説明

溶融亜鉛めっき装置およびそれを用いた溶融亜鉛めっき金属帯の製造方法

【課題】 溶融亜鉛ポットへの、亜鉛インゴットの投下に伴って、ドロスが発生、堆積するのを、簡単なしくみで抑制できる、溶融亜鉛めっき装置およびそれを用いた溶融亜鉛めっき金属帯の製造方法を提供する。
【解決手段】 亜鉛インゴット46の投下位置直下でかつ、ポット40付設の加熱装置47の溶融亜鉛吐出口471の下端から、100mm以上500mm以内、下方の位置に、亜鉛インゴット46の下端を支えることができる形状をした、インゴット受け80を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融亜鉛めっき装置およびそれを用いた溶融亜鉛めっき金属帯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板などの金属板(金属帯も含む意味とする)を亜鉛めっきする方法としては、大きく分けて電気亜鉛めっきと溶融亜鉛めっきとがあり、どちらも多用されているが、簡単な方式で量産に適した溶融亜鉛めっきでは、加熱して溶融させた450℃内外の亜鉛を溶融亜鉛ポット(以下、ポット)内に貯留し、ここに金属板を浸漬しては取り出すことで亜鉛めっきを行っている。
【0003】
図11に、一般的な鋼帯の連続溶融亜鉛めっきライン100の概要を示す。
10はペイオフリールであり、コイル状に巻かれた鋼帯Sを巻き出す。2つのリールがあり、片側のリールから鋼帯Sの尾端を巻き出し終わると、もう片側のリールから別の鋼帯Sの先端を巻き出し、そのもう片側のリールからその別の鋼帯Sを巻き出している間に、最初のリールには、図示しないさらに別のコイル状に巻かれた鋼帯Sをセットする、という動作を、両方のリールにて交互に繰り返し、溶接機20で次々と鋼帯Sを溶接しては連続溶融亜鉛めっきライン100に供給するしくみである。
【0004】
加熱帯30で加熱後の鋼帯Sが、ポット40内の溶融した亜鉛中に連続して通帯され、浸漬され、取り出される、という一連のプロセスを経ることで、鋼帯Sの全長がめっきされ、切断機50にて溶接部を目標に鋼帯Sが切断され、テンションリール60により巻き取られる。片側のリールで切断後の鋼帯Sの尾端を巻き取り終わると、もう片側のリールで、切断後の別の鋼帯Sの先端を巻き取り、そのもう片側のリールでその別の鋼帯Sを巻き取っている間に、最初のリールからはコイル状に巻かれた鋼帯Sを搬出する、という動作を、両方のリールにて交互に繰り返す。合金化炉70により加熱し、鋼帯Sに付着した亜鉛を、鋼帯Sに合金一体化させる場合もある。
【0005】
ポット40とそれに付随する主要構成設備の概要を図12に示すが、酸化しにくい雰囲気に調整されたスナウト41内を通帯されてきた鋼帯Sは、ポット40内に配置されたシンクロール42により上方へ通帯方向を転換し、反り矯正ロール43を通過後、鋼帯Sの表面に付着した溶融亜鉛を、ガスワイピング装置44から噴射される気体Gによって目標とする目付量範囲内に調整後、さらにワイピングロール45を通過する、という方法が一般的にとられている。
【0006】
また、鋼帯Sの表面に付着して失われる分の亜鉛を新たに供給する方法としては、特許文献1に記載のごとく、図13に示すように、ポット40内に常温の亜鉛インゴット46を投下して、450℃内外の溶融亜鉛から受ける熱で、徐々に亜鉛インゴット46を溶解させる方法も一般的にとられている。
大気中への放熱や新たな亜鉛インゴット46の投下による抜熱分を補償するため、特許文献2に記載のごとく、既出図12に示すように、溶融した亜鉛を補償的に加熱する加熱装置47を設ける場合もある。その場合の加熱装置47の原理としては、誘導加熱によるものなどが知られ、図12中のC−C図示のごとく、誘導加熱用コイル48をその周囲に配した流路を2つ設け、吸引用のものと排出用のものに使い分けるとともに、吸引用の流路から吸引した溶融亜鉛を誘導加熱して昇温した後、排出用の流路から排出するしくみである。
【0007】
さて、溶融亜鉛めっき浴中には、通常、鋼板から溶け出したFe分や、めっき品質上必要となるAl分が含まれるが、ポット40中の溶融亜鉛のうち、局部的に低温の部分では、これらFeやAlの化合物が析出し、ドロス(49)と呼ばれる細かい粒子となってポット40の底に堆積し、これら浴の流動により巻き上げられるなどして通帯される鋼帯Sに付着し、品質上の欠陥となる場合がある。
