説明

測位方法、プログラム及び測位装置

【課題】受信信号の逆極性の成分同士が累積加算されることに起因する受信感度の低下を防止すること。
【解決手段】携帯型電話機1において、航法データによって極性反転されるPRNコードで拡散変調されたGPS衛星信号の受信信号のIQ成分それぞれが極性別に累積加算され、累積加算結果の2乗和が算出される。そして、2乗和の算出結果とPRNコードのレプリカコードとの相関演算が行われ、相関演算の結果に基づいて、所定の測位演算が行われて現在位置が測位される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測位方法、プログラム及び測位装置に関する。
【背景技術】
【0002】
測位用信号を利用した測位システムとして、GPS(Global Positioning System)が広く知られており、携帯型電話機やカーナビゲーション装置等に内蔵された測位装置に利用されている。GPSでは、自機の位置を示す3次元の座標値と、時計誤差との4つのパラメータの値を、複数のGPS衛星の位置や各GPS衛星から自機までの擬似距離等の情報に基づいて求める測位演算を行うことで、自機の現在位置を測位する。
【0003】
GPS衛星から送出されるGPS衛星信号は、PRNコードと呼ばれるGPS衛星毎に異なる拡散符号で変調されている。そして、このPRNコードは、航法データによる位相変調によって、20ミリ秒毎の間隔で極性が反転し得ることが知られている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平11−258326号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の測位装置では、微弱な受信信号の中からGPS衛星信号を捕捉(抽出)するために、受信信号を所定の累積加算時間の間、累積加算(積算)し、当該累積加算結果の信号に対してPRNコードのレプリカコードとの相関演算を行う手法が一般に用いられている。
【0005】
しかし、上述したように、PRNコードの極性が反転するタイミング(以下、「極性反転タイミング」と称す。)が20ミリ秒毎(以下、このタイミングを「極性反転可能タイミング」と称す。)に現われ得る。従って、極性反転可能タイミングを跨いで累積加算(積算)する場合には、その極性反転可能タイミングで極性反転がなされ、そのタイミングの前後で極性の異なる信号を累積加算する場合が生じ得る。極性の異なる信号を累積加算してしまうと、受信信号の一部又は全部が相殺されてしまい、受信感度が低下するという問題が起こる。
【0006】
本発明は、上述した課題に鑑みて為されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するための第1の発明は、航法データによって極性反転される拡散符号で拡散変調された測位用信号の受信信号のIQ成分それぞれを極性別に累積加算することと、前記累積加算結果の2乗和を算出することと、前記2乗和の算出結果と前記拡散符号のレプリカコードとの相関演算を行うことと、前記相関演算の結果に基づいて、所定の測位演算を行って現在位置を測位することと、を含む測位方法である。
【0008】
また、他の発明として、航法データによって極性反転される拡散符号で拡散変調された測位用信号の受信信号のIQ成分それぞれを極性別に累積加算する累積加算部と、前記累積加算結果の2乗和を算出する算出部と、前記2乗和の算出結果と前記拡散符号のレプリカコードとの相関演算を行う相関演算部と、前記相関演算の結果に基づいて、所定の測位演算を行って現在位置を測位する測位部と、を備えた測位装置を構成してもよい。
【0009】
この第1の発明等によれば、受信信号のIQ成分それぞれを極性別に累積加算した上で、その累積加算結果の2乗和を算出して相関演算を行うことにしているため、受信信号の逆極性の成分同士が加算されることによる信号の相殺が発生することがなく、受信感度の低下を効果的に防止することができる。
【0010】
また、第2の発明として、第1の発明の測位方法であって、前記受信信号の時系列データを前記測位用信号の航法データの時系列データと照査して、前記航法データ中の極性反転タイミングの合致部分を判定することで、前記受信信号の極性が反転するタイミング及びその極性を推定することを更に含み、前記累積加算することは、前記推定された極性反転タイミング及びその極性に従って極性別に前記受信信号のIQ成分それぞれを累積加算していくことである測位方法を構成してもよい。
【0011】
この第2の発明によれば、受信信号の時系列データを判定対象データとし、測位用信号の航法データの時系列データを参照データとするいわゆるパターンマッチング処理によって、受信信号の極性反転タイミング及びその極性を簡便に推定することが可能となる。
【0012】
