説明

溶湯通過ノズルおよびその製造方法

【課題】耐火物層に対する溶湯の差込を抑制させ、寿命を長くするのに有利な溶湯通過ノズルおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】溶湯通過ノズルは、軸長方向に沿って延設された耐火物で形成され軸長方向に沿った溶湯通過孔10を有する筒状をなす耐火物層1と、耐火物層1の上端部を覆う鉄皮4とを有する。耐火物層1のうち少なくとも鉄皮4に覆われている耐火物部分は、使用時における昇温に伴い軸長方向における熱膨張量を増加できるように、常温領域において軸長方向(矢印P方向)において圧縮状態とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶湯(溶鋼を含む)を通過させる浸漬ノズル等の溶湯通過ノズルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
浸漬ノズルに代表される溶湯通過ノズルは、軸長方向に沿って延設された耐火物で形成され軸長方向に沿った溶湯通過孔を有する筒状をなす耐火物層と、耐火物層の上端部を覆う鉄皮とを有する(特許文献1,2)。ここで、溶湯通過ノズルでは、耐火物層に対する溶湯の差込が発生することがあり、長寿命化には限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−057410号公報
【特許文献2】特開平05−329592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、耐火物層に対する溶鋼等の溶湯の差込を抑制させ、耐火物層の寿命を長くするのに有利な溶湯通過ノズルおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)本発明に係る溶湯通過ノズルは、(i)軸長方向に沿って延設された耐火物で形成され軸長方向に沿った溶湯通過孔を有する筒状をなす耐火物層と、(ii)耐火物層の上端部を覆う鉄皮とを具備する溶湯通過ノズルにおいて、(iii)耐火物層のうち少なくとも鉄皮に覆われている耐火物部分は、使用時における昇温に伴い軸長方向における熱膨張量を増加できるように、常温領域において軸長方向において圧縮状態とされていることを特徴とする。本発明に係る溶湯通過ノズルによれば、耐火物層のうち少なくとも鉄皮に覆われている耐火物部分は、常温領域において、軸長方向において圧縮状態とされている。このため使用時において溶湯通過ノズルが常温領域から高温に加熱昇温されて熱膨張したとき、軸長方向における耐火物層の熱膨張量が増加する。このため耐火物層において隙間が発生するようなときであっても、耐火物層の熱膨張量が良好に確保されるため、耐火物層において隙間の発生が抑制される。このため耐火物層に対する溶湯の差込が抑制され、溶湯通過ノズルの長寿命化を図り得る。
【0006】
(2)本発明に係る溶湯通過ノズルの製造方法は、(i)軸長方向に沿って延設された耐火物で形成され軸長方向に沿った溶湯通過孔を有する筒状をなす耐火物層と耐火物層の上端部を覆う鉄皮とを有する素材を用意する工程と、(ii)鉄皮のうちの少なくとも一部を加熱させることにより、鉄皮を軸長方向において熱膨張させる加熱工程と、(iii)加熱工程において加熱させた鉄皮を冷却させて軸長方向において熱収縮させることにより、耐火物層のうち、加熱後に冷却されて熱収縮された鉄皮部分に覆われている耐火物部分を、使用時における昇温に伴い軸長方向における熱膨張量を増加できるように、常温領域において軸長方向において圧縮状態とさせる冷却工程とを含むことを特徴とする。本発明に係る製造方法によれば、加熱工程では、鉄皮のうちの少なくとも一部を加熱させることにより、鉄皮を軸長方向において熱膨張させる。その後の冷却工程においては、加熱工程において加熱させた鉄皮を冷却させて軸長方向において熱収縮させる。これにより耐火物層のうち、加熱後に冷却されて熱収縮された鉄皮部分に覆われている耐火物部分を軸長方向において圧縮状態とさせる。この結果、耐火物層のうち少なくとも鉄皮に覆われている耐火物部分は、常温領域において軸長方向において圧縮状態とされる。
