説明

溶融鋳込耐火物用生成物

本発明は、酸化ジルコニウムベースの溶融鋳込耐火物用生成物に関連する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化ジルコニウムベースの溶融鋳込耐火物用生成物に関する。
【背景技術】
【0002】
良好な耐食性のために、二酸化ジルコニウム(ジルコニア、ZrO)は、耐火物用生成物の製造に非常に適している。
【0003】
二酸化ジルコニウムベースの耐火物用生成物における使用の1つの重要な分野は、例えば、鋳鋼の分野であり、このような生成物は、連続鋳造ノズル、スライドゲートプレート及び特に非常に圧力を加えられた領域の磨耗部品として使用される。
【0004】
溶融鋳込二酸化ジルコニウムベースの耐火物用生成物は、ガラスタンクで使用される。
【0005】
二酸化ジルコニウムは、3つの変態で存在する。低温においては、二酸化ジルコニウムは、単斜晶変態で存在し、それは、約1170℃において正方晶変態への可逆的な変換を経る。二酸化ジルコニウムの立方晶変態へのさらなる可逆的な変換は、約2300℃で進行する。
【0006】
単斜晶の低温変態は2つの高温変態より体積が大きいので、二酸化ジルコニウムベースの生成物は、それぞれ変態温度を超える又は変態温度未満に低下することによって体積収縮または膨張を経る。二酸化ジルコニウムベースの耐火物用生成物の製造及び使用中に、これは、生成物にクラックを引き起こす。
【0007】
このため、酸化物、特に酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化イットリウム(Y)または他の希土類の酸化物、例えば酸化セリウム(CeO)の添加によって二酸化ジルコニウムベースの耐火物用生成物を安定化させることが知られている。これらの添加物は、室温まで高温変態を準安定状態に維持し、それによって異常な熱膨張を減少させ、それによって二酸化ジルコニウムの材料の生成を可能にする。
【0008】
しかしながら、このような安定化は、この生成物が使用される際にそれが消失するという利点を有する。次いで、安定化のために使用される酸化物は、周囲環境、例えば溶融されたガラスまたはスラグに移動し、それは、この生成物の体積の減少をもたらす。この体積の減少は、耐火物用生成物の腐食攻撃を増加する。
【0009】
高い二酸化ジルコニウム含有量を有する溶融鋳込生成物では、これらの生成物が、酸化ジルコニウムに加えて、安定化のために使用される酸化物が移動するガラス質の相を含有するので、安定化は不可能である。
【0010】
このため、クラックの危険性を低下させるために二酸化ジルコニウムの安定化は、これまでのところ溶融鋳込二酸化ジルコニウムベースの耐火物用生成物の製造中に実行されない。それどころか、温度が変態温度を超え又は変態温度未満に低下する場合に二酸化ジルコニウム生成物に起こる体積の変化は、これまでのところ溶融鋳込生成物の場合における異常な相のために和らげられる。この場合、溶融鋳込生成物において二酸化ジルコニウムは、二酸化シリコンが豊富な異常な相に組み込まれ、その異常な相は、加熱及び冷却中に二酸化ジルコニウムによって経る変態の変化に対する緩衝材として作用する。
【0011】
しかしながら、しばしばこの異常な相は、特にこの生成物の製造中にクラックが生じ、それが、使用の際に生成物の剥離をもたらすかもしれないので、二酸化ジルコニウムベースの生成物によって経る加熱及び冷却中における体積の変化に対してバッファーの役割を十分に果たすことができない。
【0012】
さらに、この生成物の異常な相の含有量は、その磨耗に重大な役割を果たす。
【0013】
二酸化ジルコニウムベースの溶融鋳込生成物を製造するためのその溶融物の冷却中に特に問題が生じる。溶融物と凝固物の冷却中に生じる大きな温度差は、好ましくない結晶化挙動をもたらし、溶融物を含む、互いに隔離された領域は、固体の析出の結果として生じる。凝固が続くので、これは、凝固する溶融物またはこの生成物を介して分散方式で分布される収縮キャビティをもたらす。しかしながら、これらの収縮キャビティは、この生成物の品質を大幅に悪化させ、この生成物を使用できないものにさえする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、改善された腐食及び磨耗特性を有する二酸化ジルコニウムベースの溶融鋳込耐火物用生成物を提供することである。本発明のさらなる目的は、二酸化ジルコニウム溶融物の冷却中に分散的に分布されるキャビティの出現を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本出願によれば、この目的は、二酸化ジルコニウムベースの溶融鋳込耐火物用生成物であって、前記二酸化ジルコニウムの結晶が、酸化マグネシウムによって安定化され、少なくとも1つの酸化マグネシウム含有結晶相によって囲われる溶融鋳込耐火物用生成物の提供によって達成される。
