説明

測定器用信号送信システム

【課題】電池寿命を長くし、プローブからの送信の妨害をなくすこと。
【解決手段】三次元座標位置決め装置用の測定器のための送信システムは、測定器(10)に設置されたステーション(18)と、三次元座標位置決め装置(22)に設置されたステーション(20)と、を備え、各ステーションは、例えば、周波数ホッピング等のスペクトル拡散無線リンクを用いて相互に通信する。プローブ上のステーションが正則信号を送信し、この信号を受信したところで、三次元座標位置決め装置上のステーションは、そのクロックを同期させて、受信確認信号を送信する。測定データは、正則信号でも、測定イベント駆動信号でも送信される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元座標測定機(CMM)工作機械、手動三次元座標測定アームおよび点検ロボット等の三次元座標測定装置に使用する測定器に関する。より詳しくは、本発明は、上記のような測定器のための信号送信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
工作物の位置を決定するトリガプローブは、特許文献1に開示されている。使用時に、そのプローブは機械によって工作物と相対的に移動される。プローブは、偏向可能な針を備え、針が工作物と接触するとトリガ信号を発生する。トリガ信号は、プローブがある状態から別の状態に切り替わることによって示される。機械制御装置は、このトリガ信号を用い、プローブの位置を示すスケールや他の測定手段の出力を凍結する。このようにして、工作物上の接触点の位置が決定される。
【0003】
特に工作機械上では、プローブを機械制御装置に直接配線することが困難な場合があるため、各種の無線信号送信システムが先行技術において開発されてきた。この中には、誘導システム(信号が2つのコイルの間の電磁誘導によって送信される)、光システム(赤外線ダイオード等の発光体がプローブ上に設置されて、適当な受信機によって受信される光信号を発する)、無線システム(プローブ内に備えられる無線電送機と、機械上の便利な位置に固定される無線受信機と、を有する)がある。無線システムの一例は、特許文献2に示されている。このようなプローブに対する重要な要求事項は再現可能性であり、つまり、ある測定を繰り返す度に、同じ結果が得られなければならない。特許文献1に記載されているプローブ内の針の機械的位置は、空間内において非常に再現可能性が高く、トリガ信号の発生の瞬間は、針と工作物との接触の瞬間と、常に確実で再現可能な関係にある。つまり、簡単な校正手順によって、プローブから精度の高い結果を得ることができる。
【0004】
しかしながら、精度が損なわれるのは、信号伝送システムに再現性がない、つまり、信号送信に不明な可変的遅延がある場合である。これが発生すると、機械制御装置が測定手段の出力を凍結できるようになる前に、プローブは、トリガ信号発生の瞬間から不明で可変的な距離だけ移動してしまう。すると、接触位置と、凍結された出力によって示される位置と、の間に誤差が生じ、この誤差は、不明で可変的な量であり、校正によって排除することはできない。このように、プローブシステムの全体的精度を保持するためには、信号送信システムによって生じる伝送遅延を再現可能にするという課題があり、つまり、プローブがトリガされる度に、同じ遅延が生じるようにしなければならない。こうすることにより、上記のプローブ校正手順は、送信システムに起因する再現可能な遅延を排除できるようになる。
【0005】
特許文献3は、プローブ用のアナログ無線信号送信システムを開示しており、このシステムにおいて、プローブはキャリア信号を発生する送信機を備え、このキャリア信号にプローブ信号が変調される。受信機は、プローブのデータを受信し、送信機のデータから得られるプローブ出力信号を発生する。送信機上のクロックはシステム全体の時間基準となり、受信機は、その入力において位相比較器付きの発振器を用いて、発振器が送信機内のクロックと永久的に同期されるようにする。プローブ信号が発生すると、カウンタサイクルの開始とプローブの状態の変化との間の経過時間がシフトレジスタ内にラッチされ、そして逐次的に送信される。
【0006】
この方法には、送信機と受信機とを同期させるために必要な連続信号を送信機が送信するため、システムがプローブの電池電力の大部分を使用してしまい、電池寿命を短縮するという欠点がある。
【0007】
さらに、固定周波数システムでは、利用可能な通信チャネル数が限定的な周波数チャネル数と等しい。したがって、この周波数チャネルを使用する他のシステムからの受信機が、プローブからの送信を妨害するという問題が生じる。これに加え、無線トラフィックの存在が送信に影響を与える可能性もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4,153,998号
【特許文献2】米国特許第4,119,871号
