説明

測定方法

【課題】検査容器と磁界発生部との厳密な位置合わせを要することなく、正確な濃度測定を行うことを可能とする測定方法を提供する。
【解決手段】本発明は、発光スペクトルが既知である磁気粒子と、発光スペクトルが既知である発光標識と、を用いて被測定物質の濃度を測定する測定方法において、前記磁気粒子、前記発光標識、および前記被測定物質を反応させた反応複合体を検査容器に収容する工程と、前記検査容器内の一部に前記反応複合体を集める工程と、集められた前記反応複合体に光を照射する工程と、前記照射された光に伴う発光スペクトルを検出する工程と、前記磁気粒子の既知の発光スペクトルに基づいて前記反応複合体のうちの前記磁気粒子の成分量を算出する工程と、前記発光標識の既知の発光スペクトルに基づいて前記反応複合体のうちの前記発光標識の成分量を算出する工程と、前記磁気粒子の成分量と前記発光標識の成分量の比から検量線を用いて、前記被測定物質の濃度を求める工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光やラマン散乱光などの光強度を検出することによって、抗体と反応した被測定物質の濃度を測定するための測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から知られている抗原抗体反応を利用した免疫測定方法として、蛍光免疫測定方法がある。この方法では、まず、試料中の被測定物質(抗原)を、抗体が結合された蛍光体(発光標識)と、抗体が結合された磁気粒子に反応させて、反応複合体を作成する。そして、上記反応複合体に光を照射した時に発する蛍光強度を測定して、該試料に含まれる被測定物質の量を測定する。この時、反応複合体を磁石で集合させた上で、当該反応複合体に向けてレーザー光を照射することで測定の精度を向上させる。当該反応複合体から発せられる蛍光の強度は、被測定物質の量に比例することを利用して、被測定物質を定量測定する。(特許文献1)
また、抗原抗体反応を利用した種々の免疫測定方法では、その分析測定値(吸光度や蛍光光量等の測定された物理量)から検体中の測定対象物の濃度を求めることが行われている。このとき、既知量の測定対象物を含む標準試料を予め測定することにより、標準試料中の測定対象物濃度と分析測定値の対応関係を求めた検量線を作成し、該検量線との比較において測定対象物の濃度を決定することが知られている。(特許文献2)
【特許文献1】特開平5−249114号公報
【特許文献2】特開2000−146975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
免疫測定では、測定するためのサンプル数(検査容器数)が多く、処理速度を高めないと膨大な測定時間を費やしてしまう。このため、測定系に検査容器をセットする際には、検査容器内の反応複合体を集合させるための磁石と検査容器との細かい位置決めは省略される。
【0004】
ここで、検査容器と磁石との間隔が短い時は、検査容器の周囲の磁力線の間隔が密で磁界が強い。よって、磁石によってひきつけられる反応複合体の数は多くなる。
【0005】
一方、検査容器と磁石の間隔が長い時は、検査容器と磁石の間隔が短い場合に比べて磁界が弱くなるため、磁石によってひきつけられる反応複合体の数は少なくなる。このように、検査容器内に存在する反応複合体の数が等しい場合でも、測定範囲(レーザースポット)内にある反応複合体の数が、検査容器と磁石との位置関係に応じて測定ごとに異なることとなる。このため、反応複合体を構成する発光標識からの蛍光強度も異なることとなり、正確な被測定物質(抗原)の濃度測定を行うことができないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記のような課題を解決するためのものであり、本発明の測定方法は、発光スペクトルが既知である磁気粒子と、発光スペクトルが既知である発光標識と、を用いて被測定物質の濃度を測定する測定方法において、前記磁気粒子、前記発光標識、および前記被測定物質を反応させた反応複合体を検査容器に収容する工程と、前記検査容器内の一部に前記反応複合体を集める工程と、集められた前記反応複合体に光を照射する工程と、前記照射された光に伴う発光スペクトルを検出する工程と、前記磁気粒子の既知の発光スペクトルに基づいて前記反応複合体のうちの前記磁気粒子の成分量を算出する工程と、前記発光標識の既知の発光スペクトルに基づいて前記反応複合体のうちの前記発光標識の成分
量を算出する工程と、前記磁気粒子の成分量と前記発光標識の成分量の比から検量線を用いて、前記被測定物質の濃度を求める工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の測定方法は、前記検量線は、磁気粒子、発光標識の数をそれぞれ一定数とした上で、濃度が既知である被測定物質を反応させた反応複合体を検査容器に収容する工程と、前記検査容器内の一部に前記反応複合体を集める工程と、集められた前記反応複合体に光を照射する工程と、前記照射光に伴う発光スペクトルを検出する工程と、前記発光スペクトルに基づいて前記反応複合体のうちの前記磁気粒子の成分量を算出する工程と、前記発光スペクトルに基づいて前記反応複合体のうちの前記発光標識の成分量を算出する工程と、によって作成されることが好ましい。
【0008】
また、本発明の測定方法は、発光スペクトルが既知である磁気粒子と、発光スペクトルが既知である発光標識と、発光スペクトルが既知である検査容器を用いて被測定物質の濃度を測定する測定方法において、前記磁気粒子、前記発光標識、および前記被測定物質を反応させた反応複合体を前記検査容器に収容する工程と、前記検査容器内の一部に前記反応複合体を集める工程と、集められた前記反応複合体に光を照射する工程と、前記照射光に伴う発光スペクトルを検出する工程と、前記発光スペクトルに基づいて前記反応複合体のうちの前記磁気粒子の成分量を算出する工程と、前記発光スペクトルに基づいて前記反応複合体のうちの前記発光標識の成分量を算出する工程と、前記発光スペクトルに基づいて前記検査容器の成分量の比を算出する工程と、前記磁気粒子の成分量と前記発光標識の成分量の比から検量線を用いて、前記被測定物質の濃度を求める工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の測定方法は、前記検量線は、磁気粒子、発光標識のそれぞれを一定数とした上で、濃度が既知である被測定物質を反応させて反応複合体を作成する工程と、前記反応複合体を検査容器に収容する工程と、前記検査容器内の一部に前記反応複合体を集める工程と、集められた前記反応複合体に光を照射する工程と、前記照射光に伴う発光スペクトルを検出する工程と、前記発光スペクトルに基づいて前記反応複合体のうちの前記磁気粒子の成分量の比を算出する工程と、前記発光スペクトルに基づいて前記反応複合体のうちの前記発光標識の成分量を算出する工程と、前記発光スペクトルに基づいて前記検査容器の成分量を算出する工程と、前記磁気粒子の成分量と前記発光標識の成分量の比と、前記被測定物質の濃度と、を対応付ける工程と、によって作成されることが好ましい。
