説明

湿田用被牽引装置

【課題】牽引されて蓮根田を滑走する田舟では、茎等の障害物が先端に堆積して滑走困難となり、また運搬のため大きさが制限され、安定性が充分でない。
【解決手段】複数のフロート6〜6をフレーム部材22,23で一体に連結したフレーム集合体5に肥料散布装置16を搭載する。外側のフロート6,6は、固定ピン46によりフレーム部材23の取付位置が変更されて、間隔L2が調節される。各フロートの先端に突尖状のガイド部材25が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿田に用いられ、牽引車輌により牽引され湿田上を滑走する被牽引装置に係り、特に、蓮根田に肥料を散布する肥料散布装置に用いて好適であり、詳しくは被牽引装置のフロート構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、牽引車輌に装着された代掻作業機と、牽引車輌に牽引される田舟に搭載された肥料散布装置と、を備え、蓮根田において、代掻作業時に同時に肥料散布と可能とした作業機ユニットが案出されている(特許文献1参照)。
【0003】
該作業機ユニットにより、代掻作業と同時に肥料散布を行なえ、作業時間の短縮を図ることができると共に作業者の負担が軽減され、かつ代掻きされたばかりの土壌中に肥料が混入しやすくなり、肥料の散布効率を向上できる。
【0004】
【特許文献1】特開2004−57082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の肥料散布装置は、平面視矩形状の田舟に搭載されているため、代掻作業機に牽引されて湿田上を滑走する際、代掻き作業により撹拌されて浮上がった茎等の蓮根の残滓が、障害物となって上記田舟の前方部分に引っ掛って堆積し、肥料散布装置搭載田舟の円滑な滑走を阻害してしまう。このため、代掻き・肥料作業を中断して、上記田舟に引っ掛った茎等を取り除く作業を度々行う必要が生じ、作業効率低下の原因となっている。
【0006】
また、上記田舟は、その平面視面積が一定であるため、軽トラック等による運搬上の規制から、その大きさが規定されて、田舟の浮力が充分でない。このため田舟への肥料の積載量が制限されると共に、田舟が幅方向に安定せず、肥料ホッパの残量により田舟の搭載姿勢が変化して、肥料の散布範囲が不均一になる等の肥料散布上の問題も生じる。
【0007】
そこで、本発明は、湿田上の滑走に際して、茎等の障害物が引っ掛り難い構成にすると共に、充分で安定した浮力を有するようにして、もって上述した課題を解消した湿田用被牽引装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る本発明は、所定重量物(16)を搭載し、湿田上を牽引されて滑走する湿田用被牽引装置であって、
滑走方向に長い筒状で内部が密閉空間となっている複数のフロート(6)と、
これら複数のフロートを幅方向に並べて一体に連結するフレーム部材(22,23)と、
一体に連結した前記複数のフロートの浮力により湿田上を滑走することを特徴とする湿田用被牽引装置にある。
【0009】
請求項2に係る本発明は、前記複数のフロートのうちの少なくとも幅方向外側(6,6)のものを、その内側に隣接する前記フロート(6,6)に対して幅方向の間隔を変更自在に前記フレーム部材(23)に連結し、
前記複数のフロート全体(5)の幅方向を変更可能に構成した、
請求項1記載の湿田用被牽引装置にある。
【0010】
請求項3に係る本発明は、前記複数のフロートのうちの少なくとも幅方向外側(6,6)のものを、その内側に隣接する前記フロート(6,6)に対してフロートの長さ方向に変更自在に前記フレーム部材(23)に連結し、
前記複数のフロート全体(5)の長さ方向を変更可能に構成した、
請求項1又は2記載の湿田用被牽引装置にある。
【0011】
請求項4に係る本発明は、前記フロート(6)の滑走方向先端部に、泥等を左右にかき分ける突尖状のガイド部材(25)を設けてなる、
請求項1ないし3のいずれか記載の湿田用被牽引装置にある。
【0012】
請求項5に係る本発明は、前記所定重量物が、肥料散布装置(16)である、
請求項1ないし4のいずれか記載の湿田用被牽引装置にある。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る本発明によると、湿田用被牽引装置は、フレーム部材により幅方向に並べて一体に連結された複数の筒状のフロートからなり、各フロートはそれぞれ内部に密閉された空間を有し、かつ作業時にあってはそれぞれ間隔をあけて連結されているので、充分な浮力を有すると共に幅方向に安定して、かつ牽引されて湿田上を滑走する際、茎等の障害物は、各フロートで左右に振り分けられ、前方に堆積して滑走の障害となることを減少することができる。
