温度センサおよびその製造方法
【課題】サーミスタ素子の特性変化を抑えて検出精度の低下を防止する。
【解決手段】本発明の温度センサは、サーミスタ素子が、金属製の外筒の内側に金属芯線を絶縁保持してなるシース部材における外筒の先端から突出する金属芯線に接続されており、一端が閉塞され他端は開放されている金属製の包囲部材の内部空間に、サーミスタ素子から外筒の先端部を少なくとも含むシース部材の領域までが収容されている。包囲部材およびシース部材の表面には酸化被膜が形成されているとともに、シース部材の水素含有量は8ppm以下であり、包囲部材の水素含有量はシース部材の水素含有量よりも小さいことを特徴とする。
【解決手段】本発明の温度センサは、サーミスタ素子が、金属製の外筒の内側に金属芯線を絶縁保持してなるシース部材における外筒の先端から突出する金属芯線に接続されており、一端が閉塞され他端は開放されている金属製の包囲部材の内部空間に、サーミスタ素子から外筒の先端部を少なくとも含むシース部材の領域までが収容されている。包囲部材およびシース部材の表面には酸化被膜が形成されているとともに、シース部材の水素含有量は8ppm以下であり、包囲部材の水素含有量はシース部材の水素含有量よりも小さいことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、サーミスタ素子を有する温度センサおよびその製造方法に関し、特に、高温酸化雰囲気下で使用される温度センサ、例えば、自動車の排気ガスの温度を検知する温度センサ(排気温センサ)等に好適な温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、温度によって抵抗値が変化するサーミスタ素子を用いた温度センサは、特に600℃を越えるような高温を検知する用途としては、主に自動車の排気ガスの温度(以下、単に「排気温度」ともいう)等を検出する用途として利用されることが多い。検知する自動車の排気温度等としては−40℃程度の低温域から最高900℃〜1000℃程度の高温域までの広範囲な検知が要求される。
【0003】
サーミスタ素子を用いた温度センサは、一般的に、温度によって抵抗値が変化するサーミスタ焼結体と白金又は白金合金からなる電極線とから構成されるサーミスタ素子と、サーミスタ素子の電極線に接続される一対のリード線を筒状の外筒内に充填した絶縁粉末にて絶縁保持してなるシース部材とが、金属チューブ内に収容された構成を有している。なお、シース部材のリード線及び外筒、金属チューブは、いずれもステンレス合金からなる。このような温度センサは、上記したような自動車の排気温度等を検出するために、例えば、600℃〜900℃程度の高温雰囲気下で使用されると、金属チューブやシース部材において金属の熱酸化が発生し、金属チューブ内部等の酸素が減少することになる。このとき、金属チューブ内に収容されているサーミスタ素子(詳細にはサーミスタ焼結体)に含まれる酸素が奪われることになり、サーミスタ素子が還元されて、サーミスタ素子に特性変化が発生して温度センサとしての検出精度が低下する可能性がある。
【0004】
そこで、上記問題を防止するために、シース部材や金属チューブ等のサーミスタ素子周辺に配置される金属部品に加熱処理を行なって、上記金属部品の表面にあらかじめ金属酸化物からなる酸化被膜を形成しておき、高温域での使用時における金属表面の酸化の進行を抑制することが提案されている(例えば、特許文献1,2,3参照)。
【0005】
また、温度センサは、シース部材の後端側および外部回路(例えば車両のECU等)接続用リード線等を収容する金属製の筒状部材(継手)を備える。
【0006】
【特許文献1】特開2004−301679号公報
【特許文献2】特開2000−234962号公報
【特許文献3】特開平6−201487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術により金属チューブ等の金属部品の表面に酸化被膜を形成することにより、サーミスタ素子の還元を防止する処理を行なった温度センサであっても、十分な検出精度が得られない場合があった。具体的には、温度センサの組み立て工程、特に金属チューブとサーミスタ素子との間に絶縁性の金属酸化物(セメント)を充填し、充填した金属酸化物を乾燥させるための熱処理工程の後に、サーミスタ素子の特性が変動し、規定値を逸脱して不良品となる個体があり、歩留まりが良くない。また、800℃以上の高温雰囲気下での使用に耐えられない個体がある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、サーミスタ素子の特性変化を抑えて検出精度の低下を防止することを可能にした温度センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0010】
[適用例1]
サーミスタ素子が、金属製の外筒の内側に金属芯線を絶縁保持してなるシース部材における前記外筒の先端から突出する前記金属芯線に接続されており、一端が閉塞され他端は開放されている金属製の包囲部材の内部空間に、前記サーミスタ素子から前記外筒の先端部を少なくとも含む前記シース部材の領域までが収容された温度センサにおいて、
前記包囲部材および前記シース部材の表面には酸化被膜が形成されているとともに、前記シース部材の水素含有量は8ppm以下であり、前記包囲部材の水素含有量は前記シース部材の水素含有量よりも小さいことを特徴とする温度センサ。
【0011】
適用例1に記載の温度センサでは、包囲部材およびシース部材の表面には酸化被膜が形成されているとともに、シース部材の水素含有量は8ppm以下であり、包囲部材の水素含有量はシース部材の水素含有量よりも小さい。これにより、この温度センサを高温域で使用したとしても、脱離水素の発生が抑制される。この結果、サーミスタ素子の特性変化を抑えて検出精度の低下を防止することが可能である。
【0012】
[適用例2]
適用例1記載の温度センサにおいて、
前記包囲部材の水素含有量は6ppm以下であることを特徴とする温度センサ。
【0013】
適用例2に記載の温度センサでは、包囲部材の水素含有量は、シース部材の水素含有量の8ppmよりも小さい6ppm以下であるので、この温度センサを高温域で使用したとしても、脱離水素の発生が抑制される。この結果、サーミスタ素子の特性変化を抑えて検出精度の低下を防止することが可能である。
【0014】
[適用例3]
適用例1記載の温度センサにおいて、
前記包囲部材の水素含有量は5ppm以下であることを特徴とする温度センサ。
【0015】
適用例3に記載の温度センサでは、包囲部材の水素含有量は、シース部材の水素含有量の8ppmよりも小さい5ppm以下であるので、この温度センサを高温域で使用したとしても、脱離水素の発生が抑制される。この結果、サーミスタ素子の特性変化を抑えて検出精度の低下を防止することが可能である。
【0016】
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれかに記載の温度センサにおいて、
前記包囲部材の外周面を取り囲むとともに、前記温度センサを装着対象体に装着するための取り付け部材と、
前記包囲部材の他端から突出する前記シース部材の後端側を包囲するとともに、前記取り付け部材に固定される筒状部材と、をさらに備え、
前記筒状部材の水素含有量は4ppm以下であることを特徴とする温度センサ。
【0017】
適用例4に記載の温度センサでは、筒状部材の水素含有量が4ppm以下である。よって、包囲部材を取り囲む取り付け部材に対して、シース部材の後端側を包囲するための筒状部材が固定された温度センサを高温域で使用したとしても、脱離水素の発生を抑制できる。その結果、包囲部材とシース部材(詳細には、シース部材の外筒)との間の空間を通ってサーミスタ素子まで到達する筒状部材からの脱離水素量を抑制でき、上記構造の温度センサを採用した場合にもサーミスタ素子の特性変化をさらに抑えて検出精度の低下を防止することが可能となる。
【0018】
[適用例5]
サーミスタ素子が、金属製の外筒の内側に金属芯線を絶縁保持してなるシース部材における前記外筒の先端から突出する前記金属芯線に接続されており、一端が閉塞され他端は開放されている金属製の包囲部材の内部空間に、前記サーミスタ素子から前記外筒の先端部を少なくとも含む前記シース部材の領域までが収容された温度センサの製造方法において、
前記包囲部材および前記シース部材に対して、湿潤水素雰囲気下で熱処理を行なって、前記包囲部材および前記シース部材の金属表面を酸化させる湿潤水素雰囲気下酸化処理工程と、
前記湿潤水素雰囲気下酸化処理工程を経た前記包囲部材および前記シース部材に対して、水素を含まない雰囲気下で熱処理を行なって、前記包囲部材および前記シース部材に含有されている水素を脱離させる含有水素脱離処理工程と、
を備えることを特徴とする温度センサの製造方法。
【0019】
[適用例6]
適用例5記載の温度センサの製造方法において、さらに、
前記湿潤水素雰囲気下酸化処理工程の前に、前記包囲部材および前記シース部材に対して、大気雰囲気下で熱処理を行なって、前記包囲部材および前記シース部材の金属表面を酸化させる大気雰囲気下酸化処理工程
を備えることを特徴とする温度センサの製造方法。
【0020】
適用例5および適用例6に記載の温度センサの製造方法によれば、前記サーミスタ素子が収容されている空間内において包囲部材およびシース部材から水素が脱離し、サーミスタ素子が還元されて、温度センサとしての検出精度が低下するのを抑制した温度センサを製造することができる。
【0021】
[適用例7]
適用例5または適用例6記載の温度センサの製造方法において、
前記含有水素脱離処理工程では、前記シース部材の水素含有量を8ppm以下まで脱離させるとともに、前記包囲部材の水素含有量は前記シース部材の水素含有量よりも小さくなるように脱離させることを特徴とする温度センサの製造方法。
【0022】
適用例7に記載の温度センサの製造方法によれば、適用例1に記載の温度センサを製造することができる。
【0023】
[適用例8]
適用例7記載の温度センサの製造方法において
前記含有水素脱離処理工程では、前記包囲部材の水素含有量を6ppm以下まで脱離させることを特徴とする温度センサの製造方法。
【0024】
適用例8に記載の温度センサの製造方法によれば、適用例2に記載の温度センサを製造することができる。
【0025】
[適用例9]
適用例7記載の温度センサの製造方法において、
前記含有水素脱離処理工程では、前記包囲部材の水素含有量を5ppm以下まで脱離させることを特徴とする温度センサの製造方法。
【0026】
適用例9に記載の温度センサの製造方法によれば、適用例3に記載の温度センサを製造することができる。
【0027】
[適用例10]
適用例5ないし適用例9のいずれかに記載の温度センサの製造方法において、
前記包囲部材の外周面を取り囲むとともに、前記温度センサを装着対象体に装着するための取り付け部材と、
前記包囲部材の他端から突出する前記シース部材の後端側を包囲するとともに、前記取り付け部材に固定される筒状部材と、をさらに備え、
前記筒状部材に対して水素を含まない雰囲気下で熱処理を行って、前記筒状部材に含有されている水素を脱離させる水素脱離工程と、
をさらに備えることを特徴とする温度センサの製造方法。
【0028】
適用例10に記載の温度センサの製造方法によれば、筒状部材の脱離水素の発生量を抑制できる。その結果、包囲部材とシース部材(詳細には、シース部材の外筒)との間の空間を通ってサーミスタ素子まで到達する筒状部材の脱離水素量を抑制でき、適用例4に記載の温度センサの構成を採用した場合にもサーミスタ素子の特性変化をさらに抑えて検出精度の低下を防止することが可能となる。
【0029】
[適用例11]
適用例10記載の温度センサの製造方法において、
前記水素脱離工程では、前記筒状部材の水素含有量を4ppm以下になるよう水素を脱離させることを特徴とする温度センサの製造方法。
【0030】
適用例11の温度センサの製造方法によれば、適用例4に記載の温度センサを製造することができる。
【0031】
ここで「ppm」とは100万分のいくらかであるかという割合を示す単位であり、重量比を表す。本願では、水素含有量の重量を、水素を含有している元の部材の重量で割った値をいう。例えば、適用例8に記載の「包囲部材の水素含有量6ppm」とは、包囲部材1kg中に水素が6mg含有していることを意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.第1実施例:
A1.温度センサの構造:
A2.温度センサの製造工程:
A3.ベーキング処理の効果:
A4.筒状部材への第5の熱処理工程の効果:
B.第2実施例:
C.変形例:
【0033】
A.第1実施例:
A1.温度センサの構造:
図1は、本発明の第1実施例としての温度センサの構造を示す部分破断断面図である。温度センサ1は、サーミスタ素子2を感温素子として用いたものである。例えば、この温度センサ1を装着対象体である自動車の排気管に装着することにより、サーミスタ素子2を内包した金属製の包囲部材である金属チューブ3を排気ガスが流れる排気管内に配置させて、排気ガスの温度検出に使用することができる。なお、サーミスタ素子2は、ペロブスカイト型酸化物製のディスク状をなしたサーミスタ焼結体と、このサーミスタ焼結体内に一部が埋設した一対の電極線(Pt/Rh合金線9)とを有する公知の構成からなる。
【0034】
