説明

溶射材評価試料作製装置

【課題】試験結果にばらつきが生じにくい試料を作製することができる溶射材評価試料作製装置を提供する。
【解決手段】溶射ランス11を保持部材12によりスライド可能に保持し、連結機構13の作用によって、保持部材12に対して溶射ランス11をスライド方向Bに沿って往復移動させる。例えば、第1連結部材131と第2連結部材132との結合部に設けられたハンドル136を作業者が把持し、当該ハンドル136を円運動させることにより、溶射ランス11を往復移動させる。これにより、従来のように作業者が溶射ランスを直接手動で往復移動させる場合と比較して、溶射ランス11の噴射口から噴射される溶射材により作製される試料の形状や状態等にばらつきが生じにくく、試験結果にばらつきが生じにくい試料を作製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶射材を噴射して試料を作製するための溶射材評価試料作製装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コークス炉は、耐火レンガにより形成され、石炭を乾留してコークスを生成するための炭化室が備えられている。当該炭化室は、その内壁が経年とともに劣化するため、欠損や割れを補修する作業を定期的に行う必要がある。補修作業としては、所定の溶射材を炭化室の内壁に溶射することにより欠損や割れを覆う作業が一般的である。このような炭化室の補修作業に用いる装置は一般的に知られているが(例えば、特許文献1及び2参照)、溶射材を評価するための試料作製装置は見当たらない。
【0003】
【特許文献1】実開昭62−55538号公報
【特許文献2】実開昭63−159200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような炭化室の補修では、どのような成分の溶射材を用いるかによって耐久性が異なるため、溶射材の強度等の物性を評価する試験を行う必要がある。そこで、従来から、管状に形成された溶射ランスを作業者が把持し、その内部を通って供給される溶射材を噴射口から噴射することにより、コークス炉炭化室(あるいは試験炉)に置いた試料作製用耐火レンガの表面に評価する溶射材を吹きつけ、試料を作製する作業が行われている。
【0005】
より具体的には、溶射ランスを当該溶射ランスが延びる方向に沿って往復移動させながら、噴射口から上記耐火レンガの表面に溶射材を噴射することにより、所定の幅からなる試料が作製される。この試料から一定形状の試験片が切り出され、その試験片を用いて物性の評価試験が行われる。
【0006】
しかしながら、上記のように作業者が溶射ランスを直接手動で往復移動させた場合、溶射ランスを往復移動させる際の態様が作業者によって異なるため、作製される試料の形状や状態等にばらつきが生じ、当該試料を用いた試験結果にもばらつきが生じるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、試験結果にばらつきが生じにくい試料を作製することができる溶射材評価試料作製装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の本発明に係る溶射材評価試料作製装置は、溶射材を噴射して試料を作製するための溶射材評価試料作製装置であって、管状に形成され、その内部を通って供給される溶射材を噴射口から噴射する溶射ランスと、上記溶射ランスが延びる方向に平行なスライド方向に沿って当該溶射ランスをスライド可能に保持する保持部材と、上記溶射ランス及び上記保持部材を連結し、上記保持部材に対して上記溶射ランスを上記スライド方向に沿って往復移動させるための連結機構とを備えたことを特徴とする。
【0009】
このような構成によれば、溶射ランスを保持部材によりスライド可能に保持し、連結機構の作用によって、保持部材に対して溶射ランスをスライド方向に沿って往復移動させることができる。したがって、従来のように作業者が溶射ランスを直接手動で往復移動させる場合と比較して、溶射ランスの噴射口から噴射される溶射材により作製される試料の形状や状態等にばらつきが生じにくい。これにより、試験結果にばらつきが生じにくい試料を作製することができる。
【0010】