また、第3の発明として、第1の発明の測位方法であって、異なる測位用信号の航法データ間に共通する共通データ部分を選定することと、前記受信信号の時系列データを前記共通データ部分と照査して、前記共通データ部分中の極性反転タイミングの合致部分を判定することで、前記受信信号の極性が反転するタイミング及びその極性を推定することと、を更に含み、前記累積加算することは、前記推定された極性反転タイミング及びその極性に従って極性別に前記受信信号のIQ成分それぞれを累積加算していくことである測位方法を構成してもよい。
【0013】
例えば、GPS衛星信号の航法データは、アルマナック(衛星暦)、エフェメリス(軌道暦)、電離層補正パラメータ、UTC(Coordinated Universal Time)情報等のデータを含んでいる。これらのデータのうち、例えばアルマナックや電離層補正パラメータ、UTC情報等のデータは、全てのGPS衛星信号に共通のデータである。第3の発明によれば、この航法データの共通データ部分を参照データとするパターンマッチング処理によって、受信信号の極性判定タイミング及びその極性を推定することが可能となる。
【0014】
また、第4の発明として、第1の発明の測位方法であって、前記測位用信号に対応する航法データを取得済みである場合に、前記受信信号の時系列データを前記測位用信号の航法データの時系列データと照査して、前記航法データ中の極性反転タイミングの合致部分を判定することで、前記受信信号の極性が反転するタイミング及びその極性を推定することと、異なる測位用信号の航法データ間に共通する共通データ部分を選定することと、前記測位用信号に対応する航法データを取得済みでない場合に、前記受信信号の時系列データを前記共通データ部分と照査して、前記共通データ部分中の極性反転タイミングの合致部分を判定することで、前記受信信号の極性が反転するタイミング及びその極性を推定することと、を更に含み、前記累積加算することは、前記推定された極性反転タイミング及びその極性に従って極性別に前記受信信号のIQ成分それぞれを累積加算していくことである測位方法を構成してもよい。
【0015】
この第4の発明によれば、測位用信号に対応する航法データを取得済みである場合は、測位用信号の航法データの時系列データを参照データとするパターンマッチング処理を行い、測位用信号に対応する航法データを取得済みでない場合は、航法データの共通データ部分を参照データとするパターンマッチング処理を行う。かかる構成により、航法データの取得の有無に関わらず、受信信号の極性反転タイミング及びその極性を推定することが可能となる。
【0016】
また、第5の発明として、第2〜第4の何れかの発明の測位方法であって、前記極性反転タイミングの推定が失敗した場合には、前記受信信号のIQ成分それぞれの極性別の累積加算に替えて、前記受信信号のIQ成分それぞれの累積加算を行うことを更に含む測位方法を構成してもよい。
【0017】
この第5の発明によれば、極性判定タイミングの推定に失敗した場合であっても、受信信号のIQ成分それぞれの累積加算を行うことで、拡散符号のレプリカコードとの相関演算を可能にする。
【0018】
また、第6の発明として、第5の発明の測位方法であって、前記極性反転タイミングの推定が成功した場合には、前記受信信号のIQ成分それぞれの極性別の累積加算を第1の累積加算時間の間行い、前記極性反転タイミングの推定が失敗した場合には、前記受信信号のIQ成分それぞれの累積加算を前記第1の累積加算時間より短い第2の累積加算時間の間行う測位方法を構成してもよい。
【0019】
極性反転タイミングの推定に成功した場合には、極性反転タイミングの到来時間間隔にかかわらず、長時間に亘った受信信号の累積加算が可能となり、受信感度を一層向上させることができる。一方、極性反転タイミングの推定に失敗した場合には、極性反転タイミングの到来時間間隔を超える累積加算を行うと受信感度の低下を招く。受信感度の低下を防ぐためには、極性反転タイミングの推定に失敗した場合には、極性反転タイミングの到来時間間隔以下の時間で累積加算を行う必要がある。
【0020】
また、第7の発明として、第1〜第6の何れかの発明の測位方法を測位装置に内蔵されたコンピュータに実行させるためのプログラムを構成してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明に好適な実施形態の一例を説明する。尚、以下では、測位装置を備えた電子機器として携帯型電話機を例に挙げ、測位システムとしてGPSを用いた場合について説明するが、本発明を適用可能な実施形態がこれに限定されるわけではない。
【0022】
1.機能構成
図1は、本実施形態における携帯型電話機1の機能構成を示すブロック図である。携帯型電話機1は、GPSアンテナ10と、GPS受信部20と、ホストCPU(Central Processing Unit)40と、操作部50と、表示部60と、携帯電話用アンテナ70と、携帯電話用無線通信回路部80と、ROM(Read Only Memory)90と、RAM(Random Access Memory)100とを備えて構成される。
