説明

溶融金属浴中ロール、転がり軸受及びロールセット、並びに、溶融金属浴中ロールの回転支持方法

【課題】転がり軸受の内輪部材がロール軸との熱膨張差によって破損することなく、組み付け時および昇温途中においても振れ回りの少ない安定した回転ができる溶融金属浴中ロールの支持構造および溶融金属浴中ロールの支持方法を提供する。
【解決手段】溶融めっき浴中に組み込まれ、溶融金属浴中ロールと溶融金属浴中転がり軸受とからなり、前記溶融金属浴中ロールの軸部分が前記溶融金属浴中転がり軸受の内輪部材より熱膨張率の大きい軸材質である溶融金属浴中ロールセットであって、常温での前記内輪部材の内径が前記軸部分との熱膨張差分から締め代を引いた分以上前記軸部分の径より大きく、前記軸部分の外面と前記内輪部材の内面との間にめっき浴温度で溶融する皮膜層を有する。皮膜は軸部分の円筒表面と軸受内輪の内面とのどちらに施されてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶融金属めっき浴中のロール、転がり軸受及びロールセット、並びに、溶融金属浴中ロールの溶融金属浴中での回転支持方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼帯を連続でめっきする方法として、溶融めっき槽内にポットロール(またはシンクロール)やサポートロール(またはイグジットロール)を配して溶融金属中に鋼帯の通過を導くことが特に鉄鋼業界において主流となっている。(図8)
これらの溶融金属中に配置されるロールにおいても、通常のロールと同様、回転自由なロール支持機能が求められるため、すべり軸受(図6)や転がり軸受(図7)が採用されている。なお、図6及び図7は、それぞれ、すべり軸受け及び転がり軸受けを使用する溶融金属浴中のロールの正面概要図であり、軸受の構造を一部断面図(左側)として示している。すべり軸受は構造が簡単なため、多く採用される傾向にあるが、一方で、回転抵抗が大きかったり、回転抵抗が変動したりするといった短所があるため、転がり軸受の適用が、さかんに検討されている。この転がり軸受を、高温の溶融金属中で採用するにあたっては、転がり軸受の耐久性の問題から、高温の機械特性に優れ、溶融金属の侵食にも耐えるセラミックス材料が選定される。
【0003】
一般にセラミクス材料は、ポットロールやサポートロールの軸や胴の材質に採用されるステンレス系材料を代表とする耐熱金属材料に対し熱膨張率が小さい。そのため、ロールの保持機構としての転がり軸受は、組み立て後、運転に到るまでの昇温過程で、ロール軸との熱膨張差により軸受構成部品の一部が破損し、回転不能となる。
これを回避するため、あらかじめ熱膨張を吸収させる膨張代を設計に考慮するが、この膨張代部分に溶融金属が侵入し固まったり、時には浴中の固形不純物(ドロス)が侵入したりして、やはり昇温過程で破損してしまう。
また、軸受の支持・固定を行う(軸受箱など)機構まで含めると、一旦、浴中で回転が可能となり、一定期間運転をしたとしても、運転後の冷却過程で熱膨張差に起因する部品の破損、例えば、ロール軸方向の収縮差による軸受の破損などが散見される。
【0004】
前述の課題に対し、主にセラミックス製ころがり軸受を対象とした、溶融金属浴中のロール支持機構が各種考案されている。
例えば、特許文献1では、転がり軸受の支持を複数の軸受支持部材と軸受押さえ部材とで弾発的に抱持する開放型の保持を行い、転がり軸受の破損を防止している。
また、特許文献2,特許文献3,特許文献4のように、転がり軸受部に溶融金属が侵入しないよう、耐熱シール材料を転がり軸受周辺に配し、そのシール部材を機械的に押し付けて密封したり、さらには、その密封部を空気などの気体で昇圧したりしている。
溶融金属の侵入防止技術と言う観点でみると、特許文献5のように、ロール軸と軸受部材との径方向のすきまを溶融金属の表面張力により侵入してこない範囲に限定する技術もある。
また、ロール軸方向の熱収縮に着目した技術としては、特許文献6,特許文献7のように、軸受箱の内周面に溶融金属に対し濡れ性が悪い材料を被覆する技術などがある。
【0005】
【特許文献1】特開平1―159359号公報
【特許文献2】特開平4−83858号公報
【特許文献3】特開平4−187750号公報
【特許文献4】特開平4−258521号公報
【特許文献5】特開2000−319770号公報
【特許文献6】特開平7−173593号公報
