溶接ワイヤの制御装置
【課題】 溶接電流が大きくなり、それによって溶接ワイヤ間に作用する電磁力が大きくなり、それによって従来技術2と同じく、各溶接ワイヤ先端の溶滴が接触、結合して、大きな溶滴を形成したとしても、スパッタを生じせしめないようにする。また、2本の溶接ワイヤ間の距離、傾き等の数値範囲に制約を設けないようにして溶接システムを構築する際の設計の自由度を確保するとともに、広範な溶接対象に対応できるようにして、汎用性の高い溶接システムを構築する。
【解決手段】
コントローラ40は、これら少なくとも2本の溶接ワイヤ11、12の送給速度V1、V2間に、当該少なくとも2本の溶接ワイヤ11、12により形成される溶滴51を高速側の溶接ワイヤ12で生成される溶滴で発生する溶滴中で内向きに作用する力により切断できる程度の速度差ΔVが設けられるように、溶接電流I1、I2の指示を溶接電源装置30に与える。
【解決手段】
コントローラ40は、これら少なくとも2本の溶接ワイヤ11、12の送給速度V1、V2間に、当該少なくとも2本の溶接ワイヤ11、12により形成される溶滴51を高速側の溶接ワイヤ12で生成される溶滴で発生する溶滴中で内向きに作用する力により切断できる程度の速度差ΔVが設けられるように、溶接電流I1、I2の指示を溶接電源装置30に与える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤの制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(従来技術1)
図1は、溶接ワイヤの制御装置の構成を示している。
【0003】
すなわち、溶接ワイヤの制御装置は、溶接トーチ10と、溶接トーチ10に溶接ワイヤ11を送給する送給装置20と、指示された電流に応じた送給速度で溶接ワイヤ11を送給させる溶接電源装置30と、溶接電源装置30に溶接電流を指示するコントローラ40とを備えて構成されている。溶接トーチ10は、図示しない溶接ロボットのアーム先端に取り付けられている。溶接ワイヤ11は、消耗電極であり、溶接電流の大きさ、送給速度の大きさに応じた速さで消耗する。
【0004】
溶接作業を高能率で行うためには、単位時間当りのワイヤ溶着量を大きくすればよい。そのためには、コントローラ40から溶接電源装置30に大電流の溶接電流を指示して、高速の送給速度で溶接ワイヤ11を送給させればよいことがわかっている。
【0005】
しかし、溶接電源装置30に指示される電流が一定レベルを超えると、アーク力が大きくなり過ぎ溶接ワイヤ11の先端から滴下される溶滴の一部がスパッタとなってしまい狙いとする溶接線上に落ちないことがある。このため高電流時には、低電流時と同様な平坦で外観の良好なビード形状を得ることが困難となっていた。これは溶接ワイヤ11の送給速度が大きくなることで過大なアーク力によって溶接ワイヤ11が回転するという回転アーク現象(ローティティング移行現象)が発生するためであると考えられている。このため従来は、スパッタを抑制し、良好なビード形状を得るために、1本の溶接ワイヤ11を送給する速度、つまり溶接電源装置30に指示する溶接電流の大きさに制限を加えるようにしていた。溶接ワイヤ11の径にもよるが、たとえば1本の溶接ワイヤ11当りの電流値は、500Aが上限となっていた。
【0006】
(従来技術2)
そこで、従来より、図2に示すように、送給装置20から溶接トーチ10に2本の溶接ワイヤ11、12が近接した位置関係で送給されるように構成し、1本の溶接ワイヤ11当りの電流値を減らす試みがなされていた。これは、同じ送給速度、同じ溶接電流を得ようとするときに、溶接ワイヤを2本とすることで1本の溶接ワイヤ当りのアーク力が分散されて、上記回転アーク現象を抑制できると考えられるからである。よって、たとえ2本の溶接ワイヤ11、12の合計の電流値が従来の上限値を超えたとしても、1本の溶接ワイヤ11当りの電流値が上限値を超えなければ、スパッタの発生を抑制しビードの外観を良好に保持しつつ、ワイヤ溶着量を従来よりも増やすことができると考えられる。
【0007】
しかし、実際には、スパッタの発生を抑制しビードの外観を良好に保持することはできない。
【0008】
すなわち、図3に示すように、2本の溶接ワイヤ11、12を等速で送給すると、各溶接ワイヤ11、12に溶接電流が流れることで、フレミングの左手の法則により溶接ワイヤ11、12同士が互いに引っ張り合う方向に電磁力が発生し(図3(a))、溶接ワイヤ11、12の先端で、溶滴が接触、結合して、大きな溶滴50を形成する(図3(b))。そして、この大きな溶滴50が溶融池に落下して飛散することで、大きなスパッタ60が発生し、ビードの外観品質が悪くなってしまう。
【0009】
(従来技術3)
特許文献1では、3本の溶接ワイヤを送給するモータへ与える指令信号に位相差を設け、これに応じて3本の溶接ワイヤに通電される溶接電流に同様の位相差を設けて、3本の溶接ワイヤ間に作用する電磁力を平均的に小さくするようにしている。これにより各溶接ワイヤ間に作用する電磁力に起因したスパッタを減少させるようにしている。
【0010】
(従来技術4)
特許文献2では、2本の溶接ワイヤの先行電極と後行電極のアーク発生点の間隔を10〜40mmに設定し、2本の溶接ワイヤのワイヤ径を1.2〜4.0mmの範囲に設定し、かつ先行電極のワイヤを後行電極のワイヤ径以下に設定し、先行電極角度を溶接線方向に対し0〜25°の後退角に設定し、後行電極角度を溶接線方向に対し0〜25°の前進角に設定し、先行電極の電流値と後行電極の電流値との比率を1.0〜1.3に設定して、溶接速度1mm/min以上で脚長が4mm以上のすみ肉溶接を行うという発明が記載されている。この発明では、2本の溶接ワイヤの各先端間に位置する溶融池に、安定した湯溜まりを形成するための条件を実験により求め、そのような条件となるように、2本の溶接ワイヤ間の距離、傾き等の数値範囲を定めている。
【特許文献1】特開昭63-140773号公報
【特許文献2】特開平2-280968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記従来技術3では、各溶接ワイヤ間に作用する電磁力を減らすようにしているが、各溶接ワイヤに通電される溶接電流の絶対値を大きくすればするほど、各溶接ワイヤ間に作用する電磁力が大きくなる点は、従来と同じであり、ある程度溶接電流を大きくすれば、従来技術2と同じく、各溶接ワイヤ先端の溶滴が接触、結合して、大きな溶滴を形成し、この大きな溶滴が溶融池に落下して飛散することで、大きなスパッタが発生することに変わりはない。
【0012】
上記従来技術4では、2本の溶接ワイヤの各先端間の溶融池に安定した湯溜まりを形成するための条件を実験により求め、そのような条件となるように、2本の溶接ワイヤ間の距離、傾き等の数値範囲を定めているが、その数値範囲は極めて狭い。このため溶接システムを構築する際に設計の自由度が制限されるとともに、溶接対象も極めて制限されたもになってしまう。これにより、広範な溶接対象に対応できなかったり、汎用性の高い溶接システムを構築することはできなかったりする。
【0013】
本発明はこうした実情に鑑みてなされたものであり、溶接電流が大きくなり、それによって溶接ワイヤ間に作用する電磁力が大きくなり、それによって従来技術2と同じく、各溶接ワイヤ先端の溶滴が接触、結合して、大きな溶滴を形成したとしても、スパッタを生じせしめないようにすることを解決課題とするものである(従来技術3の問題点)。また、2本の溶接ワイヤ間の距離、傾き等の数値範囲に制約を設けないようにして溶接システムを構築する際の設計の自由度を確保するとともに、広範な溶接対象に対応できるようにして、汎用性の高い溶接システムを構築することを解決課題とするものである(従来技術4の問題点)。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1発明は、
溶接トーチと、溶接トーチに溶接ワイヤを送給する送給装置と、指示された溶接電流に応じた送給速度で溶接ワイヤを送給させる溶接電源装置と、溶接電源装置に電流を指示するコントローラとを備えた溶接ワイヤの制御装置において、
送給装置から溶接トーチに少なくとも2本の溶接ワイヤが送給されるように構成し、
コントローラは、これら少なくとも2本の溶接ワイヤの送給速度間に、当該少なくとも2本の溶接ワイヤにより形成される溶滴を高速側の溶接ワイヤで生成する溶滴で発生する溶滴中で内向きに作用する力により切断できる程度の速度差が設けられるように、溶接電流指示を溶接電源装置に与えること
を特徴とする。
【0015】
第2発明は、第1発明において、
送給装置から溶接トーチに3本の溶接ワイヤが送給されるように構成し、
これら3本の溶接ワイヤの送給速度をそれぞれ高速、中速、低速に設定すること
を特徴とする。
【0016】
第3発明は、第1発明において、
送給装置から溶接トーチに3本の溶接ワイヤが送給されるように構成し、
これら3本の溶接ワイヤのうちいずれか1本の溶接ワイヤの送給速度を高速とし、他の2本の溶接ワイヤの送給速度を同一または略同一の低い速度に設定すること
を特徴とする。
【0017】
第4発明は、第1発明において、
送給装置から溶接トーチに4本以上の溶接ワイヤが送給されるように構成し、
これら4本以上の溶接ワイヤのうちいずれか1本の溶接ワイヤのみの送給速度を他の溶接ワイヤの送給速度よりも高速に設定すること
を特徴とする。
