め側は筐体17に設置されている被試験装置7とのインターフェースである被試験装置側端子21に接続されている。
【0035】
この被試験装置側端子21には、空心コイルC1と接続された電線W1の端子21aと、空心コイルC2と接続された電線W2の端子21bと、空心コイルC3と接続された電線W3の端子21cと、空心コイルC4と接続された電線W4の端子21dとが設けられている。
【0036】
また、空心コイルC1〜C4の巻き終わり側は、筐体17に設置されている対向装置11とのインターフェースである対向装置側端子23と接続されている。
【0037】
この対向装置側端子23には、空心コイルC1と接続された電線W1の端子23aと、空心コイルC2と接続された電線W2の端子23bと、空心コイルC3と接続された電線W3の端子23cと、空心コイルC4と接続された電線W4の端子23dとが設けられている。
【0038】
電線W1,W2で対撚り電線90aが構成され、電線W3,W4で対撚り電線90bが構成され、対撚り電線90a,90bで平衡ケーブル900が構成される。
【0039】
図3は、減結合回路9のコモンモードチョークコイルの巻線電線に使用する平衡ケーブル900の断面の概念図である。
【0040】
平衡ケーブル900は、絶縁材9aを被覆した2本の電線W1,W2を対撚り合わせた1個の対撚り電線90aと、絶縁材9aを被覆した2本の電線W3,W4を対撚り合わせた1個の対撚り電線90bとを有し、2個の対撚り電線90a,90bを対撚り合わせた1条の複対撚り電線90上に絶縁材900aを同心円状に被覆して構成されている。複対撚り電線90上の同心円状の絶縁材900aはシースと呼ばれる。
【0041】
各々の巻線電線の被覆及びシースの絶縁材は、絶縁耐力が高く、かつ比誘電率の低いことが必要である。このため一般に通信用ケーブルには、絶縁材としてポリエチレンが使用されている。ポリエチレンは、比誘電率2.3、絶縁耐力35〜50kV/mmである。 巻線電線の導体径は、直流抵抗及び伝送損失を考慮すると大きいことが望ましい。10対以下の平衡ケーブルとしては、導体径1.2mmのものが市販されている。この場合、巻線電線の被覆の厚さは0.5mm、シースの厚さは1.5mmである。
【0042】
一般に10対以下の平衡ケーブルではノーマルモードでの絶縁耐力はカタログ値で最大AC1kVである。この絶縁耐力AC1kVは雷サージ試験波形である10/700us波形(波頭長10us、波尾長700us)の波高値に換算すると4kV以上を有していると推定される。
【0043】
よって、巻線電線のポリエチレン被覆の厚さが0.5mmの平衡ケーブルは、雷サージ試験におけるノーマルモード試験電圧の最大値4kVにおける減結合回路用コモンモードチョークコイルの巻線電線として使用することが可能である。
【0044】
また、雷サージ試験におけるコモンモード試験電圧の最大値30kVと、平衡ケーブルの絶縁耐力について述べる。厚さ1.5mmのポリエチレンシースの絶縁耐力を求めるとAC52.5kV以上が得られる。よって、平衡ケーブルはコモンモード試験電圧の最大値30kVに対して十分な絶縁耐力を有している。よって、複対捻り電線を内蔵し、シースを有する平衡ケーブルをコモンモードチョークコイルの巻線電線として適用できる。
なお、第1の実施の形態に係る減結合回路は、ボビンに多層巻する際に、平衡ケーブルが弛みなくボビンあるいは平衡ケーブル同士がしっかりと保持されるように適切な張力や捻りを加えても対撚り電線あるいは複対撚り電線に過度な変形が生じないような機械的強度を有するものである。
【0045】
図2において述べた空心コイルと、前述の巻線電線として用いる平衡ケーブルとの接続方法について述べる。空心コイルと接続されるワイヤ数は、IT機器等の通信機器ポートに対応するために図2に示すように4ワイヤが必要である。減結合回路では、通信線ポートに相当する線をワイヤと呼ぶことにする。被試験装置の通信線ポートが4ポートの場合には、4ワイヤを使用する。
【0046】
まず、平衡ケーブルの1個の対撚り電線、例えば、ポリエチレン被覆の色が青と白の対の場合において、空心コイルC1には青色を、空心コイルC2には白色を使用する。さらに別のもう1個の対撚り電線、例えばポリエチレン被覆の色が茶と黒の対の場合において、空心コイルC3には茶色を、空心コイルC4には黒色を使用する。2ポートの通信線ポートに使用する場合は2個の対撚り電線のうちのどちらか一方を使用すればよい。一台の減結合回路で通信線ポートが4ポート、2ポートについての雷サージ試験に適用でき、汎用性を高めることが出来る。
【0047】
