説明

温熱治療用感磁性発熱体及び治療用製剤

【課題】 温熱療法を実施するにあたり、媒体の発熱量はクリティカルな問題となり、腫瘍組織に対する加温不足による治療の失敗や正常組織の過加温による熱傷の原因となりうるため、媒体の発熱量は正確にコントロールする必要がある。磁性微粒子のヒステリシス発熱による発熱量は、微粒子の粒子径に影響されることが示されているが、サブミクロンの粒子は全体の粒子径分布を評価することが難しく、通常用いられる電子顕微鏡での観察や光散乱法を用いた粒子径の評価だけでは十分な発熱量のコントロールができなかった。
【解決手段】 酸化鉄磁性微粒子の粒子径及び比表面積を設定することにより負荷する高周波磁場に対する発熱量をコントロールでき、温熱療法を目的とした工業的に開発可能な酸化鉄磁性微粒子及びそれを用いた医療用製剤を提供することである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波磁界により加温される感磁性の酸化鉄磁性微粒子で、温熱治療等の生物学分野及び医療分野で利用可能な発熱体及びそれらを用いた医療用製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
癌の治療方法のひとつとして、温熱療法が古くから使用されており、近年、特に局所的に腫瘍組織のみを加温する方法がいくつか考案されている。特に酸化鉄微粒子を高周波磁場により加温する方法は、該磁場が従来の加温装置に比べ、該磁性微粒子を含まない状態で、表皮近傍の正常組織を加温し難いことから、より有効な温熱療法の手法の一つであるとして注目を集めている。(特許文献1及び2参照)
【0003】
このような磁性微粒子の中で特に酸化鉄を用いた温熱療法については特許文献3や4などに記載されている。
【0004】
ここで用いられる磁性微粒子は生体内へ注入可能な粒子として、サブミクロンサイズの粒子を用いて様々に加工された分散物やゲル、又は埋設できるようにチップ状に固めたものであることが記載されている。(特許文献1〜5参照)
【0005】
【特許文献1】特公平7−55910号公報
【特許文献2】特開平11−57031号公報
【特許文献3】特許第3102007号公報
【特許文献4】特許第2847789号公報
【特許文献5】特開2006−347949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながらこのようなサブミクロンの酸化鉄磁性粒子は粒子径及び磁気特性をコントロールしたものであっても,負荷する高周波磁場に対する反応性が異なり、発熱量が異なることが問題となっていた。
【0007】
温熱療法を実施するにあたり、媒体の発熱量はクリティカルな問題となり、腫瘍組織に対する加温不足による治療の失敗や正常組織の過加温による熱傷の原因となりうるため、媒体の発熱量は正確にコントロールする必要がある。
【0008】
磁性微粒子のヒステリシス発熱による発熱量は微粒子の粒子径に影響されることが示されており,磁気特性による直接的な発熱量制御は困難であった。
【0009】
また、サブミクロンの粒子では全体の粒子径分布を評価することが難しく、通常用いられる電子顕微鏡での観察や光散乱法を用いた粒子径の評価だけでは,磁性微粒子の高周波磁場に対する発熱量を制御する上で十分な指標とはならなかった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、酸化鉄磁性微粒子の粒子径及び比表面積を設定することにより負荷する高周波磁場に対する発熱量をコントロールできることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明は、(1)高周波時下発生装置により加温される酸化鉄磁性微粒子を主成分とする温熱治療用感磁性発熱体。(2)該酸化鉄磁性微粒子の平均粒径が5〜35nmであり、且つ、35〜150m/gの比表面積を有する(1)に記載の温熱治療用感磁性発熱体。(3)該酸化鉄磁性微粒子を生体適合性の助剤を用いて分散及び/又は懸濁化した(1)または(2)に記載の温熱治療用感磁性発熱体。(4)該酸化鉄磁性微粒子を生体適合性の助剤を用いてゲル状、顆粒状又は棒状に集結させた(1)又は(2)に記載の温熱治療用感磁性発熱体。(5)該感磁性発熱体が分散懸濁状態、凍結乾燥状態、または埋め込み型固形物で提供される(1)〜(4)のいずれかに記載の治療用製剤である。
