説明

測定装置

【課題】肥満度が高い被験者についても高精度に肥満指標を特定する。
【解決手段】腹部幅特定部642は、被験者の腹部幅AWを特定する。形状指標算定部644は、被験者の腹部の断面形状に応じた形状指標σを算定する。肥満判定部662は、被験者の肥満度の高低を判定する。肥満指標算定部664は、肥満度が低いと肥満判定部662が判定した場合に、第1演算式を利用して腹部幅AWに応じた肥満指標を算定し、肥満度が高いと肥満判定部662が判定した場合に、第1演算式とは相違する第2演算式を利用して腹部幅AWおよび形状指標σに応じた肥満指標を算定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥満に関連する指標(以下「肥満指標」という)を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
被験者の腹部幅から肥満指標を算定する技術が従来から提案されている。例えば特許文献1には、被験者の腹部幅を変数に含む演算式を利用して内臓脂肪面積等の肥満指標を算定する技術が開示されている。また、特許文献2には、腹部幅を変数に含む演算式で被験者の腹囲長を算定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−022482号公報
【特許文献2】特開2008−049114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1や特許文献2の技術によれば、標準的な体型の被験者については高精度に肥満指標を特定できる。しかし、被験者の肥満度が増加するほど肥満指標の特定の精度が低下するという傾向が本願発明者による調査で確認された。以上の事情を考慮して、本発明は、肥満度が高い被験者についても高精度に肥満指標を特定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために本発明が採用する手段を説明する。なお、本発明の理解を容易にするために、以下の説明では、本発明の各要素と後述の各実施形態の要素との対応を括弧書で付記するが、本発明の範囲を実施形態の構成に限定する趣旨ではない。
【0006】
本発明の測定装置は、被験者の腹部幅(例えば腹部幅AW)を特定する腹部幅特定手段(例えば腹部幅特定部642)と、被験者の肥満度の高低を判定する肥満判定手段(例えば肥満判定部662)と、肥満度が低いと肥満判定手段が判定した場合に、第1演算式(例えば演算式(1)や演算式(3))を利用して腹部幅に応じた肥満指標を算定し、肥満度が高いと肥満判定手段が判定した場合に、第1演算式とは相違する第2演算式(例えば演算式(2)や演算式(4))を利用して腹部幅に応じた肥満指標を算定する肥満指標算定手段(例えば肥満指標算定部664)とを具備する。以上の構成では、腹部幅に応じた肥満指標の算定に第1演算式および第2演算式が被験者の肥満度に応じて選択的に利用される。したがって、肥満者の肥満指標を高精度に算定することが可能である。
【0007】
本発明の好適な態様に係る測定装置は、被験者の腹部の断面形状に応じた形状指標を算定する形状指標算定手段(例えば形状指標算定部644)を具備し、第2演算式は、形状指標を変数に含む。以上の態様においては、肥満度が高い被験者に適用される第2演算式が断面形状に応じた形状指標を含んで構成される。腹部の断面形状は被験者の肥満型(内臓脂肪型/皮下脂肪型)に応じて相違するから、以上の態様によれば、内臓脂肪型および皮下脂肪型の何れの肥満型でも肥満指標を高精度に算定できるという利点がある。
【0008】
本発明の好適な態様に係る測定装置は、被験者の左右方向に平行で前後方向の位置が相違する複数の測定線(例えば測定線M[1]〜M[N])の各々について、被験者の腹部表面のうち当該測定線上の被計測点との距離に応じた測距信号を生成する測定部(例えば測定部40)を具備し、形状指標算定手段は、複数の測定線のうち腹部を通過する区間が最長となる特定線(例えば特定線MW)に対応する測距信号が示す第1距離(LA[n],LB[n])と、複数の測定線から選択された基準線(例えば基準線MREF)に対応する測距信号が示す第2距離(LA[N],LB[N])との相違に応じた形状指標を算定する。被験者の前後方向において腹部の横幅が最大(腹部最大幅)となる位置は被験者の脂肪型に応じて相違する。したがって、腹部最大幅の位置に近い特定線に対応する第1距離と複数の測定線から選択された基準線に対応する第2距離との相違に応じて形状指標を算定する以上の態様によれば、被験者の脂肪型に起因する腹部の断面形状の変化を形状指標に適切に反映させることが可能である。
【0009】
本発明の好適な態様において、測定部は、被験者の腹部を挟んで相互に対向するとともに各測定線に対応する測距信号を各々が生成する第1測距部(例えば測距部42A)および第2測距部(例えば測距部42B)を含み、形状指標算定手段は、第1測距部および第2測距部の各々が特定線について生成する測距信号が示す第1距離(LA[n],LB[n])の加算値(例えば合計距離TW)と、第1測距部および第2測距部の各々が基準線について生成する測距信号が示す第2距離(LA[N],LB[N])の加算値(例えば合計距離TREF)との相違に応じた形状指標を算定する。以上の態様においては、被験者の腹部を挟んで相互に対向する第1測距部および第2測距部の各々が生成する測距信号が示す距離の加算値が形状指標の算定に適用されるから、例えば被験者の腹部の断面形状が非対称である場合や被験者の腹部が所定の位置(例えば第1測距部と第2測距部とから等距離の位置)からずれている場合でも、腹部の断面形状に応じた適切な形状指標を算定できるという利点がある。
【0010】
本発明の好適な態様において、腹部幅特定手段は、第1測距部および第2測距部の各々が特定線について生成する測距信号が示す第1距離を第1測距部と第2測距部との距離(例えば距離L0)から減算した数値を腹部幅として特定する。以上の態様においては、形状指標の算定に適用される第1距離および第2距離が腹部幅特定手段による腹部幅の特定にも流用されるから、形状指標と腹部幅とを独立に算定する構成と比較して演算量が削減されるという利点がある。
【0011】
