説明

溶融亜鉛系めっき鋼板のパルスMAG溶接用銅めっきソリッドワイヤ

【課題】溶融亜鉛系めっき鋼板のパルスMAG溶接において、アークが安定して溶滴の移行が安定かつ規則的に行われビード形状が良好で、ピットやブローホールなどの気孔の発生およびスパッタ発生量が極めて少なく、アンダーカットや溶融金属の垂れの生じない銅めっきソリッドワイヤを提供する。
【解決手段】C:0.02〜0.12%、Si:0.25〜1.20%、Mn:0.4〜1.5%、Nb:0.1〜1.2%、Al:0.002〜0.020%を含有し、銅めっきを厚さ:0.3〜1.1μm有し、かつ、ワイヤ表面にワイヤ10kg当たり常温で液体の潤滑油を0.3〜1.5gおよびカリウムを0.004〜0.25g有し、さらに好ましくはSi+Mn+2Nbを2.2〜4.6%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融亜鉛系めっき鋼板のパルスMAG溶接用銅めっきソリッドワイヤに関し、特に高速溶接においてもアークが安定してスパッタ発生量が少なく、ピットやブローホールなどの気孔欠陥およびアンダーカットや溶融金属の垂れの発生がなく良好なビード形状が得られる溶融亜鉛系めっき鋼板のパルスMAG溶接用銅めっきソリッドワイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ソリッドワイヤを用いたガスシールドアーク溶接方法は高能率であり、機械的性能の良好な溶接金属と良好なビード形状が得られることから薄板の溶接に広く適用されている。またスパッタ発生量の低減および高速溶接性確保の面から、ArガスにCOを混合、更にはOガスを混合させたArを主成分とするシールドガスを使用したパルスMAG溶接方法が近年増加している。これらの溶接は生産性の向上から高速度で高電流の溶接条件により施工され、良好な溶接ビードを形成し健全な溶接継手を作製している。
【0003】
パルスMAG溶接とは、パルス電源により平均溶接電流より高電流となるピーク電流と平均電流より低電流としたベース電流を周期的に付加する溶接方法である。このようにしてピーク電流期間でワイヤを溶融しベース電流期間で溶滴を溶融池に移行させることにより、平均のアーク電圧が低い場合でも溶滴が溶融池と短絡することなく溶滴を移行させることができる。パルスMAG溶接においては、ピーク電流、ピーク電圧、ピーク時間の積からなるワイヤの溶融エネルギーを適正にすることにより、ワイヤ送給速度に応じて1回のパルスピーク電流時に1個の溶滴を生成させ、ベース電流期間に溶滴を移行させる。このような1パルス−1ドロップ移行となるパルス条件により、溶滴はスムーズに溶融池に移行しスパッタ発生量が低減される。
【0004】
しかし、耐食性を向上させる目的で亜鉛や亜鉛合金がめっきされた亜鉛系めっき鋼板の溶接では、パルスMAG溶接においても溶接部近傍の亜鉛が蒸発してアークが不安定になる。特に溶融亜鉛めっき鋼板は電気亜鉛めっき鋼板よりもめっき層が厚いためこの傾向が著しい。このため溶滴移行時期がベース電流期間およびピーク電流期間に不連続に発生することになり、溶滴移行はスムーズに行われることがなくスパッタとして飛散することになる。
【0005】
また図1(a)および(b)に示すように、特に薄鋼板の亜鉛系めっき鋼板の上板1と下板2が密着した重ね継手部の水平すみ肉溶接の場合は、亜鉛蒸気が溶接金属3中に残存しピット4やブローホール5などの気孔が発生しやすくなるという問題がある。
【0006】