【0008】
ちなみに、溶融した亜鉛を補償的に加熱する加熱装置47は、多くの場合、上に向けて設置され、図12中のθは0〜40°の範囲に固定して設定される。
さて、ここで、亜鉛インゴット46の投下に話を戻すが、常温でかつ、かなりの熱容量をもつ亜鉛インゴット46をポット40内の溶融亜鉛中に投下すると、亜鉛インゴット46がポット40の底に着地した際、その周囲では、局部的に溶融亜鉛の温度が下がり、さらにドロスが発生しやすい条件となるため、これを防止、あるいは抑制する目的で、様々な方法が提案されている。
【0009】
例えば、先述の特許文献1では、既出図13に示したように、亜鉛インゴット投下位置直下でかつ、ポット40付設の加熱装置47からの溶融亜鉛の吐出口下端付近に、前記亜鉛インゴットを寝せた状態で支えることができる形状の、インゴット受け80を設けるとともに、ポット40を堰等で区切って、亜鉛インゴット46を投下する領域を設け、該領域内の溶融亜鉛を温度制御する方法が、同時に提案されている。
【0010】
また、特許文献3では、浸漬した亜鉛インゴット46近傍に流れを与えるなどして、溶融亜鉛の温度低下を抑制する方法が提案されている。
さらに、特許文献4では、ポットの上方で亜鉛インゴット46を溶解して落下させることにより、ドロス49の発生を防止する方法が提案されている。
そして、特許文献5では、亜鉛インゴット46投下時に発生した低温の溶融亜鉛がめっき領域に流れ込んでFeと反応してドロスが生成することを防止する目的で、亜鉛インゴット46投下領域とめっき領域とを分離し、かつ亜鉛インゴット46投下領域からめっき領域に通ずるラビリンス様の流路を設けることが提案されている。
【0011】
最後に、特許文献6では、図14に示すごとく、一対の爪で亜鉛インゴット46を掴んでおき、溶融亜鉛を満たしたポット40中に徐々に下降させて溶融させ、最後に亜鉛インゴット46の下部を開閉式の一対の支持板491を閉塞させて支持する方法が提案されている。
【特許文献1】特許第2643048号公報
【特許文献2】特開平05?078800号公報
【特許文献3】特開2000?144357号公報
【特許文献4】特開2001?254162号公報
【特許文献5】特開2002?212696号公報
【特許文献6】特開平07?018394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
亜鉛インゴットを、溶融亜鉛を満たしたポット40の底まで投下すると、低温の熱源となり、周辺でドロス49が発生して、ポット40の底への堆積を促進してしまう。
さらに、低温であるほど溶融亜鉛の比重は大きくなることから、これも、低温の溶融亜鉛ほど下に沈もうとする作用としてはたらき、一層ドロスの堆積を促進してしまう原因になる。こうして堆積したドロスは、鋼帯Sの通帯に伴って発生するポット40内での溶融亜鉛の流動や、亜鉛インゴット46の投下に伴い、巻き上げられて、めっきすべき金属帯に付着して品質上の欠陥になる場合がある、という問題がある。
【0013】
先述の特許文献1の方法では、亜鉛インゴット投下位置直下でかつ、ポット40付設の加熱装置47からの溶融亜鉛の吐出口下端付近に、前記亜鉛インゴットを寝せた状態で支えることができる形状の、インゴット受け80(既出図13参照)を設けているため、ドロスの発生や、ポット40へのドロスの流入は相当程度抑制されるが、若干の改善の余地があった。
【0014】
また、特許文献3のような方法では、亜鉛インゴット46近傍に流れを与える、とはいっても、結局、亜鉛インゴット46を下部だけ溶融亜鉛中に浸漬させ、残余の亜鉛インゴット46の部分を溶融亜鉛外で把持しておく手段が当然必要であり、その把持した部分より下側の亜鉛インゴット46の部分が溶解し終わると、残余の亜鉛インゴット46の部分は、ポット40内の溶融亜鉛に投下するしかない。すると、残余の亜鉛インゴット46がポット40の底に着地するため、低温の熱源となり、周辺でドロスが発生してしまう。
【0015】
