説明

湯張り装置

【課題】湯張り回路を流れる湯張り水に銀イオン発生器から銀イオンを溶解させることにより、浴槽水の銀イオン濃度を目標濃度にできる機能を備えた、湯張り装置に於いて、残り湯が貯留された浴槽に湯張りする場合でも、湯張り後の浴槽水が所期の殺菌効果を発揮するようにする。
【解決手段】銀イオン濃度が前記目標濃度より高濃度に調整された高濃度湯張り水を生成させるのに必要な高濃度信号を前記銀イオン発生器に印加する高濃度設定手段と、湯張り開始時に浴槽に残り湯が貯留されている場合は残湯有り信号を出力する残り湯検出手段を具備し、前記残り湯検出手段から前記残湯有り信号が出力されている場合は、前記高濃度設定手段からの前記高濃度信号を前記銀イオン発生器に印加する(S14)ことにより前記高濃度湯張り水を生成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴槽への湯張り装置、特に、銀イオンが溶解した浴槽水を湯張りできる機能を備えた湯張り装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
殺菌作用を有する銀イオンが溶解した浴槽水を湯張りできる湯張り装置が特開2006−138588号公報(特許文献1)に開示されている。
このものでは、浴槽へ繋がる湯張り回路の途中に、湯張り水の流量を検出する流量カウンタと、湯張り水に銀イオンを溶解させる銀イオン発生器とが設けられている。銀イオン発生器は、銀電極を電気分解することで湯張り水に銀イオンを溶解させるもので、銀電極へ供給する電流の大さを調整することにより、銀イオン濃度が設定できるように構成されている。
【0003】
このものでは、湯張り回路に設けられた流量カウンタの検出流量に応じて銀イオン発生器に供給する電流の大きさを変化させ、これにより、浴槽へ供給される湯張り水の銀イオン濃度を殺菌に適した濃度に維持できるようにしている。
【0004】
この従来のものでは、湯張りされた浴槽水に、殺菌作用のある銀イオンが溶解しているから、浴槽水中の雑菌繁殖が抑えられる。従って、雑菌繁殖に起因するヌメリ等の汚れが浴槽や追焚き循環回路の内壁に付着するのが防止される。
【特許文献1】特開2006−138588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のものでは、湯張り回路を流れる湯張り水の銀イオン濃度を殺菌に適した濃度に設定することは出来るものの、例えば、前日の残り湯がある浴槽に湯を追加する態様で湯張りする場合は、湯張り後における浴槽水の銀イオン濃度が低くなり、所期の殺菌効果が担保できないという問題があった。
即ち、湯張り後の浴槽水中の銀イオンは、追焚き時に追焚循環回路の配管壁へ接触して析出すると共に、時間経過に伴って自然に減少することから、浴槽に貯留された残り湯の銀イオン濃度は、徐々に低下する。従って、残り湯がある浴槽に湯を追加する態様で湯張りする場合は、追加する湯張り水の銀イオンが残り湯で希釈されて濃度低下することから、所期の殺菌効果が担保できないのである。
本発明は係る点に鑑みて成されたもので、
『浴槽に接続された湯張り回路を流れる湯張り水に銀イオン発生器から銀イオンを溶解させると共に、
前記銀イオン発生器の出力を制御することで前記溶解させる銀イオン量を調整して湯張り水の銀イオン濃度を設定し、これにより、浴槽水の銀イオン濃度を目標濃度にできる機能を備えた、湯張り装置』に於いて、
残り湯が貯留された浴槽に湯張りする場合でも、湯張り後の浴槽水が所期の殺菌効果を発揮するようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[請求項1に係る発明]
上記課題を解決するための請求項1に係る発明の解決手段は、