【0016】
本発明に基づく基本的考察は、従来技術と比較して、溶融鋳込二酸化ジルコニウムベースの生成物中の酸化マグネシウム(MgO)の添加による二酸化ジルコニウムの安定化を達成することである。酸化マグネシウムの添加による二酸化ジルコニウムの安定化は、酸化マグネシウムによって安定化される二酸化ジルコニウム結晶が少なくとも1つの酸化マグネシウム含有結晶相に組み込まれ又はこの結晶相によって囲われるので、安定化のために使用される酸化マグネシウムの攻撃的な環境への移動が減速され又は場合によっては妨げられるという、本発明による認識によって達成される。
【0017】
二酸化ジルコニウムを安定化する酸化マグネシウムの移動は、安定化された酸化ジルコニウムと隣接している結晶相との間の濃度勾配の低下によって減速されるものと思われる。
【0018】
従って、本出願による生成物において、酸化マグネシウム含有結晶相は、MgOによって安定化される二酸化ジルコニウム結晶を囲い、それによって二酸化ジルコニウムの安定化を補助し又はこの安定化を維持する。従って、本出願による二酸化ジルコニウムベースの溶融鋳込耐火物用生成物は、従来技術で知られる二酸化ジルコニウムベースの溶融鋳込生成物と比較して大幅に改善された腐食及び磨耗特性を有する。溶融物の冷却中にクラックが生じる生成物の傾向は、大幅に減少し得る。
【0019】
同時に、本出願による耐火物は、如何なる分散的に分布されたキャビティをほとんどなく又は場合によっては実質的に完全になく提供され得る。これは、本発明による生成物の極端に好ましい結晶挙動の結果であり、それは、一般的な系(ZrO−SiO)と比較して本願による系(MgO安定化ZrO−酸化マグネシウム含有結晶相)の狭い溶融範囲に基づくものであると思われる。
【0020】
好ましくは、MgOによって安定化される二酸化ジルコニウム結晶は、以下の酸化マグネシウム結晶相:フォルステライト(MgSiO)、エンスタタイト(メタケイ酸マグネシウム;MgSiO)、コージライト(2MgO・2Al・5SiO)またはスピネル(MgO・Al)の少なくとも1つによって囲われる。
【0021】
従って、本発明による生成物における安定化される二酸化ジルコニウム結晶を囲う酸化マグネシウム含有結晶相は、MgO及びZrOに基づく結晶相ではない。
【0022】
本出願による溶融鋳込耐火物用生成物において、安定化された二酸化ジルコニウム結晶が、好ましくはフォルステライトの結晶相によって囲われるので、フォルステライトは、本出願による耐火物の有利な挙動を特に示す。
【0023】
好ましくは、酸化マグネシウム含有結晶相は、その製造中、従って特に溶解後の冷却中にインサイチュで本出願による生成物中に形成される。このように原材料要素の性質及び品質によって酸化マグネシウム含有結晶相の形成に意図的に影響を与えることができる。
【0024】
本出願による生成物の製造中にインサイチュで酸化マグネシウム含有結晶相のこのような形成を達成するために、原材料成分は、一方で二酸化マグネシウムのMgOの安定化を引き起こし、他方で二酸化ジルコニウム結晶の周囲に酸化マグネシウム含有結晶相の形成をもたらす本出願による生成物の製造において意図的に選択される。
【0025】
この場合、単に3つの原材料成分から本出願による生成物を製造することが十分であり得る。
1. ZrO原材料成分
2. MgO原材料成分
3. 少なくとも1つのさらなる原材料成分(以下では、“さらなる原材料成分”とも呼ぶ)。それは、MgO原材料成分の一部と共に酸化マグネシウム含有結晶相を形成する。
【0026】
さらなる原材料成分は、それが、本出願による生成物の製造中にMgO原材料成分の一部と共に完全に酸化マグネシウム含有結晶相を形成する量で加えられる。MgO原材料成分の残りは、ZrOを安定化する。
【0027】
フォルステライトまたはエンスタタイトの形態の酸化マグネシウム含有結晶相を形成するために、例えばSiOの形態のさらなる原材料成分が選択され得る。
【0028】