第2の本発明に係る溶射材評価試料作製装置は、上記連結機構は、上記溶射ランスに対して回転可能に取り付けられた第1連結部材と、上記保持部材に対して回転可能に取り付けられた第2連結部材とを備え、上記第1連結部材と上記第2連結部材とが互いに回転可能に結合されていることを特徴とする。
【0011】
このような構成によれば、溶射ランスに対して回転可能に取り付けられた第1連結部材と、保持部材に対して回転可能に取り付けられた第2連結部材とを、互いに回転可能に連結するといった簡単な構成で、溶射ランスを往復移動させるための連結機構を形成することができる。
【0012】
第3の本発明に係る溶射材評価試料作製装置は、上記第1連結部材と上記第2連結部材との結合部には、作業者が把持するためのハンドルが設けられており、当該ハンドルを円運動させることにより、上記保持部材に対して上記溶射ランスが上記スライド方向に沿って往復移動されることを特徴とする。
【0013】
このような構成によれば、第1連結部材と第2連結部材との結合部に設けられたハンドルを作業者が把持し、当該ハンドルを円運動させることにより、溶射ランスを容易に往復移動させることができる。
【0014】
第4の本発明に係る溶射材評価試料作製装置は、上記保持部材には、上記溶射ランスのスライドに伴って回転するベアリングが設けられていることを特徴とする。
【0015】
このような構成によれば、溶射ランスを往復移動させる際に、ベアリングが回転するため、溶射ランスを円滑にスライドさせることができる。したがって、溶射ランスを等速度で往復移動させることが容易になり、溶射材の成分が異なる試料を複数作製する場合においても同形状の評価試料を作製することができる。
【0016】
第5の本発明に係る溶射材評価試料作製装置は、上記溶射ランスを支持し、上記溶射ランスが上記スライド方向にのみスライドするようにガイドするためのガイド部材を備えたことを特徴とする。
【0017】
このような構成によれば、溶射ランスと、当該溶射ランスを保持する保持部材との間にがたつきがある場合であっても、溶射ランスをガイド部材でガイドすることにより、スライド方向に沿って安定して往復移動させることができる。したがって、溶射材の噴射により作製される試料の形状や状態等にばらつきがより生じにくく、試験結果にばらつきがより生じにくい試料を作製することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、溶射ランスを保持部材によりスライド可能に保持し、連結機構の作用によって、保持部材に対して溶射ランスをスライド方向に沿って往復移動させることができるので、従来のように作業者が溶射ランスを直接手動で往復移動させる場合と比較して、試験結果にばらつきが生じにくい試料を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係る溶射材評価試料作製装置1を用いて試料を作製する際の態様を示した概略側面図である。また、図2は、図1の溶射材評価試料作製装置1の一部を示した概略平面図である。
【0020】
この溶射材評価試料作製装置1は、溶射材の強度等の物性を評価する試験を行う際に用いる試料を作成するための装置であり、コークス炉炭化室(あるいは試験炉)2内の底部に設置した耐火レンガ3に向けて溶射材を噴射することにより、当該耐火レンガ3の表面に試料4を作製する。溶射材としては、例えば、Na、Mg、Al、S、Cl、K、Ca、Fe、Siなどを含有する材料を使用することができる。
【0021】
溶射材評価試料作製装置1は、溶射ランス11、保持部材12及び連結機構13などを備えている。溶射ランス11は、例えば円筒状などの管状に形成され、その内部を通って供給される溶射材を噴射口111から噴射する。より具体的には、溶射ランス11は、一直線状に延びる中空の棒状に形成され、その一端部に接続されたホース(図示せず)から矢印Aで示すように供給される溶射材が、溶射ランス11内を通って、他端部に形成されている噴射口111から噴射される。
【0022】
