説明

溶接接合幅測定方法、電位差計測装置及び溶接接合幅測定システム

【課題】溶接接合幅測定方法において、重ね継手溶接部での接合幅を非破壊で高精度かつ容易に測定できるようにすることである。
【解決手段】上材及び下材の重ね合わせ部において、上材側から溶接接合した重ね継手試験片26の片面の溶接部28を挟む両側位置に一対の電流端子18、20を接触させるとともに、各電流端子18,20の接触部を結ぶ直線上の、溶接部28を挟む両側2点に電位差計16に接続された電位差端子22,24を接触させる。この状態で、一対の電流端子18,20間で電流を流し、両側2点間の電位差を取得する。コンピュータが、取得した電位差から溶接接合幅Wを取得し、溶接接合幅Wを出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2枚の金属板の重ね合わせ部を溶接接合した重ね継手溶接部の溶接接合幅を測定する溶接接合幅測定方法と電位差計測装置と溶接接合幅測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば板厚が数mmの2枚の薄板の金属板を重ね合わせた状態で、レーザ溶接等の溶接により溶接して重ね継手部を作製することが行われている。また、このような重ね継手部で、溶接部の品質を評価するための様々な試験が実施されている。例えば、溶接部の接合強度を評価し、所望の接合強度を確保できているか否かを評価することも行われている。
【0003】
例えば、重ね継手部の1のサンプルを用いて、2枚の金属板を分離するように破断させ、その接合強度を評価することも行われている。ただし、この場合には、作業に手間を要し、しかも全数検査ができないという問題がある。
【0004】
一方、溶接接合部の強度の大きさには接合幅が大きく関係することが分かっている。すなわち、溶接接合部の強度は、溶接部における欠陥の有無に関連することは勿論であるが、溶接部の幅である接合幅とも密接な関係があり、接合幅を計測することは、溶接品質を評価するための重要な管理項目になっている。
【0005】
例えば、2枚の金属板に片側から他側に貫通するように溶接部を設ける貫通溶接を行う場合があり、このような場合には2枚の金属板のいずれの側からも、溶接接合部を確認でき、溶接接合部の幅をいずれの側からも測定することができる。このため、表面に現れる溶接部の接合幅の測定値を用いて、溶接接合部の強度をある程度予測できる可能性はある。
【0006】
一方、レーザ溶接等により2枚の金属板である、上材と下材(上材は溶接時に溶接手段を設ける側の板材で、下材は反溶接手段側の板材とする。)とを重ね合わせて溶接接合し、重ね継手部を作製する場合に、施工上の制限や下材側である重ね継手部の裏面側からの外観を損なわないようにするために、上材及び下材を非貫通溶接で接合する場合がある。非貫通溶接は、上材及び下材に上材から下材に貫通しないように溶接部を設けることである。
なお、本発明に関連する先行技術文献として、特許文献1から特許文献3がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−126085号公報
【特許文献2】特開平7−83645号公報
【特許文献3】特開2006−126068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように非貫通溶接で2枚の板材を接合する場合、両側から溶接部の接合幅を測定することができない。このように接合部の接合幅を正確に測定することが容易ではない場合があり、その場合、接合部の強度を評価することが容易ではない。したがって、現状では、特に非貫通溶接で重ね継手材を構成している場合に、サンプルとして抜き取りした重ね継手材を、2枚の板材を分離するように切断、すなわち破断し、破断面を特定の溶液で腐食させ、その破断面を観察することにより接合幅を計測し、計測した接合幅を用いて接合強度を評価することが多く行われている。ただし、このように重ね継手材を破断する手法は、破壊試験の1種であり、接合幅を計測するのに多くの時間を要し、しかも、全数検査ができないという問題がある。このため、非破壊で精度の高い溶接部の接合幅を測定する方法の実現が望まれている。
【0009】
