説明

溶液のpH計測方法及び溶液のpH計測装置

【課題】指示薬による吸光性を殆ど示さない700nm付近の波長によるゼロレベルの補正の必要の無い溶液のpH測定方法、pH測定装置を提供する。
【解決手段】指示薬を混合した溶液の計測領域内の一方側から2つの波長の光を照射する光照射ステップと、前記計測領域内の他方側で、前記照射された2つの波長の透過光及び/又は反射光を受光する光受光ステップと、前記光受光ステップにより受光された透過光及び/又は反射光に基づき吸光度を求める吸光度演算ステップと、前記吸光度演算ステップで演算された2つの波長の吸光度から吸光度比を求める吸光度比演算ステップと、前記吸光度比と予め格納された吸光度比−pH値対応データベースに基づいて前記溶液のpH値をpH値演算ステップと、を含む溶液pH計測方法であって、前記2つの波長の光照射ステップ及び光受光ステップを、前記計測領域の溶液を脈動させながら実行するステップとを含むことを特徴とする溶液のpH計測方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞培養液のpH計測方法及び細胞培養液のpH計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞が生育、増殖を行うためには、その細胞培養液のpHが増殖適合範囲にある必要がある。しかしながら、その細胞培養液の調製または保存中に細胞培養液中に含まれる二酸化炭素が放出され、pHが増大することによって増殖適合範囲から外れることが多い。
このため、通常細胞培養液に含まれるフェノールレッドの色変化を目視にて判断したり、或いはpH電極を細胞培養液中に浸漬して測定するなどの方法により、pHの計測を行っているが、次のような問題点があった。
細胞培養液に含まれたフェノールレッドの色変化を目視にて判断する場合、誤認が起こる。一方、pH電極を細胞培養液に浸漬する場合、pH電極が十分滅菌されていない場合には、雑菌等のコンタミネーションが起こる。
【0003】
上記、目視に伴う誤認や、pH電極を使用する場合のコンタミネーションのような問題の起こらない細胞培養液のpH測定方法として以下のものが知られている。(特許文献1参照)
【0004】
そして、特許文献1には以下の記載がなされている。
細胞培養培地、血清および可視光の波長領域で2種以上の吸収ピークを有する指示薬からなる細胞培養液の可視光の吸収からpHを測定する細胞培養液のpH測定方法であって、pHが既知である細胞培養液に可視光を透過して得られた吸収ピークの2つの波長における吸光度の対数とpHとの直線関係に基づいて、pHが未知である細胞培養液試料で測定された各吸収ピークの吸光度の比の対数の値によりpHの値を求めることを特徴とする細胞培養液のpH測定方法を提供する。
【0005】
さらに、細胞培養培地、血清および可視光の波長領域で2種以上の吸収ピークを有する指示薬からなる細胞培養液の可視光の吸収からpHを測定する細胞培養液のpH測定方法であって、pHが既知である細胞培養液に可視光を透過して得られた吸収ピークの2つの波長における吸光度と各吸収ピークのない波長における吸光度との差を求めたものの比の対数とpHとの直線関係に基づいて、pHが未知である細胞培養液試料で測定された同様の吸光度の差の比の対数の値によりpHの値を求めることを特徴とする細胞培養液のpH測定方法を提供する。
【0006】
この細胞培養液のpH測定方法は、細胞培養培地、牛胎児などの血清及び指示薬からなる細胞培養液を透明な容器に入れ、該細胞培養液に可視光を照射し、得られる透過スペクトルまたは反射スペクトルからpHを算出することを特徴とする。
【0007】
細胞培養液中には通常細胞に害を与えないような希薄な濃度にてフェノールレッドがpH変化の検出のため含まれているが、このような希薄な濃度においてはフェノールレッドは可視光の範囲において430〜440nm付近と560nm付近に吸収ピークをもち、また480nmに等吸収点をもっている。細胞の生育可能なpH領域であるpH6.8〜7.6の範囲では、pHが下がるにつれて430〜444nm付近の吸収ピークは増大し、560nm付近の吸収ピークは減少していく。フェノールレッドのみの吸収が得られれば、この430〜440nm付近の吸収と560nm付近の吸収の比をとると、プロットは1本の曲線上にのり、この2つのピークの比から培養液のpHを算出することが可能である。
【0008】
また、人工授精細胞培養の様な細胞培養を行う場合は、健康な細胞の成長を保証するため環境を調整するための重要な二大パラメータである培養媒体の温度とpHとを監視するものとして以下のものが参考例として知られている。(特許文献2参照)