保持部材12は、例えば箱状に形成され、その内部に溶射ランス11を貫通させることにより、当該溶射ランス11をスライド可能に保持している。保持部材12により保持された溶射ランス11は、当該溶射ランス11が延びる方向に平行なスライド方向Bに沿ってスライド可能となっている。保持部材12は、下保持部材121と、当該下保持部材121に対して開閉可能に取り付けられた上保持部材122とを備え、ロック機構123により、上保持部材122を閉じた状態で下保持部材121に固定することができるようになっている。当該溶射材評価試料作製装置1のメンテナンス時などには、ロック機構123を解除して、上保持部材122を下保持部材121に対して開放することにより、保持部材12から溶射ランス11を容易に取り外すことができる。
【0023】
連結機構13は、溶射ランス11と保持部材12とを連結するためのものであり、互いに回転可能に結合されたアーム状の第1連結部材131及び第2連結部材132を備えている。第1連結部材131は、その一端部が回転軸133を介して溶射ランス11に対して回転可能に取り付けられている。一方、第2連結部材132は、その一端部が回転軸134を介して保持部材12の上保持部材122に対して回転可能に取り付けられている。
【0024】
第1連結部材131は、上記回転軸133が固定された取付部材135により、溶射ランス11に取り付けられており、当該取付部材135が溶射ランス11に対して着脱可能となっている。取付部材135は、例えば2つの部材で溶射ランス11を締め付けるようにして溶射ランス11に取り付けられるような構成であってもよい。この例では、取付部材135が、溶射ランス11における保持部材12により保持されている部分よりも噴射口111側に取り付けられているが、このような構成に限らず、溶射ランス11における保持部材12に対して噴射口111とは反対側に取り付けられた構成であってもよい。
【0025】
上記2つの回転軸133,134は、それぞれ溶射ランス11の上方において上下方向に延びるように設けられ、平面視でスライド方向Bに沿って一直線上に並べて配置されている。第1連結部材131及び第2連結部材132は、その少なくとも一方が上下方向に屈曲された形状に形成されており、これにより、第1連結部材131及び第2連結部材132の各他端部の位置を合わせて結合することができるようになっている。
【0026】
第1連結部材131と第2連結部材132の結合部には、当該第1連結部材131及び第2連結部材132を回転可能に結合する回転軸(図示せず)と同軸上に、上下方向に延びるハンドル136が設けられている。当該ハンドル136は、上下方向に延びる軸線回りに回転可能となっている。当該溶射材評価試料作製装置1を用いて試料4を作製する際には、作業者がハンドル136を把持し、当該ハンドル136を図2に符号Cで示すように回転軸134を中心に円運動させることにより、保持部材12に対して溶射ランス11をスライド方向Bに沿って往復移動させることができる。
【0027】
当該溶射材評価試料作製装置1は、設置台5上に保持部材12が固定されることにより、溶射ランス11が所定の高さで水平方向に延びるように設置される。上記所定の高さは、作業者がハンドル136を把持して円運動させやすい高さに設定されていることが好ましい。このようにして設置された溶射材評価試料作製装置1は、その溶射ランス11における噴射口111側の端部がコークス炉炭化室(あるいは試験炉)2の開口部21から挿入され、噴射口111がコークス炉炭化室(あるいは試験炉)2内の耐火レンガ3に対向した状態とされる。この状態で、噴射口111から溶射材を噴射しつつハンドル136を円運動させ、噴射口111をスライド方向Bに沿って往復移動させることにより、耐火レンガ3の表面に、スライド方向Bに沿って所定幅を有する試料4を作製することができる。
【0028】
溶射材評価試料作製装置1を用いて試料4を作製する際には、例えば、コークス炉炭化室(あるいは試験炉)2内の温度(炉温)が1050°に設定され、噴射口111と耐火レンガ3の表面との距離が10cmに設定された状態で、試験日前日から一昼夜加熱した耐火レンガ3に対して噴射口111から溶射材が噴射される。噴射口111の往復移動は、例えば3分間行われ、当該3分間で10往復するような速度でハンドル136が円運動される。試料作製時にコークス炉炭化室(あるいは試験炉)2内に供給される酸素流量は例えば26m/hであり、窒素圧は例えば4kPaに設定される。このようにして作製された試料4は、大気放冷にて冷却される。
【0029】
