説明

温度測定器兼用ガス吹き込み器

【課題】容器内の温度測定とこの容器内へのガス吹き込みのために好適に用いられ、特にフラスコへの取り付けにあたり一つの口のみをフラスコ内の温度測定とフラスコ内へのガス吹き込みとに利用することができるようになる温度測定器兼用ガス吹き込み器を提供する。
【解決手段】本発明に係る温度測定器兼用ガス吹き込み器は、ガスが流通する流路を内部に有するガス流通部材と、温度センサとを備える。前記ガス流通部材の先端にガス噴き出し口が開口し、前記温度センサの感温部が前記ガス噴き出し口の近傍に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に容器内の温度測定と容器内へのガス吹き込みのために好適な温度測定器兼用ガス吹き込み器に関する。
【背景技術】
【0002】
実験などにおいて小規模な化学反応を生じさせる場合、しばしば反応容器内の反応系の温度を測定するために温度計が用いられたり、反応容器内にガスを吹き込むためのノズルが用いられたりする。
【0003】
例えば反応容器として一般的な四口フラスコが用いられる場合、一般的には四口フラスコには酸化防止や安全のために窒素ガス等を吹き込むためのガス吹き込みノズル、冷却管、温度計、及び攪拌器(攪拌棒羽根)などが取り付けられる(特許文献1参照)。
【0004】
しかし、このような場合、反応途中に四口フラスコ内に原料等を追加的に投入したり、四口フラスコから試料を採取したりするためには、四口フラスコから冷却管、温度計、ガス吹き込みノズルの何れかを取り外さなければならず、煩雑な作業が必要となってしまう。
【0005】
特に、冷却管を取り外す場合は作業が非常に煩雑になってしまう。また冷却管は四口フラスコ内に吹き込まれた窒素ガスの唯一の出口であるため、これが取り外されると四口フラスコから内容物が吹き出したり、材料投入時に内容物の逆流が生じたりするおそれがあり、危険である。
【0006】
また、温度計を取り外す場合は、一時的に温度監視や温度制御ができなくなってしまうという問題がある。
【0007】
また、ガス吹き込みノズルを取り外す場合は、一時的に反応容器内の窒素雰囲気が保たれなくなり、これにより意図しない副反応が生じたり、発火が生じたりする恐れもある。
【0008】
そこで、必要に応じて更に口数の多い多口フラスコを使用することも考えられるが、小規模の実験に使用されるフラスコのサイズは小さいため、フラスコに多数の口を形成することには限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−236443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、容器内の温度測定とこの容器内へのガス吹き込みのために好適に用いられ、特にフラスコへの取り付けあたり一つの口のみを容器内の温度測定と容器内へのガス吹き込みとに利用することができるようになる温度測定器兼用ガス吹き込み器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る温度測定器兼用ガス吹き込み器は、ガスが流通する流路を内部に有するガス流通部材と、温度センサとを備え、前記ガス流通部材の先端にガス噴き出し口が開口し、前記温度センサの感温部が前記ガス噴き出し口の近傍に配置されている。
【0012】
本発明に係る温度測定器兼用ガス吹き込み器は、前記ガス流通部材と前記感温部との間に介在する断熱性部材を更に備えることが好ましい。
【0013】
本発明に係る温度測定器兼用ガス吹き込み器においては、前記ガス流通部材がパイプ状の部材であり、前記ガス流通部材の先端部分が先細状に形成されていることが好ましい。
【0014】
本発明に係る温度測定器兼用ガス吹き込み器においては、前記温度センサが更新可能な温接点を有する熱電対であり、且つ前記温度センサの前記ガス流通部材に対する前記温接点の位置が調節可能であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、容器内の温度測定とこの容器内へのガス吹き込みのために好適に用いられ、特に多口フラスコへの適用にあたり一つの口のみを容器内の温度測定と容器内へのガス吹き込みとに利用することが可能となる温度測定器兼用ガス吹き込み器が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】温度測定器兼用ガス吹き込み器が作製される工程の一例を示すものであり、(a)はガス流通部材を示す側面図、(b)は前記ガス流通部材に断熱性部材を取り付けた様子を示す側面図、(c)は前記ガス流通部材に前記断熱性部材、保持部材及び温度センサを取り付けた様子を示す側面図、(d)は前記ガス流通部材に前記断熱性部材、前記保持部材、前記温度センサ、及び固定部材を取り付けることで構成される温度測定器兼用ガス吹き込み器を示す側面図、(e)は(d)のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態では、温度測定器兼用ガス吹き込み器1は、ガス流通部材2、温度センサ5、断熱性部材3、固定部材7、及び保持部材4を備える。