渦電流減速装置
【課題】外部からの電力供給を低減することができる渦電流減速装置を提供する。
【解決手段】 回転軸2に設けられた導電体ロータ31と、その導電体ロータ31の径方向外側に設けられた制動側環状体7と、その制動側環状体7に設けられた電磁石8とを備えた渦電流減速装置1であって、上記回転軸2に設けられた非磁性体ロータ32と、その非磁性体ロータ32に設けられた複数のポールピース33と、上記非磁性体ロータ32の径方向内側に設けられたヨーク4と、そのヨーク4に設けられた複数の永久磁石41と、上記ヨーク4の反対側に設けられた発電側環状体5と、その発電側環状体5に設けられた複数の鉄心51および導電性コイル52と、その発電側環状体5の導電性コイル52を上記制動側環状体7の電磁石8の導電性コイル82に電気的に接続する制動モードと遮断する非制動モードとを切り替えるための切替手段9とを備えたものである。
【解決手段】 回転軸2に設けられた導電体ロータ31と、その導電体ロータ31の径方向外側に設けられた制動側環状体7と、その制動側環状体7に設けられた電磁石8とを備えた渦電流減速装置1であって、上記回転軸2に設けられた非磁性体ロータ32と、その非磁性体ロータ32に設けられた複数のポールピース33と、上記非磁性体ロータ32の径方向内側に設けられたヨーク4と、そのヨーク4に設けられた複数の永久磁石41と、上記ヨーク4の反対側に設けられた発電側環状体5と、その発電側環状体5に設けられた複数の鉄心51および導電性コイル52と、その発電側環状体5の導電性コイル52を上記制動側環状体7の電磁石8の導電性コイル82に電気的に接続する制動モードと遮断する非制動モードとを切り替えるための切替手段9とを備えたものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦電流により回転軸を制動可能でかつ、その回転軸の回転による発電が可能な渦電流減速装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、渦電流を用いた渦電流ブレーキ(渦電流減速装置)が知られている。
【0003】
図11に示すように、渦電流ブレーキは、磁石131および導体(ロータ)132の相互運動により発生する渦電流133と、磁石131からの磁界134との相互作用により発生する制動力135を利用して、導体132を減速するようにしている。ここで、磁界134を発生するための磁石131には、永久磁石と電磁石とがある(特許文献1参照)。
【0004】
例えば、電磁石式リターダでは、電磁石への通電・非通電を切り替えることで、リターダの制動・非制動を切り替えるようにしている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−291224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電磁石式リターダには、大きな制動力を得るために、大電流を電磁石のコイルに流す必要があり、そのため、車両に、電磁石式リターダを装着すると、バッテリ容量や発電能力の増強が必要となってしまうという問題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、外部からの電力供給を低減することができる渦電流減速装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、回転軸に同芯的に設けられた導電体からなるリング状の導電体ロータと、その導電体ロータの径方向内側または外側に位置させて、固定側に設けられたリング状の制動側環状体と、その制動側環状体に周方向に沿って間隔を隔てて設けられた複数の鉄心およびこれら鉄心に巻回された導電性コイルで構成された電磁石とを備えた渦電流減速装置であって、上記回転軸に同芯的に、かつ上記導電体ロータに対して軸方向に並べて上記回転軸に設けられた非磁性体からなるリング状の非磁性体ロータと、その非磁性体ロータに周方向に沿って間隔を隔てて設けられた磁性体からなる複数のポールピースと、上記非磁性体ロータの径方向内側または外側に位置させて固定側に設けられたリング状のヨークと、そのヨークに周方向に沿ってN極、S極が交互になるよう、かつ各磁極を上記非磁性体ロータに対向させて設けられた複数の永久磁石と、上記ヨークに対して上記非磁性体ロータを挟んで径方向に反対側に位置させて上記固定側に設けられた発電側環状体と、その発電側環状体に周方向に沿って所定の間隔を隔てて、かつ上記非磁性体ロータに対向させて設けられた複数の鉄心と、これら鉄心に巻回された導電性コイルと、上記発電側環状体の導電性コイルを上記制動側環状体の導電性コイルに電気的に接続する制動モードとそれら導電性コイルの接続を遮断する非制動モードとを切り替えるための切替手段とを備えたものである。
【0009】
好ましくは、上記導電体ロータと非磁性体ロータとが軸方向に接合されて一体的に形成されたものである。
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、回転軸に同芯的に設けられたディスク状のロータと、そのロータに周方向に沿って設けられた導電体部と、上記ロータに対して軸方向に並べて固定側に設けられたリング状のステータと、そのステータに周方向に沿って間隔を隔てて、かつ上記ロータの導電体部に対向するよう設けられた複数の鉄心およびこれら鉄心に巻回された導電性コイルで構成された電磁石とを備えた渦電流減速装置であって、上記ロータにおける上記導電体部の径方向内側または外側に周方向に沿って間隔を隔てて設けられた磁性体からなる複数のポールピースと、隣り合うポールピースの間に各々設けられた非磁性体部と、上記ステータに周方向に沿って間隔を隔てて、かつ上記ロータのポールピースに対向するよう設けられた複数の発電用鉄心と、これら発電用鉄心に巻回された発電用導電性コイルと、上記ステータに対して上記ロータを挟んで軸方向に反対側に位置させて上記固定側に設けられたヨークと、そのヨークに周方向に沿ってN極、S極が交互になるよう、かつ各磁極を上記ロータのポールピースに対向させて設けられた複数の永久磁石と、上記発電用導電性コイルを上記電磁石の導電性コイルに電気的に接続する制動モードとそれら導電性コイルの接続を遮断する非制動モードとを切り替えるための切替手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、外部からの電力供給を低減することができるという優れた効果を発揮するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0013】
[第一の実施形態]
本実施形態の渦電流減速装置(リターダ)は、例えば、車両の補助ブレーキに適用され、変速機の出力軸(回転軸)に制動力を付与する。
【0014】
まず、図1から図7に基づき本実施形態の渦電流減速装置の概略構造を説明する。
【0015】