このような背景から、ピットやブローホールなどの気孔およびスパッタ発生量の少ない亜鉛系めっき鋼板のパルスMAG溶接用ワイヤとして、特開平1−309796号公報(特許文献1)にはBiを添加した技術、特開平4−135088号公報(特許文献2)にはSiとMnの和と比を限定した技術および特開平5−329682号公報(特許文献3)には、TiおよびNbを添加した技術の開示がある。また、亜鉛系めっき鋼板のパルスMAG溶接方法として特開平8−309533号公報(特許文献4)には、パルス条件とともに単位時間当たりの1パルス1短絡溶滴移行が行われたパルス数と単位時間当たりのパルス回数の比を限定した技術の開示がある。しかし、これらの従来技術は、耐気孔性および低スパッタ化には多少の効果はあるが、アークが不安定となり溶滴移行がスムーズに行われず、依然としてスパッタが発生しやすいものであった。
【0007】
また、図2(a)、(b)、(c)に薄鋼板の重ね継手部の横向姿勢溶接においてギャップ6がある場合のビード形成状態の例を示す。図中7は前板、8は後板である。図2(a)は、アンダーカットや溶融金属の垂れがなく良好な溶接金属3が得られた例を示す。図4(b)はアンダーカット9が生じた例、図4(c)は前板7側に溶融金属の垂れ10が生じた例を示す。前述の従来技術においては、図2(b)、(c)に示すような薄鋼板の重ね継手部の横向姿勢溶接においてギャップがある場合アンダーカットや溶融金属の垂れが生じ易いという問題もある。
【特許文献1】特開平1−309796号公報
【特許文献2】特開平4−135088号公報
【特許文献3】特開平5−329682号公報
【特許文献4】特開平8−309533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、溶融亜鉛系めっき鋼板のパルスMAG溶接において、アークが安定して溶滴の移行が安定かつ規則的に行われビード形状が良好で、ピットやブローホールなどの気孔の発生およびスパッタ発生量が極めて少なく、アンダーカットや溶融金属の垂れの生じない溶融亜鉛系めっき鋼板のパルスMAG溶接用銅めっきソリッドワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は、溶融亜鉛系めっき鋼板のパルスMAG溶接用銅めっきソリッドワイヤにおいて、C:0.02〜0.12質量%、Si:0.25〜1.20質量%、Mn:0.4〜1.5質量%、Nb:0.1〜1.2質量%、Al:0.002〜0.020質量%を含有し、銅めっきを厚さ:0.3〜1.1μm有し、かつ、ワイヤ表面にワイヤ10kg当たりの分量で、常温で液体の潤滑油を0.3〜1.5gおよびカリウムを0.004〜0.25g有し、その他はP:0.025質量%以下、S:0.025質量%以下、O:0.010質量%以下および不可避不純物からなることを特徴とし、さらに好ましくはSi、MnおよびNbがSi+Mn+2Nbで2.2〜4.6質量%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の溶融亜鉛系めっき鋼板のパルスMAG溶接用銅めっきソリッドワイヤによれば、アークが安定して溶滴の移行が安定かつ規則的に行われ、ピットやブローホールなどの気孔の発生およびスパッタ発生量が極めて少なく、アンダーカットやビードの垂れが生じないなど溶接能率が優れた亜鉛系めっき鋼板のパルスMAG溶接が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の溶融亜鉛系めっき鋼板のパルスMAG溶接用銅めっきソリッドワイヤについて詳細に説明する。
本発明のソリッドワイヤが溶接対象とする材料は溶融亜鉛系めっき鋼板であるが、これは電気亜鉛めっき鋼板よりめっき層が厚いためピットやブローホールなどの気孔およびスパッタ発生の問題が顕著なためである。溶融亜鉛系めっき鋼板にはたとえば亜鉛に数%のAlを含有するといった亜鉛系の合金めっきの場合も含まれる。また一般にガルバニール鋼板と呼ばれる合金化溶融亜鉛めっき鋼板も含まれ、これは溶融亜鉛めっき後に熱処理をして亜鉛めっきを鉄を約10%含む合金層に転化したものであって、塗装密着性が優れるなどの特徴を有する。