図1は、温度測定器兼用ガス吹き込み器1が作製される工程の一例を示す。図1(a)はガス流通部材2を、図1(b)はガス流通部材2に断熱性部材3を取り付けた状態を、図1(c)は更に保持部材7及び温度センサ5を取り付けた状態を、図1(d)は更に固定部材7を取り付けることで温度測定器兼用ガス吹き込み器1が完成した様子を、図1(e)は温度測定器兼用ガス吹き込み器1のA−A断面図(図1(d)参照)を示す。
【0018】
ガス流通部材2は、ガスが流通する流路22を内部に有し、且つ先端にガス噴き出し口21が開口している部材である。ガス流通部材2は図1(a)に示すように金属製の円筒状のパイプであることが好ましい。この場合、ガス流通部材2は十分に高い剛性を有し、温度測定器兼用ガス吹き込み器1が取り付けられている容器内に固体や高粘度の液体が保持され、これらが攪拌されるような場合であっても、ガス流通部材2の撓みや破損などが抑制される。ガス流通部材2は、例えばSUS316製の、長さ200mm、外径6mm、内径約6mm弱のパイプから構成される。金属製のガス流通部材2の材質はステンレスに限られず、アルミ、チタン等であってもよい。ガス流通部材2の両方の端部は開口しており、一方の端部の開口がガス噴き出し口21である。ガス流通部材2の、ガス噴き出し口21が形成されている側の先端部分は、圧縮加工が施されるなどして平形且つ先細状に形成されている。このため、ガス流通部材2の先端部分は外周寸法が小さくなることなく先細のノズル状に形成される。
【0019】
ガス流通部材2の材質は金属以外の、ガラス、フッ素樹脂等の適宜の材質であってもよい。
【0020】
本実施形態において、断熱性部材3は、弾性と断熱性とを有する材質から形成されている筒状の部材である。断熱性部材3は、図1(b)に示すようにガス流通部材2の、ガス噴き出し口21が形成されている側の先端部分に、この先端部分を覆うように取り付けられている。断熱性部材3は自身の弾性力によってガス流通部材2を締め付けることにより、ガス流通部材2に固定されている。断熱性部材3は、例えば外径8mm、内径6mm、長さ20mmのシリコーンゴム製のチューブから構成される。断熱性部材3の材質はシリコーンゴムに限らず、ブチルゴム、フッ素樹脂等の適宜の材質であってもよい。
【0021】
温度センサ5は、その感温部6がガス流通部材2におけるガス噴き出し口21の近傍に配置される。感温部6とは温度センサ5における測定対象の温度に感応する部位をいう。温度センサ5としては、熱電対51、測温抵抗体、その他適宜のセンサが使用され得る。本実施形態では、温度センサ5は熱電対51であり、熱電対51における感温部6は温接点61である。「ガス噴き出し口21の近傍」とは、ガス噴き出し口21がフラスコなどの容器内に配置される場合に同時に感温部6も容器内に配置されるような位置であればよく、その限りにおいて感温部6とガス噴き出し口21との間の距離は特に制限されない。但し、容器内の液中にガス噴き出し口21と感温部6とが同時に配置されるためには、感温部6とガス噴き出し口21との間の距離が5〜20mmの範囲であることが好ましい。
【0022】
更に本実施形態では、温度センサ5が更新可能な温接点61を有する熱電対51であり、且つ温度センサ5のガス流通部材2に対する温接点61の位置が調節可能となっている。更新可能な温接点61を有する熱電対51とは、例えば熱電対51から温接点61を切除してこの熱電対51に新たな温接点61を形成することが可能な構造を有する熱電対51である。
【0023】
更新可能な温接点61を有する熱電対51は、例えば二種の金属線と、これらの金属線を覆うフッ素樹脂製被覆などの被覆とを備えている。熱電対51の具体例としてKタイプの熱電対(K熱電対)が挙げられる。このような熱電対51には、二種の金属線の先端部分を撚りあわせたり溶接したりすることで接合することにより、温接点61が形成される。この温接点61を熱電対51から切除し、更に必要に応じて熱電対51の被覆の一部をはぎ取ってから、二種の金属線の先端部分を再度接合すると、熱電対51に新たな温接点61が形成される。
