説明

溶湯通過ノズルおよびその製造方法

【課題】主耐火物層と副耐火物層との境界域における溶鋼等の溶湯の差込を抑制させ、寿命を長くするのに有利な溶湯通過ノズルおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】溶湯通過ノズルは、溶湯通過孔10を有する筒状をなす主耐火物層11と、主耐火物層11の上側に配置される副耐火物層13と、主耐火物層11の上端部および副耐火物層13を覆う鉄皮4とを有する。鉄皮4は、少なくとも常温領域において、主耐火物層11の上端部を副耐火物層13に向けて付勢力Fで付勢させることにより、主耐火物層11の上端部と副耐火物層13との境界域15xにおける隙間15の生成を抑制する付勢構造を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶湯(溶鋼を含む)を通過させる浸漬ノズル等の溶湯通過ノズルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
浸漬ノズルに代表される溶湯通過ノズルは、軸長方向に沿って延設された耐火物で形成され軸長方向に沿った溶湯通過孔を有する筒状をなす耐火物層と、耐火物層の上端部を覆う鉄皮とを有する(特許文献1,2)。ここで、溶湯通過ノズルでは、耐火物層に対する溶湯の差込が発生することがあり、長寿命化には限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−057410号公報
【特許文献2】特開平05−329592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、耐火物層に対する溶鋼等の溶湯の差込を抑制させ、耐火物層の寿命を長くするのに有利な溶湯通過ノズルおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)本発明に係る溶湯通過ノズルは、(i)軸長方向に沿った溶湯通過孔を有する筒状をなす主耐火物層と、(ii)主耐火物層の上側に配置された副耐火物層と、(iii)主耐火物層の上端部および副耐火物層の外側を覆う鉄皮とを具備する溶湯通過ノズルにおいて、(iv)鉄皮は、少なくとも常温領域において、主耐火物層の上端部を副耐火物層に向けて付勢させることにより、主耐火物層の上端部と副耐火物層との境界域における隙間の生成を抑制する付勢構造を備えている。
【0006】
使用時において溶湯通過ノズルが常温領域から高温に加熱昇温されて熱膨張したとき、主耐火物層の上端部と副耐火物層との境界域において隙間が生成され、その隙間幅が増加するおそれがある。この点本発明によれば、鉄皮は、少なくとも常温領域において、主耐火物層の上端部を副耐火物層に向けて付勢させることにより、主耐火物層の上端部と副耐火物層との境界域における隙間の生成を抑制する付勢構造を備えている。このため常温領域において、主耐火物層の上端部が副耐火物層に密接する方向に変位する。故に、主耐火物層の上端部と副耐火物層との境界域における隙間の生成が抑制される。従って、使用時において、溶湯通過ノズルが昇温されたとしても、主耐火物層の上端部と副耐火物層との境界域における隙間の隙間幅が増加することが抑制される。この結果、上記した隙間に溶鋼等の溶湯が差し込むことが抑制される。
【0007】
(2)本発明に係る溶湯通過ノズルの製造方法は、(i)軸長方向に沿って延設された耐火物で形成され軸長方向に沿った溶湯通過孔を有する筒状をなす主耐火物層と、主耐火物層の上側に配置される副耐火物層と、主耐火物層の上端部および副耐火物層を被覆可能な鉄皮とを用意する工程と、(ii)鉄皮のうちの少なくとも一部を加熱させることにより、鉄皮を軸長方向において熱膨張させる加熱工程と、(iii)加熱工程において加熱させた前記鉄皮を冷却させて軸長方向において熱収縮させることにより、主耐火物層のうち、加熱後に冷却されて熱収縮された鉄皮部分に覆われている上端部を、副耐火物層に向けて付勢させることにより、主耐火物層の上端部と副耐火物層との境界域における隙間の生成を抑制する冷却工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る製造方法によれば、加熱工程では、鉄皮のうちの少なくとも一部を加熱させることにより、鉄皮を軸長方向において熱膨張させる。その後の冷却工程においては、加熱工程において加熱させた鉄皮を冷却させて軸長方向において熱収縮させる。