これに対して、特許文献1には、渦電流を用いて溶接部を検査する方法が記載されている。この方法では、表材と裏材とをレーザ溶接により接合した重ね継手の溶接部を検査するために、渦流探傷センサを裏材または表材の表面に沿って移動させ、未接合部と接合部とにおける信号高さの変化を検出している。また、接合幅と信号高さの変化量との関係、信号高さの変化量と引っ張り強度との関係を求めて、信号高さの変化量を計測することによって、接合幅と引っ張り強度が所定以上であることを推定できるとされている。このような検査方法の場合、接合幅を非破壊評価できる可能性はあるが、渦電流法を適用するので、計測対象とセンサの検出部である底面との距離であるリフトオフの変化に対する考慮がされていないと、わずかな(例えば数μmメートルの)リフトオフ変化により計測結果が大きく変動するという問題がある。例えば、溶接面側から重ね継手の接合部を計測する場合、溶接ビードがあるため、その凹凸によりリフトオフが変化して、測定精度が悪化する可能性がある。
【0010】
また、特許文献2には、2枚の金属板を溶接し、一体化した被検対象物における接合部の接合幅を超音波を用いて測定する方法であって、超音波を接合部及び未接合部にわたって走査し、反射エコーを検出し、検出した反射エコーレベルパターンに基づいて閾値を決定し、反射エコーレベルパターンと閾値とに基づき接合幅を測定する方法が記載されている。
【0011】
また、特許文献3には、表材と裏材とをレーザ溶接により接合した重ね継手の溶接部の接合幅や重ね継手の強度を超音波を用いて推定する検査方法が記載されている。この場合、裏材または表材の底面エコー高さの低下量と、レーザ溶接による接合幅や重ね継手の引っ張り強度との間に相関関係があるので、この相関関係を利用して、接合部の幅または引っ張り強度を推定できるとされている。
【0012】
このような特許文献2、特許文献3のいずれの場合も超音波を用いて接合部の接合幅を測定するものであるが、超音波探触子と計測対象との間に水、グリス等の接触媒質を必要とする。このため、実際の現場でこの測定方法を用いる場合に様々な制約が発生し、測定が困難となる可能性がある。また、この測定方法では平滑面での計測が必要になるが、溶接ビードが存在する溶接面からしか計測できない場合に計測精度が大きく低下する可能性がある。また、測定対象が薄板の接合部である場合、超音波ビームの路程が短くなるため、検出すべき信号が探触子の不感帯に埋もれ、やはり計測精度が大きく低下する可能性がある。
【0013】
本発明の溶接接合幅測定方法及び溶接接合幅測定システムの目的は、重ね継手溶接部での接合幅を非破壊で高精度かつ容易に測定できるようにすることである。また、本発明の電位差計測装置は、重ね継手溶接部での接合幅を非破壊で高精度かつ容易に測定するための電位差を取得する装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る溶接接合幅測定方法は、2枚の金属板の重ね合わせ部を溶接接合した重ね継手溶接部の溶接接合幅を測定する測定方法であって、重ね継手溶接部の片面の溶接部を挟む両側位置に一対の電流供給用端子を接触させるとともに、各電流供給用端子の接触部を結ぶ直線上の、溶接部を挟む両側2点に電位差計に接続された電位差計測用端子を接触させた状態で、一対の電流供給用端子間で電流を流し、両側2点間の電位差を取得(計測)するステップと、コンピュータが、取得した電位差から溶接接合幅を取得するステップとを含むことを特徴とする溶接接合幅測定方法である。
【0015】
また、本発明に係る溶接接合幅測定方法において、好ましくは、溶接接合幅を取得するステップは、コンピュータが、記憶手段に記憶させた校正曲線であって、電位差と溶接接合幅との関係を表す校正曲線のデータを参照しつつ、取得した電位差から溶接接合幅を取得する。
【0016】
また、本発明に係る電位差計測装置は、本発明に係る溶接接合幅測定方法に使用する電位差計測装置であって、直流電流を外部に印加可能な直流電源と、電位差計と、直流電源に接続される一対の電流供給用端子と、電位差計に接続される一対の電位差計測用端子とを備えることを特徴とする電位差計測装置である。
【0017】
また、本発明に係る溶接接合幅測定システムは、本発明に係る電位差計測装置と、コンピュータとを備え、コンピュータは、電位差計測装置から電位差を取得する電位差取得手段と、電位差と溶接接合幅との関係を表す校正曲線のデータを記憶した記憶手段と、取得した電位差に基づいて、記憶手段から読み出した校正曲線のデータを参照しつつ、溶接接合幅を取得する接合幅取得手段と、を含むことを特徴とする溶接接合幅測定システムである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る溶接接合幅測定方法及び溶接接合幅測定システムによれば、重ね継手溶接部での接合幅を非破壊で高精度かつ容易に測定できる。また、本発明に係る電位差計測装置によれば、重ね継手溶接部での接合幅を非破壊で高精度かつ容易に測定するための電位差を取得する装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態の溶接接合幅測定システムを用いて溶接部の接合幅を測定する様子を示す略図である。
