説明

溶接トーチの移動装置

【課題】 従来は、溶接トーチを三次元的に移動させるにあたり、多関節のロボットアーム等の複雑で大掛かりな移動装置を要し、溶接作業のために広い作業スペースを要し、コストアップとなると共に、溶接位置と退避位置との間での溶接トーチの移動において、移動距離の割に移動時間が長くなり、溶接作業能率が低下するおそれがある。
【解決手段】 溶接トーチと一体の移動軸16と、該移動軸16の外周で該移動軸16を該軸16回りに回動自在で且つ該軸16方向に摺動自在に支持する支持部材17と、移動軸16を該軸16方向に摺動させるアクチュエータ19と、移動軸16の摺動位置に応じて該移動軸16の回動位置を規制する規制部20と、移動軸16と一体で前記規制部20に当接する案内部材21とを備え、案内部材21が当接する規制部20の規制面は移動軸16に対して斜めに傾く斜面20bを備えて屈曲する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接トーチの移動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接トーチを溶接母材から退避させるべく上昇させながら横方向に移動させ、溶接トーチを二次元的に移動させることが知られている(特許文献1参照。)。また、特殊な形状の溶接部品と干渉しないようにするためや溶接作業能率を向上させるため等の溶接条件の制限に応じて、多関節のロボットアーム等により溶接トーチを溶接位置と退避位置との間で移動方向を変えながら移動させ、溶接トーチを三次元的に移動させることが必要となる。
【特許文献1】特開2003−200262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来は、溶接トーチを三次元的に移動させるにあたり、多関節のロボットアーム等の複雑で大掛かりな移動装置、多数のアクチュエータあるいは移動装置の作動を制御するための複雑な制御装置等を要し、溶接作業のために広い作業スペースを要する共に、コストアップとなっている。また、多関節のロボットアーム等の複雑で大掛かりな移動装置を更に複雑な制御装置により作動させることにより、溶接位置と退避位置との間での溶接トーチの移動において、移動距離の割に移動時間が長くなり、溶接作業能率が低下するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明は、上記課題を解決するべく次のような技術的手段を講じた。
すなわち、請求項1に係る発明は、溶接トーチ(15)と一体の移動軸(16)と、該移動軸(16)の外周で該移動軸(16)を該軸(16)回りに回動自在で且つ該軸(16)方向に摺動自在に支持する支持部材(17)と、移動軸(16)を該軸(16)方向に摺動させるアクチュエータ(19)と、移動軸(16)の摺動位置に応じて該移動軸(16)の回動位置を規制する規制部(20)と、移動軸(16)と一体で前記規制部(20)に当接する案内部材(21)とを備え、案内部材(21)が当接する規制部(20)の規制面は移動軸(16)に対して斜めに傾く斜面(20b)を備えて屈曲する構成とした溶接トーチの移動装置とした。
【0005】
従って、請求項1に記載の溶接トーチの移動装置によると、アクチュエータ(19)の作動により、規制部(20)の斜面(20b)に規制されながら案内部材(21)が案内されることで、移動軸(16)が該軸(16)方向に摺動しながら該軸(16)回りに回動し、溶接トーチ(15)の先端(スパーク部)が大きく移動する。また、屈曲する規制部(20)の規制面により、移動軸(16)が該軸(16)の摺動量に対して該軸(16)回りの回動量を変えながら摺動及び回動し、溶接トーチ(15)の先端を移動方向を変えながら三次元的に移動させることができる。
【0006】
また、請求項2に係る発明は、規制部(20)において、溶接トーチ(15)が溶接位置に到達する移動端部となる部分(20a)は、移動軸(16)の方向と同一かあるいは他の部分(20b)の規制面に比較して最も移動軸(16)の方向に近い規制面とした請求項1に記載の溶接トーチの移動装置とした。