『銀イオン濃度が前記目標濃度より高濃度に調整された高濃度湯張り水を生成させるのに必要な高濃度信号を前記銀イオン発生器に印加する高濃度設定手段と、
湯張り開始時に浴槽に残り湯が貯留されている場合は残湯有り信号を出力する残り湯検出手段を具備し、
前記残り湯検出手段から前記残湯有り信号が出力されている場合は、前記高濃度設定手段からの前記高濃度信号を前記銀イオン発生器に印加することにより前記高濃度湯張り水を生成させる』ことである。
上記解決手段によれば、湯張り開始時に浴槽に残り湯が貯留されている場合は、これを検出する残り湯検出手段が残湯有り信号を出力し、該残湯有り信号が出力されている場合は、高濃度設定手段からの高濃度信号が銀イオン発生器に印加される。これにより、目標濃度より高濃度に調整された高濃度湯張り水が湯張り回路から浴槽へ湯張りされ、銀イオン濃度が低下した浴槽内の残り湯と前記高濃度湯張り水が混合されて目標濃度に近付く。
【0007】
[請求項2に係る発明]
請求項1に係る発明に於いて、
『前記高濃度信号は、
湯張り完了後に目標濃度になっていると仮定した場合の全浴槽水に溶解している銀イオン量から、前記残り湯中の残存銀イオン量を減算した量の銀イオンを前記銀イオン発生器から湯張り水に溶解させるのに必要な信号である』ものとすることができる。
湯張り完了後に目標濃度になっていると仮定した場合の全浴槽水に溶解している銀イオン量から、前記残り湯中の残存銀イオン量を減算すると、湯張り開始後に浴槽に新たに追加する湯張り水(湯張り完了後の全浴槽水から残り湯を除いた量の水)を目標濃度に調整するために必要な銀イオン量と、前記残り湯を目標濃度に濃縮するために必要な銀イオン量の、合計量の銀イオンが、高濃度湯張り水に溶解されることとなり、これにより、湯張り後の浴槽水が目標濃度に調整される。
【0008】
[請求項3に係る発明]
請求項2に係る発明に於いて、
『前記残存銀イオン量は、前記目標濃度と仮定した場合の残り湯に溶解している銀イオンの総量に所定の補正係数Zを掛け算した値である』ものとすることができる。
このものでは、所定の補正係数Zを掛け算することにより残存銀イオン量を求めるから、残り湯の銀イオン濃度を測定する濃度測定器等が必要なく、湯張り装置が複雑化するのを防止することができる。
【0009】
[請求項4に係る発明]
請求項3に係る発明に於いて、
『前記浴槽水を循環追焚する追焚回路が前記浴槽に接続されており、
前記補正係数Zは、前回の湯張り運転の終了後に実行された追焚き回数が増加するに従って小さくなる』ものとすることができる。
浴槽水中の銀イオンは、追焚き時に追焚循環回路の配管壁へ接触して析出することから、浴槽水の銀イオン濃度は追焚回数の増加に従って低下する。そこで、請求項4に係る発明では、前回の湯張り運転の終了後に実行された追焚き回数の増加に従って補正係数Zを小さくし、これにより、今回の湯張り開始時の、残り湯中の残存銀イオン量の推定値を前記追焚き回数によって減少させるようにしている。
従って、前回の湯張り運転の終了後に実行された追焚き回数を考慮した正確な残存銀イオン量の判定が可能となる。
【0010】
[請求項5に係る発明]
請求項3に係る発明に於いて、
『前記補正係数Zは、前回の湯張り運転から今回の湯張り運転までの経過時間が増加するに従って小さくなる』ものとすることができる。
浴槽水中の銀イオンは、経時的に自然に減少する。そこで、請求項5に係る発明では、前回の湯張り運転から今回の湯張り運転までの経過時間が増加するに従って補正係数Zを小さくし、これにより、湯張り開始時の残り湯中の残存銀イオン量の推定値を前記経過時間によって減少させるようにしている。
従って、前回の湯張り運転から今回の湯張り運転までの経過時間を考慮した正確な残存銀イオン量の判定が可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は次の特有の効果を有する。