【0007】
このため使用時において溶湯通過ノズルが常温領域から高温に加熱されて軸長方向に熱膨張するとき、鉄皮に覆われている耐火物部分の軸長方向における熱膨張量が増加する。ひいては、耐火物層の軸長方向における熱膨張量が増加する。このため耐火物層において隙間や亀裂が発生するようなときであっても、耐火物層の軸長方向における熱膨張量が良好に確保されるため、耐火物層において隙間や亀裂の発生が抑制される。このため耐火物層に対する溶湯の差込が抑制され、溶湯通過ノズルの長寿命化を図り得る。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、溶湯通過ノズルの使用時において高温状態に加熱されるときにおいて、耐火物層において隙間や亀裂が発生するようなときであっても、耐火物層の熱膨張量が良好に確保されるため、耐火物層において隙間や亀裂の発生が抑制される。このため隙間や亀裂の発生に起因して、耐火物層に対する溶湯の差込が抑制される。よって溶湯通過ノズルの長寿命化を図り得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態1に係り、溶湯通過ノズルの断面図である。
【図2】実施形態1に係り、主耐火物層の断面図である。
【図3】実施形態1に係り、副耐火物層をもつ鉄皮の断面図である。
【図4】実施形態1に係り、副耐火物層をもつ鉄皮を上下反転させた状態で基台の設置面に設置した状態の断面図である。
【図5】実施形態1に係り、上下反転させた鉄皮に主耐火物層を挿入し、リング体、第1鉄皮および第2鉄皮を溶接で結合させる製造過程を示す断面図である。
【図6】実施形態2に係り、上下反転させた鉄皮に主耐火物層を挿入し、リング体、第1鉄皮および第2鉄皮を溶接で結合させる製造過程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の好ましい形態によれば、鉄皮は、第1鉄皮と、第1鉄皮の下側に配置された第2鉄皮と、軸長方向において第1鉄皮と第2鉄皮との間に設けられ第1鉄皮と第2鉄皮とを連結させるリング体とを備えている。この場合、第1鉄皮は常温領域において軸長方向において圧縮状態とされており、且つ、耐火物層のうち少なくとも第1鉄皮に覆われている耐火物部分は、常温領域において軸長方向において圧縮状態とされている。このため使用時において溶湯通過ノズルが高温に加熱されて軸長方向に熱膨張するとき、鉄皮に覆われている耐火物部分の軸長方向における熱膨張量が増加し、ひいては、耐火物層の軸長方向における熱膨張量が増加する。
【0011】
本発明の好ましい形態によれば、耐火物層は、軸長方向に延びる主耐火物層と主耐火物層の上側に設けられた副耐火物層とを備えており、鉄皮は、主耐火物層の上端部と、その上側に設けられた副耐火物層とを覆っている。本発明の好ましい形態によれば、鉄皮は、耐火物部分を覆う第1鉄皮と、第1鉄皮の下側に配置され耐火物部分を覆う第2鉄皮と、軸長方向において第1鉄皮と第2鉄皮との間に設けられ第1鉄皮と第2鉄皮とを連結させるリング体とを備えている。この場合、加熱工程は、リング体を介して第1鉄皮と第2鉄皮とを結合させた状態で組み付けつつ、第1鉄皮を加熱させて軸長方向に熱膨張させる工程である。また、冷却工程は、加熱工程において加熱させた高温の第1鉄皮を冷却させて軸長方向において熱収縮させる。これにより、耐火物層のうち、加熱後に冷却されて熱収縮された第1鉄皮の鉄皮部分に覆われている耐火物部分を軸長方向において圧縮状態とさせる。