【0023】
GPSアンテナ10は、GPS衛星から発信されているGPS衛星信号を含むRF(Radio Frequency)信号を受信するアンテナであり、受信した信号をGPS受信部20に出力する。尚、GPS衛星信号は、衛星毎に異なる拡散符号の一種であるPRN(Pseudo Random Noise)コードで直接スペクトラム拡散方式により変調された1.57542[GHz]の通信信号である。PRNコードは、コード長1023チップを1PNフレームとする繰返し周期1msの擬似ランダム雑音である。
【0024】
GPS受信部20は、GPSアンテナ10から出力された信号に基づいて携帯型電話機1の現在位置を測位する測位回路であり、いわゆるGPS受信機に相当する機能ブロックである。GPS受信部20は、RF受信回路部21と、ベースバンド処理回路部30とを備えて構成される。尚、RF受信回路部21と、ベースバンド処理回路部30とは、それぞれ別のLSI(Large Scale Integration)として製造することも、1チップとして製造することも可能である。
【0025】
RF受信回路部21は、高周波信号(RF信号)の受信回路ブロックであり、所定の発振信号を分周或いは逓倍することで、RF信号乗算用の発振信号を生成する。そして、生成した発振信号を、GPSアンテナ10で受信したRF信号に乗算することで、RF信号を中間周波数の信号(以下、「IF(Intermediate Frequency)信号」と称す。)にダウンコンバートし、IF信号を増幅等した後、A/D変換器でデジタル信号に変換して、ベースバンド処理回路部30に出力する。
【0026】
すなわち、RF受信回路部21は、いわゆるスーパーヘテロダイン方式によって信号受信を行う受信システムである。また、詳細な回路構成を図示していないが、RF受信回路部21は、発振信号及び発振信号の位相を90度ずらした信号をRF信号に乗算することで、IF信号として同相成分(I成分)及び直交成分(Q成分)の信号(I信号及びQ信号)に分離し、I成分及びQ成分それぞれをA/D変換して、ベースバンド処理回路部30に出力する。
【0027】
ベースバンド処理回路部30は、RF受信回路部21から出力されたIF信号に対して相関処理等を行ってGPS衛星信号を捕捉・抽出し、データを復号して測位演算を行う回路部である。ベースバンド処理回路部30は、バッファ部31と、メモリ部32と、相関演算部33と、レプリカコード生成部34と、CPU35と、ROM36と、RAM37とを備えて構成される。尚、本実施形態においては現在位置の測位演算そのものはCPU35で実行することとして説明するが、ホストCPU40で現在位置を測位演算することとしてもよいのは勿論である。
【0028】
バッファ部31は、CPU35の制御信号に従って、RF受信回路部21から入力した受信信号のI,Q信号を時系列順に蓄積記憶するバッファである。バッファ部31は、I信号の時系列データを格納するI信号用バッファ311と、Q信号の時系列データを格納するQ信号用バッファ312とを備えて構成される。
【0029】
メモリ部32は、バッファ部31に格納されたI,Q信号それぞれの時系列データを、CPU35が累積加算する際に使用するメモリである。CPU35は、後述する極性反転タイミング推定処理によるI,Q信号の極性反転タイミングの推定の成否に応じて、メモリ部32に信号の格納領域を動的に確保して、I,Q信号の累積加算を行う。
【0030】
具体的には、極性反転タイミングの推定に成功した場合は、バッファ部31に蓄積記憶されたI,Q信号それぞれを、第1の累積加算時間(例えば「200ミリ秒」)が経過するまでの間、推定したI,Q信号(受信信号)の極性反転タイミング及びその極性に従って極性別に累積加算する。この場合は、メモリ部32に、正極性のI信号、負極性のI信号、正極性のQ信号及び負極性のQ信号(以下、それぞれ「I+信号」、「I−信号」、「Q+信号」及び「Q−信号」と称す。)用の4つの格納領域を設定し、それぞれの格納領域に、対応する信号を累積加算する。
【0031】
一方、極性反転タイミングの推定に失敗した場合は、バッファ部31に蓄積記憶されたI,Q信号それぞれを、第2の累積加算時間(例えば「10ミリ秒」)が経過するまでの間、累積加算する。この場合は、メモリ部32に、I信号及びQ信号用の2つの格納領域を設定し、それぞれの格納領域に、対応する信号を累積加算する。
【0032】
極性反転タイミングの推定に成功した場合は、I,Q信号それぞれを極性別に累積加算することができるため、長時間に亘って信号を累積加算しても、受信信号の逆極性の成分同士が加算されることによる信号の相殺が発生することはない。しかし、極性反転タイミングの推定に失敗した場合は、I,Q信号それぞれを極性別に累積加算することができず、極性反転タイミングの到来時間間隔より長い時間に亘って信号を累積加算すると、受信信号の逆極性の成分同士が加算されることで信号の一部又は全部が相殺されるおそれがある。従って、第2の累積加算時間は、第1の累積加算時間よりも短い時間、好ましくは航法データの極性反転可能タイミングの到来時間間隔である「20ミリ秒」以下の時間とする必要がある。
