説明

温度調整システム

【課題】ワイヤ放電加工装置の導入コストおよびランニングコストの低減を図り得る温度調整システムを提供する。
【解決手段】熱媒液を所定の温度に温度調整してワイヤ放電加工装置Mに供給する熱媒液温度調整装置2と、ワイヤ放電加工装置Mおよび熱媒液温度調整装置2を収容可能に構成された収容ブース3とを備えると共に、熱媒液温度調整装置2に接続されて収容ブース3の外部の空気を熱媒液温度調整装置2に供給するための空気供給用配管5と、熱媒液温度調整装置2に接続されて熱媒液温度調整装置2から排出される空気を収容ブース3の外部に排出するための空気排出用配管6とが収容ブース3に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ放電加工装置に供給するための熱媒液を温度調整する熱媒液温度調整装置を備えた温度調整システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工装置では、機構部品や加工対象体の冷却、および加工屑の除去(洗浄)のために、所定温度に温度調整した熱媒液に浸した状態、または、所定温度に温度調整した熱媒液を吹きけた状態において、加工対象体を加工する構成が採用されている。このため、ワイヤ放電加工装置には、熱媒液を温度調整するための熱媒液温度調整装置が必要不可欠となっている。例えば、特開2007−319943号公報に開示されているワイヤ放電加工機は、加工液(熱媒液)を温度調整する加工液冷却装置を備えて構成されている。このワイヤ放電加工機では、加工液を貯液可能に構成されると共に放電加工部が配設された加工槽を備え、この加工槽内の加工液を加工液冷却装置によって冷却する(温度調整する)構成が採用されている。
【0003】
具体的には、機構部品や加工対象物を冷却することで温度上昇すると共に加工屑が混ざって汚れた加工液は、まず、加工槽から汚水槽に流出する。また、加工槽内の加工液は、フィルタ用ポンプによって汲み上げられて、フィルタを通過させられた後に清水槽に貯液される。さらに、清水槽に貯液された加工液は、循環用ポンプによって汲み上げられて、その一部が加工液供給路を介して加工槽に戻され、他の一部が加工液冷却装置に液送されて冷却された後に、加工液帰還路を介して清水槽に戻される。また、従来のワイヤ放電加工機では、清水槽に貯留された加工液の一部を噴流用ポンプによって汲み上げてワイヤガイドに供給することにより、ワイヤ電極と加工対象物との間隙に向けて加工液を噴流させて、ワイヤ電極および加工対象物を冷却しつつ、加工屑を除去する構成が採用されている。なお、既存のワイヤ放電加工機のなかには、ワイヤ電極および加工対象物を加工液に浸した状態において加工処理を行うタイプの加工機や、ワイヤ電極および加工対象物を加工液に浸すと共に両者の間隙に向けて加工液を吹き付けた状態において加工処理を行うタイプの加工機も存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−319943号公報(第5−8頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来のワイヤ放電加工機には、以下の問題点が存在する。すなわち、従来のワイヤ放電加工機では、加工槽から汚水槽に流出した加工液をフィルタ用ポンプによって汲み上げて清水槽に貯液し、清水槽内の加工液を循環用ポンプによって汲み上げて加工槽や加工液冷却装置に液送すると共に噴流用ポンプによって汲み上げてワイヤガイドに供給する構成が採用されている。また、この種の装置に配設された熱媒液温度調整装置(従来のワイヤ放電加工機における加工液冷却装置)では、一般的に、冷凍サイクルを備えて熱媒液の温度を調整する構成が採用されている。この場合、この種のワイヤ放電加工装置では、周囲の空気の温度変化に伴って各部に歪みが生じて加工精度が低下するのを回避するために、一例として20℃±1℃の範囲内での使用が推奨されている。
【0006】
一方で、この種のワイヤ放電加工装置では、ワイヤ放電加工に際して変圧器や加工処理部位から大量の熱が放出されるだけでなく、熱媒液(加工液)を汲み上げるためのポンプ(従来のワイヤ放電加工機におけるフィルタ用ポンプ、循環用ポンプおよび噴流用ポンプ等)も発熱して大量の熱を放出する。また、この種のワイヤ放電加工装置装置に接続された熱媒液温度調整装置では、熱媒液の温度調整に際して、冷凍サイクルにおける圧縮機や凝縮器から熱が放出される。このため、この種のワイヤ放電加工装置では、設置場所の空気の温度を調整する空気温度調整装置を配設して、加工処理の開始から終了までワイヤ放電加工装置の周囲の空気の温度を上記の好適な温度範囲内に維持する構成が採用されている。
【0007】
