説明

測距システム

【課題】 パルス列を構成する各パルス信号の到達時間から距離を算出する測距システムにおいて、より誤差を軽減させた高精度の距離測定を実現する。
【解決手段】 互いに等振幅で構成されるパルス信号につき等時間間隔で並べたパルス列を順次生成し、パルス列生成手段により生成されたパルス列を電波として送信する送信装置2と、送信装置2から送信された電波としてのパルス列を受信し、受信したパルス列を構成する各パルス信号の到達時間を求め、パルス信号毎に求めた到達時間につき各パルス信号間で互いに異なる重み付けをして送信装置からの距離を算出する距離算出部47を有する受信装置3とを備え、距離算出部47は、受信したパルス列を構成するパルス信号の振幅が大きくなるにつれて重み付けを重くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
送信装置から受信装置へのパルス信号の到着時間に基づいて距離を測定する測距システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、互いに異なる2地点の距離を測定するいわゆる測距方法として、電波を利用した測距システムが提案されている。
【0003】
この測距システムでは、例えば図9に示すように、F地点からG地点に至るまでの距離lにつき測定を望む場合には、無線局としての送信装置61、受信装置62をそれぞれF地点、G地点に設置する。そして、この送信装置61からパルス信号により構成される電波を発信し、受信装置62によりこの電波を受信する。このとき、送信装置61から発信されたパルス信号が受信装置62により受信されるまでの到達時間Tdを測定する。この測定した到達時間Tdに電波の伝搬速度Vcを乗算することにより距離lを算出することができる。電波の伝搬速度Vcが一定であるため、この到達時間Tdのみを測定することにより、距離lを正確に測定することが可能となる。
【0004】
この伝播時間Tdを測定する方法としては、上記パルス信号の0クロスする時刻を計測する方法や、パルス信号の位相差を識別することにより到達時間Tdを測定する方法に加え、送受信における拡散符号の位相タイミングにより無線機間の距離を測定するスペクトル拡散技術を利用する方法も提案されている。
【0005】
図10は、このスペクトル拡散技術を利用した従来のシステム構成を示している。本システムは、異なる2地点に設置された無線機71から無線機72に至るまでの距離dを測定するものであって、無線機71には、ベースバンドの拡散符号を生成する拡散信号生成部81と、この拡散信号生成部81に接続される送信部82と、送信部82に接続されるアンテナ83とが実装され、さらに無線機72からの電波を受信するためのアンテナ84と、このアンテナ84に接続される受信部85と、受信部85に接続される相関演算部86と、相関演算部86に接続される相関位置判定部87とがさらに実装され、さらに最終的に距離dを測定する距離測定部88がそれぞれ上記拡散信号生成部81と相関位置判定部87に接続されて構成されている。
【0006】
また、無線機72には、無線機71におけるアンテナ83から送信されてきた電波を受信するためのアンテナ91と、このアンテナ91に接続される受信部92と、この受信部92に接続される周波数変換部93と、周波数変換部93に接続される送信部94と、この送信部94に接続されるとともに電波を発信するためのアンテナ95とが実装されている。
【0007】
この無線機71における拡散符号生成部81において、ベースバンドの拡散符号と拡散符号の位相タイミングを生成し、生成した拡散符号は、送信部82で中心周波数flの高周波信号に変換され、アンテナ83を介して無線機72へ送信されることになる。
【0008】
また、無線機72では、アンテナ91を介して受信した高周波の拡散符号を受信部92で増幅し、周波数変換部93で中心周波数f2に変換した後、送信部94およびアンテナ95を介して無線機71へ再送信する。この無線機71では、アンテナ84および受信部85を介して再送信された拡散符号を受信し、高周波の拡散符号を直交検波によりベースバンドに変換する。更に、相関演算部86において、拡散符号の自己相関演算を行い、相関位置判定部87にて、自己相関ピーク位置をもとに、受信した拡散符号の位相タイミングを検出する。距離測定部88では、送信した拡散符号の位相タイミングと受信した拡散符号の位相タイミングの差T1を検出し、無線機71、72間の距離dを算出する。
【非特許文献1】J.Lampe, R.Hach, L.Menzer IEEE-15-05-0002-00-004a January 2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
また、特に近年において、図11に示すように、互いに等振幅で構成されるパルス信号につき等時間間隔で並べたパルス列を送信装置側で生成するとともに、このパルス列からなる電波を送信装置から受信装置へ送信し、受信装置側においてこのパルス列を構成する各パルス信号の到達時間から距離を算出する測距システムも提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0010】
この測距システムでは、パルス列を構成する各パルス信号の0クロスする時刻に基づいて到達時間Tdを求める点においては、上述した測距システムと共通している。例えば図11に示す例において送信装置側において時刻t51において生成したパルス信号Jは、時刻t61においてパルス信号J’として受信装置により受信されることになるが、かかる時刻t51から時刻t61に至るまでの時間間隔が到達時間Td1に相当する。この測距システムでは、単一のパルス信号のみならず、パルス列を構成する各パルス信号J,J,J,J,Ji+1, ・・・につき、受信装置側において受信される各パルス信号J’,J’,J’,J’,Ji+1’, ・・・との間でそれぞれ到達時間Tdを求める。
【0011】
その結果、パルス信号Jとパルス信号J’との間で計算された到達時間Td2、パルス信号Jとパルス信号J’との間で計算された到達時間Td3、パルス信号Jとパルス信号J’との間で計算された到達時間Tdi等が順次求められていくことになる。これら到達時間Td1,Td2,Td3,・・・,Tdiを平均化した到達時間平均値を算出し、これに基づいて送信装置から受信装置に至るまでの距離を求める。このようにパルス信号間で平均化された到達時間を距離算出時に利用することにより、30mの距離を測定する際の誤差を81.7cm程度まで抑え込むことが可能となる。
【0012】
ちなみに、この到達時間差Tdを求める代替として、受信装置側で受信したパルス列を構成する各パルス信号J’,J’,J’,J’,Ji+1’, ・・・の時間差に基づいて、上記平均化された到達時間平均値を求めるようにしてもよい。このとき、図11に示すように、送信装置側においてパルス信号が互いに等時間間隔Tで形成されているものと仮定した場合に、各パルス信号J’,J’,J’,J’,Ji+1’, ・・・の時間差はT+dで表される。このdは、送信装置から受信装置側に到達するまでに受けた他の電波や雑音等の影響に基づく時間間隔Tの誤差分である。
