説明

溶液貯蔵移動タンク及びフィルム製造ライン

【課題】移動タンクを用いて、ドープ調製設備からのドープを溶液製膜設備に送る。
【解決手段】移動タンク12aを、タンク本体41と、飽和溶媒ガス発生部42と、温度制御部43と、送液配管44と、受液配管45と、移動台車46とから構成する。受液位置P1にセットされた移動タンク12aの受液配管45により、ドープ調製設備11からドープ40をタンク本体41内に受け取る。飽和溶媒ガス発生部42から飽和溶媒ガスをタンク本体41に送り、タンク本体41内でのドープ乾燥によるカワバリの発生を抑える。温度制御部43により、タンク本体41内のドープ40の液面に合わせて、液面から上の気相部と液面から下の液相部とを個別に温度制御し、液面でのカワバリの発生を抑える。移動タンク12aを送液位置P2にセットし、送液配管44を介して溶液製膜設備13にドープ40を送る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー溶液を貯蔵する移動式のタンク及びこの溶液貯蔵移動タンクを用いたフイルム製造ラインに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー、例えば、セルローストリアセテートを原料として溶液製膜方法により製造されるセルローストリアセテートフイルムは、近年市場が拡大している液晶表示装置(LCD)の構成部材である偏光板の保護フィルムまたは光学補償フィルムなどに用いられる。これらの光学用途フィルムは、液晶の方式やメーカーの仕様に応じて必要とされる光学特性が異なる。従って、様々な要求性能に応じた多品種の光学フイルムを生産する必要がある。
【0003】
光学フイルムの品種変更には、ポリマー原料や添加剤、溶媒の変更を伴う。一方で、溶液製膜方法では、ポリマー原料の調製、濾過、貯蔵、送液設備が大規模となっている。また、多品種の光学フイルムを生産する目的でフイルムの原料となるポリマー溶液を変更する場合には、これらフィルム製造設備において、新旧溶液の入れ換えを行う必要がある。溶液の入れ換えに際しては、旧ポリマー溶液を洗浄した後に新ポリマー溶液を送る。しかしながら、溶液製膜設備におけるポリマー溶液は高粘度で装置の壁面に付着残留しやすいため、旧ポリマー溶液を設備毎に洗浄することは困難である。
【0004】
そこで、新しいポリマー溶液によって旧ポリマー溶液を押し出す押出し置換により、新旧溶液の置換を行っている。しかも、この押出し置換を確実に行うためには、タンク内の完全混合や配管内層流により、設備内の溶液保有量の3〜5倍の液量が必要になる。これら押出し置換された部分は、新旧ポリマー溶液が混合された状態となっており、得られたフィルムを製品とし出荷することができない他に、その成分量が正確には判らないため、チップとした後に再利用することも困難である。このため、再利用不能なフィルムが発生しコスト的に問題が生じる。
【0005】
一方で、品種毎に貯蔵タンクや送液配管系統を設置することも可能であるが、設備コストが多大になる点で問題がある。また、同品種の中でもポリマー物性や添加剤の種類や量、溶媒組成等の小変更を行う場合には、結局、ポリマー溶液の押出し置換が必要となる。そのため、大きなメリットはない。これらの問題を解決すべく、移動可能な溶液貯蔵移動タンクを用いて、新旧のポリマー溶液を変更する方法もある(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭62−144745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、溶液製膜設備におけるポリマー溶液(ドープ)は高粘度であり、しかもドープが乾燥し易い。このため、特許文献1に記載されているような一般的な移動式の生産容器の技術を単に適用しても、液面にカワバリが発生して異物故障が発生するという問題がある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ポリマー溶液の液面にカワバリが発生することを防止するようにした溶液貯蔵移動タンク及びこれを用いた溶液製膜設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の溶液貯蔵移動タンクは、タンク本体と、前記タンク本体内に貯蔵されるポリマーと溶媒とを含む溶液の前記溶媒主成分を含む飽和溶媒ガスを発生し、前記飽和溶媒ガスを前記タンク本体内の気相部に供給する飽和溶媒ガス発生部と、前記タンク本体内に貯蔵される前記溶液の液面に合わせて、前記液面から上の気相部と前記液面から下の液相部とを個別に温度制御する温度制御部と、前記溶液の送液先に接続される第1接続部及び第1バルブを有し、前記タンク本体内の前記溶液を前記送液先に送る送液配管と、前記タンク本体が載せられる移動台車とを備えている。