しかしながら、この種のワイヤ放電加工装置では、上記したように、ワイヤ放電加工によって生じる熱だけでなく、熱媒液を汲み上げるためのポンプや、熱媒液の温度を調整するための熱媒液温度調整装置からの排熱によってワイヤ放電加工装置の周囲の空気(ワイヤ放電加工装置の設置場所の空気)が温度上昇させられる。また、ワイヤ放電加工機の設置場所には、他の各種工作機械が設置されていることがあり、ワイヤ放電加工機からの排熱だけでなく、これらの工作機械からの排熱によってワイヤ放電加工機の周囲の空気が温度上昇させられる。したがって、空気温度調整装置がワイヤ放電加工機の周囲の空気を温度調整する(冷却する)のに要する仕事量が非常に大きくなっている。このため、大形の空気温度調整装置を設置する必要があることから、ワイヤ放電加工装置の導入コストが高騰すると共に、空気温度調整装置の消費電力が非常に多いことから、そのランニングコストも高騰しているという問題点がある。
【0008】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、ワイヤ放電加工装置の導入コストおよびランニングコストの低減を図り得る温度調整システムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく請求項1記載の温度調整システムは、熱媒液を所定の温度に温度調整してワイヤ放電加工装置に供給する熱媒液温度調整装置と、前記ワイヤ放電加工装置および前記熱媒液温度調整装置を収容可能に構成された箱体とを備えると共に、前記熱媒液温度調整装置に接続されて当該箱体の外部の空気を当該熱媒液温度調整装置に供給するための空気供給用配管と、前記熱媒液温度調整装置に接続されて当該熱媒液温度調整装置から排出される空気を当該箱体の外部に排出するための空気排出用配管とが前記箱体に接続されている。
【0010】
また、請求項2記載の温度調整システムは、請求項1記載の温度調整システムにおいて、前記空気排出用配管が、前記箱体の天板に接続されている。
【0011】
さらに、請求項3記載の温度調整システムは、請求項1または2記載の温度調整システムにおいて、前記箱体内に収容されて当該箱体の内部の空気を所定の温度に温度調整する空気温度調整装置を備えている。
【0012】
また、請求項4記載の温度調整システムは、請求項1または2記載の温度調整システムにおいて、前記箱体が、当該箱体の外部に設置された空気温度調整装置によって所定の温度に温度調整された空気を当該箱体の内部に導入するための空気導入用配管を接続可能に構成されると共に、当該箱体の内部の空気を当該箱体の外部に排出するための排気口が形成されている。
【0013】
さらに、請求項5記載の温度調整システムは、請求項4記載の温度調整システムにおいて、前記箱体が、前記空気導入用配管を天板に接続可能に構成されると共に、前記排気口が側板に形成されている。
【0014】
また、請求項6記載の温度調整システムは、請求項4または5記載の温度調整システムにおいて、前記空気温度調整装置を備えると共に当該空気温度調整装置が前記空気導入用配管によって前記箱体に接続されている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の温度調整システムによれば、熱媒液を所定の温度に温度調整してワイヤ放電加工装置に供給する熱媒液温度調整装置と、ワイヤ放電加工装置および熱媒液温度調整装置を収容可能に構成された箱体とを備えると共に、熱媒液温度調整装置に接続されて箱体の外部の空気を熱媒液温度調整装置に供給するための空気供給用配管と、熱媒液温度調整装置に接続されて熱媒液温度調整装置から排出される空気を箱体の外部に排出するための空気排出用配管とを箱体に接続したことにより、ワイヤ放電加工装置の周囲の空気が熱媒液温度調整装置からの排熱によって温度上昇させられることがないため、熱媒液温度調整装置からの排熱の分だけ、ワイヤ放電加工装置の周囲の空気の温度を所定の温度に調整するのに要する空気温度調整装置の仕事量を少なくすることができる。また、ワイヤ放電加工装置が箱体内に収容されているため、ワイヤ放電加工装置の設置場所に他の各種機械が設置されていたとしても、工作機械からの排熱が箱体によって熱的に遮断され、これらの工作機械からの排熱によってワイヤ放電加工装置の周囲の空気が温度上昇させられることがない結果、これらの工作機械からの排熱の分だけ、ワイヤ放電加工装置の周囲の空気の温度を所定の温度に調整するのに要する空気温度調整装置の仕事量を少なくすることができる。