【特許文献3】米国特許第5,279,042号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、三次元座標位置決め装置用の測定器の送信システムを提供し、それは
測定器と三次元座標位置決め装置の内の一方に設置される第1のステーションと、
測定器と三次元座標位置決め装置の内の他方に設置される第2のステーションと、
を備え、
第1および第2のステーションは、スペクトル拡散無線リンクを用いて通信する。
【0010】
スペクトル拡散無線リンクには、受信機が送信を妨害する望まれない可能性を低減させ、不要な無線トラフィックが存在しても、送信が正しい受信機に到達する可能性を高めるという利点がある。
【0011】
第1および第2のステーションは、スペクトル拡散無線リンクを用いて相互に通信する。これは、狭帯域信号をとって、これを無線周波数帯域のより広い部分に拡散させる技術である。スペクトル拡散無線リンクには、周波数ホッピング方式と直接拡散方式の2種類がある。周波数ホッピング方式では、狭帯域信号を時間関数としてホッピングさせることによって信号を拡散させる。直接拡散方式では、信号を特定の符号と混合することによって信号を拡散させる。
【0012】
連続信号ではなく周期的信号を使用することは、電池寿命が長くする。
【0013】
測定器は、例えばタッチトリガプローブ等の測定プローブを含んでもよい。
【0014】
好ましくは、送信システムは世界的な周波数帯域を使用する。
【0015】
第1および第2のステーションには、クロックを備えることができ、このクロックは少なくとも1回同期される。第1のステーションが正則的な送信(regular transmission ; 同期的送信)を行い、第2のステーションがその信号を受信すると、第2のステーションのクロックを第1のステーションと同期させてもよい。第1のステーションが送信する信号が第2のステーションによって適正に受信されないと、第1のステーションは、その信号を再度送信することができる。
【0016】
第2のステーションは、第1のステーションによって送信された信号を受信したときに、受信確認信号を送信してもよい。第1のステーションは、その信号に応答する受信確認信号を受信しないと、その信号を再度送信する。受信されなかったメッセージを再度の送信が可能であることから、システムはノイズの多い環境でも操作できる。
【0017】
好ましくは、送信システムは半二重リンクを含む。
【0018】
測定イベントにおいて、第1のステーションは、その測定イベントに関する情報を送信してもよい。その測定イベントは、タッチトリガイベントを含むことができる。その情報には、測定イベントの時刻に関するデータを含めることができる。第1のステーションは正則的な送信を行い、測定イベントに関する情報は追加の送信として送ってもよい。
【0019】
第1のステーションにより送信される信号は、測定器に関する情報を含み、第2のステーションの測定器出力信号は、時間遅延の後に生成してもよい。この時間遅延は、その時間遅延内において信号の再送信を可能とするために十分な長さとなるように選択される。
【0020】
送信システムの一端にマスタークロックが設置され、またマスタークロックを再生させるためのスライド式相関器が設置される。これは、測定器出力信号時間遅延(例えば、プローブトリガ出力時間遅延)のための基準となる。第2のステーションは、第1のステーションから信号を受信すると、受信確認信号を送信し、第1のステーションに送信された受信確認信号は、マスタークロックと同期される。これにより、第1のステーションでのクロック再生が不要となる。
【0021】
好ましい実施形態において、第1および第2のステーションの間で送信される信号はデータビットを含み、より重要な情報に関するデータビットには、他のデータビットよりも強力なエラー保護が施される。より重要な情報に関するデータビットには、他のデータビットよりも高いハミング距離を持たせてもよい。
【0022】
好ましくは、第1のステーションが正則信号を送信し、また第1のステーションは1つのモードにあり、各正則信号は、第1のステーションがモードを変更すべき否かを問い、第1のステーションは、肯定応答を受信するとモードを切り替える。モードは、正則信号が通常のモードより低速で送信される省電力モードを含んでもよい。これは電力消費量を低減し、第2のステーションを第1のステーションと同期した状態に保つのに十分である。
【0023】
好ましくは、第1と第2のステーションが同期されないと、第1と第2のステーションは、第2のステーションが信号を受信して第1のステーションと同期するまで、周波数チャネルの間を異なる速度でホップする。第2のステーションは、選択された周波数チャネル上で所定のレベルを超えるバックグラウンドノイズを検出すると、異なる周波数チャネルに切り替える。
【0024】