この結果、主耐火物層のうち、加熱後に冷却されて熱収縮された鉄皮部分に覆われている上端部を、副耐火物層に向けて付勢させる。これにより主耐火物層の上端部を副耐火物層に密接させる方向に変位させる。このため常温領域において、主耐火物層の上端部が副耐火物層に密接する方向に変位する。故に、主耐火物層の上端部と副耐火物層との境界域における隙間の生成が抑制される。従って、使用時において、溶湯通過ノズルが昇温されたとしても、主耐火物層の上端部と副耐火物層との境界域における隙間の隙間幅が増加することが抑制される。この結果、上記した隙間に溶鋼等の溶湯が差し込むことが抑制される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、使用時において溶湯通過ノズルが昇温されたとしても、主耐火物層の上端部と副耐火物層との境界域における隙間の隙間幅が増加することが抑制される。この結果、上記した隙間に溶鋼等の溶湯が差し込むことが抑制され、溶湯通過ノズルの長寿命化を図り得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態1に係り、溶湯通過ノズルの断面図である。
【図2】実施形態1に係り、主耐火物層の断面図である。
【図3】実施形態1に係り、副耐火物層をもつ鉄皮の断面図である。
【図4】実施形態1に係り、副耐火物層をもつ鉄皮を上下反転させた状態で基台の設置面に設置した状態の断面図である。
【図5】実施形態1に係り、上下反転させた鉄皮に主耐火物層を挿入し、リング体、第1鉄皮および第2鉄皮を溶接で結合させる製造過程を示す断面図である。
【図6】実施形態2に係り、上下反転させた鉄皮に主耐火物層を挿入し、リング体、第1鉄皮および第2鉄皮を溶接で結合させる製造過程を示す断面図である。
【図7】実施形態3に係り、上下反転させた鉄皮に主耐火物層を挿入し、リング体、第1鉄皮および第2鉄皮を溶接で結合させる製造過程を示す断面図である。
【図8】実施形態5に係り、溶湯通過ノズルの要部の断面図である。
【図9】実施形態6に係り、溶湯通過ノズルの要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明によれば、次の好ましい形態が採用できる。
・鉄皮のうち主耐火物層の上端部を覆う鉄皮部分は、少なくとも常温領域において、軸長方向において圧縮状態とされており、圧縮状態により主耐火物層の上端部を副耐火物層に向けて付勢させている。
・鉄皮は、主耐火物層の上端部を覆う第1鉄皮と、第1鉄皮の下側に配置された第2鉄皮と、軸長方向において第1鉄皮と第2鉄皮との間に設けられ第1鉄皮と第2鉄皮とを連結させるリング体とを具備する。
・鉄皮は、少なくとも常温領域において、主耐火物層の上端部を副耐火物層に向けて付勢させる付勢要素を有する。付勢要素はコイルバネ、板バネ、板バネ等のバネを例示できる。付勢要素を冷却ガス等の冷媒で冷却させる冷却通路をもつ冷却部を設けることができる。
・鉄皮は、主耐火物層の上端部を覆う第1鉄皮と、第1鉄皮の下側に配置された第2鉄皮と、軸長方向において第1鉄皮と第2鉄皮との間に設けられ第1鉄皮と第2鉄皮とを連結させるリング体とを具備する。加熱工程は、リング体を介して第1鉄皮と第2鉄皮とを結合させた状態で。主耐火物層および副耐火物層を鉄皮に組み付けつつ、第1鉄皮を加熱させて軸長方向に熱膨張させる工程であることが好ましい。冷却工程は、加熱工程において加熱させた前記第1鉄皮を冷却させて軸長方向において熱収縮させることにより、主耐火物層のうち、加熱後に冷却されて熱収縮された第1鉄皮の鉄皮部分に覆われている上端部を、副耐火物層に向けて付勢させることにより、主耐火物層の上端部と副耐火物層との境界域における隙間の生成を抑制することが好ましい。
【0012】
(実施形態1)
以下、図1〜図5を参照して本発明の実施形態1を説明する。図1は実施形態1の概念を示す。溶湯通過ノズルは溶湯の湯面M1よりも下方に浸漬される浸漬ノズルとして使用でき、耐火物で形成された筒形状に耐火物層1と、耐火物層1の上部を覆う金属(一般的には鉄材料)製の金属殻や保護殻として機能する鉄皮4とを有する。耐火物の材質は特に限定されるものではなく、アルミナ、シリカ、マグネシアなどを例示できる。図1に示すように、耐火物層1は、これの軸長方向に沿って延設されており、軸長方向(矢印P方向)に沿った溶湯通過孔10を中央部に有する筒状をなす。耐火物層1は、軸長方向(矢印P方向)に延びると共に孔10aをもつ主耐火物層11と、主耐火物層11の上側に設けられ孔10cをもつ盤状の副耐火物層13とを備えている。孔10a,10cは連通して溶湯通過孔10を形成する。主耐火物層11および副耐火物層13は、複数の定形レンガをモルタル等を介して組み付けて形成されているが、場合によってはキャスタブル、プレキャストブロックでも良い。
