説明

測定装置

【課題】電池切れのために、生体から採取された検体を無駄にしてしまうことを防止できる、電池駆動型の測定装置を提供する。
【解決手段】生体から採取された検体を外部から受け入れてこの検体中に存在する可能性の有る物資に関する測定を行い、1回の前記測定として複数段階の測定を行うように構成された、電池で駆動される測定装置において、電池102の残留電力量を検出する電池残量検出手段103と、この電池残量検出手段103が検出した残留電力量によって実行可能な前記測定の回数を算出し、算出された回数の測定のうち最後となる測定に関しては、前記複数段階のうちどの段階までの測定が実行可能であるかを算出する演算手段80と、この演算手段80が算出した結果を表示する表示手段11とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は測定装置、特に詳細には、生体から採取された検体について所定の測定を行う、電池駆動型の測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、被験物質を含有する可能性のある検体(試料)を担体に保持させ、免疫学的測定等のアッセイ法を用いてこの被験物質について簡便かつ迅速に検査するアッセイ用デバイスが数多く開発されており、体外診断薬や毒物等の検査のための各種デバイスも市販されている。このようなデバイスの一例として、特許文献1に示すようなイムノクロマトグラフ法を利用したものが挙げられる。イムノクロマトグラフ法を利用したデバイスを用いる場合は、検体溶液を担体に保持させた後、早いものであれば約5〜10分間静置するだけで測定結果が得られる。そのため、免疫学的測定等のアッセイ法を用いた測定手法は、簡便かつ迅速な測定手法として、例えば病院における臨床検査や研究室における検定試験等で広く採用されている。
【0003】
特に、医院や診療所あるいは在宅医療等の診療現場においては、臨床検査の専門家によらず簡便に検査を行うPOCT(Point of Care Testing)診療向けの測定装置として、イムノクロマトグラフ測定装置(イムノクロマトリーダー)が多く用いられている。このイムノクロマトグラフ測定装置は、装填されたデバイスの試薬の呈色状態を高感度に測定して、目視判定困難な低呈色状態においても高感度かつ信頼性の高い検査を行うことを可能とする。特許文献2には、この種の測定装置の一例が示されている。
【0004】
上述したような測定方法においては、極く微量の被験物質を高感度で検出可能とすることが求められている。そのような要求に応える測定方法として、例えば特許文献3に示される増感(増幅)処理を行うものが公知となっている。この方法は、担体上に被験物質を展開した後に、洗浄液を送液することによって、担体上の反応部位に特異的な結合により捕捉した標識物質以外を洗浄し、その後増感液を担体上に送液して増感することにより、微量の被験物質を高感度で検出可能としたものである。
【0005】
なお上記増感処理は、必要に応じて行うことができる。すなわち、通常の処理で試薬の呈色状態が測定できた場合はそこで測定を終了し、通常の処理では呈色状態が測定不可能であった場合は、さらに増感処理を行ってから呈色状態を測定するようにしてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−139297号公報
【特許文献2】特開2009−133813号公報
【特許文献3】特開2009−287952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述したイムノクロマトグラフ測定装置等の測定装置は、商用電源が確保できない例えば屋外の診断・検査現場等においても使用されることがある。そのためにこの種の測定装置は、電池(バッテリ)で駆動可能に形成されることも多い。
【0008】
そのような電池駆動型の測定装置は、例えば感染症への感染・非感染を判定するために使用されることもあるが、その際、集まった被験者の全てから予め血液や口内細胞等の検体を採取しておくと、全被験者に対する診断・検査等が終了する前に測定装置の電池が切れてしまう可能性もある。電池切れになった場合、電池が乾電池(一次電池)であるならば新たに購入する等により補充できないと、また電池が二次電池であるならば充電用の商用電源が確保できないと、測定は全く不可能となってしまう。
【0009】
こうして電池切れによる測定不能の事態を招くと、採取された検体は多くの場合廃棄せざるを得ないので、結果的に、被験者に無駄な身体的負荷を与え、また時間を浪費させることになる。これはイムノクロマトグラフ測定装置に限らず、生体から採取された検体について測定を行う電池駆動型の測定装置について一般に言えることである。