コージライトの形態の酸化マグネシウム含有結晶相を形成するために、例えばAlの形態の第1のさらなる原材料成分と、SiOの形態の第2のさらなる原材料成分とが選択され得る。例えば、Al及びSiOの両方を含有するさらなる成分が選択されてもよく、例えば、シリマナイトまたはアンダルサイトが選択され得る。
【0029】
スピネルの形態の酸化マグネシウム含有結晶相を形成するために、例えばAlの形態のさらなる原材料成分が選択され得る。
【0030】
本出願による生成物の様々な成分の含有量は、例えば以下の通りであり得る。示される量は、各々の場合において重量%(質量%)であり、生成物の総質量に関連するものである。
【0031】
酸化マグネシウム含有結晶相の含有量は、例えば0.5%以上でありえ、すなわち、例えば1%以上でありえ、1.5%以上でありえ、または、2%以上であり得る。酸化マグネシウム含有結晶相の含有量の上限は、例えば10%以下でありえ、すなわち例えば8%以下でありえ、6%以下でありえ、5%以下でありえ、または、4%以下であり得る。
【0032】
従って、酸化マグネシウム含有結晶相の含有量は、例えば0.5から10%でありえ、すなわち、例えば1から8%でありえ、1から6%でありえ、2から5%でありえ、または、2から4%であり得る。
【0033】
安定化された二酸化ジルコニウムベースの本出願による溶融鋳込生成物は、好ましくは高い酸化ジルコニウム含有量を有する生成物(HZFC生成物)を含む。
【0034】
二酸化ジルコニウムの含有量は、例えば70%以上でありえ、すなわち、例えば80%以上でありえ、85%以上でありえ、または、90%以上であり得る。その最大含有量に関しては、二酸化ジルコニウムの含有量は、例えば98%以下でありえ、すなわち、例えば97%以下でありえ、96%以下でありえ、または、95%以下であり得る。
【0035】
従って、二酸化ジルコニウムの含有量は、例えば70から98%でありえ、すなわち、例えば80から98%でありえ、85から97%でありえ、90から96%でありえ、または、90から95%であり得る。
【0036】
本出願による生成物のMgO含有量は、例えば0.5%以上でありえ、すなわち、例えば1%以上でありえ、または、2%以上であり得る。MgOは、例えば、10%以下の含有量で、すなわち、例えば8%以下の含有量で、6%以下の含有量で、または、4%以下の含有量で存在し得る。
【0037】
MgOは、例えば0.5から10%での含有量で、すなわち、例えば1から10%の含有量で、2から8%の含有量で、2から6%の含有量で、または、2から4%の含有量で本出願による生成物に存在する。
【0038】
上記のMgO含有量は、部分的に二酸化ジルコニウムの安定化のために本出願による生成物に存在し、且つ、酸化マグネシウム含有結晶相に部分的に存在する。
【0039】
本出願による、二酸化ジルコニウムを安定するのに役立つMgOの含有量は、酸化マグネシウム含有結晶相のMgO含有量より多くてもよい。酸化マグネシウム含有結晶相のMgO含有量に対する、ZrOを安定化するのに役立つMgO含有量の比が、6:5から15:1、すなわち、例えば3:2から7:1であることが本出願によって提供されてもよい。
【0040】
MgOに加えて、さらなる酸化物、例えば1つ又はそれ以上のCaO、YまたはCeOの酸化物は、例えば、各々の場合、0.5から5%の含有量で、すなわち、例えば0.5から3%の含有量で、この生成物の二酸化ジルコニウムを安定化させるために存在し得る。
【0041】
上述の成分に加えて、本出願による生成物は、例えばFe、TiOまたはCaOなどの不純物を含み得る。これらの不純物は、例えば不純物、例えば二酸化ジルコニウムに対する原材料として不純物が含まれたバデレアイトが含まれた原材料を用いてその生成物にそれらの方法を見出し得る。特に、天然のジルコニウム鉱石、特にバデレアイトが、一般的に1から5%のHfOを含むので、本出願による生成物は、HfO(二酸化ハフニウム)の形態の不純物を含み得る。本出願によれば、不純物の含有量は、好ましくは5%以下であり、すなわち、例えば3%以下、2%以下、または、1%以下である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本出願による溶融鋳込耐火物生成物の例示的な組成は以下の通りである。
【0043】
(実施例1)
ZrO:92.4%
MgO:4.6%
SiO:1.4%
HfO:1.4%
他の不純物:0.2%
