説明

溶液製膜用流延ダイ及び溶液製膜方法

【課題】流延膜に悪影響を及ぼすことなく、支持体からの端部剥離点で乾燥不足により発生する剥ぎ残りを定期的に洗浄する必要がなく、生産能率を向上するための皮張り発生防止手段を提供する。
【解決手段】上記課題は、リップ先端両端部の断面形状における、リップ面とリップ側面のます角度θが120度以上である溶液製膜用流延ダイによって解決される。この流延ダイから溶液製膜されたフイルムは偏光板保護膜に適し、液晶表示装置等に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液製膜における流延ダイ幅方向両端部に発生する皮張りを防止する溶液製膜用流延ダイ及びその溶液製膜用流延ダイを用いた溶液製膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、セルロースアセテート、ポリカーボネート、セロファン等の支持体フィルムの一部は溶液製膜法で製造されている。この溶液製膜法でダイ1からポリマー溶液(ドープ)を流延している状態を図20に、そのダイ1のドープ吐出口であるスロット13の端部形状を図21に示す。図21に示されているようにスロット13の端部はコーナー部分が直角になっている。ほとんどの場合、流延ダイリップ両端部はドープが乾燥することにより、図20に示すように皮張り23が発生する。この皮張りは、リップ先端両端部にツララ状に成長し、リップからのドープの流れを乱し、安定な膜形成を阻害する。
【0003】
皮張りが発生した場合は、外乱により流延膜が不安定になっても切断しない速度まで流延速度を減速し、皮張りを除去しなければならず、生産性を著しく低下させる原因となっていた。
【0004】
従来は、この対策として、ダイリップ両端部に溶剤飽和ガスを吹き込んだり、ドープ可溶な溶剤を流下することにより防止する方法が知られている。
【0005】
例えば、特許文献1には、サイドエッジ近傍の単位巾当たり吐出量が中央部の平均吐出量よりも小さくなるような形状を有する流延ダイスが開示されている。このダイスは、一般に流延製膜法において、ダイスより流延した膜が流延巾のサイド部分が厚くなってしまう傾向に対処したものである。このサイドエッジ近傍の吐出量を減少させる手段としてパッキンを狭める手段とダイススロットの間隙を狭める手段が開示されているが、後者の場合、このスロットの間隙を狭めている部位はスロット巾の約2倍に達している。
【0006】
一方、特許文献2には、セルローストリアセテート溶液を流延するダイの両端内部に溶剤の流路を設けてそこからメチレンクロライド等の溶剤を供給することによって皮膜の発生を防止する方法が開示されている。この流路の下端は溶液吐出端で合流しており、溶剤は溶液とともに吐き出される。
【0007】
また、特許文献3にも、セルローストリアセテート等の溶液を流延するダイの両端のドープ吐出端よりやや内側に流延されたドープの両端の上に乗せるようにメチレンクロライド等の溶剤を供給することによって皮膜の発生を防止する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2−276607号公報
【特許文献2】特開平2−208650号公報
【特許文献3】特許第2687260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、これらの方法は、ダイリップ周囲の風速や、温度条件などの影響を受け易く、ガス濃度や溶剤流下位置の制御が困難であったため、皮張りの発生を確実に抑制できるものではなかった。すなわち、ガス濃度が低いと皮張りが発生し、飽和濃度を維持してもダイ周囲温度変動により結露が発生し、フィルムの外観上の故障が発生する。また、溶剤流下では、リップ先端におけるドープ吐出部にて幅方向に濡れ広がるためむしろ溶剤過剰となり、支持体上で剥ぎ残りを発生させ、異物付着故障などを起こす原因となる。支持体上に剥ぎ残りが発生すると流延速度を減速し、支持体を洗浄しなければならず、著しく生産性を低下させることになる。
【0010】
本発明の目的は、溶液製膜における上記従来技術の問題点を解消し、流延膜に悪影響を及ぼすことなく、支持体からの端部剥離点で乾燥不足により発生する剥ぎ残りを定期的に洗浄する必要がなく、生産能率を向上するための皮張り発生防止手段を提供することにある。
【0011】
また、本発明の他の目的は、セルロースアシレート溶液に各種の添加剤を添加し、前記流延ダイを用いて光学的特性に優れたフイルムの溶液製膜法を提供することにある。
【0012】
さらに、本発明の他の目的は、前記フイルムを用いて光学的特性に優れた偏光板保護膜、偏光板、光機能性膜、液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ポリマー及び溶媒を含むドープが供給されるマニホールド、及びこのマニホールドを経た前記ドープをウェブ状に吐出するスロットを有する溶液製膜用流延ダイにおいて、前記スロットは、略平行に配される1対のリップ面と、この1対のリップ面と接続する1対のリップ側面とにより囲まれて形成され、前記1対のリップ側面は、前記ドープの流れ方向に直交する面において前記スロットの外側に向かって凸となるように弧状に形成され、前記1対のリップ側面は前記リップ面と120°以上の角度θで交わる、または、前記リップ面と滑らかに接続し、前記1対のリップ面の間隔であるリップクリアランスdが、0.2mmから3mmの範囲であり、前記直交する面における前記リップ側面の形状がの最小曲率半径がd/10以上であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、ポリマー及び溶媒を含むドープが供給されるマニホールド、及びこのマニホールドを経た前記ドープをウェブ状に吐出するスロットを有する溶液製膜用流延ダイにおいて、前記スロットは、略平行に配される1対のリップ面と、この1対のリップ面と接続する1対のリップ側面とにより囲まれて形成され、前記1対のリップ側面のうち前記1対のリップ面と接続する1対の接続部分は、前記ドープの流れ方向に直交する面において前記スロットの外側に向かって凸となるように弧状に形成され、前記リップ面と120°以上の角度θで交わる、または、前記リップ面と滑らかに接続し、前記1対のリップ側面のうち前記1対の接続部分の間は前記ドープの流れ方向に直交する面において直線状に形成され、前記1対のリップ面の間隔であるリップクリアランスdが、0.2mmから3mmの範囲であり、前記リップ側面のうち、前記直交する面における形状が弧状である部分の最小曲率半径がd/10以上であることを特徴とする。
【0015】