これを防止しようと、溶融亜鉛を流動させる範囲を、亜鉛インゴット46を保持している状態での高さ方向位置および投下後着地した状態での高さ方向位置の2ヶ所とする必要が生じ、装置が複雑で大がかりなものとなってしまうという問題がある。
さらに、特許文献4のような方法では、亜鉛インゴット46を把持する爪が把持している、その亜鉛インゴット46の部分を、加熱手段が加熱し、溶解した時点で、残余の亜鉛インゴット46がポット40の底に着地するため、低温の熱源となり、周辺でドロスが発生してしまうという、前述特許文献3と同様の問題がある。
【0016】
そして、特許文献5のような方法では、亜鉛インゴット46投下領域とめっき領域とを分離し、かつ亜鉛インゴット46投下領域からめっき領域に通ずるラビリンス様の流路を設けるため、装置が複雑で大がかりなものとなってしまうという問題がある。
最後に、特許文献6のような方法では、一対の爪で亜鉛インゴット46を掴んでおき、溶融亜鉛を満たしたポット40中に徐々に下降させ、溶融させる、その速度の制御が大変であり、制御装置も含めると、やはり、装置が複雑で大がかりなものとなってしまうという問題がある。
【0017】
本発明は、溶融亜鉛ポットへの、亜鉛インゴットの投下に伴って、ドロスが発生、堆積するのを、簡単なしくみで抑制できる、溶融亜鉛めっき装置およびそれを用いた溶融亜鉛めっき金属帯の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上述のような課題を解決するべくなされたものである。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)溶融亜鉛を満たしたポットに鋼板を浸漬させてめっきする溶融亜鉛めっき装置であって、亜鉛インゴットの投下位置直下でかつ、前記ポット付設の加熱装置の溶融亜鉛吐出口の下端から、100mm以上500mm以内、下方の位置に、前記亜鉛インゴットの下端を支えることができる形状をした、インゴット受けを設けたことを特徴とする溶融亜鉛めっき装置。
(2)前記インゴット受けは、前記亜鉛インゴットの下端の一部を支えるものであり、その一部の、水平面への投射面積は、前記亜鉛インゴットの、水平面への投射面積に対し、35%以上を占めることを特徴とする(1)に記載の溶融亜鉛めっき装置。
(3)前記インゴット受けに、前記亜鉛インゴットの下端を支えたときに、前記亜鉛インゴットの側方に仕切壁を設けたことを特徴とする(1)または(2)に記載の溶融亜鉛めっき装置。
(4)前記仕切壁は、前記インゴットの下端に相当する位置から、100mm以上、上方の位置に、その下端が位置するものであることを特徴とする(3)に記載の溶融亜鉛めっき装置。
(5)前記インゴット受けのさらに下方に、平板を設けたことを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかに記載の溶融亜鉛めっき装置。
(6)(1)ないし(5)のいずれかに記載の溶融亜鉛めっき装置を用いた溶融亜鉛めっき金属帯の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、溶融亜鉛ポットへの、亜鉛インゴットの投下に伴って、ドロスが発生、堆積するのを、簡単なしくみで抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態の一例を、図を用いながら説明する。
図1は、(1)の本発明の溶融亜鉛めっき装置について、その実施の形態の一例を示したものである。
基本的に、従来の図12のものの構成を踏襲しているが、(1)の本発明の溶融亜鉛めっき装置は、亜鉛インゴット46の投下位置直下でかつ、ポット40付設の加熱装置47の溶融亜鉛吐出口471の下端から、100mm以上500mm以内、下方の位置に、亜鉛インゴット46の下端を支えることができる形状をした、インゴット受け80を設ける。
【0021】
溶融亜鉛吐出口471の下端から、100mm以上、下方の位置に、亜鉛インゴット46の下端を支えるようにするのは、加熱装置47から吐出される溶融亜鉛の影響によって発生する対流による流れが、投下した亜鉛インゴット46によって妨げられ、投下初期の亜鉛インゴット46がまだ十分に加熱されていない時期に低温の熱源になって、ドロスが発生するのを極力抑制するためである。
