説明

減衰性塗料

【課題】乾燥効率を高めた場合であっても減衰性能を発揮させることの容易な減衰性塗料を提供する。
【解決手段】減衰性塗料には、塗膜を形成する樹脂粒子が水系分散媒に分散した水系樹脂分散液と、ポリマーシェルに熱膨張剤を内包してなり熱膨張する熱膨張性マイクロカプセルとが含有されている。熱機械分析法により測定される熱膨張性マイクロカプセルの最高膨張温度は、100℃以上であり、かつ130℃以下である。熱機械分析法により測定される熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度は、95℃以下であることが好ましい。この減衰性塗料の適用箇所において形成された塗膜は、振動エネルギー、衝撃エネルギー等のエネルギーを減衰する減衰性を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動エネルギー、衝撃エネルギー等のエネルギーを減衰する減衰性塗料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばベンゾチアジル系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ジフェニルアクリレート系化合物等は、各種樹脂材料に減衰性を付与する減衰性付与成分として知られている(特許文献1参照)。さらに、こうした減衰性付与成分と、塗膜を形成する樹脂成分とを含有する減衰性塗料が知られている(例えば特許文献2,3参照)。この減衰性塗料から得られる塗膜では、減衰性付与成分の作用によって、減衰性能が高められている。
【特許文献1】国際公開第97/42844号パンフレット
【特許文献2】国際公開第99/28394号パンフレット
【特許文献3】国際公開第01/40391号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
最近では、環境に対する影響を配慮して、水系分散媒中に樹脂粒子が分散している水系樹脂分散液を減衰性塗料として使用する試みがなされている。また、そうした減衰性塗料に発泡剤を配合し、発泡した塗膜を形成させることで、塗膜を軽量化したり塗膜の減衰性を高めたりすることが可能である。水系樹脂分散液には、発泡剤の保存安定性を確保して安定した発泡力を発現するという観点から、水に対する安定性に優れるとともに水系分散媒の分散性に優れる発泡剤を配合することが重要である。こうした観点から、熱膨張性マイクロカプセルは水系樹脂分散液への配合に好適である。熱膨張性マイクロカプセルは、ポリマーシェルに熱膨張剤を内包したものであり、水系樹脂分散液中における安定性及び分散性は良好である。こうした熱膨張性マイクロカプセルを加熱すると、ポリマーシェルが軟化するとともに熱膨張剤の体積が増大することで、膨張したカプセルを形成する。こうしたカプセルの形成に伴って発泡した塗膜においては、圧縮変形に対する復元力に優れることが重要であり、そうした塗膜であれば、圧縮力が一時的に加わったとしても、所望する減衰性能が発揮され易くなる。
【0004】
ところで、水系樹脂分散液から塗膜を形成するに際して、水系分散媒を揮発させるべく、例えば100℃以上の温度環境下で水系樹脂分散液を乾燥させることが効率的である。すなわち、水系樹脂分散液の乾燥温度を高めることにより、塗膜を形成する形成時間を短縮することができる。また例えば150℃以上の温度環境下で水系樹脂分散液を乾燥させると、水系分散媒が急速に揮発するため、塗膜の物性が不安定となり、塗膜の発揮する減衰性能にばらつきが生じるおそれがある。そして、発泡剤を含有する減衰性塗料では、塗膜の形成に際して発泡を伴うため、例えば150℃未満の温度環境下で乾燥したとしても、均一なセル構造が得られ難くなる。こうしたセル構造を有する塗膜では復元力が十分に得られ難くなり、その結果、所望する減衰性能が発揮され難くなる。
【0005】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、乾燥効率を高めた場合であっても減衰性能を発揮させることの容易な減衰性塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、塗膜を形成する樹脂粒子が水系分散媒に分散した水系樹脂分散液と、ポリマーシェルに熱膨張剤を内包してなり熱膨張する熱膨張性マイクロカプセルとを含有し、適用箇所にて減衰性を発揮させるための減衰性塗料であって、熱機械分析法により測定される前記熱膨張性マイクロカプセルの最高膨張温度が100℃以上であり、かつ130℃以下であることを要旨とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の減衰性塗料において、熱機械分析法により測定される前記熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