【0007】
従って、請求項2に記載の溶接トーチの移動装置によると、請求項1に記載の溶接トーチの移動装置の作用に加えて、溶接トーチ(15)が溶接位置に到達するときあるいは溶接位置から離れるときは、移動軸(16)があまり回動せずに該軸(16)方向に摺動するため、アクチュエータ(19)の作動量に対する溶接トーチ(15)の先端の移動量を他の移動箇所に比較して小さく設定でき、溶接トーチ(15)の先端の移動速度を遅くできる。更に、溶接トーチ(15)の移動方向がアクチュエータ(19)の作動方向と同一かあるいはアクチュエータ(19)の作動方向に近くなり、溶接トーチ(15)の先端の移動経路を精度良く設定できる。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明によると、溶接トーチ(15)の先端を大きく移動させることができるので、小型のアクチュエータ(19)で且つ簡単な構造の移動装置としながら、溶接位置と退避位置との間での溶接トーチ(15)の移動においてアクチュエータ(19)の作動速度に対して溶接トーチ(15)の移動速度を速く設定することができて、溶接作業能率を向上させることができる。更に、移動装置をコンパクトで簡単な構造としながら、小型のアクチュエータ(19)で溶接トーチ(15)を移動方向を変えながら三次元的に移動させることができるので、複雑な制御装置等が不要になると共に溶接作業スペースを縮小でき、溶接作業のコストダウンが図れる。
【0009】
また、請求項2に記載の発明によると、請求項1に記載の発明の効果に加えて、溶接トーチ(15)が溶接位置に到達するときあるいは溶接位置から離れるときは、溶接トーチ(15)の先端の移動速度を遅くでき、更に溶接トーチ(15)の先端の移動経路を精度良く設定できるので、溶接時に溶接トーチ(15)の先端を溶接位置に精度良く位置させることができ、溶接精度の向上が図れると共に、溶接トーチ(15)がその移動の誤差等により溶接品と干渉するようなことを防止でき、溶接品の不良の発生を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
この発明の実施の一形態を、以下に説明する。
図1に示すように、この溶接設備1は、脚部2aを備える箱体2の内部に、溶接部品をセットする溶接テーブル3と、該溶接テーブル3の一側に配置した溶接機構4と、前記溶接テーブル3に対して溶接機構4とは反対側に配置したスパッタ除去機構5と、溶接テーブル3の上方に配置した芯出し機構6とを備えている。箱体2の一側面は開口部となっており、該開口部を開閉する遮光性のあるカーテン7を設けている。
【0011】
溶接テーブル3は、ギヤ8と該ギヤ8に貫通させるシャフト9とからなる溶接部品をセットする構成であり、上段テーブル10と下段テーブル11とを備え、該上段テーブル10及び下段テーブル11が下部の回転駆動装置12により駆動回転する構成となっている。上段テーブル10及び下段テーブル11の中央には穴を設けており、この穴に溶接部品となるシャフト9を挿通して上段テーブル10及び下段テーブル11に対して移動しないようにセットする構成となっている。また、上段テーブル10の上面に溶接部品となるギヤ8を載置してセットする構成となっている。
【0012】
芯出し機構6は、溶接部品となるシャフト9の上端部(溶接テーブル3とは反対側の端部)の軸心位置に接触して挿入される芯出し部13と、芯出し部13を上下移動させるアクチュエータとなる芯出し作動シリンダ14とを備えている。尚、芯出し作動シリンダ14は、エア(空気圧)により作動するエアシリンダである。
【0013】