本発明の第2の形態は、三次元座標位置決め装置用測定プローブの送信システムを提供し、それは、
測定器と三次元座標位置決め装置の内の一方に設置される第1のステーションと、
測定器と三次元座標位置決め装置の内の他方に設置される第2のステーションと、
を備え、
前記第1および第2のステーションは異なる周波数チャネルで通信でき、第2のステーションが特定の周波数チャネル上で有意なノイズを認識すると、別の周波数チャネルにホップする。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】工作機械上に設置されたタッチトリガプローブを示す図である。
【図2】第1と第2のステーションの周波数ホッピングと同期を示す概略図である。
【図3】ホップが行われない干渉の事象を示す概略図である。
【図4】プローブトリガと遅延カウンタを示す概略図である。
【図5】同期再生を示す概略図である。
【図6】機械ステーション内のスライド式相関器を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
一例として、本発明の好ましい実施形態を添付の図面を参照しながら以下に説明する。
【0027】
図1は、工作機械のスピンドル12に設置されたタッチトリガプローブ10を示す。タッチトリガプローブ10は、工作物接触チップ16を有する偏向可能な針(stylus)14を備える。信号送信システムは2つのステーションを有し、プローブステーション18は、タッチトリガプローブに接続され、かつ工作機械の可動部に設置されている。機械ステーション20は、工作機械構造の固定部22に設置され、かつ工作機械制御装置24に接続されている。
【0028】
データは、プローブステーション18と機械ステーション20の間にて、シリアルバイナリデータの個別のパッケージを送るスペクトル拡散無線リンク、本例においては周波数ホッピング無線通信を用いて送信される。
【0029】
プローブステーションと機械ステーションはどちらも、両者間にて時折送信されて両者を同期させるためのメッセージにより、異なる周波数チャネルの間において、相互にほぼ同期してホッピングする。プローブステーションは、メッセージに毎回の交換を開始し、機械ステーションからの回答を受信する。
【0030】
周波数ホッピングおよび同期について、図2を参照しながらさらに詳しく説明する。機械ステーションは、ほとんどの時間、メッセージの受信待ち状態にあり、一方、プローブステーションは、ほとんどの時間(例えば、上のスロットn+1からn+3)、ハーフオン(half-on)状態にある。プローブステーションがハーフオン状態にあるとき、そのプローブインタフェースとマイクロプロセッサはオンとなり、無線モデムはオフとなる。プローブインタフェースとマイクロプロセッサはそれぞれ約2mWの電力を使用し、一方、無線モデムは、オンに切り替えられるとより大きな約120mWの電力を使用する。無線モデムは、受信中か送信中かを問わず、ほぼ同じ量の電力を消費する。このように、ハーフオン状態にあると、電池式プローブシステムの電力消費量は削減される。
【0031】
図2は、プローブステーションが短い整定時間でオンとなり、その後、周波数チャネルf(n)で「OK(I'm OK)」メッセージを送信する。そして、プローブステーションは機械ステーションからの受信確認を待つ。チャネルf(n)で受信待ちとなっている機械ステーションは、このメッセージを受信すると、そのクロックをプローブステーションと同期させ、受信確認をチャネルf(n)で返送する。プローブステーションは、この受信確認を受信すると、再びハーフオン状態に切り替わる。したがって、プローブステーションのクロックは、システムにとってのマスタークロックの役割を果たす。機械ステーションとプローブステーションが同期されると、これらは同時に異なる周波数チャネル間をホップする。
【0032】
すると、プローブステーションはいくつものタイムスロットにわたり無音状態となり(プローブトリガがないことを前提とする)、機械ステーションは、連続する周波数チャネルf(n+1),f(n+2)・・・で受信待ち状態となる。プローブステーションは、連続する周波数チャネルf(n+1),f(n+2)・・・で送信しないが、周波数チャネル間のホッピングは行っている。図2では、プローブステーションと機械ステーションとの間でのクロック誤差が誇張して示されている。この誤差は小さく、各ステーションは、100もの無声の時間スロットというオーダーで同期されたままに保たれる。このように、この誤差のために、機械ステーションとプローブステーションは若干時間がずれて新たなチャネルにホップするが、誤差はごく小さく、プローブステーションが送信している間に、機械ステーションが同じ周波数チャネルで各ステーション間に伝送される信号の受信待ち状態にあるという、十分な重複部分が確保される。この誤差は、機械ステーションがプローブステーションからメッセージを受け取るたびに修正される。