【0009】
図9に示す参考例の実施形態は、培養皿206が載置されたトレイ204を有する培養器202を備えている。フラスコの様な他の培養容器を使用してもよい。また、培養器は、どの様な大きさ又は構造のものでもよい。各培養皿には、媒体のキュベット208と関係付けられたpHセンサ及び温度センサが付帯している。センサは、光センサ及びサーモカプルを培養皿の中へと向ける必要無しに、キュベット内の媒体のpHと温度、従って培養皿内の媒体のpHと温度、の測定を行う。以下、それらユニットを「読み取り器ユニット」と称する。この好適な実施形態では、それら読み取り器ユニットは、発光ダイオード(LED)を光源として使用して光学的にpH測定を行い、サーモカプルを使用して温度測定を行う。
【0010】
読み取り器ユニットの或る好適な実施形態は、洗浄し滅菌することのできる適したプラスチックで作られているパッケージングで、中身がこぼれないように完全密封されたユニットを備えている。大型の皿又はフラスコを使用した他の細胞培養を行う場合には、監視対象の実際の溶液中にユニットを浸すこともできる。その場合、フェノールレッドが溶液に溶かされていない場合には、固定表示器付オプトードを使用してもよい。読み取り器ユニットは、再充電式でも、十分長期に亘って持続性があるか又は交換可能な電池を有していても、何れでもよい。
【0011】
読み取り器ユニット210は、スレーブ受信機/送信機ユニット212に対する無線通信能力を有している。スレーブ受信機/送信機ユニット212は、読み取り器ユニットからのデータを記録するデータ自動記録装置14に無線接続されている。データ自動記録装置214は、温度及びpHの詳細を表示し保存するコンピュータシステム216に対するダウンロード能力を有している。或いは、スレーブ受信機/送信機ユニット212は、データ自動記録装置214に配線接続されていてもよい。
【0012】
出来上がったシステムは、モジュール式であり拡張可能である。中央データ自動記録装置は、データの保管庫であり、複数の読み取り器からのデータストリームを収納することができる。データはPCにダウンロードすることができ、データをダウンロードし提示するのに適したソフトウェアがシステムの一部を形成している。読み取り器ユニットは、培養器の状態を監視しフィードバックを制御するのに使用できるが、培養容器毎に読み取り器を使用すると、個々の培養容器の履歴を追跡できるようになる。検査や媒体交換などのために容器を培養器の外に出したとき、温度及びpHの変動を最も受け易いので、このときが、状況を監視するのに本当に重要な時間である。その様な状況では、読み取り器ユニット210aは無線で直接データ自動記録装置214に送信することができる。
【0013】
培養サイクルの大部分は金属被覆された培養器の内側で経過するので、それらの期間中にユニットからの無線信号を受信するために、スレーブ受信機/送信機を培養器の内側又は外側に置くことができると考えられる。このユニットは、培養器の外側に置かれているメイン自動記録装置ユニットに接続することができ、無線接続でも配線接続でもよい。代わりに、読み取り器ユニットは、データ自動記録装置に配線接続してもよいし、データ自動記録装置が、培養器に挿入されるアンテナを有していてもよい(これにより、スレーブ受信機/送信機ユニットが不要になる)。しかしながら、上記好適な実施形態は、中央データ自動記録装置が複数の培養器(及びその中の複数の皿)からデータを受け取る実施形態なので、培養器毎にスレーブ受信機/送信機ユニットを持たせることによって、より柔軟に対応できるようになる。培養器が、無線信号を通す材料で被覆されている場合は、受信機/送信機も直接自動記録装置ユニットに送信することができる。
【0014】
従って、培養皿206aが培養器202の外側にあるとき、読み取り器ユニット210aは直接データ自動記録装置214に送信することができる。
【0015】
読み取り器ユニットを、個々の容器の履歴を監視するのに使用している場合、読み取り器ユニットは当該容器に付帯させておく必要があり、その場合は、容器と読み取り器ユニットを一緒にあちこち運ぶことができるように、両者を保持するホルダを使用することができる。
【0016】
