説明

溶融塩電解方法

【課題】溶融塩電解槽の電解操業休止期間中に要するコストの大幅削減を可能とする溶融塩電解方法を提供する。
【解決手段】電解操業途中にその操業を一時休止するにあたり、まず操業を中断して、電解槽内の溶融塩を溶融状態で60重量%以上抜き取る。次いで、電解槽内に残留した溶融塩を凝固させ凝固塩1’とした後に電解槽を保管する。しかる後に再度金属化合物を含有した溶融塩を前記電解槽内に投入し、電解操業を再開する。溶融塩を凝固させた後、又は当該溶融塩を凝固させる前、若しくは当該溶融塩を凝固させる途中から槽内空間にガス供給管19から乾燥ガスを注入して、槽内空間を乾燥ガスで置換する。微加圧状態継続のため、電解槽内を乾燥ガスで置換した後も操業再開までの間の一定期間、乾燥ガスを槽内に補充する。乾燥ガスは露点が−30℃以下である乾燥空気又は窒素ガス、更には比重が空気より大である不活性ガスである

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属マグネシウムの製造等に用いられる溶融塩電解方法に関し、より詳しくは、生産量調整等のための電解槽の稼働停止に要するコストの節減を可能にする溶融塩電解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりスポンジチタンの製造にはクロール法と呼ばれる還元法が使用されている。クロール法によるスポンジチタンの製造では、反応容器内の溶融マグネシウムに四塩化チタンの液体を滴下し、その四塩化チタンをマグネシウムで還元することにより、反応容器内にスポンジチタンを生成する。その際、副生物として塩化マグネシウムが発生する。副生物である塩化マグネシウムは、溶融塩電解法により金属マグネシウムに戻され、クロール法における還元剤として循環使用される。
【0003】
溶融塩電解法による金属マグネシウムの製造では、使用される電解槽は電解室とマグネシウム回収室とに分かれており、操業では塩化マグネシウムを槽内に投入し、電解室での電機分解によりマグネシウムを生成する。電解室で生成したマグネシウムは、溶融塩の対流により、隣接するマグネシウム回収室に運ばれてその室内の溶融塩上に浮上し、逐次回収される。電解室ではマグネシウムの生成と同時に塩素ガスが発生するので、その塩素ガスを室外へ強制的に吸引排出する。
【0004】
このような溶融塩電解法による金属マグネシウムの製造では、電解槽での電流効率(通常CEと呼ばれる)を高めることが、マグネシウムの製造コストを引き下げる上で大きな要因となっている。一方で、この電流効率は電解槽を構成する耐火物の劣化等に伴って経時的に低下する。そして、この電流効率の低下が予め設定したレベルに到達したときが、電解槽の寿命を終えたときとなる。この寿命は通常1〜2年程度といわれており、寿命を終えた電解槽は電解操業を停止し、溶融塩を抜き取った後、解体して再構築される。電解操業開始期における電流効率を高めるために、構築された稼働前の電解槽に対して強制的な乾燥を行う対策は、特許文献1により提示されている。
【0005】
ところで、金属チタニウムといえども商品である以上、市場変動の影響を受け、生産量の調整を余儀なくされ、急激な減産を強いられることがある。この場合は、溶融塩電解槽での金属マグネシウムの電解製造についても減産を強いられ、従来は電解槽内での溶融塩の電気分解を停止すると共に、余寿命が長い場合はその溶融塩を加熱装置で溶融状態に保持する操業休止状態とすることで対応し、余寿命が短い場合は電解槽内の溶融塩を抜き取った後、その電解槽を解体し再構築することで対応してきた。それは、従来の電解槽が使用寿命が終了するまでの連続使用を前提として設計されており、使用寿命が終了するまでの間に一旦、溶融塩を抜き出すと、不可避的に残留する溶融塩が空気中の水分と反応して酸化マグネシウムが生成され、再度、溶融塩を投入しても、酸化マグネシウムが溶融塩の電解操業に数々の悪影響を及ぼすために、電解槽の再使用ができないと考えられていたためである。
【0006】