溶射ランス11は、保持部材12に対して噴射口111側の長さの方が、噴射口111とは反対側の長さよりも長くなるように、保持部材12により保持されている。この例では、溶射ランス11の長さが3.2mであり、噴射口111とは反対側の端部において溶射ランス11が保持部材12に保持されることにより、保持部材12から噴射口111までの溶射ランス11の長さが比較的長くなっている。このような場合には、溶射ランス11と、当該溶射ランス11を保持する保持部材12との間にがたつきがある場合に、そのがたつきが微小であっても、溶射ランス11の先端部に設けられた噴射口111には大きながたつきとなって表れる。
【0030】
そこで、本実施形態では、溶射ランス11をガイド部材6により支持するような構成が採用されている。このガイド部材6は、上下方向に延びるように設けられ、その上端部において溶射ランス11を支持するとともに、当該溶射ランス11がスライド方向Bのみにスライドするようにガイドする。この例では、2つのガイド部材6がスライド方向Bに沿って一直線上に並ぶように固定部材7に固定されているが、このような構成に限らず、ガイド部材6は1つだけであってもよいし、3つ以上設けられてもよい。
【0031】
図3は、保持部材12の構成の一例を示した概略平面図であって、上保持部材122を省略した状態を示している。下保持部材121は、下面を形成する下面板124と、側面を形成する2つの側面板125とが一体的に形成されることにより構成されている。下面板124は、保持部材12内に挿通される溶射ランス11の下方を水平方向に延びており、当該下面板124の溶射ランス11に対して両側の端縁から上方に向かって、それぞれ側面板125が延びている。
【0032】
保持部材12内には、溶射ランス11をスライド方向Bに沿ってスライド可能に保持するためのボールベアリング126が設けられている。この例では、ボールベアリング126は、金属製の8つのボール127と、これらの各ボール127をそれぞれ中心回りに回転自在に保持する8つのボール保持部128とを備えている。2つの側面板125には、それぞれボール127が2つずつ取り付けられている。各側面板125に取り付けられた2つのボール127は、スライド方向Bに沿って並ぶように配置されるとともに、各ボール127の表面が溶射ランス11の表面に接触するように配置される。
【0033】
一方の側面板125に取り付けられたボール127は、他方の側面板125に取り付けられたボール127に対して、溶射ランス11を挟んで対向しており、対向するボール127の間隔が溶射ランス11の外径と一致している。なお、図3には図示していないが、下面板124及び上保持部材122にも、それぞれ2つのボール127がスライド方向Bに沿って並ぶように取り付けられることにより、計8つのボール127が保持部材12により保持されている。これらのボール127も、上記と同様に溶射ランス11の外径と同一の間隔で対向するように配置されることにより、各ボール127の表面が溶射ランス11の表面に接触するようになっている。
【0034】
このような構成により、溶射ランス11のスライド方向Bに沿ったスライドに伴って、当該溶射ランス11に接触しているボール127が回転するようになっている。ボールベアリング126に備えられたボール127の数は、8つに限らず、7つ以下又は9つ以上であってもよいが、溶射ランス11に対するがたつきを抑制するという観点から、スライド方向Bに沿って少なくとも2つのボール127が並べて配置されていることが好ましい。また、保持部材12に取り付けられるベアリングは、ボールベアリング126に限らず、例えばスライド方向Bに対して直交方向に延びる回転軸線を中心に回転可能なローラを備えた構成など、溶射ランス11のスライドに伴って回転するような構成であれば、他の各種転動体を備えた構成を採用することができる。
【0035】
図4は、ガイド部材6の一部を示した概略正面図であり、ガイド部材6の上端部の構成を示している。ガイド部材6は、上下方向に延びる支持部61と、当該支持部61の上端部に設けられたガイド部62とを備えている。
【0036】
支持部61の上端部には、互いに一定間隔を隔てて対向する取付板611が形成されており、当該取付板611間にガイド部62が配置されている。ガイド部62は、スライド方向Bに直交する水平方向Dに沿って延びる回転軸63を介して、当該回転軸63を中心に回転可能な状態で取付板611に取り付けられている。