前記リップ側面のうち、前記接続部分から前記ウェブの幅方向に最も遠く離れた部分を最奥部分とし、前記ウェブの幅方向において、前記接続部分と前記最奥部分との間隔をwとするときに、w/dは1.5以下であることが好ましい。また、前記リップ面を有する1対のリップ板が、前記ウェブの厚み方向に並ぶように前記ウェブの幅方向に設けられ、前記リップ側面を有する側面部材が、前記1対のリップ板の隙間を塞ぐように、前記1対のリップ板の幅方向両端部に設けられることが好ましい。
【0016】
本発明の溶液製膜方法は、上記の溶液製膜用流延ダイを用いて、走行する支持体に前記ドープを流延して、ウェブ状の流延膜を形成し、前記支持体から剥ぎ取られた流延膜を乾燥することを特徴とする。
【0017】
従来のリップ先端両端部の断面形状は、図21に示したように、矩形であり、リップ面18とリップ側面19のなす角度θは90度であった。リップ先端両端部の皮張りは、この角部分のドープ流量が少なくってドープ表面が乾燥しやすいことに起因して発生することを本発明者らは見出した。このようなドープ流量低下部分をなくすためには、リップ先端両端部の断面形状において角を極力なくすことである。すなわち、リップ面とリップ側面のなす角度をできるだけ大きくすることが効果的であるが、端に角度を大きくしすぎると、リップ側面部に尖った部分ができてしまい、皮張りの発生個所が増えることになり逆効果である。したがって、リップ側面部断面は滑らかな曲線が好ましい。
【0018】
本発明には、前記流延ダイを用いた溶液製膜方法が含まれる。その溶液製膜方法は、セルロースアシレート溶液を用いることが好ましい。また、前記セルロースアシレート溶液の溶媒が酢酸メチル、ケトン類及びアルコール類からなりその溶媒比率が、酢酸メチルが20〜90重量%、ケトン類が0〜60重量%、アルコール類が5〜30重量%であることが好ましい。
【0019】
前記セルロースアシレート溶液が、少なくとも一種の可塑剤をセルロースアシレートに対して0.1〜20重量%含有していることが好ましい。前記セルロースアシレート溶液が、少なくとも一種の紫外線吸収剤をセルロースアシレートに対して0.001〜5重量%含有していることが好ましい。また、前記セルロースアシレート溶液が、少なくとも一種の微粒子粉体をセルロースアシレートに対して0.001〜5重量%含有していることが好ましい。さらに、前記セルロースアシレート溶液が、少なくとも一種の離型剤をセルロースアシレートに対して0.002〜2重量%含有していることが好ましい。さらには、前記セルロースアシレート溶液が、少なくとも一種のフッ素系界面活性剤をセルロースアシレートに対して0.001〜2重量%含有していることが好ましい。
【0020】
前記溶液製膜方法において、流延工程で少なくとも1種類のセルロースアシレートを含む2種類以上のセルロースアシレート溶液を共流延することが好ましい。
【0021】
本発明の溶液製膜方法により製膜したフイルムを、偏光板保護膜、偏光板、光学機能性膜、液晶表示装置として用いることが好ましい。この場合には、耐久性に優れたものが得られる。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、流延ダイリップ端部での皮張り発生を確実に抑制できる。
【0023】
また、本発明により酢酸メチル、ケトン類、アルコール類の混合溶媒によりセルロースアシレートを効率良く溶解できた。そのセルロースアシレート溶液から溶液製膜法により得られたフイルムは優れた光学的性質や物性を有する。
【0024】
さらに、このフイルムから作成された偏光板保護膜、偏光板、光学機能製膜、液晶表示装置は優れた光学的性質や物性を有すると共に耐久性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施例である流延ダイのリップ先端の端部開口形状を示す部分断面図である。
【図2】図1の流延ダイを用いて流延している状態を示す側面図である。
【図3】図2において減圧チャンバーを付設した状態の側面図である。
【図4】図1の流延ダイを用いた流延バンド式の流延装置の要部構成を示す部分側面図である。
【図5】図1に示す流延バンド式の流延装置の要部平面図である。
【図6】図1の流延ダイを流延ドラム式の流延装置に適用した例を示す部分側面図である。
【図7】図6に示す適用例の要部平面図である。
【図8】本発明が流延ダイの一例のリップ先端の端部の部分断面図である。
【図9】本発明が流延ダイの別の例のリップ先端の端部の部分断面図である。
【図10】本発明が流延ダイの別の例のリップ先端の端部の部分断面図である。
【図11】本発明が流延ダイの別の例のリップ先端の端部の部分断面図である。
【図12】本発明が流延ダイの別の例のリップ先端の端部の部分断面図である。
【図13】本発明が流延ダイの別の例のリップ先端の端部の部分断面図である。
【図14】本発明の流延ダイの一例の構造を示す部分側面図である。
【図15】本発明の流延ダイの別の例の構造を示す部分側面図である。
【図16】本発明の流延ダイの別の例の構造を示す部分側面図である。
【図17】本発明が適用される流延ダイの一例の縦断面図である。
【図18】本発明が適用される流延ダイの別の例の縦断面図である。
【図19】本発明が適用される流延ダイの別の例の縦断面図である。
【図20】従来の流延ダイを用いて流延している状態を示す側面図である。
【図21】そのダイリップ先端の端部開口形状を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[ポリマー]
本発明の溶液製膜法におけるドープ調製用に用いることができるポリマーとしては、セルロースエステル、ポリカーボネートなどを含む。セルロースエステルとしては、セルロースの低級脂肪酸エステル(例、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレートおよびセルロースアセテートプロピオネート)が代表的である。低級脂肪酸は、炭素原子数6以下の脂肪酸を意味する。セルロースアセテートには、セルローストリアセテート(TAC)やセルロースジアセテート(DAC)が含まれる。特に、本発明においてセルロースアシレート溶液からなるドープを製膜することが好ましく、セルロースアシレートが、セルローストリアセテートであることがより好ましい。
【0027】
[溶媒]