本発明の好適な態様において、肥満指標は、被験者の内臓脂肪面積であり、形状指標算定手段は、被験者の前後方向において腹部幅が最大となる位置が被験者の背面(例えば基準面PREF)から遠いほど、肥満指標算定手段が算定する内臓脂肪面積が大きくなるように、形状指標を算定する。以上の態様では、腹部最大幅の位置が被験者の背面から遠い(内臓脂肪型)ほど内臓脂肪面積が大きくなるように形状指標が算定される。すなわち、脂肪型に起因した腹部の断面形状の相違を適切に反映した内臓脂肪面積を算定することが可能である。
【0012】
さらに好適な態様において、肥満指標算定手段は、第1演算式(例えば演算式(1))を利用して腹部幅に応じた内臓脂肪面積を算定し、肥満度が低いと肥満判定手段が判定した場合には内臓脂肪面積を当該算定値に確定し、肥満度が高いと肥満判定手段が判定した場合には、第1演算式で算定された内臓脂肪面積を変数に含む第2演算式(例えば演算式(2))を利用して内臓脂肪面積を算定する。以上の態様においては、第1演算式で算定された内臓脂肪面積が第2演算式に流用されるから、第2演算式の演算が第1演算式とは独立して実行される構成と比較して演算量が削減されるという利点がある。
【0013】
本発明の好適な態様において、肥満指標は、被験者の腹囲長であり、形状指標算定手段は、被験者の前後方向において腹部幅が最大となる位置が被験者の背面から遠いほど、肥満指標算定手段が算定する腹囲長が大きい数値となるように形状指標を算定する。以上の態様では、腹部最大幅の位置が被験者の背面から遠い(内臓脂肪型)ほど腹囲長が大きくなるように形状指標が算定される。すなわち、脂肪型に起因した腹部の断面形状の相違を適切に反映した腹囲長を算定することが可能である。
【0014】
本発明の好適な態様において、肥満判定手段は、腹部幅特定手段が特定した腹部幅に応じて被験者の肥満度の高低を判定する。以上の態様では、肥満指標の算定に使用される腹部幅が肥満度の判定に流用されるから、肥満指標算定手段による肥満指標の算定とは無関係な指標を肥満度の判定に利用する構成と比較して演算量が削減されるという利点がある。
【0015】
以上の各態様に係る測定装置は、例えば演算処理装置とプログラム(ソフトウェア)との協働で実現される。本発明のプログラムは、被験者の腹部幅を特定する腹部幅特定処理と、被験者の肥満度の高低を判定する肥満判定処理と、肥満度が低いと肥満判定処理で判定した場合に、第1演算式を利用して腹部幅に応じた肥満指標を算定し、肥満度が高いと肥満判定処理で判定した場合に、第1演算式とは相違する第2演算式を利用して腹部幅に応じた肥満指標を算定する肥満指標算定処理とをコンピュータに実行させる。以上のプログラムによれば、本発明の測定装置と同様の作用および効果が実現される。本発明のプログラムは、コンピュータが読取可能な記録媒体に格納された形態で利用者に提供されてコンピュータにインストールされるほか、通信網を介した配信の形態でサーバ装置から提供されてコンピュータにインストールされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態に係る測定装置の正面図である。
【図2】本体部の斜視図である。
【図3】測定装置の電気的な構成のブロック図である。
【図4】被験者の腹部と本体部とを示す模式図である。
【図5】制御部の機能的な構成を示すブロック図である。
【図6】測距値処理部の動作のフローチャートである。
【図7】皮下脂肪型の腹部の断面形状を説明するための模式図である。
【図8】内臓脂肪型の腹部の断面形状を説明するための模式図である。
【図9】形状指標と皮下脂肪率との相関図である。
【図10】内臓脂肪面積の演算値(推定値)と実測値との相関図である。
【図11】演算処理部の動作のフローチャートである。
【図12】腹部幅とBMIとの相関図である。
【図13】内臓脂肪面積の演算値と実測値との相関図である。
【図14】交差妥当性群(男性)の内臓脂肪面積の演算値と実測値との相関図である。
【図15】交差妥当性群(女性)の内臓脂肪面積の演算値と実測値との相関図である。
【図16】図14および図15の交差妥当性群の条件の図表である。
【図17】第2実施形態における演算処理部の動作のフローチャートである。
【図18】腹囲長の演算値と実測値との相関図である。
【図19】交差妥当性群の腹囲長の演算値と実測値との相関図である。
【図20】変形例に係る測定部のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<A:第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る測定装置100の正面図である。測定装置100は、背面を基準面(例えば寝具等の表面)PREFに接触させた状態で仰臥する被験者90の肥満指標を測定(推定)する計測機器である。第1実施形態では、内臓脂肪面積を肥満指標として測定する。図1に示すように、測定装置100は、本体部12と電極部14とを具備する。本体部12と電極部14とは有線または無線で相互に通信する。
【0018】
図2は、本体部12の斜視図である。図1および図2に示すように、本体部12は、相互に間隔をあけて略平行に延在する脚部122および脚部124と、脚部122および脚部124の各々の端部を連結する長尺状の支持部126とを含んで構成される。すなわち、第1実施形態の本体部12は、下方の1辺が開放した略矩形状の枠体(フレーム)である。図1に示すように、脚部122と脚部124と支持部126とが被験者90の腹部92を包囲した状態で脚部122および脚部124の各底面が基準面PREFに接触するように本体部12は基準面PREFに配置される。電極部14は、被験者90の腹部92上に載置されて生体インピーダンスの測定に使用される。
【0019】
図3は、測定装置100の電気的な構成のブロック図である。図3に示すように、電極部14は、一対の電流供給電極22と一対の電圧測定電極24と電流供給部26と電圧検出部28とを含んで構成される。図1に示すように、各電流供給電極22は、相互に離間して形成されて被験者90の腹部92に接触する。各電圧測定電極24は、各電流供給電極22の内側に相互に離間して形成されて被験者90の腹部92に接触する。