【0010】
なお、前述した増感処理を行うように構成された測定装置においては、通常処理とこの増感処理とを合わせて合計2段階の測定が行われることになる。このように1回の測定において複数段階の測定を行う測定装置においては、電池切れのために複数段階の測定を全部実行できずに一部だけ行っても、その測定結果にそれなりの利用価値が認められる場合もある。したがって、このように1回の測定において複数段階の測定を行う測定装置においては、電池の残留電力量によってどの段階までの測定を実行可能であるか、きめ細かく把握することが望まれる。
【0011】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、電池切れのために、生体から採取された検体を無駄にしてしまうことを防止できる、電池駆動型の測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による測定装置は、
前述したように、生体から採取された検体を外部から受け入れてこの検体中に存在する可能性の有る物資に関する測定を行い、1回の前記測定として複数段階の測定を行うように構成された、電池で駆動される測定装置において、
電池の残留電力量を検出する電池残量検出手段と、
この電池残量検出手段が検出した残留電力量によって実行可能な前記測定の回数を算出し、算出された回数の測定のうち最後となる測定に関しては、前記複数段階のうちどの段階までの測定が実行可能であるかを算出する演算手段と、
この演算手段が算出した結果を表示する表示手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0013】
なお本発明の測定装置は、上述の通り、1回の測定として複数段階の測定を行うように構成されていることを前提とするものであるが、本発明においては、その段階の一部だけでも測定できるならば、これを「1回」の測定として規定するものとする。
【発明の効果】
【0014】
本発明による測定装置によれば、電池の残留電力量を検出する電池残量検出手段と、この電池残量検出手段が検出した残留電力量によって実行可能な測定の回数を算出する演算手段と、この演算手段が算出した結果を表示する表示手段とを備えたことにより、その表示がなされている次点で検査技師等の装置使用者は、これから先何回の測定が可能であるかを把握可能となる。そこで人間等の被験者から、あと何人(何体)分だけ検体を採取してよいかが予め分かるので、無駄に検体を採取して、それを廃棄してしまうような事態を招くことを防止可能となる。それにより、被験者に無駄な身体的負荷を与えたり、時間を浪費させたりすることがなくなる。
【0015】
そして本発明の測定装置においては、上記演算手段が、前記算出された回数の測定のうち最後となる測定に関しては、複数段階のうちどの段階までの測定が実行可能であるかを算出するように構成されているので、特に以下のような効果も得られる。すなわち、上述のような複数段階の測定について考えると、全部行わずに途中段階まで行っても、それなりに意義の有る測定が存在することが多い。例えば、全段階完了すれば極めて高精度の測定がなされるものの、途中段階まででもそれなりの精度が確保できる、というような測定がそれに該当する。そのような場合、実行可能と算出された回数の測定のうち最後となる測定については、特に緊急の測定が望まれる被験者から検体を採取して、取り敢えず精度は比較的低くてもその検体に関する測定を済ませておく、といった弾力的な運用が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態による測定装置を示す斜視図
【図2】上記測定装置の一部破断側面図
【図3】上記測定装置の電気的構成を示すブロック図
【図4】上記測定装置の一部を示す正面図
【図5】上記測定装置に用いられた検査キットの一状態を示す一部破断平面図
【図6】上記検査キットの別の状態を示す一部破断平面図
【図7】上記検査キットのさらに別の状態を示す一部破断平面図
【図8】電池の消費電力と端子電圧との関係を示すグラフ
【図9】測定装置におけるバッテリ残留電力量の変化特性例を示すグラフ
【図10】本発明の別の実施形態による測定装置の要部を示す一部破断正面図
【図11】図10に表示された要部が別状態にあるところを示す一部破断正面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態によるクロマトグラフ測定装置1の斜視形状を、図2はその一部破断側面形状を、そして図3はその電気的構成を示すものである。まず図1および図2を参照して、本装置の基本構成について説明する。
【0018】