上記ポリマーの溶剤としては、低級脂肪族炭化水素の塩化物や低級脂肪族アルコールが一般に使用される。低級脂肪族炭化水素の塩化物の例としては、メチレンクロライドを挙げることができる。低級脂肪族アルコールの例には、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコールおよびn−ブタノールが含まれる。その他の溶剤の例としては、ハロゲン化炭化水素を実質的に含まない、アセトン、炭素原子数4から12までのケトンとしては例えばメチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン及びメチルシクロヘキサノンが含まれ、炭素原子数3から12までのエステルとしては例えばギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル及び2−エトキシ−エチルアセテート等が含まれ、炭素原子数1から6までのアルコールとしては例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソ−プロパノール、1−ブタノール、t−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、2−メトキシエタノール及び2−ブトキシエタノール等が含まれ、炭素原子数が3から12までのエーテルとしては例えばジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソール及びフェネトール等が含まれ、また炭素原子数が5から8までの環状炭化水素類としてはシクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン及びシクロオクタン等が含まれる。
【0028】
溶剤としては、メチレンクロライドが特に好ましい。メチレンクロライドに他の溶剤を混合して用いてもよい。ただし、メチレンクロライドの混合率は70重量%以上であることが好ましい。特に好ましい混合率は、メチレンクロライドが75乃至93重量%、そして他の溶剤が7乃至25重量%である。溶剤はセルロースエステルフィルムの形成において除去する。溶剤の残留量は一般に5重量%未満である。残留量は、1重量%未満であることが好ましく、0.5重量%未満であることがさらに好ましい。
【0029】
また、人体、環境への影響を考慮した場合、メチレンクロライドを使用しない溶媒を用いることが好ましい。この場合においては、酢酸メチル、前述したケトン類及びアルコール類の混合溶媒を用いることが好ましい。特にドープ調製用のポリマーにセルロースアシレートを選択した場合には、溶媒には、酢酸メチルを主溶媒に用いることが溶解性の点から好ましい。また、酢酸メチルには、ポリマーの溶解性を良好にする目的で、ケトン類やアルコール類の溶媒を混合することもできる。この場合、各溶媒の成分比は、酢酸メチルが20〜90重量%、ケトン類が0〜60重量%、アルコール類が5〜30重量%であることが好ましい。
【0030】
[添加剤]
可塑剤や紫外線吸収剤、劣化防止剤などの添加剤をドープに加えてもよい。以下に、それら各添加剤について詳細に説明する。
【0031】
(可塑剤)
本発明で用いることのできる可塑剤としては特に限定はないが、リン酸エステル系では、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系では、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート等、グリコール酸エステル系では、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等を単独あるいは併用するのが好ましい。さらに、特開平11−80381号公報、同11−124445号公報、同11−248940号公報に記載されている可塑剤も添加することができる。これら可塑剤は、セルロースアシレートに対して0.1〜20重量%を含むようにドープ中に混合することが望ましい。
【0032】
(紫外線吸収剤)
また、ドープには、紫外線吸収剤を添加することもできる。特に、好ましくは一種または二種以上の紫外線吸収剤を含有することである。液晶用紫外線吸収剤は、液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。例えば、オキシベンゾフェノン系化合物,ベンゾトリアゾール系化合物,サリチル酸エステル系化合物,ベンゾフェノン系化合物,シアノアクリレート系化合物,ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。特に好ましい紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物である。中でも、ベンゾトリアゾール系化合物は、セルロースエステルに対する不要な着色が少ないことから、好ましい。さらには、特開平8−29619号公報に記載されているベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤、あるいは同8−239509号公報に記載されている紫外線吸収剤も添加することができる。その他、公知の紫外線吸収剤を添加しても良い。これら紫外線吸収剤は、セルロースアシレートに対して0.001〜5重量%を含むようにドープ中に混合することが望ましい。例えば、特開平8−29619号公報に記載されているベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤、あるいは同8−239509号公報に記載されている紫外線吸収剤も添加することができる。
【0033】
好ましい紫外線防止剤として、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール,ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N´−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどが挙げられる。特に、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が最も好ましい。また例えば、N,N´−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジンなどのヒドラジン系化合物の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイトなどのリン系加工安定剤を併用してもよい。これらの化合物の添加量は、セルロースアシレートに対して0.001〜5重量%含まれていることが好ましい。
【0034】
(微粒子粉体)
ドープには、フイルムの易滑性や高湿度下での耐接着性の改良のために微粒子粉体であるマット剤を使用することができる。マット剤の表面の突起物の平均高さが0.005〜10μmが好ましく、より好ましくは0.01〜5μmである。また、その突起物は表面に多数ある程良いが、必要以上に多いとへイズとなり問題である。使用されるマット剤としては、無機化合物、有機化合物ともに使用可能である。無機化合物としては、硫酸バリウム、マンガンコロイド、二酸化チタン、硫酸ストロンチウムバリウム、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化錫、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、カオリン、硫酸カルシウムなどの無機物の微粉末があるが、さらに例えば湿式法やケイ酸のゲル化より得られる合成シリカ等の二酸化ケイ素やチタンスラッグと硫酸により生成する二酸