【図2】重ね継手試験片の1例に図1のシステムを構成する電流供給用端子及び電位差計測用端子を接触させた様子を示す図である。
【図3】図2の構成を上方から下方に見た図である。
【図4】図1のシステムを構成するコンピュータの構成を示す図である。
【図5A】溶接部の接合幅が大きい場合の、重ね継手試験片を流れる電流密度を示す模式図である。
【図5B】溶接部の接合幅が小さい場合の、重ね継手試験片を流れる電流密度を示す模式図である。
【図6】図3の重ね継手試験片を、2枚の板材を分離するように破断させた場合の1の板材の破断面を示す図である。
【図7】本実施の形態で使用する、溶接部の接合幅と電位差計で得られた電位差との関係を表す校正曲線の1例を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態の溶接接合幅測定方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下において、図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。図1から図8は、本発明の実施の形態の1例を示している。
【0021】
図1に示すように、本実施の形態の溶接接合幅測定方法で使用する溶接接合幅測定システムは、パーソナルコンピュータであるコンピュータ10と、電位差計測装置12とを備える。電位差計測装置12は、一定電流の直流電流を外部に印加可能な直流電源14と、デジタルマルチメータ等の電位差計16と、直流電源14に接続される一対の電流供給用端子である電流端子18,20と、電位差計16に接続される一対の電位差計測用端子である電位差端子22,24とを含む。このような電位差計測装置12は、溶接接合部を有する重ね継手試験片26に比較的低い一定電流の直流電流を流した状態で、溶接部28を挟む2点間の電位差を測定し、コンピュータ10に測定した電位差を出力するために使用する。
【0022】
電位差計測装置12を用いて電位差を測定する場合、図2、図3に示すように、重ね継手試験片26を用意し、この試験片26の予め定めた所定の2点間の電位差を測定する。重ね継手試験片26は、2枚の薄板であり金属板である上材30及び下材32を重ね合わせ、上材30側からレーザ溶接等により非貫通溶接で溶接部28を設けて、上材30及び下材32を溶接接合することにより重ね継ぎ手溶接部である重ね継手試験片26を構成している。なお、「上材」は、溶接時に溶接手段を設ける側の板材で、「下材」は反溶接手段側の板材を意味し、実際の配置の上下を限定する意味ではない。
【0023】
そして、図3に示すように、一対の電流端子18,20を溶接部28が位置する上材30の片面であり表面である溶接面34の、溶接部28を挟む両側位置の2点Pi、Poに一対の電流端子18,20の先端を接触させる。これとともに、各電流端子18,20の溶接面34に対する接触部Pi、Poを結ぶ直線(図3の一点鎖線L)上の、溶接部28を挟む両側2点Q1、Q2に電位差計16(図1)に接続された電位差端子22,24の先端を接触させる。この場合、各電位差端子22,24は、溶接面34の電流端子18,20の接触部Pi、Poのいわゆる直上に接触させている。また、電位差端子22,24は、端子22,24間の中央部に溶接部28が位置するように配置する。また、電流端子18,20は、電流を流した場合に主要な電流が、溶接部28を長さ方向(図3の上下方向)に対し直交する方向(図3の左右方向)に通過するように配置する。
【0024】
そしてこの状態で、一対の電流端子18,20間で一定の比較的低い直流電流を接触部Piから接触部Poに向け流し、両側2点Q1、Q2間の電位差を取得、すなわち計測する。計測した電位差は、コンピュータ10(図1)に出力する。このため、図1に示すように、電位差計16とコンピュータ10とをケーブル36で接続している。なお、コンピュータ10と電位差計測装置12とを無線で接続し、電位差を表す信号を無線でコンピュータ10に出力、すなわち送信することもできる。なお、図1に示す例では、一対の電流端子18,20及び一対の電位差端子22,24を、センサユニット38に一体化させ、センサユニット38に設けた各端子18,20,22,24を一度に測定対象に接触できるようにしている。また、図1、図2、後述する図5A、図5Bでは、電流端子18,20、電位差端子22,24を矢印で表しており、電流端子18,20では矢印の向きで電流の流れ方向を表している。