【0009】
また、本発明は、前記タンク本体の内面に向けて洗浄液を噴射して洗浄する洗浄ノズルを有することを特徴とする。さらに、前記タンク本体内に不活性ガスを送る不活性ガス注入口を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、溶液を調製する溶液調製設備と前記溶液を用いて製膜する溶液製膜設備とを有するフィルム製造ラインにおいて、上記記載の溶液貯蔵移動タンクと、前記溶液貯蔵移動タンクに貯蔵される前記溶液を受け取るために、前記溶液製膜設備に設けられる第2接続部と、前記溶液を前記溶液貯蔵移動タンクに送液するために、前記溶液調製設備に設けられる第3接続部と、前記第1接続部が前記第3接続部に接続される溶液受液位置と、前記第1接続部が第2接続部に接続される溶液送液位置との間で、前記溶液貯蔵移動タンクを移動させるタンク移動装置と、前記溶液貯蔵移動タンクが前記溶液受液位置にあり、前記第1接続部が前記第3接続部に接続された状態で、前記溶液調製設備から前記溶液を前記溶液貯蔵移動タンクに送り、前記溶液貯蔵移動タンクが前記溶液送液位置にあり、前記第1接続部が前記第2接続部に接続された状態で、前記溶液貯蔵移動タンクから前記溶液を前記溶液製膜設備に送る制御部とを備えること特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、溶液貯蔵移動タンク内の壁面や、溶液の液面にカワバリ等の異物が発生することを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明を実施するフイルム製造ラインの概略図である。フイルム製造ライン10は、ドープ調製設備11、複数の移動式貯蔵タンク(以下、単に移動タンクと称する)12a,12b、12c〜12e、溶液製膜設備13を備えている。
【0013】
ドープ調製設備11は、ホッパ20、溶媒タンク21、添加剤タンク22、溶解タンク23、ポンプ24、加熱器25、温調器26、ろ過器27を有する。溶解タンク23は、ジャケット23a、攪拌機23bを備えている。そして、溶解タンク23には、ホッパ20から計量器20aを介してポリマー31が、溶媒タンク21からバルブ21aを介して溶媒32が、添加剤タンク22からバルブ22aを介して添加剤33がそれぞれ供給され、これらが攪拌機により混合攪拌される。これにより、ポリマー31が溶媒32中で膨潤した膨潤液35が得られる。
【0014】
膨潤液35は、ポンプ24により加熱器25、温調器26、ろ過器27に順に送られた後に、バルブ36及びフランジ37を介し、移動タンク12aに送られて貯留される。加熱器25は、加熱条件下または加圧加熱条件下で膨潤液35中の固形分を溶解させてドープ40を得る。この場合の膨潤液35の温度は例えば0℃〜120℃であることが好ましい。なお、膨潤液35を−100℃〜−10℃の温度に冷却する冷却溶解法を行ってもよい。加熱溶解法及び冷却溶解法を適宜選択して実施することにより、ポリマー31を溶媒32に充分溶解させることができる。温調器26は、ドープ40を略室温とする。この後、ろ過器27によりドープ40中に含まれる不純物を取り除く。
【0015】
第1移動タンク12aは、タンク本体41、飽和溶媒ガス発生部42、温度制御部43、送液配管44、受液配管45、及び移動台車46を備えている。移動台車46は、図示しないレールにより案内される車輪46aと、駆動部46bとを有する。なお、他の移動タンク12b〜12eも、第1移動タンク12aと同様に構成されている。また、レールを使用せず、無線電波を使用した移動方法でも良い。
【0016】
移動台車46は、図示しないシステムコントローラにより総括制御され、受液位置P1、送液位置P2、ストックヤード48との間を自走する。受液位置P1では、移動タンク12aの受液配管45がドープ調製設備11と連結されてドープ40を受け取り、タンク本体41内にドープ40を貯蔵する。送液位置P2では、移動タンク12bの送液配管44が溶液製膜設備13に接続され、ドープ40を溶液製膜設備13に供給する。ストックヤード48は、受液位置P1と送液位置P2との間の台車移動経路49に設けられており、受液位置P1及び送液位置P2にそれぞれ移動タンク12a,12bが接続されているときに、残りの移動タンク12c〜12eを一次的に保管する。