しかしながら、電解操業休止期間が長くなると溶融塩の保温に莫大がコストがかかり、これが生産調整における大きな問題となっていた。また、使用寿命が終了する前に電解槽を解体し再構築することも大きな経済的損失を招くことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−328450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、溶融塩電解槽の電解操業休止期間中に要するコストの大幅削減を可能とする溶融塩電解方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明者は、溶融塩電解槽の稼働休止期間中に槽内の溶融塩を槽内から槽外へ抜き出したときの問題点について様々な方面から検討を行った。その結果、次のような事実が判明した。電解槽内の溶融塩を槽内から全量抜き出すことは不可能であり、何割かの溶融塩が槽内に不可避的に残留する。溶融塩を抜き出した後も槽内の気密性のために槽内に十分な空気が供給されるわけではない。その間に槽内に残留する溶融塩は凝固してしまう。このため、槽内に残留する溶融塩が空気中の水分と接触することによる酸化マグネシウムの生成は意外に少ない。むしろ、凝固塩である凝固した塩化マグネシウムが休止期間中に時間をかけて水分を吸収し、2水塩、3水塩というように水分量を増やしていく。そして、この水分が、溶融塩を再投入したときに酸化マグネシウムを生成し、その後の操業に悪影響を及ぼす。
【0010】
具体的には、溶融塩中の酸化マグネシウム濃度が上昇すると、第1に、金属マグネシウムの回収効率が低下する。第2に、化学式1に示す反応により、生成したマグネシウムや塩素が再び塩化マグネシウムに戻るという再反応が起きる。第3に、生成された酸化マグネシウムは、電極材である黒鉛(C)と反応し、電極を損耗させる原因になるため、電解操業後期における電流効率を低下させる。これらが、溶融塩中の酸化マグネシウムが電流効率を低下させる要因であり、これによるエネルギーロスは多大である。
【0011】
【化1】

【0012】
これらの事実から、電解槽を稼働休止する際に、溶融塩の抜き取り量を多くし、残留量を少なくしておけば、それに応じて操業再開の際の酸化マグネシウムの生成量も抑制され、操業再開後の酸化マグネシウムによる悪影響も少なくなり、電解槽からの溶融塩の抜き取り量によっては、溶融塩を抜いた状態での稼働休止も可能となることが判明した。そして、この新事実を基礎として、稼働休止に伴う電解効率の低下を抑制する方法についても検討を行ったところ、溶融塩の抜き取り量を多くして残留量を極力少なくすること、電解槽内に残留した溶融塩を速やかに凝固状態とすること、凝固塩を強制的に除去して残留量を更に減らすこと、溶融塩を抜き取った後の電解槽内に乾燥ガスを注入して、凝固塩の水分吸収を抑制することなどの有効性が判明した。
【0013】
本発明の溶融塩電解方法はかかる知見を基礎として完成されたものであり、金属化合物を含有した溶融塩を電気分解することにより溶融金属を得る溶融塩電解方法において、電解操業途中にその操業を休止するに当たり、まず操業を中断して、電解槽内の溶融塩を溶融状態で60重量%以上抜き取り、電解槽内に残留した溶融塩を凝固させた後に電解槽を保管し、しかる後に再度金属化合物を含有した溶融塩を前記電解槽内に投入し、電解操業を再開するものである。
【0014】
ここで注意すべきことは、第1に、電解槽内の溶融塩を完全に抜き取ることはできないが、その抜き取り量は出来るだけ多くすることが、休止期間中の水分吸収量を少なくでき、操業再開時における酸化マグネシウムの生成を抑制する上で重要ということである。具体的には重量%で60%以上抜き取る必要があり、70%以上抜き取るのが更に好ましく、80%以上抜き取るのが最も好ましい。
【0015】
第2に、溶融塩の抜き取り後、槽内に残留する溶融塩は、速やかに凝固させることが必要である。槽内に残留する溶融塩を凝固させることにより、化学式1の反応は実質的に停止し、その反応による酸化マグネシウムの生成が止まり、実質的に水分吸収反応だけになることにより、操業再開時における酸化マグネシウムの生成が抑制される。
【0016】
第3に、電解槽内の溶融塩を凝固させた後、又は当該溶融塩を凝固させる前、若しくは当該溶融塩を凝固させる途中から槽内空間に乾燥ガスを注入するのがよい。これにより電解槽内空間の雰囲気が空気から乾燥ガスに置換され、槽内空間の水分量が減少することにより、操業休止期間中の水分吸収が抑制され、操業再開後の酸化マグネシウムの生成が抑制されて電流効率が上昇する。
【0017】
