溝模様を有するシート群およびこれを用いた情報判別システム
【課題】 全体の美観を損なうことなしに所望のコードを記録し、偽造防止に効果があるシートを提供する。
【解決手段】 図(a) 〜(h) に示す8種類のエンボスシートを用意する。太い黒線は幅1mmの溝、細い黒線は幅0.98mmの溝によって構成する。8種類のシートは、いずれも3つの領域A1〜A3に分割されており、分割態様は同一である。また、対応する領域に形成された溝の向きも同一である。太い黒線と細い黒線との幅の差は、図では誇張して描かれているが、実際には20μmしかなく、肉眼観察では差の認識はなされない。このため、肉眼観察時には、8種類のシートは、同一の模様を有し、溝内の反射光によりキラキラ光るデザインとして認識されるが、機械により画像を読み取れば、太い黒線の領域が「1」、細い黒線の領域が「0」として、埋め込まれたコードが認識される。
【解決手段】 図(a) 〜(h) に示す8種類のエンボスシートを用意する。太い黒線は幅1mmの溝、細い黒線は幅0.98mmの溝によって構成する。8種類のシートは、いずれも3つの領域A1〜A3に分割されており、分割態様は同一である。また、対応する領域に形成された溝の向きも同一である。太い黒線と細い黒線との幅の差は、図では誇張して描かれているが、実際には20μmしかなく、肉眼観察では差の認識はなされない。このため、肉眼観察時には、8種類のシートは、同一の模様を有し、溝内の反射光によりキラキラ光るデザインとして認識されるが、機械により画像を読み取れば、太い黒線の領域が「1」、細い黒線の領域が「0」として、埋め込まれたコードが認識される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溝模様を有するシートに固有の情報を埋め込む技術に関し、バーコードや二次元コードなどに比べて意匠性の高いコード埋め込み技術に関する。
【背景技術】
【0002】
何らかの識別コードを媒体に記録させる方法として、磁気カード、ICカード、RFIDなどを媒体として用いる方法が普及している。一方、より安価な方法として、バーコードや二次元コードなどを印刷する方法も広く利用されている。バーコードや二次元コードなどは、人間が目視観察した場合には、記録されているコード自身を正確に認識することは困難であるが、光学的な読取装置などの機械的手段を用いると、正確なデジタルデータを取り込むことができるため、切符やチケット用の識別コード、商品の識別コード、URLの表示コードなどの用途に盛んに利用されている。たとえば、下記の特許文献1には、旅客券や定期券上にバーコードを印刷しておくことにより、自動改札を行う技術が開示されている。また、特許文献2には、チケットに二次元コードを印刷しておき、この二次元コードを用いてチケットの有効性を評価する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平5−143794号公報
【特許文献2】特開2002−183769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
バーコードや二次元コードは、チケットや商品パッケージなどに直接印刷を行うことにより記録することができるため、磁気カード、ICカード、RFIDといった専用の記録媒体を用いる方法に比べて、非常に低コストで識別コードの記録を行うことが可能になる。しかしながら、光学的な方法で読み取ることを前提としているため、人間が目視観察した場合、記録されている識別コード自身は正確には認識できないにせよ、何らかの識別コードが記録されていることは把握できる。しかも、このバーコードや二次元コードは、人間が観察した場合、黒と白の領域がランダムに混在したパターンとして認識されるため、意匠上、人工的な異質物としての印象を与え、自然なデザインにはマッチせずに違和感を与えるものとなる。特に、全体的に意匠デザインが施された商品パッケージ、カード、切符、入場券などの一部に、バーコードや二次元コードの表示領域が設けられていると、全体の美観を損なう要因となり、決して好ましいものではない。
【0004】
また、バーコードや二次元コードは、一般の複写機で容易に複製することができるため、切符や入場券などに用いた場合、偽造されやすいという問題もある。もちろん、偽造防止の観点からは、磁気カード、ICカード、RFIDといった専用の記録媒体を用いるのが好ましく、特にICカードは極めて高度なセキュリティを備えている。しかしながら、これらの専用媒体は、比較的コストが高いため、切符や入場券など、使い捨ての用途には不向きである。
【0005】
そこで本発明は、全体の美観を損なうことなしに所望のコード(情報)を記録することができ、しかも偽造防止に効果があるシートを提供することを目的とし、また、そのようなシートを利用した情報判別システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本発明の第1の態様は、多数の溝によって表面に模様が形成されたシート群において、可視光が回折現象を生じないように、溝部の幅および間隙部の幅が設定されており、かつ、溝部の幅もしくは間隙部の幅またはその双方を、肉眼では認識不能な微小な変動量だけ変動させて情報量をもたせることにより、各シートごとにそれぞれ異なる所定のコードが埋め込まれるようにしたものである。
【0007】
(2) 本発明の第2の態様は、多数の溝によって表面に模様が形成されたシート群において、溝部および間隙部がそれぞれ肉眼観察可能となるように、溝部の幅および間隙部の幅が設定されており、かつ、溝部の幅もしくは間隙部の幅またはその双方を、肉眼では認識不能な微小な変動量だけ変動させて情報量をもたせることにより、各シートごとにそれぞれ異なる所定のコードが埋め込まれるようにしたものである。
【0008】
(3) 本発明の第3の態様は、上述の第2の態様に係るシート群において、
溝部の幅および間隙部の幅を0.9mm以上に設定し、情報量をもたせるための変動量の最大範囲を40μm以下としたものである。
【0009】
(4) 本発明の第4の態様は、上述の第1〜第3の態様に係るシート群において、
少なくとも溝部内面を鏡面反射する材質によって構成し、観察方向に応じて異なる反射模様が提示されるようにしたものである。
【0010】
(5) 本発明の第5の態様は、上述の第4の態様に係るシート群において、
いずれのシートにも同一の溝模様が形成されており、この溝模様は、部分ごとにそれぞれ溝の形成方向が異なっているようにしたものである。
【0011】
(6) 本発明の第6の態様は、上述の第4の態様に係るシート群において、
形状が同一でサイズが異なる複数の閉領域輪郭線を入れ子状に重ねてなる同一の入れ子状溝模様を各シートに形成したものである。
【0012】
(7) 本発明の第7の態様は、上述の第4の態様に係るシート群において、
各シートは複数の領域に分割されており、この分割の態様はすべてのシートについて共通であり、
1つのシートに関して、1つの領域内には共通の方向に溝が形成されており、隣接する領域については互いに異なる方向に溝が形成されており、同じ観察方向から観察しても、各領域ごとに異なる反射模様が観察されるようにしたものである。
【0013】
(8) 本発明の第8の態様は、上述の第7の態様に係るシート群において、
すべてのシートについて、それぞれ対応する領域内に形成されている溝の方向が共通するようにしたものである。
【0014】
(9) 本発明の第9の態様は、上述の第7または第8の態様に係るシート群において、
個々の領域ごとにそれぞれ異なる情報を埋め込むようにしたものである。
【0015】
(10) 本発明の第10の態様は、多数の溝によって表面に模様が形成されたシート群において、
各シートは、少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって構成され、かつ、複数の領域に分割されており、この分割の態様はすべてのシートについて共通であり、
1つのシートに関して、1つの領域内には共通の方向に溝が形成されており、隣接する領域については互いに異なる方向に溝が形成されており、同じ観察方向から観察しても、各領域ごとに異なる反射模様が観察され、
複数のシート間で、それぞれ対応する領域内に形成されている溝の方向を比較した場合、少なくとも1つの領域に関する溝の方向が異なるようにしたものである。
【0016】
(11) 本発明の第11の態様は、上述の第10の態様に係るシート群において、
各シート上の個々の領域が、当該シート上に定義された所定の環状路に沿って配置されるようにし、溝の方向をこの環状路に沿ってローテーションシフトすることにより、複数のシート間でそれぞれ対応する領域についての溝の方向が異なるようにしたものである。
【0017】
(12) 本発明の第12の態様は、上述の第10の態様に係るシート群において、
基本となるシート上の個々の領域について、それぞれ溝の方向を示す方位角θを定義し、他のシートについてはそれぞれ個々のシートに固有の偏差角δを定義し、基本となるシート上の個々の領域の方位角θに対して、他のシート上の対応する個々の領域の方位角がθ+δとなるように設定することにより、複数のシート間でそれぞれ対応する領域についての溝の方向が異なるようにしたものである。
【0018】
(13) 本発明の第13の態様は、多数の溝をランダムに配置することにより表面に模様が形成されたシート群において、溝の配置パターンに情報量をもたせることにより、各シートごとにそれぞれ異なる所定のコードを埋め込むようにしたものである。
【0019】
(14) 本発明の第14の態様は、上述の第13の態様に係るシート群において、
少なくとも溝部内面を鏡面反射する材質によって構成し、観察方向に応じて異なる反射模様が提示されるようにしたものである。
【0020】
(15) 本発明の第15の態様は、情報判別システムにおいて、
多数の溝によって表面に模様が形成された複数N種類のシートと、
このN種類のシート表面の模様を、二次元画像として読み取る画像読取手段と、
画像読取手段で読み取った各シートについてのN種類の二次元画像を、それぞれ基準画像として格納する基準画像格納手段と、
N種類のシートの中の判別対象となる判別対象シートについて画像読取手段が読み取った判別対象画像を、基準画像格納手段に格納されている各基準画像と比較し、最も類似する画像を最類似画像と判別する画像判別手段と、
を設け、
基準画像格納手段内に格納されているN種類の基準画像が相互に異なる画像となるように、N種類のシートには、溝部の幅もしくは間隙部の幅またはその双方がそれぞれ異なるように溝を形成するようにしたものである。
【0021】
(16) 本発明の第16の態様は、上述の第15の態様に係る情報判別システムにおいて、
可視光が回折現象を生じないように、溝部の幅および間隙部の幅が設定されており、かつ、溝部の幅もしくは間隙部の幅またはその双方を、肉眼では認識不能な微小な変動量だけ変動させることにより、N種類の基準画像が相互に異なる画像となるようにしたものである。
【0022】
(17) 本発明の第17の態様は、上述の第15の態様に係る情報判別システムにおいて、
各シートの溝部および間隙部がそれぞれ肉眼観察可能となるように、溝部の幅および間隙部の幅を設定し、かつ、溝部の幅もしくは間隙部の幅またはその双方を、肉眼では認識不能な微小な変動量だけ変動させることにより、N種類の基準画像が相互に異なる画像となるようにしたものである。
【0023】
(18) 本発明の第18の態様は、上述の第17の態様に係る情報判別システムにおいて、
各シートの溝部の幅および間隙部の幅を0.9mm以上に設定し、その変動量の最大範囲を40μm以下としたものである。
【0024】
(19) 本発明の第19の態様は、上述の第15〜第18の態様に係る情報判別システムにおいて、
少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって各シートを構成し、観察方向に応じて異なる反射模様が提示されるようにしたものである。
【0025】
(20) 本発明の第20の態様は、上述の第19の態様に係る情報判別システムにおいて、
いずれのシートにも同一の溝模様を形成し、この溝模様は、部分ごとにそれぞれ溝の形成方向が異なっている模様となるようにしたものである。
【0026】
(21) 本発明の第21の態様は、上述の第19の態様に係る情報判別システムにおいて、
形状が同一でサイズが異なる複数の閉領域輪郭線を入れ子状に重ねてなる同一の入れ子状溝模様を各シートに形成したものである。
【0027】
(22) 本発明の第22の態様は、上述の第19の態様に係る情報判別システムにおいて、
各シートは複数の領域に分割されており、この分割の態様はすべてのシートについて共通であり、
1つのシートに関して、1つの領域内には共通の方向に溝が形成されており、隣接する領域については互いに異なる方向に溝が形成されており、同じ観察方向から観察しても、各領域ごとに異なる反射模様が観察されるようにしたものである。
【0028】
(23) 本発明の第23の態様は、上述の第22の態様に係る情報判別システムにおいて、
すべてのシートについて、それぞれ対応する領域内に形成されている溝の方向が共通するようにしたものである。
【0029】
(24) 本発明の第24の態様は、上述の第22または第23の態様に係る情報判別システムにおいて、
個々の領域ごとにそれぞれ異なる情報が埋め込まれているようにしたものである。
【0030】
(25) 本発明の第25の態様は、情報判別システムにおいて、
多数の溝によって表面に模様が形成された複数N種類のシートと、
このN種類のシート表面の模様を、二次元画像として読み取る画像読取手段と、
画像読取手段で読み取った各シートについてのN種類の二次元画像を、それぞれ基準画像として格納する基準画像格納手段と、
N種類のシートの中の判別対象となる判別対象シートについて画像読取手段が読み取った判別対象画像を、基準画像格納手段に格納されている各基準画像と比較し、最も類似する画像を最類似画像と判別する画像判別手段と、
を設け、
各シートは、少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって構成され、かつ、複数の領域に分割されており、この分割の態様はすべてのシートについて共通であり、
1つのシートに関して、1つの領域内には共通の方向に溝が形成されており、隣接する領域については互いに異なる方向に溝が形成されており、同じ観察方向から観察しても、各領域ごとに異なる反射模様が観察され、
複数のシート間で、それぞれ対応する領域内に形成されている溝の方向を比較した場合、少なくとも1つの領域に関する溝の方向が異なるようにしたものである。
【0031】
(26) 本発明の第26の態様は、上述の第25の態様に係る情報判別システムにおいて、
各シート上の個々の領域が、当該シート上に定義された所定の環状路に沿って配置されるようにし、溝の方向をこの環状路に沿ってローテーションシフトすることにより、複数のシート間でそれぞれ対応する領域についての溝の方向が異なるようにしたものである。
【0032】
(27) 本発明の第27の態様は、上述の第25の態様に係る情報判別システムにおいて、
基本となるシート上の個々の領域について、それぞれ溝の方向を示す方位角θを定義し、他のシートについてはそれぞれ個々のシートに固有の偏差角δを定義し、基本となるシート上の個々の領域の方位角θに対して、他のシート上の対応する個々の領域の方位角がθ+δとなるように設定することにより、複数のシート間でそれぞれ対応する領域についての溝の方向が異なるようにしたものである。
【0033】
(28) 本発明の第28の態様は、情報判別システムにおいて、
多数の溝を配置することにより表面に模様が形成された複数N種類のシートと、
このN種類のシート表面の模様を、二次元画像として読み取る画像読取手段と、
画像読取手段で読み取った各シートについてのN種類の二次元画像を、それぞれ基準画像として格納する基準画像格納手段と、
N種類のシートの中の判別対象となる判別対象シートについて画像読取手段が読み取った判別対象画像を、基準画像格納手段に格納されている各基準画像と比較し、最も類似する画像を最類似画像と判別する画像判別手段と、
を設け、
基準画像格納手段内に格納されているN種類の基準画像が相互に異なる画像となるように、N種類のシートには、それぞれランダムに多数の溝を配置するようにしたものである。
【0034】
(29) 本発明の第29の態様は、上述の第28の態様に係る情報判別システムにおいて、
少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって構成されており、観察方向に応じて異なる反射模様が提示されるシートを用いるようにしたものである。
【0035】
(30) 本発明の第30の態様は、上述の第13,第14の態様に係るシート群または第28,第29の態様に係る情報判別システムに用いるシートを製造する製造方法において、
記録面上に規則的に配置された複数の格子点を定義する格子点定義段階と、
各格子点の位置を乱数に基づいてランダムに移動させ、移動後の各点の位置にそれぞれ起点となるべき第1番目の構成点P1を定義する起点定義段階と、
第i番目の構成点Piについて、所定の成長方向に対してランダムにずれた方位ベクトルViを求め、この方位ベクトルViの方向に、この構成点Piからランダムに定めた距離Liだけ隔たった位置に、第(i+1)番目の構成点P(i+1)を定義する処理を、i=1〜Iまで合計I回繰り返し行い、第1番目の構成点P1から第(I+1)番目の構成点P(I+1)に至るまでの合計(I+1)個の構成点を順に連結する曲線に基づいて1本のヘアラインを定義する処理を、すべての起点について実行するヘアライン定義段階と、
シートの原材料となる素材上に、定義された各ヘアラインに沿った溝を形成する溝形成段階と、
を行うようにしたものである。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、多数の溝によって表面に模様が形成されたシートに、所定のコードを埋め込んで記録するようにしたため、全体の美観を損なうことなしに所望のコード(情報)を記録することができるようになり、しかも偽造防止効果も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。
【0038】
<<< §1.溝模様を有するエンボスシートの異方性反射特性 >>>
本発明において、所定のコードを記録する対象となる媒体は、多数の溝によって表面に模様が形成されたシートであり、溝模様を有するエンボスシートと呼ぶべきシートである。なお、本願において「シート」という文言は、材質を問わず平板状の媒体を広く意味するものであり、形態としては、カード状、シール状、ロール状のものなどを広く含むものである。もちろん、商品パッケージの一部もしくは商品自身の表面の一部を利用して本発明を実施することも可能であり、この場合、当該商品パッケージの一部もしくは商品自身の表面の一部が、本発明にいう「シート」に該当することになる。
【0039】
溝模様を有するエンボスシートを、少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって構成しておけば(たとえば、ポリ塩化ビニルやポリエチレンテレフタレートなどの材料でエンボスシートを構成しておけばよい)、その特有の凹凸構造に基づく異方性反射の特性が生じることが知られている。以下、このような特性が生じる理由を簡単に説明しておく。いま、図1の斜視図に示すように、厚みD1をもったエンボスシートEの表面に、細長い溝が多数形成されている場合を考える。ここでは、深さD2をもった溝の部分を溝部Gと呼び、隣接する一対の溝部Gの境界を構成する土手の部分を間隙部Sと呼ぶことにする。図示の例の場合、溝部Gは幅W1,間隙部Sは幅W2をもち、互いに平行になるように、溝部Gと間隙部Sとが交互に配置されている。
【0040】
このようなエンボスシートEでは、その表面から得られる反射光の強度が観察方向により異なる。このエンボスシートEを、溝Gに平行な面で切断した断面を図2(a) に示し、溝Gに垂直な面で切断した断面を図2(b) に示す。図2(a) に示すように、溝Gに対して平行な方向から入射した光は、溝Gの底面で反射して、そのまま溝Gに沿った方向へ鏡面反射して射出する。これに対して、図2(b) に示すように、溝Gに対して垂直な方向から入射した光は、溝Gの壁面および底面で何回も反射して、最終的にバラバラな方向へ拡散反射光として射出する。このため、溝Gに平行な方向から観察すると、強い鏡面反射光が得られるが、溝Gに垂直な方向から観察すると、鏡面反射光は弱くなる。
【0041】
このように、多数の溝Gが形成されたエンボスシートEは異方性反射を生じる性質があるため、その観察方向によって見え方が異なることになる。逆に言えば、同じ方向から観察した場合、形成されている溝Gの向きによって見え方が異なることになる。このため、1枚のエンボスシートE上の個々の部分ごとに溝Gの向きを変えるようにすると、強い反射光の得られる部分(観察者から見てキラキラ光っていると認識される部分)は、観察時の照明の位置や視点の位置に応じて様々に変化することになる。このような溝模様をもった構造は、一般に、「光線彫り」と呼ばれており(あるいは、「エンジンタン」と呼ばれることもある)、商品パッケージや種々のカードなどの装飾として利用されている。
【0042】
この「光線彫り」と呼ばれる溝模様を構成する個々の溝は、可視光が回折現象を起こす機能を有しているわけではない。別言すれば、可視光について回折格子としての機能を果たすわけではない。したがって、溝部Gの幅W1や間隙部Sの幅W2は、光の波長に比べれば十分に大きな値に設定してある。特に、後述する実施形態の例では、人間が肉眼で観察した場合、溝部Gおよび間隙部Sを認識することが可能である。すなわち、本発明は、このように、溝部Gおよび間隙部Sを肉眼で認識することが可能な「光線彫り」と呼ばれる溝模様、もしくは、肉眼観察はできなくても、可視光が回折現象を生じないように、溝部Gの幅や間隙部Sの幅が設定されている溝模様(本願では、このような溝模様も「光線彫り」と呼ぶ)を有するエンボスシートを用いることを前提としており、いわゆるホログラム記録媒体を用いる技術とは明確に区別される。本願発明者が行った実験によると、溝部Gの幅W1と間隙部Sの幅W2との和(W1+W2)が4μm以上になるように設定すると、可視光の回折現象が生じないことが確認できた。したがって、本発明は、W1+W2の寸法が少なくとも4μm以上ある場合を前提とした発明と言うことができ、本発明にいう「光線彫り」とは、そのような寸法条件を満たす構造を意味する。
【0043】
商品パッケージやカードなどの装飾として「光線彫り」模様が利用されているのは、意匠上の効果が優れているからである。上述したように、この「光線彫り」模様が付された部分は、キラキラと光って見え、しかも照明の位置や視点の位置に応じて、光り具合や光る部分が様々に変化することになる。このため、通常の印刷面とは異なる特殊な視覚的効果を奏する領域として認識される。したがって、商品パッケージやカードなどに用いた場合、バーコードや二次元コードが意匠性を低下させるのに対して、「光線彫り」模様は、逆に意匠性を向上させる機能を果たすことができる。
【0044】
本発明は、「光線彫り」模様のこのような特性に着目し、「光線彫り」模様の中に、所定のコードを埋め込むという手法を採ることにより、全体の美観を損なうことなしに所望のコード(情報)を記録するという目的を達成するものである。また、この手法を採ることにより、偽造防止効果も得られるようになる。すなわち、「光線彫り」模様は、凹凸構造をもったエンボスシート上に形成される立体的な模様であるため、通常の複写機などで複製することはできない。実際に偽造するためには、エンボス加工等を行う装置が必要になるため、偽造防止には十分な効果が得られる。偽造防止効果を更に高めるためには、溝を構成する凹凸面の上から、透明なコーティング材料を塗布すると効果的である。そうすれば、型取りによる複製が困難になる。
【0045】
なお、この「光線彫り」模様を有するシートは、必ずしも凹凸構造を有する型を用いたエンボス加工やモールディングの手法によって作成する必要はなく、たとえば、特開2002ー67468号公報に開示されている印刷の手法を用いて形成することも可能である。もちろん、エッチングやNC工作機械を用いる方法や、種々のラピッドプロトタイピング装置などを用いる方法によって、「光線彫り」模様を有するシートを作成してもかまわない。
【0046】
