説明

溶融金属めっき座金組込みねじの製造方法および溶融金属めっき座金組込みねじ

【課題】座金とねじとの固着がない溶融金属めっき座金組込みねじの提供
【解決手段】座金組込みねじ10を溶融金属めっき浴に浸漬するめっき処理工程と、該溶融金属めっき浴から座金組込みねじ10を取り出し、余剰溶融金属めっきを除去する余剰めっき除去工程と、室温まで冷却する冷却工程とを備え、上記冷却工程が、該座金組み込みねじ10が転動(図4(a)、(b)参照)または揺動(図4(c)参照)する状態を保ちつつ、その表面温度が(溶融金属めっきの凝固開始温度+溶融金属めっきの凝固終了温度)×0.51以下の温度域になるまで冷却する工程である溶融金属めっき座金組込みねじの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属めっき座金組込みねじの製造方法および溶融金属めっき座金組込みねじに関する。
【背景技術】
【0002】
座金組み込みねじは、緩み止め、座面の陥没を防ぐための座金をねじに組み込んだねじである。図1に示すように、座金組込みねじ10は、頭部11と、首部12と、ねじ部13とを備えるねじと、首部12に存在せしめた座金14a、14bとで構成される。座金組込みねじは、座金(図1に示す例では、2枚の座金)を組込んだ後に、座金の内径より大きな外径を有するねじ山を転造して製造されるため、座金の組込みの手間がなく、作業効率を向上させるとともに、座金の組込み忘れを防止できる。
【0003】
座金組込みねじに組み込まれる座金としては、例えば、平座金、ばね座金、波形ばね座金、歯付座金、皿ばね座金などが挙げられる。また、これらの座金の一つだけを組み込む場合だけでなく、例えば、平座金と、ばね座金、波形ばね座金または歯付座金とを重ねて組み込む場合もある。図1に示すのは、ばね座金14aと、平座金14bとを重ねて組み込んだ例である。
【0004】
例えば、特許文献1には、「座金組込みボルトにおいて、組込まれる座金の内径部を、当該ボルトのネジ部とネジ嵌合可能な形状としたことを特徴とする座金組込みボルト。」に関する発明が開示されている。
【0005】
ねじは、たとえば、太陽光パネルの架台の取り付けなどに用いられた場合には、屋外に長期間露出されることになるため、耐食性に優れるものが求められる。このため、屋外で用いられるねじには、ステンレス製のものやめっき処理を施したものが用いられる。
【0006】
出願人は、特許文献2において「金属材料を、溶融塩フラックス浴中に浸漬した後、溶融金属めっき浴に浸漬して、金属材料に溶融金属をめっきする金属めっき材料の製造方法であって、溶融金属めっき浴の化学組成が、質量%で、Al:45〜60%およびSi:2.0%を超え5.0%以下を含有し、残部がZnおよび不純物からなるものであることを特徴とする金属めっき材料の製造方法。」に関する発明を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−250326号公報
【特許文献2】特開2010−133022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、太陽光パネルのフレームには、ステンレス鋼材、アルミ合金などが用いられてきたが、最近では、亜鉛−アルミニウム6%−マグネシウム3%のめっき層を有する鋼材が用いられるようになっている。この鋼材を用いたフレームの組み付けにステンレス製のねじを用いると、いわゆる電蝕が生じるという問題がある。このため、溶融金属めっきを施した座金組込みねじ(以下、「溶融金属めっき座金組込みねじ」という。)に対する期待が大きい。
【0009】
ねじのめっきには、通常、溶融金属めっき浴に浸漬する、いわゆるバッチ式溶融めっきが用いられる。溶融金属めっき浴に浸漬する前にフラックス処理をする場合がある。フラックス処理には、大気中でフラックス浴に浸漬した後に溶融金属めっき浴に浸漬する方法と、溶融金属めっき浴上にフラックスを存在させる方法とがある。溶融金属めっき浴から取り出されたねじは、例えば、遠心分離器などによって、余分な溶融金属が除去され、室温まで冷却され、製品化される。
【0010】
通常のねじの場合、フラックス浴の温度と浸漬時間、溶融金属めっき浴の温度と浸漬時間、遠心分離器の回転速度と時間などの条件を調整して、所望のめっき厚さを有する溶融金属めっきねじを製造することができる。