【0037】
ガイド部62には、回転軸63を中心とする外周面上に環状の凹部621が形成されている。上記凹部621は、溶射ランス11に対応する曲率を有しており、当該凹部621上に溶射ランス11を支持することにより、スライド方向Bに直交する水平方向Dに溶射ランス11ががたつくことなく、スライド方向Bにのみスライドするように溶射ランス11をガイドすることができる。
【0038】
この例では、ガイド部62が回転軸63を中心に回転可能に保持されているため、溶射ランス11をスライド方向Bに沿ってスライドさせたときには、ガイド部62が回転軸63を中心に回転するようになっている。したがって、溶射ランス11とガイド部62との摩擦を抑制することができ、円滑に溶射ランス11をスライドさせることができる。ただし、このような構成に限らず、ガイド部材6は、溶射ランス11のスライドに伴って回転するガイド部62を備えていないような構成であってもよい。また、溶射ランス11の長さが比較的短い場合には、ガイド部材6が設けられていないような構成であってもよい。
【0039】
図5は、この溶射材評価試料作製装置1を用いて作製される試料4の一例を示した斜視図である。当該溶射材評価試料作製装置1を用いて試料4を作製する場合には、上述のように、噴射口111から溶射材を噴射しつつ、溶射ランス11をスライド方向Bに沿って往復移動させるため、耐火レンガ3の表面には、スライド方向Bに沿って所定幅Eを有する試料4が作製される。
【0040】
作製される試料4の幅Eは、溶射ランス11が往復移動する際のスライド幅に依存している。このスライド幅は、第1連結部材131及び第2連結部材132の長さに依存しており、部材の長さを変えることで調節できる。上記幅Eは、この例では約50cmである。また、試料4のスライド方向Bに直交する断面形状は、図5に示すような略三角形状となる。
【0041】
溶射材の物性の評価試験を行う場合には、上記のようにして作製された試料4から試験片が切り出される。試験片は、例えば直径12mm、長さ13〜15mmの円柱状に形成される。試験片には、その物性の一例である強度を測定する評価試験が行われる。強度を測定する評価試験では、例えば試験片の軸線方向に対して直交する方向から中心に向かって荷重をかけ、その最大荷重(P)を面積(S)で除する演算を行うことにより、試験片の最大応力(σ)を算出することができる。その他にも、試験片の一部を蛍光X線で測定することにより、試験片の成分を評価することもできる。
【0042】
図6は、従来及び本願の各方法で試験片を作製した場合の強度のばらつきを示したグラフである。
【0043】
このグラフから分かるように、作業者が溶射ランスを直接手動で往復移動させる従来の方法で同一成分及び同一形状からなる複数の試験片を作成し、それらの試験片に対して同一の条件で強度測定を行った場合、測定された強度に18kg/cm程度のばらつぎが生じた。
【0044】
一方、作業者が本願の溶射材評価試料作製装置1を用いた方法で同一成分及び同一形状からなる複数の試験片を作成し、それらの試験片に対して同一の条件で強度試験を行った場合には、測定された強度のばらつきが3kg/cm程度まで大幅に低減された。
【0045】
本実施形態では、溶射ランス11を保持部材12によりスライド可能に保持し、連結機構13の作用によって、保持部材12に対して溶射ランス11をスライド方向Bに沿って往復移動させることができる。したがって、従来のように作業者が溶射ランスを直接手動で往復移動させる場合と比較して、溶射ランス11の噴射口111から噴射される溶射材により作製される試料の形状や状態等にばらつきが生じにくい。これにより、試験結果にばらつきが生じにくい試料を作製することができる。
【0046】
特に、本実施形態では、溶射ランス11に対して回転可能に取り付けられた第1連結部材131と、保持部材12に対して回転可能に取り付けられた第2連結部材132とを、互いに回転可能に連結するといった簡単な構成で、溶射ランス11を往復移動させるための連結機構13を形成することができる。また、第1連結部材131と第2連結部材132との結合部に設けられたハンドル136を作業者が把持し、当該ハンドル136を円運動させることにより、溶射ランス11を容易に往復移動させることができる。
【0047】