【0020】
図3の電流供給部26は、各電流供給電極22間に測定電流を供給する。測定電流は、被験者90の腹部92内を経由する周波数FHまたは周波数FL(FH>FL)の交流電流である。周波数FHは例えば50kHzに設定され、周波数FLは例えば6.25kHzに設定される。電圧検出部28は、被験者90の腹部92に測定電流が供給される期間内に各電圧測定電極24間の電圧(以下「検出電圧」という)を検出する。検出電圧は、A/D変換器(図示略)によりデジタル信号に変換されたうえで本体部12(制御部32)に送信される。
【0021】
図3に示すように、本体部12には、制御部32と記憶部34と操作部36と表示部38と測定部40とが搭載される。制御部32(CPU)は、記憶部34に記憶されたプログラムの実行で測定装置100の各要素を制御する。記憶部34は、制御部32が実行するプログラムや制御部32が使用する各種のデータを記憶する記憶回路であり、例えばROMやRAMを含んで構成される。
【0022】
操作部36は、例えば複数の操作子を含んで構成され、利用者からの指示を受付ける。例えば被験者90の性別(男性/女性)が操作部36に対する操作で指定される。表示部38(例えば液晶表示装置)は、制御部32による制御のもとで各種の画像を表示する。例えば表示部38は、測定装置100を利用した測定手順の案内や被験者90について推定された肥満指標を表示する。図2に示すように、操作部36および表示部38は、本体部12の表面に配置される。
【0023】
図3の測定部40は、測距部42Aと測距部42Bと選択部44とA/D変換器46とを含んで構成され、被験者90の腹部92の寸法に応じた電気信号(以下「測距信号」という)を生成する。図2に示すように、測距部42Aは、脚部122のうち脚部124との対向面に相互に間隔をあけて配列されたN個の測距センサ50(50A[1]〜50A[N])で構成される。同様に、測距部42Bは、脚部124のうち脚部122との対向面に相互に間隔をあけて配列されたN個の測距センサ50(50B[1]〜50B[N])で構成される。測距センサ50A[n](n=1〜N)は、測距部42Aのうち脚部122の底面側(支持部126とは反対側)から計数して第n番目に位置する。同様に、測距センサ50B[n]は、脚部124の底面側から第n番目に位置する。
【0024】
図4は、基準面PREFに仰臥する被験者90の腹部92の横断面と本体部12の各測距センサ50(50A[1]〜50A[N],50B[1]〜50B[N])との関係を示す模式図である。図1および図4に示すように、各測距センサ50は、被験者90の腹部92に対向する非接触型(光学式)の距離測定素子である。具体的には、測距センサ50は、自身の内部の基準点p0と被験者90の腹部92表面の被計測点pとの距離L(LA[1]〜LA[N],LB[1]〜LB[N])に応じた測距信号を生成する。被計測点pは、基準点p0を通過する距離測定軸と腹部92のうち測距センサ50に対向する表面との交差点に相当する。各測距センサ50は、例えば、赤外線等の光線を距離測定軸の方向に出射する発光素子と、発光素子からの出射光のうち被測距点での反射光の受光量に応じた測距信号を生成する受光素子とを含んで構成される。
【0025】
図2に示すように、N個の測距センサ50A[1]〜50A[N]とN個の測距センサ50B[1]〜50B[N]とは、各測距センサ50の基準点p0が共通の平面(以下「測定面」という)PM内に位置するように設置される。測定面PMは、基準面PREFに本体部12が設置された状態で被験者90の腹部92を横断する平面(基準面PREFに垂直な平面)である。理想的には測定面PMが被験者90の臍を通過するように本体部12が基準面PREFに設置される。
【0026】
図4に示すように、測距部42Aの第n番目の測距センサ50A[n]と測距部42Bの第n番目の測距センサ50B[n]とは、被験者90の腹部92を挟んで相互に対向する位置に設置される。具体的には、被験者90の横方向に平行で被験者90の前後方向の位置(基準面PREFからの距離)が相違するN本の測定線M[1]〜M[N]を測定面PM内に想定すると、測距センサ50A[n]および測距センサ50B[n]の双方の距離計測軸(基準点p0)が共通の測定線M[n]上に位置する。すなわち、測距センサ50A[n]の基準点p0と測距センサ50B[n]の基準点p0とは基準面PREFから等距離に位置する。相対向する測距センサ50A[n]と測距センサ50B[n]との基準点p0の距離L0はN組で共通する。
【0027】
図4に示すように、被験者90に想定され得る多様な体型について、測定面PM内における腹部92の横方向の寸法の最大値(以下「腹部最大幅」という)Wmaxが、基準面PREFに最も近い測定線M[1]と基準面PREFから最も遠い測定線M[N]との間に位置するように、各測距センサ50の分布範囲は統計的または実験的に選定される。例えば個数Nを4個とした場合、基準面PREFと直近の測距センサ50A[1]との距離は4cm程度に設定され、相隣接する各測距センサ50A[n]の間隔は3cm程度に設定される。
【0028】
以上の構成において、測距部42Aの各測距センサ50A[n]は、被験者90の腹部92のうち当該測距センサ50A[n]との対向面と測定線M[n]とが交差する被計測点pから測距センサ50A[n]の基準点p0までの距離LA[n]に応じた測距信号を生成および出力する。同様に、測距部42Bの各測距センサ50B[n]は、測定線M[n]が腹部92に交差する被計測点pと測距センサ50B[n]の基準点p0との距離LB[n]に応じた測距信号を生成および出力する。図3の選択部44は、各測距センサ50が並列に生成する測距信号を時分割で順次に選択してA/D変換器46に供給する。A/D変換器46は、選択部44から供給される測距信号をデジタル信号に変換して制御部32に供給する。なお、電極部14を載置すると腹部92が変形するから、測定部40を利用した腹部92寸法の測定(測距信号の生成)は、電極部14が腹部92に載置されていない状態で実行される。
【0029】