【0012】
(実施形態1)
以下、本発明の実施形態を説明する。図1は実施形態1の概念を示す。溶湯通過ノズルは溶湯の湯面M1よりも下方に浸漬される浸漬ノズルとして使用でき、耐火物で形成された筒形状に耐火物層1と、耐火物層1の上部を覆う金属(一般的には鉄材料)製の金属殻や保護殻として機能する鉄皮4とを有する。耐火物は特に限定されるものではなく、アルミナ、シリカ、マグネシアなどを例示できる。図1に示すように、耐火物層1は、これの軸長方向に沿って延設されており、軸長方向(矢印P方向)に沿った溶湯通過孔10を中央部に有する筒状をなす。耐火物層1は、軸長方向(矢印P方向)に延びると共に孔10aをもつ主耐火物層11と、主耐火物層11の上側に設けられ孔10cをもつ副耐火物層13とを備えている。孔10a,10cは連通して溶湯通過孔10を形成する。主耐火物層11および副耐火物層13は、複数の定形レンガをモルタル等を介して組み付けて形成されているが、場合によってはキャスタブルでも良い。なお主耐火物層11はこれの製造工程上不可避的に複数の微細細孔をもつ。圧縮により微細細孔が消失すれば、主耐火物層11は緻密化される。
【0013】
図2は主耐火物層11を示す。図2に示すように、主耐火物層11の上部には、主耐火物層11の下部の外径よりも大きな外径をもつ径大な頭部110が形成されている。頭部110は、厚肉の筒形状をなしており、軸線P1回りで1周する円錐リング状の拡開傾斜面112をもつ。図2に示すように、拡開傾斜面112は、斜め下方に向けて臨んでおり、径外方向(矢印D1方向)に向かうにつれて上側に移行するように円錐状に傾斜している。主耐火物層11および副耐火物層13は、製造過程では互いに別体をなす。図1に示すように、副耐火物層13の上側にはスライディングノズル装置100Aが装備される。スライディングノズル装置100Aは、溶湯通過孔10に対面するためのノズル101をもつスライドプレート102と、溶湯通過孔10の上部に対面可能なノズル103をもつ固定プレート104とを有する。スライドプレート102が矢印X方向(ノズル開閉方向)に移動すれば、ノズル101,103における溶湯の通過と溶湯の遮断とを切り替え得る。従って、副耐火物層13は、スライドプレート102を良好に摺動させる得る耐火材料で形成されていることが好ましい。なおスライディングノズル装置100Aは二枚式でも三枚式でも良い。図1に示すように、鉄皮4は主耐火物層11の上端部と副耐火物層13とを覆っている。具体的には、図1に示すように、鉄皮4は、副耐火物層13を覆う上側の金属(一般的には鉄材料)製の第1鉄皮41と、第1鉄皮41の下側に配置された金属(一般的には鉄材料)製の筒形状の第2鉄皮42と、軸線P1を1周する金属(一般的には鉄材料)製のリング体43とを有する。
【0014】
使用時を示す図1に示すように、第2鉄皮42は、主耐火物層11において頭部110の下側において主耐火物層11の外周の回りを覆っている。第2鉄皮42はこれの上部に拡開傾斜部420をもつ。拡開傾斜部420は、頭部110の円錐状の拡開傾斜面112を覆うように、軸線P1回りを1周するリング状をなす。図1において、拡開傾斜部420の外周面420cは、斜め下方に向けて臨んでおり、径外方向(矢印D1方向)に向かうにつれて上側に移行するように円錐状に傾斜している。
【0015】
