説明

湯分散性の良い青汁粉末及びその製造方法

【課題】凝集・沈殿を防止する効果のある食品素材の添加や、均質化処理を含まない、湯分散性の良い青汁粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】搾汁した青汁を乾燥処理後、再度溶解させてから、(i)噴霧乾燥を含む処理に供するか、又は(ii)加熱処理と凍結乾燥処理とに供して、再度乾燥させることを含む、湯分散性の良い青汁粉末の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湯分散性の良い青汁粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会は食の欧米化により肉類の摂取量が大幅に増えると共に、野菜類の摂取量低下が顕著になってきている。2012年まで展開される国民健康づくり運動「健康日本21」の「栄養・食生活」分野では、「成人の1日あたりの野菜の平均摂取量の増加」を目標に掲げており、野菜を摂取することの重要性については改めて議論するまでもない。一方、野菜の摂取が健康維持に重要であることはわかっていても、なかなか取りづらいのが現状であり、このような状況を鑑み野菜を手軽に取れるよう開発されたものが青汁である。
【0003】
青汁のつくり方には様々な方法があるが、大きく分けると原料を丸ごと粉砕する方法と原料を搾汁する方法とに大別することができる。原料を丸ごと粉砕する方法は、丸ごと青汁に加工できるという利点があるが、一方で食物繊維などの不溶性成分が存在するため、飲食時にざらつきを感じたり、沈殿を生じやすいなどの欠点が存在する。この欠点を解消する方法として、不溶性の部分を取り除きながら青汁に加工する搾汁という方法がある。搾汁という方法を用いれば不溶性の繊維分などは搾汁粕として除去されるため、口当たりがよく滑らかで、沈殿を生じにくい青汁をつくることが可能である。
【0004】
搾汁という方法によってつくられた青汁はそのまま飲用に供されるほか、保存性を高めるために冷凍処理や粉末化処理される。冷凍処理されたものは解凍した後飲用に供されるが、粉末化処理されたものは水等に溶かして飲用される。しかし粉末化された青汁をお湯などの温かいものに溶かした場合、多くは熱による凝集・沈殿を発生し、外観、口当たりとも不適なものとなってしまう。原因としては、青汁に含まれるタンパク質などの熱凝固性の物質がお湯の熱により凝集・沈殿を生成するためと考えられる。一方、青汁をホットで飲みたいというニーズは高く、粉末化された青汁をお湯などに溶かして飲むことができれば、温かい物が飲みたくなる冬場でも楽に飲用することができる上、各種加工食品の原料としても用途が広がり、利便性は飛躍的に向上する。
【0005】
熱による凝集・沈殿を防止するために現在までに様々な検討が行われている。凝集・沈殿を防止する効果のある食品素材を添加する方法として、例えば特許文献1では、野菜汁と乳化水溶液とを混合して得られることを特徴とする、野菜ジュースを開示している。また、特許文献2では、可食性緑葉植物の葉及び茎の搾汁液の固形分及び環状デキストリンより成る安定な青汁粉末組成物を開示している。また、特許文献3では、発酵セルロース及びカルボキシメチルセルロースのアルカリ塩を含有する被加熱殺菌処理食品用の分散安定化組成物を開示している。しかし、凝集・沈殿を防止する効果のある食品素材を添加する方法は、乳化剤や環状デキストリンといった食品添加物を原料として使用することとなり、天然嗜好の消費者には受け入れられにくいという問題点が依然存在していた。
【0006】
また、凝集・沈殿を防止する効果のある食品素材を添加せずに凝集・沈殿を防止する方法としては、例えば特許文献4では、豆乳、野菜、及び食塩を含有する調味料を基材として豆乳液状食品を得、得られた豆乳液状食品を105〜155℃で高温加熱し、該高温加熱と同時に、あるいは該高温加熱の後に均質化することを特徴とする、喫食時に於ける加熱の際に凝集物の発生しない豆乳液状食品の製造法を開示している。また、特許文献5では、パルプ質を含む人参汁を含有させた飲料を製造するに当たり、上記人参汁を50℃以上に加熱した後均質化処理することを特徴とする人参汁含有飲料の製造法を開示している。しかし、これらの製造方法を実現するには、別途特別に均質化させる装置が必要となる点が課題であった。
【0007】
【特許文献1】特開2000−166521号
【特許文献2】特開平1−281066号
【特許文献3】特開平11−178516号
【特許文献4】特開昭59−227261号
【特許文献5】特開昭64−23880号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の通り、植物からの湯分散性の良い搾汁液を得るに際し、凝集・沈殿を防止する効果のある食品素材を添加する方法や、均質化処理を含む方法には不都合な課題が存在する。
【0009】