「光線彫り」模様の中に、所定のコードを埋め込むための具体的な方法として、本願では、3通りの方法を提案している。第1の方法は、§2,§3で述べるように、溝部Gの幅W1もしくは間隙部Sの幅W2に情報量をもたせる方法であり、第2の方法は、§4で述べるように、溝部Gの向きに情報量をもたせる方法であり、第3の方法は、§5で述べるように、ランダム配置された溝部Gの配置パターンに情報量をもたせる方法である。以下、これらの各方法を順に説明する。
【0047】
<<< §2.幅に情報量をもたせる基本的な方法 >>>
ここでは、溝部Gの幅W1もしくは間隙部Sの幅W2に情報量をもたせることにより、各シートごとにそれぞれ異なる所定のコードを埋め込む方法を説明する。まず、図3(a) ,(b) の平面図に示すような単純なストライプ模様をもったエンボスシートを考える。両シートは同一形状、同一サイズのシートであり、いずれも実際には三次元の凹凸構造をもったシートであるが、ここでは説明の便宜上、溝部Gを黒色部分として示し、間隙部Sを白色部分として示すことにする。図3(a) に示すシートの場合、溝部Gの幅はW1a、間隙部Sの幅はW2aであり、図3(b) に示すシートの場合、溝部Gの幅はW1b、間隙部Sの幅はW2bである。このエンボスシートEのうち、少なくとも溝部Gの内面は、鏡面反射する材質によって構成されており、§1で述べたように、観察方向に応じて異なる反射模様が提示される。
【0048】
ここに示す実施形態の場合、図示のとおり、W1aとW1bとの差や、W2aとW2bとの差は、肉眼で観察した場合、認識できないように設定されているため、人間が肉眼観察する限りにおいて、図3(a) に示すシートと図3(b) に示すシートとは、全く同じシートとして把握される。実際、両者を手にとってみても、人間の眼によって区別を行うことはできない。しかしながら、厳密には、W1aとW1bには差があり、W2aとW2bにも差があるので、ある程度の精度をもった光学系を用いて、両者の模様を二次元画像として読み込み、これを比較すれば、両者の相違を機械的に検知することができる。
【0049】
そこで、たとえば、溝部Gの幅=W1a、間隙部Sの幅=W2aである場合(図3(a) の場合)にはコード「0」を表現しており、溝部Gの幅=W1b、間隙部Sの幅=W2bである場合(図3(b) の場合)にはコード「1」を表現している、と定めておけば、この2枚のシートを用いることにより、1ビットのコード「0」または「1」の表現が可能になる。
【0050】
結局、図3に示されている2枚のシートは、いずれも多数の溝によって表面に模様が形成されたシート(いわゆる「光線彫り」模様を有するエンボスシート)であるが、溝部Gの幅および間隙部Sの幅に情報量をもたせることにより、各シートごとにそれぞれ異なる所定のコードが埋め込まれていることになる。
【0051】
しかも、図示の実施形態では、溝部の幅W1a,W1bおよび間隙部の幅W2a,W2bは、溝部Gおよび間隙部Sがそれぞれ肉眼観察可能となるような寸法に設定されており、かつ、溝部の幅の変動量および間隙部の幅の変動量は、肉眼では認識不能な微小な変動量に設定されている。別言すれば、溝部の幅および間隙部の幅を、肉眼では認識不能な微小な変動量だけ変動させることにより情報量をもたせていることになる。
【0052】
本願発明者が、このシートを、一般的な観察位置(視点から30cmほど離した位置)に置いて観察する場合について実際に検証したところ、より具体的な寸法値として、溝部の幅W1a,W1bおよび間隙部の幅W2a,W2bについては、いずれも0.9mm以上に設定すれば、溝部Gおよび間隙部Sがそれぞれ肉眼観察可能となり、情報量をもたせるための変動量については、その最大範囲を40μm以下とすれば、肉眼では認識不能な変動量の設定が可能になることが確認できた。したがって、実用上は、上記寸法条件を満たすように各シートを設計すれば、本発明の作用効果を十分に奏することが可能である。
【0053】
図3に示す例の場合、たとえば、図3(a) に示すシート(コード「0」が埋め込まれたシート)については、溝部Gの幅W1a=1mm、間隙部Sの幅W2a=1mmとし、図3(b) に示すシート(コード「1」が埋め込まれたシート)については、溝部Gの幅W1b=0.98mm、間隙部Sの幅W2b=1.02mmとすれば、いずれも0.9mm以上という上記条件を満たしている。また、溝部Gの幅の変動量は、W1a−W1b=0.02mm(20μm)となり、間隙部Sの幅の変動量は、W2a−W2b=−0.02mm(20μm)となるので、いずれも変動量の最大範囲40μm以下という上記条件を満たしている。実際、このような寸法設定にすると、両シートを肉眼観察しても、相互に区別することはできない。
【0054】
この変動量の最大範囲としての40μmなる数値は、裸眼の分解能を示す数値からも導くことができる。すなわち、一般的に「目が良い」と言われている視力2.0をもった人間の裸眼の分解能は、30cm先の原稿に対して、約600dpiという値になることが知られている。切符やチケットを目視する場合、通常、30cm(一般的に明視距離とされている)程度の距離から観察することになるので、この約600dpiという分解能の限界を基準にすれば、インチの単位をmmの単位に直して、24.5mm/600=40μmとして変動量の最大範囲(肉眼認識不能な範囲)を算出することができる。すなわち、変動量の最大範囲を40μmとしておけば、かなり目が良い観察者であっても、変動量を視認することはできないことになる。
【0055】
一方、肉眼観察が可能となる溝部Gおよび間隙部Sの幅としては、0.9mm以上という条件を設定しているが、これは、次のような根拠に基づいて算出された値である。まず、視力に関する健常者は、「両眼の視力の和が0.2を超える者」とされており、一般に、両眼の視力の和が0.2以下になると、視覚障害者とされる(両眼の視力の和が0.2を超えていても、一方の視力が著しく低い場合には、視覚障害者になるが、ここでは、両眼の視力がほぼ同じ場合を考えることにする)。別言すれば、両眼の視力がほぼ同じ場合を想定すると、一方の眼の視力が0.1以上あれば、健常者ということになる。もちろん、視力は個人ごとに様々であるが、ここでは、「健常者である限り肉眼観察が可能な幅」を求めることにすると、結局、「視力が0.1以上あれば観察可能な幅」を求めればよい。視力は、「2点が離れていることを見分けられる最小の視角を分の単位で表わした数値の逆数」として定義されるパラメータであるので、視力0.1の者は、10分(1/6°)に相当する距離だけ離れた2点を分別することができることになる。ここで、「明視の距離=30cm」だけ離れた位置から物体を観察する場合を標準的な場合と考えれば、30cm離れた位置に置かれた平面上で視野角(1/6°)に相当する距離として、300mm・tan(1/6°÷2)・2=0.872mm、小数第2位以下を四捨五入すると、0.9mmなる数値が算出される。すなわち、溝部Gおよび間隙部Sの幅が、0.9mm以上あれば、視力0.1の者であっても肉眼観察が可能になるので、視力に関する健常者であれば、誰もが肉眼観察可能ということになる。
【0056】
なお、上述した数値例では、溝部Gの幅の変動量と間隙部Sの幅の変動量とを、絶対値が等しく符号が逆になるように設定したため、結果的に、溝の形成ピッチ(溝部Gの幅と間隙部Sの幅との和:2mm)が両者で等しくなっているが、溝部Gの幅の変動量と間隙部Sの幅の変動量とは、必ずしも絶対値を同じに設定する必要はなく、また、一方のみを変動させることにより、情報量をもたせるようにしてもかまわない。
【0057】
たとえば、図3(a) に示すシート(コード「0」が埋め込まれたシート)については、溝部Gの幅W1a=1mm、間隙部Sの幅W2a=1mmとし、図3(b) に示すシート(コード「1」が埋め込まれたシート)については、溝部Gの幅W1b=0.98mm、間隙部Sの幅W2b=1mmとすれば、溝部Gの幅についてのみ情報量が付加されていることになり、間隙部Sの幅は変わりないことになる。この場合、図3(a) に示すシートについての溝の形成ピッチは2mmであるが、図3(b) に示すシートについての溝の形成ピッチは1.98mmということになる。結局、溝部Gの幅の変動量と間隙部Sの幅の変動量とを、絶対値が等しく符号が逆になるように設定した場合は、溝の形成ピッチは変動しないことになるが、それ以外の場合は、当該ピッチに変動が生じることになるので、溝の形成ピッチに情報量を付加することと等価になる。
【0058】
図3(a) および(b) に示す溝模様を有する2種類のシートは、上述したように、それぞれコード「0」と「1」を示す記録媒体として利用することができる。前掲の具体的な寸法値で各部を設計した場合、肉眼観察では、いずれも同じストライプ模様をもった媒体として把握されるが、両者の溝模様を、幅の変動量を検知可能な分解能をもつ装置を用いて光学的に二次元画像として取り込み、これを精査すれば、両者を機械的に判別することが可能であるので、コード「0」もしくは「1」を認識することができる。
【0059】
このように、コード「0」/「1」の判別では、単に1ビットの情報表現しか行うことができないが、実社会において、このような1ビットの情報判別が必要になるケースは少なくない。たとえば、列車の切符において、普通車用切符とグリーン車用切符とを判別したい場合、劇場のチケットにおいて、特別席用チケットと普通席用チケットとを判別したい場合、遊園地の入場券において、一日券と半日券とを判別したい場合など多岐にわたる。このような場合、切符、チケット、入場券の一部に、図3(a) もしくは(b) に示す溝模様を有するシートを形成しておくようにすれば、機械的な方法でこれを判別することができる。
【0060】
この溝模様を有するシートは、前述したとおり「光線彫り」模様を有するエンボスシートとして知られており、意匠性を高める効果を有している。したがって、切符、チケット、入場券の一部をこのシートで構成した場合、全体的に意匠性を向上させる効果が得られることになる。これは、バーコードや二次元コードでは得られない特別な効果である。
【0061】
また、図3に示す実施形態の場合、溝部および間隙部がそれぞれ肉眼観察可能となるように、溝部の幅および間隙部の幅が設定されており(具体的には、0.9mm以上)、かつ、溝部の幅もしくは間隙部の幅を、肉眼では認識不能な微小な変動量(具体的には、最大範囲40μm以下)だけ変動させることにより情報量をもたせているが、このような設定を行うと、肉眼観察によっては、埋め込まれたコードを認識することができないという副次的な効果が得られる。これは、異なるコードが埋め込まれていたとしても、観察者に対しては統一したデザインとして提示される、という意匠上の効果でもある。
【0062】
たとえば、遊園地の入場券において、一日券の一部分に図3(a) に示すシートを貼り付け、半日券の一部分に図3(b) に示すシートを貼り付けたものとしよう。この場合、これらの入場券を人間が肉眼観察する限りにおいては、当該シートは全く同じ模様に見えるので、統一したデザインの入場券を実現することができる。しかし、当該シートの部分を光学的に読み取れば、一日券と半日券との相違を判別することが可能になる。このように、本発明では、人間が肉眼観察する限りにおいては、埋め込まれているコードを認識することができないが、光学的な読取機能を備えた装置を用いれば、コードを認識することができる、という固有の効果を得ることが可能になる。
【0063】
以上、1ビットの情報を埋め込むことにより、2通りのシートの機械的な判別を可能にする例を述べたが、もちろん、本発明では、より多くの情報をシートに埋め込むことも可能である。たとえば、第1のシートでは、溝部Gの幅=1mm、間隙部Sの幅=1mmとし、第2のシートでは、溝部Gの幅=0.99mm、間隙部Sの幅=1.01mmとし、第3のシートでは、溝部Gの幅=1.01mm、間隙部Sの幅=0.99mmとすれば、3通りのシートの機械的な判別が可能になる。更に、第4のシートでは、溝部Gの幅=0.98mm、間隙部Sの幅=1.02mmとし、第5のシートでは、溝部Gの幅=1.02mm、間隙部Sの幅=0.98mmとすれば、5通りのシートの機械的な判別が可能になる。この場合でも、情報量をもたせるための変動量の最大範囲は、1.02−0.98=0.04mm(すなわち、40μm)であるので、肉眼観察した場合、5種類のシートの模様は同じに見え、観察者に対しては統一したデザインとして提示される。
【0064】
また、1本1本の溝部Gもしくは間隙部Sのそれぞれに、固有の情報量を付加することも可能である。たとえば、幅1mmの溝部を太い溝、幅0.98mmの溝部を細い溝と定義し、1本の溝部Gの幅により1ビットの情報を表現するようにすれば、n本の溝部の集合によりnビットの情報を表現することが可能になる。あるいは、1本の間隙部の幅により1ビットの情報を表現することも可能であるし、溝の形成ピッチの長さにより1ビットの情報を表現することも可能である。更に、1本の溝部の幅、1本の間隙部の幅、溝の形成ピッチの長さにより多数ビットの情報を表現することも可能である。もっとも、埋め込む情報量が多くなればなるほど、読取装置の解像度を高くする必要があり、読取エラーの発生率も高まることになる。
【0065】
<<< §3.幅に情報量をもたせる具体的な溝模様 >>>
上述した§2では、幅に情報量をもたせる基本的な方法を、図3の実施形態に基づいて説明した。しかしながら、この図3に示す溝模様は、単なるストライプ模様であり、実用上は、それほど意匠性に優れたものではない。ここでは、より意匠性に優れた具体的な溝模様をいくつか例示する。
【0066】
なお、図3では、観察者が肉眼観察した状態に近い態様で、2通りのシートの平面図をそれぞれ図(a) ,(b) として示したため、図3(a) ,(b) は全く差のない図になっているが、図4以降では、説明の便宜上、溝部Gおよび間隙部Sの幅の相違を強調して示すことにする(実寸比を無視して示すことになる)。
【0067】
たとえば、図4(a) ,(b) に示されているシートは、それぞれ図3(a) ,(b) に示されているシートと全く同じであるが、溝部Gおよび間隙部Sの幅の相違が強調して示されている。具体的な寸法値で例示すれば、図4(a) に示す太い黒線は幅1mmの溝部を示し、太い白線は幅1mmの間隙部を示しており、図4(b) に示す細い黒線は幅0.98mmの溝部を示し、太い白線は幅1.02mmの間隙部を示している。すなわち、図4(a) に示す太い黒線と図4(b) に示す細い黒線との実寸上での差はわずか0.02mmであるが、図示の便宜上、幅の相違が明確になるように、実寸比を無視した描画がなされている。図5〜図9および図19に示す太い黒線と細い黒線についても同様であり、実際には、両者の幅の差は肉眼では認識できない。
【0068】
図5(a) ,(b) に示す例は、同心円状に複数の溝を配置することにより形成された同一の溝模様であり、図6(a) ,(b) に示す例は、正方形状の溝を入れ子状に複数配置することにより形成された同一の溝模様である。図5(a) ,図6(a) における太い黒線は幅1mmの溝部、太い白線は幅1mmの間隙部を示しており、図5(b) ,図6(b) における細い黒線は幅0.98mmの溝部、その間の太い白線は幅1.02mmの間隙部を示している。
【0069】
上述したとおり、太い黒線と細い黒線との寸法差は肉眼では認識できない程度の微差であるため、図5(a) ,(b) に示す2枚のシートを肉眼で比較観察したとしても、両者は同一の同心円状パターンとして把握されることになる。同様に、図6(a) ,(b) に示す2枚のシートを肉眼で比較観察したとしても、両者は同一の正方形の入れ子状パターンとして把握されることになる。しかしながら、光学的な読取機能を備えた装置を用いれば、両者を判別することが可能になる。
【0070】
図5および図6に示す溝模様が図3に示す溝模様に比べて優れている第1の利点は、その意匠性である。図3に示す溝模様が単なるストライプ模様であるのに対して、図5および図6は円や正方形を入れ子状に重ねて配置した複雑な模様となっており、意匠性に優れている。
【0071】
図5および図6に示す溝模様の第2の利点は、所定の照明環境下で観察したときに、その一部分から強い反射光が観察でき、しかも、この反射光によって生じる反射模様が、一対のシートについて同じになる、という点である。たとえば、図7(a) ,(b) は、図5(a) ,(b) に示されている各シートを、同じ照明環境下で同じ方向から観察したときに得られる反射模様の一例を示す平面図である。図にドットによるハッチングを施した領域が強い反射光が得られる領域である。図示のような同心円状の溝模様を有するシートの場合、通常、扇型の領域から強い反射光が得られることになり、この領域が独特の反射模様として認識されることになる(実際には、扇型内部の反射光強度は一様ではない)。同様に、図8(a) ,(b) は、図6(a) ,(b) に示されている各シートを、同じ照明環境下で同じ方向から観察したときに得られる反射模様の一例を示す平面図であり、やはり図にドットによるハッチングを施した三角形の領域が強い反射光が得られる領域である。
【0072】
このように、図5および図6に示す溝模様の場合、観察時に独特の反射模様が観察されることになり、しかも照明位置や観察位置を変えると、強い反射光が得られる部分が変化するので、反射模様が様々に変化して見えることになる。このように反射模様が変化することは、もちろん、意匠性を向上させる効果になるが、もうひとつの効果は、埋め込まれている情報の相違に気付かせない効果である。たとえば、図7に示す例の場合、図7(a) のシートも、図7(b) のシートも、いずれも図示のような扇型の領域が共通した反射模様として認識され、しかも照明や視点を変えた場合の反射模様の変化態様も共通することになるので、「両シートは同じ模様である」との印象を強める効果が生じることになる。図8に示す例の場合も全く同様である。
【0073】
§2では、溝部Gおよび間隙部Sの幅の変動量の最大範囲を40μm以下とすれば、当該変動量は肉眼では認識不能になることを説明した。これは裸眼の分解能から導かれる結果であるが、実際に人間が模様の相違を認識するのは、脳の働きに基づくものである。したがって、実際の溝模様に裸眼の分解能以上の変動量があったとしても、脳がこれを認識しない限り、両者が違う模様であると気付くことはない。図5や図6に示す溝模様の場合、上述したように、照明や視点を変えた場合に反射模様が変化し、しかもその変化態様が共通しているため、たとえ溝部Gおよび間隙部Sの幅の変動量が40μmを超えていたとしても、脳は両者の相違を認識しづらくなる。別言すれば、キラキラ光る領域の変化に注意が奪われ、両者の相違認識が妨げられることになる。
【0074】
したがって、図5や図6に示す溝模様を採用すれば、溝部Gおよび間隙部Sの幅の変動量が40μmを超えるような設定がなされていたとしても、肉眼観察時に、2つのシートの模様が同一であるとの認識を観察者に与える効果が得られることになる。もっとも、実用上は、§2で述べたとおり、変動量の最大範囲を40μm以下に設定するのが好ましい。そうすれば、裸眼の分解能という物理的な理由と、キラキラ光る領域の変化に注意が奪われるという心理的な理由との双方により、2つのシートの模様が同一であるとの認識を観察者に与える効果が得られることになる。
【0075】
このキラキラ光る領域の変化に注意が奪われるという心理的な効果を奏するためには、
いずれのシートにも同一の溝模様を形成するようにし、しかも、この溝模様は、部分ごとにそれぞれ溝の形成方向が異なっているようにすればよい。たとえば、図5(a) ,(b) に示す2枚のシートでは、いずれも同心円状パターンという同一の溝模様を有しており、しかも円からなるパターンであるため、溝の向き(円の接線方向)は、各円周上の位置によって異なっている。また、図6(a) ,(b) に示す2枚のシートでは、いずれも正方形の入れ子状パターンという同一の溝模様を有しており、しかも正方形からなるパターンであるため、溝の向き(正方形の各辺の方向)は、個々の辺によって異なっている。
【0076】
特に、図5や図6に示す例は、形状が同一でサイズが異なる複数の閉領域輪郭線(個々の円や個々の正方形)を入れ子状に重ねてなる同一の入れ子状溝模様を各シートに形成した例である。このような入れ子状溝模様は、意匠性にも富んでいるため、本発明における溝模様として用いるのに非常に適している。
【0077】
図9は、別なアプローチに基づく実施形態を示す平面図である。図9(a) 〜(h) は、それぞれ異なるコードが埋め込まれたシートである。この8枚のシートは、いずれも同一形状、同一サイズのシートであり、それぞれ領域A1,A2,A3の3つの領域に分割されている。ここで、この分割の態様は、すべてのシートについて共通であり、いずれのシートにも、同一形状、同一サイズの領域A1,A2,A3が定義されている。
【0078】
いずれのシートについても、各領域A1,A2,A3内には、所定方向に溝が形成されている。そして、1つのシートに関して、1つの領域内には共通の方向に溝が形成され、隣接する領域については互いに異なる方向に溝が形成されている。たとえば、図9(a) に示すシートの場合、領域A1内には水平方向を共通の方向として、6本の溝(黒い線)が形成されており、領域A2内には垂直方向を共通の方向として、6本の溝が形成されており、領域A3内には斜め45°方向を共通の方向として、6本の溝が形成されている。
【0079】
また、8枚のシート相互の関係を見ると、すべてのシートについて、それぞれ対応する領域内に形成されている溝の方向が共通するという特徴をもっている。たとえば、領域A1に着目すると、8枚のシートの領域A1内には、いずれも水平方向に溝が形成されている。同様に、領域A2に着目すると、8枚のシートの領域A2内には、いずれも垂直方向に溝が形成されており、領域A3に着目すると、8枚のシートの領域A3内には、いずれも斜め45°方向に溝が形成されている。
【0080】
ここで、各溝は、太い黒線もしくは細い黒線で示されているが、前述したとおり、太い黒線は幅1mmの溝部、その間に配置されている太い白線は幅1mmの間隙部を示しており、細い黒線は幅0.98mmの溝部、その間の太い白線は幅1.02mmの間隙部を示している。また、この例では、太い黒線で示されている溝は2進数のコード「1」を示し、細い黒線で示されている溝は2進数のコード「0」を示すものと決めている。したがって、1つの領域により1ビットの情報が表示されている。ここで、領域A1,A2,A3の順にビットの順序を定めることにすれば、図9(a) に示すシートは、「111」なる3ビットの情報を示すことになる。同様に、図9(b) 〜(h) に示すシートは、図示のとおり「110」〜「000」なる3ビットの情報を示している。
【0081】
結局、この図9に示す8枚のシートには、それぞれ3ビットの情報が埋め込まれていることになる。しかも、太い黒線で示されている溝の幅と、細い黒線で示されている溝の幅とは、実際には、わずか20μmの差しかないため、肉眼では差を認識することはできない。また、8枚のシートすべてについて、それぞれ対応する領域内に形成されている溝の方向が共通するため、照明や視点を変えた場合の反射模様の領域単位の変化態様も、8枚のシートで共通することになる。したがって、この8枚のシートを肉眼で観察した場合、いずれも同じ模様のシートとして認識されることになる。しかしながら、光学的な読取機能を備えた装置を用いれば、太い黒線で示されている溝の幅と、細い黒線で示されている溝の幅との相違を判別することができるため、各シートに埋め込まれた3ビットの情報を認識することができる。
【0082】
この図9に示す8枚のシートを、たとえばチケットなどの一部に形成しておくようにすれば、見た目は同じようなチケットに見えても、8通りの異なるチケットを機械的に判別することが可能になる。
【0083】
この図9では、シートを3つに分割した例を示したが、もちろん、分割の数は3つに限定されるものではなく、個々の領域の形状も、図示のものに限定されるものではない。一般論として述べれば、複数のシートからなるシート群において、各シートをそれぞれ複数の領域に分割するようにし、この分割の態様がすべてのシートについて共通となるようにすればよい。そして、1つのシートに関しては、1つの領域内には共通の方向に溝が形成されており、隣接する領域については互いに異なる方向に溝が形成されており、同じ観察方向から観察しても、各領域ごとに異なる反射模様が観察されるようにしておき、シート間の関係については、すべてのシートについて、それぞれ対応する領域内に形成されている溝の方向が共通するようにしておけばよい。そして、個々の領域ごとにそれぞれ異なる情報を埋め込むようにすれば、シート全体としては、領域の数に応じた量の情報を表現することが可能になる。
