説明

溶融金属めっき装置

【課題】ドロスの発生を抑制しドロスのメインポットへの混入を抑制する、優れためっき品質を有する製品を得るための連続溶融金属めっき装置を提供する。
【解決手段】メインポット3内には、鋼板Sがプリメルトポット側の斜め上方からメインポット3内に進入するようにスナウト1を、進入してきた鋼板Sが方向転換後メインポット3から引き上げられるようにシンクロール2をそれぞれ配し、プリメルトポット5内には、鋼板Sに付着して減少するめっき金属を補うために金属インゴット4を配している。さらに、前記メインポット3と前記プリメルトポット5を同一浴面にて連接する流路9を備え、前記メインポット3の一部から流路9を経て前記プリメルトポット5の一部までの浴面にはカバー6を配している。また、好ましい構造として、プリメルトポット5内もしくは流路9内に、少なくとも一つ以上の仕切板7を配している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属めっき装置、特に溶融Zn系めっき装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶融金属(例えばZn、Al、Mn、Pb及びその合金)めっき鋼板は、一般的に以下に示すように製造される。
図2は、従来の溶融金属めっき設備の縦横断面の概略図であり、図2によれば、冷延、前処理工程での表面洗浄、非酸化性あるいは還元性雰囲気中での加熱、焼鈍、冷却の各々の工程を経た鋼板Sは、矢印の方向に走向してスナウト1からメインポット3中に連続的に浸漬される。次いで、シンクロール2で方向転換後、メインポット3から引き上げられ、メインポット3中で鋼板Sの表面に付着した過剰の溶融金属はガスワイピング等の図示しない付着量制御装置でめっき付着量を調整後、冷却され、所定の後処理を施され、所望のめっき鋼板になる。一方で、鋼板Sに付着して減少するめっき金属を補うために、金属のインゴット4をプリメルトポット5で溶解し、適宜、必要に応じて、プリメルトポット5からメインポット3へめっき金属が補充される。
【0003】
上記にて製造される代表的な製品としては、溶融Znめっき鋼板(合金化溶融Znめっき鋼板を含む)、溶融Alめっき鋼板があげられる。また、これらの製品を製造するにあたっては、溶融金属と素地鋼板との界面に硬くて脆い合金層が成長するのを抑制しめっき密着性を向上させるために、主成分(ZnやAl等)である溶融金属中に主成分以外の成分が少量添加されることが多い。例えば、溶融Znめっき鋼板では、主成分である溶融Zn中に微量のAlが、溶融Alめっきでは、主成分である溶融Al中に微量のSiが添加されることが多い。そして、添加するにあたっては、合金層成長を適度に抑制するために、その添加量を適正範囲に管理することが重要となる。
【0004】
例えば、溶融Znめっき鋼板の場合、添加されたAlは、溶融Zn浴中でZnよりも優先的に鋼板と反応し、めっき層と素地鋼板界面にAl富化層(Fe-Al金属間化合物)を生成することで、Fe-Znの合金化反応を抑制し、これによって密着性の良好な合金化溶融Znめっき鋼板を製造する。
【0005】
ところで、かかる溶融Znめっき浴に添加されたAlの量は、(1)優先的なAl富化層の生成、(2)ドロスの生成及び該ドロスのめっき浴外への排除、等により減少するので、その減少した分をめっき浴へ補給する必要がある。その補給方法としては、目標とする濃度あるいは目標濃度より高濃度のAl量を含有したZnインゴット及び純Znインゴットをめっき浴中に投入する方法が従来から行われてきた。しかし、インゴットによるAlの補給方法では、めっき浴に投入されたインゴットがめっき浴中で溶解、拡散して、均一なめっき浴になるまでに時間がかかる。また、インゴットが全て溶解、拡散してから次のインゴット投入までの間、浴中のAl濃度は減少しつづけるため、インゴットを投入するピッチに対応して、めっき浴中のAl濃度が大きく変動するという問題がある。そして、めっき浴中のAl濃度が変動すると、前述したAl富化層の生成が不均一となり、安定しためっき品質を得ることが出来ない。
そこで、上記問題を解決するために、いくつかの技術が提案されている。
特許文献1では、めっき槽への成分補給方法として、補給成分を予め溶融、保持した複数個のプリメルトポットを用い、必要な補給成分の濃度及びめっき槽の減少量に対応するようプリメルトポットから成分をめっき槽に補給する方法や、補給成分を予め溶融、保持した少なくとも1つのプリメルトポット及び補給成分の金属塊あるいは金属粉粒を入れた少なくとも1つのホッパを用い、必要な補給成分の濃度及びめっき槽の減少量に対応するよう前記プリメルトポット及びホッパから成分をめっき槽に補給する方法が開示されている。
