説明

湿式摩擦材の製造方法

【課題】重力の影響を少なくして、所望のμ−V特性の湿式摩擦材の製造方法を提供する。
【解決手段】抄紙原料10を抄紙原料タンク1に入れて循環、攪拌してその濃度を一定に保つと共に、その抄紙原料タンク1から抄紙原料10を供給して所定の形状とし、抄紙原料10の形状を定め、その特定された抄紙原料10の形状に対して、上部吸水装置7と下部脱水装置8により、その抄紙原料10の上面からの吸水及び下面からの脱水を行う。したがって、抄紙原料10の上部吸水装置7と下部脱水装置8により上面からの吸水及び下面からの脱水を行うものであるから、抄紙原料10の上面と下面の吸引力と脱水力の設定によって、例えば、抄紙原料10として摩擦係数μを高くする添加物として入っている珪藻土等を抄紙原料10の上面側に引き上げ、上面側が高μのμ−V特性の湿式摩擦材とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙して形成する湿式摩擦材の特性を制御できる湿式摩擦材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
湿式摩擦材として中空のリング状の摩擦板を形成する代表的な方法としては、シート状に抄紙された湿式摩擦材をリング状に打ち抜いて製造する方法がある。この方法では、中央部分と外周の外側部分の抄紙材料がスクラップになってしまい非常に抄紙材料の使用効率が低かった。そこで、湿式摩擦材の製造方法として種々の方法が提案されている。
例えば、湿式摩擦材の最終製品に近い形状の中空リング状に直接形成する方法においては、無駄を極力少なくするためのポット方式或いは浴槽方式もその例である。
【0003】
前記ポット方式の抄紙原液は、単品の抄紙に必要な分のみ供給して脱水するので、濃度の変化は殆どなく、密度の安定した紙質基材が得られる。しかし、内径治具に長い筒が必要で、脱水から抄紙完了まで筒を動かせないという問題点がある。また、治具が大型化し、取扱いに難があるという問題点もある。
一方、前記浴槽方式では、必要な抄紙原液を一度に掬う量が少ないため、厚い紙質基材を得るには不向きであり、また、槽内の原料の濃度も次第に薄くなるため、濃度の管理が必要となるという問題がある。
【0004】
そこで、特許文献1では、中空円板状凹溝の抄網部に繊維成分と充填材を含む抄紙原液を供給して抄網部の底部より吸水、脱水する中空円板状の湿式摩擦材の製造方法において、抄紙原液を抄紙原料タンクと原料タンクの間に循環、攪拌してその濃度を一定に保ち、中空円板状凹溝の抄網部を有する抄紙治具と、昇降吸引部とを結合して抄紙原料タンク中を昇降させ、その間に抄網部中にある原液から水分を吸引して抄紙を行い、脱水及び乾燥させる技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−337995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明の製造方法によれば、抄紙原液は常に原料タンクと抄紙原料タンクの間を循環及び攪拌されるので、濃度を常に一定に保つことができ、また、抄紙治具と昇降吸引部を別体にすれば抄紙治具はコンパクトで取り外し可能となる。そして、セット替え等が容易となり、生産性が向上する。
【0007】
ところが、特許文献1の中空円板状凹溝の抄網部に繊維成分と充填材を含む抄紙原液を供給して抄網部底部より吸水、脱水する中空円板状の湿式摩擦材を製造する方法は、抄紙の際に重力の影響に水分引きの影響が加わり、抄紙原液を撹拌中に抄いても、その抄いた時間内及びその脱水時には、抄紙原液の内の抄紙成分の組成の比重によって下側の位置が比重の大きい物質が高い密度で蓄積し、積層されることになる。特に、摩擦材の基材を抄紙する際、このように下側から水分引きを行うと、上面と下面の成分比率が変化し、下側の成分密度が高くなる傾向にある。