溶接機構4は、溶接トーチ15と、該溶接トーチ15を一体的に固定する上下方向の移動軸16と、該移動軸16を該軸16回りに回動自在で且つ該軸16方向に摺動自在に挿通して支持する支持部材となる支持筒17と、該支持筒17を箱体2に固定する支持台18と、移動軸16を上下に移動させる移動シリンダ19とを備えている。尚、移動シリンダ19は、エア(空気圧)により作動するエアシリンダであり、支持台18の内部に配置され、上側に突出するシリンダロッド19a上に移動軸16の下端を載せ、該シリンダロッド19aが上下に作動することにより移動軸16を上下に移動させる構成となっており、従って移動軸16を該軸16方向に摺動させるアクチュエータとなる。支持筒17の適宜の位置にはくの字状の規制溝20を備え、移動軸16の適宜の位置には前記規制溝20に係合する案内突起21を備えている。規制溝20は、移動軸16及び支持筒17の伸長方向と同じ上下鉛直方向に延びる下側部分20aと、該下側部分20aの上端に連設され移動軸16及び支持筒17の伸長方向(上下鉛直方向)に対して斜め方向に延びる上側部分20bとを備えている。従って、規制溝20は、移動軸16の摺動位置(上下位置)に応じて該移動軸16の回動位置を規制する規制部となる。また、案内突起21は、移動軸16と一体で規制部となる規制溝20の側面に当接する案内部材となる。また、規制溝20の側面が規制部の規制面となり、規制溝20の上側部分20bの側面が案内部材となる案内突起21が当接し且つ移動軸16に対して斜めに傾く斜面となり、規制部の規制面となる規制溝20の側面は上側部分20bと下側部分20aとで屈曲した構成となっている。よって、溶接トーチ15と一体の移動軸16と、支持部材となる支持筒17と、アクチュエータとなる移動シリンダ19と、規制部となる規制溝20と、案内部材となる案内突起21とにより、溶接トーチ15の移動装置を構成している。
【0014】
尚、規制溝20の下側部分20aは、移動軸16及び支持筒17の伸長方向と同じ上下鉛直方向に延びる方向としたが、上側部分20bの方向より移動軸16の方向に近い方向であれば、上下方向に対して若干斜めに傾けた構成としてもよい。
【0015】
また、移動シリンダ19のシリンダロッド19aの下動により、規制溝20の下端に案内突起21が位置するよう移動軸16を下端位置へ移動させたとき、移動軸16に固定した溶接トーチ15の先端が溶接部品となるギヤ8とシャフト9との接合部に接近する溶接位置に位置する。従って、規制部となる規制溝20において、溶接トーチ15が溶接位置に到達する移動端部となる下側部分20aの側面は、移動軸16の方向と同一かあるいは他の部分となる上側部分20bの側面(規制面)に比較して最も移動軸16の方向に近い規制面となる。
【0016】
スパッタ除去機構5は、鉄製の棒材を密集してブラシ状に多数備えるタガネ22を先端部に備え該タガネ22を駆動回転させるジェットタガネ23と、該ジェットタガネ23の先端を溶接部品となるギヤ8とシャフト9との接合部に接近する除去位置と退避する退避位置との間で移動させるアクチュエータとなる除去用シリンダ24と、前記ジェットタガネ23及び除去用シリンダ24の上下高さを調節できる支柱25とを備え、タガネ22が溶接部位に接触して駆動回転することにより、スパッタ、溶接被膜並びにバリ等を除去する構成となっている。除去用シリンダ24は、エア(空気圧)により作動するエアシリンダである。
【0017】
カーテン7は、箱体2の上端部で横方向に延びるカーテンレール26に沿って適宜部位が移動する構成となっており、端部がアクチュエータとなる開閉シリンダ27のピストン27aに連結され、該ピストン27aの横移動により開閉する構成となっている。尚、開閉シリンダ27は、エア(空気圧)により作動するロッドレスタイプのエアシリンダであり、カーテンレール26の近くで該カーテンレール26と同じ方向に延びている。このカーテン7を閉じて溶接やスパッタ、溶接被膜並びにバリ等の除去を行うことにより、作業者が溶接で発生する火花を直視することにより目を疲労させるようなことを防止すると共に、作業者に前記火花や除去するスパッタ、溶接被膜並びにバリ等がかかるのを防止できる。
【0018】