【0017】
タンク本体41内には、ドープ40が貯留される。ドープ40は受液配管45を介してドープ調製設備3から送られる。受液配管45は、フランジ45a、バルブ45bを備えており、フランジ45aはドープ調製設備11のフランジ37に接続される。同様に、タンク本体41には、底部に送液配管44が接続されている。送液配管44も、フランジ44a、バルブ44bを備えており、フランジ44aは溶液製膜設備13のフランジ47に接続される。なお、受液配管45を省略して、送液配管44を用いて受液を行うようにしてもよい。各フランジは、着脱を自動で行うものが好ましく用いられるが、手動タイプのワンタッチ方式やその他の結合方式であってもよい。
【0018】
図2に示すように、飽和溶媒ガス発生部42は、タンク本体41内に貯蔵されるドープ40の溶媒主成分を含む飽和溶媒ガスを発生し、この飽和溶媒ガスをタンク本体41内の気相部に供給する。このため、飽和溶媒ガス発生部42は、容器51に配管52とバルブ53とを介してガスボンベ54が取り付けられている。容器51内には、ドープ40を構成する溶媒32と同じ組成比の溶媒(混合溶媒を含む)55が予め貯留されている。配管52の一端は、溶媒55内に配置している。バルブ53の開閉操作によりガスボンベ54中のガス54aを配管52から溶媒55中でバブリングさせる。バブリングにより溶媒55の一部が揮発してガス(揮発ガス)55aとなり、容器51の空間51aの大気の一部と置換される。バブリングを続けることにより空間51aの大気の多くは、揮発ガス55aに置換される。この置換率は、100%であることが最も好ましいが、置換時間などのコストの点から体積比で50%〜100%の範囲の大気が置換されれば、実用上問題は生じない。この置換されたガスを飽和溶媒ガス55bとして、ポンプ57a及びバルブ57bを有する配管57を介して、タンク本体41内の気相部に送る。ガス54aは、特に限定されないが、窒素ガス,ヘリウムガスなどを用いることが好ましく、特に窒素ガスを用いることがコストの点から好ましい。なお、飽和溶媒ガス発生部42は上記方式に限定されるものではなく、飽和溶媒ガスを発生させることができるものであればよい。
【0019】
なお、タンク本体41内の飽和溶媒ガス55bは、バルブ56aを有するベント配管56を介してタンク本体41外に放出してもよい。この場合には、フィルム製造ライン10の建屋に溶媒回収装置を設けて、放出された溶媒を回収し、リサイクルすることが好ましい。このように、飽和溶媒ガス55bがタンク本体41内の気相部に充填されるため、ドープ40の溶媒との気液平衡が保たれ、気液面でのカワバリの発生が無くなる。また、飽和溶媒ガス発生部42は、タンク本体41の外側に設けたが、これはタンク本体41の気相部に内蔵させたものでもよい。
【0020】
温度制御部43は、液面センサ60、複数個の水平ジャケット61a〜61g、伝熱媒体供給部63、ポンプ64及び各水平ジャケット61a〜61g毎に設けられる温度センサ(図示せず)を備えており、タンク本体41内の液面位置を境界として、水平ジャケット61a〜61gに供給する伝熱媒体65の温度または流量を変えることにより、タンク本体41の壁面に付着したドープの乾燥を抑えて、異物の発生を抑える。本実施形態では、7個の水平ジャケット61a〜61gを備えているが、水平ジャケット61a〜61gの取り付け個数はこれに限定されることなく、適宜増減させてよい。取り付け個数を多くすることにより、鉛直方向での液面変位に対して精度よく追随して、液面に応じた温度制御を精度よく行うことができる。
【0021】
タンク本体41内の温度制御は、液相部温度をT1、液面部温度をT2、気相部温度をT3としたときに、T1>T2かつT2<T3かつT1≦T3とする。液面部温度T2を液相部温度T1よりも低くすることにより、液面からの溶媒揮発を抑えて、カワバリの発生がなくなる。また、同時に液面近傍の気相部の飽和溶媒ガスがタンク内面で液化し、内面を流れ落ちるため、この流れ落ちる溶媒によって、液面部で微小な範囲でカワバリが発生したとしても、これを溶解させることができる。また、気相部温度T3が液面部温度T1より低いとタンク内面で液化する気相部の飽和溶媒ガス量が多くなり、液相部に流れ落ちた際にドープ中のポリマー濃度の不均一を生じさせ、フィルム厚みムラなどの品質不良の原因となる。したがって、気相部温度T3は液面部温度T2よりも高くし、かつ液相部温度T1より低くしない。