それらの図に示されるようにクロマトグラフ測定装置1は、前面に開口10aを有する筐体10と、筐体10の上面に配置された表示部11と、この表示部11に表示されたメニューの操作を行うための操作部12と、電源スイッチ13と、イムノクロマト用検査キット20を装置内部に装填するための検査キット装填部14とを有している。また筐体10の内部には、検査キット装填部14を図2中で左右方向に移動自在に案内するレール15と、後述する洗浄液ポット27および増感液ポット28をそれぞれ押し潰すための押圧部30、34と、検査キット20から情報を取得する第1の測定部40および第2の測定部50とを有している。
【0019】
上記検査キット装填部14は、レール15に沿って自動あるいは手動により移動自在とされている。そして、その大部分が開口10aを通過して筐体10の外に出されたとき、その上に、後述するようにして検査溶液が供給された検査キット20が載置される。その後この検査キット装填部14は、図2に示すように筐体10の内部に押し込まれ、それにより検査キット20がクロマトグラフ測定装置1の内部に取り込まれる。
【0020】
図4は、上記押圧部30、34の部分を、図2中の左方側から見た状態を示す正面図である。なおここでは、検査キット20を破断して示してある。以下、この図4を参照して、押圧部30、34について説明する。押圧部30は、軸31aの周りをシーソー状に回動自在とされたアーム31と、このアーム31の先端下部に固定された押圧片32と、アーム31の後端下側に配置されたカム33とを有している。カム33は、モータ38によって回転される駆動軸39に、例えば図示外の電磁クラッチ等を介して接断自在に連結されている。このカム33が回転するとアーム31の後端が押し上げられて先端の押圧片32が下降動する。もう一つの押圧部34もアーム35、押圧片36およびカム37を有して、押圧部30と同様に構成されている。
【0021】
ここで押圧部30の押圧片32と、押圧部34の押圧片36はそれぞれ、検査キット20が筐体10の中の所定位置に配置されたとき、キット内部に配置されている洗浄液ポット27、増感液ポット28の直上位置に来るように配設されている。
【0022】
図5は、上記検査キット20の上面部を破断して示す平面図であり、以下、この図5も参照して検査キット20について説明する。検査キット20は、テストラインA、テストラインBおよびコントロールラインCを有する不溶性担体21と、不溶性担体21を収容するキットケース22と、不溶性担体21に検体溶液を注入するためにケース上面に形成された溶液注入口23と、不溶性担体21の検査部位(テストラインA、BおよびコントロールラインCの部分)を観察するための観察窓24とを備えている。キットケース22の上面には情報表示部25が設けられている。なお検査キット装填部14にも、上記観察窓24とほぼ整合する観察窓14aが設けられている。
【0023】
上記不溶性担体21は、固定化された標識物質を有するものである。またテストラインAおよびBはそれぞれ、被験物質に対する特異的結合物質が固定されたものであり、コントロールラインCは測定の終了時を判断するためのものである。
【0024】
またこの検査キット20の内部には、不溶性担体21を間に挟む状態にして、送液用不溶性担体72および吸収用不溶性担体73が配設されている。そして送液用不溶性担体72の上方位置には前述した洗浄液ポット27が固定され、不溶性担体21のコントロールラインC側の端部の上方位置には増感液ポット28が固定されている。なお検査キット20のケース22の上面部分は、前述の押圧片32、36によって上から押されたとき、容易に変形してそれぞれ洗浄液ポット27、増感液ポット28が潰されるのを許容するようになっている。
【0025】
第1の測定部40は、検査キット20の観察窓24を通して検査部位(テストラインA、BおよびコントロールラインCの部分)の呈色状態を測定するものである。第1の測定部40は、図2に示すようにカメラ42および光源44を備え、検査キット20が測定装置1に装填された際に、これらが検査キット20の下方から観察窓24に対向するように構成されている。そして、第1の測定部40によって取得された検査部位における光学的情報に基づいて、該検査部位の呈色状態として光学濃度および色度が算出される(この点については後述する)。
【0026】
なお上記光学濃度は、検査キット20の検査部位に入射した入射光の強度をI、検査部位からの反射光の強度をIとしたとき、下記式で定義する。
【0027】
光学濃度=−log10(I/I)
また色度は、色相と彩度を数量的に表示したものであり、カメラで読み取ったRGB輝度信号から算出する。色度の表色系としては、一般的なCIE表色系を用いることができる。
【0028】