【0008】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべくなされたものであって、重力の影響を少なくして、所望のμ−V特性の湿式摩擦材が得られる湿式摩擦材の製造方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明にかかる湿式摩擦材の製造方法は、水に摩擦調整用充填材を分散させたスラリー状抄紙原料を抄紙原料タンクに入れて攪拌して、その濃度を一定に保つ撹拌工程と、前記抄紙原料タンクから前記スラリー状抄紙原料が供給され、前記スラリー状抄紙原料を脱水してその形状を定める摩擦材形成工程と、前記摩擦材形成工程で形状が定められた摩擦材料を乾燥する乾燥工程を有し、前記摩擦材形成工程において、前記スラリー状抄紙原料から水分の一部が除去された半スラリー状抄紙原料中の前記摩擦調整用充填材を、水流を制御することにより偏在させる偏在手段を有するものである。
ここでいう「スラリー状抄紙原料」とは、パルプ等の繊維成分と種々の添加剤を水に分散させた粥状の混合物である。
また、ここでいう「半スラリー状抄紙原料」とは、前記スラリー状抄紙原料からの脱水等により水分の一部が除去され、「スラリー状抄紙原料」に比べて粘性が高くなったものである。ここで、上記撹拌工程は、スラリー状抄紙原料を抄紙原料タンクに入れて攪拌し、その濃度を一定に保つ機能を具備するものであれば良い。
また、上記摩擦材形成工程は、前記スラリー状抄紙原料タンクからスラリー状抄紙原料が供給され、このスラリー状抄紙原料が脱水されることで抄紙原料の形状を定めるものである。このときの形状は、円状、正方形状、長方形状、弧状または打ち抜きを行うための所定の幅のみを特定する長さの形状とする等各種形状にすることができる。
更に、前記摩擦材形成工程で形状を定められた摩擦材料を乾燥する乾燥工程は、前記スラリー状抄紙原料から一部脱水された半スラリー状抄紙原料からなる湿式摩擦材料を乾燥できれば良く、公知の工程が使用できる。
【0010】
請求項2の発明にかかる湿式摩擦材の製造方法は、前記摩擦材形成工程における偏在手段が、前記半スラリー状抄紙原料の上面側に設けた吸水装置であり、前記吸水装置により前記半スラリー状抄紙原料中に含まれる前記摩擦調整用充填材を上面側に偏在させたものである。
そして、上記の吸水装置の吸水方法は、その手段を何ら特定するものではない。その方法として、前記半スラリー状抄紙原料の上面側から水分を吸引除去する手段等の使用が可能である。
ここで、前記摩擦材形成工程での上面からの吸水は、生産性を上げるべく、連続処理が可能なもの、面積的に均一に吸水できるものが望ましい。
【0011】
請求項3の発明にかかる湿式摩擦材の製造方法は、前記摩擦材形成工程において、前記半スラリー状抄紙原料の下面側に脱水装置を有し、前記半スラリー状抄紙原料の上面からの吸水圧力と下面からの脱水圧力の比が、吸水圧力/脱水圧力=1/100〜1/1の範囲内であるものである。
なお、上記の吸水圧力と脱水圧力の比が、吸水圧力/脱水圧力=1/100より低過ぎる場合は前記半スラリー状抄紙原料の前記摩擦調整用充填材を上面側に引き上げることが困難である。
また、上記の吸水圧力と脱水圧力の比が、吸水圧力/脱水圧力=1/1を超えて高過ぎる場合は、前記半スラリー状抄紙原料の前記摩擦調整用充填材が吸水によって除去されてしまう。
そして、上記の脱水装置による脱水方法は、その手段を何ら特定するものではない。その方法として、前記半スラリー状抄紙原料の下面側から水分を吸引除去する手段等の使用が可能である。
ここで、前記摩擦材形成工程での下面からの脱水は、生産性を上げるべく、連続処理が可能なものであればよい。
【0012】
請求項4の発明にかかる湿式摩擦材の製造方法は、前記摩擦材形成工程での前記半スラリー状抄紙原料は、上面からの吸水直前の水分率が85.0%〜99.5%の範囲内であり、吸水直後の水分率が70.0〜95.0%の範囲内であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の湿式摩擦材の製造方法は、水に擦調整用充填材を分散させたスラリー状抄紙原料を抄紙原料タンクに入れて攪拌して、その濃度を一定に保つ撹拌工程と、前記抄紙原料タンクから前記スラリー状抄紙原料が供給され、前記スラリー状抄紙原料を脱水してその形状を定める摩擦材形成工程と、前記摩擦材形成工程で形状が定められた摩擦材料を乾燥する乾燥工程を有し、前記摩擦材形成工程において、前記スラリー状抄紙原料から水分の一部が除去された半スラリー状抄紙原料の前記摩擦調整用充填材を、水流を制御することにより偏在させる偏在手段を有するものである。