【0033】
相関演算部33は、CPU35によってメモリ部32に設定された格納領域それぞれに累積加算された信号の2乗和として算出された信号と、レプリカコード生成部34によって生成されたレプリカコードとの相関演算を行う回路部である。具体的には、レプリカコードの位相(コード位相)をずらしつつ、上記算出された2乗和の信号との相関演算を行い、各コード位相における相関値をCPU35に出力する。
【0034】
レプリカコード生成部34は、CPU35からの制御信号に従って、捕捉対象のGPS衛星(以下、「捕捉対象衛星」と称す。)のPRNコードを模擬したレプリカコードを生成し、生成したレプリカコードを相関演算部33に出力する。
【0035】
CPU35は、所定の測位演算を行って携帯型電話機1の現在位置を測位するプロセッサである。具体的には、相関演算部33から出力された相関値を基に、GPS衛星信号に含まれるPRNコード及びコード位相を検出してGPS衛星信号を捕捉・追尾する。そして、捕捉・追尾したGPS衛星信号のデータを復号し、GPS衛星の軌道情報や時刻情報等を基に擬似距離の演算や測位演算等を行って、携帯型電話機1の現在位置を測位する。
【0036】
図2は、ROM36に格納されたデータの一例を示す図である。ROM36には、CPU35により読み出され、ベースバンド処理(図5参照)として実行されるベースバンド処理プログラム361が記憶されている。また、ベースバンド処理プログラム361には、測位処理(図6及び図7参照)として実行される測位プログラム3611と、極性反転タイミング推定処理(図8参照)として実行される極性反転タイミング推定プログラム3613とがサブルーチンとして含まれている。
【0037】
測位処理とは、CPU35が、所定の測位演算を行って携帯型電話機1の現在位置を測位する処理である。より具体的には、各捕捉対象衛星について、極性反転タイミングの推定結果に基づいて、メモリ部32に格納領域を動的に設定してI,Q信号それぞれの累積加算を行い、その2乗和の信号を相関演算部33に出力する。そして、相関演算部33による相関演算結果に基づいて、各捕捉対象衛星の捕捉の成否を判定するとともに、捕捉に成功した衛星(以下、「捕捉衛星」と称す。)の擬似距離の情報を用いた所定の測位演算を行うことで、携帯型電話機1の現在位置を測位する。
【0038】
極性反転タイミング推定処理とは、CPU35が、各捕捉対象衛星について、受信信号の極性反転タイミング及びその極性を推定する処理である。より具体的には、当該捕捉対象衛星のGPS衛星信号の航法データが取得済みである場合は、バッファ部31に蓄積記憶された受信信号の時系列データを判定対象データとし、当該取得済みの航法データの時系列データを参照データとするいわゆるパターンマッチング処理を行い、その結果を基に、受信信号の極性反転タイミング及びその極性を推定する。
【0039】
一方、当該捕捉対象衛星の航法データが取得済みでない場合は、取得済みである航法データの中から、データ内容が共通する共通データ部分を選定する。そして、バッファ部31に蓄積記憶された受信信号を判定対象データとし、当該共通データ部分を参照データとするパターンマッチング処理を行い、その結果を基に、受信信号の極性反転タイミング及びその極性を推定する。ベースバンド処理、測位処理及び極性反転タイミング推定処理については、それぞれフローチャートを用いて詳細に後述する。
【0040】
図3は、RAM37に格納されるデータの一例を示す図である。RAM37には、取得済み航法データ371と、捕捉衛星データ373と、測位データ375とが記憶される。
【0041】
図4は、取得済み航法データ371のデータ内容を説明するための図である。取得済み航法データ371には、GPS衛星の番号と対応付けて、取得済みの航法データが記憶される。
【0042】
航法データは、PRNコード20周期分(=20PNフレーム)を1ビットとする信号であり、アルマナック(衛星暦)、エフェメリス(軌道暦)、電離層補正パラメータ、UTC(Coordinated Universal Time)情報等のデータを含んでいる。これらのデータのうち、例えばアルマナックや電離層補正パラメータ、UTC情報等のデータは、全てのGPS衛星について共通である。航法データのうち、このデータ内容が共通する部分を「共通データ部分」と称する。図4では、共通データ部分の概念を説明するために、共通データ部分に相当する箇所にハッチングを施している。
【0043】
航法データは、例えば測位開始時に、携帯電話用無線通信回路部80に基地局との間の通信(以下、「基地局通信」と称す。)を実行させ、全てのGPS衛星の航法データを基地局から受信することで取得する構成とすることが可能である。尚、全てのGPS衛星の航法データを受信するのではなく、携帯型電話機1の天空に位置していることが想定される衛星(想定可視衛星)の航法データのみを受信することとしてもよい。
