説明

温度センサ

【課題】 温度センサにおいて、測定対象物との密着度が不足した状態でも正確に測温可能であると共に、測定対象物に対する設置状態の変化も検知すること。
【解決手段】 測定対象物に取り付けられて該測定対象物の温度を測定する温度センサ1であって、測定対象物から放射される赤外線を受光して測定対象物の温度を検出する第1のセンサ素子2と、測定対象物に接触状態とされると共に測定対象物から放射される赤外線を遮光する熱伝導部3を介して測定対象物から伝わる熱から測定対象物の温度を検出する第2のセンサ素子4と、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子4とを収納すると共に測定対象物に取り付けられる筐体5と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物に取り付けられて該測定対象物の温度を測定する温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の内部には各部の温度を検出するために多くの温度センサが搭載されている。これらの温度センサとしては、例えば、特許文献1には、自動車機器等に取り付けられて使用され、樹脂モールドされたサーミスタ素子部と端子板とを含むサーミスタ装置が提案されている。このサーミスタ装置は、測定対象物である自動車機器等から伝わる熱をサーミスタ素子部で検出して測温するものである。
【0003】
また、特許文献2には、空洞部上に赤外線検出素子が形成されている第1の基板及び第2の基板と、第1の基板と第2の基板とを固定する接着部材と、を備え、第2の基板の空洞部に赤外線反射膜が形成された赤外線検出器が提案されている。この赤外線検出器では、第2の基板の空洞部に赤外線反射膜を形成することで、第2の基板の赤外線検出素子への赤外線を遮光して、該赤外線検出素子を温度補償用として用いて赤外線を高感度に検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−165418号公報(特許請求の範囲、図1)
【特許文献2】特開2000−298063号公報(特許請求の範囲、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、上記特許文献1に記載の温度センサは、測定対象物に直接貼り付けて該測定対象物の温度を測定する接触型のセンサであるが、車載用などの場合、測定対象物の振動などの影響で温度センサの取り付けが不完全になって密着度が不足することがあり、測定対象物の測温が正確にできないという不都合があった。
また、上記特許文献2に記載の温度センサでは、振動等で温度センサが位置ずれしたり外れかかったりして密着度が不足しても、赤外線によって温度を測定するため測温が可能であるが、設置状態の変化を検知することが困難であった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、測定対象物との密着度が不足した状態でも正確に測温可能であると共に、測定対象物に対する設置状態の変化も検知することが可能な温度センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明の温度センサは、測定対象物に取り付けられて該測定対象物の温度を測定する温度センサであって、前記測定対象物から放射される赤外線を受光して前記測定対象物の温度を検出する第1のセンサ素子と、前記測定対象物に接触状態とされると共に前記測定対象物から放射される赤外線を遮光する熱伝導部を介して前記測定対象物から伝わる熱から前記測定対象物の温度を検出する第2のセンサ素子と、前記第1のセンサ素子と前記第2のセンサ素子とを収納すると共に前記測定対象物に取り付けられる筐体と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
この温度センサでは、測定対象物から放射される赤外線を受光して測定対象物の温度を検出する第1のセンサ素子と、測定対象物に接触状態とされる熱伝導部を介して測定対象物から伝わる熱から測定対象物の温度を検出する第2のセンサ素子と、を備えているので、密着度が不足しても正確に測温可能であると共に、第1のセンサ素子と第2のセンサ素子との検出する温度差によって設置状態の変化を検知することができる。
すなわち、本発明の温度センサが、十分な密着度で正常に取り付けられている状態では、第1のセンサ素子と第2のセンサ素子とが同じ値で正確に測定対象物の温度を測定するが、密着度が不足した場合、第1のセンサ素子では赤外線を検出するので検出温度は変わらないのに対し、第2のセンサ素子では熱伝導部と測定対象物との接触状態が変わることで測定対象物からの伝導熱が減少して検出温度が低下する。この第1のセンサ素子と第2のセンサ素子との温度の差分を検出することで、温度センサの取り付け状態の変化を検知することが可能になる。また、赤外線を検出する第1のセンサ素子では、ある程度の距離又は取り付け角度の範囲内であれば密着度が不足した不完全な取り付け状態になっても、測定対象物の温度を正確に測定することができる。
【0009】
また、本発明の温度センサでは、前記第1のセンサ素子及び前記第2のセンサ素子が、サーミスタ素子であることを特徴とする。
すなわち、この温度センサでは、第1のセンサ素子及び第2のセンサ素子がサーミスタ素子であるので、全体として小型化することができると共に低コストに作製可能である。
【0010】
また、本発明の温度センサでは、前記熱伝導部が、主材である樹脂に該樹脂よりも高熱伝導率のフィラーを含有させたフィラー入り樹脂であることを特徴とする。