【0013】
例えば、パルス信号J’とJ’の時間差はT+dで表され、パルス信号J’とJ’の時間差はT+dで表されることになり、さらにパルス信号J’とJi+1’の時間差はT+dで表されることになる(|d|>0)。これらd、d、・・、dの平均値を求めることにより、上述した到達時間平均値を算出することも可能となる。
【0014】
また、このような到達時間平均値を求める以外に、例えば受信装置側で受信したパルス列を構成する各パルス信号J’,J’,J’,J’,Ji+1’, ・・・の時間差T+d、T+d、・・、T+dを上述と同様に算出し、算出した時間差T+dの中からdが最小となるパルス信号J’を特定し、その特定したパルス信号J’における到達時間を求めるようにしてもよい。かかる場合においても、実際に測定すべき距離の誤差を低減させることが可能となる。
【0015】
しかしながら、上述した従来の方法に基づいて、パルス列を構成するパルス信号間で到達時間平均値を求めて距離を算出した場合においても、結局のところ30mの距離に対して約80cmの割合で誤度が含まれることになる。このため、より誤差を軽減させた高精度の距離測定が望まれる箇所に対して適用可能なシステム構成にすることができず、システム全体の汎用性を高めることができないという問題点があった。
【0016】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、パルス列を構成する各パルス信号の到達時間から距離を算出する測距システムにおいて、より誤差を軽減させた高精度の距離測定を実現することが可能な測距システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、送信装置と受信装置との間で送受信するパルス列において、各パルス信号の振幅の大きさが未だ情報として利用されていない点や、受信装置側で受信したパルス列を構成する各パルス信号の時間差に着目し、高精度な距離測定を実現可能な測距システムを発明した。
【0018】
即ち、本発明を適用した測距システムは、上述した課題を解決するために、互いに等振幅で構成されるパルス信号につき等時間間隔で並べたパルス列を順次生成するパルス列生成手段と、上記パルス列生成手段により生成されたパルス列を電波として送信する送信手段とを有する送信装置と、上記送信装置から送信された電波としてのパルス列を受信する受信手段と、上記受信手段により受信された上記パルス列を構成する各パルス信号が上記送信手段から上記受信手段に至るまでの到達時間を求め、上記パルス信号毎に求めた到達時間につき各パルス信号間で互いに異なる重み付けをして上記送信装置からの距離を算出する距離算出手段とを有する受信装置とを備え、距離算出手段は、受信したパルス列を構成するパルス信号の振幅が大きくなるにつれて上記重み付けを重くする。
【0019】
また、本発明を適用した測距システムは、上述した課題を解決するために、互いに等振幅で構成されるパルス信号につき等時間間隔で並べたパルス列を順次生成するパルス列生成手段と、上記パルス列生成手段により生成されたパルス列を電波として送信する送信手段とを有する送信装置と、上記送信装置から送信された電波としてのパルス列を受信する受信手段と、上記受信手段により受信された上記パルス列を構成する各パルス信号における振幅の平均値を求め、求めた振幅の平均値と上記各パルス信号の振幅との差分絶対値を順次算出し、算出した差分絶対値が最小となる振幅を持つパルス信号を特定し、この特定したパルス信号における上記送信手段から上記受信手段に至るまでの到達時間に基づいて上記送信装置からの距離を算出する距離算出手段とを有する受信装置とを備える。
【0020】
また、本発明を適用した測距システムは、上述した課題を解決するために、互いに等振幅で構成されるパルス信号につき等時間間隔で並べたパルス列を順次生成するパルス列生成手段と、上記パルス列生成手段により生成されたパルス列を電波として送信する送信手段とを有する送信装置と、上記送信装置から送信された電波としてのパルス列を受信する受信手段と、上記受信手段により受信された上記パルス列を構成するパルス信号間の時間差の絶対値における平均値を求め、求めた平均値並びに隣接する他のパルス信号の受信時刻に基づいてパルス信号の受信時刻を推定する1回目の推定を行い、1回目の推定において推定したパルス信号の受信推定時刻に基づいてさらにパルス信号間の絶対値における平均値を求め、この求めた平均値並びに隣接する他のパルス信号の受信推定時刻に基づいてパルス信号の受信時刻を推定する2回目の推定を行い、2回目の推定において推定したパルス信号の受信推定時刻並びにそのパルス信号が上記送信手段から上記受信手段に至るまでの到達時間とに基づいて上記送信装置からの距離を算出する距離算出手段とを有する受信装置とを備える。
【0021】
また、本発明を適用した測距システムは、上述した課題を解決するために、互いに等振幅で構成されるパルス信号につき等時間間隔で並べたパルス列を順次生成するパルス列生成手段と、上記パルス列生成手段により生成されたパルス列を電波として送信する送信手段とを有する送信装置と、上記送信装置から送信された電波としてのパルス列を受信する受信手段と、上記受信手段により受信された上記パルス列を構成する各パルス信号が上記送信手段から上記受信手段に至るまでの到達時間を求め、求めた各パルス信号の到達時間の中央値に基づいて上記送信装置からの距離を算出する距離算出手段とを有する受信装置とを備える。
【0022】
本発明を適用した測距システムは、上述した課題を解決するために、互いに等振幅で構成されるパルス信号につき等時間間隔で並べたパルス列を順次生成するパルス列生成手段と、少なくとも上記パルス列生成手段により生成されたパルス列を電波として送信するとともにこれを受信可能な送受信手段とを有する送受信装置と、上記送受信装置から送信された電波としてのパルス列を受信するとともに、これを上記送受信装置へ送信する通信装置とを備え、上記送受信装置は、上記通信装置から送信されてきたパルス列を上記送受信手段を介して受信し、上記送受信手段により受信された上記パルス列を構成する各パルス信号が当該送受信手段から発信されてからの到達時間を求め、上記パルス信号毎に求めた到達時間につき各パルス信号間で互いに異なる重み付けをして上記通信装置からの距離を算出し、当該算出時において、受信したパルス列を構成するパルス信号の振幅が大きくなるにつれて上記重み付けを重くする。
【0023】
また、本発明を適用した測距システムは、上述した課題を解決するために、互いに等振幅で構成されるパルス信号につき等時間間隔で並べたパルス列を順次生成するパルス列生成手段と、少なくとも上記パルス列生成手段により生成されたパルス列を電波として送信するとともにこれを受信可能な送受信手段とを有する送受信装置と、 上記送受信装置から送信された電波としてのパルス列を受信するとともに、これを上記送受信装置へ送信する通信装置とを備え、上記送受信装置は、上記通信装置から送信されてきたパルス列を上記送受信手段を介して受信し、上記送受信手段により受信した上記パルス列を構成する各パルス信号における振幅の平均値を求め、求めた振幅の平均値と上記各パルス信号の振幅との差分絶対値を順次算出し、算出した差分絶対値が最小となる振幅を持つパルス信号を特定し、この特定したパルス信号が当該送受信手段より発信されてから受信されるまでの到達時間に基づいて上記通信装置からの距離を算出する。