【0084】
図9の例では、1つの領域内に、太い黒線(幅1mmの溝)を形成するか、細い黒線(幅0.98mmの溝)を形成するか、を選択することにより、1ビットの情報を記録しているが、溝の幅によりたくさんのバリエーションを用意すれば、1つの領域内により多くの情報を記録することが可能になる。
【0085】
なお、これまで述べてきた実施形態は、いずれも直線状の溝を形成する例であるが、シートに形成する溝は、必ずしも直線状のものにする必要はない。たとえば、図10は、複数の領域にそれぞれ曲線状の溝を形成したシートを示す平面図である。この例では、1枚のシートが4×4=16個の領域に分割されており、個々の領域ごとに、それぞれ所定の方向性をもった曲線状の溝が形成されている。具体的には、図示の例の場合、ほぼ水平方向を向いた曲線状の溝と、ほぼ垂直方向を向いた曲線状の溝との2種類が、市松模様状に配置されている。図では、曲線状の溝の幅はすべて等しく描かれているが、太い溝(幅1mmの溝)と細い溝(幅0.98mmの溝)との2種類を個々の領域ごとに使い分けるようにすれば、1つの領域に1ビットの情報を記録することができるようになるので、合計16ビットの情報を埋め込むことが可能になる。
【0086】
<<< §4.溝の向きに情報量をもたせる方法 >>>
続いて、溝の向きに情報量をもたせる方法を説明する。図11は、その典型的な実施形態に係るシートの平面図である。ここで、図11(a) に示すシートは、図9(a) に示すシートと全く同一のシートであり、3つの領域A1,A2,A3に分割されている。図9に示すシート群は、溝の幅に情報量をもたせた例であるため、図9(a) 〜(h) に示すシートの各領域には、太い溝か細い溝かのいずれかが形成されていた。これに対して、図11(a) ,(b) に示す2枚のシートの各領域には、いずれも太い溝のみが形成されている。ただ、両シートで対応する領域内の溝の向きを比較すると、両者では異なっている。
【0087】
たとえば、図11(a) に示すシートと図11(b) に示すシートにおいて、領域A1内の溝の向きを比較すると、前者では水平方向、後者では斜め45°方向となっている。同様に、領域A2内の溝の向きを比較すると、前者では垂直方向、後者では水平方向となっており、領域A3内の溝の向きを比較すると、前者では斜め45°方向、後者では垂直方向となっている。
【0088】
ここでは、説明の便宜上、図12に示すように、溝の向きを角度θで示すことにする。すなわち、図の直線Lにより溝の向きを表わした場合に、水平方向を0°、垂直方向を90°として、角度θの大きさにより、溝の向きを定義する。ここで、領域A1,A2,A3の順に角度θの大きさを羅列することにより、埋め込まれているコードを表現することにすれば、図11(a) のシートには、「0°,90°,45°」なるコードが埋め込まれており、図11(b) のシートには、「45°,0°,90°」なるコードが埋め込まれていることになる。
【0089】
もし、1つの領域内の溝の向きを、θ=0°,45°,90°の3通りのいずれかに設定し、隣接する領域には異なる角度の溝を形成することにすれば、図示の例のように3つの領域を有するシートを用いることにより、合計6通りの情報を表現することが可能になる。別言すれば、それぞれ異なるコードが埋め込まれた6種類のシートを用意することができる。もちろん、角度θのバリエーションを更に増やせば、より多種類のコードの埋め込みが可能になる。
【0090】
結局、この§4で述べる「溝の向きに情報量をもたせる方法」を実施するには、まず、表面が複数の領域に分割されており、各領域内にそれぞれ多数の溝が形成され、少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって構成されたシート群を用意する。このとき、分割の態様はすべてのシートについて共通になるようにする。たとえば、図11(a) ,(b) に示す2枚のシートは、いずれも3つの領域A1,A2,A3に分割されており、分割の態様は全く同じになっている。
【0091】
そして、1つのシートに関しては、1つの領域内には共通の方向に溝が形成されており、隣接する領域については互いに異なる方向に溝が形成されており、同じ観察方向から観察しても、各領域ごとに異なる反射模様が観察されるようにする。また、複数のシート間では、それぞれ対応する領域内に形成されている溝の方向を比較した場合に、少なくとも1つの領域に関する溝の方向が異なるようにすればよい。図11(a) ,(b) に示す2枚のシートを比較すると、3つの領域のすべてについて、溝の方向が異なっているが、両者を判別する上では、少なくとも1つの領域に関する溝の方向が異なっていれば足りる。
【0092】
ところで、§2でも述べたとおり、本発明に係るシートをチケットなどの一部に貼り付けて利用する場合には、異なるコードが埋め込まれていたとしても、観察者に対しては統一したデザインとして提示される、という意匠上の効果が要求される場合が少なくない。このような要求に応えるためには、個々の領域内の溝の形成方向を無秩序に設定することは好ましくない。
【0093】
たとえば、3つの領域A1,A2,A3を有する2種類のシートについて、第1のシートには、「0°,90°,45°」なるコードを埋め込み、第2のシートには、「0°,90°,90°」なるコードを埋め込んだとしよう。この場合、2つのシートを比較すると、領域A1,A2に形成された溝の向きは全く同じであり、領域A3に形成された溝の向きのみが異なっている。このような2つのシートを観察者が比較すると、分割の態様は全く同じであり、また、特定の観察条件の下で特定の領域から強い反射光が観察される、という性質も同じであるため、一般的には、両者の相違に気付きにくいであろう。しかしながら、両者を全く同一の観察条件下で観察した場合、領域A1,A2については同一に見えるのに、領域A3だけは見え方に相違が生じるため、統一したデザインを提供するという見地からは、若干の違和感が生じることは否めない。
【0094】
ここでは、溝の向きに情報量をもたせる方法を採りつつ、異なるコードが埋め込まれていたとしても、観察者に対しては統一したデザインとして提示される、という意匠上の効果を得るのに適した溝の向きの設定方法を述べておく。
【0095】
第1の設定方法は、各シート上の個々の領域が、当該シート上に定義された所定の環状路に沿って配置されるようにし、溝の方向をこの環状路に沿ってローテーションシフトすることにより、複数のシート間でそれぞれ対応する領域についての溝の方向が異なるようにする方法である。これを具体例で説明しよう。
【0096】
実は、図11に示す例は、この第1の設定方法で溝の向きを設定した一例となっている。この例では、いずれのシートにも3つの領域A1,A2,A3が定義されているが、これらの領域は、このシート上に定義された所定の環状路に沿って配置されている。たとえば、各領域A1,A2,A3のそれぞれに中心点C1,C2,C3を定義すれば、これら中心点をループ状に結ぶ環状路を定義することができる。各領域A1,A2,A3は、この環状路に沿って配置されていることになる。この環状路に沿った各領域の並び順は、「A1→A2→A3→A1→A2→……」というループ状のものになる。
【0097】
図11(a) に示すシートを基準にすると、図11(b) に示すシート上の各領域の溝の方向は、図11(a) に示すシート上の各領域の溝の方向を、この環状路に沿ってローテーションシフトさせたものになっている。すなわち、図11(a) に示すシートの場合、各領域の溝の方向を示す角度θは、「0°,90°,45°」の順になる。これをローテーションシフトさせると(末尾の45°を先頭にもってきて、他の角度を1つずつ後ろへシフトさせると)、「45°,0°,90°」という順が得られる。図11(b) に示すシートにおける各領域の溝の方向を示す角度θは、正に、この順である。
【0098】
図11には、2通りのシートしか示されていないが、もし、同様にして第3のシートを作成するとすれば、図11(b) に示すシートにおける「45°,0°,90°」という順を更にローテーションシフトすることにより、「90°,45°,0°」という順が得られることになるので、第3のシートの領域A1には、垂直方向(90°)に溝を形成し、領域A2には、斜め45°方向に溝を形成し、領域A3には、水平方向(0°)に溝を形成すればよいことになる。このようなローテーションシフトを行う方法の場合、領域の数と等しい種類のシートを作成することができる。たとえば、図11の例の場合、シート上の領域は3つであるから、合計3通りのシートを作成することができ、これらの各シート間では、それぞれ対応する領域についての溝の方向が異なることになる。
【0099】
このようなローテーションシフトで溝の方向を設定した複数のシートは、対応する個々の領域に形成されている溝の方向が異なっているにもかかわらず、「一見したところ、いずれも同じ模様である」との印象を与える効果がある。たとえば、図11(a) に示すシートと図11(b) に示すシートは、図面上は異なる模様のように見えるが、実際には、このような白黒パターンではなく、凹凸をもったエンボスシート上のパターンであるため、観察者に対して「一見したところ同じ模様」との印象を与えることができる。その理由は、実際に各シートを手にとって観察する場合、照明や視点に対するシートの向きが絶えず変化した状態となるため、反射模様が常に変化することになり、その変化の態様が、両シートで共通したものになるためと考えられる。
【0100】
この理由は、次のようなモデルを考えると、より理解しやすいであろう。まず、図11(a) に示すシートの左右両端を両手でつかみ、全体を水平に保持する。その状態で、向こう側の端がやや下がるようにし、続いて右端がやや下がるようにし、手前端がやや下がるようにし、左端がやや下がるようにし、再び向こう側の端がやや下がるようにし、というように、独楽の歳差運動のような動きをさせる。図11(b) に示すシートについても同様の動きをさせてみる。すると、照明や視点の位置が一定であっても、それぞれのシートに現れる反射模様は変化することになる。ただ、両シートは、溝の方向がローテーションシフトした関係にあるので、この反射模様の変化の態様は近似したものになる。たとえば、図11(a) に示すシートについて光った領域が時計回りに移動するような反射模様の変化が観察されたとすれば、同様の変化が図11(b) に示すシートについても観察されることになる。この反射模様は、観察者にとっては、非常に目立つ特徴であるため、反射模様の変化の態様が同じ場合、観察者に対しては、「両者は同じ模様」との印象を与えることになる。
【0101】
上述したとおり、図11に示すような3つの領域A1,A2,A3を有するシートに、溝の方向をローテーションシフトさせる設定方法を適用した場合、合計3種類のシートを作成することができる。このような3種類のシートを、たとえば、劇場のS席、A席、B席という3種類の入場券のそれぞれに貼り付けて用いるようにすれば、一見したところ、この3種類の入場券のデザインは共通したものに見える。もちろん、光学的な読取機能を備えた装置を用いれば、この3種類のチケットを相互に判別することができる。
【0102】
観察者に対して「統一したデザイン」との印象を与えるのに有効な溝の向きの第2の設定方法は、基本となるシート上の個々の領域について、それぞれ溝の方向を示す方位角θを定義し、他のシートについてはそれぞれ個々のシートに固有の偏差角δを定義し、基本となるシート上の個々の領域の方位角θに対して、他のシート上の対応する個々の領域の方位角がθ+δとなるように設定することにより、複数のシート間でそれぞれ対応する領域についての溝の方向が異なるようにする方法である。これを具体例で説明しよう。
【0103】
まず、図13(a) に示すシートを基本となるシートと定める。この図13(a) に示すシートは、図11(a) に示すシートと全く同じものであるが、ここでは、説明の便宜上、実際の溝の平面図を描く代わりに、各領域内に溝の方向を示す角度値を記載して示してある。一方、図13(b) に示すシートは、図13(a) に示すシートを基本として、固有の偏差角δ=5°に設定することにより得られるシートである。すなわち、3つの領域A1,A2,A3のいずれについても、図13(a) に示すシートにおける溝の方位角をθとした場合、図13(b) に示すシートにおける溝の方位角はθ+5°となっている。
【0104】
このような設定方法により溝の方向を決めた図13(a) および図13(b) に示すシートは、やはり観察者に対して「一見したところ同じ模様」との印象を与える効果がある。その理由は、どの領域の溝の方位角についても、一律してδ=5°だけの偏差があるため、やはり反射模様の変化の態様が、両者で共通したものになるためである。図13では、2通りのシートのみを示したが、図13(a) に示すシートを基本となるシートと定め、δ=10°,15°,20°,…と、δを様々な値に設定することにより、より多数のシートを作成することが可能である。いずれのシートも、基本となるシートの各領域の溝の方位角に対して固有の偏差角δをもった方向を向いた溝を有しているため、反射模様の変化の態様は共通となり、観察者に対して「一見したところ同じ模様」との印象を与えることができる。
【0105】
<<< §5.溝の配置パターンに情報量をもたせる方法 >>>
次に、溝の配置パターンに情報量をもたせる方法を説明する。この方法では、多数の溝をランダムに配置することにより表面に模様が形成されたシート群を作成し、溝の配置パターンに情報量をもたせることにより、各シートごとにそれぞれ異なる所定のコードを埋め込むようにする。実用上は、これまで述べてきた実施形態と同様に、少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって各シートを構成し、観察方向に応じて異なる反射模様が提示されるようにするのが好ましい。
【0106】
図14(a) ,(b) は、溝の配置パターンに情報量をもたせた2枚のシートを示す平面図である。図示のとおり、ここに示す実施形態では、個々の溝は直線状ではなく、曲線状の形態をしており、しかも、その配置にはゆらぎが生じており、ランダムに(ゆらぎをもって)配置されている。実際には、これらは図示のような白黒パターンではなく、凹凸をもったエンボスシート上のパターンであり、この2枚のシートは、観察者に対して「一見したところ同じ模様」との印象を与えることができる。
【0107】
しかしながら、両シートを注意深く観察して比較すると、両者には細かな相違があることがわかるであろう。すなわち、図14(a) に示す溝の配置パターンも、図14(b) に示す溝の配置パターンも、いずれも多数の溝をランダムに配置する処理によって作成されたパターンであるが、両者は別個独立した処理で作成されているため、相互には一致しない。したがって、光学的な読取機能を備えた装置を用いれば、両者を相互に判別することができるが、肉眼により観察する観察者に対しては、「一見したところ同じ模様」との印象を与えることができる。
【0108】
ここで、たとえば、この図14(a) に示すシートを「一日券」のチケットに貼り付け、図14(b) に示すシートを「半日券」のチケットに貼り付けて用いるようにすれば、両チケットは、外観上は相違がなく、統一のとれたデザインのように見える。しかし光学的な読取機能を備えた装置を用いれば、両者の判別が可能になる。このような使用態様をした場合、図14(a) に示すシートには「一日券」というコードが埋め込まれていることになり、図14(b) に示すシートには「半日券」というコードが埋め込まれていることになる。
【0109】
なお、装置を用いて両者を判別するには、予め、図14(a) に示すシートから読み取った二次元画像と、図14(b) に示すシートから読み取った二次元画像とを基準画像のデータとして用意しておき、判別対象となるシートから読み取った二次元画像がどちらに類似するかを判定する処理を行えばよい。多数の溝をランダムに配置することにより、特定の配置パターンを作成する処理としては、どのような処理を用いてもかまわないが、ここでは簡単な方法を以下に例示しておく。
【0110】
まず、図15に示すように、XY座標系をもった記録面を定義する。そして、この記録面上に、規則的に配置された複数J個の格子点を定義する。図示の例では、規則的に配置された8個の格子点(図では黒丸で示す)が示されている。各格子点は、X軸方向のピッチがtx、Y軸方向のピッチがtyとなるように規則的に配置されており、1つの格子点は、T(x,y)なる座標値によって定義される。各格子点は、1本のヘアライン(溝の基準となる線)の起点となるべき点であり、これら各格子点からヘアラインが成長方向(この例ではX軸方向)に伸びてゆくことになる。したがって、格子のピッチtxおよびtyは、隣接するヘアラインの間隔を左右するパラメータとなる。
【0111】
続いて、各格子点を乱数に基づいてランダム移動させる処理を行う。上述のように、各格子点は1本のヘアラインの起点となるべき点であるが、この起点が規則的に配置されていると、最終的に規則的な配置をもったヘアラインが作成されることになる。そこで、ランダムに配置されたヘアラインを得るために、起点の段階からランダムに配置しておくようにする。ここに示す例では、図15に示すように規則的に配置された各格子点を、X軸方向にランダムな変位量dxだけ変位させ、Y軸方向にランダムな変位量dyだけ変位させることにより、ランダム移動させている。図15に白丸で示す点P(x+dx,y+dy)は、このようなランダム移動が行われた後の格子点である。ここで、変位量dxの範囲を、−tx/2≦dx≦+tx/2とし、変位量dyの範囲を、−ty/2≦dy≦+ty/2とすれば、1つの格子点T(x,y)の移動範囲は、図15に破線で示すような矩形領域F内に制限されることになる。
【0112】
図16は、このようにして、8個の格子点についてランダム移動を行った状態を示す図である。図に黒丸で示された点P1(1)〜P1(8)が、移動後の格子点を示している。これらの各点P1(1)〜P1(8)は、いずれもヘアラインの起点となる。以下の説明では、このヘアラインを構成する各点を、Pi(j)なる符号で示すことにする。ここで、jは作成するヘアラインのシリアル番号であり、iは1本のヘアラインを構成する各構成点のシリアル番号である。図16に示す8個の点は、いずれもヘアラインの起点となるべき点であるから、いずれもi=1となっている。また、図示の例では、合計8本のヘアラインを作成する単純なモデルを示しているので、8個の起点P1(1)〜P1(8)のみが示されているが、実際にはより多数(合計J本)のヘアラインが作成されることになり、J個の起点P1(1)〜P1(J)が定義されることになる。
【0113】
このように、J本のヘアラインの起点となるべきJ個の点P1(1)〜P1(J)を定義する際に、まず、図15に示すように、規則的に配置されたJ個の格子点を定義し、続いて、図16に示すように、これらをランダム移動させる、という手順を採ることは、実用上、非常に意味のあることである。すなわち、各ヘアラインは、溝の基準となる線なので、できるだけランダムに配置するのが好ましい。しかしながら、完全にランダムに配置してしまうと、ヘアラインの密度分布が一様にはならなくなり、ヘアラインが密集した部分と、過疎な部分とが生じてしまい、好ましくない結果となる。上述したように、一旦、規則的に配置した格子点をランダム移動させる、という手法を採れば、記録面全体としては一様な密度分布をもちながら、個別に見ればランダムに配置されているという理想的なヘアライン分布を得ることができる。
【0114】
続いて、各起点から徐々にヘアラインを成長させてゆく。図17は、第j番目のヘアラインの形成過程を示す平面図である。まず、起点P1(j)の位置に、方位ベクトルV1(j)なるものを定義する。この例では、ヘアラインの成長方向はX軸方向であるので、方位ベクトルV1(j)も基本的には、X軸方向を向いたベクトルとなるが、乱数を用いて、若干、方向にランダム性をもたせるようにする。たとえば、「X軸方向に対して、左右に45°以内の範囲内のランダムな方向を向いたベクトル」というような条件で、方位ベクトルV1(j)を定義すればよい。図示の例では、右斜め下方を向いた方位ベクトルV1(j)が定義されている。
【0115】
同様に、乱数を用いて、距離L1(j)の値を定義する。このとき、L1(j)の上限値および下限値を決めておき、上限値〜下限値の範囲内のランダムな値として、距離L1(j)の値を定義するようにする。こうして、起点P1(j)について、方位ベクトルV1(j)および距離L1(j)が求まったら、起点P1(j)から方位ベクトルV1(j)の方向に距離L1(j)だけ隔たった点として、構成点P2(j)を定義する。
【0116】
次に、この構成点P2(j)について、全く同様の処理を行う。すなわち、構成点P2(j)について、方位ベクトルV2(j)および距離L2(j)を乱数を用いて求め、構成点P2(j)から方位ベクトルV2(j)の方向に距離L2(j)だけ隔たった点として、構成点P3(j)を定義する。以下、同様にして、構成点P4(j),P5(j),P6(j)を求めてゆく。そして、起点を含めた構成点の数が所定数(この例の場合は6)に達したら、そこで当該ヘアラインに関する成長処理を終了する。図17は、この時点の状態を示している。
【0117】
続いて、図18に示すように、こうして得られた第1番目の構成点P1(j)から第6番目の構成点P6(j)に至るまでの合計6個の構成点を、ベジェ曲線あるいはスプライン曲線などを用いて滑らかに連結することにより、第j番目のヘアラインHj(図に太線で示すライン)を形成する。最後に、このヘアラインHjに、幅を定義し、幅をもった溝の輪郭線Cjを形成する。図示の例では、ヘアラインの両端部において漸減するような幅を定義している。このような処理を、全J個の起点について行えば、多数の溝がランダムに配置されたパターンを作成することができる。もちろん、実際には、上述した各プロセスは、コンピュータを用いて実施され、最終的に作成されたパターンは、コンピュータから二次元画像データとして出力されることになる。
【0118】
最後に、このようにして作成されたパターンに基づいて、エンボスシートを製造すれば、図14に示すようなシートが得られる。このようなプロセスを2回繰り返して実行すれば、別個独立した溝のランダム配置パターンが2通り得られるので、図14(a) 、(b) に示すような2通りのシートを得ることができる。
【0119】
結局、上述したシートの製造方法は、記録面上に規則的に配置された複数の格子点を定義する格子点定義段階と、各格子点の位置を乱数に基づいてランダムに移動させ、移動後の各点の位置にそれぞれ起点となるべき第1番目の構成点P1を定義する起点定義段階と、第i番目の構成点Piについて、所定の成長方向に対してランダムにずれた方位ベクトルViを求め、この方位ベクトルViの方向に、この構成点Piからランダムに定めた距離Liだけ隔たった位置に、第(i+1)番目の構成点P(i+1)を定義する処理を、i=1〜Iまで合計I回繰り返し行い、第1番目の構成点P1から第(I+1)番目の構成点P(I+1)に至るまでの合計(I+1)個の構成点を順に連結する曲線に基づいて1本のヘアラインを定義する処理を、すべての起点について実行するヘアライン定義段階と、シートの原材料となる素材上に、定義された各ヘアラインに沿った溝を形成する溝形成段階と、によって実現されることになる。
【0120】
なお、特開2001−138700号公報には、上述した原理に基づくランダム配置されたヘアラインの作成方法について、より詳細な説明がなされている。
【0121】
<<< §6.本発明に係る情報判別システム >>>
これまで述べたとおり、本発明によれば、多数の溝によって表面に模様が形成された複数のシートに、それぞれ異なる識別コードを記録することが可能になる。そこで、ここでは、これら本発明に係るシート群を利用した情報判別システムの構成例を述べることにする。
【0122】
この情報判別システムは、図19のブロック図に示すとおり、複数N種類(図示の例の場合は4種類)のシート11〜14と、画像読取手段20と、画像判別手段30と、基準画像格納手段40と、によって構成されている。
【0123】
ここで、複数N種類のシート11〜14は、多数の溝によって表面に模様が形成されたシートであり、たとえば、§2,§3で述べた実施形態に係るシート群を用いればよい。具体的には、溝部の幅もしくは間隙部の幅またはその双方がそれぞれ異なるように溝が形成されているシート群を用いればよい。実際には、切符、チケット、カードなど、様々な物品の一部にこれらのシートを形成するのが一般的な利用形態である。