請求項1に係る発明では、銀イオン濃度の低下した浴槽内の残り湯と湯張り回路から供給される高濃度湯張り水が浴槽内で混合されて目標濃度に近付くから、残り湯が貯留された浴槽に湯張りする場合でも、湯張り後の浴槽水が所期の殺菌効果を発揮する。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、湯張り開始後に浴槽に新たに追加する湯張り水を目標濃度に調整するために必要な銀イオン量と、前記残り湯を目標濃度に濃縮するために必要な銀イオン量の、合計量の銀イオンが、高濃度湯張り水に溶解される。従って、前記残り湯等の銀イオン量を考慮することなく、画一的に設定した濃度の高濃度湯張り水を浴槽に供給する場合比べ、湯張り完了後の浴槽水の銀イオン濃度と目標濃度のズレが少なくなる。
【0013】
請求項3に係る発明では、既述したように、残り湯の銀イオン濃度を測定する濃度測定器等が必要なく、湯張り装置が複雑化するのを防止することができる。
【0014】
請求項4に係る発明では、前回の湯張り運転の終了後に実行された追焚き回数を考慮した正確な残存銀イオン量の判定が可能となる。
【0015】
請求項5に係る発明では、前回の湯張り運転から今回の湯張り運転までの経過時間を考慮した正確な残存銀イオン量の判定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について添付図面を参照しながら説明する。
《構成》
図1は本発明の実施の形態に係る湯張り装置を具備する風呂システムの概略構成図であり、温水を加熱生成する熱源機(10)と、リモコン装置(6)と、浴槽(20)とを備える。
熱源機(10)からは、浴槽(20)内を追焚きするための往き管(12)及び戻り管(13)が引き出されており、往き管(12)及び戻り管(13)により、浴槽側壁(21)に取り付けられた浴槽金具(5)と熱源機(10)内の追焚用熱交換器(15)が接続されて全体として追焚用循環回路(B)が形成されている。そして、追焚用循環回路(B)には、循環ポンプ(17)と、水流スイッチ(29)と、追焚温度センサ(28)が配設されている。
【0017】
浴槽(20)内を追焚きする時には、前記追焚用熱交換器(15)を加熱する為の追焚バーナ(16)が燃焼すると共に循環ポンプ(17)が作動することで、浴槽(20)内に貯留された浴槽水が、浴槽金具(5)→戻り管(13)→循環ポンプ(17) →水流スイッチ(29)→追焚温度センサ(28)→追焚用熱交換器(15)→往き管(12)→浴槽金具(5)→浴槽(20)内と繋がる追焚用循環回路(B)で循環しながら加熱昇温される。
【0018】
熱源機(10)の給湯バーナ(18)で加熱される給湯用熱交換器(19)から、シャワー(41)や出湯蛇口(42)に繋がる給湯回路(190)が接続されていると共に、該給湯回路(190)から分岐する湯張り用分岐回路(3)は、前記追焚用循環回路(B)の戻り管(13)に接続されている。給湯回路(190)から湯張り用分岐回路(3)を経由した後に追焚用循環回路(B)の戻り管(13)を逆流して浴槽(20)に繋がる第1搬送回路と、前記湯張り用分岐回路(3)から追焚用循環回路(B)の戻り管(13)を順方向に流れて循環ポンプ(17)→水流スイッチ(29)→追焚温度センサ(28)→追焚用熱交換器(15)→浴槽金具(5)と繋がる第2搬送回路を利用して 両搬送の湯張りができるようになっている。従って、本実施の形態では、給湯回路(190)、湯張り用分岐回路(3)、及び、前記第1,第2搬送回路によって、浴槽(20)への湯張り回路が構成されている。
【0019】