したがって、前記スラリー状抄紙原料から水分の一部が除去された半スラリー状抄紙原料の前記摩擦調整用充填材を、水流を制御することにより偏在させるものであるから、例えば、スラリー状抄紙原料中に摩擦係数μを高くする摩擦調整用充填材として入っている珪藻土等を抄紙原料の上面側に引き上げ、上面側が高μのμ−V特性の湿式摩擦材とすることができる。また、全体的にも任意のμ−V特性の湿式摩擦材とすることもできる。
【0014】
請求項2の湿式摩擦材の製造方法は、前記摩擦調整用充填材を偏在させる偏在手段が、前記半スラリー状抄紙原料の上面側に設けた吸水装置であるものである。
前記摩擦材形成工程において、前記吸水装置にて前記半スラリー状抄紙原料の水を吸水することにより水流の制御を行ない、前記スラリー状抄紙原料の水分の一部が除去された半スラリー状抄紙原料中の前記摩擦調整用充填材を上面側に偏在させたものであるから、例えば、スラリー状抄紙原料中に摩擦係数μを高くする摩擦調整用充填材として入っている珪藻土等を抄紙原料の上面側に引き上げ、上面側が高μのμ−V特性の摩擦面を有する湿式摩擦材とすることができる。また、全体的にも任意のμ−V特性の湿式摩擦材とすることもできる。
【0015】
請求項3の湿式摩擦材の製造方法は、前記摩擦材形成工程において、前記半スラリー状抄紙原料の下面側に脱水装置を有し、前記半スラリー状抄紙原料の上面からの吸水圧力と下面からの脱水圧力の比が、吸水圧力/脱水圧力=1/100〜1/1の範囲としたものである。このように脱水圧力に対する吸水圧力比を規定することで半スラリー状抄紙原料中の前記摩擦調整用充填材を所望の位置に偏在させることができる。
そして、上記の脱水装置による脱水方法は、その手段を何ら特定するものではない。その方法として、前記半スラリー状抄紙原料の下面側から水分を吸引除去する手段等の使用が可能である。
ここで、前記摩擦材形成工程での下面からの脱水は、生産性を上げるべく、連続乾燥処理が可能なものであればよい。
しかも、抄紙原料の上面からの吸水及び下面からの脱水により、湿式摩擦材の上面及び下面の密度を任意の密度とすることができる。
【0016】
請求項4の湿式摩擦材の製造方法は、前記摩擦材形成工程での前記半スラリー状抄紙原料は、上面からの吸水直前の水分率が85.0%〜99.5%の範囲であり、吸水直後の水分率が70.0%〜95.0%の範囲内であることを特徴とするものである。ここで、上記半スラリー状抄紙原料の水分率は、99.5%を超えて高過ぎる場合は、前記半スラリー状抄紙原料の前記摩擦調整用充填材が水分の吸水による水流とともに流出してしまう。また、85.0%より低過ぎる場合は、前記半スラリー状抄紙原料の粘性が高くなりすぎ、前記摩擦調整用充填材の移動がし難くなり所望の偏在が得られ難くなる。また、吸水直後の水分率が70.0%〜95.0%の範囲内であれば特定した形状の維持が保ちやすく半スラリー状抄紙原料の扱いが容易になる。
このように前記半スラリー状抄紙原料の上面からの吸水直前及び吸水直後の水分率を調整することにより、効率的に前記摩擦調整用充填材を偏在させた摩擦材料を連続生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は本発明の実施の形態1にかかる湿式摩擦材の製造方法を示す製造工程図である。
【図2】図2(a)は本発明の実施の形態1にかかる湿式摩擦材の吸水ローラで、(a)はその斜視図、(b)はその長さ方向の縦断面を示す要部縦断面図である。
【図3】図3は本発明の実施の形態1にかかる湿式摩擦材の製造方法による上部吸水装置によって製造した湿式摩擦材の灰分比率を示す説明図である。
【図4】図4は本発明の実施の形態1にかかる湿式摩擦材の製造方法による上部吸水装置によって製造した湿式摩擦材のμ−V特性を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。なお、本実施の形態において、図中、同一記号及び同一符号は、各々同一または相当する機能部分であるから、ここでは重複する説明を省略する。
【0019】
[実施の形態1]