【0022】
上記タンク本体41内の液面に応じた鉛直方向での温度分布付与は、液面センサ60で現在の液面位置を検出し、この液面が位置する水平ジャケット61a〜61gを基準にして、その上下の水平ジャケット61a〜61gが上記温度条件となるように、温度センサの出力に基づき各水平ジャケット61a〜61gに循環させる伝熱媒体の温度または循環量を制御する。
【0023】
この他に、タンク本体41には、ドープ40の仕様を変えたときに、タンク本体41を洗浄するための洗浄ノズル66や、バルブ67aを有する不活性ガス導入配管67が設けられている。洗浄ノズル66及び不活性ガス導入配管67は、ストックヤードに設定された洗浄位置に移動タンク12a〜12eのいずれかがセットされたときに、洗浄液供給配管や不活性ガス供給配管(図示せず)に接続される。そして、不活性ガスのタンク本体41への導入によって、残留しているドープ40を送液配管44から排出する。
【0024】
次に、洗浄液68を洗浄ノズル66によりタンク本体41へ送って内部を洗浄した後に、同様にして不活性ガス69を送って、洗浄液68を排出する。洗浄ノズル66は、タンク本体41の内周面全体に洗浄液68が噴射されるように構成されている。
【0025】
洗浄後は、バルブ67aを開けて不活性ガス導入配管67により不活性ガス69がタンク本体41内に充填される。この不活性ガス69の充填により、新たなドープの受入れが可能になる。
【0026】
図1に示すように、溶液製膜設備13は、流延室70と、渡り部71と、テンタ72と、乾燥室73、巻取機74とを備え、移動タンク12bからのドープ40を用いてフィルム75が作られる。流延室70には、ドープ40の吐出口が形成された流延ダイ77と、支持体として作用する流延ドラム78と、剥取ローラ79とが配置されている。
【0027】
流延ダイ77によってドープ40は、エンドレスに回転している流延ドラム78の上に流延され、流延膜81が形成される。流延ドラム78の表面温度は−10℃以上10℃以下の範囲内で略一定となっている。このように冷却された流延ドラム78にドープ40を流延することにより、ドープ40は速やかに冷却され、短時間の内にゲル状の流延膜81が形成される。流延ドラム78の回転と共に流延膜81のゲル化が進められ、自己支持性を有するに至った流延膜81は、剥取ローラ79で支持されながら流延ドラム78から湿潤フィルム85として剥ぎ取られる。
【0028】
渡り部71では、多数のローラで湿潤フィルム85を支持し、搬送する間に乾燥が進められる。テンタ72では、湿潤フィルム85の両側端部がピン等の保持手段で保持された後、搬送する間に乾燥が進められフィルム75とされる。この後、フィルム75は、巻取軸86によりロール状に巻き取られる。
【0029】
次に、本実施形態の作用を説明する。ドープ調製設備11で調製されたドープ40は、受液位置P1にセットされた移動タンク12aに送られる。このとき、フランジ37,45a同士が接合された後に、バルブ36,45bが開けられる。ドープ40が一定量送られると、バルブ36,45bが閉じられた後にフランジ37,45aが分離される。この後、フランジ37,45a及び配管45に付着したドープ40が洗浄液で洗浄される。洗浄は人手により行う他に、ドープ調製設備に洗浄ユニットを設け、ドープを送った後に、洗浄液を流して、バルブ36,45bまでの配管内部を自動的に洗浄してもよい。
【0030】
ドープ40が入れられた移動タンク12aは送液位置P2まで自走し、溶液製膜設備13のフランジ47に接合される。この後、各バルブ44b,47aが開けられた後にタンク本体41内のドープ40が溶液製膜設備13に送られる。溶液製膜設備13ではタンク本体41内のドープ40を用いてフィルム75が製造される。タンク本体41内のドープ40が空になると、新たな移動タンク12c〜12eに順次交換され、溶液製膜設備では連続した流延が行われる。
【0031】