そこで本発明は、凝集・沈殿を防止する効果のある食品素材の添加や、均質化処理を含まない、湯分散性の良い青汁粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、搾汁した青汁を乾燥処理後、再度溶解させてから特定の乾燥処理に供することにより、お湯に溶解させた際の分散性が飛躍的に向上した青汁粉末を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、以下の特徴を包含する。
(1) 搾汁した青汁を乾燥処理後、再度溶媒に溶解させてから、(i)噴霧乾燥を含む処理に供するか、又は(ii)加熱処理と凍結乾燥処理とに供することにより、再度乾燥させることを含む、湯分散性の良い青汁粉末の製造方法。
(2) 加熱温度は70℃以上であることを特徴とする上記(1)記載の方法。
(3) 青汁の原料が大麦若葉であることを特徴とする、上記(1)又は(2)記載の方法。
(4) 上記(1)〜(3)のいずれか記載の方法により製造された湯分散性の良い青汁粉末。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、食品添加物を含まない、湯分散性の良い青汁粉末を簡便かつ安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、湯分散性の良い青汁粉末を製造する方法(以下、単に本発明の方法という)。本明細書に記載する用語「湯分散性の良い」は、90℃以上の飲用溶媒に溶解させた際に、少なくとも5分間は青汁の均一な緑色を維持することをいう。
【0014】
本発明の方法は、搾汁した青汁を乾燥処理後、再度溶解させてから、(i)噴霧乾燥を含む処理に供するか、又は(ii)加熱処理と凍結乾燥処理とに供することにより、再度乾燥させることを含んでいる。
【0015】
本発明において、出発原料からの搾汁処理及びその後の乾燥処理については特別な手法を使用する必要はなく、当業者に一般的な手法により行うことができる。
【0016】
本発明において、出発原料は青汁原料として使用することができるものであればどのような植物を用いてもよいが、ダイコン、ブロッコリー、カリフラワー、キャベツ、メキャベツ、白菜、かぶ、わさび、タイサイ、ミズナ、スグキナ、小松菜、からし菜、ケールなどのアブラナ科植物、大麦若葉、イネ、コムギ、カラスムギ、ライムギ、キビ、アワ、ヒエ、トウモロコシなどのイネ科植物、明日葉、セリ、ニンジン、セロリなどのセリ科植物、よもぎ、春菊などのキク科植物、ほうれん草、フダンソウなどのアカザ科植物、甘藷、ヨウサイなどのヒルガオ科植物、イグサなどのイグサ科植物などを使用することができる。青汁原料として大麦若葉を使用することが好ましい。
【0017】
例えば搾汁処理は、青汁原料を洗浄後、必要に応じて細断又は粉砕処理を施した後、一般的に使用される搾汁機を使用して行うことができる。搾汁機としては、これに限定されるものではないが、例えばスクリュープレス、フィルタープレス、パルパー、デカンターなど、飲食品分野で搾汁に通常用いられているものを適宜組合せて使用することができる。
【0018】
また乾燥処理は、熱風乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥など当業者が通常用いる任意の方法を用いることができる。特に噴霧乾燥は、熱による変質が熱風乾燥に比べて小さく、また凍結乾燥に比べて乾燥処理時間が短いため、上記のように搾汁された搾汁液の乾燥方法として好ましい。
【0019】
また、乾燥前に殺菌処理を行ってもよい。例えば加熱殺菌、高圧殺菌など、当業者が通常用いる任意の方法を用いることができる。
【0020】
本発明の方法において、上記のようにして乾燥された青汁粉末を再度溶媒に溶解させる。青汁粉末を溶解させる溶媒としては、次工程である乾燥工程に悪影響を及ぼさないものであればどのような溶媒でも構わないが、好ましくは水、又は水とアルコールの混合液などである。水の重量に対する乾燥された青汁粉末の投入量については特に制限はなく、均一に溶解できる条件であればどのような割合でもよい。また、溶解させる方法についても特に制限はなく、均一に溶解できる方法であればどのような方法でもよい。
【0021】
続いて上記のようにして再溶解された青汁を、上記(i)又は(ii)に規定される第2の乾燥処理に供する。
上記(i)の乾燥処理は、噴霧乾燥を含む処理である。「噴霧乾燥を含む処理」とは、噴霧乾燥以外の乾燥処理や、加熱処理などと適宜組合せた処理を含む意図である。加熱処理と組合せて噴霧乾燥を行う場合は、噴霧乾燥前に加熱処理を行うものとする。加熱処理の温度、加熱時間は特に制限されず、例えばそれぞれ50〜130℃、1秒〜30分の範囲で行うことができる。ここで使用する噴霧乾燥処理は、当業者に一般的な手法により行えばよく、例えば常法の噴霧乾燥処理が可能なスプレードライヤー(例えば株式会社山陽社製のもの)によって行えばよい。