【0013】
図2は主耐火物層11を示す。図2に示すように、主耐火物層11の上部には、主耐火物層11の下部の外径よりも大きな外径をもつ径大な頭部110(上端部)が形成されている。頭部110は、厚肉の筒形状をなしており、軸線P1回りで1周する円錐リング状の拡開鍔面112を外周部にもつ。図2に示すように、拡開鍔面112は、斜め下方に向けて臨んでおり、径外方向(矢印D1方向)に向かうにつれて上側に移行するように円錐状に傾斜している。主耐火物層11および副耐火物層13は、製造過程では互いに別体をなす。図1に示すように、副耐火物層13の上側にはスライディングノズル装置100Aが装備される。スライディングノズル装置100Aは、溶湯通過孔10に対面するためのノズル101をもつスライドプレート102と、溶湯通過孔10の上部に対面可能なノズル103をもつ固定プレート104とを有する。スライドプレート102が矢印X方向(ノズル開閉方向)に移動すれば、ノズル101,103における溶湯の通過と溶湯の遮断とを切り替え得る。従って、副耐火物層13は、スライドプレート102を良好に摺動させる得る耐火材料で形成されていることが好ましい。なおスライディングノズル装置100Aは二枚式でも三枚式でも良い。図1に示すように、鉄皮4は主耐火物層11の上端部である頭部110と副耐火物層13とを外側から覆っている。
【0014】
具体的には、図1に示すように、鉄皮4は、主耐火物層11の頭部110および副耐火物層13を覆う上側の金属(一般的には鉄材料)製の第1鉄皮41と、第1鉄皮41の下側に配置された金属(一般的には鉄材料)製の筒形状の第2鉄皮42と、軸線P1を1周する金属(一般的には鉄材料)製のリング体43とを有する。
【0015】
使用時を示す図1に示すように、第2鉄皮42は、主耐火物層11において頭部110の下側において主耐火物層11の外周の回りを覆っている。第2鉄皮42はこれの上部に拡開鍔部420をもつ。拡開鍔部420は、頭部110の円錐状の拡開鍔面112を覆うように、軸線P1回りを1周するリング状をなす。使用時を示す図1において、拡開鍔部420の外周面420cは、斜め下方に向けて臨んでおり、径外方向(矢印D1方向)に向かうにつれて上側に移行するように円錐状に傾斜している。リング体43は高い剛性を有しており、軸長方向(矢印P方向)において第1鉄皮41と第2鉄皮42との間に同軸的に設けられている。第1鉄皮41の下端部と第2鉄皮42の上端部とリング体43は、溶接部49で連結されている。よって第1鉄皮41、第2鉄皮42およびリング体43は、一体化されている。溶接部49は、周方向に1周する構造でも良いし、あるいは、周方向において散点状に設けられている構造でも良い。要するに、第1鉄皮41、第2鉄皮42およびリング体43は溶接部49で一体化されている。
【0016】
図1に示すように、リング体43は、主耐火物層11の頭部110のうち外周面である拡開鍔面112に機械的に係合するための係合面43mをもつ。使用状態を示す図1において、係合面43mは、軸線P1回りで1周しており、径外方向(矢印D1方向)に向かうにつれて上側に移行するように円錐状に傾斜している。リング体43の係合面43mは、主耐火物層11の支持性および吊持性を高める。更に主耐火物層11に固定されている第2鉄皮42の上部に形成されている係合面43mは、円錐状をなしており、頭部110の円錐状の拡開鍔面112、第2鉄皮42の円錐状をなす拡開鍔部420と機械的に係合する。このため、リング体43は、主耐火物層11をこれの径方向(矢印D1方向)において調芯させる機能を発揮することができる。
【0017】
ここで、図1に示すように、第1鉄皮41は、浅い広口の円筒形状または角筒形状をなすプレート部410と、プレート部410から下方に向けて円筒形状に延設された延設筒部430とをもつ。プレート部410および延設筒部430は一体とされている。第1鉄皮41は、主耐火物層11の上端部である頭部110と、副耐火物層13とを外方から覆っている。主耐火物層11と副耐火物層13とはこれらの境界域15xを介して隣接されている。主耐火物層11と副耐火物層13との間の境界域15xに隙間15が発生しないように、主耐火物層11の頭部110の上側の表面100sと副耐火物層13の下側の表面13sとは、シール性が高い薄肉のシール耐火物層115(例えばモルタル層等)を介して密接されて組み付けられている。隙間15が発生すると、溶鋼等の溶湯が差し込むためである。耐火物層1は、溶湯を重力により通過させる溶湯通過孔10をもつ。溶湯通過孔10は、軸長方向に延びる縦通過孔10eと、縦通過孔10eの下部に連通すると共に溶湯を吐出させる横通過孔10dとを有する。主耐火物層11の外周壁119は、セラミックスシート10xで覆われることが好ましい。
