説明

滅菌検知インジケータ組成物

【課題】高圧蒸気による滅菌処理の際に用い、必要に応じエチレンオキサイドガスによる滅菌の際にも簡便に用いることができ、明瞭な色調の変化で滅菌処理の完了を感度良くしかも正確に表示でき、悪臭を生じない衛生的で簡易な滅菌検知インジケータ組成物、及びそれが付された滅菌インジケータを提供する。
【解決手段】滅菌検知インジケータ組成物は、金属粉、2価金属及び/又は3価金属と無機酸との強酸塩から選ばれる少なくとも何れかの無機物の0.1〜50重量部、及びモノアゾ染料の0.01〜3重量部を含有する。さらに有機酸を最大で50重量部含有していてもよい。滅菌検知インジケータは、この滅菌検知インジケータ組成物が、基材又は被滅菌物に付されて、滅菌変色層を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品を高圧蒸気で滅菌したり、医療用の器具をエチレンオキサイドガスで滅菌したりする際に、滅菌の完了を検知するインジケータに用いられる組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
診療の際に用いられる医薬品や医療器具等は、無菌状態で使用するため、予め滅菌される。輸液のような医薬品、ガーゼのような衛生用品は、オートクレーブ中、高圧蒸気雰囲気下で、またカテーテル、注射針、診察機器のプローブ等の医療器具は、エチレンオキサイドガス雰囲気下で、夫々滅菌処理される。
【0003】
その際、医薬品や医療器具等の被滅菌物の間に、高圧蒸気やエチレンオキサイドガスに反応して変色するケミカルインジケータを介在させ、そのインジケータの変色を目視することにより、滅菌が十分であるかを確認している。
【0004】
高圧蒸気で変色するインジケータ用の組成物として、特許文献1に長鎖脂肪酸の金属塩とフロログルシン誘導体とを含有する組成物が開示され、特許文献2に紺青、無機アルカリ性物質をバインダーに分散させた組成物が開示され、特許文献3にメチン系染料及び/又はシアニン系染料と、マレイン酸樹脂及び/又はスチレン−マレイン酸樹脂と、有機溶剤とからなる組成物が開示され、特許文献4にビスマス化合物とチオ尿素化合物と合成ゴム系樹脂とを含有する組成物が開示されている。一方、エチレンオキサイドガスで変色するインジケータ用の組成物として、特許文献5に、モノアゾ染料と有機酸触媒とを含む組成物が開示されている。これらは、高圧蒸気とエチレンオキサイドガスとの何れかでしか変色しない。
【0005】
高圧蒸気とエチレンオキサイドガスとの何れの滅菌でも変色するインジケータ用の組成物として、特許文献6に、高圧蒸気で変色する硫黄又は硫黄化合物及びビスマス化合物と、エチレンオキサイドガスで変色するアゾ系の分散染料と有機酸と、樹脂とを含有する組成物が、開示されている。この組成物は、両滅菌条件で何れも明確に変色させるように組成を調整したり取り扱ったりするのが面倒なうえ、特に高圧蒸気滅菌の際に硫黄や硫黄化合物に由来する硫黄臭が発生したり、有彩色から黒ずんだ色調乃至黒色への比較的目視し難い色調へ変化したりする。
【0006】
【特許文献1】特公昭57−9025号公報
【特許文献2】特公昭59−13550号公報
【特許文献3】特公平6−81816号公報
【特許文献4】特開平2−211162号公報
【特許文献5】特公昭52−10043号公報
【特許文献6】特開2002−323451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、高圧蒸気による滅菌処理の際に用い、必要に応じエチレンオキサイドガスによる滅菌の際にも簡便に用いることができ、明瞭な色調の変化で滅菌処理の完了を感度良くしかも正確に表示でき、悪臭を生じない衛生的で簡易な滅菌検知インジケータ組成物、及びそれが付された滅菌インジケータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載の滅菌検知インジケータ組成物は、金属粉、2価金属及び/又は3価金