図1において、抄紙して湿式摩擦材とするスラリー状抄紙原料10を収容する抄紙原料タンク1は、所定の容積を有し、電動機11で回転させる撹拌手段12で収容しているスラリー状抄紙原料10を常時または必要に応じて撹拌している。また、抄紙原料タンク1には、循環ポンプ13が配設されていて、抄紙原料タンク1内に収容されているスラリー状抄紙原料10が比重の影響を受け難いように、上下方向またはその逆方向に流れを形成し、スラリー状抄紙原料10を均一に分布された状態を維持している。
【0020】
また、抄紙原料タンク1には、調整タンク2が外付けとして接続されていて、調整タンク2では、抄紙して湿式摩擦材とする原料を混合し、所定の濃度としている。この調整タンク2においても、必要に応じて、図示しない電動撹拌手段及び循環手段が配設されている。また、調整タンク2には、必要により、抄紙した残渣、例えば、水分、バインダ等を帰還ポンプ21を介して再使用できるように循環路が形成され、抄紙材料を加えることにより、抄紙原料タンク1に戻している。
【0021】
抄紙容器3は、抄造容器31に抄紙コンベア4の端部のリターンローラ40を配置し、抄紙原料タンク1から供給されるスラリー状抄紙原料10を抄きながら引き揚げるようになっている。抄紙容器3で抄紙した残渣は、残渣タンク33に収容される。残渣タンク33に収容された残渣は、循環路の帰還ポンプ21を介して再使用できるように調整タンク2に送られる。
なお、抄紙原料タンク1及び調整タンク2及び抄造容器31は、合体させて抄紙原料タンク1のみとして使用することもできるし、別体とすることもできる。特に、帰還ポンプ21を介して再使用できるように循環路が形成されたものでは、帰還量に応じて抄紙原材料を補充してスラリー状抄紙原料10を作成することになる。
【0022】
抄紙コンベア4は、金属網または合成樹脂網で形成されている抄紙ベルト4Aが、脱水ローラ41,42,43,44,45及び分離ローラ46、ガイドローラ47, 49a,49b及びテンションローラ48に掛けられている。
脱水ローラ41,・・・,45は、抄紙ベルト4Aの下面側から水分を除去するもので、抄紙した半スラリー状抄紙原料6を後述する偏在手段としての上面から吸水する吸水ローラ71,72,73,74,75と対になっている。即ち、脱水ローラ41,42,43,44,45及び抄紙ベルト4Aは、スラリー状抄紙原料10または水分量が減少した半スラリー状抄紙原料6の下面から脱水する機能を有する本実施の形態の下部脱水装置8を構成している。
【0023】
分離ローラ46は、半スラリー状抄紙原料6から脱水されて特定の形状に抄紙された摩擦材料61を、抄紙ベルト4Aから乾燥コンベア5に移動させる際に、内部から圧搾空気を供給すると共に、スクレバー53で抄紙ベルト4Aから摩擦材料61を分離案内し、抄紙ベルト4Aから摩擦材料61を剥離し、搬送ローラ51,52等で構成される乾燥コンベア5の乾燥ベルト50の上に載置する剥離機構9を構成し、本実施の形態の剥離工程を呈している。このため、分離ローラ46は摩擦材料61を抄紙ベルト4Aから剥がすために図示しない圧搾空気を作るコンプレッサ等が接続されている。なお、この剥離工程は、抄紙したスラリー状抄紙原料10の脱水の程度によって必要であったり、必要でなかったりするものであり、脱水程度による摩擦材料61に委ねられており、必ずしも必要とするものではない。
【0024】
なお、テンションローラ48は、抄紙コンベア4の抄紙ベルト4Aに所定のテンションを加えるもので、弾性力で抄紙ベルト4Aの張力を所定の状態とするものである。
ガイドローラ47,49a,49bは、抄紙コンベア4の軌道を決定するガイド用であり、必要数配設される。
【0025】
吸水ローラ71,72,73,74,75は、図2に示すように、円筒状の外周に無数の穿孔7aが形成されており、その全面積に対する穿孔面積、即ち、この穿孔率は所定の値に設定されているが、比重、密度、層の厚さ等によって経験則で決定されている。本実施の形態の吸水ローラ71,・・・,75は、ステンレス製で円筒状となっており、外力で容易に湾曲しない強度となっている。吸水ローラ71,・・・,75は、図示しない外部で回転力を与えられたVベルトからなる吸水ベルト7Aで回転力が伝達されている。そのため、ガイドローラ76,77は、Vベルトからなる吸水ベルト7Aによってそれぞれが等速回転を行っている。吸水ローラ71,72,73,74,75を有し、水分量が減少した半スラリー状抄紙原料6の上面から吸水する機能の本実施の形態の上部吸水装置7を構成している。
