説明

溶融金属出湯用閉塞材

【課題】
揮発成分が少なく、長期間保管しても硬さなどが変化しにくく、保管安定性に優れた
マッド材の開発が課題であり、また耐摩耗性および耐食性を向上し、長時間出銑を安定し
て得られるとともに開孔難が発生しにくいマッド材を開発することにある。
【解決手段】
溶融金属出湯用閉塞材をアルミナ質、アルミナ・シリカ質、粘土質およびシリカ質原
料から選択される1種または2種以上の耐火原料、炭素質原料、炭化珪素系原料、窒化珪
素系原料、およびバインダーからなり、該バインダーがタール蒸留によって得られた軟ピ
ッチとタール蒸留によって得られた蒸留油の混合物であって、ナフタリン等の揮発成分濃
度が1.5重量%以下で、60℃における粘度が100〜2400mPa・sに調整され
た合成タールとしている。軟ピッチと蒸留油の混合物の60℃における粘度が600〜1
600mPa・sであることが好ましく、金属アルミニウム、金属珪素および金属アルミ
ニウム・珪素合金の1種または2種以上を0.5〜10重量%を添加配合することが好ま
しい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冶金分野における、例えば高炉出銑孔用閉塞材、電気炉出湯口用閉塞材等
に使用される溶融金属出湯口用閉塞材(以下マッド材ともいう)に関し、さらに詳しくは
保存安定性に優れた高耐用性溶融金属出湯用閉塞材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、マッド材には、アルミナ質、アルミナ・シリカ質、粘土質およびシリカ質原料
を主原料とし、炭素質原料、炭化珪素、窒化珪素等の副原料を添加し、さらにバインダー
として無水タールを添加、混練してなる材料を使用してきた。
【0003】
高炉におけるマッド材を例にとれば、1回の出銑における出銑時間が長くなると高炉
における作業負荷を低減するために長時間出銑可能なマッド材が種々検討されて発明され
てきた。その多くは、主原料の改善であり、また副原料についての改善であった。
【0004】
バインダー系の改良例としては、例えば特許第3519907号公報に、炭素質原料
、炭化珪素、窒化珪素系原料、ロー石、シャモット、アルミナ、スピネル及びマグネシア
から選択される1種または2種以上の耐火原料に、バインダーとして固定炭素32.5%
以上で、60℃の粘土として600〜1600cPに調整された無水コールタールピッチ
を8〜35重量%添加したことを特徴とする溶融金属出湯口用閉塞材(マッド材)が提案
されている。
【0005】
この発明は、従来の無水タールより固定炭素量の多い無水タールを使用するものであ
り、使用時に出湯口周辺の炉の温度により焼成される過程で、従来より高い固定炭素が残
留し、マッド材中カーボンボンドを強化し、その結果、マッド材の低温側から高温側まで
の強度を向上し、溶銑、スラグに対する耐摩耗性が大幅に向上するとしている。さらに、
マッド材の組織内に均一に分布するカーボン量を増加させ、緻密化することで耐食性も増
加し、長時間出銑が可能となり、亀裂の発生が抑えられ、開孔難も発生しにくくなるとし
ている。
【0006】
しかしながら、無水タールには、揮発成分(主としてナフタリン)が含まれており、
このような揮発成分を含有する無水タールをマッド材のバインダーとして使用した場合に
は、ナフタリンなどの揮発(昇華)によって、無水タールの粘度が上昇してマッド材の硬
さが変化し、出銑孔へのマッド充填作業が困難となる問題が発生した。また、この揮発に
よってマッド材の組織が粗雑化し、亀裂発生の原因となるという問題があった。
【0007】
このため、マッド材を製造直後に実機で使用した際には、該特許で述べられているよ
うな長時間出銑が可能ではあったが、数週間の保管後には耐用性にばらつきが出たり、悪
い場合には充填不良を引き起こしたり、出銑時間が従来の無水タールを使用した場合と比
べても、短時間になるなどの問題点があった。また、マッド材を保管中のナフタリンなど
の揮発は、環境にも悪影響を与えるという問題点もあった。
【特許文献1】特許第3519907号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そのため、揮発成分が少なく、長期間保管しても硬さなどが変化しにくく、保管安定