属と無機酸との強酸塩から選ばれる少なくとも何れかの無機物の0.1〜50重量部、及びモノアゾ染料の0.01〜3重量部を含有することを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の滅菌検知インジケータ組成物は、請求項1に記載されたもので、前記モノアゾ染料が、芳香族基を二つ有するモノアゾ化合物であり、その一方の芳香族基を、置換基で置換されていてもよい含窒素芳香族複素環基、又は芳香族炭化水素環基とし、他方の芳香族基を、置換基で置換されていてもよいアミノ基含有芳香環基、又はエナミン含有芳香族複素環基とすることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の滅菌検知インジケータ組成物は、請求項2に記載されたもので、前記モノアゾ染料が、下記化学式(I)
【0011】
【化1】

【0012】
(式(I)中、Rは、水素原子、水酸基、炭素数1〜4のアルキルスルホ基、炭素数1〜4のアルコキシル基、又はニトロ基、R及びRは、同一又は異なり、水素原子、水酸基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシル基、又はアシルアミノ基、R及びRは、同一又は異なり、水素原子、水酸基、炭素数1〜4のアルキル基、又はシアノ置換、アルコシキル置換、ヒドロキシ置換若しくはアシルオキシ置換された炭素数1〜4のアルキル基を示す。)で表わされ、
又は、下記化学式(II)
【0013】
【化2】

【0014】
(式(II)中、R及びRは、同一又は異なり、水素原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基又はアシルアミノ基、R及びRは、同一又は異なり、水素原子、水酸基、炭素数1〜4のアルキル基、R10及びR11は、同一又は異なり、水素原子、水酸基、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、又はシアノ置換、ヒドロキシ置換若しくはアシルオキシ置換された炭素数1〜4のアルキル基を示す。)で表わされる少なくともいずれかの前記モノアゾ化合物であることを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の滅菌検知インジケータ組成物は、請求項1に記載されたもので、前記無機物中の金属が、アルミニウム、マグネシウム、鉄、ニッケル、コバルト、モリブデン、タングステン、スズ、亜鉛、鉛、銅、マンガン、又はそれらのうちのいずれかの合金であることを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の滅菌検知インジケータ組成物は、請求項1に記載されたもので、前記強酸塩が、塩酸塩、硫酸塩、又は硝酸塩であることを特徴とする。
【0017】
請求項6に記載の滅菌検知インジケータ組成物は、請求項1に記載されたもので、有機酸を最大で50重量部含有することを特徴とする。
【0018】
請求項7に記載の滅菌検知インジケータ組成物は、請求項6に記載されたもので、前記有機酸が、カルボン酸であることを特徴とする。
【0019】
請求項8に記載の滅菌検知インジケータは、請求項1に記載の滅菌検知インジケータ組成物が、基材又は被滅菌物に付されて、滅菌変色層を形成していることを特徴とする。
【0020】
請求項9に記載の滅菌検知インジケータは、請求項8に記載されたもので、前記基材が、紙製又はプラスチック製で、カード、テープ、シート又は袋であることを特徴とする。
【0021】
請求項10に記載の滅菌検知インジケータは、請求項8に記載されたもので、前記滅菌変色層が、プラスチックフィルム保護膜で被覆されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の滅菌検知インジケータ組成物は、前記無機物とモノアゾ染料とを含んでいると、高圧蒸気に晒されたときにそれに反応して、少量でも明瞭に色調が変化するものである。この組成物は、さらに有機酸を含んでいると、エチレンオキサイドガスに晒されたときにもそれに反応して、少量でも明瞭に色調が変化するものである。そのためこの組成物は、滅菌時間が短くても感度良く目視し易い色調の変化を示し、また滅菌時間や高圧蒸気温度やエチレンオキサイドガス濃度の滅菌条件に応じて所定の異なる色調に変化する。