温度センサ1の軸線(一点鎖線で示す)方向に延びる金属チューブ3は、先端部31側が閉塞した筒状に形成されており、この先端部31の内部にサーミスタ素子2が収容される。この金属チューブ3は、後述するようにステンレス合金から形成されている。そして、金属チューブ3の内部であってサーミスタ素子2の周囲には、セメント10が充填されており、これにより使用時の振動等によるサーミスタ素子2の揺動が防止される。金属チューブ3の後端部32側は開放されており、この後端部32はステンレス合金製のフランジ4の内側に挿通されている。なお、セメント10は、アルミナ粉末を主体とする骨材と、SiO2またはシリカを含むガラス成分とからなる。
【0035】
フランジ(取り付け部材)4は、軸線方向に延びる鞘部42と、この鞘部42の先端側に位置し、径方向外側に向かって突出する突出部41とを有している。突出部41は、先端側に図示しない排気管(装着対象体)の取付部のテーパ部に対応したテーパ形状の座面45を有する環状に形成されており、座面45が上記取付部のテーパ部に密着することで、排気ガスが排気管外部へ漏出するのを防止するようになっている。また、鞘部42は環状に形成される一方、先端側に位置する先端側段部44と先端側段部44よりも小さい外径を有する後端側段部43とを備える二段形状をなしている。
【0036】
金属チューブ3は、自身の後端部32からフランジ4の突出部41の先端側に挿入されて、鞘部42の内側に圧入されている。そして、金属チューブ3の外周面と鞘部42の後端側段部43の内周面との重なり合う部分が、周方向にわたってレーザー溶接されている。このレーザー溶接がなされることにより、図1に示すように、鞘部42の後端側段部43と金属チューブ3とに跨る溶接部L1が形成され、金属チューブ3がフランジ4に対して固定される。
【0037】
フランジ4の鞘部42の先端側段部44の径方向外側には、筒状の継手(筒状部材)6が接合されている。具体的には、鞘部42の先端側段部44の外周面に継手6の内周面が重なり合うように、同継手6が鞘部42の先端側段部44に圧入され、継手6と先端側段部44とが周方向にわたってレーザー溶接されている。このレーザー溶接がなされることにより、図1に示すように、鞘部42の先端側段部44と継手6とに跨る溶接部L2が形成される。
【0038】
鞘部42の後端側段部43と金属チューブ3とに跨る溶接部L1および鞘部42の先端側段部44と筒状部材6とに跨る溶接部L2が形成されることにより、包囲部材3と筒状部材6とが取り付け部材4にそれぞれ接続されている。言い換えれば、包囲部材3と筒状部材6とが取り付け部材4を介して接続されている。なお、ここで継手6と筒状部材6とは同義であり、また、取り付け部材4とフランジ4とは同義である。
【0039】
金属チューブ3、フランジ4および継手6の内部には、一対の金属芯線7を筒状の外筒21の内側に絶縁保持してなるシース部材8が配置される。金属チューブ3の内部において、シース部材8の外筒21の先端から突出する金属芯線7の先端部には、サーミスタ素子2が、このサーミスタ素子2の電極線を構成するPt/Rh合金線9を介して接続される。合金線9および金属芯線7は互いにレーザー溶接又は抵抗溶接される。なお、シース部材8は、詳細は図示しないが、ステンレス合金(例えば、SUS310S)からなる金属製の外筒21と、ステンレス合金(例えば、SUS310S)からなる一対の金属芯線7と、外筒と各金属芯線7との間を絶縁し、金属芯線7を保持するSiO2を主体とする絶縁粉末とから構成される。
【0040】
継手6の内部にてシース部材8の外筒21の後端から後端側へ突き出す金属芯線7は、圧着端子11とレーザー溶接又は抵抗溶接され、圧着端子11を介して一対の外部回路(例えば車両のECU等)接続用のリード線12と接続される。一対の金属芯線7および一対の圧着端子11は、絶縁チューブ15により互いに絶縁される。リード線12は、金属製の撚り線を絶縁性の被覆材にて被覆したものであり、継手6の後端側開口に備えられる耐熱ゴム製の補助リング13に挿通される。そして、補助リング13は、継手6の上から丸加締め或いは多角加締めされることにより、補助リング13および継手6が気密性を保ちながら互いに固定される。これにより、サーミスタ素子2が、金属チューブ3、フランジ4および継手6により形成される密閉空間に収容されることになる。そして、サーミスタ素子2の出力は、シース部材8の金属芯線7からリード線12により、図示しない外部回路に取り出され、排気ガスの温度が検出される。
【0041】
なお、この温度センサ1は1000℃にも達する高温環境下で使用されるため、各々の構成部材は十分な耐熱性を有している必要がある。そのため、金属チューブ3、フランジ4、外筒21および金属芯線7は、Feを主成分とし、C、Si、Mn、P、S、Niおよび24.00〜26.00重量%でCrを含有する耐熱合金であるSUS310Sにより形成されている。また、継手6は、SUS304(Fe以外に、C,Si,Mn,P,S,Ni,Crを含有する耐熱合金であって、18.00〜20.00重量%でCrを含有する。)を材質とする。
【0042】
A2.温度センサの製造工程:
上記温度センサ1は、以下の工程を経ることにより製造される。
【0043】
まず、耐熱合金としてのSUS310Sを材質として用いた金属チューブ3およびフランジ4を予め形成する。また、耐熱合金としてのSUS310Sを材質として用いた外筒21および金属芯線7、絶縁粉末を用いてシース部材8を予め形成する。さらに、その他の部品2,6,10〜13も予め形成する。
【0044】
次に、金属チューブ3、シース部材8およびフランジ4に、後述する第1の熱処理工程および第2の熱処理工程による酸化被膜形成のための加熱処理(酸化処理)を施す。さらに、酸化被膜が形成された金属チューブ3,フランジ4,シース部材8(詳細には、外筒21および金属芯線7)に、後述する第3の熱処理工程による含有水素脱離のための加熱処理(ベーキング処理)を施す。
【0045】
そして、酸化被膜の形成および含有水素脱離がなされた各部材3,4,8と、その他の部品2,6,11〜13を互いに組み付けることにより、図1に示した温度センサ1の製造が完了する。なお、サーミスタ素子2とシース部材8との組み付け体を金属チューブ3に挿入する前に、未硬化のセメント10を金属チューブ3内に充填し、充填後の金属チューブ3に組み付け体を挿入し、乾燥処理を経ることでセメント10を硬化させるようにした。
【0046】
また、SUS304を材質として用いた筒状部材(継手)6に、後述する第4の熱処理工程(焼鈍工程)および含有水素脱離のための第5の熱処理工程(ベーキング処理、水素脱離処理)を施す場合には、第5の熱処理工程を筒状部材6に施した後に、フランジ4や、その他の部品を互いに組み付けることにより、図1に示した温度センサ1の製造が完了する。
【0047】
図2は、温度センサの製造工程における熱処理の工程部分を示す工程図である。
【0048】
まず、第1の熱処理工程として、金属チューブ3、フランジ4およびシース部材8を、大気雰囲気下において、処理温度1000℃および処理時間10時間で高温加熱処理(大気雰囲気下酸化処理)を実施する。なお、金属チューブ3とフランジ4については、フランジ4の内側に金属チューブ3を圧入固定した状態で第1の熱処理工程および後述する第2の熱処理工程を実施するようにしている。
【0049】
上記第1の熱処理工程では、管理が容易な大気雰囲気下において、長時間加熱処理することにより、上記金属チューブ3,フランジ4,シース部材8(詳細には、外筒21および金属芯線7)の金属表面に不連続ではあるが比較的膜厚の厚い酸化被膜を形成することができる。
【0050】
次いで、第2の熱処理工程として、35℃に保たれた水中を通して水分を含ませた水素ガスよりなるウエットガスと、ドライ水素よりなるドライガスとを1対2.2の割合で処理炉に投入し、この処理炉内に第1の熱処理工程で酸化被膜が形成された各部材3,4,8を収納して、ウエットな水素雰囲気(湿潤水素雰囲気)下において、処理温度1150℃および処置時間1時間で高温加熱処理(湿潤水素雰囲気下酸下処理)を実施する。
【0051】
上記第2の熱処理工程では、各部材3,4,8の表面のうちで、少なくとも第1の熱処理工程で形成された酸化被膜の欠落部分(換言すれば酸化被膜が形成されなかった表面)に酸化クロムが選択的に生成された酸化被膜が形成される。
【0052】
さらに、第3の熱処理工程として、上記第2の熱処理工程で酸化被膜が形成された各部材3,4,8を、大気雰囲気下において、処理温度700℃および処理時間30分で低温加熱処理(ベーキング処理,含有水素脱離処理)を実施する。
【0053】
上記第3の熱処理工程では、各部材3,4,8に含有している水素が脱離し、各部材3,4,8の水素含有量が低減される。
【0054】
図10は、筒状部材6の熱処理の工程部分を示す工程図および第5の熱処理工程の熱処理条件を表す図である。まず、第4の熱処理工程として、筒状部材6を水素雰囲気下において、処理温度1100℃および処理時間2時間で焼鈍処理を実施する。これにより、筒状部材6の加工後の内部応力を除去することができる。
【0055】
次いで、第5の熱処理工程として、焼鈍処理を施した筒状部材6を、大気雰囲気下で図10(b)に記載のNo.1〜No.8の条件でそれぞれ加熱処理(ベーキング処理,含有水素脱離処理)を実施する。これにより、筒状部材6に含有している水素が脱離し、筒状部材6の水素含有量が低減される。ここで第5の熱処理工程における加熱温度は、200℃〜400℃の範囲が好ましい。下限値を200℃としたのは、後述する第5の熱処理工程を施す前の筒状部材6の含有水素の脱離が200℃付近から始まるため(図18,図19参照)、含有水素を脱離させるためには200℃以上が好適であるからである。また、上限値を400℃としたのは、高温での熱処理を行うと筒状部材6の表面全体に酸化被膜が形成する可能性があり、筒状部材6と他の部材(例えば取り付け部材4)を溶接する際に、酸化被膜を除去する必要が生じるからである。
【0056】
A3.ベーキング処理の効果:
第3の熱処理工程によるベーキング処理の効果について説明する。
【0057】
上記第2の熱処理工程は、湿潤水素雰囲気下において実施される。また、金属チューブ3およびシース部材8は、その製造工程において、加工時の応力緩和のため、「焼鈍」と呼ばれる熱処理工程を含むのが一般的である。この焼鈍工程は、酸化を防止するために、非酸素含有雰囲気下、例えば、水素含有雰囲気下で行なわれるのが一般的である。従って、水素雰囲気下で実施される第2の熱処理工程や焼鈍工程において、金属チューブ3およびシース部材8には、水素が吸着、固溶等により含有され、水素含有量が増加することになる。
【0058】
仮に、金属チューブ3およびシース部材8内に含有されている水素が、温度センサ1の使用時において金属チューブ3およびシース部材8から脱離すると、サーミスタ素子2が還元されてサーミスタ素子の特性変化を招く。
【0059】
図3は、第1および第2の熱処理を実施した金属チューブについての雰囲気温度と脱離水素との関係を分析した結果を示すグラフである。また、図4は、同様に、第1および第2の熱処理を実施したシース部材についての雰囲気温度と脱離水素との関係を分析した結果を示すグラフである。図3および図4は、雰囲気温度を一定の割合で順に上昇させていったときに、発生する単位時間当たりの水素量dH/dt[ppm/min]と、その累積積分値[ppm]を示している。なお、部品に含有されている水素量は、例えば、昇温脱離装置(TPD)に検出計として大気圧イオン化質量分析計(API−MS)を接続して計測することができる。
【0060】
図3および図4に示すように、金属チューブとシース部材のいずれでも、200℃付近の温度から水素の脱離が発生し始める。そして、900℃の温度まで上昇した場合における脱離水素の累積積分値は、金属チューブでは約10.4ppm、シース部材では約10.7ppmもあることがわかる。なお、図3および図4の結果は、複数のサンプルによる分析結果のうちの代表的な値を示している。
【0061】
図11は、第1および第2の熱処理を実施した複数(サンプル数は4個)の金属チューブ3についての雰囲気温度と単位時間当たりに発生した水素量dH/dt[ppm/min]の関係を示すグラフである。ここで、雰囲気温度は一定の割合で順に上昇させた。なお、太字の実線で示すサンプル(600℃において単位時間当たりの水素量が最も高いサンプル)は、図3に示すサンプルと同一である。
【0062】
図12は、第1および第2の熱処理を実施した複数(サンプル数は4個)の金属チューブ3についての雰囲気温度と脱離水素の累積値[ppm]の関係を示すグラフである。脱離水素の累積値は、図11の単位時間当たりの水素量を元に算出している。これによると、900℃の温度まで上昇した場合における脱離水素の累積値は、少なくとも9.3ppm以上であることが分かる。なお、脱離水素の累積値が約10.4ppmを示すサンプルは、図3に示すサンプルと同一である。
【0063】
図13は、第1および第2の熱処理を実施した複数(サンプル数は4個)のシース部材8についての雰囲気温度と単位時間当たりに発生した水素量dH/dt[ppm/min]の関係を示すグラフである。ここで、雰囲気温度は一定の割合で順に上昇させた。これによると、いずれのシース部材8も200℃付近から水素の脱離が発生し始めることが分かる。なお、太字の実線で示すサンプル(約450℃において水素量が最も高いサンプル)は、図4に示すサンプルと同一である。
【0064】