【0044】
また、基地局通信によって航法データを取得するのではなく、携帯型電話機1内部で航法データを解読して取得済みの航法データとする構成としてもよい。すなわち、捕捉衛星のGPS衛星信号(捕捉衛星信号)を復号することで得られた航法データを取得済みの航法データとし、当該捕捉衛星の番号と対応付けて取得済み航法データ371に記憶させておけばよい。
【0045】
捕捉衛星データ373は、捕捉衛星の番号が記憶されたデータであり、ベースバンド処理においてCPU35により更新される。
【0046】
測位データ375は、測位演算により算出された測位位置が記憶されたデータであり、ベースバンド処理においてCPU35により更新される。
【0047】
ホストCPU40は、ROM90に記憶されているシステムプログラム等の各種プログラムに従って携帯型電話機1の各部を統括的に制御するプロセッサである。ホストCPU40は、CPU35から入力した測位位置をプロットしたナビゲーション画面を、表示部60に表示させる。
【0048】
操作部50は、例えばタッチパネルやボタンスイッチ等により構成される入力装置であり、押下されたキーやボタンの信号をホストCPU40に出力する。この操作部50の操作により、通話要求やメールの送受信要求等の各種指示入力がなされる。
【0049】
表示部60は、LCD(Liquid Crystal Display)等により構成され、ホストCPU40から入力される表示信号に基づいた各種表示を行う表示装置である。表示部60には、ナビゲーション画面や時刻情報等が表示される。
【0050】
携帯電話用アンテナ70は、携帯型電話機1の通信サービス事業者が設置した無線基地局との間で携帯電話用無線信号の送受信を行うアンテナである。
【0051】
携帯電話用無線通信回路部80は、RF変換回路、ベースバンド処理回路等によって構成される携帯電話の通信回路部であり、携帯電話用無線信号の変調・復調等を行うことで、通話やメールの送受信等を実現する。
【0052】
ROM90は、ホストCPU40が携帯型電話機1を制御するためのシステムプログラムや、ナビゲーション機能を実現するための各種プログラムやデータ等を記憶している。
【0053】
RAM100は、ホストCPU40により実行されるシステムプログラム、各種処理プログラム、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを形成している。
【0054】
2.処理の流れ
図5は、CPU35によりROM36に記憶されているベースバンド処理プログラム361が読み出されて実行されることで、携帯型電話機1において実行されるベースバンド処理の流れを示すフローチャートである。
【0055】
ベースバンド処理は、RF受信回路部21によるGPS衛星信号の受信と併せて、CPU35が、操作部50に測位開始指示の操作がなされたことを検出した場合に実行を開始する処理であり、各種アプリケーションの実行といった各種の処理と並行して行われる処理である。尚、携帯型電話機1の電源のON/OFFとRF受信回路部21を含むGPS受信部20の起動/停止とを連動させ、携帯型電話機1の電源投入操作を検出した場合に処理の実行を開始させることにしてもよい。
【0056】
また、特に説明しないが、以下のベースバンド処理の実行中は、GPSアンテナ10によるRF信号の受信や、RF受信回路部21によるIF信号へのダウンコンバージョン及び信号のIQ分離が行われ、受信信号のI,Q信号がベースバンド処理回路部30に随時出力される状態にあるものとする。
【0057】
先ず、CPU35は、RF受信回路部21から出力された受信信号のI,Q信号を、バッファ部31のI信号用バッファ311及びQ信号用バッファ312に、それぞれ時系列順に蓄積記憶させていく(ステップA1)。そして、ROM36に記憶されている測位プログラム3611を読み出して実行することで、測位処理を行う(ステップA3)。
【0058】
図6及び図7は、測位処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、CPU35は、RAM37の取得済み航法データ371に記憶されている取得済みの航法データのアルマナック等のデータに基づいて、捕捉対象衛星を決定する(ステップB1)。そして、各捕捉対象衛星について、ループAの処理を実行する(ステップB3〜B37)。ループAでは、CPU35は、ROM36に記憶されている極性反転タイミング推定プログラム3613を読み出して実行することで、極性反転タイミング推定処理を行う(ステップB5)。
【0059】
図8は、極性反転タイミング推定処理の流れを示すフローチャートである。