【0124】
なお、観察者に対して、「このN種類のシート11〜14が同一の模様である」との印象を与え、切符、チケット、カードなどの物品のデザインを統一させる意匠上の効果を狙う場合には、各シートの溝部および間隙部がそれぞれ肉眼観察可能となるように、溝部の幅および間隙部の幅を設定し、かつ、溝部の幅もしくは間隙部の幅を、肉眼では認識不能な微小な変動量だけ変動させることにより、N種類のシート上の画像が相互に異なる画像となるようにすればよい。実寸としては、既に述べたとおり、各シートの溝部の幅および間隙部の幅を0.9mm以上に設定し、その変動量の最大範囲を40μm以下とするのが好ましい。
【0125】
また、「このN種類のシート11〜14が同一の模様である」との印象をより強く与えるためには、少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって構成されており、観察方向に応じて異なる反射模様が提示されるシートを用いるようにするのが好ましい。更に、いずれのシートにも同一の溝模様が形成されており、この溝模様は、部分ごとにそれぞれ溝の形成方向が異なっているようにするとよく、たとえば、図5および図6に示す例のように、形状が同一でサイズが異なる複数の閉領域輪郭線を入れ子状に重ねてなる同一の入れ子状溝模様を各シートに形成すると効果的である。
【0126】
あるいは、図9に示す例のように、各シートを複数の領域に分割し、しかも、この分割の態様がすべてのシートについて共通となるようにし、1つのシートに関して、1つの領域内には共通の方向に溝が形成されており、隣接する領域については互いに異なる方向に溝が形成されており、同じ観察方向から観察しても、各領域ごとに異なる反射模様が観察されるようにしてもよい。
【0127】
この図19に示す実施形態では、説明の便宜上、図9(a) ,(c) ,(e) ,(g) に示されているシートを、それぞれシート11,12,13,14として例示している。この例の場合、すべてのシートについて、それぞれ対応する領域内に形成されている溝の方向は共通しており、また、個々の領域ごとにそれぞれ異なる情報(太い黒線で示す「1」もしくは細い黒線で示す「0」のいずれか)が埋め込まれている。
【0128】
一方、画像読取手段20は、このN種類のシート11〜14の表面の模様を、二次元画像として読み取る機能をもった構成要素である。具体的には、CCD撮像素子を内蔵したカメラやスキャナ装置などを画像読取手段20として用いることができる。もっとも、本発明に用いる画像読取手段20は、必ずしも光学的な方法で画像を読み取る原理の装置に限定されるものではなく、たとえば、十分な分解能を有する圧力センサなどを利用した接触式の画像読取装置を利用してもかまわない。
【0129】
基準画像格納手段40は、画像読取手段20で読み取ったN種類のシートについてのN種類の二次元画像を、それぞれ基準画像として格納する構成要素である。すなわち、図示の例の場合、4種類のシート11〜14を用意したら、予めこれら各シートについての二次元画像を、画像読取手段20によって読み取り、読み取られた各画像を、それぞれ基準画像P11〜P14として、画像データの形式で格納しておくようにすればよい。もっとも、4種類のシート11〜14から基準画像P11〜P14を読み取る処理は、必ずしも図示のシステム内の画像読取手段20を用いる必要はなく、別個に用意した何らかの画像読取手段を用いてもかまわない。また、必ずしも光学的な画像読取手段を利用して基準画像を用意する必要はなく、たとえば、シート製造時に用いた版下データ等を記録しておき、このデータを読み取ることにより基準画像を用意してもかまわない。本願にいう画像読取手段とは、このようにデジタルデータとして基準画像を入力する装置も含めた手段を意味するものである。
【0130】
画像判別手段30は、用意されたN種類のシートの中の判別対象となる判別対象シートについて、画像読取手段20が読み取った判別対象画像を、基準画像格納手段40に格納されている各基準画像と比較し、最も類似する画像を最類似画像と判別し、判別結果を出力する機能をもった構成要素である。用意されたN種類のシートには、溝部の幅もしくは間隙部の幅またはその双方がそれぞれ異なるように溝が形成されているので、基準画像格納手段40内に格納されているN種類の基準画像は相互に異なる画像となる。画像判別手段30は、判別対象画像が、このN種類の基準画像のうちのどれに近似しているかを判別する手段ということになる。
【0131】
実際には、画像判別手段30と基準画像格納手段40は、コンピュータを利用して構成することができる。すなわち、基準画像格納手段40は、このコンピュータの記憶装置によって構成することができ、画像判別手段30は、このコンピュータのハードウエアおよび専用のソフトウエアによって構成することができる。なお、1枚の判別対象画像が、N種類の基準画像のうちのどれに最も類似しているかを判別する具体的な方法は、たとえば、指紋照合装置などで既に用いられている公知の技術であり、用途に応じて様々なアルゴリズムによる方法が実用化されているので、ここでは詳しい説明は省略する。
【0132】
ここでは、この図19に示す情報判別システムを、パーティーのお土産判別システムとして利用した例を紹介しておく。このパーティーには、100名の客を招待するものとし、この100名の客をA,B,C,Dの4つのグループに分け、個々のグループごとに、出口で引き渡すお土産の内容を区別したいものとする。この場合、まず、当該パーティーの招待チケットとして、4種類のチケットを用意する。そして、Aグループの客に発送するチケットにはシート11を貼り付けておき、B,C,Dグループの客に発送するチケットには、それぞれシート12,13,14を貼り付けておくようにする。ここで、観察者から見たときに、シート11〜14がいずれも同一の模様に見えるように構成しておけば、一見したところ、この4種類のチケットは同じチケットに見え、デザイン的に統一のとれたものになる。
【0133】
一方、この4種類のシート11〜14の画像を、予め画像読取手段20を用いて読み取っておき、それぞれ基準画像P11〜P14として、基準画像格納手段40内に格納しておく。これで、このシステムの準備は完了である。
【0134】
パーティーの当日は、それぞれの客に、発送したチケットを持参してもらうようにする。実際には、4種類のチケットが存在するが、一見したところ、他人のチケットも自分のチケットも同じように見える。客には、パーティー会場の出口で、チケットと引き換えにお土産を手渡すようにする。このとき、画像読取手段20,画像判別手段30,基準画像格納手段40によって構成される装置(実際には、光学的読取装置にコンピュータを接続したもの)を出口に設置しておけば、客から手渡されたチケットのシートの部分を読み取ることにより、当該客が所属するグループを判別することができる。
【0135】
たとえば、「画像読取手段20によって読み取られた判別対象画像に最も類似する画像が、基準画像格納手段40内に格納されている基準画像P12である」との判別が、画像判別手段30によってなされた場合には、対象となるチケットには、シート12が貼り付けられていると判断できるため、当該客は、グループBに所属する客である、と認識することができる。そこで、この客には、グループB用のお土産を手渡せばよいことになる。
【0136】
なお、画像判別手段30から出力される判別結果は、必ずしも人間に対して提示される必要はなく、別な機械や装置に対する制御信号として利用することも可能である。たとえば、判別対象がシート11であると判別された場合にのみ、ドアのロックを解除する制御信号を発生させるような仕組みにしておけば、グループAに所属する客だけに、ドアロックの解除権限を与えることが可能になる。あるいは、グループAに所属する客だけに、特定の電子機器へのアクセス権限を与える、というような利用形態も可能である。
【0137】
以上、§2,§3で述べた「溝の幅に情報量をもたせたシート群」を用いて情報判別システムを構成した例を述べたが、もちろん、§4で述べた「溝の向きに情報量をもたせたシート群」(たとえば、図11や図13に示すシート群)を用いてシステムを構成することも可能であるし、§5で述べた「溝の配置パターンに情報量をもたせたシート群」(たとえば、図14に示すシート群)を用いてシステムを構成することも可能である。
【0138】
図19に示す情報判別システムでは、N種類のシートの画像を予め読み取り、これを基準画像として格納しておくようにし、判別対象画像について、N通りの基準画像の中のいずれの画像が最も類似するかを選択するようにしているため、シートに形成されている溝模様がどのように複雑な模様であっても、何ら支障なく判別処理を実行することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】一般的な溝模様を有するエンボスシートの斜視図である。
【図2】図1に示すエンボスシートを溝に平行な断面で切った断面図(a) および溝に垂直な断面で切った断面図(b) である。
【図3】本発明の基本的な実施形態に係る2枚のシートを示す平面図である。
【図4】図3に示す実施形態について、便宜上、溝幅の相違を強調して描いた平面図である。
【図5】本発明に係る同心円状パターンからなる溝模様を有する2枚のシートを示す平面図である。
【図6】本発明に係る正方形の入れ子状パターンからなる溝模様を有する2枚のシートを示す平面図である。
【図7】図5に示すシートに生じる固有の反射模様を示す平面図である。
【図8】図6に示すシートに生じる固有の反射模様を示す平面図である。
【図9】本発明に係る3つの領域をもった8枚のシートを示す平面図である。
【図10】複数の領域にそれぞれ曲線状の溝を形成したシートを示す平面図である。
【図11】溝の向きに情報量をもたせた2枚のシートを示す平面図である。
【図12】溝の向きを角度θで定義する方法を示す平面図である。
【図13】溝の向きに情報量をもたせる別な方法を示す平面図である(各領域内には、実際の溝を描く代わりに、溝の方向を示す角度値を記載してある)。
【図14】溝の配置パターンに情報量をもたせた2枚のシートを示す平面図である。
【図15】ランダムな溝の配置パターンを得るための第1のプロセスを示す平面図である。
【図16】ランダムな溝の配置パターンを得るための第2のプロセスを示す平面図である。
【図17】ランダムな溝の配置パターンを得るための第3のプロセスを示す平面図である。
【図18】ランダムな溝の配置パターンを得るための第4のプロセスを示す平面図である。
【図19】本発明に係る情報判別システムの基本構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0140】
11〜14:溝模様を有するシート
20:画像読取手段
30:画像判別手段
40:基準画像格納手段
A1〜A3:各領域
Cj:第j番目の溝の輪郭線
D1:エンボスシートEの厚み
D2:溝Gの深さ
E:エンボスシート
F:矩形領域
G:溝部
Hj:第j番目のヘアライン
L:溝の向きを示す直線
L1(j)〜L6(j):隣接する構成点間の距離
P11〜P14:基準画像
P(x+dx,y+dy),P1(1)〜P1(8):ヘアラインの起点
P1(j)〜P6(j):記録面上の構成点
S:間隙部
T(x,y):格子点
tx,ty:格子点のピッチ
V1(j)〜V5(j):方位ベクトル
W1,W1a,W1b:溝部Gの幅
W2,W2a,W2b:間隙部Sの幅
【技術分野】
【0001】
本発明は、溝模様を有するシートに固有の情報を埋め込む技術に関し、バーコードや二次元コードなどに比べて意匠性の高いコード埋め込み技術に関する。
【背景技術】
【0002】
何らかの識別コードを媒体に記録させる方法として、磁気カード、ICカード、RFIDなどを媒体として用いる方法が普及している。一方、より安価な方法として、バーコードや二次元コードなどを印刷する方法も広く利用されている。バーコードや二次元コードなどは、人間が目視観察した場合には、記録されているコード自身を正確に認識することは困難であるが、光学的な読取装置などの機械的手段を用いると、正確なデジタルデータを取り込むことができるため、切符やチケット用の識別コード、商品の識別コード、URLの表示コードなどの用途に盛んに利用されている。たとえば、下記の特許文献1には、旅客券や定期券上にバーコードを印刷しておくことにより、自動改札を行う技術が開示されている。また、特許文献2には、チケットに二次元コードを印刷しておき、この二次元コードを用いてチケットの有効性を評価する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平5−143794号公報
【特許文献2】特開2002−183769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
バーコードや二次元コードは、チケットや商品パッケージなどに直接印刷を行うことにより記録することができるため、磁気カード、ICカード、RFIDといった専用の記録媒体を用いる方法に比べて、非常に低コストで識別コードの記録を行うことが可能になる。しかしながら、光学的な方法で読み取ることを前提としているため、人間が目視観察した場合、記録されている識別コード自身は正確には認識できないにせよ、何らかの識別コードが記録されていることは把握できる。しかも、このバーコードや二次元コードは、人間が観察した場合、黒と白の領域がランダムに混在したパターンとして認識されるため、意匠上、人工的な異質物としての印象を与え、自然なデザインにはマッチせずに違和感を与えるものとなる。特に、全体的に意匠デザインが施された商品パッケージ、カード、切符、入場券などの一部に、バーコードや二次元コードの表示領域が設けられていると、全体の美観を損なう要因となり、決して好ましいものではない。
【0004】
また、バーコードや二次元コードは、一般の複写機で容易に複製することができるため、切符や入場券などに用いた場合、偽造されやすいという問題もある。もちろん、偽造防止の観点からは、磁気カード、ICカード、RFIDといった専用の記録媒体を用いるのが好ましく、特にICカードは極めて高度なセキュリティを備えている。しかしながら、これらの専用媒体は、比較的コストが高いため、切符や入場券など、使い捨ての用途には不向きである。
【0005】
そこで本発明は、全体の美観を損なうことなしに所望のコード(情報)を記録することができ、しかも偽造防止に効果があるシートを提供することを目的とし、また、そのようなシートを利用した情報判別システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本発明の第1の態様は、多数の溝によって表面に模様が形成されたシート群において、可視光が回折現象を生じないように、溝部の幅および間隙部の幅が設定されており、かつ、溝部の幅もしくは間隙部の幅またはその双方を、肉眼では認識不能な微小な変動量だけ変動させて情報量をもたせることにより、各シートごとにそれぞれ異なる所定のコードが埋め込まれるようにしたものである。
【0007】
(2) 本発明の第2の態様は、多数の溝によって表面に模様が形成されたシート群において、溝部および間隙部がそれぞれ肉眼観察可能となるように、溝部の幅および間隙部の幅が設定されており、かつ、溝部の幅もしくは間隙部の幅またはその双方を、肉眼では認識不能な微小な変動量だけ変動させて情報量をもたせることにより、各シートごとにそれぞれ異なる所定のコードが埋め込まれるようにしたものである。
【0008】
(3) 本発明の第3の態様は、上述の第2の態様に係るシート群において、
溝部の幅および間隙部の幅を0.9mm以上に設定し、情報量をもたせるための変動量の最大範囲を40μm以下としたものである。
【0009】
(4) 本発明の第4の態様は、上述の第1〜第3の態様に係るシート群において、
少なくとも溝部内面を鏡面反射する材質によって構成し、観察方向に応じて異なる反射模様が提示されるようにしたものである。
【0010】
(5) 本発明の第5の態様は、上述の第4の態様に係るシート群において、
いずれのシートにも同一の溝模様が形成されており、この溝模様は、部分ごとにそれぞれ溝の形成方向が異なっているようにしたものである。
【0011】
(6) 本発明の第6の態様は、上述の第4の態様に係るシート群において、
形状が同一でサイズが異なる複数の閉領域輪郭線を入れ子状に重ねてなる同一の入れ子状溝模様を各シートに形成したものである。
【0012】
(7) 本発明の第7の態様は、上述の第4の態様に係るシート群において、
各シートは複数の領域に分割されており、この分割の態様はすべてのシートについて共通であり、
1つのシートに関して、1つの領域内には共通の方向に溝が形成されており、隣接する領域については互いに異なる方向に溝が形成されており、同じ観察方向から観察しても、各領域ごとに異なる反射模様が観察されるようにしたものである。
【0013】
(8) 本発明の第8の態様は、上述の第7の態様に係るシート群において、
すべてのシートについて、それぞれ対応する領域内に形成されている溝の方向が共通するようにしたものである。
【0014】
(9) 本発明の第9の態様は、上述の第7または第8の態様に係るシート群において、
個々の領域ごとにそれぞれ異なる情報を埋め込むようにしたものである。
【0015】
(10) 本発明の第10の態様は、多数の溝によって表面に模様が形成されたシート群において、
各シートは、少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって構成され、かつ、複数の領域に分割されており、この分割の態様はすべてのシートについて共通であり、
1つのシートに関して、1つの領域内には共通の方向に溝が形成されており、隣接する領域については互いに異なる方向に溝が形成されており、同じ観察方向から観察しても、各領域ごとに異なる反射模様が観察され、
複数のシート間で、それぞれ対応する領域内に形成されている溝の方向を比較した場合、少なくとも1つの領域に関する溝の方向が異なるようにしたものである。
【0016】
(11) 本発明の第11の態様は、上述の第10の態様に係るシート群において、
各シート上の個々の領域が、当該シート上に定義された所定の環状路に沿って配置されるようにし、溝の方向をこの環状路に沿ってローテーションシフトすることにより、複数のシート間でそれぞれ対応する領域についての溝の方向が異なるようにしたものである。
【0017】
(12) 本発明の第12の態様は、上述の第10の態様に係るシート群において、
基本となるシート上の個々の領域について、それぞれ溝の方向を示す方位角θを定義し、他のシートについてはそれぞれ個々のシートに固有の偏差角δを定義し、基本となるシート上の個々の領域の方位角θに対して、他のシート上の対応する個々の領域の方位角がθ+δとなるように設定することにより、複数のシート間でそれぞれ対応する領域についての溝の方向が異なるようにしたものである。
【0018】
(13) 本発明の第13の態様は、多数の溝をランダムに配置することにより表面に模様が形成されたシート群において、溝の配置パターンに情報量をもたせることにより、各シートごとにそれぞれ異なる所定のコードを埋め込むようにしたものである。
【0019】
(14) 本発明の第14の態様は、上述の第13の態様に係るシート群において、
少なくとも溝部内面を鏡面反射する材質によって構成し、観察方向に応じて異なる反射模様が提示されるようにしたものである。
【0020】
(15) 本発明の第15の態様は、情報判別システムにおいて、
多数の溝によって表面に模様が形成された複数N種類のシートと、
このN種類のシート表面の模様を、二次元画像として読み取る画像読取手段と、
画像読取手段で読み取った各シートについてのN種類の二次元画像を、それぞれ基準画像として格納する基準画像格納手段と、
N種類のシートの中の判別対象となる判別対象シートについて画像読取手段が読み取った判別対象画像を、基準画像格納手段に格納されている各基準画像と比較し、最も類似する画像を最類似画像と判別する画像判別手段と、
を設け、
基準画像格納手段内に格納されているN種類の基準画像が相互に異なる画像となるように、N種類のシートには、溝部の幅もしくは間隙部の幅またはその双方がそれぞれ異なるように溝を形成するようにしたものである。
【0021】
(16) 本発明の第16の態様は、上述の第15の態様に係る情報判別システムにおいて、
可視光が回折現象を生じないように、溝部の幅および間隙部の幅が設定されており、かつ、溝部の幅もしくは間隙部の幅またはその双方を、肉眼では認識不能な微小な変動量だけ変動させることにより、N種類の基準画像が相互に異なる画像となるようにしたものである。
【0022】
(17) 本発明の第17の態様は、上述の第15の態様に係る情報判別システムにおいて、
各シートの溝部および間隙部がそれぞれ肉眼観察可能となるように、溝部の幅および間隙部の幅を設定し、かつ、溝部の幅もしくは間隙部の幅またはその双方を、肉眼では認識不能な微小な変動量だけ変動させることにより、N種類の基準画像が相互に異なる画像となるようにしたものである。
【0023】
(18) 本発明の第18の態様は、上述の第17の態様に係る情報判別システムにおいて、
各シートの溝部の幅および間隙部の幅を0.9mm以上に設定し、その変動量の最大範囲を40μm以下としたものである。
【0024】
(19) 本発明の第19の態様は、上述の第15〜第18の態様に係る情報判別システムにおいて、
少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって各シートを構成し、観察方向に応じて異なる反射模様が提示されるようにしたものである。
【0025】
(20) 本発明の第20の態様は、上述の第19の態様に係る情報判別システムにおいて、
いずれのシートにも同一の溝模様を形成し、この溝模様は、部分ごとにそれぞれ溝の形成方向が異なっている模様となるようにしたものである。
【0026】
(21) 本発明の第21の態様は、上述の第19の態様に係る情報判別システムにおいて、
形状が同一でサイズが異なる複数の閉領域輪郭線を入れ子状に重ねてなる同一の入れ子状溝模様を各シートに形成したものである。
【0027】
(22) 本発明の第22の態様は、上述の第19の態様に係る情報判別システムにおいて、
各シートは複数の領域に分割されており、この分割の態様はすべてのシートについて共通であり、
1つのシートに関して、1つの領域内には共通の方向に溝が形成されており、隣接する領域については互いに異なる方向に溝が形成されており、同じ観察方向から観察しても、各領域ごとに異なる反射模様が観察されるようにしたものである。
【0028】
(23) 本発明の第23の態様は、上述の第22の態様に係る情報判別システムにおいて、
すべてのシートについて、それぞれ対応する領域内に形成されている溝の方向が共通するようにしたものである。
【0029】
(24) 本発明の第24の態様は、上述の第22または第23の態様に係る情報判別システムにおいて、
個々の領域ごとにそれぞれ異なる情報が埋め込まれているようにしたものである。
【0030】
(25) 本発明の第25の態様は、情報判別システムにおいて、
多数の溝によって表面に模様が形成された複数N種類のシートと、
このN種類のシート表面の模様を、二次元画像として読み取る画像読取手段と、
画像読取手段で読み取った各シートについてのN種類の二次元画像を、それぞれ基準画像として格納する基準画像格納手段と、
N種類のシートの中の判別対象となる判別対象シートについて画像読取手段が読み取った判別対象画像を、基準画像格納手段に格納されている各基準画像と比較し、最も類似する画像を最類似画像と判別する画像判別手段と、
を設け、
各シートは、少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって構成され、かつ、複数の領域に分割されており、この分割の態様はすべてのシートについて共通であり、
1つのシートに関して、1つの領域内には共通の方向に溝が形成されており、隣接する領域については互いに異なる方向に溝が形成されており、同じ観察方向から観察しても、各領域ごとに異なる反射模様が観察され、
複数のシート間で、それぞれ対応する領域内に形成されている溝の方向を比較した場合、少なくとも1つの領域に関する溝の方向が異なるようにしたものである。
【0031】
(26) 本発明の第26の態様は、上述の第25の態様に係る情報判別システムにおいて、
