説明

溶接機のワイヤ給送機

【課題】 簡単な構造であっても必要以上に溶接ワイヤがスプールから引出されることを防止し得る溶接機のワイヤ給送機の提供。
【解決手段】 給送機本体内に突出するよう、該給送機本体に固定されたシャフトと、該シャフトの外周面に摺接するように回転自在に支持され溶接ワイヤを巻回するスプールとを備え、スプールに巻回した溶接ワイヤを引出して溶接作業を行うようにした溶接機のワイヤ給送機であって、前記シャフトとスプールとの接触面における摩擦力が、溶接作業に伴う溶接ワイヤの引出力によって発生するスプールの回転慣性力に対して直ちに抗して該回転慣性力によるスプールの回転を停止させるよう設定されている構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接機のワイヤ給送機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から溶接機のワイヤ給送機としては、例えば下記特許文献1に示すものが提案されている。この種のワイヤ給送機は、給送機本体内に突出するよう、該給送機本体に固定されたシャフトと、該シャフトに回転自在に支持され溶接ワイヤを巻回するスプールとを備え、スプールに巻回した溶接ワイヤを引出して、MIG溶接等の溶接を行うものである。
この種の溶接機のワイヤ給送機では、溶接ワイヤを引出した際に、必要以上にスプールが回転してしまうと、その分だけ溶接ワイヤが必要以上に引出されてしまい溶接作業の支障となるから、これを防止するために、特別にブレーキ装置を設けているのが一般的である。
【特許文献1】特開2004−315109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のように、ワイヤ給送機に特別にブレーキ装置を設けると、その分だけ構造が複雑になるという課題がある。
【0004】
そこで本発明は、簡単な構造であっても必要以上に溶接ワイヤがスプールから引出されることを防止し得る溶接機のワイヤ給送機の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、給送機本体内に突出するよう、該給送機本体に固定されたシャフトと、該シャフトの外周面に摺接するように回転自在に支持され溶接ワイヤを巻回するスプールとを備え、スプールに巻回した溶接ワイヤを引出して溶接作業を行うようにした溶接機のワイヤ給送機であって、前記シャフトとスプールとの接触面における摩擦力が、溶接作業に伴う溶接ワイヤの引出力によって発生するスプールの回転慣性力に対して直ちに抗して該回転慣性力によるスプールの回転を停止させるよう設定されていることを特徴としている。
【0006】
上記構成において、シャフトとスプールとの接触面における摩擦抵抗を利用して溶接作業に伴う溶接ワイヤの引出力によって発生するスプールの回転慣性力に対して直ちに抗して回転慣性力によるスプールの回転を停止させるようになるから、特別にスプールの回転を制動するブレーキ装置を設ける必要がなくなる。
【0007】
本発明の溶接機のワイヤ給送機では、スプールは金属によって形成されており、シャフトは絶縁材料から形成されていることを特徴としている。この構成によれば、溶接作業時の安全性が確保され、シャフトはスプールに比べて小さいから、スプールを樹脂で形成する場合に比べて、廃棄性が向上する。
【0008】
本発明の溶接機のワイヤ給送機では、シャフトにおけるスプールとの接触面に、スプールの回転慣性力に対して直ちに抗して該回転慣性力によるスプールの回転を停止させるべく窪みが形成されていることを特徴としている。
【0009】
上記構成によれば、シャフトの表面に形成されされている窪みの形成によって、その分だけ摩擦抵抗が増大するから、スプールの回転慣性力に対して回転慣性力によるスプールの回転を停止させるようになる。
【0010】
本発明の溶接機のワイヤ給送機では、シャフトはナイロン66とガラス繊維とを含有するものであることを特徴としている。この構成によれば、スプールが回転する際にシャフトに摺動しても、シャフトは耐磨耗性にすぐれているから、シャフトを長期に亙って安定して支持することが可能となる。
また、ガラス繊維を含有することにより、これが表面側にわずかにでもあることで、シャフトを単にナイロン66のみから形成する場合に比べて摩擦抵抗が増大しているから、その分だけスプールの回転慣性力に抵抗するようになる。
【0011】
本発明の溶接機のワイヤ給送機では、シャフトはナイロン66を50〜80%含有し、ガラス繊維を50〜20%含有することを特徴としている。この構成によれば、シャフトそのものの耐磨耗性が向上するばかりでなく、ガラス繊維がシャフトの表面側にあることでスプールの回転慣性力に抵抗するようになる。