【0026】
前述したように、上部吸水装置7の吸水ローラ71,・・・,75は、穿孔7aを形成した円筒7bと、その円筒7bの回転軸となる一方の支軸7c及び吸引側支軸7dを有する。円筒7bの外周には、90〜120度程度開口する遮蔽板7eが設けられている。この遮蔽板7eには、開口する下端部、即ち、長さ方向に平行する外周面を有し、支軸7c及び吸引側支軸7dを回転軸として、円筒7bの上側の面のみを覆っている。したがって、円筒7bが回転しても、90〜120度程度の開口を下側に位置する遮蔽板7eは、筒状の下側に形成された穿孔7aのみが機能するように上面を覆う固定位置となっている。なお、本実施の形態の穿孔7aは円孔、長円孔、+字状等の孔または網等が使用可能である。
【0027】
吸引側支軸7dには、円筒7bの内部で常に下方に吸入口7fが位置するように位置決めされた吸引管7gが配設されている。また、吸引管7gは遮蔽板7eと一体に取り付けられていて、遮蔽板7eが吸水ローラ71,・・・,75の上部位置をカバーしている限り、吸入口7fが脱水ローラ71,・・・,75の円筒7bの最下位置に位置するようになっている。そして、吸引側支軸7dの吸引管7gの吸入口7fの反対側は、図示しない吸引ポンプに接続されており、吸水ローラ71,・・・,75の円筒7bの内部の水分及び水分を含む空気を排出している。
【0028】
支軸7cは、その円筒7b側の端部に凹部溝7hが形成されていて、円筒7bの端部に溶接されている補強部材7iの内部側に形成した凸部と嵌合している。また、支軸7cのキー溝7jにはキー7kが挿入されていて、Vベルトプーリ7mが取り付けられている。したがって、Vベルトプーリ7mが回転すると、支軸7cが回転し、凹部溝7h、補強部材7iを介して円筒7bが回転する。このとき、遮蔽板7eは回転することなく定位置で停止したままである。
【0029】
吸引側支軸7dについても、その円筒7b側の端部に補強部材7pが溶接されており、その中に吸引管7gが挿入されている。吸引管7gの端部には、吸気排気管7qが接続されており、それがロックナット7rで固定されている。また、吸引管7gは固定フレーム7sに取り付けられており、遮蔽板7eと吸引管7g、吸気排気管7qが一体に固定されている。
したがって、円筒7bが回転すると、補強部材7pが吸引側支軸7dの周囲を回転し、遮蔽板7eは回転することなく定位置で停止したままである。
【0030】
このように構成された本実施の形態の湿式摩擦材の製造方法は、次のような工程によって製造される。
まず、珪藻土等の摩擦調整充填材を含んだスラリー状抄紙原料10を抄紙原料タンク1に入れて循環ポンプ13で循環させ、かつ、撹拌手段12で攪拌してその濃度を一定に保つ撹拌工程を有する。なお、このとき、抄紙原料タンク1及び調整タンク2及び抄造容器31は一体として抄紙原料タンク1のみとして使用することもできるし、抄紙原料タンク1と調整タンク2、調整タンク2と抄造容器31、抄紙原料タンク1と抄造容器31とを一体としてもよいし、それらを各々別体とすることもできる。特に、帰還ポンプ21を介して再使用できるように循環路が形成されたものでは、帰還量に応じて抄紙原料を供給できればよい。
【0031】
また、抄紙原料タンク1内において攪拌されたスラリー状抄紙原料10が抄紙原料タンク1から供給され、抄紙コンベア4によってスラリー状抄紙原料10を抄いてその形状を所定の幅のみを特定する長さの形状と定める摩擦材形成工程を有している。即ち、抄造容器31に抄紙コンベア4の端部のリターンローラ40を配置し、抄紙原料タンク1から供給されるスラリー状抄紙原料10を抄きながら引き揚げるようにして、抄紙原料タンク1から供給されるスラリー状抄紙原料10を抄きながら所定の形状にしている。このとき、抄紙コンベア4の特定の位置に円状または正方形状、長方形状、弧状または打ち抜きを行うための所定の形状を形成するように、可撓性の板状態を配設すれば、特定の形状の湿摩擦材料61を得ることができる.