図5は、制御部32の機能の説明図である。制御部32は、記憶部34に記憶されたプログラムを実行することで、被験者90の内臓脂肪面積(肥満指標)を算定するための図5の要素(生体インピーダンス算定部62,測距値処理部64,演算処理部66)として機能する。なお、制御部32の各機能を複数の集積回路に分散した構成や、専用の電子回路(DSP)が各機能を実現する構成も採用され得る。
【0030】
生体インピーダンス算定部62は、被験者90の生体インピーダンス(ZH,ZL)を順次に算定して記憶部34に格納する。具体的には、生体インピーダンス算定部62は、周波数FHの測定電流が電流供給電極22間に供給される期間内の検出電圧と当該測定電流との関係から生体インピーダンスZHを算定し、周波数FLの測定電流が電流供給電極22間に供給される期間内の検出電圧と当該測定電流との関係から生体インピーダンスZLを算定する。また、生体インピーダンス算定部62は、被験者90の腹部92の抵抗成分値(レジスタンス)Rと容量成分値(リアクタンス)Xとを周波数FHの生体インピーダンスZHと測定電流との位相差から算定する。生体インピーダンス算定部62による演算には公知の技術が任意に採用される。
【0031】
図5の測距値処理部64は、測定部40が生成する測距信号を処理することで、内臓脂肪面積の算定に適用される変数を算定する。図5に示すように、測距値処理部64は、腹部幅特定部642と形状指標算定部644とを含んで構成される。腹部幅特定部642は、被験者90の腹部幅AWを特定する。腹部幅AWは、被験者90の腹部最大幅(すなわち腹部92の横断面内での横幅の最大値)Wmaxの推定値を意味する。形状指標算定部644は、測定面PMでの腹部92の断面形状に応じた形状指標σを算定する。
【0032】
図6は、測距値処理部64の動作のフローチャートである。図6の処理は、測定部40からの測距信号の供給を契機として開始される。測距値処理部64は、測定部40が生成した測距信号から距離LA[1]〜LA[N]と距離LB[1]〜LB[N]とを特定し(SA1)、測定線M[n]に対応する距離LA[n]と距離LB[n]との合計距離T[n]をN本の測定線M[1]〜M[N]の各々について算定する(SA2)。合計距離T[n](T[n]=LA[n]+LB[n])は、相対向する測距センサ50A[n]および測距センサ50B[n]の各々と被験者90の腹部92の表面との各間隔(LA[n],LB[n])の合計値に相当する。
【0033】
測距値処理部64は、N個の合計距離T[1]〜T[N]の最小値(min)を距離TWとして選択する(SA3)。測距センサ50A[n]と測距センサ50B[n]との距離L0はN組で共通するから、距離TWは、N本の測定線M[1]〜M[N]のうち被験者90の腹部92と重複する区間が最長となる測定線M[n](以下「特定線MW」という)の合計距離T[n]である。したがって、特定線MWは、被験者90の前後方向における腹部最大幅Wmaxの位置にN本の測定線M[1]〜M[N]のなかで最も近い。図4では、測定線M[2]が特定線MWとして選択された場合が例示されている。また、測距値処理部64は、N本の測定線M[1]〜M[N]のうち基準面PREFから最も遠い測定線M[N](以下では特に「基準線MREF」と表記する場合がある)に対応する合計距離T[N]を距離TREFとして選択する(SA4)。
【0034】
腹部幅特定部642は、処理SA3で算定した距離TWを各測距センサ50A[n]と各測距センサ50B[n]との距離L0から減算することで腹部幅AW(AW=L0−TW)を算定する(SA5)。特定線MWは腹部最大幅Wmaxの位置に最も近いから、特定線MWに対応する距離TWを距離L0から減算した腹部幅AW(単位:cm2)は、腹部最大幅Wmaxに近似または合致する数値(すなわち腹部最大幅Wmaxの推定値)に相当する。
【0035】
形状指標算定部644は、処理SA3で算定された距離TWと処理SA4で算定された距離TREFとから形状指標σを算定する(SA6)。具体的には、形状指標算定部644は、距離TREFに対する距離TWの比の数値を形状指標σ(σ=TW/TREF)として算定する。以上が測距値処理部64の動作である。
【0036】
次に、形状指標σの意義について説明する。図7は、皮下脂肪型の腹部92の横断面であり、図8は、内臓脂肪型の腹部92の横断面である。図7および図8では、腹部92の横断面内の各組織(骨H,内臓N,筋肉M,皮下脂肪SF,内臓脂肪IF)が図示されている。皮下脂肪SFは筋肉Mの外側に存在し、内臓脂肪IFは筋肉Mの内側に存在する。
【0037】
皮下脂肪SFのうち直下に筋肉Mが存在しない部分は重力の作用で下方に降下する。内臓脂肪型と皮下脂肪型とを比較すると、皮下脂肪SFの降下は皮下脂肪型のほうが顕著となる。したがって、図7と図8との対比からも理解されるように、腹腔内脂肪面積に対する皮下脂肪面積の比率(以下「皮下脂肪率」という)が高いほど(内臓脂肪型から皮下脂肪型に近づくほど)、被験者90の前後方向における腹部最大幅Wmaxの位置は低い位置(基準面PREFに近い位置)になり易いという傾向がある。
【0038】
すなわち、皮下脂肪型の場合(図7)には、腹部最大幅Wmaxの位置に近い特定線MWが、鉛直方向の最上位に位置する基準線MREFからみて充分に下方に位置する。図7では、測定線M[1]が特定線MWとして選択された場合(TW=T[1]=LA[1]+LB[1])が例示されている。したがって、距離TWは、基準線MREFに対応する距離TREF(T[N]=LA[N]+LB[N])と比較して充分に小さい数値となる。すなわち、距離TREFに対する距離TWの比(TW/TREF)である形状指標σは、最大値1と比較して充分に小さい数値となる。
【0039】
他方、内臓脂肪型の場合(図8)には、腹部最大幅Wmaxの位置が基準線MREF(M[N])に接近するから、距離TWは距離TREF(TREF=T[N]=LA[N]+LB[N])に近似または合致する。したがって、形状指標σは、最大値1に近い数値となる。例えば、図8のように測定線M[N]が特定線MWとして選択された場合(TW=T[N]=LA[N]+LB[N])、形状指標σは1(=TW/TREF)に設定される。以上の説明から理解されるように、形状指標σは、腹部最大幅Wmaxの位置と基準面PREF(被験者90の背面)との距離という観点から腹部92の断面形状を評価するための指標(換言すると、被験者90の肥満型を内臓脂肪型と皮下脂肪型との何れかに分類するための指標)として機能し得る。