また、特許文献2では、補給成分を予め溶融、保持した複数個のプリメルトポット又は少なくとも一つのホッパを用い、必要な補給成分の濃度及びめっき浴の減少量に対応するよう、めっき浴内に設けた混合槽に前記プリメルトポット、又はプリメルトポット及びホッパから成分を供給し、該混合槽内から噴射ノズルを用いてめっき浴内へ噴射して成分を補給するめっき浴への成分補給方法が開示されている。
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載の方法では、めっき槽(浴)に補給成分を供給するための箇所とそれ以外の場所では成分濃度がばらついて、めっき槽(浴)内の濃度分布が不均一になり、鋼板全体でめっき品質が不均一になるという問題が生じる。
特許文献3では、プリメルトポット又は混合層から、溶融めっき金属を被めっき鋼板が該めっき浴に浸入する部分の板幅方向全域に供給する方法が開示されている。しかしながら、特許文献3の方法では、鋼板が浸入する部分への溶融金属の直接供給により浸入波面の揺らぎによりアッシュ、スリキズなどの別な素材欠陥が発生する。
このように、現状では、充分に優れためっき品質を有する製品を得るに至っていない。
【0006】
一方、上記問題(Al濃度が変動し、Al富化層の生成が不均一となり、安定しためっき品質を得られない)以外にも、上記製造方法においては、鋼板Sがメインポット3を通過する間に、鋼板Sから溶出したFeがメインポット3中の主成分であるZnや少量添加されているAlと反応して、Zn、Fe、Al等から構成される金属間化合物、いわゆるドロスを生成する問題がある。
【0007】
このドロスの問題に対しても、除去するための提案が、従来から多く行われている。これらの提案の多くは、溶融Znを一旦、めっき槽外に汲み出してドロスを沈降分離させる方法、あるいは、ドロスを濾過分離する方法である。
しかしながら、数多くの提案が行われているにも関わらず、従来の提案は実用化されていない。この理由は、これらの提案の技術は机上では成立するものであるが、実設備では機構の複雑さや耐久性、操業性に多くの問題があり、実際には不可能であるためである。
例えば、特許文献4では、メインポットとプリメルトポットを連結する溶湯導入路を浴面レベルよりも低い位置で設置することによりドロスの流出を食い止める方法が、特許文献5では、発生したボトムドロス(Fe-Zn系)を直ちにめっき槽から除去するために側部及び底部でメインポットとプリメルトポットを接続する方法が開示されている。しかしながら、特許文献4および5では、設備が複雑化し、また、配管からめっき浴が漏れるような事態になった場合は漏れを食い止める方策がない。さらに、めっき浴の加熱が不十分の場合、例えば停電になった場合には、配管内のめっき浴は容易に凝固する。すなわち、単に設備が複雑で操業に支障をきたすだけでなく、エンジニアリング上にも多くの解決しなければならない問題があり、実機への適用は容易に行えない。
【0008】
特許文献6では、プリメルトポット内で不可避的に発生したドロスの発生を抑制するために、鉄が飽和していない高温にメインポットの温度を制御するための加熱手段を設けることが開示されている。
【0009】
また、特許文献7では、メインポットへのドロスの混入を防止するために堰を設けることが、特許文献8では、メインポットにおける浴面からの熱損失低減のためめっき浴面に直接接触する上蓋を設けたことが記載されている。しかしながら、特許文献6〜8では、ZnO等の金属酸化物系ドロスまで考慮しておらず、ドロス除去としては不充分である。


【特許文献1】特開平1−165753号公報
【特許文献2】特開平2−104649号公報
【特許文献3】特開平7−238358号公報
【特許文献4】特許昭63−238252号公報
【特許文献5】特開平5−222500号公報
【特許文献6】特開平11−286761号公報
【特許文献7】特開平4−168253号公報