【0024】
また、本発明を適用した測距システムは、上述した課題を解決するために、互いに等振幅で構成されるパルス信号につき等時間間隔で並べたパルス列を順次生成するパルス列生成手段と、少なくとも上記パルス列生成手段により生成されたパルス列を電波として送信するとともにこれを受信可能な送受信手段とを有する送受信装置と、 上記送受信装置から送信された電波としてのパルス列を受信するとともに、これを上記送受信装置へ送信する通信装置とを備え、上記送受信装置は、上記通信装置から送信されてきたパルス列を上記送受信手段を介して受信し、上記送受信手段により受信した上記パルス列を構成するパルス信号間の時間差の絶対値における平均値を求め、求めた平均値並びに隣接する他のパルス信号の受信時刻に基づいてパルス信号の受信時刻を推定する1回目の推定を行い、1回目の推定において推定したパルス信号の受信推定時刻に基づいてさらにパルス信号間の絶対値における平均値を求め、この求めた平均値並びに隣接する他のパルス信号の受信推定時刻に基づいてパルス信号の受信時刻を推定する2回目の推定を行い、2回目の推定において推定したパルス信号の受信推定時刻並びにそのパルス信号が当該送受信手段より発信されてから受信されるまでの到達時間に基づいて上記通信装置からの距離を算出する。
【0025】
また、本発明を適用した測距システムは、上述した課題を解決するために、互いに等振幅で構成されるパルス信号につき等時間間隔で並べたパルス列を順次生成するパルス列生成手段と、少なくとも上記パルス列生成手段により生成されたパルス列を電波として送信するとともにこれを受信可能な送受信手段とを有する送受信装置と、 上記送受信装置から送信された電波としてのパルス列を受信するとともに、これを上記送受信装置へ送信する通信装置とを備え、上記送受信装置は、上記通信装置から送信されてきたパルス列を上記送受信手段を介して受信し、上記送受信手段により受信された上記パルス列を構成する各パルス信号が当該送受信手段から発信されてからの到達時間を求め、求めた各パルス信号の到達時間の中央値に基づいて上記通信装置からの距離を算出する。
【発明の効果】
【0026】
即ち、本発明を適用した測距システムでは、パルス信号毎に求めた到達時間につき各パルス信号間で互いに異なる重み付けをして送信装置からの距離Lを算出する際に、受信したパルス列を構成するパルス信号の振幅が大きくなるにつれて上記重み付けを重くする。これにより、求められる距離Lは、より振幅が大きいパルス信号の到達時間が、より重く反映され、より振幅が小さいパルス信号の到達時間がより軽く反映される形で算出されることになり、距離を測定する際の誤差を低減させることが可能となる。
【0027】
また、本発明を適用した測距システムでは、受信装置側で受信した上記パルス列を構成する各パルス信号における振幅の平均値を求め、求めた振幅の平均値と上記各パルス信号の振幅との差分絶対値を順次算出し、算出した差分絶対値が最小となる振幅を持つパルス信号を特定し、この特定したパルス信号における上記送信手段から上記受信手段に至るまでの到達時間に基づいて送信装置からの距離を算出する。これにより、距離を測定する際の誤差を低減させることが可能となる。
【0028】
また、本発明を適用した測距システムでは、パルス列を構成するパルス信号間の時間差の絶対値における平均値を求め、求めた平均値並びに隣接する他のパルス信号の受信時刻に基づいてパルス信号の受信時刻を推定する1回目の推定を行い、1回目の推定において推定したパルス信号の受信推定時刻に基づいてさらにパルス信号間の絶対値における平均値を求め、この求めた平均値並びに隣接する他のパルス信号の受信推定時刻に基づいてパルス信号の受信時刻を推定する2回目の推定を行い、2回目の推定において推定したパルス信号の受信推定時刻並びにそのパルス信号が上記送信手段から上記受信手段に至るまでの到達時間とに基づいて送信装置からの距離を算出する。これにより、距離を測定する際の誤差を低減させることが可能となる。
【0029】
また、本発明を適用した測距システムでは、互いに等振幅で構成されるパルス信号につき等時間間隔で並べたパルス列を順次生成し、パルス列生成手段により生成されたパルス列を電波として送信し、送信装置から送信された電波としてのパルス列を受信装置側で受信し、受信したパルス列を構成する各パルス信号の到達時間を求め、求めた各パルス信号の到達時間の中央値に基づいて送信装置からの距離を算出する。これにより、距離を測定する際の誤差を低減させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、2地点間の距離を測定する測距システムにつき、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0031】
図1は、本発明を適用した測距システム1のシステム構成につき示している。この測距システム1は、A地点からB地点に至るまでの距離Lを測定するシステムであって、A地点に設置された送信装置2と、B地点に設置された受信装置3とを備えている。
【0032】
送信装置2並びに受信装置3は、UWB(Ultra Wide Band)通信技術を利用して互いに電波を送受信することが可能な無線通信機である。このUWB通信では、1ナノ秒という非常に短い時間幅のパルス信号を利用し、そのパルス信号の時間軸上の位置や位相を変化させることで搬送波を用いることなく情報を伝送する。1ナノ秒以下という非常に短い時間幅のパルス信号を用いることから、UWB通信用の信号が占有する信号帯域は数GHzと非常に広くなるが、搬送波を用いた変調処理そのものが不要となり、スペクトル電力密度を低減させることができる。このため、これをノイズの信号レベル以下まで抑えることができることから、他の通信システムや各種機器による影響を受けることもなくなり、高いデータ伝送特性が実現されることになる。
【0033】
また、このUWB通信では、また、電波を送出する搬送波を用いた通信方式とは異なり、きわめて短いパルスを送出するだけで通信を実現することが可能となることから、消費電力を非常に小さくすることができ、パルス信号の送出間隔を短くすることで非常に高速な通信を実現することも可能となる。
【0034】
実際にこの測距システム1において、距離Lを測定する場合には、送信装置2から発信されたUWB方式に基づくパルス信号が受信装置3により受信されるまでの到達時間Tcを測定する。この測定した到達時間Tcに電波の伝搬速度Vcを乗算することにより距離Lを算出する。このとき、送信装置2は、パルス信号を発信してから、この再送信されてきたパルス信号を受信するまでの到達時間Tcを測定し、この測定した到達時間Tcに電波の伝播速度Vcを乗算することにより距離Lを算出することになる。