【0040】
図9は、形状指標σ(横軸)と皮下脂肪率(縦軸)との関係を示す相関図である。図9の皮下脂肪率の各数値は、CT(Computed Tomography)スキャンで測定された実測値である。また、図9には、形状指標σおよび皮下脂肪率の相関係数rと標準誤差SEE(Standard error of estimate)と危険率pとの各数値が併記されている。皮下脂肪率が高い(皮下脂肪型)ほど形状指標σがゼロに近い数値となり、皮下脂肪率が低い(内臓脂肪型)ほど形状指標σが1に近い数値になる、という前述の傾向が図9からも確認される。以上が形状指標σの性質である。
【0041】
図5の演算処理部66は、生体インピーダンス算定部62が算定した数値(ZH,ZL,R,X)と、腹部幅特定部642が算定した腹部幅AWと、形状指標算定部644が算定した形状指標σとを利用した演算で内臓脂肪面積を算定する。図5に示すように、演算処理部66は、被験者90の肥満度(肥満の程度)の高低を判定する肥満判定部662と、被験者90の内臓脂肪面積を算定する肥満指標算定部664とを含んで構成される。
【0042】
内臓脂肪面積(単位:cm2)の算定には、以下の演算式(1)が利用される。
A1=a1+b1×(AW2×ZH)/ZL+c1×R/X ……(1)
演算式(1)の各係数(a1,b1,c1)の数値は、所定の標本数の母集団を対象とした実測の結果から統計的(回帰的)に選定される。例えば、被験者90が男性である場合(例えば操作部36に対する操作で男性が指定された場合)、演算式(1)の各係数は以下の数値に設定される。
a1=-24.36,b1=0.05950,c1=12.22
また、被験者90が女性である場合、演算式(1)の各係数は例えば以下の数値に設定される。
a1=-17.41,b1=0.04031,c1=4.608
【0043】
図10は、各係数(a1,b1,c1)を前掲の数値に設定した場合に演算式(1)で算定される内臓脂肪面積(演算値)A1と、CTスキャンを利用した内臓脂肪面積の実測値との関係を男性および女性の各々について示す相関図である。図10から理解されるように、演算式(1)を利用した場合には、図10に破線で示すように演算値が実測値から乖離する標本が男性および女性の何れにも存在する。発明者による調査の結果、演算式(1)の演算値が実測値から乖離する標本(破線部分)は肥満度が非常に高いという傾向が確認された。以上の知見から、第1実施形態の演算処理部66は、以下に詳述するように、被験者90の肥満度に応じて内臓脂肪面積の算定に適用される演算式を変更する。
【0044】
図11は、演算処理部66の動作のフローチャートである。図11の処理は、生体インピーダンス算定部62による演算と測距値処理部64による図6の処理との完了後に開始される。図11の処理を開始すると、肥満指標算定部664は、演算式(1)の演算で内臓脂肪面積A1を算定して記憶部34に格納する(SB1)。次いで、肥満判定部662は、被験者90の肥満度の高低を判定する(SB2)。
【0045】
図12は、肥満度の指標であるBMI(Body Mass Index)と被験者90の腹部幅(実測値)との相関図である。図12から理解されるように、腹部幅とBMIとは高度に相関する(r=0.91)。以上の傾向を考慮して、第1実施形態の肥満判定部662は、腹部幅特定部642が特定した腹部幅AWを被験者90の肥満度の指標として被験者90の肥満度の高低を判定する。具体的には、肥満判定部662は、腹部幅特定部642が算定した腹部幅AWを所定の閾値AW_THと比較したうえで、腹部幅AWが閾値AW_THを上回る場合には被験者90の肥満度が高いと判定し、腹部幅AWが閾値AW_THを下回る場合には被験者90の肥満度が低いと判定する。閾値AW_THは、例えば30cm〜35cm程度の数値に設定される。
【0046】
肥満度が低い(AW<AW_TH)と肥満判定部662が判定した場合(SB2:YES)、演算処理部66は、図11の処理を終了する。すなわち、処理SB1で実行した演算式(1)の演算の結果(A1)が内臓脂肪面積として確定する。他方、肥満度が高い(AW>AW_TH)と肥満判定部662が判定した場合(SB2:NO)、肥満指標算定部664は、演算式(1)とは相違する演算式(2)の演算で内臓脂肪面積A2(単位:cm2)を算定して記憶部34に格納する(SB3)。演算式(2)は、演算式(1)で算定された内臓脂肪面積A1と形状指標算定部644が算定した形状指標σとを変数とする関数である。
A2=a2+b2×A1+c2×σ ……(2)
【0047】
演算式(2)の各係数(a2,b2,c2)の数値は、所定の標本数の母集団を対象とした実測の結果から統計的(回帰的)に選定される。例えば、被験者90が男性である場合(例えば操作部36に対する操作で男性が指定された場合)、演算式(2)の各係数は以下の数値に設定される。
a2=-414.4,b2=0.4659,c2=1062
また、被験者90が女性である場合、演算式(2)の各係数は例えば以下の数値に設定される。
a2=-136.1,b2=0.6173,c2=677.0
【0048】
演算式(2)から理解されるように、形状指標σの数値が大きいほど内臓脂肪面積A2は大きい数値となる。図9を参照して前述したように皮下脂肪率が低い(内臓脂肪型)ほど形状指標σは大きい数値となるから、皮下脂肪率が低いほど演算式(2)の内臓脂肪面積A2は大きい数値となる。すなわち、演算式(2)のうち形状指標σを含む第3項(c2×σ)は、演算式(1)で算定される内臓脂肪面積A1を被験者90の肥満型(内臓脂肪型/皮下脂肪型)に応じて補正する補正項として機能する。図11の処理で算定された内臓脂肪面積(A1,A2)の数値が表示部38に表示される。
【0049】
図13は、各係数(a2,b2,c3)を前掲の各数値に設定した場合に演算式(2)で算定される内臓脂肪面積(演算値)A2と、CTスキャンを利用した内臓脂肪面積の実測値との関係を、図10と同じ母集団について性別毎に示す相関図である。図13の相関係数rおよび標準誤差SEEは、演算式(1)を利用した図10の場合と比較して改善される。すなわち、肥満度が高い被験者90について演算式(2)を採用することで、演算式(1)を採用した図10の場合と比較して演算値と実測値との乖離を削減できることが確認される。
