説明

湾曲したプロテクターを備えた構造物

【課題】安価で簡単な構造で摩耗防止効果を長期間継続するプロテクターを提供する。
【解決手段】粒子を含む流体が内部を通過する構造物であって、湾曲部材が、湾曲部の内側が前記流体の上流を向くように内壁に設けられた構造物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテクターとして湾曲部材を備えた、ダクト等の構造物及びその磨耗防止方法に関する
【背景技術】
【0002】
ボイラー等の配管には灰や砂等の微粒子を含むガスが通過するため、その曲がり部等において配管磨耗が生じやすい。
微粒子を含むガスによる磨耗防止対策としては、(1)本体そのものを耐摩耗性材料とする方法、(2)保護部を覆うコーティング又は板を取り付ける方法、及び(3)保護部のガス上流側に衝立として板(プロテクター)を取り付ける方法の大きく3つに分類される。
【0003】
(1)本体そのものをステンレス等の耐摩耗性材料とする方法では、本体全域の摩耗を防止又は軽減されるため、状況によってはメンテナンスフリーとなり得る。しかし、一般に耐摩耗性材料は高価であり、特に設置済の設備を変更する場合は撤去費用がかかるという欠点がある。
【0004】
(2)保護部表面を覆うコーティング又は板を取り付ける方法としては、耐摩耗金属溶射及びライニング等が挙げられる(例えば特許文献1,2)。設置済の設備を変更する場合、一般的に(1)の方法よりも安価となる。しかし、使用環境により、金属溶射皮膜又はコーティング材の剥離が短周期で起こる場合はコスト増となる。また、保護部表面に耐摩耗性材料等の板を取り付ける方法では、本体重量の増加が制約となるケースがある。
【0005】
(3)保護部に衝立を設ける方法として、特許文献3の方法が挙げられる。特許文献3では、三角錐状突起物の下流に渦を発生させ、保護部への微粒子の接触を防止して摩耗防止を図っている。
ダクト又は配管の曲がり部等において衝立を立てる方法は、保護部全面に板を取り付ける場合と比較して、曲がり部上流に衝立として板を取り付けることで、少ない材料で広範囲の保護が図れる特徴がある。
しかし、プロテクターそのものが摩耗するため、プロテクターを耐摩耗性材料とするか、摩耗の度に取り替える等の措置が必要になりコスト増となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−141578号公報
【特許文献2】特開平11−148592号公報
【特許文献3】特開平11−22901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、安価で簡単な構造で摩耗防止効果を長期間継続するプロテクターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下の構造物等が提供される。
1.粒子を含む流体が内部を通過する構造物であって、
湾曲部材が、湾曲部の内側が前記流体の上流を向くように内壁に設けられた構造物。
2.前記粒子が灰粒子及び砂粒子であり、前記流体が気体であり、ダクト又は配管である請求項1に記載の構造物。
3.粒子を含む流体が内部を通過する構造物において、湾曲部材を、湾曲部の内側が前記流体の上流を向くように内壁に設ける磨耗防止方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、安価で簡単な構造で摩耗防止効果を長期間継続するプロテクターを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態を示す図である。
【図2】図1の湾曲部材周辺の拡大図である。
【図3】図1のA−A線断面図である。
【図4A】本発明に係る、湾曲部材を複数設けたダクトの斜視図である。
【図4B】図4Aの上面図である。
【図4C】図4Bにおける粒子軌道を示す図である。
【図5】湾曲部材の形状の一例を示す図である。
【図6】平板と湾曲部材を用いた場合の粒子速度の解析図である。
【図7】平板、楕円板及び湾曲部材を用いた場合の粒子速度の解析図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の構造物は、粒子を含む流体が内部を通過する構造物であって、湾曲部材(プロテクター)が、湾曲部の内側(凹部)が流体の上流を向くように設けられている。
本発明の構造物は、好ましくは、ボイラー等の設備に用いるダクト又は配管である。例えばボイラー排ガスシステムの配管である。この配管は、ボイラー、特に流動層ボイラー等で生じた排気ガスを外部に排出するためのものであり、通常1以上の曲がり部がある。
【0012】
図1は湾曲部材が設けられた曲がり部の断面図である。