【0032】
そして、その摩擦材形成工程で抄紙コンベア4の抄紙ベルト4Aによってスラリー状抄紙原料10から水分の一部が除去された半スラリー状抄紙原料6の上面から吸水ローラ71,・・・,75等を有する上部吸水装置7により半スラリー状抄紙原料6の上面側において吸水されることにより、吸水ローラ71,・・・,75に向かう半スラリー状抄紙原料6内の水の流れによって、珪藻土等の摩擦調整充填材が抄紙コンベア4の抄紙ベルト4Aに向かう下面側への移動が抑制される。この際、吸水ローラ71,・・・,75の吸引力を調整することで水流が制御され、珪藻土等の摩擦調整充填材を半スラリー状抄紙原料6の上面側等所望の位置に偏在させることができる。したがって、吸水ローラ71,・・・,75等を有する上部吸水装置が偏在手段を構成している。
【0033】
また同時に、下面から脱水を行う脱水ローラ41,・・・,45等を有する下部脱水装置8による脱水工程を具備するものである。特に、下部脱水装置8は脱水ローラ41,・・・,45によって抄紙コンベア4の抄紙ベルト4Aを介して脱水するものであるから、抄紙ベルト4Aの脱水能力によって下部の脱水が決定される。また、上部吸水装置7は吸水ローラ71,・・・,75の吸水能力が排気能力によって決定されるから、特に、上部吸水装置7のみを強く作用させたり、逆に、下部脱水装置8を強く作用させたりすることができる。
【0034】
ここで、本実施の形態ではスラリー状抄紙原料10から半スラリー状抄紙原料6への脱水は、抄紙ベルト4Aからの脱水によって行っているが、例えば、入り口側の吸水ローラ71、72の吸水を作動させずに脱水ローラ41、42によって半スラリー状抄紙原料6を得ることも有り得る。ここで半スラリー状抄紙原料6に対する上面側からの吸水は半スラリー状抄紙原料6の水分率が85.5%〜99.5%の範囲になったとき吸水を開始する。半スラリー状抄紙原料6の水分率が85.5%より低いと半スラリー状抄紙原料6の粘性が高くなりすぎ、珪藻土等の摩擦調整充填材が吸水によって引き起こされる水流による移動がし難くなり偏在させることが難しくなる。また、半スラリー状抄紙原料6の水分率が99.5%を超えると半スラリー状抄紙原料6中の珪藻土等の摩擦調整充填材が水と一緒に吸水ローラ71,・・・,75中に吸収され、所望の位置における摩擦調整充填材の必要量が確保できにくくなる。つまり半スラリー状抄紙原料6の水分率が85.5%〜99.5%の範囲内であると半スラリー状抄紙原料6の粘性が適切な状態になり、半スラリー状抄紙原料6中に含まれる珪藻土等の摩擦調整充填材が適度の抵抗を受けながら移動可能な状態になるため、水と一緒に吸水ローラ71,・・・,75中に吸収されることが起き難くなり、半スラリー状抄紙原料6中内での偏在を制御し易くなる。
【0035】
以上説明してきたように本発明の実施形態では、半スラリー状抄紙原料6の上面の吸水及び下面から脱水を行うものであるから、半スラリー状抄紙原料6の上面の吸引力と下面の脱水力、即ち、上部吸水装置7と下部脱水装置8との吸水圧力/脱水圧力の比を適切に設定することによって、例えば、摩擦係数μを高くする摩擦調整充填材として入っている珪藻土等を抄紙原料の上面側に引き上げ、上面側が高μのμ−V特性の湿式摩擦材とすることができる。また、全体的にも任意のμ−V特性の湿式摩擦材とすることもできる。さらに、この半スラリー状抄紙原料6の上面の吸水及び下面からの脱水を経ることによって湿式摩擦材の基材となる摩擦材料61の形状が特定される。ここで、吸水圧力としては1kPa〜50kPa、脱水圧力としては50kPa〜100kPaの範囲内が好適である。吸水圧力が1kPaより小さいと吸引による水流が弱く摩擦調整用充填材(本実施の形態では珪藻土)を上面に配することが困難であり、50kPaを越えると吸引による水流とともに摩擦調整用充填材が吸水ローラ中に吸い込まれ易くなる。このことから吸水圧力/脱水圧力の比は1/100〜1/1の範囲内が好適といえる。
【0036】