【0018】
さて本実施形態によれば、耐火物層1のうち少なくとも鉄皮4は、常温領域(一般的には0℃〜40℃,10〜30℃)において、軸長方向(矢印P方向)において圧縮状態とされている。具体的には、主耐火物層11の頭部110を覆う第1鉄皮41は、常温領域において軸長方向(矢印P方向)において圧縮状態とされている。より具体的には、主耐火物層11の頭部110を覆う第1鉄皮41の延設筒部430は、常温領域において軸長方向(矢印P方向)において圧縮状態とされている。
【0019】
これにより頭部110を副耐火物層13に密接させる方向に付勢力が得られる。
【0020】
次に、製造過程について説明を加える。まず、図4に示すように、常温領域において、副耐火物層13が埋設されている筒形状の第1鉄皮41(素材)を上下反転させた状態で、基台9の水平な設置面90に設置する。この場合、副耐火物層13の表面130が基台9の設置面90に載せられる。第1鉄皮41の筒状の開口41wは上向きとされる。そして常温領域において、図5に示すように、筒形状をなす主耐火物層11を下方に向けて、主耐火物層11の頭部110を第1鉄皮41の筒状の開口41wから下方(矢印U方向)に挿入させる。また、常温領域において、主耐火物層11の頭部110の外周壁面110cと第1鉄皮41の延設筒部430の内周壁面430cとの間に、装填材料48(耐熱性をもつバインダ材料,耐熱性をもつシール材料)を装填させる。装填材料48はモルタル材料でもよいし、キャスタブル材料でも良いし、耐火物の粉末材料でも良い。この場合、主耐火物層11と副耐火物層13との間の境界域15xに隙間が発生しないように、主耐火物層11の頭部110と副耐火物層13とは、高いシール性および耐熱性をもつシール耐火物層115を介して密接される。場合によっては、シール性が確保されれば、シール耐火物層115を形成せずとも良い。
【0021】
次に、図5に示すように、リング体43の係合面43mを下向きにさせる。そして、常温領域において、装填材料48と頭部110の円錐リング状の拡開鍔面112と第2鉄皮42の円錐リング状の拡開鍔部420とに、リング体43の係合面43mが係合するように、リング体43を上からほぼ同軸的に載せる。リング体43の係合面43mは軸線P1に対して角度θ2(図5参照)傾斜している。角度θ2としては、例えば85〜5°の範囲内、80〜10°の範囲内、75〜15°の範囲内、70〜20°の範囲内にできるが、これらに限定されるものではない。ここで、リング体43は高い剛性をもち、軸線P1まわりで1周するO形のリング状またはC形のリング状をなすが、半リング状でも良い。1/2円周状の半リング体を2個1組で使用しても良い。
【0022】
その後、常温領域(一般的には0から30℃)において、棒状の加圧体93の下面93dをリング体43にこれの上側から軸長方向に沿って矢印U方向(下方)に向けて強圧させつつ、主耐火物層11(焼成されていても良いし、不焼成でも良い)の姿勢を安定化させる。かかる加圧体93による強圧作用により、主耐火物層11と副耐火物層13との間の境界域15xに隙間が発生しないように、主耐火物層11の頭部110と副耐火物層13とはシール耐火物層115(例えばモルタル材)を介して密接される。
【0023】
この状態で、第1鉄皮4の延設筒部430の外側に配置した加熱要素8により、第1鉄皮4の延設筒部430を高温状態に加熱させる。これにより、第1鉄皮4の延設筒部430を軸長方向(矢印P方向)に熱膨張させる。熱膨張量としては、特に限定されるものではないが、加熱前の延設筒部430の軸長寸法をL1とし、加熱前の延設筒部430の軸長寸法をL2とすると、L2/L1×100=101〜130の範囲内、102〜120の範囲内、103〜115の範囲内、103〜110の範囲内が例示される。軸長方向において、延設筒部430のうち特にリング体43付近を加熱できる。加熱要素8としては燃焼火炎バーナ(例えば、アセチレンバーナ火炎)、電気ヒータ、誘導加熱コイル、通電加熱等を例示できる。延設筒部430の加熱温度としては200〜1200℃、300〜1000℃、350〜800℃などが例示される。加熱雰囲気は大気雰囲気、還元性雰囲気、減圧雰囲気、真空雰囲気にいずれでも良い。