【0033】
分かりやすくするために、図2では3つの無声スロットしかを示されていないため、3つの周波数ホップは使用されない。次に、周期的タイマがプローブステーションにf(n+4)で再度送信を行わせ、他のイベント(例えば、送信喪失、プローブトリガまたはプローブステーションオフ信号)によって中断されるまで、このサイクルが繰り返される。
【0034】
プローブステーションからの送信は、例えば、干渉等のために機械ステーションによって受信されないかもしれない。このような状態について、図3を参照しながら説明する。図3では整定時間が示されず、プローブステーションと機械ステーションの間でクロックとホッピングが同期することを前提とする。
【0035】
プローブステーションから送信される無線パケットには、プローブデータが含まれる。プローブデータとは、例えば、プローブが所定の位置にある(seated)(S)か、あるいはプローブがトリガされている(T)か、である。無線パケットでは、その他にも、例えば、電池の状態、このメッセージについて何回送信が試行されたか、およびタッチトリガイベントの時刻に関するデータ等の情報が送信される。
【0036】
タイムスロットnには、周波数チャネル(n)でのプローブステーションからの成功メッセージと機械ステーションからの応答が示されている。これにより、プローブステーションと無線リンクの両方が確実に動作し、機械ステーションからの出力が信頼できるものとなる。
【0037】
タイムスロットn1では、プローブステーションがメッセージを送信し、機械ステーションは、このメッセージを受信して、受信確認を送信する。しかし、プローブステーションは、例えば、干渉等によってこの応答を受信しない。
【0038】
受信確認が受信されないので、プローブステーションは、次のタイムスロットn1+1でメッセージを再送信する。図3は、スロットn1+1でのプローブステーションからのメッセージの再送信を示している。しかし、機械ステーションは何も受信しないため、受信確認を送信しない。したがって、プローブステーションは何のメッセージも受信せず、スロットn1+2でもメッセージをさらに再送信する。
【0039】
タイムスロットn1+2では全てがうまく行く。機械ステーションはプローブステーションのメッセージを受信し、プローブステーションは機械ステーションの受信確認を受け取る。そこで、プローブステーションは、そのハーフオン状態に戻り、無線モデムはオフとなる。
【0040】
しかし、所定の時間が経過した後に、機械ステーションがプローブステーションからのメッセージを受信しないと、無線リンクまたはプローブステーションのいずれかは機能せず、機械ステーションはエラー出力を発生する。
【0041】
メッセージの最初の送信時は、例えば1mWの通常の無線周波数電力レベルが使用される。その後の再送信では、より高い無線周波数電力レベルとなり、メッセージが届く可能性が高くなる。
【0042】
より高い無線周波数電力での再送信の機会があるため、通常の送信には、若干低い無線周波数電力を使用することが可能となる。これには、無線トラフィックを少なくし、電池寿命を延ばすという利点がある。
【0043】
図3のタイムスロットn2にてプローブのトリガが発生する。順序はずれの送信は、できるだけ早く、プローブステーションによって機械ステーションに送られなければならない。プローブステーションは、次のタイムスロットn2+1にて、プローブトリガメッセージを機械ステーションに送信する。前述のように、機械ステーションはメッセージを確認する。プローブトリガメッセージは、周期的アップデートより重要であるため、プローブトリガが発生すると、プローブトリガに関するデータは、次に送信されるデータパケットの中に含められる。
【0044】
図4に示すように、プローブトリガが発生すると、プローブ内のタイマは、ゼロからのカウントを開始する。このタイマの値t1は、次のタイムスロットn+1の開始時にラッチされる。値t1は、次のタイムスロットn+1の送信において、プローブステーションから機械ステーションに送られる。
【0045】
機械ステーションは、送信されたメッセージから値t1を復号し、値tk−t1(tkは定数)を算出する。機械ステーションは、自己のカウントダウンカウンタに値tk−t1を読み込む。タイムスロットn+1の終了時に、カウントダウンカウンタはスタートされ、ゼロに到達すると、プローブ状態出力はトリガされた状態に変化する。
【0046】
したがって、プローブトリガと機械ステーションのプローブ出力との間の時間遅延は、t1+ts+tk−t1=ts+tk(tsは1つのタイムスロットの時間)となる。値ts+tkは定数である。したがって、プローブトリガと機械ステーションのプローブ出力との間の遅延は、常に同じである。
【0047】