【0022】
図1(a)に示すように、先述の特許文献1に記載のごとく、(i)亜鉛インゴット46を、元の形状のまま投下し、インゴット受け80の上に寝せた状態で支える場合でも、あるいは、図1(b)に示すように、(ii)亜鉛インゴット46を下部だけ溶融亜鉛中に浸漬し(特許文献6のように徐々に浸漬させていくのではなくて、単純に、ある一定の高さだけ下部を浸漬させるようにする)、残余の亜鉛インゴット46の部分を溶融亜鉛外で把持しておき、その把持した部分より下側の亜鉛インゴット46の部分が溶解し終わった段階で、残余の亜鉛インゴット46の部分を、ポット40内の溶融亜鉛に投下してしまい、インゴット受け80の上に立てた状態で支える場合でも、溶融亜鉛吐出口471の下端から、100mm以上、下方の位置に、亜鉛インゴット46の下端を支えるようにすることによって、加熱装置47から吐出される溶融亜鉛の影響によって発生する対流による流れが、投下した亜鉛インゴット46によって妨げられないようにすることができる。
【0023】
亜鉛インゴット46の下端を支える位置が、溶融亜鉛吐出口471の下端から、下方に100mm未満だと、どう亜鉛インゴット46の寸法を調整しても、上述の(i)の場合であれば、図2(a)に示すようにして、また、上述の(ii)の場合であれば、図2(b)に示すようにして、加熱装置47から吐出される溶融亜鉛の影響によって発生する対流による流れが、投下した亜鉛インゴット46によって妨げられてしまう。
【0024】
図2中、ポット40内の溶融亜鉛中、実線で示した矢印は、加熱装置47から吐出される溶融亜鉛の流れの向きが、水平方向に対してθ=40°の場合の、流れの大まかなようすを示したものであり、点線で示した矢印は、加熱装置47から吐出される溶融亜鉛の影響によって発生する対流による流れの向きが、水平方向すなわちθ=0°の場合の、流れの大まかなようすを示したものである。ともに、加熱装置47から吐出される溶融亜鉛の影響によって発生する対流による流れが、投下した亜鉛インゴット46によって妨げられてしまうようすを示している。
【0025】
(i)の場合、実際、亜鉛インゴット46を寝せるため、寝せた状態での亜鉛インゴット46の高さの寸法Dを、予め、加熱装置47から吐出される溶融亜鉛の影響によって発生する対流による流れが、投下した亜鉛インゴット46によって妨げられないような寸法に、適宜に調整しておくことができる。例えば、寝せた状態での亜鉛インゴット46の高さの寸法Dを、仮に300mmとし、溶融亜鉛吐出口471の下端から、100mm下方の位置に、亜鉛インゴット46の下端を支えるようにした場合でも、溶融亜鉛吐出口471の下端から、200mm分だけ、亜鉛インゴット46は上方に突き出るが、実質的に、この程度突き出ていても、加熱装置47から吐出される溶融亜鉛の影響によって発生する対流による流れは、投下した亜鉛インゴット46によって妨げられことはない。
【0026】
寝せた状態での亜鉛インゴット46の高さの寸法を、300mmではなく、それよりも低い、例えば100mmとしたような場合でも、もちろん、加熱装置47から吐出される溶融亜鉛の影響によって発生する対流による流れは、投下した亜鉛インゴット46によって妨げられることはない。しかしながら、こういうふうに、寝せた状態での亜鉛インゴット46の高さの寸法を、低くすると、その分、亜鉛インゴット46の長さを長くする必要があるから、その方の条件から自ずと限界はある。
【0027】
逆に、寝せた状態での亜鉛インゴット46の高さの寸法を、300mmではなく、それよりも高い、例えば400mmとしたような場合に、もしも、加熱装置47から吐出される溶融亜鉛の影響によって発生する対流による流れが、投下した亜鉛インゴット46によって妨げられ、沈降して、ドロス49の発生が促進されるようなことがあれば、そのときは、100mm分だけ、亜鉛インゴット46の下端を支える位置を、さらに下方に調整すべく、インゴット受け80の設置位置を、50mm分だけ、下方に修正するなどして調整が可能である。
【0028】