【0050】
図14および図15は、図10や図13とは別個の母集団(交差妥当性群)について演算式(1)および演算式(2)で算定された内臓脂肪面積(演算値)とCTスキャンでの実測値との関係を示す相関図である。交差妥当性群は、図16に図示された条件(年齢,BMI,腹囲長)の標本(肥満者)で構成される。図14は男性の内臓脂肪面積であり、図15は女性の内臓脂肪面積である。図14および図15の部分(A)は演算式(1)を採用した場合であり、図14および図15の部分(B)は演算式(2)を採用した場合である。
【0051】
肥満者の内臓脂肪面積の算定に演算式(2)を採用することで、演算式(1)を採用した場合と比較して演算値と実測値との乖離が低減される(内臓脂肪面積の推定の精度が向上する)ことが、男性および女性の双方の交差妥当性群について確認される。したがって、前掲の演算式(2)は、肥満者の内臓脂肪面積を推定する数式として充分に妥当であると評価できる。
【0052】
以上に説明したように、第1実施形態においては、被験者90の肥満度に応じて内臓脂肪面積の演算式が変更される(肥満度が高い被験者90の内臓脂肪面積の算定に演算式(2)を利用する)から、演算式(1)のみを使用する構成と比較すると、被験者90の肥満度が高い場合でも内臓脂肪面積を高精度に推定することが可能である。しかも、演算式(2)は形状指標σを変数に含んで規定され、形状指標σには、被験者90の肥満型(内臓脂肪型/皮下脂肪型)に起因する腹部92の断面形状の相違が反映されるから、内臓脂肪型および皮下脂肪型の何れの肥満型でも内臓脂肪面積を高精度に算定できるという利点がある。
【0053】
また、第1実施形態においては、測距信号から特定される距離TWが、腹部幅特定部642による腹部幅AWの算定(処理SA5)と形状指標算定部644による形状指標σの算定(処理SA6)とに共用されるから、腹部幅AWと形状指標σとを独立に算定する構成と比較して制御部32による処理量が軽減されるという利点がある。
【0054】
第1実施形態においては、腹部幅特定部642が特定した腹部幅AWが肥満判定部662による肥満度の判定に流用される。したがって、肥満度を示す独立の指標を算定して処理SB2の判定に適用する構成(腹部幅AWを肥満度の判定に流用しない構成)と比較して、肥満度の判定に必要な処理量が軽減されるという利点がある。
【0055】
第1実施形態においては、演算式(1)で算定された内臓脂肪面積A1が、肥満指標算定部664による演算式(2)の演算に流用される。したがって、内臓脂肪面積A2を内臓脂肪面積A1とは独立に算定する構成(内臓脂肪面積A1を内臓脂肪面積A2の算定に流用しない構成)と比較して、内臓脂肪面積A2の算定に必要な処理量が削減されるという利点がある。
【0056】
<B:第2実施形態>
本発明の第2実施形態を以下に説明する。第2実施形態では、被験者90の腹囲長(ウエスト)を肥満指標として算定する。なお、以下に例示する各態様において作用や機能が第1実施形態と同等である要素については、以上の説明で参照した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0057】
第2実施形態の演算処理部66(肥満判定部662,肥満指標算定部664)は、図11の処理に代えて図17の処理を実行する。図17の処理を開始すると、肥満判定部662は、被験者90の肥満度の高低を判定する(SC1)。肥満度の判定には、第1実施形態と同様に腹部幅AWが適用される。
【0058】
肥満度が低い(例えばAW<AW_TH)と肥満判定部662が判定した場合(SC1:YES)、肥満指標算定部664は、以下に例示する演算式(3)の演算で腹部幅AWに応じた腹囲長C1(単位:cm)を算定して記憶部34に格納する(SC2)。
C1=a3×AW+b3 ……(3)
演算式(3)の各係数(a3,b3)の数値は、所定の母集団を対象とした実測の結果から統計的(回帰的)に選定される。例えば、演算式(3)の各係数は以下の数値(男女共通)に設定される。
a3=2.728,b3=-10.03
【0059】
他方、肥満度が高い(例えばAW>AW_TH)と肥満判定部662が判定した場合(SC1:NO)、肥満指標算定部664は、以下に例示する演算式(4)の演算で腹部幅AWおよび形状指標σに応じた腹囲長C2(単位:cm)を算定して記憶部34に格納する(SC3)。すなわち、第2実施形態では、被験者90の肥満度が低い場合には形状指標σを含まない演算式(3)で腹囲長C1が算定され、被験者90の肥満度が高い場合には形状指標σを含む演算式(4)で腹囲長C2が算定される。
C2=a4×AW+b4+c3×σ ……(4)
演算式(4)の各係数(a4,b4,c4)の数値は、所定の母集団を対象とした実測の結果から統計的(回帰的)に選定される。例えば、演算式(4)の各係数は以下の数値(男女共通)に設定される。
a4=3.544,b4=−39.62,c4=92.08 ……(4)
【0060】
図7および図8から理解されるように、皮下脂肪型の腹部92(図7)では腹部最大幅Wmaxに対して腹囲長が小さく、内臓脂肪型の腹部92(図8)では腹部最大幅Wmaxに対して腹囲長が大きいという傾向がある。他方、演算式(4)の内容から理解されるように、形状指標σの数値が大きい(内臓脂肪型)ほど腹囲長C2は大きい数値となり、形状指標σの数値が小さい(皮下脂肪型)ほど腹囲長C2は小さい数値となる。すなわち、演算式(4)で算定される腹囲長C2は、前述の脂肪型と腹囲長との相関の傾向と整合する。
【0061】
図18の部分(A)は、各係数を前掲の各数値に設定した演算式(3)で算定される腹囲長(演算値)C1と巻尺で計測した腹囲長の実測値との相関図である。肥満度が高い標本(破線部分)について演算式(3)の演算値と実測値とが乖離し易いという傾向が図18の部分(A)から把握される。他方、図18の部分(B)は、各係数を前掲の各数値に設定した演算式(4)で算定される腹囲長(演算値)C2と巻尺での実測値との相関図である。図18の部分(B)の相関係数rおよび標準誤差SEEは、演算式(3)を適用した部分(A)の場合と比較して改善される。すなわち、肥満度が高い被験者90について演算式(4)を採用することで、演算式(3)を採用した部分(A)の場合と比較して演算値と実測値との乖離が削減されることが確認できる。