度が95℃以下であることを要旨とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の減衰性塗料において、前記塗膜に減衰性を付与する減衰性付与成分として、ベンゾチアジル系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ジフェニルアクリレート系化合物、及び正リン酸エステル系化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物を更に含有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、乾燥効率を高めた場合であっても減衰性能を発揮させることが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を具体化した実施形態を詳細に説明する。
本実施形態における減衰性塗料には、塗膜を形成する樹脂粒子が水系分散媒に分散した水系樹脂分散液と、熱膨張性マイクロカプセルとが含有されている。熱機械分析法により測定される熱膨張性マイクロカプセルの最高膨張温度は、100℃以上であり、かつ130℃以下である。この減衰性塗料は、適用箇所にて減衰性を発揮させるものである。
【0011】
水系樹脂分散液に含有される樹脂粒子を構成する高分子材料としては、例えばアクリル系樹脂、アクリル/スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、酢酸ビニル/アクリル系樹脂、エチレン/酢酸ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、アルキッド系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン共重合ゴム、スチレン/ブタジエン共重合ゴム、ブタジエンゴム、及びイソプレンゴムから選ばれる少なくとも一種が挙げられる。なお、これらの高分子材料は変性体であってもよい。
【0012】
樹脂粒子は、単独種の高分子材料から形成されていてもよいし、複数種の高分子材料から形成されていてもよい。さらに、水系樹脂分散液には、これらの高分子材料から構成される樹脂粒子を単独で含有させてもよいし、複数種の樹脂粒子を含有させてもよい。
【0013】
高分子材料の中でも、上述した減衰性付与成分によって高い減衰性能が発揮され易いという観点から、アクリル系樹脂及びアクリル/スチレン系樹脂から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。アクリル系樹脂としては、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸及びメタクリル酸エステルを単量体とする単独重合体、これらの単独重合体の混合物、並びにこれらの単量体が重合した共重合体が挙げられる。アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルとしては、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、2−エチルヘキシルエステル、エトキシエチルエステル等が挙げられる。アクリル/スチレン系樹脂としては、上記アクリル系樹脂を形成する単量体と、スチレン単量体との共重合体が挙げられる。
【0014】
樹脂粒子を分散する水系分散媒としては、水、及び水と一価アルコールとの混合液が挙げられる。一価アルコールとしては、メタノール、エタノール等が挙げられる。水系樹脂分散液は、例えば乳化剤を含有した水溶液中に単量体及び重合開始剤を滴下する乳化重合等の周知の方法に従って得ることができる。
【0015】
減衰性塗料中における水分の含有量は、樹脂粒子100質量部に対して好ましくは30〜300質量部、より好ましくは50〜200質量部、さらに好ましくは50〜150質量部である。この水分の含有量が樹脂粒子100質量部に対して30質量部未満の場合、樹脂粒子の分散性が十分に確保されないおそれがある。一方、水分の含有量が樹脂粒子100質量部に対して300質量部を超える場合、減衰性塗料の乾燥速度が遅延することで効率的に塗膜を形成することが困難となるおそれがある。
【0016】