図1および図2に示すように、渦電流減速装置1は、回転軸2(図5参照)と、その回転軸2に同芯的に設けられたリング状の導電体ロータ31と、その導電体ロータ31の径方向外側に位置させて固定側に設けられたリング状の制動側環状体7と、導電体ロータ31に対して軸方向に並べて設けられたリング状の非磁性体ロータ32と、その非磁性体ロータ32の径方向内側に位置させて固定側に設けられたリング状のヨーク4と、それらヨーク4および非磁性体ロータ32の径方向外側に設けられた発電側環状体5と、制動モードおよび非制動モードを切り替えるための切替手段9とを備える。
【0016】
図3および図4に示すように、本実施形態では、導電体ロータ31と非磁性体ロータ32とが軸方向に接合されて一体的に形成され、一体型のロータ3をなす。すなわち、ロータ3は、良導電材料(磁性・非磁性を問わず)からなる良導電体部31(導電体ロータ)と、非磁性材料(非金属・金属を問わず)からなる非磁性体部32(非磁性体ロータ)とを接合した複合材で構成される。
【0017】
そのロータ3は、回転軸2の軸方向に延出する円筒形状を有し、図示しない支持材(例えば、スポーク状の支持材)にて、回転軸2に同芯的に取り付けられる。
【0018】
良導電体部31を構成する良導電材料(導電体)としては、回転に耐えうる強度を持ち、かつ渦電流が発生しやすいように電気抵抗の小さい材料が使用され、例えば、銅、アルミ、低炭素鋼などが考えられる。
【0019】
非磁性体部32を構成する非磁性材料(非磁性体)としては、回転に耐えうる強度を持ち、かつ渦電流が発生しにくい電気抵抗の大きい材料が使用され、例えば、ステンレスや真ちゅうなどが考えられる。
【0020】
非磁性体部32には、磁性材料(磁性体)(例えば、鉄など)からなる複数のポールピース33が設けられる。
【0021】
具体的には、ポールピース33は、非磁性体部32に、周方向に等間隔でかつ非磁性体部32の外周面および内周面から露出させて埋め込まれる。本実施形態では、非磁性体部32のポールピース33が、後述するヨーク4の永久磁石41(および発電側環状体5のコイル鉄心51)と同数設けられる。また、それらポールピース33間には、非磁性体部32自身を構成する非磁性材料からなる磁気遮蔽部34が位置する。
【0022】
ポールピース33の磁性材料は、できるだけヨーク4の永久磁石41の磁束が、発電側環状体5のコイル鉄心51を通過するよう透磁率の高い材料が望ましく、かつ渦電流が発生しにくいように電気抵抗の大きな材料(絶縁体や半導体など)が好ましい。例えば、ポールピース33の磁性材料としては、積層鋼板などが考えられる。
【0023】
制動側環状体7は、回転軸2に対して同芯的に位置させて、図示しないケースに取り付けられる。本実施形態の制動側環状体7は、発電側環状体5と略同径に形成され、磁性体からなる。
【0024】
その制動側環状体には、周方向に沿って間隔を隔てて複数の電磁石8が設けられる。
【0025】
図5に示すように、その電磁石8は、制動側環状体7に周方向に沿って所定の間隔で設けられた複数のコイル鉄心81と、これらコイル鉄心81に巻回された導電性コイル(以下、リターダ用コイルという)82とで構成される。
【0026】
コイル鉄心81は、制動側環状体7の内周面に沿って等間隔で形成され、内周面から径方向内側に突出する。リターダ用コイル82は、各コイル鉄心81に電線を各々巻回してなる。各リターダ用コイル82は、後述する切替手段9の接続ライン91に接続される。
【0027】
以上のように構成された電磁石8には、通電時に、周方向に沿ってN極、S極が交互になるよう電力が供給される。
【0028】
図1および図2に戻り、リング状のヨーク4は、回転軸2に対して同芯的に図示しないケースに取り付けられる。本実施形態のヨーク4は、後述するヨーク支持材61(図6参照)により、回転軸2の軸方向に沿って、移動可能に支持される。ヨーク4は、磁性体からなる。
【0029】
そのヨーク4には、複数の永久磁石41が、周方向に沿ってN極、S極が交互になるよう、かつ各磁極をロータ3の内周面に対向させて設けられる。
【0030】
具体的には、永久磁石41は、一方の磁極を径方向外側(ロータ3側)に向けて突出するよう、かつ他方の磁極がヨーク4の外周面に当接するよう、ヨーク4に等間隔で取り付けられる。
【0031】
発電側環状体5は、回転軸2に対して同芯的に位置させて、図示しないケースに取り付けられる。発電側環状体5は、磁性体からなる。
【0032】
発電側環状体5には、周方向に沿って所定の間隔で複数のコイル鉄心51(鉄心)と、これらコイル鉄心51に巻回された導電性コイル(以下、発電用コイルという)52とが設けられる。
【0033】
具体的には、コイル鉄心51は、発電側環状体5の内周面に沿って等間隔で形成され、内周面から径方向内側に突出する。本実施形態では、コイル鉄心51が、ヨーク4の永久磁石41と同数設けられ、各永久磁石41に対応する周方向位置に各々配置される。
【0034】
発電用コイル52は、例えば、一本の電線にて全てのコイル鉄心51を巻回してなり、その発電用コイル52は、車両のバッテリなどに接続される。
【0035】
本実施形態では、ヨーク4を回転軸2の軸方向に沿って往復動させるためのヨーク移動手段6が設けられる。
【0036】
そのヨーク移動手段6は、ヨーク4の内周面に摺接してヨーク4を軸方向移動可能に支持するヨーク支持材61と、ヨーク4の軸方向の一端部に取り付けられ、軸方向に伸縮可能なエアシリンダ(図示せず)とを備える。
【0037】
ヨーク移動手段6は、エアシリンダを伸縮させてヨーク4を軸方向(図1および図2において左右方向)に沿って往復動させることで、ヨーク4を、ヨーク4の永久磁石41がロータ3の非磁性体部32の内周面に対向する発電位置(制動位置)と、ロータ3全体に対して軸方向に(図1においてロータ3の右方に)離間した非発電位置(非制動位置)とで切り替える。
【0038】
切替手段9は、発電側環状体5の発電用コイル52を制動側環状体7のリターダ用コイル82に電気的に接続する接続ライン(電気回路)91と、その接続ライン91を流れる電流量を調整するための電流調整装置92とを備える。また、接続ライン91は、余剰の電力を回収するべく、バッテリなど接続される。
【0039】
本実施形態では、ロータ3の良導電体部31と制動側環状体7の電磁石8により回転軸2に減速力を付与する制動部(図1において左側)が構成され、ヨーク4の永久磁石41とロータ3の非磁性体部32と発電側環状体5の発電用コイル52およびコイル鉄心51とにより発電部(図1において右側)が構成される。
【0040】
次に、本実施形態の渦電流減速装置1の作用を説明する。
【0041】
本実施形態の渦電流減速装置1は、制動時に、ロータ3の非磁性体部32と発電側環状体5の発電用コイル52およびコイル鉄心51とにより発電を行うと共に、その発電された電力を切替手段9を介して制動側環状体7の電磁石8に供給して、電磁石8の磁束により良導電体部31に渦電流を発生させ回転軸2の回転を減速させるものである。
【0042】