【0014】
請求項2に係る本発明は、複数のフロート全体の全幅方向を変更自在としたので、例えば運搬時にあっては、全幅を最小として運搬に支障のない幅とすることができるものでありながら、湿田上での使用状態にあっては、全幅を拡げて安定した滑走を行うことができ、更に肥料等の積載物の量、湿田の状態、湿田中の茎等の障害物の量等の環境又は作業の種類、条件等の要求安定度により、全幅を調節して、高い安定度で滑走を行うことができる。
【0015】
請求項3に係る本発明によると、複数のフロート全体のフロート長さ方向を変更自在としたので、運搬性能、使用時の滑走安定性能を向上することができる。
【0016】
請求項4に係る本発明によると、フロートの先端部に突尖状のガイド部材を設けたので、泥等をかき分けて滑走抵抗を減少すると共に、茎等の障害物の振り分け性能を向上することができる。
【0017】
請求項5に係る本発明によると、肥料散布装置を搭載して、例えば代掻作業機を装着した牽引車輌にて牽引して蓮根田に用いることにより、蓮根の茎等の障害物が引っ掛ることによる作業中断を減少し、かつ1度に多くの肥料を搭載すると共に肥料ポッパの残留肥料による肥料散布装置の姿勢変化を減少して、精度の高い肥料作業を高い作業効率にて行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面に沿って、本発明の実施の形態について説明する。代掻き・肥料散布作業機ユニット1は、図1及び図2に示すように、牽引車輌2と、作業者搭乗用田舟3と、本発明に係る肥料散布装置搭載フロート集合体(湿田用被牽引装置)5とからなり、互いに連結部材7,8を介して走行方向に直列的に連結されている。
【0019】
牽引車輌1は、カゴ型の水田車輪10を装着した歩行型管理機からなり、エンジン11からの動力が水田車輪10に伝達され、蓮根田等の湿田を走行すると共に代掻き作業を行う。該管理機2には、連結ピン14を介して後方に延びる連結部12が装着されていると共に、機体から後方に延出して操作ハンドル13が設けられている。
【0020】
前記連結部12の後端には、田舟3の先端が連結部材7を介して回動自在に連結されており、これにより田舟3が管理機2に牽引される。田舟3には作業者が搭乗して、操作ハンドル13を持って管理機2を運転しつつ肥料散布装置16を操作する。田舟3は、上面が平面視矩形状からなり、上面がフラットに構成された水密状の平板状フロートからなる。該田舟3の後端部には連結部材8が回転自在に連結されており、該連結部材8の後端に上記肥料散布装置搭載フロート集合体5の連結部19がピン20により連結されている。前記フロート6…の先端部には、平面視三角形状の突尖状のガイド部材25が設けられており、これらガイド部材25により、フロート集合体5が湿田上を滑走する際、各フロート6が泥及び茎等の障害物を左右に振り分ける。
【0021】
フロート集合体5(被牽引装置)は、図3及び図4に詳示するように、複数(本実施の形態では4個)の円筒状(筒状)の細長いフロート6…からなり、これらフロート6は、すべて同じ径及び長さの塩化ビニール製のパイプからなり、互に幅方向に並べて複数のフレーム部材からなるフレーム組立体20により一体に連結されている。各フロート6は、内部が密閉空間となっており、それぞれ充分な浮力を有している。なお、図1において(図3、図5においても同様)、Aは湿田(蓮根田)の水面、Bは泥面を示す。なお、上記フロート6は、すべて同じ長さ、径のものでなくてもよく、また塩化ビニール以外の材料により形成されてもよい。
【0022】
上記フロート集合体5上には、肥料散布装置16が搭載されている。該肥料散布装置16は、肥料ホッパ27と、該ホッパ内の肥料を撹拌したり散布するための動力源となるエンジン29とを有しており、これらを載置するフレーム30が、中央2本のフロート6,6上に設けられた載置枠体31上に固定されている。肥料ホッパ27の下部には、肥料落下口27aを開口又は閉塞するシャッタ31が配置されており、上記落下口27aからはシュータ32(図1参照)を介して肥料拡散散布円盤33が配設されている。また、ホッパ27内には撹拌棒35が配置されており、これら円盤33及び撹拌棒35が図示しない動力伝達装置を介して前記エンジン29により駆動される。
【0023】