【0011】
しかし、座金組込みねじの場合、座金が、ねじの頭部とねじ部との狭い隙間(首部)に存在している状態で、溶融金属めっき処理が行われるため、座金とねじとが固着してしまうという問題がある。なお、既に述べたように、座金組込みねじは、座金を組込んだ後に座金の内径より大きな外径を有するねじ山を転造して製造されるため、ねじ山の転造前に各部材にめっき処理を行うことができない。
【0012】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、座金とねじとの固着を防止することができる、溶融金属めっき座金組込みねじの製造方法および溶融金属めっき座金組込みねじを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、下記(1)〜(5)の溶融金属めっき座金組込みねじの製造方法および下記(6)の溶融金属めっき座金組込みねじを要旨とする。
【0014】
(1)溶融金属めっき座金組込みねじの製造方法であって、座金組込みねじを溶融金属めっき浴に浸漬するめっき処理工程と、該溶融金属めっき浴から座金組込みねじを取り出し、余剰溶融金属めっきを除去する余剰めっき除去工程と、室温まで冷却する冷却工程とを備え、上記冷却工程が、該座金組み込みねじが転動または揺動する状態を保ちつつ、その表面温度が(溶融金属めっきの凝固開始温度+溶融金属めっきの凝固終了温度)×0.51以下の温度域になるまで冷却する工程である、溶融金属めっき座金組込みねじの製造方法。
【0015】
(2)前記溶融金属めっき浴が、質量%で、Al:45〜60%およびSi:2.0%を超え5.0%以下を含有し、残部がZnおよび不純物からなる化学組成を有する、上記(1)の溶融金属めっき座金組込みねじの製造方法。
【0016】
(3)溶融金属めっき浴が、質量%で、Al:55%およびSi:2.0%を超え5.0%以下を含有し、残部がZnおよび不純物からなる化学組成を有し、上記冷却工程が、上記座金組み込みねじが転動または揺動する状態を保ちつつ、その表面温度が540℃以下の温度域になるまで冷却する工程である、上記(2)の溶融金属めっき座金組込みねじの製造方法。
【0017】
(4)上記座金組み込みねじを装入した耐熱容器を、重力軸とは異なる軸周りに回転させて、該座金組み込みねじを転動させる、上記(1)〜(3)のいずれかの溶融金属めっき座金組込みねじの製造方法。
【0018】
(5)座金の内径ID(mm)と、ねじ部の外径OD(mm)およびねじ首部の外径OD(mm)との関係が下記(1)式および(2)式を満たす座金組み込みねじを用いた上記(1)〜(4)のいずれかの溶融金属めっき座金組込みねじの製造方法。
0.10≦OD−ID (1)
0.40≦ID−OD≦0.65 (2)
【0019】
(6)座金の内径ID(mm)と、ねじ部の外径OD(mm)およびねじ首部の外径OD(mm)との関係が下記(3)式および(4)式を満たす、溶融金属めっき座金組込みねじ。
0.30≦OD−ID (3)
0.20≦ID−OD≦0.45 (4)
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、座金とねじとの固着がない、溶融金属めっき座金組込みねじを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】座金組込みねじの各部名称を示す図
【図2】本発明における、溶融金属めっき座金組込みねじの製造工程の例を説明する図
【図3】図2に続く製造工程の例を説明する図
【図4】図3に続く製造工程の例を説明する図 (a)ドラム型容器を回転させる方式 (b)ドラム型容器を揺動させる方式 (c)トレイ型容器を揺動させる方式
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の溶融金属めっき座金組込みねじの製造方法を、溶融金属めっき浴が、質量%で、Al:45〜60%およびSi:2.0%を超え5.0%以下を含有し、残部がZnおよび不純物からなる化学組成を有する場合で、溶融塩フラックス処理を実施する場合を例にとって説明する。
【0023】