図14は、第1および第2の熱処理を実施した複数(サンプル数は3個)のシース部材8についての雰囲気温度と脱離水素の累積値[ppm]の関係を示すグラフである。脱離水素の累積値は、図13の単位時間当たりの水素量を元に算出している。これによると、900℃の温度まで上昇した場合における脱離水素の累積値は、少なくとも約10.2ppm以上であることが分かる。なお、脱離水素の累積値が約10.7ppmを示すサンプルは、図4に示すサンプルと同一である。
【0065】
以上のことから、これらの部材を用いた温度センサを高温で使用した場合において、これら金属チューブ3やシース部材8から脱離した水素が、サーミスタ素子2の特性変化を招くと考えられる。
【0066】
従って、これら金属チューブ3やシース部材8から脱離した水素によるサーミスタ素子2の特性変化を防止するためには、あらかじめ、金属チューブ3やシース部材8に含有している水素を脱離させておくことが好ましく、第3の熱処理工程によるベーキング処理を実施するのである。
【0067】
図5は、ベーキング処理を実施した金属チューブについての雰囲気温度と脱離水素との関係を分析した結果を示すグラフである。また、図6は、同様に、ベーキング処理を実施したシース部材についての雰囲気温度と脱離水素との関係を分析した結果を示すグラフである。図5および図6も、図3および図4と同様に、雰囲気温度を一定の割合で順に上昇させていったときに、発生する単位時間当たりの水素量dH/dt[ppm/min]と、その累積積分値[ppm]を示している。
【0068】
図5に示すように、ベーキング処理を実施した金属チューブ3では、雰囲気温度を900℃まで上昇させた場合における脱離水素の累積積分値は約4.3ppmであり、ベーキング処理を実施しない金属チューブ3の場合の累積積分値が約10.4ppm(図3参照)であるのに対して、1/2以下に低減されることがわかる。また、図6に示すように、ベーキング処理を実施したシース部材8では、雰囲気温度を900℃まで上昇させた場合における脱離水素の累積積分値は約7.4ppmであり、ベーキング処理を実施しないシース部材8の場合の累積積分値が10.7ppm(図4参照)であるのに対して、3/4以下に低減されることがわかる。なお、図5および図6の結果は、複数のサンプルによる分析結果のうちの代表的な値を示している。
【0069】
図15は、ベーキング処理を実施した複数(サンプル数は12個)の金属チューブ3についての雰囲気温度と単位時間当たりに発生した水素量dH/dt[ppm/min]の関係を示すグラフである。なお、雰囲気温度は一定の割合で順上昇させた。これによれば、ベーキング処理を実施しない金属チューブ3では、約500℃〜約650℃の範囲で単位時間当たりの水素量の最大値を記録したのに対し(図11参照)、ベーキング処理を実施した金属チューブ3では、単位時間当たりの水素量の最大値は、より高温側(例えば700℃以上)にシフトする傾向にあることが分かる。
【0070】
図16は、ベーキング処理を実施した複数(サンプル数は12個)の金属チューブ3についての雰囲気温度と脱離水素の累積値[ppm]の関係を示すグラフである。脱離水素の累積値は、図15の単位時間当たりの水素量を元に算出している。これによると、雰囲気温度を900℃まで上昇させた場合における金属チューブ3の脱離水素の累積値は、最大でも5.4ppmである。よって、ベーキング処理を実施しない金属チューブ3の脱離水素の累積値が少なくとも9.3ppm以上(図12参照)であることから、ベーキング処理を実施することで金属チューブ3の水素含有量を3/5以下に低減できることが分かる。なお、累積値が4.3ppmを示すサンプルは、図5のサンプルと同一である。
【0071】
図17は、ベーキング処理を実施した複数(サンプル数は11個)のシース部材8についての雰囲気温度と単位時間当たりに発生した水素量dH/dt[ppm/min]の関係を示すグラフである。また、図18は、ベーキング処理を実施した複数(サンプル数は11個)のシース部材8についての雰囲気温度と脱離水素の累積値[ppm]の関係を示すグラフである。なお、脱離水素の累積値は、図17の単位時間当たりの水素量を元に算出している。
【0072】
図17および図18によると、雰囲気温度を900℃まで上昇させた場合におけるシース部材8の脱離水素の累積値は、最大でも7.4ppmである。よって、ベーキング処理を実施しないシース部材8の脱離水素の累積値が少なくとも10.2ppm以上(図14参照)であることから、ベーキング処理を実施することでシース部材3の水素含有量を3/4以下に低減できることが分かる。
【0073】
図7は、ベーキング処理を実施した金属チューブ、フランジおよびシース部材を用いて作製した温度センサの抵抗値のバラツキを示すグラフである。図8は、比較例として、ベーキング処理を実施しない金属チューブ、フランジおよびシース部材を用いて作製した温度センサの抵抗値のバラツキを示すグラフである。なお、どちらもサンプル数は150個である。
【0074】
図7と図8を比較すればわかるように、ベーキング処理を実施していない部品を用いた温度センサはσ=0.0181であるのに対して、ベーキング処理を実施した部品を用いた温度センサはσ=0.0014と、抵抗値のバラツキが大幅に改善されることがわかる。
【0075】
従って、金属チューブおよびシース部材をベーキング処理することにより、サーミスタ素子の特性が変化するのを抑制することが可能であるとともに、抵抗値のバラツキを小さくすることが可能であり、サーミスタ素子の特性変化を抑えて検出精度の低下を防止することを可能にした温度センサを提供することができる。
【0076】
なお、ベーキング処理後の金属チューブ3およびシース部材8の水素含有量の上限値は、図5および図6の結果、さらには図15〜図18の結果を考慮して、金属チューブ3は6ppm以下、好ましくは5ppm以下、より好ましくは3ppm以下に設定することができ、シース部材8は8ppm以下、より好ましくは7.5ppm以下、さらに好ましくは6.0ppm以下に設定することができる。
【0077】
A4.筒状部材6への第5の熱処理工程の効果:
筒状部材6は、その製造工程において、加工時の応力緩和のため、「焼鈍」と呼ばれる第4の熱処理工程を含むのが一般的である。この第4の熱処理工程は、酸化を防止するために、非酸素含有雰囲気下、例えば、水素雰囲気下で行われるのが一般的である。本実施例の場合は、水素雰囲気下で処理温度1100℃および処理時間2時間で第4の熱処理工程(焼鈍処理)を行っている。従って、第4の熱処理工程において、筒状部材6には水素が吸着、固溶等により含有され、水素含有量が増加することになる。
【0078】
ここで、図1に示すように、包囲部材3を取り囲む取り付け部材4に対して、シース部材8の後端側を包囲するための筒状部材(継手)6が固定されている構成の温度センサ1では、温度センサ1の使用時において、筒状部材6から含有水素が脱離すると、脱離水素が包囲部材3とシース部材8との間の空間を通ってサーミスタ素子2へ到達する。その結果、サーミスタ素子2が還元されてサーミスタ素子2の特性変化を招くおそれがある。
【0079】
図19は、第4の熱処理工程を実施した複数(サンプル数は3個)の筒状部材6についての雰囲気温度と単位時間当たりに発生した水素量dH/dt[ppm/min]の関係を示すグラフである。なお、雰囲気温度は一定の割合で順に上昇させた。これによると、いずれの筒状部材6も200℃付近から水素の脱離が発生し始めることが分かる。
【0080】
図20は、第4の熱処理工程を実施した複数(サンプル数は3個)の筒状部材6についての雰囲気温度と脱離水素の累積値[ppm]の関係を示すグラフである。脱離水素の累積値は、図19の単位時間当たりの水素量を元に算出している。これによると、900℃の温度まで上昇した場合における脱離水素の累積値は、少なくとも5.4ppm以上であることが分かる。
【0081】
以上のことから、第4の熱処理工程を実施した筒状部材6を用いた温度センサ1を高温(例えば600℃以上)で使用した場合において、筒状部材6から脱離した水素が、サーミスタ素子2の特性変化を招くと考えられる。
【0082】
従って、筒状部材6から脱離した水素によるサーミスタ素子2の特性変化を防止するために、あらかじめ、筒状部材6に含有している水素を脱離させておくことが好ましい。よって、第5の熱処理工程を実施するのである。
【0083】
図21は、第5の熱処理工程を実施した筒状部材6についての雰囲気温度と単位時間当たりに発生した水素含有量dH/dt[ppm/min]の関係を示すグラフである。図22は、第5の熱処理工程を実施した筒状部材6の雰囲気温度と脱離水素の累積値[ppm]の関係を示すグラフである。ここで、脱離水素に累積値は、図21の単位時間当たりの水素量を元に算出している。また、図22(b)に示す処理条件でそれぞれ第5の熱処理工程を実施した筒状部材6を測定に用いた。
【0084】
図22(a)に示すように、第5の熱処理工程を実施した筒状部材6では、雰囲気温度を900℃まで上昇させた場合における脱離水素の累積値は、最大でも3.0ppmである。よって、第5の熱処理工程を実施しない筒状部材6の脱離水素の累積値が少なくとも5.4ppm以上(図20参照)であることから、第5の熱処理工程を実施することで筒状部材6の水素含有量を3/5以下に低減できることが分かる。また、第5の熱処理条件によっては、筒状部材6の水素含有量を、2/5以下にできることが分かる。例えば、処理温度400℃、加熱処理時間40時間で第5の熱処理工程を実施した筒状部材6では、脱離水素の累積値が1.4ppmとなり、第5の熱処理工程を実施することで水素含有量を3/10以下にできる。
【0085】
図23は、第5の熱処理工程を実施しない筒状部材6を用いて作製した温度センサ1(以下、「処理前温度センサ1」という。)の繰り返し温度変化を示すグラフである。試験方法としては、温度センサ1を100℃〜900℃に昇温し、温度毎の抵抗値の測定を行う(1回目の試験)。次に温度センサ1を100℃まで冷却し、同一の温度センサ1を再度100℃〜900℃に昇温し、温度毎の抵抗値の測定を行う(2回目の試験)。1回目の試験で得られた抵抗値を0とし、2回目の試験で得られた抵抗値と1回目の試験で得られた抵抗値とを比較し、2回目の試験で得られた抵抗値のズレを温度に変換しプロットを行った。なお、サンプル数は50個であり、いずれの温度センサ1も金属チューブ3、フランジ4およびシース部材8にはベーキング処理を実施している。
【0086】
図24は、第5の熱処理工程(ベーキング処理)を実施した筒状部材6を用いて作製した温度センサ1(以下、「処理後温度センサ1」という。)の繰り返し温度変化を示すグラフである。試験方法およびサンプル数は図23の試験と同一である。また、いずれの温度センサ1も金属チューブ3、フランジ4およびシース部材8にはベーキング処理を実施している。
【0087】
図23と図24を比較すると、処理後温度センサ1は、処理前温度センサ1よりも抵抗値の変動が大幅に改善されるのがわかる。言い換えれば、処理後温度センサ1は第5の熱処理工程により筒状部材6に含有している水素を予め脱離させている。よって、1回目の試験の際に、処理後温度センサ1の筒状部材6から脱離する水素量は、処理前温度センサ1の筒状部材6から脱離する水素量よりも低い。よって、サーミスタ素子2の特性変化を防止でき、抵抗値の変動を大幅に改善できたのである。
【0088】
また、第5の熱処理工程を実施した筒状部材6の水素含有量の上限値は、図21および図22の結果を考慮し、4ppm以下、好ましくは3ppm以下、さらに好ましくは2.5ppm以下に設定することができる。
【0089】
筒状部材6は、包囲部材3およびシース部材8に比べサーミスタ素子2から離れた位置にはあるが、筒状部材6の水素含有量の上限値は、包囲部材3およびシース部材8の水素含有量の上限値よりも低く設定することが好ましい。なぜならば、筒状部材6は包囲部材3およびシース部材8に比べ重量が一般的に大きいため、水素含有量[ppm]が高ければ、筒状部材6全体から発生する水素量は包囲部材3およびシース部材8よりも高くなり、サーミスタ素子2から離れた位置であっても特性変化に影響を及ぼす可能性があるからである。
【0090】
B.第2実施例:
図9は、本発明の第2実施例としての温度センサの構造を示す部分破断断面図である。この温度センサ100は、第1実施例の温度センサ1と比較して、サーミスタ素子2を収容するための部材、およびフランジの鞘部にレーザー溶接される部材が主に異なるものであり、その他の部分についてはほぼ同様である。従って、第1実施例と異なる部分を中心に説明し、同様な部分については、説明を省略または簡略化する。
【0091】
第1実施例の温度センサ1では、サーミスタ素子2を金属チューブ3の内側に収容すると共に、その金属チューブ3をフランジ4にレーザー溶接により固定していた(図1参照)。これに対し、図9に示す本実施例の温度センサ100では、サーミスタ素子2を金属製の包囲部材としての金属キャップ14に収容し、この金属キャップ14をシース部材8に溶接(具体的には、レーザー溶接)した状態で、シース部材8をフランジ4にレーザー溶接により固定している。
【0092】
軸線方向に延びる金属キャップ14は、先端部131側が閉塞された筒状をなしており、この先端部131の内部にサーミスタ素子2が収容されている。この金属キャップ14は、SUS310Sのステンレス合金から形成されている。尚、サーミスタ素子2は、自身の電極線(Pt/Rh合金線)9を介してシース部材8の外筒21の先端から突出する金属芯線7に接続される。そして、金属キャップ14の後端部132側は開放されており、この後端部132の内周面がシース部材8の外筒21の外周面に重なり合った状態で、周方向にわたってレーザー溶接されている。これにより、金属キャップ14がシース部材8に気密状態に固定される。
