説明

渦流室式ディーゼルエンジン

【課題】 燃焼効率の向上とPM量の低減を図り、且つ始動性の向上を図る。
【解決手段】 主室3と球形の副室2を備えた渦流室式ディーゼルエンジンにて、副室2の内壁面のグロープラグ取付穴10の開口部を広げて、この開口部とグロープラグ8との間に窪み9を設けて、その内部を渦流7の流れの一部を滞留させることができる構成とする。圧縮工程時に副室2内に渦流7が生じた状態で燃料噴射ノズル5より燃料6を噴射すると、その一部が渦流7の流れの一部と共に窪み9の中に滞留するため、副室2の壁面温度が低い状態であっても、窪み9の中に安定した火炎を形成させて、始動性を改善させる。一方、窪み9に滞留するのを副室2内で発生する渦流7の流れの一部に限ることで、副室2内の渦流7全体が弱められることがないようにして、燃焼効率の低下やPM量の増加に対する影響は最小限に抑制させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主燃焼室の他に球形の副燃焼室を具備した渦流室式ディーゼルエンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンには、大きく分けて燃焼室が1つの直接燃料噴射式のディーゼルエンジンと、燃焼室が主室(主燃焼室)と副室(副燃焼室)に分かれている間接燃料噴射式の副室式ディーゼルエンジンがある。
【0003】
上記副室式ディーゼルエンジンは、図4にその一例の概略を示す如く、エンジンのシリンダヘッド1に副室2を設けて、該副室2を主室3に連絡孔(噴口)4で連通させ、更に、上記副室2における上記連絡孔4と略対向する位置に燃料噴射ノズル5を設けてなる構成としてある。
【0004】
以上の構成としてある副室式ディーゼルエンジンでは、圧縮工程時に主室3より空気が押し込まれる副室2内へ上記燃料噴射ノズル5より液体の燃料6を噴射(噴霧)し、該噴射された燃料6の一部を副室2内で燃焼させることで該副室2内の圧力を急激に高め、この圧力上昇した副室2と主室3との圧力差を利用して、上記副室2内で燃焼されなかった燃料6及び副室2内で発生するすす等の粒子状物質(以下、PMと記す)を、上記連絡孔4を経て主室3内へ噴出させることで、該主室3内に存在するフレッシュな空気との混合を促進させて、該主室3内にて、燃料6を空気との混合を促進させた状態で燃焼させると共に、上記PMを再燃焼させることができるようにしてある。
【0005】
更に、上記副室式ディーゼルエンジンの1つとして知られている渦流室式ディーゼルエンジンでは、図4に示すように、上記副室2を、いわゆる渦流室と云われる球形の副室2とすると共に、該副室2に、上記連絡孔4を、副室内壁面の略接線方向に沿わせて接続してなる構成として、圧縮工程時に上記主室3からの空気が上記連絡孔4を通して副室2内へ押し込まれると、該押し込まれた空気が副室2内の内壁面に沿って流れるようにすることで、該副室2内に渦流7が形成されるようにしてある。これにより、上記渦流室式ディーゼルエンジンでは、上記副室2内に生じる渦流7により、上記燃料噴射ノズル5より噴射される燃料6と空気の混合を促進して該副室2内での燃焼を活発にし、副室2と主室3との圧力差をより高めることで、該副室2から主室3への噴出を強めて、主室3での燃焼をより良好に行わせることができるようにしてある。8はグロープラグである(たとえば、特許文献1参照)。
【0006】
ところで、上記副室2内に生じる渦流7を強めることは、上記したように、副室2内での燃料6と空気の混合を促進して燃焼を活発に行わせ、該副室2と主室3との圧力差を高めて、主室3への噴出を強めることができて、該主室3での燃焼をより完全なものとするのに有利に作用することから、燃焼効率の向上や、PM量の低減のためには、上記渦流7は強いことが望ましい。
【0007】
一方、ディーゼルエンジンの始動時においては、副室2の壁面温度が低いため、燃料噴射ノズル5より液体で噴射される燃料6の蒸発が遅い。このように燃料6の蒸発が遅い場合は、副室2内の渦流7が強くなるにつれて、燃料6と空気の混合が過度に進み、燃料6が可燃限界以下まで希薄化されると、火炎が不安定になる結果、始動性が悪くなってしまう。
【0008】
そのため、従来、始動性を改善するための手法としては、通常、副室2に設けたグロープラグ8により燃料を強制的に加熱することで蒸発の促進を図る手法が採られている。
【0009】
又、始動性を改善するための別の手法としては、燃料噴射ノズル5による燃料6の噴射方向を渦流7の流れ方向に対向させることで、噴射される液体燃料6の微粒子化の促進を図るようにする手法も採られている。