前記湯張り回路を構成する湯張り用分岐回路(3)には、上流側から順に、湯張り弁(30)、水位センサ(35)、流量制御弁(31)、逆止弁(32)、水量カウンタ(33)、及び銀イオン発生器(34)が配設されている。水位センサ(35)は、前記湯張り用分岐回路(3)及び、往き管(12)、戻り管(13)で構成される湯張り回路(A)を介して連通する浴槽(20)内の水圧を浴槽水位として検知する為のものである。流量制御弁(31)は、ステッピングモータ等により弁開度を調整するものである。
【0020】
銀イオン発生器(34)は、一対の銀電極(340)(340)に通電してこの銀電極の電気分解により銀イオンを発生させるもので、銀電極へ供給する電流の大さを調整することにより、銀イオン発生量を調整して銀イオン濃度が設定できるように構成されている。具体的には、ファラデーの法則により、銀イオン発生量W(g)は、
W=108It/F
で求められる。
ここで、Iは電流値(アンペア)、tは通電時間(秒)である。
そこで、上記式を変形して求められる電流値Iの電流を銀電極へ供給することで、銀イオン発生量を調整して銀イオン濃度を設定することができる。
これにより、湯張り用分岐回路(3)を流れる水が銀イオン発生器(34)の筒体(341)内を通過する間に、この水に銀イオンが溶解されて銀イオン濃度が調整され、所定の銀イオン濃度に調整された銀イオン水が追焚用循環回路(B)の戻り管(13)に供給される。
【0021】
《リモコン装置(6)》
浴室壁面等に配設されるリモコン装置(6)には、表示画面(61)、通常湯張りスイッチ(62)、銀イオン湯張りスイッチ(63)、湯張り温度や湯張り水位等を設定するUP/DOWNスイッチ(64)、UP/DOWNスイッチ(64)で設定する対象が湯張り量Aであるか湯張り温度であるかを切替える切替スイッチ(65)、浴槽水の温度を昇温させる追焚スイッチ(66)、及び、浴槽(20)に補水する場合に操作する補水スイッチ(67)が設けられている。リモコン装置(6)と、熱源機(10)に組み込まれた制御装置(100)は双方向通信ができるようになっている。
【0022】
図1に示すように、浴槽フランジ(22)には、浴槽底壁(23)の排水栓(25)を電動で開閉させる排水栓操作具(43)が配設されている。
【0023】
《運転制御動作》
熱源機(10)の制御装置(100)内には、図2〜図5のフローチャートで示す制御動作を実行するマイクロコンピュータが組み込まれており、制御装置(100)に電源供給されると、前記マイクロコンピュータは図2の基本制御動作を開始する。
【0024】
図2のフローチャートの制御が開始すると、銀イオン湯張りスイッチ(63)、追焚スイッチ(66)、及び、補水スイッチ(67)の何れが操作されるかを監視し(S1A〜S1C)、銀イオン湯張りスイッチ(63)が操作されるとS2〜S8の湯張り運転のルーチンが実行され、追焚スイッチ(66)が操作されるとS9の追焚ルーチンが実行され、補水スイッチ(67)が操作されるとS10の補水ルーチンが実行される。
以下、各ルーチンの詳細を説明する。
【0025】
[湯張りルーチン]
銀イオン湯張りスイッチ(63)が操作される(S1Aで「Y」)と、循環ポンプ(17)を作動させると共に、この作動時に水流スイッチ(29)が水流検知信号たるON信号を出力したか否かを判断する(S2)。これにより、追焚用循環回路(B)内で浴槽水が循環したか否かが確認される。水流スイッチ(29)が水流検知信号たるON信号を出力していない場合(S3で「N」)は、浴槽(20)内に残り湯が貯留されていないか、又は、残り湯が貯留されていたとしても、その水位が浴槽金具(5)の取付け高さ以下であると判断し、浴槽(20)への50L湯張りを実行する(S4)。具体的には、給湯バーナ(18)を燃焼させると共に、湯張り用分岐回路(3)に配設された水量カウンタ(33)の計測する湯張り量が50Lになるまで、湯張り弁(30)を開弁する。