【特許文献7】特開平9−143665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように、ロール軸部材と転がり軸受部材との熱膨張差に起因する転がり軸受の破損問題は、溶融金属浴中転がり軸受の適用に大きな壁となっており、示した各種の技術による対策が施されてきた。
しかし、これらの技術は、転がり軸受を含むロール保持機構が複雑になり、かつ、例えばシール材や耐濡れ性材の耐久性が不十分であり、頻繁な交換が必要になるなどから、実用上、経済的でないという問題を抱えている。
特に、転がり内輪部材の破損に関して、先の開示技術らでは、単に軸との間で膨張代を充分にとるということなどでしか対応されていない。
単に膨張代をとってロールを転がり軸受に組み込む場合には、通常、常温で行われる組み込み時にロールの回転芯が出ていない状態となり、予熱・昇温過程を含む運転準備期間中さらには充分にロールや転がり軸受が昇温しきれていない運転初期に到るまで、この芯の出ていない状態が続き回転精度が悪くめっき鋼板の表面品質などを損ねるという問題がある。この問題はロール軸径が大きくなると、膨張代をより大きく取らなくてはならないことから、さらに顕著となる。
本発明は、前述の課題を鑑み、特に、転がり軸受の内輪部材がロール軸との熱膨張差によって破損することなく、組み付け時および昇温途中においても振れ回りの少ない安定した回転ができる溶融金属浴中ロールの支持構造および溶融金属浴中ロールの支持方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の目的を達成するため、なされたものであって、その要旨は以下のとおりである。
(1)溶融めっき浴中の転がり軸受で回転支持され、軸部分が内輪部材より熱膨張率の大きい軸材質である溶融金属浴中ロールであって、常温での前記軸部分の外径が、前記内輪部材との熱膨張差分から締め代を引いた分以上前記内輪の内径より小さく、
前記内輪部材と前記軸部分との隙間以下の厚さを有し、軸部分の円筒表面がめっき浴温度で溶融する表面皮膜を、常温で施していることを特徴とする溶融金属浴中ロール。
(2)前記表面皮膜の組成が、溶融めっきの成分組成と同じ成分組成、または溶融めっきの成分よりも溶融めっき主成分の割合が大きい成分組成、であることを特徴とする(1)に記載の溶融金属浴中ロール。
(3)前記表面皮膜の組成が、溶融めっきの融点よりも低い融点となる成分組成であることを特徴とする(1)に記載の溶融金属浴中ロール。
(4)前記表面皮膜の常温での厚さが、前記軸部分と前記内輪部材との熱による直径の膨張差のさらに半分から締め代を引いた分以上であり、前記内輪部材の内半径と前記軸部分の外半径の差以下であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の溶融金属浴中ロール。
(5)前記表面皮膜の存在する面積率が2〜98%であることを特徴とする(1)〜(4)に記載の溶融金属浴中ロール。
(6)前記皮膜の無い部分が軸方向及び周方向のいずれか1つの方向又は両方向に連通していることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の溶融金属浴中ロール。
(7)前記表面皮膜が0.01〜0.5mmの間隔を置いて不連続に存在することを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の溶融金属浴中ロール。
【0008】
(8)溶融めっき浴中で溶融金属浴中ロールを回転支持し、内輪部材の材質が浴中ロールの軸部分より熱膨張率の小さいものである溶融金属浴中転がり軸受であって、
常温での前記内輪部材の内径が少なくとも前記軸部分との熱膨張差分から締め代を引いた分以上前記軸部分の外径より大きく、前記内輪部材と前記軸部分との隙間以下の厚さを有し、前記内輪部材の内面がめっき浴温度で溶融する表面皮膜を、常温で施していることを特徴とする溶融金属浴中転がり軸受。
(9)前記表面皮膜の組成が、溶融めっきの成分組成と同じ成分組成、または、溶融めっきの成分よりも溶融めっき主成分の割合が大きい成分組成、であることを特徴とする(8)に記載の溶融金属浴中転がり軸受。
(10)前記表面皮膜の組成が、溶融めっきの融点よりも低い融点となる成分組成であることを特徴とする(8)に記載の溶融金属浴中転がり軸受。