ドープ40が新たな仕様に切り換えられると、ストックヤード48の洗浄位置で移動タンクが洗浄される。そして、洗浄された移動タンクが受液位置P1にセットされ、新たな仕様のドープ(新ドープ)が移動タンク12aに貯留される。一定量のドープ40が移動タンクに貯留されると、移動台車46が受液位置P1から送液位置P2に自走し、溶液製膜設備13のフランジ47に移動タンクのフランジ44aが接続される。この後、新ドープ40が溶液製膜設備13に送られて、新ドープ40による溶液製膜が行われる。
【0032】
なお、溶液製膜設備13では、フランジ47から流延ダイ77にある旧ドープを新ドープで押出置換しながら流延が行われ、この押出置換によるドープから製造されたフィルム75は新旧ドープが混合した状態となるため、製品フィルムとはされず、廃棄される。しかし、移動タンク方式で新ドープを送るため、従来のドープ調製設備11と溶液製膜設備13とが連続しているものと比べて押出置換の総量が少なくなる。したがって、新旧ドープの混在量も少なくなるので、ドープロスが減って効率のよい製膜が可能になる。
【0033】
なお、本実施形態では、自走式の移動台車46を用いているが、これは他の牽引装置などによる移動であってもよく、またはオペレータの操作による移動であってもよい。
【0034】
本発明に係るポリマー31は特に限定されず、溶液製膜方法に適用可能であれば良い。この中で、セルロースアシレートを使用すれば、透明度が高く、光学特性に優れたフィルムを得ることができるので、偏光板用の保護フィルムや光学補償フィルム等の光学用途として好適である。中でも、セルロースアセテートを使用し、特にアセチル化度の平均値が57.5%〜62.5%のセルローストリアセテートを使用すれば、光学特性に優れたフィルムを得ることができる。
【0035】
上記のアセチル化度とは、セルロース単位重量当りの結合酢酸量を意味し、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験方法)におけるアセチル化度の測定および計算に従って求めることができる。本実施形態では、粒状のセルローストリアセテートを使用する。なお、粒状のポリマーを使用する場合には、溶媒との相溶性の観点から、その90重量%以上が0.1〜4mmの粒径であることが好ましく、より好ましくは粒径が1〜4mmである。
【0036】
溶媒32は、ハロゲン化炭化水素、エステル類、ケトン類、エーテル類、アルコール類等が好適であるが特に限定されず、使用するポリマーとの溶解性等を考慮して適宜選択すれば良い。溶媒32は1種類の化合物であっても良いし、複数の化合物を混合した混合溶媒でも良い。具体的には、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン等)、エステル類(例えば、酢酸メチル、メチルホルメート、エチルアセテート、アミルアセテート、ブチルアセテート等)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)、エーテル類(例えば、ジオキサン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル等)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール等)等が挙げられる。
【0037】
添加剤33は、所望とするフィルム75の特性に応じて適宜選択すれば良い。例えば、可塑剤や、紫外線吸収剤、剥離促進剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。この中で、可塑剤としては、リン酸エステル系(例えば、トリフェニルホスフェート(以下、TPPと称する)、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート(以下、BDPと称する)、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等)、フタル酸エステル系(例えば、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート等)、グリコール酸エステル系(例えば、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等)等が挙げられる。この中で、セルロースアシレートをフィルムとするために特に好ましいものとしてはTPPが挙げられる。なお、可塑剤は、上記以外にも公知であるものを用いることができ、特に限定されない。また、紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物が好ましく、中でも、ベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物が特に好ましい。
