説明

湿式媒体攪拌ミル

【解決手段】
攪拌ミル2内に粉砕物であるミルベースと媒体4とを分離する手段としてノッチワイヤースクリーン6を搭載し、このノッチワイヤースクリーン6により粉砕物であるミルベースと直径0.01mm〜0.10mmの微小媒体4とを分離する。攪拌ミル2内で攪拌・分散せしめられたミルベースのみを粉砕室3内の環状空間3aを経て攪拌ミル2の出口5側に取り出し、攪拌ミル2から前記微小媒体4の漏れがないようにする。
【効果】
直径0.01mm〜0.10mmの微小媒体4を使用することで大きな分散効果を得ることができ、従来の攪拌ミルでは不可能であった高度な分散が可能となる。また、攪拌ミル2からの微小媒体4の漏れがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉砕物であるミルベースを攪拌ミル内に注入しながら、その中にある媒体(ビーズ)とともにミルベースを攪拌ミル内で強制的に攪拌して分散せしめ、分散せしめられたミルベースのみを媒体と分離して攪拌ミルから連続して吐出させる形式の湿式媒体攪拌ミルに関し、さらに詳しくは、微小媒体を使用することができるものに関する。
【背景技術】
【0002】
湿式媒体攪拌ミルの出口側において粉砕物であるミルベースと媒体とを分離するに当って、初期の頃はベッセルの側面に打ち抜き網を張設する方法が採られていたが、現在では分離能力や耐久性を向上させるために様々な工夫を凝らしたものが提案されている。
それらを大別すると、スクリーンを用いる方式と回転スリット(ギャップセパレータ)方式とが挙げられるが、近年、遠心力を利用する方式が提案され(例えば、特許文献1参照)、実用化されるに至っている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−128760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スクリーンとしては、古くは例えば図2においてP’で示すようなステンレス製の打ち抜き網(多数の孔p'が形成されている)からなるものが使用されていたが、近年、例えば図3においてW'で示すような耐久性の高いウェッジワイヤー(断面形状がくさび形のワイヤー)からなるものが使用されている。
【0005】
このようなスクリーンを用いて媒体を分離するためには、通常、スクリーンの目開きを粉砕媒体径の1/3〜1/2以下にする必要があるが、打ち抜き網P’からなるスクリーンではその精度を到底確保することができない。一方、ウェッジワイヤーW'からなるスクリーンの目開き精度(図3におけるワイヤー間の間隔w’)は20ミクロンが限界である。直径0.05mmの媒体を使用した場合を例に挙げると、スクリーンの目開きは15〜25ミクロン以下を確保しなければならないが、ウェッジワイヤーW'からなるスクリーンでもその精度を確保できない。
目開き精度を確保できなければ、媒体の漏れを完全に防止することができず、攪拌ミルとして好ましくない。従来の場合において、媒体を完全に分離できる大きさは、媒体径0.1mmが最小とされている。
【0006】
上記のようなスクリーンを用いた従来の攪拌ミルの概要を、図4に示す。図4(a)、図4(c)、図4(d)はスクリーンS1’、S3’、S4’が固定式のものである。これに対して、図4(b)はスクリーンS2’が回転する形式のもので、その遠心力を利用して媒体がスクリーン表面に集まるのを防止することができるので、図4(a)、図4(c)、図4(d)の場合に比べて目詰まりは少ないが、構造上スクリーンの面積に制限がある。
【0007】
また、回転スリット(ギャップセパレータ)方式は、例えば、図5に示すように、回転軸に取り付けたローターR’と槽壁に取り付けたステーターS’間に媒体径の1/3〜1/4の隙間を設け、ローターR’の回転による遠心力で媒体を飛ばしながら粉砕物であるミルベースを前記隙間から取り出す方式である。
【0008】