【0023】
このような組成物を付した滅菌検知インジケータは、高圧蒸気とエチレンオキサイドガスとによる何れの滅菌の際にも滅菌の完了の確認に用いることができる。そのため、わざわざ滅菌方法毎に別なインジケータを用意しなくてすみ、簡便である。しかもこの組成物の印刷や塗布により簡便に滅菌変色層が形成されるので、生産効率がよく、安価であって経済的に優れている。
【0024】
このインジケータを用いて滅菌を確認する際、滅菌変色層は、滅菌前後で大きな色差を示すから、滅菌の完了を目視可能な明瞭な色調により表示する。さらに、滅菌時間が短くても滅菌条件に応じた不可逆的な色調の変化を示すから、このインジケータにより滅菌の完了を正確に確認することができる。
【発明を実施するための好ましい形態】
【0025】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
先ず滅菌検知インジケータ組成物は、以下のようにして調製される。
【0027】
色素として前記化学式で表わされるモノアゾ染料と、無機物として金属粉と、インキビヒクルとを、混練機により均一に混練して、滅菌検知インジケータ組成物を調製する。
【0028】
モノアゾ染料を0.01〜3重量部、金属粉を0.1〜50重量部、必要に応じて溶剤、樹脂、又はそれらを含むインキビヒクルを10〜1000重量部用いてもよい。
【0029】
モノアゾ染料は、アゾ基の両側に夫々異なる芳香族基を有するモノアゾ化合物であることが好ましい。
【0030】
このようなモノアゾ化合物の一方の芳香族基は、例えば含窒素芳香族複素環基、具体的にはチアゾール−2−イル基のようなチアゾール環基、ベンゾチアゾール−2−イル基のようなベンゾチアゾール環基、ベンゾイミダゾール−2−イル基のようなベンゾイミダゾール環基、1,2,4−トリアゾール−5−イル基のようなトリアゾール環基、ピリジン−2−イル基のようなピリジン環基、キナゾリン−2−イル基のようなキナゾリン環基、1,2,4−チアジアゾール−5−イル基のようなチアジアゾール環基、キノリン−2−イル基のようなキノリン環基、ベンゾ〔f〕キノリン−2−イル基のようなベンゾキノリン環基;フェニル基のような芳香族炭化水素環基が挙げられる。このモノアゾ化合物の他方の芳香族基は、例えばp−アミノフェニル基のようなアミノ基含有芳香環基;インドール−3−イル基、1,2,3,4−テトラヒドロベンゾ〔f〕キノリン−6−イル基、カルバゾール−3−イル基のようなエナミン含有芳香族複素環基が挙げられる。これらの芳香族基は、置換基を有していてもよい。そのような置換基は、例えば、水酸基、炭素数1〜4の低級アルキルスルホ基、ハロゲン原子、炭素数1〜4の低級アルキル基、低級アルキルオキシ基、ヒドロキシ低級アルキル基、低級アルコキシ低級アルキル基、フェニル基、フェノキシ基、アラルキル基、ニトロ基、シアノ基、アシルアミノ基が挙げられる。さらにこれらのアルキル基が、アシルオキシ、シアノ、アルコキシでさらに置換されていてもよい。
【0031】
中でも、モノアゾ染料は、前記化学式(I)又は(II)で表わされるものであることが好ましい。
【0032】
また、モノアゾ染料は、より具体的には、C.I.(カラーインデックス)ディスパースレッド4、C.I.ディスパースレッド17、C.I.ディスパースレッド58、C.I.ディスパースレッド72、C.I.ディスパースレッド73、C.I.ディスパースレッド88、C.I.ディスパースレッド110、C.I.ディスパースレッド111、C.I.ディスパースレッド117、C.I.ディスパースレッド137、C.I.ディスパースレッド206、C.I.ディスパースバイオレット38、C.I.ディスパースバイオレット43、C.I.ディスパースブルー102が挙げられる。