すなわち、この温度センサでは、熱伝導部が、主材である樹脂に該樹脂よりも高熱伝導率のフィラーを含有させたフィラー入り樹脂であるので、フィラー入り樹脂の高い熱伝導性によって測定対象物からの熱を第2のセンサ素子に効率的にかつ高い応答性をもって伝えることができ、より正確な測温が可能になる。
【0011】
また、本発明の温度センサでは、前記測定対象物と前記第1のセンサ素子との間に、赤外線が透過可能であると共に前記筐体よりも熱伝導性の低い断熱部が設けられていることを特徴とする。
すなわち、この温度センサでは、測定対象物と第1のセンサ素子との間に、赤外線が透過可能であると共に筐体よりも熱伝導性の低い断熱部が設けられているので、測温対象物からの伝導熱が第1のセンサ素子に与える影響を断熱部によって低減することができ、密着度が不足した際に、第2のセンサ素子との温度差をより明確にすることができる。
【0012】
さらに、本発明の温度センサでは、前記断熱部が、空気層であることを特徴とする。
すなわち、この温度センサでは、断熱部が、空気層であるので、第1のセンサ素子と測定対象物との間に一定の距離を開けて空気の空間を設けるだけで、別途断熱部材を設置する必要がなく、容易に断熱部を設けることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る温度センサによれば、測定対象物から放射される赤外線を受光して測定対象物の温度を検出する第1のセンサ素子と、測定対象物に接触状態とされる熱伝導部を介して測定対象物から伝わる熱から測定対象物の温度を検出する第2のセンサ素子と、を備えているので、密着度が不足しても正確に測温可能であると共に、第1のセンサ素子と第2のセンサ素子との検出する温度差によって設置状態を確認することができる。したがって、振動等によって取り付け状態が不完全になっても測定対象物の正確な温度を測定可能であると共に、取り付け状態の変化自体を検知することができ、温度センサが完全に外れる前に事前に正常な取り付け状態に設置し直すことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る温度センサの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】本実施形態において、温度センサが測定対象物に正常に取り付けられている状態及び取り付けが不完全な状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る温度センサの一実施形態を、図1及び図2を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能又は認識容易な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0016】
本実施形態の温度センサ1は、図1及び図2に示すように、例えば自動車に搭載される機器や部品等である測定対象物Sに取り付けられて該測定対象物Sの温度を測定する車載用などの温度センサであって、測定対象物Sから放射される赤外線を受光して測定対象物Sの温度を検出する第1のセンサ素子2と、測定対象物Sに接触状態とされると共に測定対象物Sから放射される赤外線を遮光する熱伝導部3を介して測定対象物Sから伝わる熱から測定対象物Sの温度を検出する第2のセンサ素子4と、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子4とが内部に実装されてこれらを収納すると共に測定対象物Sに取り付けられる筐体5と、該筐体5に取り付けられ第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子4とにそれぞれ電気的に接続されたケーブル6と、を備えている。
【0017】
上記筐体5は、アルミニウムや銅等の金属で形成された箱形等のケースであり、内部底面に第1のセンサ素子2及び第2のセンサ素子4が実装されている。なお、筐体5の内部底面には、実装された第1のセンサ素子2及び第2のセンサ素子4と電気的に接続される配線(図示略)又は回路基板(図示略)が設けられている。
【0018】
また、筐体5の両端部には、測定対象物Sへ取り付けるための取り付け孔7aが形成された一対の取り付け板部7が設けられている。すなわち、温度センサ1を測定対象物Sへ取り付ける際は、取り付け孔7aを使って測定対象物Sにネジ止め等することで、測定対象物Sに温度センサ1を貼り付けることが可能である。
【0019】
上記第1のセンサ素子2及び第2のセンサ素子4は、チップ型のサーミスタ素子である。このサーミスタ素子として、NTC型、PTC型、CTR型等のサーミスタがあるが、本実施形態では、NTC型サーミスタを採用している。このサーミスタ素子は、Mn−Co−Cu系材料、Mn−Co−Fe系材料等のサーミスタ材料で形成されている。また、第1のセンサ素子2及び第2のセンサ素子4には、図示しない一対の電極が形成され、これら電極が筐体5内の配線(図示略)又は回路基板(図示略)を介してケーブル6に接続されている。
【0020】
上記熱伝導部3は、筐体5内に実装された第2のセンサ素子4を封止するようにして形成されている。この熱伝導部3は、主材である樹脂に該樹脂よりも高熱伝導率のフィラーを含有させたフィラー入り樹脂である。なお、含有させるフィラーとしては、例えば銅(Cu),アルミニウム(Al),銀(Ag),窒化ホウ素(BN),黒鉛(Gr)等、炭素繊維等が採用可能である。
【0021】
また、熱伝導部3は、上記樹脂以外でも第2のセンサ素子4に対して電気的に絶縁させた状態で覆うものであれば、熱伝導性の高い他の樹脂や金属等でも構わない。
この熱伝導部3は、筐体5の貼付面側に露出状態に設けられており、温度センサ1を測定対象物Sに正常に取り付けた際に、測定対象物Sに密着するようになっている。
【0022】