熱膨張性マイクロカプセルは、ポリマーシェルに熱膨張剤を内包して構成されている。こうした熱膨張性マイクロカプセルを加熱すると、ポリマーシェルが軟化するとともに熱膨張剤の体積が増大することで、膨張したカプセルを形成する。上述した熱機械分析法により測定される熱膨張性マイクロカプセルの最高膨張温度は、熱膨張性マイクロカプセルを昇温した際に、体積が最も大きくなる温度に相当する。熱膨張性マイクロカプセルの最高膨張温度は100℃以上であるため、適用箇所に塗布した減衰性塗料を、例えば100℃以上の温度環境下に配置することで乾燥効率を高めた場合に、熱膨張性マイクロカプセルが急激に膨張することが抑制される。また、熱機械分析法により測定される熱膨張性マイクロカプセルの最高膨張温度は130℃以下であるため、例えば150℃未満の温度環境下、好ましくは140℃付近の温度環境下で減衰性塗料を加熱すれば、熱膨張性マイクロカプセルの大部分が十分に膨張するため、塗膜全体をほぼ均一に発泡させることができる。
【0017】
熱機械分析法により測定される熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度は、95℃以下であることが好ましい。この場合、上述した最高膨張温度との温度差が大きくなるため、例えば100℃以上の温度環境下で減衰性塗料を加熱した場合に、熱膨張性マイクロカプセルが急激に膨張することが更に抑制される。また、上記膨張開始温度は、減衰性塗料の保存時における熱安定性を確保するという観点から70℃以上であることが好ましい。なお、この膨張開始温度は、熱膨張性マイクロカプセルを昇温したときに、そのカプセルの膨張が開始する温度に相当する。
【0018】
本明細書において、熱膨張性マイクロカプセルの最高膨張温度及び膨張開始温度は、熱機械分析装置を用いた熱機械分析法(TMA法)にて測定された温度である。熱機械分析装置の測定条件は、プローブ鉛直方向の荷重を10μN、測定温度範囲を20〜250℃、及び昇温速度を20℃/分である。
【0019】
熱膨張性マイクロカプセルの最高膨張温度及び膨張開始温度は、ポリマーシェルを構成する材料の種類及びポリマーシェルの厚さ、又は熱膨張剤の沸点により設定される。熱機械特性の異なるタイプの熱膨張性マイクロカプセルが市販されているため、これら熱膨張性マイクロカプセルの中から、上述した温度範囲に適合するものを適宜選択すればよい。なお、上述した温度範囲に適合するものであれば、例えば最高膨張温度の異なる複数種の熱膨張性マイクロカプセルを組み合わせて配合してもよい。
【0020】
熱膨張性マイクロカプセルの含有量は、減衰性塗料中の樹脂粒子100質量部に対して好ましくは0.5〜20質量部、より好ましくは1〜10質量部である。熱膨張性マイクロカプセルの配合量が樹脂粒子100質量部に対して0.5質量部未満の場合、発泡力が十分に得られないおそれがある。一方、熱膨張性マイクロカプセルの配合量が樹脂粒子100質量部に対して20質量部を超える場合、発泡した塗膜について、優れた復元力が得られ難くなるおそれがある。
【0021】
減衰性塗料には、減衰性付与成分として、ベンゾチアジル系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ジフェニルアクリレート系化合物、及び正リン酸エステル系化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物を含有させることが好ましい。こうした減衰性付与成分は、塗膜中の双極子モーメント量を増大させることによって、振動エネルギー、衝撃エネルギー、音のエネルギー等のエネルギー(但し、光エネルギー及び電気エネルギーを除く)を効率的に熱エネルギーへ変換する。
【0022】
ベンゾチアジル系化合物としては、N,N−ジシクロヘキシルベンゾチアジル−2−スルフェンアミド(DCHBSA)、2−メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、N−シクロヘキシルベンゾチアジル−2−スルフェンアミド(CBS)、N−t−ブチルベンゾチアジル−2−スルフェンアミド(BBS)、N−オキシジエチレンベンゾチアジル−2−スルフェンアミド(OBS)、及びN,N−ジイソプロピルベンゾチアジル−2−スルフェンアミド(DPBS)から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
【0023】
ベンゾトリアゾール系化合物としては、ベンゼン環にアゾール基が結合したベンゾトリアゾールを母核とし、これにフェニル基が結合したものであって、2−[2′−ハイドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラハイドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル]ベンゾトリアゾール(2HPMMB)、2−(2′−ハイドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール(2HMPB)、2−(2′−ハイドロキシ−3′−t−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(2HBMPCB)、2−(2′−ハイドロキシ−3′,5′−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(2HDBPCB)、及び2−(2′−ハイドロキシ−5′−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール(2HOPB)から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