【0010】
また、本発明の測定方法は、前記発光標識の成分量を前記磁気粒子の成分量で除した値が所定の値以上であるかを判定する工程と、前記値が所定の値以上であるときには、前記磁気粒子、前記発光標識、および前記被測定物質を反応させた反応複合体の濃度を希釈する工程と、を有することが好ましい。
【0011】
また、本発明の測定方法は、前記検査容器内の一部に前記反応複合体を集める工程では、磁力によって前記反応複合体を集めることが好ましい。
【0012】
また、本発明の測定方法は、前記検査容器内の一部に前記反応複合体を集める工程では、遠心力によって前記反応複合体を集めることが好ましい。
【0013】
また、本発明の測定方法は、発光スペクトルが既知である磁気粒子と、発光スペクトルが既知である発光標識と、を用いて被測定物質の濃度を測定する測定方法において、検査容器内に拡散させる前記磁気粒子の数を一定にしたまま、前記検査容器内に拡散させる前記被測定物質の数を変化させて、前記磁気粒子の成分量および前記発光標識の成分量の比と、前記被測定物質の濃度と、の関係を求める工程と、前記磁気粒子の数と同じ数の磁気粒子を検査容器内に拡散させる工程と、前記発光標識の数と同じ数の発光標識を検査容器
内に拡散させる工程と、数が未知である被測定物質を前記検査容器内に拡散させる工程と、前記磁気粒子、前記発光標識、および前記被測定物質を反応させる工程と、前記検査容器内の一部に前記反応により生じた反応複合体を集める工程と、集められた前記反応複合体に光を照射する工程と、前記照射された光に伴う発光スペクトルを検出する工程と、前記磁気粒子の既知の発光スペクトルおよび前記発光標識の既知の発光スペクトルに基づいて、前記反応複合体のうちの前記磁気粒子の発光スペクトルと、前記発光標識の発光スペクトルと、を分離する工程と、前記反応複合体のうちの前記磁気粒子の発光スペクトルから、前記磁気粒子の成分量を求める工程と、前記反応複合体のうちの前記発光標識の発光スペクトルから、前記発光標識の成分量を求める工程と、前記関係に基づいて、前記求められた磁気粒子の成分量および前記求められた発光標識の成分量の値から、前記数が未知である被測定物質の濃度を求める工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の測定方法によれば、測定範囲(レーザースポット)内に集められた反応複合体の数が、ばらついていても、被測定物質の濃度を正確に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態に係る測定方法に用いる測定系の模式的斜視図である。
【図2】第1実施形態に係る測定方法に用いる測定系の模式的断面図である。
【図3】検査容器の斜視図である。
【図4】(A)抗体が結合された発光標識、(B)被測定物質、(C)抗体が結合された磁気粒子を模式的に示す図である。
【図5】反応複合体を模式的に示す図である。
【図6】磁界発生部300と検査容器400との位置関係に応じた反応複合体の集合の様子を模式的に示す図である。
【図7】反応複合体、磁気粒子、発光標識の発光スペクトルを示す図である。
【図8】磁気粒子および発光標識の成分量の比(a2/a1)から被測定物質の濃度を求める検量線を示す図である。
【図9】各成分量と被測定物質の濃度との関係の一例を示す図である。
【図10】磁気粒子および発光標識の成分量の比(a2/a1)から被測定物質の濃度を求める検量線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、第1実施形態を、図面を参照しつつ説明する。図1は第1実施形態に係る測定方法に用いる測定系の模式的斜視図であり、図2は第1実施形態に係る測定方法に用いる測定系の模式的断面図である。図1及び図2において、100は光源部、210は励起光照射用レンズ、220は信号検出用レンズ、300は磁界発生部、400は検査容器、500は光検出部、600は演算部をそれぞれ示している。
【0017】
第1実施形態に関わる測定方法は、検査容器400内の抗体と反応した被測定物質(抗原)の濃度を測定するためのものである。測定をするための測定系は、概略、入射光学系と、検出光学系と、磁界発生部とを有している。入射光学系は、検査容器400に光を照射する。検出光学系は、検査容器400内の反応複合体における磁気粒子および発光標識からの光を検出する。磁界発生部は、検査容器400内の反応複合体を所定位置に集める。
【0018】
入射光学系を構成する光源部100としては、例えばレーザー、レーザーダイオード、またはLED等を用いることができる。この光源部100から発せられた光は、励起光照射用レンズ210によって測定領域に励起光を集光する。このレンズとしては、開口数(NA)の大きいものが好ましい。NAが大きいと、レーザースポット径を数10μm以下
に小さくできる。
【0019】
すなわち、後述するように、磁界発生部300によって、反応複合体を所定の狭い領域に集合させるため、光源部100からの光は狭い領域に照射されていることが好ましい。一方、反応していない発光標識からの発光は、バックグラウンドノイズになる。従って、レーザースポット径が小さい場合、反応複合体を構成する発光標識のみ効率よく励起できるとともに、被測定物質と未反応の発光標識の励起を抑制することができる。
【0020】
光源部100からの励起光によって、反応複合体を構成する発光標識および磁気粒子から発せられた蛍光もしくはラマン散乱光等は、信号検出用レンズ220によって集められ、光検出部500で集光する。この信号検出用レンズ220としては、開口数(NA)の大きいものが好ましい。これはNAが大きいと、反応複合体を構成する発光標識および磁気粒子から発せられた蛍光もしくは、ラマン散乱光等を効率よく集光することができるからである。また、光検出部500としては、分光器を使用する。励起光の除去が必要ならば、干渉フィルタを光検出部500よりも光源部100側に設けることで、励起光の影響を除くことも可能である。光検出部500は光の強度を測定(スペクトルを測定)し、この光検出部500の測定結果は、データ処理用コンピュータなどの演算部600に入力され、データの蓄積・解析に利用される。