箱体2の上側には、主制御盤28を設けている。該主制御盤28には、作業を開始させる開始スイッチ29と、全ての工程を自動的に行わせる全自動状態と工程毎に作動させるステップ作動状態とに切り替えできる工程切替スイッチ30と、溶接作業並びにスパッタ除去作業を行う全作動状態と溶接作業のみを行う溶接作動状態とスパッタ除去作業のみを行う除去作動状態との3状態に切り替えできる作業切替スイッチ31と、操作している間だけ作動させる寸動スイッチ32と、溶接時間を設定する溶接時間設定つまみ33とを備えている。尚、前記開始スイッチ29は、非常時に作動を停止させる非常停止スイッチも兼ねている。
【0019】
箱体2の側方には、副制御盤34を設けている。該副制御盤34には、カーテン7の作動の有無を切り替えるカーテン切替スイッチと、芯出し機構6の作動の有無を切り替える芯出し切替スイッチと、溶接範囲や溶接箇所等の予め設定した複数種の溶接条件を選択する条件選択スイッチとを備えている。
【0020】
次に、作業手順について説明する。一例として、工程切替スイッチ30を全自動状態、作業切替スイッチ31を全作動状態に切り替えた場合について説明する。先ず、作業者は、溶接部品となるギヤ8及びシャフト9を溶接テーブル3に正規の状態にセットし、開始スイッチ29を操作する。すると、開閉シリンダ27の作動によりカーテン7が閉じ、芯出し作動シリンダ14の作動により芯出し部13を下降させてシャフト9の上端を位置がずれないように支持する。その後、移動シリンダ19のシリンダロッド19aが下動して、溶接トーチ15を退避位置から溶接位置に移動させる。このとき、溶接トーチ15は、規制溝20の上側部分20bにより横方向へ移動しながら下降した後、規制溝20の下側部分20aにより殆ど横方向へ移動せずに下降する。尚、移動シリンダ19のシリンダロッド19aは溶接トーチ15を退避位置から溶接位置への移動において同じ速度で作動するので、溶接トーチ15は、規制溝20の上側部分20bに案内されるときは移動速度が速く、規制溝20の下側部分20aに案内されるときは移動速度が遅くなる。そして、溶接トーチ15の先端が溶接位置に到達すると、溶接を開始すると共に溶接テーブル3が回転し、シャフト9の周囲を溶接する。尚、溶接テーブル3を回転させる回転駆動装置12は、条件選択スイッチで選択した溶接条件に従って溶接するべく、溶接テーブル3の回転位置を検出し、この検出に基づいて溶接トーチ15の溶接を入切又は調節させる構成となっている。溶接テーブル3が一回転して溶接が終了すると、移動シリンダ19のシリンダロッド19aが上動して、溶接トーチ15を溶接位置から退避位置に移動させる。このとき、溶接トーチ15は、規制溝20の下側部分20aにより殆ど横方向へ移動せずに上昇した後、規制溝20の上側部分20bにより横方向へ移動しながら上昇する。尚、移動シリンダ19のシリンダロッド19aは溶接トーチ15を溶接位置から退避位置への移動において同じ速度で作動するので、溶接トーチ15は、規制溝20の上側部分20bに案内されるときは移動速度が速く、規制溝20の下側部分20aに案内されるときは移動速度が遅くなる。溶接トーチ15が退避位置に到達すると、除去用シリンダ24の作動によりジェットタガネ23の先端を除去位置へ移動させる。ジェットタガネ23の先端が除去位置へ到達したのに連動して、タガネ22を駆動回転させながら溶接テーブル3を回転させ、溶接部位のスパッタ、溶接被膜並びにバリ等を除去する。溶接テーブル3が一回転すると、除去用シリンダ24の作動によりジェットタガネ23の回転駆動を停止させると共にジェットタガネ23の先端を退避位置へ退避させる。ジェットタガネ23の先端が退避位置へ退避すると、芯出し作動シリンダ6の作動により芯出し部13を上昇させて退避させると共に、開閉シリンダ27の作動によりカーテン7が開き、一連の作業が完了する。作業者は、箱体2の開口部から溶接品を取り出す。尚、ギヤ8の反対側の面も溶接する場合は、溶接品を上下反転させて(シャフト9の上下を反転させて)溶接テーブル3にセットし、開始スイッチ29を操作すれば、上記の一連の作業がなされてギヤ8の反対側の面も溶接される。
【0021】