まず、図1に基づき制動時の渦電流減速装置1について説明する。
【0043】
制動時、回転軸2が回転すると、発電側環状体5のコイル鉄心51を通る磁束が増減して、発電用コイル52に起電力が発生し、発電が行われる。
【0044】
より詳細には、図1に示すように、ヨーク移動手段6によりヨーク4が発電位置に配置されると、ヨーク4の永久磁石41は、非磁性体部32(および発電側環状体5)の内周側に位置され、各磁極が非磁性体部32の内周面(ポールピース33および磁気遮蔽部34)と対向する。
【0045】
図6に示すように、ロータ3のポールピース33が、環状体のコイル鉄心51およびヨーク4の永久磁石41と同じ周方向位置に位置するときは、永久磁石41のN極からポールピース33、コイル鉄心51を通り、さらにヨーク4、隣接するコイル鉄心51、ポールピース33、永久磁石41のS極に至る磁気回路C2が形成される。このとき、コイル鉄心51を通る磁束は最大となる。
【0046】
この図6の位置からロータ3が回転すると、ポールピース33を通過してコイル鉄心51を通る磁束の量が徐々に減少する。
【0047】
図7に示すように、ロータ3の磁気遮蔽部34が、環状体のコイル鉄心51およびヨーク4の永久磁石41と同じ周方向位置に位置するときは、その磁気遮蔽部34により、永久磁石41からコイル鉄心51への磁束が遮断され、永久磁石41のN極から、ポールピース33を通り隣接する永久磁石41のS極に至る磁気回路C3が形成される。このとき、コイル鉄心51を通る磁束は最小(ほぼ0)となる。
【0048】
この図7の位置からロータ3が回転すると、ポールピース33を通過してコイル鉄心51を通る磁束の量が徐々に増大する。
【0049】
以上のように本実施形態では、ロータ3の回転によりコイル鉄心51を通る磁束が増減することで、発電用コイル52に起電力が発生し、発電が行われる。
【0050】
次に、図8に基づき、回転軸2(ロータ3)の回転角と、発電用コイル52の電圧およびコイル鉄心51内の磁束との関係を説明する。
【0051】
図8は、一例として、極数が12の渦電流減速装置1におけるロータ3の回転角によるコイル鉄心51内の磁束(図8において、破線Mで示す)および起電力(電圧)(図8において、実線Eで示す)の変化を示す。ここで、ポールピース33が、コイル鉄心51および永久磁石41と同じ周方向位置に位置するときの回転角を、0度とし、60度までを示す。
【0052】
図8に示すように、ポールピース33が、コイル鉄心51および永久磁石41と同じ周方向位置に位置する回転角0、30および60度(図8において、符号Hで示す)では、コイル鉄心51内の磁束が最大となる。
【0053】
一方、ポールピース33が、極(永久磁石41)の中間位置に位置する回転角15、45度(図8において、符号Lで示す)では、コイル鉄心51内の磁束が最小となる。
【0054】
以上のように、ロータ3の回転角によりコイル鉄心51内の磁束が変化し、その変化量に見合った起電力が発電用コイル52に発生して発電が行われる。
【0055】
この発電側環状体5の発電用コイル52で発生した交流電流は、切替手段9の電流調整装置92内のダイオードなどにより、直列電流(直流電流)に整流されて、リターダ用コイル82に供給される(制動モード)。
【0056】
これにより、図5に示すように、制動側環状体7の電磁石8が通電されて、その電磁石8とロータ3の良導電体部31との間に磁気回路C1が形成される。
【0057】
この磁気回路C1の磁束と良導電体部31の回転とにより、良導電体部31に渦電流が発生し、その渦電流と磁気回路C1により、良導電体部31に回転軸2の回転を減速する制動力が付与される。
【0058】
本実施形態では、電流調整装置92が、電磁石8に供給される電流量を調整することで、ロータ3に付与される制動力を制御する。例えば、大きな制動力が必要でない場合は、切替手段9の電流調整装置92により、電磁石8への電流量が減少されるようになっている。
【0059】
次に、非制動時の渦電流減速装置1について説明する。
【0060】
非制動時は、切替手段9の接続ライン91がスイッチなどにより開放されて、電磁石8への電力の供給が遮断される(非制動モード)。したがって、ロータ3の良導電体部31には渦電流が生起されず、回転軸2に制動力が働くことはない。
【0061】
また、接続ライン91が開放されることにより、発電側環状体5の発電用コイル52での発電が停止する。本実施形態では、さらに、引き摺りトルクの発生を防止すべく、ヨーク4が非発電位置に位置される。
【0062】
このように、本実施形態では、外部から電力を供給することなく電磁石式リターダ80にて制動力を得ることが可能となる。
【0063】
また、大きな制動力を必要としない場合に、発電部側で発電させる電力をバッテリなどに蓄えることも可能なため、制動回生装置としても利用可能となる。
【0064】
また、本実施形態の渦電流減速装置1の発電部は、通常の発電機と異なり、永久磁石41を回転させることなく発電を行うため、その永久磁石41(発電側環状体5)を回転軸2の軸方向に移動させコイル鉄心51より遠ざけて、コイル鉄心51へ進入する磁束を減らす構造を容易に構成でき、発電不要時のコギングトルクや損失の低減が可能となる。
【0065】
[第二の実施形態]
次に、図9および図10に基づき第二の実施形態を説明する。本実施形態では、発電部と制動部とが径方向に並べて配置される点が、第一の実施形態と異なり、それ以外は、第一の実施形態と同様となっている。したがって、第一の実施形態と同一の要素については、図中同一符号を付すに止め、詳細な説明は省略する。
【0066】
図9および図10に示すように、本実施形態の渦電流減速装置10は、回転軸2に同芯的に設けられたディスク状のロータ130と、そのロータ130に対して軸方向に並べて固定側に設けられたリング状のステータ150と、そのステータ150に対してロータ130を挟んで軸方向に反対側に位置させて固定側に設けられたヨーク140と、制動モードおよび非制動モードを切り替えるための切替手段9とを備える。
【0067】
ロータ130は、回転軸2に固定されたロータ本体131と、そのロータ本体131の外周部に周方向に沿って設けられたリング状の導電体部31(以下、良導電体部)とで構成される。
【0068】
ロータ本体131は、中心部に、回転軸2が挿通する挿通穴132が形成され、その挿通穴132に回転軸2を嵌め込んでロータ130が回転軸2に固定される。
【0069】
ロータ本体131には、磁性材料(磁性体)からなる複数のポールピース33が、周方向に沿って所定の間隔(図例では等間隔)を隔てて設けられ、隣り合うポールピース33、33の間には、非磁性体部(磁気遮蔽部)34(図10参照)が各々設けられる。
【0070】
ポールピース33は、良導電体部31の径方向内側に位置し、ロータ本体131の軸方向両側面から露出させてロータ本体131に埋め込まれる。本実施形態では、ポールピース33は、後述するヨーク140の永久磁石41(およびステータ150の発電用鉄心51)と同数設けられる。