【0024】
上記したように第1鉄皮4の延設筒部430を高温状態に加熱させて軸長方向(矢印P方向)に熱膨張させた状態で、第1鉄皮4と第2鉄皮4とリング体43とを溶接部49(図1参照)で一体的に結合させる。このように第1鉄皮4の延設筒部430は、軸長方向に熱膨張した状態で溶接部49により拘束される。溶接部49は軸線P1回りでリング状に形成しても良いし、軸線P1回りでリング状に散点状に形成しても良い。その後、鉄皮4が常温領域に冷却されると、第1鉄皮41の延設筒部430は軸長方向(矢印P方向)において熱収縮する。この結果、主耐火物層11のうち副耐火物層13に接近している耐火物部分、つまり頭部110および/または装填材料48は、第1鉄皮41の延設筒部430の熱収縮に伴い、副耐火物層13に向けて付勢される付勢力を発揮させる。このため、常温領域においては、頭部110が副耐火物層13に付勢され、頭部110と副耐火物層13との境界域15xにおける隙間15の生成が抑制される。
【0025】
次に使用時について説明を加える。図1に示すように、溶湯通過ノズルが使用されるときには、鉄皮4は耐火物層1の上部に位置する。溶湯通過ノズルが使用されるときには、溶湯通過ノズルの下部が溶湯(一般的には溶鋼)に浸漬されたり、溶湯に接近したりする。更に溶湯通過孔10に高温の溶湯が通過する。このため溶湯通過ノズルは、溶湯の温度の影響を受けて高温に加熱される。ここで、前述したように、主耐火物層11のうち少なくとも鉄皮4に覆われている耐火物部分(頭部110および/または装填材料48)が常温領域において副耐火物層13に向かうように付勢され、頭部110と副耐火物層13との境界域15xにおける隙間15の生成が抑制されている。従って、使用時において溶湯通過ノズルが高温に加熱されるときであっても、頭部110と副耐火物層13との境界域15xにおける隙間15の生成が抑制される。隙間15が形成されるとしても、その隙間幅は抑制される。このため使用時において主耐火物層11と副耐火物層13との間に溶鋼等の溶湯が差込むことが抑制され、溶湯通過ノズルの長寿命化を図り得る。なお、溶湯通過ノズルの使用時には、鉄皮4の延設筒部430も昇温されて熱膨張するおそれがある。このような場合であっても、使用時における付勢力は常温領域における付勢力よりも減少するおそれがあるが、頭部110と副耐火物層13との境界域15xにおける隙間15の隙間幅の過剰増加は抑制される。
【0026】
上記した加熱要素8としては、鉄皮4を誘導加熱させる部材でも良い。この場合、高周波数電流が加熱要素8に給電されると、電磁誘導により鉄皮4を誘導加熱させる。加熱要素8は軸線P1の回りを1周以上周回して、第1鉄皮41の延設筒部430を加熱させることが好ましい。高周波数電流としては例えば1kc〜200kcの範囲内で適宜設定できる。従って鉄皮4は導電性および透磁性を必要とする。鉄皮4が炭素鋼や合金鋼等の鉄材料であれば良い。加熱雰囲気としては大気雰囲気でも良いし、アルゴンガスや窒素ガスなどの不活性なガスを吹きつつ加熱させても良い。誘導加熱であれば、耐火物部分よりも高い透磁率を有する鉄系材料で形成されている鉄皮4の延設筒部430に磁束を集中的に透過させることができるため、鉄皮4の延設筒部40を局部的に且つ集中的に加熱でき、鉄皮4の延設筒部40の熱膨張の増加に貢献できる。なお、鉄皮4を通電加熱させる場合には、複数の通電用の電極を鉄皮4に電気的に接触させた状態で、電極から鉄皮4に交流または直流を通電でき、ジュール熱で高温領域に発熱させる。
【0027】
本実施形態によれば、図5に示すように、頭部110の拡開鍔面112、第2鉄皮42の拡開鍔部420およびリング体43の係合面43mは、それぞれが同じ方向に円錐リング状に傾斜している。このため、加圧体93がリング体43を矢印U方向(図5参照)に加圧すれば、くさびの原理により、図5における下方(副耐火物層13に向かう方向)に向きつつ径内方向に向かう付勢力Fが得られる。このため、主耐火物層11の頭部110の姿勢および径方向位置を正常化させる調芯作用が得られるばかりか、頭部110の表面100sを副耐火物層13の表面13sに適合させつつ互いに密接させるのに貢献できる。よって、主耐火物層11の頭部110の表面100sと副耐火物層13の表面13sとの間の境界域15xにおいて隙間15を低減させるのに一層貢献できる。
【0028】