【特許文献8】特開平5−125512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、プリメルトポットからメインポットに溶融金属を供給する際にプリメルトポット内以外でのトップドロス等の発生を抑制し、ドロスのメインポットへの混入を抑制する、優れためっき品質を有する製品を得るための溶融金属めっき装置を提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために、従来の溶融金属めっき装置を見直した。そして、例えば、溶融Znめっき鋼板を製造しようとする場合、高Al濃度域が予想される箇所で、温度の低下に伴うトップドロスの発生を抑制し、トップドロスのメインポット内への流入を抑制することが非常に重要であることを見出した。また、ZnO等の金属酸化物系のドロスに関しては、浴組成のZnと空気中のO2の酸化反応により金属酸化物系のドロスが発生すること、浴面への酸素の供給を絶つことが金属酸化物系のドロスの発生抑制には必要であり重要であることを見出した。さらに、上記知見に基づき、高Al濃度域が予想される箇所として、スナウト付近および流路でのドロス発生抑制およびドロス混入抑制対策に着目した。その結果、浴機器交換へ支障がない前記メインポットの一部から流路を経て前記プリメルトポットの一部までの浴面を覆う手段を配設し、さらにはプリメルトポット内もしくは前記流路内に仕切板を設置することで、上記問題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。

本発明は、以上の知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]スナウトを有し、溶融金属を収容し鋼板を浸漬してめっきを施すメインポットと、めっきに使用するインゴットを溶解するプリメルトポットと、前記メインポットと前記プリメルトポットを同一浴面にて連接する流路を備える溶融金属めっき装置であって、
前記スナウトより前記流路側にかけての前記メインポットの一部から、前記流路を経て、前記金属インゴットより前記流路側にかけての前記プリメルトポットの一部まで浴面を覆う手段を配設することを特徴とする溶融金属めっき装置。
[2]前記[1]において、前記プリメルトポット内もしくは前記流路内に、少なくとも一つ以上の仕切板を配設することを特徴とする溶融金属めっき装置。ただし、前記プリメルトポット内とは、前記金属インゴットより前記流路側にかけての部分とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の溶融金属めっき装置によれば、プリメルトポットからメインポットに溶融金属を供給する際に、プリメルトポット内以外でのトップドロスに加えZnOなどの金属酸化物ドロスの発生を抑制し、プリメルトポット内からメインポットへのドロスの混入を抑制することが可能となる。その結果、優れためっき品質を有するめっき鋼板を得ることができる。また、設備が複雑化せずシンプルであるため、例えば、詰まった場合などのメンテナンスも容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について具体的に説明する。
図1は本発明の実施形態の一つである溶融Znめっき鋼板の製造装置を示す図であり、(a)は側断面図、(b)はA−A矢視面である。そして、図1は、溶融金属を収容し鋼板を浸漬してめっきを施すメインポット3と、めっきに使用するインゴット4を溶解するプリメルトポット5と、前記メインポット3と前記プリメルトポット4を同一浴面にて連接する流路9から構成される。
メインポット3内には、鋼板Sがプリメルトポット側の斜め上方からメインポット3内に進入するようにスナウト1を、そして進入してきた鋼板Sが方向転換後、メインポット3から引き上げられるようにシンクロール2を配している。
プリメルトポット5内には、鋼板Sに付着して減少するめっき金属を補うために用いられる金属のインゴット4を溶解可能な程度に浸漬するように配している。
さらに、本発明では、前記メインポット3と前記プリメルトポット5を同一浴面にて連接する流路9を備えてあり、前記スナウトより前記流路側にかけての前記メインポットの一部から、前記流路を経て、前記金属インゴットより前記流路側にかけての前記プリメルトポットの一部まで浴面を覆うカバー6を配している。
以上の基本構造に対し、好ましい構造として、プリメルトポット5内(ただし、金属インゴット4より流路側9にかけての部分)もしくは流路9内に、少なくとも一つ以上の仕切板7を配している。