【0071】
ステータ150は、中央部に回転軸2が貫通する貫通穴151が形成されたリング形状を有し、ロータ130(良導電体部31)と略同じ外径を有する。
【0072】
そのステータ150の外周部には複数の電磁石8が周方向に所定の間隔(図例では等間隔)で設けられ、それら電磁石8の径方向内側には、複数のコイル鉄心51(以下、発電用鉄心という)およびそれら発電用鉄心51に巻回された発電用導電性コイル52(以下、発電用コイルという)が設けられる。
【0073】
電磁石8は、ステータ150におけるロータ130の対向面(図9では、右側面)に形成された鉄心81(以下、コイル鉄心という)と、そのコイル鉄心81に巻回された導電性コイル82(以下、リターダ用コイルという)とで構成される。コイル鉄心81は、ステータ150からロータ130側に突出し、その先端部がロータ130の良導電部31と対向する。
【0074】
以上のように構成された電磁石8には、通電時に、周方向に沿ってN極、S極が交互になるよう電力が供給される。
【0075】
発電用鉄心51は、電磁石8のコイル鉄心81と同様に、周方向に等間隔で形成され、ステータ150からロータ130側に突出し、その先端部が、ロータ130のポールピース33と対向する。
【0076】
本実施形態では、電磁石8のコイル鉄心81と発電用鉄心51とが同数、かつ同じ周方向位置に形成される。また、リターダ用コイル82と発電用コイル52とは、切替手段9の接続ライン91を介して電気的に接続される。
【0077】
ヨーク140は、中央部に回転軸2が貫通する貫通穴141が形成されたリング形状を有する。
【0078】
ヨーク140の外周部には、複数の永久磁石41が、周方向に沿って所定の間隔(図例では、等間隔)で設けられる。本実施形態の永久磁石41は、ロータ130のポールピース33(およびステータ150の発電用鉄心51)と同数設けられる。
【0079】
それら永久磁石41は、一方の磁極がロータ130のポールピース33に対向するよう、かつそれら対向する磁極が、周方向に沿ってN極、S極が交互になるように設けられる。
【0080】
また、本実施形態では、ヨーク140を軸方向に、ヨーク140をロータ130に近接した発電位置と離間した非発電位置との間で、往復動させるためのヨーク移動手段(図示せず)が設けられる。ヨーク移動手段は、例えば、軸方向に伸縮可能なシリンダなどが考えられる。
【0081】
本実施形態でも、上述の第一の実施形態と同様に、制動時、回転軸2の回転により、発電用鉄心51を通る磁束が増減して、発電用コイル52に起電力が発生すると共に、その電力がリターダ用コイル81に供給されて、回転軸2に渦電流による制動力が付与される。一方、非制動時は、ヨーク140がロータ130から離間されて、コギングトルクなどの損失が低減される。
【0082】
このように、本実施形態でも、第一の実施形態と同様の効果が得られる。
【0083】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されず、様々な変形例や応用例が考えられるものである。
【0084】
例えば、上述の第一の実施形態では、ロータ3に対して径方向の外周側に発電側環状体5および制動側環状体7、内周側にヨーク4を各々配置したが、発電側環状体5および制動側環状体7とヨーク4の配置は内外周を反対にしてもよい。
【0085】
また、第二の実施形態では、制動部を外周側、発電部を内周側に各々配置したが、これらは内外周を反対にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、本発明に係る一実施形態による渦電流減速装置の断面図である。
【図2】図2は、本実施形態の渦電流減速装置の斜視図である。
【図3】図3は、本実施形態のロータの斜視図である。
【図4】図4は、図3のIV方向矢視図である。
【図5】図5は、図1のV−V断面図である。
【図6】図6は、図1のVI−VI断面図である。
【図7】図7は、図6からロータが所定角度回転した状態を示す。
【図8】図8は、ロータの回転角と、鉄心内の磁束およびコイルの電圧の関係を説明するための図である。
【図9】図9は、他の実施形態の渦電流減速装置の断面図である。
【図10】図10は、図9のX方向矢視図である。
【図11】図11は、渦電流による制動力を説明するための図である。
【符号の説明】
【0087】
1 渦電流減速装置
2 回転軸
4 ヨーク
5 発電側環状体
7 制動側環状体
8 電磁石
9 切替手段
31 導電体ロータ
32 非磁性体ロータ
33 ポールピース
41 永久磁石
51 鉄心(発電用鉄心)
52 導電性コイル(発電用コイル)
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦電流により回転軸を制動可能でかつ、その回転軸の回転による発電が可能な渦電流減速装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、渦電流を用いた渦電流ブレーキ(渦電流減速装置)が知られている。
【0003】
図11に示すように、渦電流ブレーキは、磁石131および導体(ロータ)132の相互運動により発生する渦電流133と、磁石131からの磁界134との相互作用により発生する制動力135を利用して、導体132を減速するようにしている。ここで、磁界134を発生するための磁石131には、永久磁石と電磁石とがある(特許文献1参照)。
【0004】
例えば、電磁石式リターダでは、電磁石への通電・非通電を切り替えることで、リターダの制動・非制動を切り替えるようにしている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−291224号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電磁石式リターダには、大きな制動力を得るために、大電流を電磁石のコイルに流す必要があり、そのため、車両に、電磁石式リターダを装着すると、バッテリ容量や発電能力の増強が必要となってしまうという問題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、外部からの電力供給を低減することができる渦電流減速装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、回転軸に同芯的に設けられた導電体からなるリング状の導電体ロータと、その導電体ロータの径方向内側または外側に位置させて、固定側に設けられたリング状の制動側環状体と、その制動側環状体に周方向に沿って間隔を隔てて設けられた複数の鉄心およびこれら鉄心に巻回された導電性コイルで構成された電磁石とを備えた渦電流減速装置であって、上記回転軸に同芯的に、かつ上記導電体ロータに対して軸方向に並べて上記回転軸に設けられた非磁性体からなるリング状の非磁性体ロータと、その非磁性体ロータに周方向に沿って間隔を隔てて設けられた磁性体からなる複数のポールピースと、上記非磁性体ロータの径方向内側または外側に位置させて固定側に設けられたリング状のヨークと、そのヨークに周方向に沿ってN極、S極が交互になるよう、かつ各磁極を上記非磁性体ロータに対向させて設けられた複数の永久磁石と、上記ヨークに対して上記非磁性体ロータを挟んで径方向に反対側に位置させて上記固定側に設けられた発電側環状体と、その発電側環状体に周方向に沿って所定の間隔を隔てて、かつ上記非磁性体ロータに対向させて設けられた複数の鉄心と、これら鉄心に巻回された導電性コイルと、上記発電側環状体の導電性コイルを上記制動側環状体の導電性コイルに電気的に接続する制動モードとそれら導電性コイルの接続を遮断する非制動モードとを切り替えるための切替手段とを備えたものである。