【0038】
なお、流延ダイ、減圧室、支持体等の構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特開2005−104148号公報の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0039】
本発明により得られるフィルムは、透明度やレタデーション値が高く、湿度依存性が低い。そのため、特に、偏光板の位相差フィルムとして好適に用いることができるが、偏光板の表面を保護するための保護フィルムとしても利用することができる。本発明のセルロースエステルフィルムの具体的用途に関しては、特開2005−104148号公報において、例えば、[1088]段落から[1265]段落には、液晶表示装置として、TN型、STN型、VA型、OCB型、反射型、その他の例が詳しく記載されており、この記載も本発明に適用させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】フイルム製造設備を示す概略図である。
【図2】移動タンクを示す概略の断面図である。
【符号の説明】
【0041】
10 フィルム製造ライン
11 ドープ調製設備
12a〜12e 移動タンク
13 溶液製膜設備
40 ドープ
41 タンク本体
42 飽和溶媒ガス発生部
43 温度制御部
44 送液配管
45 受液配管
46 移動台車
48 ストックヤード
61a〜61g 水平ジャケット
63 伝熱媒体供給部
66 洗浄ノズル
67 不活性ガス導入配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク本体と、
前記タンク本体内に貯蔵されるポリマーと溶媒とを含む溶液の前記溶媒主成分を含む飽和溶媒ガスを発生し、前記飽和溶媒ガスを前記タンク本体内の気相部に供給する飽和溶媒ガス発生部と、
前記タンク本体内に貯蔵される前記溶液の液面に合わせて、前記液面から上の気相部と前記液面から下の液相部とを個別に温度制御する温度制御部と、
前記溶液の送液先に接続される第1接続部及び第1バルブを有し、前記タンク本体内の前記溶液を前記送液先に送る送液配管と、
前記タンク本体が載せられる移動台車とを備えることを特徴とする溶液貯蔵移動タンク。
【請求項2】
前記タンク本体の内面に向けて洗浄液を噴射して洗浄する洗浄ノズルを有することを特徴とする請求項1記載の溶液貯蔵移動タンク。
【請求項3】
前記タンク本体内に不活性ガスを送る不活性ガス注入口を有することを特徴とする請求項1または2記載の溶液貯蔵移動タンク。
【請求項4】
溶液を調製する溶液調製設備と前記溶液を用いて製膜する溶液製膜設備とを有するフィルム製造ラインにおいて、
請求項1から3いずれか1項記載の溶液貯蔵移動タンクと、
前記溶液貯蔵移動タンクに貯蔵される前記溶液を受け取るために、前記溶液製膜設備に設けられる第2接続部と、
前記溶液を前記溶液貯蔵移動タンクに送液するために、前記溶液調製設備に設けられる第3接続部と、
前記第1接続部が前記第3接続部に接続される溶液受液位置と、前記第1接続部が第2接続部に接続される溶液送液位置との間で、前記溶液貯蔵移動タンクを移動させるタンク移動装置と、
前記溶液貯蔵移動タンクが前記溶液受液位置にあり、前記第1接続部が前記第3接続部に接続された状態で、前記溶液調製設備から前記溶液を前記溶液貯蔵移動タンクに送り、前記溶液貯蔵移動タンクが前記溶液送液位置にあり、前記第1接続部が前記第2接続部に接続された状態で、前記溶液貯蔵移動タンクから前記溶液を前記溶液製膜設備に送る制御部とを備えること特徴とするフイルム製造ライン。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−83881(P2009−83881A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−254308(P2007−254308)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】