【0024】
ジフェニルアクリレート系化合物としては、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート(ECDPA)、及びオクチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート(OCDPA)から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
【0025】
正リン酸エステル系化合物としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリス(ブトキシエチル)ホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、及び2−エチルヘキシルジフェニルホスフェートから選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
【0026】
減衰性付与成分の含有量は、樹脂粒子とその化合物との合計量に対して、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。減衰性付与成分の含有量が20質量%を超える場合、塗膜の強度が低下することで塗膜に形状が長期にわたって維持され難くなる。さらに、減衰性付与成分の含有量は、樹脂粒子と減衰性付与成分との合計量に対して、好ましくは1質量%以上であり、最も好ましくは1〜10質量%である。減衰性付与成分の含有量が1質量%未満であると、優れた減衰性を付与することが困難になるおそれがある。
【0027】
減衰性塗料には、その他の成分として、充填剤、ゲル化剤、発泡助剤、分散剤、粘度調整剤、増粘剤、流動改良剤、硬化剤、消泡剤、造膜助剤、凍結防止剤、沈降防止剤等を必要に応じて配合することが可能である。減衰性塗料には、減衰性能を高めるという観点から、充填剤をさらに配合することが好適である。充填剤としては、マイカ、タルク、クレー、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、シリカ、珪藻土、ゼオライト、フェライト、カーボン等が挙げられる。充填剤の配合量は、樹脂粒子と充填剤との合計量に対して例えば1〜80質量%が好適である。ゲル化剤としては、有機ゲル化剤と無機ゲル化剤とに分類され、有機ゲル化剤としてはでんぷん、でんぷん誘導体等が挙げられ、無機ゲル化剤としては硝酸アンモニウム、硝酸カルシウム、炭酸カリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウム等が挙げられる。
【0028】
減衰性塗料は、水系樹脂分散液、上述した熱膨張性マイクロカプセル等を攪拌機等の公知の混合手段によって混合することによって調製することができる。
減衰性塗料を使用するには、まず減衰性塗料を適用箇所に塗布する。減衰性塗料の塗布方法は、減衰性塗料の流動性に応じて適宜選択すればよく、スリット等から減衰性塗料を吐出させるとともに適用箇所に塗布する方法の他、エアスプレーガン、エアレススプレーガン、刷毛塗り等の塗布手段を用いることが可能である。次に塗布した減衰性塗料を乾燥させることにより、塗膜を形成させる。こうした減衰性塗料の乾燥において、水系分散媒の揮発を促進して効率よく乾燥させるために、塗布した減衰性塗料は例えば100℃以上の温度環境下で加熱される。このとき、熱膨張性マイクロカプセルの最高膨張温度は100℃以上であるため、熱膨張性マイクロカプセルが急激に膨張することが抑制される。またこのとき、熱膨張性マイクロカプセルの最高膨張温度は130℃以下であるため、例えば150℃未満の温度環境下、好ましくは140℃付近の温度環境下で減衰性塗料を加熱すれば、熱膨張性マイクロカプセルの大部分を十分に膨張させることができる。また、水系樹脂分散液を含有する減衰性塗料では、150℃未満の温度で加熱されることにより、水系分散媒が適度な速度で揮発するため、発泡した塗膜が安定して形成されるようになる。
【0029】
こうした塗膜は適用箇所において減衰性能を発揮する。減衰性塗料の減衰性能、すなわち減衰性塗料から得られる塗膜の減衰性能は、塗膜の損失係数によって示される。つまり、塗膜の損失係数が高ければ高いほど、塗膜の減衰性能が優れることが示される。塗膜の損失係数は、周知の中央加振法損失係数測定装置によって測定することができる。