【0009】
好ましくは、上記導電体ロータと非磁性体ロータとが軸方向に接合されて一体的に形成されたものである。
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、回転軸に同芯的に設けられたディスク状のロータと、そのロータに周方向に沿って設けられた導電体部と、上記ロータに対して軸方向に並べて固定側に設けられたリング状のステータと、そのステータに周方向に沿って間隔を隔てて、かつ上記ロータの導電体部に対向するよう設けられた複数の鉄心およびこれら鉄心に巻回された導電性コイルで構成された電磁石とを備えた渦電流減速装置であって、上記ロータにおける上記導電体部の径方向内側または外側に周方向に沿って間隔を隔てて設けられた磁性体からなる複数のポールピースと、隣り合うポールピースの間に各々設けられた非磁性体部と、上記ステータに周方向に沿って間隔を隔てて、かつ上記ロータのポールピースに対向するよう設けられた複数の発電用鉄心と、これら発電用鉄心に巻回された発電用導電性コイルと、上記ステータに対して上記ロータを挟んで軸方向に反対側に位置させて上記固定側に設けられたヨークと、そのヨークに周方向に沿ってN極、S極が交互になるよう、かつ各磁極を上記ロータのポールピースに対向させて設けられた複数の永久磁石と、上記発電用導電性コイルを上記電磁石の導電性コイルに電気的に接続する制動モードとそれら導電性コイルの接続を遮断する非制動モードとを切り替えるための切替手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、外部からの電力供給を低減することができるという優れた効果を発揮するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0013】
[第一の実施形態]
本実施形態の渦電流減速装置(リターダ)は、例えば、車両の補助ブレーキに適用され、変速機の出力軸(回転軸)に制動力を付与する。
【0014】
まず、図1から図7に基づき本実施形態の渦電流減速装置の概略構造を説明する。
【0015】
図1および図2に示すように、渦電流減速装置1は、回転軸2(図5参照)と、その回転軸2に同芯的に設けられたリング状の導電体ロータ31と、その導電体ロータ31の径方向外側に位置させて固定側に設けられたリング状の制動側環状体7と、導電体ロータ31に対して軸方向に並べて設けられたリング状の非磁性体ロータ32と、その非磁性体ロータ32の径方向内側に位置させて固定側に設けられたリング状のヨーク4と、それらヨーク4および非磁性体ロータ32の径方向外側に設けられた発電側環状体5と、制動モードおよび非制動モードを切り替えるための切替手段9とを備える。
【0016】
図3および図4に示すように、本実施形態では、導電体ロータ31と非磁性体ロータ32とが軸方向に接合されて一体的に形成され、一体型のロータ3をなす。すなわち、ロータ3は、良導電材料(磁性・非磁性を問わず)からなる良導電体部31(導電体ロータ)と、非磁性材料(非金属・金属を問わず)からなる非磁性体部32(非磁性体ロータ)とを接合した複合材で構成される。
【0017】
そのロータ3は、回転軸2の軸方向に延出する円筒形状を有し、図示しない支持材(例えば、スポーク状の支持材)にて、回転軸2に同芯的に取り付けられる。
【0018】
良導電体部31を構成する良導電材料(導電体)としては、回転に耐えうる強度を持ち、かつ渦電流が発生しやすいように電気抵抗の小さい材料が使用され、例えば、銅、アルミ、低炭素鋼などが考えられる。
【0019】
非磁性体部32を構成する非磁性材料(非磁性体)としては、回転に耐えうる強度を持ち、かつ渦電流が発生しにくい電気抵抗の大きい材料が使用され、例えば、ステンレスや真ちゅうなどが考えられる。
【0020】
非磁性体部32には、磁性材料(磁性体)(例えば、鉄など)からなる複数のポールピース33が設けられる。
【0021】
具体的には、ポールピース33は、非磁性体部32に、周方向に等間隔でかつ非磁性体部32の外周面および内周面から露出させて埋め込まれる。本実施形態では、非磁性体部32のポールピース33が、後述するヨーク4の永久磁石41(および発電側環状体5のコイル鉄心51)と同数設けられる。また、それらポールピース33間には、非磁性体部32自身を構成する非磁性材料からなる磁気遮蔽部34が位置する。
【0022】
ポールピース33の磁性材料は、できるだけヨーク4の永久磁石41の磁束が、発電側環状体5のコイル鉄心51を通過するよう透磁率の高い材料が望ましく、かつ渦電流が発生しにくいように電気抵抗の大きな材料(絶縁体や半導体など)が好ましい。例えば、ポールピース33の磁性材料としては、積層鋼板などが考えられる。
【0023】
制動側環状体7は、回転軸2に対して同芯的に位置させて、図示しないケースに取り付けられる。本実施形態の制動側環状体7は、発電側環状体5と略同径に形成され、磁性体からなる。
【0024】
その制動側環状体には、周方向に沿って間隔を隔てて複数の電磁石8が設けられる。
【0025】
図5に示すように、その電磁石8は、制動側環状体7に周方向に沿って所定の間隔で設けられた複数のコイル鉄心81と、これらコイル鉄心81に巻回された導電性コイル(以下、リターダ用コイルという)82とで構成される。
【0026】
コイル鉄心81は、制動側環状体7の内周面に沿って等間隔で形成され、内周面から径方向内側に突出する。リターダ用コイル82は、各コイル鉄心81に電線を各々巻回してなる。各リターダ用コイル82は、後述する切替手段9の接続ライン91に接続される。
【0027】
以上のように構成された電磁石8には、通電時に、周方向に沿ってN極、S極が交互になるよう電力が供給される。
【0028】
図1および図2に戻り、リング状のヨーク4は、回転軸2に対して同芯的に図示しないケースに取り付けられる。本実施形態のヨーク4は、後述するヨーク支持材61(図6参照)により、回転軸2の軸方向に沿って、移動可能に支持される。ヨーク4は、磁性体からなる。
【0029】
そのヨーク4には、複数の永久磁石41が、周方向に沿ってN極、S極が交互になるよう、かつ各磁極をロータ3の内周面に対向させて設けられる。