各シート上の個々の領域が、当該シート上に定義された所定の環状路に沿って配置されるようにし、溝の方向をこの環状路に沿ってローテーションシフトすることにより、複数のシート間でそれぞれ対応する領域についての溝の方向が異なるようにしたものである。
【0032】
(27) 本発明の第27の態様は、上述の第25の態様に係る情報判別システムにおいて、
基本となるシート上の個々の領域について、それぞれ溝の方向を示す方位角θを定義し、他のシートについてはそれぞれ個々のシートに固有の偏差角δを定義し、基本となるシート上の個々の領域の方位角θに対して、他のシート上の対応する個々の領域の方位角がθ+δとなるように設定することにより、複数のシート間でそれぞれ対応する領域についての溝の方向が異なるようにしたものである。
【0033】
(28) 本発明の第28の態様は、情報判別システムにおいて、
多数の溝を配置することにより表面に模様が形成された複数N種類のシートと、
このN種類のシート表面の模様を、二次元画像として読み取る画像読取手段と、
画像読取手段で読み取った各シートについてのN種類の二次元画像を、それぞれ基準画像として格納する基準画像格納手段と、
N種類のシートの中の判別対象となる判別対象シートについて画像読取手段が読み取った判別対象画像を、基準画像格納手段に格納されている各基準画像と比較し、最も類似する画像を最類似画像と判別する画像判別手段と、
を設け、
基準画像格納手段内に格納されているN種類の基準画像が相互に異なる画像となるように、N種類のシートには、それぞれランダムに多数の溝を配置するようにしたものである。
【0034】
(29) 本発明の第29の態様は、上述の第28の態様に係る情報判別システムにおいて、
少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって構成されており、観察方向に応じて異なる反射模様が提示されるシートを用いるようにしたものである。
【0035】
(30) 本発明の第30の態様は、上述の第13,第14の態様に係るシート群または第28,第29の態様に係る情報判別システムに用いるシートを製造する製造方法において、
記録面上に規則的に配置された複数の格子点を定義する格子点定義段階と、
各格子点の位置を乱数に基づいてランダムに移動させ、移動後の各点の位置にそれぞれ起点となるべき第1番目の構成点P1を定義する起点定義段階と、
第i番目の構成点Piについて、所定の成長方向に対してランダムにずれた方位ベクトルViを求め、この方位ベクトルViの方向に、この構成点Piからランダムに定めた距離Liだけ隔たった位置に、第(i+1)番目の構成点P(i+1)を定義する処理を、i=1〜Iまで合計I回繰り返し行い、第1番目の構成点P1から第(I+1)番目の構成点P(I+1)に至るまでの合計(I+1)個の構成点を順に連結する曲線に基づいて1本のヘアラインを定義する処理を、すべての起点について実行するヘアライン定義段階と、
シートの原材料となる素材上に、定義された各ヘアラインに沿った溝を形成する溝形成段階と、
を行うようにしたものである。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、多数の溝によって表面に模様が形成されたシートに、所定のコードを埋め込んで記録するようにしたため、全体の美観を損なうことなしに所望のコード(情報)を記録することができるようになり、しかも偽造防止効果も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。
【0038】
<<< §1.溝模様を有するエンボスシートの異方性反射特性 >>>
本発明において、所定のコードを記録する対象となる媒体は、多数の溝によって表面に模様が形成されたシートであり、溝模様を有するエンボスシートと呼ぶべきシートである。なお、本願において「シート」という文言は、材質を問わず平板状の媒体を広く意味するものであり、形態としては、カード状、シール状、ロール状のものなどを広く含むものである。もちろん、商品パッケージの一部もしくは商品自身の表面の一部を利用して本発明を実施することも可能であり、この場合、当該商品パッケージの一部もしくは商品自身の表面の一部が、本発明にいう「シート」に該当することになる。
【0039】
溝模様を有するエンボスシートを、少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって構成しておけば(たとえば、ポリ塩化ビニルやポリエチレンテレフタレートなどの材料でエンボスシートを構成しておけばよい)、その特有の凹凸構造に基づく異方性反射の特性が生じることが知られている。以下、このような特性が生じる理由を簡単に説明しておく。いま、図1の斜視図に示すように、厚みD1をもったエンボスシートEの表面に、細長い溝が多数形成されている場合を考える。ここでは、深さD2をもった溝の部分を溝部Gと呼び、隣接する一対の溝部Gの境界を構成する土手の部分を間隙部Sと呼ぶことにする。図示の例の場合、溝部Gは幅W1,間隙部Sは幅W2をもち、互いに平行になるように、溝部Gと間隙部Sとが交互に配置されている。
【0040】
このようなエンボスシートEでは、その表面から得られる反射光の強度が観察方向により異なる。このエンボスシートEを、溝Gに平行な面で切断した断面を図2(a) に示し、溝Gに垂直な面で切断した断面を図2(b) に示す。図2(a) に示すように、溝Gに対して平行な方向から入射した光は、溝Gの底面で反射して、そのまま溝Gに沿った方向へ鏡面反射して射出する。これに対して、図2(b) に示すように、溝Gに対して垂直な方向から入射した光は、溝Gの壁面および底面で何回も反射して、最終的にバラバラな方向へ拡散反射光として射出する。このため、溝Gに平行な方向から観察すると、強い鏡面反射光が得られるが、溝Gに垂直な方向から観察すると、鏡面反射光は弱くなる。
【0041】
このように、多数の溝Gが形成されたエンボスシートEは異方性反射を生じる性質があるため、その観察方向によって見え方が異なることになる。逆に言えば、同じ方向から観察した場合、形成されている溝Gの向きによって見え方が異なることになる。このため、1枚のエンボスシートE上の個々の部分ごとに溝Gの向きを変えるようにすると、強い反射光の得られる部分(観察者から見てキラキラ光っていると認識される部分)は、観察時の照明の位置や視点の位置に応じて様々に変化することになる。このような溝模様をもった構造は、一般に、「光線彫り」と呼ばれており(あるいは、「エンジンタン」と呼ばれることもある)、商品パッケージや種々のカードなどの装飾として利用されている。
【0042】
この「光線彫り」と呼ばれる溝模様を構成する個々の溝は、可視光が回折現象を起こす機能を有しているわけではない。別言すれば、可視光について回折格子としての機能を果たすわけではない。したがって、溝部Gの幅W1や間隙部Sの幅W2は、光の波長に比べれば十分に大きな値に設定してある。特に、後述する実施形態の例では、人間が肉眼で観察した場合、溝部Gおよび間隙部Sを認識することが可能である。すなわち、本発明は、このように、溝部Gおよび間隙部Sを肉眼で認識することが可能な「光線彫り」と呼ばれる溝模様、もしくは、肉眼観察はできなくても、可視光が回折現象を生じないように、溝部Gの幅や間隙部Sの幅が設定されている溝模様(本願では、このような溝模様も「光線彫り」と呼ぶ)を有するエンボスシートを用いることを前提としており、いわゆるホログラム記録媒体を用いる技術とは明確に区別される。本願発明者が行った実験によると、溝部Gの幅W1と間隙部Sの幅W2との和(W1+W2)が4μm以上になるように設定すると、可視光の回折現象が生じないことが確認できた。したがって、本発明は、W1+W2の寸法が少なくとも4μm以上ある場合を前提とした発明と言うことができ、本発明にいう「光線彫り」とは、そのような寸法条件を満たす構造を意味する。
【0043】
商品パッケージやカードなどの装飾として「光線彫り」模様が利用されているのは、意匠上の効果が優れているからである。上述したように、この「光線彫り」模様が付された部分は、キラキラと光って見え、しかも照明の位置や視点の位置に応じて、光り具合や光る部分が様々に変化することになる。このため、通常の印刷面とは異なる特殊な視覚的効果を奏する領域として認識される。したがって、商品パッケージやカードなどに用いた場合、バーコードや二次元コードが意匠性を低下させるのに対して、「光線彫り」模様は、逆に意匠性を向上させる機能を果たすことができる。
【0044】
本発明は、「光線彫り」模様のこのような特性に着目し、「光線彫り」模様の中に、所定のコードを埋め込むという手法を採ることにより、全体の美観を損なうことなしに所望のコード(情報)を記録するという目的を達成するものである。また、この手法を採ることにより、偽造防止効果も得られるようになる。すなわち、「光線彫り」模様は、凹凸構造をもったエンボスシート上に形成される立体的な模様であるため、通常の複写機などで複製することはできない。実際に偽造するためには、エンボス加工等を行う装置が必要になるため、偽造防止には十分な効果が得られる。偽造防止効果を更に高めるためには、溝を構成する凹凸面の上から、透明なコーティング材料を塗布すると効果的である。そうすれば、型取りによる複製が困難になる。
【0045】
なお、この「光線彫り」模様を有するシートは、必ずしも凹凸構造を有する型を用いたエンボス加工やモールディングの手法によって作成する必要はなく、たとえば、特開2002ー67468号公報に開示されている印刷の手法を用いて形成することも可能である。もちろん、エッチングやNC工作機械を用いる方法や、種々のラピッドプロトタイピング装置などを用いる方法によって、「光線彫り」模様を有するシートを作成してもかまわない。
【0046】
「光線彫り」模様の中に、所定のコードを埋め込むための具体的な方法として、本願では、3通りの方法を提案している。第1の方法は、§2,§3で述べるように、溝部Gの幅W1もしくは間隙部Sの幅W2に情報量をもたせる方法であり、第2の方法は、§4で述べるように、溝部Gの向きに情報量をもたせる方法であり、第3の方法は、§5で述べるように、ランダム配置された溝部Gの配置パターンに情報量をもたせる方法である。以下、これらの各方法を順に説明する。
【0047】
<<< §2.幅に情報量をもたせる基本的な方法 >>>
ここでは、溝部Gの幅W1もしくは間隙部Sの幅W2に情報量をもたせることにより、各シートごとにそれぞれ異なる所定のコードを埋め込む方法を説明する。まず、図3(a) ,(b) の平面図に示すような単純なストライプ模様をもったエンボスシートを考える。両シートは同一形状、同一サイズのシートであり、いずれも実際には三次元の凹凸構造をもったシートであるが、ここでは説明の便宜上、溝部Gを黒色部分として示し、間隙部Sを白色部分として示すことにする。図3(a) に示すシートの場合、溝部Gの幅はW1a、間隙部Sの幅はW2aであり、図3(b) に示すシートの場合、溝部Gの幅はW1b、間隙部Sの幅はW2bである。このエンボスシートEのうち、少なくとも溝部Gの内面は、鏡面反射する材質によって構成されており、§1で述べたように、観察方向に応じて異なる反射模様が提示される。
【0048】
ここに示す実施形態の場合、図示のとおり、W1aとW1bとの差や、W2aとW2bとの差は、肉眼で観察した場合、認識できないように設定されているため、人間が肉眼観察する限りにおいて、図3(a) に示すシートと図3(b) に示すシートとは、全く同じシートとして把握される。実際、両者を手にとってみても、人間の眼によって区別を行うことはできない。しかしながら、厳密には、W1aとW1bには差があり、W2aとW2bにも差があるので、ある程度の精度をもった光学系を用いて、両者の模様を二次元画像として読み込み、これを比較すれば、両者の相違を機械的に検知することができる。
【0049】
そこで、たとえば、溝部Gの幅=W1a、間隙部Sの幅=W2aである場合(図3(a) の場合)にはコード「0」を表現しており、溝部Gの幅=W1b、間隙部Sの幅=W2bである場合(図3(b) の場合)にはコード「1」を表現している、と定めておけば、この2枚のシートを用いることにより、1ビットのコード「0」または「1」の表現が可能になる。
【0050】
結局、図3に示されている2枚のシートは、いずれも多数の溝によって表面に模様が形成されたシート(いわゆる「光線彫り」模様を有するエンボスシート)であるが、溝部Gの幅および間隙部Sの幅に情報量をもたせることにより、各シートごとにそれぞれ異なる所定のコードが埋め込まれていることになる。
【0051】
しかも、図示の実施形態では、溝部の幅W1a,W1bおよび間隙部の幅W2a,W2bは、溝部Gおよび間隙部Sがそれぞれ肉眼観察可能となるような寸法に設定されており、かつ、溝部の幅の変動量および間隙部の幅の変動量は、肉眼では認識不能な微小な変動量に設定されている。別言すれば、溝部の幅および間隙部の幅を、肉眼では認識不能な微小な変動量だけ変動させることにより情報量をもたせていることになる。
【0052】
本願発明者が、このシートを、一般的な観察位置(視点から30cmほど離した位置)に置いて観察する場合について実際に検証したところ、より具体的な寸法値として、溝部の幅W1a,W1bおよび間隙部の幅W2a,W2bについては、いずれも0.9mm以上に設定すれば、溝部Gおよび間隙部Sがそれぞれ肉眼観察可能となり、情報量をもたせるための変動量については、その最大範囲を40μm以下とすれば、肉眼では認識不能な変動量の設定が可能になることが確認できた。したがって、実用上は、上記寸法条件を満たすように各シートを設計すれば、本発明の作用効果を十分に奏することが可能である。
【0053】
図3に示す例の場合、たとえば、図3(a) に示すシート(コード「0」が埋め込まれたシート)については、溝部Gの幅W1a=1mm、間隙部Sの幅W2a=1mmとし、図3(b) に示すシート(コード「1」が埋め込まれたシート)については、溝部Gの幅W1b=0.98mm、間隙部Sの幅W2b=1.02mmとすれば、いずれも0.9mm以上という上記条件を満たしている。また、溝部Gの幅の変動量は、W1a−W1b=0.02mm(20μm)となり、間隙部Sの幅の変動量は、W2a−W2b=−0.02mm(20μm)となるので、いずれも変動量の最大範囲40μm以下という上記条件を満たしている。実際、このような寸法設定にすると、両シートを肉眼観察しても、相互に区別することはできない。
【0054】
この変動量の最大範囲としての40μmなる数値は、裸眼の分解能を示す数値からも導くことができる。すなわち、一般的に「目が良い」と言われている視力2.0をもった人間の裸眼の分解能は、30cm先の原稿に対して、約600dpiという値になることが知られている。切符やチケットを目視する場合、通常、30cm(一般的に明視距離とされている)程度の距離から観察することになるので、この約600dpiという分解能の限界を基準にすれば、インチの単位をmmの単位に直して、24.5mm/600=40μmとして変動量の最大範囲(肉眼認識不能な範囲)を算出することができる。すなわち、変動量の最大範囲を40μmとしておけば、かなり目が良い観察者であっても、変動量を視認することはできないことになる。
【0055】
一方、肉眼観察が可能となる溝部Gおよび間隙部Sの幅としては、0.9mm以上という条件を設定しているが、これは、次のような根拠に基づいて算出された値である。まず、視力に関する健常者は、「両眼の視力の和が0.2を超える者」とされており、一般に、両眼の視力の和が0.2以下になると、視覚障害者とされる(両眼の視力の和が0.2を超えていても、一方の視力が著しく低い場合には、視覚障害者になるが、ここでは、両眼の視力がほぼ同じ場合を考えることにする)。別言すれば、両眼の視力がほぼ同じ場合を想定すると、一方の眼の視力が0.1以上あれば、健常者ということになる。もちろん、視力は個人ごとに様々であるが、ここでは、「健常者である限り肉眼観察が可能な幅」を求めることにすると、結局、「視力が0.1以上あれば観察可能な幅」を求めればよい。視力は、「2点が離れていることを見分けられる最小の視角を分の単位で表わした数値の逆数」として定義されるパラメータであるので、視力0.1の者は、10分(1/6°)に相当する距離だけ離れた2点を分別することができることになる。ここで、「明視の距離=30cm」だけ離れた位置から物体を観察する場合を標準的な場合と考えれば、30cm離れた位置に置かれた平面上で視野角(1/6°)に相当する距離として、300mm・tan(1/6°÷2)・2=0.872mm、小数第2位以下を四捨五入すると、0.9mmなる数値が算出される。すなわち、溝部Gおよび間隙部Sの幅が、0.9mm以上あれば、視力0.1の者であっても肉眼観察が可能になるので、視力に関する健常者であれば、誰もが肉眼観察可能ということになる。
【0056】
なお、上述した数値例では、溝部Gの幅の変動量と間隙部Sの幅の変動量とを、絶対値が等しく符号が逆になるように設定したため、結果的に、溝の形成ピッチ(溝部Gの幅と間隙部Sの幅との和:2mm)が両者で等しくなっているが、溝部Gの幅の変動量と間隙部Sの幅の変動量とは、必ずしも絶対値を同じに設定する必要はなく、また、一方のみを変動させることにより、情報量をもたせるようにしてもかまわない。
【0057】
たとえば、図3(a) に示すシート(コード「0」が埋め込まれたシート)については、溝部Gの幅W1a=1mm、間隙部Sの幅W2a=1mmとし、図3(b) に示すシート(コード「1」が埋め込まれたシート)については、溝部Gの幅W1b=0.98mm、間隙部Sの幅W2b=1mmとすれば、溝部Gの幅についてのみ情報量が付加されていることになり、間隙部Sの幅は変わりないことになる。この場合、図3(a) に示すシートについての溝の形成ピッチは2mmであるが、図3(b) に示すシートについての溝の形成ピッチは1.98mmということになる。結局、溝部Gの幅の変動量と間隙部Sの幅の変動量とを、絶対値が等しく符号が逆になるように設定した場合は、溝の形成ピッチは変動しないことになるが、それ以外の場合は、当該ピッチに変動が生じることになるので、溝の形成ピッチに情報量を付加することと等価になる。
【0058】
図3(a) および(b) に示す溝模様を有する2種類のシートは、上述したように、それぞれコード「0」と「1」を示す記録媒体として利用することができる。前掲の具体的な寸法値で各部を設計した場合、肉眼観察では、いずれも同じストライプ模様をもった媒体として把握されるが、両者の溝模様を、幅の変動量を検知可能な分解能をもつ装置を用いて光学的に二次元画像として取り込み、これを精査すれば、両者を機械的に判別することが可能であるので、コード「0」もしくは「1」を認識することができる。
【0059】
このように、コード「0」/「1」の判別では、単に1ビットの情報表現しか行うことができないが、実社会において、このような1ビットの情報判別が必要になるケースは少なくない。たとえば、列車の切符において、普通車用切符とグリーン車用切符とを判別したい場合、劇場のチケットにおいて、特別席用チケットと普通席用チケットとを判別したい場合、遊園地の入場券において、一日券と半日券とを判別したい場合など多岐にわたる。このような場合、切符、チケット、入場券の一部に、図3(a) もしくは(b) に示す溝模様を有するシートを形成しておくようにすれば、機械的な方法でこれを判別することができる。
【0060】
この溝模様を有するシートは、前述したとおり「光線彫り」模様を有するエンボスシートとして知られており、意匠性を高める効果を有している。したがって、切符、チケット、入場券の一部をこのシートで構成した場合、全体的に意匠性を向上させる効果が得られることになる。これは、バーコードや二次元コードでは得られない特別な効果である。
【0061】
また、図3に示す実施形態の場合、溝部および間隙部がそれぞれ肉眼観察可能となるように、溝部の幅および間隙部の幅が設定されており(具体的には、0.9mm以上)、かつ、溝部の幅もしくは間隙部の幅を、肉眼では認識不能な微小な変動量(具体的には、最大範囲40μm以下)だけ変動させることにより情報量をもたせているが、このような設定を行うと、肉眼観察によっては、埋め込まれたコードを認識することができないという副次的な効果が得られる。これは、異なるコードが埋め込まれていたとしても、観察者に対しては統一したデザインとして提示される、という意匠上の効果でもある。
【0062】
たとえば、遊園地の入場券において、一日券の一部分に図3(a) に示すシートを貼り付け、半日券の一部分に図3(b) に示すシートを貼り付けたものとしよう。この場合、これらの入場券を人間が肉眼観察する限りにおいては、当該シートは全く同じ模様に見えるので、統一したデザインの入場券を実現することができる。しかし、当該シートの部分を光学的に読み取れば、一日券と半日券との相違を判別することが可能になる。このように、本発明では、人間が肉眼観察する限りにおいては、埋め込まれているコードを認識することができないが、光学的な読取機能を備えた装置を用いれば、コードを認識することができる、という固有の効果を得ることが可能になる。
【0063】
以上、1ビットの情報を埋め込むことにより、2通りのシートの機械的な判別を可能にする例を述べたが、もちろん、本発明では、より多くの情報をシートに埋め込むことも可能である。たとえば、第1のシートでは、溝部Gの幅=1mm、間隙部Sの幅=1mmとし、第2のシートでは、溝部Gの幅=0.99mm、間隙部Sの幅=1.01mmとし、第3のシートでは、溝部Gの幅=1.01mm、間隙部Sの幅=0.99mmとすれば、3通りのシートの機械的な判別が可能になる。更に、第4のシートでは、溝部Gの幅=0.98mm、間隙部Sの幅=1.02mmとし、第5のシートでは、溝部Gの幅=1.02mm、間隙部Sの幅=0.98mmとすれば、5通りのシートの機械的な判別が可能になる。この場合でも、情報量をもたせるための変動量の最大範囲は、1.02−0.98=0.04mm(すなわち、40μm)であるので、肉眼観察した場合、5種類のシートの模様は同じに見え、観察者に対しては統一したデザインとして提示される。
【0064】
また、1本1本の溝部Gもしくは間隙部Sのそれぞれに、固有の情報量を付加することも可能である。たとえば、幅1mmの溝部を太い溝、幅0.98mmの溝部を細い溝と定義し、1本の溝部Gの幅により1ビットの情報を表現するようにすれば、n本の溝部の集合によりnビットの情報を表現することが可能になる。あるいは、1本の間隙部の幅により1ビットの情報を表現することも可能であるし、溝の形成ピッチの長さにより1ビットの情報を表現することも可能である。更に、1本の溝部の幅、1本の間隙部の幅、溝の形成ピッチの長さにより多数ビットの情報を表現することも可能である。もっとも、埋め込む情報量が多くなればなるほど、読取装置の解像度を高くする必要があり、読取エラーの発生率も高まることになる。
【0065】
<<< §3.幅に情報量をもたせる具体的な溝模様 >>>
上述した§2では、幅に情報量をもたせる基本的な方法を、図3の実施形態に基づいて説明した。しかしながら、この図3に示す溝模様は、単なるストライプ模様であり、実用上は、それほど意匠性に優れたものではない。ここでは、より意匠性に優れた具体的な溝模様をいくつか例示する。
【0066】
なお、図3では、観察者が肉眼観察した状態に近い態様で、2通りのシートの平面図をそれぞれ図(a) ,(b) として示したため、図3(a) ,(b) は全く差のない図になっているが、図4以降では、説明の便宜上、溝部Gおよび間隙部Sの幅の相違を強調して示すことにする(実寸比を無視して示すことになる)。
【0067】
たとえば、図4(a) ,(b) に示されているシートは、それぞれ図3(a) ,(b) に示されているシートと全く同じであるが、溝部Gおよび間隙部Sの幅の相違が強調して示されている。具体的な寸法値で例示すれば、図4(a) に示す太い黒線は幅1mmの溝部を示し、太い白線は幅1mmの間隙部を示しており、図4(b) に示す細い黒線は幅0.98mmの溝部を示し、太い白線は幅1.02mmの間隙部を示している。すなわち、図4(a) に示す太い黒線と図4(b) に示す細い黒線との実寸上での差はわずか0.02mmであるが、図示の便宜上、幅の相違が明確になるように、実寸比を無視した描画がなされている。図5〜図9および図19に示す太い黒線と細い黒線についても同様であり、実際には、両者の幅の差は肉眼では認識できない。
【0068】