【0021】
磁界発生部300には、例えばネオジウム磁石や電磁石のような、比較的強力な磁力を有する磁石が用いられる。磁界発生部300の先端に検査容器400を配することで、検査容器400内の反応複合体を集める。
また、磁界発生部300の先端位置は、励起光照射用レンズ210の焦点位置及び信号検出用レンズ220の焦点位置と略一致している。図3は検査容器400の斜視図である。この検査容器400は、マイクロリットルからミリリットル程度の試料を入れることができるプラスチック製のキュベットなどであり、例えばエッペンドルフチューブやマイクロチューブを用いることができる。なお、検査容器400の材質は、磁力を通すものであればよく、ガラス製等であっても構わない。また、検査容器400は、必ずしも測定系自体に、固定的に付属されるものではなく、使い捨てることもできる。
【0022】
検査容器400内に収容される試料について説明する。図4(A)は抗体が結合された発光標識、図4(B)は被測定物質(抗原)、図4(C)は抗体が結合された磁気粒子を模式的に示している。図5はこれらから生成される反応複合体を模式的に示す図である。図4(A)、(C)中における、Y字形状の物体が、抗体を示している。図4(A)、(C)に用いられている抗体は、図4(B)の被測定物質(抗原)と抗原抗体反応する。
【0023】
あらかじめ、検査容器400内などで抗体が結合された発光標識と、被測定物質(抗原)と、を抗原抗体反応させ所定の反応複合体を生成する。さらに、この反応複合体に、抗体が結合された磁気粒子を抗原抗体反応させることによって、図5に示すような反応複合体を作成する。このようにして生成される反応複合体が試料として検査容器400内に収容される。
【0024】
検査容器400が測定系にセットされると、磁界発生部300の磁気が、検査容器400内の反応複合体の磁気粒子部分に作用して、反応複合体が、所定の位置に集められる。より具体的には、反応複合体は、検査容器400の内壁部であって、磁界発生部300の磁力が強い箇所に集められる。
【0025】
上記の発光標識としては、光照射によって蛍光等を発するものもしくはラマン散乱光等を発生するもの、例えば、蛍光マイクロビーズやSERSナノタグが用いられる。
【0026】
蛍光マイクロビーズは、多くの製造業者によって提供されており、例えば、Molecular Probes社からは、488nm励起で515nm−660nmの蛍光を発するプローブ(フローサイトメトリーアラインメントビーズ)が提供されている。
【0027】
また、SERSナノタグとは、光照射によって強いラマン散乱光を発生する直径数10nm〜数100nmの大きさを持つ粒子である。例えば、US7192778に掲載されており、800〜1800cm-1のラマン散乱光を発光する。たとえば、633nm励起光を照射すると670nm〜710nmのラマン散乱光を発生する。この構造は、約60nmのラマン活性レポーター分子を付着させた金ナノ粒子をポリマー、ガラスまたは任意の他の誘電性材料を含む被包シェルでシールドした構造である。ここで、発光標識は、化学的に安定であること、光源部100から発せられた光の波長で励起可能な吸収帯を有すること、発光標識と磁気粒子との非特異的な吸着が無い材質であることが望ましい。
【0028】
磁気粒子(磁気ビーズ)は、ポリスチレンビーズであり、磁性物質(Fe23)が一様に分布したコアが親水性ポリマーで被われた直径数100nm〜数μmの大きさを持つ粒子状の物体である。このような磁気粒子としては、例えば、ダイナビーズ(ダイナル社製)が知られている。また、本実施形態の測定方法で用いる磁気粒子としては、蛍光磁気ビーズであっても構わない。この蛍光磁気ビーズは、磁性物質のコアの周囲に蛍光色素が塗布されており、直径数100nm〜数μmの大きさを持つ粒子状物体である。例えば、nano−screenMAG(Chemicell社製)が知られている。なお、磁性物質は、磁力に引き付けられるのであって、磁気ビーズ自体や蛍光磁気ビーズ自体が磁力を発しているわけではない。すなわち、磁性物質は、外部磁場が無いときには磁化を持たず、磁場を印加するとその方向に弱く磁化するため、常磁性体である。
【0029】
測定系においては、上記のような反応複合体は磁界発生部300によって検査容器400内の所定箇所に集められ、入射光学系によって反応複合体を構成している発光標識ならびに磁気粒子が励起されて、蛍光等もしくはラマン散乱光等を放出する。これを検出用光学系で捕捉し、光強度を測定(スペクトルを測定)することによって、発光標識の数、すなわち、被測定物質(抗原)の数を測定するものである。
【0030】
次に磁界発生部300と検査容器400との位置関係に応じた反応複合体の集合の様子について説明する。図6(A)は磁界発生部300と検査容器400との間の距離が比較的長い場合の反応複合体の集合の様子を模式的に示す図であり、図6(B)は磁界発生部300と検査容器400との間の距離が比較的短い場合の反応複合体の集合の様子を模式的に示す図である。また、いずれの図においても、点線で囲まれる部分が、入射光学系によって照射され、検出光学系で捕捉される測定範囲(レーザースポット)である。図6に示すように、検査容器400内に存在する反応複合体の数が等しい場合でも、磁界発生部300と検査容器400との間の距離に応じて、測定範囲(レーザースポット)内に集められる反応複合体の数は、変わってくることとなる。測定範囲(レーザースポット)内に集められる反応複合体の数が変わるということは、反応複合体を構成する発光標識からの蛍光強度(またはラマン散乱光強度)も変化する。したがって、単純に、反応複合体を構成する発光標識からの蛍光強度(またはラマン散乱光強度)のみによっては、被測定物質(抗原)の濃度を正確に測定することができない。すなわち、測定範囲(レーザースポット)内に、全ての反応複合体を集めることができなければ、その分、発光標識からの蛍光強度(またはラマン散乱光強度)が弱くなるため、その強度のみに基づいて、被測定物質(抗原)の濃度を算出すると、正しい濃度よりも、低い値を算出してしまう。
【0031】
そこで、本実施形態の測定方法では、測定によって得られた蛍光(またはラマン散乱光)の成分量を、測定範囲(レーザースポット)内にある反応複合体の磁気粒子の成分量で規格化することで、測定範囲(レーザースポット)内にある反応複合体の数のばらつきに
よる反応複合体を構成する発光標識からの蛍光強度ばらつきがあっても、被測定物質の濃度を正確に測定することを可能とする。以下、本実施形態の測定法について、各ステップに分けてより詳細に説明する。
<1.検量線作成ステップ>