カメラ42は、例えば複数のフォトダイオードがライン状に配列された構成、あるいはエリアセンサからなるイメージセンサを有するもので、受光光量に応じた出力を生じる。カメラ42の受光範囲は、検査キット20の長手方向に延びた帯状範囲とされている。光源44は、例えばLEDが内蔵されたモジュールであり、白色光を発するように構成されている。なお光源44は、後述する増感処理の前後の色度の区別が付けば、例えば単色光を発するものであってもよい。また光源44は、複数のモジュールから構成される場合は、異なる波長の単色光を発する複数のモジュールを用いて構成することもできる。光源44から発せられる光は、検査キット20の長手方向の所定範囲を照明可能とされている。
【0029】
一方、第2の測定部50は、検査キット20の情報表示部25に照明光を照射し、情報表示部25に表示された情報を取得するものである。情報表示部25は、手書きまたはシール添付等により検査に関する情報が表示される。検査に関する情報とは例えば、被験物質を採取した患者に関する情報(氏名、年齢および性別等)および、検査に使用される試料・試薬に関する情報(検査対象となる被験物質、洗浄液および増感液等の名称等)等が挙げられる。情報を取得する方法は特に制限されず、情報表示部25をそのまま画像化したり、バーコード化された情報から読み取ったりすることができる。
【0030】
この第2の測定部50は、図2に示すようにカメラ52および光源54を備え、検査キット20が測定装置1に装填された際に、これらが検査キット20の上方から情報表示部25に対向するように構成されている。そして、第2の測定部50によって取得された検査に関する情報と検査結果とが紐付けされて管理される。カメラ52および光源54の具体的な構成は、前述したカメラ42および光源44とそれぞれ同様である。
【0031】
次に、本装置の電気的な構成について図3を参照して説明する。先に説明した表示部11、操作部12、モータ38等を含む押圧機構30、34、カメラ42、52(各々光源44、54を含む)は、同図に示す制御部80によって動作が制御される。また、本測定装置1は、例えば100〜240Vの商用電源を利用して作動可能であり、その商用電源を受け入れて12Vの直流電流に変換する電源部100と、この12Vの直流電流が入力される切替部101とを有している。また本測定装置1は、それとともに二次電池であるバッテリ102でも駆動可能とされており、このバッテリ102も上記切替部101に接続されている。切替部101は、商用電源が接続されているときは電源部100から供給される12Vの直流電流を、そして商用電源が接続されていないときはバッテリ102から供給される12Vの直流電流を各電装部品において使用するように切替を行う。
【0032】
また切替部101には、バッテリ102の残留電力量を検出する電池残量検出手段としてのバッテリ容量監視ユニット103が接続されている。一般に電池から一定電力を取り出したときの消費電力は、電池端子電圧と図8に示すような関係にある。つまり、電池はその化学特性から、容量が低下してくると内部抵抗が大きくなって端子電圧が低下する特性があるので、その端子電圧を測定することで残留電力量を検出することができる。バッテリ容量監視ユニット103はこうしてバッテリ102の残留電力量を検出し続け、その残留電力量を示す信号を制御部80に入力する。
【0033】
次に、本実施形態の測定装置1による測定について説明する。本装置においては原則として、第1段階の測定と、それに続く第2段階の測定が行われる。第1段階の測定とは、後述する増感処理を行わないで前記検査部位の呈色状態を測定するものであり、また第2段階の測定とは、後述する増感処理を行ってから検査部位の呈色状態を測定するものである。
【0034】
このような測定を行うときに該装置1が消費する電力は、下記の3通りのものがある。(1)通常のスタンバイ状態下での消費電力:これは、電源を入れることで表示部11、操作部12、制御部80等において連続的に消費される電力であり、上記第1段階の測定、第2段階の測定において共に消費される。以下、これらの消費電力については前者におけるものを「通常1」の消費電力、後者におけるものを「通常2」の消費電力と称する。
【0035】
(2)カメラで検査部位の画像を取得するための消費:これも上記第1段階の測定、第2段階の測定において共に消費されるものであり、以下、これらの消費電力については前者におけるものを「画像取得1」の消費電力、後者におけるものを「画像取得2」の消費電力と称する。
【0036】
(3)増感処理を行う際に押圧機構30、34を動作させるための消費電力:以下この消費電力については「増感処理押圧機構動作」の消費電力と称する。
【0037】
次に具体的な測定の操作手順について説明する。