【0030】
具体的には、永久磁石41は、一方の磁極を径方向外側(ロータ3側)に向けて突出するよう、かつ他方の磁極がヨーク4の外周面に当接するよう、ヨーク4に等間隔で取り付けられる。
【0031】
発電側環状体5は、回転軸2に対して同芯的に位置させて、図示しないケースに取り付けられる。発電側環状体5は、磁性体からなる。
【0032】
発電側環状体5には、周方向に沿って所定の間隔で複数のコイル鉄心51(鉄心)と、これらコイル鉄心51に巻回された導電性コイル(以下、発電用コイルという)52とが設けられる。
【0033】
具体的には、コイル鉄心51は、発電側環状体5の内周面に沿って等間隔で形成され、内周面から径方向内側に突出する。本実施形態では、コイル鉄心51が、ヨーク4の永久磁石41と同数設けられ、各永久磁石41に対応する周方向位置に各々配置される。
【0034】
発電用コイル52は、例えば、一本の電線にて全てのコイル鉄心51を巻回してなり、その発電用コイル52は、車両のバッテリなどに接続される。
【0035】
本実施形態では、ヨーク4を回転軸2の軸方向に沿って往復動させるためのヨーク移動手段6が設けられる。
【0036】
そのヨーク移動手段6は、ヨーク4の内周面に摺接してヨーク4を軸方向移動可能に支持するヨーク支持材61と、ヨーク4の軸方向の一端部に取り付けられ、軸方向に伸縮可能なエアシリンダ(図示せず)とを備える。
【0037】
ヨーク移動手段6は、エアシリンダを伸縮させてヨーク4を軸方向(図1および図2において左右方向)に沿って往復動させることで、ヨーク4を、ヨーク4の永久磁石41がロータ3の非磁性体部32の内周面に対向する発電位置(制動位置)と、ロータ3全体に対して軸方向に(図1においてロータ3の右方に)離間した非発電位置(非制動位置)とで切り替える。
【0038】
切替手段9は、発電側環状体5の発電用コイル52を制動側環状体7のリターダ用コイル82に電気的に接続する接続ライン(電気回路)91と、その接続ライン91を流れる電流量を調整するための電流調整装置92とを備える。また、接続ライン91は、余剰の電力を回収するべく、バッテリなど接続される。
【0039】
本実施形態では、ロータ3の良導電体部31と制動側環状体7の電磁石8により回転軸2に減速力を付与する制動部(図1において左側)が構成され、ヨーク4の永久磁石41とロータ3の非磁性体部32と発電側環状体5の発電用コイル52およびコイル鉄心51とにより発電部(図1において右側)が構成される。
【0040】
次に、本実施形態の渦電流減速装置1の作用を説明する。
【0041】
本実施形態の渦電流減速装置1は、制動時に、ロータ3の非磁性体部32と発電側環状体5の発電用コイル52およびコイル鉄心51とにより発電を行うと共に、その発電された電力を切替手段9を介して制動側環状体7の電磁石8に供給して、電磁石8の磁束により良導電体部31に渦電流を発生させ回転軸2の回転を減速させるものである。
【0042】
まず、図1に基づき制動時の渦電流減速装置1について説明する。
【0043】
制動時、回転軸2が回転すると、発電側環状体5のコイル鉄心51を通る磁束が増減して、発電用コイル52に起電力が発生し、発電が行われる。
【0044】
より詳細には、図1に示すように、ヨーク移動手段6によりヨーク4が発電位置に配置されると、ヨーク4の永久磁石41は、非磁性体部32(および発電側環状体5)の内周側に位置され、各磁極が非磁性体部32の内周面(ポールピース33および磁気遮蔽部34)と対向する。
【0045】
図6に示すように、ロータ3のポールピース33が、環状体のコイル鉄心51およびヨーク4の永久磁石41と同じ周方向位置に位置するときは、永久磁石41のN極からポールピース33、コイル鉄心51を通り、さらにヨーク4、隣接するコイル鉄心51、ポールピース33、永久磁石41のS極に至る磁気回路C2が形成される。このとき、コイル鉄心51を通る磁束は最大となる。
【0046】
この図6の位置からロータ3が回転すると、ポールピース33を通過してコイル鉄心51を通る磁束の量が徐々に減少する。
【0047】
図7に示すように、ロータ3の磁気遮蔽部34が、環状体のコイル鉄心51およびヨーク4の永久磁石41と同じ周方向位置に位置するときは、その磁気遮蔽部34により、永久磁石41からコイル鉄心51への磁束が遮断され、永久磁石41のN極から、ポールピース33を通り隣接する永久磁石41のS極に至る磁気回路C3が形成される。このとき、コイル鉄心51を通る磁束は最小(ほぼ0)となる。
【0048】
この図7の位置からロータ3が回転すると、ポールピース33を通過してコイル鉄心51を通る磁束の量が徐々に増大する。
【0049】
以上のように本実施形態では、ロータ3の回転によりコイル鉄心51を通る磁束が増減することで、発電用コイル52に起電力が発生し、発電が行われる。
【0050】
次に、図8に基づき、回転軸2(ロータ3)の回転角と、発電用コイル52の電圧およびコイル鉄心51内の磁束との関係を説明する。
【0051】
図8は、一例として、極数が12の渦電流減速装置1におけるロータ3の回転角によるコイル鉄心51内の磁束(図8において、破線Mで示す)および起電力(電圧)(図8において、実線Eで示す)の変化を示す。ここで、ポールピース33が、コイル鉄心51および永久磁石41と同じ周方向位置に位置するときの回転角を、0度とし、60度までを示す。
【0052】
図8に示すように、ポールピース33が、コイル鉄心51および永久磁石41と同じ周方向位置に位置する回転角0、30および60度(図8において、符号Hで示す)では、コイル鉄心51内の磁束が最大となる。
【0053】
一方、ポールピース33が、極(永久磁石41)の中間位置に位置する回転角15、45度(図8において、符号Lで示す)では、コイル鉄心51内の磁束が最小となる。
【0054】
以上のように、ロータ3の回転角によりコイル鉄心51内の磁束が変化し、その変化量に見合った起電力が発電用コイル52に発生して発電が行われる。
【0055】
この発電側環状体5の発電用コイル52で発生した交流電流は、切替手段9の電流調整装置92内のダイオードなどにより、直列電流(直流電流)に整流されて、リターダ用コイル82に供給される(制動モード)。
【0056】
これにより、図5に示すように、制動側環状体7の電磁石8が通電されて、その電磁石8とロータ3の良導電体部31との間に磁気回路C1が形成される。
【0057】
この磁気回路C1の磁束と良導電体部31の回転とにより、良導電体部31に渦電流が発生し、その渦電流と磁気回路C1により、良導電体部31に回転軸2の回転を減速する制動力が付与される。
【0058】
本実施形態では、電流調整装置92が、電磁石8に供給される電流量を調整することで、ロータ3に付与される制動力を制御する。例えば、大きな制動力が必要でない場合は、切替手段9の電流調整装置92により、電磁石8への電流量が減少されるようになっている。
【0059】