図5(a) ,(b) に示す例は、同心円状に複数の溝を配置することにより形成された同一の溝模様であり、図6(a) ,(b) に示す例は、正方形状の溝を入れ子状に複数配置することにより形成された同一の溝模様である。図5(a) ,図6(a) における太い黒線は幅1mmの溝部、太い白線は幅1mmの間隙部を示しており、図5(b) ,図6(b) における細い黒線は幅0.98mmの溝部、その間の太い白線は幅1.02mmの間隙部を示している。
【0069】
上述したとおり、太い黒線と細い黒線との寸法差は肉眼では認識できない程度の微差であるため、図5(a) ,(b) に示す2枚のシートを肉眼で比較観察したとしても、両者は同一の同心円状パターンとして把握されることになる。同様に、図6(a) ,(b) に示す2枚のシートを肉眼で比較観察したとしても、両者は同一の正方形の入れ子状パターンとして把握されることになる。しかしながら、光学的な読取機能を備えた装置を用いれば、両者を判別することが可能になる。
【0070】
図5および図6に示す溝模様が図3に示す溝模様に比べて優れている第1の利点は、その意匠性である。図3に示す溝模様が単なるストライプ模様であるのに対して、図5および図6は円や正方形を入れ子状に重ねて配置した複雑な模様となっており、意匠性に優れている。
【0071】
図5および図6に示す溝模様の第2の利点は、所定の照明環境下で観察したときに、その一部分から強い反射光が観察でき、しかも、この反射光によって生じる反射模様が、一対のシートについて同じになる、という点である。たとえば、図7(a) ,(b) は、図5(a) ,(b) に示されている各シートを、同じ照明環境下で同じ方向から観察したときに得られる反射模様の一例を示す平面図である。図にドットによるハッチングを施した領域が強い反射光が得られる領域である。図示のような同心円状の溝模様を有するシートの場合、通常、扇型の領域から強い反射光が得られることになり、この領域が独特の反射模様として認識されることになる(実際には、扇型内部の反射光強度は一様ではない)。同様に、図8(a) ,(b) は、図6(a) ,(b) に示されている各シートを、同じ照明環境下で同じ方向から観察したときに得られる反射模様の一例を示す平面図であり、やはり図にドットによるハッチングを施した三角形の領域が強い反射光が得られる領域である。
【0072】
このように、図5および図6に示す溝模様の場合、観察時に独特の反射模様が観察されることになり、しかも照明位置や観察位置を変えると、強い反射光が得られる部分が変化するので、反射模様が様々に変化して見えることになる。このように反射模様が変化することは、もちろん、意匠性を向上させる効果になるが、もうひとつの効果は、埋め込まれている情報の相違に気付かせない効果である。たとえば、図7に示す例の場合、図7(a) のシートも、図7(b) のシートも、いずれも図示のような扇型の領域が共通した反射模様として認識され、しかも照明や視点を変えた場合の反射模様の変化態様も共通することになるので、「両シートは同じ模様である」との印象を強める効果が生じることになる。図8に示す例の場合も全く同様である。
【0073】
§2では、溝部Gおよび間隙部Sの幅の変動量の最大範囲を40μm以下とすれば、当該変動量は肉眼では認識不能になることを説明した。これは裸眼の分解能から導かれる結果であるが、実際に人間が模様の相違を認識するのは、脳の働きに基づくものである。したがって、実際の溝模様に裸眼の分解能以上の変動量があったとしても、脳がこれを認識しない限り、両者が違う模様であると気付くことはない。図5や図6に示す溝模様の場合、上述したように、照明や視点を変えた場合に反射模様が変化し、しかもその変化態様が共通しているため、たとえ溝部Gおよび間隙部Sの幅の変動量が40μmを超えていたとしても、脳は両者の相違を認識しづらくなる。別言すれば、キラキラ光る領域の変化に注意が奪われ、両者の相違認識が妨げられることになる。
【0074】
したがって、図5や図6に示す溝模様を採用すれば、溝部Gおよび間隙部Sの幅の変動量が40μmを超えるような設定がなされていたとしても、肉眼観察時に、2つのシートの模様が同一であるとの認識を観察者に与える効果が得られることになる。もっとも、実用上は、§2で述べたとおり、変動量の最大範囲を40μm以下に設定するのが好ましい。そうすれば、裸眼の分解能という物理的な理由と、キラキラ光る領域の変化に注意が奪われるという心理的な理由との双方により、2つのシートの模様が同一であるとの認識を観察者に与える効果が得られることになる。
【0075】
このキラキラ光る領域の変化に注意が奪われるという心理的な効果を奏するためには、
いずれのシートにも同一の溝模様を形成するようにし、しかも、この溝模様は、部分ごとにそれぞれ溝の形成方向が異なっているようにすればよい。たとえば、図5(a) ,(b) に示す2枚のシートでは、いずれも同心円状パターンという同一の溝模様を有しており、しかも円からなるパターンであるため、溝の向き(円の接線方向)は、各円周上の位置によって異なっている。また、図6(a) ,(b) に示す2枚のシートでは、いずれも正方形の入れ子状パターンという同一の溝模様を有しており、しかも正方形からなるパターンであるため、溝の向き(正方形の各辺の方向)は、個々の辺によって異なっている。
【0076】
特に、図5や図6に示す例は、形状が同一でサイズが異なる複数の閉領域輪郭線(個々の円や個々の正方形)を入れ子状に重ねてなる同一の入れ子状溝模様を各シートに形成した例である。このような入れ子状溝模様は、意匠性にも富んでいるため、本発明における溝模様として用いるのに非常に適している。
【0077】
図9は、別なアプローチに基づく実施形態を示す平面図である。図9(a) 〜(h) は、それぞれ異なるコードが埋め込まれたシートである。この8枚のシートは、いずれも同一形状、同一サイズのシートであり、それぞれ領域A1,A2,A3の3つの領域に分割されている。ここで、この分割の態様は、すべてのシートについて共通であり、いずれのシートにも、同一形状、同一サイズの領域A1,A2,A3が定義されている。
【0078】
いずれのシートについても、各領域A1,A2,A3内には、所定方向に溝が形成されている。そして、1つのシートに関して、1つの領域内には共通の方向に溝が形成され、隣接する領域については互いに異なる方向に溝が形成されている。たとえば、図9(a) に示すシートの場合、領域A1内には水平方向を共通の方向として、6本の溝(黒い線)が形成されており、領域A2内には垂直方向を共通の方向として、6本の溝が形成されており、領域A3内には斜め45°方向を共通の方向として、6本の溝が形成されている。
【0079】
また、8枚のシート相互の関係を見ると、すべてのシートについて、それぞれ対応する領域内に形成されている溝の方向が共通するという特徴をもっている。たとえば、領域A1に着目すると、8枚のシートの領域A1内には、いずれも水平方向に溝が形成されている。同様に、領域A2に着目すると、8枚のシートの領域A2内には、いずれも垂直方向に溝が形成されており、領域A3に着目すると、8枚のシートの領域A3内には、いずれも斜め45°方向に溝が形成されている。
【0080】
ここで、各溝は、太い黒線もしくは細い黒線で示されているが、前述したとおり、太い黒線は幅1mmの溝部、その間に配置されている太い白線は幅1mmの間隙部を示しており、細い黒線は幅0.98mmの溝部、その間の太い白線は幅1.02mmの間隙部を示している。また、この例では、太い黒線で示されている溝は2進数のコード「1」を示し、細い黒線で示されている溝は2進数のコード「0」を示すものと決めている。したがって、1つの領域により1ビットの情報が表示されている。ここで、領域A1,A2,A3の順にビットの順序を定めることにすれば、図9(a) に示すシートは、「111」なる3ビットの情報を示すことになる。同様に、図9(b) 〜(h) に示すシートは、図示のとおり「110」〜「000」なる3ビットの情報を示している。
【0081】
結局、この図9に示す8枚のシートには、それぞれ3ビットの情報が埋め込まれていることになる。しかも、太い黒線で示されている溝の幅と、細い黒線で示されている溝の幅とは、実際には、わずか20μmの差しかないため、肉眼では差を認識することはできない。また、8枚のシートすべてについて、それぞれ対応する領域内に形成されている溝の方向が共通するため、照明や視点を変えた場合の反射模様の領域単位の変化態様も、8枚のシートで共通することになる。したがって、この8枚のシートを肉眼で観察した場合、いずれも同じ模様のシートとして認識されることになる。しかしながら、光学的な読取機能を備えた装置を用いれば、太い黒線で示されている溝の幅と、細い黒線で示されている溝の幅との相違を判別することができるため、各シートに埋め込まれた3ビットの情報を認識することができる。
【0082】
この図9に示す8枚のシートを、たとえばチケットなどの一部に形成しておくようにすれば、見た目は同じようなチケットに見えても、8通りの異なるチケットを機械的に判別することが可能になる。
【0083】
この図9では、シートを3つに分割した例を示したが、もちろん、分割の数は3つに限定されるものではなく、個々の領域の形状も、図示のものに限定されるものではない。一般論として述べれば、複数のシートからなるシート群において、各シートをそれぞれ複数の領域に分割するようにし、この分割の態様がすべてのシートについて共通となるようにすればよい。そして、1つのシートに関しては、1つの領域内には共通の方向に溝が形成されており、隣接する領域については互いに異なる方向に溝が形成されており、同じ観察方向から観察しても、各領域ごとに異なる反射模様が観察されるようにしておき、シート間の関係については、すべてのシートについて、それぞれ対応する領域内に形成されている溝の方向が共通するようにしておけばよい。そして、個々の領域ごとにそれぞれ異なる情報を埋め込むようにすれば、シート全体としては、領域の数に応じた量の情報を表現することが可能になる。
【0084】
図9の例では、1つの領域内に、太い黒線(幅1mmの溝)を形成するか、細い黒線(幅0.98mmの溝)を形成するか、を選択することにより、1ビットの情報を記録しているが、溝の幅によりたくさんのバリエーションを用意すれば、1つの領域内により多くの情報を記録することが可能になる。
【0085】
なお、これまで述べてきた実施形態は、いずれも直線状の溝を形成する例であるが、シートに形成する溝は、必ずしも直線状のものにする必要はない。たとえば、図10は、複数の領域にそれぞれ曲線状の溝を形成したシートを示す平面図である。この例では、1枚のシートが4×4=16個の領域に分割されており、個々の領域ごとに、それぞれ所定の方向性をもった曲線状の溝が形成されている。具体的には、図示の例の場合、ほぼ水平方向を向いた曲線状の溝と、ほぼ垂直方向を向いた曲線状の溝との2種類が、市松模様状に配置されている。図では、曲線状の溝の幅はすべて等しく描かれているが、太い溝(幅1mmの溝)と細い溝(幅0.98mmの溝)との2種類を個々の領域ごとに使い分けるようにすれば、1つの領域に1ビットの情報を記録することができるようになるので、合計16ビットの情報を埋め込むことが可能になる。
【0086】
<<< §4.溝の向きに情報量をもたせる方法 >>>
続いて、溝の向きに情報量をもたせる方法を説明する。図11は、その典型的な実施形態に係るシートの平面図である。ここで、図11(a) に示すシートは、図9(a) に示すシートと全く同一のシートであり、3つの領域A1,A2,A3に分割されている。図9に示すシート群は、溝の幅に情報量をもたせた例であるため、図9(a) 〜(h) に示すシートの各領域には、太い溝か細い溝かのいずれかが形成されていた。これに対して、図11(a) ,(b) に示す2枚のシートの各領域には、いずれも太い溝のみが形成されている。ただ、両シートで対応する領域内の溝の向きを比較すると、両者では異なっている。
【0087】
たとえば、図11(a) に示すシートと図11(b) に示すシートにおいて、領域A1内の溝の向きを比較すると、前者では水平方向、後者では斜め45°方向となっている。同様に、領域A2内の溝の向きを比較すると、前者では垂直方向、後者では水平方向となっており、領域A3内の溝の向きを比較すると、前者では斜め45°方向、後者では垂直方向となっている。
【0088】
ここでは、説明の便宜上、図12に示すように、溝の向きを角度θで示すことにする。すなわち、図の直線Lにより溝の向きを表わした場合に、水平方向を0°、垂直方向を90°として、角度θの大きさにより、溝の向きを定義する。ここで、領域A1,A2,A3の順に角度θの大きさを羅列することにより、埋め込まれているコードを表現することにすれば、図11(a) のシートには、「0°,90°,45°」なるコードが埋め込まれており、図11(b) のシートには、「45°,0°,90°」なるコードが埋め込まれていることになる。
【0089】
もし、1つの領域内の溝の向きを、θ=0°,45°,90°の3通りのいずれかに設定し、隣接する領域には異なる角度の溝を形成することにすれば、図示の例のように3つの領域を有するシートを用いることにより、合計6通りの情報を表現することが可能になる。別言すれば、それぞれ異なるコードが埋め込まれた6種類のシートを用意することができる。もちろん、角度θのバリエーションを更に増やせば、より多種類のコードの埋め込みが可能になる。
【0090】
結局、この§4で述べる「溝の向きに情報量をもたせる方法」を実施するには、まず、表面が複数の領域に分割されており、各領域内にそれぞれ多数の溝が形成され、少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって構成されたシート群を用意する。このとき、分割の態様はすべてのシートについて共通になるようにする。たとえば、図11(a) ,(b) に示す2枚のシートは、いずれも3つの領域A1,A2,A3に分割されており、分割の態様は全く同じになっている。
【0091】
そして、1つのシートに関しては、1つの領域内には共通の方向に溝が形成されており、隣接する領域については互いに異なる方向に溝が形成されており、同じ観察方向から観察しても、各領域ごとに異なる反射模様が観察されるようにする。また、複数のシート間では、それぞれ対応する領域内に形成されている溝の方向を比較した場合に、少なくとも1つの領域に関する溝の方向が異なるようにすればよい。図11(a) ,(b) に示す2枚のシートを比較すると、3つの領域のすべてについて、溝の方向が異なっているが、両者を判別する上では、少なくとも1つの領域に関する溝の方向が異なっていれば足りる。
【0092】
ところで、§2でも述べたとおり、本発明に係るシートをチケットなどの一部に貼り付けて利用する場合には、異なるコードが埋め込まれていたとしても、観察者に対しては統一したデザインとして提示される、という意匠上の効果が要求される場合が少なくない。このような要求に応えるためには、個々の領域内の溝の形成方向を無秩序に設定することは好ましくない。
【0093】
たとえば、3つの領域A1,A2,A3を有する2種類のシートについて、第1のシートには、「0°,90°,45°」なるコードを埋め込み、第2のシートには、「0°,90°,90°」なるコードを埋め込んだとしよう。この場合、2つのシートを比較すると、領域A1,A2に形成された溝の向きは全く同じであり、領域A3に形成された溝の向きのみが異なっている。このような2つのシートを観察者が比較すると、分割の態様は全く同じであり、また、特定の観察条件の下で特定の領域から強い反射光が観察される、という性質も同じであるため、一般的には、両者の相違に気付きにくいであろう。しかしながら、両者を全く同一の観察条件下で観察した場合、領域A1,A2については同一に見えるのに、領域A3だけは見え方に相違が生じるため、統一したデザインを提供するという見地からは、若干の違和感が生じることは否めない。
【0094】
ここでは、溝の向きに情報量をもたせる方法を採りつつ、異なるコードが埋め込まれていたとしても、観察者に対しては統一したデザインとして提示される、という意匠上の効果を得るのに適した溝の向きの設定方法を述べておく。
【0095】
第1の設定方法は、各シート上の個々の領域が、当該シート上に定義された所定の環状路に沿って配置されるようにし、溝の方向をこの環状路に沿ってローテーションシフトすることにより、複数のシート間でそれぞれ対応する領域についての溝の方向が異なるようにする方法である。これを具体例で説明しよう。
【0096】
実は、図11に示す例は、この第1の設定方法で溝の向きを設定した一例となっている。この例では、いずれのシートにも3つの領域A1,A2,A3が定義されているが、これらの領域は、このシート上に定義された所定の環状路に沿って配置されている。たとえば、各領域A1,A2,A3のそれぞれに中心点C1,C2,C3を定義すれば、これら中心点をループ状に結ぶ環状路を定義することができる。各領域A1,A2,A3は、この環状路に沿って配置されていることになる。この環状路に沿った各領域の並び順は、「A1→A2→A3→A1→A2→……」というループ状のものになる。
【0097】
図11(a) に示すシートを基準にすると、図11(b) に示すシート上の各領域の溝の方向は、図11(a) に示すシート上の各領域の溝の方向を、この環状路に沿ってローテーションシフトさせたものになっている。すなわち、図11(a) に示すシートの場合、各領域の溝の方向を示す角度θは、「0°,90°,45°」の順になる。これをローテーションシフトさせると(末尾の45°を先頭にもってきて、他の角度を1つずつ後ろへシフトさせると)、「45°,0°,90°」という順が得られる。図11(b) に示すシートにおける各領域の溝の方向を示す角度θは、正に、この順である。
【0098】
図11には、2通りのシートしか示されていないが、もし、同様にして第3のシートを作成するとすれば、図11(b) に示すシートにおける「45°,0°,90°」という順を更にローテーションシフトすることにより、「90°,45°,0°」という順が得られることになるので、第3のシートの領域A1には、垂直方向(90°)に溝を形成し、領域A2には、斜め45°方向に溝を形成し、領域A3には、水平方向(0°)に溝を形成すればよいことになる。このようなローテーションシフトを行う方法の場合、領域の数と等しい種類のシートを作成することができる。たとえば、図11の例の場合、シート上の領域は3つであるから、合計3通りのシートを作成することができ、これらの各シート間では、それぞれ対応する領域についての溝の方向が異なることになる。
【0099】
このようなローテーションシフトで溝の方向を設定した複数のシートは、対応する個々の領域に形成されている溝の方向が異なっているにもかかわらず、「一見したところ、いずれも同じ模様である」との印象を与える効果がある。たとえば、図11(a) に示すシートと図11(b) に示すシートは、図面上は異なる模様のように見えるが、実際には、このような白黒パターンではなく、凹凸をもったエンボスシート上のパターンであるため、観察者に対して「一見したところ同じ模様」との印象を与えることができる。その理由は、実際に各シートを手にとって観察する場合、照明や視点に対するシートの向きが絶えず変化した状態となるため、反射模様が常に変化することになり、その変化の態様が、両シートで共通したものになるためと考えられる。
【0100】
この理由は、次のようなモデルを考えると、より理解しやすいであろう。まず、図11(a) に示すシートの左右両端を両手でつかみ、全体を水平に保持する。その状態で、向こう側の端がやや下がるようにし、続いて右端がやや下がるようにし、手前端がやや下がるようにし、左端がやや下がるようにし、再び向こう側の端がやや下がるようにし、というように、独楽の歳差運動のような動きをさせる。図11(b) に示すシートについても同様の動きをさせてみる。すると、照明や視点の位置が一定であっても、それぞれのシートに現れる反射模様は変化することになる。ただ、両シートは、溝の方向がローテーションシフトした関係にあるので、この反射模様の変化の態様は近似したものになる。たとえば、図11(a) に示すシートについて光った領域が時計回りに移動するような反射模様の変化が観察されたとすれば、同様の変化が図11(b) に示すシートについても観察されることになる。この反射模様は、観察者にとっては、非常に目立つ特徴であるため、反射模様の変化の態様が同じ場合、観察者に対しては、「両者は同じ模様」との印象を与えることになる。
【0101】
上述したとおり、図11に示すような3つの領域A1,A2,A3を有するシートに、溝の方向をローテーションシフトさせる設定方法を適用した場合、合計3種類のシートを作成することができる。このような3種類のシートを、たとえば、劇場のS席、A席、B席という3種類の入場券のそれぞれに貼り付けて用いるようにすれば、一見したところ、この3種類の入場券のデザインは共通したものに見える。もちろん、光学的な読取機能を備えた装置を用いれば、この3種類のチケットを相互に判別することができる。
【0102】
観察者に対して「統一したデザイン」との印象を与えるのに有効な溝の向きの第2の設定方法は、基本となるシート上の個々の領域について、それぞれ溝の方向を示す方位角θを定義し、他のシートについてはそれぞれ個々のシートに固有の偏差角δを定義し、基本となるシート上の個々の領域の方位角θに対して、他のシート上の対応する個々の領域の方位角がθ+δとなるように設定することにより、複数のシート間でそれぞれ対応する領域についての溝の方向が異なるようにする方法である。これを具体例で説明しよう。
【0103】
まず、図13(a) に示すシートを基本となるシートと定める。この図13(a) に示すシートは、図11(a) に示すシートと全く同じものであるが、ここでは、説明の便宜上、実際の溝の平面図を描く代わりに、各領域内に溝の方向を示す角度値を記載して示してある。一方、図13(b) に示すシートは、図13(a) に示すシートを基本として、固有の偏差角δ=5°に設定することにより得られるシートである。すなわち、3つの領域A1,A2,A3のいずれについても、図13(a) に示すシートにおける溝の方位角をθとした場合、図13(b) に示すシートにおける溝の方位角はθ+5°となっている。
【0104】
このような設定方法により溝の方向を決めた図13(a) および図13(b) に示すシートは、やはり観察者に対して「一見したところ同じ模様」との印象を与える効果がある。その理由は、どの領域の溝の方位角についても、一律してδ=5°だけの偏差があるため、やはり反射模様の変化の態様が、両者で共通したものになるためである。図13では、2通りのシートのみを示したが、図13(a) に示すシートを基本となるシートと定め、δ=10°,15°,20°,…と、δを様々な値に設定することにより、より多数のシートを作成することが可能である。いずれのシートも、基本となるシートの各領域の溝の方位角に対して固有の偏差角δをもった方向を向いた溝を有しているため、反射模様の変化の態様は共通となり、観察者に対して「一見したところ同じ模様」との印象を与えることができる。
【0105】
<<< §5.溝の配置パターンに情報量をもたせる方法 >>>
次に、溝の配置パターンに情報量をもたせる方法を説明する。この方法では、多数の溝をランダムに配置することにより表面に模様が形成されたシート群を作成し、溝の配置パターンに情報量をもたせることにより、各シートごとにそれぞれ異なる所定のコードを埋め込むようにする。実用上は、これまで述べてきた実施形態と同様に、少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって各シートを構成し、観察方向に応じて異なる反射模様が提示されるようにするのが好ましい。
【0106】
図14(a) ,(b) は、溝の配置パターンに情報量をもたせた2枚のシートを示す平面図である。図示のとおり、ここに示す実施形態では、個々の溝は直線状ではなく、曲線状の形態をしており、しかも、その配置にはゆらぎが生じており、ランダムに(ゆらぎをもって)配置されている。実際には、これらは図示のような白黒パターンではなく、凹凸をもったエンボスシート上のパターンであり、この2枚のシートは、観察者に対して「一見したところ同じ模様」との印象を与えることができる。
【0107】