図2に示すように、本発明の溶融金属めっき座金組込みねじの製造方法においては、まず、図中(1)に示すように、座金組込みねじ10を装入した容器20をフラックス浴30に浸漬し、所定時間経過後、図中(2)に示すように、容器20を引き揚げる。続いて、図中(3)に示すように、容器20を溶融金属めっき浴40の上方に移動し、図中(4)に示すように、溶融金属めっき浴40に浸漬し、所定時間経過後、図中(5)に示すように、容器20を引き揚げ、次工程に移動する。
【0024】
なお、図2では、溶融塩フラックス処理を実施することを前提とする製造方法を説明しているが、溶融金属めっき浴の化学組成によっては、水溶液フラックス処理を使用することがあり、また、フラックスを溶融金属めっき浴の上部に浮かべた状態でフラックス処理を行う、いわゆる浴上フラックス処理を行うこともできる。
【0025】
(前処理)
座金組込みねじには、必要に応じて、溶融塩フラックス浴への浸漬前に前処理を行うのがよい。例えば、座金組込みねじが鉄鋼材料で構成される場合、前処理は、オルソ珪酸ソーダ、苛性アルカリ、炭酸ソーダ等の温水溶液による脱脂工程、有機溶剤による脱脂工程、塩酸、硫酸等の酸の水溶液による酸洗工程およびショットブラスト処理の少なくとも1工程を含むのがよい。
【0026】
(フラックス処理)
図2の例のように、溶融めっき浴への浸漬処理前に、別の浴でフラックス処理を実施する際には、座金組込みねじは、必要に応じて適切な前処理を施した後、めっき浴温に近い温度の溶融塩フラックス浴に浸漬される。この溶融塩フラックス浴への浸漬処理により、座金組込みねじの表面はフラックスの作用で活性化されて濡れ性が高まり、溶融塩フラックス浴から引き上げる際にはフラックス膜が座金組込みねじの金属表面に形成される。
【0027】
座金組込みねじは、溶融塩フラックス浴に浸漬されている間に加熱される。このため、溶融めっき処理への予熱の作用も果たすことになり、金属間化合物層を均一に成長させ、外観が良好で厚目付けのめっき皮膜を形成させやすくする。
【0028】
フラックス槽に、溶融金属めっき浴の浴温近傍まで昇温可能な融点となるように組成が調整された1種以上の金属弗化物からなるフラックス材料を入れ、加熱、融解して、溶融塩フラックス浴を用意する。溶融塩フラックス浴の温度は、溶融めっき浴温に対して、−100℃〜+100℃の範囲とするのが好ましい。溶融塩フラックスの浴温が「溶融めっき浴温+100℃」を超えると、被めっき金属材料の溶融めっき浴への侵入温度が高くなりすぎて、界面で脆い金属間化合物層が成長し、密着性が低下するおそれがある。一方、溶融塩フラックス浴の温度が「溶融めっき浴温−100℃」に満たないと、予熱効果が不十分となり、金属間化合物層の不均一成長が起こり、外観性状の低下を招く場合がある。溶融塩フラックス浴温は、溶融めっき浴温に対して−50℃〜+50℃の範囲とするのがより好ましい。
【0029】
フラックスの種類には、特に制約はないが、溶融塩フラックス浴温を上記の温度範囲にできるような組成を選択するのがよい。すなわち、フラックスの融解温度が、溶融塩フラックス浴温より数℃〜数十℃低くなる組成がよい。例えば、1種以上の金属弗化物からなるフラックスを用いるのが好ましい。このフラックスは、事前にフラックス処理した場合には被めっき金属材料の表面の濡れ性を十分に確保でき、不めっきを防止することができる。
【0030】
フラックスに用いる金属弗化物としては、弗化カリウム、弗化アルミニウム、氷晶石、弗化亜鉛、弗化ナトリウム、弗化銅、弗化チタン、弗化リチウム等が例示される。例えば、質量%で、弗化アルミニウ40〜65%、弗化カリウム60〜35%有するものを使用すれば、上記の融解温度が得られる。これを基本組成として、さらに氷晶石や他の金属弗化物を配合してもよい。
【0031】
溶融塩フラックス浴への浸漬時間は、ごく短時間、例えば、数秒程度から数分程度でよい。この浸漬が予熱もかねている関係から、被めっき金属材料の厚みが大きい場合には、十分に予熱されるように浸漬時間を長めにする。このフラックス処理で予熱されるため、溶融めっき浴への浸漬時間が大幅に短縮されることから、フラックス槽への浸漬時間を含めても、溶融めっき作業に要する合計作業時間を短縮することができる。
【0032】
フラックス処理後の被めっき金属材料は、表面がフラックスで保護されているため、大気に曝されても表面酸化が起こらない。したがって、フラックス槽から溶融めっき槽への移送の間に大気を遮断する必要はない。しかし、被めっき金属材料の温度低下を防ぐために、フラックス槽から溶融めっき槽への移送は速やかに行うことが好ましい。