(11)前記表面皮膜の常温での厚さが、前記軸部分と前記内輪部材との熱による直径の膨張差のさらに半分から締め代を引いた分以上であり、前記内輪部材の内半径と前記軸部分の外半径の差以下であることを特徴とする(8)〜(10)のいずれかに記載の溶融金属浴中転がり軸受。
(12)前記表面皮膜の存在する面積率が2〜98%であることを特徴とする(8)〜(11)に記載の溶融金属浴中ロール。
(13)前記皮膜の無い部分が軸方向及び周方向のいずれか1つの方向又は両方向に連通していることを特徴とする(8)〜(12)のいずれかに記載の溶融金属浴中転がり軸受。
(14)前記表面皮膜が0.01〜0.5mmの間隔を置いて不連続に存在することを特徴とする(8)〜(13)のいずれかに記載の溶融金属浴中転がり軸受。
【0009】
(15)溶融めっき浴中に組み込まれ、溶融金属浴中ロールと溶融金属浴中転がり軸受とからなり、前記溶融金属浴中ロールの軸部分が前記溶融金属浴中転がり軸受の内輪部材より熱膨張率の大きい軸材質である溶融金属浴中ロールセットであって、常温での前記内輪部材の内径が前記軸部分との熱膨張差分から締め代を引いた分以上前記軸部分の径より大きく、前記軸部分の外面と前記内輪部材の内面との間に、その隙間の厚さ以下のめっき浴温度で溶融する皮膜層を有することを特徴とする溶融金属浴中ロールセット。
(16)前記皮膜層の組成が、溶融めっきの成分組成と同じ成分組成、または、溶融めっきの成分よりも溶融めっき主成分の割合が大きい成分組成、であることを特徴とする(15)に記載の溶融金属浴中ロールセット。
(17)前記皮膜層の組成が、溶融めっきの融点よりも低い融点となる成分組成、であることを特徴とする(15)に記載の溶融金属浴中ロールセット。
(18)前記皮膜層の常温での厚さが、前記軸部分と前記内輪部材との熱による直径の膨張差のさらに半分から締め代を引いた分以上であり、前記内輪部材の内半径と前記軸部分の外半径の差以下であることを特徴とする(15)〜(17)のいずれかに記載の溶融金属浴中ロールセット。
(19)前記皮膜層の存在する面積率が2〜98%であることを特徴とする(18)に記載の溶融金属浴中ロールセット。
(20)前記皮膜の無い部分が軸方向及び周方向のいずれか1つの方向又は両方向に連通していることを特徴とする(15)〜(19)のいずれかに記載の溶融金属浴中ロールセット。
(21)前記表面皮膜が0.01〜0.5mmの間隔を置いて不連続に存在することを特徴とする(15)〜(20)のいずれかに記載の溶融金属浴中ロールセット。
(22)前記内輪部材の材質がセラミクスであり、前記軸部分の材質が鋼であることを特徴とする(15)〜(21)に記載の溶融金属浴中ロールセット。
【0010】
(23)溶融金属浴中ロールの軸部分の熱膨張率が溶融金属浴中転がり軸受の内輪部材より大きい材質である溶融金属浴中ロールセットを溶融めっき浴中に組み込んで、前記溶融金属浴中ロールを前記溶融金属浴中転がり軸受によって回転支持する方法において、
常温での前記内輪部材の内径を前記軸部分との熱膨張差分以上前記軸部分の径より大きくなるように加工し、前記軸部分の外面と前記内輪部材の内面との間にめっき浴温度で溶融する皮膜層を施すことを特徴とする溶融金属浴中ロールの回転支持方法。
(24)前記溶融金属浴中ロールセットを溶融めっき浴中に組み込んだ後、予熱を含む運転中の昇温途中において、前記皮膜層を軟化または溶融させ、余剰の皮膜材質を前記軸部分の外面と前記内輪部材の内面との間から排出することを特徴とする請求項23に記載の溶融金属浴中ロールの回転支持方法。
(25)(23)又は(24)に記載された方法で支持されたロールにより、めっき浴中を通板することを特徴とする溶融金属めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の、溶融金属浴中ロール、転がり軸受及びロールセットを用いることにより、溶融金属めっき鋼板の製造の際に、組み付け時および昇温途中においても振れ回りの少ない安定した回転ができる。すなわち、溶融金属浴中ロールと転がり軸受との間に、めっき浴温度で溶融する表面皮膜または皮膜層が常温において存在し、昇温中において軟化、溶融、排出されることにより、熱膨脹差による転がり軸受の内輪部材を押し広げる力が緩和され、前記内輪部材の破損を防止することができる。
【0012】
表面皮膜の組成を溶融めっきの成分組成と同じ成分組成または溶融めっきの成分よりも溶融めっき主成分の割合が大きい成分組成に限定する場合は、めっき浴成分に影響を与えずに上記の内輪部材の破損を防止することができる。