先ず、CPU35は、RAM37の取得済み航法データ371を参照し、当該捕捉対象衛星の航法データが取得済みであるか否かを判定する(ステップC1)。そして、取得済みであると判定した場合は(ステップC1;Yes)、バッファ部31に格納されたI,Q信号の時系列データを、取得済み航法データ371に記憶されている当該捕捉対象衛星の航法データの時系列データと照査して、航法データ中の極性反転タイミングの合致部分を判定する処理(パターンマッチング処理)を行う(ステップC3)。
【0060】
その後、CPU35は、合致部分の判定に成功したか否かを判定し(ステップC5)、成功したと判定した場合は(ステップC5;Yes)、航法データ中の当該合致部分以降のデータ部分の極性反転タイミング及びその極性を基に、今後到来予定の受信信号の極性反転タイミング及びその極性を推定する(ステップC7)。そして、CPU35は、極性反転タイミング推定処理を終了する。
【0061】
また、ステップC1において、当該捕捉対象衛星の航法データを取得済みではないと判定した場合は(ステップC1;No)、CPU35は、バッファ部31に格納されたI,Q信号のデータのPNフレーム数が所定数(例えば「200」)を超えているか否かを判定する(ステップC9)。そして、所定数を超えていると判定した場合は(ステップC9;Yes)、取得済み航法データ371に記憶されている取得済みの航法データの共通データ部分を選定する(ステップC11)。
【0062】
その後、CPU35は、バッファ部31に格納されたI,Q信号の時系列データを共通データ部分と照査して、共通データ部分中の極性反転タイミングの合致部分を判定する処理(パターンマッチング処理)を行う(ステップC13)。そして、CPU35は、合致部分の判定に成功したか否かを判定し(ステップC15)、成功したと判定した場合は(ステップC15;Yes)、共通データ部分中の当該合致部分以降のデータ部分の極性反転タイミング及びその極性を基に、今後到来予定の受信信号の極性反転タイミング及びその極性を推定する(ステップC17)。
【0063】
但し、捕捉対象衛星の航法データを取得していないため、航法データの共通データ部分以降のデータ部分(非共通データ部分)の極性反転タイミング及びその極性は不明である。従って、ステップC17で推定可能な受信信号の極性反転タイミング及びその極性は、あくまでも航法データの共通データ部分に対応する部分の極性反転タイミング及びその極性のみである。極性反転タイミングを推定した後、CPU35は、極性反転タイミング推定処理を終了する。
【0064】
一方、ステップC9において、バッファ部31に格納されたデータのPNフレーム数が所定数以下であると判定した場合には(ステップC9;No)、CPU35は、受信信号の極性反転タイミングの推定に失敗したと判定する(ステップC19)。また、ステップC5又はC15において、合致部分の判定に失敗したと判定した場合にも(ステップC5;No、又は、ステップC15;No)、受信信号の極性反転タイミングの推定に失敗したと判定する(ステップC19)。そして、CPU35は、極性反転タイミング推定処理を終了する。
【0065】
図6の測位処理に戻って、極性判定タイミングを行った後、CPU35は、極性反転タイミングの推定に成功したか否かを判定し(ステップB7)、成功したと判定した場合は(ステップB7;Yes)、メモリ部32に、I+信号用、I−信号用、Q+信号用及びQ−信号用の格納領域を設定する(ステップB9)。
【0066】
次いで、CPU35は、極性反転タイミングの推定結果に基づき、I,Q信号の極性の判定を開始する(ステップB11)。そして、CPU35は、バッファ部31に格納されたI,Q信号それぞれを、判定した極性に応じた格納領域に累積加算する処理を開始する(ステップB13)。
【0067】
その後、CPU35は、第1の累積加算時間(例えば「200ミリ秒」)が経過するまでの間、I,Q信号の極性判定及び累積加算を実行し、第1の累積加算時間が経過したと判定した場合は(ステップB15;Yes)、メモリ部32に設定したI+信号用、I−信号用、Q+信号用及びQ−信号用の格納領域それぞれに累積加算された信号の2乗和を算出する(ステップB17)。
【0068】
一方、ステップB7において、極性反転タイミングの推定に失敗したと判定した場合は(ステップB7;No)、CPU35は、メモリ部32に、I信号用及びQ信号用の格納領域を設定する(ステップB19)。そして、バッファ部31に格納されたI,Q信号それぞれを、対応する格納領域に累積加算する処理を開始する(ステップB21)。
【0069】
その後、CPU35は、第2の累積加算時間(例えば「10ミリ秒」)が経過するまでの間、I,Q信号の累積加算を実行する。そして、第2の累積加算時間が経過したと判定した場合は(ステップB23;Yes)、CPU35は、メモリ部32に設定したI信号用及びQ信号用の格納領域それぞれに累積加算された信号の2乗和を算出する(ステップB25)。
【0070】
ステップB17又はB25において信号の2乗和を算出した後、CPU35は、算出結果の信号を、相関演算部33に出力する(ステップB27)。また、レプリカコード生成部34に対して、当該捕捉対象衛星のPRNコードのレプリカコードの生成指示を与える(ステップB29)。