本実施形態では、溶射ランス11のスライドに伴って回転するベアリングの一例として、ボールベアリング126が保持部材12に設けられているため、溶射ランス11を往復移動させる際に、ボールベアリング126のボール127が回転し、溶射ランス11を円滑にスライドさせることができる。したがって、溶射ランス11を等速度で往復移動させることが容易になり、溶射材の成分が異なる試料を複数作製する場合においても同形状の評価試料を作製することができる。
【0048】
また、本実施形態では、溶射ランス11と、当該溶射ランス11を保持する保持部材12との間にがたつきがある場合であっても、溶射ランス11をガイド部材6でガイドすることにより、スライド方向Bに沿って安定して往復移動させることができる。したがって、溶射材の噴射により作製される試料の形状や状態等にばらつきがより生じにくく、試験結果にばらつきがより生じにくい試料を作製することができる。
【0049】
以上の実施形態では、作業者がハンドル136を操作することにより、溶射ランス11を往復移動させるような構成について説明したが、このような構成に限らず、モータなどの駆動手段を用いて連結機構を駆動することにより、溶射ランス11を往復移動させるような構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態に係る溶射材評価試料作製装置を用いて試料を作製する際の態様を示した概略側面図である。
【図2】図1の溶射材評価試料作製装置の一部を示した概略平面図である。
【図3】保持部材の構成の一例を示した概略平面図であって、上保持部材を省略した状態を示している。
【図4】ガイド部材の一部を示した概略正面図であり、ガイド部材の上端部の構成を示している。
【図5】この溶射材評価試料作製装置を用いて作製される試料の一例を示した斜視図である。
【図6】従来及び本願の各方法で試験片を作製した場合の強度のばらつきを示したグラフである。
【符号の説明】
【0051】
1 溶射材評価試料作製装置
2 コークス炉炭化室(あるいは試験炉)
3 耐火レンガ
4 試料
6 ガイド部材
11 溶射ランス
12 保持部材
13 連結機構
61 支持部
62 ガイド部
111 噴射口
126 ボールベアリング
131 第1連結部材
132 第2連結部材
136 ハンドル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶射材を噴射して試料を作製するための溶射材評価試料作製装置であって、
管状に形成され、その内部を通って供給される溶射材を噴射口から噴射する溶射ランスと、
上記溶射ランスが延びる方向に平行なスライド方向に沿って当該溶射ランスをスライド可能に保持する保持部材と、
上記溶射ランス及び上記保持部材を連結し、上記保持部材に対して上記溶射ランスを上記スライド方向に沿って往復移動させるための連結機構とを備えたことを特徴とする溶射材評価試料作製装置。
【請求項2】
上記連結機構は、上記溶射ランスに対して回転可能に取り付けられた第1連結部材と、上記保持部材に対して回転可能に取り付けられた第2連結部材とを備え、上記第1連結部材と上記第2連結部材とが互いに回転可能に結合されていることを特徴とする請求項1に記載の溶射材評価試料作製装置。
【請求項3】
上記第1連結部材と上記第2連結部材との結合部には、作業者が把持するためのハンドルが設けられており、当該ハンドルを円運動させることにより、上記保持部材に対して上記溶射ランスが上記スライド方向に沿って往復移動されることを特徴とする請求項2に記載の溶射材評価試料作製装置。
【請求項4】
上記保持部材には、上記溶射ランスのスライドに伴って回転するベアリングが設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の溶射材評価試料作製装置。
【請求項5】
上記溶射ランスを支持し、上記溶射ランスが上記スライド方向にのみスライドするようにガイドするためのガイド部材を備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の溶射材評価試料作製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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