【0013】
また、表面皮膜の組成を溶融めっきの融点よりも低い融点となる成分組成に限定する場合は、転がり軸受の内輪部材を押し広げる力がさらに緩和され、前記内輪部材の破損を防止する効果を高めることができる。
【0014】
また、前記表面皮膜の常温での厚さを適当な範囲に限定すれば、内輪部材を押し広げる力を操業上適当な範囲に収めることができる。
【0015】
また、表面皮膜を不連続にし、皮膜の無い部分と連通させれば、昇温中において軟化、溶融、排出がスムーズになり、前記内輪部材の破損を防止する効果を高めることができる。
【0016】
さらに、表面皮膜の存在する面積率を適当な値に限定することにより、昇温中において軟化、溶融、排出がさらにスムーズになり、前記内輪部材の破損を防止する効果をさらに高めることができる。
これ以外にも、本発明により、転がり軸受の内輪部材の損傷や劣化は少ないので、軸受は繰り返し使用することが可能となるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。
図1に本発明に用いるロール及び転がり軸受の組み込み状態を示す。ロール2には転がり軸受7が組み込まれている。
図2(a)には、ロール軸と軸受部を拡大し断面した図を示す。転がり軸受7は、耐熱セラミックス製の外輪部材8と耐熱セラミックス性の内輪部材9と耐熱セラミックス製の球10および球10を間隔をあけて保持する保持器(図示していない)より構成されている。内輪部材9の内径面はロール2の金属材料製の軸部11の外面と対向している。
転がり軸受分部材8,9,10に使用される耐熱セラミックスは、溶融浴温度においても、充分な機械的強度を有する材料であれば、その種類は問わないが、Si3N4、SiC,Al2O3、Zr2O3、TiOのいずれか1つを主成分とするセラミックスや、これらのセラミックスの2つ以上の組み合わせからなるセラミックスであることが望ましい。また、軸受部材毎に異なる材料で構成されていても良いが、滑らかな回転を得る観点から、同じ材料で構成されることが、望ましい。
【0018】
セラミックス製軸受内輪部材9の内径寸法は、金属材料からなる軸部11の外径寸法よりセラミックス材料と金属材料の熱膨張差の分だけ大きな寸法としている。その結果、常温では内輪部材9の内径面と軸部11外径面の間には膨張代としての空間が存在している。この軸と軸受のセットを溶融浴中に沈める前に、この空間を予め埋めて、軸受内輪部材9と軸部11との間に溶融金属浴を侵入させないために、軸受内輪部材9と軸部11との隙間以下の厚さの皮膜12を、軸部11表面または、軸受内輪部材9の内径表面のいずれか1面に設けている。
なお、皮膜12の厚さは軸受内輪部材9と軸部11との隙間以上であれば組み込めないが、内輪ががたつかなければ、ちょうどその隙間の厚さである必要はない。
【0019】
このことを、例えば軸部分が軸受の内輪部材より熱膨張率の大きい材質である
溶融金属浴中ロールの場合において説明すると、
軸部分の外径と内輪部材の内径とが下記<1>式の関係を満たし、且つ軸部分の円筒表面に、該軸部分と該内輪部材と間に形成される間隙(Db−Da)/2以下の厚さtf(mm)を有し、めっき浴温度で溶融する表面皮膜が、常温において施されていることを示すものである。
Da≦Db−(|da−db|)−α ・・・・ <1>
ただし、Da:常温での軸外径(mm)、Db:常温での内輪内径(mm)
da:めっき浴温度での軸の外径の熱膨張量(mm)、db:めっき浴温度での内輪の内径の熱膨張量(mm)、α:軸と内輪部材の締め代(mm)
である。
この関係は、上記とは逆に、軸受の内輪部材の材質が浴中ロールの軸部より熱膨張率の小さい材質である溶融金属浴中ロールの場合では、
内輪部材の内径と軸部分の外径とが下記<2>式の関係を満たし、且つ該内部材の内表面に、内輪部材と軸部分との間に形成される間隙(Db−Da)/2以下の厚さtf(mm)を有し、めっき浴温度で溶融する表面皮膜が、常温において施されていることを意味するものである。
Db≧Da−(|da−db|)−α ・・・・ <2>
【0020】