【0012】
本発明の溶接機のワイヤ給送機では、ナイロン66を50%、ガラス繊維を50%それぞれ含有することを特徴としている。この構成によれば、シャフトそのものの耐磨耗性が向上するばかりでなく、ガラス繊維がシャフトの表面側にあることでスプールの回転慣性力に抵抗するようになる。
【0013】
本発明の溶接機のワイヤ給送機では、ナイロン66に比べてガラス繊維が多く表面側に集合していることを特徴としている。この構成によれば、ガラス繊維によって摩擦抵抗が増大するから、スプールの回転慣性力に抵抗するようになって、スプールの回転慣性力に対して直ちに抗して回転慣性力によるスプールの回転を停止させるようになる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の溶接機のワイヤ給送機によれば、シャフトとスプールとの接触面における摩擦抵抗を利用して溶接作業に伴う溶接ワイヤの引出力によって発生するスプールの回転慣性力に対して直ちに抗して回転慣性力によるスプールの回転を停止させるようになるから、特別にスプールの回転を制動するブレーキ装置を設ける必要がなくなるとともに、その分だけ装置の簡素化ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る溶接機のワイヤ給送機を、図面に基づいて説明する。図1に示すように、ワイヤ給送機1は、溶接ワイヤ2を巻回するためのスプール3と、スプール3を本体4に対して軸線回りに回転自在に支持するシャフト11とを有する。スプール3は、円筒状の鋼板ドラム5とその両側に一体に固定した二つの円板状の鋼板側板6,6と、紙質含有の円板状の絶縁板7,7とからなっている。鋼板側板6,6と絶縁板7,7とはほぼ同径に形成されている。
【0016】
図2に示すように、スプール3は、鋼板ドラム5と鋼板側板6,6とによって構成される巻取り部に所要の径で所要組成の溶接ワイヤ2を所要の長さだけ巻取り保管され、溶接作業時にはワイヤ導出装置8に取付けられて溶接ワイヤ2を順次繰出すようにして使用される。
【0017】
左右の絶縁板7,7は同一の構成であるので、図3に示す一方の絶縁板7の説明をもって他方の絶縁板7の構成を兼用するものとする。絶縁板7の中心には、シャフト挿入用の挿入孔10が形成されており、この挿入孔10はシャフト11の円筒体24よりわずかに大径されることで、シャフト11を容易に挿入可能となっている。
【0018】
挿入孔10の鋼板側板6側の絶縁板7の板面には、挿入孔10と同一の内径孔12を有する円筒状のボス部13が形成されている。このボス部13は、鋼板側板6に形成されている中心孔14に内嵌するものであり、その突出側端部の外周縁には、先端側に向かって小径となるように面取り(図示せず)が形成されており、この面取りによって中心孔14に容易に挿入することができるようになっている。
【0019】
ボス部13の軸方向長さは、鋼板ドラム5の軸方向幅に応じて、また後述するように、ボス部13の内周面13aとシャフト11の円筒体24の外周面15との摩擦力が、溶接作業に伴う溶接ワイヤ2の引出力によって発生するスプール3の回転慣性力に対して直ちに抗して回転慣性力によるスプール3の回転を停止させるよう設定されるように、適宜決められている。図6に示すように、左右の絶縁板7,7はそれぞれ鋼板側板6,6の左右方向外側から装着されるものであるから、ボス部13の軸方向長さは、最大でも鋼板ドラム5の軸方向幅の略半部となる。
【0020】
絶縁板7,7は鋼板側板6,6に対して適宜の取付け手段を用いて着脱自在に設けられるものである。この着脱手段として、具体的には、鋼板側板6,6における中心孔14の外周複数箇所に周方向に離間して配置形成された突起(図示せず)と、該突起に嵌合させるべく突起に対応した位置に形成した嵌合孔16とを有しており、シャフト11の先端面17に設けた係止片18(図1,図4参照)を中心孔14の近傍の絶縁側板7の外面に係合させて、スプール3をシャフトに回転可能に固定する構成である。
【0021】
図4および図5に示すように、シャフト11は、本体4の垂直な支持板20にボルト21により固定される基台22と、基台22側の鍔体23から先端に延びる前記円筒体24と、円筒体24の先端面17に固定した止め具24aとからなっている。
シャフト11の円筒体24は、その肉厚が4〜5mmに設定されるのが好ましく、その基台22の底面に対して、直角より小さい角度、この例では、5〜15°の角度で支持板20から離れる方向へ上方に向いており、これにより円筒体24の軸線5が基台22側よりも先端面17側が上位にあるように傾斜している。