好適な実施形態では、読み取り器ユニットはデータを無線で送信する。一方、培養器の内側では、データはスレーブユニットによって受信されることになる。メイン自動記録装置ユニットもデータストリームを探しており、ユニットが培養器の外側にあるときは、スレーブユニットが培養器の金属被覆を通して信号を受信することはないので、メイン自動記録装置ユニットがこのデータストリームを受信する。代わりに、スレーブ受信機/送信機ユニットは、培養器の外側に設置して、アンテナを培養器の内側と外側に設置し、常に信号を受信するようにしてもよい。電力を節約するため、読み取り器ユニットは、培養器内にある間は、データを継続的に送信するのではなく所定の時間間隔で送信してもよい。読み取り器ユニットが一旦培養器の外に出されると、この時は、より急激に変化が起き易いので、読み取り器はより頻繁に送信することができる。読み取り器に培養器の外側にいることを知らせる1つの方法は、フォトダイオードを使用して、周辺光の変化を探ることである。培養器の内側は一般に暗いものである。読み取り器ユニットは、pH又は温度が許容範囲から逸脱し始めると、容器を培養器内に戻すべきであることを警告する警告表示部を更に有することになる。サイクルが完了し及び/又は皿が長期間外に出されたままになると、ユニットはより緩慢なサンプリングの期間に戻ってもよい。
【0017】
〔pH測定原理〕
好適な実施形態では、読み取り器は、光学的測定に3つの波長を使用する(3つより多くを使用してもよい)。それら波長の内の2つは、指示薬の酸と塩基の形態の濃度の比率からpHを求めるのに使用されることになる。これは、指示薬の酸と塩基の形態の吸光係数を使用し、2つの波長の吸光の連立方程式を解くことにより求められる。比率を利用することで、測定を、キュベットに添加された指示薬の実際の量に比較的左右されないものにすることができる。装置は、可能な限り低コストにすべきなので、自動ゼロ化の方法を組み込むことが参考例の別の態様である。通常、光学的測定では、試料を測定する前に、試料を空にした状態でゼロレベル測定を行う。空の吸光レベルを、試料の読み取り値から減算すると、試料の正味吸光度が出る。この装置では、第3の波長は、指示薬による吸光性を殆ど示さないように選定され、ゼロレベルの変化を追跡する手段として利用されている。この波長チャネルの吸光レベルに変化があれば、ゼロレベルに変化があったことを示しており、測定に使用される他の2つの波長は、この第3の波長で測定された変化に基づいてゼロ補正することができる。これにより、例えば、異なる壁厚キュベット又は溶液からキュベットの壁の上へ沈積した被覆に起因する、オフセットにより生じる変動が補正されることになる。
【0018】
ゼロレベルに影響を及ぼすもう1つの要因は、LEDの温度である。実験は、3つの波長の強度が温度によって変化し、しかも同一絶対量で変化するわけではないことを示している。装置の単純な工場較正は、異なる波長のLEDの間の関係に対する係数を提供している。第3の波長の吸光度レベルに何らかの変化があれは、それは(先に述べたように)オフセットの影響と温度ドリフトに起因することになる。測定された温度を使って熱ドリフト成分を計算することができ、第3の波長のゼロレベルでの変化の残りは、全てオフセットの影響によることになる。次いで、オフセットと温度ドリフトの補正を求め、pHを求めるのに使用される他の2つの波長に適用することができる。
【0019】
図10は、参考例による読み取り器ユニットの1つの実施形態を示している。読み取り器ユニット220は、読み取り器本体21と、培養容器224を受けて保持するための把持部22とを有している。把持部は、培養容器を把持し担持できるどの様な好都合な大きさであってもよい。例えば、把持部は、シリコンエラストマーで形成され、35mm培養皿を把持し保持できる大きさに作られている。これは、培養皿を読み取り器ユニットと共に移送できるようにし、培養器の外側でも監視作業を続行できるようにする。
【0020】
読み取り器本体221は、上で述べたように培養皿の中ものと同じ流体の試料を担持するキュベット228のための陥凹部226を含んでいる。
【0021】
図11に示すように、読み取り器本体内には、上で述べたように異なる周波数の3つ又はそれ以上のLEDから成るLED光源配列230が、光がスロット226を横切りLED受光部アッセンブリ236に進むように、光導部232に向けられている。LED受光部アッセンブリ236は、LED光源配列の各周波数毎に受光器を含んでいる。電子回路238は、様々な読み取り値を処理し、電池239(電子回路の下にあり点線で図示)は、読み取り器ユニットを内蔵型にしている。光源230に隣接して、送光中のLEDアッセンブリ230のドリフトを測定し補正する第2LED受光器240が設けられている。電子回路に付帯している空中線242は、読み取り値を、培養器内のデータ自動記録装置又は培養器外側の監視装置に送る。読み取り器ユニットは、更に、温度を測定するためサーモカプル244を含んでおり、電子回路238は、pHデータの他に温度データも送信することができる。