図1によれば、鋼板Sは、矢印の方向に走向してスナウト1からメインポット3中に連続的に浸漬される。次いで、シンクロール2で方向転換後、メインポット3から引き上げられ、メインポット3中で鋼板Sの表面に付着した過剰の溶融金属はガスワイピング等の図示しない付着量制御装置でめっき付着量を調整後、冷却され、所定の後処理を施され、所望のめっき鋼板になる。一方で、鋼板Sに付着して減少するめっき金属を補うために、金属のインゴット4をプリメルトポット5で溶解し、適宜、必要に応じて、プリメルトポット5から流路を介してメインポット3へめっき金属が補充される。ここで、本発明では、前記スナウトより前記流路側にかけての前記メインポットの一部から、前記流路を経て、前記金属インゴットより前記流路側にかけての前記プリメルトポットの一部まで、浴面を覆うカバー6を配設することで、前記メインポット3の一部から流路9を経て前記プリメルトポット5の一部までの浴面の温度は一定温度以上に保持される。さらに、好ましくは、プリメルトポット5内(ただし、金属インゴット4より流路側9にかけての部分)もしくは流路9内に、少なくとも一つ以上の仕切板7を配設することで、メインポット3とプリメルトポット5との流れを一部止める堰の役割を果たし、トップドロス8等の浮上しているドロスのメインポット3への流入を防ぐ。このように、カバー6と、好ましくは仕切板7を配設することは本発明において重要な要件であり、このようにカバー6と仕切板7を配設することによって、本発明が解決される。詳細な作用については後述する。
【0014】
本発明において用いられる前記鋼板Sは、特に限定しない。しかし、溶融金属めっき装置に導入される前に、冷延、前処理工程での表面洗浄、非酸化性あるいは還元性雰囲気中での加熱、焼鈍、めっきに適した温度への酸化させることなしの冷却の各々の工程を経ることが好ましい。
【0015】
前記メインポット3については特に限定しない。所望のめっき鋼板を得るために必要な溶融金属が収容できれば良く、収容される溶融金属の種類・濃度は、製造するめっき鋼板の用途・種類によって適宜決定される。
また、めっき浴の温度についても特に限定はしない。目的、めっきの種類や、設備的な設計事項に応じて適宜設定される。
【0016】
前記金属インゴット4は、鋼板Sに付着して減少するめっき金属を補うためにプリメルトポット5内で溶解して使用する。そのために、最終的にメインポット3の濃度が所定の値になっていれば良く、添加方法に関しては何ら規定しない。
【0017】
本発明では、前記メインポット3と前記プリメルトポット5を同一浴面にて連接し、めっき液を移送するために流路9を備える。流路9の大きさ(長さ、深さ、幅等)については特に限定しないが、本発明の効果を充分に得るためには、深さはポット深さの1/20〜1/8、幅はポット幅の1/20〜1/8であることが好ましい。
【0018】
例えば、溶融Znめっき鋼板を製造しようとする場合、スナウト1から流路9を経てプリメルトポット5までの間の浴面部分ではAl濃度が高い傾向にある。そして、メインポット3内で溶解したFeは不可避的にプリメルトポット5内に拡散し、浴面付近は温度低下に伴いFeが飽和となりAlと反応してFe2Al5などのFe−Al系トップドロスが発生しやすい。そのため、浴面付近を高温にしてFeを飽和状態としないことで、トップドロスの発生を抑制することが重要である。そこで、これらの状況を鑑みて、本発明では、Al濃度が高くトップドロスが生成しやすいスナウト1からプリメルトポット5までの間の浴面において、その浴面を覆うカバー6を配設することとする。このように浴面をカバー6で覆い、鉄が飽和していない高温に浴温を制御することで、すなわち、鉄を浴に溶解させておくことで、金属間化合物(Fe−Al系トップドロス)の形成析出を抑え、溶融金属めっき装置全体でのトップドロスを低減することが可能になる。
また、このようにカバー6を浴面に配することで、浴面の温度を高くして鉄の溶解量を増加することに加え、鉄が溶解していない部分へ溶解した鉄の拡散を行うことの相乗効果が望める。ゆえに、浴面の温度はメインポット3の温度と同じよりは高い方が望ましく、カバー6によって覆われる浴面の温度は、鉄が飽和しない温度である440℃以上に保持することが好ましい。
さらに、上記カバー6を配することで、めっき浴組成と空気中の酸素との酸化反応により発生する金属酸化物系のドロスを抑制することが可能となる。例えば、溶融Znめっき鋼板を製造する場合、めっき浴組成のZnと空気中のO2の酸化反応により金属酸化物系のドロスが発生する。ドロスによる品質の低下の問題は上述した通りであり、品質向上の点からも、浴面への酸素の供給を絶ち、金属酸化物系のドロスを発生させないことが重要となる。この点からも、本発明ではカバー6を設けることにより浴面と酸素の接触を遮断し酸化反応そのものを抑える作用を有することとなる。