【0025】
また、図4に示すように、コンピュータ10は、電位差取得手段40と、記憶手段42と、接合幅取得手段44と、出力手段46と、図示しない操作部とを含む。コンピュータ10は、CPU、メモリ等から構成され、電位差、接合幅等のデータの記録及び評価を行う機能を有する。また、電位差取得手段40は、電位差計測装置12から計測された電位差を有線または無線で取得する。記憶手段42は、メモリまたは外部記憶装置としてのハードディスクドライブ装置等により構成され、電位差と溶接接合幅との関係を表す校正曲線のデータを予め記憶している。このような校正曲線は、電位差から溶接接合幅を取得するために利用する。すなわち、上記のように試験片26(図1等)の2点間の電位差を測定した場合に得られる電位差は、溶接部28(図1)の接合幅Wに1対1で対応する。
【0026】
この理由について、図5A、図5Bを用いて説明する。図5Aは、溶接部28の接合幅Wが大きい場合の、試験片26を流れる電流密度を示す模式図である。図5Bは、溶接部28の接合幅Wが小さい場合の、試験片26を流れる電流密度を示す模式図である。図5A、図5Bは、いずれも溶接部28を含む部分で切断した断面を示しており、複数の縞状の線により電流密度を表している。なお、接合幅Wとは、上材30及び下材32の接合部での溶接による接合幅Wを意味する。例えば、図5Aに示すように、接合幅Wが大きい場合に、点Piから点Poに電流を流すと、未溶接部では電流が上材30の1枚の厚さ分のみで流れる。ただし、溶接部28を含む接合部では電流が上材30及び下材32の2枚の厚さ分で流れる。この場合、接合部では、下材32の一部にも電流がはみ出して流れる。このため、電位差端子22,24と試験片26との接触部Q1,Q2周辺の電流密度が低下し、溶接部28の電位差は未溶接部と比較して小さくなる。
【0027】
また、図5Bに示すように、接合幅Wが小さい場合も、図5Aに示した場合と同様に、溶接部28を含む接合部で、下材32の一部にも電流がはみ出して流れ、電位差端子22,24と試験片26との接触部Q1,Q2周辺の電流密度が低下し、溶接部28の電位差は未溶接部と比較して小さくなる。ただし、図5Bに示す場合には、接合幅Wが図5Aの場合よりも小さいため、接合部での下材32への電流のはみ出しが小さくなる。このため、電位差端子22,24と試験片26との接触部Q1,Q2周辺の電流密度の低下分が図5Aの場合と比べて小さくなり、溶接部28での未溶接部に対する電位差の低下分が図5Aの場合と比べて小さくなる。このことから本発明者は、溶接部28の接合幅Wと電位差とに1対1の対応関係があると考えた。すなわち、溶接部28の表面に形成される低電流密度域(図5A、図5Bにαで示す範囲部分)は接合幅Wに対応するため、電流密度を反映した電位差を計測することで、接合幅Wを推測、すなわち計測できると考えた。すなわち、接合幅Wと電位差との関係を表す校正曲線を用いて、計測した電位差から接合幅Wを精度よく計測できると考えた。
【0028】
次にこの校正曲線を求める方法を説明する。なお、以下の説明では、図1から図4に示した要素と同一または同等の要素には同一の符号を付して説明する。まず複数の試験片26のそれぞれを構成する2枚の上材30、下材32を重ね合わせた状態で、レーザ溶接により溶接接合し、それぞれの試験片26でレーザ照射時の出力を変化させることにより、溶接部28の接合幅Wを異ならせた複数の試験片26を作製した。そしてそれぞれの試験片26で、上記と同様に、電位差計測装置12を用いて電流を流した状態でそれぞれで互いに対応する2点間での電位差を計測し、各試験片26での電位差を得た。その後、それぞれの試験片26を2枚の上材30、下材32を分離させるように破断させる。図6は、図3の試験片26を、2枚の板材を分離するように破断させた場合の1の板材である上材30の裏面である破断面を示す図である。
【0029】