上記したように、軸線P1に対して斜め方向で径内方向に向かう付勢力Fが発生するため、厚肉筒形状の頭部110の内周100i側(溶湯通過孔10側)まで付勢力を与えるのに有利となる。よって、軸長方向における頭部111の全体の付勢化に貢献できる。よって、頭部110のうち溶湯が差し込む側の内周100i側(溶湯通過孔10側)のシール性を高めることができる。従って、溶湯通過孔10を流れる溶鋼等の溶湯が頭部110の内周100iから境界域15xに進入することが抑制される。
【0029】
(実施形態2)
図6は実施形態2の概念を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および同様の作用効果を有する。以下、異なる部分を中心として説明する。図6に示すように、副耐火物層13が埋設されている筒形状の第1鉄皮41を上下反転させた状態で、基台9の設置面90に設置する。この場合、副耐火物層13が基台9の設置面90に載せられる。そして図6に示すように、筒形状をなす主耐火物層11を下方(矢印U方向)に向けて第1鉄皮41の開口41wから挿入させると共に、主耐火物層11の外周壁面と第1鉄皮4との間に装填材料48(シール材料)を介在させる。更に、装填材料48と第2鉄皮4の拡開鍔面112に、リング体43を上から載せる。リング体43は軸線P1まわりで1周するリング形状をなす。
【0030】
その後、常温領域において、C形状または棒状の加圧体93Bの下面930をリング体43の面43uに強圧させる。これにより頭部110、装填材料48、延設筒部430を軸長方向(矢印P方向)において加圧圧縮させる。このように常温領域において、加圧圧縮させた状態で、第1鉄皮4と第2鉄皮4とリング体43とを溶接部49(図1参照)で一体的に結合させる。この場合、副耐火物層13に接近している耐火物部分(頭部110および/または装填材料48)は、副耐火物層13に向かう付勢力が与えられる。特に、図6に示すように、拡開鍔部420、拡開鍔面112および係合面43mは傾斜しているため、加圧体93Bがリング体43を下方(矢印U方向)に強圧すれば、くさびの原理により、副耐火物層13に向かいつつ径内方向に向かう付勢力Fが得られる。換言すると、主耐火物層11のうち第1鉄皮41で包囲される頭部110および/または装填材料48は、副耐火物層13に向かう付勢力Fが与えられる。かかる付勢力Fにより、溶湯通過孔10を流れる溶湯が差し込む側の内周100i側(溶湯通過孔10側)におけるシール性を高めることができる。よって図1に示すように溶湯通過ノズル装置を使用するときにおいて、主耐火物層11と副耐火物層13との境界域15xにおいて、隙間15の低減に一層貢献できる。隙間15に溶湯が差し込むことが抑制される。
【0031】
(実施形態3)
図7は実施形態3の概念を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および同様の作用効果を有する。以下、異なる部分を中心として説明する。図7に示すように、第2鉄皮42は、主耐火物層11において頭部110の下側において主耐火物層11の外周の回りを覆っている。第2鉄皮42の拡開鍔部420Eおよび、拡開鍔部420Eの拡開鍔面112Eは、軸線P1に対してほぼ軸直角方向に拡開する鍔状をなし、軸線P1回りを1周するリング状をなす。このため軸線P1に沿った向きの付勢力Fが確保される。このため前述したように、主耐火物層11と副耐火物層13との境界域15xにおいて、隙間15の低減に一層貢献できる。隙間15に溶湯が差し込むことが抑制される。
【0032】
(実施形態4)
本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成および同様の作用効果を有するため、図1〜図5を準用する。以下、異なる部分を中心として説明する。まず、図4に示すように、副耐火物層13が埋設されている筒形状の第1鉄皮41(素材)を上下反転させた状態で、基台9の水平な設置面90に設置する。この状態で、加熱要素8により第1鉄皮41を高温領域に加熱させる。加熱要素8は、バーナ加熱、誘導加熱、通電加熱でも良い。その後、図5に示すように、主耐火物層11を下方に向けて、主耐火物層11の頭部110を、高温の第1鉄皮41の筒状の開口41wから下方(矢印U方向)に挿入させる。また、主耐火物層11の頭部110の外周壁面110cと第1鉄皮41の延設筒部430の内周壁面430cとの間に、装填材料48を装填させる。この場合、主耐火物層11と副耐火物層13との間の境界域15xに隙間が発生しないように、主耐火物層11の頭部110と副耐火物層13とは、高いシール性をもつシール耐火物層115を介して密接される。この場合、加熱要素8により第1鉄皮41を適宜加熱させ、第1鉄皮41の延設筒部430の高温状態および熱膨張状態を維持させると良い。