時間定数tkは、第1の送信(つまり、タイムスロットn+1における送信)が失敗した場合に、メッセージを再送信できるように選択される。図4では、タイムスロットn+2,n+3,n+4がプローブトリガメッセージの再送信に使用できる。再送信では、成功しなかった送信の回数に要した時間と等しい修正がtk−t1に加えられる。この修正は、実行された再試行の回数に1回のタイムスロットの長さを乗じたものとなる。プローブステーションにより送信されるメッセージには、現在がどの試行か(1回目、2回目、3位目等)を示すデータが含まれる。あるいは、プローブステーションは、メッセージが送信される各タイムスロットの開始時に、プローブステーションのカウンタを(再)ラッチすることができる。(この値は、スロットn+2に送信されるメッセージについてはt1+ts、スロットn+3で送信されるメッセージについてはt1+2*ts、等々となる。)このように、メッセージの送信が成功したのがどのタイムスロットかを問わず、総時間遅延は、プローブトリガと機械ステーションのプローブ状態出力との間で一定(=ts+tk)である。
【0048】
プローブステーションと機械ステーションが通信するためには、両方のステーションを同時に同じ周波数チャネルに設定する必要がある。これを実現するためには、プローブステーション周波数チャネル制御装置と機械ステーション周波数チャネル制御装置は同期されなければならない。これは、図5を参照しながら以下に説明する同期再生/発見(find)および収集(collect)プロセスによって実現される。
【0049】
プローブステーションは、通常の速度(たとえば、1ミリ秒で1回)で周波数チャネル間をホッピングしている様子が示され、機械ステーションは、これよりずっと低い速度(たとえば、50ミリ秒で1回)ホッピングしている様子が示されている。プローブステーションは、全てのタイムスロット(n,n+1,n+2・・・)で送信し、応答を聞いてから次のタイムスロットにホッピングする。プローブステーションの送信は、プローブのID番号を含み、同期のリクエストとメッセージの受信確認とを含む。機械ステーションは、多くのプローブステーションタイムスロットで受信待ち状態となり、時々異なる周波数チャネルに切り替える。図5の時間スロットn,n+1,n+2において、プローブステーションは、機械ステーションが受信待ち状態である間に、連続する異なる周波数チャネルで送信することが示されている。しかしながら、機械ステーションがプローブステーションとは異なる周波数チャネルにある間は、それは何も受信しない。
【0050】
n1−4のタイムスロットでは、機械ステーションが新たな周波数にホッピングしている様子が示されている。その間、プローブステーションは、引き続き周波数チャネルのホッピングと送信を続ける。スロットn1において、プローブステーションと機械ステーションは同じ周波数チャネルにあり、機械ステーションは、プローブステーションからのメッセージを聞いて、そのタイムスロットクロックをプローブステーションに同期させる。すると、機械ステーションはプローブステーションと同期され、同期を保持するための周期的なハンドシェイクが発生する。機械ステーションは、タイムスロットn1において、プローブステーションからのメッセージの受信を確認する。
【0051】
通常、機械ステーションからの受信確認メッセージは、プローブステーションによって受信される。しかし、図5は、プローブステーションが受信確認を聞かないとどうなるかを示している。タイムスロットn1において、機械ステーションは受信確認を送信するが、プローブステーションは、受信待ち状態にあっても受信確認を受信しない。プローブステーションは、次のタイムスロットn1+1にホップし、再度そのメッセージを送信する。機械ステーションが同期されると、タイムスロットn1+1では正しい周波数チャネルで受信待ち状態となるため、プローブステーションからのメッセージを受け取る。機械ステーションは、そのクロックを再び同期させ、メッセージを再び受信確認する。スロットn1+1におけるプローブステーションのメッセージは、図3に示すように、有効に再送信される。
【0052】
同期再生中、機械ステーションが特定の周波数チャネル上で有意なノイズを聞くと、それは、バックグラウンドノイズによってプローブステーションからの送信を無効にするような周波数チャネル上で待機するのではなく、直ちに次の周波数チャネルにホップする。
【0053】
機械ステーションからの無線メッセージにより、プローブステーションをオンにできることが望ましい。この無線によるオンを待機している間、プローブステーションは、その無線スタンバイモードにあり、消費する電池電力の量は動作モードにあるときよりも実質的に低減する。
【0054】
プローブステーション無線スタンバイモードは、周期的アップデートに似ているが、時間スロットはより広く、かつサイクル時間はより長く、つまり、周波数チャネル間のホッピングが遅い。
【0055】