【0022】
シャフト11は、ナイロン66とガラス繊維とを含有する(ナイロン66とガラス繊維のみからなる)ものであり、例えばその含有率として、ナイロン66を50%、ガラス繊維を50%としている。さらに、ナイロン66に比べてガラス繊維が多く表面側に集合していることが好ましく、したがってナイロン66がガラス繊維に比べて多く表面側に集中している場合に比べて、円筒体24の表面粗度を粗くしている。なお、シャフト11は、ナイロン66とガラス繊維とを含有させて、絶縁性に優れているものである。
【0023】
ところでナイロン66は、衝撃強さ、耐磨耗性等の機械的性質に優れており、耐熱性が良好であることが知られているが、自己潤滑性を有することも知られている。したがって、ナイロン66のみを用いてシャフト11(円筒体24)を形成した場合は、ボス部13の内周面とシャフト11の外周面15との摩擦力が、溶接作業に伴う溶接ワイヤ2の引出力によって発生するスプール3の回転慣性力に対して直ちに抗して回転慣性力によるスプール3の回転を停止させるよう設定することは難しいといえる。しかしながら、シャフト11には、ガラス繊維を含有しており、シャフト11を射出成形するとガラス繊維が表面層側に集まり、円筒体24の表面粗度が、ナイロン66等の樹脂のみから成形する場合に比べて高くなる(粗くなる)。
【0024】
さらに、この種のシャフト11の成型時には成形型温は70〜80°C(例えば成形圧力:1140〜1330kg/cm)で行うことが通常成形となるが、成形型温を30〜35°C(例えば成形圧力:760〜855kg/cm)のように通常成形に比べて低く設定して行うと、ガラス繊維がいっそう表面層側に集まり易くなり、円筒体24の表面粗度が高くなる。
また、成形時のひけも明確になり易くなる。このようなひけをボス部13の内周面とシャフト11の外周面15との摩擦力の上昇に用いることも好ましい。なお、成形圧力についても、通常成形の場合に比べて低くすると、ガラス繊維が通常成形の場合に比べて表面層側に集まり易くなる。
【0025】
したがって、シャフト11とスプール3との接触面、すなわちシャフト11の円筒体24の外周面15とボス部13の内周面13aとの回動に伴う摺接における摩擦力が、溶接作業に伴う溶接ワイヤ2の引出力によって発生するスプール3の回転慣性力に対して直ちに抗して回転慣性力によるスプール3の回転を停止させるようになり、特別なブレーキ装置を設けることなく簡単な構成であっても、不必要に溶接ワイヤ2がスプール3から引出されるという状態を回避することができる。
【0026】
また、シャフト11を単に合成樹脂のみから形成して、ブレーキ装置を設けてスプール3の不要な回転を防止するようにした構成では、シャフト11の表面を高精度に形成していたが、本発明の実施形態によれば、シャフト11(円筒体24の外周面15)を高精度に製造しなくてよくなる分だけ、シャフト11の製造が容易になり、その分製造コストの低下を図ることができる。
【0027】
ところで、スプール3は、溶接ワイヤ2が巻回されるものであり、スプール3に溶接ワイヤ2を巻回するとかなりの負荷がスプール3に働くから、スプール3の鋼板ドラム5は金属で形成している。
しかしながら、近年、ワイヤ給送機1においてそのスプール3を使用後に容易に廃棄し得るよう、ドラムを樹脂で形成するような提案がなされている(例えば、上述した特許文献1にも記載されている)。
【0028】
上記特許文献1に記載のは樹脂で形成されているものの、焼却による廃棄を選択すると空気の汚染という課題が残る。また、ワイヤ給送機1においては、溶接現場で使用すると、スパッタと呼ばれる金属粒がスプール3側に跳ねて付着することも少なくない。そうすると、スプール3の再利用を選択するべく溶融させようとすると、スパッタを取除く必要があるなどの手間やコストが必要となることから、実際にはスプールを積極的に廃棄・再利用することはほとんど行われていないのが現状である。
そこで、本願実施形態のように、ドラムを金属で形成してシャフト11および絶縁板7のみを絶縁体で形成することにより、溶接作業での安全性を図ることができるとともに、確実な溶接作業を行い得、しかも合成樹脂を用いる部分が少なくなることで、環境に与える影響をも抑制することができる。
【0029】