尚、給湯バーナ(18)の燃焼量は、リモコン装置(6)でセットされた湯張り設定温度D1の温水が給湯用熱交換器(19)で加熱生成できる値に制御される。本実施の形態に使用されている浴槽(20)は、残り湯が存在しない状態で50L湯張りをした場合には、浴槽金具(5)の取付け高さより5cm高い水位まで湯張りできる大きさの浴槽(20)が設置されているものとする。従って、前記50L湯張り(S4)が終わった状態では、浴槽(20)に残り湯が貯留されていたか否かに関わらず、浴槽水の水位は浴槽金具(5)より高いレベルに達している。
【0026】
50L湯張り(S4)が終了すると、浴槽金具(5)の取付け高さより上方の水位まで湯張りできたか否かを入念的に確認するために、循環ポンプ(17)を再度作動させ(S2)、追焚用循環回路(B)の水流スイッチ(29)が水流検知信号(ON信号)を出力したか否かを判断する(S3)。水流スイッチ(29)が水流検知信号(「残水有り信号」たるON信号)を出力した場合(S3で「Y」)は、浴槽水の水位が浴槽金具(5)の取付高さ以上になっていることが確認できる。
【0027】
次に、銀イオン添加ルーチンを実行する(S5)。
図5は、銀イオン添加ルーチンのフローチャートである。
浴槽(20)に貯留されている浴槽水の水位を監視する水位センサ(35)の検知水位Hに基づき、湯張り開始前(図2の制御が開始される前)に浴槽(20)に貯留されていた残り湯量V1を次のようにして求める。
【0028】
制御装置(100)に組み込まれたマイクロコンピュータのメモリーには、浴槽水の水位Hと、水位Hより下方の浴槽(20)内に貯留される浴槽水の水量とを1対1の関係で対応させる「水位−水量テーブル」が設定されている。この水位−水量テーブルは、浴槽(20)等の設置工事の際に行われる試運転湯張りのときに、制御装置(100)内のマイクロコンピュータが作動して自動的に作成されるようになっている。但し、単純な直方体状の浴槽(20)であれば、リモコン装置(6)で浴槽(20)の平面積を入力しておけば、該平面積と水位センサ(35)の検知水位の積を求めることで、前記水位以下の浴槽(20)に貯留された浴槽水の水量を求めることができる。
そこで、水位センサ(35)の検知水位Hに対応する浴槽水の水量を、前記水位−水量テーブルから検索し、該検索した水量から50L(図2のS4での湯張り量)を減算した値を残り湯量V1とする(S11)。従って、本実施の形態では、湯張り開始時に50L湯張りを行なう図2のS4のステップと、50L湯張りの後に水位センサ(35)の検知水位Hに基づいて残り湯量V1を求める図5のS11のステップを実行する制御装置の機能部が、既述発明特定事項たる「残り湯検出手段」に対応する。
【0029】
次に、前記残り湯量V1に溶解した残存銀イオン量Mを演算する(S12)。
具体的には、残り湯の銀イオン濃度が目標濃度K(本実施の形態では100PPbに設定されている)であると仮定した場合の、残り湯量V1に溶解している銀イオンの総量MTに所定の補正係数Zを掛け算したものを残存銀イオン量MSとする。
銀イオンの総量MT=V1×K であるから、
残存銀イオン量MS=Z(V1×K) ・・・I
となる。但し、K≪1(本実施の形態では、100PPb)である。
前記補正係数Zは、本実施の形態では、
Z=0.9×0.97T2×0.92 ・・・II
とされている。
【0030】
前記II式で、Nは、後述するように、前回の湯張り運転の終了後に実行された浴槽水の追焚き回数であり、Tは前回の湯張り運転の終了時から今回の湯張り運転の開始時までの経過時間であり、湯張り運転が終了する毎に0にリセットされる(後述の図2のS8)。但し、前回の湯張り途中の特定時点と今回の湯張り途中の特定時点の時間間隔をTとしてもよい。又、前記II式でRは、銀イオン濃度が0の湯水を20Lだけ浴槽(20)に落とし込む補水動作(後述する図4のルーチン)の実行回数、即ち補水回数である。