図6に示すように破断面に現れる接合跡48の幅方向(図6の左右方向)両端縁は実際には微妙にうねり完全な直線とならない可能性がある。また、試験片26を構成したと仮定した状態で、溶接部28を挟む2点A,B間に流れる電流は直線矢印α方向だけでなく、上記うねりによる接合幅W1の変化に応じて矢印α方向からわずかにずれて流れる可能性もある。このため、校正曲線に用いる接合幅として、全体での平均の接合幅を求める。すなわち、図6に示すように上材30の破断面に現れる接合跡48から溶接部28の接合面積を計測等により取得する。この場合、例えば適宜の面積計測装置を用いて、破断面を撮影した画像から接合面積を求めることもできる。そして得られた接合面積を、接合長である上材30の幅方向長さLaで除すことにより、平均の接合幅Wを求めた。勿論、人が上材30の幅方向(図6の上下方向)に離れた等間隔の複数の位置での接合幅W1を計測し、複数の接合幅W1から平均の接合幅Wを求めたり、接合面積を算出する等の他の手段を用いることもできる。
【0030】
図7は、このようにして求めた平均の接合幅Wと電位差計16で実験により取得された電位差との関係を表す校正曲線の1例を示している。図7の場合は、4つの試験片26から校正曲線を求めている。このように接合幅Wと電位差とは1対1の関係にあり、校正曲線を用いることにより取得した電位差から接合幅Wを測定することができることを確認できる。また、この校正曲線は、電位差を接合幅Wに換算するために利用することもできる。
【0031】
図4に示すコンピュータ10では、このようにして求めた校正曲線を予め記憶手段42に記憶させている。また、図4に示す接合幅取得手段44は、電位差計測装置12から取得した電位差に基づいて、記憶手段42から読み出した校正曲線のデータを参照しつつ、溶接接合幅Wを取得する。また、出力手段46は、接合幅取得手段44で取得した溶接接合幅Wを、ディスプレイ等の出力部に出力する。
【0032】
このような電位差計測装置12及び溶接接合幅測定システムは、例えばレーザ溶接により2枚の上材30、下材32を非貫通溶接で溶接接合した重ね継手溶接部である試験片26の溶接接合幅Wを測定する測定方法に使用する。図8は、この測定方法を示すフローチャートである。すなわち、溶接接合幅Wを測定する方法を実施する場合、まず、ステップS10(以下、ステップは単にSとする。)で、上記の図1に示すようにセンサユニット38を設置する、すなわちセンサユニット38の各端子18,20,22,24を試験片26上に配置するステップを行う。この場合、上記の図2、図3を用いて説明したように、試験片26の溶接面34の溶接部28を挟む両側位置に一対の電流端子18,20を接触させるとともに、各電流端子18,20の接触部を結ぶ直線上の、溶接部28を挟む両側2点に電位差計16に接続された電位差端子22,24を接触させる。
【0033】
次いで、この状態で、直流電源14を用いて一対の電流端子18,20間で一定の直流電流を流す、すなわち印加するステップを行い(S12)、電位差計16で両側2点間の電位差を取得、すなわち計測し、コンピュータ10に出力し、電位差を表すデータを記憶手段42に記憶させるステップを行う(S14)。次いで、コンピュータ10において、取得した電位差から溶接接合幅Wを取得し、すなわち測定し、記憶手段42に記憶させるとともに、溶接接合幅Wをディスプレイ等の出力部に表示させる等、出力するステップを行う(S16)。このステップでは、コンピュータ10が、予め記憶手段42に記憶させた校正曲線であって、電位差と溶接接合幅Wとの関係を表す校正曲線のデータを参照しつつ、取得した電位差から溶接接合幅Wを取得する。この場合、例えば、校正曲線を表すデータをマップとして記憶手段42に記憶させておき、マップを参照しつつ溶接接合幅Wを取得する。取得した溶接接合幅Wは、出力部に出力させる。
【0034】
このような溶接接合幅測定システムを用いた接合幅測定方法によれば、重ね継手溶接部である試験片26での接合幅Wを非破壊で高精度かつ容易に測定できる。すなわち、試験片26で2枚の上材30、下材32のそれぞれでの板厚や材料の違いに対応する校正曲線のデータを用意しておくことで、非破壊で、電流を流しつつ2点間の電位差を測定するだけで接合幅Wを精度よく測定することができる。すなわち、上記の説明から明らかなように溶接接合幅Wに応じて電流密度の低下具合が変化するため、電流密度の変化を電位差として計測することで、接合幅Wを容易にかつ精度よく測定することができる。また、上記の渦電流を用いて溶接部の接合幅を測定する従来構造の場合(特許文献1)と異なり、溶接部28の表面の凹凸にかかわらず、接合幅Wの測定精度を高くできる。また、上記の超音波を用いて溶接接合幅を測定する従来構造の場合(特許文献2,3)と異なり、特別な接触媒質を必要とすることなく測定精度を高くできる。なお、金属板の材料の変化では抵抗率は大きくは変化しないので、板厚に応じた校正曲線のデータを用意しておくことで材料の違いにかかわらず、接合幅Wを測定することもできる。