したがって、この温度調整システムによれば、大形の空気温度調整装置を導入することなく、小型の空気温度調整装置であってもワイヤ放電加工装置の周囲の空気の温度を確実に所定の温度に維持することができるため、ワイヤ放電加工装置の導入コストを十分に低減することができるだけでなく、空気温度調整装置の消費電力を少なくすることができる(つまり省電力化することができる)結果、そのランニングコストも十分に低減することができる。また、熱媒液温度調整装置から排出される空気が空気排出用配管を介して熱媒液温度調整装置の内部から箱体の外部に直接排出されると共に、箱体の外部の空気が空気供給用配管を介して熱媒液温度調整装置の内部に直接供給されるため、これらの空気の流れによって箱体の内部の空気(ワイヤ放電加工装置の周囲の空気)の流れに乱れが生じる事態を回避することができる結果、ワイヤ放電加工装置の周囲の空気の温度を確実に所定の温度に調整することができる。
【0016】
また、請求項2記載の温度調整システムによれば、空気排出用配管を箱体の天板に接続したことにより、熱媒液温度調整装置からの排熱(冷凍サイクルにおける圧縮機や凝縮器からの排熱)によって温度上昇させられた空気を箱体の外部に向かってスムーズに移動(上昇)させることができるため、熱媒液温度調整装置からの排熱によって箱体の内部の空気が温度上昇させられる事態を確実に回避することができる結果、ワイヤ放電加工装置の周囲の空気の温度を所定の温度に調整するのに要する空気温度調整装置の仕事量を十分に少なくすることができる。
【0017】
また、請求項3記載の温度調整システムによれば、箱体内に収容されて箱体の内部の空気を所定の温度に温度調整する空気温度調整装置を備えたことにより、熱媒液温度調整装置からの排熱によって温度上昇した空気を空気排出用配管を介して箱体の外部に排出することができると共に、ワイヤ放電加工装置の設置場所に設置された工作機械からの排熱によってワイヤ放電加工装置の周囲の空気が温度上昇させられる事態を回避することができるため、ワイヤ放電加工装置の周囲の空気の温度を所定の温度に調整するのに要する空気温度調整装置の仕事量を十分に少なくすることができる。
【0018】
さらに、請求項4記載の温度調整システムでは、箱体の外部に設置された空気温度調整装置によって所定の温度に温度調整された空気を箱体の内部に導入するための空気導入用配管を接続可能に箱体が構成されると共に、箱体の内部の空気を箱体の外部に排出するための排気口が箱体に形成されている。また、請求項6記載の温度調整システムでは、空気温度調整装置を備えて、空気導入用配管によって空気温度調整装置が箱体に接続されている。したがって、請求項4,6記載の温度調整システムによれば、ワイヤ放電加工装置の周囲の空気が空気温度調整装置からの排熱によって温度上昇させられることがないため、空気温度調整装置からの排熱の分だけ、ワイヤ放電加工装置の周囲の空気の温度を所定の温度に調整するのに要する空気温度調整装置の仕事量を少なくすることができる。
【0019】
また、請求項5記載の温度調整システムによれば、空気導入用配管を天板に接続可能に箱体を構成すると共に、排気口を箱体の側板に形成したことにより、空気温度調整装置によって送風された低温の空気を箱体内において上方から下方に向けてスムーズに移動させることができるため、ワイヤ放電加工装置の周囲の空気の温度を所定の温度に調整するのに要する空気温度調整装置の仕事量を十分に少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】温度調整システム1の構成を示す構成図である。
【図2】ワイヤ放電加工装置M、および温度調整システム1における熱媒液温度調整装置2の構成を示す構成図である。
【図3】温度調整システム1Aの構成を示す構成図である。
【図4】温度調整システム1Bの構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、温度調整システムの実施の形態について説明する。
【0022】
図1に示す温度調整システム1は、所定の温度に温度調整した熱媒液をワイヤ放電加工装置Mに供給すると共に、ワイヤ放電加工装置Mの周囲の空気を温度調整するためのシステムであって、熱媒液温度調整装置2、収容ブース3および空気温度調整装置4を備えている。この場合、図2に示すように、ワイヤ放電加工装置Mは、加工対象体をワイヤ放電加工するための各種機構部品や、熱媒体の一例である純水を貯留可能な貯留槽を備えた加工処理部Maと、加工処理部Ma(貯留槽)から熱媒液温度調整装置2に純水を圧送するポンプP1と、貯留槽内の純水を汲み上げて冷却対象部位に供給するためのポンプP2とを備えて構成されている。なお、ワイヤ放電加工装置Mの構成については公知のため、詳細な説明および図示を省略する。
【0023】