図2(b)は、軸部11に皮膜12を軸部の内輪部材と対向する表面の全面に設けた場合を、軸受7を取り外した状態で、軸部11の表面外観を図示したものである。ここでは、皮膜12は、膨張代を埋める厚みで面に対し均一厚みである。皮膜12の材質は、最終的に、運転時の定常温度に到るまでの昇温過程で自らの強度を下げ、溶融し流動するため、融点が金属浴温以下であるものを選定するが、流出した後、溶融金属浴に混入されることから、溶融金属浴と同じ成分、または、溶融金属めっき浴主成分の割合が大きいことが望ましい。
【0021】
皮膜12の厚みは、組み付け前の常温において、軸受内輪部材と軸部の2つの異なる材質の熱膨張量差に対応した厚みにする。すなわち、
皮膜厚み=(軸直径の膨張量−軸受内輪内直径の膨張量)/2
で表される。また、軸受の組み込みに締め代が必要な場合は、皮膜の厚さを、
皮膜厚み={(軸直径の膨張量−軸受内輪内直径の膨張量)/2}+締め代
とすることで、外部から当該面への溶融浴やドロスなどの異物の侵入を皆無にすることができる。この際の膨張量差は操業浴温度と常温との温度差に基づいて算出することが望ましい。
すなわち、下式<3>を満たすようにすることがこのましい。
(Db−Da)/2≧tf≧(|da−db|)/2−α ・・・・<3>
但し、Da:常温での軸外径(mm)、Db:常温での内輪内径(mm)
da:めっき浴温度での軸の外径の熱膨張量(mm)、db:めっき浴温度での内輪の内径の熱膨張量(mm)、α:軸と内輪部材の締め代(mm)
【0022】
皮膜12の形成方法は、皮膜が形成されれば、いかなる方法でもかまわないが、皮膜施工コストの面から工業的には、めっき、溶射、溶接肉盛、ライニング(拡散接合、はめ込み、接着、流し込み)が適用できる。より具体的には、皮膜12をガスフレーム溶射、高速ガスフレーム溶射、プラズマ溶射、爆発溶射または電気めっき、溶融めっきのいずれかで被覆することが望ましい。
【0023】
次に、前述の皮膜12の適用形態にさらなる工夫を加えた実施形態を説明する。
図3(a)(b)に示すように、軸部の内輪部材と対向する表面に、皮膜を形成しない空間13を軸方向および周方向に点在させることで、皮膜12の変形をよりしやすくし、軸が軸受内輪を半径方向に押し広げる力をより小さくすることでも、軸受にかかる反力を抑制することが可能である。
【0024】
また、図4(a)(b)に示したとおり、ここでは、皮膜12を設けない空間13を軸部の周方向に帯状に設けている。そのため、皮膜12はロール胴部側12−1とロール軸端側12−2に分割してある。このように、皮膜12を設ける範囲を軸部の内輪部材と対向する表面の全面とせず、面積比率を小さくすることによって、温度上昇に伴う軸及び軸受の熱膨張差で発生する軸部が軸受内輪部材を半径方向に押し広げる力の伝達を抑制することができる。例えば、図2(a)(b)に示したように皮膜12を軸部11の内輪部材と対向する表面の全面に施した場合、軸部が軸受内輪部材を半径方向に押し広げる力は、皮膜12の変形抵抗に相当し、その反力の100%が軸受内輪に伝達される。一方で、図4(a)(b)に示したように皮膜を施さない空間13を設け、皮膜12の存在する面積率(皮膜面積率=(軸部表面または軸受内輪部材の内表面に施された皮膜面積/軸部の内輪部材と対向する表面積または内輪部材の内表面積)×100(%))を10%とした場合には、前述の半径方向に押し広げる力を概ね10%に抑制できることとなる。さらには、この場合、皮膜12の変形がしやすくなることから、軸が軸受内輪を半径方向に押し広げる力は、さらに低減できる。
このような皮膜面積を少なくすることによる効果は、皮膜面積率を2%減少させると現れてくる。しかし、皮膜面積率が2%未満にまで減ると、皮膜が存在していないのと同様となり、軸受が常温で軸を保持できなくなる。
【0025】
大気中で軸部11と軸受7を組み込んだ場合、空間13には空気が閉じ込められおり、例えば、浴温度がより高いなどの運転条件下では、昇温過程で膨張し内圧を高めてしまい、軸受内輪部材9がうまく軸と嵌合しないことがある。そのため、閉じ込められた空気を当該空間外に排出するための流路を予め設けておくことが有効である。すなわち、空間13を外部と連通させるようにすることが有効である。
【0026】
この流路となる空間13において、溶融金属浴にさらされる境界部位においては、その流路断面は、溶融金属浴の侵入を防ぐため、溶融金属浴の表面張力によって侵入できないほどの狭い流路断面とすることが望ましい。この溶融金属浴が侵入しえない流路断面における代表長(流路断面のいすれかの対角または長径の最大距離)は、例えば、Zn溶融浴などにおいては、0.5mm以下である。一方で空気などの気体が充分に流動し、排出しうる流路断面における代表長(流路断面のいすれかの対角または長径の最大距離)は、0.01mm以上である。