【0038】
《第1段階の測定》
この第1段階の測定においては、まず図5に示すように、例えば測定装置1の外において検査キット20の溶液注入口23から検体溶液90が注入される。その後この検査キット20は前述の通りにして測定装置1内に配置され、検査キット20の検査部位(テストラインA、BおよびコントロールラインCの部分)の光学濃度および色度を算出するために、その部位の像がカメラ42によって取得される。制御部80は、こうして取得された像から光学濃度および色度を算出し、それらの値を、あるいはそれらの値から判定される疾患の有無等を表示部11に表示させることができる。
【0039】
この第1段階の測定において消費される電力は、前記「通常1」のものが測定1件当たり10分要することから2.5W×10分=0.42Whとなり、また前記「画像取得1」のものが測定1件当たり1秒毎の撮像を60回行うことから2.5W×1秒×60回=0.04Whとなる。つまりこの第1段階の測定において消費される合計電力は、0.46Whとなる。以上をまとめて下の表1に示す。
【表1】

【0040】
《第2段階の測定》
この第2段階の測定においては、まず図2、4に示した押圧部30が駆動されて、そのアーム31の先端が下降動され、押圧片32が検査キット20内の洗浄液ポット27を外部から押し潰す。それにより図6に示すように、洗浄液ポット27に貯えられていた洗浄液91が不溶性担体21の検査部位を洗浄する。このとき洗浄液91は、送液用不溶性担体72で十分に拡がってから、不溶性担体21、吸収用不溶性担体73の順に送液される。
【0041】
次に、図2、4に示した押圧部34が駆動されて、そのアーム35の先端が下降動され、押圧片36が検査キット20内の増感液ポット28を外部から押し潰す。それにより図7に示すように、増感液ポット28に貯えられていた増感液92が不溶性担体21の検査部位に送液されて、増感処理がなされる。なおこの増感液92および上記洗浄液91については、前述した特許文献3に詳しい開示がなされており、本発明においてもそれらを適用することができる。
【0042】
この増感処理がなされた後、検査キット20の検査部位の像が、上述と同様にカメラ42によって取得される。制御部80は、こうして取得された像の光学濃度および色度を算出し、それらの値を、あるいはそれらの値から判定される疾患の有無等を表示部11に表示させることができる。
【0043】
この第2段階の測定において消費される電力は、前記「通常2」のものが測定1件当たり5分要することから2.5W×5分=0.21Whとなり、また前記「画像取得2」のものが測定1件当たり1秒毎の撮像を30回行うことから2.5W×1秒×30回=0.02Whとなり、前記「増感処理押圧機構動作」のものが0.64Whとなる。ここで、最後の「増感処理押圧機構動作」の消費電力は、押圧部30、34を動かすためのモータ38の動作が各々1分ずつの計2分要することから12W×2分/1件が消費され、またモータ38の各動作後に1.5分ずつ合計3分の停止期間があり、そこでは4.8W×3分/1件が消費されるので、それらの和から0.64Whとなるものである。つまりこの第2段階の測定において消費される合計電力は、0.87Whとなる。以上をまとめて下の表2に示す。
【表2】

【0044】
以上より、本例では1件の測定を行うのに0.46Wh+0.87Wh=1.33Whが消費される。図2に示した制御部80は、本測定装置1がバッテリ102で動作する場合は、バッテリ容量監視ユニット103から通知されるバッテリ残留電力量を上記1.33Whで除算し、処理可能な測定件数を表示部11に表示させる。そしてその除算における余りが0.46Wh以上0.87Wh未満である場合は、それも1回分の測定が可能とカウントして表示させる。ただしその場合は、「バッテリ残量が少なく、最後の1回は増感処理までできません。増感処理無しの測定をする/しない?」等の表示を併せて表示部11に表示させ、増感処理無しの測定をするかしないかを装置使用者に判断させる。
【0045】
装置使用者は、以上の通りの表示を確認することにより、何人(何体)までの被験者から検体を採取してよいかを予め知ることができる。そうであれば、無駄に検体を採取して、それを廃棄してしまうような事態を招くことを防止可能となる。それにより、被験者に無駄な身体的負荷を与えたり、時間を浪費させたりすることがなくなる。
【0046】
なお処理可能な測定件数の算出および表示は、一連の測定を開始する際に行うようにしてもよいし、あるいは、一連の測定が進行してバッテリの残量が懸念されるようになった時点で適宜行うようにしてもよい。
【0047】