【0033】
(めっき処理)
フラックス膜を有する被めっき金属材料を速やかに溶融金属めっき浴に浸漬する。
【0034】
溶融金属めっき浴の化学組成は、特に制約はない。本発明は、亜鉛めっき、アルミめっき、アルミ亜鉛合金めっきなど、いずれのめっきにおいても有用である。中でも、アルミ亜鉛合金めっきにおいて特に有効である。アルミ亜鉛合金めっきの場合、特に、質量%で、Al:45〜60%およびSi:2.0%を超え5.0%以下を含有し、残部がZnおよび不純物からなるものが好ましい。不純物とは、合金材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料その他の要因により混入する成分を意味する。以下、アルミ亜鉛合金めっきの場合の各元素の好ましい含有量とその理由について説明する。
【0035】
Al:45〜60%
Alは、Znとともに、めっき層を構成する重要な元素であり、厚肉のめっき層を形成させ、金属めっき材料の耐食性を向上させるためには、45%以上含有させることが好ましい。しかし、過剰な添加は、コストアップに繋がり、また、Zn含有量が少なくなりすぎて、かえって耐食性を低下させるおそれがある。従って、Alを含有させる場合には、その含有量は45〜60%の範囲とする。
【0036】
Si:2.0%を超え5.0%以下
Siは、Fe−Al金属間化合物を均一に成長させる効果を有する元素であり、十分な厚さを有し、しかも、外観性状に優れためっきを金属材料に形成させるために重要である。しかし、Siが、2.0質量%以下では、Fe−Al金属間化合物の成長が不均一となり、凹凸が激しく荒れた状態のめっきが形成されるおそれがある。このような傾向は、特に、ボルト、ナットなどの小型接合部品のように凹凸がある材料のときに顕著となる。一方、Siの含有量が5.0%を超えると、めっき層の成長が抑制され、厚目付材の製造が困難となるおそれがある。よって、従って、Siを含有させる場合には、その含有量は2.0%を超え5.0%以下の範囲とする。
【0037】
なお、溶融金属めっき浴は、Al、Zn、Siの他に、微量のMg、Pb、Sn、Fe、Sb、Mn、Ni、Cr、Ti、V、Sr、BおよびBeから選択される1種以上を含んでいてもよい。
【0038】
溶融金属めっきの処理温度には、特に制約はないが、570〜670℃の範囲で行うのが好ましい。570℃未満では、合金相の形成が不十分となり膜厚の確保が困難となるおそれがある。一方、670℃を超えると、肌荒れの問題が顕在化する場合がある。処理温度は、630℃以上で行うことがより好ましい。処理時間にも特に限定はないが、2〜7分の範囲で行うのが好ましい。2分未満では、膜厚が確保できなくなるおそれがあり、7分を超えても、効果は飽和し、製造コストを上昇させるだけである。処理時間は、特に5分以下とするのが好ましい。
【0039】
(余剰めっき除去工程)
図3は、余剰めっき除去工程を説明する図である。図3に示すように、溶融金属めっき浴から座金組込みねじを取り出された座金組込みねじ10は、例えば、容器20に収容された状態で、遠心分離型の余剰めっき除去装置に設置され、所定時間の回転運動が与えられることにより、座金組込みねじ10に付着した余剰な溶融金属めっきが除去される。例えば、アルミ亜鉛合金めっきの場合、500〜800rpmで2〜10秒間という条件で行うのが好ましい。その理由は、回転数、時間が不足すれば余剰な溶融金属めっきが十分除去できず、所定の不着量が得られない。またこれ以上の回転数、時間は経済的に不利だからである。
【0040】
余剰めっき除去装置は、遠心分離型のものに限らず、振動型のものなどがあるが、なかでも、所定の膜厚が均一に得られるという理由から遠心分離型のものが好ましい。
【0041】
(冷却工程)
余剰めっき除去工程を終えたねじは、そのまま放冷されるか、急冷に耐えうる化学組成のめっきの場合は、水槽内に導入され、冷却されるのが一般的である。しかし、座金組み込みねじの場合、従来の方法に従って冷却したのでは、座金14a、14b同士の固着、および/または、座金14a、14bとねじの首部12との固着が発生する。このため、本発明においては、余剰めっき除去工程後からその表面温度が(溶融金属めっきの凝固開始温度+溶融金属めっきの凝固終了温度)×0.51以下の温度域になるまでの間は、座金組み込みねじが転動または揺動する状態を保つことが重要である。