カバー6として用いる素材は、めっき液に浸食されにくく、めっき液に浮けばよく、その他は特に限定しない。浴温を保温し、浴面への酸素の供給を絶ち金属酸化物系のドロスを発生させない点から、酸素を透過しにくく断熱性に優れた材質が好ましい。例えば、セラミックスなどが挙げられる。また、気孔率は、本発明の保温効果と酸素遮断効果に直接影響を及ぼすので40%以下が好ましい。気孔率が前記範囲であれば、浴面への酸素の供給を絶ち金属酸化物系ドロスの発生抑制に極めて高い効果が得られる。
カバー6の厚みは、特に限定するものではないが、割れ防止、保温性の観点から10mm以上が好ましい。
カバー6を溶融金属めっき装置内に配設するにあたっては、位置は浴機器交換に支障のないプリメルトポット側、流路、プリメルトポット内とし、被覆率はメインポット内が10%以上、流路が80%以上、プリメルトポット内が40%以上が好ましい。
【0019】
また、本発明では、金属インゴットの溶解をメインポットでは行わずプリメルトポットで行う。このように、メインポットのみでインゴット溶解を行う場合に比べれば、インゴットの溶解時に発生するドロス発生分は低減することはできる。しかし、ドロスの発生は不可避的である。また、メインポットにて発生したトップドロスがプリメルトポットに流れ込む場合もある。これらを考慮すると、金属インゴットの溶解をメインポットとは別のプリメルトポットで行うだけではドロス除去対策としては十分でない。そのため、本発明では、プリメルトポット5で発生したドロス、および、メインポット3で発生しプリメルトポット5に流れ込んだトップドロスの、メインポットへの流入(逆流)を防止するために、プリメルトポット5内もしくは流路9内に仕切板7を少なくとも一つ以上設けることが好ましい。ただし、前記プリメルトポット5内とは、上述の仕切板7の設置目的から、前記金属インゴットより前記流路側にかけての部分とする。
仕切り板7としては、めっき液に浸食されない素材であればよく、また、厚みも割れない程度であればよい。
仕切り板7の設置箇所についても特に限定しない。しかし、プリメルトポット内でかつ流路側端部に設置することが好ましい。流路側端部に設けることで、メインポットへの流入(逆流)をより効率よく防止できる。また、堰き止めたドロスの除去もしやすくなる。
また、仕切板7は、表面に浮くトップドロスの流入をさける目的を達成できれば深さについては特に限定しない。仕切板7は長い方が液面の変動などがあっても確実に堰き止めることができるが、長すぎると浴内の対流がしにくくなり成分の拡散が遅くなるため、必要以上に長くする必要はない。例えば、プリメルトポット内の流路端部に仕切り板7を設ける場合、浴面から深さ50mm以上に設置するのが好ましい。さらに好ましくは100mm以上である。
【実施例1】
【0020】
図1に示す溶融金属めっき装置を用い、通板速度:30〜180mpmで冷延鋼板(板厚:0.4〜3.2mm)を通板し、めっき浴組成:Zn99.5%、Al0.10〜0.20%、めっき浴(浸入)温度:440〜490℃の条件にて操作・調整を行って、めっき付着量40g/m2の溶融Znめっき鋼板を製造した。なお、金属インゴットの組成は0.6%Al−Znとした。また、カバー6としてはセラミックス(気孔率10%)を使用し、カバー6を配したことで、浴面の温度は450℃以上に保持された。仕切板7としては、気孔率3%の素材:セラミックスを用い、浴面からの深さ100mmの所まで配設した。また、メインポット3の容量は50m3、プリメルトポット5の容量は10m3である。また、鋼板Sに付着して持ち出される溶融金属は、金属インゴット4をプリメルトポット5に溶解して補充し、メインポット面を一定に維持した。その場合、AlがFeと反応して金属間化合物になって消費されることを考慮して、金属インゴット4のAl濃度がメインポットのAl濃度よりも高いものを使用し、実施例では、メインポット3のAl濃度を0.10〜0.20%に設定したため、上述したように金属インゴット4のAl濃度は0.3%のものを使用した。
比較例として図1にてカバー6および仕切板7の設置を行わない装置を準備し、それ以外は上記本発明例と同様の方法にて溶融Znめっき鋼板を製造した。
【0021】
以上により得られためっき鋼板に対して、以下に示す方法により、めっき処理後のめっき鋼板に対しての付着ドロス個数を調査した。
<ドロス個数>
鋼帯各部から500×500mmの大きさの試験片を12個採取し、試験片の表面を目視にて観察し、品質欠陥(ドロス)の個数を測定した。
【0022】
本発明例では、鋼板付着のドロスの個数は4個/m2と低かった。これはドロスの発生を抑制すると同時に、発生したドロスのメインポットへの混入を防止したことによる効果によると思われる。この結果、ドロスに対する問題が解消された。