また、所望のコモンモードインダクタンス20mHを得るためには、平衡ケーブルの長さが400m程必要であるが、この長さをつなぎ目の無いように巻線を行った。これによってつなぎ目による反射を生じさせないという利点がある。
【0048】
このようにつなぎ目のない一条の平衡ケーブルを巻線するだけで、通信線ポートが4ポートの通信機器に対応することが出来る。特許文献2あるいは関連の特許出願における減結合回路用コモンモードチョークコイルのようなネオン電線を4本並列に巻線を行うのに比べて、巻線が容易であると共に、伝送線路としての特性も優れている。さらにはつなぎ目の接続処理に起因する絶縁耐力劣化の虞もなくなる。
【0049】
図4は、4分割巻コモンモードチョークコイルを有する減結合回路9Aを示している。コモンモードチョークコイルは空心の分割コイルD1〜D4、円筒形状の筐体17、被試験側端子21、対向装置側端子23及び巻線用の電線W1〜W4で構成されている。ワイヤ数は4ポートの通信ポートに適用できるように4ワイヤである。ボビンは、分割コイルごとに設けられる。
【0050】
電線W1,W2で対撚り電線90aが構成され、電線W3,W4で対撚り電線90bが構成され、対撚り電線90a,90bで平衡ケーブル900が構成される。
【0051】
空心コイルと、巻線電線として用いる平衡ケーブルとの接続方法について述べる。平衡ケーブル内の対撚り電線、例えばポリエチレン被覆の色が青と白の対の場合において、端子21a、23a間の空心コイルには青色を、端子21b、23b間の空心コイルには白色を使用する。さらに別のもう1個の対撚り電線、例えばポリエチレン被覆の色が茶と黒の対の場合において、端子21c、23c間の空心コイルには茶色を、端子21d、23d間の空心コイルには黒色を使用する。これらは各々の分割コイルに共通である。2ポートの通信線ポートに使用する場合は2個の対撚り電線のうちのどちらか一方を使用すればよい。
【0052】
4分割巻コモンモードチョークコイルでは、分割コイル間の空隙Gが3箇所あるが、これらの空隙において、伝送線路の伝送特性を損なわぬように、つなぎ目のないように平衡ケーブルを巻線する必要がある。この際には各分割コイルにおいて予め巻線回数と平衡ケーブル長との関係を把握しておく必要がある。
【0053】
以上に述べたように巻線電線として電線導体径1.2mm、ポリエチレン被覆厚0.5mm、ポリエチレンシース厚1.5mmの複対撚りから成る、平衡ケーブルを使用することによって、テクニカルリクワイヤメントTR189001に定められている雷サージ試験電圧を満足する、多層巻及び分割巻きを用いた、コモンモードインダクタンス20mHのコモンモードチョークコイルを有する減結合回路を実現することが出来る。
【0054】
(第2の実施形態)
図5は、本発明の第2の実施形態である、ポリエチレンで被覆した2本の電線を対撚り合わせた1個の対撚り電線と、ポリエチレンで被覆した2本の電線を対撚り合わせたもう1個の電線とを、対撚り合わせた1個の複対撚りした電線にビニールシースを施した平衡ケーブルを用い、かつ2分割巻のコモンモードチョークコイルを有する減結合回路の周波数対伝送損失特性を示す図である。ここで用いた平衡ケーブルにおいては、ポリエチレン被覆厚0.2mmの巻線電線の導体径は0.65mmであり、ビニールシース厚は0.7mmの2対ビニールシースケーブルである。本コモンモードチョークコイルは、伝送特性のみを評価するためのものであり、絶縁耐力に関しては考慮していない。
【0055】
伝送特性は周波数に対して滑らかな特性傾向を持っており、その値は10MHzで−21.6dBである。伝送特性が滑らかであることは、伝送線路の特性インピーダンスの不連続によって生じる反射がほとんど発生していないことを示している。また、伝送損失が従来のネオン電線のものよりも若干大きい原因は、巻線電線の導体径がネオン電線の導体径1.8mmに比べて約1/3と小さいためであり、導体径が0.65mmよりも大きな1.2mmをもち、かつ比誘電率がビニールシースよりも相当小さな値(比誘電率は2.3)のポリエチレンシースをもつ平衡ケーブルを採用することにより、伝送損失を低減できることは明らかである。
【0056】
一方、従来のネオン電線を用いた4分割巻の減結合回路用コモンモードチョークコイルでは1MHz以上で伝送損失がリップルを生じており、1〜3MHz付近で伝送損失が急激に大きく低下している。伝送損失におけるリップルや急激な変化は、xDSL信号の伝送特性、すなわちスループット特性に悪影響を及ぼすことになる。
【0057】
本実施形態に見られるように、対撚り電線を有する平衡ケーブルを巻線とした減結合回路用コモンモードチョークコイルは、従来のネオン電線の2並列巻の減結合回路用コモンモードチョークコイルに比べて、伝送特性を改善できることを示している。