リング体43は高い剛性を有しており、軸長方向(矢印P方向)において第1鉄皮41と第2鉄皮42との間に同軸的に設けられている。第1鉄皮41の下端部と第2鉄皮42の上端部とリング体43は、溶接部49で連結されている。よって第1鉄皮41、第2鉄皮42およびリング体43は、一体化されている。溶接部49は、周方向に1周する構造でも良いし、あるいは、周方向において散点状に設けられている構造でも良い。要するに、第1鉄皮41、第2鉄皮42およびリング体43は溶接部49で一体化されている。図1に示すように、リング体43は、主耐火物層11の頭部110のうち外周面である拡開傾斜面112に機械的に係合するための係合面43mをもつ。使用状態を示す図1において、係合面43mは、軸線P1回りで1周しており、径外方向(矢印D1方向)に向かうにつれて上側に移行するように円錐状に傾斜している。リング体43の係合面43mは、主耐火物層11の支持性および吊持性を高める。更に主耐火物層11に固定されている第2鉄皮42の上部に形成されている係合面43mは、円錐状をなしており、頭部110の円錐状の拡開傾斜面112、第2鉄皮42の円錐状をなす拡開傾斜部420と機械的に係合する。このため、リング体43は、主耐火物層11をこれの径方向(矢印D1方向)において調芯させる機能を発揮することができる。
【0016】
ここで、図1に示すように、第1鉄皮41は、浅い広口の円筒形状または角筒形状をなすプレート部410と、プレート部410から下方に向けて円筒形状に延設された延設筒部430とをもつ。プレート部410および延設筒部430は一体とされている。第1鉄皮41は、主耐火物層11の上端部である頭部110と、副耐火物層13とを覆っている。主耐火物層11と副耐火物層13とはこれらの境界域15xを介して隣接されている。主耐火物層11と副耐火物層13との間の境界域15xに隙間15が発生しないように、主耐火物層11の頭部110の表面100sと副耐火物層13の表面13sとは、シール性が高い薄肉の耐火物層115(例えばモルタル層等)を介して密接されて組み付けられている。隙間15が発生すると、溶湯が差し込むためである。耐火物層1は、溶湯を重力により通過させる溶湯通過孔10をもつ。溶湯通過孔10は、軸長方向に延びる縦通過孔10eと、縦通過孔10eの下部に連通すると共に溶湯を吐出させる横通過孔10dとを有する。主耐火物層11の外周壁119は、セラミックスシート10xで覆われることが好ましい。
【0017】
さて本実施形態によれば、耐火物層1のうち少なくとも鉄皮4に覆われている耐火物部分は、常温領域(一般的には0℃〜40℃,10〜30℃)において、軸長方向(矢印P方向)において加圧されて圧縮状態とされている。具体的には、主耐火物層11のうち少なくとも第1鉄皮41に覆われている耐火物部分(頭部110)は、常温領域において軸長方向(矢印P方向)において圧縮状態とされている。より具体的には、主耐火物層11のうち少なくとも第1鉄皮41の延設筒部430に覆われている耐火物部分(頭部110)は、常温領域において軸長方向(矢印P方向)において圧縮状態とされ、緻密化されている。
【0018】
次に、製造過程について説明を加える。図4に示すように、副耐火物層13が埋設されている筒形状の第1鉄皮41(素材)を上下反転させた状態で、基台9の水平な設置面90に設置する。この場合、副耐火物層13が基台9の設置面90に載せられる。この場合、第1鉄皮41の筒状の開口41wは上向きとされる。そして図5に示すように、筒形状をなす主耐火物層11(素材)を下方に向けて、主耐火物層11の頭部110を第1鉄皮41の筒状の開口41wから下方(矢印U方向)に挿入させると共に、主耐火物層11の頭部110の外周壁面110cと第1鉄皮41の延設筒部430の内周壁面430cとの間に、装填材料48(耐熱性をもつバインダ材料,耐熱性をもつシール材料)を装填させて介在させる。装填材料48はモルタル材料でもよいし、キャスタブル材料でも良いし、耐火物の粉末材料でも良い。この場合、主耐火物層11と副耐火物層13との間の境界域15xに隙間が発生しないように、主耐火物層11の頭部110と副耐火物層13とは、高いシール性および耐熱性をもつ耐火物層115を介して密接される。
【0019】