一方、熱媒液温度調整装置2は、熱媒液の一例である純水の温度を所定の温度に温度調整してワイヤ放電加工装置Mに供給する装置であって、図2に示すように、熱交換部11、冷凍サイクル12、ヒータ13、および冷凍サイクル12やヒータ13の動作を制御する制御部(図示せず)が筐体内に配設されて構成されている。
【0024】
熱交換部11は、ワイヤ放電加工装置MのポンプP1によって圧送された純水を貯留可能に構成され、後述するようにして、冷凍サイクル12による冷却、またはヒータ13による加熱によって純水の温度を所定の温度に調整する。具体的には、この熱媒液温度調整装置2では、熱媒液温度調整装置2の周囲の空気の温度(収容ブース3内の空気の温度であって、ワイヤ放電加工装置Mの周囲の空気の温度)を検出するための温度センサ2aを備え、上記の制御部が、一例として、温度センサ2aによって検出した温度(熱媒液温度調整装置2の周囲の空気の温度)に対して±1℃の範囲内の温度となるように純水の温度を調整する構成が採用されている。なお、熱媒液温度調整装置における熱媒液(純水等)の温度調整方法は、上記の例示に限定されるものではなく、例えば、空気温度調整装置4に対する設定温度に対応して調整する方法を採用することもできる。具体的には、一例として、空気温度調整装置4に対する設定温度に対応して自動的に任意の温度に調整する方法や、空気温度調整装置4に対する設定温度に対応して規定した任意の温度、または、空気温度調整装置4に対する設定温度とは無関係に任意に規定した温度を指定して(手入力によって温度設定して)温度調整させる方法を採用することができる。
【0025】
冷凍サイクル12は、蒸発器21、圧縮機22、凝縮器23および膨張弁24を備えて構成されている。なお、冷凍サイクル12の動作原理については公知のため、その詳細な説明を省略する。この場合、この冷凍サイクル12では、蒸発器21が熱交換部11内に配設されて熱交換部11内の純水を冷却する構成が採用されている。また、凝縮器23には、冷却用のファン23aが取り付けられている。このファン23aは、上記した制御部の制御に従って熱媒液温度調整装置2の筐体内の空気を凝縮器23に向けて送風する。ヒータ13は、上記した制御部の制御に従って熱交換部11内の純水を加熱する。
【0026】
この場合、熱媒液温度調整装置2をワイヤ放電加工装置Mから遠く離して設置したときには、ワイヤ放電加工装置Mおよび熱媒液温度調整装置2を相互に連結している配管が長くなることで圧損が生じ、これに起因して、ワイヤ放電加工装置Mから熱媒液温度調整装置2に純水を圧送するポンプP1の仕事量が大きくなる事態を招く。また、熱媒液温度調整装置2によって所定の温度に温度調整した純水が熱媒液温度調整装置2からワイヤ放電加工装置Mに戻る間に周囲の空気によって温度上昇または温度低下させられるおそれもある。したがって、この種のワイヤ放電加工装置Mでは、純水の温度を調整するための熱媒液温度調整装置2を加工処理部Maの極く近傍に設置する必要がある。このため、この温度調整システム1では、熱媒液温度調整装置2だけを収容ブース3の外部に設置することができないため、ワイヤ放電加工装置Mと共に熱媒液温度調整装置2を収容ブース3内に収容する構成が採用されている。
【0027】
また、収容ブース3は、図1に示すように、ワイヤ放電加工装置Mおよび熱媒液温度調整装置2を収容可能な底面開放の箱状に形成されている。この場合、この温度調整システム1では、一例として、アルミニウム等の金属材料で形成された枠部材にポリカーボネート等の樹脂材料で形成した光透過性を有する平板を嵌め込むことによって収容ブース3の側板や天板がパーティション状に形成されている。また、この温度調整システム1では、ワイヤ放電加工装置Mや熱媒液温度調整装置2の設置面Xである平坦な床面の上に収容ブース3を設置することで、収容ブース3および設置面Xが相俟って「箱体」を構成する。なお、収容ブース3自体に床板を設けて、収容ブース3単体で「箱体」を構成することもできる。
【0028】
また、収容ブース3の側板(図1における右側のパネル)には、熱媒液温度調整装置2の筐体に形成された吸気口に接続されて収容ブース3の外部の空気を熱媒液温度調整装置2の筐体内に供給するための空気供給用配管5が接続されると共に、収容ブース3内の空気を収容ブース3の外部に排出するための排気口8が形成されている。この場合、排気口8は、収容ブース3の側板における下方寄りに開口されている。なお、上記の排気口8に代えて、収容ブース3の側板と設置面Xとの間に隙間を設け、この隙間から収容ブース3内の空気を収容ブース3の外部に排出する構成を採用することもできる。さらに、収容ブース3の天板には、熱媒液温度調整装置2の筐体に形成された排気口に接続されて熱媒液温度調整装置2から排出される空気を収容ブース3の外部に排出するための空気排出用配管6と、空気温度調整装置4に接続されて空気温度調整装置4によって所定の温度に温度調整された空気を収容ブース3内に導入するための空気導入用配管7とが接続されている。