上記測定対象物Sと第1のセンサ素子2との間には、赤外線が透過可能であると共に筐体5よりも熱伝導性の低い断熱部8として空気層が設けられている。すなわち、筐体5内に実装された第1のセンサ素子2の上方であって筐体5の貼付面側の開口部を塞ぐようにしてガラス板9が筐体5に固定されている。したがって、ガラス板9と第1のセンサ素子2との間に空気層の断熱部8が介在しており、温度センサ1を測定対象物Sに貼り付けた状態で、ガラス板9を透過した赤外線が断熱部8を介して第1のセンサ素子2に入射可能とされている。
【0023】
このように、第1のセンサ素子2は、貼付面から赤外線を受光して非接触で測定対象物Sの温度を測定可能であり、第2のセンサ素子4は、貼付面から熱伝導部3に伝わる測定対象物Sの伝導熱を検出して測定対象物Sの温度を測定可能である。
【0024】
なお、本実施形態では、ガラス板9を使用しているが、赤外線が透過可能であれば他の材料を採用しても構わない。また、設置箇所の状況に応じて、ガラス板9等を使用せず、筐体5の貼付面側の開口部を塞がない状態で、測定対象物Sと第1のセンサ素子2との間に空気層である断熱部8を設けても構わない。
【0025】
このように本実施形態の温度センサ1では、測定対象物Sから放射される赤外線を受光して測定対象物Sの温度を検出する第1のセンサ素子2と、測定対象物Sに接触状態とされる熱伝導部3を介して測定対象物Sから伝わる熱から測定対象物Sの温度を検出する第2のセンサ素子4と、を備えているので、密着度が不足しても正確に測温可能であると共に、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子4との検出する温度差によって設置状態の変化を検知することができる。
【0026】
すなわち、温度センサ1が、図2の(a)に示すように、十分な密着度で正常に取り付けられている状態では、第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子4とが同じ値で正確に測定対象物Sの温度を測定するが、図2の(b)に示すように、密着度が不足して測定対象物Sから一部が離れた場合、第1のセンサ素子2では赤外線を検出するので検出温度は変わらないのに対し、第2のセンサ素子4では熱伝導部3と測定対象物Sとの接触状態が変わることで測定対象物Sからの伝導熱が減少して検出温度が低下する。
【0027】
したがって、この第1のセンサ素子2と第2のセンサ素子4との温度の差分を検出することで、温度センサ1の取り付け状態の変化を検知することが可能になる。また、赤外線を検出する第1のセンサ素子2では、ある程度の距離又は取り付け角度の範囲内であれば密着度が不足した不完全な取り付け状態になっても、測定対象物Sの温度を正確に測定することができる。このように、密着度が低下しても、接触型センサである第2のセンサ素子4で生じる測定誤差を、非接触型センサである第1のセンサ素子2で補償することが可能になる。
【0028】
また、第1のセンサ素子2及び第2のセンサ素子4がサーミスタ素子であるので、全体として小型化することができると共に低コストに作製可能である。
さらに、熱伝導部3が、主材である樹脂に該樹脂よりも高熱伝導率のフィラーを含有させたフィラー入り樹脂であるので、フィラー入り樹脂の高い熱伝導性によって測定対象物Sからの熱を第2のセンサ素子4に効率的にかつ高い応答性をもって伝えることができ、より正確な測温が可能になる。
【0029】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0030】
1…温度センサ、2…第1のセンサ素子、3…熱伝導部、4…第2のセンサ素子、5…筐体、8…断熱部、S…測定対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物に取り付けられて該測定対象物の温度を測定する温度センサであって、
前記測定対象物から放射される赤外線を受光して前記測定対象物の温度を検出する第1のセンサ素子と、
前記測定対象物に接触状態とされると共に前記測定対象物から放射される赤外線を遮光する熱伝導部を介して前記測定対象物から伝わる熱から前記測定対象物の温度を検出する第2のセンサ素子と、
前記第1のセンサ素子と前記第2のセンサ素子とを収納すると共に前記測定対象物に取り付けられる筐体と、を備えていることを特徴とする温度センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の温度センサにおいて、
前記第1のセンサ素子及び前記第2のセンサ素子が、サーミスタ素子であることを特徴とする温度センサ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の温度センサにおいて、
前記熱伝導部が、主材である樹脂に該樹脂よりも高熱伝導率のフィラーを含有させたフィラー入り樹脂であることを特徴とする温度センサ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の温度センサにおいて、
前記測定対象物と前記第1のセンサ素子との間に、赤外線が透過可能であると共に前記筐体よりも熱伝導性の低い断熱部が設けられていることを特徴とする温度センサ。
【請求項5】
請求項4に記載の温度センサにおいて、
前記断熱部が、空気層であることを特徴とする温度センサ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−223589(P2010−223589A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67888(P2009−67888)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】