しかしながら、両シートを注意深く観察して比較すると、両者には細かな相違があることがわかるであろう。すなわち、図14(a) に示す溝の配置パターンも、図14(b) に示す溝の配置パターンも、いずれも多数の溝をランダムに配置する処理によって作成されたパターンであるが、両者は別個独立した処理で作成されているため、相互には一致しない。したがって、光学的な読取機能を備えた装置を用いれば、両者を相互に判別することができるが、肉眼により観察する観察者に対しては、「一見したところ同じ模様」との印象を与えることができる。
【0108】
ここで、たとえば、この図14(a) に示すシートを「一日券」のチケットに貼り付け、図14(b) に示すシートを「半日券」のチケットに貼り付けて用いるようにすれば、両チケットは、外観上は相違がなく、統一のとれたデザインのように見える。しかし光学的な読取機能を備えた装置を用いれば、両者の判別が可能になる。このような使用態様をした場合、図14(a) に示すシートには「一日券」というコードが埋め込まれていることになり、図14(b) に示すシートには「半日券」というコードが埋め込まれていることになる。
【0109】
なお、装置を用いて両者を判別するには、予め、図14(a) に示すシートから読み取った二次元画像と、図14(b) に示すシートから読み取った二次元画像とを基準画像のデータとして用意しておき、判別対象となるシートから読み取った二次元画像がどちらに類似するかを判定する処理を行えばよい。多数の溝をランダムに配置することにより、特定の配置パターンを作成する処理としては、どのような処理を用いてもかまわないが、ここでは簡単な方法を以下に例示しておく。
【0110】
まず、図15に示すように、XY座標系をもった記録面を定義する。そして、この記録面上に、規則的に配置された複数J個の格子点を定義する。図示の例では、規則的に配置された8個の格子点(図では黒丸で示す)が示されている。各格子点は、X軸方向のピッチがtx、Y軸方向のピッチがtyとなるように規則的に配置されており、1つの格子点は、T(x,y)なる座標値によって定義される。各格子点は、1本のヘアライン(溝の基準となる線)の起点となるべき点であり、これら各格子点からヘアラインが成長方向(この例ではX軸方向)に伸びてゆくことになる。したがって、格子のピッチtxおよびtyは、隣接するヘアラインの間隔を左右するパラメータとなる。
【0111】
続いて、各格子点を乱数に基づいてランダム移動させる処理を行う。上述のように、各格子点は1本のヘアラインの起点となるべき点であるが、この起点が規則的に配置されていると、最終的に規則的な配置をもったヘアラインが作成されることになる。そこで、ランダムに配置されたヘアラインを得るために、起点の段階からランダムに配置しておくようにする。ここに示す例では、図15に示すように規則的に配置された各格子点を、X軸方向にランダムな変位量dxだけ変位させ、Y軸方向にランダムな変位量dyだけ変位させることにより、ランダム移動させている。図15に白丸で示す点P(x+dx,y+dy)は、このようなランダム移動が行われた後の格子点である。ここで、変位量dxの範囲を、−tx/2≦dx≦+tx/2とし、変位量dyの範囲を、−ty/2≦dy≦+ty/2とすれば、1つの格子点T(x,y)の移動範囲は、図15に破線で示すような矩形領域F内に制限されることになる。
【0112】
図16は、このようにして、8個の格子点についてランダム移動を行った状態を示す図である。図に黒丸で示された点P1(1)〜P1(8)が、移動後の格子点を示している。これらの各点P1(1)〜P1(8)は、いずれもヘアラインの起点となる。以下の説明では、このヘアラインを構成する各点を、Pi(j)なる符号で示すことにする。ここで、jは作成するヘアラインのシリアル番号であり、iは1本のヘアラインを構成する各構成点のシリアル番号である。図16に示す8個の点は、いずれもヘアラインの起点となるべき点であるから、いずれもi=1となっている。また、図示の例では、合計8本のヘアラインを作成する単純なモデルを示しているので、8個の起点P1(1)〜P1(8)のみが示されているが、実際にはより多数(合計J本)のヘアラインが作成されることになり、J個の起点P1(1)〜P1(J)が定義されることになる。
【0113】
このように、J本のヘアラインの起点となるべきJ個の点P1(1)〜P1(J)を定義する際に、まず、図15に示すように、規則的に配置されたJ個の格子点を定義し、続いて、図16に示すように、これらをランダム移動させる、という手順を採ることは、実用上、非常に意味のあることである。すなわち、各ヘアラインは、溝の基準となる線なので、できるだけランダムに配置するのが好ましい。しかしながら、完全にランダムに配置してしまうと、ヘアラインの密度分布が一様にはならなくなり、ヘアラインが密集した部分と、過疎な部分とが生じてしまい、好ましくない結果となる。上述したように、一旦、規則的に配置した格子点をランダム移動させる、という手法を採れば、記録面全体としては一様な密度分布をもちながら、個別に見ればランダムに配置されているという理想的なヘアライン分布を得ることができる。
【0114】
続いて、各起点から徐々にヘアラインを成長させてゆく。図17は、第j番目のヘアラインの形成過程を示す平面図である。まず、起点P1(j)の位置に、方位ベクトルV1(j)なるものを定義する。この例では、ヘアラインの成長方向はX軸方向であるので、方位ベクトルV1(j)も基本的には、X軸方向を向いたベクトルとなるが、乱数を用いて、若干、方向にランダム性をもたせるようにする。たとえば、「X軸方向に対して、左右に45°以内の範囲内のランダムな方向を向いたベクトル」というような条件で、方位ベクトルV1(j)を定義すればよい。図示の例では、右斜め下方を向いた方位ベクトルV1(j)が定義されている。
【0115】
同様に、乱数を用いて、距離L1(j)の値を定義する。このとき、L1(j)の上限値および下限値を決めておき、上限値〜下限値の範囲内のランダムな値として、距離L1(j)の値を定義するようにする。こうして、起点P1(j)について、方位ベクトルV1(j)および距離L1(j)が求まったら、起点P1(j)から方位ベクトルV1(j)の方向に距離L1(j)だけ隔たった点として、構成点P2(j)を定義する。
【0116】
次に、この構成点P2(j)について、全く同様の処理を行う。すなわち、構成点P2(j)について、方位ベクトルV2(j)および距離L2(j)を乱数を用いて求め、構成点P2(j)から方位ベクトルV2(j)の方向に距離L2(j)だけ隔たった点として、構成点P3(j)を定義する。以下、同様にして、構成点P4(j),P5(j),P6(j)を求めてゆく。そして、起点を含めた構成点の数が所定数(この例の場合は6)に達したら、そこで当該ヘアラインに関する成長処理を終了する。図17は、この時点の状態を示している。
【0117】
続いて、図18に示すように、こうして得られた第1番目の構成点P1(j)から第6番目の構成点P6(j)に至るまでの合計6個の構成点を、ベジェ曲線あるいはスプライン曲線などを用いて滑らかに連結することにより、第j番目のヘアラインHj(図に太線で示すライン)を形成する。最後に、このヘアラインHjに、幅を定義し、幅をもった溝の輪郭線Cjを形成する。図示の例では、ヘアラインの両端部において漸減するような幅を定義している。このような処理を、全J個の起点について行えば、多数の溝がランダムに配置されたパターンを作成することができる。もちろん、実際には、上述した各プロセスは、コンピュータを用いて実施され、最終的に作成されたパターンは、コンピュータから二次元画像データとして出力されることになる。
【0118】
最後に、このようにして作成されたパターンに基づいて、エンボスシートを製造すれば、図14に示すようなシートが得られる。このようなプロセスを2回繰り返して実行すれば、別個独立した溝のランダム配置パターンが2通り得られるので、図14(a) 、(b) に示すような2通りのシートを得ることができる。
【0119】
結局、上述したシートの製造方法は、記録面上に規則的に配置された複数の格子点を定義する格子点定義段階と、各格子点の位置を乱数に基づいてランダムに移動させ、移動後の各点の位置にそれぞれ起点となるべき第1番目の構成点P1を定義する起点定義段階と、第i番目の構成点Piについて、所定の成長方向に対してランダムにずれた方位ベクトルViを求め、この方位ベクトルViの方向に、この構成点Piからランダムに定めた距離Liだけ隔たった位置に、第(i+1)番目の構成点P(i+1)を定義する処理を、i=1〜Iまで合計I回繰り返し行い、第1番目の構成点P1から第(I+1)番目の構成点P(I+1)に至るまでの合計(I+1)個の構成点を順に連結する曲線に基づいて1本のヘアラインを定義する処理を、すべての起点について実行するヘアライン定義段階と、シートの原材料となる素材上に、定義された各ヘアラインに沿った溝を形成する溝形成段階と、によって実現されることになる。
【0120】
なお、特開2001−138700号公報には、上述した原理に基づくランダム配置されたヘアラインの作成方法について、より詳細な説明がなされている。
【0121】
<<< §6.本発明に係る情報判別システム >>>
これまで述べたとおり、本発明によれば、多数の溝によって表面に模様が形成された複数のシートに、それぞれ異なる識別コードを記録することが可能になる。そこで、ここでは、これら本発明に係るシート群を利用した情報判別システムの構成例を述べることにする。
【0122】
この情報判別システムは、図19のブロック図に示すとおり、複数N種類(図示の例の場合は4種類)のシート11〜14と、画像読取手段20と、画像判別手段30と、基準画像格納手段40と、によって構成されている。
【0123】
ここで、複数N種類のシート11〜14は、多数の溝によって表面に模様が形成されたシートであり、たとえば、§2,§3で述べた実施形態に係るシート群を用いればよい。具体的には、溝部の幅もしくは間隙部の幅またはその双方がそれぞれ異なるように溝が形成されているシート群を用いればよい。実際には、切符、チケット、カードなど、様々な物品の一部にこれらのシートを形成するのが一般的な利用形態である。
【0124】
なお、観察者に対して、「このN種類のシート11〜14が同一の模様である」との印象を与え、切符、チケット、カードなどの物品のデザインを統一させる意匠上の効果を狙う場合には、各シートの溝部および間隙部がそれぞれ肉眼観察可能となるように、溝部の幅および間隙部の幅を設定し、かつ、溝部の幅もしくは間隙部の幅を、肉眼では認識不能な微小な変動量だけ変動させることにより、N種類のシート上の画像が相互に異なる画像となるようにすればよい。実寸としては、既に述べたとおり、各シートの溝部の幅および間隙部の幅を0.9mm以上に設定し、その変動量の最大範囲を40μm以下とするのが好ましい。
【0125】
また、「このN種類のシート11〜14が同一の模様である」との印象をより強く与えるためには、少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって構成されており、観察方向に応じて異なる反射模様が提示されるシートを用いるようにするのが好ましい。更に、いずれのシートにも同一の溝模様が形成されており、この溝模様は、部分ごとにそれぞれ溝の形成方向が異なっているようにするとよく、たとえば、図5および図6に示す例のように、形状が同一でサイズが異なる複数の閉領域輪郭線を入れ子状に重ねてなる同一の入れ子状溝模様を各シートに形成すると効果的である。
【0126】
あるいは、図9に示す例のように、各シートを複数の領域に分割し、しかも、この分割の態様がすべてのシートについて共通となるようにし、1つのシートに関して、1つの領域内には共通の方向に溝が形成されており、隣接する領域については互いに異なる方向に溝が形成されており、同じ観察方向から観察しても、各領域ごとに異なる反射模様が観察されるようにしてもよい。
【0127】
この図19に示す実施形態では、説明の便宜上、図9(a) ,(c) ,(e) ,(g) に示されているシートを、それぞれシート11,12,13,14として例示している。この例の場合、すべてのシートについて、それぞれ対応する領域内に形成されている溝の方向は共通しており、また、個々の領域ごとにそれぞれ異なる情報(太い黒線で示す「1」もしくは細い黒線で示す「0」のいずれか)が埋め込まれている。
【0128】
一方、画像読取手段20は、このN種類のシート11〜14の表面の模様を、二次元画像として読み取る機能をもった構成要素である。具体的には、CCD撮像素子を内蔵したカメラやスキャナ装置などを画像読取手段20として用いることができる。もっとも、本発明に用いる画像読取手段20は、必ずしも光学的な方法で画像を読み取る原理の装置に限定されるものではなく、たとえば、十分な分解能を有する圧力センサなどを利用した接触式の画像読取装置を利用してもかまわない。
【0129】
基準画像格納手段40は、画像読取手段20で読み取ったN種類のシートについてのN種類の二次元画像を、それぞれ基準画像として格納する構成要素である。すなわち、図示の例の場合、4種類のシート11〜14を用意したら、予めこれら各シートについての二次元画像を、画像読取手段20によって読み取り、読み取られた各画像を、それぞれ基準画像P11〜P14として、画像データの形式で格納しておくようにすればよい。もっとも、4種類のシート11〜14から基準画像P11〜P14を読み取る処理は、必ずしも図示のシステム内の画像読取手段20を用いる必要はなく、別個に用意した何らかの画像読取手段を用いてもかまわない。また、必ずしも光学的な画像読取手段を利用して基準画像を用意する必要はなく、たとえば、シート製造時に用いた版下データ等を記録しておき、このデータを読み取ることにより基準画像を用意してもかまわない。本願にいう画像読取手段とは、このようにデジタルデータとして基準画像を入力する装置も含めた手段を意味するものである。
【0130】
画像判別手段30は、用意されたN種類のシートの中の判別対象となる判別対象シートについて、画像読取手段20が読み取った判別対象画像を、基準画像格納手段40に格納されている各基準画像と比較し、最も類似する画像を最類似画像と判別し、判別結果を出力する機能をもった構成要素である。用意されたN種類のシートには、溝部の幅もしくは間隙部の幅またはその双方がそれぞれ異なるように溝が形成されているので、基準画像格納手段40内に格納されているN種類の基準画像は相互に異なる画像となる。画像判別手段30は、判別対象画像が、このN種類の基準画像のうちのどれに近似しているかを判別する手段ということになる。
【0131】
実際には、画像判別手段30と基準画像格納手段40は、コンピュータを利用して構成することができる。すなわち、基準画像格納手段40は、このコンピュータの記憶装置によって構成することができ、画像判別手段30は、このコンピュータのハードウエアおよび専用のソフトウエアによって構成することができる。なお、1枚の判別対象画像が、N種類の基準画像のうちのどれに最も類似しているかを判別する具体的な方法は、たとえば、指紋照合装置などで既に用いられている公知の技術であり、用途に応じて様々なアルゴリズムによる方法が実用化されているので、ここでは詳しい説明は省略する。
【0132】
ここでは、この図19に示す情報判別システムを、パーティーのお土産判別システムとして利用した例を紹介しておく。このパーティーには、100名の客を招待するものとし、この100名の客をA,B,C,Dの4つのグループに分け、個々のグループごとに、出口で引き渡すお土産の内容を区別したいものとする。この場合、まず、当該パーティーの招待チケットとして、4種類のチケットを用意する。そして、Aグループの客に発送するチケットにはシート11を貼り付けておき、B,C,Dグループの客に発送するチケットには、それぞれシート12,13,14を貼り付けておくようにする。ここで、観察者から見たときに、シート11〜14がいずれも同一の模様に見えるように構成しておけば、一見したところ、この4種類のチケットは同じチケットに見え、デザイン的に統一のとれたものになる。
【0133】
一方、この4種類のシート11〜14の画像を、予め画像読取手段20を用いて読み取っておき、それぞれ基準画像P11〜P14として、基準画像格納手段40内に格納しておく。これで、このシステムの準備は完了である。
【0134】
パーティーの当日は、それぞれの客に、発送したチケットを持参してもらうようにする。実際には、4種類のチケットが存在するが、一見したところ、他人のチケットも自分のチケットも同じように見える。客には、パーティー会場の出口で、チケットと引き換えにお土産を手渡すようにする。このとき、画像読取手段20,画像判別手段30,基準画像格納手段40によって構成される装置(実際には、光学的読取装置にコンピュータを接続したもの)を出口に設置しておけば、客から手渡されたチケットのシートの部分を読み取ることにより、当該客が所属するグループを判別することができる。
【0135】
たとえば、「画像読取手段20によって読み取られた判別対象画像に最も類似する画像が、基準画像格納手段40内に格納されている基準画像P12である」との判別が、画像判別手段30によってなされた場合には、対象となるチケットには、シート12が貼り付けられていると判断できるため、当該客は、グループBに所属する客である、と認識することができる。そこで、この客には、グループB用のお土産を手渡せばよいことになる。
【0136】
なお、画像判別手段30から出力される判別結果は、必ずしも人間に対して提示される必要はなく、別な機械や装置に対する制御信号として利用することも可能である。たとえば、判別対象がシート11であると判別された場合にのみ、ドアのロックを解除する制御信号を発生させるような仕組みにしておけば、グループAに所属する客だけに、ドアロックの解除権限を与えることが可能になる。あるいは、グループAに所属する客だけに、特定の電子機器へのアクセス権限を与える、というような利用形態も可能である。
【0137】
以上、§2,§3で述べた「溝の幅に情報量をもたせたシート群」を用いて情報判別システムを構成した例を述べたが、もちろん、§4で述べた「溝の向きに情報量をもたせたシート群」(たとえば、図11や図13に示すシート群)を用いてシステムを構成することも可能であるし、§5で述べた「溝の配置パターンに情報量をもたせたシート群」(たとえば、図14に示すシート群)を用いてシステムを構成することも可能である。
【0138】
図19に示す情報判別システムでは、N種類のシートの画像を予め読み取り、これを基準画像として格納しておくようにし、判別対象画像について、N通りの基準画像の中のいずれの画像が最も類似するかを選択するようにしているため、シートに形成されている溝模様がどのように複雑な模様であっても、何ら支障なく判別処理を実行することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】一般的な溝模様を有するエンボスシートの斜視図である。
【図2】図1に示すエンボスシートを溝に平行な断面で切った断面図(a) および溝に垂直な断面で切った断面図(b) である。
【図3】本発明の基本的な実施形態に係る2枚のシートを示す平面図である。
【図4】図3に示す実施形態について、便宜上、溝幅の相違を強調して描いた平面図である。
【図5】本発明に係る同心円状パターンからなる溝模様を有する2枚のシートを示す平面図である。
【図6】本発明に係る正方形の入れ子状パターンからなる溝模様を有する2枚のシートを示す平面図である。
【図7】図5に示すシートに生じる固有の反射模様を示す平面図である。
【図8】図6に示すシートに生じる固有の反射模様を示す平面図である。
【図9】本発明に係る3つの領域をもった8枚のシートを示す平面図である。
【図10】複数の領域にそれぞれ曲線状の溝を形成したシートを示す平面図である。
【図11】溝の向きに情報量をもたせた2枚のシートを示す平面図である。
【図12】溝の向きを角度θで定義する方法を示す平面図である。
【図13】溝の向きに情報量をもたせる別な方法を示す平面図である(各領域内には、実際の溝を描く代わりに、溝の方向を示す角度値を記載してある)。
【図14】溝の配置パターンに情報量をもたせた2枚のシートを示す平面図である。
【図15】ランダムな溝の配置パターンを得るための第1のプロセスを示す平面図である。
【図16】ランダムな溝の配置パターンを得るための第2のプロセスを示す平面図である。
【図17】ランダムな溝の配置パターンを得るための第3のプロセスを示す平面図である。
【図18】ランダムな溝の配置パターンを得るための第4のプロセスを示す平面図である。
【図19】本発明に係る情報判別システムの基本構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0140】
11〜14:溝模様を有するシート
20:画像読取手段
30:画像判別手段
40:基準画像格納手段
A1〜A3:各領域
Cj:第j番目の溝の輪郭線
D1:エンボスシートEの厚み
D2:溝Gの深さ
E:エンボスシート
F:矩形領域
G:溝部
Hj:第j番目のヘアライン
L:溝の向きを示す直線
L1(j)〜L6(j):隣接する構成点間の距離
P11〜P14:基準画像
P(x+dx,y+dy),P1(1)〜P1(8):ヘアラインの起点
P1(j)〜P6(j):記録面上の構成点
S:間隙部
T(x,y):格子点
tx,ty:格子点のピッチ
V1(j)〜V5(j):方位ベクトル
W1,W1a,W1b:溝部Gの幅
W2,W2a,W2b:間隙部Sの幅
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の溝によって表面に模様が形成されたシート群において、可視光が回折現象を生じないように、溝部の幅および間隙部の幅が設定されており、かつ、溝部の幅もしくは間隙部の幅またはその双方を、肉眼では認識不能な微小な変動量だけ変動させて情報量をもたせることにより、各シートごとにそれぞれ異なる所定のコードが埋め込まれるようにしたことを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項2】
多数の溝によって表面に模様が形成されたシート群において、溝部および間隙部がそれぞれ肉眼観察可能となるように、溝部の幅および間隙部の幅が設定されており、かつ、溝部の幅もしくは間隙部の幅またはその双方を、肉眼では認識不能な微小な変動量だけ変動させて情報量をもたせることにより、各シートごとにそれぞれ異なる所定のコードが埋め込まれるようにしたことを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項3】
請求項2に記載のシート群において、
溝部の幅および間隙部の幅を0.9mm以上に設定し、情報量をもたせるための変動量の最大範囲を40μm以下としたことを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のシート群において、
少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって構成されており、観察方向に応じて異なる反射模様が提示されることを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項5】
請求項4に記載のシート群において、
いずれのシートにも同一の溝模様が形成されており、この溝模様は、部分ごとにそれぞれ溝の形成方向が異なっていることを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項6】
請求項4に記載のシート群において、
形状が同一でサイズが異なる複数の閉領域輪郭線を入れ子状に重ねてなる同一の入れ子状溝模様が各シートに形成されていることを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項7】
請求項4に記載のシート群において、
各シートは複数の領域に分割されており、この分割の態様はすべてのシートについて共通であり、
1つのシートに関して、1つの領域内には共通の方向に溝が形成されており、隣接する領域については互いに異なる方向に溝が形成されており、同じ観察方向から観察しても、各領域ごとに異なる反射模様が観察されることを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項8】
請求項7に記載のシート群において、
すべてのシートについて、それぞれ対応する領域内に形成されている溝の方向が共通することを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項9】
請求項7または8に記載のシート群において、