また、上記実施形態では、シャフト11の円筒体24の表面粗度を合成樹脂にガラス繊維を含有させることで確保したがこれに限定されるものではなく、例えば図4に小円で表したように、円筒体24の外周面15に、単位面積当りに所定の面積を占めるよう窪み(ディンプル)30を形成することによって、溶接作業に伴う溶接ワイヤ2の引出力によって発生するスプール3の回転慣性力に対して直ちに抗して回転慣性力によるスプール3の回転を停止させるようにすることもできる。この場合はシャフト11の材料にガラス繊維を含有させなくてもよい。そして、この実施形態の場合も、特別なブレーキ装置を設けることなく簡単な構成であっても、不必要に溶接ワイヤ2がスプール3から引出されるという状態を回避することができる。
なお、窪み30の形成方法は、成形時に形成するようにしてもよいし、シャフト11の成形後に別に形成してもよい。このような窪み30が占める割合や、窪み30の径は、溶接作業に伴う溶接ワイヤ2の引出力によって発生するスプール3の回転慣性力に対して直ちに抗して回転慣性力によるスプール3の回転を停止させるものであれば、特に限定されるものではない。
例えば、本実施例として330mm2あたりに、直径7mmの窪み30を7×11個(縦横に等間隔)に配列した。但し、ボス部13の軸方向の長さは円筒体24の略半分とした。但し、何れの実施形態(実施例)においても、溶接ワイヤ2をスプール3から引出すに際して、前述の摩擦力(摩擦抵抗)は大きな障害とならない程度に設定することが好ましいことは勿論であり、上記の摩擦力は、シャフトとスプールとの接触面において設定されるものであるから、シャフト11の表面粗度の調節によって設定するのみならず、スプール側の表面粗度を考慮して決めることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態を示すワイヤ給送機の要部断面図
【図2】同じく溶接機にワイヤ給送機を装着した状態の側面図
【図3】同じく絶縁板の単体斜視図
【図4】同じくシャフトの一部破断単体側面図
【図5】同じくシャフトの単体正面図
【図6】同じくスプールの単体斜視図
【符号の説明】
【0031】
1…ワイヤ給送機、2…溶接ワイヤ、3…スプール、4…本体、5…鋼板ドラム、6…鋼板側板、7…絶縁板、8…ワイヤ導出装置、10…シャフト挿入用の挿入孔、11…シャフト、12…内径孔、13…ボス部、13a…内周面、14…中心孔、15…外周面、17…先端面、18…係止片、20…支持板、21…ボルト、22…基台、23…鍔体、24…円筒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給送機本体内に突出するよう、該給送機本体に固定されたシャフトと、該シャフトの外周面に摺接するように回転自在に支持され溶接ワイヤを巻回するスプールとを備え、スプールに巻回した溶接ワイヤを引出して溶接作業を行うようにした溶接機のワイヤ給送機であって、
前記シャフトとスプールとの接触面における摩擦力が、溶接作業に伴う溶接ワイヤの引出力によって発生するスプールの回転慣性力に対して直ちに抗して該回転慣性力によるスプールの回転を停止させるよう設定されていることを特徴とする溶接機のワイヤ給送機。
【請求項2】
スプールは金属によって形成されており、シャフトは絶縁材料から形成されていることを特徴とする請求項1記載の溶接機のワイヤ給送機。
【請求項3】
シャフトにおけるスプールとの接触面に、スプールの回転慣性力に対して直ちに抗して該回転慣性力によるスプールの回転を停止させるべく窪みが形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の溶接機のワイヤ給送機。
【請求項4】
シャフトはナイロン66とガラス繊維とを含有するものであることを特徴とする請求項2または請求項3記載の溶接機のワイヤ給送機。
【請求項5】
シャフトはナイロン66を50〜80%含有し、ガラス繊維を50〜20%含有することを特徴とする請求項4記載の溶接機のワイヤ給送機。
【請求項6】
ナイロン66を50%、ガラス繊維を50%それぞれ含有することを特徴とする請求項5記載の溶接機のワイヤ給送機。
【請求項7】
ナイロン66に比べてガラス繊維が多く表面側に集合していることを特徴とする請求項4ないし請求項6の何れかに記載の溶接機のワイヤ給送機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−94563(P2008−94563A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−278952(P2006−278952)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(597134809)
【Fターム(参考)】