【0062】
図19の部分(A)および部分(B)は、図18とは別個の母集団(交差妥当性群)について演算式(3)または演算式(4)で算定された腹囲長(演算値)と巻尺で計測した腹囲長の実測値との相関図である。交差妥当性群は、図19の部分(C)に図示された条件の標本(肥満者)で構成される。図19の部分(A)と部分(B)とを対比すると、交差妥当性群についても、肥満者の腹囲長の算定に演算式(4)を採用することで、演算式(3)を採用した場合(部分(A))と比較して演算値と実測値との乖離が低減されることが確認される。したがって、前掲の演算式(4)は肥満者の腹囲長を推定する数式として充分に妥当であると評価できる。
【0063】
第2実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。具体的には、第2実施形態では、被験者90の肥満度の高低に応じて腹囲長の演算式が変更されるから、演算式(3)のみを使用する構成と比較すると、被験者90の肥満度が高い場合でも腹囲長を高精度に推定することが可能である。また、演算式(4)は形状指標σを含むから、内臓脂肪型および皮下脂肪型の何れの肥満型でも腹囲長を高精度に算定できるという利点もある。
【0064】
<C:変形例>
以上の各形態は多様に変形され得る。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は適宜に併合され得る。
【0065】
(1)変形例1
以上の各形態では、測距部42Aおよび測距部42Bの各々をN個(複数個)の測距センサ50で構成したが、測距部42Aおよび測距部42Bの各々が1個の測距センサ50を含む構成も採用され得る。例えば図20の測定部40においては、測距部42Aが1個の測距センサ50Aと駆動部52Aとを具備し、測距部42Bが1個の測距センサ50Bと駆動部52Bとを具備する。駆動部52Aは、測距センサ50Aの基準点p0が基準線M[1]〜M[N]の各々の線上に位置するように測距センサ50Aを鉛直方向に移動させる。同様に、駆動部52Bは測距センサ50Bを基準線M[1]〜M[N]の各位置に移動させる。したがって、測距センサ50Aは距離LA[1]〜LA[N]の各々に応じた測距信号を出力し、測距センサ50Bは距離LB[1]〜LB[N]の各々に応じた測距信号を出力する。選択部44は、測距センサ50Aおよび測距センサ50Bの各々が生成した測距信号を選択して出力する。
【0066】
(2)変形例2
以上の各形態では、距離TREFに対する距離TWの比(TW/TREF)を形状指標σとして算定したが、形状指標σの算定の方法は以上の例示に限定されない。例えば、距離TWと距離TREFとの差分に応じて形状指標σを算定する構成が採用され得る。具体的には、距離TWと距離TREFとの差分|TW−TREF|が大きいほど形状指標σが小さい数値となるように形状指標σを定義すれば(例えばσ=c−|TW−TREF|、cは所定値)、第1実施形態の形状指標σ(σ=TW/TREF)と同様に肥満指標の算定に適用することが可能である。
【0067】
また、以上の各例示では、距離TWの数値が距離TREFに対して小さいほど形状指標σが小さい数値となるように形状指標σを算定したが、距離TWおよび距離TREFの大小と形状指標σの増減との関係は逆転され得る。例えば、距離TWに対する距離TREFの比(TREF/TW)や距離TWと距離TREFとの差異|TW−TREF|を形状指標σとした構成では、距離TWの数値が距離TREFに対して小さい(皮下脂肪型)ほど形状指標σが大きい数値に設定される。以上の構成では、第1実施形態とは反対に、形状指標σが大きい(皮下脂肪型)ほど内臓脂肪面積A2や腹囲長C2が小さい数値となるように、演算式(2)や演算式(4)の内容や係数が変更される。
【0068】
以上の例示から理解されるように、特定線MWに対応する距離TW(LA[n]+LB[n])と基準線MREFに対応する距離TREF(LA[N]+LB[N])との相違(比や差分)に応じた変数が形状指標σとして好適に採用される。具体的には、被験者90の前後方向における腹部最大幅Wmaxの位置(特定線MWの位置)が基準面PREF(被験者90の背面)から遠いほど(すなわち皮下脂肪率が低いほど)、内臓脂肪面積A2や腹囲長C2が大きい数値となるように形状指標σは選定される。
【0069】
ただし、距離TWおよび距離TREFの相違に応じて形状指標σを算定する構成は本発明において必須ではない。例えば、図7および図8から理解されるように、皮下脂肪率が高い(皮下脂肪型)ほど特定線MWが基準面PREFに接近するという傾向を考慮すると、基準面PREFと特定線MWとの距離δに応じて形状指標σを算定する構成も採用され得る。具体的には、所定値δmaxに対する距離δの比が形状指標σ(σ=δ/δmax)として算定される。所定値δmaxは、図7や図8に示すように、第N番目の測定線M[N]と基準面PREFとの距離(すなわち距離δの最大値)である。以上の構成では、第1実施形態の形状指標σと同様に、被験者90の皮下脂肪率が高い(皮下脂肪型)ほど、距離δが所定値δmaxに対して小さい数値となる結果、形状指標σがゼロに近い数値となる(内臓脂肪型では形状指標σが1に近い数値となる)。
【0070】
以上の例示から理解されるように、形状指標σは、被験者90の腹部92の断面形状に応じた変数として包括される。以上に例示してきた通り、形状指標σに反映される腹部92の断面形状としては、被験者90の前後方向における腹部最大幅Wmaxの位置(基準面PREFからの距離)が例示され得る。
【0071】
(3)変形例3
腹部幅特定部642が腹部幅AWを特定する方法は任意である。例えば、定規や巻尺等の計測器具で測定された腹部幅AWが操作部36に対する操作で入力される構成では、腹部幅特定部642は、操作部36に対する操作に応じて腹部幅AWを特定(取得)する。以上の例示以外にも腹部幅AWの特定には公知の技術が任意に採用され得る。
【0072】