【0035】
図2は、このようなUWB通信に必要なパルス信号を生成する送信装置2のブロック構成を示している。
【0036】
この送信装置2は、UWB通信に基づくパルス信号を生成するパルス生成部21と、このパルス生成部21に接続されてなるとともに、パルス生成部21により生成されたパルス信号が送られてくるパルスシェーピング部22と、パルスシェーピング部22から出力されるパルス信号につき後述する基準信号に基づいて周波数変換を施すためのミキサ回路24と、生成した基準信号を上記ミキサ回路24に対して供給するための局部発信器23と、ミキサ回路24において周波数変換された信号につき通過帯域を制限するためのフィルタ25と、このフィルタ25に接続された第1のアンプ26と、この第1のアンプ26に接続されたアンテナ27とを備えている。
【0037】
パルス生成部21は、UWB方式に基づき、数GHzにもわたる広帯域にわたって短い時間幅のパルス信号を生成する。実際にこのパルス信号を生成する場合において、パルス生成部21は、互いに等振幅で構成されるパルス信号につき等時間間隔で並べたパルス列を順次生成していくことになる。このパルス生成部21により生成されたパルス列は、そのままパルスシェーピング部22へと送信されることになる。
【0038】
パルスシェーピング部22は、パルス生成部21から送信されてきた拡散系列のパルス列を構成する各パルス信号につき所定のシェーピング処理を施す。
【0039】
局部発振器23は、変調用の基準信号を生成する。この局部発振器23によって生成される基準信号の局部発振周波数は、この局部発信器23内において可変となるように構成されていてもよい。また、この局部発信器23は、発生すべき局部発振周波数につき、図示しないPLL回路等に基づいて増強され、減衰されるように制御可能とされていてもよい。
【0040】
ミキサ回路24は、パルスシェーピング部22においてシェーピング処理が施されたパルス列を構成する各パルス信号を、局部発信器23により送出されてきた基準信号に基づいて周波数変換する。このミキサ回路24は、この周波数変換されたパルス信号からなるパルス列につき、フィルタ25へ出力する。
【0041】
フィルタ25は、ミキサ回路24から出力されてきたUWB方式に基づくパルス列につき、所望の帯域のみ通過させるととともに、不要な帯域をカットする。このときフィルタ25は、ミキサ回路24における周波数変換時において発生した不要な周波数成分を除去することができるように通過帯域が設定されていてもよい。このフィルタ25を通過した帯域成分からなるパルス列は、そのまま第1のアンプ26へと出力されることになる。
【0042】
第1のアンプ26は、このフィルタ25から出力されてきたパルス列を増幅し、さらに帯域内で周波数特性がフラットになるように補正する。
【0043】
アンテナ27は、第1のアンプ26により増幅された電気信号としてのパルス信号より構成されるパルス列につき、電磁的な電波としてのパルス列に変換し、これを空中に放射する。なお、この送信装置2において、このアンテナ27から電波としてのパルス列を放射する際における時刻をカウントする機能を実装するようにしてもよい。
【0044】
図3は、このようなUWB方式に基づくパルス信号を受信する受信装置3のブロック構成を示している。
【0045】
この受信装置3は、UWB通信に基づくパルス信号を送信装置2から受信するためのアンテナ31と、アンテナ31に接続されてなるフィルタ32と、フィルタ32から出力されたパルス列につき、高周波信号処理を施す低雑音増幅器(LNA)33と、このLNA33に接続されてなるミキサ回路34及びミキサ回路35と、生成した基準信号をミキサ回路34及びミキサ回路35へ供給するための局部発振器37と、この局部発振器37により発振すべき基準信号の周波数を制御するための周波数制御部36とを備えている。またこの送信装置2は、ミキサ回路34に対して、それぞれローパスフィルタ(LPF)41、第2のアンプ43、アナログ−デジタル変換器(ADC)45とを順次接続し、さらに、ミキサ回路35に対して、それぞれLPF42、第2のアンプ44、ADC46とを順次接続している。このADC45、ADC46には、さらに距離算出部47がともに接続されている。
【0046】
アンテナ31は、送信装置2から送信されてきた電波としてのパルス列を受信し、これを電気的なパルス信号からなるパルス列に変換する。
【0047】
フィルタ32は、アンテナ31により受信したパルス列につきUWB帯域外の信号を除去する。即ち、送信装置2から受信装置3へ電波が送られる過程において、UWB帯域外の信号が重畳される場合もあることから、かかる信号をこのフィルタ32において精度よく除去する。
【0048】
LNA33は、アンテナ31により受信され、フィルタ32を介して送られてきたパルス列につき、低雑音増幅する。UWB方式に基づくパルス信号は、ノイズの信号レベル以下の微弱なものであるため、これを通常のアンプで増幅してもノイズとUWB信号とを見分けることができなくなる。このため、LNA33を実装することにより、UWB方式に基づく所望のパルス信号のみを選択的に増幅させることで、ノイズの影響を除去したパルス列を得ることが可能となる。LNA33により低雑音増幅されたパルス列は、接続されたミキサ回路34及びミキサ回路35にそれぞれ供給されることになる。
【0049】
局部発振器37は、周波数制御部36による制御の下、ベースバンドの基準信号としての同相信号(I信号)及び直交信号(Q信号)を生成する。この局部発振器37は、生成したI信号をミキサ回路34へ出力するとともに、生成したQ信号をミキサ回路35へと出力する。
【0050】
ミキサ回路34、ミキサ回路35は、LNA33から送信されてきたパルス列を構成する各パルス信号につき、局部発振器37より出力されてきたI信号、Q信号に基づいて直交変調する。
【0051】
LPF41、LPF42は、ミキサ回路34、ミキサ回路35によりそれぞれ変調が施されたUWB方式のパルス列につき、高周波成分を除去するとともに、低周波成分のみを通過させる。
【0052】
第2のアンプ43は、LPF41により帯域制限されたパルス列を増幅し、これをADC45へ送出する。また第3のアンプ44は、LPF42により帯域制限されたパルス列を増幅し、これをADC46へ送出する。
【0053】
ADC45は、第2のアンプ43から送出されてきたアナログベースバンドのパルス信号をサンプリングしてデジタル信号化し、このデジタル化されたパルス列を距離算出部47へ送信する。ADC46は、第2のアンプ44から送出されてきたアナログベースバンドのパルス信号をサンプリングしてデジタル信号化し、このデジタル化されたパルス列を距離算出部47へ送信する。
【0054】
距離算出部47は、ADC45及びADC46からそれぞれ送信されてきたパルス列を構成するパルス信号に基づき、距離Lを算出する。この距離算出の詳細な方法に関しては、後段において詳述する。
【0055】