この方式によりミルベースと媒体とを分離するに当って、通常ミルベースは構造粘性(チクソトロピー)を示すものが多く用いられており、前記隙間を通過する間に強大なせん断力を受け、見かけ粘性が大幅に低下することから、開口面積が小さいにもかかわらず大量の分離能力があるが、この場合でも媒体を完全に分離できる大きさは、媒体径0.1mmが最小とされている。
なお、ローターR’及びステーターS’の耐磨耗性能を上げるために、従来から超硬材料が用いられている。
【0009】
ところが、近年、超微粉砕あるいは微分散を行うために、直径0.1mm以下の微小媒体を使用し得る攪拌ミルの開発が待たれている。攪拌ミルの分散能力を左右する要因に挙げられるのが媒体の大きさであり、微小媒体を使用すれば大きな分散効果が得られるが、従来のスクリーン方式や回転スリット(ギャップセパレータ)方式では、直径0.1mm以下の微小媒体の分離が難しいため、遠心力を利用する方式(上記特許文献1参照)が提案され、実用化されるに至っている。
【0010】
この方式は、くし歯状の遠心分級ローターを攪拌軸に対し同芯二重構造となるように取り付け、それらを拘束で回転させることにより粉砕物であるミルベースと媒体に遠心力を付与し、ミルベースと媒体の径と比重差によりミルベースを分離し、くし歯の隙間よりミルベースのみを取り込み、ミル外に取り出す方式である。
【0011】
この場合において、分離能力を高めるために、高比重のジルコニアビーズを使用しているが、分離能力は粉砕物であるミルベースの粘度、比重、ミルの回転数、媒体(ビーズ)の充填率等に大きく影響されるので、適正な運転条件を選択する必要がある。
また、この方式では、安定した稼動時には十分な分離効果が得られるが、起動、停止時には遠心効果が得られないため分離性能が不安定になり、この方式でも微小媒体を完全に分離してその漏れを防止することができない。
【0012】
本発明では、上述したように微小媒体を使用すれば大きな分散効果が得られることに鑑み、さらに、使用する媒体(ビーズ)が小さいほど粉砕物であるミルベースをより微細に分散できることに鑑み、直径0.01mm〜0.10mmの微小媒体を使用することができ、しかも、直径0.01mm〜0.10mmの微小媒体を使用した場合でもミルからの媒体(ビーズ)の漏れがなく、安定して稼動できる湿式媒体攪拌ミルを提供することを究極の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明では、攪拌ミル内に粉砕物であるミルベースと媒体とを分離する手段としてノッチワイヤースクリーンを搭載し、このノッチワイヤースクリーンにより粉砕物であるミルベースと直径0.01mm〜0.10mmの微小媒体とを分離し、攪拌ミル内で攪拌・分散せしめられたミルベースのみを粉砕室内の環状空間を経て攪拌ミルの出口側に取り出し、攪拌ミルから前記微小媒体の漏れがないようにしたものである。
【0014】
本湿式媒体攪拌ミルによれば、直径0.01mm〜0.10mmの微小媒体を使用することで大きな分散効果を得ることができ、従来の攪拌ミルでは不可能であった高度な分散が可能となる。また、攪拌ミルからの微小媒体の漏れがない。
【0015】
攪拌ミルの出口近くの環状空間を囲うように、微小媒体遮断用のシールを取り付けておくと良い。この場合には、このシールで攪拌ミル内の粉砕室と環状空間とを遮断することができる。従って、粉砕室内の微小媒体が攪拌ミルの出口に流入するのを防止できる。
【0016】
微小媒体遮断用のシールが攪拌軸に取り付けられている液封用のシールとは別に設けられていることが望ましい。微小媒体遮断用のシールと液封用のシールとが別に設けられていると、磨耗してノッチワイヤースクリーンから漏れた媒体や破砕した媒体が液封用のシールにかみ込む危険性がなくなり、シール寿命ひいては攪拌ミルの寿命を大幅に延ばすことができる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の発明によれば、直径0.01mm〜0.10mmの微小媒体を使用することで大きな分散効果を得ることができ、従来の攪拌ミルでは不可能であった高度な分散が可能となる。また、攪拌ミルからの微小媒体の漏れがないという特長がある。