【発明の効果】
【0012】
本発明を実施することにより、酸化鉄磁性微粒子の発熱量が負荷する高周波磁場によりコントロールすることが可能となり、温熱療法を目的とした工業的に開発可能な酸化鉄磁性微粒子及びそれを用いた医療用製剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0014】
本発明に用いられる高周波発熱体は、酸化鉄を主成分とする磁性微粒子であり、マグネシウム、カルシウム、マンガン、銅、亜鉛などの酸化物を含んだ化合物も含まれるが、好ましくはFe、γ−Feなどの酸化鉄及び/又はその混合物である。
【0015】
本発明に用いられる高周波磁場発生装置は30kHz〜1MHzの周波数を発生する高周波磁場装置であることが好ましく、更に好ましくは50kHz〜400kHzの高周波磁場発生装置である。
【0016】
本発明に用いられる感磁性発熱体は、1〜200Oe(0.08〜15.9kA/m)の保磁力を持つことが好ましく、更に好ましくは2〜50Oe(0.16〜3.98kA/m)の保磁力を持つことが好ましい。
【0017】
本発明に用いられる感磁性発熱体は、サブミクロンサイズの粒子径を持つ微粒子で、透過型電子顕微鏡で観察した一次粒子径が好ましくは5〜35nm、更に好ましくは10〜20nmである。また、磁性酸化鉄微粒子はBET法により比表面積を測定したときに35〜150m/g、更に好ましくは50〜120m/gである。BET法による比表面積が35〜150m/gの範囲外である場合には、高周波磁化による加温で十分な発熱量を得ることが困難である。
【0018】
本発明の感磁性発熱体を分散及び/又は懸濁させるために用いられる生体適合性の助剤は、リン脂質又はレシチン、コレステロールなどのリポソーム材料や、ポリソルベート、ポリエチレングリコール、糖脂肪酸エステルなどの界面活性剤などが用いられる。また、塩酸、リン酸、酢酸、クエン酸、塩化ナトリウムなどの無機塩によりpH調整が行なわれてもよい。
【0019】
本発明の感磁性発熱体をゲル状、顆粒状又は棒状に加工するために用いられる生体適合性の助剤としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸及び/又はその重合物、プルロニックF127、ゼラチン、寒天、アスパラギン酸塩などの高分子材料を用いることができる。
【0020】
本発明の感磁性発熱体を分散液又は溶解して用いる凍結乾燥剤として提供する場合には、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、マルトース、スクロース、ラクトースなどの腑形剤、グリセリンなどの等張化剤などを加えることができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0022】
実施例1
粒子径が10nmで且つ比表面積74m/gのFe微粒子20mgを蒸留水1mL中に加え、超音波振とう機により分散した。得られた分散液中のFe濃度は23.9mg/mLであった。
【0023】
実施例2
粒子径が11nmで且つ比表面積86m/gのFe微粒子20mgを蒸留水1mL中に加え、超音波振とう機により分散した。得られた分散液中のFe濃度は23.5mg/mLであった。
【0024】
実施例3
粒子径が10nmで且つ比表面積107m/gのFe微粒子20mgを蒸留水1mL中に加え、超音波振とう機により分散した。得られた分散液中のFe濃度は22.3mg/mLであった。
【0025】
実施例4
粒子径が10nmで且つ比表面積122m/gのFe微粒子20mgを蒸留水1mL中に加え、超音波振とう機により分散した。得られた分散液中のFe濃度は22.0mg/mLであった。
【0026】
実施例5
粒子径が10nmで且つ比表面積91m/gのFe微粒子20mgを蒸留水1mL中に加え、超音波振とう機により分散した。得られた分散液をトリメチルアンモニオアセチルジドデシルグルタメートクロライド(TMAG):ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC):ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)をそれぞれモル比で1:2:2となるように調製されたリポソーム小胞中に分散した。得られた分散液中のFe濃度は19.2mg/mLであった。