ほとんど常に、データ交換では、プローブステーションがそのID番号を送信し、オンに切り替わるべきかを尋ね、機械ステーションはそれが不要であると応答する。動作モードの場合と同様に、このデータ交換中、機械ステーションはプローブステーションと同期される。プローブステーションは、機械ステーションからの受信確認を受け取らないときには、その後のタイムスロットにおいて、異なる周波数チャネルでメッセージの送信を再試行する。
【0056】
プローブステーションをオンにする必要がある場合、機械ステーションは「オンに切替(turn-on)」と応答し、操作モードに変化する。そしてプローブステーションは、操作モードに切り換る。動作モードでは、機械ステーションは、上記のようにプローブステーションとの同期を維持する。
【0057】
オフにするには、オフのリクエストが機械ステーションから、あるいはプローブステーションから送信されるため(たとえば、タイムアウト等)、メッセージの交換が必要となる。オフになると、プローブステーションと機械ステーションの両方は、上記のような同期された遅いホッピングに戻る。
【0058】
前述したように、プローブステーションと機械ステーションとの間の無線信号は、シリアルバイナリデータのメッセージパケットで構成される。各メッセージには、プローブステーションの識別データまたはアドレスからなるヘッダが含まれ、それは、機械ステーションの受信機が、そのメッセージは当該受信機のためのものか否かを認識し、機械ステーション内のクロックをプローブステーションのクロックに同期させることができるようにする上で必要とされる。
【0059】
機械ステーションは、相関器を用いて、受信するメッセージのヘッダを認識する。
【0060】
図6は、機械ステーションで使用されるスライド式相関器を示す。無線周波数受信復調器26は、プローブステーションから送信される無線信号を受信し、受信したデータのシリアルストリームを大型のシフトレジスタ28に出力する。
【0061】
オーバーサンプリングクロック30の各パルスを受けて、入力されるシリアルデータストリームはサンプリングされ、その値(1または0)がシフトレジスタ28に読み込まれる。同時に、レジスタの内容が右に1ビット分シフトされ、最後のビットは「端からはみ出し(off the end)」、そしてなくなる。
【0062】
ターゲットワードは、別のターゲットレジスタ32に保持される。シフトレジスタの内容は全て、排他的論理和(EOR)ゲート34のアレイにより、連続的に、平行して、1ビットずつターゲットレジスタの内容と比較される。シフトレジスタのビット一つに付き1つのEORゲートが使用され、EORゲートの出力が加算器に加えられて、検出されたビットの一致回数が判断される。
【0063】
検出されたビットの一致回数は比較器38に送られ、ここで、必要な一致回数の閾値40(一般的には95%より大きい)との比較によって、相関関係が検出されたバイナリ出力42が決定される。
【0064】
ターゲットワードはプログラム可能であるため、相関器は、異なる所望のビットシーケンスを検出するように設定することができる。特に、ターゲットワードは、送信機(つまり、取得したパートナーのプローブステーション)から送信されると予想されるヘッダシーケンスに設定される。
【0065】
一般的なシステムにおいて、ヘッダは、データ転送速度が1ビット/マイクロ秒の32ビットのワードとすることができる。オーバーサンプリングクロックは、10倍の転送速度、つまり10MHzで供給され、一致回数の閾値は95%とすることができる。そして、シフトレジスタは10×32=320のフリップフロップを備え、EORゲートアレイは320個のEORゲートを備えることになる。320個のEORゲートの出力は加算器に供給され、加算器は、0から320の中の数字を比較器に出力する。95%またはそれ以上の一致を実現するために、閾値は、320×0.95=304ビットに設定される。したがって、シフトレジスタ内の304またはそれ以上のビットがターゲットワードからの各ターゲットと一致すれば、相関が検出される出力は「真」、一致しなければ「偽」となる。この試験は、オーバーサンプリングクロックの各パルスについて、つまり100ナノ秒おきに行われ、相関が検出された出力がアップデートされる。
【0066】
このシステムの利点は、半二重リンクの一端(one end of the half duplex link)においてのみ、クロック再生が必要となることである。マスタークロックは、プローブステーションに備えられる。機械ステーションでは、スライド式相関器を使って、プローブステーションから送信されるメッセージからクロックデータが再生される。スライド式相関器は、プローブトリガの時間遅延の基準を提供し、受信確認メッセージが既に同期された状態で送信されるようにするため、リンクのマスターエンド(つまり、プローブステーション)でのクロック再生が不要となる。
【0067】
相関器のエラーとしては、2つの種類が考えられる。相関器は、上記のように送信されたメッセージを特定することができない、あるいはメッセージが送信されていないときに一致を報告する、という可能性がある。