式IIのように、N、T2、Rが増加するに従って補正係数Zが減少するのは次の理由による。
【0031】
浴槽水の銀イオンは、追焚き時に、追焚用循環回路(B)の配管壁に接触して析出することから、残り湯に溶解している銀イオンの量(残存銀イオン量)は追焚回数Nが大きくなるに従って低下する。又、浴槽水を放置すると銀イオンの溶解量が自然に減少することから、前回の湯張り運転から今回の湯張り運転までの経過時間Tが長くなるに従って残存銀イオン量は減少する。更に、銀イオン濃度が0の湯水を浴槽(20)に落とし込む補水動作の実行回数が大きくなると、浴槽水の銀イオンが補水される湯水で希釈されるから、この場合も、残り湯中の残存銀イオン量が減少する。これらの理由から、式Iは、N、T2、Rが増加するに従って補正係数Zが減少するようになっている。
【0032】
このものでは、目標濃度Kと仮定した場合の残り湯V1に溶解している銀イオンの総量MTに補正係数Zを掛け算することにより残存銀イオン量MSを求めるから、残り湯の銀イオン濃度を測定する濃度測定器等が必要なく、湯張り装置が複雑化するのを防止することができる。又、追焚回数Nや、前回の湯張り運転の終了時から今回の湯張り運転の開始時までの経過時間Tを考慮して、補正係数Zが定められるから、これら追焚回数Nや経過時間Tを考慮した正確な残存銀イオン量の判定が可能となる。
【0033】
次に、湯張り完了後に全浴槽水を目標濃度Kにするために補充する必要のある補充イオン量Yを求める(S13)。
補充イオン量Yは、湯張り完了後に目標濃度Kになっていると仮定した場合の全浴槽水量V0(湯張り設定水位HSに対応して、「水位−水量テーブル」から求められる。)に溶解している銀イオン量から、前記残存銀イオン量MSを減算した値であるから、
補充イオン量Y=V0×K−MS ・・・III
であり、III式と、II式から、
補充イオン量Y=(V0×K)−Z(V1×K) ・・・IV
となる。
【0034】
次に、前記補充イオン量Yの銀イオンを、40Lの湯張り水に溶解させ得るように、銀イオン発生器(34)の銀電極へ流す電流(高濃度信号)の大きさをイオン量制御装置(36)で調整しつつ、浴槽(20)に40Lの湯張り水を供給する(S14)。すると、この40Lの湯張り水のイオン濃度は、目標濃度(本実施の形態では、100PPb)より高濃度(高濃度湯張り水)になる。従って、本実施の形態では、S14のステップを実行する制御装置の機能部とイオン量制御装置(35)が、既述発明特定事項たる「高濃度設定手段」に対応する。
尚、前記40Lの湯張り水を浴槽(20)に供給するときも、給湯バーナ(18)の燃焼量を制御して湯張り設定温度D1の温水が給湯用熱交換器(19)で加熱生成できるようにする。これにより、銀イオン添加ルーチンが終了し、図2のフローチャートに制御が戻される。
【0035】
図2のフローチャートに制御に戻されると、S6のステップで、最終湯張りが開始される。この最終湯張りでは、銀イオン発生器(34)を停止させることで銀イオン濃度を0に設定した湯張り水が、給湯回路(190)から湯張り用分岐回路(3)に供給されると共に、該湯張り用分岐回路(3)の下流端で、追焚用循環回路(B)の戻り管(13)を逆流して浴槽(20)に繋がる回路(第1搬送回路)及び、追焚用循環回路(B)の戻り管(13)→循環ポンプ(17)→水流スイッチ(29)→追焚用熱交換器(15)→浴槽金具(5)と繋がる回路(第2搬送回路)に分岐し、これら第1,第2搬送回路を利用して浴槽(20)に両搬送湯張りが行なわれる。
【0036】