次に、図5に示すように、装填材料48と頭部110の円錐リング状の拡開傾斜面112と第2鉄皮42の円錐リング状の拡開傾斜部420とに、リング体43の係合面43mが係合するように、係合面43mを下向きにしつつ、リング体43を上からほぼ同軸的に載せる。リング体43の係合面43mは軸線P1に対して角度θ2(参照)傾斜している。角度θ2としては、例えば85〜5°の範囲内、80〜10°の範囲内、75〜15°の範囲内、70〜20°の範囲内にできる。ここで、リング体43は高い剛性をもち、軸線P1まわりで1周するO形のリング状またはC形のリング状をなすが、半リング状でも良い。1/2円周状の半リング体を2個1組で使用しても良い。その後、常温領域(一般的には0から30℃)において、棒状の加圧体93の下面93dをリング体43にこれの上側から軸長方向に沿って矢印U方向(下方)に向けて強圧させつつ、主耐火物層11(焼成されていても良いし、不焼成でも良い)の姿勢を安定化させる。かかる加圧体93による強圧作用により、主耐火物層11と副耐火物層13との間の境界域15xに隙間が発生しないように、主耐火物層11の頭部110と副耐火物層13とは、シール性が高い耐火物層115(例えばモルタル材)を介して密接される。この状態で、第1鉄皮4の延設筒部430の外側に配置した加熱要素8により、第1鉄皮4の延設筒部430を高温状態に加熱させる。これにより、第1鉄皮4の延設筒部430を軸長方向(矢印P方向)に熱膨張させる。熱膨張量としては、特に限定されるものではないが、加熱前の延設筒部430の軸長寸法をL1とし、加熱前の延設筒部430の軸長寸法をL2とすると、L2/L1×100=101〜130の範囲内、102〜120の範囲内、103〜115の範囲内、103〜110の範囲内が例示される。軸長方向において、延設筒部430のうち特にリング体43付近を加熱できる。加熱要素8としては燃焼火炎バーナ(例えば、アセチレンバーナ火炎)、電気ヒータ、誘導加熱コイル等を例示できる。延設筒部430の加熱温度としては200〜1100℃、300〜900℃、350〜800℃などが例示される。加熱雰囲気は大気雰囲気、還元性雰囲気、減圧雰囲気にいずれでも良い。
【0020】
上記したように第1鉄皮4の延設筒部430を高温状態に加熱させて軸長方向(矢印P方向)に熱膨張させた状態で、第1鉄皮4と第2鉄皮4とリング体43とを溶接部49(図1参照)で一体的に結合させる。このように第1鉄皮4の延設筒部430は軸長方向に熱膨張した状態で拘束される。溶接部49は軸線P1回りでリング状に形成しても良いし、軸線P1回りでリング状に散点状に形成しても良い。その後、鉄皮4が常温領域に冷却されると、第1鉄皮41の延設筒部430は軸長方向(矢印P方向)において熱収縮する。この結果、主耐火物層11のうち副耐火物層13に接近している耐火物部分、つまり頭部110および/または装填材料48は、第1鉄皮41の延設筒部430と共に軸長方向(矢印P方向)において熱収縮し、最終的には軸長方向(矢印P方向)において圧縮状態とされる。
【0021】
次に使用時について説明を加える。図1に示すように、溶湯通過ノズルが使用されるときには、鉄皮4は耐火物層1の上部に位置する。溶湯通過ノズルが使用されるときには、溶湯通過ノズルの下部が溶湯(一般的には溶鋼)に浸漬されたり、溶湯に接近したりする。更に溶湯通過孔10に高温の溶湯が通過する。このため溶湯通過ノズルは、溶湯の温度の影響を受けて高温に加熱される。ここで、溶湯通過ノズルが高温に加熱されて軸長方向に熱膨張するとき、前述したように、耐火物層1のうち少なくとも鉄皮4に覆われている耐火物部分(頭部110および/または装填材料48)については、常温領域において軸長方向(矢印P方向)において圧縮状態とされている。このため、使用時において主耐火物層11および/または装填材料48が加熱されて昇温されると、主耐火物層11の頭部110および/または装填材料48の軸長方向(矢印P方向)における熱膨張量が増加する。