(4)変形例4
以上の各形態では、被験者90の肥満度の判定に腹部幅AWを利用したが、肥満度を判定する方法は任意である。例えば、BMIや体重や生体インピーダンス等の生体情報は肥満度に相関するから、肥満判定部662がこれらの生体情報に応じて被験者90の肥満度の高低を判定する構成も好適に採用される。肥満度の基準となる生体情報は、例えば操作部36に対する操作で外部から入力される。また、BMIや体重等の生体情報を測定する機構を測定装置100に搭載した構成も好適である。
【0073】
(5)変形例5
肥満指標は内臓脂肪面積(第1実施形態)および腹囲長(第2実施形態)に限定されない。例えば、内臓脂肪レベルや内臓脂肪率や皮下脂肪率が肥満指標として算定され得る。内臓脂肪レベルは、第1実施形態の方法で算定された内臓脂肪面積を所定値(例えば10)で除算することで算定される。内臓脂肪率は、腹腔内脂肪面積に対する内臓脂肪面積の割合として算定され、皮下脂肪率は、内臓脂肪率を所定値(100%)から減算することで算定される。また、演算式(2)や演算式(4)から理解されるように、肥満指標を算定するための公知の演算式に形状指標σを含む補正項を追加した形式の演算式が、肥満度の高い被験者90の肥満指標の算定に好適に利用される。
【0074】
(6)変形例6
以上の形態では、被験者90の腹部92を挟んで相対向するように測距部42Aと測距部42Bとを設置したが、腹部92の横断面が略線対称であることを考慮すると、測距部42Aおよび測距部42Bの一方を省略することも可能である。例えば測距部42Bを省略した構成では、距離LA[1]〜LA[N]の最小値の2倍が距離TWとして設定され、距離LA[N]の2倍が距離TREFとして設定される。
【符号の説明】
【0075】
100……測定装置、12……本体部、122……脚部、124……脚部、126……支持部、14……電極部、22……電流供給電極、24……電圧測定電極、26……電流供給部、28……電圧検出部、32……制御部、34……記憶部、36……操作部、38……表示部、40……測定部、42A,42B……測距部、50(50A[1]〜50A[N],50B[1]〜50B[N])……測距センサ、44……選択部、46……A/D変換器、62……生体インピーダンス算定部、64……測距値処理部、642……腹部幅特定部、644……形状指標算定部、66……演算処理部、662……肥満判定部、664……肥満指標算定部。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の腹部幅を特定する腹部幅特定手段と、
前記被験者の肥満度の高低を判定する肥満判定手段と、
前記肥満度が低いと前記肥満判定手段が判定した場合に、第1演算式を利用して前記腹部幅に応じた肥満指標を算定し、前記肥満度が高いと前記肥満判定手段が判定した場合に、前記第1演算式とは相違する第2演算式を利用して前記腹部幅に応じた肥満指標を算定する肥満指標算定手段と
を具備する測定装置。
【請求項2】
前記被験者の腹部の断面形状に応じた形状指標を算定する形状指標算定手段を具備し、
前記第2演算式は、前記形状指標を変数に含む
請求項1の測定装置。
【請求項3】
前記被験者の左右方向に平行で前後方向の位置が相違する複数の測定線の各々について、前記被験者の腹部表面のうち当該測定線上の被計測点との距離に応じた測距信号を生成する測定部を具備し、
前記形状指標算定手段は、前記複数の測定線のうち前記腹部を通過する区間が最長となる特定線に対応する測距信号が示す第1距離と、前記複数の測定線から選択された基準線に対応する測距信号が示す第2距離との相違に応じた前記形状指標を算定する
請求項2の測定装置。
【請求項4】
前記測定部は、前記被験者の腹部を挟んで相互に対向するとともに前記各測定線に対応する前記測距信号を各々が生成する第1測距部および第2測距部を含み、
前記形状指標算定手段は、前記第1測距部および前記第2測距部の各々が前記特定線について生成する測距信号が示す第1距離の加算値と、前記第1測距部および前記第2測距部の各々が前記基準線について生成する測距信号が示す第2距離の加算値との相違に応じた前記形状指標を算定する
請求項3の測定装置。
【請求項5】
前記腹部幅特定手段は、前記第1測距部および前記第2測距部の各々が前記特定線について生成する測距信号が示す第1距離を前記第1測距部と前記第2測距部との距離から減算した数値を前記腹部幅として特定する
請求項4の測定装置。
【請求項6】
前記肥満指標は、前記被験者の内臓脂肪面積であり、
前記形状指標算定手段は、前記被験者の前後方向において腹部幅が最大となる位置が前記被験者の背面から遠いほど、前記肥満指標算定手段が算定する前記内臓脂肪面積が大きくなるように、前記形状指標を算定する
請求項2から請求項5の何れかの測定装置。
【請求項7】
前記肥満指標算定手段は、前記第1演算式を利用して前記腹部幅に応じた内臓脂肪面積を算定し、前記肥満度が低いと前記肥満判定手段が判定した場合には内臓脂肪面積を当該算定値に確定し、前記肥満度が高いと前記肥満判定手段が判定した場合には、前記第1演算式で算定された内臓脂肪面積を変数に含む前記第2演算式を利用して内臓脂肪面積を算定する
請求項6の測定装置。
【請求項8】
前記肥満指標は、前記被験者の腹囲長であり、
前記形状指標算定手段は、前記被験者の前後方向において腹部幅が最大となる位置が前記被験者の背面から遠いほど、前記肥満指標算定手段が算定する前記腹囲長が大きい数値となるように前記形状指標を算定する
請求項2から請求項7の何れかの測定装置。
【請求項9】
前記肥満判定手段は、前記腹部幅特定手段が特定した腹部幅に応じて前記被験者の肥満度の高低を判定する
請求項1から請求項8の何れかの測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−19918(P2012−19918A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159522(P2010−159522)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000133179)株式会社タニタ (303)
【Fターム(参考)】