【0071】
そして、CPU35は、相関演算部33から出力された相関値のうち最大の相関値である最大相関値が、所定の閾値を超えたか否かを判定する(ステップB31)。そして、最大相関値が閾値以下であると判定した場合は(ステップB31;No)、当該捕捉対象衛星の捕捉に失敗したものと判定して、次の捕捉対象衛星へと処理を移行する。
【0072】
また、最大相関値が閾値を超えたと判定した場合は(ステップB31;Yes)、CPU35は、当該最大相関値に対応するコード位相を特定する(ステップB33)。そして、当該捕捉対象衛星を捕捉衛星に加えてRAM37の捕捉衛星データ373を更新した後(ステップB35)、次の捕捉対象衛星へと処理を移行する。
【0073】
全ての捕捉対象衛星についてステップB5〜B35の処理を行った後、CPU35は、ループAの処理を終了する。その後、CPU35は、RAM37の捕捉衛星データ373に記憶されている各捕捉衛星について、特定したコード位相を用いて、当該捕捉衛星から携帯型電話機1までの擬似距離を算出する(ステップB39)。
【0074】
その後、CPU35は、複数の捕捉衛星について算出した擬似距離を用いて、例えば最小二乗法やカルマンフィルタを用いた測位演算を実行して携帯型電話機1の現在位置を測位し(ステップB41)、その測位位置をRAM37の測位データ375に記憶させる。尚、最小二乗法やカルマンフィルタを用いた測位演算については公知の手法を適用してよいため、詳細な説明を省略する。そして、CPU35は、測位処理を終了する。
【0075】
図5のベースバンド処理に戻って、測位処理を行った後、CPU35は、RAM37の測位データ375に記憶されている測位位置をホストCPU40に出力する(ステップA5)。そして、操作部50に対してユーザにより測位終了指示がなされたか否かを判定し(ステップA7)、なされなかったと判定した場合は(ステップA7;No)、ステップA3に戻る。また、測位終了指示がなされたと判定した場合は(ステップA7;Yes)、ベースバンド処理を終了する。
【0076】
3.作用効果
本実施形態によれば、受信信号のIQ成分それぞれを極性別に累積加算した上で、その累積加算結果の2乗和を算出して相関演算を行うことにしているため、受信信号の逆極性の成分同士が加算されることによる信号の相殺が発生することがなく、受信感度の低下を効果的に防止することができる。
【0077】
また、本実施形態では、捕捉対象衛星の航法データを取得済みである場合は、当該取得済みの航法データの時系列データを参照データとするパターンマッチング処理を行って受信信号の時系列データとの合致部分を判定し、捕捉対象衛星の航法データを取得済みでない場合は、航法データの共通データ部分を参照データとするパターンマッチング処理を行って受信信号の時系列データとの合致部分を判定することにしている。かかる構成により、航法データの取得の有無に関わらず、受信信号の極性反転タイミング及びその極性を推定することが可能となる。
【0078】
4.変形例
4−1.電子機器
本発明は、測位装置を備えた電子機器であれば何れの電子機器にも適用可能である。例えば、ノート型パソコンやPDA(Personal Digital Assistant)、カーナビゲーション装置等についても同様に適用可能である。
【0079】
4−2.衛星測位システム
上述した実施形態では、衛星測位システムとしてGPSを例に挙げて説明したが、WAAS(Wide Area Augmentation System)、QZSS(Quasi Zenith Satellite System)、GLONASS(GLObal NAvigation Satellite System)、GALILEO等の他の衛星測位システムであってもよい。
【0080】
4−3.処理の分化
CPU35が実行する処理の一部又は全部を、ホストCPU40が実行することにしてもよい。例えば、ホストCPU40が極性反転タイミング推定処理を行い、その推定結果に基づいて、CPU35が測位演算を行うようにする。また、測位演算も含めて、CPU35が実行する処理全てをホストCPU40が実行することにしてもよい。
【0081】
4−4.相関演算処理
上述した実施形態では、ベースバンド処理回路部30に相関演算部33を独立して設け、受信信号の累積加算結果の2乗和とレプリカコードとの相関演算をハードウェア的に実現するものとして説明したが、CPU35が相関演算処理を行う構成とすることで、ソフトウェア的に実現することとしてもよい。
【0082】
4−5.累積加算結果の合算
また、上述した実施形態では、受信信号の累積加算結果の2乗和を算出してレプリカコードとの相関演算を行うものとして説明したが、2乗和ではなく、例えば受信信号の累積加算結果の4乗和や6乗和を算出してレプリカコードとの相関演算を行うこととしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】携帯型電話機の機能構成を示すブロック図。