【0029】
この場合、この温度調整システム1では、一例として、熱媒液温度調整装置2内の冷凍サイクル12における凝縮器23に取り付けられた上記のファン23aによって熱媒液温度調整装置2内の空気を凝縮器23に向けて送風することにより、凝縮器23を冷却して温度上昇した空気が空気排出用配管6に向かって移動して空気排出用配管6を介して収容ブース3の外部に排出されると共に、これに伴って、収容ブース3の外部の空気が空気供給用配管5を介して熱媒液温度調整装置2内に供給されるように構成されている。なお、ファン23aによって上記の空気の流れを生じさせる構成に代えて、空気供給用配管5および空気排出用配管6の少なくとも一方に送風ファン(図示せず)を配設し、この送風ファンによって上記の空気の流れを生じさせる構成を採用することもできる。また、この送風ファンと、ファン23aとによって上記の空気の流れを生じさせる構成を採用することもできる。
【0030】
空気温度調整装置4は、収容ブース3の外部に設置されると共に、収容ブース3の外部の空気を吸引して所定の温度(一例として、収容ブース3内を20℃±1℃の範囲内の温度に維持し得る温度)に温度調整した後に、上記の空気導入用配管7を介して収容ブース3の内部に導入する。この場合、空気温度調整装置4は、空気を冷却するための冷凍サイクル、空気を加熱するためのヒータ、温度調整した空気を送風するためのファン、およびこれらの動作を制御する制御部(いずれも図示せず)と、収容ブース3内の空気の温度を検出するための温度センサ4aとを備え、収容ブース3内の空気の温度が、上記の温度範囲内となるように、送風する空気の温度や送風量を調整するように構成されている。この場合、収容ブース3内の空気の温度を検出するための温度センサは、熱媒液温度調整装置2用の温度センサ2aと、空気温度調整装置4用の温度センサ4aとを別個独立して設ける図1に示す構成だけでなく、図示はしないが、1つの温度センサ(温度センサ2a、または、温度センサ4a)を熱媒液温度調整装置2および空気温度調整装置4の双方に接続して共用する構成を採用することもできる。
【0031】
この温度調整システム1では、ワイヤ放電加工装置Mにおける加工処理部Ma内に加工対象体をセットした状態において処理開始を指示すると、加工処理部Maが、設定された加工手順に従って加工対象体に対するワイヤ放電加工処理を実行する。この際には、電極としてのワイヤを移動させるための機構部品や、ワイヤと加工対象体との間にアーク放電を生じさせるための電圧を生成する変圧器からワイヤ放電加工装置Mの周囲(収容ブース3の内部)に大量の熱が放出される。また、加工処理部Maによる上記のワイヤ放電加工処理時には、ポンプP2が貯液槽内の純水を加工処理部位や機構部品に供給する。これにより、アーク放電によって温度上昇したワイヤや加工対象体が冷却される一方で、貯液槽内の純水が温度上昇する。
【0032】
また、加工処理部Maによる上記のワイヤ放電加工処理時には、ポンプP1が貯液槽内の純水を熱媒液温度調整装置2に圧送する。これに応じて、熱媒液温度調整装置2では、制御部が、温度センサ2aによって検出された温度(熱媒液温度調整装置2の周囲の空気の温度)に対して±1℃の温度となるように、圧送された純水の温度を調整してワイヤ放電加工装置Mに戻す温度調整処理を実行する。この場合、この温度調整システム1では、空気温度調整装置4によって収容ブース3内(熱媒液温度調整装置2の周囲)の空気温度が20℃±1℃の温度範囲に維持される。したがって、熱媒液温度調整装置2の制御部は、例えば、収容ブース3内(熱媒液温度調整装置2の周囲)の空気の温度が20℃のときには、ワイヤ放電加工装置Mから圧送された純水が19℃以上21℃以下の温度範囲内となるように、冷凍サイクル12またはヒータ13を動作させる。
【0033】
この際に、例えば、ポンプP1によって熱交換部11に圧送される純水の温度が収容ブース3内(熱媒液温度調整装置2の周囲)の空気の温度よりも低いとき(例えば、ワイヤ放電加工処理の開始直後)には、ヒータ13が熱交換部11内の純水を加熱する。また、ポンプP1によって熱交換部11に圧送される純水の温度が熱媒液温度調整装置2の周囲の空気の温度よりも高いときには、冷凍サイクル12が熱交換部11内の純水を冷却する。この際には、冷凍サイクル12の圧縮機22が気化冷媒を圧縮する際に熱を放出すると共に、圧縮機22によって圧縮された気化冷媒を凝縮器23において凝縮させる際に凝縮器23から熱が放出される。
【0034】