これにより、溶接作業及びスパッタ除去作業を一連で自動的に行えるので、従来のように溶接した部品を溶接機の位置からスパッタ除去装置の位置まで移動する必要がなく、作業能率が向上する。また、溶接設備1は、溶接機構4とスパッタ除去機構5とを箱体の内部にコンパクトに配置すると共に、溶接作業及びスパッタ除去作業のための部品をセットするテーブルを溶接テーブル3で兼用しているため、省スペース化が図れ、また箱体2により構成しているため、設置が容易である。特に、副制御盤34が無く且つ開口部でない箱体2の側面を建物の壁等に密着させることができ、工場内等での設置が容易である。また、溶接機構4とスパッタ除去機構5とは同じ箱体2に支持されるので、溶接テーブル3に対する位置精度が安定し、溶接作業及びスパッタ除去作業を精度良く行える。
【0022】
以上により、この溶接設備1は、溶接トーチ15と一体の移動軸16と、該移動軸16の外周で該移動軸16を該軸16回りに回動自在で且つ該軸16方向に摺動自在に支持する支持部材17と、移動軸16を該軸16方向に摺動させるアクチュエータ19と、移動軸16の摺動位置に応じて該移動軸16の回動位置を規制する規制部20と、移動軸16と一体で前記規制部20に当接する案内部材21とを備え、案内部材21が当接する規制部20の規制面は移動軸16に対して斜めに傾く斜面を備えて屈曲する構成としている。また、規制部20において、溶接トーチ15が溶接位置に到達する移動端部となる部分20aは、移動軸16の方向と同一かあるいは他の部分の規制面20bに比較して最も移動軸16の方向に近い規制面としている。
【0023】
従って、アクチュエータ19の作動により、規制部20の斜面に規制されながら案内部材21が案内されることで、移動軸16が該軸16方向に摺動しながら該軸16回りに回動し、溶接トーチ15の先端(スパーク部)が大きく移動する。また、屈曲する規制部20の規制面により、移動軸16が該軸16の摺動量に対して該軸16回りの回動量を変えながら摺動及び回動し、溶接トーチ15の先端を移動方向を変えながら三次元的に移動させることができる。また、溶接トーチ15が溶接位置に到達するときあるいは溶接位置から離れるときは、移動軸16があまり回動せずに該軸16方向に摺動するため、アクチュエータ19の作動量に対する溶接トーチ15の先端の移動量を他の移動箇所に比較して小さく設定でき、溶接トーチ15の先端の移動速度を遅くできる。更に、溶接トーチ15の移動方向がアクチュエータ19の作動方向と同一かあるいはアクチュエータ19の作動方向に近くなり、溶接トーチ15の先端の移動経路を精度良く設定できる。
【0024】
よって、溶接トーチ15の先端を大きく移動させることができるので、小型のアクチュエータ19で且つ簡単な構造の移動装置としながら、溶接位置と退避位置との間での溶接トーチ15の移動においてアクチュエータ19の作動速度に対して溶接トーチ15の移動速度を速く設定することができて、溶接作業能率を向上させることができる。更に、移動装置をコンパクトで簡単な構造としながら、小型のアクチュエータ19で溶接トーチ15を移動方向を変えながら三次元的に移動させることができるので、複雑な制御装置等が不要になると共に溶接作業スペースを縮小でき、溶接作業のコストダウンが図れる。また、溶接トーチ15が溶接位置に到達するときあるいは溶接位置から離れるときは、溶接トーチ15の先端の移動速度を遅くでき、更に溶接トーチ15の先端の移動経路を精度良く設定できるので、溶接時に溶接トーチ15の先端を溶接位置に精度良く位置させることができ、溶接精度の向上が図れると共に、溶接トーチ15がその移動の誤差等により溶接品と干渉するようなこと(例えば、ギヤ8の歯部と干渉するようなこと)を防止でき、溶接品の不良の発生を抑えることができる。
【0025】