性に優れたマッド材の開発が課題であり、また耐摩耗性および耐食性を向上し、長時間出
銑を安定して得られるとともに開孔難が発生しにくいマッド材を開発することが課題であ
った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、マッド材用のバインダーとして揮発成分を多く含む無水タールを使用
することに問題があると考えて本発明に至ったもので、アルミナ質、アルミナ・シリカ質
、粘土質およびシリカ質原料から選択される1種または2種以上の耐火原料、炭素質原料
、炭化珪素系原料、窒化珪素系原料、およびバインダーからなり、該バインダーがタール
蒸留によって得られた軟ピッチとタール蒸留によって得られた蒸留油の混合物であって、
ナフタリン等の揮発成分濃度が1.5重量%以下で、60℃における粘度が100〜24
00mPa・sに調整された合成タールであることを特徴とする溶融金属出湯用閉塞材を
提供するにある。
【0010】
また、該軟ピッチと蒸留油の混合物の60℃における粘度が600〜1600mPa
・sであることを特徴とする溶融金属出湯用閉塞材を提供するにある。
【0011】
さらに、金属アルミミニウム、金属珪素および金属アルミニウム・珪素合金の1種ま
たは2種以上を0.5〜10重量%を添加することを特徴とする溶融金属出湯用閉塞材を
提供するにある。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、アルミナ質、アルミナ・シリカ質、粘土質およびシリカ質原料から選択さ
れる1種または2種以上の耐火原料、炭素質原料、炭化珪素系原料、窒化珪素系原料、お
よびバインダーからなり、該バインダーがタール蒸留によって得られた軟ピッチとタール
蒸留によって得られた蒸留油の混合物であって、ナフタリン等の揮発成分濃度が1.5重
量%以下で、60℃における粘度が100〜2400mPa・sに調整された合成タール
とすることによって、揮発成分の少ない合成タールを使用することで従来から使用してき
た揮発成分の多い無水タールを使用する場合と比べて、保管中の揮発成分の気散が少なく
なるために保管の安定性を著しく向上でき、揮発成分が少なくて長期間保管しても硬さな
どが変化しにくく、保管安定性に優れたマッド材となり、また耐摩耗性および耐食性を向
上し、長時間出銑を安定して得られるとともに開孔難が発生しにくくできるものである。
【0013】
また、軟ピッチと蒸留油の混合物の60℃における粘度が600〜1600mPa・
sとすることによって、合成タール中の軟ピッチ成分の多いタールを使用、すなわち高粘
度の合成タールを使用することで、焼成後のカーボンボンドの生成量が増加し、結合が強
化されて強度が向上するとともに、耐食性、耐摩耗性が向上し、マッド材として使用した
際には高耐用性が得られる。
【0014】
さらに、金属アルミミニウム、金属珪素および金属アルミニウム・珪素合金の1種ま
たは2種以上を0.5〜10重量%を添加することによって、高粘度の合成タールと金属
粉を併用してその相乗効果によって著しく強度向上がはかれ、高耐用性マッド材を得るこ
とができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の溶融金属出湯用閉塞材は、アルミナ質、アルミナ・シリカ質、粘土質および
シリカ質原料から選択される1種または2種以上の耐火原料、炭素質原料、炭化珪素系原
料、窒化珪素系原料、およびバインダーからなり、該バインダーがタール蒸留によって得
られた軟ピッチとタール蒸留によって得られた蒸留油の混合物であって、ナフタリン等の
揮発成分濃度が1.5重量%以下で、60℃における粘度が100〜2400mPa・s
に調整された合成タールであることを特徴としている。
【0016】
本発明におけるタール蒸留によって得られた軟ピッチと、タール蒸留によって得られ
た蒸留油との混合物を、以下合成タールと呼ぶ。また、上記軟ピッチとは、タールを脱水
して脱水タール(無水タール)としたものを、さらに常圧蒸留により蒸留し、200〜2
50℃の留分(ナフタリン油)と230〜280℃の留分(蒸留油、洗浄油、吸収油など
と称される)とを留去した後に残った釜残であって、沸点が350℃以上の多くの複雑な
高沸点成分と遊離炭素との混合物を意味している。また、蒸留油とは、上記230〜28
0℃の留分を意味している。
【0017】