ここにおける乾燥ガスとしては、水分量の少ないものほどよく、例えば乾燥空気の使用が可能であり、乾燥ガスにおける水分量は、露点で表して−30℃以下が好ましく、−40℃以下が更に好ましく、−50℃以下が最も好ましい。また、乾燥ガスの比重は空気との置換性、槽内滞留性の観点から空気より大きい方が好ましい。そのような乾燥ガスとしては例えばArガス、クリプトンガスなどの不活性ガスがあり、コスト面からArガスが推奨される。なお、比重は空気より若干小さいが、窒素ガスの使用も可能であり、その使用はコスト面では更に有利である。
【0018】
乾燥ガスの注入量は、電解槽の槽内全体を乾燥ガスで置換し且つ槽内を微加圧状態とするために電解槽の残容積以上が好ましく、微加圧置換状態を維持するために置換後も操業再開までの間の一定期間、乾燥ガスを連続的、断続的に補充するのが更に好ましい。乾燥ガスの注入、補充に関連して、電解槽の構造としては、電解槽の槽本体とその上面開口部を閉じる蓋体との間にシール構造を設けるのが、槽内の微加圧状態を維持する観点から好ましい。電解槽の残容積とは、電解槽の設計容量から槽内に残留する溶融塩の体積を差し引いた値である。
【0019】
乾燥ガスの補充量及び補充日数は、微加圧状態維持のために補充量については1.5m3 /日以上が好ましく、補充日数については3日間以上が好ましい。
【0020】
溶融塩を電解槽内から完全に抜き取ることは困難であるが、電解槽内に残った溶融塩を凝固させてから機械的に除去することにより、溶融塩の残留量、正確には凝固塩の残留量を更に下げることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の溶融塩電解方法は、生産量調整等に伴う溶融塩電解槽の稼働休止期間中に槽内から溶融塩を抜き取ることにより、溶融塩の保温に要するコストが不要となり、電解槽の稼働休止期間における槽管理コストを非常に低く抑制することができる。また、電解槽の稼働再開時以降における電流効率の低下を小さく抑制することができ、電解槽の稼働休止がその後の生産コスト上昇に与える影響、及び電解槽の稼働休止が電解槽の寿命に与える影響を可及的に小さく抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】マルチポーラ型電解槽の縦断側面図である。
【図2】図1のA−A線矢示図で、電解室の正面図である。
【図3】溶融塩電解槽の稼働休止期における操作を示す電解槽の縦断側面図である。
【図4】溶融塩電解槽の稼働休止期における別の操作を示す電解槽の縦断側面図である。
【図5】電流効率の経時的変化を示すグラフで、溶融塩電解槽の稼働休止期が電流効率に与える影響を表す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の実施形態を説明する。本実施形態の溶融塩電解方法は、金属マグネシウムの製造に使用されるものであり、電解槽として高効率なマルチポーラ型電解槽を使用している。
【0024】
マルチポーラ型電解槽は、図1及び図2に示すように、金属塩化物であるMgCl2 を含む溶融塩1を内部に収容する槽本体2を具備している。槽本体2の内部は、隔壁3によって電解室4とMg回収室5とに分離されており、各室の上面開口部は、槽本体2との間にシール部材を介して槽本体2上に各室に対応して載置された蓋体6,7によりそれぞれ閉止されている。
【0025】
電解室4には、炭素からなる平板状の陽極8と陰極9とが、ロストルレンガ10上で槽幅方向に交互に配置されており、隣接する陽極8と陰極9の間には、同じく炭素からなる平板状の複極11が電流効率向上のために配置されている。陽極8の上部は、通電のために電解室4上の蓋体6を貫通して上方へ突出している。
【0026】
一方、Mg回収室5は、隔壁3に設けた上下2段の開口部12,12を通して電解室4に連通している。Mg回収室5には、底面開放容器からなる浴面レベル調節装置13が溶融塩1に浸漬して設けられている。また、溶融塩1の温度調節器14として熱交換器が浴面レベル調節装置13を取り囲むように設けられている。Mg回収室5を覆う蓋体7には、槽本体2内への溶融塩1の投入や生成したMgの取り出しを目的として円筒状の投入排出管15が設けられている。投入排出管15の上面開口部は、脱着可能な開閉蓋16により開閉される。
【0027】
電解操業では、電解室4内の陽極8と陰極9との間に直流電流が流される。これにより、溶融塩1中のMgCl2 が電気分解し、金属Mgが生成される。また、この電気分解に伴って極間で塩素ガスが発生する。極間で発生した塩素ガスは図示されない排気機構により強制排出される。電解室4で生成された金属Mgは、溶融塩1の循環対流によってMg回収室5に運ばれ、Mg回収室5内の溶融塩1上に浮上してMg層17を形成する。