化チタン(ルチル型やアナタース型)等が挙げられる。また、粒径の比較的大きい、例えば20μm以上の無機物から粉砕した後、分級(振動ろ過、風力分級など)することによっても得られる。有機化合物としては、ポリテトラフルオロエチレン、セルロースアセテート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリプピルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチレンカーボネート、アクリルスチレン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、メラミン系樹脂、ポリオレフィン系粉末、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、或いはポリ弗化エチレン系樹脂、澱粉等の有機高分子化合物の粉砕分級物もあげられる。あるいは又懸濁重合法で合成した高分子化合物、スプレードライ法あるいは分散法等により球型にした高分子化合物、または無機化合物を用いることができる。また、微粒子粉体は、あまり多量に添加するとフイルムの柔軟性が損なわれるなどの弊害も生じるため、セルロースアシレートに対して0.001〜5重量%含有していることが好ましい。
【0035】
(離型剤)
また、ドープには、離型操作を容易にするための離型剤を添加することもできる。離型剤には、高融点のワックス類、高級脂肪酸およびその塩やエステル類、シリコーン油、ポリビニルアルコール、低分子量ポリエチレン、植物性タンパク質誘導体などが挙げられるが、これらに限定されない。離型剤の添加量は、フイルムの表面の光沢や平滑性に影響を及ぼすため、セルロースアシレートに対して0.002〜2重量%含有していることが好ましい。
【0036】
(フッ素系界面活性剤)
ドープには、フッ素系界面活性剤を添加することもできる。フッ素系界面活性剤は、フルオロカーボン鎖を疎水基とする界面活性剤であり、表面張力を著しく低下させるため有機溶媒中での塗布剤や、帯電防止剤として用いられる。フッ素系界面活性剤としては、C817CH2 CH2 O−(CH2 CH2 O)10−OSO3 Na、C817SO2 N(C37 )(CH2 CH2 O)16−H、C817SO2 N(C37 )CH2 COOK、C715COONH4 、C817SO2N(C37 )(CH2 CH2 O)4 −(CH24 −SO3 Na、C817SO2 N(C37 )(CH23 −N+ (CH33 ・I、C817SO2 N(C37 )CH2 CH2 CH2+ (CH32 −CH2 COO、C817CH2 CH2 O(CH2 CH2 O)16−H、C817CH2 CH2 O(CH23 −N+ (CH33 ・I 、H(CF28 −CH2 CH2 OCOCH2 CH(SO3 )COOCH2 CH2 CH2 CH2 −(CF28 −H、H(CF26 CH2 CH2 O(CH2 CH2 O)16−H、H(CF28 CH2 CH2 O(CH23 −N+ (CH33 ・I 、H(CF28 CH2 CH2 OCOCH2 CH(SO3 )COOCH2 CH2 CH2 CH2817、C917−C64 −SO2 N(C37 )(CH2 CH2 O)16−H、C917−C64 −CSO2 N(C37 )(CH23 −N+ (CH33 ・I などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。フッ素系界面活性剤の添加量は、セルロースアシレートに対して0.001〜2重量%含有していることが好ましい。
【0037】
また、ドープには、必要に応じて更に種々の添加剤を溶液の調整前から調整後のいずれかの段階で添加してもよい。カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属の塩などの熱安定剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、油剤などである。
【0038】
[ドープの調製]
(膨潤工程)
始めに、前記セルロースアシレート粒子と溶媒とを混合し、セルロースアシレート粒子を溶媒により膨潤させる膨潤工程をおこなう。膨潤工程の温度は、−10〜55℃であることが好ましい。通常は室温で実施する。セルロースアシレートと溶媒との比率は、最終的に得られる溶液の濃度に応じて決定する。一般に、混合物中のセルロースアシレートの量は、5〜30重量%であることが好ましく、8〜20重量%であることがさらに好ましく、10〜15重量%であることが最も好ましい。溶媒とセルロースアシレートとの混合物は、セルロースアシレートが充分に膨潤するまで攪拌することが好ましい。また、膨潤工程において、溶媒とセルロースアシレート以外の成分、例えば、可塑剤、劣化防止剤、染料や紫外線吸収剤を添加してもよい。
【0039】
(加熱工程)
次に、上記ドープを130℃以上に加熱する加熱工程を行う。加熱温度は、130℃以上、望ましくは160℃以上、最も望ましくは180℃以上である。しかしながら、250℃を超えると、ドープ中のセルロースアシレートの分解が生じるため、フイルムの品質が損なわれ、好ましくはない。この場合において、加熱速度は、1℃/分以上であることが好ましく、2℃/分以上であることがより好ましく、4℃/分以上であることがさらに好ましく、8℃/分以上であることが最も好ましい。加熱速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、加熱速度とは、加熱を開始する時の温度と最終的な加熱温度との差を、加熱開始時から最終的な加熱温度に達するまでの時間で割った値である。加熱方法は、オートクレーブ方式、多管式熱交換器、スクリュー押し出し機、スタチックミキサーなどの何れの方法であっても良い。
【0040】
また、加熱時間は、20秒以上4時間以下が好ましい。加熱時間が20秒に満たない場合、加熱溶解したドープに不溶解物が残存して高品質なフイルムを作製することができない。また、この不溶解物を濾過により取り除く場合でも、濾過寿命が極端に短くなることにより不利である。加熱時間の始期は、目的温度に達したときから測定するものとし、終期は、目的温度から冷却を開始したときとする。なお、装置の冷却は、自然冷却であっても良いし、強制的な冷却であっても良い。
【0041】
(加圧工程)
上記加熱工程において、溶液が沸騰しないように調整された圧力下で、溶媒の大気圧における沸点以上の温度までドープを加熱することが好ましい。加圧することによって、ドープの発泡を防止して、均一なドープを得ることができる。この時、加圧する圧力は、加熱温度と溶媒の沸点との関係で決定する。
【0042】
(冷却工程)