【0012】
本発明者らは上記の問題点を解決するために、各種成分およびワイヤ表面状態の異なるワイヤを試作して、溶融亜鉛系めっき鋼板をパルス条件で1.5m/min以上の高速度の溶接を行い、アーク状態、ビード形状およびスパッタ発生状況につき詳細に調査した結果、次の知見を得た。
【0013】
(1)ワイヤ組成のCおよびAl量、ワイヤ表面の銅めっき量、潤滑油量およびカリウム量を調整することによって、亜鉛が蒸発する雰囲気においてもアークが安定してスパッタ発生量が少なくなる。
(2)ワイヤ組成のNb量およびワイヤ表面の潤滑油量の調整によって、特に重ね継手の水平すみ肉溶接におけるピットやブローホールなどの気孔生成を抑制する。
(3)ワイヤ組成のC、Si、Mn、NbおよびAl量、ワイヤ表面のカリウム量の調整によって、特に重ね継手部の横向姿勢溶接において良好なビード形状が得られる。
(4)ワイヤ表面にカリウムを有することによって、均一で小さい溶滴にするので1パルス−1ドロップの移行を乱すことがなくアークがさらに安定してスパッタ発生量が極めて少なくなるとともにアンダーカットが生じにくくなる。また、溶滴が小さいのでピーク電圧の時間を短くすることができることから、さらに高速度の溶接が可能となる。
【0014】
以下、本発明におけるワイヤ組成およびワイヤ表面の潤滑油およびカリウムの限定理由について説明する。
[C:0.02〜0.12質量%]
Cはアークを安定化し溶滴を細粒化する作用があり、0.02質量%(以下、%という)未満では溶滴が大きくなってアークが不安定になってスパッタ発生量が多く、さらに重ね継手部の横向姿勢溶接においてアンダーカットが生じる。一方、0.12%を超えると溶融金属の粘性が劣り、特に重ね継手部の横向姿勢溶接において溶融金属が垂れてビード形状が不良となる。また、スパッタ発生量が増加するばかりでなく、溶接金属を著しく硬化させ耐割れ性が劣化する。
【0015】
[Si:0.25〜1.20%]
Siは溶接金属の主脱酸剤として不可欠であるとともに、ワイヤの電気抵抗を増大させてワイヤの溶融量を増加させ、更に溶融金属の粘度および表面張力を増大させる効果が大きい元素である。これによって重ね継手部の横向姿勢溶接においても広幅で垂れのない溶接ビードを形成できる。しかし、0.25%未満では上記効果が得られない。一方、1.20%を超えると溶融金属の表面張力が過度に上昇するため溶融金属が高速度の溶接速度に追従できず、ハンピングビードとなり易い。
【0016】
[Mn:0.4〜1.5%]
MnはSiと共に脱酸剤として作用する他、溶融金属の粘度および表面張力を増大させる効果がある。0.4%未満では溶融金属の粘度および表面張力が低下することから、重ね継手部の横向姿勢溶接において溶融金属が垂れてビード形状が不良となる。一方、Mnが1.5%を超えると、溶融金属の粘度および表面張力が増加し過ぎて広幅のビードが得られない。
【0017】
[Nb:0.1〜1.2%]
Nbは、窒素を固定して高速溶接におけるシールド不良や亜鉛蒸気によるピットやブローホールなどの気孔生成を抑制する。また、ビード形状を改善する作用がある。Nbが0.1%未満では特に重ね継手の水平すみ肉溶接においてピットやブローホールが生じ易くなる。一方、Nbが1.2%を超えると溶融金属の粘度および表面張力が低下することから、重ね継手部の横向姿勢溶接において溶融金属が垂れてビード形状が不良となる。
【0018】
[Si+Mn+2Nb:2.2〜4.6%]
Si、MnおよびNbはそれぞれ前記の範囲内で含有するとともに、さらに好ましくはSi+Mn+2Nbで2.2〜4.6%とする。Si+Mn+2Nbが2.2%未満であると溶融金属の粘度および表面張力が低下することから、重ね継手部の横向姿勢溶接において溶融金属が垂れてビード形状が不良となり易い。一方、Si+Mn+2Nbが4.6%を超えると、溶接金属の硬さが急激に増加し高温割れが生じ易くなる。