【0022】
図10及び図11に示す読み取り器ユニットの或るバージョンは、把持部無しに供給してもよい。その様な装置は、培養器室全体を監視するのに使用することができ、警告装置として機能し、pH又は温度が所定の限界を外れると警報を発する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特公平06−34754号公報
【特許文献2】特表2009−533053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
上述の如く、従来のpHの光学的測定では、試料を測定する前に、試料を空にした状態でゼロレベル測定を行い、空の吸光レベルを、試料の読み取り値から減算すると、試料の正味吸光度が得られる。第3の波長として指示薬による吸光性を殆ど示さない波長(700nm)付近を選定して、ゼロレベルの変化を追跡する手段として利用されている。この波長チャネルの吸光レベルに変化があれば、ゼロレベルに変化があったことを示すので、測定に使用される他の2つの波長を、この第3の波長で測定された変化に基づいてゼロ補正する必要があった。
【0025】
本発明の課題(目的)は、指示薬による吸光性を殆ど示さない700nm付近の波長によるゼロレベルの補正の必要の無い溶液のpH測定方法及び細胞培養液のpH測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記課題を達成する本発明の溶液のpH計測方法は、指示薬を混合した溶液の計測領域内の一方側から2つの波長の光を照射する光照射ステップと、前記計測領域内の他方側で、前記照射された2つの波長の透過光を受光する光受光ステップと、前記光受光ステップにより受光された透過光及び/又は反射光に基づき吸光度を求める吸光度演算ステップと、前記吸光度演算ステップで演算された2つの波長の吸光度から吸光度比を求める吸光度比演算ステップと、前記吸光度比と予め格納された吸光度比−pH値対応データベースに基づいて前記溶液のpH値をpH値演算ステップとを含む溶液pH計測方法であって、
前記2つの波長の光照射ステップ及び光受光ステップを、前記計測領域の溶液を脈動させながら実行するステップとを含むことを特徴とする。
【0027】
また、前記2つの波長の光のうち一方の波長は400〜460nmであり、他方の波長は530〜580nmの光であることを特徴とする。
好ましくは、一方の波長は420〜460nmであり、他方の波長は540〜580nmの光である。
【0028】
上記課題を達成する本発明の溶液のpH計測装置は、指示薬を混合した溶液の計測領域内の一方から2つの波長の光を照射する光照射手段と、前記計測領域内の他方で、前記照射された2つの波長の透過光及び/又は反射光を受光する光受光手段と、前記2つの波長の光照射部及び光受光部との間の前記計測領域の溶液を脈動させる溶液脈動手段と、前記溶液脈動手段による溶液の脈動中に、前記光受光手段により受光された透過光及び/又は反射光に基づき吸光度を求める吸光度演算手段と、前記吸光度演算ステップで演算された2つの波長の吸光度から吸光度比を求める吸光度比演算手段と、前記吸光度比と予め格納された吸光度比−pH値対応データベースに基づいて前記溶液のpH値をpH値演算手段とを備えたことを特徴とする。
【0029】
また、前記溶液脈動手段は、前記2つの波長の光を照射する手段と、光を受光する手段との間に存在する溶液を脈動させることによって実行されることを特徴とする。
【0030】
また、前記溶液脈動手段は、前記溶液の計測領域の前又は後に配置されたペリスターポンプとシリンジポンプと遠心ポンプの何れかによって実行されることを特徴とする。
【0031】
また、前記溶液脈動手段は、脈動が検出できる周波数で脈動させることを特徴とする。
また、前記溶液脈動手段は、pH計測を行う際にのみ脈動させることを特徴とする。
また、前記溶液脈動手段は、前記2つの波長の光を照射する手段と光を受光する手段との間の距離を変動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明の溶液のpH測定方法、溶液のpH測定装置及びpH計測機能付き培養皿によれば、指示薬による吸光性を殆ど示さない700nm付近の波長によるゼロレベルの補正の必要の無い溶液のpH測定方法、溶液のpH測定装置及びpH計測機能付き培養皿を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の溶液のpH計測装置の基本的なブロック図である。