【0068】
機械ステーションがプローブステーションからメッセージを受けたと誤って認識した場合、機械ステーションのクロックが同期されず、無線リンクが故障し、エラーメッセージが発生される。プローブステーションは、メッセージを送った直後、ただ機械ステーションの受信確認を持つだけであるため、機械ステーションの受信確認は極めて狭いタイムスロット内で予想される。
【0069】
動作モードにおいて、ノイズが機械ステーションによる受信確認に似て、プローブステーションによるメッセージの再送信を妨げると、故障が生じる。しかしながら、プローブステーションに生じるのは、来るはずのない受信確認を待っているときのこのエラーだけである。
【0070】
送信されるメッセージには、プローブステーションのアドレス、プローブの状態(つまり、所定の位置にあるか、トリガされているか)、タイムスタンプ(つまり、プローブトリガの時刻)、およびバッテリの状態のような数種類の項目の情報が含まれる。これらの内、プローブステーションのアドレスおよびプローブの状態等の一部の項目は、非常に重要である。タイムスタンプは、プローブ状態が「トリガ」である場合は重要であるが、それ以外は重要でない。バッテリの状態の重要性は低い。
【0071】
送信のエラー保護を最適なものとするために、メッセージの最重要データビットは、大きなハミング距離で符号化される。これにより、修正すべきビットエラーが減少し、より多くのビットエラーが拒絶される。より高いハミング距離には、一部のエラー修正を可能にするという利点があるが、送信時間が長くなるという欠点もある。重要性の低いデータには、より軽い程度のエラー保護、たとえば、周期的冗長性チェック(cyclic redundancy check)を用いた複数ビットットエラー検出等が用いられる。
【0072】
例えば、プローブステーションのアドレスとプローブ状態のデータは、ハミング距離6で符号化され、これにより、1ビットのエラー修正と4ビットのエラー検出が可能となる。タイムスタンプとバッテリ状態は、より低いハミング距離4で符号化されて、3ビットのエラー検出が可能である。
【0073】
このように、定期的送信の間に必要な情報(プローブステーションのアドレスとプローブの状態)には、メッセージ内の他の情報よりも高いエラー保護が施される。毎回の定期的送信の間にはいくつかの空のタイムスロットがあり、送信が失敗した場合には、このタイムスロットを使って再送信できる。しかしながら、再送信の失敗が続いて、これらのタイムスロットを使い切ってしまうと、エラー信号が発生されて、システム全体が停止する。したがって、信頼性の高い定期的送信を行い、空のタイムスロットを安全なバッファとして確保しておくことが有利である。
【0074】
プローブの状態が「トリガ」の場合、タイムスタンプのデータは重要となる。このデータのハミング距離は低く、エラーが検出されると再送信される。
【0075】
例えば、1秒間に50回の定期的送信が行われ、1秒間に約1回のトリガがあるかもしれない。したがって、トリガ信号よりも、定期的送信での再送信を避けることの方が重要である。
【0076】
より重要性の高いデータについて、より長いハミング距離の符号(code)を使用するシステムには、定期的送信に必要な再送信の回数を減らすことができるという利点がある。優先順位の低いデータには低いハミング距離の符号が与えられるため、送信時間が短縮される。無線トラフィックとバッテリ寿命もまた同様に減少する。
【0077】
本発明の特徴は、プローブステーションが設置されると、それは、そのパートナーとなる機械ステーションとのみ通信することである。これにより、異なるシステムが相互に干渉し合うことなく、同じ環境で同時に動作することが可能となる。パートナーを組むプロセスでは、プローブステーションの固有の32ビットのIDを機械ステーションに送る。このプロセスの好ましい実施形態において、プローブが機械に設置されると、プローブステーションは「獲得信号送信(Send Acquisition)」モードに入る。このモードにあると、プローブステーションは、その固有のIDと、機械ステーションによって認識される「ヘッダ」と、を含むメッセージを送信する。このメッセージは、定期的に、例えば1ミリ秒に1回、そのホッピングパターンの全てのチャネルを通じて送信される。次のステップで、機械ステーションはオンとなり、例えば10秒間の当初期間に入り、プローブステーションによって送信される「獲得信号送信」の信号を受信できる状態となる。機械ステーションは、受け取った送信の中から「ヘッダ」を認識すると、IDを読み取る。機械ステーションは、そのIDをEEPROM(電気的に消去可能なプログラム可能読み取り専用メモリ)である機械ステーションのメモリに保存し、同じIDを含むプローブステーションに受信確認を送り返す。プローブステーションが自己のIDを含む受信確認を(エラーが発生することなく)受信することに成功すると、「獲得信号送信」プロセスを停止する。これで、プローブステーションと機械ステーションは無事にパートナーとなり、機械ステーションは、このIDを有するプローブステーションとのみ通信する。