この場合、この温度調整システム1では、空気供給用配管5を介して収容ブース3の外部の空気を熱媒液温度調整装置2内に供給すると共に、圧縮機22や凝縮器23から放出された熱によって温度上昇した空気を、空気排出用配管6を介して収容ブース3の外部に排出する構成が採用されている。したがって、圧縮機22や凝縮器23からの排熱によって収容ブース3内の空気(ワイヤ放電加工装置Mや熱媒液温度調整装置2の周囲の空気)が温度上昇する事態が回避されている。また、この温度調整システム1では、空気供給用配管5が収容ブース3の側板に接続されると共に、空気排出用配管6が収容ブース3の天板に接続されている。したがって、圧縮機22や凝縮器23の排熱によって温度上昇した空気が収容ブース3の外部に向かって空気排出用配管6内をスムーズに移動する(上昇する)と共に、収容ブース3の外部の空気が熱媒液温度調整装置2に向かって空気供給用配管5内をスムーズに移動する。
【0035】
一方、この温度調整システム1では、空気温度調整装置4が、収容ブース3の外部の空気を温度調整して空気導入用配管7を介して収容ブース3内に供給することで、収容ブース3内を20℃±1℃の温度範囲内に維持する構成が採用されている。具体的には、空気温度調整装置4の制御部が、温度センサ4aによって検出された収容ブース3内の空気の温度に応じて冷凍サイクルまたはヒータを動作させ、これらによって温度調整された空気をファンによって送風させることにより、収容ブース3内の空気の温度が、20℃±1℃の範囲内の温度となるように、送風する空気の温度や送風量を調整する。
【0036】
この場合、上記したように、ワイヤ放電加工装置Mによるワイヤ放電加工処理時には、従来のワイヤ放電加工機による加工処理時と同様にして、加工処理部MaやポンプP1,P2から放出される熱によってワイヤ放電加工装置Mの周囲の空気が温度上昇させられる。しかしながら、この温度調整システム1では、純水の冷却時における熱媒液温度調整装置2の排熱によって温度上昇させられた空気が空気排出用配管6を介して収容ブース3の外部に排出されるため、熱媒液温度調整装置2からの排熱によってワイヤ放電加工装置Mの周囲の空気が温度上昇させられる事態が回避されている。また、この温度調整システム1では、ワイヤ放電加工装置Mおよび熱媒液温度調整装置2を収容ブース3内に収容すると共に、空気温度調整装置4によって温度調整した空気を収容ブース3内に供給する構成が採用されている。したがって、ワイヤ放電加工装置Mを設置した部屋の中(収容ブース3の外部)に各種工作機械が設置されていたとしても、これらの工作機械からの排熱によってワイヤ放電加工装置Mの周囲の空気が温度上昇させられる事態が回避されている。
【0037】
したがって、この温度調整システム1では、収容ブース3内に導入する空気の温度を過剰に低下させたり、空気温度調整装置4によって温度調整した空気を収容ブース3内に大量に導入したりすることなく、小型の空気温度調整装置4であっても、収容ブース3の内部(ワイヤ放電加工装置Mの周囲)が20℃±1℃の温度範囲内に確実に維持される。また、収容ブース3内の空気の温度よりも低温の空気が空気導入用配管7を介して天板から収容ブース3内に導入されるため、この低温の空気が収容ブース3内を下方(排気口8の形成部位)に向かってスムーズに移動する。したがって、収容ブース3の内部全域(ワイヤ放電加工装置Mの周囲)が確実に20℃±1℃の温度範囲内に維持される。これにより、加工精度の低下を招くことなく、加工処理部Maによって加工対象体がワイヤ放電加工される。
【0038】
このように、この温度調整システム1によれば、熱媒液(この例では、純水)を所定の温度に温度調整してワイヤ放電加工装置Mに供給する熱媒液温度調整装置2と、ワイヤ放電加工装置Mおよび熱媒液温度調整装置2を収容可能に構成された収容ブース3とを備えると共に、熱媒液温度調整装置2に接続されて収容ブース3の外部の空気を熱媒液温度調整装置2に供給するための空気供給用配管5と、熱媒液温度調整装置2に接続されて熱媒液温度調整装置2から排出される空気を収容ブース3の外部に排出するための空気排出用配管6とを収容ブース3に接続したことにより、ワイヤ放電加工装置Mの周囲の空気が熱媒液温度調整装置2からの排熱によって温度上昇させられることがないため、熱媒液温度調整装置2からの排熱の分だけ、ワイヤ放電加工装置Mの周囲の空気の温度を所定の温度に調整するのに要する空気温度調整装置4の仕事量を少なくすることができる。また、ワイヤ放電加工装置Mが収容ブース3内に収容されているため、ワイヤ放電加工装置Mの設置場所に他の各種機械が設置されていたとしても、工作機械からの排熱が収容ブース3によって熱的に遮断され、これらの工作機械からの排熱によってワイヤ放電加工装置Mの周囲の空気が温度上昇させられることがない結果、これらの工作機械からの排熱の分だけ、ワイヤ放電加工装置Mの周囲の空気の温度を所定の温度に調整するのに要する空気温度調整装置4の仕事量を少なくすることができる。