【0018】
請求項2記載の発明によれば、攪拌ミル内の粉砕室と環状空間とを微小媒体遮断用のシールで遮断することができるので、粉砕室内の微小媒体が攪拌ミルの出口に流入するのを防止できる。
【0019】
請求項3記載の発明によれば、磨耗してノッチワイヤースクリーンから漏れた媒体や破砕した媒体が液封用のシールにかみ込む危険性がなくなるから、シール寿命ひいては攪拌ミルの寿命を大幅に延ばすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の好ましい実施の形態を、図1に基づいて詳細に説明する。図1に例示する湿式媒体攪拌ミルは、入口1から粉砕物であるミルベースを攪拌ミル2の粉砕室3内に注入しながら、その中にある媒体4(ビーズ)とともにミルベースを粉砕室3内で強制的に攪拌して分散せしめ、分散せしめられたミルベースのみを媒体4と分離して攪拌ミル2の出口5から連続して吐出させる形式のものである。
【0021】
この攪拌ミル2内には、図1(a)に示すように、粉砕物であるミルベースと媒体4とを分離する手段としてノッチワイヤースクリーン6が搭載されている。ノッチワイヤースクリーン6は攪拌ミル2の攪拌軸7に取り付けられているアジテーター8の内部に同芯状に配置されており、このノッチワイヤースクリーン6の外方であるアジテーター8の筒壁には長手方向の孔8a,8aが一定間隔を置いて多数形成されている。そして、このノッチワイヤースクリーン6により粉砕物であるミルベースと直径0.01mm〜0.10mmの微小媒体4とを粉砕室3内で分離することができ、攪拌ミル2の粉砕室3内で攪拌・分散せしめられたミルベースのみを粉砕室3内の環状空間3aを経て攪拌ミル2の出口5側に取り出することができる。
【0022】
このノッチワイヤースクリーン6は、図1(b)において6aで示す線材を図1(c)に示すように筒状に隣接させて形成されたスクリーンで、ノッチ(切欠)の大きさcは5〜10ミクロンであり、直径0.01mm〜0.10mmの微小媒体4がこのノッチを通過しないように構成されている。従って、攪拌ミル2の粉砕室3内で攪拌・分散せしめられたミルベースのみを粉砕室3内の環状空間3aを経て攪拌ミル2の出口5側に取り出することができ、攪拌ミル2から前記微小媒体4が漏れることはない。ちなみに、線材6aの幅aは0.65mm、高さbは0.25mm程度である。
【0023】
この場合においては、ノッチワイヤースクリーン6の目開き精度を±4ミクロンとすることが可能であり、また、遠心分離方式を兼ねているため、媒体の90%の目開きで使用が可能である。例えば、目開き20ミクロンの設定で16〜24ミクロンの精度を確保でき、直径0.05mmの微小媒体を媒体攪拌ミルからの媒体の漏れがない状態で使用できる。また、目開き5ミクロンの設定で1〜9ミクロンの精度を確保でき、直径0.01mmの微小媒体4を媒体攪拌ミルからの媒体の漏れがない状態で使用できる。
【0024】
上述したように、攪拌ミルの分散能力を左右する要因に挙げられるのが媒体の大きさであり、微小媒体を使用すれば大きな分散効果が得られる。仮に、媒体の径を半分にした場合、単位容積に存在する媒体の数は8倍になり、攪拌した時の媒体の衝突回数が8倍になるので、より大きな分散効果が得られる。さらに、上述したように、使用する媒体(ビーズ)が小さいほど粉砕物であるミルベースをより微細に分散できる。
従って、直径0.01mm〜0.10mmの微小媒体を使用し、媒体攪拌ミルからの媒体の漏れがない状態で使用できる本媒体攪拌ミルは、従来の媒体攪拌ミルでは不可能であった高度な分散が可能となり、最先端の電子材料やインクなどの開発や生産に役立てることができる。
【0025】
攪拌ミル2のベッセル9の径Dに比べてベッセル9の長さLが短いと粉砕物であるミルベースのショートパスのおそれがあり、ベッセル9の長い方が粉砕効果は上がると考えられるが、L/Dが大きくなればなる程重力やミルベースの流速の影響を受けてベッセル9内の媒体4の分布が不規則になり、攪拌ミル2の運転に支障を生じる。実用上L/Dの比率をどの程度に設定すれば良いか、L/Dの各比率で粉砕能力を比較すると、図6に示すような結果が得られる。図6からも明らかなように、L/Dを大きくすれば粉砕能力は大きくなるが、L/Dが4以上になると粉砕能力はほとんど変らなくなることが分かる。