【0058】
なお、これまでは、2個の対撚り電線を対撚り合わせた1個の複対撚り電線上に絶縁材を同心円状に被覆して構成された平衡ケーブルがコモンモードチョークコイルのボビンの外周に巻かれている構成について説明したが、IT機器等の通信機器における2ポートの通信線ポートに対応するために、1個の対撚り電線上に絶縁材を同心円状に被覆して構成された平衡ケーブルがコモンモードチョークコイルのボビンの外周に巻かれている構成を採用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1の実施形態における減結合回路を適用した雷サージ試験回路を示す回路図である。
【図2】第1の実施形態における減結合回路の構成を示す回路図である。
【図3】平衡ケーブルの断面の概念図である。
【図4】第1の実施形態における減結合回路の構成を示す回路図である。
【図5】第2の実施形態における減結合回路用コモンモードチョークコイルの伝送損失特性を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
9、9A 減結合回路
17 筐体
21 被試験装置側端子
23 対向装置側端子
9a、900a 絶縁材(被覆、シース)
90a,90b 対撚り線
900 平衡ケーブル
W1〜W4 電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタル加入者回線を用いたxDSLに接続されているIT機器等の通信機器の雷サージ試験回路の被試験装置と前記IT機器等の通信機器である対向装置との間に設置され、前記xDSLの通信信号を通過させる空心コイルで構成されたコモンモードチョークコイルを有する減結合回路であって、
絶縁材を被覆した2本の電線を対撚り合わせた1個の対撚り電線と他の1個の対撚り電線とを対撚り合わせた1個の複対撚り電線上に絶縁材を同心円状に被覆して構成された平衡ケーブルを1条有し、前記平衡ケーブルが前記コモンモードチョークコイルのボビンの外周に巻かれていることを特徴とする減結合回路。
【請求項2】
前記平衡ケーブルは、
前記雷サージ試験回路のノーマルモードにおける試験電圧及びコモンモードにおける試験電圧に対する絶縁耐力を有し、かつ前記xDSLの通信信号を良好に伝送可能な伝送線路特性を有し、さらに前記ボビンに多層巻する際に、前記平衡ケーブルが弛みなく前記ボビンあるいは前記平衡ケーブル同士がしっかりと保持されるように適切な張力や捻りを加えても前記対撚り電線あるいは前記複対撚り電線に過度な変形が生じないような機械的強度を有することを特徴とする請求項1記載の減結合回路。
【請求項3】
1個の前記ボビンに前記平衡ケーブルを多層巻にして構成する場合、及び複数個の前記ボビンに前記平衡ケーブルを多層巻にして構成する場合において、前記平衡ケーブルは巻き始めから巻き終わりまでつなぎのない巻線構成にすることによって、つなぎ目で発生する虞のある絶縁耐力の劣化あるいは反射による伝送信号の劣化を防ぐことを特徴とする請求項1又は2記載の減結合回路。
【請求項4】
前記コモンモードチョークコイルは、
前記IT機器等の通信機器における4ポートの通信線ポートに対応するために、前記平衡ケーブル内の2個の対撚り電線を使用することによりワイヤ数は4ワイヤを有し、前記通信機器の通信線ポートが2ポートに対しては前記平衡ケーブル内の1個の対撚り電線を使用することにより2ワイヤを使用可能とするように構成したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の減結合回路。
【請求項5】
メタル加入者回線を用いたxDSLに接続されているIT機器等の通信機器の雷サージ試験回路の被試験装置と前記IT機器等の通信機器である対向装置との間に設置され、前記xDSLの通信信号を通過させる空心コイルで構成されたコモンモードチョークコイルを有する減結合回路であって、
前記IT機器等の通信機器における2ポートの通信線ポートに対応するために、前記絶縁材を被覆した2本の電線を対撚り合わせた1個の対撚り電線上に絶縁材を同心円状に被覆して構成された平衡ケーブルを1条有し、前記平衡ケーブルが前記コモンモードチョークコイルのボビンの外周に巻かれていることを特徴とする減結合回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−128304(P2009−128304A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−306152(P2007−306152)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】