【0022】
上記(ii)の乾燥処理は、加熱処理と凍結乾燥処理とからなる処理である。加熱処理と凍結乾燥処理の順序は、加熱処理、凍結乾燥処理の順であるものとする。この乾燥処理における加熱温度は、70℃以上、好ましくは90℃以上である。加熱温度の上限は、製造物を高温にさらすことによる品質低下や加熱機等の機械的制約がない限り、特に制限されない。また加熱時間は、製造物を長時間の加熱条件下にさらすことによる品質低下や加熱機等の機械的制約がない限り特に制限されないが、例えば1秒〜30分とすることができる。ここで使用する凍結乾燥処理は、当業者に一般的な手法により行えばよく、例えば常法の凍結乾燥処理が可能なフリーズドライヤー(例えばタイテック社製)によって行えばよい。
【0023】
また、上記(i)又は(ii)の乾燥処理前に殺菌処理を行ってもよい。殺菌処理としては、例えば加熱殺菌、高圧殺菌など、業者が通常用いる任意の方法を用いることができる。
【0024】
上記のようにして製造された青汁粉末は、湯分散性が良く、ホットでの飲用や各種加工食品の原料として広く利用することができる。また本発明の方法で製造された青汁粉末は、乳化剤、環状デキストリン、アラビアガム、グアガム、ローカストビーンガム、タラガム、ペクチン、発酵セルロース、カルボキシメチルセルロースなどの食品添加物を含まない点で特徴付けることができる。
【0025】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例等に限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
[実施例1] 再度溶解させてから乾燥させた湯分散性の良い青汁の調製
大麦若葉を水で洗浄し粉砕、搾汁した後、搾汁液を濃縮し噴霧乾燥した。得られた粉末を水に再溶解した後、130℃に加熱し、再度噴霧乾燥した。
(青汁の湯分散性の評価)
得られた粉末4gを沸騰させた熱湯100mlで溶解させ、100mlメスシリンダーに移した後、5分間静置し状態を観察した。その結果を表1に示す。なお、湯分散状態の評価基準は以下の通りであった。
<湯分散性評価基準>
◎;全体的に均一に分散して液は緑色、○;一部沈殿・凝集があるが液は緑色
△;沈殿・凝集はあるが液は緑色、×;緑色の沈殿・凝集と褐色の液に分離
【0027】
[実施例2] 再溶解後の加熱条件の検討
大麦若葉を水で洗浄し粉砕、搾汁した後、搾汁液を濃縮し噴霧乾燥した。得られた粉末を水に再溶解した後、50℃加熱、70℃加熱、90℃加熱、130℃加熱処理若しくは非加熱処理し、噴霧乾燥を行った。また、得られた粉末を水に再溶解した後、70℃加熱、90℃加熱処理し、凍結乾燥処理を行った。得られた粉末4gを沸騰させた熱湯100mlで溶解させ、100mlメスシリンダーに移した後、5分間静置し状態を観察した。その結果を表2に示す。なお、湯分散状態の評価基準は実施例1と同様である。
【0028】
[比較例]
1.再度溶解させてから乾燥させる処理を行わない青汁の試作
大麦若葉を水で洗浄し粉砕、搾汁した後、搾汁液を濃縮し噴霧乾燥した。得られた粉末4gを沸騰させた熱湯100mlで溶解させ、100mlメスシリンダーに移した後、5分間静置し状態を観察した。
2.再度溶解させてから非加熱処理又は50℃で加熱処理し、凍結乾燥処理した青汁の試作
大麦若葉を水で洗浄し粉砕、搾汁した後、搾汁液を濃縮し噴霧乾燥した。得られた粉末を水に再溶解した後、50℃加熱若しくは非加熱処理し、凍結乾燥処理を行った。得られた粉末4gを沸騰させた熱湯100mlで溶解させ、100mlメスシリンダーに移した後、5分間静置し状態を観察した。
上記結果を表1及び2に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
搾汁した青汁を乾燥処理後、再度溶媒に溶解させてから、(i)噴霧乾燥を含む処理に供するか、又は(ii)加熱処理と凍結乾燥処理とに供することにより、再度乾燥させることを含む、湯分散性の良い青汁粉末の製造方法。
【請求項2】
加熱温度は70℃以上であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
青汁の原料が大麦若葉であることを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の方法により製造された湯分散性の良い青汁粉末。

【公開番号】特開2010−130970(P2010−130970A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311471(P2008−311471)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(507045904)ヤクルトヘルスフーズ株式会社 (5)
【Fターム(参考)】