【0026】
図1(a)に示す湿式媒体攪拌ミルにおいては、攪拌ミル2の出口5近くの環状空間3aを囲うように、微小媒体遮断用のシール10が取り付けられている。この場合には、このシール10で攪拌ミル2内の粉砕室3と環状空間3aとを遮断することができる。従って、粉砕室3内の微小媒体4が攪拌ミル2の出口5に流入するのを防止できる。
【0027】
また、図1(a)に示す湿式媒体攪拌ミルにおいては、微小媒体遮断用のシール10が、攪拌軸7に取り付けられている液封用のシール11とは別に設けられている。微小媒体遮断用のシール10と液封用のシール11とが別に設けられていると、磨耗してノッチワイヤースクリーン6から漏れた媒体や破砕した媒体が液封用のシール11にかみ込む危険性がなくなり、シール寿命ひいては攪拌ミル2の寿命を大幅に延ばすことができる。
【0028】
なお、初期の開放型のミルから溶剤の飛散を防いで作業環境を守り、媒体の高密度充填運転を可能ならしめるため、密封型のミルに移行したのに伴って、液封用のシール11も当初のグランドパッキンシールからより密封能力の高いメカニカルシールが使用されるようになった。特に、最近では、このようなメカニカルシールを用いた攪拌ミルが主流になっている。メカニカルシールは市販されている標準品を使うことはまれで、耐スラリー性を考慮に入れた特殊な構造のシールが使われることが多く、ここに用いられている液封用のシール11もこの部類に属するものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明による湿式媒体攪拌の一例を示す概要図で、(a)はその断面図、(b)はノッチワイヤースクリーンを構成する線材を示す斜視図、(c)は図2の線材を用いて形成されたノッチワイヤースクリーンの拡大正面図である。
【図2】従来のスクリーンを構成するための打ち抜き網の平面図である。
【図3】ウェッジワイヤーからなる従来のスクリーンの正面図である。
【図4】図2の打ち抜き網からなるスクリーンあるいは図3に示すウェッジワイヤーからなるスクリーンを用いた従来の攪拌ミルの概略断面図で、(a)、(c)、(d)はスクリーンが固定式の場合の一例を、(b)はスクリーンが回転式の場合の一例を示す。
【図5】従来の回転スリット(ギャップセパレータ)方式の攪拌ミルの一例を示す概略断面図である。
【図6】ベッセル長さ/ベッセル径(L/D)の各比率で粉砕能力を比較した場合のグラフである。
【符号の説明】
【0030】
1…入口、2…攪拌ミル、3…粉砕室、3a…環状空間、4…媒体(微小媒体),5…出口、6…ノッチワイヤースクリーン、7…攪拌軸、8…アジテーター、9…ベッセル、10…微小媒体遮断用のシール、11…液封用のシール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
攪拌ミル内に粉砕物であるミルベースと媒体とを分離する手段としてノッチワイヤースクリーンを搭載し、このノッチワイヤースクリーンにより粉砕物であるミルベースと直径0.01mm〜0.10mmの微小媒体とを分離し、攪拌ミル内で攪拌・分散せしめられたミルベースのみを粉砕室内の環状空間を経て攪拌ミルの出口側に取り出し、攪拌ミルから前記微小媒体の漏れがないようにしたことを特徴とする湿式媒体攪拌ミル。
【請求項2】
攪拌ミルの出口近くの環状空間を囲うように、微小媒体遮断用のシールを取り付けたことを特徴とする請求項1記載の湿式媒体攪拌ミル。
【請求項3】
微小媒体遮断用のシールが、攪拌軸に取り付けられている液封用のシールとは別に設けられている請求項2記載の湿式媒体攪拌ミル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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