【図2】本発明の溶液のpH計測装置による溶液のpHの測定の手順を示すフローチャートである。
【図3】波長300〜700nmにおけるフェノールレッドの吸光度をpH6.45〜pH8.25毎に示した図である。
【図4】吸光度比(A558)/(A430)とpHとの関係を示した図である。
【図5】吸光度比log(A558)/(A430)とpHとの関係を示した図である。
【図6】溶液脈動手段の具体例であるペリスタポンプを説明する図である。
【図7】図6のペリスタポンプの吐出量の変化を示す図である。
【図8】本発明の溶液のpH計測装置を培養器に載置される具体的なpH計測装置付き培養皿に適用した例を示す図である。
【図9】従来の培養皿が載置されたトレイを有する培養器を説明するための図である。
【図10】従来の読み取り器ユニットの説明をするための図である。
【図11】従来の読み取り器ユニット構成を説明をするための図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
先ず、本発明の溶液のpH計測装置の前提となるpH指示薬としてフェノールレッドを用いた2波長によるpH測定の原理について説明する。
【0035】
図3は、波長300〜700nmにおけるフェノールレッドの吸光度をpH6.45〜pH8.25毎に示したものである。
図3に示す如く、波長430nm及び558nm付近にピークが存在し、波長700nm付近では吸光度がほぼゼロである。
【0036】
散乱がないと仮定すると、ランベルト・ベールの法則から、
【0037】
【数1】

【0038】
よって、吸光度比は、
【0039】
【数2】

【0040】
吸光度比(A558)/(A430)とpHとの関係は図4に示す関係となる。
吸光度比log(A558)/(A430)とpHとの関係は図5に示す関係となる。
吸光度比log(A558)/(A430)の場合は、pHとの関係がほぼ直線に近似した関係となる。
【0041】
基準(吸光度ゼロ)となる波長700nmにおけるゼロレベル補正をした場合には、波長558nmと波長430nmとの吸光度比は、フェノールレッドの濃度及び光路長が変化しても変化しない。
【0042】
次に、図1〜2を用いて本発明の溶液のpH計測装置及びpH測定方法の説明をする。
図1は、本発明の溶液のpH計測装置の基本的なブロック図である。
異なる波長の光を発光する発光素子(LED)1、2は、電池4より供給される電力で交互に発光するように駆動回路3により駆動される。
ここでは、発光素子1、2に採用する光としてそれぞれ吸光度のピークを示す430[nm]及び558[nm])を採用するが、これに限られない。具体的にはいずれか一方が400nm〜460nmの間(好ましくは420nm〜440nmの間)に吸光度のピークを示し、いずれか他方が530nm〜580nmの間(好ましくは540nm〜580nmの間)に吸光度のピークを示すのが望ましい。
【0043】
これらの発光素子1、2から照射された光はpHの測定溶液5を透過して受光素子であるフォトダイオード6で受光して電気信号に変換される。
なお、図1では受光素子を1個で構成しているが、2個の発光素子に対向して2個の受光素子を設けても良い。
なお、反射光を受光するようにしてもよい。
そして、これらの変換された信号は増幅器6で増幅され、マルチプレクサ8によりそれぞれの光波長に対応したフィルタ9−1、9−2に振り分けられる。
各フィルターに振り分けられた信号はフィルタ9−1、9−2によりフィルタリングされてノイズ成分が低減され、図示しないA/D変換器によりデジタル化されて処理部(CPU)10に入力される。
【0044】
溶液脈動手段11は、前記2つの波長の光を照射する手段と、光を受光する手段との間の距離(図ではpH測定容器内の被測定溶液)を物理的に脈動させるための手段である。
【0045】
次に、図1の本発明の溶液のpH計測装置による溶液のpHの測定を図2のフローチャートを用いて説明する。
・指示薬(フェノールレッド)を混合した溶液5の計測領域の溶液を溶液脈動手段11によって脈動させる。(ステップS1)
・前記溶液5の計測領域内の一方側に配置された発光素子(LED)を交互に駆動して2つの波長(430nm,558nm)の光を照射する。(ステップS2)
・前記計測領域内の他方側に配置した受光素子(PD)で、前記溶液5を透過した透過光を受光する。(ステップS3)