【0022】
このような本実施形態によれば、万一、使用時において、耐火物層1において、主耐火物層11と副耐火物層13との間に微小な隙間15が発生するようなときであっても、使用時において溶湯通過ノズルが昇温されると、主耐火物層11および/または装填材料48の軸長方向(矢印P方向)における熱膨張量、殊に、主耐火物層11および/または装填材料48のうち筒状の鉄皮4筒形状の延設筒部430で覆われている部分の熱膨張量が良好に確保される。このため、主耐火物層11と副耐火物層13との境界域15xにおいて隙間15の発生が抑制される。隙間15が形成されるとしても、その隙間幅は抑制される。このため主耐火物層11と副耐火物層13との間に溶湯が差込むことが抑制され、溶湯通過ノズルの長寿命化を図り得る。
【0023】
殊に、本実施形態によれば、溶湯通過ノズルの使用時において、主耐火物層11と副耐火物層13との境界域15xにおいて隙間15が発生するように、主耐火物層11等が変位するおそれがある。鉄皮4の加熱による熱膨張、主耐火物層11に作用する重力の影響と推察される。このような場合であっても、耐火物層1のうち少なくとも鉄皮4の筒形状の延設筒部430に覆われている耐火物部分(頭部110および/または装填材料48)については、常温領域において、軸長方向(矢印P方向)において既に予備圧縮状態とされている。このため、使用時において加熱されて昇温されると、軸長方向(矢印P方向)における主耐火物層11、特に予備圧縮状態とされていた頭部110の軸長方向(矢印P方向)における熱膨張量が増加する。この結果、主耐火物層11と副耐火物層13との境界域15xにおいて上記した隙間15が発生することが抑制される。隙間15が形成されるとしても、その隙間幅は抑制される。この結果、仮に、主耐火物層11と副耐火物層13との境界域15xにおいて隙間15が発生するとしても、その隙間幅を小さくできる。このため溶湯通過ノズルの使用時において、主耐火物層11と副耐火物層13との境界域15xに溶湯が差し込むことが抑制される。よって境界域15xにおける溶湯差込に起因する劣化が抑制される。故に、溶湯通過ノズルの長寿命化を図り得る。
【0024】
上記した加熱要素8としては、鉄皮4を誘導加熱させる部材でも良い。この場合、高周波数電流が加熱要素8に給電されると、電磁誘導により鉄皮4を誘導加熱させる。加熱要素8は軸線P1の回りを1周以上周回して、第1鉄皮41の延設筒部430を加熱させる。高周波数電流としては例えば1kc〜200kcの範囲内で適宜設定できる。従って鉄皮4は導電性および透磁性を必要とする。鉄皮4が鉄材料であれば良い。加熱雰囲気としては大気雰囲気でも良いし、アルゴンガスや窒素ガスなどの不活性なガスを吹きつつ加熱させても良い。誘導加熱であれば、耐火物部分よりも高い透磁率を有する鉄系材料で形成されている鉄皮4に磁束を集中的に透過させることができるため、耐火物部分の熱膨張を抑制させつつ鉄皮4を集中的に加熱でき、鉄皮4の延設筒部40の熱膨張の増加に貢献できる。
【0025】
本実施形態によれば、図5に示すように、頭部110の拡開傾斜面112、第2鉄皮42の拡開傾斜部420およびリング体43の係合面43mは、それぞれが同じ方向に円錐リング状に傾斜している。このため、加圧体93がリング体43を矢印U方向に加圧すれば、くさびの原理により、下方に向きつつ径内方向に向かう付勢力Fが得られる。このため、主耐火物層11の頭部110の姿勢および径方向位置を正常化させつつ、頭部110の表面100sを副耐火物層13の表面13sに適合させつつ互いに密接させるのに貢献できる。よって主耐火物層11の頭部110と副耐火物層13との間の境界域15xにおいて隙間15を低減させるのに一層貢献できる。
【0026】