排気ガス100には灰や砂等の粒子が含まれ、これら粒子が曲がり部10や内部構造物30の摩耗の原因となる。
内部構造物としては入槽用ラダー、温度計突起部、整流板、旋回羽根、ノズル、梁等が挙げられる。
曲がり部10の手前(上流側)には、湾曲部材20が設けられている。湾曲部材20は、湾曲部の内側が排気ガス流の上流部を向くように、配管の内壁に沿って設けられている。
湾曲部材20を設けることにより、曲がり部10、内部構造物30の摩耗を防ぐことができる。
【0013】
湾曲部材20の周辺の拡大図を図2に示す。
図2に示す湾曲部材20の高さHは、好ましくは3.4〜11.4cm、より好ましくは6.0〜9.0cmである。この程度の高さで効果的に摩耗を防げる。
【0014】
尚、微粒子200の粒径は、例えば、微粒子200が灰の場合には20μm以上、砂の場合には粒径200μm以上である。このような微粒子に対し、上記の湾曲部材20を効果的に用いることができる。
【0015】
微粒子200から延びる矢印は、微粒子200の進行方向を示す。湾曲部材20があることにより、微粒子200が曲がり部10に直接衝突することを回避できる。通常曲がり部10は接合部11,12を有する多角型であるが、接合部を有さない形状でもよい。特に接合部が摩耗しやすいが、湾曲部材20によりその摩耗を防げる。また、摩耗を受けやすい段差30の内部構造物等も、その上流部に湾曲部材20があることにより摩耗から守られる。
【0016】
即ち、湾曲部材20を設けると、保護対象となる曲がり部及び内部構造物(保護部)から微粒子が遠ざけられ、また、保護部周辺のガス流速が低下する。従って、プロテクター自身が摩耗してなくならない限り、保護対象の摩耗防止効果を維持できる。
【0017】
プロテクターは長期間排気ガスを受けることにより、プロテクター自体が摩耗して小さくなるか消滅する。しかし、本発明において、プロテクターとして湾曲部材20を用いることで、湾曲部材20自体の摩耗を防止することも可能となる。湾曲部材20の湾曲部付近においては、微粒子200が湾曲形状に沿ってガス100の方向と逆向きに流れるため、湾曲部材20への微粒子200の衝突速度が緩和されるためである。
【0018】
図1におけるA−A線断面図を図3に示す。
図3から分かるように、湾曲部材20は配管の内壁において、半周(180°)に亘って取り付けられている。このように取付けることによって、摩耗の生じやすい部分を効果的に保護することができる。湾曲部材20の内壁周囲に沿う長さは、好ましくは90〜180°、より好ましくは180°〜360°である。
また、湾曲部材20の数に制限はないが、例えば1つの曲がり部10に3〜5個設けることができる。図4Aに、1つの曲がり部に湾曲部材を複数設けたダクトの一例を示す。図4Bはこのダクトを上方から見た図である。
【0019】
湾曲部材と保護部の距離は適宜設定できるが通常50〜200cmである。
【0020】
湾曲部材20の作成方法としては、平板を曲げ加工する、市販の配管を長手方向に半割りする方法等が挙げられるが、配管を半割りにする方法が安価で加工も容易である。
【0021】
湾曲部材の大きさと形は本発明の効果が得られれば特に限定されないが、中心角90°〜180°の円弧状板が好ましく、典型的には断面が円である管を縦方向に2等分した半円状板(半割管)である。また、真円に限らず楕円の一部の円弧でもよい。湾曲部材の形状の一例を図5に示す。
後述するように、半円以下の曲率でも微粒子の衝突速度は低下するが、配管を半割りにした半円形状が適している。
【0022】
湾曲部材20の材料は、配管の摩耗を防止できると共に湾曲部材自体の摩耗も防止できることから安価な炭素鋼が好ましい。
湾曲部材20の配管への取り付けは、通常溶接にて行う。
【実施例】
【0023】
実施例1
流動層ボイラーの排気ダクト(直径約3m)(実機)の、曲がり部等摩耗から保護すべき箇所に、炭素鋼(SS400)からなる半割管を内側が上流を向けて設置した。半割管は高さが設置場所、範囲等を考慮して、21mm(1/2B)〜165mm(6B)のものを使用した。
特に、曲がり部には、図4Aに示すように、3個の湾曲部材(半割管)を2〜4メートル間隔で設けた。半割管の高さは、主に60mm(2B)又は89mm(3B)であった。このように半割管を取付けることで、半割管の下流30〜40cmに発生していた摩耗を防止できた。
【0024】
上記の実機を5年以上運転した。この間、半割管は、排気ダクトの摩耗を防ぎ、かつ、使用開始から5年経過しても目視点検にて半割管自体に摩耗は発生しなかった。
【0025】
比較として、半割管の代わりに高さ6cmの平板(炭素鋼(SS400))を用いた他は実施例1と同様にして実機を実際に運転した。