(1−1)磁気粒子の発光スペクトル(So1(λ))測定工程
純水で希釈した磁気粒子を検査容器400内に収容し、検査容器400を本実施形態の測定系にセットする。磁界発生部300によって検査容器400内の磁気粒子は略一点に集められ、集められた磁気粒子に入射光学系により励起光を照射し、光検出部500で磁気粒子の発光スペクトルを測定する。発光スペクトルとは、光の波長(λ)の関数として得られた被測定物物質の発光強度である。本測定では、この発光スペクトルが磁気粒子の発光スペクトルになる。磁気粒子の発光スペクトル測定は、磁気粒子を変更しない限り、再び行う必要はない。なお、磁気粒子の発光は、磁気ビーズを用いた場合には、材料として用いられているポリスチレンの蛍光によるものであり、蛍光磁気ビーズを用いた場合には、材料として用いられているポリスチレンの蛍光と蛍光色素の蛍光によるものである。(1−2) 発光標識の発光スペクトル(So2(λ))測定工程
純水で希釈した発光標識を検査容器400内に収容し、測定系にセットする。入射光学系により励起光を照射し、光検出部500で発光スペクトルを測定する。このスペクトルが発光標識の発光スペクトルになる。本測定では、発光標識の濃度を、通常の測定時に比べて高くする必要がある。何故なら、発光標識は磁性を有さないため、磁界発生部300では発光標識を励起光の照射される測定範囲(レーザースポット)内に集めることができない。このため、発光標識の濃度を、通常の測定時に比べて高くすることで、発光標識の発光スペクトルを効率的に測定することができる。発光標識のスペクトル測定は、発光標識を変更しない限り、再び行う必要はない。
(1−3) スペクトル分離工程
検査容器400に、抗体が結合された発光標識と、被測定物質と、抗体が結合された磁気粒子と、を添加後、充分に攪拌させながら反応させ、反応複合体を作成する。その後、検査容器400を測定系にセットする。ここで、検査容器400内における、被測定物質の濃度は予めわかっている。
【0032】
磁界発生部300によって検査容器400内の反応複合体は一か所に集められ、集められた反応複合体に励起光を照射し、光検出部500で反応複合体の発光スペクトル(S(λ))を測定する。光検出部500からの出力は、データ処理用コンピュータなどの演算部600に入力され、データの解析を行う。
【0033】
反応複合体の発光スペクトル(S(λ))は、光の波長λの関数として得られた発光強度{S(λ1)、S(λ2)・・・S(λN)}(Nは離散データ点数)である。
【0034】
また、反応複合体を構成する2つの成分の個々のスペクトル波形が、それぞれ
磁気粒子の発光スペクトル(So1(λ))は、{So1(λ1)、So1(λ2)・・・So1(λN)}(Nは離散データ点数)であり、
発光標識の発光スペクトル(So2(λ))は{So2(λ1)、So2(λ2)・・・So2(λN)}(Nは離散データ点数)であるとする。
【0035】
一般に反応複合体の発光スペクトルは、磁気粒子および発光標識のそれぞれの発光スペクトル波形にそれぞれの成分量をかけたスペクトルの合成であることが知られている。
【0036】
これを数式で表すと、
S(λ)= a1×So1(λ)+ a2×So2(λ) となる。ただし、a1は磁気粒子の成分量であり、a2は発光標識の成分量である。なお、反応複合体、磁気粒子および発光標識の発光スペクトルの一例を図7に示す。
【0037】
工程(1−1)及び工程(1−2)によって、発光スペクトルSo1(λ)、So2(λ)が既知なので、重回帰分析等によって、反応複合体の発光スペクトルS(λ)から、混合物の成分量a1、a2を求めることが可能となる。
(1−4) 検量線の作成工程
工程(1−3)の手法によれば、反応複合体の発光スペクトルから、磁気粒子および発光標識の成分量a1、a2、ならびに成分量の比(a2/a1)を求めることができる。これにより、既知の被測定物質の濃度と磁気粒子および発光標識の成分量の比(a2/a1)を対応させることができる。そこで、被測定物質の濃度を変化させて、工程(1−3)を繰り返すことで、被測定物質の濃度と、磁気粒子および発光標識の成分量の比(a2/a1)と、を対応させた検量線(図8)を作成することができる。この際、被測定物質の濃度は変化させるが、磁気粒子と発光標識の、検査容器400内における数は一定である必要がある。より具体的には、ある濃度に調整された、磁気粒子の溶液と、発光標識の溶液と、を毎回同じ量だけ検査容器400内に収容しながら、被測定物質の濃度を変化させればよい。
【0038】
例えば、被測定物質が高濃度の場合は、磁気粒子に結合する発光標識の分子数が増加する。そのため、被測定物質が高濃度の場合は、a2/a1の値は大きくなる。逆に、被測定物質が低濃度の場合は、a2/a1の値は小さくなる。
【0039】
発光標識の成分量a2を磁気粒子の成分量a1で除した値(これをαとする)は、いわば、発光標識の成分量を磁気粒子の成分量を分母として規格化した値となるので、測定範囲(レーザースポット)内にある反応複合体の数のばらつきに無関係に被測定物質の濃度を求めることができるようになる。すなわち、測定範囲(レーザースポット)内に、全ての反応複合体を集めることができない場合、発光標識の成分量a2の値は、その分小さくなるため、a2のみに基づいて被測定物質の濃度を求めようとしても、実際より低い値を算出してしまう。しかしながら、測定範囲(レーザースポット)内に、全ての反応複合体を集めることができなくても、磁気粒子の成分量に対する発光標識の成分量の値は、全ての反応複合体を測定範囲(レーザースポット)内に集めることができた場合と変わらない。
【0040】
なお、個々の反応複合体を構成している被測定物質の数は、厳密には、一定でない。すなわち、厳密には、測定範囲(レーザースポット)内にある反応複合体の数のばらつきのみならず、個々の反応複合体を構成している被測定物質の数のばらつきも存在する。例えば、ある磁気粒子は、被測定物質と、全く結合していない場合や、被測定物質が過剰に結合している場合もあり得る。
【0041】
しかしながら、反応複合体を複数集めて、反応複合体からの光をマクロ的に検出すれば、個々の反応複合体を構成している被測定物質の数のばらつきは統計的に平均化される。従って、上述した、「反応複合体」との記載には、実際には反応複合体を構成していない磁気粒子も含むものとする。
【0042】
なお、上記では、a2/a1の値に基づいて検量線を作成したが、a1/a2の値に基づいて検量線を作成することも可能である。
【0043】
次に、被測定物質の濃度の測定方法について説明する。これは、この測定方法は、測定ステップと、解析ステップから構成される。