【0093】
フランジ4は、上述したように、軸線方向に延びる鞘部42と、この鞘部42の先端側に位置し、径方向外側に向かって突出する突出部41とを有している。また、鞘部42は、先端側に位置する先端側段部44と先端側段部44よりも小さい外径を有する後端側段部43とを備える二段形状をなしている。
【0094】
シース部材8は、自身の後端側がフランジ4の内側に挿通された状態で、鞘部42の外周面の所定位置において径方向内側に向かって加締められ、フランジ4に対して固定されている。さらに、シース部材8の外筒21の外周面と鞘部42の後端側段部43の内周面との重なり合う部分が、周方向にわたってレーザー溶接されている。このレーザー溶接がなされることにより、図9に示すように、鞘部42の後端側段部43とシース部材8(詳細にはシース部材8の外筒21)とに跨る溶接部L3が形成され、シース部材8がフランジ4に対して固定される。
【0095】
このように、シース部材8をフランジ4の鞘部42に加締め固定しつつ、鞘部42の後端側段部43にレーザー溶接を行うことにより、フランジ4とシース部材8との溶接強度に優れると共に、フランジ4とシース部材8との密着強度に優れる温度センサ100とすることができる。したがって、自動車等の振動の激しい環境下において温度センサ100が強い振動を受けても、シース部材8が振れ難く、シース部材8の折損等を抑制することができる。
【0096】
なお、上記構成の温度センサ100でも、サーミスタ素子2が、シース部材8および金属キャップ14により形成される密閉空間に収容されることになる。このシース部材8および金属キャップ14は、1000℃にも達する高温環境下に晒されるため、十分な耐熱性を有しており、また、特性変化を防止する必要がある。そのため、シース部材8および金属キャップ14は、SUS310Sにより形成されている。このシース部材8および金属キャップ14にも、第1実施例と同様に第1の熱処理工程および第2の熱処理工程による酸化被膜形成のための加熱処理(酸化処理)を施し、さらに、第3の熱処理工程による含有水素脱離のための加熱処理(ベーキング処理)を施す。酸化被膜が形成された金属キャップ14がシース部材8に溶接されて、その他の部品2,6,7,11〜13を互いに組み付けることにより、図9に示した温度センサ100の製造が完了する。
【0097】
この温度センサ100では、金属包囲部材であるシース部材8および金属キャップ14の表面が連続的で十分な膜厚の酸化被膜により覆われるので、1000℃以上の高温に長時間さらされても、シース部材8および金属キャップ14の表面の酸化の進行を抑えることができる。また、ベーキング処理によりシース部材8および金属キャップ14の水素含有量がそれぞれ特定値以下に低減されているので、シース部材8および金属キャップ14からの水素の脱離量を低減することができる。従って、温度センサ100に用いられるサーミスタ素子2の温度特性が変化してしまうことやバラツキを抑制することができ、サーミスタ素子2の特性変化を抑えて検出精度の低下を防止することを可能にした温度センサを提供することができる。
【0098】
C.変形例:
なお、本発明は上記した実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様にて実施することが可能である。
【0099】
例えば、上記実施例の第1の熱処理工程による大気雰囲気下における酸化処理では、処理温度1000℃、処理時間10時間としている。また、第2の熱処理工程による湿潤水素雰囲気下における酸化処理では、湿潤水素:ドライ水素=1:2.2、処理温度1150℃、処理時間1時間としている。しかしながら、これらの条件は一例であって、例えば、先行技術文献の一つである特開2004−301679号公報に記載されている種々の条件で実施可能である。
【0100】
また、上記実施例の第3の熱処理工程によるベーキング処理では、処理温度700℃、処理時間30分としている。しかしながら、この条件は一例であって、処理温度400℃〜900℃、処理時間30時間〜10分(400℃:30時間,900℃:10分)の範囲内で、酸化を進行させずに含有する水素を脱離させることが可能な種々の条件で実施可能である。
【0101】
また、上記実施例の第4の熱処理工程(焼鈍処理)では、水素雰囲気下で処理温度1100℃、加熱処理時間2時間としている。しかしながら、これらの条件は一例であって、加工時の応力緩和ができる範囲で種々の条件で実施可能である。
【0102】
また、上記実施例の第5の熱処理工程(ベーキング処理、含有水素脱離処理)では、処理条件を図10(b)のNo.1〜No.8までとしている。しかしながらこの条件は一例であって、処理温度200℃〜400℃および加熱処理時間10時間〜40時間を適宜組み合わせて熱処理工程を実施しても良い。また、含有する水素を脱離させることができる種々の条件で実施可能である。
【0103】
さらに、各金属包囲部材3,4,8に使用される耐熱合金としては、SUS310Sに限られず、SUS309SやInconel601等を用いても良い。また、耐熱合金としては、クロムを18重量%以上含む耐熱合金であれば、各種のものが使用可能である。クロム元素を少なくとも18重量%含む耐熱合金として、例えば、SUS304、SUS304L、SUS304N1を使用することもできる。
【0104】
なお、上記実施例では、第1の熱処理工程および第2の熱処理工程による加熱処理(酸化処理)を実施した後第3の熱処理工程による加熱処理(ベーキング)処理を実施する場合を例に示したが、第1の熱処理工程または第2の熱処理工程のいずれか一方を省略することも可能である。
【0105】
また、本発明の温度センサは、排気温センサのみならず、被測定流体として水や油等の液体が流れる流通路に取り付けられる温度センサにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の第1実施例としての温度センサの構造を示す部分破断断面図である。
【図2】温度センサの製造工程における熱処理の工程部分を示す工程図である。
【図3】第1および第2の熱処理を実施した金属チューブについての雰囲気温度と脱離水素との関係を分析した結果を示すグラフである。
【図4】同様に第1および第2の熱処理を実施したシース部材についての雰囲気温度と脱離水素との関係を分析した結果を示すグラフである。
【図5】ベーキング処理を実施した金属チューブについての雰囲気温度と脱離水素との関係を分析した結果を示すグラフである。
【図6】同様にベーキング処理を実施したシース部材についての雰囲気温度と脱離水素との関係を分析した結果を示すグラフである。
【図7】ベーキング処理を実施した金属チューブ、フランジおよびシース部材を用いて作製した温度センサの抵抗値のバラツキを示すグラフである。
【図8】比較例としてベーキング処理を実施しない金属チューブ、フランジおよびシース部材を用いて作製した温度センサの抵抗値のバラツキを示すグラフである。
【図9】本発明の第2実施例としての温度センサの構造を示す部分破断断面図である。
【図10】筒状部材の熱処理の工程部分を示す工程図である。
【図11】第1および第2の熱処理を実施した複数の金属チューブについての雰囲気温度と単位時間当たりに発生した水素量の関係を示すグラフである。
【図12】第1および第2の熱処理を実施した複数の金属チューブについての雰囲気温度と脱離水素の累積値の関係を示すグラフである。
【図13】第1および第2の熱処理を実施した複数のシース部材についての雰囲気温度と単位時間当たりに発生した水素量の関係を示すグラフである。
【図14】第1および第2の熱処理を実施した複数のシース部材についての雰囲気温度と脱離水素の累積値の関係を示すグラフである。
【図15】ベーキング処理を実施した複数の金属チューブについての雰囲気温度と単位時間当たりに発生した水素量の関係を示すグラフである。
【図16】ベーキング処理を実施した複数の金属チューブ3についての雰囲気温度と脱離水素の累積値の関係を示すグラフである。
【図17】ベーキング処理を実施した複数のシース部材についての雰囲気温度と単位時間当たりに発生した水素量の関係を示すグラフである。
【図18】ベーキング処理を実施した複数のシース部材についての雰囲気温度と脱離水素の累積値の関係を示すグラフである。
【図19】第4の熱処理工程を実施した複数の筒状部材についての雰囲気温度と単位時間当たりに発生した水素量の関係を示すグラフである。
【図20】第4の熱処理工程を実施した複数の筒状部材についての雰囲気温度と脱離水素の累積値の関係を示すグラフである。
【図21】第5の熱処理工程を実施した筒状部材についての雰囲気温度と単位時間当たりに発生した水素含有量の関係を示すグラフである。
【図22】第5の熱処理工程を実施した筒状部材の雰囲気温度と脱離水素の累積値の関係を示すグラフである。
【図23】第5の熱処理工程を実施しない筒状部材を用いて作製した温度センサを用いて実施した繰り返し温度測定の結果を示すグラフである。
【図24】第5の熱処理工程を実施した筒状部材を用いて作製した温度センサを用いて実施した繰り返し温度測定の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0107】
1…温度センサ
2…サーミスタ素子
3…金属チューブ(包囲部材)
4…フランジ(取り付け部材)
6…継手(筒状部材)
8…シース部材
14…金属キャップ(包囲部材)
100…温度センサ
【技術分野】
【0001】
この発明は、サーミスタ素子を有する温度センサおよびその製造方法に関し、特に、高温酸化雰囲気下で使用される温度センサ、例えば、自動車の排気ガスの温度を検知する温度センサ(排気温センサ)等に好適な温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、温度によって抵抗値が変化するサーミスタ素子を用いた温度センサは、特に600℃を越えるような高温を検知する用途としては、主に自動車の排気ガスの温度(以下、単に「排気温度」ともいう)等を検出する用途として利用されることが多い。検知する自動車の排気温度等としては−40℃程度の低温域から最高900℃〜1000℃程度の高温域までの広範囲な検知が要求される。
【0003】
サーミスタ素子を用いた温度センサは、一般的に、温度によって抵抗値が変化するサーミスタ焼結体と白金又は白金合金からなる電極線とから構成されるサーミスタ素子と、サーミスタ素子の電極線に接続される一対のリード線を筒状の外筒内に充填した絶縁粉末にて絶縁保持してなるシース部材とが、金属チューブ内に収容された構成を有している。なお、シース部材のリード線及び外筒、金属チューブは、いずれもステンレス合金からなる。このような温度センサは、上記したような自動車の排気温度等を検出するために、例えば、600℃〜900℃程度の高温雰囲気下で使用されると、金属チューブやシース部材において金属の熱酸化が発生し、金属チューブ内部等の酸素が減少することになる。このとき、金属チューブ内に収容されているサーミスタ素子(詳細にはサーミスタ焼結体)に含まれる酸素が奪われることになり、サーミスタ素子が還元されて、サーミスタ素子に特性変化が発生して温度センサとしての検出精度が低下する可能性がある。
【0004】
そこで、上記問題を防止するために、シース部材や金属チューブ等のサーミスタ素子周辺に配置される金属部品に加熱処理を行なって、上記金属部品の表面にあらかじめ金属酸化物からなる酸化被膜を形成しておき、高温域での使用時における金属表面の酸化の進行を抑制することが提案されている(例えば、特許文献1,2,3参照)。
【0005】
また、温度センサは、シース部材の後端側および外部回路(例えば車両のECU等)接続用リード線等を収容する金属製の筒状部材(継手)を備える。
【0006】
【特許文献1】特開2004−301679号公報
【特許文献2】特開2000−234962号公報
【特許文献3】特開平6−201487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術により金属チューブ等の金属部品の表面に酸化被膜を形成することにより、サーミスタ素子の還元を防止する処理を行なった温度センサであっても、十分な検出精度が得られない場合があった。具体的には、温度センサの組み立て工程、特に金属チューブとサーミスタ素子との間に絶縁性の金属酸化物(セメント)を充填し、充填した金属酸化物を乾燥させるための熱処理工程の後に、サーミスタ素子の特性が変動し、規定値を逸脱して不良品となる個体があり、歩留まりが良くない。また、800℃以上の高温雰囲気下での使用に耐えられない個体がある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、サーミスタ素子の特性変化を抑えて検出精度の低下を防止することを可能にした温度センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0010】
[適用例1]
サーミスタ素子が、金属製の外筒の内側に金属芯線を絶縁保持してなるシース部材における前記外筒の先端から突出する前記金属芯線に接続されており、一端が閉塞され他端は開放されている金属製の包囲部材の内部空間に、前記サーミスタ素子から前記外筒の先端部を少なくとも含む前記シース部材の領域までが収容された温度センサにおいて、
前記包囲部材および前記シース部材の表面には酸化被膜が形成されているとともに、前記シース部材の水素含有量は8ppm以下であり、前記包囲部材の水素含有量は前記シース部材の水素含有量よりも小さいことを特徴とする温度センサ。