【0042】
この温度域における座金組み込みねじを転動または揺動する状態に保つことにより、溶融金属めっきの凝固の初期段階において、座金14a、14bが常に動いている状態になるため、上述したような座金14a、14b同士の固着、および、座金14a、14bとねじの首部12との固着を防止することが可能となる。その表面温度が(溶融金属めっきの凝固開始温度+溶融金属めっきの凝固終了温度)×0.51以下の温度域まで冷却すれば、溶融金属めっきの固液混合層に占める固相の割合を50%以上の範囲にすることができるので、これらの再度の固着が生じにくい状態となるからである。その表面温度が(溶融金属めっきの凝固開始温度+溶融金属めっきの凝固終了温度)×0.50以下の温度域まで冷却すれば、固着の防止がより確実になるが、あまりに低温になるまで座金組み込みねじを転動または揺動する状態で冷却しても、固着の防止効果が飽和し、生産性が悪くなるおそれがある。生産性の観点からは、上記の温度域まで冷却した後は、水冷などにより急冷するのが好ましい。
【0043】
特に、質量%で、Al:45〜60%およびSi:2.0%を超え5.0%以下を含有し、残部がZnおよび不純物からなる溶融金属めっきの場合、その凝固開始温度が570℃であり、凝固終了温度が490℃であるため、(溶融金属めっきの凝固開始温度+溶融金属めっきの凝固終了温度)×0.51以下は、540℃となる。よって、この化学組成を有する溶融金属めっきの場合、その表面温度が540℃以下の温度域になるまで、転動または揺動の状態で冷却するのがよい。このような温度範囲にすれば、溶融金属めっきの固液混合層に占める固相の割合を約50%以上の範囲にすることができる。表面温度が530℃以下の温度域になるまで、転動または揺動の状態で冷却するのがなお好ましい。
【0044】
図4は、冷却工程において、座金組込みねじを転動または揺動させる方法を例示した図である。図4(a)に示す例は、座金組み込みねじ10を装入した耐熱容器20を軸周りに回転させることにより座金組み込みねじ10を転動させるものであり、図4(b)に示す例は、座金組み込みねじ10を装入した耐熱容器20を軸周りに半回転させ、その直後に逆方向に半回転させる、すなわち、往復回転させることにより座金組み込みねじ10を転動させるものである。これらの例においては、耐熱容器を重力軸とは異なる軸周りに回転させて、該座金組み込みねじを転動させることが好ましい。このような構成を採用すれば、座金組込みねじ10をある程度の高さまで持ち上げたのち、耐熱容器20内壁面に落下させて、座金組込みねじ10を強い転動状態に維持でき、上記の座金等の固着防止効果がより確実に得られることになる。
【0045】
図4(a)または(b)に示す例においては、耐熱容器20として、溶融金属めっき浴などへの浸漬に用いる容器をそのまま用いることができる。また、図4(c)に示す例は、座金組込みねじ10を装入した耐熱容器20aを往復運動、すなわち、図中左右方向に繰り返し移動させることにより座金組込みねじ10を揺動させるものである。この例において用いられる耐熱容器20aは、往復運動を付与しやすい形状であれば、特に制約がないが、作業性の観点からは矩形であることが好ましい。
【0046】
これらの転動または揺動の方式の中で、座金組み込みねじ10を装入した耐熱容器20を軸周りに回転させることにより座金組み込みねじ10を転動させる図4(a)に示す例が最も好ましい。この時、例えば、10〜50rpmの回転速度で行うのが良い。10rpm未満では、転動が不十分で、上記の座金等の固着防止効果が不十分となる。また、50rpmを超えると、回転時に座金組込みねじが耐熱容器20の壁面から離れず、転動が不十分となる。
【0047】
耐熱容器の回転軸と重力軸との角度は、30°〜90°の範囲が好ましい。この角度が、30°未満では、座金組込みねじの落下による転動が不十分となり、上記の座金等の固着防止効果が不十分となる。また、90°を超えると、材料がこぼれるため余分なふたが必要となるという問題が生じる。
【0048】
(座金組込みねじ素材の形状)
本発明に供する座金組込みねじ素材は、座金の内径ID(mm)と、ねじ部の外径OD(mm)およびねじ首部の外径OD(mm)との関係が下記(1)式および(2)式を満たすものが好ましい。
0.10≦OD−ID (1)
0.40≦ID−OD≦0.65 (2)
【0049】