・前記溶液脈動手段11による前記溶液5の脈動により生じる透過光の変動から吸光度を求める。(ステップS4)
・前記吸光度演算ステップで演算された2つの波長の吸光度から吸光度比を求める。(ステップS5)
・前記吸光度比と予め格納された吸光度比−pH値対応データベースに基づいて前記溶液のpH値を求める。(ステップS6)
【0046】
次に、溶液脈動手段11の具体的な例として公知のペリスタポンプ(特開2004−92537号公報参照)を図6を用いて説明する。
ペリスタポンプ吐出量制御装置1は、ハウジング111を有しており、ハウジング111内には、ロータ120と、複数個のローラ121と、チューブ130と、制御部140と、センサ141とが設けられており、ハウジング111とロータ120と複数のローラ121とチューブ130とによってペリスタポンプが構成されている。また、ハウジング111には、図示せぬモータケースが接続されており、図示せぬモーターケース内にはモータ150が設けられている。
また、制御部140には、当該ペリスタポンプのユーザが操作可能な位置に設けられた図示せぬ入力部が接続されており、ペリスタポンプ110によってこれから吐出しようとする所望の吐出量を、ユーザが入力部から入力することができるように構成されている。
【0047】
ロータ120は、略円盤状をしており、ハウジング111によってその軸を中心として回転可能に支持されている。ロータ120上の円周近傍の位置には4つのローラ121が設けられており、これらは、軸心を中心として回転可能にロータ120に支持されている。4つのローラ121の回転軸は、ロータ120の回転軸と同軸的な同一円周上に位置しており、ロータ120の回転軸と平行の位置関係にある。また、4つのローラ121の回転軸は、当該同一円周上において周方向に等間隔に配置されている。ローラ121の周面は、ロータ120の円周よりもロータ120の半径方向外方へ突出した状態となっている。
【0048】
ハウジング111の一部であってロータ120の円周の一部に対向する位置には、円弧状壁部112が設けられている。円弧状壁部112はロータ120の円周に沿って略半円状に設けられており、円弧の中心の位置はロータ120の回転軸と一致する。円弧状壁部112は、図6においてロータ120の上半分を覆うように設けられており、4つのローラ121が、図6に示されているように上下左右に位置しているときには、上、左、右の3つのローラ121が円弧状壁部112に対向し、円弧状壁部112の2つの端部112A、112Aは左右のローラ121に対向する位置関係となる。
【0049】
ロータ120の円周よりもロータ120の半径方向外方へ突出しているローラ121の周面と円弧状壁部112との間は所定の距離を隔て離間しており、そこにはチューブ130が配設されている。チューブ130は、その半径方向に弾性変形可能であり、ロータ120の円周に沿って配置されており、ロータ120を取巻いた状態でハウジング111に対して移動不能となっている。ローラ121の周面と円弧状壁部112との間の距離は、弾性変形されていない状態のチューブ130の外径よりも小さい。このため、チューブ130は、ロータ120の円周よりもロータ120の半径方向外方へ突出しているローラ121の周面と円弧状壁部12とによって挟まれて、半径方向に押潰された状態となっている。一方、チューブ130の、ローラ121の周面と円弧状壁部112とによって挟まれていない部分は弾性変形されていない。ロータ120の回転により、ローラ121の周面と円弧状壁部112との対向位置が変化し、チューブ130の、ローラ121と円弧状外壁部とによって押潰されている部分の位置が変化することによって、チューブ130内の流体がチューブ130から押出されて、チューブ130に接続されている図示せぬ分注装置へ、流体たる試薬等が吐出されるように構成されている。
【0050】
ロータ120はモータ150に駆動連結されており、モータ150と同一回転量となるように直結されている。4つのローラ121は、ロータ120の回転に伴い回転しながら回動(ロータ120の軸心を中心として公転)する。モータ150は、より具体的にはステッピングモータであり、制御部140に接続されている。制御部140は、中央演算処理装置(CPU)142と、RAM及びROMからなるメモリ143と、ドライバ144とを有しており、CPU142はドライバ144を介してモータ150の回転速度及び回転角度を制御する。また、CPU142はエンコーダによって構成されるセンサ141に接続されており、センサ141を介してCPU142は、常時ローラ121の回動位置を把握するように構成されている。メモリ142のROMには、図7に示されるような、ロータ120上におけるローラ121の回動位置に固有の吐出量のデータが記憶されている。ペリスタポンプ110が所望の量の吐出を行うときには、センサ141によって検知されたロ一ラ121の回動位置と、メモリ143のROMに記憶されている吐出量のデータとに基づいて、所望の吐出量に必要なロータ120の回転角度をCPU142が計算して、ロータ120の当該回転角度に対応するモータ回転角度を制御するように構成されている。センサ141、メモリ143、及びCPU142は、ロータ回転角度制御手段に相当する。