【0011】
適用例1に記載の温度センサでは、包囲部材およびシース部材の表面には酸化被膜が形成されているとともに、シース部材の水素含有量は8ppm以下であり、包囲部材の水素含有量はシース部材の水素含有量よりも小さい。これにより、この温度センサを高温域で使用したとしても、脱離水素の発生が抑制される。この結果、サーミスタ素子の特性変化を抑えて検出精度の低下を防止することが可能である。
【0012】
[適用例2]
適用例1記載の温度センサにおいて、
前記包囲部材の水素含有量は6ppm以下であることを特徴とする温度センサ。
【0013】
適用例2に記載の温度センサでは、包囲部材の水素含有量は、シース部材の水素含有量の8ppmよりも小さい6ppm以下であるので、この温度センサを高温域で使用したとしても、脱離水素の発生が抑制される。この結果、サーミスタ素子の特性変化を抑えて検出精度の低下を防止することが可能である。
【0014】
[適用例3]
適用例1記載の温度センサにおいて、
前記包囲部材の水素含有量は5ppm以下であることを特徴とする温度センサ。
【0015】
適用例3に記載の温度センサでは、包囲部材の水素含有量は、シース部材の水素含有量の8ppmよりも小さい5ppm以下であるので、この温度センサを高温域で使用したとしても、脱離水素の発生が抑制される。この結果、サーミスタ素子の特性変化を抑えて検出精度の低下を防止することが可能である。
【0016】
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれかに記載の温度センサにおいて、
前記包囲部材の外周面を取り囲むとともに、前記温度センサを装着対象体に装着するための取り付け部材と、
前記包囲部材の他端から突出する前記シース部材の後端側を包囲するとともに、前記取り付け部材に固定される筒状部材と、をさらに備え、
前記筒状部材の水素含有量は4ppm以下であることを特徴とする温度センサ。
【0017】
適用例4に記載の温度センサでは、筒状部材の水素含有量が4ppm以下である。よって、包囲部材を取り囲む取り付け部材に対して、シース部材の後端側を包囲するための筒状部材が固定された温度センサを高温域で使用したとしても、脱離水素の発生を抑制できる。その結果、包囲部材とシース部材(詳細には、シース部材の外筒)との間の空間を通ってサーミスタ素子まで到達する筒状部材からの脱離水素量を抑制でき、上記構造の温度センサを採用した場合にもサーミスタ素子の特性変化をさらに抑えて検出精度の低下を防止することが可能となる。
【0018】
[適用例5]
サーミスタ素子が、金属製の外筒の内側に金属芯線を絶縁保持してなるシース部材における前記外筒の先端から突出する前記金属芯線に接続されており、一端が閉塞され他端は開放されている金属製の包囲部材の内部空間に、前記サーミスタ素子から前記外筒の先端部を少なくとも含む前記シース部材の領域までが収容された温度センサの製造方法において、
前記包囲部材および前記シース部材に対して、湿潤水素雰囲気下で熱処理を行なって、前記包囲部材および前記シース部材の金属表面を酸化させる湿潤水素雰囲気下酸化処理工程と、
前記湿潤水素雰囲気下酸化処理工程を経た前記包囲部材および前記シース部材に対して、水素を含まない雰囲気下で熱処理を行なって、前記包囲部材および前記シース部材に含有されている水素を脱離させる含有水素脱離処理工程と、
を備えることを特徴とする温度センサの製造方法。
【0019】
[適用例6]
適用例5記載の温度センサの製造方法において、さらに、
前記湿潤水素雰囲気下酸化処理工程の前に、前記包囲部材および前記シース部材に対して、大気雰囲気下で熱処理を行なって、前記包囲部材および前記シース部材の金属表面を酸化させる大気雰囲気下酸化処理工程
を備えることを特徴とする温度センサの製造方法。
【0020】
適用例5および適用例6に記載の温度センサの製造方法によれば、前記サーミスタ素子が収容されている空間内において包囲部材およびシース部材から水素が脱離し、サーミスタ素子が還元されて、温度センサとしての検出精度が低下するのを抑制した温度センサを製造することができる。
【0021】
[適用例7]
適用例5または適用例6記載の温度センサの製造方法において、
前記含有水素脱離処理工程では、前記シース部材の水素含有量を8ppm以下まで脱離させるとともに、前記包囲部材の水素含有量は前記シース部材の水素含有量よりも小さくなるように脱離させることを特徴とする温度センサの製造方法。
【0022】
適用例7に記載の温度センサの製造方法によれば、適用例1に記載の温度センサを製造することができる。
【0023】
[適用例8]
適用例7記載の温度センサの製造方法において
前記含有水素脱離処理工程では、前記包囲部材の水素含有量を6ppm以下まで脱離させることを特徴とする温度センサの製造方法。
【0024】
適用例8に記載の温度センサの製造方法によれば、適用例2に記載の温度センサを製造することができる。
【0025】
[適用例9]
適用例7記載の温度センサの製造方法において、
前記含有水素脱離処理工程では、前記包囲部材の水素含有量を5ppm以下まで脱離させることを特徴とする温度センサの製造方法。
【0026】
適用例9に記載の温度センサの製造方法によれば、適用例3に記載の温度センサを製造することができる。
【0027】
[適用例10]
適用例5ないし適用例9のいずれかに記載の温度センサの製造方法において、
前記包囲部材の外周面を取り囲むとともに、前記温度センサを装着対象体に装着するための取り付け部材と、
前記包囲部材の他端から突出する前記シース部材の後端側を包囲するとともに、前記取り付け部材に固定される筒状部材と、をさらに備え、
前記筒状部材に対して水素を含まない雰囲気下で熱処理を行って、前記筒状部材に含有されている水素を脱離させる水素脱離工程と、
をさらに備えることを特徴とする温度センサの製造方法。
【0028】
適用例10に記載の温度センサの製造方法によれば、筒状部材の脱離水素の発生量を抑制できる。その結果、包囲部材とシース部材(詳細には、シース部材の外筒)との間の空間を通ってサーミスタ素子まで到達する筒状部材の脱離水素量を抑制でき、適用例4に記載の温度センサの構成を採用した場合にもサーミスタ素子の特性変化をさらに抑えて検出精度の低下を防止することが可能となる。
【0029】
[適用例11]
適用例10記載の温度センサの製造方法において、
前記水素脱離工程では、前記筒状部材の水素含有量を4ppm以下になるよう水素を脱離させることを特徴とする温度センサの製造方法。
【0030】
適用例11の温度センサの製造方法によれば、適用例4に記載の温度センサを製造することができる。
【0031】
ここで「ppm」とは100万分のいくらかであるかという割合を示す単位であり、重量比を表す。本願では、水素含有量の重量を、水素を含有している元の部材の重量で割った値をいう。例えば、適用例8に記載の「包囲部材の水素含有量6ppm」とは、包囲部材1kg中に水素が6mg含有していることを意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.第1実施例:
A1.温度センサの構造:
A2.温度センサの製造工程:
A3.ベーキング処理の効果:
A4.筒状部材への第5の熱処理工程の効果:
B.第2実施例:
C.変形例:
【0033】
A.第1実施例:
A1.温度センサの構造:
図1は、本発明の第1実施例としての温度センサの構造を示す部分破断断面図である。温度センサ1は、サーミスタ素子2を感温素子として用いたものである。例えば、この温度センサ1を装着対象体である自動車の排気管に装着することにより、サーミスタ素子2を内包した金属製の包囲部材である金属チューブ3を排気ガスが流れる排気管内に配置させて、排気ガスの温度検出に使用することができる。なお、サーミスタ素子2は、ペロブスカイト型酸化物製のディスク状をなしたサーミスタ焼結体と、このサーミスタ焼結体内に一部が埋設した一対の電極線(Pt/Rh合金線9)とを有する公知の構成からなる。
【0034】
温度センサ1の軸線(一点鎖線で示す)方向に延びる金属チューブ3は、先端部31側が閉塞した筒状に形成されており、この先端部31の内部にサーミスタ素子2が収容される。この金属チューブ3は、後述するようにステンレス合金から形成されている。そして、金属チューブ3の内部であってサーミスタ素子2の周囲には、セメント10が充填されており、これにより使用時の振動等によるサーミスタ素子2の揺動が防止される。金属チューブ3の後端部32側は開放されており、この後端部32はステンレス合金製のフランジ4の内側に挿通されている。なお、セメント10は、アルミナ粉末を主体とする骨材と、SiO2またはシリカを含むガラス成分とからなる。
【0035】
フランジ(取り付け部材)4は、軸線方向に延びる鞘部42と、この鞘部42の先端側に位置し、径方向外側に向かって突出する突出部41とを有している。突出部41は、先端側に図示しない排気管(装着対象体)の取付部のテーパ部に対応したテーパ形状の座面45を有する環状に形成されており、座面45が上記取付部のテーパ部に密着することで、排気ガスが排気管外部へ漏出するのを防止するようになっている。また、鞘部42は環状に形成される一方、先端側に位置する先端側段部44と先端側段部44よりも小さい外径を有する後端側段部43とを備える二段形状をなしている。
【0036】
金属チューブ3は、自身の後端部32からフランジ4の突出部41の先端側に挿入されて、鞘部42の内側に圧入されている。そして、金属チューブ3の外周面と鞘部42の後端側段部43の内周面との重なり合う部分が、周方向にわたってレーザー溶接されている。このレーザー溶接がなされることにより、図1に示すように、鞘部42の後端側段部43と金属チューブ3とに跨る溶接部L1が形成され、金属チューブ3がフランジ4に対して固定される。
【0037】
フランジ4の鞘部42の先端側段部44の径方向外側には、筒状の継手(筒状部材)6が接合されている。具体的には、鞘部42の先端側段部44の外周面に継手6の内周面が重なり合うように、同継手6が鞘部42の先端側段部44に圧入され、継手6と先端側段部44とが周方向にわたってレーザー溶接されている。このレーザー溶接がなされることにより、図1に示すように、鞘部42の先端側段部44と継手6とに跨る溶接部L2が形成される。
【0038】
鞘部42の後端側段部43と金属チューブ3とに跨る溶接部L1および鞘部42の先端側段部44と筒状部材6とに跨る溶接部L2が形成されることにより、包囲部材3と筒状部材6とが取り付け部材4にそれぞれ接続されている。言い換えれば、包囲部材3と筒状部材6とが取り付け部材4を介して接続されている。なお、ここで継手6と筒状部材6とは同義であり、また、取り付け部材4とフランジ4とは同義である。
【0039】
金属チューブ3、フランジ4および継手6の内部には、一対の金属芯線7を筒状の外筒21の内側に絶縁保持してなるシース部材8が配置される。金属チューブ3の内部において、シース部材8の外筒21の先端から突出する金属芯線7の先端部には、サーミスタ素子2が、このサーミスタ素子2の電極線を構成するPt/Rh合金線9を介して接続される。合金線9および金属芯線7は互いにレーザー溶接又は抵抗溶接される。なお、シース部材8は、詳細は図示しないが、ステンレス合金(例えば、SUS310S)からなる金属製の外筒21と、ステンレス合金(例えば、SUS310S)からなる一対の金属芯線7と、外筒と各金属芯線7との間を絶縁し、金属芯線7を保持するSiO2を主体とする絶縁粉末とから構成される。
【0040】
継手6の内部にてシース部材8の外筒21の後端から後端側へ突き出す金属芯線7は、圧着端子11とレーザー溶接又は抵抗溶接され、圧着端子11を介して一対の外部回路(例えば車両のECU等)接続用のリード線12と接続される。一対の金属芯線7および一対の圧着端子11は、絶縁チューブ15により互いに絶縁される。リード線12は、金属製の撚り線を絶縁性の被覆材にて被覆したものであり、継手6の後端側開口に備えられる耐熱ゴム製の補助リング13に挿通される。そして、補助リング13は、継手6の上から丸加締め或いは多角加締めされることにより、補助リング13および継手6が気密性を保ちながら互いに固定される。これにより、サーミスタ素子2が、金属チューブ3、フランジ4および継手6により形成される密閉空間に収容されることになる。そして、サーミスタ素子2の出力は、シース部材8の金属芯線7からリード線12により、図示しない外部回路に取り出され、排気ガスの温度が検出される。
【0041】
なお、この温度センサ1は1000℃にも達する高温環境下で使用されるため、各々の構成部材は十分な耐熱性を有している必要がある。そのため、金属チューブ3、フランジ4、外筒21および金属芯線7は、Feを主成分とし、C、Si、Mn、P、S、Niおよび24.00〜26.00重量%でCrを含有する耐熱合金であるSUS310Sにより形成されている。また、継手6は、SUS304(Fe以外に、C,Si,Mn,P,S,Ni,Crを含有する耐熱合金であって、18.00〜20.00重量%でCrを含有する。)を材質とする。
【0042】
A2.温度センサの製造工程:
上記温度センサ1は、以下の工程を経ることにより製造される。
【0043】
まず、耐熱合金としてのSUS310Sを材質として用いた金属チューブ3およびフランジ4を予め形成する。また、耐熱合金としてのSUS310Sを材質として用いた外筒21および金属芯線7、絶縁粉末を用いてシース部材8を予め形成する。さらに、その他の部品2,6,10〜13も予め形成する。