したがって、この温度調整システム1によれば、大形の空気温度調整装置を導入することなく、小型の空気温度調整装置4であってもワイヤ放電加工装置Mの周囲の空気の温度を確実に所定の温度に維持することができるため、ワイヤ放電加工装置Mの導入コストを十分に低減することができるだけでなく、空気温度調整装置4の消費電力を少なくすることができる(つまり省電力化することができる)結果、そのランニングコストも十分に低減することができる。また、熱媒液温度調整装置2から排出される空気が空気排出用配管6を介して熱媒液温度調整装置2の内部から収容ブース3の外部に直接排出されると共に、収容ブース3の外部の空気が空気供給用配管5を介して熱媒液温度調整装置2の内部に直接供給されるため、これらの空気の流れによって収容ブース3の内部の空気(ワイヤ放電加工装置Mの周囲の空気)の流れに乱れが生じる事態を回避することができる結果、ワイヤ放電加工装置Mの周囲の空気の温度を確実に所定の温度に調整することができる。
【0039】
また、この温度調整システム1によれば、空気排出用配管6を収容ブース3の天板に接続したことにより、熱媒液温度調整装置2からの排熱(圧縮機22や凝縮器23からの排熱)によって温度上昇させられた空気を収容ブース3の外部に向かってスムーズに移動(上昇)させることができるため、熱媒液温度調整装置2からの排熱によって収容ブース3の内部の空気が温度上昇させられる事態を確実に回避することができる結果、ワイヤ放電加工装置Mの周囲の空気の温度を所定の温度に調整するのに要する空気温度調整装置4の仕事量を十分に少なくすることができる。
【0040】
さらに、この温度調整システム1では、収容ブース3の外部に設置された空気温度調整装置4によって所定の温度に温度調整された空気を収容ブース3の内部に導入するための空気導入用配管7を接続可能に収容ブース3が構成されると共に、収容ブース3の内部の空気を収容ブース3の外部に排出するための排気口8が収容ブース3に形成されている。また、この温度調整システム1では、空気温度調整装置4を備えて、空気導入用配管7によって空気温度調整装置4が収容ブース3に接続されている。したがって、この温度調整システム1によれば、ワイヤ放電加工装置Mの周囲の空気が空気温度調整装置4からの排熱によって温度上昇させられることがないため、空気温度調整装置4からの排熱の分だけ、ワイヤ放電加工装置Mの周囲の空気の温度を所定の温度に調整するのに要する空気温度調整装置4の仕事量を少なくすることができる。
【0041】
また、この温度調整システム1によれば、空気導入用配管7を天板に接続可能に収容ブース3を構成すると共に、排気口8を収容ブース3の側板に形成したことにより、空気温度調整装置4によって送風された低温の空気を収容ブース3内において上方から下方に向けてスムーズに移動させることができるため、ワイヤ放電加工装置Mの周囲の空気の温度を所定の温度に調整するのに要する空気温度調整装置4の仕事量を十分に少なくすることができる。
【0042】
なお、温度調整システム1の構成は、上記の例示に限定されるものではない。具体的には、収容ブース3の外部の空気を吸引して温度調整した後に空気導入用配管7を介して収容ブース3の内部に向けて送風する空気温度調整装置4を備えた例について説明したが、図3に示す温度調整システム1Aのように、空気排出用配管9によって収容ブース3と空気温度調整装置4とを相互に接続し、この空気排出用配管9を介して収容ブース3の内部の空気を吸引して温度調整した後に空気導入用配管7を介して収容ブース3の内部に向けて送風する空気温度調整装置4(循環式の空気温度調整装置)を備えて構成することもできる。なお、この温度調整システム1A、および後に説明する温度調整システム1B(図4参照)において上記の温度調整システム1と同様の構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。この場合、この温度調整システム1Aでは、空気排出用配管9における収容ブース3側の一端部(吸入口)が排気口8を構成する。
【0043】