上記ドープを、加熱工程の前に、−100〜−10℃に冷却する冷却工程を行うことも、光学的性質が良好なフイルムを得るために有効である。常温で容易に溶解し得ない系と、不溶解物の多くなる系では、冷却または加熱あるいは両者を組み合わせて用いると、良好なドープを調製できる。冷却することにより、セルロースアシレート中に溶媒を急速かつ有効に浸透せしめることができ溶解が促進される。有効な温度条件は−100〜−10℃である。冷却工程においては、冷却時の結露による水分混入を避けるため、密閉容器を用いることが望ましい。また、冷却時に減圧すると、冷却時間を短縮することができる。減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが望ましい。また、この冷却工程は、上記加熱工程の後に実施することも本発明において有効である。なお、溶解が不充分である場合は、冷却工程から加熱工程までを繰り返して実施してもよい。溶解が充分であるかどうかは、目視により溶液の外観を観察して判断できる。
【0043】
[フイルム製膜]
前述して得られたドープは、ミキンシングタンク内に注入され、撹拌翼で撹拌されて均一な溶液になる。この時、ドープには、疎水性可塑剤及び紫外線吸収剤などの添加剤を混合することも可能である。ドープは、ポンプにより濾過装置に送られて不純物が除去される。このドープを用いて溶液製膜法を行なうが、典型的な方法は流延バンドを用いる方法と流延ドラムを用いる方法に分けられる。
【0044】
[流延ダイ]
始めに、流延バンドを用いる方法を説明する。バンド式の溶液製膜装置の一例を図4に示す。この装置は1対の回転ドラム3(1方のみが図示されている。)に表面が鏡面処理された無端状の流延バンド2が巻き掛けられている。この回転ドラム3の1方には周面からやや離して流延ダイ1が設けられている。この流延ダイ1の後方、すなわち図面右方には減圧チャンバー6が設けられ、この減圧チャンバー6は、吸引ダクト7、バッファーチャンバー8を経由して吸引ブロワー9によって吸引される。ドープはこの流延ダイ1から図2又は図3に示されるように押し出されて図面左方に走行している流延バンド2上に流延され、走行中に固化して略一周後剥取ローラー5で剥ぎ取られてテンタ延伸機(図示されていない。)に送られる。上記の減圧チャンバーのない装置もある。
【0045】
テンタ延伸機によりフイルムは、搬送されながら延伸及び乾燥する。テンタ延伸機を出たフイルムは乾燥ゾーンに送られて複数のローラで搬送されながら乾燥されたのち、冷却ゾーンを通過して常温まで冷却されて巻き取り機で巻き取られる。巻き取られる前に、ナーリングが付与されたり、耳切りが行なわれることが好ましい。しかしながら、本発明において、フイルムの乾燥方法は公知のいずれの方法であっても良い。
【0046】
図6の装置は、流延バンド2の代わりに流延ドラム4を用いたものである。
【0047】
上記の流延ダイ1としては、図17、図18、図19に示すようなものを用いることができる。
【0048】
図17の流延ダイは、単層のフィルムを製膜する際に用いるもので、この流延ダイ1は、1つのマニホールド11が形成されている。図18の流延ダイは、マルチマニホールド型の共流延ダイで、この共流延ダイ1は、3つのマニホールド111,112,113が形成され、3層構成のフィルムを製膜できるものである。このマニホールド11は、コートハンガー状をしており、その中央部にはドープ供給口12が設けられている。マニホールド11の下側はスロット13になっていてドープはそこからフィルム状に押し出される。ダイ1の両側にはパッキン14を介して側板15で閉止されている。図19の流延ダイは、フィードブロック型の共流延ダイで、この共流延ダイ1は、マニホールド1が形成されるとともに、フィードブロック22が設けられ、フィードブロック22において合流させられて複数層(図19においては3層)になったドープを流延するものである。なお、以上の流延ダイにおいては、コートハンガーダイを使用しているが、これに限定されるものでなく、Tダイ等他の形状のダイであってもよい。
【0049】
溶液製膜法におけるダイリップクリアランスは、通常0.2mmから3mmの範囲で設定し、好ましくは0.5mmから2.5mmの範囲で設定するのがよいが、これに限定されるものではない。
【0050】
流延ダイと支持体(流延バンド又は流延ダイ)との間隔は、通常1mmから10mmの範囲で設定し、好ましくは1.5mmから6mmの範囲で設定するのがよいが、これに限定されるものではない。
【0051】
本発明においては、このダイリップの先端両端部の形状に特徴がある。すなわち、従来はリップの両端はリップ面、すなわちスロット長手方向の面と、リップ側面、すなわちスロットの端面とのなす角が直角であった。本発明では、この角度を120度以上、好ましくは150度以上、より好ましくはリップ側面からの接線とリップ面が一致し、折曲部のない弧状とするのである。なお、いずれの場合も、リップ側面部断面はリップクリアランスdに対して最小曲率半径d/10以上の滑らかな曲線形状とすることが好ましい。また、リップ面とリップ側面との接続部、すなわち、リップ面の直線から中心側に変化を始めた基点とリップ側面の最奥部との間隔wとリップクリアランスdとの比率w/dが1.5以下、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.8以下になるようにすることが好ましい。w/dの下限は、特に制限されないが、例えば0.1とする。リップ側面の断面形状は典型的には弧状であるが、これに限定されず、例えば図21の断面形状において隅角部のみを弧状にした形や全部曲線で形成したw字状等であってもよい。また、両端部の形状は、特別な目的がなければ対称形でよい。
【0052】
このようなダイリップの両端部の形状加工はリップ自体に対して行ってもよく、あるいはリップ側面部の部材である側板パッキンや側板自体に対して行ってもよく、さらに、リップ端部にパッキンを挿入してこのパッキンで所定の形状にしてもよい。加工の例を図8〜図16に示す。
【0053】
図8のダイは、一体で継ぎ目のないリップ16に加工を施した例であり、図9及び図10のダイは継ぎ目のあるリップ16に加工を施した例である。また、図11のダイは、側板パッキン14に厚いものを用いてそこに加工を施した例であり、図12のダイはダイ側板15に厚いものを用いてそこに加工を施した例である。図13のダイはダイリップの端部にパッキン20を挿入してそれに加工を施した例である。
【0054】
ダイリップの端部にパッキンを挿入してそれに加工を施した例の側面図を図14〜図16に示す。これらの図に示すように、パッキン20は、ダイ内部の液流れ方向に対してスロット幅が一定でも(図14)、出口幅が広がっていても(図15)よい。図16のダイはリップ端部に皮張り防止用の溶剤供給管24を設けた例である。この溶剤にはメチレンクロライド等が用いられ、詳細は特許第2687260号公報等に説明されている。