【0033】
組成物中のモノアゾ染料が0.01重量部未満であると、組成物で形成した滅菌変色層の色調が薄くなってしまい、一方3重量部より多いと、変色前後の変色層の色調がいずれも濃すぎるため、僅かな色調の変化が目視し難くなってしまう。
【0034】
金属粉は、900μm以下の金属微粉末であることが望ましい。このような微細な金属粉であると、高圧蒸気滅菌の際に、金属粉と水蒸気との接触量が多くなる結果、インジケータの感度が向上する。
【0035】
滅菌検知インジケータ組成物は、金属粉に代えてまたは金属粉とともに2価金属及び/又は3価金属と無機酸との酸性の強酸金属塩である無機物を0.1〜50重量部含んでいてもよい。
【0036】
これら無機物中、金属粉を構成する金属、強酸塩を構成する金属は、アルミニウム、鉄、ニッケル、コバルト、モリブデン、タングステン、スズ、亜鉛、鉛又はマンガンであることが好ましい。
【0037】
強酸塩は、塩化物、硫酸塩、硝酸塩が好ましい。
【0038】
これらの無機物が、0.1重量部未満であると、組成物で形成した滅菌変色層の色調が薄くなってしまい、一方50重量部より多くしても滅菌変色層の色調変化の感度の向上に寄与しない。
【0039】
滅菌検知インジケータ組成物は、金属粉又は強酸塩とともに、触媒として有機酸を最大で50重量部含んでいてもよい。有機酸として、塩酸・硫酸・硝酸よりも酸性度が低く、かつ弱酸でないカルボン酸類が挙げられる。その中でも特に好ましいのは、芳香族カルボン酸誘導体である。
【0040】
芳香族カルボン酸誘導体として、ヒドロキシ基、アルコキシ基又はオキソ基を有していてもよい芳香族モノカルボン酸、例えばベンゼンカルボン酸、メチル安息香酸、ジメチル安息香酸、2,3−ジメチル安息香酸、3,5−ジメチル安息香酸、2,3,4−トリメチル安息香酸、2,3,5−トリメチル安息香酸、2,4,5−トリメチル安息香酸、2,4,6−トリメチル安息香酸、3,4,5−トリメチル安息香酸、2−ヒドロキシ安息香酸、メトキシ安息香酸、ヒドロキシ(メチル)安息香酸、2−ヒドロキシ−3−メチル安息香酸、2−ヒドロキシ−4−メチル安息香酸、2−ヒドロキシ−5−メチル安息香酸、2,3−ジヒドロキシ安息香酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,6−ジヒドロキシ安息香酸、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ−3−メトキシ安息香酸、3−ヒドロキシ−4−メトキシ安息香酸、3,4−ジメトキシ安息香酸、2,3−ジメトキシ安息香酸、2,4−ジヒドロキシ−6−メチル安息香酸、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ−3,5−ジメトキシ安息香酸、2,4,5−トリメトキシ安息香酸;
【0041】
ヒドロキシ基、アルコキシ基又はオキソ基を有していてもよい芳香族ポリカルボン酸、例えばベンゼン−1,2−ジカルボン酸、ベンゼン−1,3−ジカルボン酸、ベンゼン−1,4−ジカルボン酸、ベンゼン−1,2,3−トリカルボン酸、ベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸、ベンゼン−1,3,5−トリカルボン酸、ベンゼン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、ベンゼン−1,2,3,5−テトラカルボン酸、ベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、ベンゼンヘキサカルボン酸、ビフェニル−2,2’−ジカルボン酸、5−メチルイソフタル酸、4,5−ジメトキシフタル酸、2−(カルボキシメチル)安息香酸、3−(カルボキシメチル)安息香酸、4−(カルボキシメチル)安息香酸、2−(カルボキシカルボニル)安息香酸、3−(カルボキシカルボニル)安息香酸、4−(カルボキシカルボニル)安息香酸が挙げられる。