一方、比較例では、鋼板付着のドロスの個数は40個/m2と高かった。比較例では、依然としてドロスによる問題が生じていることがわかる。
【実施例2】
【0023】
気孔率が0〜40%の各種カバー6を用いた以外は実施例1と同様の方法、条件にて試験を行い、溶融Znめっき鋼板を製造した。また、比較例として、実施例1にて製造した、図1にてカバー6および仕切板7の設置を行わない装置を準備し、それ以外は上記本発明例と同様の方法にて溶融Znめっき鋼板を製造した。
上記各々の溶融Znめっき鋼板の製造に用いた亜鉛浴に対して、各種気孔率のカバーを設置後、5時間を経過した時点でカバーを取り外し、浴面を観察した。そして、上記亜鉛浴の浴面の外観から、以下に示す評価方法により、ZnOの発生の有無を確認し評価した。
<評価方法>
◎:全面に金属光沢(純Zn浴面)
○:一部わずかに金属光沢なし(Zn+ZnO浴面)
△:わずかに金属光沢なし(Zn+ZnO浴面)
×:全面に金属光沢なし(ZnO浴面)
以上より得られた結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1より、気孔率40%のカバーをすることでZnO発生量が激減し、また、気孔率を20%以下とすることで全面に金属光沢となっており、ZnO発生有無の点からは、より好ましくは気孔率20%以下のカバー6を用いることが好ましいのがわかる。
【実施例3】
【0026】
仕切板7を配設する深さ位置を変化させて、それ以外は実施例1と同様の方法、条件にて試験を行い、溶融Znめっき鋼板を製造した。また、比較例として、実施例1にて製造した、図1にて仕切板7の設置を行わない装置を準備し、それ以外は上記本発明例と同様の方法にて溶融Znめっき鋼板を製造した。
上記各々の溶融Znめっき鋼板の製造に用いた亜鉛浴に対して、金属インゴット4を投入後、5時間を経過した時点で、流路9の浴面のドロス量の測定を行った。ドロスの測定は、流路9の浴面のドロスを柄杓で採取し、その重量を測定した。得られた結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
表2より、仕切板7を設置することで流路9の浴面のドロスの量が減少することがわかる。さらに、仕切板7を深さ50mm以上、さらには100mm以上とすることで、より一層優れた効果が得られている。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のめっき鋼板は、素材欠陥が発生することなく、均一に優れためっき品質を有することから、自動車、家電および建材等の分野を中心に、幅広い用途での使用が見込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態の一つである溶融金属めっき装置を示す図であり、(a)は側断面図、(b)はA−A矢視面である。
【図2】従来の溶融金属めっき装置を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1 スナウト
2 シンクロール
3 メインポット
4 金属インゴット
5 プリメルトポット
6 カバー
7 仕切板
8 トップドロス
9 流路
S 鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スナウトを有し、溶融金属を収容し鋼板を浸漬してめっきを施すメインポットと、めっきに使用するインゴットを溶解するプリメルトポットと、前記メインポットと前記プリメルトポットを同一浴面にて連接する流路を備える溶融金属めっき装置であって、
前記スナウトより前記流路側にかけての前記メインポットの一部から、前記流路を経て、前記金属インゴットより前記流路側にかけての前記プリメルトポットの一部まで浴面を覆う手段を配設することを特徴とする溶融金属めっき装置。
【請求項2】
前記プリメルトポット内もしくは前記流路内に、少なくとも一つ以上の仕切板を配設することを特徴とする請求項1に記載の溶融金属めっき装置。ただし、前記プリメルトポット内とは、前記金属インゴットより前記流路側にかけての部分とする。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−121065(P2008−121065A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306139(P2006−306139)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】