【0027】
実施例6
粒子径が10nmで且つ比表面積92m/gのFe微粒子20mgを蒸留水1mL中に加え、超音波振とう機により分散した。得られた分散液中をアルギン酸ナトリウムが1重量%となるように混合した。得られた分散液中のFe濃度は27.9mg/mLであった。
【0028】
実施例7
粒子径が10nmで且つ比表面積91m/gのFe微粒子20mgを蒸留水1mL中に加え、超音波振とう機により分散した。得られた分散液中をプルロニックF127が20重量%となるように混合した。得られた分散液中のFe濃度は19.3mg/mLであった。
【0029】
比較例1
粒子径が40nmで且つ比表面積30m/gのFe微粒子20mgを蒸留水1mL中に加え、超音波振とう機により分散した。得られた分散液中のFe濃度は51.9mg/mLであった。
【0030】
比較例2
粒子径が10nmで且つ比表面積190m/gのFe微粒子20mgを蒸留水1mL中に加え、超音波振とう機により分散した。得られた分散液中のFe濃度は17.5mg/mLであった。
【0031】
実験例1
高周波磁場発生装置の磁場照射面の上に実施例1〜4、比較例1、2、実施例5〜7を充填したプラスチックサンプル管を設置し、サンプル中央にオプティカル温度計のセンサを挿入し、360kHzの磁場を照射した。経時的にサンプルの温度を計測し、サンプル濃度辺りの昇温速度を算出した。その結果を表1及び表2に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
実験例2
高周波磁場発生装置の磁場照射面の上にサンプルを充填したプラスチックサンプル管を設置し、サンプル中央にオプティカル温度計のセンサを挿入し、110kHzの磁場を照射した。経時的にサンプルの温度を計測し、サンプル濃度辺りの昇温速度を算出した。その結果を表3に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
表1、表2の結果から、交流磁場周波数を360kHzとして照射した場合、本発明に係る感磁性発熱体は、0.30J/mg/min以上の発熱量が得られることが確認された。
また、表3の結果から、本発明に係る感磁性発熱体は、交流磁場周波数を110kHzとして照射した場合、0.20J/mg/min以上の発熱量が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明を実施することにより、酸化鉄磁性微粒子の発熱量が負荷する高周波磁場により制御することが可能となり、温熱療法を目的とした工業的に開発可能な酸化鉄磁性微粒子及びそれを用いた医療用製剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実験例1における実施例1〜4及び比較例サンプルの発熱特性
【図2】実験例2における実施例1〜4及び比較例サンプルの発熱特性

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波磁界発生装置により加温される磁性酸化鉄微粒子を主成分とすることを特徴とする温熱治療用感磁性発熱体。
【請求項2】
前記磁性酸化鉄微粒子の平均粒径が5〜35nmであり、且つ、35〜150m/gの比表面積を有する請求項1記載の温熱治療用感磁性発熱体。
【請求項3】
前記磁性酸化鉄微粒子を、生体適合性の助剤を用いて分散及び/又は懸濁化した請求項1又は2に記載の温熱治療用感磁性発熱体。
【請求項4】
前記磁性酸化鉄微粒子を生体適合性の助剤を用いてゲル状、顆粒状又は棒状に集結させた請求項1又は2に記載の温熱治療用感磁性発熱体。
【請求項5】
前記感磁性発熱体を、分散懸濁状態、凍結乾燥状態又は埋め込み型固形物で提供される請求項1〜4のいずれかに記載の治療用製剤。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−234923(P2009−234923A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79013(P2008−79013)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【出願人】(505077264)株式会社ナノセラピー研究所 (4)
【Fターム(参考)】