【0024】
更に、本実施形態では、温度センサ5(熱電対51)のガス流通部材2に対する感温部6(温接点61)の位置が調節可能となっている。本実施形態では、熱電対51が固定部材7及び保持部材4によってガス流通部材2に、温接点61の位置が調節可能となるように取り付けられている。
【0025】
保持部材4は、弾性を有し、且つガス流通部材2及び熱電対51が同時に挿入される穴を有する部材である。保持部材4としては、フラスコ用の穴あきゴム栓が使用され得る。この場合、温度測定器兼用ガス吹き込み器1をフラスコに取り付けるために、保持部材4を利用することができる。保持部材4は、この保持部材4の穴にガス流通部材2が挿入されることで、ガス流通部材2に取着される。保持部材4はガス噴き出し口21から十分に離れた位置に配置され、本実施形態ではガス流通部材2のガス噴き出し口21側とは反対側の端部付近に配置される。保持部材4は、自身の弾性力によってガス流通部材2を締め付けることにより、ガス流通部材2に固定されている。保持部材4の材質としては、フッ素樹脂、シリコンゴム、ブチルゴム、発泡ウレタン、コルクなどの適宜の材質が挙げられる。
【0026】
固定部材7は弾性のあるチューブ状の部材であり、例えばシリ−コンゴムなどから形成される。固定部材7は断熱部材の外周上に重ねて取り付けられる。固定部材7は、自身の弾性力によって断熱部材を締め付けることにより、断熱部材の外周上に固定される。固定部材7は例えば外径10mm、内径8mm、長さ10mmのシリコーンゴム製のチューブから構成される。固定部材7の材質はシリコーンゴムに限らず、ブチルゴム、フッ素樹脂等の適宜の材質であってもよい。
【0027】
熱電対51はガス流通部材2の傍らに、熱電対51の長手方向に沿った温接点61側方向と、ガス流通部材2の長手方向に沿ったガス噴き出し口21側方向とが一致するにように配置される。
【0028】
熱電対51は、図1(c)に示されるように、ガス流通部材2と共に保持部材4の穴に挿入され、これにより保持部材4の弾性力によってガス流通部材2に対して固定されている。
【0029】
更に、図1(d)に示されるように熱電対51の温接点61側の端部が、断熱性部材3と固定部材7との間に挿入される。これより図1(e)にも示されるように、熱電対51が固定部材7の弾性力によってガス流通部材2に対して固定されている。ガス流通部材2の先端部分の外周寸法が小さいと固定部材7から熱電対51に働く弾性力が小さくなる場合があるが、上記のとおり、ガス流通部材2の、ガス噴き出し口21が形成されている側の先端部分は平形且つ先細状に形成され、ガス流通部材2の先端部分が先細状になっていても外周寸法は小さくなっていないため、熱電対51には十分な弾性力が働き、熱電対51が固定部材7から外れにくくなる。熱電対51の温接点61は外部に露出し、且つ断熱性部材3の傍らに配置される。これにより、温接点61がガス噴き出し口21の近傍に配置され、且つガス流通部材2と温接点61との間に断熱部材が介在している。このようにガス流通部材2と温接点61との間に断熱部材が介在していることで、熱電対51による温度測定結果への、ガス流通部材2を流通するガスの温度の影響が抑制され、このため熱電対51による温度測定精度が向上する。
【0030】
上記のようにして、熱電対51は保持部材4及び固定部材7によってガス流通部材2に、弾性力を利用して取り付けられている。このため熱電対51のガス流通部材2に対する固定位置を、熱電対51の長手方向に沿って変動させることが容易であり、従って、ガス流通部材2に対する温接点61の位置が調節可能となっている。熱電対51の温接点61が更新されると、熱電対51の長さは、古い温接点61が切除されることで短くなり、このため新しい温接点61の位置は、古い温接点61とは異なる位置になる。しかし、ガス流通部材2に対する温接点61の位置が調節可能であるため、新しい温接点61を所望の位置に配置することが可能となる。
【0031】
温度測定器兼用ガス吹き込み器1の使用方法の一例について説明する。
【0032】
例えば四口フラスコを用意し、この四口フラスコの中央の口に攪拌装置を取り付ける。更に、残りの三つの口のうちの、一つの口に冷却管を取り付け、別の一つの口に本実施形態による温度測定器兼用ガス吹き込み器1を取り付ける。残った一つの口には、たとえばゴム栓等で栓をする。