次に、非制動時の渦電流減速装置1について説明する。
【0060】
非制動時は、切替手段9の接続ライン91がスイッチなどにより開放されて、電磁石8への電力の供給が遮断される(非制動モード)。したがって、ロータ3の良導電体部31には渦電流が生起されず、回転軸2に制動力が働くことはない。
【0061】
また、接続ライン91が開放されることにより、発電側環状体5の発電用コイル52での発電が停止する。本実施形態では、さらに、引き摺りトルクの発生を防止すべく、ヨーク4が非発電位置に位置される。
【0062】
このように、本実施形態では、外部から電力を供給することなく電磁石式リターダ80にて制動力を得ることが可能となる。
【0063】
また、大きな制動力を必要としない場合に、発電部側で発電させる電力をバッテリなどに蓄えることも可能なため、制動回生装置としても利用可能となる。
【0064】
また、本実施形態の渦電流減速装置1の発電部は、通常の発電機と異なり、永久磁石41を回転させることなく発電を行うため、その永久磁石41(発電側環状体5)を回転軸2の軸方向に移動させコイル鉄心51より遠ざけて、コイル鉄心51へ進入する磁束を減らす構造を容易に構成でき、発電不要時のコギングトルクや損失の低減が可能となる。
【0065】
[第二の実施形態]
次に、図9および図10に基づき第二の実施形態を説明する。本実施形態では、発電部と制動部とが径方向に並べて配置される点が、第一の実施形態と異なり、それ以外は、第一の実施形態と同様となっている。したがって、第一の実施形態と同一の要素については、図中同一符号を付すに止め、詳細な説明は省略する。
【0066】
図9および図10に示すように、本実施形態の渦電流減速装置10は、回転軸2に同芯的に設けられたディスク状のロータ130と、そのロータ130に対して軸方向に並べて固定側に設けられたリング状のステータ150と、そのステータ150に対してロータ130を挟んで軸方向に反対側に位置させて固定側に設けられたヨーク140と、制動モードおよび非制動モードを切り替えるための切替手段9とを備える。
【0067】
ロータ130は、回転軸2に固定されたロータ本体131と、そのロータ本体131の外周部に周方向に沿って設けられたリング状の導電体部31(以下、良導電体部)とで構成される。
【0068】
ロータ本体131は、中心部に、回転軸2が挿通する挿通穴132が形成され、その挿通穴132に回転軸2を嵌め込んでロータ130が回転軸2に固定される。
【0069】
ロータ本体131には、磁性材料(磁性体)からなる複数のポールピース33が、周方向に沿って所定の間隔(図例では等間隔)を隔てて設けられ、隣り合うポールピース33、33の間には、非磁性体部(磁気遮蔽部)34(図10参照)が各々設けられる。
【0070】
ポールピース33は、良導電体部31の径方向内側に位置し、ロータ本体131の軸方向両側面から露出させてロータ本体131に埋め込まれる。本実施形態では、ポールピース33は、後述するヨーク140の永久磁石41(およびステータ150の発電用鉄心51)と同数設けられる。
【0071】
ステータ150は、中央部に回転軸2が貫通する貫通穴151が形成されたリング形状を有し、ロータ130(良導電体部31)と略同じ外径を有する。
【0072】
そのステータ150の外周部には複数の電磁石8が周方向に所定の間隔(図例では等間隔)で設けられ、それら電磁石8の径方向内側には、複数のコイル鉄心51(以下、発電用鉄心という)およびそれら発電用鉄心51に巻回された発電用導電性コイル52(以下、発電用コイルという)が設けられる。
【0073】
電磁石8は、ステータ150におけるロータ130の対向面(図9では、右側面)に形成された鉄心81(以下、コイル鉄心という)と、そのコイル鉄心81に巻回された導電性コイル82(以下、リターダ用コイルという)とで構成される。コイル鉄心81は、ステータ150からロータ130側に突出し、その先端部がロータ130の良導電部31と対向する。
【0074】
以上のように構成された電磁石8には、通電時に、周方向に沿ってN極、S極が交互になるよう電力が供給される。
【0075】
発電用鉄心51は、電磁石8のコイル鉄心81と同様に、周方向に等間隔で形成され、ステータ150からロータ130側に突出し、その先端部が、ロータ130のポールピース33と対向する。
【0076】
本実施形態では、電磁石8のコイル鉄心81と発電用鉄心51とが同数、かつ同じ周方向位置に形成される。また、リターダ用コイル82と発電用コイル52とは、切替手段9の接続ライン91を介して電気的に接続される。
【0077】
ヨーク140は、中央部に回転軸2が貫通する貫通穴141が形成されたリング形状を有する。
【0078】
ヨーク140の外周部には、複数の永久磁石41が、周方向に沿って所定の間隔(図例では、等間隔)で設けられる。本実施形態の永久磁石41は、ロータ130のポールピース33(およびステータ150の発電用鉄心51)と同数設けられる。
【0079】
それら永久磁石41は、一方の磁極がロータ130のポールピース33に対向するよう、かつそれら対向する磁極が、周方向に沿ってN極、S極が交互になるように設けられる。
【0080】
また、本実施形態では、ヨーク140を軸方向に、ヨーク140をロータ130に近接した発電位置と離間した非発電位置との間で、往復動させるためのヨーク移動手段(図示せず)が設けられる。ヨーク移動手段は、例えば、軸方向に伸縮可能なシリンダなどが考えられる。
【0081】
本実施形態でも、上述の第一の実施形態と同様に、制動時、回転軸2の回転により、発電用鉄心51を通る磁束が増減して、発電用コイル52に起電力が発生すると共に、その電力がリターダ用コイル81に供給されて、回転軸2に渦電流による制動力が付与される。一方、非制動時は、ヨーク140がロータ130から離間されて、コギングトルクなどの損失が低減される。
【0082】
このように、本実施形態でも、第一の実施形態と同様の効果が得られる。
【0083】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されず、様々な変形例や応用例が考えられるものである。
【0084】
例えば、上述の第一の実施形態では、ロータ3に対して径方向の外周側に発電側環状体5および制動側環状体7、内周側にヨーク4を各々配置したが、発電側環状体5および制動側環状体7とヨーク4の配置は内外周を反対にしてもよい。
【0085】
また、第二の実施形態では、制動部を外周側、発電部を内周側に各々配置したが、これらは内外周を反対にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、本発明に係る一実施形態による渦電流減速装置の断面図である。
【図2】図2は、本実施形態の渦電流減速装置の斜視図である。
【図3】図3は、本実施形態のロータの斜視図である。
【図4】図4は、図3のIV方向矢視図である。
【図5】図5は、図1のV−V断面図である。
【図6】図6は、図1のVI−VI断面図である。