この生成物は、2%のフォルステライト含有量を有する。このフォルステライトは、全体的なSiO含有量と0.6%のMgOから構成される。
MgOの残りの4.0%は、ZrOを安定化するのに役立つ。
【0044】
(実施例2)
ZrO:92.4%
MgO:3.2%
SiO:2.8%
HfO:1.4%
他の不純物:0.2%
この生成物は、4%のフォルステライト含有量を有する。このフォルステライトは、全体的なSiO含有量と1.2%のMgOから構成される。
MgOの残りの2.0%は、ZrOを安定化するのに役立つ。
【0045】
本出願による生成物は、例えば以下の方法によって用意され得る。
【0046】
原材料である二酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム及び少なくとも1つのさらなる成分は、製造工程中に酸化マグネシウム含有結晶相を形成する酸化マグネシウムの一部と共に、最初に混合される。原材料の量は、さらなる成分が酸化マグネシウム含有結晶相を形成するために酸化マグネシウム成分の一部と共に完全に消費されるような方法で製造工程中に互いに調整される。
【0047】
次いで、原材料の混合物は、酸化環境の下において電気アーク炉で溶融される。
【0048】
最後に、溶融物は、型に注がれ、又は、粒状化された材料を製造するためにブロックとして凝固される。
【0049】
この生成物は、凝固後に型から取り出され、適切な機械加工後に、例えばまさ積みブロック(soldier course blocks)の形態で、例えばガラス炉の内側を覆うために使用される。
【0050】
凝固されてブロックになった溶融物は、粒状の材料を製造するために使用され、それは、例えば、セラミック結合二酸化ジルコニウム煉瓦、二酸化ジルコニウムを含有する他の煉瓦、または、二酸化ジルコニウムを含有する、形作られていない生成物の製造における粒状化された原料として役立ち得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化ジルコニウムベースの溶融鋳込耐火物用生成物であって、
前記二酸化ジルコニウムの結晶が、酸化マグネシウムによって安定化され、少なくとも1つの酸化マグネシウム含有結晶相によって囲われる、溶融鋳込耐火物用生成物。
【請求項2】
前記安定化された二酸化ジルコニウムの結晶が、以下の酸化マグネシウム結晶相:フォルステライト、エンスタタイト、コージライトまたはスピネルの少なくとも1つによって囲われる、請求項1に記載の溶融鋳込耐火物用生成物。
【請求項3】
前記酸化マグネシウム含有結晶相の含有量が、前記生成物の総質量に対して0.5から10重量%である、請求項1に記載の溶融鋳込耐火物用生成物。
【請求項4】
前記酸化マグネシウム含有結晶相の含有量が、前記生成物の総質量に対して1から8重量%である、請求項1に記載の溶融鋳込耐火物用生成物。
【請求項5】
前記酸化マグネシウム含有結晶相の含有量が、前記生成物の総質量に対して1から6重量%である、請求項1に記載の溶融鋳込耐火物用生成物。
【請求項6】
前記二酸化ジルコニウムの含有量が、前記生成物の総質量に対して80から98重量%である、請求項1に記載の溶融鋳込耐火物用生成物。
【請求項7】
前記二酸化ジルコニウムの含有量が、前記生成物の総質量に対して90から96重量%である、請求項1に記載の溶融鋳込耐火物用生成物。
【請求項8】
前記酸化マグネシウムの含有量が、前記生成物の総質量に対して1から10重量%である、請求項1に記載の溶融鋳込耐火物用生成物。
【請求項9】
前記酸化マグネシウムの含有量が、前記生成物の総質量に対して2から6重量%である、請求項1に記載の溶融鋳込耐火物用生成物。

【公表番号】特表2010−519168(P2010−519168A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551122(P2009−551122)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【国際出願番号】PCT/EP2008/001488
【国際公開番号】WO2008/104354
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(503069193)リフラクトリー・インテレクチュアル・プロパティー・ゲー・エム・ベー・ハー・ウント・コ・カーゲー (13)
【Fターム(参考)】