【0027】
図5中(a)(b)には、空間13が外部と連通した場合の例を示す。図5(b)において、xは外部と連通する流路の周方向の間隔を示す。このような場合、皮膜12の膜厚が充分に小さく0.5mm以下であれば、図示xの寸法は大きくとも溶融金属浴は溶融金属浴の表面張力により、侵入しないためxの寸法は自由である。一方で、皮膜12の膜厚が0.5mmを超える場合には、図示寸法xを0.5mm以下にすることで膜厚に関係なく、溶融金属浴の侵入を防ぐことが可能である。
【0028】
以上は、軸11表面に皮膜12を施した場合で説明したが、軸受内輪部材9の内径面に皮膜12を設けた場合も同様である。
【0029】
図2〜図5に示した皮膜12と空間13の配置パターンは、それぞれを部分的に配置し1つの軸と軸受の対向面内において複数のパターンを組み合わせることも可能である。
この軸と軸受の組み合わせを用いると、運転に伴う皮膜12の変形または溶融後に、軸受7と軸部11を解体した後、再びロール軸部11に別の皮膜12を新たに被覆し、ロール軸部11および転がり軸受7を再使用することができる。
【実施例】
【0030】
次に、具体的な実施例を示す。表1に示すように、各寸法の軸及び軸受の軸部に、皮膜の材質厚さ、皮膜の面積率、皮膜のパターンを変えた皮膜を施した。これを実際の連続溶融めっきラインの浴槽に表中の各温度条件で5時間浸漬し、その後、軸受と軸を解体して軸受の破損や嵌合異常(軸と軸受の変形、欠け、クラック、位置(芯)ずれなど)、軸と軸受との間への溶融金属浴、またはドロスの侵入有無を観察し、比較した。その結果を表1に併せて示す。
【0031】
軸材質はSUS316(線膨張係数:18.0×10-6-1)、転がり軸受材質はSi3N4(線膨張係数:3.2×10-6-1)であり、皮膜には、Zn100%の材料を溶射した後、機械加工により、所定の膜厚に加工している。膜厚は、浴温における熱膨張量に相当する膜厚とし、締め代は20μmとしている。このとき使用した浴は溶融Zn浴100%であり、それぞれ、浴温470℃、570℃の2水準で比較した。
【0032】
【表1】

【0033】
評価は、軸受の割れや嵌合異常があった場合、金属浴またはドロスの侵入があった場合、について×として評価欄各欄に示しており、いずれか1つの不具合が起き、回転不良を起こした場合を総合評価×、前述のいずれも起きなかったものは回転良好で問題なく運転できたとして総合評価○とした。高温の570℃の浴温でも問題なく運転できたものについては、前述より良好であることから特に総合評価◎とした。その結果を表1に併せて示す。
【0034】
比較のために、従来方式(皮膜のない場合)も表1に示した。表1中従来例aは、膨張代を取らなかったケースであり、この場合、軸の膨張力が軸受の強度を超えたことで、軸受が割れた。従来例bは膨張代をとって運転したものである。軸や軸受が十分に高温にならないうちに溶融亜鉛やドロスが軸と軸受のすきまに侵入すると同時に、溶融亜鉛やドロスが軸または軸受に触れ冷却され凝固してしまい、充分な膨張代をとっているにも関わらず、軸受が割れてしまい運転できなかった。
【0035】
実施例1は、皮膜を全面に施した例である。470℃の浴温では、軸受の割れおよび浴やドロスの侵入もなく、問題なく運転できた。しかし、浴温を570℃として試験した場合には軸受の割れが発生した。これは、皮膜膜さが570℃に対して不足していることによると考えられる。
実施例2では、前述を踏まえ、浴温570℃に対応できるように膜厚を増して、かつ表1下Aに示した皮膜のパターンとして、皮膜面積を内輪部材と対向する軸部の全面面積の1/10(10%)として昇温に伴う軸の熱膨張に伴い発生する、軸受にかかる力を大幅に低減した。470℃では問題がなかったものの、570℃では嵌合異常が発生し、安定した回転が維持できなかった。
実施例3は実施例2と同じ膜厚仕様としたものである。ここでは、表下B図に図示した2箇所にガス流路を間隔0.5mmで設けた。570℃の高い温度の運転条件でありながらも、嵌合異常はなく、回転良好に安定して運転できた。
実施例4は実施例3と全く同じ考え方で径を実施例3の4倍にしたものである。そのため、皮膜厚みも実施例3の4倍になっている。径が大きくなり、軸と軸受の隙間が大きくなったのにもよらず、実施例3同様、回転良好に安定して運転できた。