【0018】
第5発明は、第1発明において、
送給装置から溶接トーチに5本の溶接ワイヤが送給されるように構成し、
これら5本の溶接ワイヤのうちいずれか1本の溶接ワイヤを溶接トーチの中心に配置するとともに他の溶接ワイヤを溶接トーチの中心から外れた位置に配置して、
溶接トーチの中心に配置された溶接ワイヤの送給速度を高速とし、他の溶接ワイヤの送給速度を低い速度に設定すること
を特徴とする。
【0019】
第6発明は、第1発明において、
コントローラには、単位時間、単位面積当りの溶着量に応じて、各溶接ワイヤの送給速度と指示溶接電流との対応関係を示すデータテーブルが記憶されており、
コントローラは、データテーブルから、単位時間、単位面積当りの溶着量に応じた指示溶接電流、送給速度を読み出して、読み出された値に対応する溶接電流の指示を溶接電源装置に与えること
を特徴とする
第1発明の溶接ワイヤの制御装置は、図4に示すように、溶接トーチ10と、溶接トーチ10に溶接ワイヤ11、12を送給する送給装置20と、指示された溶接電流に応じた送給速度で溶接ワイヤ11、12を送給させる溶接電源装置30と、溶接電源装置30に溶接電流を指示するコントローラ40とを備えて構成されている。なお、溶接トーチ10は、図示しない溶接ロボットのアーム先端に取り付けられている。
【0020】
そして、送給装置20から溶接トーチ10に少なくとも2本の溶接ワイヤ11、12が送給されるように構成されている。
【0021】
コントローラ40は、これら少なくとも2本の溶接ワイヤ11、12の送給速度V1、V2間に、当該少なくとも2本の溶接ワイヤ11、12により形成される溶滴51を高速側の溶接ワイヤ12で生成される溶滴で発生する溶滴中で内向きに作用する力により切断できる程度の速度差ΔVが設けられるように、溶接電流I1、I2の指示を溶接電源装置30に与える。以下、「溶滴中で内向きに作用する力」のことを電磁ピンチ力というものとする。
【0022】
図5に示すように、2本の溶接ワイヤ11、12の送給速度V1、V2間に速度差ΔVが設けられて、一方の溶接ワイヤ11が高速で他方の溶接ワイヤ12が低速になっていると、両者を等速で送給する場合と同様に、各溶接ワイヤ11、12に溶接電流が流れることで、フレミングの左手の法則により溶接ワイヤ11、12同士が互いに引っ張り合う方向に電磁力が発生するものの(図5(a))、低速側の溶接ワイヤ12の先端は、高速側の溶接ワイヤ11の先端に引っ張られて溶滴が吸収され、細長い形状の溶滴51が形成される。細長い形状の溶滴51は、両溶接ワイヤ11、12が等速で送給されているときの溶滴50(図3(b))と比較して径が小さく、電磁ピンチ力Fによって容易に切断することが可能である。しかも、高速側の溶接ワイヤ11の先端部では、溶融池から輻射された輻射熱によって高温となっており、溶融したワイヤの粘性が低くなっている(図5(b))。このため高速側の溶接ワイヤ11の先端部で溶滴51は電磁ピンチ力Fによって容易に小さな溶滴に切断されて離脱され、溶融池に滴下される。このように本発明によれば、従来のようにスパッタ60(図3(c))が発生することなく、極めて安定して溶滴が狙いとする溶接線上に落ちる(図5(c))。
【0023】
本発明によれば、少なくとも2本の溶接ワイヤ11、12の送給速度V1、V2間に、当該少なくとも2本の溶接ワイヤ11、12により形成される溶滴51を高速側の溶接ワイヤ12で発生する電磁ピンチ力Fにより切断できる程度の速度差ΔVを設けるようにしたため、たとえ溶接電流が大きくなり、それによって複数の溶接ワイヤ間に作用する電磁力が大きくなり、その電磁力によって各溶接ワイヤ先端の溶滴が接触、結合して、大きな溶滴が形成されたとしても、その溶滴51の形状は細長い形状となる。このため溶滴51を小さな溶滴に安定して離脱させスパッタを発生させることなく溶融池に滴下させることができるようになる。これにより、従来技術3の問題点が解決される。
【0024】
また、本発明によれば、少なくとも2本の溶接ワイヤ11、12の送給速度V1、V2間に速度差ΔVを設けるだけでよく、従来技術4のごとく、2本の溶接ワイヤ間の距離、傾き等の数値範囲に制約を設ける必要はない。このため溶接システムを構築する際の設計の自由度が確保されるとともに、広範な溶接対象に対応できるようになり、汎用性の高い溶接システムを構築することができる。これにより従来技術4の問題点が解決される。
【0025】
第2発明では、図6(a)に示すように、送給装置20から溶接トーチ10に3本の溶接ワイヤ11、12、13が送給されるように構成されている。そして、これら3本の溶接ワイヤ11、12、13の送給速度がそれぞれ高速、中速、低速に設定される。
【0026】
第3発明では、図6(b)、(c)に示すように、送給装置20から溶接トーチ10に3本の溶接ワイヤ11、12、13が送給されるように構成されている。そして、これら3本の溶接ワイヤ11、12、13のうちいずれか1本の溶接ワイヤ11の送給速度が高速とされ、他の2本の溶接ワイヤ12、13の送給速度が低速あるいは中速といった同一または略同一の低い速度に設定される。第2発明、第3発明によれば、1本の高速側の溶接ワイヤ11の先端に他の溶接ワイヤ12、13の先端が引っ張られて溶滴が吸収される。
【0027】
第4発明では、図7(a)に示すように、送給装置20から溶接トーチ10に4本以上の溶接ワイヤ11、12、13,14が送給されるように構成されている。そして、これら4本以上の溶接ワイヤ11、12、13,14のうちいずれか1本の溶接ワイヤ11のみの送給速度が他の溶接ワイヤ12、13、14の送給速度よりも高速に設定される。たとえば、溶接ワイヤ11のみを高速で送給し、他の溶接ワイヤ12、13、14を低速もしくは中速で送給すると、1本の高速側の溶接ワイヤ11の先端に他の溶接ワイヤ12、13、14の先端が引っ張られて溶滴が吸収される。
【0028】
第5発明では、図7(b)に示すように、送給装置20から溶接トーチ10に5本の溶接ワイヤ11、12、13,14,15が送給されるように構成されている。そして、これら5本の溶接ワイヤ11、12、13,14,15のうちいずれか1本の溶接ワイヤ11が溶接トーチ10の中心に配置されるとともに他の溶接ワイヤ12、13、14、15が溶接トーチ10の中心から外れた位置に配置される。そして、溶接トーチ10の中心に配置された溶接ワイヤ11の送給速度が高速とされ、他の溶接ワイヤ12、13、14、15の送給速度が低い速度に設定される。たとえば、溶接ワイヤ11のみを高速で送給し、他の溶接ワイヤ12、13、14、15を低速もしくは中速で送給すると、1本の高速側の溶接ワイヤ11の先端に他の溶接ワイヤ12、13、14、15の先端が引っ張られて溶滴が吸収される。
【0029】
さて、母材80の板厚tに応じて母材80の熱容量が変化する。また溶接電流が大きくなるに伴いアーク力が大きくなり母材80に及ぼす熱負荷が大きくなる。
【0030】
必要溶着量は、母材80の板厚tと溶接速度Vにより決定される。板厚tが小さいほど、母材80の熱容量が小さいため、指示溶接電流Iを小さく設定する必要がある。
【0031】
このため第6発明では、図8に示すように、母材80でアンダーカットなどの溶接欠陥を生じさせないために必要な、各溶接ワイヤ11、12の送給速度V1、V2と指示溶接電流I(I1+I2)との対応関係が単位時間、単位面積当りの溶着量に応じてコントローラ40のデータテーブルに記憶されておかれる。コントローラ40は、データテーブルから、単位時間、単位面積当りの溶着量に応じた指示溶接電流I、送給速度V1、V2を読み出して、読み出された値に対応する溶接電流I1、I2の指示を溶接電源装置30に与える。これにより母材80でアンダーカットなどの溶接欠陥を生じさせないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、図面を参照して本発明に係る溶接ワイヤの制御装置の実施の形態について説明する。
【0033】
図4は、溶接ワイヤの制御装置の構成を示している。
【0034】
すなわち、溶接ワイヤの制御装置は、溶接トーチ10と、溶接トーチ10に溶接ワイヤ11、12を送給する送給装置20と、指示された溶接電流に応じた送給速度で溶接ワイヤ11、12を送給させる溶接電源装置30と、溶接電源装置30に溶接電流を指示するコントローラ40とを備えて構成されている。
【0035】
送給装置20は、溶接トーチ10に2本の溶接ワイヤ11、12を送給するように構成されている。送給装置20は、各溶接ワイヤ11,12毎に設けられた送給装置21、22からなる。
【0036】
溶接トーチ10は、図示しない溶接ロボットのアーム先端に取り付けられている。溶接ワイヤ11、12は、溶接トーチ10において接近して配置されている。
【0037】
溶接ワイヤ11、12はそれぞれ、消耗電極であり、溶接電流I1、I2の大きさ、送給速度V1、V2の大きさに応じた速さで消耗する。
【0038】
送給装置21、22は、速度指令に応じてワイヤ送りモータが駆動されることで、速度指令に応じた送り速度V1、V2で溶接ワイヤ11、12を繰り出し、溶接トーチ10の図示しない電極チップに送給する。電極チップと母材80は、溶接電極を構成する。溶接電極間には溶接電圧が印加される。これにより母材80と溶接ワイヤ11先端との間および母材80と溶接ワイヤ12先端との間でそれぞれ溶接電流I1、I2が通電され、アーク放電が発生する。アーク放電により発生する熱によって母材80の接合部が加熱、溶融されるとともに溶加材としての溶接ワイヤ11、12が加熱、溶融され、溶接ワイヤ11、12が溶接金属となって母材80の接合部が接合される。