【0028】
金属Mgの生産量調整のために、電解槽における電解操業を一時的に停止する場合は、第1段階として、電解室4における陽極8と陰極9との間の通電を停止する。この状態で図3に示すように投入排出管15の開閉蓋16を外し、ここから溶融塩吸引管18を挿入し、槽本体2内の溶融塩1を溶融状態のまま出来るだけ多く槽外へ排出する。
【0029】
電解槽からの溶融塩1の排出操作が終わると、図4に示すように、電解槽の底面及び壁面に付着残存する溶融塩1が融点以下に冷却されるまで槽内を自然冷却する。これにより、電解槽の底面及び壁面に付着残存する溶融塩1は凝固塩1′となる。これと前後して、投入排出管15からガス供給管19を挿入し、電解槽内に空気より比重が大きく露点が−30℃以下、好ましくは−50℃以下である乾燥ガス、例えばArガスを注入する。乾燥ガスは、槽内の冷却に使用してもよいし、溶融塩1の冷却後に槽内に注入してもよい。
【0030】
電解槽内に注入される乾燥ガスは空気より比重が大きいため、槽内に底部から順次充満し、これに伴って槽内の空気は投入排出管15などから槽外へ排出される。そして、槽内への注入量を電解槽の容積以上とすることにより、槽内全体が乾燥ガスで置換され且つ微加圧状態とされる。そして、その後も乾燥ガスの注入を継続することにより、槽内を微加圧状態に保つ。これにより、槽内への空気の侵入が阻止されると共に、槽内に残留した凝固塩1′中の水分が放出される。この効果は、乾燥ガスの露点が低いほど、1日当たりの注入量が多いほど、注入日数が多いほど顕著となる。
【0031】
溶融塩電解槽の稼働休止期間中、すなわち電解操業休止期間が終了すると、電解槽内に再度溶融塩1を注入し、槽内を溶融塩1で満たす。注入する溶融塩1は操業休止の際に抜き取った溶融塩1である必要性はなく、金属マグネシウムの電解製造原料である塩化マグネシウムであるならばその出所を問わない。溶融塩1の再投入、溶融温度保持により、槽内に残留していた凝固塩1′は再溶融し、凝固塩1′中の水分が溶融塩1中へ放出されて酸化マグネシウムが生成されるが、凝固塩1′中の残留水分が少なく抑制されているので、酸化マグネシウムの生成量は少なく、その生成による電解効率の低下が小さく抑制される。
【0032】
かくして、本実施形態の溶融塩電解方法においては、溶融塩電解槽の稼働休止期間中に槽内の溶融塩1を抜き出し、残留した溶融塩1について凝固状態で放置するので、溶融塩1を溶融状態に維持するためのコストが不要となる。槽内に溶融塩1が残留するにもかかわらず、稼働休止課期間が終了した後の稼働再開時の電流効率の低下を小さく抑制することができる。このため、電解槽の構築初期に生産量調整等のために稼働を休止させざるを得ない場合にあっても経済的に対処することが可能となる。
【実施例】
【0033】
図1及び図2に示すマルチポーラ型電解槽を使用して塩化マグネシウムから金属マグネシウムを製造するための電解操業において、各種の比較試験を行い、本発明の有効性を調査した。
【0034】
第1の比較試験として、構築から8カ月経過した電解槽において、電解操業を休止するに当たり、槽内の溶融塩を定格投入量の40%分、60%分、80%分だけそれぞれ槽外へ抜き出し回収した。溶融塩回収後、露点が−70℃の乾燥したArガスを槽内容量の1.2倍分槽内に注入した。
【0035】
操業休止開始から6カ月経過後に溶融塩を再投入して操業を再開した。操業再開時の電流効率を、操業休止直前の電流効率を100としたときの比率〔これをCE保持率(%)と呼ぶ〕にて表1に示す。ちなみに、電解槽の操業再開後の余寿命や経済性、実用性などの観点から、CE保持率としては60%以上が要求され、これが大きいほど余寿命も長くなる。
【0036】
【表1】

【0037】
比較例は電解操業を休止するにあたって溶融塩を40%抜き出し回収した場合である。溶融塩回収後に乾燥ガスを槽内に充満させたにもかかわらず、操業再開時におけるCE保持率は60%に達しない。したがって、電解槽の再使用は困難である。溶融塩を60%抜き出し回収した実施例1では、操業再開時におけるCE保持率は80%に上昇し、電解槽の継続使用が可能である。溶融塩を80%抜き出し回収した実施例2では、操業再開時におけるCE保持率は更に上昇し、電解槽の余寿命が更に長くなった。操業休止期間中に要したコストは、各例とも、槽内に溶融塩を保持する従来例と比べて大幅に改善された。