【0055】
減圧チャンバーの減圧度pは、通常−500〜−10Paの範囲で設定し、好ましくは−400〜−20Paで設定するのがよいがこれに限定されるものではない。
【0056】
流延速度vは、通常3m/分〜150m/分の範囲で設定し、好ましくは10m/分〜100m/分の範囲で設定するのがよいが、これに限定されるものではない。
【0057】
フィルムの厚みtは、20〜500μmが好ましく、30〜300μmがより好ましく、35〜200μmが最も好ましいが、これに限定されるものではない。
【0058】
[製品]
得られたフイルムは、偏光板保護膜として用いることができる。この偏光板保護膜をポリビニルアルコールなどから形成された偏光膜の両面に貼付することで偏光板を形成することができる。さらに、フイルム上に光学補償シートを貼付した光学補償フイルム、防眩層をフイルム上に積層させた反射防止膜などの光機能性膜として用いることもできる。これら製品からは、液晶表示装置の一部を構成することも可能である。
【0059】
[共流延]
また、本発明の溶液製膜方法は、2種類以上のドープを調製して同時重層塗布による溶液製膜法にも適用可能である。例えば、同時3層塗布においてフイルムを形成する場合、内層用のドープにはセルロースアシレートを多めに含有させ、内層の表面と裏面に形成される外層用のドープには、比較的セルロースアシレートを少なめに含有させる。これらドープを同時に3層を共流延法により塗布して形成されたフイルムは平面性、透明性または成型加工性が良好になる。しかしながら本発明の溶液製膜法における共流延法は、この態様に限定される訳ではない。
【実施例】
【0060】
溶液製膜工程において使用した原料は、以下の通りである。
セルローストリアセテート 100重量部
トリフェニルフォスフェート 10重量部
ビフェニルジフェニルフォスフェート 5重量部
メチレンクロライド 315重量部
メタノール 60重量部
n−ブタノール 10重量部
乾燥後の製品厚み 40,80μm
減圧チャンバー減圧度 0〜500Pa
共流延時の副流ドープ組成
セルローストリアセテート 100重量部
トリフェニルフォスフェート 10重量部
ビフェニルジフェニルフォスフェート 5重量部
メチレンクロライド 400重量部
メタノール 75重量部
n−ブタノール 13重量部
乾燥後の製品厚み合計 80μm
主流厚み 76μm
副流厚み(上下層) 各2μm
ダイリップクリアランスd=1.0mm
流延速度 50m/分
【0061】
皮張り防止のための溶剤ガスや溶剤流下は使用しなかった。実施例の各条件にて、リップ両端部の皮張り発生時間と程度および支持体上の剥ぎ残り汚れを評価した。
【0062】
[実施例1]
下記の条件にて、単層流延した。リップ端部には、断面形状の曲線加工したパッキンを挿入した。
1)リップ面とリップ側面とのなす角度θ=120度
2)リップ側面の最小曲率半径=0.5mm
皮張りは、2分間で発生した。発生量は、皮張りがツララ状に成長しにくく、少なかった。支持体上の剥ぎ残り汚れは、ほとんどなかった。
【0063】
[実施例2]
下記の条件にて、単層流延した。リップ端部には、断面形状の曲線加工したパッキンを挿入した。
1)リップ面とリップ側面との成す角度θ=150度
2)リップ側面の最小曲率半径=0.5mm
皮張りは、20分間で発生した。発生量は、皮張りがツララ状に成長しにくく、少なかった。支持体上の剥ぎ残り汚れは、ほとんどなかった。
【0064】
[実施例3]
下記の条件にて、単層流延した。リップ自体を曲面加工した。
1)リップ側面からの接線とリップ面が一致し、段差なく滑らかな曲線をなしている。
2)リップ側面の最小曲率半径=0.5mm
60分経過しても、皮張りは発生しなかった。支持体上の剥ぎ残り汚れは、ほとんどなかった。
【0065】
[実施例4]
実施例3の条件にて、共流延を行った。結果は、60分経過しても皮張りは発生しなかった。支持体上の剥ぎ残り汚れは、ほとんどなかった。
【0066】
[実施例5]
下記の条件にて、単層流延した。リップ端部には、断面形状の曲線加工したパッキンを挿入した。
1)リップ面とリップ側面とのなす角度θ=150度
2)リップ側面の最小曲率半径=0.5mm
3)リップ両端部に溶剤を0.1mL/分で流下させた。溶剤組成は、メチレンクロライド50重量部、メタノール50重量部である。
60分経過しても、皮張りは発生しなかった。支持体上の剥ぎ残り汚れは発生した。
【0067】
[実施例6]
下記のドープ処方にて、単層流延した。リップ自体を曲面加工した。
セルローストリアセテート 100重量部
トリフェニルフォスフェート 10重量部
ビフェニルジフェニルフォスフェート 5重量部
酢酸メチル 315重量部
エタノール 60重量部
n−ブタノール 10重量部
溶媒にてセルローストリアセテートを30分間膨潤させ、セルローストリアセテート溶液をスクリュー押出し機で送液して、−70℃で3分間維持されるように冷却部分を通過させた。冷却は冷凍機で冷却した−80℃の冷媒(3M社製Novac FC−77、あるいはHFE−7100)を用いて実施した。そして、冷却により得られた溶液はステンレス製の容器に移送し、50℃で2時間攪拌した。そして、絶対濾過精度0.01mmの濾紙(東洋濾紙(株)製、#63)で濾過した。
【0068】
リップ端部形状は、
1)リップ側面からの接線とリップ面が一致し、段差なく滑らかな曲線をなしている。
2)リップ側面の最小曲率半径=0.5mm
60分経過しても、皮張りは発生しなかった。支持体上の剥ぎ残り汚れは、ほとんどなかった。
【0069】
[比較例1]
下記の条件にて、流延した。
1)リップ面とリップ側面とのなす角度θ=90度
皮張りは、除去しても10秒以内に発生した。発生量は皮張りがツララ状に成長し非常に多かった。支持体上の剥ぎ残り汚れは、ほとんどなかった。
【0070】
[実施例7]
実施例5のドープ処方に、さらに下記処方のドープを副流として用い、共流延を行った。
セルローストリアセテート(置換度2.83、粘度平均重合度320、含水率0.4重量%、メチレンクロライド溶液中6重量%の粘度305mPa・s)
25重量部
酢酸メチル 75重量部
シクロペンタノン 10重量部
アセトン 5重量部
メタノール 5重量部
エタノール 5重量部
可塑剤A(ジペンタエリスリトールヘキサアセテート) 1重量部
可塑剤B(トリフェニルフォスフェート) 1重量部
微粒子(シリカ(粒径20nm)) 0.1重量部
UV剤a:(2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン
0.1重量部
UV剤b:2(2’−ヒドロキシ−3’,5‘−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール 0.1重量部