更に、軸長方向において頭部110に圧縮力を与えるときに、軸線P1に対して斜め方向で径内方向に向かう付勢力Fが発生するため、厚肉筒形状の頭部110の内周100i側まで圧縮力を与えることができ、軸長方向における頭部111の全体の圧縮化に貢献できる。更に、頭部110のうち溶湯が差し込む側の内周100i側のシール性を高めることができ、頭部110の内周100iからの溶湯の進入が抑制される。
【0027】
(実施形態2)
図6は実施形態2の概念を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および同様の作用効果を有する。以下、異なる部分を中心として説明する。図6に示すように、副耐火物層13が埋設されている筒形状の第1鉄皮41を上下反転させた状態で、基台9の設置面90に設置する。この場合、副耐火物層13が基台9の設置面90に載せられる。そして図6に示すように、筒形状をなす主耐火物層11を下方(矢印U方向)に向けて第1鉄皮41の開口41wから挿入させると共に、主耐火物層11の外周壁面と第1鉄皮4との間に装填材料48(シール材料)を介在させる。更に、装填材料48と第2鉄皮4の拡開傾斜面112に、リング体43を上から載せる。リング体43は軸線P1まわりで1周するリング形状をなす。
【0028】
その後、常温領域において、C形状または棒状の加圧体93Bの下面をリング体43に強圧させることにより、頭部110、装填材料48、延設筒部430を軸長方向(矢印P方向)において加圧圧縮させる。このように常温領域において、加圧圧縮させた状態で、第1鉄皮4と第2鉄皮4とリング体43とを溶接部49(図1参照)で一体的に結合させる。この場合、主耐火物層11のうち副耐火物層13に接近している耐火物部分(頭部110および/または装填材料48)は、軸長方向(矢印P方向)において予備圧縮状態とされている。
【0029】
特に、図6に示すように、拡開傾斜面112および係合面43mは傾斜しているため、加圧体93Bがリング体43を下方(矢印U方向)に強圧すれば、くさびの原理により、下方に向きつつ径内方向に向かう付勢力Fが得られる。このため、主耐火物層11のうち第1鉄皮41で包囲される頭部110の全体(径方向を含む全体)を軸長方向(矢印P方向)において加圧圧縮させるのに有利となる。更に、付勢力Fにより、頭部110のうち溶湯が差し込む側の内周100i側におけるシール性を高めることができる。よって図1に示すように溶湯通過ノズル装置を使用するときにおいて、主耐火物層11と副耐火物層13との境界域15xにおいて、隙間15の低減に一層貢献できる。隙間15に溶湯が差し込むことが抑制される。使用時において、隙間15を消失させるような頭部110および/または装填材料48の熱膨張を期待できるためである。
【0030】
(その他)本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。リング体、第1鉄皮および第2鉄皮を溶接部で結合されているが、これに限らず、ボルトやナットで結合させても良い。リベットで結合させても良い。拡開傾斜面112および係合面43mは軸線P1に対して直角方向に沿っていても良い。主耐火物層11と副耐火物層13とは互いに別体として製造された後に、組み付けられるが、主耐火物層11に相当する耐火物部分と、副耐火物層13に相当する耐火物部分とを一体成形させても良い。本明細書の記載から次の技術的思想も把握できる。
・軸長方向に沿って延設された耐火物で形成され軸長方向に沿った溶湯通過孔を有する筒状をなす耐火物層と、前記耐火物層の上端部を覆う鉄皮とを具備する溶湯通過ノズルにおいて、前記耐火物層のうち少なくとも前記鉄皮に覆われている耐火物部分は、常温領域において前記軸長方向において圧縮状態とされていることを特徴とする溶湯通過ノズル。
【符号の説明】