【0039】
溶接電源装置30は、指示された溶接電流I1、I2が溶接ワイヤ11、12の先端と母材80との間に通電されるように、溶接電極間に溶接電圧を印加する。溶接電源装置30は、ワイヤ送給装置21、22のワイヤ送りモータに、送り速度指令に応じた電流を給電して溶接ワイヤ11、12を、速度指令に応じた送り速度V1、V2で溶接トーチ10に送給させる。
【0040】
コントローラ40は、2本の溶接ワイヤ11、12の送給速度V1、V2間に、これら2本の溶接ワイヤ11、12により形成される溶滴を高速側の溶接ワイヤで発生する電磁ピンチ力により切断できる程度の速度差ΔVが設けられるように、溶接電流I1、I2の指示を溶接電源装置30に与える。溶接ワイヤ11を高速側の溶接ワイヤとし、溶接ワイヤ12を低速側の溶接ワイヤとする
さて、母材80の板厚tに応じて母材80の熱容量が変化する。また溶接電流I1、I2の合計値Iが大きくなるに伴いアーク力が大きくなり母材80に及ぼす熱負荷が大きくなる。
【0041】
必要溶着量は、母材80の板厚tと溶接速度Vにより決定される。板厚tが小さいほど、母材80の熱容量が小さいため、指示溶接電流Iを小さく設定する必要がある。
【0042】
このため本実施例では、図8に示すように、母材80でアンダーカットなどの溶接欠陥を生じさせないために必要な、各溶接ワイヤ11、12の送給速度V1、V2と指示溶接電流I(I1+I2)との対応関係が単位時間、単位面積当りの溶着量、つまり板厚tと溶接速度Vに応じてコントローラ40のデータテーブルに記憶されておかれる。
【0043】
本実施例では、溶接速度Vを50(cm/min)と一定として、板厚tに対応して各溶接ワイヤ11、12の送給速度V1、V2と指示溶接電流I(I1+I2)との対応関係を定めている。
【0044】
図8のデータテーブルは、溶接ワイヤ11、12の径が1.2mmの場合のデータを例示している。母材80の板厚tの各値9、12、16、19(mm)に対応して、溶接電流I1、I2の合計電流Iの数値400、500、600、700(A)、高速側の溶接ワイヤ11の送給速度V1の各値10、12、17、28(m/min)、溶接ワイヤ11の送給速度V1の各値7、9、12、12(m/min)が定められている。
【0045】
コントローラ40は、データテーブルから、母材80の板厚tに応じた指示溶接電流I、送給速度V1、V2を読み出して、読み出された値に対応する溶接電流I1、I2の指示を溶接電源装置30に与える。
【0046】
高速側の溶接ワイヤ11に通電される溶接電流I1は、高速側の溶接ワイヤ11の送給速度V1に応じた値であり、次式より求められる。
【0047】
I1=I・(V1/V1+V2)
低速側の溶接ワイヤ12に通電される溶接電流I2は、低速側の溶接ワイヤ12の送給速度V2に応じた値であり、次式より求められる。
【0048】
I2=I・(V2/V1+V2)
これにより母材80でアンダーカットなどの溶接欠陥を生じさせないようにすることができる。
【0049】
つぎに、図5を参照して、本実施例の溶接現象を説明する。
【0050】
本実施例では、2本の溶接ワイヤ11、12の送給速度V1、V2間に速度差ΔVが設けられて、一方の溶接ワイヤ11が高速で他方の溶接ワイヤ12が低速になっている。
【0051】
このとき図3で説明したように、両溶接ワイヤ11、12を等速で送給する場合と同様に、各溶接ワイヤ11、12に溶接電流が流れることで、フレミングの左手の法則により溶接ワイヤ11、12同士が互いに引っ張り合う方向に電磁力が発生している(図5(a))。
ただし、溶接ワイヤ11、12間に速度差ΔVがあるため、低速側の溶接ワイヤ12の先端は、高速側の溶接ワイヤ11の先端に引っ張られて溶滴が吸収され、細長い形状の溶滴51が形成される。細長い形状の溶滴51は、両溶接ワイヤ11、12が等速で送給されているときの溶滴50(図3(b))と比較して径が小さく、電磁ピンチ力Fによって容易に切断することが可能である。電磁ピンチ力Fは、高速側の溶接ワイヤ11で生成される溶滴中で発生して、溶滴中で内向きに作用する。しかも、高速側の溶接ワイヤ11の先端部では、溶融池から輻射された輻射熱によって高温となっており、溶融したワイヤの粘性が低くなっている(図5(b))。
【0052】
このため高速側の溶接ワイヤ11の先端部で溶滴51は電磁ピンチ力Fによって容易に小さな溶滴に切断されて離脱され、溶融池に滴下される。このように本実施例によれば、従来のようにスパッタ60(図3(c))が発生することなく、極めて安定して溶滴が狙いとする溶接線上に落ちることになる(図5(c))。なお、図5(c)は、小さな溶滴が連続的に溶融池に滴下される様子を高速度カメラで捉えた様子を示している。
【0053】
以上のように本実施例によれば、2本の溶接ワイヤ11、12の送給速度V1、V2間に、これら2本の溶接ワイヤ11、12により形成される溶滴51を高速側の溶接ワイヤ12で発生する電磁ピンチ力Fにより切断できる程度の速度差ΔVを設けるようにしたため、たとえ溶接電流が大きくなり、それによって複数の溶接ワイヤ間に作用する電磁力が大きくなり、その電磁力によって各溶接ワイヤ先端の溶滴が接触、結合して、大きな溶滴が形成されたとしても、その溶滴51の形状は細長い形状となる。このため溶滴51を小さな溶滴に安定して離脱させスパッタを発生させることなく溶融池に滴下させることができるようになる。これにより、従来技術3の問題点が解決される。
【0054】
また、本実施例によれば、2本の溶接ワイヤ11、12の送給速度V1、V2間に速度差ΔVを設けるだけでよく、従来技術4のごとく、2本の溶接ワイヤ間の距離、傾き等の数値範囲に制約を設ける必要はない。このため溶接システムを構築する際の設計の自由度が確保されるとともに、広範な溶接対象に対応できるようになり、汎用性の高い溶接システムを構築することができる。これにより従来技術4の問題点が解決される。
【0055】
図9、図10、図11、図12は、本実施例の効果を数値として明らかにするために行った実験結果を説明する図である。
【0056】
図9は、実験に使用した溶接ワイヤの用途、品名、規格、成分を表にして示す。溶接ワイヤは、用途「炭素鋼用」、品名「Z026」、規格「JIS YGW11」、溶着金属中の化学成分C、Si、Mn、Cr、Mo、Ni(重量%)「0.11、0.55、1.31、−、−、−」のものを使用した。溶接ワイヤは、直径1.2mmで、KISWEL社製である。
【0057】
図10は、実験に使用した母材81を示す。
【0058】
母材81は、SS材(SS400)を用いた。母材81の厚さは、22mmで、縦、横の長さがそれぞれ300mm、200mmのものを用いた。
【0059】
溶接条件は、つぎのとおりである。すなわち、Ar、CO2の体積比率Ar:CO2が8:2となる混合ガスをシールドガスとして用いた。また溶接電流I、つまり2本の溶接電流I1、I2の合計値は、700Aとした。溶接ワイヤ11、12は、前述の図9に示すものを用いた。
【0060】
上記溶接条件で溶接を行い、母材81の中心に、縦方向に沿って100mmの長さのビードを形成した。そして、そのときに母材81上に付着されたスパッタの数をカウントした。ただし、スパッタは、皮手、鋼尺で擦って取れないものを数えた。
【0061】
図2、図3で前述した従来技術、つまり2本の溶接ワイヤ11、12を等速で送給した場合を比較例とした。
【0062】
図11は、実験結果を表にて示す。図11は、母材81上でカウントされたスパッタの数を、本実施例(「速度差有」)と比較例(「等速」)とで対比したものである。スパッタの径の大きさ範囲「0.5〜1.0mm」、「1.0〜2.0mm」、「2.0mm〜」毎にカウントした数値を示している。実験は、本実施例では3回行った。これを表ではテストナンバー(1)、(2)、(3)と示している。実験は、比較例では3回行った。これを表では、テストナンバー(4)、(5)、(6)と示している。
【0063】
図12は、実験結果を棒グラフにて示す。図12の横軸は、本実施例(「速度差有」)のテストナンバー(1)、(2)、(3)、比較例(「等速」)のテストナンバー(4)、(5)、(6)であり、図12の縦軸は、各テストナンバーごとのスパッタのカウント値、つまり母材81に付着されたスパッタ数である。棒グラフ中の白抜き部分は、径が「0.5〜1.0mm」の範囲のスパッタの数であり、同棒グラフ中の斜線部分は、径が「1.0〜2.0mm」の範囲のスパッタの数であり、同棒グラフ中の黒部分は、径が「2.0mm〜」の範囲のスパッタの数である。
【0064】
図11、図12をみて明らかなように、本実施例によれば、従来技術と比較して母材に付着されるスパッタの数が圧倒的に小さくなっているのがわかる。このため本実施例によれば、スパッタの発生を抑制できビードの外観を良好に保持することができ溶接品を極めて高品質なものとすることができる。
【0065】
上述した実施例では、溶接トーチ10に2本の溶接ワイヤ11、12を配置して、これら2本の溶接ワイヤ11、12の送給速度V1、V2間に速度差ΔVを設けた場合を想定した。しかし、本発明は、溶接トーチ10に3本以上の溶接ワイヤ11、12を配置した場合にも同様に適用することができる。溶接トーチ10に3本以上の溶接ワイヤ11、12…を配置した場合には、それら3本以上の溶接ワイヤ11、12…のうち少なくとも2本の溶接ワイヤの送給速度間に速度差ΔVを設ければよい。以下、各実施例について説明する。