<2.測定ステップ>
検査容器400に、抗体が結合された発光標識と、濃度が未知である被測定物質と、抗体が結合された磁気粒子と、を添加後、十分に攪拌させながら反応させ、反応複合体を作
成する。
【0044】
その後、検査容器400を測定系にセットする。磁界発生部300によって検査容器400内の反応複合体は一か所に集められ、集められた反応複合体に励起光を照射し、光検出部500で反応複合体の発光スペクトル(S(λ))を測定する。光検出部500の出力は、データ処理用コンピュータなどの演算部600に入力され、データの解析を行う。
【0045】
ここで、反応に使用した磁気粒子と発光標識の量と濃度は、検量線作成方法で用いた時と同じである。また、磁気粒子と発光標識の濃度を、所定の濃度(検量線作成方法で用いた濃度)に再現する分注手法は、既に確立されている。
<3.解析ステップ>
解析ステップは、下記3ステップから成り立つ。
(3−1)スペクトル分離工程
事前に測定した磁気粒子の発光スペクトルSo1(λ)、発光標識の発光スペクトルSo2(λ)を用いて、光検出部500で得られた発光スペクトルS(λ)を、So1(λ)と、So2(λ)に分離する。
S(λ)= a1×So1(λ)+ a2×So2(λ)・・・・(1)
発光スペクトルSo1(λ)、So2(λ)が既知なので、重回帰分析等によって、反応複合体の発光スペクトルS(λ)から、混合物の成分量a1、a2を求める。
(3−2)濃度計算工程
スペクトル分離工程(工程3−1)で求められる磁気粒子および発光標識の成分量から、磁気粒子および発光標識の成分量の比(a2/a1)を求める。検量線の作成工程(工程1−4)で求めてある検量線を利用して、被測定物質の濃度を求める。
【0046】
以上のような本実施形態の測定方法では、測定によって得られた蛍光(またはラマン散乱光)の成分量を、測定範囲(レーザースポット)内にある反応複合体の磁気粒子の成分量で規格化するものである。このため、測定範囲(レーザースポット)内にある反応複合体の数がばらついていても、被測定物質の濃度を正確に測定することが可能となる。
【0047】
ここで、図9を用いて、より具体的に本実施形態を説明する。
【0048】
例えば、磁気粒子の発光スペクトル測定工程(工程1−1)、発光標識の発光スペクトル測定工程(工程1−2)、スペクトル分離工程(工程1−3)を経て、磁気粒子の成分量a1=5、発光標識の成分量a2=10が得られる(図9の1行目の例)。この時の、被測定物質の濃度は、既知であり、0.01である。
【0049】
また、容器400内の磁気粒子と発光標識の数が一定であるという条件の下、被測定物質の濃度を変化させながら、発光標識の成分量を得る。具体的には、被測定物質の濃度が0.02のとき、磁気粒子の成分量a1=5、発光標識の成分量a2=20(図9の2行目の例)である。被測定物質の濃度が0.03のとき、磁気粒子の成分量a1=5、発光標識の成分量a2=30(図9の3行目の例)である。被測定物質の濃度が0.04のとき、磁気粒子の成分量a1=5、発光標識の成分量a2=40(図9の4行目の例)である。
【0050】
このように、測定を繰り返すことで、被測定物質の濃度と、磁気粒子および発光標識の成分量の比(a2/a1)と、を対応させた検量線を作成することができる(工程1−4)。
【0051】
次に、測定ステップにおいて、被測定物質の濃度を求める方法について述べる。ここで、仮に、被測定物質の数が100であったとする。なお、実際の測定ステップにおいては
、被測定物質の数は未知である。
1)検査容器400と磁界発生部300の距離が近く、磁石によってひきつけられる反応複合体の数が多い場合。
【0052】
例えば、磁界発生部300により、反応複合体を全てひきつけることができれば、反応複合体中の全ての磁気粒子(数:50)および発光標識(数:100)からの発光スペクトルを計測できる。
【0053】
ここで、発光標識の成分量と磁気粒子の成分量の比は、被測定物質の濃度に比例する。この点について、以下説明する。
【0054】
磁気粒子の成分量は、磁気粒子の数に比例する。例えば、磁気粒子の成分量a1=5に相当する磁気粒子の数は、50である。また、磁気粒子の成分量a1=10に相当する磁気粒子の数は、100である。
【0055】
同様に、発光標識の成分量は、発光標識の数に比例する。例えば、発光標識の成分量a2=10に相当する発光標識の数は、100である。また、発光標識の成分量a2=20に相当する発光標識の数は、200である。
【0056】
そうすると、発光標識の成分量(10)と、当該発光標識に被測定物質を介して反応している磁気粒子の成分量(5)とにより求められる比(a2/a1)=(10/5)は、発光標識の数(100)と、当該発光標識に被測定物質を介して反応している磁気粒子の数(50)との比(100/50)に比例する。
【0057】
また、発光標識の数(100)は、当該発光標識に反応している被測定物質の数(100)と同じである。従って、発光標識の数(100)と、当該発光標識に被測定物質を介して反応している磁気粒子の数(50)とにより求められる比(100/50)は、被測定物質の数(100)と、当該被測定物質に反応している磁気粒子の数(50)とにより求められる比(100/50)に一致する。
【0058】
そうすると、発光標識の成分量と、当該発光標識に被測定物質を介して反応している磁気粒子の成分量と、の比は、被測定物質の数と、当該被測定物質に反応している磁気粒子の数と、の比に比例する。
【0059】
また、被測定物質の数は、被測定物質の濃度に比例する。
【0060】
以上により、容器400内の磁気粒子と発光標識の数が一定であるという条件の下では、発光標識の成分量と磁気粒子の成分量の比は、被測定物質の濃度に比例する。
【0061】
一方、被測定物質の数は、被測定物質の濃度に比例している。
【0062】
何故なら、反応複合体中の全ての磁気粒子からの発光スペクトルを計測できるのであれば、発光標識の成分量は、発光標識の数に比例する。例えば、発光標識の成分量a2=10に相当する発光標識の数は、100である。また、発光標識の成分量a2=20に相当する発光標識の数は、200である。
【0063】
また、発光標識の数(100)は、当該発光標識に反応している被測定物質の数(100)と同じである。被測定物質の数は、被測定物質の濃度に比例する。
【0064】
以上により、発光標識の成分量は、被測定物質の濃度に、比例する。
【0065】
このように、反応複合体中の全ての磁気粒子からの発光スペクトルを計測できるという条件の下では、発光標識の成分量と磁気粒子の成分量の比と、被測定物質の濃度と、の関係によって検量線を作成しても(本実施形態の方法)、発光標識の成分量と、被測定物質の濃度と、の関係によって検量線を作成しても(従来の方法)、測定ステップで得られる被測定物質の濃度は正しい。