いずれにしても、このあたりの現実性からして、亜鉛インゴット46を、元の形状のまま投下し、インゴット受け80の上に寝せた状態で支える場合、溶融亜鉛吐出口471の下端から、100mm以上、下方の位置に、亜鉛インゴット46の下端を支えるようにすることによって、加熱装置47から吐出される溶融亜鉛の影響によって発生する対流による流れが、投下した亜鉛インゴット46によって妨げられないようにすることができる。
【0029】
(ii)の場合も、把持した部分より下側の亜鉛インゴット46の部分が溶解し終わった段階の、図1(b)でいえば、残余の亜鉛インゴット46の部分の高さの寸法Hを、把持する、という目的上、100mm確保すれば十分であり、あるいは、余裕をみて300mm確保したというような場合でも、前述の(i)の場合と同じ理由により、溶融亜鉛吐出口471の下端から、100mm以上、下方の位置に、亜鉛インゴット46の下端を支えるようにすることによって、加熱装置47から吐出される溶融亜鉛の影響によって発生する対流による流れが、投下した亜鉛インゴット46によって妨げられないようにすることができる。
【0030】
亜鉛インゴット46の下端を支えるようにする位置を、加熱装置47の溶融亜鉛吐出口471の下端から下方に、500mm以内、とする理由は、それよりも下方に、亜鉛インゴット46の下端を支えるようにすると、亜鉛インゴット46がポット40の底に近づくため、低温の熱源となり、周辺でドロスが発生してしまうからである。
図3に示すように、ポット40内の溶融亜鉛中、実線で示した矢印は、加熱装置47から吐出される溶融亜鉛の影響によって発生する対流による流れの向きが、水平方向に対してθ=40°の場合の、流れの大まかなようすを示したものであり、点線で示した矢印は、加熱装置47から吐出される溶融亜鉛の影響によって発生する対流による流れの向きが、水平方向すなわちθ=0°の場合の、流れの大まかなようすを示したものである。ともに、加熱装置47の溶融亜鉛吐出口471の下端から下方に、500mmの位置に流れが戻ってきており、このあたりの高さまで、加熱された溶融亜鉛の影響が及ぶことが推定できる。
【実施例】
【0031】
実施例1(本発明の請求項1に関する):
実際、図4に示すように、亜鉛インゴット46の下端を支えるようにする位置を、加熱装置47の溶融亜鉛吐出口471の下端から下方に、d(mm)とし、dを変化させた場合に、亜鉛インゴット46を200本投下し、一週間(7日)鋼帯の溶融亜鉛めっきの操業をしたときのドロスの堆積量(ポット40の底からの高さ)は、θ=40°の場合も、θ=0°の場合も、ともに、d=500mmを境に、それより大きくなると、急激に大きくなることがわかる。このことより、亜鉛インゴット46の下端を支えるようにする位置を、加熱装置47の溶融亜鉛吐出口471の下端から下方に、500mm以内、とすれば、ドロス49の堆積を抑制できることがわかる。
【0032】
ちなみに、図4は、図1(a)のタイプの溶融亜鉛めっき装置で操業した場合の実験結果であり、他の条件および結果は、以下に述べる通りである。
ポット40内の溶融亜鉛の平均温度は460℃、ポット40の底から50mmの高さの位置の溶融亜鉛の温度は458℃、誘導加熱装置47より上の部分の平均温度は462℃、インゴット受け80は、水平面に投射した場合、800mm×800mmで、空隙はなかった。亜鉛インゴット46の外形寸法は1200mmH×400mmW×300mmDで、爪によりくぼみを掴んで溶融亜鉛中に浸漬している。亜鉛インゴット46の溶融亜鉛中に浸漬している部分が溶けて、高さ寸法が100mmになった時点で爪が溶融亜鉛の浴面直上となったため、ここで爪を離して亜鉛インゴット46を落下させ、インゴット受け80で一旦受けた。この後、ポット40の底から50mmの高さの溶融亜鉛の温度は456℃まで低下したが、亜鉛インゴット46の温度が上昇するに連れて一旦457.5℃まで回復した。その後、亜鉛インゴット46がインゴット受け80の空隙からポット40の底に着地した段階で457℃となったが、亜鉛インゴット46が完全に溶解し、すぐに458℃に回復した。
【0033】