【0033】
温度測定器兼用ガス吹き込み器1を四口フラスコに取り付けるにあたっては、四口フラスコの口に温度測定器兼用ガス吹き込み器1のガス噴き出し口21及び温接点61を差し入れる。更にこの口に保持部材4を圧入することで温度測定器兼用ガス吹き込み器1を四口フラスコに固定する。ガス流通部材2の、ガス噴き出し口21とは反対側の端部の開口は四口フラスコの外側に露出する。このガス流通部材2のガス噴き出し口21とは反対側の端部の開口に、例えばガス供給用のチューブの一端を接続する。このガス供給用のチューブの他端はガスボンベやポンプなどのガス供給手段に接続する。熱電対51にはこの熱電対51で生じる熱起電力を読み取れる測定器を接続する。
【0034】
このようにして温度測定器兼用ガス吹き込み器1を四口フラスコに取り付けると、四口フラスコの一つの口のみを利用して、四口フラスコ内の温度測定と四口フラスコ内へのガス吹き込みとが可能となる。このため、例えば上記のように四口フラスコに攪拌装置、冷却管、及び温度測定器兼用ガス吹き込み器1を取り付けても、一つの口が余り、この口からゴム栓を外すことで、四口フラスコへの原料等の供給や、四口フラスコの内容物の取り出しなどを容易におこなうことができるようになる。
【0035】
温度測定器兼用ガス吹き込み器1が使用されることで熱電対51の温接点61が汚損するなどして、正確な温度測定が困難になっても、上記のとおり熱電対51の温接点61を更新し、更に新しい温接点61の位置を所望の位置に調節することができる。このため、長期に亘る温度測定器兼用ガス吹き込み器1の使用が可能となる。
【0036】
尚、温度測定器兼用ガス吹き込み器1の使用方法は上記の例に限られない。すなわち、例えば温度測定器兼用ガス吹き込み器1は四口フラスコ以外の多口フラスコ、例えば二口フラスコや三口フラスコなどに取り付けられてもよく、また一口フラスコに取り付けられてもよい。いずれの場合でも、フラスコの一つの口のみを利用して、フラスコ内へのガスの吹き込みとフラスコ内の温度測定とをおこなうことが可能となる。また温度測定器兼用ガス吹き込み器1は,フラスコ以外にも、この温度測定器兼用ガス吹き込み器1が取り付け可能な容器に取り付けられてもよい。
【0037】
温度測定器兼用ガス吹き込み器1を使用する化学合成実験として、窒素ガスの吹き込みを伴う不飽和ポリエステル樹脂の合成実験、空気もしくは酸素の吹き込みを伴うビニルエステル樹脂の合成実験などのように、容器内へ気体を吹き込みながら容器内の溶液を反応させる実験が挙げられる。これらの実験では、試料のサンプリングによる酸価測定により反応終点が決定されるため、本実施形態による温度測定器兼用ガス吹き込み器1を使用することの利点が大きい。勿論、温度測定器兼用ガス吹き込み器1を使用する場合の対象となる化学合成実験等は前記に限られない。
【符号の説明】
【0038】
1 温度測定器兼用ガス吹き込み器
2 ガス流通部材
21 ガス噴き出し口
22 流路
3 断熱性部材
5 温度センサ
51 熱電対
6 感温部
61 温接点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスが流通する流路を内部に有するガス流通部材と、温度センサとを備え、前記ガス流通部材の先端にガス噴き出し口が開口し、前記温度センサの感温部が前記ガス噴き出し口の近傍に配置されている温度測定器兼用ガス吹き込み器。
【請求項2】
前記ガス流通部材と前記感温部との間に介在する断熱性部材を更に備える請求項1に記載の温度測定器兼用ガス吹き込み器。
【請求項3】
前記ガス流通部材がパイプ状の部材であり、前記ガス流通部材の先端部分が先細状に形成されている請求項1又は2に記載の温度測定器兼用ガス吹き込み器。
【請求項4】
前記温度センサが更新可能な温接点を有する熱電対であり、且つ前記温熱電対の前記ガス流通部材に対する前記温接点の位置が調節可能である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の温度測定器兼用ガス吹き込み器

【図1】
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【公開番号】特開2012−211772(P2012−211772A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76364(P2011−76364)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】