【0010】
更に別の手段としては、上記渦流7を形成させるようにしてある副室2の底部を、平らな形状とすることで、始動性の改善を図ることも考えられている(たとえば、特許文献2参照)。
【0011】
【特許文献1】特許第3057404号公報
【特許文献2】特開昭63−243461号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが、上記渦流室式ディーゼルエンジンの始動性を改善するために、グロープラグ8の加熱により燃料の蒸発促進を図る手法は、電気エネルギーを多く消費してしまうというのが実状である。
【0013】
又、燃料6の噴射方向を渦流7の流れ方向と対向させて始動性を改善する手法は、PMの増加を招いてしまう。
【0014】
更に、副室2の底部を平らな形状に変更する手段では、副室2内で発生する渦流7の強さを弱めてしまうため、始動時以外の運転では、燃焼効率の低下やPM量の増加を招いてしまう。
【0015】
したがって、従来、渦流室式ディーゼルエンジンにおける燃焼効率の向上及びPM量の低減と、始動性の向上とは、トレードオフの関係にあるというのが実状である。
【0016】
そこで、本発明は、燃焼効率の向上及びPM量の低減を図ることができると共に、始動性の向上も図ることができる渦流室式ディーゼルエンジンを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、主室と副室からなる燃焼室を備えて副室内で渦流が形成されるようにしてある渦流室式ディーゼルエンジンにおいて、上記副室内の所要個所に、圧縮工程時に該副室内で発生する渦流の一部を滞留させるための滞留部を設けてなる構成とする。
【0018】
又、上記構成における滞留部を、副室における燃料噴射個所よりも渦流の進行方向下流側となる個所に設けるようにした構成とする。
【0019】
更に、上記各構成において、副室の内壁面に窪みを設けて、該窪みの内側を滞留部とするようにした構成とする。
【0020】
同様に、上記各構成において、副室の内壁面に突起を設けて、渦流の流れが当たる上記突起の背面側を滞留部とするようにした構成とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の渦流室式ディーゼルエンジンによれば、以下のような優れた効果を発揮する。(1)主室と副室からなる燃焼室を備えて副室内で渦流が形成されるようにしてある渦流室式ディーゼルエンジンにおいて、上記副室内の所要個所に、圧縮工程時に該副室内で発生する渦流の一部を滞留させるための滞留部を設けてなる構成としてあるので、副室内に渦流が形成された状態で燃料噴射が行われると、上記副室に設けた滞留部に上記渦流の流れの一部と共に上記噴射された燃料の一部が滞留するため、該滞留部では、燃料の濃度が可燃限界以下まで過度に希薄化される虞が未然に防止されるようになる。よって、上記滞留部では、燃料の濃度が着火に適した条件となるため、エンジン始動時の副室の壁面温度が低い状態であっても、上記滞留部における燃料濃度の濃い部分に、吹き消えることなく安定した火炎を形成できて、始動性を改善することができる。
(2)しかも、上記滞留部に滞留するのは上記副室内で発生する渦流の流れの一部に過ぎないため、マクロ的に見ると、上記滞留部を設けた状態であっても、副室内の渦流が弱められることはなく、このため、燃焼効率の低下やPM量の増加に対する影響を最小限に抑えることができる。
(3)したがって、燃焼効率の向上及びPM量の低減を図ることと、始動性の向上を図ることとのトレードオフの関係を脱することができて、両者を共に改善させることが可能になる。
(4)滞留部を、副室における燃料噴射個所よりも渦流の進行方向下流側となる個所に設けるようにした構成とすることにより、滞留部に、比較的燃料濃度が濃い状態の渦流の一部を滞留させることができるため、滞留部により安定した火炎を形成させることが可能になる。
(5)副室の内壁面に窪みを設けて、該窪みの内側を滞留部とするようにした構成、又は、副室の内壁面に突起を設けて、渦流の流れが当たる上記突起の背面側を滞留部とするようにした構成とすることにより、副室内に、渦流の一部を滞留させるための滞留部を容易に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
【0023】
図1(イ)(ロ)は本発明の渦流室式ディーゼルエンジンの実施の一形態を示すもので、以下のような構成としてある。