【0030】
減衰性塗料から形成される塗膜には、上述した減衰性付与成分が含有されていることが好ましい。こうした減衰性付与成分は、振動エネルギー、衝撃エネルギー、音のエネルギー等のエネルギー(但し、光エネルギー及び電気エネルギーを除く)が塗膜に伝わった際に、減衰性付与成分と塗膜を構成する高分子の分子鎖との相互作用によって、そうしたエネルギーが熱エネルギーに変換されると推測される。
【0031】
減衰性塗料は、振動エネルギーを減衰する制振塗料、衝撃エネルギーを減衰する衝撃吸収塗料等として利用することができる。制振塗料の適用分野としては、例えば自動車、建材、家電機器、産業機械等が挙げられる。衝撃吸収塗料の適用分野としては、例えば靴、グローブ、各種防具、グリップ、ヘッドギア等のスポーツ用品、ギプス、マット、サポーター等の医療用品、壁材、床材、フェンス等の建材、各種緩衝材、各種内装材等が挙げられる。
【0032】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1) 水系樹脂分散液を含有する減衰性塗料を適用箇所に塗布した後に、例えば100℃以上の温度環境下で加熱することで、塗膜を形成する形成時間を短縮することができる。また例えば、150℃以下の温度環境下で加熱することで、水系分散媒が適度な速度で揮発するため、塗膜が安定して形成されるようになる。ここで、本実施形態の減衰性塗料には、水系樹脂分散液に加えて熱膨張性マイクロカプセルが含有されている。この熱膨張性マイクロカプセルの最高膨張温度は100℃以上であるため、塗膜を形成する形成時間を短縮した場合であっても、発泡した塗膜を安定して形成することができる。また、熱膨張性マイクロカプセルの最高膨張温度は130℃以下である。このため、例えば150℃未満の温度環境下、好ましくは140℃付近の温度環境下で減衰性塗料を加熱すれば、塗膜全体をほぼ均一に発泡させることができる。このように発泡した塗膜が安定して形成されるとともにセル構造の均一性も確保され易い。このため、発泡した塗膜が圧縮された場合の復元力が得られ易くなる結果、塗膜の形状が維持され易い。従って、こうした減衰性塗料によれば、乾燥効率を高めた場合であっても、減衰性能を発揮させることが容易である。
【0033】
(2) 熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度は95℃以下であることが好ましい。この場合、上述した最高膨張温度との温度差が大きくなるため、例えば100℃以上の温度で減衰性塗料を加熱した場合に、熱膨張性マイクロカプセルが急激に膨張することが更に抑制される。このため、発泡した塗膜を更に安定して形成することができる結果、減衰性を更に高めることが容易である。
【0034】
(3) 減衰性塗料には、上述した減衰性付与成分が含有されることで、塗膜の減衰性を高めることができる。
次に、上記実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0035】
・ 前記熱膨張性マイクロカプセルの含有量は、前記減衰性塗料中の樹脂粒子100質量部に対して0.5〜20質量部である減衰性塗料。
・ 熱機械分析法により測定される前記熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度が70℃以上である減衰性塗料。
【実施例】
【0036】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1及び2)
水系樹脂分散液に対して、熱膨張性マイクロカプセル等を所定量配合して攪拌機によって混合することにより、表1に示す減衰性塗料を調製した。
【0037】
表1の実施例1欄に示される熱膨張性マイクロカプセル(*1)は、マツモトマイクロスフェアー(商品名)F−36(松本油脂製薬(株)製、最高膨張温度105〜120℃、膨張開始温度75〜85℃)である。また、実施例2欄に示される熱膨張性マイクロカプセル(*2)は、エクスパンセル(商品名)006(日本フィライト(株)、最高膨張温度124〜130℃、膨張開始温度87〜93℃)である。水系樹脂分散液(A)は、アクリル系エマルション(不揮発分55.0質量%、水45.0質量%、ガラス転移点50℃)であり、水系樹脂分散液(B)は、メタクリル酸メチル/アクリル酸2−エチルヘキシル共重合体エマルション(不揮発分50.0質量%、水50質量%、ガラス転移点30℃)である。減衰性付与成分の種類欄に示す略号は以下のとおりである。
【0038】
CBS:N−シクロヘキシルベンゾチアジル−2−スルフェンアミド
充填剤(a)及び充填剤(b)は、それぞれクラレ社製のマイカ200HK及び300Wを示している。