尚、図2に仮想線で示すように、案内突起21が係合するV字型の切欠き溝35aを備える位置決め治具35を、支持台18に支持させて追加してもよい。この位置決め治具35の切欠き溝35aは、規制溝20の下端に位置する案内突起21に対応する位置に設けられ、移動軸16がその移動で下端に位置するときに該軸16の回動位置を確実に固定する。これにより、溶接位置での溶接トーチ15の先端の位置精度が向上し、溶接精度の向上が図れる。尚、前記位置決め治具35に代えて、規制溝20の下端をV字型の形状にし、溶接トーチ15の先端の位置精度を向上させる構成としてもよい。
【0026】
また、シャフトの適宜位置に複数のギヤを溶接するような多段ギヤを溶接品とする場合、案内突起21が規制溝20に作用しないように組み替えると共に、前記案内突起21を横方向に移動させて移動軸16を回動させる各別のアクチュエータを設け、溶接トーチ15を横方向に移動できる構成とすれば、溶接トーチ15を上下のギヤに干渉しないように移動させることができ、溶接品の不良の発生を抑えることができる。
【0027】
また、異なるサイズの部品を溶接する場合や例えばパイプとフランジ等の異なる形態の部品を溶接する場合は、条件選択スイッチにより溶接条件を変更することにより対応できる。
【0028】
尚、上述の規制溝20は異なる2方向の溝を連設したものについて説明したが、その他に、規制溝20として、3種以上の溝を連設したものや、曲線状の溝を備えるものが考えられる。
【0029】
尚、上述では溶接の形態について特定しなかったが、例えばアーク溶接やガス溶接等が考えられ、この発明は溶接の形態が限定されるものではない。
ところで、例えばシャフト9の外周を溶接するとき、溶接のビードが組付後の他の部品と干渉しないようにするため、溶接位置によって溶接脚長を変更する必要がある場合がある。このとき、図3に示すように、円板状のドグ36を溶接テーブル3と一体回転するように取り付け、該ドグ36が取り付けられていることを検出する脚長変化有無センサ37と、該該ドグ36の外径変化を検出する脚長変化タイミングセンサ38とを設け、脚長変化有無センサ37及び脚長変化タイミングセンサ38が共にONとなると、制御部39を介してつまみ操作用モータ40を駆動し、該モータ40により溶接電流調節つまみ41を操作して溶接電流を変更し、所望の回転位相で溶接脚長を変化させることができる。このとき、つまみ操作用モータ40は、脚長変化有無センサ37及び脚長変化タイミングセンサ38のONに伴う制御部39からの指令でゆっくりと回転し、溶接電流調節つまみ41をゆっくりと操作することにより、脚長をゆるやかに変化させることができる。これにより、脚長変化時でも溶接ビードが安定して形成され、溶接強度の低下を防止できる。従来、デジタル制御の溶接機では、脚長変化の信号に伴って瞬時に溶接電流が変化し、安定したビード形成が困難であった。
【0030】
また、前述のような回転する溶接テーブル3を使わず、溶接トーチ側が溶接部品の周囲を移動しながら溶接する構成とした場合、図4(b)に示すような円弧状レール42を使用して溶接トーチ15を移動させることができる。すなわち、円弧状レール42を挟むように設けた計4個のガイドローラ43を基板44に備え、基板44を別途アクチュエータで円弧状レール42に沿って円弧状軌跡で移動するように構成すると共に、基板44にX軸移動用シリンダ45のシリンダロッド45aを固定し、該X軸移動用シリンダ45に直交するY軸移動用シリンダ46を固定し、該Y軸移動用シリンダ46のシリンダロッド46aと円弧状レール42に沿って移動するスライダ47との間に溶接トーチ15を取り付けて支持した構成としている。そして、X軸移動用シリンダ45及びY軸移動用シリンダ46を作動させない限り、基板44及び溶接トーチ15を円弧状レール42に沿って移動させても、溶接トーチ15の先端は、向きが変化するが、円弧状レール42による円弧状移動軌跡の中心からの距離が変わらずに該中心を常に向く構成としている。これにより、X軸移動用シリンダ45及びY軸移動用シリンダ46により溶接トーチ15の先端位置を適正に調節すれば、後は円弧状レール42に沿って溶接トーチ15を移動させれば、円形部品の外周に沿って溶接トーチ15の先端を移動させることができ、シャフトの周囲等の溶接を容易に行える。