【0042】
インキビヒクルは、インジケータの変色特性を損なわず、かつ被印刷物への付着性が優れた樹脂であり、例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース、ブチラール樹脂、アクリル酸エステル樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、及びロジン変性マレイン酸樹脂やそれらの共重合体等が挙げられ、これら樹脂に溶剤が含まれたものであってもよく、市販のインキ用ビヒクルであってもよい。
【0043】
滅菌検知インジケータ組成物は、さらに、別な有色色素、防さび剤、界面活性剤、発色増強剤のような通常のインジケータ組成物に用いられる添加剤を含んでいてもよい。
【0044】
滅菌検知インジケータ組成物が、添加剤としてシリカ、硫酸バリウム、クレイ、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等を含んでいると、高圧蒸気やエチレンオキサイドガスの透過性を向上させる。また、耐熱性、耐ガス性に優れた色素を含んでいると、変色前後の色調を目視し易く自在に調整できる。
【0045】
溶剤は、必要に応じて樹脂と共に用いられるもので、滅菌検知インジケータ組成物がインキとしての優れた印刷性能を発現するためのものである。溶剤は、例えば、ミネラルスピリット、ソルベントナフサ、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソブチル、酢酸イソアミル、ブチルセロソルブ、トルエン、キシレンのような有機溶媒;桐油、アマニ油、大豆油、ヒマシ油、乾性油、及びこれらの混合物のような乾性油を、含んでいてもよい。これらの溶剤は、単独で用いてもよく、複数混合して用いてもよい。
【0046】
滅菌検知インジケータ組成物は、ボールミル、ロールミル、サンドミル等の混練機を用いて混合して、インキとして調製されたものであってもよい。
【0047】
次に、滅菌検知インジケータは、滅菌検知インジケータ組成物を用いて以下のようにして製造される。
【0048】
滅菌検知インジケータ組成物を基材に印刷し、滅菌変色層を形成させると、滅菌検知インジケータが得られる。
【0049】
滅菌検知インジケータは、上質紙やクレープ紙のような紙、プラスチックで形成された基材、例えばカード、テープ、シート、袋に印刷したり、紙、プラスチックで形成された被滅菌物用包装基材、例えば紙製包装シート、紙製包装袋に印刷したりされる。被滅菌物に直接印刷されてもよい。
【0050】
滅菌変色層は、スクリーン印刷、オフセット印刷のような印刷によって形成される。印刷に代えて滅菌検知インジケータ組成物の塗布や噴霧や浸漬によって形成されてもよい。
【0051】
滅菌変色層は、プラスチック製フィルムで接着剤を介して被覆されていてもよい。
【0052】
この滅菌検知インジケータは、以下のようにして使用される。
【0053】
被滅菌物をオートクレーブに入れて並べ、その間の随所にカード状の滅菌検知インジケータを配置する。オートクレーブを閉め、高圧蒸気を充満させて、被滅菌物を滅菌する。すると、滅菌変色層内のモノアゾ染料が高圧蒸気で反応し、変色する。
【0054】
また、高圧蒸気に代えて、被滅菌物を滅菌用タンク中、エチレンオキサイドガスで滅菌する場合、滅菌検知インジケータ上の滅菌変色層内のモノアゾ染料がエチレンオキサイドガスに反応し、変色する。
【0055】
この滅菌インジケータインキ組成物を印刷した変色層が、高圧蒸気雰囲気下、又はエチレンオキサイドガス雰囲気下で、色調の変化を起こす反応メカニズムの詳細は、明らかでないが、以下のように推察される。
【0056】