【0033】
次に、図5に示すように、リング体43の係合面43mを下向きにさせる。そして、装填材料48と頭部110の円錐リング状の拡開鍔面112と第2鉄皮42の円錐リング状の拡開鍔部420とに、リング体43の係合面43mが係合するように、リング体43を上からほぼ同軸的に載せる。その後、棒状の加圧体93の下面93dをリング体43にこれの上側から軸長方向に沿って矢印U方向(下方)に向けて強圧させつつ、主耐火物層11の姿勢を安定化させる。かかる加圧体93による強圧作用により、主耐火物層11と副耐火物層13との間の境界域15xに隙間が発生しないように、主耐火物層11の頭部110と副耐火物層13とはシール耐火物層115(例えばモルタル材)を介して密接される。この場合、加熱要素8により第1鉄皮41を適宜加熱させ、第1鉄皮41の高温状態および熱膨張状態を維持させることができる。上記したように頭部110と副耐火物層13とが密接している状態で、且つ、第1鉄皮4の延設筒部430が高温状態に加熱されて軸長方向(矢印P方向)に熱膨張している状態で、第1鉄皮4と第2鉄皮4とリング体43とを溶接部49(図1参照)で一体的に結合させる。このように第1鉄皮4の延設筒部430は、軸長方向に熱膨張した状態で溶接部49により拘束される。溶接中においても、加熱要素8により第1鉄皮41を適宜加熱させ、第1鉄皮41の延設筒部430の高温状態および熱膨張状態を維持させると良い。
【0034】
溶接後、鉄皮4が常温領域に冷却されると、第1鉄皮41の延設筒部430は軸長方向(矢印P方向)において熱収縮する。第1鉄皮41の延設筒部430の熱収縮に伴い、主耐火物層11のうち副耐火物層13に接近している耐火物部分、つまり頭部110および/または装填材料48は、副耐火物層13に向けて付勢される付勢力を発揮させる。このため、常温領域においては、頭部110が副耐火物層13に付勢され、頭部110と副耐火物層13との境界域15xにおける隙間15の生成が抑制される。この場合、使用時に昇温されたとしても、頭部110と副耐火物層13との境界域15xにおける隙間15の生成が抑制される。
【0035】
(実施形態5)
図8は実施形態5を示す。本実施形態は実施形態1〜4と基本的には同様の構成および同様の作用効果を有する。以下、異なる部分を中心として説明する。図8に示すように、鉄皮4にはリング体73が同軸的に設けられている。リング体73と主耐火物層11との間には、バネで形成された付勢要素77が介在されている。バネはコイルバネが例示されるが、板バネ、皿バネでも良い。バネは、頭部110の回りを連続的に1周する構造でも良いし、断続的に1周する構造でも良い。バネの材質は耐熱鋼等の金属、セラミックスが例示される。リング体73の係合面730および主耐火物層11の拡開鍔面112は、主耐火物層11の径外方向(D1方向)に向かうにつれて上向きに移行するように円リング状に傾斜している円錐状傾斜面とされている。この結果、バネは、主耐火物層11の頭部110を持ち上げ、頭部110を副耐火物層13に向かわせつつ径内方向に向かう付勢力F2を発揮させる。付勢力F2により、前述したように、頭部110と副耐火物層13との境界域における隙間を低減または解消できる。よって、常温時、または、溶湯通過ノズル装置を使用するときに昇温されるときにおいて、主耐火物層11と副耐火物層13との境界域において隙間の低減に一層貢献できる。よって隙間に溶湯が差し込むことが抑制される。
【0036】
更に、図9に示す実施形態6に示すように、アルゴンガスや空気等に代表される冷却ガスなどの気相また液相状の冷媒を流す冷却通路79をもつ冷却部79wを鉄皮4に形成し、付勢要素77の過熱を抑え、付勢要素77のバネ力を確保させることにしても良い。冷却部79wが溶接部49付近に設けられていると、溶接部49の過熱も抑制でき、溶接部49の保護性も向上できる。
【0037】
なお、図1〜図8に示す実施形態についても、同様の冷却部を形成して延設筒部430の過熱を抑制させ、延設筒部430の熱収縮による付勢力Fを確保させることにしても良い。例えば図7に示すように、冷却部79wを鉄皮4の延設筒部430に設けても良い。この場合、使用時における延設筒部430の過熱が抑制され、延設筒部430の熱収縮による付勢力Fが確保され、主耐火物層11と副耐火物層13との境界域15xにおいて隙間15の低減に一層貢献できる。よって溶湯が隙間15に差し込むことが一層抑制される。