本実施の形態では、更に、吸水・脱水の工程を経て水分が適当に除去されることにより特定形状に保持された摩擦材料61は、抄紙ベルト4Aから剥離する剥離機構9を経て乾燥コンベア5に搬送している。即ち、吸水・脱水工程を経た摩擦材料61は、抄紙ベルト4Aから剥離する剥離工程を具備している。なお、本実施の形態では吸水とともに脱水も合わせて実施しているが、吸水ローラ71,・・・,75の吸水能力を個別に制御することで吸水ローラのみで吸水・脱水工程を行うことも有り得る。ここで、吸水が終了した直後の半スラリー状抄紙原料6の水分率は70.0%〜95.0%の範囲内に本実施の形態では設定している。水分率をこの範囲内にすることで半スラリー状抄紙原料6は形状が特定されるとともに、形状保持が可能となり取り扱いも容易となる。この形状が特定された半スラリー状抄紙原料6が摩擦材料61である。ここで70.0%より水分を減少させると、より形状の保持と取り扱いも容易となるが、その分摩擦材形成工程に費やされる時間が長くなり生産上不利となる。
【0037】
更にまた、剥離工程を経た摩擦材料61は、搬送ローラ51,52等で搬送される乾燥ベルト50に移動され、そこで乾燥される乾燥工程を具備するものである。
したがって、抄紙ベルト4Aから剥離する剥離機構9は、摩擦材料61を抄紙ベルト4Aから剥がすために図示しない圧搾空気を作るコンプレッサ等が接続されている分離ローラ46及びスクレバー53によって、摩擦材料61を型崩れを生じさせることなく、確実に搬送ローラ51,52等で搬送される乾燥ベルト50に移動することができる。
【0038】
ここで、下部脱水装置8の脱水圧力を60kPa〜70kPa内に収まるように調整し、上部吸水装置7の吸水圧力を変化させて本実施の形態1にかかる湿式摩擦材の製造方法で製造した湿式摩擦材(乾燥工程を経た摩擦材料61)の灰分比率、即ち、灰分調査による珪藻土の厚み方向の分布を図3に示す。また、同様に、本実施の形態1にかかる湿式摩擦材の製造方法による上部吸水装置7によって製造した湿式摩擦材のμ−V特性を図4に示す。ここで灰分とは湿式摩擦材を高温状態にして湿式摩擦材中の有機成分を分解除去したときに残った無機成分の割合を示す。本実施例では湿式摩擦材中の珪藻土の割合を示す。
図3に示すように、上部吸水圧力2kPaから上部吸水圧力50kPaの間で、湿式摩擦材の全体の灰分分布に比較して摩擦材表層部分(表面から1mmの深さ位置)の珪藻土等の灰分の増加が確認され、珪藻土が上面に偏在していることが明らかになった。
【0039】
図4に示す湿式摩擦材のμ−V特性は、回転数0−1000−0rpm、ディスク面圧0.2MPa、油温100℃、油量100mL/min(ATF=A)の条件下で性能を評価した。特に、上部吸水圧力2kPaから上部吸水圧力50kPaの間で、湿式摩擦材のμ−V特性が良好となり、ジャダー性が良好なものが得られた。
なお、本実施の形態は、上部吸水装置7と下部脱水装置8の上下が逆でも、特に支障はない。この場合は下面側に摩擦調整用充填材が所望量偏在することになる。
【0040】
このように、上記実施の形態の湿式摩擦材の製造方法は、スラリー状抄紙原料10を抄紙原料タンク1に入れて循環、攪拌してその濃度を一定に保つと共に、その原料タンク1からスラリー状抄紙原料10を供給し、スラリー状抄紙原料10から水分の一部を除去した半スラリー状抄紙原料6に対して、偏在手段としての上部吸水装置7と、脱水及び形状形成手段としての下部脱水装置8により、その半スラリー状抄紙原料6の上面からの吸水及び下面から脱水を行い、この一連の操作によって半スラリー状抄紙原料6に含まれる摩擦調整用充填材を吸水時の水流を利用してその配置位置を自在にするとともに特定形状に形成するものである。
【0041】
したがって、スラリー状抄紙原料10の上部吸水装置7と下部脱水装置8により上面からの吸水及び下面から脱水を行うものであるから、スラリー状抄紙原料10の上面からの吸水と下面の脱水を行う際の吸水圧力/脱水圧力の比を適切に設定することによって、半スラリー状抄紙原料6中の水流を適切な流れに制御でき、例えば、スラリー状抄紙原料10として摩擦係数μを高くする摩擦調整用充填材として入っている珪藻土等をスラリー状抄紙原料10の上面側に引き上げ、上面側が高μのμ−V特性の湿式摩擦材とすることができる。また、全体的にも任意のμ−V特性の湿式摩擦材とすることもできる。