また本実施形態の測定装置1によれば、最後の1件の測定について、増感処理無しの測定ができるかどうかも知ることができる。そこで、特に緊急の測定が望まれる被験者から検体を採取して、取り敢えず精度は比較的低くてもその検体に関する測定を済ませておく、といった弾力的な運用が可能になる。
【0048】
ここで、本実施形態において上記第1および第2段階の測定がなされるときの、バッテリ残留電力量の変化を実測した結果を図9に示す。なお、上に説明した消費電力量は処理が理想的に行われた場合の計算値であって、図9に示す実測値はその計算値と僅かに相違している点も有る。
【0049】
次に図10および図11を参照して、本発明の他の実施形態による測定装置について説明する。なおこれらの図において、図4中の要素と同等の要素には同番号を付してあり、それらについての説明は特に必要のない限り省略する(以下、同様)。この実施形態においては、図4に示したものとは一部構造が異なる検査キット20が用いられている。すなわちこの検査キット20において、洗浄液ポット27および増感液ポット28は各々刃87、88の上に配置されており、そしてこれらのポット27および28の各上方部分においてキットケース22には開口22a、22bが設けられている。
【0050】
そして洗浄液ポット27から洗浄液を、また増感液ポット28から増感液を流出させる際には、図10の状態からカム33が90°回転されて、図11の状態とされる。つまりカム33が回転するとアーム31の後端が押し上げられて先端の押圧片32が下降動し、同様にアーム35の後端が押し上げられて先端の押圧片36が下降動する。下降動した押圧片32、36はそれぞれ上記開口22a、22bを通過してキットケース22内に進入し、各々洗浄液ポット27、増感液ポット28を下方に押し下げる。すると洗浄液ポット27、増感液ポット28の底部がそれぞれ刃87、88によって一部切り裂かれ、洗浄液ポット27から洗浄液が、また増感液ポット28から増感液が流出するようになる。
【0051】
以上の通りの構成を有する本実施形態においては、図11の状態となったところでバッテリ102の残留電力量がゼロになってしまうと、カム33を回転させるモータ38を駆動することもできないので、押圧片32、36が各々開口22a、22b内に入り込んだままになる。そうであると、図1や図2に示したデバイス装填部14をデバイス引き出し方向(図10、11の紙面と直角な方向)に動かそうとしても、押圧片32、36が各々開口22a、22bの周壁部と干渉して、デバイス装填部14を動かすことが不可能になる。そこで、検査キット20を測定装置から取り出すためには、測定装置を分解する等の面倒な作業が必要となる。
【0052】
以上の通りの構成とする場合も、本発明によって、実行可能な測定の回数および、最後となる測定に関しては複数段階のうちどの段階までの測定が実行可能であるかを算出、表示するようにしておけば、可能な回数を超えて測定を行うことが回避されるので、上記のように検査キット20が測定装置から取り出せなくなることを未然に防止することができる。
【0053】
なお、上記測定に関わる事項について以下簡単に説明する。
【0054】
(検体溶液)
本発明の測定装置を用いて分析することのできる検体溶液としては、被験物質(天然物、毒素、ホルモンまたは農薬等の生理活性物質あるいは環境汚染物質等)を含む可能性のあるものである限り、特に限定されるものではなく、例えば、生物学的試料、特には動物(特にヒト)の体液(例えば、血液、血清、血漿、髄液、涙液、汗、尿、膿、鼻水、または喀痰)若しくは排泄物(例えば、糞便)、臓器、組織、粘膜や皮膚、それらを含むと考えられる搾過検体(スワブ)、うがい液、または動植物それ自体若しくはそれらの乾燥体を後述の希釈液で希釈したもの等を挙げることができる。
【0055】
検体溶液はそのままで、あるいは、検体溶液を適当な抽出用溶媒を用いて抽出して得られる抽出液の形で、さらには、この抽出液を適当な希釈剤で希釈して得られる希釈液の形、若しくは抽出液を適当な方法で濃縮した形で用いることができる。
【0056】
(標識物質)
本発明で使用することができる標識物質としては、一般的なイムノクロマトグラフ法で用いられるような金属微粒子(または金属コロイド)、着色ラテックス粒子、酵素など、有色で視認できる、または、反応により検査できるようになる標識物であれば特に限定されることなく用いることができるが、標識物質を触媒とした金属イオンの還元反応によって、標識物質への金属の沈着でシグナルを増感する場合には、その触媒活性の観点から金属微粒子が好ましい。
【0057】