2)検査容器400と磁界発生部300の距離が離れていて、磁石によってひきつけられる反応複合体の数が少ない場合。
【0066】
磁界発生部300により、一部の反応複合体のみをひきつけることができた場合を考える。例えば、検査容器400内に存在する磁気粒子の数は50で、発光標識の数が100にも関わらず、その一部である磁気粒子(数:40)および発光標識(数:80)からの発光スペクトルを計測できたと仮定する。
【0067】
すなわち、解析ステップにおいて、磁気粒子の成分量a1=4、発光標識の成分量a2=8が得られる。
【0068】
そうすると、発光標識の成分量(8)と、当該発光標識に被測定物質を介して反応している磁気粒子の成分量(4)とにより求められる比は、2(=8/4)であることがわかる。この比は、仮に、磁界発生部300により、全ての磁気粒子をひきつけることができた場合における、発光標識の成分量(10)と、当該発光標識に被測定物質を介して反応している磁気粒子の成分量(5)とにより求められる比、と一致する。したがって、被測定物質の所定の濃度に対して、磁界発生部300がひきつけることのできた磁気粒子の数にかかわらず、発光標識の成分量と磁気粒子の成分量の比は同じになる。
【0069】
ここで、「被測定物質の濃度」と「発光標識の成分量および当該発光標識に被測定物質を介して反応している磁気粒子の成分量の比」の関係によって検量線を求める本実施形態の方法ではなく、単に「被測定物質の濃度」と「発光標識の成分量」の関係によって検量線を求める従来の方法について考える。
【0070】
従来の方法によると、発光標識の成分量が10と測定されたときには、検量線に基づいて、被測定物質の濃度を、例えば0.01として求めることになるし、発光標識の成分量が8と測定されたときには、被測定物質の濃度を0.008として求めることとなる。
【0071】
すなわち、従来の方法では、一部の磁気粒子(数:50−40=10)が充分に磁石によってひきつけることができなかったため、測定容器内に反応している全ての発光スペクトルを検出できていない。このため、実際よりも少ない発光スペクトルに基づいて、被測定物質の濃度を求めてしまうこととなるのである。
【0072】
このように、「被測定物質の濃度」と「発光標識の成分量」の関係によって検量線を求める従来の方法によると、実際の濃度とは異なる値を算出してしまう可能性が高い。
【0073】
本実施形態では、検量線をいったん求めておけば、定常的には以下の一連のステップによって、被測定物質の濃度を求めることが可能である。すなわち、磁気粒子、発光標識、被測定物質を反応させた反応複合体を検査容器に収容するステップと、検査容器400内の一部に反応複合体を集めるステップと、集められた反応複合体に光を照射するステップと、照射光に伴う発光スペクトルを検出するステップと、発光スペクトルに基づいて反応複合体のうちの磁気粒子の成分量を算出するステップと、発光スペクトルに基づいて反応複合体のうちの発光標識の成分量を算出するステップと、磁気粒子の成分量と発光標識の成分量から検量線を用いて、被測定物質の濃度を求めるステップと、からなる一連のステ
ップで、被測定物質の濃度を求めることが可能である。
【0074】
このような本実施形態の測定方法によれば、測定によって得られた蛍光(またはラマン散乱光)の成分量を、測定範囲(レーザースポット)内にある反応複合体の磁気粒子の成分量で規格化するため、測定範囲(レーザースポット)内にある磁気粒子の数のばらついていても、被測定物質の濃度を正確に測定することが可能となる。また、磁気粒子の発光スペクトルは、磁気粒子の自家蛍光であり、磁気粒子に発光物質を塗布する必要がないため、簡便に正確な測定が可能である。
【0075】
次に、第2の実施形態について説明する。第2の実施形態に用いる測定系については先の第1実施形態と同様のものを用いるので詳細な説明については省略する。第2実施形態が第1実施形態と異なる点は、第2実施形態では検査容器400からの自家発光も考慮する点である。以下、この異なる点を中心に説明する。
【0076】
検査容器400にレーザー光を照射すると検査容器400から自家蛍光ならびにラマン光が発生する。そこで、本実施形態では、事前に測定した磁気粒子の発光スペクトルSo1(λ)、発光標識の発光スペクトルSo2(λ)、測定容器の発光スペクトルSo3(λ)を用いて、光に照射によって得られた発光スペクトルS(λ)を、So1(λ)、So2(λ)、So3(λ)に分離する。
S(λ)=a1×So1(λ)+a2×So2(λ)+a3×So3(λ)・・・・(2)
発光スペクトルSo1(λ)、So2(λ)、So3(λ)が既知なので、重回帰分析等によって、検出スペクトルS(λ)から、混合物の成分量a1、a2、a3を求めることが可能である。
また、測定容器の発光スペクトルSo3(λ)の求め方の一例としては、空の検査容器400を測定系にセットして、レーザーを照射し、検査容器400のみの発光スペクトルを求める。
【0077】
本実施形態では、パラメーターとしてこのSo3(λ)が増えたことを除けば、先の実施形態と同じように検量線を求めたり、測定、解析等の処理を行ったりすることができる。
【0078】
本実施形態では、検量線をいったん求めておけば、定常的には以下の一連のステップによって、被測定物質の濃度を求めることが可能である。すなわち、磁気粒子、発光標識、および被測定物質を反応させた反応複合体を検査容器400に収容するステップと、検査容器400内の一部に反応複合体を集めるステップと、集められた反応複合体に光を照射するステップと、照射光に伴う発光スペクトルを検出するステップと、発光スペクトルに基づいて反応複合体のうちの磁気粒子の成分量を算出するステップと、発光スペクトルに基づいて反応複合体のうちの発光標識の成分量を算出するステップと、発光スペクトルに基づいて検査容器400の成分量を算出するステップと、磁気粒子の成分量と発光標識の成分量から検量線を用いて、被測定物質の濃度を求めるステップと、からなる一連のステップで、被測定物質の濃度を求めることが可能である。
【0079】
このような第2実施形態によれば、より正確に磁気粒子の自家蛍光スペクトルならびに、発光標識の発光スペクトルを分離できることとなり、そのため、正確に被測定物質の濃度を求めることが可能となる。
【0080】
次に、第3の実施形態について説明する。第3の実施形態に用いる測定系については先の第1実施形態と同様のものを用いるので詳細な説明については省略する。第3実施形態が第1実施形態と異なる点は、第3実施形態では、磁気粒子に結合された抗体の数などが