【0038】
第2の比較試験として、溶融塩回収後に電解槽を大気中常圧にて保管し稼働を再開した場合のCE保持率を、溶融塩の抜き出し率が60%、70%、80%の場合について調査した。結果を表1に実施例3〜5として示す。
【0039】
実施例3は溶融塩の抜き出し率が60%の場合である。溶融塩回収後に電解槽を大気中常圧にて保管したにもかかわらず、CE保持率は60%を超えている。実施例4、5では抜き出し率が70%、80%と増えており、これに伴って保持率も大きくなっている。
【0040】
第3の比較試験として、操業休止開始時の溶融塩抜き出し回収率を80%とした場合について、抜き取り後の操作について様々な方法を実施しすることにより、溶融塩抜き取り後の操作が、CE保持率に及ぼす影響を調査した。調査結果を表1に実施例6〜12として示す。
【0041】
実施例6は溶融塩回収後に槽内を一度、露点が−50℃の乾燥窒素ガスにて置換し、稼働再開をした操業例である。実施例7は溶融塩回収後に槽内を一度、露点が−50℃の乾燥Arガスにて置換し、稼働再開をした操業例である。実施例8は溶融塩回収後に槽内を一度、露点が−50℃の乾燥Arガスにて置換し、その後も3日間Arガスを注入補充して稼働再開をした操業例である。実施例9は実施例8において置換ガスを露点が−50℃の乾燥Arガスから露点が−70℃の乾燥Arガスに変更した操業例である。実施例10は実施例8において乾燥Arガスの補充量を1日当たり1.5m3 から5m3 に増加させた操業例である。実施例11は実施例8において乾燥Arガスの補充日数を3日から20日に増加させた操業例である。実施例12は実施例11において乾燥Arガスの補充量を1日当たり1.5m3 から5m3 に増加させた操業例である。
【0042】
実施例5、7、9及び12については操業休止期間の前後における電解効率の経時的な変化を図5に示した。実施例5〜12の順で操業再開時のCE保持率が大きくなったため、電解槽の余寿命が長くなった。操業休止期間中に要したコストは、実施例5〜12の順で高くなるが、全体に低く大差ない。
【符号の説明】
【0043】
1 溶融塩
2 槽本体
3 隔壁
4 電解室
5 Mg回収室
6,7 蓋体
8 陽極
9 陰極
10 ロストルレンガ
11 複極
12 開口部
13 浴面レベル調節装置
14 温度調節器
15 投入排出管
16 開閉蓋
17 Mg層
18 溶融塩吸引管
19 ガス供給管



【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属化合物を含有した溶融塩を電気分解することにより溶融金属を得る溶融塩電解方法において、電解操業途中にその操業を一時休止するに当たり、まず操業を中断して、電解槽内の溶融塩を溶融状態で60重量%以上抜き取り、電解槽内に残留した溶融塩を凝固させた後に電解槽を保管し、しかる後に再度金属化合物を含有した溶融塩を前記電解槽内に投入し、電解操業を再開する溶融塩電解方法。
【請求項2】
請求項1に記載の溶融塩電解方法において、電解槽内の溶融塩を凝固させた後、又は当該溶融塩を凝固させる前、若しくは当該溶融塩を凝固させる途中から槽内空間に乾燥ガスを注入して、槽内空間を乾燥ガスで置換する溶融塩電解方法。
【請求項3】
請求項2に記載の溶融塩電解方法において、乾燥ガスの注入量は、電解槽の槽内全体を乾燥ガスで置換し且つ槽内を微加圧状態とするために電解槽の残容積以上とする溶融塩電解方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の溶融塩電解方法において、電解槽内を乾燥ガスで置換した後も操業再開までの間の一定期間、乾燥ガスを槽内に補充する溶融塩電解方法。
【請求項5】
請求項4に記載の溶融塩電解方法において、乾燥ガスの補充量は1.5m3 /日以上、補充日数は3日間以上とする溶融塩電解方法。
【請求項6】
請求項2〜4に記載の溶融塩電解方法において、乾燥ガスは露点が−30℃以下であり比重が空気より大である不活性ガスである溶融塩電解方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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