その金属微粒子の材料としては、金属単体、金属硫化物、その他金属合金、または金属を含むポリマ−粒子標識を用いることができる。粒子(またはコロイド)の平均粒径は、1nm〜10μmの範囲にあることが好ましい。ここで、平均粒径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)により実測された複数の粒子の径(粒子の最長径)の平均値である。より詳細には、金コロイド、銀コロイド、白金コロイド、鉄コロイド、水酸化アルミニウムコロイド、およびこれらの複合コロイドなどが挙げられ、好ましくは、金コロイド、銀コロイド、白金コロイド、およびこれらの複合コロイドであることが望ましい。特に、金コロイドと銀コロイドが適当な粒径において、金コロイドは赤色、銀コロイドは黄色を示し視認度が高いという観点からより好ましい。金コロイドを用いることにより、銀イオン含有化合物を用いた増感工程を行うことにより増感の前後で標識の色度が変化する(金コロイドは赤く呈色し、増感後は還元された銀イオンが金コロイドに沈着し黒くなる)ため、後述するようにこの変化を検査のエラー判定に用いることができるようになる。金属コロイドの平均粒径としては、約1〜500nmが好ましく、さらには1〜100nmがより好ましい。
【0058】
(特異的結合物質)
特異的結合物質としては、被検物質に対して親和性を持つものならば特に限定されることはなく例えば、被験物質が抗原である場合には当該抗原に対する抗体、被験物質がたんぱく質、金属イオンまたは低分子量有機化合物である場合にはこれらに対するアプタマー、被験物質がDNAやRNAなど核酸である場合にはこれらに対して相補的な配列を持つDNAやRNA等の核酸分子、被験物質がアビジンである場合にはビオチン、被験物質が特定のペプチドの場合にはこれに特異的に結合する錯体、等を挙げることができる。また、上記した例では特異的結合物質と被験物質との関係を入れ替えることもでき、例えば被験物質が抗体である場合には当該抗体に対する抗原を、特異的結合物質として用いることもできる。さらに、上記のような被検物質に対して親和性を持つ物質を一部に含有する化合物等を特異的結合物質として用いることもできる。
【0059】
上記抗体としては具体的に、その被験物質によって免疫された動物の血清から調製する抗血清、抗血清から精製された免疫グロブリン画分、その被験物質によって免疫された動物の脾臓細胞を用いる細胞融合によって得られるモノクローナル抗体、あるいは、それらの断片[例えば、F(ab’)2、Fab、Fab’、またはFv]を用いることができる。これらの抗体の調製は、常法により行なうことができる。
【0060】
(不溶性担体)
不溶性担体21の材料は、多孔性であることが好ましく、例えば、ニトロセルロース膜、セルロース膜、アセチルセルロース膜、ポリスルホン膜、ポリエーテルスルホン膜、ナイロン膜、ガラス繊維、不織布、布、または糸等が好ましく挙げられる。
【0061】
クロマトグラフ担体には、被験物質に対する特異的結合物質を固定化させて検査ラインや所望によりコントロール部位が作製される。特異的結合物質は、特異的結合物質をクロマトグラフ担体の一部に物理的または化学的結合により直接固定化させてもよいし、特異的結合物質をラテックス粒子などの微粒子に物理的または化学的に結合させ、この微粒子をクロマトグラフ担体の一部にトラップさせて固定化させてもよい。
【0062】
(増感液)
増感液は、含まれる薬剤が標識物質や被験物質の触媒作用によって反応することにより、呈色あるいは発光する化合物などを生じ、シグナルの増感を起こすことができる溶液である。例えば、金属標識上で、物理現像により金属銀の析出を起こす銀イオン溶液である。詳細には、写真化学の分野での一般書物(例えば、「改訂写真工学の基礎-銀塩写真編-」(日本写真学会編、コロナ社)、「写真の化学」(笹井明、写真工業出版社)、「最新処方ハンドブック」(菊池真一他、アミコ出版社))に記載されているような、いわゆる現像液を用いることができる。例えば、増感液として銀イオン含有化合物を含む物理現像液を用いれば、銀イオンの還元剤により液中の銀イオンを、現像の核となるような金属コロイド等を中心に還元させることができる。
【0063】
また別の例としては、酵素反応を用いた例がある。例えば、ペルオキシダーゼ標識と過酸化水素の作用により色素となる、フェニレンジアミン化合物とナフトール化合物の溶液などが挙げられる。さらに、非特許文献「臨床検査 Vol.41 no.9 p.1020 H−POD系を利用した染色」に記載されているような、西洋わさびペルオキシダーゼ検出の発色基質などでもよい。また、特開2009−156612号公報に記載の発色基質は特に好ましく用いることができる。なお、酵素の代わりに白金微粒子などの金属触媒を用いる系でもよい。
【0064】