この後も亜鉛インゴット46の投下を繰り返して操業したところ、亜鉛インゴット46を200本投下後の一週間後でも、ポット40の底には、一週間で100mmの高さまでドロス49が堆積し、インゴット受け80上には10mmの高さまでドロス49が堆積した。一週間経過時点で、鋼板に付着したドロスは1個/m2以下であった。
なお、インゴット受け80がない場合(比較例)には、亜鉛インゴット46はポットの底に着地し、このとき、ポットの底から50mmの高さの位置の溶融亜鉛の温度は、453℃まで低下した。これが亜鉛インゴット46の溶解とともに456℃まで回復したが、めっきに必要な亜鉛の供給のため、次の亜鉛インゴット46を浸漬開始した結果、再び453℃まで低下した。この後も亜鉛インゴット46の投下を繰り返して操業したところ、亜鉛インゴット46を200本投下後の一週間後、ポット40の底のドロス49の堆積高さを調べたところ150mmであった。また、鋼板へのドロスの付着も直径0.2mm以上のものが20個/m2と、インゴット受け80がある場合に比較して格段に多かった。
【0034】
ここで、話は変わり、本発明の溶融亜鉛めっき装置をどのように用いるか、そして、本発明の溶融亜鉛めっき装置は、どのような作用により、先述の課題を解決できるか、について、次に説明する。
特許文献1に記載のごとく、
(i)ポット40内に常温の亜鉛インゴット46を投下するとともに、亜鉛インゴット46の投下位置直下でかつ、ポット40付設の加熱装置47からの溶融亜鉛の吐出口下端付近に、亜鉛インゴット46を寝せた状態で支えることができる形状の、インゴット受け80を設け、450℃内外の溶融亜鉛から受ける熱で、徐々に亜鉛インゴット46を溶解させる(図1(a))か、
あるいは、特許文献3、4に記載のごとく、
(ii)亜鉛インゴット46を下部だけ溶融亜鉛中に浸漬させ、残余の亜鉛インゴット46の部分を溶融亜鉛外で把持しておき、その把持した部分より下側の亜鉛インゴット46の部分が溶解し終わると、残余の亜鉛インゴット46の部分を、ポット40内の溶融亜鉛に投下してしまい、インゴット受け80の上に立てた状態で、450℃内外の溶融亜鉛から受ける熱で、徐々に亜鉛インゴット46を溶解させる(図1(b))ようにする。
【0035】
ここまでは、従来の特許文献1、3、4などと一部共通している。
本発明の溶融亜鉛めっき装置は、特許文献4のように、爪を用いて亜鉛インゴット46を掴んでおき、溶融亜鉛を満たしたポット40中に溶解する場合であっても、爪を開放して亜鉛インゴット46を投下したときに、ポット40の底まで達せずに、インゴット受け80に支えられる。これにより、ポット40の底近くの溶融亜鉛の温度低下およびドロスの発生を抑制できる。
【0036】
本発明の溶融亜鉛めっき装置は、また、特許文献3のような積極的な流動による溶融亜鉛の温度低下抑制手段をとらないため、当該インゴット受け80上の亜鉛インゴット46近傍の溶融亜鉛については、その温度低下は避けられないものの、ポット40内に不可避的に発生する対流や熱拡散により、ポット40内全体の溶融亜鉛の温度低下としては抑制され、ポット40の底に直接亜鉛インゴット46が着地した場合に比較して、ドロス49の生成も少なくなる。また、発生したドロス49も、堆積する前に拡散、再溶解する場合があるため、めっきすべき金属板に品質上の悪影響を与える可能性も小さくなる。
【0037】
実施例2(本発明の請求項2に関する):
ところで、インゴット受け80は、平板状でもよいが、先述の図1に示すように、孔(空隙)を設けてもよい。ポット40内の対流による溶融亜鉛の流動を促進するためである。インゴット受け80を水平面に投射した形状の例を、いくつか、図5に示すが、ここに挙げた例以外の形状であってもよい。
【0038】
(2)の本発明の溶融亜鉛めっき装置は、インゴット受け80が、亜鉛インゴット46の下端の一部を支えるものであり、その一部の、水平面への投射面積が、前記亜鉛インゴットの、水平面への投射面積に対し、35%以上を占める。
図5中の(a)(b)(c)(d)いすれに示すタイプのインゴット受け80を用いても、亜鉛インゴット46の下端の一部を支える、その一部の、水平面への投射面積が、前記亜鉛インゴットの、水平面への投射面積に対し、占める比率αが、35%を下回ると、完全に溶融するに至る前に亜鉛インゴット46が空隙をすり抜けてポット40の底に着地してしまう結果、図6に示すように、一週間(7日)鋼帯の溶融亜鉛めっきの操業をしたときのドロスの堆積量(ポット40の底からの高さ)が、若干増える傾向にある。