UV剤c:2(2’−ヒドロキシ−3’,5‘−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール 0.1重量部
1225OCH2 CH2 O−P(=O)−(OK)2 0.05重量部
【0071】
さらに実施例5のリップ端部形状に加え、リップ両端部に溶剤を0.1mL/分で流下させた。溶剤組成は、酢酸メチル90重量部、アセトン10重量部である。結果は、60分経過しても皮張りは発生しなかった。支持体上の剥ぎ残り汚れもほとんどなかった。
【0072】
さらに、上記の方法により流延製膜した実施例6及び実施例7のフイルムを使って、塗工による反射防止膜を下記の手順により作製した。
【0073】
(防眩層用塗布液Aの調製)
ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(DPHA、日本化薬(株)製)125g、ビス(4−メタクリロイルチオフェニル)スルフィド(MPSMA、住友精化(株)製)125gを、439gのメチルエチルケトン/シクロヘキサノン=50/50重量%の混合溶媒に溶解した。得られた溶液に、光重合開始剤(イルガキュア907、チバガイギー社製)5.0gおよび光増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製)3.0gを49gのメチルエチルケトンに溶解した溶液を加えた。この溶液を塗布、紫外線硬化して得られた塗膜の屈折率は1.60であった。さらにこの溶液に平均粒径2μmの架橋ポリスチレン粒子(商品名:SX−200H、綜研化学(株)製)10gを添加して、高速ディスパにて5000rpmで1時間攪拌、分散した後、孔径30μmのポリプロピレン製フィルターでろ過して防眩層の塗布液Aを調製した。
【0074】
(防眩層用塗布液Bの調製)
シクロヘキサノン104.1g、メチルエチルケトン61.3gの混合溶媒に、エアディスパで攪拌しながら酸化ジルコニウム分散物含有ハードコート塗布液(デソライトKZ−7886A、JSR(株)製)217.0g、を添加した。この溶液を塗布、紫外線硬化して得られた塗膜の屈折率は1.61であった。さらにこの溶液に平均粒径2μmの架橋ポリスチレン粒子(商品名:SX−200H、綜研化学(株)製)5gを添加して、高速ディスパにて5000rpmで1時間攪拌、分散した後、孔径30μmのポリプロピレン製フィルターでろ過して防眩層の塗布液Bを調製した。
【0075】
(防眩層用塗布液Cの調製)
ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(DPHA、日本化薬(株)製)91g、酸化ジルコニウム分散物含有ハードコート塗布液(デソライトKZ−7115、JSR(株)製)199g、および酸化ジルコニウム分散物含有ハードコート塗布液(デソライトKZ−7161、JSR(株)製)19gを、52gのメチルエチルケトン/シクロヘキサノン=54/46重量%の混合溶媒に溶解した。得られた溶液に、光重合開始剤(イルガキュア907、チバガイギー社製)10gを加えた。この溶液を塗布、紫外線硬化して得られた塗膜の屈折率は1.61であった。さらにこの溶液に平均粒径2μmの架橋ポリスチレン粒子(商品名:SX−200H、綜研化学(株)製)20gを80gのメチルエチルケトン/シクロヘキサノン=54/46重量%の混合溶媒に高速ディスパにて5000rpmで1時間攪拌分散した分散液29gを添加、攪拌した後、孔径30μmのポリプロピレン製フィルターでろ過して防眩層の塗布液Cを調製した。
【0076】
(ハードコート層用塗布液Dの調製)
紫外線硬化性ハードコート組成物(デソライトKZ−7689、72重量%、JSR(株)製)250gを62gのメチルエチルケトンおよび88gのシクロヘキサノンに溶解した溶液を加えた。この溶液を塗布、紫外線硬化して得られた塗膜の屈折率は1.53であった。さらにこの溶液を孔径30μmのポリプロピレン製フィルターでろ過してハードコート層の塗布液Dを調製した。
【0077】
(低屈折率層用塗布液の調製)
屈折率1.42の熱架橋性含フッ素ポリマー(TN−049、JSR(株)製)20093gにMEK−ST(平均粒径10〜20nm、固形分濃度30重量%のSiO2ゾルのMEK分散物、日産化学(株)製)8g、およびメチルエチルケトン100gを添加、攪拌の後、孔径1μmのポリプロピレン製フィルターでろ過して、低屈折率層用塗布液を調製した。
【0078】
実施例6で作製した80μmの厚さのトリアセチルセルロースフイルム、上記のハードコート層用塗布液Dをバーコーターにて塗布し、120℃で乾燥の後、160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度400mW/cm2 、照射量300mJ/cm2 の紫外線を照射して塗布層を硬化させ、厚さ2.5μmのハードコート層を形成した。その上に、上記防眩層用塗布液Aをバーコーターにて塗布し、上記ハードコート層と同条件にて乾燥、紫外線硬化して、厚さ約1.5μmの防眩層を形成した。その上に、上記低屈折率層用塗布液をバーコーターにて塗布し、80℃で乾燥の後、さらに120℃で10分間熱架橋し、厚さ0.096μmの低屈折率層を形成した。
【0079】
次に実施例6のフイルムを用いて、防眩層用塗布液Aを防眩層用塗布液Bに代え、その他の条件は同じにした反射防止膜を作成した。さらに、防眩層用塗布液Aを防眩層用塗布液Cに代え、その他の条件は同じにした反射防止膜も作成した。
【0080】
さらに、実施例7のフイルムからも、防眩層用塗布液A,B,Cを1つずつ用いて前述した反射防止膜を作成条件は同じで作成した。
【0081】
[反射防止膜の評価]
前述した作成方法で、実施例6のフイルム(防眩層A,B,C)及び実施例7のフイルム(防眩層A,B,C)から形成された6種類の反射防止膜について以下の項目の評価を行った。以下の評価方法から得られた結果については後に表1にまとめて示す。
【0082】
(反射防止膜の評価)
得られたフィルムについて、以下の項目の評価を行った。
【0083】
(1)鏡面反射率及び色味
分光光度計V−550(日本分光(株)製)にアダプターARV−474を装着して、380〜780nmの波長領域において、入射角5°における出射角−5度の鏡面反射率を測定し、450〜650nmの平均反射率を算出し、反射防止性を評価した。さらに、測定された反射スペクトルから、CIE標準光源D65の5度入射光に対する正反射光の色味を表わすCIE1976L*a*b*色空間のL*値、a*値、b*値を算出し、反射光の色味を評価した。
【0084】
(2)積分反射率
分光光度計V−550(日本分光(株)製)にアダプターILV−471を装着して、380〜780nmの波長領域において、入射角5°における積分反射率を測定し、450〜650nmの平均反射率を算出した。
【0085】
(3)ヘイズ