別の酵素を用いた例としては、アルカリホスファターゼを標識とし、5−ブロモ−4クロロ−3−インドリル−リン酸二ナトリウム塩(BCIP)を基質として発色させるような系もある。以上、呈色する反応を代表に挙げたが、一般的にエンザイムイムノアッセイで用いられるような、酵素と基質の組み合わせであればなんでも良く、化学発光する基質であっても、蛍光を発する基質であってもよい。
【0065】
(銀イオン含有化合物)
銀イオン含有化合物としては、有機銀塩、無機銀塩、もしくは銀錯体を用いることができる。好ましくは、水などの溶媒に対して溶解度の高い銀イオン含有化合物であり、硝酸銀、酢酸銀、乳酸銀、酪酸銀、チオ硫酸銀などが挙げられる。特に好ましくは硝酸銀である。銀錯体としては、水酸基やスルホン基など水溶性基を有する配位子に配位された銀錯体が好ましく、ヒドロキシチオエーテル銀等が挙げられる。無機銀塩、もしくは銀錯体は、銀として一般に0.001モル/m〜0.2モル/m、好ましくは0.01モル/m〜0.05モル/m含有されることが好ましい。
【0066】
(銀イオンの還元剤)
銀イオンの還元剤は、銀イオンを銀に還元することができれば、無機・有機のいかなる材料、またはその混合物でも用いることができる。
【0067】
無機還元剤としては、Fe2+、V2+、Ti3+、などの金属イオンで原子価の変化し得る還元性金属塩、還元性金属錯塩を好ましく挙げることができる。無機還元剤を用いる際には、酸化されたイオンを錯形成するか還元して、除去するか無害化する必要がある。例えば、Fe2+を還元剤として用いる系では、クエン酸やEDTAを用いて酸化物であるFe3+の錯体を形成し、無害化することができる。本系ではこのような無機還元剤を用いることが好ましく、より好ましくはFe2+の金属塩が好ましい。
【0068】
なお、上記実施形態においては、呈色状態の増感方法として銀イオン含有化合物を還元剤で還元することにより標識物質を増感させる方法を用いたが、本発明における増感方法はこれに限定されない。増感液は、含まれる薬剤が標識物質や被験物質の触媒作用によって反応することにより、呈色あるいは発光する化合物などを生じ、シグナルの増感を起こすことができる溶液であればよく、例えば上記したような酵素を用いた用液などが挙げられる。
【0069】
また上記実施形態においては、アッセイ法としてイムノクロマトグラフ法について説明したが、本発明で適用するアッセイ法はこれに限定されない。いわゆる免疫反応を用いない系でもよく、例えば、抗体を用いずにDNAやRNAなどの核酸で被験物質を捕捉する系でもよいし、さらには被験物質に対する親和性を持つ別の小分子やペプチド、たんぱく質、錯体形成物質等、によって被験物質を捕捉する系であってもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 クロマトグラフ測定装置
10 筐体
11 表示部
12 操作部
13 電源スイッチ
14 デバイス装填部
20 イムノクロマト用検査キット
21 不溶性担体
22 キットケース
22a、22b キットケースの開口
23 溶液注入口
27 洗浄液ポット
28 増感液ポット
30、34 押圧部
33、37 カム
38 モータ
40、50 測定部
87、88 刃
80 制御部
90 検体溶液
91 洗浄液
92 増感液
102 バッテリ
103 バッテリ容量監視ユニット
A、B テストライン
C コントロールライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体から採取された検体を外部から受け入れてこの検体中に存在する可能性の有る物資に関する測定を行い、1回の前記測定として複数段階の測定を行うように構成された、電池で駆動される測定装置において、
電池の残留電力量を検出する電池残量検出手段と、
この電池残量検出手段が検出した残留電力量によって実行可能な前記測定の回数を算出し、算出された回数の測定のうち最後となる測定に関しては、前記複数段階のうちどの段階までの測定が実行可能であるかを算出する演算手段と、
この演算手段が算出した結果を表示する表示手段とを備えたことを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記電池残量検出手段による残留電力量の検出、演算手段による算出、および表示手段による表示を、前記測定の前に毎回行うように構成されていることを特徴とする請求項1記載の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−214867(P2011−214867A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80748(P2010−80748)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】