次に、水位センサ(35)が検知する浴槽水位Hが、リモコン装置(6)でセットされた湯張り設定水位HSに上昇するか否かが監視される(S7)。
浴槽水位Hが湯張り設定水位HSまで上昇すると(S7で「Y」)、湯張り弁(30)を閉弁させると共に給湯バーナ(18)を消火させて、最終湯張りを終了させる(S8)。又、S8のステップでは、今回の湯張り運転から次回の湯張り運転までの経過時間を判定するために必要な、「湯張り後時間T2」を0にリセットする。これで、湯張り運転が終了する。
【0037】
次に、図2のS1Bのステップで、追焚スイッチ(66)の操作が確認された場合に実行される追焚ルーチン(S9)を説明する。
図3は、追焚ルーチンのフローチャートである。
追焚ルーチンでは、循環ポンプ(17)が駆動されると共に、追焚バーナ(16)が燃焼される(S31)。
すると、浴槽水は加熱昇温されつつ追焚用循環回路(B)で強制循環されるから、昇温する浴槽水の温度(浴槽水温度D)が追焚温度センサ(28)で検知される。そこで、追焚温度センサ(28)で検知される浴槽水温度Dが設定温度DSに達するまで、前記循環ポンプ(17)と追焚バーナ(16)を作動させて追焚動作を継続し(S32)、その後、給湯バーナ(18)を消火させると共に循環ポンプ(17)を停止させ(S33)、追焚回数Nを1回増加させる演算を実行する(S34)。これにより、追焚ルーチンが終了する。
【0038】
図2の説明に戻る。
図2のS1Cのステップで、補水スイッチ(67)の操作が確認されると、浴槽(20)に20Lの温水を供給する為の補水ルーチンが実行される(S10)。
【0039】
図4は、補水ルーチンのフローチャートである。
湯張り弁(30)が開弁されて給湯バーナ(18)が燃焼され(S41)、これにより、湯張り設定温度D1の温水が給湯用熱交換器(19)で加熱生成されて浴槽(20)に供給され始める。湯張り用分岐回路(3)に設けられた水量カウンタ(33)の測定する湯張り量が20Lに達すると(S42で「Y」)、給湯バーナ(18)を消火させると共に湯張り弁(30)を閉弁する(S43)。その後、補水回数Rを1回増加させる演算が実行される(S44)。これにより、補水ルーチンが終了する。
【0040】
本実施の形態では、図2のS4のステップで、50L湯張りを実行した後、
全浴槽水を目標濃度Kにするために補充する必要のある補充イオン量Yを求め、該補充イオン量Yの銀イオンを、図5のS14のステップで、40Lの湯張り水に溶解させるようにした。これにより、銀イオン濃度が目標濃度より高濃度に調整された高濃度湯張り水を湯張り回路(A)から浴槽(20)へ湯張りすることができ、銀イオン濃度の低下した残り湯と前記高濃度湯張り水を混合して目標濃度に近づけることができる。
尚、図2では、通常湯張りスイッチ(62)が操作された場合の通常湯張り動作は省略している。銀イオン湯張りスイッチ(63)が操作された場合の銀イオン湯張り動作において、銀イオン発生器(34)を作動させない制御を行なえば、通常湯張り動作が実行される。
【0041】
《その他》
1.上記実施の形態では、浴槽水の水位を検知する水位センサ(35)を具備る湯張り装置について説明したが、本願発明は、水位センサ(35)を具備しない湯張り装置にも適用できる。この場合、浴槽(20)の残り湯の量の判定は次のようにする。浴槽水を追焚用循環回路(B)で所定時間追焚した場合の、浴槽水の上昇温度の大きさと、追焚ガスバーナ(16)の燃焼量との関係から、残り湯の量を演算する。残り湯の水位が浴槽金具(5)より低い場合は、浴槽(20)に例えば10L単位で繰り返して湯張りし、循環ポンプ(17)を作動させたときに水流スイッチ(29)がON信号を出した場合は、浴槽水を所定時間追焚することにより、前記の手法で残り湯量を演算する。