【0042】
さらに、半スラリー状抄紙原料6の水分率を適切な範囲内に調整して半スラリー状抄紙原料6の粘性を上部吸水装置7による吸水によって摩擦調整用充填材として入っている珪藻土等が水流とともに除去されにくい適度な粘性に制御したのち吸水を開始するため、摩擦調整用充填材として入っている珪藻土等を所望の位置に偏在させることができる。また吸水後の水分率を適切な水分率とすることで、特定の形状に形状を保持した状態で摩擦材形成工程から分離可能な半スラリー状抄紙原料6、次いで、摩擦材料61を形成させることができる。
【0043】
そして、上記実施の形態の湿式摩擦材の製造方法における摩擦材形成工程のスラリー状抄紙原料10の上面からの上部吸水装置7による吸水は、吸引力によって脱水乾燥を行うものであるから、連続的に乾燥を行うことができ、生産性の効率を上げることができる。
更に、上記実施の形態の湿式摩擦材の製造方法の上部吸水装置7と下部脱水装置8からなる摩擦材形成工程の半スラリー状抄紙原料の上面からの吸水及び下面からの脱水は、そのスラリー状抄紙原料10の下面から所定の穿孔率の穿孔によって脱水し、また、スラリー状抄紙原料の10の上面から所定の穿孔率の穿孔によって吸引吸水を行うものであるから、連続的に脱水乾燥を行うことができ、生産性を上げることができる。しかも、スラリー状抄紙原料の10の上面からの吸水及び下面からの脱水乾燥により、湿式摩擦材6の上面及び下面の密度を任意の密度とすることができる。
【符号の説明】
【0044】
1 抄紙原料タンク
3 抄紙容器
4 抄紙コンベア
4A 抄紙ベルト
5 乾燥コンベア
6 半スラリー状抄紙原料
7 上部吸水装置
8 下部脱水装置
9 剥離機構
10 スラリー状抄紙原料
41,42,43,44,45 脱水ローラ
46 分離ローラ
50 乾燥ベルト
71,72,73,74,75 吸水ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に摩擦調整用充填材を分散させたスラリー状抄紙原料を抄紙原料タンクに入れて攪拌して、その濃度を一定に保つ撹拌工程と、
前記抄紙原料タンクから前記スラリー状抄紙原料が供給され、供給された前記スラリー状抄紙原料を脱水してその形状を定める摩擦材形成工程と、
前記摩擦材形成工程で形状が定められた摩擦材料を乾燥する乾燥工程を有する湿式摩擦材の製造方法において、
前記摩擦材形成工程は、前記スラリー状抄紙原料から水分の一部が除去された半スラリー状抄紙原料中の前記摩擦調整用充填材を、水流を制御することにより偏在させる偏在手段を有することを特徴とする湿式摩擦材の製造方法。
【請求項2】
前記偏在手段は、前記半スラリー状抄紙原料の上面側に設けた吸水装置であり、前記吸水装置により前記半スラリー状抄紙原料の前記摩擦調整用充填材を上面側に偏在させたことを特徴とする請求項1に記載の湿式摩擦材の製造方法。
【請求項3】
前記摩擦材形成工程において、前記半スラリー状抄紙原料の下面側に脱水装置を有し、
前記半スラリー状抄紙原料の上面からの吸水圧力と下面からの脱水圧力の比が、吸水圧力/脱水圧力=1/100〜1/1の範囲内としたことを特徴とする請求項2に記載の湿式摩擦材の製造方法。
【請求項4】
前記摩擦材形成工程での前記半スラリー状抄紙原料は、上面からの吸水直前の水分率が85.5%〜99.5%の範囲内であり、吸水直後の水分率が70.0%〜95.0%の範囲内であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の湿式摩擦材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−97360(P2012−97360A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243157(P2010−243157)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】