また、この機構を応用して溶接トーチ15の先端を円弧状移動軌跡の中心に位置させることにより、溶接部品を移動させて溶接するときに、円弧状レール42に沿って移動させて溶接トーチ15の角度のみを変更することができ、溶接のバリエーションが高まる。従来は、図4(a)に示すように、機体側にX軸移動用シリンダ45のシリンダロッド45aを固定し、該X軸移動用シリンダ45に直交するY軸移動用シリンダ46を固定し、該Y軸移動用シリンダ46のシリンダロッド46aと回動支点軸48との間で回動可能に溶接トーチ15を支持していたので、X軸移動用シリンダ45又はY軸移動用シリンダ46により溶接トーチ15の先端位置の調節をすると、溶接トーチ15の先端の向きも変わってしまい、溶接トーチ15の先端位置及び角度の調整が困難であり、この調整に時間を要していた。
【0031】
また、自動予熱溶接機においては、予熱用バーナーを備えているが、この予熱用バーナーの移動軌跡を、図5に示すように円弧状に設定することができる。この予熱用バーナー49は、待機位置Aから着火位置Bを介して予熱位置Cまで円弧状に移動する構成となっている。前記着火位置Bには種火部を設け、予熱用バーナー49が着火位置Bを通過することにより着火する構成となっている。また、ガスの使用量を最小にするため、自動運転開始で待機位置Aから予熱用バーナー49が移動し始めてからガスを供給し、予熱用バーナー49が予熱位置に到達した後、予熱が完了するとガスの供給を停止する構成としている。これにより、予熱用バーナー49の移動途中で着火させるため、ロスの発生が少なく、また予熱用バーナー49の移動途中でガスを供給するため、無駄なガスの流出を防止でき、更に予熱用バーナー49の移動機構はシンプルに構成できるため、メンテナンス性が向上する。従来は、予熱用バーナーの移動を停止した状態で着火させ、予熱用バーナー又はワークを移動していたので、着火後の移動開始で自動運転上での時間的ロスが発生し、作業能率の低下やガスの浪費を招くおそれがある。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】溶接設備を示す正面図
【図2】規制溝及び案内突起を示す側面図
【図3】溶接脚長の変更手段の概要を示す図
【図4】他の溶接トーチの移動機構を示す図
【図5】予熱用バーナーの移動軌跡を示す図
【符号の説明】
【0033】
15:溶接トーチ、16:移動軸、17:支持筒、19:移動シリンダ、20:規制溝、21:案内突起、20a:規制溝の下側部分、20b:規制溝の上側部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチ(15)と一体の移動軸(16)と、該移動軸(16)の外周で該移動軸(16)を該軸(16)回りに回動自在で且つ該軸(16)方向に摺動自在に支持する支持部材(17)と、移動軸(16)を該軸(16)方向に摺動させるアクチュエータ(19)と、移動軸(16)の摺動位置に応じて該移動軸(16)の回動位置を規制する規制部(20)と、移動軸(16)と一体で前記規制部(20)に当接する案内部材(21)とを備え、案内部材(21)が当接する規制部(20)の規制面は移動軸(16)に対して斜めに傾く斜面(20b)を備えて屈曲する構成とした溶接トーチの移動装置。
【請求項2】
規制部(20)において、溶接トーチ(15)が溶接位置に到達する移動端部となる部分(20a)は、移動軸(16)の方向と同一かあるいは他の部分(20b)の規制面に比較して最も移動軸(16)の方向に近い規制面とした請求項1に記載の溶接トーチの移動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−173679(P2008−173679A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−11905(P2007−11905)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】