【0039】
なお、表1における減衰性塗料の配合量を示す数値の単位は、質量部であり、各実施例には、分散剤、増粘剤、界面活性剤、消泡剤、架橋剤、凍結防止剤及びゲル化剤が同量配合されている。
【0040】
(比較例1及び2)
各比較例では、各実施例の熱膨張性マイクロカプセルを変更した以外は、各実施例と同様にして表1に示す減衰性塗料を調製した。表1の比較例1欄に示される熱膨張性マイクロカプセル(*3)は、エクスパンセル(商品名)009(日本フィライト(株)、最高膨張温度175〜190℃、膨張開始温度120〜130℃)である。また、比較例2欄に示される熱膨張性マイクロカプセル(*4)は、エクスパンセル(商品名)551(日本フィライト(株)、最高膨張温度139〜147℃、膨張開始温度95〜100℃)である。
【0041】
なお、各比較例には、分散剤、増粘剤、界面活性剤、消泡剤、架橋剤、凍結防止剤及びゲル化剤が各実施例と同量配合されている。
<圧縮残留歪み>
各例の減衰性塗料を鋼板(厚さ0.8mm)に塗布した後、140℃で25分間加熱乾燥することにより塗膜を形成し、室温で1時間放置することにより、試験片を作製した。試験片について塗膜の厚さ(T1)を測定した後、塗膜上に、単位面積当たりの荷重が200g/cmとなる重りを配置して、その状態で5分間放置した。その後、重りを取り除き、塗膜の厚さ(T2)を測定した。荷重を加える前後における塗膜の厚さから下記式により圧縮残留歪みを算出した。圧縮残留歪みの算出結果を表1に併記する。
【0042】
圧縮残留歪み(%)=(T1−T2)/T1×100
T1:荷重を加える前の厚さ
T2:荷重を加えた後の厚さ
<発泡倍率>
各例の減衰性塗料を鋼板(厚さ0.8mm)に所定の厚さとなるように塗布した後、140℃で25分間加熱乾燥することにより塗膜を形成し、室温で1時間放置することにより、試験片を作製した。試験片について塗膜の厚さを測定し、減衰性塗料を塗布したときの厚さに対する塗膜の厚さの倍率を算出した。発泡倍率の算出結果を表1に併記する。
【0043】
<減衰性能の評価>
各例の減衰性塗料を鋼板(厚さ0.8mm)に塗布した後、140℃で25分間加熱乾燥することにより塗膜を形成し、これらの塗膜を試験片とした。なお、鋼板に対する塗膜の厚みは、同一となるように塗布量を調整した。各例の試験片について、中央加振法損失係数測定装置(CF5200タイプ、小野測器(株)製)を用いて、20℃、40℃及び60℃における損失係数を測定した。その測定結果を表1に併記する。
【0044】
【表1】

表1の結果から明らかなように、各実施例における圧縮残留歪みは、各比較例における圧縮残留歪みよりも小さい値を示している。この結果から、各実施例の減衰性組成物では、乾燥効率を高めた場合であっても、その形状が維持され易い塗膜が得られるため、所望の減衰性能が発揮され易いことがわかる。また、各実施例の発泡倍率及び損失係数についても、各比較例と同等、又は各比較例よりも向上していることから、各実施例の減衰性組成物は、極めて実用性が高いことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜を形成する樹脂粒子が水系分散媒に分散した水系樹脂分散液と、
ポリマーシェルに熱膨張剤を内包してなり熱膨張する熱膨張性マイクロカプセルとを含有し、適用箇所にて減衰性を発揮させるための減衰性塗料であって、
熱機械分析法により測定される前記熱膨張性マイクロカプセルの最高膨張温度が100℃以上であり、かつ130℃以下であることを特徴とする減衰性塗料。
【請求項2】
熱機械分析法により測定される前記熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度が95℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の減衰性塗料。
【請求項3】
前記塗膜に減衰性を付与する減衰性付与成分として、ベンゾチアジル系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ジフェニルアクリレート系化合物、及び正リン酸エステル系化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物を更に含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の減衰性塗料。

【公開番号】特開2008−248187(P2008−248187A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93864(P2007−93864)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【Fターム(参考)】