【0044】
次に、金属チューブ3、シース部材8およびフランジ4に、後述する第1の熱処理工程および第2の熱処理工程による酸化被膜形成のための加熱処理(酸化処理)を施す。さらに、酸化被膜が形成された金属チューブ3,フランジ4,シース部材8(詳細には、外筒21および金属芯線7)に、後述する第3の熱処理工程による含有水素脱離のための加熱処理(ベーキング処理)を施す。
【0045】
そして、酸化被膜の形成および含有水素脱離がなされた各部材3,4,8と、その他の部品2,6,11〜13を互いに組み付けることにより、図1に示した温度センサ1の製造が完了する。なお、サーミスタ素子2とシース部材8との組み付け体を金属チューブ3に挿入する前に、未硬化のセメント10を金属チューブ3内に充填し、充填後の金属チューブ3に組み付け体を挿入し、乾燥処理を経ることでセメント10を硬化させるようにした。
【0046】
また、SUS304を材質として用いた筒状部材(継手)6に、後述する第4の熱処理工程(焼鈍工程)および含有水素脱離のための第5の熱処理工程(ベーキング処理、水素脱離処理)を施す場合には、第5の熱処理工程を筒状部材6に施した後に、フランジ4や、その他の部品を互いに組み付けることにより、図1に示した温度センサ1の製造が完了する。
【0047】
図2は、温度センサの製造工程における熱処理の工程部分を示す工程図である。
【0048】
まず、第1の熱処理工程として、金属チューブ3、フランジ4およびシース部材8を、大気雰囲気下において、処理温度1000℃および処理時間10時間で高温加熱処理(大気雰囲気下酸化処理)を実施する。なお、金属チューブ3とフランジ4については、フランジ4の内側に金属チューブ3を圧入固定した状態で第1の熱処理工程および後述する第2の熱処理工程を実施するようにしている。
【0049】
上記第1の熱処理工程では、管理が容易な大気雰囲気下において、長時間加熱処理することにより、上記金属チューブ3,フランジ4,シース部材8(詳細には、外筒21および金属芯線7)の金属表面に不連続ではあるが比較的膜厚の厚い酸化被膜を形成することができる。
【0050】
次いで、第2の熱処理工程として、35℃に保たれた水中を通して水分を含ませた水素ガスよりなるウエットガスと、ドライ水素よりなるドライガスとを1対2.2の割合で処理炉に投入し、この処理炉内に第1の熱処理工程で酸化被膜が形成された各部材3,4,8を収納して、ウエットな水素雰囲気(湿潤水素雰囲気)下において、処理温度1150℃および処置時間1時間で高温加熱処理(湿潤水素雰囲気下酸下処理)を実施する。
【0051】
上記第2の熱処理工程では、各部材3,4,8の表面のうちで、少なくとも第1の熱処理工程で形成された酸化被膜の欠落部分(換言すれば酸化被膜が形成されなかった表面)に酸化クロムが選択的に生成された酸化被膜が形成される。
【0052】
さらに、第3の熱処理工程として、上記第2の熱処理工程で酸化被膜が形成された各部材3,4,8を、大気雰囲気下において、処理温度700℃および処理時間30分で低温加熱処理(ベーキング処理,含有水素脱離処理)を実施する。
【0053】
上記第3の熱処理工程では、各部材3,4,8に含有している水素が脱離し、各部材3,4,8の水素含有量が低減される。
【0054】
図10は、筒状部材6の熱処理の工程部分を示す工程図および第5の熱処理工程の熱処理条件を表す図である。まず、第4の熱処理工程として、筒状部材6を水素雰囲気下において、処理温度1100℃および処理時間2時間で焼鈍処理を実施する。これにより、筒状部材6の加工後の内部応力を除去することができる。
【0055】
次いで、第5の熱処理工程として、焼鈍処理を施した筒状部材6を、大気雰囲気下で図10(b)に記載のNo.1〜No.8の条件でそれぞれ加熱処理(ベーキング処理,含有水素脱離処理)を実施する。これにより、筒状部材6に含有している水素が脱離し、筒状部材6の水素含有量が低減される。ここで第5の熱処理工程における加熱温度は、200℃〜400℃の範囲が好ましい。下限値を200℃としたのは、後述する第5の熱処理工程を施す前の筒状部材6の含有水素の脱離が200℃付近から始まるため(図18,図19参照)、含有水素を脱離させるためには200℃以上が好適であるからである。また、上限値を400℃としたのは、高温での熱処理を行うと筒状部材6の表面全体に酸化被膜が形成する可能性があり、筒状部材6と他の部材(例えば取り付け部材4)を溶接する際に、酸化被膜を除去する必要が生じるからである。
【0056】
A3.ベーキング処理の効果:
第3の熱処理工程によるベーキング処理の効果について説明する。
【0057】
上記第2の熱処理工程は、湿潤水素雰囲気下において実施される。また、金属チューブ3およびシース部材8は、その製造工程において、加工時の応力緩和のため、「焼鈍」と呼ばれる熱処理工程を含むのが一般的である。この焼鈍工程は、酸化を防止するために、非酸素含有雰囲気下、例えば、水素含有雰囲気下で行なわれるのが一般的である。従って、水素雰囲気下で実施される第2の熱処理工程や焼鈍工程において、金属チューブ3およびシース部材8には、水素が吸着、固溶等により含有され、水素含有量が増加することになる。
【0058】
仮に、金属チューブ3およびシース部材8内に含有されている水素が、温度センサ1の使用時において金属チューブ3およびシース部材8から脱離すると、サーミスタ素子2が還元されてサーミスタ素子の特性変化を招く。
【0059】
図3は、第1および第2の熱処理を実施した金属チューブについての雰囲気温度と脱離水素との関係を分析した結果を示すグラフである。また、図4は、同様に、第1および第2の熱処理を実施したシース部材についての雰囲気温度と脱離水素との関係を分析した結果を示すグラフである。図3および図4は、雰囲気温度を一定の割合で順に上昇させていったときに、発生する単位時間当たりの水素量dH/dt[ppm/min]と、その累積積分値[ppm]を示している。なお、部品に含有されている水素量は、例えば、昇温脱離装置(TPD)に検出計として大気圧イオン化質量分析計(API−MS)を接続して計測することができる。
【0060】
図3および図4に示すように、金属チューブとシース部材のいずれでも、200℃付近の温度から水素の脱離が発生し始める。そして、900℃の温度まで上昇した場合における脱離水素の累積積分値は、金属チューブでは約10.4ppm、シース部材では約10.7ppmもあることがわかる。なお、図3および図4の結果は、複数のサンプルによる分析結果のうちの代表的な値を示している。
【0061】
図11は、第1および第2の熱処理を実施した複数(サンプル数は4個)の金属チューブ3についての雰囲気温度と単位時間当たりに発生した水素量dH/dt[ppm/min]の関係を示すグラフである。ここで、雰囲気温度は一定の割合で順に上昇させた。なお、太字の実線で示すサンプル(600℃において単位時間当たりの水素量が最も高いサンプル)は、図3に示すサンプルと同一である。
【0062】
図12は、第1および第2の熱処理を実施した複数(サンプル数は4個)の金属チューブ3についての雰囲気温度と脱離水素の累積値[ppm]の関係を示すグラフである。脱離水素の累積値は、図11の単位時間当たりの水素量を元に算出している。これによると、900℃の温度まで上昇した場合における脱離水素の累積値は、少なくとも9.3ppm以上であることが分かる。なお、脱離水素の累積値が約10.4ppmを示すサンプルは、図3に示すサンプルと同一である。
【0063】
図13は、第1および第2の熱処理を実施した複数(サンプル数は4個)のシース部材8についての雰囲気温度と単位時間当たりに発生した水素量dH/dt[ppm/min]の関係を示すグラフである。ここで、雰囲気温度は一定の割合で順に上昇させた。これによると、いずれのシース部材8も200℃付近から水素の脱離が発生し始めることが分かる。なお、太字の実線で示すサンプル(約450℃において水素量が最も高いサンプル)は、図4に示すサンプルと同一である。
【0064】
図14は、第1および第2の熱処理を実施した複数(サンプル数は3個)のシース部材8についての雰囲気温度と脱離水素の累積値[ppm]の関係を示すグラフである。脱離水素の累積値は、図13の単位時間当たりの水素量を元に算出している。これによると、900℃の温度まで上昇した場合における脱離水素の累積値は、少なくとも約10.2ppm以上であることが分かる。なお、脱離水素の累積値が約10.7ppmを示すサンプルは、図4に示すサンプルと同一である。
【0065】
以上のことから、これらの部材を用いた温度センサを高温で使用した場合において、これら金属チューブ3やシース部材8から脱離した水素が、サーミスタ素子2の特性変化を招くと考えられる。
【0066】
従って、これら金属チューブ3やシース部材8から脱離した水素によるサーミスタ素子2の特性変化を防止するためには、あらかじめ、金属チューブ3やシース部材8に含有している水素を脱離させておくことが好ましく、第3の熱処理工程によるベーキング処理を実施するのである。
【0067】
図5は、ベーキング処理を実施した金属チューブについての雰囲気温度と脱離水素との関係を分析した結果を示すグラフである。また、図6は、同様に、ベーキング処理を実施したシース部材についての雰囲気温度と脱離水素との関係を分析した結果を示すグラフである。図5および図6も、図3および図4と同様に、雰囲気温度を一定の割合で順に上昇させていったときに、発生する単位時間当たりの水素量dH/dt[ppm/min]と、その累積積分値[ppm]を示している。
【0068】
図5に示すように、ベーキング処理を実施した金属チューブ3では、雰囲気温度を900℃まで上昇させた場合における脱離水素の累積積分値は約4.3ppmであり、ベーキング処理を実施しない金属チューブ3の場合の累積積分値が約10.4ppm(図3参照)であるのに対して、1/2以下に低減されることがわかる。また、図6に示すように、ベーキング処理を実施したシース部材8では、雰囲気温度を900℃まで上昇させた場合における脱離水素の累積積分値は約7.4ppmであり、ベーキング処理を実施しないシース部材8の場合の累積積分値が10.7ppm(図4参照)であるのに対して、3/4以下に低減されることがわかる。なお、図5および図6の結果は、複数のサンプルによる分析結果のうちの代表的な値を示している。
【0069】
図15は、ベーキング処理を実施した複数(サンプル数は12個)の金属チューブ3についての雰囲気温度と単位時間当たりに発生した水素量dH/dt[ppm/min]の関係を示すグラフである。なお、雰囲気温度は一定の割合で順上昇させた。これによれば、ベーキング処理を実施しない金属チューブ3では、約500℃〜約650℃の範囲で単位時間当たりの水素量の最大値を記録したのに対し(図11参照)、ベーキング処理を実施した金属チューブ3では、単位時間当たりの水素量の最大値は、より高温側(例えば700℃以上)にシフトする傾向にあることが分かる。
【0070】
図16は、ベーキング処理を実施した複数(サンプル数は12個)の金属チューブ3についての雰囲気温度と脱離水素の累積値[ppm]の関係を示すグラフである。脱離水素の累積値は、図15の単位時間当たりの水素量を元に算出している。これによると、雰囲気温度を900℃まで上昇させた場合における金属チューブ3の脱離水素の累積値は、最大でも5.4ppmである。よって、ベーキング処理を実施しない金属チューブ3の脱離水素の累積値が少なくとも9.3ppm以上(図12参照)であることから、ベーキング処理を実施することで金属チューブ3の水素含有量を3/5以下に低減できることが分かる。なお、累積値が4.3ppmを示すサンプルは、図5のサンプルと同一である。
【0071】
図17は、ベーキング処理を実施した複数(サンプル数は11個)のシース部材8についての雰囲気温度と単位時間当たりに発生した水素量dH/dt[ppm/min]の関係を示すグラフである。また、図18は、ベーキング処理を実施した複数(サンプル数は11個)のシース部材8についての雰囲気温度と脱離水素の累積値[ppm]の関係を示すグラフである。なお、脱離水素の累積値は、図17の単位時間当たりの水素量を元に算出している。
【0072】
図17および図18によると、雰囲気温度を900℃まで上昇させた場合におけるシース部材8の脱離水素の累積値は、最大でも7.4ppmである。よって、ベーキング処理を実施しないシース部材8の脱離水素の累積値が少なくとも10.2ppm以上(図14参照)であることから、ベーキング処理を実施することでシース部材3の水素含有量を3/4以下に低減できることが分かる。
【0073】
図7は、ベーキング処理を実施した金属チューブ、フランジおよびシース部材を用いて作製した温度センサの抵抗値のバラツキを示すグラフである。図8は、比較例として、ベーキング処理を実施しない金属チューブ、フランジおよびシース部材を用いて作製した温度センサの抵抗値のバラツキを示すグラフである。なお、どちらもサンプル数は150個である。
【0074】
図7と図8を比較すればわかるように、ベーキング処理を実施していない部品を用いた温度センサはσ=0.0181であるのに対して、ベーキング処理を実施した部品を用いた温度センサはσ=0.0014と、抵抗値のバラツキが大幅に改善されることがわかる。
【0075】
従って、金属チューブおよびシース部材をベーキング処理することにより、サーミスタ素子の特性が変化するのを抑制することが可能であるとともに、抵抗値のバラツキを小さくすることが可能であり、サーミスタ素子の特性変化を抑えて検出精度の低下を防止することを可能にした温度センサを提供することができる。