【0035】
また、上記の図8のS16で、コンピュータ10で予め設定した基準接合幅と測定された接合幅Wとの比較を行うことで、接合幅Wの良否の評価を行い、接合幅Wとともに、または接合幅Wに変えて、出力部にその評価を出力することもできる。
【0036】
また、接合幅Wは試験片26の接合強度に密接に関係する。このため、コンピュータ10に予め接合幅Wと接合強度との関係を表す校正曲線を記憶させておき、計測された接合幅Wからこの校正曲線のデータを参照しつつ接合強度を出力したり、接合強度を予め設定した基準値と比較することで接合強度の良否を評価し、その評価を出力することもできる。
【0037】
また、電位差計測装置12によれば、重ね継手溶接部である試験片26での接合幅Wを非破壊で高精度かつ容易に測定するための電位差を取得する装置を実現できる。
【0038】
なお、本実施の形態では、試験片26の溶接面34側に電流端子18,20及び電位差端子22,24を接触させて電位差を測定しているが、本発明はこれに限定するものではない。例えば、試験片26の反溶接面側、すなわち図1、図2の下面側に、電流端子18,20及び電位差端子22,24を接触させて溶接部28を挟む両側2点間の電位差を測定することもできる。この場合も測定される電位差は、溶接接合幅Wの変化に応じて変化するので、電位差の測定値を用いて溶接接合幅Wを測定することができる。
【符号の説明】
【0039】
10 コンピュータ、12 電位差計測装置、14 直流電源、16 電位差計、18 ,20電流端子、22,24 電位差端子、26 重ね継手試験片、28 溶接部、30 上材、32 下材、34 溶接面、36 ケーブル、38 センサユニット、40 電位差取得手段、42 記憶手段、44 接合幅取得手段、46 出力手段、48 接合跡。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の金属板の重ね合わせ部を溶接接合した重ね継手溶接部の溶接接合幅を測定する測定方法であって、
重ね継手溶接部の片面の溶接部を挟む両側位置に一対の電流供給用端子を接触させるとともに、各電流供給用端子の接触部を結ぶ直線上の、溶接部を挟む両側2点に電位差計に接続された電位差計測用端子を接触させた状態で、一対の電流供給用端子間で電流を流し、両側2点間の電位差を取得するステップと、
コンピュータが、取得した電位差から溶接接合幅を取得するステップとを含むことを特徴とする溶接接合幅測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接接合幅測定方法において、
溶接接合幅を取得するステップは、コンピュータが、記憶手段に記憶させた校正曲線であって、電位差と溶接接合幅との関係を表す校正曲線のデータを参照しつつ、取得した電位差から溶接接合幅を取得することを特徴とする溶接接合幅測定方法。
【請求項3】
請求項1に記載の溶接接合幅測定方法に使用する電位差計測装置であって、
直流電流を外部に印加可能な直流電源と、電位差計と、直流電源に接続される一対の電流供給用端子と、電位差計に接続される一対の電位差計測用端子とを備えることを特徴とする電位差計測装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電位差計測装置と、
コンピュータとを備え、
コンピュータは、
電位差計測装置から電位差を取得する電位差取得手段と、
電位差と溶接接合幅との関係を表す校正曲線のデータを記憶した記憶手段と、
取得した電位差に基づいて、記憶手段から読み出した校正曲線のデータを参照しつつ、溶接接合幅を取得する接合幅取得手段と、を含むことを特徴とする溶接接合幅測定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−203055(P2011−203055A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69715(P2010−69715)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】