【0066】
図6(a)、(b)は、溶接トーチ10に3本の溶接ワイヤ11、12、13を配置した装置構成を例示している。図6(a)、(b)はそれぞれ、図5(c)に対応する図で、溶接ワイヤ11、12、13の先端で大きな溶滴ではあるが細長い形状の溶滴51が形成されており、高速側の溶接ワイヤ11の先端部で溶滴51が小さな溶滴に切断されて離脱され、溶融池に滴下される様子を示している。
【0067】
図6(a)、(b)、(c)の装置では、送給装置20は、溶接トーチ10に3本の溶接ワイヤ11、12、13を送給するように構成される。溶接ワイヤ11、12、13は、溶接トーチ10において接近して配置されている。
【0068】
図6(a)の装置では、3本の溶接ワイヤ11、12、13の送給速度はそれぞれ、高速、中速、低速に設定される。
【0069】
図6(b)の装置では、3本の溶接ワイヤ11、12、13のうち1本の溶接ワイヤ11の送給速度が高速とされ、他の2本の溶接ワイヤ12、13の送給速度が中速に設定される。これら2本の溶接ワイヤ12、13の速度(中速)は、同一または略同一の値に設定される。
【0070】
図6(c)の装置では、図6(b)の場合よりも、高速側の溶接ワイヤ11と他の溶接ワイヤ12、13との間に大きな速度差ΔVが設けられる。
【0071】
図6(c)の装置では、3本の溶接ワイヤ11、12、13のうち1本の溶接ワイヤ11の送給速度が高速とされ、他の2本の溶接ワイヤ12、13の送給速度が低速に設定される。これら2本の溶接ワイヤ12、13の速度(低速)は、同一または略同一の値に設定される。
【0072】
図6に示す各実施例によれば、図5を用いて説明した実施例と同様に、1本の高速側の溶接ワイヤ11の先端に他の溶接ワイヤ12、13の先端が引っ張られて溶滴が吸収される。このため、同様に、溶接ワイヤ11、12、13の先端で大きな溶滴ではあるが細長い形状の溶滴51が形成され、高速側の溶接ワイヤ11の先端部で溶滴51が小さな溶滴に容易に切断されて離脱され、溶融池に滴下されることになる。
【0073】
図7(a)は、溶接トーチ10に4本の溶接ワイヤ11、12、13、14を配置した装置構成を例示している。図7(a)は、図5(c)に対応する図で、溶接ワイヤ11、12、13、14の先端で大きな溶滴ではあるが細長い形状の溶滴51が形成されており、高速側の溶接ワイヤ11の先端部で溶滴51が小さな溶滴に切断されて離脱され、溶融池に滴下される様子を示している。
【0074】
図7(a)の装置では、送給装置20は、溶接トーチ10に4本の溶接ワイヤ11、12、13、14を送給するように構成される。溶接ワイヤ11、12、13、14は、溶接トーチ10において接近して配置されている。
【0075】
図7(a)の装置では、4本の溶接ワイヤ11、12、13、14のうち1本の溶接ワイヤ11のみの送給速度が他の溶接ワイヤ12、13、14の送給速度よりも高速に設定される。たとえば、溶接ワイヤ11のみが高速で送給され、他の溶接ワイヤ12、13、14が低速もしくは中速で送給される。
【0076】
図7(a)に示す実施例によれば、図5を用いて説明した実施例と同様に、1本の高速側の溶接ワイヤ11の先端に他の溶接ワイヤ12、13、14の先端が引っ張られて溶滴が吸収される。このため、同様に、溶接ワイヤ11、12、13、14の先端で大きな溶滴ではあるが細長い形状の溶滴51が形成され、高速側の溶接ワイヤ11の先端部で溶滴51が小さな溶滴に容易に切断されて離脱され、溶融池に滴下されることになる。
【0077】
図7(b)は、溶接トーチ10に5本の溶接ワイヤ11、12、13、14、15を配置した装置構成を例示している。図7(b)は、図5(c)に対応する図で、溶接ワイヤ11、12、13、14、15の先端で大きな溶滴ではあるが細長い形状の溶滴51が形成されており、高速側の溶接ワイヤ11の先端部で溶滴51が小さな溶滴に切断されて離脱され、溶融池に滴下される様子を示している。
【0078】
図7(b)の装置では、送給装置20は、溶接トーチ10に5本の溶接ワイヤ11、12、13、14、15を送給するように構成される。溶接ワイヤ11、12、13、1415は、溶接トーチ10において接近して配置されている。ただし、これら5本の溶接ワイヤ11、12、13,14,15のうち1本の溶接ワイヤ11が溶接トーチ10の中心に配置されるとともに他の溶接ワイヤ12、13、14、15が溶接トーチ10の中心から外れた位置に配置される。
【0079】
そして、溶接トーチ10の中心の1本の溶接ワイヤ11のみの送給速度が他の溶接ワイヤ12、13、14、15の送給速度よりも高速に設定される。たとえば、溶接ワイヤ11のみが高速で送給され、他の溶接ワイヤ12、13、14、15が低速もしくは中速で送給される。
【0080】
図7(b)に示す実施例によれば、図5を用いて説明した実施例と同様に、1本の高速側の溶接ワイヤ11の先端に他の溶接ワイヤ12、13、14、15の先端が引っ張られて溶滴が吸収される。このため、同様に、溶接ワイヤ11、12、13、14、15の先端で大きな溶滴ではあるが細長い形状の溶滴51が形成され、高速側の溶接ワイヤ11の先端部で溶滴51が小さな溶滴に容易に切断されて離脱され、溶融池に滴下されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1は、1本の溶接ワイヤを制御する装置の構成を示した図である。
【図2】図2は、2本の溶接ワイヤを等速で送給する制御装置の構成を示した図である。
【図3】図3(a)、(b)、(c)は、2本の溶接ワイヤを等速で送給した場合の溶接現象を説明する図である。
【図4】図4は、2本の溶接ワイヤを制御する装置の構成を示した図である。
【図5】図5(a)、(b)、(c)は、2本の溶接ワイヤの送給速度間に速度差を設けて送給した場合の溶接現象を説明する図である。
【図6】図6(a)、(b)は、溶接トーチに3本の溶接ワイヤを配置した装置構成を例示して溶接現象を説明する図である。
【図7】図7(a)は、溶接トーチに4本の溶接ワイヤを配置した装置構成を例示して溶接現象を説明する図で、図7(b)は、溶接トーチに5本の溶接ワイヤを配置した装置構成を例示して溶接現象を説明する図である。
【図8】図8は、コントローラに記憶されるデータテーブルの内容を例示した図である。
【図9】図9は、本実施例の効果を数値として明らかにするために行った実験結果を説明する図で、実験に使用した溶接ワイヤの用途、品名、規格、成分を表にして示した図である。
【図10】図10は、本実施例の効果を数値として明らかにするために行った実験結果を説明する図で、実験に使用した母材を示した図である。
【図11】図11は、本実施例の効果を数値として明らかにするために行った実験結果を説明する図で、実験結果を表にて示した図である。
【図12】図12は、本実施例の効果を数値として明らかにするために行った実験結果を説明する図で、実験結果を棒グラフにて示した図である。
【符号の説明】
【0082】
10 溶接トーチ、11、12、13、14、15 溶接ワイヤ、20、21、22 送給装置、30 溶接電源装置、40 コントローラ
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤの制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(従来技術1)
図1は、溶接ワイヤの制御装置の構成を示している。
【0003】
すなわち、溶接ワイヤの制御装置は、溶接トーチ10と、溶接トーチ10に溶接ワイヤ11を送給する送給装置20と、指示された電流に応じた送給速度で溶接ワイヤ11を送給させる溶接電源装置30と、溶接電源装置30に溶接電流を指示するコントローラ40とを備えて構成されている。溶接トーチ10は、図示しない溶接ロボットのアーム先端に取り付けられている。溶接ワイヤ11は、消耗電極であり、溶接電流の大きさ、送給速度の大きさに応じた速さで消耗する。
【0004】
溶接作業を高能率で行うためには、単位時間当りのワイヤ溶着量を大きくすればよい。そのためには、コントローラ40から溶接電源装置30に大電流の溶接電流を指示して、高速の送給速度で溶接ワイヤ11を送給させればよいことがわかっている。
【0005】
しかし、溶接電源装置30に指示される電流が一定レベルを超えると、アーク力が大きくなり過ぎ溶接ワイヤ11の先端から滴下される溶滴の一部がスパッタとなってしまい狙いとする溶接線上に落ちないことがある。このため高電流時には、低電流時と同様な平坦で外観の良好なビード形状を得ることが困難となっていた。これは溶接ワイヤ11の送給速度が大きくなることで過大なアーク力によって溶接ワイヤ11が回転するという回転アーク現象(ローティティング移行現象)が発生するためであると考えられている。このため従来は、スパッタを抑制し、良好なビード形状を得るために、1本の溶接ワイヤ11を送給する速度、つまり溶接電源装置30に指示する溶接電流の大きさに制限を加えるようにしていた。溶接ワイヤ11の径にもよるが、たとえば1本の溶接ワイヤ11当りの電流値は、500Aが上限となっていた。
【0006】
(従来技術2)