実施例5は皮膜のパターンを表下図Cのように変更したものである。皮膜の面積率は上がっても、微細な接触パターンとなり皮膜の変形がしやすくなったことから、軸受を破壊することもなく、かつ浴の侵入も皆無なまま、大きな径であっても実施例4同様、回転は安定して良好に運転できた。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に用いるロール及び転がり軸受の組み込み状態を示す断面模式図。
【図2】本発明の常温でのロール及び軸受の組み込み状態を示す模式図であり、(a)は断面を、(b)は軸受を外した状態の軸の表面外観を示す。
【図3】本発明の常温でのロール及び軸受の組み込み状態を示す模式図であり、(a)は断面を、(b)は軸受を外した状態の軸の表面外観を示す。
【図4】本発明の常温でのロール及び軸受の組み込み状態を示す模式図であり、(a)は断面を、(b)は軸受を外した状態の軸の表面外観を示す。
【図5】本発明の常温でのロール及び軸受の組み込み状態を示す模式図であり、(a)は断面を、(b)は軸受を外した状態の軸の表面外観を示す。
【図6】すべり軸受構造を示す一部断面図を含む溶融金属浴中のロールの正面概要図である。
【図7】転がり軸受構造を示す一部断面図を含む溶融金属浴中のロールの正面概要図である。
【図8】溶融めっき槽内に鋼帯を通過させて連続でめっきする工程を示す図。
【符号の説明】
【0037】
1 ポットロールまたはシンクロール
2 サポートロールまたはイグジットロール
3 めっき浴
4 鋼帯
5 軸受
6 軸
7 軸受
8 軸受外輪部材
9 軸受内輪部材
10 球
11 軸
12 皮膜
13 皮膜間の空間
x 皮膜間の間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融めっき浴中の転がり軸受で回転支持され、軸部分が内輪部材より熱膨張率の大きい軸材質である溶融金属浴中ロールであって、常温での前記軸部分の外径が、前記内輪部材との熱膨張差分から締め代を引いた分以上前記内輪の内径より小さく、前記内輪部材と前記軸部分との隙間以下の厚さを有し、軸部分の円筒表面がめっき浴温度で溶融する表面皮膜を、常温で施していることを特徴とする溶融金属浴中ロール。
【請求項2】
前記表面皮膜の組成が、溶融めっきの成分組成と同じ成分組成、または溶融めっきの成分よりも溶融めっき主成分の割合が大きい成分組成、であることを特徴とする請求項1に記載の溶融金属浴中ロール。
【請求項3】
前記表面皮膜の組成が、溶融めっきの融点よりも低い融点となる成分組成であることを特徴とする請求項1に記載の溶融金属浴中ロール。
【請求項4】
前記表面皮膜の常温での厚さが、前記軸部分と前記内輪部材との熱による直径の膨張差のさらに半分から締め代を引いた分以上であり、前記内輪部材の内半径と前記軸部分の外半径の差以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の溶融金属浴中ロール。
【請求項5】
前記表面皮膜の存在する面積率が2〜98%であることを特徴とする請求項1〜4に記載の溶融金属浴中ロール。
【請求項6】
前記皮膜の無い部分が軸方向及び周方向のいずれか1つの方向又は両方向に連通していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の溶融金属浴中ロール。
【請求項7】
前記表面皮膜が0.01〜0.5mmの間隔を置いて不連続に存在することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の溶融金属浴中ロール。
【請求項8】
溶融めっき浴中で溶融金属浴中ロールを回転支持し、内輪部材の材質が浴中ロールの軸部分より熱膨張率の小さいものである溶融金属浴中転がり軸受であって、常温での前記内輪部材の内径が少なくとも前記軸部分との熱膨張差分から締め代を引いた分以上前記軸部分の外径より大きく、前記内輪部材と前記軸部分との隙間以下の厚さを有し、前記内輪部材の内面がめっき浴温度で溶融する表面皮膜を、常温で施していることを特徴とする溶融金属浴中転がり軸受。
【請求項9】
前記表面皮膜の組成が、溶融めっきの成分組成と同じ成分組成、または、溶融めっきの成分よりも溶融めっき主成分の割合が大きい成分組成、であることを特徴とする請求項8に記載の溶融金属浴中転がり軸受。
【請求項10】