【0039】
一つの例を示すと、インゴット受け80に空隙を設けること以外、実施例1と同じ条件で、インゴット受け80を水平面に投射した場合の全体的な大きさを変えずに、空隙率を44%として操業したところ、亜鉛インゴット46を200本投下後の一週間後、ポット40の底のドロス49の堆積高さを調べたところ90mmであった。また、鋼板へのドロスの付着個数も0.6個/m2まで減少した。
【0040】
空隙をすり抜けるまでに小さくなった亜鉛インゴット46は、ポット40の底に着地することは避けられないが、インゴット受け80で支えられていた間に温度が上がっているため、αが、35%を下回ると、ドロスの堆積量が、若干増える傾向にあるとはいえ、ポット40の底に着地した際にドロス49を発生させる作用は、ある程度は軽減でき、ドロスが発生、堆積するのを、抑制する、という本発明の効果は得られる。
【0041】
実施例3(本発明の請求項3に関する):
また、(3)の本発明のように、インゴット受け80には、亜鉛インゴット46の下端を支えたときに、亜鉛インゴット46の側方に仕切壁81を設けるようにしてもよい。この仕切壁81は、特に、図1(a)のタイプのもののように、(i)亜鉛インゴット46を、元の形状のまま投下し、インゴット受け80の上に寝せた状態で支える場合、投下した亜鉛インゴット46をブロックしなければならない事情があることから、インゴット受け80と完全に密着一体化させたものでもよいが、図7に示すように、溶融亜鉛の流れが通過できるように、インゴット受け80とは別に設置してもよい。投下した亜鉛インゴット46をブロックできる限度において、図1(a)のタイプのもののように、(i)亜鉛インゴット46を、元の形状のまま投下し、インゴット受け80の上に寝せた状態で支える場合であっても、もちろん、インゴット受け80とは別に設置してもよい。
【0042】
一つの例を示すと、インゴット受け80に空隙を設けること以外、実施例1と同じ条件で、図7に示すような、仕切壁81を設けた場合、空隙率を25%まで低下させた場合でも、亜鉛インゴット46を200本投下後の一週間後、ポット40の底のドロス49の堆積高さを調べたところ100mmに抑えることができた(図10)。鋼板へのドロスの付着個数も0.6個/m2であった。溶融亜鉛の流れがスムーズになったことによるものと推定される。
【0043】
なお、本発明では、仕切壁81の上端は、特許文献1のものとは異なり、つながっている。これにより、亜鉛インゴット46の投下位置直下の領域と、それ以外の領域とで、溶融亜鉛が行き来できるようになっている。
実施例4(本発明の請求項4に関する):
さらに、(4)の本発明のように、仕切壁81は、インゴット受け80とは別に設置し、図8に示すように、仕切壁81は、亜鉛インゴット46の下端に相当する位置から、100mm以上、上方の位置に、その下端が位置するものとするのが好ましい。
【0044】
一つの例を示すと、インゴット受け80に空隙を設けること以外、実施例1と同じ条件で、図8に示すような、仕切壁81を設け、仕切壁81は、亜鉛インゴット46の下端に相当する位置から、100mm上方の位置に、その下端が位置するものとした場合、空隙率を25%まで低下させた場合でも、亜鉛インゴット46を200本投下後の一週間後、ポット40の底のドロス49の堆積高さを調べたところ90mmに抑えることができた(図10)。鋼板へのドロスの付着個数も0.6個/m2であった。
【0045】
実施例5(本発明の請求項5に関する):
あるいは、別な形態として、図9に示すように、インゴット受け80のさらに下方に、平板82を設けるようなものも考えられる。投下初期の亜鉛インゴット46がまだ十分に加熱されていない時期に低温の熱源になって、ドロスが発生し、インゴット受け80の上にドロスが堆積することがあるが、図1(a)のタイプのもののように、(i)亜鉛インゴット46を、元の形状のまま投下する場合、このような形態とすれば、衝撃により、空隙からドロスが落下し、溶融亜鉛中に浮遊し、通帯される金属帯Sに付着し、品質上の欠陥となるのを抑制できる。