飽和してしまうような場合も考慮する点である。第3実施形態は、第1実施形態が実行され、発光標識の成分量a2を磁気粒子の成分量a1で除した値αが所定値以上となってしまったとき―すなわち、測定可能な濃度の上限を超えてしまったとき―に実行されるものである。
【0081】
第3実施形態においても、以下の各工程を実施する。なお、第1実施形態で説明した工程については工程のタイトルのみについて記し、追加した工程については詳しく記載する。
<1.検量線作成ステップ>
(1−1) 磁気粒子の発光スペクトル(So1(λ))測定工程
(1−1) 発光標識の発光スペクトル(So2(λ))測定工程
(1−3) スペクトル分離工程
(1−4) 検量線の作成工程
(1−5) 上限値(αo)測定工程(本実施形態に特有の工程)
被測定物質の濃度が高濃度であると、図10のようにa2/a1の値は飽和する。被測定物質の分子数が、磁気粒子に結合した抗体の総分子数、あるいは発光標識数に近づくかまたは多くなると、抗原抗体反応が進まなくなるためである。この飽和したときの濃度に対応する磁気粒子および発光標識の成分量の比(a2/a1)をαoとする。
<2.測定ステップその1>
この時、被測定物質の一部を用いる。なお、当該一部が、被測定物質の全体量に対してどれ位の量であるかについては、正確に計測できる。例えば、被測定物質の量が、11μLのとき、その一部(例えば1μL)を正確に測りとることができる。このように、被測定物質の一部のみを測定ステップ1に用いるのは、残りの被測定物質を、測定ステップ2で用いる可能性があるからである。
【0082】
その他については、上述と同様である。
<3.解析ステップその1>
(3−1) スペクトル分離工程
(3−2) 濃度計算工程
(3−3) 濃度判定工程(本実施形態に特有の工程)
工程(3−2)で求めた磁気粒子および発光標識の成分量の比(a2/a1)がαより小さい場合は、あらかじめ求めてある検量線を利用して、被測定物質の濃度を求めて測定を終了する。工程(3−2)で求めた磁気粒子および発光標識の成分量の比(a2/a1)がαよりも大きい場合は、(3−4)の被測定物質希釈工程に移る。
【0083】
なお、測定ステップ1において、当該成分量の比がαより大きい場合、適切に濃度を計測できないので、測定ステップ1で用いた溶液は、捨ててしまってよい。
(3−4) 被測定物質希釈工程(本実施形態に特有の工程)
被測定物質のうち、測定ステップその1で用いた被測定物質を除いた残りのものを用いる。被測定物質のみをサンプル希釈液で希釈する。例えば100倍に希釈する場合、被測定物質1μLに対して、サンプル希釈液99μL混合する。
<4.測定ステップその2>
この測定ステップでは、磁気粒子と発光標識の量は、検量線作成方法で用いた時と同じである。
<5.解析ステップその2>
(5−1) スペクトル分離工程
(5−2) 濃度計算工程
(5−3) 濃度判定工程(本実施形態に特有の工程)
工程(5−2)で求めた磁気粒子および発光標識の成分量の比(a2/a1)がαより小さい場合は、あらかじめ求めてある検量線を利用して、希釈後被測定物質の濃度を求め
た後に、(5−4)の解析補正工程に進む。また、工程(5−2)で求めた磁気粒子および発光標識の成分量の比(a2/a1)がαよりも大きい場合は、希釈する倍率を高めて被測定物質の希釈(工程(3−4))を行う。
(5−4) 解析補正工程(本実施形態に特有の工程)
工程(5−2)で求めた希釈後の被測定物質の濃度に、希釈倍率をかけて、被測定物質の濃度を求める。例えば、希釈後の被測定物質の濃度が10nmol/Lで、希釈倍率100倍の時、被測定物質の濃度は1μmol/L(1000nmol/L)になる。
【0084】
以上のような第3の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることが可能であると共に、被測定物質の測定レンジを拡大できる、という更なる効果も得ることができる。
【0085】
次に、第4の実施形態について説明する。第4の実施形態に用いる測定系については先の第1実施形態と同様のものを用いるので詳細な説明については省略する。また、第4の実施形態は第3の実施形態の変形例であるので、相違点のみについて説明する。
【0086】
本実施形態では、解析ステップの濃度計算工程において、磁気粒子および発光標識の成分量の比(a2/a1)の値がαo×80%以上の場合は、被測定物質を希釈し再度測定する。αoの値は、先の実施形態と同様、事前に測定する。
【0087】
このような実施形態による効果について説明する。a2/a1の値は、電気等の測定時に発生するノイズや測定ばらつきが含まれる場合がある。そのため、被測定物質の濃度が非常に高くても、a2/a1の値が敷居値であるαoを超えない場合も存在してしまう。そこで、再測定の敷居値を下げることによって、被測定物質の測定をより正確に行うことが可能となる。
【0088】
次に、第5の実施形態について説明する。これまでに説明した実施形態に用いる測定系では、検査容器400内で反応複合体を集めるために、磁界発生部300が用いられていたが、第5の実施形態に用いる測定系では、反応複合体を集めるために遠心力を用いる。第5の実施形態では、反応複合体を集めるための方法のみが異なっており、その他の点についてはこれまでに説明した実施形態と同様であるので、相違点のみについて説明する。
【0089】
本実施形態では、遠心機を使って検査容器400に遠心力をかけることにより、反応複合体を検査容器400の底に集め、測定物質と反応していない発光標識は検査容器400に集めないように分離するものである。なお、このように反応複合体が検査容器400の底に集められることに伴い、入射光学系及び検出光学系の焦点位置である測定範囲(レーザースポット)は、検査容器400の底の部分に位置する。
【0090】
このような実施形態によれば、検査容器400のセットの仕方による測定範囲(レーザースポット)の中心位置と検査容器400の底の反応複合体が堆積する部分の中心位置とのずれにより、レーザースポット内の反応複合体の数が測定毎に変動しても、測定によって得られた蛍光(またはラマン散乱光)の成分量を、測定範囲(レーザースポット)内にある反応複合体の磁気粒子の成分量で規格化するので、測定範囲(レーザースポット)内にある反応複合体の数がばらついていても正確に被測定物質(抗原)の濃度測定を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0091】