前記表面皮膜の組成が、溶融めっきの融点よりも低い融点となる成分組成であることを特徴とする請求項8に記載の溶融金属浴中転がり軸受。
【請求項11】
前記表面皮膜の常温での厚さが、前記軸部分と前記内輪部材との熱による直径の膨張差のさらに半分から締め代を引いた分以上であり、前記内輪部材の内半径と前記軸部分の外半径の差以下であることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の溶融金属浴中転がり軸受。
【請求項12】
前記表面皮膜の存在する面積率が2〜98%であることを特徴とする請求項8〜11に記載の溶融金属浴中ロール。
【請求項13】
前記皮膜の無い部分が軸方向及び周方向のいずれか1つの方向又は両方向に連通していることを特徴とする請求項8〜12のいずれかに記載の溶融金属浴中転がり軸受。
【請求項14】
前記表面皮膜が0.01〜0.5mmの間隔を置いて不連続に存在することを特徴とする請求項8〜13のいずれかに記載の溶融金属浴中転がり軸受。
【請求項15】
溶融めっき浴中に組み込まれ、溶融金属浴中ロールと溶融金属浴中転がり軸受とからなり、前記溶融金属浴中ロールの軸部分が前記溶融金属浴中転がり軸受の内輪部材より熱膨張率の大きい軸材質である溶融金属浴中ロールセットであって、常温での前記内輪部材の内径が前記軸部分との熱膨張差分から締め代を引いた分以上前記軸部分の径より大きく、前記軸部分の外面と前記内輪部材の内面との間に、その隙間の厚さ以下のめっき浴温度で溶融する皮膜層を有することを特徴とする溶融金属浴中ロールセット。
【請求項16】
前記皮膜層の組成が、溶融めっきの成分組成と同じ成分組成、または、溶融めっきの成分よりも溶融めっき主成分の割合が大きい成分組成、であることを特徴とする請求項15に記載の溶融金属浴中ロールセット。
【請求項17】
前記皮膜層の組成が、溶融めっきの融点よりも低い融点となる成分組成、であることを特徴とする請求項15に記載の溶融金属浴中ロールセット。
【請求項18】
前記皮膜層の常温での厚さが、前記軸部分と前記内輪部材との熱による直径の膨張差のさらに半分から締め代を引いた分以上であり、前記内輪部材の内半径と前記軸部分の外半径の差以下であることを特徴とする請求項15〜17のいずれかに記載の溶融金属浴中ロールセット。
【請求項19】
前記皮膜層の存在する面積率が2〜98%であることを特徴とする請求項18に記載の溶融金属浴中ロールセット。
【請求項20】
前記皮膜の無い部分が軸方向及び周方向のいずれか1つの方向又は両方向に連通していることを特徴とする請求項15〜19のいずれかに記載の溶融金属浴中ロールセット。
【請求項21】
前記表面皮膜が0.01〜0.5mmの間隔を置いて不連続に存在することを特徴とする請求項15〜20のいずれかに記載の溶融金属浴中ロールセット。
【請求項22】
前記内輪部材の材質がセラミクスであり、前記軸部分の材質が鋼であることを特徴とする請求項15〜21に記載の溶融金属浴中ロールセット。
【請求項23】
溶融金属浴中ロールの軸部分の熱膨張率が溶融金属浴中転がり軸受の内輪部材より大きい材質である溶融金属浴中ロールセットを溶融めっき浴中に組み込んで、前記溶融金属浴中ロールを前記溶融金属浴中転がり軸受によって回転支持する方法において、
常温での前記内輪部材の内径を前記軸部分との熱膨張差分以上前記軸部分の径より大きくなるように加工し、前記軸部分の外面と前記内輪部材の内面との間にめっき浴温度で溶融する皮膜層を施すことを特徴とする溶融金属浴中ロールの回転支持方法。
【請求項24】
前記溶融金属浴中ロールセットを溶融めっき浴中に組み込んだ後、予熱を含む運転中の昇温途中において、前記皮膜層を軟化または溶融させ、余剰の皮膜材質を前記軸部分の外面と前記内輪部材の内面との間から排出することを特徴とする請求項23に記載の溶融金属浴中ロールの回転支持方法。
【請求項25】
請求項23又は24に記載された方法で支持されたロールにより、めっき浴中を通板することを特徴とする溶融金属めっき鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−13446(P2009−13446A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−174040(P2007−174040)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】