そこで、従来より、図2に示すように、送給装置20から溶接トーチ10に2本の溶接ワイヤ11、12が近接した位置関係で送給されるように構成し、1本の溶接ワイヤ11当りの電流値を減らす試みがなされていた。これは、同じ送給速度、同じ溶接電流を得ようとするときに、溶接ワイヤを2本とすることで1本の溶接ワイヤ当りのアーク力が分散されて、上記回転アーク現象を抑制できると考えられるからである。よって、たとえ2本の溶接ワイヤ11、12の合計の電流値が従来の上限値を超えたとしても、1本の溶接ワイヤ11当りの電流値が上限値を超えなければ、スパッタの発生を抑制しビードの外観を良好に保持しつつ、ワイヤ溶着量を従来よりも増やすことができると考えられる。
【0007】
しかし、実際には、スパッタの発生を抑制しビードの外観を良好に保持することはできない。
【0008】
すなわち、図3に示すように、2本の溶接ワイヤ11、12を等速で送給すると、各溶接ワイヤ11、12に溶接電流が流れることで、フレミングの左手の法則により溶接ワイヤ11、12同士が互いに引っ張り合う方向に電磁力が発生し(図3(a))、溶接ワイヤ11、12の先端で、溶滴が接触、結合して、大きな溶滴50を形成する(図3(b))。そして、この大きな溶滴50が溶融池に落下して飛散することで、大きなスパッタ60が発生し、ビードの外観品質が悪くなってしまう。
【0009】
(従来技術3)
特許文献1では、3本の溶接ワイヤを送給するモータへ与える指令信号に位相差を設け、これに応じて3本の溶接ワイヤに通電される溶接電流に同様の位相差を設けて、3本の溶接ワイヤ間に作用する電磁力を平均的に小さくするようにしている。これにより各溶接ワイヤ間に作用する電磁力に起因したスパッタを減少させるようにしている。
【0010】
(従来技術4)
特許文献2では、2本の溶接ワイヤの先行電極と後行電極のアーク発生点の間隔を10〜40mmに設定し、2本の溶接ワイヤのワイヤ径を1.2〜4.0mmの範囲に設定し、かつ先行電極のワイヤを後行電極のワイヤ径以下に設定し、先行電極角度を溶接線方向に対し0〜25°の後退角に設定し、後行電極角度を溶接線方向に対し0〜25°の前進角に設定し、先行電極の電流値と後行電極の電流値との比率を1.0〜1.3に設定して、溶接速度1mm/min以上で脚長が4mm以上のすみ肉溶接を行うという発明が記載されている。この発明では、2本の溶接ワイヤの各先端間に位置する溶融池に、安定した湯溜まりを形成するための条件を実験により求め、そのような条件となるように、2本の溶接ワイヤ間の距離、傾き等の数値範囲を定めている。
【特許文献1】特開昭63-140773号公報
【特許文献2】特開平2-280968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記従来技術3では、各溶接ワイヤ間に作用する電磁力を減らすようにしているが、各溶接ワイヤに通電される溶接電流の絶対値を大きくすればするほど、各溶接ワイヤ間に作用する電磁力が大きくなる点は、従来と同じであり、ある程度溶接電流を大きくすれば、従来技術2と同じく、各溶接ワイヤ先端の溶滴が接触、結合して、大きな溶滴を形成し、この大きな溶滴が溶融池に落下して飛散することで、大きなスパッタが発生することに変わりはない。
【0012】
上記従来技術4では、2本の溶接ワイヤの各先端間の溶融池に安定した湯溜まりを形成するための条件を実験により求め、そのような条件となるように、2本の溶接ワイヤ間の距離、傾き等の数値範囲を定めているが、その数値範囲は極めて狭い。このため溶接システムを構築する際に設計の自由度が制限されるとともに、溶接対象も極めて制限されたもになってしまう。これにより、広範な溶接対象に対応できなかったり、汎用性の高い溶接システムを構築することはできなかったりする。
【0013】
本発明はこうした実情に鑑みてなされたものであり、溶接電流が大きくなり、それによって溶接ワイヤ間に作用する電磁力が大きくなり、それによって従来技術2と同じく、各溶接ワイヤ先端の溶滴が接触、結合して、大きな溶滴を形成したとしても、スパッタを生じせしめないようにすることを解決課題とするものである(従来技術3の問題点)。また、2本の溶接ワイヤ間の距離、傾き等の数値範囲に制約を設けないようにして溶接システムを構築する際の設計の自由度を確保するとともに、広範な溶接対象に対応できるようにして、汎用性の高い溶接システムを構築することを解決課題とするものである(従来技術4の問題点)。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1発明は、
溶接トーチと、溶接トーチに溶接ワイヤを送給する送給装置と、指示された溶接電流に応じた送給速度で溶接ワイヤを送給させる溶接電源装置と、溶接電源装置に電流を指示するコントローラとを備えた溶接ワイヤの制御装置において、
送給装置から溶接トーチに少なくとも2本の溶接ワイヤが送給されるように構成し、
コントローラは、これら少なくとも2本の溶接ワイヤの送給速度間に、当該少なくとも2本の溶接ワイヤにより形成される溶滴を高速側の溶接ワイヤで生成する溶滴で発生する溶滴中で内向きに作用する力により切断できる程度の速度差が設けられるように、溶接電流指示を溶接電源装置に与えること
を特徴とする。
【0015】
第2発明は、第1発明において、
送給装置から溶接トーチに3本の溶接ワイヤが送給されるように構成し、
これら3本の溶接ワイヤの送給速度をそれぞれ高速、中速、低速に設定すること
を特徴とする。
【0016】
第3発明は、第1発明において、
送給装置から溶接トーチに3本の溶接ワイヤが送給されるように構成し、
これら3本の溶接ワイヤのうちいずれか1本の溶接ワイヤの送給速度を高速とし、他の2本の溶接ワイヤの送給速度を同一または略同一の低い速度に設定すること
を特徴とする。
【0017】
第4発明は、第1発明において、
送給装置から溶接トーチに4本以上の溶接ワイヤが送給されるように構成し、
これら4本以上の溶接ワイヤのうちいずれか1本の溶接ワイヤのみの送給速度を他の溶接ワイヤの送給速度よりも高速に設定すること
を特徴とする。
【0018】
第5発明は、第1発明において、
送給装置から溶接トーチに5本の溶接ワイヤが送給されるように構成し、
これら5本の溶接ワイヤのうちいずれか1本の溶接ワイヤを溶接トーチの中心に配置するとともに他の溶接ワイヤを溶接トーチの中心から外れた位置に配置して、
溶接トーチの中心に配置された溶接ワイヤの送給速度を高速とし、他の溶接ワイヤの送給速度を低い速度に設定すること
を特徴とする。
【0019】
第6発明は、第1発明において、
コントローラには、単位時間、単位面積当りの溶着量に応じて、各溶接ワイヤの送給速度と指示溶接電流との対応関係を示すデータテーブルが記憶されており、
コントローラは、データテーブルから、単位時間、単位面積当りの溶着量に応じた指示溶接電流、送給速度を読み出して、読み出された値に対応する溶接電流の指示を溶接電源装置に与えること
を特徴とする
第1発明の溶接ワイヤの制御装置は、図4に示すように、溶接トーチ10と、溶接トーチ10に溶接ワイヤ11、12を送給する送給装置20と、指示された溶接電流に応じた送給速度で溶接ワイヤ11、12を送給させる溶接電源装置30と、溶接電源装置30に溶接電流を指示するコントローラ40とを備えて構成されている。なお、溶接トーチ10は、図示しない溶接ロボットのアーム先端に取り付けられている。
【0020】
そして、送給装置20から溶接トーチ10に少なくとも2本の溶接ワイヤ11、12が送給されるように構成されている。
【0021】
コントローラ40は、これら少なくとも2本の溶接ワイヤ11、12の送給速度V1、V2間に、当該少なくとも2本の溶接ワイヤ11、12により形成される溶滴51を高速側の溶接ワイヤ12で生成される溶滴で発生する溶滴中で内向きに作用する力により切断できる程度の速度差ΔVが設けられるように、溶接電流I1、I2の指示を溶接電源装置30に与える。以下、「溶滴中で内向きに作用する力」のことを電磁ピンチ力というものとする。
【0022】
図5に示すように、2本の溶接ワイヤ11、12の送給速度V1、V2間に速度差ΔVが設けられて、一方の溶接ワイヤ11が高速で他方の溶接ワイヤ12が低速になっていると、両者を等速で送給する場合と同様に、各溶接ワイヤ11、12に溶接電流が流れることで、フレミングの左手の法則により溶接ワイヤ11、12同士が互いに引っ張り合う方向に電磁力が発生するものの(図5(a))、低速側の溶接ワイヤ12の先端は、高速側の溶接ワイヤ11の先端に引っ張られて溶滴が吸収され、細長い形状の溶滴51が形成される。細長い形状の溶滴51は、両溶接ワイヤ11、12が等速で送給されているときの溶滴50(図3(b))と比較して径が小さく、電磁ピンチ力Fによって容易に切断することが可能である。しかも、高速側の溶接ワイヤ11の先端部では、溶融池から輻射された輻射熱によって高温となっており、溶融したワイヤの粘性が低くなっている(図5(b))。このため高速側の溶接ワイヤ11の先端部で溶滴51は電磁ピンチ力Fによって容易に小さな溶滴に切断されて離脱され、溶融池に滴下される。このように本発明によれば、従来のようにスパッタ60(図3(c))が発生することなく、極めて安定して溶滴が狙いとする溶接線上に落ちる(図5(c))。
【0023】