100・・・光源部、210・・・励起光照射用レンズ、220・・・信号検出用レンズ、300・・・磁界発生部、400・・・検査容器、500・・・光検出部、600・・・演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光スペクトルが既知である磁気粒子と、発光スペクトルが既知である発光標識と、を用いて被測定物質の濃度を測定する測定方法において、
前記磁気粒子、前記発光標識、および前記被測定物質を反応させた反応複合体を検査容器に収容する工程と、
前記検査容器内の一部に前記反応複合体を集める工程と、
集められた前記反応複合体に光を照射する工程と、
前記照射された光に伴う発光スペクトルを検出する工程と、
前記磁気粒子の既知の発光スペクトルに基づいて前記反応複合体のうちの前記磁気粒子の成分量を算出する工程と、
前記発光標識の既知の発光スペクトルに基づいて前記反応複合体のうちの前記発光標識の成分量を算出する工程と、
前記磁気粒子の成分量と前記発光標識の成分量の比から検量線を用いて、前記被測定物質の濃度を求める工程と、を有することを特徴とする測定方法。
【請求項2】
前記検量線は、
磁気粒子、発光標識の数をそれぞれ一定数とした上で、濃度が既知である被測定物質を反応させた反応複合体を検査容器に収容する工程と、
前記検査容器内の一部に前記反応複合体を集める工程と、
集められた前記反応複合体に光を照射する工程と、
前記照射光に伴う発光スペクトルを検出する工程と、
前記発光スペクトルに基づいて前記反応複合体のうちの前記磁気粒子の成分量を算出する工程と、
前記発光スペクトルに基づいて前記反応複合体のうちの前記発光標識の成分量を算出する工程と、
前記磁気粒子の成分量と前記発光標識の成分量の比と、前記被測定物質の濃度と、を対応付ける工程と、によって
作成されることを特徴とする請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
発光スペクトルが既知である磁気粒子と、発光スペクトルが既知である発光標識と、発光スペクトルが既知である検査容器を用いて被測定物質の濃度を測定する測定方法において、
前記磁気粒子、前記発光標識、および前記被測定物質を反応させた反応複合体を前記検査容器に収容する工程と、
前記検査容器内の一部に前記反応複合体を集める工程と、
集められた前記反応複合体に光を照射する工程と、
前記照射光に伴う発光スペクトルを検出する工程と、
前記発光スペクトルに基づいて前記反応複合体のうちの前記磁気粒子の成分量を算出する工程と、
前記発光スペクトルに基づいて前記反応複合体のうちの前記発光標識の成分量を算出する工程と、
前記発光スペクトルに基づいて前記検査容器の成分量の比を算出する工程と、
前記磁気粒子の成分量と前記発光標識の成分量の比から検量線を用いて、前記被測定物質の濃度を求める工程と、を有することを特徴とする測定方法。
【請求項4】
前記検量線は、
磁気粒子、発光標識のそれぞれを一定数とした上で、濃度が既知である被測定物質を反応させて反応複合体を作成する工程と、
前記反応複合体を検査容器に収容する工程と、
前記検査容器内の一部に前記反応複合体を集める工程と、
集められた前記反応複合体に光を照射する工程と、
前記照射光に伴う発光スペクトルを検出する工程と、
前記発光スペクトルに基づいて前記反応複合体のうちの前記磁気粒子の成分量を算出する工程と、
前記発光スペクトルに基づいて前記反応複合体のうちの前記発光標識の成分量を算出する工程と、
前記発光スペクトルに基づいて前記検査容器の成分量を算出する工程と、
前記磁気粒子の成分量と前記発光標識の成分量の比と、前記被測定物質の濃度、を対応付ける工程と、によって作成されることを特徴とする請求項3に記載の測定方法。
【請求項5】
前記発光標識の成分量を前記磁気粒子の成分量で除した値が所定の値以上であるかを判定する工程と、
前記値が所定の値以上であるときには、前記磁気粒子、前記発光標識、および前記被測定物質を反応させた反応複合体の濃度を希釈する工程と、を有することを特徴とする請求項1又は請求項3に記載の測定方法。
【請求項6】
前記検査容器内の一部に前記反応複合体を集める工程では、磁力によって前記反応複合体を集めることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項7】
前記検査容器内の一部に前記反応複合体を集める工程では、遠心力によって前記反応複合体を集めることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項8】
発光スペクトルが既知である磁気粒子と、発光スペクトルが既知である発光標識と、を用いて被測定物質の濃度を測定する測定方法において、
検査容器内に拡散させる前記磁気粒子の数を一定にしたまま、前記検査容器内に拡散させる前記被測定物質の数を変化させて、前記磁気粒子の成分量および前記発光標識の成分量の比と、前記被測定物質の濃度と、の関係を求める工程と、
前記磁気粒子の数と同じ数の磁気粒子を検査容器内に拡散させる工程と、
前記発光標識の数と同じ数の発光標識を検査容器内に拡散させる工程と、
数が未知である被測定物質を前記検査容器内に拡散させる工程と、
前記磁気粒子、前記発光標識、および前記被測定物質を反応させる工程と、
前記検査容器内の一部に前記反応により生じた反応複合体を集める工程と、
集められた前記反応複合体に光を照射する工程と、
前記照射された光に伴う発光スペクトルを検出する工程と、
前記磁気粒子の既知の発光スペクトルおよび前記発光標識の既知の発光スペクトルに基づいて、前記反応複合体のうちの前記磁気粒子の発光スペクトルと、前記発光標識の発光スペクトルと、を分離する工程と、
前記反応複合体のうちの前記磁気粒子の発光スペクトルから、前記磁気粒子の成分量を求める工程と、
前記反応複合体のうちの前記発光標識の発光スペクトルから、前記発光標識の成分量を求める工程と、
前記関係に基づいて、前記求められた磁気粒子の成分量および前記求められた発光標識の成分量の値から、前記数が未知である被測定物質の濃度を求める工程と、有することを特徴とする測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−230468(P2010−230468A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78049(P2009−78049)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(510005889)ベックマン コールター, インコーポレイテッド (174)
【Fターム(参考)】