【0031】
1は耐火物層、10は溶湯通気孔、11は主耐火物層、13は副耐火物層、110は頭部、112は拡開傾斜面、15は隙間、15xは境界域、4は鉄皮、41は第1鉄皮、42は第2鉄皮、43はリング体、430は延設筒部、48は装填材料、8は加熱要素、9は基台、90は設置面、93は加圧体をそれぞれ示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸長方向に沿って延設された耐火物で形成され軸長方向に沿った溶湯通過孔を有する筒状をなす耐火物層と、前記耐火物層の上端部を覆う鉄皮とを具備する溶湯通過ノズルにおいて、
前記耐火物層のうち少なくとも前記鉄皮に覆われている耐火物部分は、使用時における昇温に伴い前記軸長方向における熱膨張量を増加できるように、常温領域において前記軸長方向において圧縮状態とされていることを特徴とする溶湯通過ノズル。
【請求項2】
請求項1において、前記鉄皮は、第1鉄皮と、前記第1鉄皮の下側に配置された第2鉄皮と、軸長方向において前記第1鉄皮と前記第2鉄皮との間に設けられ前記第1鉄皮と前記第2鉄皮とを連結させるリング体とを具備しており、
前記第1鉄皮は常温領域において軸長方向において圧縮状態とされており、且つ、前記耐火物層のうち少なくとも前記第1鉄皮に覆われている耐火物部分は、昇温に伴い前記軸長方向における熱膨張量を増加できるように、常温領域において軸長方向において圧縮状態とされていることを特徴とする溶湯通過ノズル。
【請求項3】
請求項1また2において、前記耐火物層は、軸長方向に延びる主耐火物層と前記主耐火物層の上側に設けられた副耐火物層とを備えており、前記鉄皮は、前記主耐火物層の上端部と前記副耐火物層とを覆っていることを特徴とする溶湯通過ノズル。
【請求項4】
軸長方向に沿って延設された耐火物で形成され軸長方向に沿った溶湯通過孔を有する筒状をなす耐火物層と前記耐火物層の上端部を覆う鉄皮とを有する素材を用意する工程と、
前記鉄皮のうちの少なくとも一部を加熱させることにより、前記鉄皮を軸長方向において熱膨張させる加熱工程と、
前記加熱工程において加熱させた前記鉄皮を冷却させて軸長方向において熱収縮させることにより、前記耐火物層のうち、加熱後に冷却されて熱収縮された鉄皮部分に覆われている耐火物部分を、昇温に伴い前記軸長方向における熱膨張量を増加できるように、常温領域において軸長方向において圧縮状態とさせる冷却工程とを含むことを特徴とする溶湯通過ノズルの製造方法。
【請求項5】
請求項4において、前記鉄皮は、耐火物部分を覆う第1鉄皮と、前記第1鉄皮の下側に配置され耐火物部分を覆う第2鉄皮と、軸長方向において前記第1鉄皮と前記第2鉄皮との間に設けられ前記第1鉄皮と前記第2鉄皮とを連結させるリング体とを具備しており、
前記加熱工程は、前記リング体を介して前記第1鉄皮と前記第2鉄皮とを結合させた状態で組み付けつつ、前記第1鉄皮を加熱させて軸長方向に熱膨張させる工程であり、
前記冷却工程は、前記加熱工程において加熱させた前記第1鉄皮を冷却させて軸長方向において熱収縮させることにより、前記耐火物層のうち、加熱後に冷却されて熱収縮された前記第1鉄皮の鉄皮部分に覆われている耐火物部分を、使用時における昇温に伴い前記軸長方向における熱膨張量を増加できるように、軸長方向において圧縮状態とさせる工程であることを特徴とする溶湯通過ノズルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−143453(P2011−143453A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6717(P2010−6717)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【Fターム(参考)】