個々の領域ごとにそれぞれ異なる情報が埋め込まれていることを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項10】
多数の溝によって表面に模様が形成されたシート群であって、
各シートは、少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって構成され、かつ、複数の領域に分割されており、この分割の態様はすべてのシートについて共通であり、
1つのシートに関して、1つの領域内には共通の方向に溝が形成されており、隣接する領域については互いに異なる方向に溝が形成されており、同じ観察方向から観察しても、各領域ごとに異なる反射模様が観察され、
複数のシート間で、それぞれ対応する領域内に形成されている溝の方向を比較した場合、少なくとも1つの領域に関する溝の方向が異なることを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項11】
請求項10に記載のシート群において、
各シート上の個々の領域が、当該シート上に定義された所定の環状路に沿って配置されるようにし、溝の方向を前記環状路に沿ってローテーションシフトすることにより、複数のシート間でそれぞれ対応する領域についての溝の方向が異なるようにしたことを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項12】
請求項10に記載のシート群において、
基本となるシート上の個々の領域について、それぞれ溝の方向を示す方位角θを定義し、他のシートについてはそれぞれ個々のシートに固有の偏差角δを定義し、前記基本となるシート上の個々の領域の方位角θに対して、他のシート上の対応する個々の領域の方位角がθ+δとなるように設定することにより、複数のシート間でそれぞれ対応する領域についての溝の方向が異なるようにしたことを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項13】
多数の溝をランダムに配置することにより表面に模様が形成されたシート群において、溝の配置パターンに情報量をもたせることにより、各シートごとにそれぞれ異なる所定のコードが埋め込まれていることを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項14】
請求項13に記載のシート群において、
少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって構成されており、観察方向に応じて異なる反射模様が提示されることを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項15】
多数の溝によって表面に模様が形成された複数N種類のシートと、
前記N種類のシート表面の模様を、二次元画像として読み取る画像読取手段と、
画像読取手段で読み取った前記各シートについてのN種類の二次元画像を、それぞれ基準画像として格納する基準画像格納手段と、
前記N種類のシートの中の判別対象となる判別対象シートについて前記画像読取手段が読み取った判別対象画像を、前記基準画像格納手段に格納されている各基準画像と比較し、最も類似する画像を最類似画像と判別する画像判別手段と、
を備え、
前記基準画像格納手段内に格納されているN種類の基準画像が相互に異なる画像となるように、前記N種類のシートには、溝部の幅もしくは間隙部の幅またはその双方がそれぞれ異なるように溝が形成されていることを特徴とする情報判別システム。
【請求項16】
請求項15に記載の情報判別システムにおいて、
可視光が回折現象を生じないように、溝部の幅および間隙部の幅が設定されており、かつ、溝部の幅もしくは間隙部の幅またはその双方を、肉眼では認識不能な微小な変動量だけ変動させることにより、N種類の基準画像が相互に異なる画像となるようにしたことを特徴とする情報判別システム。
【請求項17】
請求項15に記載の情報判別システムにおいて、
各シートの溝部および間隙部がそれぞれ肉眼観察可能となるように、溝部の幅および間隙部の幅が設定されており、かつ、溝部の幅もしくは間隙部の幅またはその双方を、肉眼では認識不能な微小な変動量だけ変動させることにより、N種類の基準画像が相互に異なる画像となるようにしたことを特徴とする情報判別システム。
【請求項18】
請求項17に記載の情報判別システムにおいて、
各シートの溝部の幅および間隙部の幅を0.9mm以上に設定し、その変動量の最大範囲を40μm以下としたことを特徴とする情報判別システム。
【請求項19】
請求項15〜18のいずれかに記載の情報判別システムにおいて、
少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって構成されており、観察方向に応じて異なる反射模様が提示されるシートを用いることを特徴とする情報判別システム。
【請求項20】
請求項19に記載の情報判別システムにおいて、
いずれのシートにも同一の溝模様が形成されており、この溝模様は、部分ごとにそれぞれ溝の形成方向が異なっていることを特徴とする情報判別システム。
【請求項21】
請求項19に記載の情報判別システムにおいて、
形状が同一でサイズが異なる複数の閉領域輪郭線を入れ子状に重ねてなる同一の入れ子状溝模様が各シートに形成されていることを特徴とする情報判別システム。
【請求項22】
請求項19に記載の情報判別システムにおいて、
各シートは複数の領域に分割されており、この分割の態様はすべてのシートについて共通であり、
1つのシートに関して、1つの領域内には共通の方向に溝が形成されており、隣接する領域については互いに異なる方向に溝が形成されており、同じ観察方向から観察しても、各領域ごとに異なる反射模様が観察されることを特徴とする情報判別システム。
【請求項23】
請求項22に記載の情報判別システムにおいて、
すべてのシートについて、それぞれ対応する領域内に形成されている溝の方向が共通することを特徴とする情報判別システム。
【請求項24】
請求項22または23に記載の情報判別システムにおいて、
個々の領域ごとにそれぞれ異なる情報が埋め込まれていることを特徴とする情報判別システム。
【請求項25】
多数の溝によって表面に模様が形成された複数N種類のシートと、
前記N種類のシート表面の模様を、二次元画像として読み取る画像読取手段と、
画像読取手段で読み取った前記各シートについてのN種類の二次元画像を、それぞれ基準画像として格納する基準画像格納手段と、
前記N種類のシートの中の判別対象となる判別対象シートについて前記画像読取手段が読み取った判別対象画像を、前記基準画像格納手段に格納されている各基準画像と比較し、最も類似する画像を最類似画像と判別する画像判別手段と、
を備え、
各シートは、少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって構成され、かつ、複数の領域に分割されており、この分割の態様はすべてのシートについて共通であり、
1つのシートに関して、1つの領域内には共通の方向に溝が形成されており、隣接する領域については互いに異なる方向に溝が形成されており、同じ観察方向から観察しても、各領域ごとに異なる反射模様が観察され、
複数のシート間で、それぞれ対応する領域内に形成されている溝の方向を比較した場合、少なくとも1つの領域に関する溝の方向が異なることを特徴とする情報判別システム。
【請求項26】
請求項25に記載の情報判別システムにおいて、
各シート上の個々の領域が、当該シート上に定義された所定の環状路に沿って配置されるようにし、溝の方向を前記環状路に沿ってローテーションシフトすることにより、複数のシート間でそれぞれ対応する領域についての溝の方向が異なるようにしたことを特徴とする情報判別システム。
【請求項27】
請求項25に記載の情報判別システムにおいて、
基本となるシート上の個々の領域について、それぞれ溝の方向を示す方位角θを定義し、他のシートについてはそれぞれ個々のシートに固有の偏差角δを定義し、前記基本となるシート上の個々の領域の方位角θに対して、他のシート上の対応する個々の領域の方位角がθ+δとなるように設定することにより、複数のシート間でそれぞれ対応する領域についての溝の方向が異なるようにしたことを特徴とする情報判別システム。
【請求項28】
多数の溝を配置することにより表面に模様が形成された複数N種類のシートと、
前記N種類のシート表面の模様を、二次元画像として読み取る画像読取手段と、
画像読取手段で読み取った前記各シートについてのN種類の二次元画像を、それぞれ基準画像として格納する基準画像格納手段と、
前記N種類のシートの中の判別対象となる判別対象シートについて前記画像読取手段が読み取った判別対象画像を、前記基準画像格納手段に格納されている各基準画像と比較し、最も類似する画像を最類似画像と判別する画像判別手段と、
を備え、
前記基準画像格納手段内に格納されているN種類の基準画像が相互に異なる画像となるように、前記N種類のシートには、それぞれランダムに多数の溝が配置されていることを特徴とする情報判別システム。
【請求項29】
請求項28に記載の情報判別システムにおいて、
少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって構成されており、観察方向に応じて異なる反射模様が提示されるシートを用いることを特徴とする情報判別システム。
【請求項30】
請求項13もしくは14に記載のシート群または請求項28もしくは29に記載の情報判別システムに用いるシートを製造する製造方法において、
記録面上に規則的に配置された複数の格子点を定義する格子点定義段階と、
前記各格子点の位置を乱数に基づいてランダムに移動させ、移動後の各点の位置にそれぞれ起点となるべき第1番目の構成点P1を定義する起点定義段階と、
第i番目の構成点Piについて、所定の成長方向に対してランダムにずれた方位ベクトルViを求め、この方位ベクトルViの方向に、この構成点Piからランダムに定めた距離Liだけ隔たった位置に、第(i+1)番目の構成点P(i+1)を定義する処理を、i=1〜Iまで合計I回繰り返し行い、第1番目の構成点P1から第(I+1)番目の構成点P(I+1)に至るまでの合計(I+1)個の構成点を順に連結する曲線に基づいて1本のヘアラインを定義する処理を、すべての起点について実行するヘアライン定義段階と、
シートの原材料となる素材上に、定義された各ヘアラインに沿った溝を形成する溝形成段階と、
を有することを特徴とする溝模様を有するシートの製造方法。
【請求項1】
多数の溝によって表面に模様が形成されたシート群において、可視光が回折現象を生じないように、溝部の幅および間隙部の幅が設定されており、かつ、溝部の幅もしくは間隙部の幅またはその双方を、肉眼では認識不能な微小な変動量だけ変動させて情報量をもたせることにより、各シートごとにそれぞれ異なる所定のコードが埋め込まれるようにしたことを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項2】
多数の溝によって表面に模様が形成されたシート群において、溝部および間隙部がそれぞれ肉眼観察可能となるように、溝部の幅および間隙部の幅が設定されており、かつ、溝部の幅もしくは間隙部の幅またはその双方を、肉眼では認識不能な微小な変動量だけ変動させて情報量をもたせることにより、各シートごとにそれぞれ異なる所定のコードが埋め込まれるようにしたことを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項3】
請求項2に記載のシート群において、
溝部の幅および間隙部の幅を0.9mm以上に設定し、情報量をもたせるための変動量の最大範囲を40μm以下としたことを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のシート群において、
少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって構成されており、観察方向に応じて異なる反射模様が提示されることを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項5】
請求項4に記載のシート群において、
いずれのシートにも同一の溝模様が形成されており、この溝模様は、部分ごとにそれぞれ溝の形成方向が異なっていることを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項6】
請求項4に記載のシート群において、
形状が同一でサイズが異なる複数の閉領域輪郭線を入れ子状に重ねてなる同一の入れ子状溝模様が各シートに形成されていることを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項7】
請求項4に記載のシート群において、
各シートは複数の領域に分割されており、この分割の態様はすべてのシートについて共通であり、
1つのシートに関して、1つの領域内には共通の方向に溝が形成されており、隣接する領域については互いに異なる方向に溝が形成されており、同じ観察方向から観察しても、各領域ごとに異なる反射模様が観察されることを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項8】
請求項7に記載のシート群において、
すべてのシートについて、それぞれ対応する領域内に形成されている溝の方向が共通することを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項9】
請求項7または8に記載のシート群において、
個々の領域ごとにそれぞれ異なる情報が埋め込まれていることを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項10】
多数の溝によって表面に模様が形成されたシート群であって、
各シートは、少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって構成され、かつ、複数の領域に分割されており、この分割の態様はすべてのシートについて共通であり、
1つのシートに関して、1つの領域内には共通の方向に溝が形成されており、隣接する領域については互いに異なる方向に溝が形成されており、同じ観察方向から観察しても、各領域ごとに異なる反射模様が観察され、
複数のシート間で、それぞれ対応する領域内に形成されている溝の方向を比較した場合、少なくとも1つの領域に関する溝の方向が異なることを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項11】
請求項10に記載のシート群において、
各シート上の個々の領域が、当該シート上に定義された所定の環状路に沿って配置されるようにし、溝の方向を前記環状路に沿ってローテーションシフトすることにより、複数のシート間でそれぞれ対応する領域についての溝の方向が異なるようにしたことを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項12】
請求項10に記載のシート群において、
基本となるシート上の個々の領域について、それぞれ溝の方向を示す方位角θを定義し、他のシートについてはそれぞれ個々のシートに固有の偏差角δを定義し、前記基本となるシート上の個々の領域の方位角θに対して、他のシート上の対応する個々の領域の方位角がθ+δとなるように設定することにより、複数のシート間でそれぞれ対応する領域についての溝の方向が異なるようにしたことを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項13】
多数の溝をランダムに配置することにより表面に模様が形成されたシート群において、溝の配置パターンに情報量をもたせることにより、各シートごとにそれぞれ異なる所定のコードが埋め込まれていることを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項14】
請求項13に記載のシート群において、
少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって構成されており、観察方向に応じて異なる反射模様が提示されることを特徴とする溝模様を有するシート群。
【請求項15】
多数の溝によって表面に模様が形成された複数N種類のシートと、
前記N種類のシート表面の模様を、二次元画像として読み取る画像読取手段と、
画像読取手段で読み取った前記各シートについてのN種類の二次元画像を、それぞれ基準画像として格納する基準画像格納手段と、
前記N種類のシートの中の判別対象となる判別対象シートについて前記画像読取手段が読み取った判別対象画像を、前記基準画像格納手段に格納されている各基準画像と比較し、最も類似する画像を最類似画像と判別する画像判別手段と、
を備え、
前記基準画像格納手段内に格納されているN種類の基準画像が相互に異なる画像となるように、前記N種類のシートには、溝部の幅もしくは間隙部の幅またはその双方がそれぞれ異なるように溝が形成されていることを特徴とする情報判別システム。
【請求項16】
請求項15に記載の情報判別システムにおいて、
可視光が回折現象を生じないように、溝部の幅および間隙部の幅が設定されており、かつ、溝部の幅もしくは間隙部の幅またはその双方を、肉眼では認識不能な微小な変動量だけ変動させることにより、N種類の基準画像が相互に異なる画像となるようにしたことを特徴とする情報判別システム。
【請求項17】
請求項15に記載の情報判別システムにおいて、
各シートの溝部および間隙部がそれぞれ肉眼観察可能となるように、溝部の幅および間隙部の幅が設定されており、かつ、溝部の幅もしくは間隙部の幅またはその双方を、肉眼では認識不能な微小な変動量だけ変動させることにより、N種類の基準画像が相互に異なる画像となるようにしたことを特徴とする情報判別システム。
【請求項18】
請求項17に記載の情報判別システムにおいて、
各シートの溝部の幅および間隙部の幅を0.9mm以上に設定し、その変動量の最大範囲を40μm以下としたことを特徴とする情報判別システム。
【請求項19】
請求項15〜18のいずれかに記載の情報判別システムにおいて、
少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって構成されており、観察方向に応じて異なる反射模様が提示されるシートを用いることを特徴とする情報判別システム。
【請求項20】
請求項19に記載の情報判別システムにおいて、
いずれのシートにも同一の溝模様が形成されており、この溝模様は、部分ごとにそれぞれ溝の形成方向が異なっていることを特徴とする情報判別システム。
【請求項21】
請求項19に記載の情報判別システムにおいて、
形状が同一でサイズが異なる複数の閉領域輪郭線を入れ子状に重ねてなる同一の入れ子状溝模様が各シートに形成されていることを特徴とする情報判別システム。
【請求項22】
請求項19に記載の情報判別システムにおいて、
各シートは複数の領域に分割されており、この分割の態様はすべてのシートについて共通であり、
1つのシートに関して、1つの領域内には共通の方向に溝が形成されており、隣接する領域については互いに異なる方向に溝が形成されており、同じ観察方向から観察しても、各領域ごとに異なる反射模様が観察されることを特徴とする情報判別システム。
【請求項23】
請求項22に記載の情報判別システムにおいて、
すべてのシートについて、それぞれ対応する領域内に形成されている溝の方向が共通することを特徴とする情報判別システム。
【請求項24】
請求項22または23に記載の情報判別システムにおいて、
個々の領域ごとにそれぞれ異なる情報が埋め込まれていることを特徴とする情報判別システム。
【請求項25】
多数の溝によって表面に模様が形成された複数N種類のシートと、
前記N種類のシート表面の模様を、二次元画像として読み取る画像読取手段と、
画像読取手段で読み取った前記各シートについてのN種類の二次元画像を、それぞれ基準画像として格納する基準画像格納手段と、
前記N種類のシートの中の判別対象となる判別対象シートについて前記画像読取手段が読み取った判別対象画像を、前記基準画像格納手段に格納されている各基準画像と比較し、最も類似する画像を最類似画像と判別する画像判別手段と、
を備え、
各シートは、少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって構成され、かつ、複数の領域に分割されており、この分割の態様はすべてのシートについて共通であり、
1つのシートに関して、1つの領域内には共通の方向に溝が形成されており、隣接する領域については互いに異なる方向に溝が形成されており、同じ観察方向から観察しても、各領域ごとに異なる反射模様が観察され、
複数のシート間で、それぞれ対応する領域内に形成されている溝の方向を比較した場合、少なくとも1つの領域に関する溝の方向が異なることを特徴とする情報判別システム。
【請求項26】
請求項25に記載の情報判別システムにおいて、
各シート上の個々の領域が、当該シート上に定義された所定の環状路に沿って配置されるようにし、溝の方向を前記環状路に沿ってローテーションシフトすることにより、複数のシート間でそれぞれ対応する領域についての溝の方向が異なるようにしたことを特徴とする情報判別システム。
【請求項27】
請求項25に記載の情報判別システムにおいて、
基本となるシート上の個々の領域について、それぞれ溝の方向を示す方位角θを定義し、他のシートについてはそれぞれ個々のシートに固有の偏差角δを定義し、前記基本となるシート上の個々の領域の方位角θに対して、他のシート上の対応する個々の領域の方位角がθ+δとなるように設定することにより、複数のシート間でそれぞれ対応する領域についての溝の方向が異なるようにしたことを特徴とする情報判別システム。
【請求項28】
多数の溝を配置することにより表面に模様が形成された複数N種類のシートと、
前記N種類のシート表面の模様を、二次元画像として読み取る画像読取手段と、
画像読取手段で読み取った前記各シートについてのN種類の二次元画像を、それぞれ基準画像として格納する基準画像格納手段と、
前記N種類のシートの中の判別対象となる判別対象シートについて前記画像読取手段が読み取った判別対象画像を、前記基準画像格納手段に格納されている各基準画像と比較し、最も類似する画像を最類似画像と判別する画像判別手段と、
を備え、
前記基準画像格納手段内に格納されているN種類の基準画像が相互に異なる画像となるように、前記N種類のシートには、それぞれランダムに多数の溝が配置されていることを特徴とする情報判別システム。
【請求項29】
請求項28に記載の情報判別システムにおいて、
少なくとも溝部内面が鏡面反射する材質によって構成されており、観察方向に応じて異なる反射模様が提示されるシートを用いることを特徴とする情報判別システム。
【請求項30】
請求項13もしくは14に記載のシート群または請求項28もしくは29に記載の情報判別システムに用いるシートを製造する製造方法において、
記録面上に規則的に配置された複数の格子点を定義する格子点定義段階と、
前記各格子点の位置を乱数に基づいてランダムに移動させ、移動後の各点の位置にそれぞれ起点となるべき第1番目の構成点P1を定義する起点定義段階と、
第i番目の構成点Piについて、所定の成長方向に対してランダムにずれた方位ベクトルViを求め、この方位ベクトルViの方向に、この構成点Piからランダムに定めた距離Liだけ隔たった位置に、第(i+1)番目の構成点P(i+1)を定義する処理を、i=1〜Iまで合計I回繰り返し行い、第1番目の構成点P1から第(I+1)番目の構成点P(I+1)に至るまでの合計(I+1)個の構成点を順に連結する曲線に基づいて1本のヘアラインを定義する処理を、すべての起点について実行するヘアライン定義段階と、
シートの原材料となる素材上に、定義された各ヘアラインに沿った溝を形成する溝形成段階と、
を有することを特徴とする溝模様を有するシートの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2007−206940(P2007−206940A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24502(P2006−24502)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
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