【0024】
すなわち、図4に示したと同様に、球形の副室2を備えた構成において、該副室2の内壁面の所要個所に、滞留部としての窪み9を設けて、該窪み9の内側で、上記副室2内で生じる渦流7の流れの一部を局所的に滞留させることができるようにする。
【0025】
具体的には、上記副室2内にて、燃料噴斜ノズル5による燃料噴射個所よりも渦流7の進行方向下流側となる所要個所に、グロープラグ8が副室2内に露出させて取り付けてある場合は、副室2内壁面における上記グロープラグ8の取付穴10の開口部を、渦流7進行方向の下流側へ広げるようにした構成とすることにより、該グロープラグ取付穴10の副室2側開口部と、該取付穴10に取り付けるグロープラグ8との間に空間を設けて、該空間を上記窪み9とさせるようにしてある。
【0026】
11は主室3内に収納されたピストンである。その他、図4に示したものと同一のものには同一符号が付してある。
【0027】
以上の構成としてある本発明の渦流室式ディーゼルエンジンによれば、圧縮工程時に主室3より空気が副室2内に押し込まれて、該副室2内に渦流7が形成されると、該渦流7の流れの一部が、図1(ロ)に矢印Aで示すように上記窪み9の中に進入して滞留するようになる。
【0028】
この状態で上記燃料噴射ノズル5より上記渦流7に対して燃料6が噴射されると、該噴射された燃料6の一部が上記渦流7の流れの一部と一緒に上記窪み9の中で滞留し、この窪み9の中では、燃料6の濃度が可燃限界以下まで過度に希薄化される虞が未然に防止されるようになる。
【0029】
更に、この窪み9の中では、グロープラグ8からの放熱により燃料6が加熱される。
【0030】
したがって、上記窪み9の内側では、燃料6の濃度及び温度が着火に適した条件となるため、エンジン始動時の副室2の壁面温度が低い状態であっても、上記窪み9内の燃料濃度の濃い部分に、吹き消えることなく安定した火炎が形成されるようになる。
【0031】
このように、本発明の渦流室式ディーゼルエンジンによれば、上記したように、副室2の壁面温度が低い状態であっても、副室2に設けた窪み9の中に安定した火炎を形成することができるため、始動性を改善することができる。
【0032】
しかも、上記窪み9は、上記副室2における燃料噴斜ノズル5による燃料噴射個所よりも渦流7の進行方向下流側となる所要個所に設けるようにしてあるため、該窪み9では、比較的、燃料6が噴射された後の比較的燃料濃度が濃い状態の渦流7の一部を滞留させることができるため、該窪み9の内側により安定した火炎を形成することができる。
【0033】
一方、上記窪み9に入って滞留するのは上記副室2内で発生する渦流7の流れの一部に過ぎないため、マクロ的に見ると、上記窪み9が存在していても、副室2内の渦流7が弱められることはないため、燃焼効率の低下やPM量の増加に対する影響を最小限に抑えることができる。
【0034】
しかも、燃焼効率の向上及びPM量の低減を図ることを目的として上記副室2内の渦流7をより強めても、該副室2に設けた窪み9では、その内側に渦流7の流れの一部を確実に導いて滞留させることができて、始動性が悪化する虞を防止できるようになることから、燃焼効率の向上及びPM量の低減を図ることと、始動性の向上を図ることとのトレードオフの関係を脱することができて、両者を共に改善することができる。
【0035】
又、始動性をより改善するためにグロープラグ8の加熱により燃料6の蒸発促進を図る場合であっても、上記燃料濃度の濃い部分を効率よく加熱することができるようになるため、グロープラグ8による燃料の加熱を短時間で効率よく行うことができて、該グロープラグ8で消費する電気エネルギーの削減化を図る効果が期待できる。
【0036】
次に、図2(イ)(ロ)は本発明の実施の他の形態をとして、図1(イ)(ロ)の実施の形態の応用例を示すもので、図1(イ)(ロ)に示したと同様の構成において、窪み9を、グロープラグ取付穴10の副室2側開口部と、該取付穴10に取り付けるグロープラグ8との間の空間として形成させる構成に代えて、副室2内にて、燃料噴斜ノズル5による燃料噴射個所よりも渦流7の進行方向下流側となる内壁面の所要個所に、窪み9aを単独に設けてなる構成としたものである。
【0037】
その他の構成は図1(イ)(ロ)に示したものと同様であり、同一のものには同一の符号が付してある。
【0038】