【0019】
[Al:0.002〜0.020%]
Alは高速溶接時のアークを安定させスパッタ発生量を少なくする。0.002%未満であるとアークが不安定となりスパッタ発生量が多く、さらに重ね継手部の横向姿勢溶接においてアンダーカットが生じる。一方、0.020%を超えると、溶融金属の粘度および表面張力が低下することから、重ね継手部の横向姿勢溶接において溶融金属が垂れてビード形状が不良となる。
【0020】
[銅めっき厚さ:0.3〜1.1μm]
ワイヤ表面の銅めっきは、ワイヤとチップ間の通電性を良好にしてアークを安定にする。銅めっき厚さが0.3μm未満であると、ワイヤとチップ間の通電性が部分的に不均一となりアーク長の変動から、アークが不安定になってスパッタ発生量が多く、さらに重ね継手部の横向姿勢溶接においてアンダーカットが生じる。一方、ワイヤ表面の銅めっき厚さが1.1μmを超えると、溶接金属の銅含有量が多くなって耐割れ性が劣化する。
【0021】
[ワイヤ表面に常温で液体の潤滑油:ワイヤ10kg当たり0.3〜1.5g]
常温で液体である潤滑油はワイヤ表面に皮膜を形成し、ワイヤ送給時にワイヤ送給速度を一定にしてアークを安定にする。また、後述するカリウムをワイヤ表面に均一に分散することができる。潤滑油がワイヤ10kg当たり0.3g(以下、g/10kgWという)未満であると、カリウムをワイヤ表面に均一に分散することができず、溶滴の大きさが均一にならず1パルス−1ドロップの移行を乱してスパッタ発生量が多くなる。一方、1.5g/10kgWを超えると、溶接部にピットやブローホールが生じる。
【0022】
潤滑油は、動植物油、鉱物油あるいは合成油の何れでもよい。動植物油としてはパーム油、菜種油、ひまし油、豚油、牛油、魚油等を、鉱物油としてはマシン油、タービン油、スピンドル油等を用いることができる。合成油としては炭化水素系、エステル系、ポリグリコール系、ポリフェノール系、シリコーン系、フロロカーボン系を用いることができる。
【0023】
[カリウム:0.004〜0.25g/10kgW]
ワイヤ表面のカリウムは、均一で小さい溶滴にするので1パルス−1ドロップの移行を乱すことがなくアークが安定してスパッタ発生量が極めて少なくなる。すなわち、ピーク時間を短くすることができるので高速度の溶接が可能となり、アンダーカットや溶融金属の垂れがなくビード形状が良好となる。カリウムが0.004g/10kgW未満であるとその効果がなく、溶滴が大きく不揃いとなって1パルス−1ドロップの移行を乱してアークが不安定となりスパッタ発生量も多く、さらに重ね継手部の横向姿勢溶接においてアンダーカットが生じる。一方、0.25g/10kgWを超えるとビード形状が凹状となり、重ね継手部の横向姿勢溶接において溶融金属が垂れてビード形状が不良となる。
【0024】
カリウムは、ステアリン酸カリウム、炭酸カリウム、クエン酸カリウム等の化合物が使用される。カリウムはこれらの微粉末を前記潤滑油中に混合すればワイヤ製造時の仕上げ伸線後に塗布することによってワイヤ表面に均一に分散するので好ましい。また、潤滑油中にイオン化したカリウムを添加したものを用いることもできる。
【0025】
Sはビード止端部のなじみを良好にするので0.005%以上含有することが好ましい。しかし、SおよびPがそれぞれ0.025%を超えると溶接金属の耐割れ性が劣化する。
また、Oが0.010%を超えると、ワイヤ製造時にワイヤ表面に亀裂が生じ、溶接時にワイヤ表面の銅めっきが剥離してチップ詰まりが生じ易くなる。したがって、Oは0.010%以下とする。
以下、実施例により本発明の効果を具体的に説明する。
【実施例】
【0026】