この温度調整システム1Aによれば、上記の温度調整システム1と同様にして、熱媒液温度調整装置2からの排熱によって温度上昇した空気を空気排出用配管6を介して収容ブース3の外部に排出することができると共に、ワイヤ放電加工装置Mの設置場所に設置された工作機械からの排熱によってワイヤ放電加工装置Mの周囲の空気が温度上昇させられる事態を回避することができる。したがって、この温度調整システム1Aによれば、上記の温度調整システム1と同様にして、ワイヤ放電加工装置Mの周囲の空気の温度を所定の温度に調整するのに要する空気温度調整装置4の仕事量を十分に少なくすることができると共に、収容ブース3の内部の空気(ワイヤ放電加工装置Mの周囲の空気)の流れに乱れが生じる事態を回避することができる結果、ワイヤ放電加工装置Mの周囲の空気の温度を確実に所定の温度に調整することができる。また、この温度調整システム1Aによれば、空気温度調整装置4が空気排出用配管9を介して収容ブース3の内部の空気を吸引して温度調整するため、空気温度調整装置4が収容ブース3の外部の空気を吸引して温度調整する構成の温度調整システム1と比較して、収容ブース3の外部の空気が温度上昇している状態(温度調整システム1Aの設置場所において数多くの工作機械が稼働している状態や夏期の室内など)においても、ワイヤ放電加工装置Mの周囲の空気の温度を所定の温度に調整するのに要する空気温度調整装置4の仕事量を十分に少なくすることができる。
【0044】
また、収容ブース3の外部に空気温度調整装置4を設置した温度調整システム1,1Aを例に挙げて説明したが、図4に示す温度調整システム1Bのように、収容ブース3内に設置した(収容した)空気温度調整装置4によって収容ブース3の内部の空気を所定の温度に温度調整する構成を採用することもできる。この温度調整システム1Bによれば、上記の温度調整システム1,1Aと同様にして、熱媒液温度調整装置2からの排熱によって温度上昇した空気を空気排出用配管6を介して収容ブース3の外部に排出することができると共に、ワイヤ放電加工装置Mの設置場所に設置された工作機械からの排熱によってワイヤ放電加工装置Mの周囲の空気が温度上昇させられる事態を回避することができるため、ワイヤ放電加工装置Mの周囲の空気の温度を所定の温度に調整するのに要する空気温度調整装置4の仕事量を十分に少なくすることができると共に、収容ブース3の内部の空気(ワイヤ放電加工装置Mの周囲の空気)の流れに乱れが生じる事態を回避することができる結果、ワイヤ放電加工装置Mの周囲の空気の温度を確実に所定の温度に調整することができる。
【0045】
加えて、上記の温度調整システム1,1A,1Bと同様に構成した温度調整システムを用いて、ボール盤、フライス盤およびマシニングセンタ等の各種工作機械に熱媒液温度調整装置から熱媒液(水や油)を供給しつつ、工作機械および熱媒液温度調整装置の周囲の空気(箱体としての収容ブース内の空気)を空気温度調整装置によって温度調整することができる。
【符号の説明】
【0046】
1,1A,1B 温度調整システム
2 熱媒液温度調整装置
3 収容ブース
4 空気温度調整装置
5 空気供給用配管
6 空気排出用配管
7 空気導入用配管
8 排気口
9 空気排出用配管
11 熱交換部
12 冷凍サイクル
13 ヒータ
M ワイヤ放電加工装置
Ma 加工処理部
P1,P2 ポンプ
X 設置面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒液を所定の温度に温度調整してワイヤ放電加工装置に供給する熱媒液温度調整装置と、前記ワイヤ放電加工装置および前記熱媒液温度調整装置を収容可能に構成された箱体とを備えると共に、前記熱媒液温度調整装置に接続されて当該箱体の外部の空気を当該熱媒液温度調整装置に供給するための空気供給用配管と、前記熱媒液温度調整装置に接続されて当該熱媒液温度調整装置から排出される空気を当該箱体の外部に排出するための空気排出用配管とが前記箱体に接続されている温度調整システム。
【請求項2】
前記空気排出用配管は、前記箱体の天板に接続されている請求項1記載の温度調整システム。
【請求項3】
前記箱体内に収容されて当該箱体の内部の空気を所定の温度に温度調整する空気温度調整装置を備えている請求項1または2記載の温度調整システム。
【請求項4】
前記箱体は、当該箱体の外部に設置された空気温度調整装置によって所定の温度に温度調整された空気を当該箱体の内部に導入するための空気導入用配管を接続可能に構成されると共に、当該箱体の内部の空気を当該箱体の外部に排出するための排気口が形成されている請求項1または2記載の温度調整システム。
【請求項5】
前記箱体は、前記空気導入用配管を天板に接続可能に構成されると共に、前記排気口が側板に形成されている請求項4記載の温度調整システム。
【請求項6】
前記空気温度調整装置を備えると共に当該空気温度調整装置が前記空気導入用配管によって前記箱体に接続されている請求項4または5記載の温度調整システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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