上記合成タールに対して従来の無水タールは、上記において常圧蒸留する前の脱水タ
ールを意味しており、ナフタリン油などの軽質分が除去されておらず、主としてナフタリ
ンをおよそ10重量%程度有している。また、数%のフェノールを含有する。
【0018】
本発明に使用の合成タールは、そのナフタリンやフェノール、インデン、キノリン等
の揮発成分の含有量が1.5重量%であることが望ましい。合成タール中のナフタリン等
の揮発成分含有量が1.5重量%を超えるとマッド材の保管中の経時変化が大きくなると
いう問題点が起こる。合成タール中のナフタリン等の揮発成分含有量を1.5重量%以下
とする方法としては、特別な方法は不要であり、例えば以下の方法が採用できる。
【0019】
前述の通りナフタリンなどの軽質分を含有したままの無水タールを蒸留してナフタリ
ンなどの軽質分を留去し、さらに蒸留を続けて無水タールを蒸留油と軟ピッチに分けた後
、該蒸留油と軟ピッチとを混合(合成)する。この方法を採用すれば、蒸留油と軟ピッチ
のいずれもナフタリン等の揮発成分含有量が低いことから得られる合成タールのナフタリ
ン等の揮発成分含有量は1.5重量%以下となる。
【0020】
合成タールは、前記軟ピッチと蒸留油とを混合して得られ、軟ピッチと蒸発油との混
合比を変更することで、目的に応じてある程度任意の粘度を有する混合物(合成タール)
が得られる。
【0021】
合成タールの好ましい粘度は、60℃において100〜2400mP・sの範囲であ
る。粘度が100mP・s以下であると、固定炭素量が減少するために耐用性が低下する
などの点で不都合が生じる場合がある。一方、60℃における粘度が2400mP・sを
超えると、出銑孔への充填作業に必要なマッドの硬度を得るためのタール量が増加するた
めに気孔率が増加し、耐用性が低下するなどの不都合が生じる場合がある。より好ましい
粘度の範囲は、150〜1600mP・sの範囲である。
【0022】
さらに、粘度範囲を600〜1600mP・s(以下、高粘度の合成タールと称す)
とすることで、より高耐用のマッド材を得ることが可能となる。これは、合成タールが前
述のごとく軟ピッチと蒸発油の混合物であることによる。合成タールをマッド材に配合し
た際、加熱により蒸発油の大部分は分解、揮発して消失するが、軟ピッチには高分子量物
質が多く含まれるためカーボンボンドを形成する。
【0023】
高粘度の合成タールは、この軟ピッチの多い材料であるため、これを使用するとカー
ボンボンドの形成量が多くなり、高強度化することが可能となる。また、マッド材の組織
全体を強化し、高耐用性マッドを得ることが可能となるのである。つまり、高粘性の合成
タールと使用することで、長期間の保存性の良い高耐用性マッドを得ることが可能となる

【0024】
合成タールの添加量は、充填作業性とマッドガンの能力とに基づいて調整されるが、
通常5〜25重量%の範囲で、その効果は十分である。
【0025】
また、同一粘度の合成タールと無水タールをそれぞれ同量ずつ添加したマッド材を作
成し、焼成後の強度を調べると、合成タールの方が高強度となった。これは、高温の焼成
過程でのカーボンボンドの形成が、より揮発成分の少ない合成タールで形成され易く、揮
発成分の多い無水タールで阻害されていると解釈される。この点でも、合成タールを使用
する方が有利といえる。
【0026】
また、金属アルミニウム、金属珪素および金属アルミニウム・珪素合金の1種または
2種以上を0.5〜10重量%を添加することが好ましい。金属Siあるいは金属Alの
添加効果はある程度既知の事実である。しかし、高粘性の合成タールと組み合わせること
で、これらの添加により加熱後のマッド材の強度が特に著しく向上するのである。この種
の金属添加効果の原因は定かではないが、炭化物の生成が寄与すると考えられている。高
粘性の合成タールと併用することで、カーボンボンド形成の効果と炭化物の結合効果とが
相乗的に寄与しあって、特に高強度となるものと推定される。
【0027】
本マッド材の耐火性骨材としては、アルミナ質、アルミナ・シリカ質、粘土質および
シリカ質原料から選択される1種または2種以上の耐火原料、炭素質原料、炭化珪素、窒
化珪素系原料などから構成される。上述の骨材の例としては、焼結アルミナ、電融アルミ
ナ、バンド頁岩、ボーキサイト、シャモット質、ロー石などの原料を使用できる。