表1に示す各種成分のワイヤ表面に銅めっきを施し、各種潤滑油およびカリウムを塗布したワイヤ径1.2mmのソリッドワイヤを試作した。
【0027】
【表1】

【0028】
JIS G3131 SPHCの板厚2.6mm、長さ500mmで亜鉛めっきの目付け量45g/mの合金化溶融亜鉛めっき鋼板を、図3に示すように上板1と下板2を密着して重ね継手とし、表2に示すAの溶接条件で水平すみ肉溶接した。なお、溶接電源は溶接電流(ピーク電流とベース電流の平均的な電流)増減のためのワイヤ送給速度の調整と、ピーク電流とピーク時間を設定することができ、平均電流値によって数十Hzないし300Hzのパルス周波数となるものであるが、各試作ワイヤとも1パルス1ドロップ移行のパルスMAG溶接ができるようにパルスピーク電流値とパルスピーク時間を設定した。溶接は図3に示すように、ワイヤ狙い位置12は重ね継手のコーナー部、トーチ13の角度θは60°で行なった。
【0029】
また、図4に示すようにスペーサ11を後板8と前板7に挟んでギャップ6の間隔Gを2.5mmとした重ね継手横向姿勢とし、表2に示す溶接条件Bで溶接した。溶接は図4に示すように、ワイヤ狙い位置12は前板7側の鋼板板厚の中心、トーチ13の角度θは30°で行なった。なお、各試作ワイヤとも1パルス−1ドロップとなるようにパルスピーク電流値とパルスピーク時間を設定した。
【0030】
【表2】

【0031】
各ワイヤでアークの安定性、気孔発生量、ビード形状およびスパッタ発生量を調査した。ピットやブローホールなどの気孔の発生量は、図3に示す重ね継手水平すみ肉溶接で調査した。ピット発生数は外観調査、ブローホールの発生状況はX線透過試験を行って発生数を調べた。ピット発生数3個以下およびブローホール発生数が10個以下を良好とした。
【0032】
スパッタ発生量は、銅製の補修箱を用いて、図4に示す重ね継手横向姿勢溶接で5回溶接し、1分間当たりのスパッタ発生量を算出した。これによりスパッタ発生量が1g/min以下を良好とした。アークの安定性およびビード形状は、重ね継手水平すみ肉溶接および重ね継手横向姿勢溶接ともに調査した。それらの結果を表3にまとめて示す。
【0033】
【表3】

【0034】
表1および表3中、ワイヤ記号W1〜W10が本発明例、ワイヤ記号W11〜W20は比較例である。
本発明例であるワイヤ記号W1〜W10は、ワイヤ成分および銅めっき厚さが適正で、ワイヤ表面へ塗布された潤滑油およびカリウムも適正であるので、重ね継手水平すみ肉溶接および横向姿勢溶接ともにアークが安定して溶融金属の垂れやアンダーカットがなくビード形状が良好でピット、ブローホールおよびスパッタ発生量が少なく、高温割れもないなど極めて満足な結果であった。
【0035】
比較例中ワイヤ記号W11は、Cが高いのでスパッタ発生量が多く重ね継手横向姿勢溶接で溶融金属が垂れてビード形状が不良であった。また、クレータ部に高温割れが生じた。
ワイヤ記号W12は、Cが低いので重ね継手水平すみ肉溶接および横向姿勢溶接ともアークが不安定でスパッタ発生量が多かった。また、重ね継手横向姿勢溶接でアンダーカットが発生した。さらに、Si+Mn+2Nbが高いので重ね継手横向姿勢溶接で溶融金属が垂れてビード形状が不良であった。
【0036】
ワイヤ記号W13は、Siが高いので重ね継手水平すみ肉溶接および横向姿勢溶接ともハンピングビードとなった。
ワイヤ記号W14は、ワイヤ表面のカリウムが低いので重ね継手水平すみ肉溶接および横向姿勢溶接ともアークが不安定であった。また、重ね継手横向姿勢溶接でアンダーカットが発生した。さらに、Siが低いので重ね継手横向姿勢溶接で溶融金属が垂れてビード形状が不良であった。
【0037】
ワイヤ記号W15は、Mnが高いので重ね継手水平すみ肉溶接および横向姿勢溶接とも凸ビードとなった。また、Si+Mn+2Nbが高いので重ね継手横向姿勢溶接でクレータ部に高温割れが生じた。