【0078】
プローブステーションと機械ステーションがパートナーになると(つまり、同じIDを持つと)、これらは同じチャネルホッピングパターンを持つことになるため、チャネルホッピングの間にも通信できる。
【0079】
送信システムのプローブステーションと機械ステーションは、世界的な許可取得不要の無線周波数帯域を使って信号を送信することができる。この帯域は、例えば2.4GHzや5.6GHzである。これには、製造中にプローブステーションと機械ステーションをこれらの周波数帯域内で機能するように設定でき、その結果、同じバージョンのプローブを世界のどこでも使用することが可能となる、という利点がある。
【0080】
上記の実施形態において、プローブステーションは機械ステーションに正則的な送信を行う。しかしながら、機械ステーションが情報を求める正則的送信を行い、これに応答してプローブステーションが(例えば、測定値や時間情報の)情報を記録し、これを機械ステーションに送信するという形態も可能である。
【0081】
上記の実施形態では、プローブステーションと機械ステーションが同期する正則的送信と、タッチトリガイベントに関するデータを含む順序外れのイベントにより駆動される送信について説明した。しかしながら、正則的な送信シーケンスに、タッチトリガイベントに関するデータを含め、順序外れイベントによって駆動される送信を不要とすることもできる。この場合、データには、タッチトリガイベントの時刻に関する情報を含める必要がある。
【0082】
本発明は、タッチトリガプローブに限定されない。この送信システムは、スキャニングプローブ用にも適している。この場合、正則的送信には、プローブの偏向とその偏向の時刻に関するデータが含まれる。
【0083】
同様に、この送信システムは、工作機械や三次元座標測定機等の三次元座標位置決め装置で使用される他の測定器にも適している。工作機械や三次元座標測定機の校正を行うためにボールバー装置が使用され、これが米国特許第4,435,905号に開示されている。この装置は、各端部にボールが備えられた長い伸縮バーより成る。使用中、ボールの各々は、機械のスピンドルとテーブルに各々設置されたソケット内に保持され、テーブル上のソケット内に保持されたボールを中心とする円形の経路に沿って、アームが駆動される。バーに設けられた単軸変換機により、各ボールの中心間の間隔の変化を測定して、ツールホルダの経路がどれだけ円形の経路から外れるかを測定する。単軸変換機からのデータは、ケーブルを介して機械制御装置に伝えられるが、これには、ボールバーで可能な回転回数が制限されるという欠点がある。本発明の送信システムを使用することにより、変換機の出力と、これに応答するデータは、無線信号で送信できるため、ケーブルが不要となり、ボールバーは連続して何回転もすることが可能となる。このような送信システムは、温度プローブ等、他の測定器にも使用できる。
【0084】
上記の実施形態は、周波数ホッピングの利用について説明したものであるが、直接拡散方式等、他の種類のスペクトル拡散無線リンクもまた、本発明においての使用に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のステーションを備える測定プローブと、
第2のステーションを備える座標測定装置と、
を備え、
前記第1のステーションは、スペクトル拡散無線リンクによって前記第2のステーションと通信し、
前記第1のステーションは、メッセージを第1の電力レベルで第2のステーションに送信するように配置され、
前記第2のステーションが前記メッセージを受信しないときに、前記メッセージは、前記第1のステーションによって前記第1の電力レベルよりも高い第2の電力レベルで再送信される
ことを特徴とする測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−101685(P2013−101685A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−19830(P2013−19830)
【出願日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【分割の表示】特願2010−108355(P2010−108355)の分割
【原出願日】平成15年12月18日(2003.12.18)
【出願人】(391002306)レニショウ パブリック リミテッド カンパニー (166)
【氏名又は名称原語表記】RENISHAW PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】