周波数制御部36は、ADC45及びADC46によりデジタル信号化されたパルス信号を読み取り、これに基づいて局部発振器37により生成すべき基準信号をフィードバック制御する。
【0056】
このような構成からなる測距システム1により、実際にA地点からB地点に至るまでの距離Lを測定する動作につき説明をする。
【0057】
先ず、送信装置2側において、パルス生成部21は、UWB方式に基づくパルス信号からなるパルス列を広帯域にわたり生成する。この生成されたパルス列は、パルスシェーピング部22においてシェーピング処理が施される。また、このパルス列は、ミキサ回路24において、局部発振周波数に基づく高周波成分により変調され、さらにフィルタ25において不要な周波数成分が除去される。
【0058】
このパルス列は、第1のアンプ26を介してアンテナ27により電磁的な電波に変換されて空気中に放射される。この空気中に放射された電波は、図3に示す受信装置3側におけるアンテナ31により受信され、電気的なパルス列に再変換されることになる。そして、このパルス列は、LNA33により低雑音増幅されてノイズと見分けがつくように調整された上でミキサ回路34及びミキサ回路35にそれぞれ供給される。
【0059】
ミキサ回路34、ミキサ回路35に送られてきたパルス列は、I信号、Q信号に基づいて直交変調されてさらにLPF41、42を通過することにより、これに重畳されていた高周波成分が除去されることになる。最後にこれらパルス列はADC45、46によりアナログ−デジタル変換された上で距離算出部47へと送信されることになる。
【0060】
距離算出部47は、このADC45、46より送信されてきたパルス列を解析する。図4は、送信装置2において生成されたパルス列と、受信装置3により受信されたパルス列を時系列的に示している。この送信装置2側において時刻t11において生成したパルス信号Iは、時刻t21においてパルス信号I’として受信装置3により受信されることになるが、かかる時刻t11から時刻t21に至るまでの時間が到達時間Tc1に相当する。この測距システム1では、単一のパルス信号のみならず、パルス列を構成する各パルス信号I,I,I,I,Ii+1, ・・・につき、受信装置3側において受信される各パルス信号I’,I’,I’,I’,Ii+1’, ・・・との間でそれぞれ到達時間Tc1,Tc2,Tc3,・・,Tci,Tci+1,・・を求めることもできる。
【0061】
各到達時間Tc1,Tc2,Tc3,・・,Tci,Tci+1は、それぞれ同一のパルス信号における送信装置2から受信装置3に至るまでの時間差を表している。このため、このパルス列を構成する何れか一つのパルス信号に着目し、その到達時間を求めることにより、距離Lを算出することができる。
【0062】
本発明を適用した測距システム1においては、算出すべき距離Lの測定誤差をより軽減させる観点から、パルス列を構成する各パルス信号の振幅の大きさが未だ情報として利用されていない点に着目し、以下に説明する第1の算出方法に基づき到達時間を求めるようにしてもよい。この第1の算出方法では、パルス列を構成するパルス信号につき互いに異なる重み付けを施すことにより到達時間を求める。
【0063】
図5は、距離算出部47により読み取られたパルス列の一例を示している。パルス列の振幅は、送信装置2側において同等となるように制御されていても、送信装置2から受信装置3へ送られる過程において図5に示すようにパルス信号間で互いに変化してしまう。このパルス列を構成するパルス信号は、より振幅が大きいほど求める到達時間の精度が高くなる。
【0064】
かかる現象を利用し、距離算出部47では、パルス列を構成するパルス信号のうち、より振幅が大きいパルス信号の到達時間を尊重しつつ距離Lを求める。かかる場合において、距離算出部47は、パルス列を構成するパルス信号の中から、実際に到達時間を求める複数のパルス信号を選択する。この選択すべきパルス信号は、パルス列を構成する全てのパルス信号を含むようにしてもよいが、任意の2以上のパルス信号が含まれていればいかなる数で構成されていてもよい。
【0065】
次に距離算出部47は、選択したパルス信号の振幅を識別する。例えば図5に示すようにパルス信号I11’,I12’,I13’,I14’,I15’を選択した場合において、その振幅がそれぞれA11’,A12’,A13’,A14’,A15’と互いに異なるが、振幅がA12’,A13’と大きいパルス信号がI12’,I13’であり、また振幅がA14’,A15’と小さいパルス信号がI14’,I15’であることを識別することができる。
【0066】
次に、距離算出部47は、各パルス信号I11’,I12’,I13’,I14’,I15’につき、それぞれ到達時間Tc11、Tc12、Tc13、Tc14、Tc15を求める。次に距離算出部47は、求めた到達時間に基づき、距離Lを求める。このとき、振幅が大きいパルス信号I12’,I13’につき求められたTc12、Tc13のデータにつき重み付けを重くし、振幅が小さいパルス信号I14’,I15’につき求められたTc14、Tc15のデータにつき重み付けを軽くする。即ち、パルス信号毎に求めた到達時間につき各パルス信号間で互いに異なる重み付けをして送信装置からの距離Lを算出する際に、受信したパルス列を構成するパルス信号の振幅が大きくなるにつれて上記重み付けを重くする。
【0067】
これにより、求められる距離Lは、より振幅が大きいパルス信号の到達時間が、より重く反映され、より振幅が小さいパルス信号の到達時間がより軽く反映される形で算出されることになる。重み付けは振幅または電力に基づいて行うことが可能だが、ここで振幅に基づいて重み付けを行った。その結果、既知の距離L(=30m)を測定する際の誤差を59.6cmまで押さえ込むことが可能となる。
【0068】
なお、本発明を適用した測距システム1においては、以下の第2の算出方法により、パルス列を構成する各パルス信号の振幅に基づいて、求めるべき到達時間を最も高精度に現れてくる一つのパルス信号を選択し、選択した一つのパルス信号に基づいて距離Lを算出するようにしてもよい。
【0069】
かかる場合において、先ず距離算出部47は、図6に示すステップS11においてパルス列を構成するパルス信号の中からN個のパルス信号を選択する。
【0070】
次に、ステップS12へ移行し、距離算出部47は、選択したN個のパルス信号につき、それぞれ振幅を識別する。
【0071】
次にステップS13へ移行し、距離算出部47は、以下の(1)式に基づいてN個のパルス信号における振幅の平均値Ahを求める。
[式1]

次にステップS14へ移行し、距離算出部47は、以下の(2)式に基づいて各パルス信号の振幅と、式(1)により求めた振幅の平均値Ahとの差分絶対値ΔAを求める。
【0072】
ΔA=|A−Ah|・・・・・・・・・(2)
【0073】
次にステップS15へ移行し、距離算出部47は、以下の(3)式に基づいて、差分絶対値ΔAが最小となる一つのパルス信号を選択する。具体的には、求めた振幅の平均値に最も近い振幅Aを持つパルス信号をこの(3)式に基づいて特定していくことになる。
【0074】
=min{ΔA}・・・・・・・・・・・(3)