【0076】
なお、ベーキング処理後の金属チューブ3およびシース部材8の水素含有量の上限値は、図5および図6の結果、さらには図15〜図18の結果を考慮して、金属チューブ3は6ppm以下、好ましくは5ppm以下、より好ましくは3ppm以下に設定することができ、シース部材8は8ppm以下、より好ましくは7.5ppm以下、さらに好ましくは6.0ppm以下に設定することができる。
【0077】
A4.筒状部材6への第5の熱処理工程の効果:
筒状部材6は、その製造工程において、加工時の応力緩和のため、「焼鈍」と呼ばれる第4の熱処理工程を含むのが一般的である。この第4の熱処理工程は、酸化を防止するために、非酸素含有雰囲気下、例えば、水素雰囲気下で行われるのが一般的である。本実施例の場合は、水素雰囲気下で処理温度1100℃および処理時間2時間で第4の熱処理工程(焼鈍処理)を行っている。従って、第4の熱処理工程において、筒状部材6には水素が吸着、固溶等により含有され、水素含有量が増加することになる。
【0078】
ここで、図1に示すように、包囲部材3を取り囲む取り付け部材4に対して、シース部材8の後端側を包囲するための筒状部材(継手)6が固定されている構成の温度センサ1では、温度センサ1の使用時において、筒状部材6から含有水素が脱離すると、脱離水素が包囲部材3とシース部材8との間の空間を通ってサーミスタ素子2へ到達する。その結果、サーミスタ素子2が還元されてサーミスタ素子2の特性変化を招くおそれがある。
【0079】
図19は、第4の熱処理工程を実施した複数(サンプル数は3個)の筒状部材6についての雰囲気温度と単位時間当たりに発生した水素量dH/dt[ppm/min]の関係を示すグラフである。なお、雰囲気温度は一定の割合で順に上昇させた。これによると、いずれの筒状部材6も200℃付近から水素の脱離が発生し始めることが分かる。
【0080】
図20は、第4の熱処理工程を実施した複数(サンプル数は3個)の筒状部材6についての雰囲気温度と脱離水素の累積値[ppm]の関係を示すグラフである。脱離水素の累積値は、図19の単位時間当たりの水素量を元に算出している。これによると、900℃の温度まで上昇した場合における脱離水素の累積値は、少なくとも5.4ppm以上であることが分かる。
【0081】
以上のことから、第4の熱処理工程を実施した筒状部材6を用いた温度センサ1を高温(例えば600℃以上)で使用した場合において、筒状部材6から脱離した水素が、サーミスタ素子2の特性変化を招くと考えられる。
【0082】
従って、筒状部材6から脱離した水素によるサーミスタ素子2の特性変化を防止するために、あらかじめ、筒状部材6に含有している水素を脱離させておくことが好ましい。よって、第5の熱処理工程を実施するのである。
【0083】
図21は、第5の熱処理工程を実施した筒状部材6についての雰囲気温度と単位時間当たりに発生した水素含有量dH/dt[ppm/min]の関係を示すグラフである。図22は、第5の熱処理工程を実施した筒状部材6の雰囲気温度と脱離水素の累積値[ppm]の関係を示すグラフである。ここで、脱離水素に累積値は、図21の単位時間当たりの水素量を元に算出している。また、図22(b)に示す処理条件でそれぞれ第5の熱処理工程を実施した筒状部材6を測定に用いた。
【0084】
図22(a)に示すように、第5の熱処理工程を実施した筒状部材6では、雰囲気温度を900℃まで上昇させた場合における脱離水素の累積値は、最大でも3.0ppmである。よって、第5の熱処理工程を実施しない筒状部材6の脱離水素の累積値が少なくとも5.4ppm以上(図20参照)であることから、第5の熱処理工程を実施することで筒状部材6の水素含有量を3/5以下に低減できることが分かる。また、第5の熱処理条件によっては、筒状部材6の水素含有量を、2/5以下にできることが分かる。例えば、処理温度400℃、加熱処理時間40時間で第5の熱処理工程を実施した筒状部材6では、脱離水素の累積値が1.4ppmとなり、第5の熱処理工程を実施することで水素含有量を3/10以下にできる。
【0085】
図23は、第5の熱処理工程を実施しない筒状部材6を用いて作製した温度センサ1(以下、「処理前温度センサ1」という。)の繰り返し温度変化を示すグラフである。試験方法としては、温度センサ1を100℃〜900℃に昇温し、温度毎の抵抗値の測定を行う(1回目の試験)。次に温度センサ1を100℃まで冷却し、同一の温度センサ1を再度100℃〜900℃に昇温し、温度毎の抵抗値の測定を行う(2回目の試験)。1回目の試験で得られた抵抗値を0とし、2回目の試験で得られた抵抗値と1回目の試験で得られた抵抗値とを比較し、2回目の試験で得られた抵抗値のズレを温度に変換しプロットを行った。なお、サンプル数は50個であり、いずれの温度センサ1も金属チューブ3、フランジ4およびシース部材8にはベーキング処理を実施している。
【0086】
図24は、第5の熱処理工程(ベーキング処理)を実施した筒状部材6を用いて作製した温度センサ1(以下、「処理後温度センサ1」という。)の繰り返し温度変化を示すグラフである。試験方法およびサンプル数は図23の試験と同一である。また、いずれの温度センサ1も金属チューブ3、フランジ4およびシース部材8にはベーキング処理を実施している。
【0087】
図23と図24を比較すると、処理後温度センサ1は、処理前温度センサ1よりも抵抗値の変動が大幅に改善されるのがわかる。言い換えれば、処理後温度センサ1は第5の熱処理工程により筒状部材6に含有している水素を予め脱離させている。よって、1回目の試験の際に、処理後温度センサ1の筒状部材6から脱離する水素量は、処理前温度センサ1の筒状部材6から脱離する水素量よりも低い。よって、サーミスタ素子2の特性変化を防止でき、抵抗値の変動を大幅に改善できたのである。
【0088】
また、第5の熱処理工程を実施した筒状部材6の水素含有量の上限値は、図21および図22の結果を考慮し、4ppm以下、好ましくは3ppm以下、さらに好ましくは2.5ppm以下に設定することができる。
【0089】
筒状部材6は、包囲部材3およびシース部材8に比べサーミスタ素子2から離れた位置にはあるが、筒状部材6の水素含有量の上限値は、包囲部材3およびシース部材8の水素含有量の上限値よりも低く設定することが好ましい。なぜならば、筒状部材6は包囲部材3およびシース部材8に比べ重量が一般的に大きいため、水素含有量[ppm]が高ければ、筒状部材6全体から発生する水素量は包囲部材3およびシース部材8よりも高くなり、サーミスタ素子2から離れた位置であっても特性変化に影響を及ぼす可能性があるからである。
【0090】
B.第2実施例:
図9は、本発明の第2実施例としての温度センサの構造を示す部分破断断面図である。この温度センサ100は、第1実施例の温度センサ1と比較して、サーミスタ素子2を収容するための部材、およびフランジの鞘部にレーザー溶接される部材が主に異なるものであり、その他の部分についてはほぼ同様である。従って、第1実施例と異なる部分を中心に説明し、同様な部分については、説明を省略または簡略化する。
【0091】
第1実施例の温度センサ1では、サーミスタ素子2を金属チューブ3の内側に収容すると共に、その金属チューブ3をフランジ4にレーザー溶接により固定していた(図1参照)。これに対し、図9に示す本実施例の温度センサ100では、サーミスタ素子2を金属製の包囲部材としての金属キャップ14に収容し、この金属キャップ14をシース部材8に溶接(具体的には、レーザー溶接)した状態で、シース部材8をフランジ4にレーザー溶接により固定している。
【0092】
軸線方向に延びる金属キャップ14は、先端部131側が閉塞された筒状をなしており、この先端部131の内部にサーミスタ素子2が収容されている。この金属キャップ14は、SUS310Sのステンレス合金から形成されている。尚、サーミスタ素子2は、自身の電極線(Pt/Rh合金線)9を介してシース部材8の外筒21の先端から突出する金属芯線7に接続される。そして、金属キャップ14の後端部132側は開放されており、この後端部132の内周面がシース部材8の外筒21の外周面に重なり合った状態で、周方向にわたってレーザー溶接されている。これにより、金属キャップ14がシース部材8に気密状態に固定される。
【0093】
フランジ4は、上述したように、軸線方向に延びる鞘部42と、この鞘部42の先端側に位置し、径方向外側に向かって突出する突出部41とを有している。また、鞘部42は、先端側に位置する先端側段部44と先端側段部44よりも小さい外径を有する後端側段部43とを備える二段形状をなしている。
【0094】
シース部材8は、自身の後端側がフランジ4の内側に挿通された状態で、鞘部42の外周面の所定位置において径方向内側に向かって加締められ、フランジ4に対して固定されている。さらに、シース部材8の外筒21の外周面と鞘部42の後端側段部43の内周面との重なり合う部分が、周方向にわたってレーザー溶接されている。このレーザー溶接がなされることにより、図9に示すように、鞘部42の後端側段部43とシース部材8(詳細にはシース部材8の外筒21)とに跨る溶接部L3が形成され、シース部材8がフランジ4に対して固定される。
【0095】
このように、シース部材8をフランジ4の鞘部42に加締め固定しつつ、鞘部42の後端側段部43にレーザー溶接を行うことにより、フランジ4とシース部材8との溶接強度に優れると共に、フランジ4とシース部材8との密着強度に優れる温度センサ100とすることができる。したがって、自動車等の振動の激しい環境下において温度センサ100が強い振動を受けても、シース部材8が振れ難く、シース部材8の折損等を抑制することができる。
【0096】
なお、上記構成の温度センサ100でも、サーミスタ素子2が、シース部材8および金属キャップ14により形成される密閉空間に収容されることになる。このシース部材8および金属キャップ14は、1000℃にも達する高温環境下に晒されるため、十分な耐熱性を有しており、また、特性変化を防止する必要がある。そのため、シース部材8および金属キャップ14は、SUS310Sにより形成されている。このシース部材8および金属キャップ14にも、第1実施例と同様に第1の熱処理工程および第2の熱処理工程による酸化被膜形成のための加熱処理(酸化処理)を施し、さらに、第3の熱処理工程による含有水素脱離のための加熱処理(ベーキング処理)を施す。酸化被膜が形成された金属キャップ14がシース部材8に溶接されて、その他の部品2,6,7,11〜13を互いに組み付けることにより、図9に示した温度センサ100の製造が完了する。
【0097】
この温度センサ100では、金属包囲部材であるシース部材8および金属キャップ14の表面が連続的で十分な膜厚の酸化被膜により覆われるので、1000℃以上の高温に長時間さらされても、シース部材8および金属キャップ14の表面の酸化の進行を抑えることができる。また、ベーキング処理によりシース部材8および金属キャップ14の水素含有量がそれぞれ特定値以下に低減されているので、シース部材8および金属キャップ14からの水素の脱離量を低減することができる。従って、温度センサ100に用いられるサーミスタ素子2の温度特性が変化してしまうことやバラツキを抑制することができ、サーミスタ素子2の特性変化を抑えて検出精度の低下を防止することを可能にした温度センサを提供することができる。
【0098】
C.変形例:
なお、本発明は上記した実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様にて実施することが可能である。
【0099】
例えば、上記実施例の第1の熱処理工程による大気雰囲気下における酸化処理では、処理温度1000℃、処理時間10時間としている。また、第2の熱処理工程による湿潤水素雰囲気下における酸化処理では、湿潤水素:ドライ水素=1:2.2、処理温度1150℃、処理時間1時間としている。しかしながら、これらの条件は一例であって、例えば、先行技術文献の一つである特開2004−301679号公報に記載されている種々の条件で実施可能である。
【0100】
また、上記実施例の第3の熱処理工程によるベーキング処理では、処理温度700℃、処理時間30分としている。しかしながら、この条件は一例であって、処理温度400℃〜900℃、処理時間30時間〜10分(400℃:30時間,900℃:10分)の範囲内で、酸化を進行させずに含有する水素を脱離させることが可能な種々の条件で実施可能である。
【0101】
また、上記実施例の第4の熱処理工程(焼鈍処理)では、水素雰囲気下で処理温度1100℃、加熱処理時間2時間としている。しかしながら、これらの条件は一例であって、加工時の応力緩和ができる範囲で種々の条件で実施可能である。
【0102】
また、上記実施例の第5の熱処理工程(ベーキング処理、含有水素脱離処理)では、処理条件を図10(b)のNo.1〜No.8までとしている。しかしながらこの条件は一例であって、処理温度200℃〜400℃および加熱処理時間10時間〜40時間を適宜組み合わせて熱処理工程を実施しても良い。また、含有する水素を脱離させることができる種々の条件で実施可能である。
【0103】
さらに、各金属包囲部材3,4,8に使用される耐熱合金としては、SUS310Sに限られず、SUS309SやInconel601等を用いても良い。また、耐熱合金としては、クロムを18重量%以上含む耐熱合金であれば、各種のものが使用可能である。クロム元素を少なくとも18重量%含む耐熱合金として、例えば、SUS304、SUS304L、SUS304N1を使用することもできる。