「OD−ID」は、座金が脱落しないようにするためには、0.10以上とするのが好ましい。
【0050】
「ID−OD」は、0.40未満では、座金がねじ首部に固着するという問題が生じるおそれがある。一方、0.65を超えると、座金がねじ部へずり下がるという問題が生じるおそれがある。
【0051】
(溶融金属めっき座金組込みねじの形状)
本発明の溶融金属めっき座金組込みねじは、座金の内径ID(mm)と、ねじ部の外径OD(mm)およびねじ首部の外径OD(mm)との関係が下記(3)式および(4)式を満たすものである。
0.30≦OD−ID (3)
0.20≦ID−OD≦0.45 (4)
【0052】
「OD−ID」は、座金が脱落しないようにするためには、0.30以上とすることが好ましい。
【0053】
「ID−OD」は、0.20未満では、座金がねじ首部に固着する割合が増大するという問題がある。一方、0.45を超えると、座金がねじ部へずり下がるという問題が生じるおそれがある。
【実施例1】
【0054】
図2、図3および図4(b)の装置を用いて、概ね350個程度の座金組込みねじ(座金の内径ID:7.56mm、ねじ部の外径OD:7.85mm、ねじ首部の外径OD:7.08mm)に、フラックス処理工程、めっき処理工程、余剰めっき除去工程および冷却工程を順に実施して、溶融金属めっき座金組込みねじを作製する実験を行った。
【0055】
このとき、フラックス処理工程では、座金組込みねじを、質量%で、弗化アルミニウム50%および弗化カリウム50%からなる化学組成を有し、630℃に保ったフラックス浴に4分浸漬した。めっき処理工程では、座金組込みねじを、質量%で、Al:55%およびSi:2.5%を含有し、残部がZnおよび不純物からなる化学組成を有し、630℃に保った溶融金属めっき浴に3分浸漬した。
【0056】
その後、遠心分離型の余剰めっき除去装置(600rpmの回転数で、5秒)で、余剰のめっきを除去した後、冷却工程に供した。冷却工程は各種の条件で行った。すなわち、転動させずに放冷する条件と、重力軸に対して60°の傾斜角を有する回転軸周りに、往復回転させて転動させながら放冷する条件で行った。転動させながら放冷する条件では、転がし時間を30秒、60秒、90秒および120秒に替え、各種条件でねじの表面温度を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0057】
なお、「材料温度」は、転動させずに放冷する条件では、余剰めっき除去工程直後のねじの表面温度を、転動させながら放冷する条件では、転動終了時のねじの表面温度をそれぞれ測定した。また、ねじを室温まで冷却した後、座金同士の固着および/または座金とねじ首下との固着があったものを「不良品」とし、そのような固着がなかったものを「良品」とし、それぞれの合格率を計算した。これらの結果も表1に併記する。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示すように、転動させずに放冷する条件(転がし時間0秒)では、材料温度が575℃であり、この温度から室温までの間、ほとんど転動することなく冷却されたため、ほとんどのねじで固着が生じ、合格率が13.8%と低かった。これに対し、転動をさせながら放冷する条件では、30秒ではほとんど効果がないが、60秒では、合格率が36.4%まで上昇し、材料温度が527℃の90秒、512℃の120秒では、いずれも合格率が100%となった。
【実施例2】
【0060】
溶融金属めっき浴の温度を650℃に保ったことを除き、実施例1と同じ条件で、溶融金属めっき座金組込みねじを作製する実験を行った。その結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表2に示すように、転動させずに放冷する条件(転がし時間0秒)では、材料温度が595℃であり、この温度から室温までの間、ほとんど転動することなく冷却されたため、ほとんどのねじで固着が生じ、合格率が24.3%と低かった。これに対し、転動をさせながら放冷する条件では、30〜90秒ではほとんど効果がないが、120秒では、材料温度が531℃まで下がり、いずれも合格率が99.5%となった。
【実施例3】
【0063】