【0075】
このようにして選択されたパルス信号の到達時間を求め、求めた到達時間に基づき、A地点からB地点に至るまでの距離Lを求める(ステップS16)。その結果、この第2の算出方法においては、既知の距離L(=30m)を測定する際の誤差を41.0cmまで押さえ込むことが可能となる。
【0076】
また、本発明を適用した測距システム1では、上述の如くパルス信号の振幅に関する情報に基づいて距離Lを求める場合のみならず、以下に説明する第3の算出方法に基づいて距離Lを求めるようにしてもよい。
【0077】
かかる場合において、距離算出部47は、送信装置2から受信したパルス列を構成するパルス信号の中から、実際に到達時間を求めるN個のパルス信号を選択する。このとき、選択するN個のパルス信号は、パルス列を構成する中から互いに連続するN個のパルス信号とする。
【0078】
次に、距離算出部47は、選択したN個のパルス信号につき、以下の式(4)に基づいて平均時間差ΔTを求める。このΔTは、選択したN個のパルス信号を時間軸上で並べた場合に、互いに隣接する2つのパルス信号の受信時刻間の差分絶対値和を求めた上で、これをパルス信号数Nから1を引いた数で除すことにより算出される。即ち、このΔTは、互いに隣接する2つのパルス信号の受信時刻間の差分絶対値の平均に相当する。即ち、この(4)式に基づいてΔTを求めることにより、受信したパルス列を構成する隣接するパルス信号の時間差の平均を求めることができる。
【0079】
[式2]

【0080】
次に、この取得した平均時間差ΔTを用いることにより、パルス列を構成するパルス信号の受信時刻tを推定する。受信時刻を推定するパルス信号I’と次のパルス信号Ij+1’との時間差を
ΔT=t−tj+1 ;(j=1、2、・・・、N-1)・・・・(5)
で定義し、第1回目の推定受信時刻tは、(6)式によって求めることができる。
=t−(ΔT−ΔT) ;(j=1、2、・・・、N-1)・・・(6)
【0081】
この(6)式において、上付数字は、解析回数を示している。1回目の推定の終了時において、パルス列を構成するパルス信号I’,I’,・・・・,IN−1’における受信推定時刻t,t,・・・・,tN−1が算出された状態となる。次に、この算出された受信推定時刻t,t,・・・・,tN−1は、図7に示すように実際の受信時刻t,t,・・・・,tN−1と比較してより均一な時間差をもって刻まれていることがわかる。但し、上記の操作では、tは,更新されないので除去している。
【0082】
次に、距離算出部47は、2回目の時刻推定を行う。この2回目の時刻推定では、1回目の時刻推定により推定した受信推定時刻t,t,・・・・,tN−1の差分絶対値和の平均を算出する。
【0083】
[式3]

【0084】
次に、この取得した平均時間差ΔTを用いることにより、2回目の時刻推定を行う。個々のパルスの時間差を
ΔT=t−tj+1 ;(j=1、2、・・・、N-2)・・・(8)
で定義し、第2回目の推定受信時刻tは、(9)式によって求めることができる。
=t−(ΔT−ΔT);(j=1、2、・・・、N-2)・・・(9)
【0085】
このようにして算出された2回目の受信推定時刻t,t,・・・・,tN−2は、1回目に算出した受信推定時刻t,t,・・・・,tN−1と比較してさらに均一な時間差をもって刻まれていることがわかる。
【0086】
以上からわかるように、時刻推定を1回増やすごとに、用いるパルスが1個減ることになる。これは一番最後のパルスの時刻が更新されないので、自主的に処理から外しているからである。
【0087】
一般に、送信装置2から受信装置3へ送られる過程においてパルス列を構成するパルス信号の時間差がばらついてしまうが、この第3の算出方法を用いることにより、これら時間差をより均一にすることが可能となり、実際の到達時間を求めるときに、全N−k個(k回時間推定を行ったとする)のパルスの推定時間の平均値、または全N−k個のパルスの中の振幅の一番大きいパルスの推定時間を実際の到達時間とすることが可能である。
【0088】
この第3の算出方法においては、上記式を利用することにより、受信推定時刻の算出を3回以上実行するようにしてもよい。この受信推定時刻の算出回数が増加するにつれて、受信推定時刻の推定精度が向上することになり、距離Lの算出精度そのものを大幅に向上させることが可能となる。
【0089】
また、本発明を適用した測距システム1では、以下に説明する第4の算出方法に基づいて距離Lを求めるようにしてもよい。
【0090】
かかる場合において、距離算出部47は、送信装置2から受信したパルス列を構成するパルス信号の中から、実際に到達時間を求めるN個のパルス信号を選択する。このとき、選択するN個のパルス信号は、パルス列を構成する中から互いに連続するN個のパルス信号としてもよいし、これに限定されることなくランダムなN個のパルス信号を抽出するようにしてもよい。
【0091】
次に、距離算出部47は、選択したN個のパルス信号につき、それぞれ到達時間を求める。次にこの求めた各パルス信号の到達時間を長いものから順にソートし、その中央値に基づいて距離Lを算出する。その結果、距離Lの算出精度を向上させることが可能となる。
【0092】
上述したように、本発明を適用した測距システム1では、距離算出部47において算出すべき距離Lを、受信したパルス列を構成するパルス信号の振幅に関する情報や、受信時刻に関する情報を効率的に利用しても高精度に求めることが可能となり、測定誤差をより軽減させることができる。
【0093】
なお、上述した実施の形態では、あくまで第1の算出方法、第2の算出方法、第3の算出方法をそれぞれ単独に実行する場合を例に挙げて説明をしたが、かかる場合に限定されるものではなく、第2の算出方法と第3の算出方法を組み合わせて実行してもよいし、第1の算出方法と第3の算出方法を組み合わせて実行してもよい。さらに、本発明では、第1の算出方法と第2の算出方法と第3の算出方法を組み合わせて実行するようにしてもよい。
【0094】
また、上述した実施の形態では、あくまでUWB方式に基づくパルス信号の到達時間に基づいて距離Lを算出する場合を例に挙げて説明をしたが、かかるUWB方式に限定されるものではなく、パルス信号を利用した全ての測距に対しても同様に適用可能である。
【0095】
また、上述した実施の形態では、送信装置2から発信されたパルス信号が受信装置3により受信されるまでの到達時間Tcを測定することにより距離Lを算出する場合を例に挙げて説明をしたがかかる場合に限定されるものではない。例えば、上記A地点に送受信装置6を、また上記B地点に通信装置7をそれぞれ設置し、送受信装置6からUWB方式に基づくパルス信号を通信装置7へ送信し、通信装置7側において受信した上記パルス信号を送受信装置6へ再送信するようにしてもよい。
【0096】
図8は、かかる送受信装置6のブロック構成を示している。この送受信装置6において上述した送信装置2、受信装置と同一の構成要素、部材に関しては、同一の番号を付すことにより、ここでの説明を省略する。
【0097】