本発明によれば、少なくとも2本の溶接ワイヤ11、12の送給速度V1、V2間に、当該少なくとも2本の溶接ワイヤ11、12により形成される溶滴51を高速側の溶接ワイヤ12で発生する電磁ピンチ力Fにより切断できる程度の速度差ΔVを設けるようにしたため、たとえ溶接電流が大きくなり、それによって複数の溶接ワイヤ間に作用する電磁力が大きくなり、その電磁力によって各溶接ワイヤ先端の溶滴が接触、結合して、大きな溶滴が形成されたとしても、その溶滴51の形状は細長い形状となる。このため溶滴51を小さな溶滴に安定して離脱させスパッタを発生させることなく溶融池に滴下させることができるようになる。これにより、従来技術3の問題点が解決される。
【0024】
また、本発明によれば、少なくとも2本の溶接ワイヤ11、12の送給速度V1、V2間に速度差ΔVを設けるだけでよく、従来技術4のごとく、2本の溶接ワイヤ間の距離、傾き等の数値範囲に制約を設ける必要はない。このため溶接システムを構築する際の設計の自由度が確保されるとともに、広範な溶接対象に対応できるようになり、汎用性の高い溶接システムを構築することができる。これにより従来技術4の問題点が解決される。
【0025】
第2発明では、図6(a)に示すように、送給装置20から溶接トーチ10に3本の溶接ワイヤ11、12、13が送給されるように構成されている。そして、これら3本の溶接ワイヤ11、12、13の送給速度がそれぞれ高速、中速、低速に設定される。
【0026】
第3発明では、図6(b)、(c)に示すように、送給装置20から溶接トーチ10に3本の溶接ワイヤ11、12、13が送給されるように構成されている。そして、これら3本の溶接ワイヤ11、12、13のうちいずれか1本の溶接ワイヤ11の送給速度が高速とされ、他の2本の溶接ワイヤ12、13の送給速度が低速あるいは中速といった同一または略同一の低い速度に設定される。第2発明、第3発明によれば、1本の高速側の溶接ワイヤ11の先端に他の溶接ワイヤ12、13の先端が引っ張られて溶滴が吸収される。
【0027】
第4発明では、図7(a)に示すように、送給装置20から溶接トーチ10に4本以上の溶接ワイヤ11、12、13,14が送給されるように構成されている。そして、これら4本以上の溶接ワイヤ11、12、13,14のうちいずれか1本の溶接ワイヤ11のみの送給速度が他の溶接ワイヤ12、13、14の送給速度よりも高速に設定される。たとえば、溶接ワイヤ11のみを高速で送給し、他の溶接ワイヤ12、13、14を低速もしくは中速で送給すると、1本の高速側の溶接ワイヤ11の先端に他の溶接ワイヤ12、13、14の先端が引っ張られて溶滴が吸収される。
【0028】
第5発明では、図7(b)に示すように、送給装置20から溶接トーチ10に5本の溶接ワイヤ11、12、13,14,15が送給されるように構成されている。そして、これら5本の溶接ワイヤ11、12、13,14,15のうちいずれか1本の溶接ワイヤ11が溶接トーチ10の中心に配置されるとともに他の溶接ワイヤ12、13、14、15が溶接トーチ10の中心から外れた位置に配置される。そして、溶接トーチ10の中心に配置された溶接ワイヤ11の送給速度が高速とされ、他の溶接ワイヤ12、13、14、15の送給速度が低い速度に設定される。たとえば、溶接ワイヤ11のみを高速で送給し、他の溶接ワイヤ12、13、14、15を低速もしくは中速で送給すると、1本の高速側の溶接ワイヤ11の先端に他の溶接ワイヤ12、13、14、15の先端が引っ張られて溶滴が吸収される。
【0029】
さて、母材80の板厚tに応じて母材80の熱容量が変化する。また溶接電流が大きくなるに伴いアーク力が大きくなり母材80に及ぼす熱負荷が大きくなる。
【0030】
必要溶着量は、母材80の板厚tと溶接速度Vにより決定される。板厚tが小さいほど、母材80の熱容量が小さいため、指示溶接電流Iを小さく設定する必要がある。
【0031】
このため第6発明では、図8に示すように、母材80でアンダーカットなどの溶接欠陥を生じさせないために必要な、各溶接ワイヤ11、12の送給速度V1、V2と指示溶接電流I(I1+I2)との対応関係が単位時間、単位面積当りの溶着量に応じてコントローラ40のデータテーブルに記憶されておかれる。コントローラ40は、データテーブルから、単位時間、単位面積当りの溶着量に応じた指示溶接電流I、送給速度V1、V2を読み出して、読み出された値に対応する溶接電流I1、I2の指示を溶接電源装置30に与える。これにより母材80でアンダーカットなどの溶接欠陥を生じさせないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、図面を参照して本発明に係る溶接ワイヤの制御装置の実施の形態について説明する。
【0033】
図4は、溶接ワイヤの制御装置の構成を示している。
【0034】
すなわち、溶接ワイヤの制御装置は、溶接トーチ10と、溶接トーチ10に溶接ワイヤ11、12を送給する送給装置20と、指示された溶接電流に応じた送給速度で溶接ワイヤ11、12を送給させる溶接電源装置30と、溶接電源装置30に溶接電流を指示するコントローラ40とを備えて構成されている。
【0035】
送給装置20は、溶接トーチ10に2本の溶接ワイヤ11、12を送給するように構成されている。送給装置20は、各溶接ワイヤ11,12毎に設けられた送給装置21、22からなる。
【0036】
溶接トーチ10は、図示しない溶接ロボットのアーム先端に取り付けられている。溶接ワイヤ11、12は、溶接トーチ10において接近して配置されている。
【0037】
溶接ワイヤ11、12はそれぞれ、消耗電極であり、溶接電流I1、I2の大きさ、送給速度V1、V2の大きさに応じた速さで消耗する。
【0038】
送給装置21、22は、速度指令に応じてワイヤ送りモータが駆動されることで、速度指令に応じた送り速度V1、V2で溶接ワイヤ11、12を繰り出し、溶接トーチ10の図示しない電極チップに送給する。電極チップと母材80は、溶接電極を構成する。溶接電極間には溶接電圧が印加される。これにより母材80と溶接ワイヤ11先端との間および母材80と溶接ワイヤ12先端との間でそれぞれ溶接電流I1、I2が通電され、アーク放電が発生する。アーク放電により発生する熱によって母材80の接合部が加熱、溶融されるとともに溶加材としての溶接ワイヤ11、12が加熱、溶融され、溶接ワイヤ11、12が溶接金属となって母材80の接合部が接合される。
【0039】
溶接電源装置30は、指示された溶接電流I1、I2が溶接ワイヤ11、12の先端と母材80との間に通電されるように、溶接電極間に溶接電圧を印加する。溶接電源装置30は、ワイヤ送給装置21、22のワイヤ送りモータに、送り速度指令に応じた電流を給電して溶接ワイヤ11、12を、速度指令に応じた送り速度V1、V2で溶接トーチ10に送給させる。
【0040】
コントローラ40は、2本の溶接ワイヤ11、12の送給速度V1、V2間に、これら2本の溶接ワイヤ11、12により形成される溶滴を高速側の溶接ワイヤで発生する電磁ピンチ力により切断できる程度の速度差ΔVが設けられるように、溶接電流I1、I2の指示を溶接電源装置30に与える。溶接ワイヤ11を高速側の溶接ワイヤとし、溶接ワイヤ12を低速側の溶接ワイヤとする
さて、母材80の板厚tに応じて母材80の熱容量が変化する。また溶接電流I1、I2の合計値Iが大きくなるに伴いアーク力が大きくなり母材80に及ぼす熱負荷が大きくなる。
【0041】
必要溶着量は、母材80の板厚tと溶接速度Vにより決定される。板厚tが小さいほど、母材80の熱容量が小さいため、指示溶接電流Iを小さく設定する必要がある。
【0042】
このため本実施例では、図8に示すように、母材80でアンダーカットなどの溶接欠陥を生じさせないために必要な、各溶接ワイヤ11、12の送給速度V1、V2と指示溶接電流I(I1+I2)との対応関係が単位時間、単位面積当りの溶着量、つまり板厚tと溶接速度Vに応じてコントローラ40のデータテーブルに記憶されておかれる。
【0043】
本実施例では、溶接速度Vを50(cm/min)と一定として、板厚tに対応して各溶接ワイヤ11、12の送給速度V1、V2と指示溶接電流I(I1+I2)との対応関係を定めている。
【0044】
図8のデータテーブルは、溶接ワイヤ11、12の径が1.2mmの場合のデータを例示している。母材80の板厚tの各値9、12、16、19(mm)に対応して、溶接電流I1、I2の合計電流Iの数値400、500、600、700(A)、高速側の溶接ワイヤ11の送給速度V1の各値10、12、17、28(m/min)、溶接ワイヤ11の送給速度V1の各値7、9、12、12(m/min)が定められている。
【0045】
コントローラ40は、データテーブルから、母材80の板厚tに応じた指示溶接電流I、送給速度V1、V2を読み出して、読み出された値に対応する溶接電流I1、I2の指示を溶接電源装置30に与える。
【0046】
高速側の溶接ワイヤ11に通電される溶接電流I1は、高速側の溶接ワイヤ11の送給速度V1に応じた値であり、次式より求められる。
【0047】
I1=I・(V1/V1+V2)
低速側の溶接ワイヤ12に通電される溶接電流I2は、低速側の溶接ワイヤ12の送給速度V2に応じた値であり、次式より求められる。
【0048】
I2=I・(V2/V1+V2)
これにより母材80でアンダーカットなどの溶接欠陥を生じさせないようにすることができる。
【0049】
つぎに、図5を参照して、本実施例の溶接現象を説明する。
【0050】
本実施例では、2本の溶接ワイヤ11、12の送給速度V1、V2間に速度差ΔVが設けられて、一方の溶接ワイヤ11が高速で他方の溶接ワイヤ12が低速になっている。