得られたフィルムのヘイズをヘイズメーターMODEL 1001DP(日本電色工業(株)製)を用いて測定した。
【0086】
(4)鉛筆硬度評価
耐傷性の指標としてJIS K 5400に記載の鉛筆硬度評価を行った。反射防止膜を温度25℃、湿度60%RHで2時間調湿した後、JIS S 6006に規定する3Hの試験用鉛筆を用いて、1kgの荷重にて
n=5の評価において傷が全く認められない :○
n=5の評価において傷が1または2つ :△
n=5の評価において傷が3つ以上 :×
【0087】
(5)接触角測定
表面の耐汚染性の指標として、光学材料を温度25℃、湿度60%RHで2時間調湿した後、水に対する接触角を測定し、指紋付着性の指標とした。
【0088】
(6)動摩擦係数測定
表面滑り性の指標として動摩擦係数にて評価した。動摩擦係数は試料を25℃、相対湿度60%で2時間調湿した後、HEIDON−14動摩擦測定機により5mmφステンレス鋼球、荷重100g、速度60cm/minにて測定した値を用いた。
【0089】
(7)防眩性評価
作成した防眩性フィルムにルーバーなしのむき出し蛍光灯(8000cd/m2 )を映し、その反射像のボケの程度を以下の基準で評価した。
蛍光灯の輪郭が全くわからない :◎
蛍光灯の輪郭がわずかにわかる :○
蛍光灯はぼけているが、輪郭は識別できる :△
蛍光灯がほとんどぼけない :×
【0090】
【表1】

【0091】
実施例6及び実施例7のフイルムから形成された反射防止膜は、いずれも防眩性、反射防止性に優れ、且つ色味が弱く、また、鉛筆硬度、指紋付着性、動摩擦係数のような膜物性を反映する評価の結果も良好であった。
【0092】
次に、実施例7のフィルムを用いて防眩性反射防止偏光板を作成した。この偏光板を用いて反射防止層を最表層に配置した液晶表示装置を作成したところ、外光の映り込みがないために優れたコントラストが得られ、防眩性により反射像が目立たず優れた視認性を有し、指紋付も良好であった。
【0093】
また、前述した実施例6と実施例7とにおいてドープ調製用の混合溶媒の組成比を変えている。実施例6で、酢酸メチルが82重量%、ケトン類が0重量%、アルコール類(エタノール,n−ブタノール)が18重量%であった。また、実施例7では、酢酸メチル75重量%、ケトン類(シクロペンタノン,アセトン)15重量%、アルコール類(メタノール,エタノール)10重量%であった。このように本発明において、酢酸メチル、ケトン類、アルコール類の混合比を変えた溶媒からもドープを調製することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 流延ダイ
2 流延バンド
3 回転ドラム
4 流延ドラム
5 剥取ローラー
6 減圧チャンバー
7 吸引ダクト
8 バッファーチャンバー
9 吸引ブロワー
10 流延ドープ
11 マニホールド
12 ドープ供給口
13 スロット
14 側板パッキン
15 側板
16 ダイリップ
17 リップ先端
18 リップ面
19 リップ側面
20 パッキン
21 ドープ流路
22 フィードブロック
23 皮張り
24 溶剤供給管
d リップクリアランス
w リップ側面の湾曲幅
θ リップ面とリップ側面のなす角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー及び溶媒を含むドープが供給されるマニホールド、及びこのマニホールドを経た前記ドープをウェブ状に吐出するスロットを有する溶液製膜用流延ダイにおいて、
前記スロットは、略平行に配される1対のリップ面と、この1対のリップ面と接続する1対のリップ側面とにより囲まれて形成され、
前記1対のリップ側面は、前記ドープの流れ方向に直交する面において前記スロットの外側に向かって凸となるように弧状に形成され、
前記1対のリップ側面は前記リップ面と120°以上の角度θで交わる、または、前記リップ面と滑らかに接続し、
前記1対のリップ面の間隔であるリップクリアランスdが、0.2mmから3mmの範囲であり、
前記直交する面における前記リップ側面の形状がの最小曲率半径がd/10以上であることを特徴とする溶液製膜用流延ダイ。
【請求項2】
ポリマー及び溶媒を含むドープが供給されるマニホールド、及びこのマニホールドを経た前記ドープをウェブ状に吐出するスロットを有する溶液製膜用流延ダイにおいて、
前記スロットは、略平行に配される1対のリップ面と、この1対のリップ面と接続する1対のリップ側面とにより囲まれて形成され、
前記1対のリップ側面のうち前記1対のリップ面と接続する1対の接続部分は、前記ドープの流れ方向に直交する面において前記スロットの外側に向かって凸となるように弧状に形成され、前記リップ面と120°以上の角度θで交わる、または、前記リップ面と滑らかに接続し、
前記1対のリップ側面のうち前記1対の接続部分の間は前記ドープの流れ方向に直交する面において直線状に形成され、
前記1対のリップ面の間隔であるリップクリアランスdが、0.2mmから3mmの範囲であり、
前記リップ側面のうち、前記直交する面における形状が弧状である部分の最小曲率半径がd/10以上であることを特徴とする溶液製膜用流延ダイ。
【請求項3】
前記リップ側面のうち、前記接続部分から前記ウェブの幅方向に最も遠く離れた部分を最奥部分とし、前記ウェブの幅方向において、前記接続部分と前記最奥部分との間隔をwとするときに、w/dは1.5以下であることを特徴とする請求項1または2記載の溶液製膜用流延ダイ。
【請求項4】
前記リップ面を有する1対のリップ板が、前記ウェブの厚み方向に並ぶように前記ウェブの幅方向に設けられ、
前記リップ側面を有する側面部材が、前記1対のリップ板の隙間を塞ぐように、前記1対のリップ板の幅方向両端部に設けられることを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項記載の溶液製膜用流延ダイ。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の溶液製膜用流延ダイを用いて、走行する支持体に前記ドープを流延して、ウェブ状の流延膜を形成し、前記支持体から剥ぎ取られた流延膜を乾燥することを特徴とする溶液製膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−167787(P2010−167787A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57436(P2010−57436)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【分割の表示】特願2001−72194(P2001−72194)の分割
【原出願日】平成13年3月14日(2001.3.14)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】