【0038】
(その他)本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。リング体、第1鉄皮および第2鉄皮を溶接部(溶融結合要素)で結合されているが、これに限らず、ボルトやナットで結合させても良い。リベット等の機械要素で結合させても良い。
【符号の説明】
【0039】
1は耐火物層、10は溶湯通過孔、11は主耐火物層、13は副耐火物層、110は頭部、112は拡開鍔面、15は隙間、15xは境界域、4は鉄皮、41は第1鉄皮、42は第2鉄皮、43はリング体、43mは係合面、430は延設筒部、48は装填材料、49は溶接部、8は加熱要素、9は基台、90は設置面、93は加圧体をそれぞれ示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸長方向に沿った溶湯通過孔を有する筒状をなす主耐火物層と、前記主耐火物層の上側に配置された副耐火物層と、前記主耐火物層の上端部および前記副耐火物層の外側を覆う鉄皮とを具備する溶湯通過ノズルにおいて、
前記鉄皮は、少なくとも常温領域において、前記主耐火物層の上端部を前記副耐火物層に向けて付勢させることにより、前記主耐火物層の前記上端部と前記副耐火物層との境界域における隙間の生成を抑制する付勢構造を備えていることを特徴とする溶湯通過ノズル。
【請求項2】
請求項1において、前記鉄皮のうち前記主耐火物層の前記上端部を覆う鉄皮部分は、少なくとも常温領域において、前記軸長方向において圧縮状態とされており、前記圧縮状態により前記主耐火物層の上端部を前記副耐火物層に向けて付勢させていることを特徴とする溶湯通過ノズル。
【請求項3】
請求項1または2において、前記鉄皮は、前記主耐火物層の前記上端部を覆う第1鉄皮と、前記第1鉄皮の下側に配置された第2鉄皮と、軸長方向において前記第1鉄皮と前記第2鉄皮との間に設けられ前記第1鉄皮と前記第2鉄皮とを連結させるリング体とを具備することを特徴とする溶湯通過ノズル。
【請求項4】
請求項1において、前記鉄皮は、少なくとも常温領域において、前記主耐火物層の前記上端部を前記副耐火物層に向けて付勢させる付勢要素を有することを特徴とする溶湯通過ノズル。
【請求項5】
軸長方向に沿って延設された耐火物で形成され軸長方向に沿った溶湯通過孔を有する筒状をなす主耐火物層と、前記主耐火物層の上側に配置される副耐火物層と、前記主耐火物層の上端部および前記副耐火物層を被覆可能な鉄皮とを用意する工程と、
前記鉄皮のうちの少なくとも一部を加熱させることにより、前記鉄皮を軸長方向において熱膨張させる加熱工程と、
前記加熱工程において加熱させた前記鉄皮を冷却させて軸長方向において熱収縮させることにより、前記主耐火物層のうち、加熱後に冷却されて熱収縮された鉄皮部分に覆われている前記上端部を、前記副耐火物層に向けて付勢させることにより、前記主耐火物層の上端部と前記副耐火物層との境界域における隙間の生成を抑制する冷却工程とを含むことを特徴とする溶湯通過ノズルの製造方法。
【請求項6】
請求項5において、前記鉄皮は、主耐火物層の上端部を覆う第1鉄皮と、前記第1鉄皮の下側に配置された第2鉄皮と、軸長方向において前記第1鉄皮と前記第2鉄皮との間に設けられ前記第1鉄皮と前記第2鉄皮とを連結させるリング体とを具備しており、
前記加熱工程は、前記リング体を介して前記第1鉄皮と前記第2鉄皮とを結合させた状態で前記主耐火物層および前記副耐火物層を前記鉄皮に組み付けつつ、前記第1鉄皮を加熱させて軸長方向に熱膨張させる工程であり、
前記冷却工程は、前記加熱工程において加熱させた前記第1鉄皮を冷却させて軸長方向において熱収縮させることにより、前記主耐火物層のうち、加熱後に冷却されて熱収縮された前記第1鉄皮の鉄皮部分に覆われている前記上端部を、前記副耐火物層に向けて付勢させることにより、前記主耐火物層の前記上端部と前記副耐火物層との境界域における隙間の生成を抑制することを特徴とする溶湯通過ノズルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−224637(P2011−224637A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98785(P2010−98785)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【Fターム(参考)】