前記肥料ホッパ27は、前記載置フレーム30に設けられた複数の支持杆36により固定されており、該散布円盤33は、前記載置フレーム30にブラケット37(図1参照)を介して配置されている。該載置フレーム30には、ホッパ27の前方においてエンジン29が固定されていると共に、該エンジンを覆うエンジンカードフレーム39が固定されている。
【0024】
エンジン右側方のフレーム組立体20に枢支されてシャッターリンクプレート40が配置されており、該リンクプレートの枢支軸近傍には前方(作業者搭乗用田舟3)に向って延びる操作レバー41が固定されている。前記リンクプレート40の先端部に取付け位置を変更自在にロッド38が連結されており、該ロッド38は、シャッタ量調整装置42及びアーム44を介して前記肥料シャッタ31に連結されている。
【0025】
前記各フロート6の前後部分にはそれぞれ取付ブラケット45が固着されており、かつ前記フレーム組立体20は、内側の2個のフロート6,6のブラケット45を互いに連結する内側横フレーム部材22,22と、左右外側の2個のフロート6,6と6,6のブラケット45を互いに連結する外側横フレーム23,23とからなる。内側横フレーム22,22はその固定位置が一定であって、両フロート6,6の間隔L1は一定に保持される。左右及び前後の外側横フレーム23は、最外側のフロート6,6に対して一定位置に固定されていると共に、内側のフロート6,6に対しては、取付けブラケット45に設けられたパイプ49に摺動自在に嵌挿され、かつ固定用連結用孔23a,23b,23cがそれぞれ3個設けられており、これら連結用孔を選択して固定ピン46を挿入することにより、間隔を調節して固定することができる。
【0026】
従って、図3、図4に示すように、固定ピン46を標準用連結孔23aに挿入して固定することにより、両側のフロート6,6と6,6の間隔L2からなる、フロート集合体(被牽引装置)5の全幅が標準作業状態になり、図5、図7に示すように、固定ピン46を幅広用連結孔23bに挿入して固定することにより、両側のフロート6,6と6,6の間隔L3からなる、フロート集合体5の全幅が幅広作業状態となり、図6、図8に示すように、固定ピン46を幅狭用連結孔23cに挿入して固定することにより、両側のフロート6,6と6,6の間隔L4からなる、フロート集合体5の全幅が運搬時又は収納時に用いられる幅狭状態となる。
【0027】
図9は、左右最外側のフロート6,6を、内側のフロート6と6に対して前方に移動して固定した状態を示す。この状態では、図4に示す標準状態の長さ方向間隔LAに対して、長い間隔LBとなっており、フロート集合体5の全長が変更される。変更方法としては、左右外側の取付ブラケット45のフロート6,6に対する取付け位置を前後に調節する等の周知な変更固定手段にて行うことができる。なお、図9は、幅方向が標準作業幅状態に設定しているが、これに限らず、幅広作業状態において全長を長くして、幅方向に限らず、前後方向の安定を高めてもよく、また幅狭収納・運搬幅状態において全長を短くして(例えば各フロートの前後方向差を0にする)、フロート集合体5の平面面積を更にコンパクトにしてもよい。
【0028】
なお、図4において、符号51は連結部19の補助フレームであり、52は作業者の足場となるステップ板である。
【0029】
なお、フロート集合体5は、内側の2本のフロート6,6が内側横フレーム部材22により固定されて一定関係に保持され、左右の2本のフロート6,6が上記内側フロート6,6に対して同じ間隔になるように変更される。従って、フロート集合体5は、重量物である肥料散布装置16に対して左右対称にあり、左右に複数分割された構造からなる。
【0030】
ついで、本代掻き・肥料散布作業機ユニット1を用いた作業について説明する。作業者は、田舟3に乗って、牽引車輌である管理機2をハンドル13により操作して、蓮根田上を走行しつつ代掻き作業を行う。管理機2の走行に伴い、連結部材7,8を介して田舟3及びフロート集合体5が牽引されて湿田上を滑走する。田舟3上の作業者は、上記管理機2の操作と同時に、ハンドル41を持って肥料散布装置16のシャッタ31を操作する。これにより、蓮根田において、代掻き作業と同時に肥料の散布作業が行われる。
【0031】
蓮根田は、蓮根の茎等の長尺の障害物が残っており、代掻き作業により泥と共に障害物が浮上り、重量物である肥料散布装置16を搭載しているフロート集合体5の前方に上記障害物が当るが、フロート集合体5は複数のフロート6によりそれぞれ間隔を設けて分割して構成されるので、障害物は、泥と共に各フロート6の先端が掻き分けられ、特に各フロートの先端には突尖状のガイド部材25が固定されているので、該ガイド部材25により障害物は泥と共に左右に分けられて、各フロートの間及び外側に流される。これにより、フロート集合体5の前方に障害物が堆積して滑走困難になることを減少して、障害物の除去作業のために代掻き・肥料散布作業を中断する回数を大幅に減少できると共に、フロート集合体の滑走抵抗を減少して、作業機ユニットの速い走行を可能にし、作業効率を向上する。