ワイヤ記号W16は、ワイヤ表面へ塗布された潤滑油が多いので重ね継手水平すみ肉溶接でピットおよびブローホールの発生が多くなった。また、Mnが低いので重ね継手横向姿勢溶接で溶融金属が垂れてビード形状が不良であった。
【0038】
ワイヤ記号W17は、ワイヤ表面へ塗布された潤滑油が少ないのでスパッタ発生量が多くなった。また、Nbが高いので重ね継手横向姿勢溶接で溶融金属が垂れてビード形状が不良であった。
ワイヤ記号W18は、Nbが低いので重ね継手水平すみ肉溶接でピットおよびブローホールの発生が多くなった。また、Alが高いので重ね継手横向姿勢溶接で溶融金属が垂れてビード形状が不良であった。
【0039】
ワイヤ記号W19は、Alが低いので重ね継手水平すみ肉溶接および横向姿勢溶接ともアークが不安定でスパッタ発生量が多かった。また、重ね継手横向姿勢溶接でアンダーカットが発生した。さらに、銅めっき厚さが厚いので重ね継手横向姿勢溶接でクレータ部に高温割れが生じた。
【0040】
ワイヤ記号W20は、銅めっき厚さが薄いので重ね継手水平すみ肉溶接および横向姿勢溶接ともアークが不安定でスパッタ発生量が多かった。また、ワイヤ表面のカリウムが高いので重ね継手横向姿勢溶接で溶融金属が垂れてビード形状が不良であった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】重ね継手水平すみ肉溶接において、(a)はピット(b)はブローホール気孔が生じた例を示す図である。
【図2】(a)、(b)、(c)はそれぞれ重ね継手横向姿勢溶接におけるビード形成状態の例を示す図である。
【図3】本発明の実施例に用いた重ね継手水平すみ肉溶接のワイヤ狙い位置を示す図である。
【図4】本発明の実施例に用いた重ね継手横向姿勢肉溶接のワイヤ狙い位置を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1 上板
2 下板
3 溶接金属
4 ピット
5 ブローホール
6 ギャップ
7 前板
8 後板
9 アンダーカット
10 溶融金属の垂れ
11 スペーサ
12 ワイヤ狙い位置
13 トーチ
θ、θ トーチの角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融亜鉛系めっき鋼板のパルスMAG溶接用銅めっきソリッドワイヤにおいて、C:0.02〜0.12質量%、Si:0.25〜1.20質量%、Mn:0.4〜1.5質量%、Nb:0.1〜1.2質量%、Al:0.002〜0.020質量%を含有し、銅めっきを厚さ:0.3〜1.1μm有し、かつ、ワイヤ表面にワイヤ10kg当たりの分量で、常温で液体の潤滑油を0.3〜1.5gおよびカリウムを0.004〜0.25g有し、その他はP:0.025質量%以下、S:0.025質量%以下、O:0.010質量%以下および不可避不純物からなることを特徴とする溶融亜鉛系めっき鋼板のパルスMAG溶接用銅めっきソリッドワイヤ。
【請求項2】
さらにSi、MnおよびNbがSi+Mn+2Nbで2.2〜4.6質量%であることを特徴とする請求項1記載の溶融亜鉛系めっき鋼板のパルスMAG溶接用銅めっきソリッドワイヤ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−229687(P2008−229687A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74454(P2007−74454)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(302040135)日鐵住金溶接工業株式会社 (172)
【Fターム(参考)】