本実施の形態によっても、上記副室2内に渦流7が形成されるときには、図2(ロ)に矢印Aで示すように、該渦流7の流れの一部を上記窪み9aの内側で滞留させることができることから、上記実施の形態と同様に、渦流室式ディーゼルエンジンにおける燃焼効率の向上及びPM量の低減を図ることと、始動性の向上を図ることを、共に改善できるという効果を得ることができる。
【0039】
次いで、図3(イ)(ロ)は本発明の実施の更に他の形態を示すもので、以下のような構成としてある。
【0040】
すなわち、図1(イ)(ロ)に示したと同様の構成において、副室2の内壁面に滞留部となる窪み9を設ける構成に代えて、上記球形としてある副室2の内壁面の所要個所、より具体的には、上記副室2の内壁面にて、燃料噴斜ノズル5による燃料噴射個所よりも渦流7の進行方向下流側となる所要個所に、副室2内へ所要寸法突出する滞留部形成用の突起12を設けて、上記渦流7が上記突起12に衝突して流れるときの後流として形成されるカルマン渦によって該突起12の背面側に上記渦流7の流れの一部が滞留される滞留部13を形成させるようにしたものである。
【0041】
その他、図1(イ)(ロ)に示したものと同一のものには同一符号が付してある。
【0042】
以上の構成としてある本発明の渦流室式ディーゼルエンジンによれば、圧縮工程時に主室3より空気が副室2内に押し込まれて、該副室2内に渦流7が形成されると、該渦流7の流れが当たる上記突起12の背面側に、図3(ロ)に矢印Bで示すように渦流7の流れの一部が滞留される滞留部13が形成される。
【0043】
この状態で上記燃料噴射ノズル5より上記渦流7に対して燃料6が噴射されると、該噴射された燃料6の一部が上記渦流7の流れの一部と一緒に上記突起12の背面側の滞留部13に滞留し、滞留部13では、燃料6の濃度が可燃限界以下まで過度に希薄化される虞が未然に防止されるようになる。
【0044】
したがって、本実施の形態においても、図1(イ)(ロ)の実施の形態と同様に、燃焼効率の向上及びPMの低減を図ることと、始動性の向上を図ることとを、共に改善できるという効果を得ることができる。
【0045】
なお、本発明は上記各実施の形態のみに限定されるものではなく、図1(イ)(ロ)の実施の形態の窪み9、図2(イ)(ロ)の実施の形態の窪み9a、図3(イ)(ロ)の実施の形態の突起12のサイズは、副室2のサイズや、副室2内で発生する渦流7の強さに応じて、該渦流7の流れの一部を滞留させることができ、且つマクロ的に見た場合は上記副室2内の渦流7が弱められることがないように、その位置やサイズは、図示した個所やサイズより適宜変更してもよい。
【0046】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の渦流室式ディーゼルエンジンの実施の一形態を示すもので、(イ)は概略切断側面図、(ロ)は(イ)における副室に設けた窪みの部分を拡大して示す図である。
【図2】本発明の実施の他の形態を示すもので、(イ)は概略切断側面図、(ロ)は(イ)における副室に設けた窪みの部分を拡大して示す図である。
【図3】本発明の実施の更に他の形態を示すもので、(イ)は概略切断側面図、(ロ)は(イ)の突起の部分を拡大して示す図である。
【図4】従来の副室式ディーゼルエンジンの一例として、渦流室式ディーゼルエンジンの概略を示す概略切断側面図である。
【符号の説明】
【0048】
2 副室
3 主室
7 渦流
9,9a 窪み(滞留部)
12 突起
13 滞留部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主室と副室からなる燃焼室を備えて副室内で渦流が形成されるようにしてある渦流室式ディーゼルエンジンにおいて、上記副室内の所要個所に、圧縮工程時に該副室内で発生する渦流の一部を滞留させるための滞留部を設けてなる構成を有することを特徴とする渦流室式ディーゼルエンジン。
【請求項2】
滞留部を、副室における燃料噴射個所よりも渦流の進行方向下流側となる個所に設けるようにした請求項1記載の渦流室式ディーゼルエンジン。
【請求項3】
副室の内壁面に窪みを設けて、該窪みの内側を滞留部とするようにした請求項1又は2記載の渦流室式ディーゼルエンジン。
【請求項4】
副室の内壁面に突起を設けて、渦流の流れが当たる上記突起の背面側を滞留部とするようにした請求項1又は2記載の渦流室式ディーゼルエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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