【0104】
なお、上記実施例では、第1の熱処理工程および第2の熱処理工程による加熱処理(酸化処理)を実施した後第3の熱処理工程による加熱処理(ベーキング)処理を実施する場合を例に示したが、第1の熱処理工程または第2の熱処理工程のいずれか一方を省略することも可能である。
【0105】
また、本発明の温度センサは、排気温センサのみならず、被測定流体として水や油等の液体が流れる流通路に取り付けられる温度センサにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の第1実施例としての温度センサの構造を示す部分破断断面図である。
【図2】温度センサの製造工程における熱処理の工程部分を示す工程図である。
【図3】第1および第2の熱処理を実施した金属チューブについての雰囲気温度と脱離水素との関係を分析した結果を示すグラフである。
【図4】同様に第1および第2の熱処理を実施したシース部材についての雰囲気温度と脱離水素との関係を分析した結果を示すグラフである。
【図5】ベーキング処理を実施した金属チューブについての雰囲気温度と脱離水素との関係を分析した結果を示すグラフである。
【図6】同様にベーキング処理を実施したシース部材についての雰囲気温度と脱離水素との関係を分析した結果を示すグラフである。
【図7】ベーキング処理を実施した金属チューブ、フランジおよびシース部材を用いて作製した温度センサの抵抗値のバラツキを示すグラフである。
【図8】比較例としてベーキング処理を実施しない金属チューブ、フランジおよびシース部材を用いて作製した温度センサの抵抗値のバラツキを示すグラフである。
【図9】本発明の第2実施例としての温度センサの構造を示す部分破断断面図である。
【図10】筒状部材の熱処理の工程部分を示す工程図である。
【図11】第1および第2の熱処理を実施した複数の金属チューブについての雰囲気温度と単位時間当たりに発生した水素量の関係を示すグラフである。
【図12】第1および第2の熱処理を実施した複数の金属チューブについての雰囲気温度と脱離水素の累積値の関係を示すグラフである。
【図13】第1および第2の熱処理を実施した複数のシース部材についての雰囲気温度と単位時間当たりに発生した水素量の関係を示すグラフである。
【図14】第1および第2の熱処理を実施した複数のシース部材についての雰囲気温度と脱離水素の累積値の関係を示すグラフである。
【図15】ベーキング処理を実施した複数の金属チューブについての雰囲気温度と単位時間当たりに発生した水素量の関係を示すグラフである。
【図16】ベーキング処理を実施した複数の金属チューブ3についての雰囲気温度と脱離水素の累積値の関係を示すグラフである。
【図17】ベーキング処理を実施した複数のシース部材についての雰囲気温度と単位時間当たりに発生した水素量の関係を示すグラフである。
【図18】ベーキング処理を実施した複数のシース部材についての雰囲気温度と脱離水素の累積値の関係を示すグラフである。
【図19】第4の熱処理工程を実施した複数の筒状部材についての雰囲気温度と単位時間当たりに発生した水素量の関係を示すグラフである。
【図20】第4の熱処理工程を実施した複数の筒状部材についての雰囲気温度と脱離水素の累積値の関係を示すグラフである。
【図21】第5の熱処理工程を実施した筒状部材についての雰囲気温度と単位時間当たりに発生した水素含有量の関係を示すグラフである。
【図22】第5の熱処理工程を実施した筒状部材の雰囲気温度と脱離水素の累積値の関係を示すグラフである。
【図23】第5の熱処理工程を実施しない筒状部材を用いて作製した温度センサを用いて実施した繰り返し温度測定の結果を示すグラフである。
【図24】第5の熱処理工程を実施した筒状部材を用いて作製した温度センサを用いて実施した繰り返し温度測定の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0107】
1…温度センサ
2…サーミスタ素子
3…金属チューブ(包囲部材)
4…フランジ(取り付け部材)
6…継手(筒状部材)
8…シース部材
14…金属キャップ(包囲部材)
100…温度センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーミスタ素子が、金属製の外筒の内側に金属芯線を絶縁保持してなるシース部材における前記外筒の先端から突出する前記金属芯線に接続されており、一端が閉塞され他端は開放されている金属製の包囲部材の内部空間に、前記サーミスタ素子から前記外筒の先端部を少なくとも含む前記シース部材の領域までが収容された温度センサにおいて、
前記包囲部材および前記シース部材の表面には酸化被膜が形成されているとともに、前記シース部材の水素含有量は8ppm以下であり、前記包囲部材の水素含有量は前記シース部材の水素含有量よりも小さいことを特徴とする温度センサ。
【請求項2】
請求項1記載の温度センサにおいて、
前記包囲部材の水素含有量は6ppm以下であることを特徴とする温度センサ。
【請求項3】
請求項1記載の温度センサにおいて、
前記包囲部材の水素含有量は5ppm以下であることを特徴とする温度センサ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の温度センサにおいて、
前記包囲部材の外周面を取り囲むとともに、前記温度センサを装着対象体に装着するための取り付け部材と、
前記包囲部材の他端から突出する前記シース部材の後端側を包囲するとともに、前記取り付け部材に固定される筒状部材と、をさらに備え、
前記筒状部材の水素含有量は4ppm以下であることを特徴とする温度センサ。
【請求項5】
サーミスタ素子が、金属製の外筒の内側に金属芯線を絶縁保持してなるシース部材における前記外筒の先端から突出する前記金属芯線に接続されており、一端が閉塞され他端は開放されている金属製の包囲部材の内部空間に、前記サーミスタ素子から前記外筒の先端部を少なくとも含む前記シース部材の領域までが収容された温度センサの製造方法において、
前記包囲部材および前記シース部材に対して、湿潤水素雰囲気下で熱処理を行なって、前記包囲部材および前記シース部材の金属表面を酸化させる湿潤水素雰囲気下酸化処理工程と、
前記湿潤水素雰囲気下酸化処理工程を経た前記包囲部材および前記シース部材に対して、水素を含まない雰囲気下で熱処理を行なって、前記包囲部材および前記シース部材に含有されている水素を脱離させる含有水素脱離処理工程と、
を備えることを特徴とする温度センサの製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の温度センサの製造方法において、さらに、
前記湿潤水素雰囲気下酸化処理工程の前に、前記包囲部材および前記シース部材に対して、大気雰囲気下で熱処理を行なって、前記包囲部材および前記シース部材の金属表面を酸化させる大気雰囲気下酸化処理工程
を備えることを特徴とする温度センサの製造方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6記載の温度センサの製造方法において、
前記含有水素脱離処理工程では、前記シース部材の水素含有量を8ppm以下まで脱離させるとともに、前記包囲部材の水素含有量は前記シース部材の水素含有量よりも小さくなるように脱離させることを特徴とする温度センサの製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の温度センサの製造方法において
前記含有水素脱離処理工程では、前記包囲部材の水素含有量を6ppm以下まで脱離させることを特徴とする温度センサの製造方法。
【請求項9】
請求項7記載の温度センサの製造方法において、
前記含有水素脱離処理工程では、前記包囲部材の水素含有量を5ppm以下まで脱離させることを特徴とする温度センサの製造方法。
【請求項10】
請求項5ないし請求項9のいずれかに記載の温度センサの製造方法において、
前記包囲部材の外周面を取り囲むとともに、前記温度センサを装着対象体に装着するための取り付け部材と、
前記包囲部材の他端から突出する前記シース部材の後端側を包囲するとともに、前記取り付け部材に固定される筒状部材と、をさらに備え、
前記筒状部材に対して水素を含まない雰囲気下で熱処理を行って、前記筒状部材に含有されている水素を脱離させる水素脱離工程と、
をさらに備えることを特徴とする温度センサの製造方法。
【請求項11】
請求項10記載の温度センサの製造方法において、
前記水素脱離工程では、前記筒状部材の水素含有量を4ppm以下になるよう水素を脱離させることを特徴とする温度センサの製造方法。
【請求項1】
サーミスタ素子が、金属製の外筒の内側に金属芯線を絶縁保持してなるシース部材における前記外筒の先端から突出する前記金属芯線に接続されており、一端が閉塞され他端は開放されている金属製の包囲部材の内部空間に、前記サーミスタ素子から前記外筒の先端部を少なくとも含む前記シース部材の領域までが収容された温度センサにおいて、
前記包囲部材および前記シース部材の表面には酸化被膜が形成されているとともに、前記シース部材の水素含有量は8ppm以下であり、前記包囲部材の水素含有量は前記シース部材の水素含有量よりも小さいことを特徴とする温度センサ。
【請求項2】
請求項1記載の温度センサにおいて、
前記包囲部材の水素含有量は6ppm以下であることを特徴とする温度センサ。
【請求項3】
請求項1記載の温度センサにおいて、
前記包囲部材の水素含有量は5ppm以下であることを特徴とする温度センサ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の温度センサにおいて、
前記包囲部材の外周面を取り囲むとともに、前記温度センサを装着対象体に装着するための取り付け部材と、
前記包囲部材の他端から突出する前記シース部材の後端側を包囲するとともに、前記取り付け部材に固定される筒状部材と、をさらに備え、
前記筒状部材の水素含有量は4ppm以下であることを特徴とする温度センサ。
【請求項5】
サーミスタ素子が、金属製の外筒の内側に金属芯線を絶縁保持してなるシース部材における前記外筒の先端から突出する前記金属芯線に接続されており、一端が閉塞され他端は開放されている金属製の包囲部材の内部空間に、前記サーミスタ素子から前記外筒の先端部を少なくとも含む前記シース部材の領域までが収容された温度センサの製造方法において、
前記包囲部材および前記シース部材に対して、湿潤水素雰囲気下で熱処理を行なって、前記包囲部材および前記シース部材の金属表面を酸化させる湿潤水素雰囲気下酸化処理工程と、
前記湿潤水素雰囲気下酸化処理工程を経た前記包囲部材および前記シース部材に対して、水素を含まない雰囲気下で熱処理を行なって、前記包囲部材および前記シース部材に含有されている水素を脱離させる含有水素脱離処理工程と、
を備えることを特徴とする温度センサの製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の温度センサの製造方法において、さらに、
前記湿潤水素雰囲気下酸化処理工程の前に、前記包囲部材および前記シース部材に対して、大気雰囲気下で熱処理を行なって、前記包囲部材および前記シース部材の金属表面を酸化させる大気雰囲気下酸化処理工程
を備えることを特徴とする温度センサの製造方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6記載の温度センサの製造方法において、
前記含有水素脱離処理工程では、前記シース部材の水素含有量を8ppm以下まで脱離させるとともに、前記包囲部材の水素含有量は前記シース部材の水素含有量よりも小さくなるように脱離させることを特徴とする温度センサの製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の温度センサの製造方法において
前記含有水素脱離処理工程では、前記包囲部材の水素含有量を6ppm以下まで脱離させることを特徴とする温度センサの製造方法。
【請求項9】
請求項7記載の温度センサの製造方法において、
前記含有水素脱離処理工程では、前記包囲部材の水素含有量を5ppm以下まで脱離させることを特徴とする温度センサの製造方法。
【請求項10】
請求項5ないし請求項9のいずれかに記載の温度センサの製造方法において、
前記包囲部材の外周面を取り囲むとともに、前記温度センサを装着対象体に装着するための取り付け部材と、
前記包囲部材の他端から突出する前記シース部材の後端側を包囲するとともに、前記取り付け部材に固定される筒状部材と、をさらに備え、
前記筒状部材に対して水素を含まない雰囲気下で熱処理を行って、前記筒状部材に含有されている水素を脱離させる水素脱離工程と、
をさらに備えることを特徴とする温度センサの製造方法。
【請求項11】
請求項10記載の温度センサの製造方法において、
前記水素脱離工程では、前記筒状部材の水素含有量を4ppm以下になるよう水素を脱離させることを特徴とする温度センサの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2009−258082(P2009−258082A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287922(P2008−287922)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
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