【0051】
このとき図3で説明したように、両溶接ワイヤ11、12を等速で送給する場合と同様に、各溶接ワイヤ11、12に溶接電流が流れることで、フレミングの左手の法則により溶接ワイヤ11、12同士が互いに引っ張り合う方向に電磁力が発生している(図5(a))。
ただし、溶接ワイヤ11、12間に速度差ΔVがあるため、低速側の溶接ワイヤ12の先端は、高速側の溶接ワイヤ11の先端に引っ張られて溶滴が吸収され、細長い形状の溶滴51が形成される。細長い形状の溶滴51は、両溶接ワイヤ11、12が等速で送給されているときの溶滴50(図3(b))と比較して径が小さく、電磁ピンチ力Fによって容易に切断することが可能である。電磁ピンチ力Fは、高速側の溶接ワイヤ11で生成される溶滴中で発生して、溶滴中で内向きに作用する。しかも、高速側の溶接ワイヤ11の先端部では、溶融池から輻射された輻射熱によって高温となっており、溶融したワイヤの粘性が低くなっている(図5(b))。
【0052】
このため高速側の溶接ワイヤ11の先端部で溶滴51は電磁ピンチ力Fによって容易に小さな溶滴に切断されて離脱され、溶融池に滴下される。このように本実施例によれば、従来のようにスパッタ60(図3(c))が発生することなく、極めて安定して溶滴が狙いとする溶接線上に落ちることになる(図5(c))。なお、図5(c)は、小さな溶滴が連続的に溶融池に滴下される様子を高速度カメラで捉えた様子を示している。
【0053】
以上のように本実施例によれば、2本の溶接ワイヤ11、12の送給速度V1、V2間に、これら2本の溶接ワイヤ11、12により形成される溶滴51を高速側の溶接ワイヤ12で発生する電磁ピンチ力Fにより切断できる程度の速度差ΔVを設けるようにしたため、たとえ溶接電流が大きくなり、それによって複数の溶接ワイヤ間に作用する電磁力が大きくなり、その電磁力によって各溶接ワイヤ先端の溶滴が接触、結合して、大きな溶滴が形成されたとしても、その溶滴51の形状は細長い形状となる。このため溶滴51を小さな溶滴に安定して離脱させスパッタを発生させることなく溶融池に滴下させることができるようになる。これにより、従来技術3の問題点が解決される。
【0054】
また、本実施例によれば、2本の溶接ワイヤ11、12の送給速度V1、V2間に速度差ΔVを設けるだけでよく、従来技術4のごとく、2本の溶接ワイヤ間の距離、傾き等の数値範囲に制約を設ける必要はない。このため溶接システムを構築する際の設計の自由度が確保されるとともに、広範な溶接対象に対応できるようになり、汎用性の高い溶接システムを構築することができる。これにより従来技術4の問題点が解決される。
【0055】
図9、図10、図11、図12は、本実施例の効果を数値として明らかにするために行った実験結果を説明する図である。
【0056】
図9は、実験に使用した溶接ワイヤの用途、品名、規格、成分を表にして示す。溶接ワイヤは、用途「炭素鋼用」、品名「Z026」、規格「JIS YGW11」、溶着金属中の化学成分C、Si、Mn、Cr、Mo、Ni(重量%)「0.11、0.55、1.31、−、−、−」のものを使用した。溶接ワイヤは、直径1.2mmで、KISWEL社製である。
【0057】
図10は、実験に使用した母材81を示す。
【0058】
母材81は、SS材(SS400)を用いた。母材81の厚さは、22mmで、縦、横の長さがそれぞれ300mm、200mmのものを用いた。
【0059】
溶接条件は、つぎのとおりである。すなわち、Ar、CO2の体積比率Ar:CO2が8:2となる混合ガスをシールドガスとして用いた。また溶接電流I、つまり2本の溶接電流I1、I2の合計値は、700Aとした。溶接ワイヤ11、12は、前述の図9に示すものを用いた。
【0060】
上記溶接条件で溶接を行い、母材81の中心に、縦方向に沿って100mmの長さのビードを形成した。そして、そのときに母材81上に付着されたスパッタの数をカウントした。ただし、スパッタは、皮手、鋼尺で擦って取れないものを数えた。
【0061】
図2、図3で前述した従来技術、つまり2本の溶接ワイヤ11、12を等速で送給した場合を比較例とした。
【0062】
図11は、実験結果を表にて示す。図11は、母材81上でカウントされたスパッタの数を、本実施例(「速度差有」)と比較例(「等速」)とで対比したものである。スパッタの径の大きさ範囲「0.5〜1.0mm」、「1.0〜2.0mm」、「2.0mm〜」毎にカウントした数値を示している。実験は、本実施例では3回行った。これを表ではテストナンバー(1)、(2)、(3)と示している。実験は、比較例では3回行った。これを表では、テストナンバー(4)、(5)、(6)と示している。
【0063】
図12は、実験結果を棒グラフにて示す。図12の横軸は、本実施例(「速度差有」)のテストナンバー(1)、(2)、(3)、比較例(「等速」)のテストナンバー(4)、(5)、(6)であり、図12の縦軸は、各テストナンバーごとのスパッタのカウント値、つまり母材81に付着されたスパッタ数である。棒グラフ中の白抜き部分は、径が「0.5〜1.0mm」の範囲のスパッタの数であり、同棒グラフ中の斜線部分は、径が「1.0〜2.0mm」の範囲のスパッタの数であり、同棒グラフ中の黒部分は、径が「2.0mm〜」の範囲のスパッタの数である。
【0064】
図11、図12をみて明らかなように、本実施例によれば、従来技術と比較して母材に付着されるスパッタの数が圧倒的に小さくなっているのがわかる。このため本実施例によれば、スパッタの発生を抑制できビードの外観を良好に保持することができ溶接品を極めて高品質なものとすることができる。
【0065】
上述した実施例では、溶接トーチ10に2本の溶接ワイヤ11、12を配置して、これら2本の溶接ワイヤ11、12の送給速度V1、V2間に速度差ΔVを設けた場合を想定した。しかし、本発明は、溶接トーチ10に3本以上の溶接ワイヤ11、12を配置した場合にも同様に適用することができる。溶接トーチ10に3本以上の溶接ワイヤ11、12…を配置した場合には、それら3本以上の溶接ワイヤ11、12…のうち少なくとも2本の溶接ワイヤの送給速度間に速度差ΔVを設ければよい。以下、各実施例について説明する。
【0066】
図6(a)、(b)は、溶接トーチ10に3本の溶接ワイヤ11、12、13を配置した装置構成を例示している。図6(a)、(b)はそれぞれ、図5(c)に対応する図で、溶接ワイヤ11、12、13の先端で大きな溶滴ではあるが細長い形状の溶滴51が形成されており、高速側の溶接ワイヤ11の先端部で溶滴51が小さな溶滴に切断されて離脱され、溶融池に滴下される様子を示している。
【0067】
図6(a)、(b)、(c)の装置では、送給装置20は、溶接トーチ10に3本の溶接ワイヤ11、12、13を送給するように構成される。溶接ワイヤ11、12、13は、溶接トーチ10において接近して配置されている。
【0068】
図6(a)の装置では、3本の溶接ワイヤ11、12、13の送給速度はそれぞれ、高速、中速、低速に設定される。
【0069】
図6(b)の装置では、3本の溶接ワイヤ11、12、13のうち1本の溶接ワイヤ11の送給速度が高速とされ、他の2本の溶接ワイヤ12、13の送給速度が中速に設定される。これら2本の溶接ワイヤ12、13の速度(中速)は、同一または略同一の値に設定される。
【0070】
図6(c)の装置では、図6(b)の場合よりも、高速側の溶接ワイヤ11と他の溶接ワイヤ12、13との間に大きな速度差ΔVが設けられる。
【0071】
図6(c)の装置では、3本の溶接ワイヤ11、12、13のうち1本の溶接ワイヤ11の送給速度が高速とされ、他の2本の溶接ワイヤ12、13の送給速度が低速に設定される。これら2本の溶接ワイヤ12、13の速度(低速)は、同一または略同一の値に設定される。
【0072】
図6に示す各実施例によれば、図5を用いて説明した実施例と同様に、1本の高速側の溶接ワイヤ11の先端に他の溶接ワイヤ12、13の先端が引っ張られて溶滴が吸収される。このため、同様に、溶接ワイヤ11、12、13の先端で大きな溶滴ではあるが細長い形状の溶滴51が形成され、高速側の溶接ワイヤ11の先端部で溶滴51が小さな溶滴に容易に切断されて離脱され、溶融池に滴下されることになる。
【0073】
図7(a)は、溶接トーチ10に4本の溶接ワイヤ11、12、13、14を配置した装置構成を例示している。図7(a)は、図5(c)に対応する図で、溶接ワイヤ11、12、13、14の先端で大きな溶滴ではあるが細長い形状の溶滴51が形成されており、高速側の溶接ワイヤ11の先端部で溶滴51が小さな溶滴に切断されて離脱され、溶融池に滴下される様子を示している。
【0074】
図7(a)の装置では、送給装置20は、溶接トーチ10に4本の溶接ワイヤ11、12、13、14を送給するように構成される。溶接ワイヤ11、12、13、14は、溶接トーチ10において接近して配置されている。
【0075】
図7(a)の装置では、4本の溶接ワイヤ11、12、13、14のうち1本の溶接ワイヤ11のみの送給速度が他の溶接ワイヤ12、13、14の送給速度よりも高速に設定される。たとえば、溶接ワイヤ11のみが高速で送給され、他の溶接ワイヤ12、13、14が低速もしくは中速で送給される。
【0076】