以下、座金組込みねじの寸法を種々変え、転がし時間を120秒に固定したことを除き、実施例2と同じ条件で、溶融金属めっき座金組込みねじを作製する実験を行った。各種座金組込みねじの寸法と、試験結果を表3に示す。なお、試験No.1は、表2の転がし時間120秒の例である。また、めっき後の各寸法は、任意に抜き取った10本のサンプルについて測定した寸法の平均値である。
【0064】
【表3】

【0065】
表3に示すように、試験No.1〜4のいずれも、十分に低温になるまで、転動を行いながら冷却したため、合格率が95%以上であった。特に、No.1、3および4では、めっき前の座金組込みねじが「OD−ID」および「ID−OD」の条件も満足し、めっき後の座金組込みねじも「OD−ID」および「ID−OD」の条件を満足しており、合格率が99%以上と高かった。これに対して、試験No.2は、「OD−ID」が0.07と低く、「ID−OD」が0.68と高かったため、他の例と比較して合格率が低かった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、座金とねじとの固着がない、溶融金属めっき座金組込みねじを提供することができる。
【符号の説明】
【0067】
10 座金組込みねじ
11 頭部
12 首部
13 ねじ部
14a 座金
14b 座金
20 容器(耐熱容器)
20a 容器(耐熱容器)
30 フラックス浴
40 溶融金属めっき浴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属めっき座金組込みねじの製造方法であって、
座金組込みねじを溶融金属めっき浴に浸漬するめっき処理工程と、該溶融金属めっき浴から座金組込みねじを取り出し、余剰溶融金属めっきを除去する余剰めっき除去工程と、室温まで冷却する冷却工程とを備え、
上記冷却工程が、該座金組み込みねじが転動または揺動する状態を保ちつつ、その表面温度が(溶融金属めっきの凝固開始温度+溶融金属めっきの凝固終了温度)×0.51以下の温度域になるまで冷却する工程であることを特徴とする溶融金属めっき座金組込みねじの製造方法。
【請求項2】
前記溶融金属めっき浴が、質量%で、Al:45〜60%およびSi:2.0%を超え5.0%以下を含有し、残部がZnおよび不純物からなる化学組成を有することを特徴とする請求項1に記載の溶融金属めっき座金組込みねじの製造方法。
【請求項3】
溶融金属めっき浴が、質量%で、Al:55%およびSi:2.0%を超え5.0%以下を含有し、残部がZnおよび不純物からなる化学組成を有し、上記冷却工程が、上記座金組み込みねじが転動または揺動する状態を保ちつつ、その表面温度が540℃以下の温度域になるまで冷却する工程であることを特徴とする請求項2に記載の溶融金属めっき座金組込みねじの製造方法。
【請求項4】
上記座金組み込みねじを装入した耐熱容器を、重力軸とは異なる軸周りに回転させて、該座金組み込みねじを転動させることを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載の溶融金属めっき座金組込みねじの製造方法。
【請求項5】
座金の内径ID(mm)と、ねじ部の外径OD(mm)およびねじ首部の外径OD(mm)との関係が下記(1)式および(2)式を満たす座金組み込みねじを用いたことを特徴とする請求項1から4までのいずれかに記載の溶融金属めっき座金組込みねじの製造方法。
0.10≦OD−ID (1)
0.40≦ID−OD≦0.65 (2)
【請求項6】
座金の内径ID(mm)と、ねじ部の外径OD(mm)およびねじ首部の外径OD(mm)との関係が下記(3)式および(4)式を満たすことを特徴とする溶融金属めっき座金組込みねじ。
0.30≦OD−ID (3)
0.20≦ID−OD≦0.45 (4)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−108531(P2013−108531A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251972(P2011−251972)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(591285066)弘陽工業株式会社 (2)
【出願人】(596162452)新興アルマー工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】