金属粉と、モノアゾ染料と、溶剤及び樹脂を含むインキビヒクルとが含まれている滅菌検知インジケータ組成物で滅菌変色層を形成させた滅菌検知インジケータの場合を例にして説明する。このインジケータを高圧蒸気に曝すと、水蒸気存在下で金属粉が触媒として働き、樹脂の化学構造中の水酸基やカルボキシル基又は滅菌変色層表面で生じた樹脂の一部酸化による水酸基やカルボニル基に作用し、水素イオンを生じさせる。発生した水素イオンがモノアゾ染料をカチオン化させてそれの電子密度の変化を生じさせる結果、滅菌変色層の色調の変化となって現れる。
【0057】
滅菌検知インジケータ組成物が金属粉を含んでいる例で色調の変化のメカニズムを説明したが、金属粉に代えて強酸塩を用いた場合、水蒸気存在下で強酸塩が強酸と金属イオンとになり、この金属イオンが、樹脂の化学構造中の水酸基やカルボキシル基又は滅菌変色層表面で生じた樹脂の一部酸化による水酸基やカルボニル基に作用し、水素イオンを生じさせ、前記同様なメカニズムで、インジケータの色調が変化する。
【0058】
滅菌検知インジケータ組成物が金属粉又は強酸塩とともに有機酸を含んでいると、樹脂からの水素イオンの発生を促進したり、有機酸から水素イオンが発生したりして、比較的低温で短時間曝される高圧蒸気でも、モノアゾ染料の電子密度の変化を生じさせて、前記同様なメカニズムにより、一層迅速に高感度で、インジケータの色調が変化する。
【0059】
一方、このインジケータをエチレンオキサイドガスに曝すと、エチレンオキサイドが、モノアゾ染料のチアゾール基へアルキル化反応して共鳴構造が変化し、さらに有機酸の共存によるプロトンの発生で一層促進される結果、滅菌変色層が例えば赤色から青色へ変色する。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の滅菌検知インジケータ組成物及びそれを用いた滅菌検知インジケータを作製した実施例と、本発明を適用外の組成物及びインジケータを作製した比較例とを、説明する。
【0061】
(実施例1A〜1M、及び比較例1a)
金属粉を含み表1に示す配合物を、ボールミルで24時間混練してスクリーン印刷用の滅菌検知インジケータ組成物としてインキを得た。これらのインキでフィルムに印刷した滅菌検知インジケータを、134℃で8分間、高圧蒸気滅菌処理した。実施例1A〜1Mのインジケータは、赤又は青から緑へ色調が変化した。
【0062】
【表1】

【0063】
(実施例2A〜2F、及び比較例2a〜2f)
強酸金属塩を含み表2に示す配合物を、ボールミルで24時間混練してスクリーン印刷用の滅菌検知インジケータ組成物としてインキを得た。これらのインキで上質紙に印刷した滅菌検知インジケータを、134℃で5分間、高圧蒸気滅菌処理した。実施例2A〜2Fのインジケータは、赤から青に色調が変化した。引続き10分間滅菌処理したところ緑色へ色調が変化した。
【0064】
【表2】

【0065】
(実施例3A、及び参考実施例3B)
強酸金属塩として硫酸アルミニウムを含み表3に示す配合物を、ボールミルで24時間混練してグラビア印刷用の滅菌検知インジケータ組成物としてインキを得た。これらのインキでフィルムに印刷した滅菌検知インジケータを、134℃で5分間、高圧蒸気滅菌処理した。実施例3Aのインジケータは、赤から緑に色調が変化した。
【0066】
【表3】

【0067】
(実施例4A〜4B、及び比較例4a)
金属粉又は強酸金属塩を含み表4に示す配合物を、ボールミルで24時間混練してスクリーン印刷用の滅菌検知インジケータ組成物としてインキを得た。このインキで上質紙に印刷した滅菌検知インジケータを134℃で5分間、高圧蒸気滅菌処理した。実施例4Aのインジケータは1分間で赤から緑へ色調が変化し、実施例4Bのインジケータは1分間で赤から青へ更に5分間で緑へ色調が変色した。一方、比較例4aのインジケータは、10分間で赤から緑へ色調が変色した。
【0068】
また、同様にこれらのインキで上質紙に印刷した別な滅菌検知インジケータを、360分間、エチレンオキサイドガス滅菌処理した。実施例4A〜4Bと比較例4aのインジケータは、赤から青へ色調が変化した。
【0069】
【表4】

【0070】