送受信装置6は、パルス信号を生成するパルス生成部21と、このパルス生成部21に接続されてなるとともに、パルス生成部21により生成されたパルス信号が送られてくるパルスシェーピング部22と、パルスシェーピング部22から出力されるパルス信号につき後述する基準信号に基づいて周波数変換を施すためのミキサ回路24と、基準信号を生成するための局部発信器23と、ミキサ回路24において周波数変換された信号につき通過帯域を制限するためのフィルタ25と、このフィルタ25に接続された第1のアンプ26と、この第1のアンプ26に接続された切替回路51と、切替回路51に接続されたアンテナ27とを備えている。また、この送信装置6は、切替回路51に接続されたフィルタ32と、フィルタ32から出力されたパルス列につき、高周波信号処理を施す低雑音増幅器(LNA)33と、このLNA33並びに局部発振器23に接続されてなるミキサ回路52と、このミキサ回路52に対してそれぞれLPF41、アンプ43、ADC45が順次接続されてなり、さらにこのADC45には距離算出部47が接続されている。
【0098】
切替回路51は、通信装置7へのパルス列を送信する際において、第1のアンプ26とアンテナ27とが接続されるように切替処理を実行する。またこの切替回路51は、通信装置7からのパルス列を受信する際において、アンテナ27とフィルタ32とが接続されるように切替処理を実行する。
【0099】
ちなみに通信装置7の構成は、少なくとも上記パルス列をアンテナを介して受信し、その受信したパルス列を再びアンテナを介して送受信装置6へ送信することができる機能が実装されていれば足りるが、送受信装置6と同様のブロック構成を適用するようにしてもよい。
【0100】
このような送受信装置6から上述と同様にパルス列が生成され、これが送受信装置6から通信装置7へ送信され、この通信装置7は、かかるパルス列を再び送受信装置6へ送信する。送受信装置6は、通信装置7からのパルス列をアンテナ27を介して受信し、切替回路51を介してこれをフィルタ32へ出力し、最終的に距離算出部47へと送られることになる。
【0101】
距離算出部47は、上述した第1の算出方法、第2の算出方法、第3の算出方法に基づいて、到達時間を求めることになるが、この到達時間は、あくまで送受信装置6と通信装置7とを往復する時間に相当するため、実際に距離Lを算出する際には、この到達時間2を2で割った上で実行する必要が生じる。
【0102】
このようなパルス列を送受信する測距システム1においても同様に距離Lの測定精度を向上させることが可能となることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明を適用した測距システムの構成図である。
【図2】本発明を適用した測距システムを構成する送信装置のブロック構成図である。
【図3】本発明を適用した測距システムを構成する受信装置のブロック構成図である。
【図4】送受信するパルス列の例を示す図である。
【図5】本発明を適用した測距システムにおける第1の算出方法につき説明するための図である。
【図6】本発明を適用した測距システムにおける第2の算出方法につき説明するためのフローチャートである。
【図7】本発明を適用した測距システムにおける第3の算出方法につき説明するための図である。
【図8】本発明を適用した測距システムの他の構成例につき示す図である。
【図9】従来例につき説明するための図である。
【図10】従来における測距システムにつき示すブロック構成図である。
【図11】従来における測距方法について説明するための図である。
【符号の説明】
【0104】
1 測距システム
2 送信装置
3 受信装置
21 パルス生成部
22 パルスシェーピング部
23 局部発振器
24 ミキサ回路
25 フィルタ
26 第1のアンプ
27 アンテナ
31 アンテナ
32 フィルタ
33 低雑音増幅器(LNA)
34 ミキサ回路
35 ミキサ回路
36 周波数制御部
37 局部発振器
41、42 LPF
43、44 アンプ
45、46 ADC
47 距離算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに等振幅で構成されるパルス信号につき等時間間隔で並べたパルス列を順次生成するパルス列生成手段と、上記パルス列生成手段により生成されたパルス列を電波として送信する送信手段とを有する送信装置と、
上記送信装置から送信された電波としてのパルス列を受信する受信手段と、上記受信手段により受信された上記パルス列を構成する各パルス信号が上記送信手段から上記受信手段に至るまでの到達時間を求め、上記パルス信号毎に求めた到達時間につき各パルス信号間で互いに異なる重み付けをして上記送信装置からの距離を算出する距離算出手段とを有する受信装置とを備え、
上記距離算出手段は、受信したパルス列を構成するパルス信号の振幅が大きくなるにつれて上記重み付けを重くすること
を特徴とする測距システム。
【請求項2】
上記距離算出手段は、さらに上記受信手段により受信された上記パルス列を構成する各パルス信号における振幅の平均値を求め、求めた振幅の平均値と上記各パルス信号の振幅との差分絶対値を順次算出し、算出した差分絶対値が最小となる振幅を持つパルス信号を特定し、この特定したパルス信号における上記送信手段から上記受信手段に至るまでの到達時間に基づいて上記送信装置からの距離を算出すること
を特徴とする請求項1記載の測距システム。
【請求項3】
上記距離算出手段は、さらに上記受信手段により受信された上記パルス列を構成するパルス信号間の時間差の絶対値における平均値を求め、求めた平均値並びに隣接する他のパルス信号の受信時刻に基づいてパルス信号の受信時刻を推定する1回目の推定を行い、1回目の推定において推定したパルス信号の受信推定時刻に基づいてさらにパルス信号間の絶対値における平均値を求め、この求めた平均値並びに隣接する他のパルス信号の受信推定時刻に基づいてパルス信号の受信時刻を推定する2回目の推定を行い、2回目の推定において推定したパルス信号の受信推定時刻並びにそのパルス信号が上記送信手段から上記受信手段に至るまでの到達時間とに基づいて上記送信装置からの距離を算出すること
を特徴とする請求項1又は2記載の測距システム。
【請求項4】
互いに等振幅で構成されるパルス信号につき等時間間隔で並べたパルス列を順次生成するパルス列生成手段と、上記パルス列生成手段により生成されたパルス列を電波として送信する送信手段とを有する送信装置と、
上記送信装置から送信された電波としてのパルス列を受信する受信手段と、上記受信手段により受信された上記パルス列を構成する各パルス信号における振幅の平均値を求め、求めた振幅の平均値と上記各パルス信号の振幅との差分絶対値を順次算出し、算出した差分絶対値が最小となる振幅を持つパルス信号を特定し、この特定したパルス信号における上記送信手段から上記受信手段に至るまでの到達時間に基づいて上記送信装置からの距離を算出する距離算出手段とを有する受信装置とを備えること
を特徴とする測距システム。
【請求項5】