図7(a)に示す実施例によれば、図5を用いて説明した実施例と同様に、1本の高速側の溶接ワイヤ11の先端に他の溶接ワイヤ12、13、14の先端が引っ張られて溶滴が吸収される。このため、同様に、溶接ワイヤ11、12、13、14の先端で大きな溶滴ではあるが細長い形状の溶滴51が形成され、高速側の溶接ワイヤ11の先端部で溶滴51が小さな溶滴に容易に切断されて離脱され、溶融池に滴下されることになる。
【0077】
図7(b)は、溶接トーチ10に5本の溶接ワイヤ11、12、13、14、15を配置した装置構成を例示している。図7(b)は、図5(c)に対応する図で、溶接ワイヤ11、12、13、14、15の先端で大きな溶滴ではあるが細長い形状の溶滴51が形成されており、高速側の溶接ワイヤ11の先端部で溶滴51が小さな溶滴に切断されて離脱され、溶融池に滴下される様子を示している。
【0078】
図7(b)の装置では、送給装置20は、溶接トーチ10に5本の溶接ワイヤ11、12、13、14、15を送給するように構成される。溶接ワイヤ11、12、13、1415は、溶接トーチ10において接近して配置されている。ただし、これら5本の溶接ワイヤ11、12、13,14,15のうち1本の溶接ワイヤ11が溶接トーチ10の中心に配置されるとともに他の溶接ワイヤ12、13、14、15が溶接トーチ10の中心から外れた位置に配置される。
【0079】
そして、溶接トーチ10の中心の1本の溶接ワイヤ11のみの送給速度が他の溶接ワイヤ12、13、14、15の送給速度よりも高速に設定される。たとえば、溶接ワイヤ11のみが高速で送給され、他の溶接ワイヤ12、13、14、15が低速もしくは中速で送給される。
【0080】
図7(b)に示す実施例によれば、図5を用いて説明した実施例と同様に、1本の高速側の溶接ワイヤ11の先端に他の溶接ワイヤ12、13、14、15の先端が引っ張られて溶滴が吸収される。このため、同様に、溶接ワイヤ11、12、13、14、15の先端で大きな溶滴ではあるが細長い形状の溶滴51が形成され、高速側の溶接ワイヤ11の先端部で溶滴51が小さな溶滴に容易に切断されて離脱され、溶融池に滴下されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1は、1本の溶接ワイヤを制御する装置の構成を示した図である。
【図2】図2は、2本の溶接ワイヤを等速で送給する制御装置の構成を示した図である。
【図3】図3(a)、(b)、(c)は、2本の溶接ワイヤを等速で送給した場合の溶接現象を説明する図である。
【図4】図4は、2本の溶接ワイヤを制御する装置の構成を示した図である。
【図5】図5(a)、(b)、(c)は、2本の溶接ワイヤの送給速度間に速度差を設けて送給した場合の溶接現象を説明する図である。
【図6】図6(a)、(b)は、溶接トーチに3本の溶接ワイヤを配置した装置構成を例示して溶接現象を説明する図である。
【図7】図7(a)は、溶接トーチに4本の溶接ワイヤを配置した装置構成を例示して溶接現象を説明する図で、図7(b)は、溶接トーチに5本の溶接ワイヤを配置した装置構成を例示して溶接現象を説明する図である。
【図8】図8は、コントローラに記憶されるデータテーブルの内容を例示した図である。
【図9】図9は、本実施例の効果を数値として明らかにするために行った実験結果を説明する図で、実験に使用した溶接ワイヤの用途、品名、規格、成分を表にして示した図である。
【図10】図10は、本実施例の効果を数値として明らかにするために行った実験結果を説明する図で、実験に使用した母材を示した図である。
【図11】図11は、本実施例の効果を数値として明らかにするために行った実験結果を説明する図で、実験結果を表にて示した図である。
【図12】図12は、本実施例の効果を数値として明らかにするために行った実験結果を説明する図で、実験結果を棒グラフにて示した図である。
【符号の説明】
【0082】
10 溶接トーチ、11、12、13、14、15 溶接ワイヤ、20、21、22 送給装置、30 溶接電源装置、40 コントローラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチと、溶接トーチに溶接ワイヤを送給する送給装置と、指示された溶接電流に応じた送給速度で溶接ワイヤを送給させる溶接電源装置と、溶接電源装置に電流を指示するコントローラとを備えた溶接ワイヤの制御装置において、
送給装置から溶接トーチに少なくとも2本の溶接ワイヤが送給されるように構成し、
コントローラは、これら少なくとも2本の溶接ワイヤの送給速度間に、当該少なくとも2本の溶接ワイヤにより形成される溶滴を高速側の溶接ワイヤで生成する溶滴で発生する溶滴中で内向きに作用する力により切断できる程度の速度差が設けられるように、溶接電流指示を溶接電源装置に与えること
を特徴とする溶接ワイヤの制御装置。
【請求項2】
送給装置から溶接トーチに3本の溶接ワイヤが送給されるように構成し、
これら3本の溶接ワイヤの送給速度をそれぞれ高速、中速、低速に設定すること
を特徴とする請求項1記載の溶接ワイヤの制御装置。
【請求項3】
送給装置から溶接トーチに3本の溶接ワイヤが送給されるように構成し、
これら3本の溶接ワイヤのうちいずれか1本の溶接ワイヤの送給速度を高速とし、他の2本の溶接ワイヤの送給速度を同一または略同一の低い速度に設定すること
を特徴とする請求項1記載の溶接ワイヤの制御装置。
【請求項4】
送給装置から溶接トーチに4本以上の溶接ワイヤが送給されるように構成し、
これら4本以上の溶接ワイヤのうちいずれか1本の溶接ワイヤのみの送給速度を他の溶接ワイヤの送給速度よりも高速に設定すること
を特徴とする請求項1記載の溶接ワイヤの制御装置。
【請求項5】
送給装置から溶接トーチに5本の溶接ワイヤが送給されるように構成し、
これら5本の溶接ワイヤのうちいずれか1本の溶接ワイヤを溶接トーチの中心に配置するとともに他の溶接ワイヤを溶接トーチの中心から外れた位置に配置して、
溶接トーチの中心に配置された溶接ワイヤの送給速度を高速とし、他の溶接ワイヤの送給速度を低い速度に設定すること
を特徴とする請求項1記載の溶接ワイヤの制御装置。
【請求項6】
コントローラには、単位時間、単位面積当りの溶着量に応じて、各溶接ワイヤの送給速度と指示溶接電流との対応関係を示すデータテーブルが記憶されており、
コントローラは、データテーブルから、単位時間、単位面積当りの溶着量に応じた指示溶接電流、送給速度を読み出して、読み出された値に対応する溶接電流の指示を溶接電源装置に与えること
を特徴とする請求項1記載の溶接ワイヤの制御装置。
【請求項1】
溶接トーチと、溶接トーチに溶接ワイヤを送給する送給装置と、指示された溶接電流に応じた送給速度で溶接ワイヤを送給させる溶接電源装置と、溶接電源装置に電流を指示するコントローラとを備えた溶接ワイヤの制御装置において、
送給装置から溶接トーチに少なくとも2本の溶接ワイヤが送給されるように構成し、
コントローラは、これら少なくとも2本の溶接ワイヤの送給速度間に、当該少なくとも2本の溶接ワイヤにより形成される溶滴を高速側の溶接ワイヤで生成する溶滴で発生する溶滴中で内向きに作用する力により切断できる程度の速度差が設けられるように、溶接電流指示を溶接電源装置に与えること
を特徴とする溶接ワイヤの制御装置。
【請求項2】
送給装置から溶接トーチに3本の溶接ワイヤが送給されるように構成し、
これら3本の溶接ワイヤの送給速度をそれぞれ高速、中速、低速に設定すること
を特徴とする請求項1記載の溶接ワイヤの制御装置。
【請求項3】
送給装置から溶接トーチに3本の溶接ワイヤが送給されるように構成し、
これら3本の溶接ワイヤのうちいずれか1本の溶接ワイヤの送給速度を高速とし、他の2本の溶接ワイヤの送給速度を同一または略同一の低い速度に設定すること
を特徴とする請求項1記載の溶接ワイヤの制御装置。
【請求項4】
送給装置から溶接トーチに4本以上の溶接ワイヤが送給されるように構成し、
これら4本以上の溶接ワイヤのうちいずれか1本の溶接ワイヤのみの送給速度を他の溶接ワイヤの送給速度よりも高速に設定すること
を特徴とする請求項1記載の溶接ワイヤの制御装置。
【請求項5】
送給装置から溶接トーチに5本の溶接ワイヤが送給されるように構成し、
これら5本の溶接ワイヤのうちいずれか1本の溶接ワイヤを溶接トーチの中心に配置するとともに他の溶接ワイヤを溶接トーチの中心から外れた位置に配置して、
溶接トーチの中心に配置された溶接ワイヤの送給速度を高速とし、他の溶接ワイヤの送給速度を低い速度に設定すること
を特徴とする請求項1記載の溶接ワイヤの制御装置。
【請求項6】
コントローラには、単位時間、単位面積当りの溶着量に応じて、各溶接ワイヤの送給速度と指示溶接電流との対応関係を示すデータテーブルが記憶されており、
コントローラは、データテーブルから、単位時間、単位面積当りの溶着量に応じた指示溶接電流、送給速度を読み出して、読み出された値に対応する溶接電流の指示を溶接電源装置に与えること
を特徴とする請求項1記載の溶接ワイヤの制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−246495(P2008−246495A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87759(P2007−87759)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】
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