【0046】
実施例6(本発明の請求項5に関する):
以上の実施例1ないし5のいずれの形態の溶融亜鉛めっき装置であっても、例えば、図11に示すような、鋼帯の連続溶融亜鉛めっきライン100中のポット40として適用すれば、通帯される鋼帯Sに付着し、品質上の欠陥となるのを効果的に抑制できる。
鋼帯の連続溶融亜鉛めっきのみならず、あらゆる材質の金属帯の溶融亜鉛めっきにも、同様なことが言える。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一つの実施の形態を示す図である。
【図2】比較例を示す図である。
【図3】本発明の作用を示す図である。
【図4】本発明の効果を示す図である。
【図5】本発明に用いるインゴット受けを水平面に投射した形状の例を示す図である。
【図6】本発明に用いるインゴット受けを水平面に投射した形状の違いによる、効果の違いを示す図である。
【図7】本発明のさらに別な実施の形態を示す図である。
【図8】本発明のさらにまた別な実施の形態を示す図である。
【図9】本発明のさらにまた別な実施の形態を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態の違いによる、効果の違いを示す図である。
【図11】従来技術を示す図である。
【図12】従来技術を示す図である。
【図13】従来技術を示す図である。
【図14】従来技術を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
10 ペイオフリール
20 溶接機
30 加熱帯
40 ポット
41 スナウト
42 シンクロール
43 反り矯正ロール
44 ガスワイピング装置
45 ワイピングロール
46 亜鉛インゴット
47 加熱装置
471 溶融亜鉛吐出口
48 誘導加熱用コイル
49 ドロス
491 支持板
50 テンションリール
60 切断機
70 合金化炉
80 インゴット受け
81 仕切壁
82 平板
100 連続溶融亜鉛めっきライン
S 鋼帯
G 気体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融亜鉛を満たしたポットに鋼板を浸漬させてめっきする溶融亜鉛めっき装置であって、
亜鉛インゴットの投下位置直下でかつ、
前記ポット付設の加熱装置の溶融亜鉛吐出口の下端から、100mm以上500mm以内、下方の位置に、
前記亜鉛インゴットの下端を支えることができる形状をした、
インゴット受けを設けた
ことを特徴とする溶融亜鉛めっき装置。
【請求項2】
前記インゴット受けは、前記亜鉛インゴットの下端の一部を支えるものであり、
その一部の、水平面への投射面積は、前記亜鉛インゴットの、水平面への投射面積に対し、35%以上を占める
ことを特徴とする請求項1に記載の溶融亜鉛めっき装置。
【請求項3】
前記インゴット受けに、前記亜鉛インゴットの下端を支えたときに、
前記亜鉛インゴットの側方に
仕切壁を設けた
ことを特徴とする請求項1または2に記載の溶融亜鉛めっき装置。
【請求項4】
前記仕切壁は、
前記インゴットの下端に相当する位置から、100mm以上、上方の位置に、
その下端が位置するものである
ことを特徴とする請求項3に記載の溶融亜鉛めっき装置。
【請求項5】
前記インゴット受けのさらに下方に、平板を設けた
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の溶融亜鉛めっき装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の溶融亜鉛めっき装置を用いた
溶融亜鉛めっき金属帯の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−241570(P2006−241570A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−62276(P2005−62276)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】