平板は上端部から摩耗し、使用開始から1〜2年で先端から3cm(約50%)が摩耗し消滅し、平板の取替が必要となった。
【0026】
このように、湾曲したプロテクターを内側が上流を向くように設けるという簡単な構成で、配管の摩耗を防ぎながら、プロテクター自体も摩耗し難く、驚くほど長期間使用できることが分かった。
【0027】
解析例1
半割管と平板の磨耗メカニズムをコンピュータシミュレーションにより解析した。
図6(a),(b)に示すように、直径3m、長さ5mの円管の中央に、半割管と平板を設置し、以下の条件で、空気流動場における粒子の運動状態を解析した。
流体密度:0.834kg/m、流体粘度:2.91×10−4Pa・s、
平均流速:13m/s
【0028】
また、図6(c),(d)に示すように、プロテクター(半割管と平板)からの水平距離1000mm、壁面からの高さ25mmの位置から、プロテクターに粒子(粒径:50μm、粒子密度:800kg/m、粒子形状:真球と仮定)を発射するという状態を解析した。半割管及び平板の高さは60mmとした。
解析した結果、図6(c)に示すように、半割管に衝突したガスは、半割管の曲がりに沿って本来のガスの流れ方向と逆向きに流れた。半割管の上部への粒子の衝突速度は平板で10m/sであったのが、半割り管で約1/3の3m/sまで低下した。
【0029】
以上から、平板型プロテクターでは、上部に粒子が大きな速度で衝突し摩耗しやすいが、半割管では、上部への粒子の衝突衝撃が減じられていて、そのため半割管は平板に比べ摩耗しにくいことが分かった。
【0030】
解析例2
プロテクターの曲率の違いによるガス流速、粒子の衝突速度をコンピュータシミュレーションにより解析した。
図7(a),(b),(c)の右側に示すように、高さ89mmの平板、楕円管、半割管に、粒子を含むガス流を13m/sで当てるという状態を解析した。粒子の密度は800kg/m、粒径は50μm、粒子形状は真球とした。
【0031】
衝突速度の解析結果を図7(a),(b),(c)の左側に示す。図7(b),(c)に示すように、楕円管と半割管においては、上部に本来のガスの流れ方向と逆向きの領域が認められ、これにより粒子の衝突速度が低下した。粒子の衝突直前速度は、平板で8m/s、楕円管で5m/s、半割管で4m/sであった。曲率があれば一定のプロテクター自体の摩耗防止効果があるが、曲率が高い方が効果が高いことが示された。
【0032】
解析例3
プロテクターによる粒子軌道の影響をコンピュータシミュレーションにより解析した。
図4A,4Bに示した曲がり部における、粒子軌道の解析結果を図4Cに示す。流動層ボイラーから排出された燃焼ガスに含まれた灰及び砂粒子は、ダクト入口より流入し、特に粒子径の大きい砂粒子を主体とした粒子は、曲がり部外周部へと集中して流れる。
半割管に衝突した粒子は、図4Cに示すように内周側に進路を変更した。半割管1本で曲がり部全域に対して粒子の接触を防止していることが分かった。尚、解析条件は以下の通りとした。
粒子密度:800kg/m、粒径:217μm(砂平均粒径)、ダクト径:3000mm、ガス平均流速:13m/s、粒子形状:真球と仮定
【0033】
このように半割管は、保護対象である曲がり部への粒子の接触を防止し、摩耗を抑制し、さらに半割管下流において、外周部の流速が低下することで粒子の衝突エネルギーが低下することにより、ダクト磨耗を抑制することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の湾曲プロテクターは摩耗防止のためにボイラー等の配管に用いることができる。
【符号の説明】
【0035】
10 曲がり部
11,12 接合部
20 湾曲部材
30 段差
100 流体
200 微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子を含む流体が内部を通過する構造物であって、
湾曲部材が、湾曲部の内側が前記流体の上流を向くように内壁に設けられた構造物。
【請求項2】
前記粒子が灰粒子及び砂粒子であり、前記流体が気体であり、ダクト又は配管である請求項1に記載の構造物。
【請求項3】
粒子を含む流体が内部を通過する構造物において、湾曲部材を、湾曲部の内側が前記流体の上流を向くように内壁に設ける磨耗防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図6】
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【図7】
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