【0051】
ここで、図7のグラフに示される、ペリスタポンプ110で生ずる脈流について説明する。図7のグラフにおいて、ロータ回転角度0°とは、図6に示されるように4つのローラ121が図6の上下左右に位置している状態を示している。なお、この位置を原点位置とする。この状態からモータ150を駆動させてロータ120を微小角度回転させ続けたときの、各微小角度におけるそれぞれの吐出量を測定し、ロータ120が1回転するまで、即ち、4つのローラ121がそれぞれ元の位置に戻るまで、順次吐出量をプロットしていった値が図7のグラフに示されている。図7に示される4周期の山はローラ121の数に関係がある。即ち、図6においてロータ120が右に90度回転して、図6の上の位置にあるローラ121が右の位置へと回動してゆくと、図7においてロータ回転角度が0〜90°の間に示されているような山が一つ生成される。同様に、ロータ120が更に右に90度回転して、図6の右の位置にあるローラ121が下の位置へと回動してゆくと、図7においてロータ回転角度が90〜180°の間に示されているような山が一つ生成される。図7のロータ回転角度が180〜270°、270〜360°の間についても同様にして山がそれぞれ生成され、ロータ120が1回転する間に4つの山が生成される。即ち、山の数はローラの数に対応する。
【0052】
図7の如く吐出量を脈動させることが可能なペリスタポンプによって、図6の2つの波長の光を照射する手段と、光を受光する手段との間の距離(図ではpH測定容器内の被測定溶液)を物理的に脈動させる。
【0053】
なお、本実施例において、溶液脈動手段11としてペリスタポンプを挙げたが、これに限られるものではなく、例えばシリンジポンプや遠心ポンプなど溶液を脈動できればいかなる態様でもよい。
【0054】
また、本実施例におけるチューブにpH計測部(発光素子と受光素子)は取り付けられてもよい。その際、チューブはペリスタポンプなどの脈動流に伴い変位できる程度の剛性であり、さらに光が透過できるように透明ないしは半透明であるのが望ましい。
【0055】
また、溶液脈動手段11による脈動は、常時行われる必要は無く、pH計測の際にのみ脈動をさせればよく、さらに、脈動を検出できる所定の周波数(例えば人間の脈拍数など)で脈動させることが望ましい。
【0056】
図6において、図7の如き吐出量を脈動させることが可能な手段であるペリスタポンプによって、図6の2つの波長の光を照射する手段と、光を受光する手段との間の距離(図ではpH測定容器内の被測定溶液)を物理的に脈動させた場合には以下の如くなる。
散乱がないと仮定すると、ランベルト・ベールの法則から、
【0057】
【数3】

【0058】
よって、吸光度比は、
【0059】
【数4】

【0060】
上記の如く、本発明のpH測定装置(方法)によれば、指示薬による吸光性を殆ど示さない700nm付近の波長によるゼロレベルの補正無しに、事前に求めたpHと吸光係数比の関係からpHを算出することが可能である。
【0061】
次に、図1の本発明の溶液のpH計測装置の基本的なブロック図の構成を、培養器に載置される具体的なpH計測装置付き培養皿に適用した例を図8を用いて説明する。
異なる波長の光を発光する発光素子(LED)1、2は、電池4より供給される電力で交互に発光するように駆動回路3により駆動される。
図8のpH測定装置付き培養皿は、培養皿BとpH計測装置Aとで構成され、pH測定装置Aが培養皿のpH測定溶液エリアを前記発光素子(LED)と受光素子(PD)とで挟む様に挿入可能な別体で構成されている。
培養皿B内の指示薬を混入した測定溶液の少なくとも一部が前記pH測定溶液エリアに流入可能に形成されている。
発光素子1、2に採用する光はそれぞれ吸光度のピークを示す430[nm]及び558[nm])を採用する。
【0062】
これらの発光素子1、2から照射された光はpHの測定溶液配置部5を透過して受光素子であるフォトダイオード(PD)6で受光して電気信号に変換される。