表1〜4から明らかな通り、本発明を適用する滅菌検知インジケータは、高圧蒸気とエチレンオキサイドガスとに高感度で、滅菌時間に応じて明瞭に変色した。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の滅菌インジケータインキ組成物は、医療器具や医薬品、レトルト食品のような加工食品等の滅菌の完了を確認するインジケータを作製するのに有用である。
【0072】
この組成物で印刷して変色層を形成した滅菌インジケータは、高圧蒸気滅菌を確認したり、高圧蒸気滅菌及びエチレンオキサイドガス滅菌のいずれの滅菌を確認したりするのにも有用である。
【0073】
この滅菌インジケータは、変色層として数字や文字や図柄を印刷したカード、シール又はラベルの形状にして、滅菌の完了を確認したり、その証拠として保存したりするのに、用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉、2価金属及び/又は3価金属と無機酸との強酸塩から選ばれる少なくとも何れか無機物の0.1〜50重量部、及びモノアゾ染料の0.01〜3重量部を含有することを特徴とする滅菌検知インジケータ組成物。
【請求項2】
前記モノアゾ染料が、置換基で置換されていてもよい芳香族基を二つ有するモノアゾ化合物であり、その一方の芳香族基を、含窒素芳香族複素環基、又は芳香族炭化水素環基とし、他方の芳香族基を、アミノ基含有芳香環基、又はエナミン含有芳香族複素環基とすることを特徴とする請求項1に記載の滅菌検知インジケータ組成物。
【請求項3】
前記モノアゾ染料が、下記化学式(I)
【化1】

(式(I)中、Rは、水素原子、水酸基、炭素数1〜4のアルキルスルホ基、炭素数1〜4のアルコキシル基、又はニトロ基、R及びRは、同一又は異なり、水素原子、水酸基、炭素数1〜4のアルキル基、又はアシルアミノ基、R及びRは、同一又は異なり、水素原子、水酸基、炭素数1〜4のアルキル基、又はアシルオキシ置換、シアノ置換、アルコシキル置換若しくはヒドロキシ置換された炭素数1〜4のアルキル基を示す。)で表わされ、
又は、下記化学式(II)
【化2】

(式(II)中、R及びRは、同一又は異なり、水素原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基又はアシルアミノ基、R及びRは、同一又は異なり、水素原子、水酸基、炭素数1〜4のアルキル基、R10及びR11は、同一又は異なり、水素原子、水酸基、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、又はシアノ置換、ヒドロキシ置換若しくはアシルオキシ置換された炭素数1〜4のアルキル基を示す。)で表わされる少なくともいずれかの前記モノアゾ化合物であることを特徴とする請求項2に記載の滅菌検知インジケータ組成物。
【請求項4】
前記無機物中の金属が、アルミニウム、マグネシウム、鉄、ニッケル、コバルト、モリブデン、タングステン、スズ、亜鉛、鉛、銅、マンガン、又はそれらのうちのいずれかの合金であることを特徴とする請求項1に記載の滅菌検知インジケータ組成物。
【請求項5】
前記強酸塩が、塩酸塩、硫酸塩、又は硝酸塩であることを特徴とする請求項1に記載の滅菌検知インジケータ組成物。
【請求項6】
有機酸を最大で50重量部含有することを特徴とする請求項1に記載の滅菌検知インジケータ組成物。
【請求項7】
前記有機酸が、カルボン酸であることを特徴とする請求項6に記載の滅菌検知インジケータ組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の滅菌検知インジケータ組成物が、基材又は被滅菌物に付されて、滅菌変色層を形成していることを特徴とする滅菌検知インジケータ。
【請求項9】
前記基材が、紙製又はプラスチック製で、カード、テープ、シート又は袋であることを特徴とする請求項8に記載の滅菌検知インジケータ。
【請求項10】
前記滅菌変色層が、プラスチックフィルム保護膜で被覆されていることを特徴とする請求項8に記載の滅菌検知インジケータ。