【0032】
また、フロート集合体6の全幅又は全長が、湿田状態、作業状態、肥料等の搭載重量等により、図3,図4に示す標準作業幅状態、図5,図7に示す幅広作業幅状態、図9に示す全長延長状態に選択される。フロート集合体5は、各フロート6がそれぞれ充分な浮力を有すると共に、環境によって全幅及び/又は全長が調節されて、幅方向及び/又は長さ方向の適正な安定が得られる。これにより、肥料散布装置16による適正な肥料散布が行われる。
【0033】
作業が終了してトラックにより運搬し収納する際、図6,図8に示すように、フロート集合体5は、幅狭収納・運搬時幅状態に変更される。これにより、フロート集合体5は、肥料散布装置16を搭載・固定したままで平面視コンパクトな状態になって、容易に運搬及び収納される。
【0034】
なお、上述した肥料散布装置は、フロート集合体5に搭載・固定したエンジン29により駆動されるが、これは、管理機等の牽引車輌のPTO軸からフレキシブル継手等の伝動手段を介して伝達してもよい。また、本フロート集合体5を、田舟3に代えて作業者搭乗用としても用いてもよい。
【0035】
また、本フロート集合体は、上記肥料散布装置に用いて好適であるが、これに限らず、例えば蓮根田での収穫物の運搬、収穫作業時のコンプレッサ搭載、更には蓮根田以外の湿田での使用等、他の用途に用いてもよいことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明を肥料散布装置に適用した作業機ユニット全体を示す側面図。
【図2】その平面図。
【図3】肥料散布装置を搭載したフロート集合体(被牽引装置)を示す正面図(標準作業幅状態)。
【図4】その平面図。
【図5】幅広作業幅状態のフロート集合体の正面図。
【図6】幅狭収納・運搬時幅状態のフロート集合体の正面図。
【図7】幅広作業幅状態のフロート集合体の平面図。
【図8】幅狭収納・運搬時幅状態のフロート集合体の平面図。
【図9】全長延長状態(標準作業幅状態)のフロート集合体の平面図。
【符号の説明】
【0037】
1 作業機ユニット
2 牽引車輌(管理機)
3 田舟
5 湿田用被牽引装置(フロート集合体)
6,6〜6 フロート
16 重量物(肥料散布装置)
20 フレーム組立体
22 (内側)フレーム部材
23 (外側)フレーム部材
25 ガイド部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定重量物を搭載し、湿田上を牽引されて滑走する湿田用被牽引装置であって、
滑走方向に長い筒状で内部が密閉空間となっている複数のフロートと、
これら複数のフロートを幅方向に並べて一体に連結するフレーム部材と、
一体に連結した前記複数のフロートの浮力により湿田上を滑走することを特徴とする湿田用被牽引装置。
【請求項2】
前記複数のフロートのうちの少なくとも幅方向外側のものを、その内側に隣接する前記フロートに対して幅方向の間隔を変更自在に前記フレーム部材に連結し、
前記複数のフロート全体の幅方向を変更可能に構成した、
請求項1記載の湿田用被牽引装置。
【請求項3】
前記複数のフロートのうちの少なくとも幅方向外側のものを、その内側に隣接する前記フロートに対してフロートの長さ方向に変更自在に前記フレーム部材に連結し、
前記複数のフロート全体の長さ方向を変更可能に構成した、
請求項1又は2記載の湿田用被牽引装置。
【請求項4】
前記フロートの滑走方向先端部に、泥等を左右にかき分ける突尖状のガイド部材を設けてなる、
請求項1ないし3のいずれか記載の湿田用被牽引装置。
【請求項5】
前記所定重量物が、肥料散布装置である、
請求項1ないし4のいずれか記載の湿田用被牽引装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−244337(P2007−244337A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−75670(P2006−75670)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000147693)株式会社石井製作所 (17)
【Fターム(参考)】