【0028】
アルミナ質、アルミナ・シリカ質、粘土質およびシリカ質原料から選択される1種ま
たは2種以上の酎火原料は、主骨材をなし、5〜75重量%の範囲で添加する。5重量%
未満では低気孔率が得られない。また、75重量%を超えると耐食性が低下するために好
ましくない。
【0029】
炭素質原料としては、黒鉛、土状黒鉛、石炭コークス、石油コークスおよびそれらコ
ークスの粉末、黒鉛電極屑、カーボンブラック、石炭ピッチ、石油ピッチなどが使用可能
である。炭素質原料は、スラグの浸透抑制並びに過焼結抑制を目的に添加されるものであ
り、添加量は3〜20重量%の範囲である。3重量%未満であると、焼結過多となり好ま
しくない。一方、20重量%を越すと、著しく強度が低下するために好ましくない。
【0030】
炭化珪素質原料は、スラグに対する耐食性向上を目的として添加されるものであり、
その添加量は5〜50重量%の範囲添好ましい。5重量%未満では、耐食性向上の寄与が
少ない。50重量%を超えると、焼結後の強度が低下し好ましくない。炭化質原料には、
アチソン法で製造した炭化珪素質原料や、シリカを還元炭化した炭化珪素原料などが使用
可能である。
【0031】
窒化珪素質原料も、耐食性向上を狙いとして添加されるが、その添加量は5〜45重
量%とすることが好ましい。5重量%未満では、耐食性向上に対する十分な効果が得られ
ない。一方、45重量%を超えると、コストに見合った添加効果が得られず好ましくない
。窒化珪素系原料には、シリカを還元窒化して得た窒化珪素、金属珪素を直接窒化した窒
化珪素、フェロシリコンを直接窒化した窒化珪素鉄などが使用可能である。
【実施例】
【0032】
粘度の異なる合成タール並びに無水タールを用い、表1に示すような配合でマッド材
を本発明の実施例と比較例を作成して比較した。材料の評価方法としては、以下の4つの
方法を採用した。
【0033】
保管時の安定性を硬度変化で評価した。具体的には、35℃の恒温室にサンプルを保
管し、その前後での硬度を針進入式の硬度計で測定し、増加率を測定した。値が大きくな
るほど、保管の安定性が劣ることになるが、表1から実施例1〜4のように本発明の合成
タールの優位性が明らかである。
【0034】
表1 本発明の実施品と比較品の比較表
【表1】

【0035】
また、高炉で使用された際の充填不良の発生率を調査した。本発明の合成タールを使
用したマッド材では、充填不良の発生はほとんどなく、その発生率の低いことが分る。無
水タールを用いたマッド材の充填不良発生原因は、マッド材が硬くなることに起因するも
のであった。また、マッド材の製造後の保管時間の長いものほどマッド材が硬くなり、充
填不良となっていた。この面でも、本発明の優位性が理解される。
【0036】
他方、1400℃で3時間焼成後の曲げ強度を測定した。一般には曲げ強度が大きい
材料は、耐食性に優れ、長時間出銑が可能となる。本発明の材料のものは、表1の実施例
1〜4のようにいずれも良好であるが、実施例3、4のように特に金属との併用系で高強
度材料が得られることが分る。
【0037】
さらに、これらのマッド材を実機使用した際の平均出銑時間を調査した。本発明にな
るマッド材の優位性がこの面でも明らかである。
以上のように本発明によって、長時間出銑が可能なマッド材を得られるとともに、保
管の安定性に優れるマッド材を得ることが理解できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ質、アルミナ・シリカ質、粘土質およびシリカ質原料から選択される1種ま
たは2種以上の耐火原料、炭素質原料、炭化珪素系原料、窒化珪素系原料、およびバイン
ダーからなり、
該バインダーがタール蒸留によって得られた軟ピッチとタール蒸留によって得られた
蒸留油の混合物であって、ナフタリン等の揮発成分濃度が1.5重量%以下で、60℃に
おける粘度が100〜2400mPa・sに調整された合成タールであることを特徴とす
る溶融金属出湯用閉塞材。
【請求項2】
軟ピッチと蒸留油の混合物の60℃における粘度が600〜1600mPa・sであ
ることを特徴とする請求項1に記載の溶融金属出湯用閉塞材。
【請求項3】
金属アルミニウム、金属珪素および金属アルミニウム・珪素合金の1種または2種以
上を0.5〜10重量%を添加することを特徴とする請求項2に記載の溶融金属出湯用閉
塞材。