2.上記実施の形態では、補水回数Rが増加するに従って、補正係数Zを減少させるようにしたが、補水動作時に目標濃度(本実施の形態では100PPb)に設定された銀イオン水を浴槽(20)に供給する場合は、補水回数Rと無関係に補正係数Zを定める。
3.上記実施の形態では、補充イオン量Yの銀イオンを40Lの湯張り水に溶解させる制御を行なったが(図5のS14)、補充イオン量Yの銀イオンを、銀イオン添加ルーチン(図5)の開始時に於ける水位センサ(35)の検知水位Hから湯張り設定水位HSまで水位上昇させるために必要な湯張り量(全浴槽水量V0ー残り湯量V1)の湯に溶解させてもよい。この場合、図2に於けるステップS6からの最終湯張りは不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態に係る湯張り装置を具備する風呂システムの概略構成図
【図2】本発明の実施の形態に係る湯張り装置の動作フローチャート
【図3】追焚ルーチンのフローチャート
【図4】補水ルーチンのフローチャート
【図5】銀イオン添加ルーチンのフローチャート
【符号の説明】
【0043】
(3)・・・湯張り用分岐回路
(6)・・・リモコン措置
(20)・・・浴槽
(34)・・・銀イオン発生器
(35)・・・水位センサ
(A)・・・湯張り回路
(B)・・・追焚用循環回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴槽に接続された湯張り回路を流れる湯張り水に銀イオン発生器から銀イオンを溶解させると共に、
前記銀イオン発生器の出力を制御することで前記溶解させる銀イオン量を調整して湯張り水の銀イオン濃度を設定し、これにより、浴槽水の銀イオン濃度を目標濃度にできる機能を備えた、湯張り装置に於いて、
銀イオン濃度が前記目標濃度より高濃度に調整された高濃度湯張り水を生成させるのに必要な高濃度信号を前記銀イオン発生器に印加する高濃度設定手段と、
湯張り開始時に浴槽に残り湯が貯留されている場合は残湯有り信号を出力する残り湯検出手段を具備し、
前記残り湯検出手段から前記残湯有り信号が出力されている場合は、前記高濃度設定手段からの前記高濃度信号を前記銀イオン発生器に印加することにより前記高濃度湯張り水を生成させる、湯張り装置。
【請求項2】
請求項1に記載の湯張り装置に於いて、
前記高濃度信号は、
湯張り完了後に目標濃度になっていると仮定した場合の全浴槽水に溶解している銀イオン量から、前記残り湯中の残存銀イオン量を減算した量の銀イオンを前記銀イオン発生器から湯張り水に溶解させるのに必要な信号である、湯張り装置。
【請求項3】
請求項2に記載の湯張り装置に於いて、
前記残存銀イオン量は、前記目標濃度と仮定した場合の残り湯に溶解している銀イオンの総量に所定の補正係数Zを掛け算した値である、湯張り装置。
【請求項4】
請求項3に記載の湯張り装置に於いて、前記補正係数Zは、 前記浴槽水を循環追焚する追焚回路が前記浴槽に接続されており、
前記補正係数Zは、前回の湯張り運転の終了後に実行された追焚き回数が増加するに従って小さくなる、湯張り装置。
【請求項5】
請求項3に記載の湯張り装置に於いて、
前記補正係数Zは、前回の湯張り運転から今回の湯張り運転までの経過時間が増加するに従って小さくなる、湯張り装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−2114(P2010−2114A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−160824(P2008−160824)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(000115854)リンナイ株式会社 (1,534)
【Fターム(参考)】