【図2】ROMに格納されたデータの一例を示す図。
【図3】RAMに格納されたデータの一例を示す図。
【図4】取得済み航法データのデータ内容の説明図。
【図5】ベースバンド処理の流れを示すフローチャート。
【図6】測位処理の流れを示すフローチャート。
【図7】測位処理の流れを示すフローチャート。
【図8】極性反転タイミング推定処理の流れを示すフローチャート。
【符号の説明】
【0084】
1 携帯型電話機 、 10 GPSアンテナ、 20 GPS受信部、
21 RF受信回路部、 30 ベースバンド処理回路部、 31 バッファ部、
32 メモリ部、 33 相関演算部、 34 レプリカコード生成部、
35 CPU、 36 ROM、 37 RAM、 40 ホストCPU、
50 操作部、 60 表示部、 70 携帯電話用アンテナ、
80 携帯電話用無線通信回路部、 90 ROM、 100 RAM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航法データによって極性反転される拡散符号で拡散変調された測位用信号の受信信号のIQ成分それぞれを極性別に累積加算することと、
前記累積加算結果の2乗和を算出することと、
前記2乗和の算出結果と前記拡散符号のレプリカコードとの相関演算を行うことと、
前記相関演算の結果に基づいて、所定の測位演算を行って現在位置を測位することと、
を含む測位方法。
【請求項2】
前記受信信号の時系列データを前記測位用信号の航法データの時系列データと照査して、前記航法データ中の極性反転タイミングの合致部分を判定することで、前記受信信号の極性が反転するタイミング及びその極性を推定することを更に含み、
前記累積加算することは、前記推定された極性反転タイミング及びその極性に従って極性別に前記受信信号のIQ成分それぞれを累積加算していくことである、
請求項1に記載の測位方法。
【請求項3】
異なる測位用信号の航法データ間に共通する共通データ部分を選定することと、
前記受信信号の時系列データを前記共通データ部分と照査して、前記共通データ部分中の極性反転タイミングの合致部分を判定することで、前記受信信号の極性が反転するタイミング及びその極性を推定することと、
を更に含み、
前記累積加算することは、前記推定された極性反転タイミング及びその極性に従って極性別に前記受信信号のIQ成分それぞれを累積加算していくことである、
請求項1に記載の測位方法。
【請求項4】
前記測位用信号に対応する航法データを取得済みである場合に、前記受信信号の時系列データを前記測位用信号の航法データの時系列データと照査して、前記航法データ中の極性反転タイミングの合致部分を判定することで、前記受信信号の極性が反転するタイミング及びその極性を推定することと、
異なる測位用信号の航法データ間に共通する共通データ部分を選定することと、
前記測位用信号に対応する航法データを取得済みでない場合に、前記受信信号の時系列データを前記共通データ部分と照査して、前記共通データ部分中の極性反転タイミングの合致部分を判定することで、前記受信信号の極性が反転するタイミング及びその極性を推定することと、
を更に含み、
前記累積加算することは、前記推定された極性反転タイミング及びその極性に従って極性別に前記受信信号のIQ成分それぞれを累積加算していくことである、
請求項1に記載の測位方法。
【請求項5】
前記極性反転タイミングの推定が失敗した場合には、前記受信信号のIQ成分それぞれの極性別の累積加算に替えて、前記受信信号のIQ成分それぞれの累積加算を行うことを更に含む請求項2〜4の何れか一項に記載の測位方法。
【請求項6】
前記極性反転タイミングの推定が成功した場合には、前記受信信号のIQ成分それぞれの極性別の累積加算を第1の累積加算時間の間行い、前記極性反転タイミングの推定が失敗した場合には、前記受信信号のIQ成分それぞれの累積加算を前記第1の累積加算時間より短い第2の累積加算時間の間行う、請求項5に記載の測位方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の測位方法を測位装置に内蔵されたコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項8】
航法データによって極性反転される拡散符号で拡散変調された測位用信号の受信信号のIQ成分それぞれを極性別に累積加算する累積加算部と、
前記累積加算結果の2乗和を算出する算出部と、
前記2乗和の算出結果と前記拡散符号のレプリカコードとの相関演算を行う相関演算部と、
前記相関演算の結果に基づいて、所定の測位演算を行って現在位置を測位する測位部と、
を備えた測位装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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