そして、これらの変換された信号は増幅器7で図示しない、マルチプレクサ及びフィルタを介して、増幅した後マルチプレクサによりそれぞれの光波長に対応したフィルタによりノイズ成分が低減され、図示しないA/D変換器によりデジタル化されて処理部(CPU)10に入力される。
【0063】
11は溶液脈動手段であって、前記2つの波長の光を照射する手段と、光を受光する手段との間の距離(図ではpH測定容器内の被測定溶液)を物理的に脈動させるための手段である。
この溶液脈動手段としては、上述のペリスタポンプよりは、受光素子(PD)又は発光素子(LED)と並置された周期的に押圧して発光手段と受光手段との間の距離(図ではpH測定容器内の被測定溶液)を物理的に脈動させるものが適している。
【符号の説明】
【0064】
1:発光素子(LED)(430nm)
2:発光素子(LED)(558nm)
3:LED駆動回路
4:電池
5:pH測定溶液エリア
6:受光素子(PD)
7:増幅器(マルチプレクサ,フィルタ)
8:マルチプレクサ
9-1,9-2:フィルタ
10:処理部(CPU)
11:溶液脈動手段
12:データ(pH測定値等)伝送部
13:RFID(温度測定機能付き)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指示薬を混合した溶液の計測領域内の一方側から2つの波長の光を照射する光照射ステップと、
前記計測領域内の他方側で、前記照射された2つの波長の透過光及び/又は反射光を受光する光受光ステップと、
前記光受光ステップにより受光された透過光及び/又は反射光に基づき、吸光度を求める吸光度演算ステップと、
前記吸光度演算ステップで演算された2つの波長の吸光度から吸光度比を求める吸光度比演算ステップと、
前記吸光度比と予め格納された吸光度比−pH値対応データベースに基づいて前記溶液のpH値をpH値演算ステップと、
を含む溶液pH計測方法であって、
前記2つの波長の光照射ステップ及び光受光ステップを、前記計測領域の溶液を脈動させながら実行するステップと、
を含むことを特徴とする溶液のpH計測方法。
【請求項2】
前記2つの波長の光のうち一方の波長は400〜460nmであり、他方の波長は530〜580nmの光である、
ことを特徴とする請求項1に記載の溶液のpH計測方法。
【請求項3】
指示薬を混合した溶液の計測領域内の一方から2つの波長の光を照射する光照射手段と、
前記計測領域内の他方で、前記照射された2つの波長の透過光及び/又は反射光を受光する光受光手段と、
前記2つの波長の光照射部及び光受光部との間の前記計測領域の溶液を脈動させる溶液脈動手段と、
前記溶液脈動手段による溶液の脈動中に、前記光受光手段により受光された透過光及び/又は反射光に基づき、吸光度を求める吸光度演算手段と、
前記吸光度演算ステップで演算された2つの波長の吸光度から吸光度比を求める吸光度比演算手段と、
前記吸光度比と予め格納された吸光度比−pH値対応データベースに基づいて前記溶液のpH値をpH値演算手段と、
を備えたことを特徴とする溶液のpH計測装置。
【請求項4】
前記溶液脈動手段は、前記2つの波長の光を照射する手段と、光を受光する手段との間に存在する溶液を脈動させることによって実行される、
ことを特徴とする請求項3に記載の溶液のpH計測装置。
【請求項5】
前記溶液脈動手段は、前記溶液の計測領域の前又は後に配置されたペリスターポンプとシリンジポンプと遠心ポンプの何れかによって実行される、
ことを特徴とする請求項3に記載の溶液のpH計測装置。
【請求項6】
前記溶液脈動手段は、脈動が検出できる周波数で脈動させる、
ことを特徴とする請求項3に記載の溶液のpH計測装置。
【請求項7】
前記溶液脈動手段は、pH計測を行う際にのみ脈動させる、
ことを特徴とする請求項3に記載の溶液のpH計測装置。
【請求項8】
前記溶液脈動手段は、前記2つの波長の光を照射する手段と光を受光する手段との間の距離を変動させる、
ことを特徴とする請求項3に記載の溶液のpH計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−170357(P2012−170357A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33371(P2011−33371)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)
【出願人】(591173198)学校法人東京女子医科大学 (48)
【Fターム(参考)】