上記距離算出手段は、さらに上記受信手段により受信された上記パルス列を構成するパルス信号間の時間差の絶対値における平均値を求め、求めた平均値並びに隣接する他のパルス信号の受信時刻に基づいてパルス信号の受信時刻を推定する1回目の推定を行い、1回目の推定において推定したパルス信号の受信推定時刻に基づいてさらにパルス信号間の絶対値における平均値を求め、この求めた平均値並びに隣接する他のパルス信号の受信推定時刻に基づいてパルス信号の受信時刻を推定する2回目の推定を行い、2回目の推定において推定したパルス信号の受信推定時刻並びにそのパルス信号が上記送信手段から上記受信手段に至るまでの到達時間とに基づいて上記送信装置からの距離を算出すること
を特徴とする請求項4記載の測距システム。
【請求項6】
互いに等振幅で構成されるパルス信号につき等時間間隔で並べたパルス列を順次生成するパルス列生成手段と、上記パルス列生成手段により生成されたパルス列を電波として送信する送信手段とを有する送信装置と、
上記送信装置から送信された電波としてのパルス列を受信する受信手段と、上記受信手段により受信された上記パルス列を構成するパルス信号間の時間差の絶対値における平均値を求め、求めた平均値並びに隣接する他のパルス信号の受信時刻に基づいてパルス信号の受信時刻を推定する1回目の推定を行い、1回目の推定において推定したパルス信号の受信推定時刻に基づいてさらにパルス信号間の絶対値における平均値を求め、この求めた平均値並びに隣接する他のパルス信号の受信推定時刻に基づいてパルス信号の受信時刻を推定する2回目の推定を行い、2回目の推定において推定したパルス信号の受信推定時刻並びにそのパルス信号が上記送信手段から上記受信手段に至るまでの到達時間とに基づいて上記送信装置からの距離を算出する距離算出手段とを有する受信装置とを備えること
を特徴とする測距システム。
【請求項7】
上記距離算出手段は、上記パルス信号の受信時刻の推定を繰り返し実行すること
を特徴とする請求項3、5、6のうち何れか1項記載の測距システム。
【請求項8】
互いに等振幅で構成されるパルス信号につき等時間間隔で並べたパルス列を順次生成するパルス列生成手段と、上記パルス列生成手段により生成されたパルス列を電波として送信する送信手段とを有する送信装置と、
上記送信装置から送信された電波としてのパルス列を受信する受信手段と、上記受信手段により受信された上記パルス列を構成する各パルス信号が上記送信手段から上記受信手段に至るまでの到達時間を求め、求めた各パルス信号の到達時間の中央値に基づいて上記送信装置からの距離を算出する距離算出手段とを有する受信装置とを備えること
を特徴とする測距システム。
【請求項9】
互いに等振幅で構成されるパルス信号につき等時間間隔で並べたパルス列を順次生成するパルス列生成手段と、少なくとも上記パルス列生成手段により生成されたパルス列を電波として送信するとともにこれを受信可能な送受信手段とを有する送受信装置と、
上記送受信装置から送信された電波としてのパルス列を受信するとともに、これを上記送受信装置へ送信する通信装置とを備え、
上記送受信装置は、上記通信装置から送信されてきたパルス列を上記送受信手段を介して受信し、上記送受信手段により受信された上記パルス列を構成する各パルス信号が当該送受信手段から発信されてからの到達時間を求め、上記パルス信号毎に求めた到達時間につき各パルス信号間で互いに異なる重み付けをして上記通信装置からの距離を算出し、当該算出時において、受信したパルス列を構成するパルス信号の振幅が大きくなるにつれて上記重み付けを重くすること
を特徴とする測距システム。
【請求項10】
互いに等振幅で構成されるパルス信号につき等時間間隔で並べたパルス列を順次生成するパルス列生成手段と、少なくとも上記パルス列生成手段により生成されたパルス列を電波として送信するとともにこれを受信可能な送受信手段とを有する送受信装置と、
上記送受信装置から送信された電波としてのパルス列を受信するとともに、これを上記送受信装置へ送信する通信装置とを備え、
上記送受信装置は、上記通信装置から送信されてきたパルス列を上記送受信手段を介して受信し、上記送受信手段により受信した上記パルス列を構成する各パルス信号における振幅の平均値を求め、求めた振幅の平均値と上記各パルス信号の振幅との差分絶対値を順次算出し、算出した差分絶対値が最小となる振幅を持つパルス信号を特定し、この特定したパルス信号が当該送受信手段より発信されてから受信されるまでの到達時間に基づいて上記通信装置からの距離を算出すること
を特徴とする測距システム。
【請求項11】
互いに等振幅で構成されるパルス信号につき等時間間隔で並べたパルス列を順次生成するパルス列生成手段と、少なくとも上記パルス列生成手段により生成されたパルス列を電波として送信するとともにこれを受信可能な送受信手段とを有する送受信装置と、
上記送受信装置から送信された電波としてのパルス列を受信するとともに、これを上記送受信装置へ送信する通信装置とを備え、
上記送受信装置は、上記通信装置から送信されてきたパルス列を上記送受信手段を介して受信し、上記送受信手段により受信した上記パルス列を構成するパルス信号間の時間差の絶対値における平均値を求め、求めた平均値並びに隣接する他のパルス信号の受信時刻に基づいてパルス信号の受信時刻を推定する1回目の推定を行い、1回目の推定において推定したパルス信号の受信推定時刻に基づいてさらにパルス信号間の絶対値における平均値を求め、この求めた平均値並びに隣接する他のパルス信号の受信推定時刻に基づいてパルス信号の受信時刻を推定する2回目の推定を行い、2回目の推定において推定したパルス信号の受信推定時刻並びにそのパルス信号が当該送受信手段より発信されてから受信されるまでの到達時間に基づいて上記通信装置からの距離を算出すること
を特徴とする測距システム。
【請求項12】
上記送受信装置は、上記パルス信号の受信時刻の推定を繰り返し実行すること
を特徴とする請求項11記載の測距システム。
【請求項13】
互いに等振幅で構成されるパルス信号につき等時間間隔で並べたパルス列を順次生成するパルス列生成手段と、少なくとも上記パルス列生成手段により生成されたパルス列を電波として送信するとともにこれを受信可能な送受信手段とを有する送受信装置と、
上記送受信装置から送信された電波としてのパルス列を受信するとともに、これを上記送受信装置へ送信する通信装置とを備え、
上記送受信装置は、上記通信装置から送信されてきたパルス列を上記送受信手段を介して受信し、上記送受信手段により受信された上記パルス列を構成する各パルス信号が当該送受信手段から発信されてからの到達時間を求め、求めた各パルス信号の到達時間の中央値に基づいて上記通信装置からの距離を算出すること
を特徴とする測距システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−250777(P2006−250777A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−68801(P2005−68801)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】