【図7】図7は、図6からロータが所定角度回転した状態を示す。
【図8】図8は、ロータの回転角と、鉄心内の磁束およびコイルの電圧の関係を説明するための図である。
【図9】図9は、他の実施形態の渦電流減速装置の断面図である。
【図10】図10は、図9のX方向矢視図である。
【図11】図11は、渦電流による制動力を説明するための図である。
【符号の説明】
【0087】
1 渦電流減速装置
2 回転軸
4 ヨーク
5 発電側環状体
7 制動側環状体
8 電磁石
9 切替手段
31 導電体ロータ
32 非磁性体ロータ
33 ポールピース
41 永久磁石
51 鉄心(発電用鉄心)
52 導電性コイル(発電用コイル)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に同芯的に設けられた導電体からなるリング状の導電体ロータと、その導電体ロータの径方向内側または外側に位置させて、固定側に設けられたリング状の制動側環状体と、その制動側環状体に周方向に沿って間隔を隔てて設けられた複数の鉄心およびこれら鉄心に巻回された導電性コイルで構成された電磁石とを備えた渦電流減速装置であって、 上記回転軸に同芯的に、かつ上記導電体ロータに対して軸方向に並べて上記回転軸に設けられた非磁性体からなるリング状の非磁性体ロータと、その非磁性体ロータに周方向に沿って間隔を隔てて設けられた磁性体からなる複数のポールピースと、
上記非磁性体ロータの径方向内側または外側に位置させて固定側に設けられたリング状のヨークと、そのヨークに周方向に沿ってN極、S極が交互になるよう、かつ各磁極を上記非磁性体ロータに対向させて設けられた複数の永久磁石と、
上記ヨークに対して上記非磁性体ロータを挟んで径方向に反対側に位置させて上記固定側に設けられた発電側環状体と、その発電側環状体に周方向に沿って所定の間隔を隔てて、かつ上記非磁性体ロータに対向させて設けられた複数の鉄心と、これら鉄心に巻回された導電性コイルと、
上記発電側環状体の導電性コイルを上記制動側環状体の導電性コイルに電気的に接続する制動モードとそれら導電性コイルの接続を遮断する非制動モードとを切り替えるための切替手段とを備えたことを特徴とする渦電流減速装置。
【請求項2】
上記導電体ロータと非磁性体ロータとが軸方向に接合されて一体的に形成された請求項1記載の渦電流減速装置。
【請求項3】
回転軸に同芯的に設けられたディスク状のロータと、そのロータに周方向に沿って設けられた導電体部と、上記ロータに対して軸方向に並べて固定側に設けられたリング状のステータと、そのステータに周方向に沿って間隔を隔てて、かつ上記ロータの導電体部に対向するよう設けられた複数の鉄心およびこれら鉄心に巻回された導電性コイルで構成された電磁石とを備えた渦電流減速装置であって、
上記ロータにおける上記導電体部の径方向内側または外側に周方向に沿って間隔を隔てて設けられた磁性体からなる複数のポールピースと、隣り合うポールピースの間に各々設けられた非磁性体部と、
上記ステータに周方向に沿って間隔を隔てて、かつ上記ロータのポールピースに対向するよう設けられた複数の発電用鉄心と、これら発電用鉄心に巻回された発電用導電性コイルと、
上記ステータに対して上記ロータを挟んで軸方向に反対側に位置させて上記固定側に設けられたヨークと、そのヨークに周方向に沿ってN極、S極が交互になるよう、かつ各磁極を上記ロータのポールピースに対向させて設けられた複数の永久磁石と、
上記発電用導電性コイルを上記電磁石の導電性コイルに電気的に接続する制動モードとそれら導電性コイルの接続を遮断する非制動モードとを切り替えるための切替手段とを備えたことを特徴とする渦電流減速装置。
【請求項1】
回転軸に同芯的に設けられた導電体からなるリング状の導電体ロータと、その導電体ロータの径方向内側または外側に位置させて、固定側に設けられたリング状の制動側環状体と、その制動側環状体に周方向に沿って間隔を隔てて設けられた複数の鉄心およびこれら鉄心に巻回された導電性コイルで構成された電磁石とを備えた渦電流減速装置であって、 上記回転軸に同芯的に、かつ上記導電体ロータに対して軸方向に並べて上記回転軸に設けられた非磁性体からなるリング状の非磁性体ロータと、その非磁性体ロータに周方向に沿って間隔を隔てて設けられた磁性体からなる複数のポールピースと、
上記非磁性体ロータの径方向内側または外側に位置させて固定側に設けられたリング状のヨークと、そのヨークに周方向に沿ってN極、S極が交互になるよう、かつ各磁極を上記非磁性体ロータに対向させて設けられた複数の永久磁石と、
上記ヨークに対して上記非磁性体ロータを挟んで径方向に反対側に位置させて上記固定側に設けられた発電側環状体と、その発電側環状体に周方向に沿って所定の間隔を隔てて、かつ上記非磁性体ロータに対向させて設けられた複数の鉄心と、これら鉄心に巻回された導電性コイルと、
上記発電側環状体の導電性コイルを上記制動側環状体の導電性コイルに電気的に接続する制動モードとそれら導電性コイルの接続を遮断する非制動モードとを切り替えるための切替手段とを備えたことを特徴とする渦電流減速装置。
【請求項2】
上記導電体ロータと非磁性体ロータとが軸方向に接合されて一体的に形成された請求項1記載の渦電流減速装置。
【請求項3】
回転軸に同芯的に設けられたディスク状のロータと、そのロータに周方向に沿って設けられた導電体部と、上記ロータに対して軸方向に並べて固定側に設けられたリング状のステータと、そのステータに周方向に沿って間隔を隔てて、かつ上記ロータの導電体部に対向するよう設けられた複数の鉄心およびこれら鉄心に巻回された導電性コイルで構成された電磁石とを備えた渦電流減速装置であって、
上記ロータにおける上記導電体部の径方向内側または外側に周方向に沿って間隔を隔てて設けられた磁性体からなる複数のポールピースと、隣り合うポールピースの間に各々設けられた非磁性体部と、
上記ステータに周方向に沿って間隔を隔てて、かつ上記ロータのポールピースに対向するよう設けられた複数の発電用鉄心と、これら発電用鉄心に巻回された発電用導電性コイルと、
上記ステータに対して上記ロータを挟んで軸方向に反対側に位置させて上記固定側に設けられたヨークと、そのヨークに周方向に沿ってN極、S極が交互になるよう、かつ各磁極を上記ロータのポールピースに対向させて設けられた複数の永久磁石と、
上記発電用導電性コイルを上記電磁石の導電性コイルに電気的に接続する制動モードとそれら導電性コイルの接続を遮断する非制動モードとを切り替えるための切替手段とを備えたことを特徴とする渦電流減速装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−29173(P2008−29173A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−202059(P2006−202059)
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]